「ドイツ人って・・・」、言葉を失うとき
12 Jan, 2003
ドイツに住んでると、「ドイツ人ってやっぱり質実剛健なの?」とか、ドイツ人のイメージについてよく質問される。こういうとき、私はドイツ人の優れたところについて説明してもつまらないので、彼らのどうしようもないところについて面白おかしく、時にはクールに話す。また、ドイツに住んでいる外国人同士では「ドイツ人ってどうしてああなのかしら!(あきれ調)」という話になることがよくある。これはドイツに住むマイノリティー民族としてのささやかな抵抗であり、この国で大きな体をして威張っているドイツ人よりも、我々の方がよりすぐれた部分(一般的には頭、思考回路)を持っていることを小声で主張するストレス発散の機会なのである。ちなみに、こういう皮肉はイギリス人が大得意なのだが、時々私は「でもあんた達の国ってこうだよ。ドイツの方がましだと思うわぁ〜。」と、茶々を入れて楽しむ。
私の持つドイツ人のイメージは、「都会に出てきた田舎もん」である。無骨で洗練されていないことをどこでも露呈してしまう人たちであり、それは日常生活のあちこちに見られる。
並ぶのが大嫌い
イギリスはどこにでも列があることで有名だが、ドイツはどこにも列がないことで有名だ。家の前の道の雪かきは各住人がするべしというきまりがあって、皆せっせとやるくせに、公共の場所では列に並んで待てというきまりも(おそらく)なければ、もちろん彼らがおとなしく待つはずも無い。田舎の生活は得意でも、都会で秩序を保つ術を知らないのである。
ある日、郵便局へ行った。ミュンヘンの東駅の横にある郵便局はいつも混んでいる。夕方に行くと、オレンジ色の小包配達不在通知表を持った人ばかりだ。郵便や小包配達は皆が働いている時間帯になされるので、仕事を持っている人は当然「不在」となり、後日最寄の郵便局へ受け取りに行かねばならない。この日は特に混んでいて、8つある窓口のうち、5つが開いていた(これはましな方である。)にもかかわらず、長蛇の列であった。実はこの郵便局では、数ヶ月前からイギリス式に列は1つだけにして、先頭の人から空いた窓口に行くようなシステムになった。列があまりにも長くて最後尾が建物の外に出てしまいそうな時もある。これにはドイツ人だけでなくわたしもうんざりだ。実際のところ、好き勝手に早そうだと思う列に並んで待つドイツ式よりもこの方式のほうが効率的なのは明らかなので、わたしはイギリスに住んでいたときを思い出しながらおとなしく待っているが、何十年もドイツ式でやってきた田舎もんの彼らはそうはいかないのだ。並んで待つには待つが、うるさい。
まず列を見た瞬間、「マインゴット!」だの「信じられん」だの、とにかく一言。とりあえず並んで、隣近所の人に「なんなのこれは?」とか、「列の先頭はどこなの?」とか話しかけ、相手も「そうなのよ。相当かかりそうね。」と気持ちをシェアする。あきらめのいいイギリス人ならここで黙って身動きもせずひたすら順番が来るまで待つところだが、そうはいかないドイツ人、実に観察のしがいがある。窓口がいくつ開いているか数え、「ちょっと、なんで4つしか開いてないのよ。」だの、「何であそこは閉めちゃうの?」、「あの人なんであんなに時間かかってんのかしら」とか、とにかく黙っちゃいない。
そのうち彼らは列の先頭集団にやってくると、10メートルくらいある長ーい窓口のカウンターを左右キョロキョロしてどこが空くか見ているのである。自分の番がまだであっても、である。窓口の人は、自分のところが空いたら遠くからも見えるように手を上げ、「次どうぞ」と大声で教えてくれる。列の先頭の人は当然、右を見たり、左を見たり、どの窓口が空くかちゃんと見ていて、すぐにいけるよう準備万端なのだ。よって、先頭から2人目以降の人がキョロキョロする必要はまったく無い、というのが彼らには分からないらしい。先頭の人がキョロキョロしながら、たまたま左を向いているときに右端の窓口が空こうものなら、列の後ろの人たちがみんなして「ハロー?」と、まるで「アホ!どこ向いてやがる?あっちだ、はよ行け!」といわんばかりに教えてくれるのである。そんなにやったところで1秒も違うわけではあるまい、この国には、紳士や淑女がいないのか。
もっとすごいこともある。先頭の人は常に後ろからのプレッシャーを感じているので、「あの窓口が空くな」と思ったら彼は早めにそっちに向かうのだが、その瞬間いきなり閉めてしまう郵便局員もよくいる。すでに歩き出しているその彼は行き場を失ってまた、列の先頭に戻る。その途中わずか3秒程度の時間に別の窓口が空くと、それを2番手の人がさっさと横取りしてしまうのである。なんだか世知辛い世の中だよなあと思うのは私だけか?横取りされた人にも「あんたもドイツ人なら、なんか言ってやりなさいよ。」と言いたくなる。
またある日、パン屋に行った時のこと。ドイツではパンのいっぱい並んだケースごしに、「あれと、あれと、それをください」と言って買う。お店の人がたとえば3人、ケースの向こうにいる場合、列は3つできるか、またはイギリス式に1つ。この日は珍しく列が1つであった。しかし、長くなればなるほどだんだん待てなくなるのがドイツ人。手の空いたお店の人が「次どうぞ」と言うや否や、秩序が乱れて列はばらけてしまい、2列になってしまった。すると、自分の後ろで待っていた人が隣の新しい列でさっさとパンを買っているのが気に入らない。もっともだ。その男性は「1列に並びなさい」と、新しい列に並んだ人々に向かって注意したものの、そんなこと何とも思っていないおばさんから「でも、もう(列が)できてるんですもの」という答えが返ってきただけであった。さすがドイツ人、これくらい余裕でやってしまうのである。
レジの飛び越しなんか、朝飯前だ。買い物かごを持って並んでいると後ろから余裕でこう、聞いてくる。「私これ1つだけ買いたいんだけど、先にいいかしら?」
早い者が必ずしも勝たない
日本人の上司から聞いた話。出張でよく飛行機を利用する上司が、あるときこう言った。「いやあ、ドイツ人というのは、本当に信じられないことをするね。」ヨーロッパ線の小型の飛行機を利用したときのこと。ビジネスクラスでも頭上の荷物入れが小さいときがある。早めに機内に乗り込んだ上司は、カバンを横にして入れ、席についた。そこへ、後からやってきたドイツ人がそこへ自分の荷物を入れようとしている。いつまでたっても棚の扉をバタバタやっているので何事かと上司が見てみると、なんとこのドイツ人のおじさん、上司の荷物を勝手に縦に入れなおし、自分の荷物を収め、閉まらない扉(上司のカバンが明らかにはみ出ている。)を無理矢理、ガンガン閉めようとしているのである。上司は当然「あなた何やっているんですか?」と言いますよねぇ。後から来たくせに、自分の荷物が入らないからって、そんなことをして・・・。返ってきた答えは「(あんたの荷物が)Too big!」だったそうで、私はこれを聞くなりゲラゲラ笑ってしまいましたね。さすがドイツ人。後から来ようが関係なし、横取りは当たり前。なんでも、ドイツという国はゲルマン族という野蛮人が建てた国だそうで、いまだにその血が流れているのかと、妙に感心したりなんかして。
上司にとってはたまったもんじゃない。「あなたは後から来たんだから別の場所に入れなさい」、と言っては見るものの、文明社会で正しいことが、野蛮人に通じるはずが無い。さらに上司はこう言った。「では、あなたは自分の座りたい席に誰かが座っていたら、その人を引きずり降ろして自分が座るのですか?」そんなこんなで言い合いをしているうちに、乗務員が駆けつけて、かのおじさんの荷物を別の場所にしまってくれて、一件落着。
何年住んでも、こうはなりたくないものである。
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