■早苗1

 朝、家を出て学校に向かう。
 背中に視線を感じて振り返る、だが誰もいない。
 また前を向いて歩き出す、再び感じる視線、振り向いても誰もいない。
 少しだけ道を戻って辺りを確認する、登校中の学生たちが不思議そうにこっちを見てくるが気にしない、電柱の影にも曲がり角の向こうにも自分を見つめる視線の主を見つけることはできなかった。
 三度学校に向けて歩き出し、三度視線を感じ、今度は振り返らない。
 学校に向けて全速力で走り出す、歩いて登校している学生達を一人抜き、二人抜き、それでも視線は離れない。
 自分の後ろにピッタリと張り付いている人間の気配、どれだけ速く走っても決して引き剥がせない、振り向く暇など無い、そんなことをするくらいなら一歩でも前に進む。
 汗だくになりながら学校に到着する、そこでもう一度だけ振り向く。
 自分を追っている人間などいない、どこにでもある朝の登校風景だった。
 火照った体を風が優しく包み込み冷やしていく。
 纏わり付く風が妙に気持ち悪かった。


「気のせいだ、なんて言えないからな。 お前の場合」

 朝のHR前、いつもどおり机に突っ伏していると友人が声をかけてきた。
『自分はストーカー被害を受けている』
 そのことを友人に相談したのは果たしてどれほど前だっただろうか?
 初めは友人も笑いながら 「モテて羨ましい」 なんて言っていたが、それが本気の心配に変わるまでそれほど時間はかからなかった。
 この友人は自分に降りかかる被害を近くで見てきたのだから、相手がどれほど異常なのかを恐らく二番目に理解しているだろう。
 一番はもちろん、被害を受けている自分自身だ。
 自分は大丈夫なことを友人に伝え目を閉じる、疲労していることを知っている友人は何も言わずに席に戻っていった。
 HRまであと10分も無いが少しでも眠りたい、朝の全力疾走はどれだけやってもなれないものだ。

「ええ!? 東風谷さん引っ越すの?」
「どこに? 私手紙書くから」
「どこ? と言われても……手紙も届かない遠いところです」

 女子の声で眠りを妨げられる。
 どうやら東風谷が引っ越すらしい、だがどうでもいいことだ。
 まともに話したことの無いクラスメイトが一人減ったところで自分の生活に変化があるわけでもない。
 それよりもストーカーの方が自分にとってよっぽど切実な問題だ。
 騒がしい女子達の方をちらりと見て、東風谷と目が合った。
 他の女子が世間話で盛り上がっている中、東風谷だけはじっとこちらを見ている。
 その視線に耐え切れなくなり思わず目をそらす、視界から東風谷が消えても分かる、まだ東風谷は自分を見ている。
 絡みつくような視線が妙に気持ち悪かった。


 昼休み、弁当を取り出す者、購買に買いに行く者、食堂に向かう者、別クラスの知り合いと過ごすために教室を出て行く者もいる。
 自分も机の中から弁当を取り出し、教室の隅においてあるゴミ箱に投げ捨てた。
 その様子を教室の人間は誰もとがめない、これも日常的な光景になってしまったからだ。
 捨てた弁当は自分が持って来たものではない、昼休みになるといつの間にか机の中に入っている製作者不明の弁当。
 そう、いつの間にか入っているのだ。
 朝学校に到着した時、机の中に何も入っていないことを確認する。
 そしてそのまま授業を受け、体育も無く、机から離れることも無く、なのに気がつくと手紙と共に弁当が入っている。
 手紙の内容はいつも同じ、 『愛している』『心を込めて作った』『ぜひ食べて欲しい』 といった言葉が羅列している。
 まだストーカーと気がつかなかったころ、単なる恥ずかしがりやの娘が作ったものだと思っていたころは食べていた。
 しかし2回、3回と続き、やがて絶対に机に入れられない状況でも存在した弁当を見たときから食べるのを止めた。
 購買にパンと飲み物を買いに行き、戻ってくる。
 友人はこっちの机と彼の机をくっつけて、彼の母親が作った弁当を広げていた。
 自分の席に座って買ってきたパンの袋を破ろうとして、机の中に何かがあることに気がついた。
 かわいらしい布に包まれた弁当箱、先ほど捨てたものとは別物だ。
 友人は驚いた顔でその弁当を見ている、彼の話によれば自分が教室を出て行ってからすぐに二つの机を引っ付けたとのこと。
 自分が帰ってくるまでの間に机に近寄った人間はいない、ならばどうやってストーカーは弁当を机に入れたのか?
 ここまで来るともはや超常現象の範囲にまで入ってしまう、超能力でも使わない限り不可能なことだった。
 恐る恐る一緒にあった手紙を広げてみる、年頃の女の子が書いたような可愛い字体だった。

『いつもパンだけでは栄養が偏ります、昨日の夕食もカップラーメンで過ごされたようですし、健康のためにも是非食べてください』

 手紙をクシャクシャに丸めてゴミ箱に投げ捨てる、さらに中身の詰まった弁当も投げ捨てる。
 自分を監視している人間は、何か人知を超えた存在のような気がして妙に気持ち悪かった。


 帰宅、財布の中に入れておいた鍵を取り出して家のドアを開ける。
 家の中は真っ暗、共働きの両親はまだ帰っていない。
 明かりをつけながら台所に入り、テーブルの上に存在する物体に気がつく。
 焼き魚、肉じゃが、ほうれん草の和え物、どこにでもあるような和風の夕食と一通の手紙。

『今日の肉じゃがは自信作です、それと鍋にお味噌汁と冷蔵庫に――』

 全部読み終わる前に手紙を握りつぶす。
 大き目のゴミ袋を取り出してテーブルの上の料理を片っ端から突っ込んでいく、味噌汁は汁を流し台に捨て具をゴミ袋に入れる、冷蔵庫の中にあった料理も全部詰め込む。
 どうせ両親は外食だ、作ってある料理はすべてストーカーが作った物に決まっている。
 空になった皿を流し台に入れて水に浸す、本格的な皿洗いは後でいい、とりあえず空腹を何とかしたい。
 カップ麺を備蓄している戸棚を空け……

『こんなものを食べていたら健康に悪いです、勝手と思いますが処分させてもらいました』

 中にあった手紙を破り捨てた。
 財布を掴み靴を履く、部屋の明かりはつけたまま、テレビの電源もワザと入れておいた。
 家の中に人間がいるように思わせる泥棒避けの手段、だがこの程度の抵抗にどれほどの効果があるだろうか?
 恐らく無いだろう、どうせ家に戻ったら 『和食は嫌いなようなので中華にします』 とでも書いた手紙と共に出来立ての料理が置かれているに違いない。
 もちろんそんな物は食べたくない、そんな物を食べるくらいならどれほど健康に悪かろうとジャンクフードの方がまだましだった。
 数百メートル離れたコンビニに急ぐ、登下校と同じように感じる何者かの視線、暗い夜道を一刻も早く通り抜けて明るい空間を目指したかった。
 歩きは駆け足に、駆け足は全速力に変わり、追いかけてくる存在を朝のように振り切ろうとして――風を感じた。
 足が動かない、体が前に出ない、走っている体勢のまま体が硬直している。
 こんな体勢で動きを止めたら倒れるはずなのに、体は重力に逆らって静止していた。
 風が体を縛り付けている、何故か分からないがそう感じた。
 背後に聞こえる足音、今までのように気配だけじゃない、今、確実に、自分の後ろに、奴は、近づいて、一歩一歩、振り向こうとして、顔は動かなくて――

「行きましょう、〇〇さん。 私と一緒に、幻想郷へ……」

 硬直している自分の頬にそっと手が添えられる、後ろにいる奴が触ったのだろう。
 それに気がついた次の瞬間には意識が途切れる。
 頬に残る生暖かい感触が妙に気持ち悪かった。


 気がつくと布団の中にいた。
 体を起こして辺りを見回すと純日本風の和室ということが分かったが自分の家に和室など無い、ここはいったいどこなのだろうか?

「気がつきました? 〇〇さん」

 クラスメイトの東風谷だった。
 どうやらここは東風谷の家らしい、神社をやっていると聞いたことがある、だったらこの純和風の部屋も納得できた。
 どんな状況だったかは分からないが東風谷が助けてくれたらしい、とりあえずお礼を言おうとして……盛大に腹の虫が鳴いた。
 そういえば何も食べていない、昼食に買ったパンが最後だったはず、今何時かは分からないが外が明るい、もしかしたら次の日になってしまったのだろうか?
 両親に連絡を入れないといけないし、平日のはずだから学校にも行かないといけない。

「大丈夫です、ゆっくりしてください。 すぐ食事にしますから」

 何が大丈夫なのか分からないが待つことにする、とにかく今は食事を取りたい、東風谷は一旦部屋を出て行き、すぐに戻ってきた。
 すでに食事は作られていたらしい、東風谷の持つ盆には朝食と呼ぶには少し豪勢な料理が乗っていた。
 東風谷と一緒に部屋に入ってきた少女がおひつを置く、東風谷の妹だろうか?
 カエルを模した妙な帽子をかぶった少女だった。
 その少女から茶碗としゃもじを受け取った東風谷はおひつからご飯をよそう、どうやら冷や飯らしい、固まったご飯は非常に取りにくそうだった。

「ごめんなさい、こっちに来てから電化製品が全滅してしまったので……本当は温かいご飯を食べて欲しかったんですけど」

 電化製品が全滅?
 おそらく食事が冷め切ってしまっているのはレンジで温めなおすことができなかったからだろう。
 そういえば部屋の電気がついていない、停電にでもなっているのだろうか?
 そんなことを考えながら食事に手をつけ一口食べてみる。
 おいしい。
 東風谷はかなり料理が上手らしい、冷え切ってもうまいと感じられる食事は空腹も手伝って見る見るその量を減らしていった。
 その途中視線を感じる、東風谷がじっとこちらを見ている。

「いえ、〇〇さんが私のご飯を食べてくれるのが嬉しくて」

 そんなに嬉しいものだろうか?
 まさか東風谷は自分のことを?
 そんなわけ無いか、東風谷とは単なるクラスメイト、大した話もしたことが無いのに、少しばかり自意識過剰だろう。

「本当に嬉しいです。 だって〇〇さん、いつも私の作ったお弁当や夕食を捨てちゃうじゃないですか?」

 箸が止まった。
 東風谷は今なんと言った?
 いつも? お弁当? 夕食? 捨ててる?
 アレはストーカーの作っているもので、東風谷はクラスメイトで、あの食事は東風谷が作っていたのもで……

 東風谷がストーカー

 頭の中にその方程式が出来上がる。
 東風谷からの視線はいつも登校中に感じる視線と同じだ。
 東風谷の料理は最初のほうに何度か食べた弁当と同じ味がする。
 東風谷の声は意識を失う寸前に聞いたのと同じ声だ。
 ゆっくりと東風谷の方を見る、東風谷は微笑みながらこちらを見ている、あの絡みつくような、獲物を狙う蜘蛛のような。
 立ち上がって部屋から逃げ出す、東風谷と少女は驚いているが構っていられない、一刻も早く此処から離れたかった。
 靴も履かずに縁側から飛び降り、庭を駆け抜ける。
 とにかく広いほうへ、此処が神社なら境内に出て鳥居をくぐればいい、それで東風谷を振り切れる。
 それから真っ直ぐ交番に向かう、東風谷の神社は自宅からさほど離れていなかったはず、頭の中の地図には住み慣れた街がはっきりと浮かび上がっていた。
 境内には女性がいた。
 交番に行くよりも早い、この女性に助けを求める。

「ああ、あんた早苗が連れてきた――ってちょっと」

 話は最後まで聞かなかった。
 あの出だしだけでその女性が東風谷の関係者だと理解できたからだ。
 女性を押しのけ、鳥居をくぐり、階段を下りようとして……足が止まった。
 目の前に広がる壮大な光景、意識を失う前まで街にいたはずなのに、ここはいったいどこだ?
 山があり、森があり、遠くに町、いや村が見える。
 恐らくは日本なのだろうが、何故か元の街に帰ることができないことは理解できた。

「悪いね、早苗にも苦労をかけるから一つくらいはお願いを……ね」
「あーうー、お腹すいた。 早苗、私達もご飯にしよう」
「そうですね、冷や飯しかありませんが、近いうちに何とかしてみせますから」

 東風谷達に追いつかれたが足は動かなかった。
 体中の力が抜けてその場にへたり込む、そんな自分の背中を東風谷が包み込んだ。
 首に腕を回し、体を密着させ、耳元にそっとささやきかける。

「大丈夫ですよ、〇〇さん。 ずっと私がついていますから、どんな困難も二人なら乗り越えられますから」

 東風谷に体を預けたまま空を見上げる。
 都会では見たこと無いような青い空、こんな空を見るのは初めてだ。
 どんなものでも受け入れてくれそうなこの空が、今は妙に気持ち悪かった。



「ねぇ? 〇〇くんはどんなひとをおよめさんにしたい?」
「うーん、おいしいごはんをつくってくれるひと」

 そんな会話をしたのは何年前でしょうか?
 たぶん幼稚園くらいだったと思いますが……私自身よく覚えてません。
 それから別々の小学校に行くことになり、私も風祝としての修行を本格的にすることになって離れ離れになってしまいました。
 だけどこの思いはずっと消えなくて、それどころかもっと大きくなって……
 成長した〇〇さんを見つけたときは心臓がはじけるかと思いました。
 でも声をかけることができません、恥ずかしくて、緊張して、でも我慢できなくて後をつけたりして……
 ある日、意を決してお弁当を作りました……メッセージカードを付けたけど恥ずかしいので私の名前は伏せて。
 体育の時間が終わって皆が教室に戻る前に、自分だけダッシュで戻ってこっそりと〇〇さんの机の中に入れておきます。
 そんなお弁当を〇〇さんが美味しそうに食べてくれたのを見て少しだけ自信が付きました。
 よし! 近いうちに〇〇さんの家に行って夕食を作ってあげよう、両親は共働きだからきっと喜んでくれるはず!
 東風谷早苗、守矢神社の風祝、でも本当は一人の恋する女の子なんです。


 キンピラゴボウにカボチャの煮つけ、風呂吹き大根、どれも冷めても美味しいように濃い目の味付けにしてあります。
 多めにスペースをとった白米の上に炒り卵と肉そぼろを敷き詰めて、真ん中には鮭のほぐし身でハートマークを作りました。
 仕上げに自家製の漬物をお弁当箱の端っこに入れて……完成です!
 私のお弁当ランキングでも間違いなく上位に入る力作、これなら〇〇さんも食べてくれるはず!
 時計を見るともう〇〇さんが学校に出かける時間、私も急いでお弁当を布で包んでかばんの中に入れます。

「早苗」

 玄関を出て鳥居を抜けようとしたところで神奈子に呼び止められました。
 真剣な顔つきでこちらを見られています。

「分かってるね、今日だよ?」

 そう、今日なんです。
 信仰の得られなくなったこちらの世界を捨て、幻想郷へと移住するのは……
 それはすなわち、〇〇さんと永遠に別れることを意味します。
 神奈子様は後悔が無いようにしろとおっしゃられてますが、まだ〇〇さんには告白どころか再会してからまともに喋ったこともありません。
 今日こそは、今日こそはと毎日思っていますが最後の一歩が踏み出せずにズルズルと先延ばしにした挙句、ついにこの日になってしまいました。
 私が黙って頷くと神奈子様は無言でその場を立ち去りました。
 神奈子様は分かってらっしゃるのです、私にはまだ決心がついていないことに。
 でもこれ以上先延ばしにはできません、今日中に決断しないといけません。
 私は……私の決断は……


 〇〇さんの家は守矢神社と学校の間にあります。
 ですから時間を合わせれば比較的簡単に〇〇さんを見つけることができるのです、今日も玄関から出てくる〇〇さんを発見しました。
 今日こそ声をかけようかと近づいて……急に〇〇さんが振り向きます。
 びっくりしました、思わず隠れてしまいました。
 再び声をかけようと思って近づきますが、また〇〇さんが振り返ったので隠れてしまいました。
 〇〇さんが道を戻るとそれに合わせて私も後退します、緊張と恥ずかしさでどうしても目の前に出ることができません。
 三度学校への移動を開始した〇〇さん、今度は走り出してしまいました。
 さすがに男の子、普通なら同年代の女の子の足で追いつけるものではありませんが、私は普通の女の子じゃなくて風祝です。
 魔法の呪文――じゃなかった、守矢に伝わる秘術を発動することで普通に走るよりも遥かに速く飛ぶことができます。
 もちろん陰行の術で姿を隠すことも忘れません、今の世の中で空を飛んでいるところを見られたら大変なことになってしまいますから。
 ピッタリと〇〇さんの後に張り付き、声をかけようとしたところで気がつきました。
 今の状態で話しかけるわけにはいきません、陰行の術が切れてしまいます。
 何もできないまま〇〇さんを追いかけます、結局学校に辿り着いてしまいました。
 結局今日も登校中に話しかけることができませんでした。
 〇〇さんが走り出すとどうしても慌ててしまいます、気をつけようと思っても、ついつい術を使って追いかけて、それから声をかけられないことに気がつくのです。
 全力で走ったせいで肩で息をしている〇〇さんの疲れを癒すためにそっと風を送りました。
 ……純粋に〇〇さんの火照った体を鎮めようと思ったからであって、決して汗の香りを嗅ぐつもりなんて、そんなことあるわけ無いじゃないですか。


「ええ!? 東風谷さん引っ越すの?」
「どこに? 私手紙書くから」
「どこ? と言われても……手紙も届かない遠いところです」

 学校を退学することをクラスメイトに伝えると一見心配したような返事が返ってきました。
 分かっています、この人たちはただいい人を演出するために心配する振りをしているだけです。
 守矢の風祝としての修行と仕事のせいでクラスメイトと遊んだ思い出なんてありません、向こうも私との思い出なんて無い、どうせ手紙なんて書く気もない。
 でも〇〇さんなら、私と離れ離れになるって知ったら、心配してくれますか?
 そう思って〇〇さんの方を見ると……向こうもこちらを見ていました。
 目が離せなくなります、視線を交わすだけでもどれだけぶりでしょうか?
 できることならこのままずっと〇〇さんの瞳を見つめていたいですけど、〇〇さんは目をそらしてしまいました。
 恥ずかしがってくれたんでしょうか?
 だったら私の思い、少しくらい伝わったのかな?
 もう一度目が合うことを期待して、先生が入ってくるまでずっと〇〇さんを見続けていました。


 守矢の秘術を使えば〇〇さんの机にお弁当を送り込むくらい簡単です。
 でも食べてくれません、手紙を見ることも無くゴミ箱行き、この瞬間はいつも悲しくなります。
 でも今日は最後の日、今日食べてくれないともう二度とチャンスはありません。
 こうなったら奥の手です、自分の分のお弁当を送り込むことにしました。
 ノートの切れ端で手紙を作り、何てメッセージを書きましょうか?
 いつもどおりでいいですよね? 『いつもパンだけでは――』
 購買でパンを買ってきた〇〇さんが机の中に気がつき、久しぶりに手紙を読んでくれて、また捨てられてしまいました。
 二個目のお弁当もゴミ箱行き、どうしよう、もう時間が無いのに……

「あれ? 東風谷さん、お弁当は?」
「ちょっと……忘れてしまって」
「お金ある? 少しくらいなら私の分を――」
「ごめんなさい、考え事をしたいので一人にさせてください」

 教室を出て校舎を出て、校庭の隅に一人佇みます。
 悩んで、悩んで、一つの妙案が浮かび上がりました。
 神社に帰ったら諏訪子様と神奈子様に相談することにします、けどとりあえず今は昼食を何とかしないといけません。
 コッペパンくらいなら残っているかな?


 守矢神社に帰る前に〇〇さんの家に寄ります、夕食を作っておかなくてはいけません。
 玄関の扉を開けようとしますが鍵がかかっています、防犯対策がちゃんとできているようで安心しました。
 最近この辺りを巡回する警察官が増えている気がします、きっと泥棒でしょう、最近は物騒ですし、〇〇さんの家が狙われないか心配です。
 扉を開けるため、懐から合鍵を取り出して鍵穴に差込みます。
 合鍵ですよ?
 どんなに細くても合鍵です、何言ってるんですか、ハリガネなんかで十秒たらずで鍵が開くわけ無いじゃないですか。
 だからこれは合鍵です、ええ合鍵ですとも、何度鍵を付け替えようと〇〇さんの家に入れる魔法……じゃなかった、守屋の秘術の合鍵です。
 今日の献立はごはん、お味噌汁、焼き魚、肉じゃが、ほうれん草の和え物、タコの酢の物。
 特に肉じゃがは自信作、昆布だしからかつおだしに変えてみました。
 〇〇さんが食べる分をお皿に分けて、持って帰る分をタっパーに詰め込みます。
 後はメッセージを残して、ふと思うところがあって戸棚を開けました。
 中には大量のカップ麺、こういうのは健康に悪いのに……全部処分しておきましょう。
 一応ここにもメッセージを残しておきます、勝手に処分したら悪いですし。
 さあ、帰って諏訪子様と神奈子様の説得です。
 御二人とも優しい方ですし、きっと私の考えに賛成してくださると信じてます。


「早苗がそうしたいって言うなら、私は賛成」
「そうだね、向こうに行ったら今よりも苦労をかけることになるだろうし……ワガママの一つくらいは聞いてやらないとね」

 私が御二人にしたお願い、それは〇〇さんを幻想郷に連れて行く許可でした。
 初めはいい顔しなかった御二人も私の必死の説得で納得してくださりました。
 包丁を自分の首筋に当てて 「お願いを聞いてくださらないなら東風谷の家系を今代で途絶えさせます」
 半分は本気でした。
 幻想郷に行っても、ここで死んでも〇〇さんに会えなくなる、どちらも同じようなものでしたし。
 でも幻想郷に行く時間を延ばすわけにはいきません、今日の24時までに〇〇さんを説得し、本人が納得したらという条件です。
 時計を見ると現在19時過ぎ、あと5時間程度しかありません。
 急いで〇〇さんの家に向かうと、丁度〇〇さんが玄関から出てきたところでした。
 この時間に外出なんて、コンビニでも行くつもりでしょうか?
 声をかけるタイミングがつかめません、恥ずかしがりながら後をつけていると〇〇さんは急に走り出しました。
 どうしよう、人目も無いですし飛んでもいいですけど、話を聞いてもらうために止まってもらうことにします。
 守矢の秘術で風を操り〇〇さんの動きを停止させ、それからゆっくりと近づきます。
 何て声をかけよう、何て話を切り出そう、ううん、こういう時こそ自分の想いを真っ直ぐにぶつけるべきだろ思いました。

「いきましょう、〇〇さん! 私と一緒に幻想郷へ!」

 すると〇〇さんは……うなずいてくれました! 今! 確かに!
 嬉しいです、人生で一番と言っても過言ではありません、嬉しすぎて思わず〇〇さんの頬に手を触れてしまいました。
 それに、それに私と一緒に幻想郷に来てくれる決断をしてくれたってことは、やっぱり、将来は私と……
 恥ずかしい!

 コキャ

 軽い音がしたかと思うと〇〇さんの体が崩れ落ちました。
 あれ? 〇〇さんの首が変な方向に……
 大変! 早く病院、いえ、今日中に幻想郷に行くんですから守矢神社に連れて行かないと。
 諏訪子様と神奈子様なら何とかしてくださるはずです。
 ぐったりとした〇〇さんを背負うと、守矢神社に文字通り飛んで帰りました。
 〇〇さんが目覚めた時にはもう幻想郷、これからもよろしくお願いします。


 幻想郷での初めての朝を、私は〇〇さんと同じ部屋で迎えました。と、言っても別に恥ずかしいことはしていませんよ?
 〇〇さんが意識を失ったのは私のせいですし、枕元で寝ずの看病をしていました。
 体に染み付いた守矢の体術 (関節技) は正確に決まったらしく、特に後遺症も無く、蓄積している疲労で眠っているだけだと諏訪子様はおっしゃられました。
 その診察は正しく、朝日が上って少ししたら〇〇さんは目覚めました。

「気がつきました? 〇〇さん」

 〇〇さんは不思議そうに周囲を見回しています、昨日道端で気絶して目覚めたら私の家、混乱してもしょうがないです。
 私のことに気がついた〇〇さんは何か言おうとして、盛大にお腹を鳴らせました。
 なにはともあれ朝食ですね、昨日の普段の疲労が蓄積していたらしいですし、もう少し寝た方がいいのかもしれません。

「大丈夫です、ゆっくりしてください。 すぐ食事にしますから」

 部屋を出て台所に向かいます。
 でもガスコンロも炊飯器も、レンジも冷蔵庫も動いていません。
 こんなのじゃ昨日の残り物しか出せない、せっかくだから出来立てを食べて欲しかったのに……残念です。
 お盆に料理を乗せると諏訪子様がおひつを持ってくださりました。

「諏訪子様、そういうことは私が……」
「いいよいいよ、これから一緒に住むんだし、挨拶くらいはしないと」

 諏訪子様と一緒に〇〇さんの部屋に戻ります、〇〇さんはまだ少し寝ぼけているようでした。
 お茶碗を渡すと〇〇さんは一口食べて……おいしいと言ってくれました!
 そんなに慌てなくても大丈夫です、ご飯はまだたくさんありますから。
 〇〇さんが私の作ったご飯を食べてくれるのが嬉しくて、もう目を離すことができません。
 そんな視線に〇〇さんも気がつき、食べるところを見られるのが恥ずかしいらしいですが、私はこのまま見ていたいです。

「〇〇さんが私のご飯を食べてくれるのが嬉しくて……本当に嬉しいです。 だって〇〇さん、いつも私の作ったお弁当や夕食を捨てちゃうじゃないですか」

 箸が止まりました。
 どうしたのでしょう? いそいで食べたから喉に詰まったのでしょうか?
 お茶を用意しないと、でもお湯を沸かすことができませんし、一応幻想郷に来る前に水は買っておきましたけど、やっぱり温かいお茶の方が……
 そんなことを考えていると〇〇さんが部屋を飛び出しました。
 靴も履かずに庭に飛び降りると境内に向けて走り出します、いったい何があったんでしょうか?
 急いで追いかけると鳥居のところで追いつきました。
 〇〇さんは幻想郷の風景を見つめたまま止まっています、そして腰を抜かしたかのようにその場に座りました。
 都会育ちだったらこの壮大な風景は結構ききます、近代的な物など何一つ無い、酷い言い方をしたらド田舎と言ってもいいでしょう。
 こんな中で生活するなんてどれだけの苦労があるでしょう、日常生活だけでも苦しいでしょうし信仰の獲得もしないといけません。
 けど大丈夫です、私達には諏訪子様と神奈子様が付いておられます、それに――

「大丈夫ですよ、〇〇さん。 ずっと私がついていますから、どんな困難も二人なら乗り越えられますから」

 〇〇さんの体をそっと包み込みました。
 温かい、〇〇さんの温もりが伝わってきます。
 顔を上げてみてください、都会じゃ決して見れないような青い空がとっても綺麗です。
 どんなものでも受け入れてくれそうなこの空が、きっと私達を祝福してくれます。



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「――早苗、どこ? 一人にしないで……」

 寂しくて、心細くて、僕は早苗を探し回る。
 しばらく歩いていると、神奈子様に会った。ちょうどいい。

「あの、神奈子様。早苗がどこに行ったか御存知ないですか?」
「早苗? あの子なら博麗の巫女の所に出てるよ。まあ、宴会の打ち合わせなんかじゃないの?
 聞いてなかったのかい?」

 不思議そうに首を傾げる神奈子様。それも道理だろう。
 僕自身、早苗が何も言わずに出かけたことが未だに信じられない。

 悲しい、寂しい、苦しい、怖い。
 嫌だ、早苗、何で。
 いつも僕に断ってから出かけてたのに。
 体が震えてくる。
 歯もカチカチと鳴ってしまう。
 心が冷え切ってくる。

「……○○、顔が真っ青だよ。早苗なら直ぐに帰ってくるさ。早苗があんたを放り出す訳が無いんだから。
 それより、あんたがそんな顔してたら、早苗に心配かけるよ?」

 ……神奈子様の仰ることも尤もだ。
 早苗が僕を見捨てるわけがない。ずっと前に言っていたじゃないか。
 かつて、とあることで絶望していた僕に言ったのだ。

『心配しないで、○○さん。絶対に直してみせます。私はコレでも現人神ですよ?
 神奈子様と諏訪子様もおられますしね。それに――』

 その言葉に、僕はどれだけ救われたか。

『――ずっと護りますから。あらゆる事から○○さんを』

 男として情けないとか、女々しいとか、色々と意見はあるだろう。

 しかし、僕は早苗に縋った。縋ってしまった。
 心が壊れそうだった。そこに救いをくれたのが早苗だったのだ。

 それから、早苗は僕を洩矢神社に置いてくれて、僕の心の支えになってくれた。
 ひどく当たり散らしてしまったこともある。
 それでも早苗は僕を見放さず、献身的に世話をしてくれた。

 陳腐な表現だが、女神の様だと思った。
 尤も、早苗は現人神なので、本物の女神であるのだろうが。

「ほら○○、もう部屋で休んでな。あんたのことに限っては、早苗は本当に心配症なんだから」

 神奈子様が心配そうに言うので、部屋に戻ることにした。
 早苗がいないのは悲しいが、それで体調を崩せば早苗に心配をかけてしまう。

 早苗、まだかな……。
 忙しなく、10分毎くらいに外界の産物の腕時計を見る。

 幻想郷の空は、くっきりと澄み渡っている。
 それでも、隣に早苗がいなければ、こうまで味気ないものなのか――。

 今ここにはいない早苗のことを想い、寂しさから溜め息を吐いた。




















〈後書き〉
 いわゆるプロローグです。○○の、早苗に対する依存の深さを感じてくだされば幸いです。
 なぜ○○がこうなったのか? それはまた次回に。
 『早苗さんの策謀&病み劇場』、開幕です。






 すいすいと、この青い空を泳ぐように飛びます。とてもいい気持に……。
 ――っと、いけませんいけません。のんびりしてはいられないんでした。

 私、東風谷早苗は現在、帰宅を急いでいます。
 何時もは○○君に告げてから外出するのですが、今日は急な呼び出しだったため、
 ついうっかり言わずに出てきてしまったのです。
 らしくないミスをしてしまいました。

 ○○君はとても寂しがり屋です。それこそ、永遠亭の兎さんともいい勝負でしょう。
 神社には神奈子様も諏訪子様も居られますが、こればかりはお二人といえど、私の代わりは出来ません。

 私と○○君は、世間一般で言う『恋人同士』ですからね♪
 ふふっ、やっぱりいい響きですよねぇ〜。

 彼は私を必要としてくれて、私も彼を必要とする。
 恋人ならそんなの当たり前?
 私たちは上辺だけの関係とは違いますからねー♪
 私は○○君のいない世界なんて興味はないんです。
 ○○君にも、以前に冗談で『私が居なくなっちゃったらどうします?』って訊いてみたんですけど――。
 訊いたことをこちらが後悔するくらいうろたえ、悪い所があれば直すから、と必死に縋ってきたんです。
 私が居なくなってしまうと勘違いしたのでしょう。
 
 私が○○君を見捨てるわけがありませんからね。
 すぐに冗談ですよと言ったんですが、その時の瞳は忘れられません。
 私しか映っていない、私だけを移すその瞳――。

 どうです? まさに二人だけの世界です。

 そう、私たちは二人で一人。
 世界の半分は○○君で出来ていて、もう半分は私です。
 他には何も要らない。○○君がいれば、他には何も――。

 ほう、と息を吐き、私はこれまでの事を思い出していた。








 私が○○君と初めて出会ったのは、幻想郷に来てからではなく、外界の学校でした。
 目立たないし大人しく、本ばかり読んでいる地味な人、というのが第一印象でした。
 言葉を交わすこともあまりなく、ただのその他大勢の人で終わる可能性もあったでしょう。

 それが変わったのが、あるお正月でした。
 ○○君が家の神社に初詣に来たのですが、その折に挨拶を受けたんです。
 普通にクラスメイトにするような挨拶だったのですが、ちょうどその時に諏訪子様が私に声をかけて、うっかり返事をしてしまったんです。
 はたから見れば、何もない空間に話しているようにしか見えません。
 どう誤魔化そうかと必死に考えていると、東風谷さんも見えるの? と、○○君は諏訪子様の姿をしっかり捉えていたんです。
 驚いたのは私と諏訪子様でした。
 諏訪子様は土着神の頂点に立つような力の持ち主です。多少霊視が出来る程度では、とても視認できません。
 
 訊いてみると、○○君は物心ついた時にはすでに霊的な事象が見えていたそうです。霊と話すことさえ出来たと。
 しかし、それは周囲からすれば奇異にしか映らなかったそうです。
 何もない空間に話しかける我が子――。
 まず、親に気味悪がられたそうです。嘘じゃないと訴えても、軽く流されてしまう。
 
 取り合ってくれない親に早々に見切りをつけた○○君は、一番の友達に話したそうです。
 しかし、やはりと言うべきか、子どもというものは自分達と異なるものは、受け入れません。
 そしてそこには、子どもゆえの残酷さも含まれます。
 
 ○○君は周囲から仲間はずれにされたそうです。お前は嘘吐きだ、と言われて。
 それでも見えると訴える○○君は、ついには両親に叱られたそうです。

 誰も信じてくれない――。

 そう結論付けた○○君は、周囲との付き合いを最低限にし、一人でいるようになったそうです。

 私は黙って聞いていました。
 たぶん今まで誰にも話していない事だったのでしょう。学校で見る○○君からは考えられないくらい饒舌でした。
 それに、その話は私にも通ずるモノがありました。

 私はこの家系に生まれ、そういう霊的なモノは物心つく前から当たり前にあったものでした。
 家族も当然、私のことを奇異な目で見たりしませんし、神奈子様も諏訪子様もいて、そんな日常が当たり前でした。
 外でも、最初はおかしな顔をされてしまいますが、私の出自を聞くとあからさまに馬鹿にするような態度はされなくなりました。
 それでも、透けて見えるものはあったので、面白くありませんでしたが。
 私は信じてくれる人が周りにいるだけ幸せだったんだな、ということに気付かされました。

 話していた○○君は、はっとして黙り込んでしましました。いきなりこんな重い話を聞かせてごめん、と。
 全然迷惑には思っていませんでしたし、一緒に聞いていた諏訪子様も首を横に振っていました。
 ○○君は明らかにホッとしたようでした。幼いころにそんな思いをしたのなら、その反応も当然でしょう。

 その後も私と○○君の交流は続きました。
 神奈子様にも○○君を紹介しましたが、やはり驚いておられました。幻想の力の薄い外界では、神様を視認できる人などそうそういませんしね。
 ○○君は、神奈子様と諏訪子様のお眼鏡にも適って、とても気に入られました。
 神を奉ずる家系に生まれなかったにも関わらず、○○君の態度が適切なものだったからでしょう。

 非日常(私と○○君にとっては普通ですが)を共有していたからか、私と○○君の距離は非常に近いものとなりました。
 きっとその頃から、無意識下では思っていたのでしょう。ずっと一緒にいたい、と。

 楽しい時はあっという間に過ぎ、私たちは幻想郷に旅立つことになりました。
 しかし、頭では仕方ないと理解していても、心は悲鳴を上げていました。
 旅立てば、○○君に会えなくなることは明白です。この時の私は、もう完全に○○君のことを好きになっていました。

 悩みに悩んだ私は、○○君はこの世界は嫌いだと言っていたし、いっそのこと一緒に行ってしまえば……とさえ考えました。
 そして、そんな事を考えてしまった自分を酷く嫌悪しました。
 ○○君が言っていた事は本当だけど、私たちは別の世界に行くのです。
 ○○君を連れて行きたいなど、とても許されません。彼に全てを捨てさせる権利なんて、私にあるわけがない、と。

 ひどい顔をしていたのでしょう。神奈子様も諏訪子様も、心配そうにしていました。
 おそらく、私が何を悩んでいるかもお見通しだったと思います。生まれてからずっと一緒にだったのですから、それも当然でしょうが。

 そして旅立ちの日、私は自分の手で、○○君の記憶を消すことを決断しました。
 向こうに行ってしまえば、この世界から私たちの痕跡の一切が消えうせるため、いちいちやらなくてもいい事ではありましたが、
 私としては、○○君だけは自分の手で記憶を消したいというのが、悩んだ末の答えでした。

 公園に○○君を呼び出して、術をかけました。術をかけられる瞬間まで、○○君は笑っていました。私の大好きな笑顔で。
 崩れ落ちた○○君をベンチに寝かせ、私はその場を後にしました。振り切るように、全速力で。

 途中で息が切れたとき、どうしようもなく悲しくなり、止め処なく涙が溢れてきました。夜で人通りがなかったのは幸いだったのでしょう。
 泣きたくなるほど人を好きになるなんて、以前の私からは考えられませんでした。そんな物は話の中だけのことだ、と。
 
 もう○○君の事しか頭に浮かびませんでした。

 私と話をして笑顔を見せてくれた○○君――
 神奈子様にからかわれて困った顔をしていた○○君――
 諏訪子様に引っ張り回されてクタクタになっていた○○君――

 もっと、もっと一緒にいたかった……!
 もっと、もっと○○君の事、知りたかった……!
 もっと、もっと私の事も知ってほしかったのに……!

 だけど、結局想いを伝えることもできなくて。
 悩むばかりで行動に移すこともできず、挙句、私がしたことは彼の記憶を奪うことのみでした。

 こんな酷い女は、彼に忘れられた方がいい――

 そんな考えに落ち着いた私は、神社に着いた後、痛ましい表情の神奈子様と諏訪子様に出来る限り平気に見える顔で、事の次第を告げました。
 お二人はしばらく黙っていましたが、早苗が決めたことなら私たちはそれを支持する、と言って下さいました。
 やはり、神奈子様と諏訪子様には全てお見通しだったのでしょう。お二人の心遣いに感謝しました。

 


 かくして、私たちは幻想郷へ旅立ちました。
 新天地ではやることも多く、忙殺される毎日でしたが、私にとってはむしろ救いでした。
 暇になると○○君のことが浮かんでしまい、やり場のない悲しみを持て余すことになるのです。

 それでも、悲しみというものは時と共に薄れるものです。
 行き違いから私たちが騒ぎを起こしてしまい、霊夢さん達にコテンパンにされたりするうちに、
 多少は落ち着いて○○君の事を考えられるようになっていました。

 神奈子様と諏訪子様にはずいぶん心配をかけたことだし、もうしっかりしないと――
 そう考えていた矢先の出来事でした。

 この幻想郷で――
    
    妖怪に襲われている――

       ○○君を見かけたのは――


                                                続く……


























〈後書き〉
 続きます、ゴメンナサイ……。
 ヤンの成分が冒頭に少ししかないですね(汗)。
 でも、早苗が○○を好きになる過程はどうしても書きたかったので、平にご容赦を。

 さて、ついに幻想郷にやってきた○○。
 吹っ切れかけていた早苗は○○と再会し、もはや想いを止められない。
 どうなるどうなる二人の顛末!?






 信じられないモノを見ると、何も考えられなくなるって本当なんですよ?
 再会したあの日、あの瞬間の私は、まさにそんな感じだったんですから――





 


 人里に用事があった私はその帰り、妖怪に襲われている人を見かけました。
 必死に走って逃げているその人は、里の人たちとは違った、外界の人たちが着るような洋服を着ていました。
 しかし、どうにもその服には見覚えがあったんです。

 目を凝らしてよく見てみると――

 その瞬間の私は、頭が真っ白になっていたのでしょう。
 それでも、体はその瞬間から動いていたみたいですが。

 ○○君……?
 ○○君……。

 ○○君――!!

 私は全速力でその場に向かい、○○君に手を出そうとしていたその妖怪を滅しました。
 妖怪の体はバラバラに風化していきました。

 その近くで、木に背中を預けていた○○君は、呆然としてこちらを見ていました。

 お互いに言葉が出ませんでした。

 ○○君は口をパクパクさせるばかりで、これ以上ないくらいに混乱しているようでした。この幻想郷にいきなり来てしまったとすれば、無理もない反応です。
 私は私で、ただただ○○君のことを見つめていました。
 伝えたいこと、謝りたいことは星の数ほどあるのに、上手く言葉にできませんでした。

 でも、考えているうちに体は自然と動いていました。
 私は○○君に抱きついていました。彼の名前を呼びながら。
 私はもう、考えるのを止めていたのでしょう。
 愛おしくて愛おしくて、仕方がありませんでした。

 私はその時に、初めて気がつきました。
 ああ、私は○○君のことが好きだったんじゃなかったんだな――

 ○○君のこと、愛してたんだ――

 ○○君も落ち着いてきたようで、私に抱きしめられてあたふたしながらも、ここが何処なのか訊いてきました。
 抱きついていては説明できないので、私は残念に思いながらも離れました。
 
 一通り、幻想郷についての説明が済むと、今度は私から○○君に尋ねていました。
 何をしていたらこの世界に来てしまったのか、ということです。
 私としては、彼がここにいるということだけが大切なのですが、外界での彼の事も聞いておきたかったのです。

 あの別れの日、○○君はあの後しばらくして目が覚めたそうです。
 なぜこんな時間に公園にいるのか訳が分からなかったそうですが、そのまま帰宅したそうです。

 それからしばらくは、何か違和感を感じながらも普通に過ごしていたそうです。

 ただ、いよいよその違和感に我慢がならなくなり、自分で調査をしてみることにしたそうです。
 手始めに、街の中を歩いてみることにしたそうです。自分でも行き当たりばったりだと思ったそうですが、学生に取れる手段などこんなモノしかないと諦めたそうです。
 
 調査といっても街中を歩いて回るだけ。それに、その調査したいものというのは『違和感』という、何とも漠然としたもの。
 ○○君も何かが分かるとは思っていなかったそうです。
 そして、しばらく経ったある日、○○君は神社の方に足を伸ばしたそうです。本当に何となくだったそうです。

 境内に入り、しばらくぼうっとしていたそうですが、初めて来るはずの場所なのに何故かそうは感じなかったそうです。
 気になった○○君は神社の中を歩いてみたそうです。
 すると、唐突にフラッシュバックが走ったといいます。

 会った事の無い筈の、3人の女の人と話す自分の姿――

 しばらく蹲っていた○○君は、そこで全てを思い出したそうです。
 
 次の日には、学校で先生に私のことを訊いてみたそうです。しかし――
 東風谷早苗という生徒は、いない。また、過去の卒業生にいたこともない。
 それが分かっただけだったそうです。

 愕然とした○○君は、今度は役所に行ってみたそうです。
 そしてうちの神社のことを訊いてみても、私の存在だけが消えている、といった具合だったそうです。

 失意の○○君は、無意識に神社まで来ていたそうです。
 境内に入り、呆然と辺りを見回し、そしてようやく神奈子様たちの気配が消え失せているのに気がついたと。
 そして、私たちがこの世界から居なくなっていることを、ようやく認識できたそうです。
 何も考えられず、○○君は帰宅したそうです。

 それからしばらくは、神社に入り浸る日々が続いたそうです。暇な日には、殆ど神社に居たといいます。
 
 そしてしばらくしたある日、○○君は私が掃除に使っていた箒を見つけたそうです。
 私たちの一切の痕跡が消えていたため、見つけたのは本当に偶然だったそうです。
 神奈子様と諏訪子様、そして私の気がかすかに残っていたその箒。

 それを持ったまま呆然としていると、楽しかった日々の記憶が蘇り、涙が止まらなくなったと。
 また会いたいと、会えるなら、その為ならこんな世界に未練なんてないと、そう願ったと。

 叶うはずもないと思いつつも、願わずにはいられなかったと。○○君はそう言いました。

 そして、それからすぐ、ザアッと一陣の風が吹き、目の前が真っ白になったか思うと――
 知らない森の中にいた、ということだそうです。








 ○○君は照れたように彼方此方に視線を彷徨わせていました。顔も赤くなっていました。
 もっとも、私もいい勝負だったと思いますけど。
 
 また私は○○君に抱きついていました。想いが溢れて止まらなかったんです。
 ○○君の話を聞いて、○○君も私のことを……? と思ってしまうのは仕方のないことですよね?
 
 どちらともなく、自然と私たちは見つめあっていました。私は期待するような眼をしていたと思います。
 やがて○○君が、早苗、と私の名前を呼びました。初めて呼び捨てにされた私は、心を躍らせました。

 そして――
 好きなんだ、と。これからもずっと一緒にいたいんだ、と。
 何度も夢見たその言葉を、私にくれました。
 
 私たちの影は、自然と重なりました。
 もう離れません。今まで離れていた分も、ずっと一緒だと。
 違う世界という壁で隔てられても、私たちはまた会うことが出来たんですから。
 何物も、私たちを阻むことはできません――








 手をつないで神社に帰ってきた私たちを、神奈子様と諏訪子様が出迎えて下さいました。
 しかし、お二人は○○君がいることに驚いていません。
 気になったので訊いてみると、驚きの事実が発覚しました。
 あの箒を残していったのは、なんとお二人だったそうです。
 なぜそんな事をしたのか訊いてみると、バツが悪そうに答えてくださいました。

 早苗が○○に惚れているのは最早明白だが、私たちは幻想郷に行かなければならない。
 自分たちの力で○○をさらって、無理やり連れていくこともできるが、早苗がそんな事を望むとも思えない。
 結局は早苗に○○の事を諦めさせることになってしまうが、それでは余りに不憫だと。
 そして、これを解決するために、一寸した試練――というか、もはや賭けに近い方法を思いついた。
 消された記憶を取り戻し、私たちのことをはっきりと思い出して、
 その上であの箒を見つけ、そして心から早苗に会いたいと○○が願えば、こちらに来られるような細工を箒に施すことにした、と。

 その話を聞いて、私は涙を流してお二人に感謝しました。
 お二人は、私たちが早苗の幸せを願うのは当然じゃないか、と仰いましたが、その心遣いで、また○○君と出会えたのです。

 お二人は○○君に近寄り、

 全く、大したもんだよ。世界まで越えるなんて――
 そこは○○の早苗への愛情の深さだよねー、神に引き裂かれた二人の男女が再びめぐり合う、なんてさ――
 おいおい、それじゃ私らがまるっきり悪者じゃないか――
 実際そうじゃない? でもいいよねー、早苗もさ。女として最高の幸せだよ、ここまで想ってくれる男がいるなんて――
 まあ、それは言えてるね。いい男には、神も人間も関係ないのかねぇ――
 本当にねー。ということで○○、早苗を絶対幸せにしてあげてよ? じゃないと――
 神様二柱で祟るからね?――

 ○○君は確りと頷き、約束します、と言いました。
 神奈子様も諏訪子様もニコリとして、それからは外界に居た時のように話し始めました。
 
 あの時と同じように神奈子様がからかい――
 あの時と同じように諏訪子様が引っ張り回すその光景――

 私は、最高の幸せ者です――










 それからしばらく経って、○○君も幻想郷に慣れてきた頃――
 ある事がありました――

 皆さん知っているでしょうけど、念のため、もう一度言っておきましょうか――

 私は○○君のものです――
 ○○君のためなら全てを捧げられます――

 ○○君も私のものです――
 神奈子様や諏訪子様ならともかく、それ以外の人が軽々しく接していいはずないんです――
 
 だ か ら

 ○○君に手を出そうとした人には――
 すこーし『お灸』をすえちゃいましたけど――

 それも仕方のないことですよね――?

 え――?

 その話、興味あるんですか――?

 へぇ、そうですか。なら仕方ありませんね――

 では私、東風谷早苗の講談会――

                           は

                           じ

                           ま

                           り

                           は

                           じ

                           ま

                           り






                                                続く……





























〈後書き〉
 今度は病み成分が終わりに少し……(汗)
 全体に渡って病みを期待していた方々、拍子抜けさせてしまってすみません。
 いきなり病みバリバリで書いてもいいのでしょうが、やはり病む下地って大事だと思うんです。
 今回は、想いを伝えあった二人でした。
 これでもう、早苗さんの○○好き好きメーターは、いつ振りきれてもおかしくありません(笑)。
 

 再び出会った二人――
 しかし、早苗の○○への愛は常軌を逸し始める――

  『――あはっ、やっとわかりましたよ。
             この幻想郷では――
                   常 識 に
                     囚われては
                       いけないんですね――♪』






 ――愛している女は、男から愛されていないのではないかといつも恐れている――

 こんな言葉を知っていますか?
 なるほど、人間、というか女性の心理をうまく表現してるなと、私も思っていました。

 思っていたのは過去ですよ? 今はそんなこと微塵も心に浮かびませんしね。
 お互い信じていれば、怖いものなんて何もないんですから!
 障害なんて、何ほどのモノじゃありませんとも!

 障害なんて――

 障害なんて――!

 邪魔なものは、すべて取り除くんです!
 誰にも私たちの邪魔はさせません!!
 
 それなのに――

 それなのに――!








                        何デ私タチノ幸セヲ壊ソウトスル人ガイルノ――?

                        詰マラナイ人ガイルンデスネ――

                        本当ニ哀レナ、イケナイ人デス――

                        人ノモノヲ盗ッタラ泥棒ナンデスヨ――?

                        泥棒ニハオ仕置キガ必要デスネ――

                        トイウ訳デ――

                        障害ハ――

                        排除シチャイマス――♪












 あはははははははははははははは――!!
 
 人の恋路を邪魔する奴は、という諺を知らなかったんでしょうかね?
 まあ、知らなくても許しませんでしたけど♪

 それにしても○○君、こちらの人たちには矢鱈と好かれやすいんですよね。
 はじめから幻想郷にいたと言っても、全然自然な雰囲気ですし。

 でも、このままだと○○君、悪い虫に食い物にされちゃいます。
 ○○君は傷つきやすいんです。そんなのは完全に却下です。私も神様も許しません。

 ですから――

 私が大切に、大切に、愛情いっぱい注いであげるんです。

 それが私たち二人のため――

 そう、私たちは二人で一人――
 私のすべては貴方のために――
 貴方のすべても私のために――
 どちらが欠けても、生きていけない――
 
 ○○君もそうでしょう――?

 貴方のためなら私、何を捨てても惜しくはないんです――

 常識に縛られた生き方も、何でも、なーんでも――!!
 
 貴方は私の生きる理由

        貴方は私の存在理由

             貴方のいない世界なんてゴミ同然

                      貴方がいるから私も生きてる 

 好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、
 すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、
 スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、
 愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる。

 ○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、
 ○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、
 ○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、
 ○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君。


                      だーい好き!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!






















 ○○君、どうしたんですか? そんなに落ち込んで。

 人里の知り合いが亡くなった?
 ああ、もしかしてあの人ですか?

 何でも、はるか遠方での弾幕ごっこの流れ弾が『運悪く』命中してしまい、それ自体に殺傷能力は無かったからよかったものの、
 当たった弾の勢いまでは殺しきれなくて転んでしまって、それが原因でまたさらに『運悪く』頭を打ち付けて亡くなったあの人ですか?

 そうですか、知り合いだったんですね……。

 あの、○○君。これから言うこと、落ち着いて聞いて下さいね?

 非常に言いにくいんですけど……、そのお知り合いの方が亡くなったの、○○君の、とある霊的体質の可能性が高いんです。

 鍵山雛さん、御存知ですよね? そう、この山にいらっしゃる厄神様です。
 ○○君の体質は、その厄神様の性質と変わらないんです。そう、周囲の厄をため込んでしまうんです。○○君には影響無いんですけど……。

 ……その通りです。体の周囲にため込んでいた厄を、そのご友人にうつしてしまったんです。
 その結果、まるで普通では考えられないような不運で亡くなられた、というわけです……。

 ……○○君、どこに行くんですか?
 
 止めてください! 死ぬ気ですか!? そんな事をしてどうなるっていうんです!
 貴方は人殺しなんかじゃない! 私もこの事件のことがあるまで知らなかったんです! 神奈子様や諏訪子様だって御存知なかったはずです!

 故意じゃないとはいえ、人を死なせてしまったのは事実? だから○○君も後を追うと?

 ――ふざけないで下さい!!

 ○○君が死んだら、また悲しむ人たちが増えるんですよ!?
 人里の仲のいい人たち、神奈子様と諏訪子様、それに――私。他にも心当たりはあるでしょう!?

 そんなこと、絶対に駄目です!

 それに、諦めるのは早いですよ。
 体質改善のための心当たりがあるんです。私が対策も無しにこんな、○○君を追い詰める様な事をいうわけないでしょう?

 それで、方法なんですけど……。
 
 十年間、うちの神社から一歩も出ないでもらいたいんです。
 神社の中を歩き回るのは構わないんですけど、外に出てはだめなんです。
 とてもつらいと思いますけど、厄を落としきって、体質を解消するためなんです。
 分かってもらえますか――?

 ――そうですか、よかった! じゃあ早速今から――。
 ――? どうしたんですか、○○さん?
 
 え、どうしてこんなに親身になって助けてくれるのか、ですか?

 ――理由なんて、必要ですか?

 まあ、あえて言うなら○○君のことを、あ、あ、愛しているから、でしょうね。
 ね、愛する人を助けるのに、理由なんていらないでしょう?

 ああ、泣かないで、○○君。

 絶対に貴方を助けますから。

 他の人が貴方を見捨てても、私だけはずっと傍にいますよ。

 だから安心して?

 ずっとずっと、貴方の事を護りますから。


























 どうでしたか? 私と○○君の愛の劇場!

 神話の神様でも、こんなひた向きな女性はなかなかいませんよ?

 これからも、私たちの物語は続いていくんです! 良ければ応援して下さいね?

 ――え? ○○君の霊的体質は本当なのか、ですか?

 うーん、そうですね……。まあ、いいでしょう、貴方は口が堅そうですから。

 ――嘘も方便って諺、知っていますか? ○○君に嘘を吐くのは本っっっっっ当に心苦しいんですけど……。
 ○○君を悪い虫から守るためなんです。○○君は私が大切にするんです。傷つく可能性のある外になんて出せません。

 まあ、最近は○○君も外に出たがらないんですけどね。
 神社ではいつも私の傍にいて、「早苗、早苗」って。ふふっ、可愛い○○君♪
 これも私の、献身的なお世話のおかげです。

 ん、そろそろいいんですか? そうですか、ではまたお会いしましょう。

 あ、そうそう。

 貴方が今日聞いたお話は、オフレコでお願いしますね?

 誰かに話したりしたら、その人もろとも――








                  転 ん で 死 ん じ ゃ う か も し れ ま せ ん か ら ♪









 では、またお会いできることを祈ってますよ?

 ふふっ――♪















































〈後書き〉
 これにて完結です。
 僕的には、こうやって策謀でもって主人公の方が離れられないようにするタイプが好みです。

 さて、策士早苗さんのヤンデレ、いかがでしたか?
 みなさんが少しでも楽しめたなら、幸いです。



>>up4987 up4989 up4992 up4995






!月#日

今日も仕事の合間を縫って人里へ行った。
私の○○には会えなかった。残念。
仕事場にも足を運んだけど居なかった。
大工達の雑談を聞くと無断欠勤らしい。
こんなことは今までで初めてだ。
でも私の知らない○○の一面を知れたのだから。
よしとしよう。


  $日

この日は何も記されていない。

  %日

昨日町を歩いていると大工さんが話しかけてきた。
私の○○が寝たきり起きないと。
今まで入ったことのない○○の家に入った。
確かに○○は寝ていた。妖気もある。
八坂様にお願いして泊まりきりで居ることにした。
今までになく○○の傍に居ることができる。
今の○○は無防備だ。食事。風呂。全て私が…。
考えただけでもクラクラしてくる。



この日から二週間何も記されていない。



!月!)日

○○が起きてしまった。
妖怪も現れる兆しが無かったのに。
成り行きでお札を貼ってしまった。
お札を貼れば妖怪も来なくなると思うけど。
それじゃあ困る。
もっと○○の近くに居たい。
どうすればいいのだろう。

  ”0日

今日は朝早くに○○の家に行った。
戸と窓の前のお札に少し細工をした。
一日ごとに剥がれるようにすれば○○は怖がる。
きっと堪えきれずに私に助けを求めに来てくれる。
その時はどうしよう。
私が○○の家に行ってもいいし。
○○がここに住むのもいいだろう。
私に縋り付いてくる○○。
あぁ楽しみだ。

  ”#日

○○が禁錮にした。
里の老達には憑き物が他の者にうつらないようにと言った。
ただでさえ怪異を恐れている老達は二言目には了承してくれた。。
禁錮が解けたら○○はどうなるだろう。
真っ先に私のところに来てくれるはずだ。
○○は私が居なきゃ何もできなかったんだ。
私が居ないと…。

  ”$日

○○の禁錮は何時解こうか。
頃合も重要だろう。
○○には私が必要なはずだ。
私に縋り付くことしかできない○○。
私が居なければ何もできない○○。
○○。そうだ。私の○○だ。
誰のものでもない。私の…。

  ”&日

○○の家に行った。
○○の家の戸と窓に板が張り付けられていた。
老達は助言どおりに行動したみたいだ。
○○の様子はよくわからない。早く会いたいけど我慢しなきゃ。
急に大きい音がした。
○○が戸を叩いてる。怖がってる。
もっと怖がって。そうして私のところに…。

  #$日

○○の禁錮を解いて様子を見に行った。
○○は眠っていた。起きない。
妖気も消えている。
もう○○は抜け殻なのだろう。
でもそんなことは関係ない。
私が欲しいのは私だけの○○だ。
あれだけ憑き物がいると言ったのだ。
○○の世話をする者など誰もいないだろう。
明日は里に○○を迎えに行こう。


>>up0867