道程の途中に

 

「やぁ、ルック」
いつもの挨拶と共に、片手を上げてやってくる男。
「暇だね、あんたも」
「相変わらずつれないね」
あんたも相変わらずだと返すと、そうだろうねと彼は笑った。
目的も無く彼が訪ねてくるのは、一体何度目だろうか。

開けた窓から入ってくる風は、じっとりと暑い。
「雨でも降ったら、すっきりするだろうに」
ティーカップを手にしながら、彼はそう言った。
「世界が欲するのか、雨が欲するのか」
「え?」
「雨の降る理由だよ」
自然現象に、理由など付けられないだろう。
「くだらない」
「あぁ、ルックは水掛け論は嫌いそうだよね」
わかっているのなら、わざわざ話題を振らなくてもいいだろう。
「紅茶、もう一杯いる?」
「もらうよ」
ティーポットを傾けると、赤茶色の液体が彼のカップを満たす。
「答えが出ないことについて考えるのは、無駄だと思う?」
「僕には意味のないことに思えるよ。まったくの無駄ではないかもしれないけれど」
「なら、もう少し僕の戯れ言に付き合ってよ」
満たされたカップを再び手にして、彼は話し始めた。

「世界は個人か、それとも世界は世界か」
「よく聞く話だね」
「まぁ、各々のそもそもの世界観と言うのが元になるのだろうけれど」
「つまりはまた水掛け論なんだろう?」
「僕はどちらかと言えば、世界は個人派か」
「人の話を・・・」
人の話を聞けと言いかけて、口を噤んだ。
彼は良く言えばマイペース、悪く言えば自分勝手な人間だ。
「世界は個人だ。けれど同時に、世界は世界でもある。
誰かが死ねば、その人の世界はなくなる。けれど、誰かが死んでも、世界は回り続ける。何の滞りもなくね」
僕のことなんか、ひとつも知らないくせに。
どこまでも掴み所は無いまま、彼は言葉を突きつけてくる。

「世界は君の手に余るよ、ルック」
「わかってるよ、そんな事」
窓から入ってくる風は、熱気で暑いのに。
その風になぞられた背中は、何故かぞくりとした。