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老化を遅らせる(アンチエイジング)食生活 (人間総合科学大学 教授、熊谷修先生のコラムより)
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熊谷先生は、大規模介入研究により、日本で初めて『老化を遅らせる食生活指針』を確立・提唱した高齢者栄養に関するわが国の第一人者です。高齢者の健康は、『自立した生活を営む能力』であり、高齢者の栄養指導もその視点から行なわれるべきとのこと。本学での研究の傍ら、全国自治体の要請を受けて、介護予防施策の栄養指導のために、毎日、精力的にご活躍中です。 高齢者の方々の健康状態は罹っている病気の数や程度で評価することはできません。世界保健機関(WHO)は、高齢者の健康度のものさしを『生活機能の自立度にすべきである』と提唱しています。まさにパラダイムチェンジ(思想,枠組みの転換)です。したがって高齢者の健康づくりの最大の目標は、病気の予防や管理ではなく、地域で独立した生活を営む能力を保ちいかに長生きするかなのです。高齢者が実践すべき食生活は、この目標達成に寄与するものでなければなりません。これまですすめられてきた栄養・食生活と健康に関わる研究のほとんどすべてが病気の予防や改善を目的として行われてきました。 個別の病気に目を奪われた食生活は、木を見て森を見ず!ということになります。 いまこそ、高齢社会に対応した食生活の手立てを科学的に理解しなければならないときなのです。 では、どのような食生活を実践すればこの目標が達成できるのでしょうか?それをお話しする前に高齢者の方々の健康状態を低下させてしまう本当の原因はなにかを整理しましょう。 研究がすすむにしたがい高齢者の健康問題の本質が『からだの老化そのもの』であることがわかってきました。 図1は、地域の高齢者の方々を長期にわたり追跡調査して介護保険のお世話になること<軽度要介護認定;買い物などを一人で行うのが大変>を予測している項目はなにか探し出したときの結果です。予測していた項目は<手すりを使わない2階段の昇り降り><休まない1km歩行>でした。いずれもできるグループ<図中では{障害ない}>を基準としたとき、いずれか一方に障害のあるグループ<同{何れか障害}>では男性7.22バイ、女性2.3バイ、両者が障害されているグループ<同{ともに障害}>では男性6.14バイ、女性3.28バイと軽度介護認定リスクが次第に高くなることがわかりました。この関係は、脳卒中、心臓病、高血圧、および糖尿病など患っている病気とはまったく無関係でした。高齢者の歩行能力やその持続力にはからだの老化の程度が直接に映し出されます。高齢者の健康指標が病気とは全く無関係にからだの老化そのものによって大きく影響されるされることがわかります。とかく関心が向かいがちの<病気>が犯人ではないのです。老化とは、わかりやすく言い表すと乾いて縮む、あるいは人を歩いて追い越せなくなる変化です。高齢期の食生活は、病気の予防ではなく老化を遅らせ身体筋力を維持増進するためのものでなければなりません。 では、老化を遅らせるにはどのような食生活を営めばいいのでしょうか?ここで普段の食生活の良否が映し出されるからだの栄養状態と老化の関係をお話しましょう。 図2は、血液の中を流れるたんぱく質の6割を占める血清アルブミンの値と老化に伴う歩行速度の変化の関係を示しています。血清アルブミンは体の栄養状態の決定的なものさしで値の高いほど良好な栄養状態ということになります。棒グラフの高さは歩行速度が遅くなる程度を示していますので高いほど筋力が低下して老化が進んだことになります。血清アルブミンが高いグループになるにしたがい老化の進み具合が少ないことがわかります。この関係は、運動する習慣がある人でもない人でも同じように認められます。そして、病院の検査基準では栄養状態に問題なしとされる値でも、より血清アルブミンが高いグループほど老化の進み具合が少ないのです。高齢者の栄養状態は医学的基準で評価すべきではないのです。すなわち、可能な限りからだの栄養状態を高める食生活の手立てが求められることになります。 65歳以上の地域高齢者約1000吊の協力をえて実際に試してもらい、からだの栄養状態を良好にして老化を遅らせるのに有効なことが確認できた食生活指針が表1です。ぜひ、試してください。女性は筋力が男性よりも低いので50歳ごろから実践すると良いでしょう。指針項目の中に肉類の大切さや油脂類の大切さが盛り込まれています。コレステロールが上がりはしないか心配になる方々多いかもしれません! 確かにこの研究でも全体の平均で4%程度、血液中の総コレステロールが増加しました。 でも大丈夫!いま、メタボ対策が大流行です。心臓病予防が大きなテーマのひとつです。<脂肪を控えコレステロールを下げる>これは決まり文句です。しかし、私たちの健康維持は、心臓病や糖尿病を予防しただけでは十分ではありません。がん、脳卒中、感染症、自殺なども予防しなければなりません。そこで総死亡リスクと血中コレステロールの関係を年齢層ごとに見極める研究が世界でさかんになってきました。これまでの信頼できる研究成績を総合すると、50歳、60歳時ではコレステロールと総死亡リスクとは無関係、70歳、80歳では、コレステロールの高いほうが総死亡リスクは低くいろいろな病気からからだが守られることがわかってきました。この関係があらわれるのは、コレステロールが低いと心臓病リスクは低下しても、逆に、がん、脳卒中、感染症、病気以外の死亡リスクが大きく上昇するためです。総じて、熟年期以降はコレステロールがむしろ高いほうが有益なことがわかってきたのです。コレステロールはからだの栄養状態の大切な指標のひとつです。良好な栄養状態はさまざま病気からからだを守るには欠かせない条件なのです。コレステロールが増加することは良い変化なので 事実、紹介した食生活指針の有効性を試した研究のその後を6年間追跡したところ、からだの栄養状態を良好にできた高齢者の方々ほど総死亡リスクが低下することがわかりました。 病気とは異なる普遍的なからだの変化である老化の速度を決める食生活を探しだす研究成果は、生涯、わたしたちが実践すべき食生活や栄養問題の本質を教えてくれています。病気と栄養・食生活とを関連づける研究では決して見極めることができない事柄です。 食生活指針 10の食品群
<人間総合科学大学のホームページより抜粋>
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