| 04.泣く前に笑え
ふぎゃあふぎゃあと、小さな体から大きな泣き声が聞こえる。
長引く戦の中で、僕らの城は確実に人口を増やし。
よしよしと、母親のあまい声は、ふうわりとミルクの香りすら漂わせていそうに。
家に住んでいた頃には縁の遠かった声や風景が、いまや日常。
「子どもって、どうして母親がわかるのかな」
だんだんと小さくなる泣き声に、やさしく抱かれ眠りにつくさまを想像しながら、石版守に問いかける。
「ひびき」
「え?」
「だから、ひびきでわかるらしい。僕もくわしく知らないけど」
ルックの知識によると、お腹の中で十月十日過ごしたことを、覚えているからということらしい。
やわらかな羊水にふるえ伝わる、母親の声のトーンや鼓動。
いとし子たちは、温かい腕に抱かれ、この世にただひとつの涙をとめるひびきを感じとる。
ああ、僕にはもうその存在はいないけれど。
「ま、僕らはもう、泣く前に笑えってことかな」
とん、と石版に軽く手をつき、胸をすりよせ、石版守に覆いかぶさるように。
「ねぇ、ルック、何かひびいた?」
「……とくになにも」
ふうとためいきが漏らされ、かるく上下した体から伝わるふるえ。
涙をとめるひびきはこの世にただひとつ。だけど。
笑みを与えるひびきは、きっといくつも感じられるのだ。
たとえばそれは、きみのなかに。 |