まほうのて

 

むかし、グレミオの手は魔法の手だと思っていた。
いつもよどみなく動き、お菓子や料理が作られていく。
今なら、器用だとかいう言葉を当てはめるのだろうけど。
その当時の僕にとっては、魔法だったのだ。

陽気な料理人から、デュナンの城の厨房をすこし借りて、好き放題に料理を作る。
湯気の立つ料理を台車にのせ、がらがらとにぎやかに城の一室に運び込む。
「食べ物が目の前にたくさん並んでると、しあわせだなぁって思わない?」
大皿を無造作に机の上におきながら、部屋の住人に問いかける。
「……別に」
住人が本から視線を向けたのは、ほんのいっしゅん。
「そりゃ残念。相変わらず人生つまらなさそうだね、ルック」
ふっと笑って、食後のための焼き菓子を最後に並べる。
「家と同じレシピで作ったのに、こげちゃったよ」
落胆の言葉のはずが、えらく明るい声音が出てしまった。
「オーブンが違えば、焼き具合が変わるに決まってるだろ」
さすが塔でこき使われてただけはある、主夫の正論。
「いいや違うね、僕の手が魔法の手じゃないからさ」
おどけて、ひらひらと手を振る。
そして全身全霊、最高級の笑顔を浮かべて。
「さぁどうぞ、召し上がれ」

「どうでもいいけどさ、エプロン姿が最高に間抜け」
そうぼやきながら、ルックは本にしおりを挟んで閉じた。

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