生涯にわたる読書の勧め

 
 さらに自宅の10畳間の洋室を待合室として開放していますが、シャンデリアの下で前の授業が終わるのを待つ生徒は、自由にお茶を飲んだり、科学雑誌を読んだり、据え置きのゲーム機に自分たちで持ってきたソフトを入れて過ごします。

 夏休みともなると、読書感想文用に何か面白い本を紹介してください、などと頼まれます。その子が野球部であれば海老沢泰久さんの 「監督」 を古本で見つけてきたり、将棋の趣味がある子には、大崎善生さんの 「聖の青春」 を買ってきたり、成績を心配されて毎月塾の月謝を出して貰えるほど、親御さんから愛されているはずの生徒には、自分の幸せを噛みしめて貰うためにも 「 It と呼ばれた子 」 や 「シーラという子」 「愛をこうひと」 などを読ませます。

 活字が苦手という子には、せめて漫画でも良いから読みなさい、と勧めるのですが、「遙かなる甲子園」や「ドングリの家」を読むと、障害者への意識が変わり、正常な自分がどれだけいい加減に生きているか思い知らされます。
 「め組の大悟」や「はじめの一歩」にはどれほど勇気づけられることでしょうか。
 「おれは鉄平」は剣道を通じたスポーツ漫画ですが、全31巻を娘は途中で止められなくなって、一晩徹夜して読んでしまいました。
 いまさら紹介するまでもなく「バガボンド」の素晴らしさは圧倒的で、2冊の画集も当然購入しています。
 「神童」「バジリスク」「きらきらひかる」も、個性的な絵柄と作風で、色々な意味で時間の経つのを忘れさせてくれる作品群ですね。
 同じ岩国出身で、娘の通う中学のOBでもある弘兼憲史さんの「島耕作」や「人間交差点」シリーズは読み倦きませんが、僕のお薦めは「ハロー張りネズミ」です。
 甲子園にも何度か出場した僕の母校である岩国高校は、県下でも有数の野球の強豪で、部員数が百名を超えたりするそうですが、当塾の卒業生でキャプテンや副キャプテンを務めた子は片手では数えられない程です。普通の野球部員で、甲子園に出場した勇姿を T V 越に観た生徒の数は、それこそ何十人といますが、彼らが塾の始まる前に、待合室で夢中になって読んだであろう、「ルーキーズ」や「プレイボール」などの野球漫画は、高校のクラブ選択に深い影響を与えたに違いありません。

 お母さんが本好きな方だと、子供よりも先に自分が読んで感動し、素晴らしい本をありがとうございました、と電話いただくこともあるほどです。

 ろくに中味を読みもしないで、他人の書いた感想文を手直しして、チョロチョロッと宿題を片付けようとする子も多いのですが、僕に言わせれば、せっかく書くのなら、しっかり読み込んで心を震わせ、涙を流した作品に敬意を表して、感想文に向き合うべきではありませんか。

 もっと言えば、ありきたりな感想など書かなくて良いから、その代わり、友達にその本の魅力を伝えてあげるために、全体の荒筋をまとめてご覧、とアドバイスします。これなら、本当に最後まで読んでなければ、どんなストーリーなのか具体的に語れないでしょう。前のページで30年前の小説の要約を書いてみましたが、ああいう感じで自分の感動したエッセンスを他の人に伝えてあげればいいのです。一冊の本を原稿用紙5,6枚にまとめる方が、よほど国語力が伸びると考えます。

 ともあれ、単なる勉強にとどまらず、是非とも本好きな人間になって、暇を持て余すことなどない人生を歩んで欲しいと願っています。


  



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