■霊夢2
胡蝶夢丸ナイトメア。
悪夢を見れるという丸薬である。
それがどんな悪夢なのかは服用した本人しか分からない。
「ねぇ、起きて! ○○!」
「う…うーん。れ、霊夢か?」
揺さぶり起こされて俺は目を醒ました。
「また魘されていたわよ」
霊夢はため息をつきながらも、俺が起きたことに安心したようた。
俺は最近、毎晩の様に悪夢を見る。
切欠となったのは、八意永琳特製の丸薬である。
神社で恒例の宴会が催された時に、話題の上がった悪夢を見れる薬。
なんの因果か、俺が飲む羽目になった。
しかし、この薬にはなんの副作用も無いはずである。
だが、結果はどうだろう。
今や毎晩、俺は悪夢を見ている。
「怖いくらいに、その…魘されていたから、おこさなくっちゃって思って。ごめんなさい」
気が付けば霊夢が俺に謝ってきた。
どうやら無言でいたのを勘違いしたようだ。
「いや、いいよ。起こしてくれてありがとう」
そういって俺は心配顔な霊夢を抱きしめた。
「それじゃあ行ってくるから、○○は無理しないで休んでてね」
霊夢は永遠亭まで話をしに行ってくる。
毎晩深夜に魘され、起こされ、疲れは回復しない。
おかげで最近は目にクマができ、食欲もないし体調不良で満足にうごけやしない。
だが、それは霊夢も同じ事。
それでも俺のために無理する霊夢。
縁側に座りお茶を淹れて目を閉じる。
霊夢との出会い。
幻想郷での日々。
そして惹かれあう思いを否定するかの如く、異変に見舞われる。
その異変を乗り切ったとき、俺達は愛し合う恋人同士となった。
そのことに後悔なと微塵もない。
むしろ幸せだと言ってもいい。
けど今の現状が霊夢におんぶに抱っこの状態が悔しくて仕方が無い。
お互い支えあってこその恋人同士じゃないのか?
俺は自問自答する。
永琳の丸薬に罪はない。
問題なのは俺の方なのだ。
「そう。話は分かったわ。副作用は無い様に作ってあるのだけれども……もしかしたら体質かもしれないわね」
霊夢は永琳に目を見据えると、
「嘘だったら承知しないわよ?」
と、不機嫌を隠そうともせず言い放つ。
「そんなに睨まないで頂戴。とにかく今から診察に行くから大丈夫よ」
そう言って永琳は鞄に怪しげな薬やら器具やらをバラバラとほうり込む。
「来るならさっさとして頂戴」
霊夢はいてもたっても居られないのか、情緒不安定の様にうろうろと歩き回っている。
「はいはい、少しは落ち着きなさいな。貴方がそれでは彼も心配するわよ?」
言われた霊夢は心当たりがあるのか、眉を顰めると、むぅと一言零してため息をつく。
準備が整い霊夢と永遠亭を後にした永琳は、飛行しながら今回のことを考えていた。
いくつかの仮説があるが、一番有力なのは一つ。
依存。
悪夢依存だ。
人間の中にたまにいる事だが、生い立ちや過去になんらかの不幸があった人間にある現象。
幸福になりすぎると、その幸福に恐怖する事があるという。
そういった人間はタチが悪い。
適度な不幸が無いと安心して生きていけないのだ。
それが彼であった場合……
「同調?」
怪訝な表情で霊夢は永琳に問う。
「ええ、今回の事は彼……○○一人では多分難しいと思うのよ」
いくつかのよく分からない道具を身体に装着され、診断されていた○○はポカンとした表情でいる。
「なあ、それって俺の夢に霊夢が入ってくるって事か?」
「そうなるわね」
正解と指を立てて片目を瞑り微笑む永琳。
「つまり○○の悪夢に入って私が救えばいいって事ね?簡単じゃない!」
やたら霊夢は乗り気だ。
「いやいや、ダメだ、そんな事させられないよ」
霊夢の事を心配してか○○はやめさせようとする。
「だーめ!やるったらやるわよ!」
そういって霊夢は○○を押し切ってしまった。
「一応一週間分置いていくけど、良くなりだしたら様子をみるように、これも一応薬だからね」
そういって永琳は神社を後にした。
○○は結局夜になっても、やっぱりやめよう、と何度も霊夢を宥めるが、霊夢は頑として引かなかった。
「ほら、お互いが飲まないと意味ないのよ」
霊夢は白い丸薬と水の入った湯のみを差し出してくる。
○○は悩んだ末、霊夢に半端強制されて飲まされてしまった。
薄暗い闇が広がっていた。
そこに○○はいた。
霊夢は呆然と見ていた。
そこには私が、霊夢がいた。
あれは私じゃない。
泣け叫ぶ○○。
いつも使っている針を○○に刺している。
やめて。
そこの私は、酷い形相で○○を痛めつけている。
やめて。
何処から取り出したのか、鉈の様なものを振りかぶる私。
絶望の表情で私を見つめる○○。
それが振り落とされる。
「やめてーーーーーーーーーーーーー!!」
瞬間、私と○○が、鏡に映ったソレにヒビが入って砕け散った。
「どうして?」
○○が立っていた。
「○○!大丈夫だった!?」
私は無事な姿の○○に駆け寄ろうとして、動けない事に気づいた。
「あれ?○○!助けにきたのよ!もう大丈夫だから!」
それでも私は声を上げて○○に呼びかける。
○○の顔は翳っていて表情が良く見えない。
「大丈夫だから!こんな悪夢なんかすぐ消し去ってあげるから!」
怖い。
初めて思った。
こんなの知らない、○○が○○じゃない。
でも私が助けてあげる、○○は絶対に
「霊夢。愛してる」
唐突に○○が口を開いた。
「え……? うん、私も好き。大好きだよ。愛してる」
「でもダメなんだ」
○○が顔を上げた。
その目は虚ろだった。
「怖いんだ」
その声は左の方から聴こえてきた。
「霊夢がいつか俺を捨てるんじゃないか」
今度は右の方から。
「いつも異変に狩り出されて、戻ってこないかもしれないって思う」
後ろ…
「また不幸になるかもしれない」
上…
「なんの助けになれない俺が霊夢の重荷になるのが嫌なんだ」
いろんな方向から○○の声がこだまする。
「だから、怖いんだ」
はっと気づいた時、目の前の○○が口を開いていた。
「私は……絶対に○○を裏切らない」
そう言った瞬間に私は腕に痛みを感じた。
「こんなことをされても?」
腕を見ると、針が貫通していた。
「な…なんで?」
言うや否やわき腹、足、太もも、肩に鈍い痛みが走る。
針が刺さる、夢のはずなのに痛い。
「○○…?どうして」
「なぁ、俺は霊夢に殺されてもいいくらいに愛してる」
虚ろな目で○○は言葉を発した。
「霊夢は違うのか?」
「そんな事はないわ!ただこれは間違ってる…○○目を醒まして!」
私の○○に戻って欲しくて○○に必死に呼びかける。
「何を言ってるんだ霊夢。これは夢なんだ、夢なんだから殺しても殺されても死なないから」
そして○○は私の首に手を伸ばし、そのまま締め付けてきた。
殺されるのね……私は○○に……
「うん……いいよ。○○にだったら私……ころされてもいいよ?」
首を絞められ、苦しいけど私は必死に笑顔で言った。
その時、初めて○○の目に光が戻った。
「ありがとう霊夢……あいしてるよ」
首を絞めながら○○は私に優しく口付けをした。
そして私の意識は暗転した。
「おはよう霊夢」
その日、久しぶりに目覚めと共に朝日が昇っていた。
○○は穏やかな笑顔で微笑んでいた。
「おはよう○○」
きっと私も笑顔でいたと思う。
それから数日、私達の夢の逢瀬はつづいた。
殺して。
殺されて。
そんな夢なのに、私達は満たされていた。
たとえ夢でも、否、夢だからこそ、お互いの汚らわしい衝動をさらけ出す事ができた。
心のどこかで危険信号が出ている気もしたが、○○の為なのだから。
丸薬も残りあとわずか、そうしたらやめようと○○とも話がついている。
だから。
今は、ただ夢を見ましょう。
「相変わらず汚い部屋ね」
突然の超えに驚いて振り向くが、それはいつもの知った顔。
「紫か、いつも言ってるが玄関から入ってほしいぜ」
「はいはい、そんな事より見に行って欲しいところがあるの」
隙間に腰掛けて、胡散臭い笑みを浮かべていた八雲紫が珍しく真面目な顔になる。
「何処にだ?」
そんな雰囲気につられてついつい、霧雨魔理沙も真面目な表情になる。
「博麗神社」
魔理沙は愛用の箒にまたがると全速力で神社へと向かっていった。
ここ最近、博麗神社に人が訪れていなかった。
それは霊夢の人払いの結界が張られていたからだという。
斯く言う私も最近神社に行く気がしなかった。
なら紫はなぜ気づいたというのか。
境界に一番詳しい妖怪なのだから気づかないはずがない。
隙間を開いて神社に入ろうとしたら強力な結界で弾かれたという。
強大な力を持つ妖怪であればあるほど反発力を生むというその結界では、紫ではどうすることも出来なかったらしい。
そこで人間の私にご指名が来たというわけだ。
「胸騒ぎがするぜ」
そう言って魔理沙は更にスピードを上げた。
【胡蝶夢丸】
眠る前に数粒飲用することで悪夢を見ず、楽しい夢を見られる。
‐服用の際の注意点‐
夢の世界はもう一つの自分である。
夢だけが楽しすぎると夢と現実が入れ替わる可能性があるので、服用のしすぎには注意をしてください。
「○○…?なんだこれ…」
魔理沙はただ呆然とソレを見つめていた。
「ああ、痛い、痛いよ霊夢」
「そうね○○、痛いでしょう?でも大丈夫よ、明日は○○の番だからね?ふふ」
「そうだな、明日は俺が霊夢を達磨にしてやるからな…ぐふっ」
○○の両手両足はぐちゃぐちゃにミンチにされていた。
それを妖艶な笑みを浮かべて見つめているのは霊夢だった。
「なに…してんだ?…霊夢?……○○が死んじまうぞ?」
それは異様な光景だった。
霊夢が○○の返り血を浴びて、熱に魘される様に愛を囁きながら、○○を残虐に殺している。
○○が朦朧とした表情で、霊夢の殺されながら、愛を囁いている。
怖い、と思った。
「あら、魔理沙じゃない。見ててもいいけど邪魔しないでね」
その口調はいつもの霊夢だけど。霊夢じゃなかった。
「せっかく誰にも邪魔されないように結界張ったのにね…まぁいいわ明日で最後なんだし」
「…そ、うだな…明日で最後だったっ…け?まぁ…いいか…霊夢なら…」
そういって二人は、ワラッタ。
-----------ちるののうら------------
友人がヤンデレが良いという。
俺はリアルにヤンデレいたらこわくね?言う。
友人が二次だから良いという。
つまりヤンデレスキーは夢でヤンデレならサイコーということ?と俺思う。
胡蝶夢丸ナイトメアとかクリティカルヒットじゃね?思う。
書いてみた、収拾つかなくなった。
夢と現実が曖昧になるとかニュースとかであるけど、それって怖くね?
>>up0641
人間が天国に行けないのは、
森羅万象を悟れなかったり、
自分の罪を認められなかったり、
善行を積まなかったからじゃなく、
安息と快楽に飼い殺される事を本能が嫌っているから、なんて。
そんな哲学じみた事をいい加減に考え始めてしまった。
確かに幻想郷での生活は夢のような心地だ。
ただ、怖くなってしまった。
もしかしたら、ここで永遠に生き続けてしまうんじゃないか。
この生活から逃げられなくなってしまわないか。
「嫌よ、帰したく無い」
霊夢は、泣く事なく、
ただ涙だけ流しながら抱きしめた。
「霊夢……」
「離さない、離したら帰りたくなるでしょ……?」
顔を見せる事なく、
胸元に頭を埋めたままそう言った。
ただ、震えてるのが胸越しに伝わった。
「○○は、
幸せじゃないの?ずっとこのまま、ここに居たく無いの?」
「ううん、とっても幸せだよ。
ずっとこのまま居たいて思うよ。
……それが、怖いの」
霊夢をゆっくりと抱き返す。
手を後ろに回すと、
一瞬びくついた後、
さらに寄り掛かって来た。
「このまま、幸せに甘んじてしまって。
何も出来ない人間になってしまったら、それが怖いんだ」
「なって良いよ」
「駄目」
背中を摩る。
涙は記事の薄いシャツを通り抜け、胸を濡らす。
「幸せは享受する物じゃない、追い求める物だよ。
その欲望が無くなったら、人間じゃないよ……」
「分かった」
暫く、そのまま二人で抱き合っていた後、
先に口を開いたのは霊夢だった。
「三日後、貴方を元の世界に帰してあげる」
「……約束だよ」
「ええ、約束ね……」
三日の猶予は誰の為か、
僕が神社を後にした直後、霊夢は強力な決界を張り、
神社を外から隔離した。
自分の選択に少し後悔しながら、
別れの挨拶に誰から巡ろうか考えていた。
そう誰かと懇意にしていた訳でもなく、
あくまで形式的に挨拶を済ましたつもりだった。
だが案外と、自分を好いていてくれた人は多かったようで、
紅魔館の吸血鬼は運命を弄り、従者に拘束させようとした。
白玉楼の幽霊は桜の枝を手折り、半人半霊の反対を押し退け土産にしてくれた。
マヨイガの妖怪は年甲斐もなくおおいに泣き叫び、縋り付いて撤回を求めた。
永遠亭の姫は何も言わずに自作らしい無線LANルータを渡した、繋がるのだろうか。
山の神社の巫女はとくに驚くべき様子でもなく、むしろ二柱が焦っていた。
地霊殿の姉妹は内心を見通したのか、名残惜しくささやかな宴を開いてくれた。
二人の魔法使いは、急ごしらえなのか不格好な三人の人形を渡してくれた。
各人を諌める内に三日という期間はあっという間に過ぎてしまった。
霊夢が提示した三日間は、
考えを改めさせる為なのか、
自分が心の整理をつける為だったのか。
三日ぶりの博霊神社はやけに懐かしく思えた。
別れの挨拶は済んだ。
今更見送りにくるのも不粋と思ったか、
神社に霊夢以外の姿は無かった。
「挨拶は……済んだよ」
「……考え直すつもりは無いの?」
ゆっくり頷いた。
霊夢は深くため息をつき、
祝詞を読み上げ、決界に穴を開く。
「……じゃあ」
さようならを言う前に、
後ろで、霊夢が手を引いた。
「嫌」
「……鬼じゃないからね、君は」
嘘だってつくさ。
そういうのはわかってた。
「約束、したよね?」
「うん、だから……」
三日ぶり、いや、いつかの宴会以来だったか。
屈託なく笑う彼女の笑顔を見たのは。
「相手を失った約束は、効力が無いでしょう?」
掴んだ手をおもいっきり引っ張り、
姿勢を崩した僕をもう片方の手でおもいっきり突き飛ばす。
謀られた?
ううん、違う。
僕を突き飛ばした霊夢の表情は、
後悔と悲哀に満ち溢れていた。
ゆっくりと閉じる決界の入口、
二人の口はきっと同じように開いてた。
ごめんね。
「結局、快く送り出せた奴は私と早苗位だったな」
○○を膝に乗せたまま、霊夢は魔理沙とお茶を飲んでいた。
「ねぇ魔理沙、幸せって、なんだと思う?」
「そうだな……求め続ける物じゃないのか?」
きっと彼女は知っててそう言った。
○○はそう言っていたけど、お前はどう思うんだ。
何故、○○はここに居る。
何故彼は帰っていない。
何故……
「何で○○は、壊れたんだろうな」
皮肉を言ってる事は魔理沙自身解っていた。
つまり、許すつもりなど無いのだ。
ただ己に罪を認識させ、自己嫌悪させる為にわざわざ言い放っていた。
そういった言葉を浴びてなお、
穏やかな表情のまま、
膝の上で眠る○○の頭をゆっくりと撫でて、
霊夢は重い口を開いた。
「幸せは奪い取る物だった。
私と、○○にとってもね」
二度と目を覚まさぬであろう頭を持ち上げ、
唇から茶を流し込む。
「○○が、老いてしまって、
私を置いていくなんて堪えられなかった……」
詭弁だな。
魔理沙はそういって帽子を被り直した。
「私と離れて、それが幸せになるなんて認めたくなかった」
結果として己の、
いや、皆の望まない結果になった訳じやない。
ただ、
彼女は一人、失った物に納得がいかなかっただけ。
二人ぼっちの博霊神社。
幸せな霊夢は泣いていた。
ずっと二人で、
目が覚めるまで、
いや、きっと、
目が覚めても二人は一緒で、
誰もが望んだ幸福な日々を送る筈なのに。
彼女は、自分の侵した罪に泣いていた。
簡単、
人を侵す事も、力を私欲の為に使う事も罪ではない。
そもそも、彼を愛した事が罪だったのだと。
ただもう、嘆き続ける彼女の心を開く者はもう居ない。
きっと、永遠に。
誰もいない神社、
壊れた人間を抱いたまま、
幸せな巫女は泣いていた。
楽園に飼われ、逃げ道を失ったまま。
>>ジョバンニ氏
「四肢を切断したり、そういう非道な事はやらないようにね?」
紫は霊夢にそれだけ言ってスキマの中に消えていった。
笑っていた、結果は見えていたからか、
霊夢はそんなのお構いなしと言わんばかりに道具を磨いている。
僕は、
床に張り付けるような手枷、
元々は手足を壁に押さえつける為の道具らしいが、
とにかくそれに拘束された右手をなんとか動けるようにと、
手首を動かし、左手で引っ張り、畳を剥ごうとしたり、
それでも枷は取れなくて、
道具を磨き終えた霊夢が「もう、動かないの」と一言言うと、
別の、その枷が飛び左手も拘束してしまった。
「紫も馬鹿ね、そんな事したら○○が大変じゃない」
「……痛い事はして欲しくないな」
「我慢しなさい、一瞬なんだから」
長い長い針を霊夢が軽く嘗めると、涎はその先を伝った。
ああ、なんとなくわかったよ、
確かに手足なんか切らなくても逃げられないように出来る。
だったら手枷足枷で良いじゃないかとは思うけど、
「可愛い顔が見れないじゃない」
との彼女の言の意味は分からなかった。
「ぐっ……」
針が手を貫通していく。
骨とかどうなってるんだろうと思ったが、どうやら骨の隙間を無理やり通しているようだ。
「ご飯は、食べさせてあげるから」
トイレはどうするんだ、と気をそらせようとしたが、
地底の主に無言で笑われそうなトラウマが起こりそうで考えるのを止めた。
もっとも、どうせ二度と会う事も無いかもしれないが、
ぴん
「うあ……がぁ」
「今他の女の事考えたでしょ」
手を貫通した針にデコピンしただけ。
「『これだけ』で勘弁してあげる、あなたが悪い訳じゃないし」
違う、いっそ全て自分の浮気性を責めるように言ってくれ。
余計にタチが悪いから。
「人の物を取るような泥棒を生かしておいた私が悪いのよ、だから、
ねえ?誰の事を考えたのかな?怒らないから言ってよ、ね?○○」
困ったような顔で霊夢が覗き込む。
悪気が無いのか、邪悪だな。
魔理沙ですら返さない事に負い目を感じてたってのに。
ぴん
「っぐぅ……」
「痛いの嫌でしょ?素直になろうよ○○」
貴方にはなにもしないんだから、そう耳元で囁いた。
「み、皆、皆だ。
宴会で皆で仲良くやってた頃の事を思い出してた、だからな?」
「わかったわ」
言を制し、霊夢は針を握る。
「ご褒美、右手は自由にしてあげるわ」
「うっ……」
針が引き抜かれ、右手の枷が解かれる。
「ん……やっぱり鉄の味がするわね」
霊夢は針に付いた血を嘗め取った。
ああ、こいつは、
ちょっと、表現とか、人の愛し方を知らないだけなんだ、
だから、守ってあげないと、変な影響とか受けないように、
霊夢の心を僕が守ってあげ
ごり
骨をずらして針が手を貫通する嫌な音。
「ぐあぁっ!」
「右手、はね」
霊夢がくすっと笑った。
拘束されていた左手にはさっきよりも深く針が刺さっていた。
「大丈夫、仕方ないよ、○○は外界人だから。
弱いもん、ここの人間より、もちろん妖怪より。
だから守ってあげる、私がずっといてあげる、
私が○○をずうっと守ってあげるからね」
霊夢が懐から小さな木槌を取り出す。
ひぃ、思わず声が漏れた。
「○○はいい子だから、お留守番できるよね……?」
すうっと、木槌を振り上げ、
針を叩く振りをした。
「幻想郷に毒されちゃっただけだから、○○は。
私が慣らしてあげる、ここで生きていけるように、
だから心配しないで、待っててね?」
「……」
「ま、っ、て、て、ね、?」
「痛っ……」
針を握ってぐりぐりとかき混ぜる。
「わ、分かったから……早く帰ってきてね」
「ええ、分かってるわ」
痙攣する左手で、
背中を追う事も止める事も叶わず、
霊夢が神社から出て行く姿を目で追う事しか出来なかった。
うっすらと、
懐かしい宴会の日々を思い起こしてしまって、
理由も無く涙が流れた。
ああ、きっと、針が痛かったんだ、
そう思わないと、いけない気がした。
>>ジョバンニ氏
ぺしゃり、と粘ついた音を立て、
目の前にあった障子が紅く染まる。
「私だけを見てくれるって 言ったのに」
「なんで?」
「なんで あなたは」
「みんなと 親しくするの?」
「ねぇ どうして?」
「魔理沙や アリスと ふたりっきりで」
「なにを していたの?」
「こたえて ○○」
「ワタシは貴方が言ったとおり」
「あなたいがい 何も見ていないのに」
「どうして 嘘をつくの?」
「ねえ どうして?」
「こたえて? ○○」
「ねえ 答えてよ」
4スレ目>>5
――聞きました?あの人ですよ、あの巫女の所に住んでるっていうのは。
あぁ、聞いた、聞いた。
……でもただの人間なんだろう?あれは。
そうらしいわ。
妖怪に襲われていた所を助けられてから、それ以来ずっと神社に……って話よ。
そりゃまた。
……あの巫女は何を考えているのか分からない所があるからねぇ。
いやまぁ、掴み所が無いってのは何時もの事だけどさ。
でもあれは何で一緒に居られるんだろう。
あの鬼と違って、完全に自活している訳でもないんだろう?
それだけの間があったなら、とっくに外に放り出されるのがオチだと思っていたんだが。
……さぁねえ。
でも聞いた話じゃあ文句の一つもないらしいよ。
いっつも笑顔で、それが余計に気味が悪いってね。
それ、誰から聞いた話なんだい?
……あの森に住んでる魔法使いからよ。
人間の方ね。
だからこの話、信憑性としては五分ってとこだけど、あれを見れば――
(……また、か)
人里へと買い物を頼まれたその途中、何時もの様に人の噂話が聞こえてくる。
喧騒の中だというのにその音は掻き消されずに、自分の耳へと入り込んできていた。
(そうだよ。ただの”人間”だ。
けど、それが何だって言うんだ)
買った品を入れた鞄を握る手が、自然と力んでいる。
その声に耐える様にしながら、ただ歩みを速くするしかなかった。
声は人里を出るまでの間、ずぅっと聞こえていた。
「ただいま」
「おかえり。早かったじゃない」
霊夢が割烹着姿で出迎えてくる。
左手には鍋の蓋、右手にはおたま。
「あいつらが持ち寄ってきた七草粥の材料、まだ大量に余ってるのよね。
好きでも無い癖に、食べたがった奴があんなに居るなんて……」
霊夢は返事を待たず鞄を受け取ると、中から調味料を取り出して言う。
「出来るだけ味付けは頑張るから、あなたも処分するの、協力してよね。
……で、何かあった?」
唐突に放たれた言葉で、意識が揺れた。
「え……いや、何も」
「あー。村の連中に何か言われでもしたってわけ」
誤魔化す様にいった言葉はまるで無駄で、霊夢は溜息をついた。
「……いい度胸じゃない。で、えーっと」
そうして自分へと近付くと、体のあちこちをぽんぽんと叩き、胸を撫で下ろすような顔をした。
「実害は無かったみたいね。うんうん、無事で何よりだわ」
「じゃあ、早速」
霊夢は巻いていた頭巾を取ると、持っていたおたまをくるりと回し、
ビュッ、と音を立てて振った。
そして鍋の蓋を指に挟み、構える様にして振り下ろす。
辺りの空気が変わった事に気付き、霊夢が少し宙に浮いた所で自分はやっと声を掛けた。
「ちょ、ちょっと待って霊夢!」
「ん?なあに」
それと同時に、空気は色を変える様にして静かになる。
彼女は、無表情だが口元を緩め、視線は自分へと好意を向けていた。
瞳の奥に宿った、それを除いては。
「……晩御飯の支度、まだ途中なんだろう?」
彼女が何を考えているのか、薄々は分かっていながらそんな事を言う。
「あ、うん。だから帰ってきたらすぐやるから
(だから早く行って”アイツラ”を……)」
「て、手伝おうかなって。
ほらたまには、霊夢の料理する所、見てみたいしさ」
「……えっ」
彼女は驚く様に顔を変えた。
ほんのりと頬を染める様に。
「でも台所仕事なんて面白くないわよ?
面倒だし、大変だし……。
それに改めて見るようなものでもないし」
「で、でも一度も覗いた事もなかったしさ。
何時も任せきりじゃ、悪いよ。
だから、手伝わせてくれ」
彼女の瞳の奥に伺うそれに、怯える様に。
「……。でも……」
「頼むよ」
自分は心の中で懇願していた。
「……うぅん。しょうがないなあ」
そして霊夢は嬉しそうな顔をして、自分の手を取った。
「じゃあ途中からだけど、最後まで手伝ってね。頼りにしてるから」
「あ、あぁ」
「えーっと、それじゃあ……
(それじゃあ……”アイツラ”の事は後回しでいいわね……)」
「ひゃっ!?」
「え?……って」
聞きなれない声がした彼女の指には、浅く伝うような血の滴。
「……その、あなたに見られながら料理するのって、なんか慣れてなくて……
あ、傷は浅いし大丈夫よ?」
「そ、そっか。なんかその、ごめん」
「謝る必要なんてないわよ。……その、私だってこういうの……
なんか悪くないなあ、とか思うし」
「そ、そう?」
「ええ」
そう言った彼女は、指を滴るそれを眺めながら。
ふっ、と、流す様に視線を向けて来た。
……何とも掴めない表情。
いや、普通には無表情に見えるのかもしれない。
しかし”いつものように”それが自分には、
何かを訴えかける様に聞こえる気がしてならなかった。
そう。
(舐めて)
と。
……霊夢が、自分を見つめ続ける。
赤い滴は、滴り落ちそうになりながら。
(舐めて。舐めて、舐めて、舐めて。
…………私の事が好きなら)
(早く。 ここにくちづけて?)
――とりつかれたようにその指をくわえていた。
彼女の幸せそうな顔が見えると、体中が痺れ、何かが麻痺していくような感覚があった。
「あ……ん…………」
霊夢がもう片方の手で、自分の手を優しく握り締める。
そして、何か憑きものが落ちる様な感触と一緒に、彼女の指は抜け落ちて――
両手で自分の頬を引き寄せると、彼女はそれに、想いを重ねていた。
お互いに恍惚とした顔のまま離れると、霊夢は何も言わずゆっくりと微笑んだ。
つられるように、自分の顔も緩むのが分かる。
何故だろう、それが少し不自然なものだと感じながらも。
「続き……作らないとね?」
それが何故か” ”に思えていた。
――それから、数日後。
再び人里に買い物へ向かおうと鞄を手にかけると、霊夢が慌てた様に走ってくる。
「あっ……、ちょっちょっと待ちなさい!」
その手にはお守りが握られていた。
「これを渡そうと思っててね」
有無を言う間もなく、それを鞄へと括りつけてくる。
結び目を確かめる様に引っ張ると、霊夢は笑顔で”よし”と言い、自分の肩を叩く。
「これでいいわ。寄り道はしないでね、○○。
……行ってらっしゃい」
(それと)
彼女が何か言いたそうにしている。
……引きこまれるように、彼女の体を引き寄せて抱きしめていた。
「……行ってきます」
それがまるで当たり前みたいに。
――あいつだ。
巫女に告げ口したのよ。男の癖に、なんて情けない。
ああはなりたくないな。
放っておけ、放っておけ。
どうせ飼い殺しさ。ほっとけば、そのうち死ぬに違いない。
案外彼女も脅されてる口じゃないか?弱みを握られてるとか……
あるかもしれないわねぇ。
それなら説明がつくし。
しっ。声が大きいぞ……
本当にあれがそういう類のだったらどうするんだ。
またとばっちりを食うのはごめんだぞ。
あの巫女……
あいつの陰口を叩いていた奴だけ、聞きもせずに全員ぶっ飛ばしたらしいじゃないか。
怖いねぇ……
きっとあいつが教えたんだ……
さっさと神社に帰れ。
帰れ。帰れ。 帰れ 帰れ 帰れ――!
言葉の暴力に、意識が混濁していたのか。
誰かが投げたその石が、目の前に来るまで気付いていなかった。
避けられない
そう、思考が判断した瞬間、目は閉じる事を選んでいた。
バリィッ!!
……その音が聞こえるまで。
投げられた石は、少し離れた地面へと反射するように落下していた。
その先の人影が、慌てふためきながら逃げだしている。
噂話をしていた連中も、散るようにその場を離れ、
聞こえて居た声は無くなり、静寂が訪れた。
鞄について居たお守りが、少し黒く焦げるような痕を残したまま。
一瞬、苦虫を潰した様な顔をしたが、霊夢は何処か遠くを見下ろす様な表情に変わる。
「……やっぱり持たせて正解だったみたいね」
けれど直ぐにその表情も消え、彼女は涙を伝わせていた。
「ごめんね……ごめんね……ごめんなさい、○○……」
「私が甘かったから……
人里の連中だからって、加減なんかする必要なかったのに!
あなたが私より弱いって事を知ってた癖に、私は……きっと、あなたに甘えてた」
「……あなたが男の人だからって。そんなの関係無いのに……」
――霊夢の涙が止まる。
彼女の眼は、決意に満ちていた。
それを示すかのように、霊夢は自分へと微笑んでいた。
……天使の様な鋭い目をしながら、悪魔の様に口元を歪ませて。
「あなたの周りにある障害は、全部私が”解決”してあげるから安心して。
○○に苦しい思いは、絶対にさせないから」
「…………ね?」
その言葉に、怯え。
しかし我慢できなかった感情だけが、噴き出す様にしてその言葉を告げた。
「……霊夢は」
「霊夢は、どうしてそこまでしてくれるんだ?
……こんな、何も無い自分に……」
吐き捨てる様にして俯く。
けれど霊夢は表情一つ変えずに、即答する。
「あなたが好きだからだけど?」
「ていうか、それ以外理由に何があるってのよ」
(だから)
(あなたはずっと此処に――
此処にこの場所でずっと――
私と――)
霊夢の手が、自分の手を握る。
柔らかく心地良い――けれど感触は、どこかねっとりとした様な温かさの。
それに掴まれた自分は、本当に顔を掴まれてもいないのに、
その顔を持ち上げる様にして、彼女の瞳へと視線を向ける。向け続ける。
(私とずっと一緒に居たいでしょ)
「霊夢とずっと一緒に居たいよ」
『え?』
自分で意図した訳でもないのに、何故かそんな言葉が口から出ていた。
そしてそれは直ぐに、当たり前だったと思えていた。
何でって
(私の事好きだって言ってくれる。だからそれは” ”)
……何で?
「……私も、同じ気持ちよ。愛してるわ、○○。
誰よりもね……」
(好きな人の為なら”当たり前の事”をするに決まってるじゃない)
それが”当たり前の事”だからに決まってるじゃないか。
「だから他の奴がどうなったって 構わないわよね、○○」
「…… …… ……
…… …… …… あぁ」
”当たり前の事”がこれからも続いてゆく。
彼女を好きでいればいい、霊夢を愛し続けていればいい。
他の事はもう 何も考えなくていい。
何でって
「この世界で私を一番に好きなのは、あなたでしょ?……勘だけどね」
……何で?理由なんか要らないでしょ。
○、○。
おやつ氏
霊夢、ただいま。
ん?こんな時間にまでどこいってたのかって?
ああ、里の連中とちょっと飲んでてさ。ごめんね、連絡しなくて。
……怒ってる? ああ、よかった。ちょっと後悔しててさ。
今度から忘れないようにするよ。うん、約束。
ところでさっき魔理沙がこっち飛んで行くのが見えたんだけど――
へ?俺がいないからって帰った?
おっかしいな、あいつには貸してた本返してもらうつもりだったんだけど。
まあいっか、また今度見かけたときにでも言うとするよ。
晩飯出来てる?あいつらとは飲むだけ飲んでまともに食べてなくてさ。
お腹ぺこぺこで……へぇ、今日はビーフシチューなんだ。
珍しく肉が手に入ったんだね。
それじゃ、いただきまーす
4スレ目>>235
幻想郷に迷い込んだその日、俺は妖怪に襲われた。
そんな俺の窮地を救ったのは博麗の巫女、霊夢だった。
泣き叫び命乞いをしながらも恐怖で足が動かない、そんな状況で助けに来た彼女は、それはもう女神の様だった。
さも片手間で済ますように、軽く妖怪を撃退すると彼女は驚きながら俺を見つめた。
曰く、ここまで泣き叫ぶ大人を見るのは初めてだったとか、まるで童子のようであったと。
そんな彼女は俺を胸に抱くと、優しく「もう大丈夫だから」とあやす様に言った。
俺はそれだけで、もうだめだった。
簡単に言えば惚れた。
行く当てもない俺を彼女は神社へと連れていくと外へ送り返すまでの間、部屋を貸してくれる事になった。
しばらくの間、俺は彼女の顔をまともに見れなかった。
それは当然だろう。
ある意味最悪な出会いだった。
大の大人が、みっともない醜態を晒しながら、幼さの残る彼女に泣きながらしがみつくなど最悪だ。
まるで迷子になった子供が、漸く母に出会えて泣きつく様な真似を晒したのだ。
大の大人が、だ。
そんな最低最悪の出会いだったが、神社での暮らしはまあまあ、概ね良好…と言ったらいいのか。
否、現実逃避はよろしくない。
正直、冷静になればなるほど、彼女は、俺を弟か何かと間違えているのではないかと思う。
雑用を頼まれて…というか殆どが境内の掃除なのだが、をやっていると時たま来客が訪れる。
大抵が白黒な魔女だったり、妖怪だったり、妖怪だったり、妖怪だったりする。
…ここ神社だよなぁ?
首をひねって疑問に耽るが答えは出ない。出してはいけない気がする。
で、本題は参拝客は皆無だが来客の多いこの神社で掃除なんぞやってれば人目につく。
それで初見な妖怪は興味津々に俺に絡んでくるわけだ。
すると間髪いれずに飛んでくるは、巫女の札。
あれよあれよと弾幕勝負へと発展する訳だ。
が、境内では妖怪は人を襲わないって暗黙なルールがあると言ってやしませんでしたか? 霊夢さんよ。
はっきり言えば過保護、そんなに俺は頼りないですか?
決定的だったのが白黒との口論だった。
「なぁ霊夢、ちょっと過剰すぎじゃないか?」
「そんな事無いわっ! ○○は私が守ってあげないとダメなのよ! 凄く弱いのよ!?」
「○○だって困ってただろ? 会話ができないって」
「はんっ、妖怪達と○○がいちいち何を話すって? 必要ないでしょ」
「あー、だめだこりゃ」
こうである。
もちろん俺は口出し無用である。
貴方は何も言わなくて良いのよ的なザマスチックなマザーを想像すれば早い。
たったひとりのヘタレを自称っ、見た目は大人っ、立場は子供っ。その名は被保護者○○っ。
…むなしい。
しばらくたったある日、霊夢が里へ買い物へ行ってる時に小さな子供が降って沸いた。
「沸いたは酷いな〜」
聞くと鬼という、幼児に見えてかなりの歳月を生きてきた妖怪。
「普段は霊夢の監視が厳しいからねぇ、一度ちゃんとしっかり見てみたったかったんだよ」
俺の何を見たいというのか、こう見えても俺は貧弱だぜ? 指先ひとつでダウンだぜ。
「異常なほどの贔屓を受ける人間、あんた霊夢になにしたのさ?」
ニコニコと笑ってる様で、なんかオーラが怒ってる気がする、そんな気配、マジ怖いです先生。
数多の妖怪から好かれる霊夢の特筆するべきは、平等さ、その均衡を崩した俺に腹を立てている妖怪が多いらしい。
俺が聞きたい、ぜひ聞きたい、むしろ霊夢にホの字な俺はせめて子ども扱いはやめてほしい。
すると萃香と名乗った小鬼は、いっそ攫ってしまえばいいのかと自問しだした。
こりゃイカン、危険がピンチ、ブレイクブレイク、ここ神社、ルールは守ろう大切だから。
「虫の知らせってあるわよね、腹中の虫とはよく言ったわ…」
霊夢の声がして振り向けば、ゾクリとするような無表情がそこに在った。
途端、萃香が撥ねる様に距離を取ると、獣の様な構えを取り、冷や汗を垂らす。
「マズイなぁ、完全にご立腹だ、今日は退散させて貰うよ」
そういって萃香は、霧散するように薄くなって消えた。
妖怪ってすげぇな。
油断ならないわ…結界が必要ね…とか霊夢が呟いていたけど、非常に目が怖いです。
そんな霊夢も綺麗だなぁとか、俺の脳は完全にスクラップです。
そうなのです、惚れって怖いですね。こんな状態の彼女なのに、俺はなんでも、はいはい言うこと聞いちゃうYESマン。
ついでに言うなら、過保護だけど俺の事、一途に見てくれてるって事だよね。
それが恋愛感情ではなく、母性本能なのか保護欲なのかって所だろうけど、それでも嬉しくて仕方ない。
そんな霊夢さんは、日を追うごとにエスカレートしていきました。
あいつがいる限り、結界があっても不安だわ…と言って最近は俺のそばを離れません。
語弊がありました、俺が鶏の雛の様に霊夢の後ろに付いて回るだけです。
一定の距離が離れると霊夢さんが「○○、ちゃんと傍にいなさい」ってメッってするんですよ。
いやー、俺死んだ、右わき腹の浪漫回路が止まらない。まじ俺子供でもいいや。
ごめんなさい、俺、一応大人なんだ。
心配だからって、霊夢さん最近は布団が一緒です。
性的な意味ではなくて、添い寝です。俺の頭抱えてポンポンとあやすように添い寝です。
でも俺おとなぁあああ。
精神がまじでピンチ、主に下半身が。
さらに日がすぎて、ついに霊夢さん、壊れました。
…風呂です、風呂一緒です。簡便してマジ無理、俺が死ぬ、というか誰か殺せ。
前略
お父様、お母様。
○○はついにやっちまったぜ。
むしろ数日とはいえよく我慢してた。
はい、一線越えちゃいました。
俺の沸点が超えて押し倒してしまったのです。
ごめん霊夢っ俺っ。って言いながら欲望をたぎらせて押し倒した時…霊夢は優しく微笑みながら「いいわよ…」って。
穴があったら埋め立てたい。
事が終わってから霊夢ははにかみながら「これからは恋人ね」とか言ってくれました。
人生に春が来ました。
お父様、お母様、もう二度と会えないでしょうが俺は青春を謳歌してます、アディオスアミーゴ!
というわけで今日も誰も入って来れない境内でイチャイチャパラダイスです。
とは言え食うものなきゃ飢え死にしますので、今日は霊夢の買出し日です。
15分で戻るからって泣きそうな顔で飛んで行きました。
愛されてるね俺。
ん? あんた誰…
「博麗の勤めを果たさぬ巫女は無価値という」
「○○を返しなさい」
「もはや幻想郷の結界も維持が困難になってきています」
「二度は言わないわよ、……八雲紫」
「これは貴方の暴走、博麗大結界の力を私物化しての愛の巣のつもりかしら?」
「…そう、じゃあ殺してあげるわ」
「…お願いだから元に戻って…霊夢」
阿求著
幻想郷縁起最終項目
〜幻想郷の終わり〜
博麗大結界の崩壊により幻想郷は終わりを告げる。
最後の博麗の巫女である博麗霊夢は、スペルカードルール創設など様々な業績を上げながらも、自らの手でそれを破棄。
大結界の維持と管理をしていた幻想郷の賢者、八雲紫の失踪。
それに伴い、大結界の崩壊が始まり、様々な大妖怪達や、神々が奔走するも食い止める事はできなかった。
この地の奇跡が儚くも外の世界の常識に塗りつぶされていく中、次々と異変が乱立するが、それにどんな意味があったのかは様々な推測(*4)と想像を呼ぶ。
(中略)
稲田家は外の世界の山奥の僻地に立つ屋敷となり、最後の筆記者となる九代目阿礼乙女、稲田阿求はただ一人の少女となった。
もはや幻想郷は存在しないのか、それとも、まだ何処かに息づいているのかは、著者には知るすべは無い。
「ねぇ○○、今日も幻想郷は平和ね」
「誰もいないけどな」
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僕は彼女が好きだ。
こんな風に地下の座しき牢に監禁されていても。
上からは、いつもの宴会の音が聞こえる。彼女と親しい妖怪や人間が集まっているのだろう。
例え僕が日常生活から姿を消しても、それは変わらないのに少し悲しさを感じる。
しょうがないとは思う。たかが、数ヶ月顔を合わせた程度の外来人だもの。
彼女がみんなに対して僕が外への帰還を選択したと言えばああ、そうか寂しいねで終わるだろう。
寿命が非常に長い妖怪達にとって、人間の一生は儚い。
ましてや、偶々この地に流れ着いた外来人なら尚更だろう。
「あー、飲み過ぎたわ」
転た寝している間に、宴会は終わったらしい。上はすっかり静かになっている。
灯りが点火し、顔を赤くした霊夢が座敷牢を開けて入ってくる最中だった。
後ろの扉は、彼女しか出入り出来ない。彼女の許可が無ければ、僕はここから出る事は出来ないのだ。
「ふふふ、○○ぁ……」
彼女は普段と変わりない。僕と接する事以外は。
直接は見れないけど、今日の宴会でも酒を飲みながらめんどくさそうな態度を取っているのだろう。
僕は怠惰っぽくて、そのくせ結局世話を見てくれる彼女が好きだった。
単純な好意が、愛情に変わったのも早かった。
彼女も同じだったと思いたい。ただ、その愛情が歪んでいたというだけで。
2人の脱ぎ捨てられた服の上で、彼女が僕を貪っている。
最初はぎこちなかったのも、今ではすっかりスムーズに交われていた。
彼女と愛し合うのは好きだ。出来れば、上の彼女の部屋で普通に愛し合いたかったけど。
彼女は、彼女以外の存在に僕を触れさせるのを嫌がるのだから仕方がないだろう。
何度でも言うけど、僕は彼女が好きだ。
こうして理不尽に監禁されても、僕は彼女が好きだ。
助けを求めれば、どうにかなるかもしれない。
だけど彼女は死力を尽くして僕を逃がそうとはしないだろうし、僕を助けようとした、彼女を止めようとした存在に容赦しないだろう。
僕は彼女が戦う所も、傷付く所も見たくはない。
だから、僕は此処から出ることを諦め、彼女の求める全てに答える事にした。
「○○」
同時に果てた後、彼女が僕の唇に唇を重ねてくる。
僕は拒むことなく受け止め、彼女の細い肢体を抱き締めた。
ここに居る限り、何も問題は起きない。ならない。
何故なら、何時の間にか、僕もここで霊夢の愛を独り占めする事に喜びを感じていたからだ。
だから、僕はずっと此処に居る。
彼女が死ぬか、僕が死ぬ、その時まで。
4スレ目 >>956
「一度、元の場所に帰った方が良いわよ。家族だって心配してるんじゃない?」
「う、うん……」
霊夢にそんな事を言われたのは、この郷に迷い込んで3ヶ月程経ってからの事。
この間ずっとお世話になっていた神社の主にそう言われたら、こちらとしても頷く事しか出来ないだろう。
その時丁度一緒に居た魔理沙も些か驚いた顔をしていた。
「意外だな、あいつ、お前の事随分気に入っているようだったのに」
僕だって驚きだ。
僕が、外の世界に帰還できるチャンスを直ぐ側にあっても行使しない理由。
それは、彼女の事が、霊夢の事が好きだからなのに。
「ちゃんと、踏ん切りを付けてから戻ってきて、ね?」
しかし、彼女のこういわれた以上、僕としては残る事は出来ない。
半月後辺りに丁度良いタイミングだからと、申し立てられその日は散会となった。
「そんな顔しないの、また、戻ってくればいいだけの話じゃない……ふあ……」
「……眠いの?」
「うん、ちょっと最近寝付きが悪くてね」
少し目の下に浮いた隈を軽くすりつつ、彼女は自室へと入っていった。
今日は夕食もあまり喉が通らなかったなぁ……。僕も早く寝よう。
それから半月の間は、ぎこちない日々が続いた。
霊夢は務めて普段通りの怠惰っぽい感じと、少し眠そうな態度で何時も通りに僕へ接してくる。
僕も霊夢に頼まれた仕事をこなしつつ、外に帰って何をするかを考えていた。
大学はどうなっているだろう。仲は冷めてしまってはいるが、家族は僕を探しただろうか?
取り留めもない考えばかりが脳裏を過ぎり、あっという間に二週間が過ぎた。
知り合いの人と妖怪に軽い別れの挨拶を交わし、その日は早めに床につく事にする。
幻想郷最後の夕食も、霊夢が適当に作った割には美味しい食事も、何だか砂を噛んでいるような感じだった。
最後に渡された『取って置きのお酒』を飲んだ後、心地よく気怠い酔いを抱えながら布団の中に入り込む。
ポカポカとした感触の中、誰かが部屋の中に入ってきた様な気がする。
(霊夢……?)
問いかける間も無く、僕の意識は闇の中に落ちていった。
次に起きた時、そこは僕が何時も寝ている場所では無かった。
がっちりと組まれた石組みの壁と木で作られた支柱。
壁と支柱には達筆、霊夢の筆で呪文が書かれた札がベタベタと貼られている。
壁に囲まれた八畳間程の広さの座敷は、真新しい畳が敷き詰められている。
そう言えば、近々霊夢が居間の畳を入れ替えるからと里から畳を購入していたっけ……。
そんな一週間ほど前の事を思い出しながらフラフラと立ち上がる。
まだ、身体に力が入りきらない、鼻の中をあの甘い酒精の匂いがツンと通る。
くたりと腰を下ろしながら、周りを見てみる。
自分が寝かされていたのは、自分が愛用していた布団だった。
私物は、数が少ないながらも幻想郷で手に入れたものや、普段使ってる小さな箪笥などが置いてある。
良く見ると知り合いから貰ったものは置いてない。霊夢から譲られたものばかりだ。
良く見ると箪笥の中は全部霊夢から譲られたものばかり。現代日本から持ち込んだ普段着すら入ってない。
八畳間の座敷は、木で作られた格子で外界へと続く梯子と遮断されている。
どうやら、ここは地下室の様だ。しかし、どこの地下室だろう?
「少なくとも、博麗神社じゃないよな……?」
「いいえ、○○。ここは博麗神社よ」
後ろから聞こえた声に振り返る。
そこには、いつの間にか霊夢が居た。
「霊夢、これは……一体、どうして?」
霊夢がにこりと笑う。何処か、無邪気で歪んだ笑顔だった。
「決まっているじゃない。○○を独占する為よ」
霊夢が僕を監禁してから、一ヶ月近くが経過した。
全ては、霊夢の思惑通りに。
霊夢が僕に外の世界に戻るように勧めた理由は、僕を独占する為。
わざと自分から僕に外の世界に戻るように言い、周囲に認知させる。
その後で僕はみんなと別れを直接言うのが寂しいから……と見送りが来る前に『外の世界に帰った』事にする。
みんなは『また帰ってくるだろう』程度の気持ちでいるから、難しくは考えない。
「これで、みんな○○は外の世界に帰ったと錯覚した。フフフ、これで○○は私だけのものよ」
こうして、僕が博麗神社から居なくなっても誰も怪しまない。
帰ってこなくても「ああ、そのまま外の世界に居着いたんだな」で済む。
麗夢は適当に「その内戻ってくるわよ」と言い続ければいい。
彼女が眠そうにしていたのは、この座敷牢をこさえていた為。
フランドール・スカーレットの様な破壊に特化した概念攻撃でも無い限り破れない極めて強力な結界付き。
僕にも、他の誰にも気付かれないように周到に注意を払って構築した。
「だって、私以外の誰にも貴方を渡したくないから。話しかけられるのも嫌。視線を交わすのも嫌。それをしていいのは私だけよ」
その中は霊夢と霊夢に属するものしか存在しない。
与えたものは全て霊夢、これから与えられるものも全て霊夢と霊夢を経由するもの。
彼女の僕に対する執着と偏執は尋常ではなかった。他の要素を全て排してしまった。
「あなたから奪ったものの代わりに、私の全てをあげるから」
あの日、一糸まとわぬ姿で僕に覆い被さりながら霊夢は言った。
彼女は文字通り、自身の愛と純潔を僕に捧げてくれた。
痛みと歓喜を織り交ぜた顔で、彼女は僕に口付けた。
僕の中の、当惑と不安、恐怖が一瞬で溶けて消えてしまった。
確かにあの時、僕は霊夢と彼女が押し付けてきた愛を受け容れてしまったのだ。
それから、僕はこの座敷牢と霊夢を世界としている。
話すのも霊夢、愛するもの霊夢、全てが霊夢に関わっている。
彼女は普段通りに博麗の巫女として務めている。
彼女が彼女のありのままを晒すのは、僕が居るこの座敷牢に来た時だけ。
彼女は異常だろう。でも、僕も異常になったのかもしれない。
歪んだ彼女の偏愛を全て受け容れてしまったのだから。
喪った記憶で、誰かが此処に来た様な気がする。
僕と話をしたような気がする。
『ごめんなさいね、霊夢がこうなってしまったのは気が付いていたわ。でもね、霊夢の愛の形はあの形なの』
『貴方がそうしてあの娘を受け容れている限りは安定している。だから貴方には其所でゆるりと朽ち果てて貰うわ』
『大丈夫よ、あの娘は貴方を決して見捨てたり、貴方への愛を薄らいだりさせはしない。歪んでいても、あの愛は純真なのだから』
『ではお幸せにね、愛に満ちた博麗の供犠よ。あ、そうそう、近々霊夢が貴方に嬉しい報せがあるそうよ』
『この記憶は消えるから、霊夢から直接聞きなさい……』
誰と、話したんだっけ?
そんな取り留めのない考えは、地下室に新設した緩やかな傾斜の階段で降りてきた霊夢の笑顔を見た瞬間に吹き飛んだ。
「どうしたんだい霊夢。やけに嬉しそうじゃないか」
「うん……」
霊夢はほんのりと頬を染め、自分の贅肉の無いくびれたお腹を優しくさすった。
「○○が居なくなってから月日が経ちすぎると怪しまれるからね、頑張った甲斐があったわ」
4スレ目 >>982-983