ドイツの公共交通機関に乗ると...
16 Mar., 2002
ドイツで公共交通機関を利用するとまずその時間の正確さに驚きます。いや、日本からやってきたのであれば、別にそれくらいで何も驚きゃせんでしょうが、一年間あのロンドンに暮らし、「電車もバスも地下鉄もみーんな不正確」が当たり前になっていた私は、ドイツに来て非常に感心したのです。時刻表があり、その通りに地下鉄もバスも路面電車もやってくるのです。いやいや、多様なヨーロッパにおいては、これはとても有難い、素晴らしいことなのですよ。
イギリスなどは、交通システムの改善が首相の最重要課題の一つになる国であるからして、時刻表というものは存在感の無いもの、せいぜい、何分の遅れかを知りたければどうぞという程度のものでしかないでしょう。
当然、私は正確で清潔なドイツの交通機関の方を評価しているけれども、乗客に関してはイギリスの方が好きです。彼らの多くは通勤電車の中で、本や新聞などを読んでいます。イギリス人にしては非常に有効な時間の使い方だと思います。地下鉄が遅れようが、途中で止まろうが、彼らは薄汚れた座席に座ってだまって読んでいる。私はロンドンに住んでいたとき、この光景が好きでした。これが日本だと皆、イビキかいたり、舟こいだりしてるところでしょ?
ドイツの乗客はというと、観察してみるとこれが結構面白い。私が朝、通勤電車に乗る東駅では、ホームで電車を待つ彼らは、列を作りません。日本で見るように、乗車口に二列になって並ぶなんてありえません。ただ好きなようにホームにいるだけです。喫煙エリアなんてのもありません。好きなとこで吸って、吸殻は線路にポイッ。地下鉄は禁煙ですけど。 (後日注:2002年後半から徐々に駅に「喫煙エリア」なるものが作られはじめた。)しかし、我先に乗りこもうと思っているゆえ、電車がホームに入ってくると皆一斉に白線ぎりぎりのところまで進んできます。結果として、電車と平行に列が出来てしまうのです。かく申す私もそうです。通勤通学時間などには、電車が完全に停止する前にその列が区切れて各ドアにドドーッと人々が集まります。ドアが開き、まず人が降りる。最後の二人ほどが降りようとしているときにはもう、乗り込む人がいたりします。子供は特にそうです。これを見てると「ああ、こやつらが大人になるんだから、ドイツもあと20年はこのまま変わらんな」と、本気で考えてしまいます。
さて、席に座るとドイツ人は何をしているか、たいていの人はただ座っているだけです。ロンドンに比べるとミュンヘンの方が通勤時間も少なく、電車に乗っている時間も短いからなのか、何かを読んでいる人は少ないです。かと思えば一方では、隣りの人の新聞を横目でチラッと盗み読みどころか、失礼なくらい横からジーっと読んだりする人もいるのです。まったく遠慮無し。「そんなに読みたけりゃ、自分で買いなよ、アンタ。」と、私は観察しながら心の中でつぶやいてます。
そんなドイツ人も、お年寄りや身体の不自由な人々にはとても優しく、一人のお年寄りのために2、3人が同時に席を譲ろうとする光景は普通です。みんな、進んで譲ります。これは見ていて気持ちがいいし、私もそうしようと思わせます。しかし、譲られる方もドイツ人、「いいえ、すぐに降りるから結構よ。」と背筋をシャキッと伸ばして立っているオバアちゃんも中にはいます。
何日か観察してるうちに気がつきました。彼らは自分が下車する一つ手前の駅を電車が出たらすぐに立ちあがりドアの前で待機するのです。駅の間隔は2、3分はあるのだから、そりゃちと気が早すぎるのではないかい?せっかちなのか、用意周到なのか、我先になのか、せめてお年寄りはもうちょっと座ってて欲しい、危ないですからね、おばあちゃん。電車が速度を落とし始めてからでも十分間に合うでしょ?私はというと、止まるまで座ってます。なぜなら、ドアの前には「待機」している人々が集まっていてどうせすぐには降りられないんだから、彼らが車外に流れる間にゆっくり席を立ってドアに向かっても十分なのです。(ハッハッハッ)
こういうこともありました。空港から街へ向かう電車に乗った時。4人向かい合わせの席に鞄が二つ、シートの真ん中においてありました。何だろ?と思いつつも、疲れていて早く座りたかったので、人は見当たらないし、その鞄を窓側の席によけて私は通路側に腰を下ろしました。すると後方から、いかにもドイツ人という風貌の背の高いがっしりした、きちんとした身なりの中年男性がいきなり強い口調で私に向かって言いました。
「その鞄が目に入らなかったのかい?」
私は分かりました。ははあ、さてはこの鞄で席取りをしてたんだな、オヤジ。ちょっと前の日本のオバタリアンみたいではないか。アホくさっ。いい大人が何言ってんだい。私は言ってやりました。
「ああ、あなたの鞄だったんですか。確かに鞄は見ましたけど。人は見ませんでしたよ。」
これをロンドンやパリやローマでやってみれば?アンタの鞄はとっくに消えてるよ。
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