泣けないヒト

 

大事な人が悲しんでいる時に、どんな言葉をかけるべきなのか。
それを選ぶのは、いつだってひどく難しい。

ナナミが亡くなったと聞いたとき、ユノスに言うべき言葉が見つからなかった。
彼にとって、姉がどういう存在だったか、よくわかるからこそ。

「・・・・・・・・・何か用?」
逡巡しながらも、いつもの台詞を口にした彼を、何故かとてもいとおしいと思った。
「石版、見せて」
冷えた口調でそう言ったユノスが、昔の僕と重なって見えた。
刻まれた名前が、一人分だけ、他のと違う。わずかで大きい、その変化。
わかりたくない事実を、目に見える形で示されて。
・・・あの時だけは、思いきり石版を殴っても、ルックが怒らなかったな。
あからさまに荒れた僕と違って、ユノスは確認するとすぐに去って行った。

「ルック」
「・・・悪趣味」
声をかけると、冷たい一瞥が送られた。
確かに上から一部始終を眺めてたのは悪趣味だと自分でも思うけど。
「今日はもう、立つのやめたら?」
今日、石版を見ようなんて気を起こす人は、そんなに多くはないはずだ。
見るにしたって、ルックがいない方が殴りやすいに違いない。
「部屋に戻って、熱いお茶でも飲もう」
ふん、とルックはあっさり鼻の先で一蹴したけれど。
ゆっくりと手を引けば、案外おとなしく付き合ってくれた。
元々ルックの手は冷たいけれど、いつもよりさらに冷たいような、そんな気がした。

「あのさ、ルック。泣きたいときは、泣けばいいんだよ」
熱いお茶をカップにそそぎながら、告げる。
「今なら、100ポッチで僕の胸を貸すけど?」
芝居がかった仕草で、両手を広げてみる。
「・・・」
「おくすり買うより、効果ありそうでしょ」
ふっと笑って見せると、ルックは馬鹿と呟いて、僕の胸元に顔を寄せた。

「・・・つらいね」
そう呟いても何にもなりやしないと、わかっているけれど。
悲しくて、つらくて、でも自分たちよりも、もっと嘆いてる人がいて。
こんな時、自分はなんて不甲斐ないのだろうと切に感じる。
「一緒に泣いてよ、ルック」
なんとなく、ルックが泣いてくれたら、僕も泣けるような気がして。
彼の肩口にかかっている髪に顔をうずめて、抱きしめる手に力を込めた。
やっぱりルックは泣かなかったけど、ぎゅっと僕の服を握った手がかすかに震えていた。