| この軍はまだ生きている
主の居なくなった部屋。
きっちりと本の並べられた棚に、うっすら埃がたまっている。
聞きたいことが、たくさんあった。話したいことも、たくさんあった。
なのに。
「何でだよっ!」
ぎゅっと握り締めたこぶしを、机に叩きつける。
インク壷や先の乾いた万年筆がはねて音を立てる。
「所詮こんな戦争、僕のエゴでしかないんだ…」
「この世界の中にエゴじゃない戦争がどこにあるって訳?」
静かに扉を開けたのは、法衣を身にまとった子ども。
思わず目を見開いて、けれど慌てて平静を取り繕う。
「…今ここは、人払いしてるはずだけど」
「マッシュから、本もらうって約束してたから」
そう言って、本棚に歩み寄り、躊躇なく数冊の本を抜き取る。
整えられていた本が、すこしづつずれる。
「あんたが嘆くも愚痴るも勝手だけど、士気が下がるから僕の兵の前では言わないでくれる?」
それだけ言い残して、部屋から去っていく。
ぽかんと口が開いた。
「何だ、あれ」
その一瞬で、ふしゅると空気が抜かれたようで、ずるずると机にもたれかかる。
「……誰だっけ、今の」
そう呟いてから、無性におかしくなって、ひとりでくつくつと笑う。
さっきの子は、どう見たって十を少しばかり超えたぐらいだ。
なのに、僕の兵、だって?
あんな子がいるのなら、この戦いを放棄するわけには行かない。
戦いを諦めてない者がいる限り。
この軍はまだ生きている。
僕が落ち込もうが泣こうが、それだけはゆるぎない事実。 |