ロンドンより新鮮直送!
じおじおのロンドンレポ 10
24 July, 2002
★ウィンブルドンの魔力
ちょっと前の話になりますが、ワールドカップが決勝トーナメントに入り、そしてイングランドチームがブラジルに負けた直後、イギリスではテニスの世界4大大会の一つ、ウィンブルドン・テニストーナメントが始まりました。大学時代テニスサークルだったことはあまり影響していませんが、ウィンブルドンは日本にいる頃から、NHKの中継で眠い目をこすりながら見ていました。そのウィンブルドンが昼間に見ることが出来るのはともかく、実際に観戦が出来る、というのは5年前には考えもしていませんでしたが・・・。
ご存じの方も多いかもしれませんが、決勝が行われるのはセンターコート。トーナメントの1回戦などももちろん行われますが試合をするのは通常シードの上位にいる、有名な選手達。そしてセンターコート並に観客を収容できる第1コートがその横に並んでいます。第2コートまでが観戦の為にチケットが必要なコート。それ以下第3〜第19コートまで、観客席があるなし、立ち見に関わらず自由に見る事ができます。
だがしかし、ここで自由に見れるんだ、と安心しては行けません。ウィンブルドンパークの西側に位置するこの20以上のコートを所有する会場『ウィンブルドン・オールイングランドローンテニスクラブ』に入るためのチケットが必要です。イギリス人のキュー(行列)好きにはいつも感心させられますが、数の限られたこの当日チケットを購入するため、毎年何万もの人が行列を作ります。
2週間続くトーナメントの中日の土曜日は、翌日の日曜日は全ての試合が休みになるせいもあり、観戦者も2週間の中で一番賑わう日です。昨年、事情をあまり知らず10時の会場オープンに合わせて9時頃現地に到着すると、既にかなりの長さのキュー。キュー・エンドを求めて20分近く歩き、そこからとぼとぼと動く列に従い少しずつ進み、入り口に近付いて来た、と安心し始めた12時半ごろ、私達の行列の直前で『ここから先は5時まで入場できません』とのアナウンス。会場内の入場制限のため、帰る人がいない限りは入場も出来ない、というわけです。えい、ここまで来たら帰れるか、とそこに居座り、約束通り5時まで待ち入場。なんと8時間も会場の外で待っていたことになります。
そして今年はそこから少しだけ学び、6時半に現地到着。それでも既にかなりの人出でした。会場入りの為の行列は、南側のWimbledon
Park駅からと、北側のSouthfield駅から来る人により2方向へと伸びています。今年は昨年とは逆の北側の行列に加わりました。私達が到着したころ、北側の列は、入場口から柵に囲われた歩道を伝い程なくウィンブルドンパーク内に入り、そこから泊まり組(テントを張ったり寝袋持参の方々)の列が広場内を一周したあと、広場の中心に向かいジグザグ状態の行列が出来ていました。8時ごろまでは全てが平和で、持参した本や雑誌を読んだり、バーベキューをしたり、皆早起きを楽しんでいるようだったのです。ところが、キューが動きだし、テント組がテントを畳みながらゆっくりと前に進み出したと思った瞬間、ジグザグの列の一部の人が崩れ、皆が一気に駆け出す始末・・・。結果として一番後列にいた人達(8時到着組)がテント組(夜通しキュー組)よりも前に入り込んでしまいました。2列に整然としていた列は10列以上にもなりそうな御団子状態で、もちろんもともと前列の方に並んでいた人は納得が行かず列を抜けて前に行き、それに紛れて前に行く輩もいます。結局は警察が出動し、通常は整理番号としては使われない、行列の際に渡されるリーフレットに印刷してある番号を基準に列の整理が行われテント組はめでたく先に入れたようですが・・・。
こんなアクシデントも、"Never
mind"精神で乗り切るイギリス人のこと、整理番号順に『何番台』という列があっという間にラジオ体操の列のように出来上がり、同じ番台では妙な団結感が広がりウェーブまで始める始末。私達もUNO(皆さん一度はやったことのあるであろうカードゲーム)をやりながら、持参したサンドイッチやフルーツやポテトチップスをかじりながらこのアクシデントを乗り切り、12時半に会場に入る事が出来ました。今年は去年より2時間少ない6時間のキューでした。
東京に7年間住んでいてもどうしても慣れることの出来なかった『行列』が、なぜウィンブルドンでは苦にならないのか? これはやはり囲まれる環境の違いなのでしょうか。去年もそうでしたが、行列の中に必ずと言ってよいほど「エンターテイナー」がいて、その場の雰囲気を盛り上げてくれます。行列を退屈させない為のアイスクリーム屋やチップスやバーガーの屋台はもちろんのこと、スターバックスの試飲コーナーがあったり、タブロイド紙や一般の新聞も、バナナの叩き売りのような口上で列の横を歩き回るおじさんたちにより売られています。
そして会場内にはなんとも言えないウィンブルドン特有の雰囲気が漂っています。普段は派手な選手たちもウィンブルドンでは白のユニホーム。緑色のポロシャツと半ズボン姿のボールボーイ達の機敏な動きや、緑色のジャケット姿の審判たちを見ていると、こちらも何か厳粛な気持ちになり、観戦の際もつい姿勢がよくなってしまいます。そして第1コートの裏側にある丘には大スクリーンがあり、センターコートや第1コートの試合をこの丘で観戦できます。この丘は毎年勝手に名前がつくのですが、今世界ランク4位のイギリス人選手ヘンマンのプレイ中は『ヘンマン・ヒル』と呼ばれています。今年は彼が準決勝で敗れてしまいましたが、その後の決勝時には、オーストラリア人選手のレイトン・ヒューイットファンにより『ヒューイット・ヒル』と命名されていました。
でも、多くの人にとって、試合の結果はそれほど重要ではないのです。ここでは皆芝生に寝転がり、ビールやワイン、中にはシャンペンに手作りのランチや夕御飯をバスケットに入れて持参し、家族や友人とピクニックを楽しむのです。それが会場の外であろうが構わない。イギリスの短いけれど心地よい夏を過ごす手段として、ここでは野外のイベントが毎日のように行われており、ウィンブルドンもその中の一つに過ぎないのかもしれません。でも、どんなに長い時間キューをしていてもまた来年戻って来たいと思うのは、まさにウィンブルドンの魔力なのではないでしょうか。
© 2002 Hisako Koike. All rights reserved.