![]() 講師 平山 宗宏先生 |
予防接種と小児感染症の最近の問題について
地域における感染症対策
母子愛育会・日本子ども家庭総合研究所 平山 宗宏 略歴と連絡先
(3)感染症予防の三原則
@感染源対策 :患者の隔離、汚染源の排除・消毒
A感染経路対策 :上下水道整備、汚染処理
B感受性ある人への対策:予防接種(能動免疫)、受動免疫(免疫グロブリン注射)、抗菌(ウイルス)剤(抗結核剤、抗生剤、 抗インフルエンザ剤)
(4)免疫機能
・「非自己」(異物)を認識して排除しようとする働きが → 免疫
異物が病原体であれば、免疫は生体の防衛力
免疫反応が身体に異常を起せば、アレルギー
自己の組織や細胞を非自己と誤って認識して攻撃してしまう場合は、自己免疫疾患
医療のために移植した他人の組織・臓器の排除が起こるのは、移植免疫
医療上困る免疫反応を抑えるためには、免疫抑制剤の使用
・免疫機能は主として白血球が相当
細胞免疫→病原体の発見、防御体制の指令、食作用、異常細胞の破壊、等(T細胞)
液性免疫→免疫抗体(免疫グロブリン)と非特異因子(インターフェロン、等)(B細胞担当)
・偏らない栄養、適切な運動、休養、睡眠により体の抵抗力を高めておくことも大切。
2.予防接種についての基礎的事項
(1)生ワクチンと不活化ワクチン(トキソイドを含む)
| 定義と剤形 | 効果 | 副反応 | |
| 弱毒生ワクチン 例:BCG、 ポリオ、麻疹、 風疹、おたふく |
病原体を継代等の方法で 弱毒化して製造。 凍結乾燥してあり、溶解 して使用する。 |
自然感染に近い免疫 長期にわたる効果。 液性免疫も細胞免疫 獲得。通常1回接種。 |
もとの病原体で起 こる症状の可能性 がある。数日以上 の潜伏期後に発症 |
| 不活化ワクチン 例:日本脳炎、 百日咳、 インフルエンザ トキソイド 例:ジフテリア 破傷風 |
強毒病原体をフォルマリン等で 不活化して製造。 通常液状で、凍結せずに 保存。すべて注射。 病原体の産生する毒素を 不活化して製造。 通常液状、保存等は同上 |
2回以上の接種と、 数年毎の追加接種が 必要(効果は数年) 液性免疫が獲得でき る。 |
通常、2日以内に 発熱等の反応と、 それに伴う痙攣や 脳炎脳症の発現が 起こりうる。 数日以上を経ての 発症は極めて稀。 |

U.予防接種について
1.予防接種の考え方の変遷・・現行予防接種法の考え方の基本
予防接種は、対象とする感染症の世界的状況の変化と、稀ながら起こり得る副反応(健 康被害)に対する国民の意識を反映して、次のような改変を迫られた。
@予防接種対象疾患の変化:
重大伝染病の制圧により、予防接種の対象は、
a
)中止すれば再び流行の起きるおそれの大きい疾患 例:百日咳、ジフテリア、ポリオ、日本脳炎、結核
b
)昔はすべての子がかかっており、現在でも重症合併のある疾患 例:麻疹
c
)常時感染の機会のある疾患で、災害時の社会防衛上必要なもの 例:破傷風
d
)先天異常の原因となる疾患 例:風疹
に限定して定められた。提起接種は次の8種類(下線はWHOによるEPI対象疾患)
百日咳、ジフテリア、ポリオ、麻疹、風疹、日本脳炎、破傷風、BCG
この他にも有効なワクチンはあるが検討中。(いんふるえんざ、HIb、ムンプス等)
A集団防衛から個人防衛へ:
痘そう、ペスト、コレラなどの脅威が去ると、国という集団を防衛するための予防接種という意識が薄れ、自分自身のための個人防 衛でないと受け入れない時代となった。
B義務接種から勧奨接種へ:
法律による強制接種をやめ、必要な予防接種を国が勧め、国民はこれを受ける努力をする(努力義務)といういわゆる勧奨接種の 時代になった。
C救済制度の存続
:
個人防衛の時代となったが、救済制度は協力をする医師にとっても必須の制度。そこで予防接種を社会防衛(集団予防・流行阻 止)と考え、従来通りにこの制度存続した。
D医療関係者や保護者への情報の提供(インフォームドコンセント):
予防接種の副反応の症状や頻度の情報を収集するための報告システム(比較的重症例)、通常見られる程度の副反応のモニタリ ングシステムをつくった。
E集団接種から個別接種へ:
かかりつけの医師による課別接種がいわゆる事故予防にも有利であり、個人別のサービスも可能であるので、個別接種を原則と した。
F裁判所の判断に対応できる制度の運営:
予防接種健康被害の集団訴訟の高裁判決を踏まえた対応の体制を整えた。すなわち、予 診を尽くしたと認められる条件として、 視診に加え接種直前の検温と聴打診を必要とした。また禁忌という表現をやめ、インフォームドコンセント形式の予診票が用意され た。
G平成13年10月施行予定の予防接種法一部改正
従来の予防接種対象疾患を一類疾病として従来通り実施していくが、インフルエンザを 二類疾病として加え、高齢者を対象とす る。この場合個人の発病・重症化予防目的なので努力義務は課さない(健康被害救済は低水準とする)。
老人施設入所者の場合、予防接種を受けない場合を 1 とすると、予防接種により死亡の危険を0.2、入院の危険を0.4〜0.5、 発病の危険を0.6〜0.7 に下げられる。
2.予防接種を行う期間(定期の接種)
定期期間の接種は、救済制度が成り立つ期間としてなるべく長く設定し、小学校入学時 に未接種であることが分かった場合にも、接種してやれる余裕を考慮して、乳幼児期に行う予防接種の後ろの期限は90月としてある。しかし、接種が遅れないために、「標準的な接種時期」として勧めたい時期を示した。
摂取率確保のため、機会あるごとに接種状況のチェックを行い、未接種者に勧奨を行う。ツ反は発赤の長径9ミリ以下を陰性とする(疑陽性がなくなった)。わが国の結核の現 状から、小児期のツ反陽性は結核の感染を示すものではないとしてBCGの対象。
3.禁忌などについて
旧法では、本当の禁忌と単なる注意事項が混在していたので、これを区別した。
@予防接種を行ってはならないもの(省令)
明かな発熱を呈している者など、医師ならば誰でも接種を見合わせる項目だけ5項目に限った。妊婦に生ワクチンを不可とした実際に該当ワクチンでの被害はない。
A接種を行うに際し注意する要する者(通知)
基礎疾患や副反応を疑う症状を呈すたことのある者で、要は医師の判断にゆだねられた。
B病後、予防接種を実施できるまでの間隔規則の明記はないが、体力・免疫産生力・余病発病のおそれなどを考慮して判断する。細胞免疫力の低下する疾患(麻疹・1月くらい免疫力が低下)、二次性脳炎など合併症 のおそれがある疾患(麻疹、ムンプス、水痘等)な どが問題。麻疹後は1月あけるが、かぜ程度ならば治癒後1週間、やや問題のありそうな疾患では治癒後2週間程度がめど。
4.新法後の予防接種実施率
就学前の乳幼児に対する個別接種は比較的順調に行われているが、就学後の予防接種率 が低下している。とくに中学生での風疹 ワクチン接種率が、個別接種の地域で極めて低く、先天性風疹症候群の再発が心配。とくに学校における健康教育が必要。機会ある ごとに接種状況のチェックを。また、定期接種の年齢幅の拡大で、接種率の計算方法についてなお混乱がある。
5.予防接種の副反応調査
副反応を診察した医師からの報告を主とした「予防接種副反応報告書」による報告は毎年集計報告が出されるようになった。ワクチン 別に報告基準が定められている。
平成6年10月から11年3月までの4年半の間に報告された重症例は、
DPT+DT(接種数年間約583万):即時性全身反応47、脳炎・脳症5(内死亡1)
麻疹(112万):即時性全身反応172、脳炎脳症3
風疹(208万): 〃 101、脳炎脳症1
日本脳炎(420万): 〃 95、脳炎脳症13(内死亡2)
ポリオ(235万) :麻痺4(他に3日以内の麻痺報告例2)
BCG (257万) :全身性BCG感染症2、骨炎骨髄炎1
注:年間接種者数は平成9年度の接種概数
6.予防接種後に通常見られる程度の副反応調査(37.5度C以上の発熱率、平成9年)
通常見られる程度の軽い副反応(軽い発熱や局所の反応など)の頻度までを調べるためのモニタリング調査は、平成8年度からスタートした。
DPT1期(0歳、7日以内)5.6%、 DPT1期追加(1-2歳、7日以内)7.1%
DT2期(11-12歳、7日以内)1.4%、 麻疹(1歳、28日以内) 22.0%
風疹(1歳、28日以内) 11.7%、 風疹(中学生、28日以内) 1.6%
日本脳炎1期初回(3歳、28日以内)8.2%、ポリオ1回目(0歳、28日以内)13.0%
注:発熱は予防接種とは無関係の、他の原因の発熱を含んでいる。
7.予防接種対象疾患による被害状況
| 感染症 | 戦後最多患者数(死亡) | 平成9年(死亡) | 平成11年 |
| ポリオ 麻 疹 百日咳 ジフテリア 破傷風 日本脳炎 |
(S35) 5,606 ( 300) (S34) 75,417 (3300) (S25)122,796 (8400) (S29) 19,816 (1000) (S25 )1,915 ( 900) (S41) 2,301 (1500) |
0( 0) 899(18) 42 ( 2) 1( 0) 47(16) 6 ( 1) |
0 (5978) (2685) 1 68 5 |
8.ワクチンをめぐる最近の話題
1)ゼラチンを含有するワクチンによる副反応
ゼラチンによる即時型または遅延型アレルギー反応の発生が問題となっていたが、各メーカーが定期接種に用いている全ワクチンから従来のゼラチンを除去して解決した。
ワクチンの改良や添加物の除去の努力はなお進められている。
◎アナフィラキシー発生時の対応策
0.1%エピネフリン(ボスミン)は常備のこと。
0.01ng/kgを皮下注射(一回量:乳児0.1mlまで、学童0.3mlまで)、改善が見られなければ15-20分後に再注射。症状により救急車の手配。(小児科連絡協議会による)
2)ポリオの抗体保有率の問題
わが国のポリオ生ワクチンは2回接種なので、2型には問題ないが、1型と3型の抗体保有率が70から80%に止まり、とくに現在20歳過ぎの年代では1型の保有率が低い。希望者や途上国への旅行者には追加接種を勧める。ただし、ポリオは一つの型の抗体(とくに2型の抗体)を保有していれば、他の型の感染を受けても麻痺発症のリスクは低くなると考えられており、一度でも生ワクチンを飲ん でいれば2型の抗体はほぼ確実に持っているので、事実上麻痺発症の心配は少ない。
3)ポリオ根絶の可能性
WHOは、21世紀初頭を目途に世界からのポリオ根絶の計画を進めている。ポリオ生 ワクチンは流行の阻止には必須であるが、極めて稀に(200万接種対1程度)麻痺発症をみることのあるのは避けられないため、WHOでは野生株ポリオワクチンがなくなれ ば生ワクチンを中止し、根絶確認までの繋ぎに不活化ワクチンを使うことを考えている。
欧米の一部ではすでに実施中。わが国内では約20年にわたり野生株ポリオウイルスは 発見されていない。WHOの西太平洋地域 本部は2000年10月末に京都で地域内の野生株根絶の宣言を出したので、わが国も近年中に予防接種戦略を切り替える見通しが ある。このため、一部の抗体を持たない人がいても生ワクチンの大規模追加接種の必要はないと考えられる。
4)新型悪性インフルエンザワクチンとワクチンの話題
1997年香港で発生した新トリ型(H5)ウイルスはヒトからヒトへの伝染が否定され、一応落着した。しかし新型ウイルスが、トリ→ ブタ →ヒトと伝播して生ずることは定説となっており、近い将来の危険性を示唆している。新ウイルスは流行に備えてワクチン
製造用株が準備されている。現行ワクチンは従来からのA型(H1,3)とB型の混合ワクチンであり、昨冬の流行も同じ型のウイルス である。流行があると、乳幼児と高齢者が重症化(脳炎とウイルス性肺炎)しやすい。
インフルエンザウイルスが咽頭粘膜で増殖すると、血中に入る(ウイルス血症を起こす)ことなく発病する性質がある。増殖に伴っ て毒素的な因子が産生され発熱等をおこすらしい。このためインフルエンザは潜伏期間も1日程度と短い。一方、ワクチン接種 を すれば血中抗体は確実に産生されるが、その抗体が咽頭粘膜でのインフルエンザウイルスの増殖を阻止し、発病を予防できる効 果は60〜70%と考えられ、発病阻止効果は他のワクチンに比して十分ではない。しかし、血中抗体があればウイルスが脳に到達 したり、肺で増殖するのは阻止できるので、重症化は防止できる。予防接種を高齢者に勧める理由はここにある。予防接種法が改 正されれば、高齢者への公費支援による接種がしやすくなる。乳幼児については、なお検討が必要とされている。
万一、新型ウイルスが流行すれば、年齢に関わりなく予防接種が必要になるが、現在従来株なので、罹らないで済む人も多く、 また成人では予防接種も1回接種でかなりの効果が期待できる(追加免疫効果)
抗ウイルス剤のアマンタジンはA型にのみ有効だが、発病後早期に用いないと効果は期待できないし、薬剤耐性も生じやすい。 改良ワクチンとしては、ウイルスの型が変わっても有効な抗体を産生できるワクチンの開発や孵化鶏卵を用いないワクチン、局所 免疫を与え得る噴霧型のワクチン(不活化と生ワクチン)などが研究されている。
5)MR混合ワクチン
麻疹、風疹の両生ワクチンを製造している各メーカーが開発中。安税制に問題のない両ワクチンを混ぜるだけなので、近々実現。
6)インフルエンザb菌ワクチン(Haemophilus
b conjugate
vaccine、Hibワクチン)
インフルエンザb菌(Hib)の感染防御に関わる抗原はb菌の莢膜多糖体で、これを分離精製したワクチン。欧米でDPTと同時に広く 用いている。わが国での採用は検討中。
7)ロタウイルスワクチン
冬の下痢症ウイルスの生ワクチンの開発が進んでいたが、問題が生じ中断されている。
8)未来のワクチン
遺伝子操作によるワクチンなどが研究されている。経口の多価ワクチンが夢。
V.これからの感染症対策
(1)新興・再興感染症(病原体の逆襲) emergent・reemergent・infectious
disease
新しい病原体(新興感染症)や既知の病原体による新しい問題(再興感染症)に常に
対処できる商法と対応のシステムが必要になってきた。
新興・再興病原体の例(最近30年)
○アフリカ由来の新興感染症(最初の報告とウイルスの分類)
・マールブルク熱(1967・フィロウイルス科) ・ラッサ熱(1969・アレナウイルス)
・エボラ出血熱(1976・フィロウイルス科) ・エイズ(AIDS) (1981・レトロウイルス科
・急性出血性結膜炎(1969・エンテロウイルス70型、コクサキーA24変異株・ピコルナウイルス科)
○比較的最近に発見されたウイルス性感染症
・ウイルス性肝炎:経口→A(ピコルナウイルス科)、E(RNA)、
血液→B(ヘパドナウイルス科)、C(RNA)、D(デルタウイルス、RNA、HBVと共感染)
・腎症候性出血熱:最初はアムール川沿岸で発見(1930代)、その後韓国、中国、旧ソ連等で存在が知られ、わが国でも大阪で
発生(1960代)
最近肺炎が主症状の激症型が米国で発見(1993)(ハンタウイルス・ブニアウイルス科)
・手足口病:日本では1966年頃から流行、ピコルナウイルス科、コクサキーA16、エンテロ71ウイルス
・流行性嘔吐下痢症:ロタウイルス、SRV(ノーウォーク、カリシ、アストロ、1972〜)、アデノウイルスなど
・伝染性紅斑:ヒトパルボウイルスB19(DNA)によることが判明した。
○細菌、原虫等による新しいカテゴリーの感染症
・抗生剤耐性菌:MRSAメチシリン耐性黄色ブドウ球菌staphyiococcusは、深部感染を起こすと危険。院内感染防止が重要。有効と されたバンコマイシンの耐性腸球菌VREも出現。
・腸管出血性大腸菌O-157:Vero毒性を産生、疫痢様症状や溶血性尿毒症症候群
(HUS)を起こすことがある。米国のハンバーガーの事件(1982)で知られ、日本では1990年に浦和の幼稚園で集団感染(268名、 死亡2)。1996年に岡山、兵庫等デ大規模な流行による被害。以後感染症として対応することになった。給食の場合、食材、食 物を2週間にわたって冷凍保存する要。80度以上の加熱や塩素殺菌剤で死滅。
・レジオネラ菌:水中にいる細菌の一種。空調などで噴霧状に吸入されると重症の肺炎を起こすことがある。
・クリプトスポリジュウム :動物の持っているコクシジュウムの仲間の原虫。下痢を 起こす。健康人では自然治癒する。わが国 でも流行があった(1996、埼玉県越生町)。
塩素消毒が有効で、濾過が必要。
・プリオン :正常な中枢神経細胞中にはない異常な蛋白で、これが感染するとなると、従来の病原体の常識には合わない。羊の 伝染性脳症(クレイピー)、ニューギニアの一部原住民での脳疾患(クールー病)が知られていたが、牛の海綿状脳症(BSE、狂牛病)が 多発して欧州での問題となった。人の若年型クロイツフェルト・ヤコブ病との関係が疑われ、また脳外科で使用した保存脳硬膜 からの本症の発症が訴訟事件になっている。
○再興感染症の例としては、現在、第一に結核が挙げられる。
新結核患者数が近年増加に転じたことから、厚生省が緊急事態宣言を出した。病院内や学校での小集団発生も各地で報じら れている。長引く咳には注意を。
(2)感染症予防新法の制定
百年前に制定された「伝染予防法」が廃止され、「感染症の予防と感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症予防新法」)が平成11年4月から実施だれた。
新法は新興感染症や再興感染症などの最近の世界的な感染症の動向と世界の交通事情、さらには医療の進歩を踏まえたものである。また同時にライ予防法などによるいわれなき人権の侵害を反省する旨の前文がつけられており、新法では伝染病の用語を用いずに感染症で統一し、1類から4類までに分類し、治療や報告の基準を定めている。(表1)
この感染症予防新法の制定に連動して、文部省管轄の学校保健法の施行規則の「学校において予防すべき伝染病」(いわゆる学校伝染病)も平成11年4月から改正された。
学校で、すなわち小児の集団生活の場で流行を予防すべきものなのは、感染症のうち人から人にうつる伝染病なので、学校保健法では伝染病の用語を用い続けている。その内容は表2のごとくである。従来の分類を「類」から「種」に改めた。
第一種は感染症予防新法の一類と二類の感染症であり、これらは原則入院治療なので、出席停止の期間を退院可能になる「治癒するまで」とした。
第二種は従来からの学校伝染病の第二類を踏襲しているが、分類としては学校の場で流行しやすい飛沫感染をする感染症として整理し、結核を旧三類から移籍した。出席停止期間は従来の考え方を踏襲しており、咽頭等で病原体が増殖し、飛沫感染しやすい時期としている。糞便中に病原体が排泄される経口感染は、手洗いの励行などの注意で他人への伝染は予防できるので、第一種伝染病以外では出席停止期間に含めていない。
第三種の経口感染である三種感染症の出血性大腸菌感染症と従来からの眼の伝染病の2つとし、その他の伝染病も残した。その他の伝染病の病気の種類と出席停止期間は従来から現場で問題となっていたが、文部省が解説書をつくり、判断基準を示すこととした。 なお、乳幼児については、幼稚園だけでなく、保育所でもこの定めを準用する。
○ 出席停止と臨時休業
学校伝染病の出席停止の考え方として、患者本人の健康回復が第一であるが、規則上は流行の防止が目的である。このため出席停止期間は、病原体を多量に排泄していて、他人に容易に感染させやすい状態の期間が設定されている。こうした時期は、病気の悪化や合併症の予防のためにも安静と医療の必要があり、集団生活をする以上は、出席を遠慮するのが社会的なマナーだと考えたい。
第三種の「その他の伝染病」には多くの小児感染症が対象になりうるが、基本的には適正な治療が行われれば早期に感染力がなくなり、あるいわ診断のついた時点では既に伝染力がなくなっている疾患もあるので、主治医が合併症のおそれがなくなったと判断した時点で登校(園)可能である。従って通常は学校伝染病に指定する必要はないと考えられる。ただし症状の重いケースや欠席者も多く、子どもや家庭での不安感が強いなどの事情があれば、学校長(園長)が学校医(園医)と相談して、学校伝染病扱いをすればよい。
臨時休業は、出席停止と同じく伝染病予防の措置であるが、臨時に学校の全部または一部の授業を行わないことにする(学校閉鎖や学年・学級閉鎖)ものであって、伝染病の流行を防止するためより強力な措置である。いずれの場合にも保健所と連絡する。
臨時休業を行う基準については状況によるので一律には定められていないが、都道府県などの地域ごとに医師会と教育委員会が相談して方針を決めておくことが望ましい。
表1 感染症新法による疾患の分類
| 分類 | 疾患名 | 備考 |
| 1類感染 (5疾患) |
エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱 マールブルグ病、ラッサ熱、ペスト |
危険性が極めて高い。 原則入院。消毒等の対物措置。 |
| 2類感染症 (6疾患) |
コレラ、細菌性赤痢、腸チフス パラチフス、ジフテリア、急性灰白髄炎 |
総合的に見えて危険性が高い。 状況により入院。消毒等措置 |
| 3類感染症 | 腸管出血性大腸菌感染症 | 特定職種への就業制限、消毒 |
| 4類感染症 | 下記61疾患。情報把握のため届出制 | 発生状況の収集、分析、提供 |
| 全数把握疾患(33疾患) (すべての医師による届出) |
定点把握疾患(28疾患) (定点医療機関による届出) |
| アメーバ赤痢、エキノコックス病 黄熱、オウム病、回帰熱、 急性ウイルス性肝炎、Q熱 狂犬病、クリプトスポリジュウム病 クロイツフェルト・ヤコブ病 劇症型溶連菌感染症、 後天性免疫不全症候群(AIDS) コクシジオイデス症、ジアルジア症 腎症候性出血熱、髄膜炎菌性髄膜炎 先天性風疹症候群、炭疸 日本紅斑熱 日本脳炎、乳児ボツルヌス症、 梅毒、 破傷風、 バンコマイシン耐性腸球菌感染症 ハンラウイルス肺症候群、 Bウイルス病、ブルセラ病、 発疹チフス、 マラリア、 ライム病、 レジオネラ症 |
インフルエンザ(イ)、咽頭結膜熱(小) A群溶連菌咽頭炎(小)、感染症胃腸炎(小) 水痘(小)、 手足口病(小) 伝染症紅斑(小)、突発性発疹 百日咳(小)、 風疹(小) ヘルパンギーナ(小)、麻疹(成人麻疹除く)(小) 流行性耳下腺炎(小)、急性出血性結膜炎(小) 流行性角結膜炎(眼)、 性器クラミジア症(S) 性器ヘルペスウイルス感染症(S) 急性脳炎(日本脳炎を除く)(病) クラミジア肺炎(オウム病を除く)(病) 細菌性髄膜炎(病)、 成人麻疹(病) マイコプラズマ肺炎(病) 無菌性髄膜炎(病) ペニシリン耐性肺炎球菌感染症(病)(小) メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(病) 薬剤耐性緑膿菌感染症(病) (イ:インフルエンザ定点、小:小児科定点、 眼:眼科、S:STD、病:基幹病院定点) |
表2 学校において予防すべき伝染病
| 対象疾病(潜伏期間・日) | 出席停止の期間の基準 | |
| 第1種 | 感染症予防新法の一類、二類 の感染症11種類(表1参照) |
治癒するまで |
| 第2種 | インフルエンザ (1〜2 ) 百日咳 (6〜15) 麻疹 (10〜12) 流行性耳下腺炎 (14〜24) 風疹 (14〜21) 水痘 (11〜20) 咽頭結膜熱 (5〜6) 結核 |
解熱した後2日を経過するまで 特有の咳が消失するまで 解熱した後3日を経過するまで 耳下腺の腫脹が消失するまで 発疹が消失するまで すべての発疹が痂皮化するまで 主要症状が消退した後2日を経するまで 伝染のおそれがなくなるまで |
| 第3種 | 腸管出血性大腸菌感染症 (4〜8) 流行性角結膜炎 (1週〜) 急性出血性結膜炎 (1〜2) その他の伝染病* |
伝染のおそれがなくなるまで 〃 〃 〃 |
*その他の伝染病として文部省が「学校において予防すべき伝染病の解説」の中で例示しているのは以下の疾患である。
○条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる伝染病の例:
溶連菌感染症(潜伏期間1〜7日・主として飛沫感染)適切な抗生剤治療が行われれば24時間以内に他人への伝染力はなくなる。
ウイルス性肝炎(A型肝炎4〜7週・経口感染)学校での場で気をつけるのはA型肝炎。
手足口病(2〜7日・主として飛沫感染)脳症死亡例の報告もあったが、発病当初から高熱等重症感が強いので医療を受けていれば分かる。一般には軽い夏かぜ。
伝染性紅斑(17〜18日・主として飛沫感染)発疹発現時にはほとんど感染力なし。
ヘルパンギーナ(2〜7日・主として飛沫感染)しつこい咳のかぜ。抗生剤が有効。
流行性嘔吐下痢症(1〜3日・主として経口感染だが飛沫感染も)オタウイルス、SRSV、アデノウイルスなどによる。下痢・嘔吐がおさまり状態よければ登校可能。
○通常出席停止の措置は必要ないと考えられる伝染病の例:
アタマジラミ
水いぼ(伝染性軟疣(属)腫)
伝染性膿痂疹(とびひ)
掲載の許可をいただいた平山先生に深謝いたします。パソコン同好会