|
保険問題研究会記念講演(2008/5/20)
「保険法の改正について」
関西学院大学教授・弁護士
伊 勢 田 道 仁
1.保険問題研究会のあゆみ
・保険法における「契約者保護」の視点を重視
・当研究会の活動(勉強会の実施、「保険被害救済ガイドブック」の出版、訴訟支援など)
・ロビー活動 ⇒保険法改正検討PT(大阪弁護士会)
・08年3月、保険法案の国会審議入り
2.契約者保護の視点から保険法案で達成されたもの
(1)用語の現代化、現在の実務を反映した内容
(2)規制範囲の拡大(共済の規律)
(3)片面的強行規定
契約者に不利な特約を無効とする強行規定。
(4)傷害・疾病定額保険に対する法規制
商品設計、重要事項の説明義務、告知のあり方、支払い基準の適正化、など。
(5)その他 契約締結時の書面交付義務、など。
3.今後に残された課題
(1)プロラタ主義
・日弁連と大阪弁護士会の意見が異なる論点
・プロラタ主義では、契約時の状況の確定や保険金額の決定をめぐり、対応が複雑化し紛争が激化するおそれ。
・告知義務違反は契約者が「故意・重過失」の場合に限られるが、プロラタ主義に関する外国の立法例では、軽過失による告知義務違反について保険金が全額支払われないとするものもある。また、保険会社は過失であっても告知義務違反に対する解除権を奪われる。そうすると、オールオアナッシング主義はプロラタ主義に比してさほど極端なものではない。
(2)始期前発症のケース
・契約締結時にすでにかかっていた病気については、後から症状が出ても、保険金は支払わないという約款規定である。
<疑問>
・現在は始期前発症と告知義務の2本立て。知らなかったときや、一定期間の経過により救済される告知義務の問題に統一すべきではないか。
(3)保険金支払時期
・確定期間は定めない⇒相当の期間
・保険金を調査なしに支払うことは出来ず、支払期間を一律に決めることは妥当でない。
・請求手続きの問題と支払時期の問題は別。請求手続きを適正化する方向で監督を強化するべき。
<疑問>
・保険会社が支払期間が確定していないことを理由に、調査の怠慢や不必要な調査を行って支払を遅らせるケースが考えられる。
・保険金支払いについては各保険契約類型ごとに確定期間をおいて、それを超えた場合には原則として履行遅滞とすべきではないか。
・確定期間を超えて調査が必要である場合には、保険会社に「正当理由」の立証責任を課すべきではないか。
(4)説明義務・適合性原則、誠実審査義務
・「説明義務」の法定は難しい。一般私法上の効果では契約者保護という観点からは大きな前進は望めない。「契約法としての」保険法に多くを期待すべきではない。むしろ、監督法である保険業法の問題では?
<疑問>
・保険会社の受託者的立場からすると、説明義務を認めるべきではないか。
(5)不当約款条項の規制
・保険契約の内容が不明確である場合や契約者に不利である場合に契約者が思わぬ不利益を受けるおそれがある。
・適用範囲が限定されている片面的強行規定のみでは不十分であり、一般的な約款規制を検討すべき。
(6)その他
4.最後に
⇒保険業法の改正? ⇒金融商品取引法の改正?
基本的な視点――ふたつのギャップがある。
①国民の期待と保険会社の現状にギャップ。
②法体系のオーソドックスな理解(学者の感覚)と実務の現場(弁護士の感覚)
<国民の期待と保険会社の現状>
・証券会社と異なる点は、保険会社は互恵の精神からできたもので、保険業法には金融商品取引法36条にあるような業務遂行にあたっての「顧客に対する誠実公正義務」の規定はない。⇒保険会社に対する高い信用。国民の信頼と期待。
・保険会社は、多くの国民から保険料を集め、信頼をされている存在。証券会社と比べてより受託者的な立場にあるといってよい。商品説明、調査手続き、支払手続きにおいて、公正誠実な態度が求められる。
・保険会社の株式会社化。契約者の互恵精神よりも、株主の利益優先。規制緩和や外資系保険との競争激化。
・保険現場の退廃の現状。契約者に対しては高圧的な態度。モラルリスク=不正請求の恐ればかりが強調される。
<学者の感覚と弁護士の感覚>
・行政による救済は後手にまわる。現場にいる弁護士としては、すぐに使える契約法の範囲内で、なんとか妥当な解決を導きたい。
・保険契約には消費者契約法も適用される。両方が適用される。それを前提として、なお契約法としてのルール、解釈、運用に契約当事者の実質的公平の観点を取り入れるべきではないだろうか。
以上
|