「いやー、飲んだ飲んだ」
「全くね。今日は神社に戻りたくないわ。後片づけ考えたら頭が痛くなるし」

夕暮れの人里。メインストリートをフラフラと歩く酔いどれ2人。
珍しく装飾の多い正装(この日の為に隙間妖怪に贈られた)姿の霊夢。
何時も通りの白黒(新品を着てきた辺りはおめかしのつもりか)姿の魔理沙。

2人はついさっきまで行われていた博麗神社での婚儀に参加していたのだ。
婚儀の終了と共に止んだ天気雨と大きな虹は、メインストリートのあちこちに小さな水溜まりを残すのみ。

「しっかし、あの藍が恋愛結婚ねぇ。しかも外来人と」
「なんでも転生前の彼に恋して、ずっと待ってて転生して着たからこっち側に引き込んだそうよ」

子を嫁に出す親馬鹿そのもの勢いでカラミ酒して来た紫から、霊夢は事の仔細を聞き出していた。

「はは、あのお堅いイメージからして信じられないなぁ。はあ、しかし結婚かぁ」
「何よ、溜息なんかついて」
「あー、いや。柄にでもないが、藍が綺麗だったなーって思っただけさ」
「……まぁね」

彼女らの知る八雲藍は、万事に置いて主人を立て控えめな存在であった。
しかし、あの婚儀では、その華麗な花嫁衣装と主張する様な化粧によりまさに太陽神の如く輝いていた。
となりの新郎がゲッソリ窶れて(婚前交渉で毎晩搾り取られてた所為らしい)居たのと対照的であった。
今頃2人は新居が増築された八雲邸へと移動し、新婚初夜を迎える頃合いだろう。

「私も花嫁になったらあーなるのかって事。そんだけさ」
「……ふーん」

急に場が重くなり、2人は無口になった。
無言で歩きながらも、牽制する様に互いを見やる。

「ところで霊夢、今からどこに行くつもりなんだ」
「あら魔理沙。あなたこそどこに行くつもりなのかしら?」

2人の足取りが、やや速くなる。
行き先は全く同じな為か、足取りは同じ。

「ところで、その手に持っている婚礼パンフレットと、文文。新聞の婚礼号外はなんだ?」
「あら、私はお式を取り仕切った斎主と典儀よ、持っていておかしい所があるのかしら?」
「ほうほう、なるほどねぇ……」
「そちらこそ、随分熱心そうに抱えてるじゃない?」

不穏な雰囲気を湛えながら、2人はメインストリートの端にある喫茶店へと到着した。
ここは幻想郷では珍しい西洋食品を扱う店舗が兼業している喫茶店で、唯一西洋料理や珈琲などを味わえる飲食店だった。
最近になって外で飲食店に勤めていた外来人が入ってきて、味と接客に磨きがかかったそうだ。

「私が先に入るわ」「いいや、私が先に入るんだ」

同時に扉を開こうし、激しく牽制しあう2人。
霊夢も魔理沙も、最近になってこの喫茶店の常連となっている。
主に外来人の店員と話していたりする光景がよく目撃されるそうだ。

「……どうやら、魔理沙とは少しオハナシする必要があるみたいね。主に弾幕的な意味合いで」
「おー、奇遇だぜ。私もそろそろマスタースパークな気分だったんだ。酔い覚ましには良い具合だと思うぜ?」

お互いがニヤリと殺気混じりの笑顔を浮かべ、飛び上がろうとした所。

「あ、○○……?」
「え、○○……?」

飛び上がろうとした瞬間、2人は店内を見た。見てしまった。
そこでは、何やら自分が発行した号外を手にカウンターに居る○○と語らう射命丸文の姿があった。
同意の上、少しだけドアを開いてみる。

「だから、とても藍さんは綺麗だったですよぉー。私も早く自分の婚礼を号外にしたですねー」
「文さんだったら良くお似合いになるかも知れませんね。文さん美人だし」
「あややややややややや、○○さんに言われると凄く照れますね。いっそ、私の事貰ってくれませんか?」
「あははは、ご冗談を」
「ふははは、こやつめ」

そして、僅かな気配を感じたのか。○○に知られない挙動で文が2人の方をチラリと見る。

「フッ」

先を越した余裕の為か、鼻で笑われた。
文は直ぐに興味を無くしたかのように、熱心に○○へ結婚の素晴らしさを説き始めた。
これぞ、先駆者の余裕なのか。そーなのかー?

「霊夢?」「なぁに、魔理沙」

霊夢と魔理沙はそっとドアを閉め、顔を合わせる。
2人とも、ダンスを踊るゴンドールの大将の如き爽快極まる笑顔だった。
2人は異口同音に、同じ結論を同時に出した。


―――取り敢えず、あのパパラッチ先に殺っとくか。


最近になって、勤めていた喫茶店を辞めました。
少々トラブルが重なり、店主を始めとする人達にご迷惑を掛けてしまったからです。

さて、無職になってしまいました。どうしましょうかね。
蓄えはそれなりにありますが、性分の所為か職が無いとどうにも落ち着きません。
外来人が多く住んでいる長屋の一室でウンウン悩みます。
最近は空き部屋が多くなったので、黙考していると静けさが目立ちますね……いや、最近幼妻を迎えたリーダーは別ですが。
そうだ、リーダーに相談しましょう。今夜はまだお励みの様なので朝にでも。

「そりゃ、簡単だな。龍神様の広場に行って見ればいい。日雇いから長期採用まで張り紙の広告板があるから」

翌朝、幼妻を抱っこしつつ縁側でぼんやりしてたリーダーからアドバイスを貰いました。
善は急げとばかりに龍神像の広場へと向かいます。良いお仕事は誰からも欲しがられますからね。
途中で猫車を押して走っていく妖怪猫と擦れ違いました。
何故か里の側に出来たお寺で見かけた鼠の親分さんが、お尻から血を出して猫車に載せられてましたね。

他にも小鬼さんにお酒を強請られたり、傘のお化けに脅かされましたがまぁ何事も無く到着。
広場は朝早くだけあって、納豆売りや小さな朝市で農家の人達が野菜を売っています。
さて、看板は……こっちですか。
………………広告は三つだけですね。
紙の状態からしてついさっき張られたみたいに新しいなぁ。どれどれ。


『幻想郷の安定を守る大切なお仕事です』

楽園の素敵な巫女さんのお世話が出来る素晴らしいお仕事です。
今日も幻想郷の安定と治安を守る巫女さんのお手伝いをしてみませんか?
仕事内容は神社の清掃、境内と住居の管理、洗濯と食事作り、マッサージと夜伽となります。

勤務地:博麗神社
募集要員:一名(○○さん限定) 給金:お賽銭が入ったら 拘束期間:無期限
その他:住み込み要、食事支給、そのまま永久就職も可、今なら永久就職時の婚儀など現地で全て行えます。


『店番、家の管理者募集中!』

霧雨魔法店で、魔法使いのお手伝いをしてみませんか?
快活溌剌な魔法使いが、丁寧かつ親身に指導してくれます。
多方面から貸与された資料やアイテムの管理、雇用者が不在中の店番が主なお仕事です。
勤勉な研究生活に疲れた雇用者をあらゆる手段を持って慰め、癒すのもお仕事の内となります。

勤務地:魔法の森 霧雨魔法店
募集要員:一名(○○限定) 給金:貸与されたアイテムまたは資料、または茸 拘束期間:死ぬまで
その他:住み込み要、食事支給、茸支給、私の暇な時間支給、香霖堂での買い物が何と90%OFF!(実は無許可)。


『文々。新聞の編集部員募集中!』

清く正しく事実のみを求める文々。新聞の作製に携わって見ませんか?
アシスタントから取材内容の編集とタイピング、雇用者の肩もみから夜のストレス解消まで多岐に渡ります。
仕事数は多いですが、雇用者が多大なる熱情を持って指導致しますのでご安心を!
尚、雇用が決定された場合何と自分が就職できた事を当新聞の号外にて幻想郷中に告知出来る権利が持てます!

勤務地:妖怪の山 文々。新聞編集部
募集要員:一名(○○さん限定) 給金:月給制 拘束期間:廃刊まで
その他:住み込み要(入山管理が厳しい為里からの通勤不可)、食事支給、将棋相手支給、文々。新聞無期限無料購読。


…………僕の背中を、冷たい汗が流れ落ちた。
どれ選んでも「14へ進め」という天の声が聞こえるのは僕の気のせいだろうか?


あー、弱りましたねぇ。
いやはや、喫茶店退職してから一ヶ月経ちましたがなかなか仕事が決まりません。
迂闊に里での仕事を選べば仕事先に迷惑を掛ける気がしますし、人外の方々も同じです。
長屋の裏は荒れ地ですし、何か耕してみますかね……。

暇ですんで、取り敢えず肥料穴を掘って見る事にしました。あのプラスチックの覆いに生ゴミや腐葉土を積み重ねて作るアレです。
ちゃんと井戸の付近から大きく距離を取ってと。さて、サクサク掘ってみますか。

翌日、穴を覆ってた茣蓙を開けた所、行方不明になっていた雑貨屋の店番君が居ました。
何だか譫言のように「飽きたよ、桃は飽きたよ〜」と言っているので朝食の残りで作った握り飯を与えて見ます。
何とか落ち着いた彼が言うには、地震があって、気が付いたら何故か知り合いの女の子の部屋に居た。
ポルナレフ化している間に自分を天人にジョブチェンジさせる話が持ち上がっていて、使いの人を上手く言いくるめて地上まで逃げて来たと。
半泣きの顔付きで「アイツが落ち着くまで、匿ってくれよ」と泣きつかれました。困りましたね。
リーダーは幼妻との冬眠への備えで忙しいみたいですし、ここは独力で何とかするしかありません。
穴を更に拡張させ、横穴を掘って支柱を入れて防空壕っぽくしてみました。
後は上に擬装の藁を被せて……と。これで暫くは誤魔化せるんじゃないですか?
彼は「ありがとう、桃は暫く勘弁、キャーイクサーン」と訳の解らない事を言ってました。
ふと、頭上を見上げると緋色の雲の塊が遠離ったり近付いたりを繰り返してました。
はて、前にもこんな事があったような?

翌朝、目覚ましの代わりに腹に響くような音と震動が響きました。
慌てて外に出ます。ああ、リーダー、合体中の外出は拙いですよ。

裏庭に回ると、擬装の藁がちらばっていて穴の上に、何故か大きな要石が浮いてるじゃないですか。
おまけに偶に里で食べ歩きしている天人が岩の上に乗り、お付きの人が気絶した○○をまるでCIAに捕まったグレイのように捕獲しています。
要石はフヨフヨ空中に浮き上がると、そのまま天界に向かって飛び去ってしまいました。

…………あらら、折角今日から本格的に穴を拡張しようと思っていたのに。
しかし、私以外にも女難の人は意外に多いようですね。
今回は見つかってしまいましたが、エスケープポイントを作って其所を販売してみるのも悪くないかもしれません。
今後の商売のネタを練りつつ、私は家に戻ろうとしましたが途中で脚を止めました。
「今日こそ私の神社に○○を永住させるんだから!」
「いやいや、私の家に住むべきなんだよアイツは!」
「お二人とも、あの人は我が編集部に必要な人材なんですっ!」
……どうやら、痺れを切らした三人が我が家に詰めかけてきたようです。
下手したら、その場で弾幕決戦を行い勝者に拉致されそうな勢いですね。

私は回れ右をして穴の所に戻り、素早く藁と茣蓙をかき集めて穴の中に入り、擬装用の茣蓙を穴の上に被せました。
……まずは、自分の安全な住処を確保、ですかね?

長屋の下に穴を掘って一ヶ月の○○です。
地下暮らしも悪くないと思えてきました。
三人は未だに自分の事を探していますが、意外に見つからないものですねこれ。
坑道をせっせと掘り進むこと21日目でしょうか。鍾乳洞へと抜けました。
中は湿度も高くなく、蟲とかもいません。それに何より興味深い。
私は奥を目指して歩いてみる事にしました。

……好奇心、猫を殺すです。
鍾乳洞を歩くこと数日、地底に巨大な橋が架かっている場所にたどり着きました。
そこまでは良かったんですが、番人に捕まってしまいました。

「巫女と白黒と天狗に想われている貴方が妬ましい」

それが僕を監禁している理由らしいです。
毎日僕の事をねたむか、何かと甲斐甲斐しく世話をしては「監禁されてる癖に世話をされて快適。凄く妬ましい」等と言われてます。
いい加減解放して欲しいと懇願して見ましたけど、今日も僕の上に乗って腰を使う番人ことパルスィにとっては関係ないそうで。
情夫扱いをされているのはどうしてか聞いてみると、三人もの女に妬まれたらさぞ快感だろうと病んだ顔で返事されました。
……いや、もし三人にこの事がばれたら橋もパルスィも消滅させられ、僕もただじゃ済まないと思うんですが。

と、言うわけで脱出です。
山の上の巫女さんが地底に降りてきて、その対応にパルスィが出かけている内に何とか縄を切って家から逃げ出しました。
カチカチに乾いたおむすびって縄を切れるんですね。驚きました。

坑道を逆走していくと、三つの影が現れました。
良い具合に痴話喧嘩後の霊夢さんと魔理沙さんと文さんですね。
いや、一ヶ月以上遭ってない為か、凄い形相というか何というか。

「「「○○(さん)」」」
「はひぃぃぃ」

裏返った声で返事をする僕に、三人は軽く鼻を鳴らした後、笑顔でこう言ったんです。

「誰、その匂いの元は?」
「匂うなぁ、○○から泥棒猫の匂いがするぜ」
「別の女の匂いがしますけど……誰ですか?」

かちこちに凍った僕を、後ろから誰かが抱き締める。
彼女は三人に向かって挑発的に微笑むと、僕の耳朶を軽く噛んでこういった。

「ああ、素晴らしいわ。こんなにも病んだ妬みが、歪んだ嫉みが私を覆い尽くすだなんて」

いや、そんな喜んでいる場合じゃ、あ、霊夢さん、その陰陽玉、魔理沙さ、臨界寸前の八卦炉を引っ込め、や、文さんなんで本気モードに、


その日、1つの鍾乳洞が完全に陥没したそうである。


此処は妖怪の山にある里。
射命丸文の自宅及び編集部では……。

「んふふふ、これで良しと」

追加した1つの机。その裏側にお札を貼った文は怪しい笑みを浮かべた。
テングは様々な術を操る事が出来る。
風と大気を操作するのが得意な文も1000年を生きる天狗だ。
この手の細工はお手のものである。
彼が就職しに来た場合、彼が使用するモノには札やらまじないを仕込んでおいた。

少しずつ、少しずつ文に無意識な状態で文に意識が行く精神誘導。
2人もライバルが居る以上手段は選ばない。

「しかし、もう少し早く準備を終えられる筈だったですけどね……全くもぅ……」

彼女が良く配下として使っている白狼天狗は、現在休職中だった。
理由が理由で。里の外来人と出来ちゃった婚をしたのだ。
この間様子を見に行ったら少しお腹が膨らんでいた。

「くぅぅぅ、部下に先をこされてしまっては編集長の威厳に関わる、何としても既成事実を作らないとっ」

文は腹部をさすった。近い将来、彼の子を宿すべき場所を。


「へへ、良い具合に出来て来たぜ」

彼女は自宅の地下室の建築に余念が無かった。
ここは彼が就職しにきたら、彼が住む部屋となる。
しかし仕掛けがしてあり、床下には大きな魔法陣がある。
陣を仕掛けた術者に無意識になびくという、精神誘導の陣だ。
加えて焚き込める予定である粉末茸にはムラムラっとなる効果。

「ふっふっふっ、あいつが来たら霊夢や天狗がちょっかい掛けて来る前に一気に勝負を決めてやる」

どうやら彼女は、一気に勝負を決めるつもりの様だ。

「最後に勝つのはこの魔理沙様だっての……と、次は隠し通路だな」

自室から直通の隠し通路を造り出す等の準備に取りかかる魔理沙であった。





「……おお、何か背筋が寒くなりました。風邪でもひいたんですかねぇ」

その頃、彼女らの思い人は地底世界に向かっての穴掘り作業に余念が無かった。


彼女としても負けて居られない。
自宅の神社を改造、○○を迎え入れる準備を進めていた。

自室を倍の大きさに、布団も倍の大きさに。
彼が優柔不断な事も知っているので、神社全体に○○専用の結界を張っておいた。

この中に入るとあら不思議、数日でレイムダイスキダヨモウハナレナイな気持ちになるのだ。

「ふふふ、早く来て○○。もう、絶対に逃がさないわ」


パルスィに○○が捕獲され、彼の純潔が散らされた翌日の事だった。


崩壊した鍾乳洞と、倒壊した橋の下。
良い具合にローストな○○とエルフ耳が半分に縮んだだけで無傷なパルスィがいた。
遠くで凄まじい三種類の弾幕が見える。どうやらまだ戦っているようだ。

「どうしてあんな事を」と○○は言った。
パルスィは○○の手を掴み、自分のお腹を撫でさせながら言った。
「何故嫉妬する。そこに○○が居たからよ」
○○の目から涙がこぼれた。彼女は○○への気持ち故に嫉妬し、嫉妬させたのだ。
愛故に女は病まねばならない。嫉妬するが故に女は病まねばならない。
こんなに苦しいのならば……病んだ愛など要らぬと○○は思った。
「でも、これで地上に戻れなくなっちゃったじゃないですかコノヤロウ」
パルスィの両耳を掴む○○。軽く引っ張ったら元の長さに戻った。
「戻ろうと思うその考えが妬ましい。このまま私と地下に住めばいいじゃない。あ、それと責任取らないと妬むわよ」
「責任……だと?」
「あんだけ注いでおいてセーフだと思うその思考が妬ましいわ」

○○は走った、地下の旧都へ。
自由と、職と、安全と、未来を求めて!


この隠れ家の生活がついに1ヶ月を過ぎた。
結構前に色々な事があり、塞ぎ込んでいたが、今は何とか生活出来ている。


そんな訳で、家の前を掃除している訳だがいつまでも此処に留まってる訳にはいかない、
早く外界に戻り、彼女から逃れなければ。


「○○」



そんな事を思っていたその時、後ろから声がした

この声は…紛れも無い彼女の声だ……


そう思い、恐る恐る後ろを向けば、そこには―――




2.銀色で長髪の火を纏った少女が居た


数ヶ月前…自分がちょうどこの幻想郷へと来た。
そして、自分が訳も分からず迷いの竹林を彷徨ってる時、
その少女と会った。

その少女は一見すれば只の可愛い女の子だが、
持ってる能力が不老不死で火を操るという、常人とは掛け離れた存在だった。

と、言っても最初は普通に接していた、だが、しばらく経った頃からおかしくなってきたのだ。


最初の方は少女、妹紅の家に同居し、超普通に生活を送っていた。
本当に良くも悪くも無い、超普通だった。

しかし、しばらく経つと何か様子が完全におかしくなっていた。

最初の方は自分を見掛けると、すぐに背を向けたり、自分の前からすぐ立ち去ってしまう。

嫌われているのではないかと思い、竹林から遠く離れたとある向日葵畑の管理人に相談しに行ったものの、
自分の話を聞くと何故かニヤニヤしていてちゃんと相談には乗ってくれなかった。
にしても、あの時感じた異常なまでの視線は一体なんだったのだろうか。

そして、その日家へと帰ると、妹紅が青ざめた顔で、
「○…る…が…他…女…」など、よく分からない事を呟いていた。

んで、自分が居ることに気づくと、今にも泣きそうな顔で、

「○…○、私の事は好きか…?」

と、聞いてきた。勿論好きと答えたが…


「そうだよな…○○は好きでいてくれるよな!
 もう勝手に変わったりはしないよな!
 私以外見たりしないよな!

 これ以上…私にこんな気持ちにさせないよな?」


と、これまた早口で言ってきた。おかしい、何かがおかしかった。
そして、




「破ったら○○じゃない、偽の○○だ そんな偽物 私が燃やす からな?」






・・・・ダメだ…どうしてこうなった…

おかしい、妹紅は完全に狂っていた


完全にヤバイと自分の勘が察知すると、翌日から俺はある事を始めた。
この世界からの脱出と、万が一に備え、隠れ家の用意などだ。

そして、脱出の準備が順調に進んでいたある日の事、

「あのー妹紅さんー居ませんかー?」

この声は、近くの診療所で働いている兎の声だ、
何か用があって来たのだろう。

すぐに家の外に出て、妹紅は外出中だと伝えに行こうとした、その時、

「……くな…」

「えっ…?」


「○…に…づくな…」


「妹紅さん…?」




「○○に!近づくなぁぁぁ!!」



その時、目の前に居た兎が、灰と化した

何が起きたか すぐに分かった


「○○…○○…○○……何処行った…?○○…?」


俺は即座に妹紅から逃げた。

あそこに留まっていたら、あの兎の様になってしまうと思ったからだ。




で、現在に至る訳だが、気が付けば、自分の周りが火の海となっていた。熱い。
自分の体が炎に蝕まれ、自分の意識も消え始めていた。

そして、意識が途切れる直前に見えたもの、それは――



「この 偽物」



彼女の泣き顔だった。


その日、鍾乳洞での闘いで負傷し地上へ戻った彼女達の元に、一通の手紙が届いた。


『私達、結婚しました♪
    水橋パルスィ 水橋○○
           ね、妬ましいでしょ?』


燃え上がる病みの波動が三つ、それを見た紫が一言。
「再度侵攻は時間の問題ね……はぁ」
藍が産休中なので、あまりトラブルを起こして欲しくないなぁと紫は思った。

そして、そんな嫌がらせをしたパルパルはと言うと、

「私(達)を放って旧都に逃げ込むなんて、その無責任感がこの上なく妬ましいわ!」

ぢつの所、結婚どころか○○を確保すら出来ていなかった。
番人の役目と橋の復旧をすっかり放棄し、○○を捕獲すべく旧都へと乗り込んでいた。

そして○○はと言うと……。

「この町なら、何とか潜伏出来るでしょう。はぁ……何だかどんどん深みにはまっているような」

町はずれのあばら屋に潜伏していた。

「取り敢えず、食い扶持稼がないと……パルスィに手持ちの金子取り上げられましたしねぇ」

○○は翌日旧都の広場にある求人広告板の様子を見に行く事にした。


廃屋での寒々しい一夜を○○は過ごした。
旧都は連日連夜どんちゃん騒ぎだが、とてもじゃないが参加する気にはなれない。

「迂闊に出歩いて、彼女達に見つかったら事ですからねー」

特に最近増えた1人は、この地底世界を良く知っている。尚更油断出来ない。

「ああ、寒いなぁ……侘びしいですねぇ」

先々月まで喫茶店と長屋で順調に生活してきたのが夢のようだ。
恋するあまり、愛するあまり病んでしまった少女達は、まさに悪夢のようだった。

「寒い……明日も早いですし、早く寝よう」

ふと、素肌のパルスィは温かかった事を思い出した。


翌日、○○は変装の頭巾を被り、魑魅魍魎が日常を営んでいる広場へとやって来た。
檜で出来た看板の前にたつと……。

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とても暑くて熱いお仕事です。貴方もメルトでフュージョンなお仕事を体感して見ませんか?
仕事場:灼熱地獄
仕事内容:灼熱地獄での死体運搬補助、並びに火力維持作業の補助。
給金その他待遇:さとり様に相談して。※耐熱装備は支給
通勤及び住み込み:さとり様に相談して。
備考:相方が鳥頭なんで、不意に攻撃されるかもしれないけどその辺は自己責任で。

求人募集中
毎日宴会やってる所為か人手が足りなくなったんで、誰か手伝う奴居ないかい?
仕事場:私が宴会を開く場所
仕事内容:宴会相手招集、調理補助、接客等
給金その他待遇:応相談
通勤及び住み込み:応相談(取り敢えず空き家貸してやるよ)
備考:下戸はお断り。酒豪で私の相手が勤まる奴は大歓迎!

求人募集中
ペットが増えすぎた為、管理体制を強化したいと思います。なのでペットの世話が出来る人を募集します。
仕事場:地霊殿
仕事内容:妖怪ペットの世話、食事作り、地霊殿の掃除
給金その他待遇:応相談
通勤及び住み込み:応相談(取り敢えず一室であればお貸しします)
備考:中には本能が強い妖怪も居ます。自衛が出来る方を歓迎します。


就職の面接の為、地霊殿へと向かう僕は、ふと、有ることを思いだした。

「……そう言えば、地上は今頃七夕ですねぇ」
「……寝物語にそんな話題を振る貴方が妬ましいわ」

僕に寄り添って、パルスィはそんな事をブツブツ言います。
彼女は何時だって嫉妬している難儀な女性です。普通にしていれば美人なのに。

「で、何か七夕に嫌な思い出でも?」
「大昔、こちら側に来る前だけど彦星と織り姫の逢瀬を一度ぶち壊した事があるのよ」

何でも、かささぎが橋を架ける手配を直前になって忘れ、トチ狂ったのか丁度目に付いた彼女の橋を彼女毎天の河に架けてしまったのだ。

嫉妬深い水神が潜む橋の上で出会う夫婦……。
何も起こらない筈もなく、どこからともなくテーレッテーが鳴り響き、

「寄りによって私の橋をこんな逢瀬に使うだなんて、私の前で見せつけるだなんて、妬ましいわ妬ましいわ妬ましいわあっー妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬妬x∞」

怒り狂ったパルスィによってかささぎと彦星と織り姫とついでに牛も天の河に投げ込まれたという。
花嫁が行方不明になるというジンクスがある橋の上でそんな真似をした自業自得であるかどうかは微妙であったが……。


「……意外に凄い事やってるんですねぇ」
「まぁね、お陰で天界に睨まれてこんな僻地に隠れる羽目になったんだけど」

パルスィの体温を感じながら、彼女の嫉妬深さを改めて再確認した。

「ところで、僕達も一度距離を置いてお互いの関係を考える機会を(ry」
「必要ないわ。天帝のような邪魔者も居ないし」
(……居るんだけどね。本気を出したらもっと怖そうなのが)


結果、数日後に大騒ぎの上脱出する事になったんですよねぇ……。
ぼんやりと歩いてた僕の前に、大きな館が出現した。ここが地霊殿か。
就職、出来るんですかねぇ?


アリスは悩んでいた。
最近、彼女は人里に住んでいる外来人○○を好きで好きでしょうがなくなった。
初恋である。まさに恋に恋する生娘である。

「でもねぇ……どうしたらいいんだろ」

人形劇を見に来てくれた彼とどうやってうち解けたら良いだろうか。
異性とのお付き合いの仕方なんて手の握り方すらも知らないアリス。
彼女は暫く悩んだ後、知り合いに聞く事にした……。


壱:霊夢と魔理沙に尋ねる。


「……どっちも居なかったじゃないの」

魔法の森に行って魔理沙の家を訪ねたが、誰も居なかった。
何らかの工事の途中らしく、地下の部屋には新品の家具と何故か魅了の魔法陣が敷かれていた。

博麗神社の方も霊夢は居なかった。
こっちも何故か寝室が増築されており、魔理沙の部屋と似たような術式が仕掛けてあった。

「何やってるのかしらあの2人は……全くもう」

最近、あの2人が初恋状態になっているのは知っていた。
だからこそ、恋の先輩である2人に学んでみようかと思ったのに。

「もういいわ。別の人に聞いてみようかしら」

溜息を吐いた彼女は、当てになりそうな場所へと飛んでいった……。


「くそっ……旧都で目撃はされなかったか」
「断定とは言えないわ、人間が這入り込んだかはもう少し念入りに調べないと」
「それでも見つからなかったら?」
「地霊殿ね……さとりが匿っていたら引き摺り出すまでだわ」

2人が地霊殿に向かうのは、そう遠くはないだろう。




丁度その頃、某パパラッチは大天狗に地下侵入の件で許可を申請中だったという。



更に、


「妬ましいわ○○、私(達)との責任も取らずに逃げ出すなんて今生で一番に感じた妬ましさだわ……」

彼女はそろそろ、地霊殿へ捜索範囲を広げる事を検討していた……。


弐:最近結婚した藍


「ふむ……成る程、私の体験談を知りたいと」
「ええ、あなたは恋愛結婚をしたのでしょ? だから、如何に成就させたのかを教えて欲しいの」

マヨヒガの縁側、だいぶ大きくなってきたお腹を労るようにさすりながら藍は微笑んだ。

「……そうだな。私も奴を夫にするまで随分と恋い焦がれたものだ。同じ心境に到った同士だ。幾つか助言をしよう」

藍は語った。
自分の夫との馴れ初め、千年を越える妄執じみた雌伏の時。

「自分にとっての最大のチャンスを決して逃さぬ事だ。私は○○との魂を同化させるのに手間取り、千年以上独り寝をしなくてはならなくなった」

アリスは、藍の○○に対する愛情の執着の凄まじさに驚嘆した。

「まぁ、こういう形で夫婦となり、愛と絆を深めるのも悪くないがな」

茶を出して来た夫の側に寄り添い、幸せそうに微笑む藍。
妻に搾り取られなくなった所為か、幾分精気を取り戻した夫が慌てて彼女を支える。

「よいかなアリス殿、狙った男は、決して逃がさず、機会を得、捕獲する事だ。
意中の男を、決して我が手から逃してはならない」

藍の言葉は、アリスの中に深々と染みこんでいった。

「アリス殿、自分の中にある感情を否定せずともよいのだ。恋に狂えばいい、愛に溺れればいい」

悦に浸ったように語り続ける藍。
尻尾が大きく膨らんで凄い妖気を発散させている辺り、かつての本性を絶頂大公開しているようだ。

「妖は人を捕らえるもの、妖は人を我がモノとするもの、人で有らざる存在ならば!! 愛した男を手中から逃すな!! ……あたっ」

遂に立ち上がって吼え始めた藍の額がペチリと叩かれた。

「藍、身重なんだから妖気を解放したり激したら駄目だぞ」
「あーう、ごめんなさい……」

旦那さんの静かな叱責で、辺りに満ちた妖気は霧散し、膨らんだ尻尾も一気に萎びた。

「今日はもう休みなさい。アリスさん、本日はこの辺で……」
「あ、ええ、解ったわ。この辺でお暇するわね……」

こうして、藍の恋愛講座は唐突、中途半端に終わった。
しかし、

「そう、妖怪と人間の愛って言うのはそう言うものなのね……覚えておかなきゃ」

確実に


「こ、こいしちゃん、ど、どうして……」
「ふふふふ」

先程までのんびりとした寛ぎの空間だった茶の間は、いまや一変していた。
数日前に求人に来て、そのまま採用され居着いた地上の人間である○○。
この館の当主の妹、古明地こいしだ。
○○の足下には、先程まで飲んでた御茶と御茶が入っていた湯飲みが転がっている。

「大丈夫だよ○○、単なる痺れ薬だから。数時間動けなくなるだけだよ」
「いや、だから、なんでこんな事をしたのかと……」
「決まってるわ。○○と私が幸せになる為よ」

こいしが言っている言葉は、○○には理解出来なかった。
彼女は○○を雇ったこの屋敷の当主、古明地さとりの妹で雇用者の身内。
音もなく出現しては、自分の仕事をじっと観察したり、静かな口調であれこれ質問してくる変わった女の子だった。
○○は仕事中にも出現する彼女に対しても丁寧に対応した。
その為か、彼女は○○に良く懐いた。
それを見たさとりや地獄鴉や地獄猫が驚いた位だ。
「驚きました。心を閉ざしたあの子が人間にあれ程懐くなんて」
昔、人間絡みの辛く記憶があり、心を閉ざしたと説明された○○は、不憫な子と思い尚更世話を焼き優しく接した。


……思えば、それが悪かったのかもしれない。

彼女の中に押さえ込まれた人間に対する感情。
正と負の入り交じったものが、無意識に生き続けた少女の中を満たしていったのかもしれない。

出会って僅か数日の人間に対し、こいしは驚嘆する程の感情を向けていた。
恐らくは、あまり向けられても嬉しくない、歪んだ感情を。

「あのね○○、私、○○を独占する為に隠れ家を見つけたの。白くて綺麗なとても静かな家。私と○○だけの家だよ」
「だけど、隠れ家に行くには、○○の気持ちが不安定なの。○○はいろんなものを見過ぎててるから」
「え、こいしちゃん、僕の……心、見たのですか?」
「うん……少しだけ」

他者の心を覗くことを恐れて心眼を閉ざした少女が、自分の心を覗いていた事に驚愕する○○。
だが、こいしは虚ろな目で呟くように続ける。
まるで、心を読んでしまったが為に、心を病ませてしまったかの如く。

「○○の心の中は表層だけだけど観たの……○○の中、余分なのが多すぎるよ」
「よ、余分って」
「巫女とか、魔女とか、天狗とか、鬼女とか、お姉ちゃんとか、余分なのが多すぎるよ」
「こ、こいし……ちゃん」
「あの時みたいだよ。あの時みたいに! だけどね、今度は間違えないよ?」

虚ろだったこいしの目に、力が漲る。
澱んで、病んで、純粋な恋の力が。

「静かな私と○○のお家に、余分な想念を持ち込むのは嫌なの。○○の心は、想念は大きすぎるの。だからさぁ……」




ギュイイイイイイイイイイイイイイン!!



「私だけしか考えれない位、コンパクトにしてあげる!」



こいしが手にした外歯がハート型の鎖鋸がイドの力を動力に、轟音を立てて動き始めた。


ごん、という音と共に、こいしはあっさりと倒れた。
手にした物騒なエゴの象徴は作成者の意識が途絶えた事で霧散する。

「大丈夫ですか、○○さん」
「さ、さとりさん……」

そこには、こいしの頭に特大のたんこぶを拵えさせたさとりが立っていた。
ちゃんと手加減はしたようだ。ピクピクとだが動いている。

「取り敢えず、一旦避難します。貴方の部屋……と行きたい所ですが、危険ですので隠し戸へ」

妖怪な為か、華奢な外見とは裏腹の膂力で○○をひょいと抱え上げたさとりは、地霊殿の中を高速で移動し始める。

「さとりさん、こいしちゃんは、一体どうしたんでしょうか」
「……あの子は、昔友人だった人間を傷付けてしまったのです。私達覚りの業故に」
「……」
「あれから暫くして此処に移り住みましたが、あの子はずっと心を閉ざしたままでした」
「あなたが此処を訪れてから、ようやく立ち直れたかと思った……でも、再び同じ過ちを犯す処でした」

悲しげな嘆息を漏らすさとりに対し、○○は自分の迂闊さを呪わざるを得なかった。

「さとりさん、僕、直ぐにでも此処を去った方が「いえ、それでは問題の解決になりません」」

隠し戸が自動的に開き、下層部に通じると思われる長い階段が出現した。
反応式なのか、次々と灯りが灯る。

「このまま地上に貴方を帰しても、こいしは貴方を追って地上へと出るでしょう。今のこいしでは貴方を手に入れる為に貴方や他の人間や妖怪を傷付けかねません」
「そしてそれは、地上との協定を破る事になる。そうなれば、私はあの子を処断しなくてはならなくなります」

延々と続く階段を降りていくと、心なしか暑くなって来たような気がする。
側に灼熱地獄があるからだろうか?

「なので、あの子が落ち着くのを待ってから、私と一緒にあの子を諫めて欲しいのです。お願い出来ますか?」
「……はい、解りました。こいしちゃんが元に戻るのであれば、協力します」
「……ありがとうございます○○さん」

頬を僅かに染めたさとりがたおやかに微笑む。
不覚にもどきりとしてしまった○○であるが、さとりの下降スピードが緩やかになったので地下を見てみる。
肌の表面にじんわりと汗が浮くほど、階段の温度も上がっている。

「扉……灼熱地獄にでも通じているんですか?」
「本来はそのつもりで作ったのですが、お空が山の神から授かった力で坑道を拡張した為に不要になってしまった通路です」

さとりが取り出した鍵を扉の鍵穴に指し込む。

ガチャリ

扉のロックを外す。
室内にはいると、そこは意外な程快適な湿度と室温を兼ね備えた部屋だった。
何か魔力でも使って、室温を調節しているのだろう。
誰かが寝泊まりする予定だったのか、調度品からベット、簡単なコンロや水道まである。
調度品から察するに、どうやら男性が使う予定だったようだ。

「ここで暫く待機して置いてください。これからこいしと少しオハナシして来ますので」
「俺は、良いんですか。こいしちゃんを説得するなら俺も」
「まだ、身体の痺れが抜けてないのに?」
「うっ……」

さとりは、天蓋付きのダブルベットへと○○を優しく下ろす。
柔らかい掛け布団を○○にかけると、さとりは○○に背中を向けたまま静かに言った。

「大丈夫ですよ○○さん、全ての問題は必ず解決しますから。だから、○○さんは休んでいてください」
「さとりさん……」

彼女が部屋から出た。扉が閉められ、

ガチャリ、

ガチャガチャガチャガチャ、チキチキチキチキチキチキピーン、ガション、ガリガリガリガリ……ゴン。チーン。


さとりが扉を開けた時より遙かに複雑な何かが作動した……そんな気がした。


ついでに、床の下で何かヴォン……と低い音が聞こえる。
何事かと身体を起こそうとした○○だが、痺れ薬が残っているのか、身体が殆ど動かない。

「さ、さとりさん……い、一体何が起きて」

床下から噴き上がるような、甘い匂いに意識を刈り取られ○○が昏倒するまで後10秒。


参:里を男連れで練り歩いている天子


最近姿を現さなくなったようだ。
どうやら愛しい男と一緒に天界に引き籠もっているようだ。


なので、

四:最近子供を産んだ慧音



「ふむ、恋愛の仕方か……よく分からんな」
「ゑ……?」

縁側で我が子(♂)に豊かな乳房を与えている慧音は、アリスの問いにそう返事した。

「いやな、私の夫はこの郷にやって来た時に女を知らない状態だった。だから私が女を教えたのさ」
「え、え、え、ええ!?」
「別にそう引くほどの事ではないだろう。村に住まう男衆は正しい子作りのやり方を知らねばならないのだから」
「そ、それはそーだけどぉ」
「ま、多くは語る必要も無いだろう。アリス君、必要なのはきっかけを作ったら直ちに既成事実を作る。これが肝心だ」
「……は、はぁ」

後はおおまか藍に似通った内容だった。
子供が愚図り出した事で講義は終了し、アリスは今まで取ったメモの内容を確認しながら帰路についた。


本当は人里唯一の洋風喫茶店で寛ぐつもりだったのだけど、目当ての人がいなかった。
と言うか、暫く工房に篭もっていたので気付かなかったが、思い人は行方不明になっていたのだ。


「兎に角、準備して探さないと……あれ?」

博麗神社の側を通過しようとした処、間欠泉から大量のお湯と共に何かが吹き出して来た。

それは高々と悲鳴を上げつつ、あいきゃんふらーいしていた。

「……? ○○!!」

何とそれは、彼女の想い人であり、行方不明になっていた○○だった。

彼女は慌てて飛行速度をあげ、○○を受け止める。

「だ、大丈夫!?」
「う、うぅ……みんな、止めて、止めてください〜。六等分、六等分は止めてください〜」

何やら魘されているが、言っている言葉の意味がさっぱり解らない。
当惑しつつも、アリスは○○を魔法の森の自宅へと連れ帰るのだった。

飛び去っていく彼女の後ろで、何故か異常な程間欠泉が熱湯を吹き出していた……。



そして、物語は最終局面を迎える事になる……。


魔法の森 アリスの自宅


「ふぅ……」

何とか久しく使わなかった客間を人形達に清掃・整理させ、○○をベットへと寝かし終えた。
気絶したままの○○は何かに怯え続け、「ここを開けてください」だの「六等分は止めて」だの言い続けていた。
何故がどうしてこうなったのかをアリスは聞き出したかった。
が、あの有様では直ぐには無理だろう。
気付けの薬を飲ませたので、もう暫くすれば正気に戻る筈だ。

「こんな事じゃなきゃ、思いっきりおもてなししたんだけどな」

せっかくの愛しの彼を自宅へ招いたのだ。
出来れば数日掛けて準備をし、心尽くしのおもてなしをしたかったのに。

「ま、これってチャンスかもしれないし。慧音さんも藍さんもチャンスを逃すなって言ってたから頑張ろう」

取り敢えず落ち着かせて、二人っきりでゆっくりと食事でもしながら訳を聞こう。
そんな思いを抱いて1階へと下りていくと、玄関の呼び鈴が高らかに鳴った。

「あら、誰かしら……」

調理担当の上海人形に2人分の食事のオーダーを命じ、アリスは急いで玄関へと向かった。



「いよう、アリス。ちょっと寄らせて貰ったぜ」

ドアを開けると、そこにはボロボロの魔理沙が立っていた。
まるで連戦で弾幕ごっこをやらかした後のようだ。

「ちょ、ちょっと魔理沙! どうしたのそんな姿になって!?」
「あはは、良いんだよアリスゥ、私がこんな姿なのはさ、どーでもいいんだ、どーでも」

アリスは気付くべきだった。
自分を見る魔理沙の目が、力強くも、虚ろな色を湛えていた事に。

「それよりもさアリスゥ、なんか、匂わないか?」
「え、匂いって?」

はぁ〜、と魔理沙が溜息を吐いた後、すっと何かをかざす。

「他人様の好きな存在を横取りしようとする―――」
「!!」

アリスの顔が驚愕に歪む。それは、魔力を宿した八卦炉―――。

「泥棒猫の、匂いさ」




○○は、アリス邸の客間で目を覚ました。

「こ、ここは……知らない天井?」

辺りを見渡し、見覚えの無い建物の室内で有ることに多大な不安を覚える。
しかし、地霊殿特有の特徴的な配色ではないので、少なくともここが地下ではないのは確かな様だ。

まだ、身体からは薬の影響は完全には抜けていない。
○○は知らなかったが、アリスの処方で幾分は改善されている。
それでも、こいしに盛られた分と隠し部屋で盛られた分は、○○の調子を悪くしていた。

(そうだ、僕は、あの隠し部屋、地底から間欠泉を使って逃げ出して……)

彼は直接知らなかったが、地霊殿を舞台にした総勢六名によるハルマゲドン・ウォーズによって隠し部屋が破損し、隠し通路が姿を現したのだ。
彼は何とか這いずって隠し部屋から逃げ出し、吹き出していた間欠泉に一縷の望みを託して飛び込んだのだ。

(となると、ここは地上かな……?)

客間の窓からは、森の景色と青空が見える。
どうやら、○○は地上へと無事(?)生還出来たようだ。

「良かったぁ……」
「そう、気分の方は?」

そっと額にかざされた手に、○○は手を重ねた。

「ええ、誰かは知りませんがありがとうございました。助けて頂いたようで」
「何を持って助かったと定義するかは知らないけど、私を置き去りにしてそれはないでしょ妬ましい」

○○の挙動が凍る。
ギギギ……と軋んだ音を立てるような具合に、自分の上に重なっている掌を除けると……。

「パ、パルスィ……な、何故」
「パルパルと呼べと言ったでしょ。肌まで合わせた間柄なのに……そんな他人扱いがまたしても妬ましいわ」

良いあんばいにボロボロになったパルスィが、○○の手を取って自分の顔に擦りつけている。
慌てて逃げ道を探すかのように辺りを見渡し、窓を見た○○の顎がカクンと落ちる。

「しゃ、射命丸さん……!?」

窓の向こう側には、射命丸文がやはりボロボロの姿で浮かんでいた。
しかも、手にはカメラではなく戦闘用の扇が旋風をまとった状態で握られていた。

「あやややややや……まさかまさか、○○さんと水橋さんがそのようなご関係だったとは……ねぇ」

虚ろな眼光を放つ文の口の端が凶悪な角度に歪んだ。
文の持つ扇から放たれる風と魔力も、凶悪なレベルへと膨張した。


「でしたら、この事実は『無かった』事にしましょう。ええ、報道しない自由をもって!」


アリス邸の客間で、局地的な大竜巻が発生した―――。
それと同時に、アリス邸の玄関でも桃色の爆発が発生した―――。

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