(虎の門病院)
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前立腺にはっせいする 男性特有の癌です。
アメリカでは最も頻度の高い癌です。大腸癌、乳癌とならんで欧米に多い癌です。
日本では少なかったのですが、最近増加してきました。1996年には、日本で前立腺癌による死亡数が6000名を超えました。
病理組織 : 基本的には腺癌です。組織的分化度が予後に関係しています。高分化、中分化 、低分化の3種類の分類では低分化が予後が悪いとされています。
臨床病期分類で大きくA, B, C, Dの4分類に分けられます。
臨床病期A : 臨床的には前立腺癌と診断されず、たまたま前立腺肥大症や膀胱癌などの手術試料の病理検査で癌が見出されたもの(偶発癌)
A1 : 小さな高分化腺癌
A2 : 彌慢性、または中、低分化腺癌
臨床病期B : 前立腺内に限局した臨床的に診断できる癌
臨床病期C : 局所で前立腺外に浸潤。具体的には前立腺皮膜外、精嚢、膀胱頚部、膜様部尿道に侵襲しているが、転移の無いもの。
臨床病期D : 臨床的に明らかな転移が認められる腫瘍。
D1 : 所属リンパ節(総腸骨動脈分岐部以下の骨盤内リンパ節)に転移が見られるもの
D2 : その他のリンパ節、膀胱頚部以外の膀胱、直腸等の隣接臓器への浸潤、骨、肺、 肝などへの遠隔転移
標準的治療
A1 : 無治療経過観察
A2 : 病巣の小さいものは、無治療経過観察。病巣の大きいもの或いは分化度の低いものは根治的前立腺全摘除術。放射線療法。(内分泌療法)
B : 根治的前立腺全摘除術。放射線療法。Watchful waiting.(内分泌療法)
C : 根治的前立腺全摘除術。放射線療法。 内分泌療法。前二者のいずれかと内分泌療法の併用。
D1、D2 : 内分泌療法
内分泌療法
前立腺は精液の一部である前立腺液を生産します。思春期以後テストステロン(精巣から分泌される男性ホルモン)の分泌量が増加すると、二次性徴の出現に伴い、前立腺上皮も増殖します。テストステロンは下垂体からのLH(ホルモンの一種)の影響下に分泌されます。LHは視床下部からのLH・RH(これもホルモンの一種)の影響下に分泌されます。前立腺癌は前立腺上皮が癌化したものであり、正常前立腺上皮の男性ホルモンに依存する性質を持っています。この男性ホルモンの働きを何らかの方法で阻害するのが内分泌療法です。
1)LHーRH類似物質 : 本邦ではリュープリン(酢酸リュープロレリン)、ゾラデックス(酢酸ゴセレリン)が使用されています。1ヶ月に1度注射を打つ必要があります。第一回目の投与後、下垂体が刺激され数日間LHの分泌量が増加しますが、以後下垂体が反応しなくなり、LHが分泌されなくなります。このため、テストストロンが低下します。治療開始時期にはLHが上昇し、テストストロンが上昇するため10日間程症状が増悪することがあります。顔面紅潮が見られることもあります。
2)抗男性ホルモン剤 : 内服薬。オダイン(フルタミド)、コソデックス(酢酸クロルマジノン)が本邦で使用されています。肝障害、間質性肺炎、血栓症などの副作用が発生することがあります。細胞表面にある弾性ホルモンリセプターを占拠して男性ホルモンの働きを弱めます。単独では効果が弱いと考えられています。しばしば、両側精巣摘除術あるいはLH-RH類似物質と併用されます。副腎から分泌されるステロイドホルモンの一部は男性ホルモン作用があります。精巣摘除あるいはLH-RH類似物質では副腎由来の男性ホルモンの作用を抑制することが出来ません。併用の目的は副腎由来の男性ホルモンの作用を抗男性ホルモン剤で抑制しようとするものです。これはmaximal androgen blockade (MAB)あるいは totalandrogen blockade (TAB)と呼ばれています。内分泌療法として本邦では最も広く採用されています。本当に併用効果があるかどうかについては議論があります。この薬剤は長期間使用していると、前立腺癌細胞を刺激し活発にさせることがあります。薬剤が症状増悪の原因となります。薬剤を中止することで、症状の改善が見られます。
3) 両側精巣摘除術 : テストストロンが分泌される精巣を摘除します。手術は極めて簡単で合併症も殆どありません。永続性があります。
4) 女性ホルモン : 内服薬。ホンバン(ホスフェストロール)、プロセキソール(エチニルエストラジオール)が本邦では使用されています。女性ホルモンもLHの影響下に分泌されます。女性ホルモンの血中濃度が高くなるとLHが低下します。そのためテストストロンが低下します。また女性ホルモンにはホルモンを介さずに、直接前立腺癌を抑える働きがあります。副作用として血栓が出来やすくなり、血管がつまりやすくなります。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症を発症しやすくなります。このため使用する場合は血液が凝固しにくくする薬剤を併用します。また肝障害が出現することもあります。体液が貯留しやすくなり、下肢に浮腫を生じます。
再燃 : 内分泌療法は当初多くの症例で有効です。症状が緩和され、マーカーが低下します。しかし、経過と共にPSAが上昇したり、内分泌療法で小さくなった前立腺が又大きくなって症状が出てきたり、転移による症状(骨の疼痛など)が出てくることがあります。これを再燃といいます。前立腺局所の再燃は放射線療法が有効ですが、全身再燃に対する有効な治療手段は現在のところありません。