■星1
「ナズーリン、○○さんがまだ帰っきてません。探してきてください」
「…はい、直ちに」
この命を受けるのは一体何度目だろうか、もう忘れてしまった。
○○が亡くなって早半年、最初は塞ぎ込んでいたが一週間が経ち部屋から出てきた主人様は元に戻ったかのように思えた。
確かに塞ぎ込んでいる間よりはマシなのかも知れないが、命を受ける身としてはたまらない。
毎日○○が死んだことを事を無理やり思い出させられるのだ。
このままでは私が壊れてしまう。なにより○○も浮かばれない。
だから今日は命を無視して柄にも無く一肌脱ごう。○○が死んだことを受け入れさせるために。
○○が死んだことは命蓮寺の連中はもちろん知っている、ご主人様も○○の葬式にも出たが上の空だった。
いつまで経っても○○の死を認めないご主人様に寺の連中もは遠まわしに伝えてはいたが一向に気づかなかった。
なにせ一週間も部屋に篭りっぱなしで聖が話しかけても返事ができないほどだったのだ、直接伝えたらどうなるか分かったものではない。
それを心配した私はご主人様に直接伝えるのをためらったし、回りにも止めてくれるように頼んだ。
直ぐ物をなくしたりして少々頼りないが私のご主人なのだ、万が一○○の後を追ったりしては寺も困るし私も困る。
だからせめて○○本人に直接伝えては貰えないかと考え、とりあえず地獄へ向かった。
地獄に着き手続きを済ませると直ぐに閻魔へと通された。これでも毘沙門天に仕える身、なにかとコネはあるのだ。
閻魔に用件を伝える。
「ああ、彼ですか…。良い人を亡くしました…」
どうやら○○を知っているようだ、意外と顔が広い。
これならば少々融通を利かしてなんとかしてくれるかもしれない、そう思った。
「残念ですが…彼はもう転生するリストに載ってしまっています…。いくら私でも地獄以外ではどうすることもできません…」
元々駄目元で来たが、面と向かって言われると心に響いた。
お礼もそこそこに謁見室を出る、部屋を出る時に見た閻魔の目はわずかに潤んでいた。
次に冥界に向かって飛んだ。輪廻転生するには順番待ちをし、それを待つのが冥界の白玉楼だからだ。
もしかしたらまだ転生してなくてふよふよ漂っているかも知れない。
着いた途端危うく庭番に斬られそうになったが、○○の名前を出すと刀を納め案内までしてくれた。
こんな所にまで知り合いがいるとは。幻想郷に限っては毘沙門天のコネより○○の名を出した方がいいのかも知れない。
そんな冗談を考えていると庭番がご覧くださいと言った。
言われたままに見ると無数に浮いている魂が見えた。呆然とそれを見ていると庭番が言った。
「ここ半年までにここに来た転生待ちの魂です、この中に○○さんの魂があるにはあるんですが…」
庭師が言いにくそうに言う。
「なにせ記憶も感情もない無垢な魂です、生前のものとはなんの関係も…」
後半はよく聞こえなかった、ほぼ同じものが無数にある中から特定の一つを探す?
無理以前に不可能だった。
意気消沈に白玉楼から出る。振り返ると庭番が素振りをしていた、若い彼女はああして過去を断ち切ろうとしているのだろう。
いいことだ、私は心底そう思った。
その後も麓の神社、頂の神社、悪魔の館、隙間妖怪のねぐら、人里、幻想郷中を回った。
しかし結局○○を連れてくることはできなかった。
日を跨いでの夕刻命蓮寺に帰りご主人様に報告をする。
「ご主人様、申し訳ありません。○○さんは見つかりませんでした」
「そうですか。ナズーリン、あなたにも見つけられないものがあるんですね」
そう言うご主人様はいつもどおり笑っていた。私が探してこなくても今に○○がひょっこり帰ってくるとでも思っているのだろう。
そんな事はないというのに…だから今日は思い切って面と向かってはっきりと言ってやる。
「ご主人様…○○さんは半年前に亡くなっているんですよ。本当は分かっているんでしょう?」
言ってやったぞ、とうとう言ってやった。これでご主人様も目を覚ますかもとわずかに思えたが。
ご主人様は先程のままの笑顔で答える。
「はっはっは、ナズーリンも冗談を言うんですね」
先程と寸分変わらぬ笑顔でそう答えた。
普通死んでいるなんて冗談はこんな笑顔で返されるものではない。それが笑顔で返されるということは…。
頭を振り嫌な考えを追い払う。既に外は夜に浸かっていた。
次の日の朝、わたしはねずみ達に朝食を与えているとご主人様がやってきた。
「ナズーリン、○○さんがまだ帰ってきてません。探してきてください」
一昨昨日と同じ命を受ける。
万策尽きたわたしにはもう探しようがなかった。
もう一度○○が亡くなったことを伝える。
「はっはっは、ナズーリンも冗談を言うんですね」
その笑顔のどこにも曇りはなかった。
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夕日が沈む黄昏時、寅丸星に告白された。
ただあまりに予想外であり、外の世界に対する未練もあった俺は、
「毘沙門天様にそんな恐れ多いですよ」
とよくわからん返事をして逃げるようにその場から去った。
何て馬鹿なことをしたのか。明日にはちゃんと謝らきゃいかん。
とりあえず、明日に備えて今日はもう眠らなければ。
激しい雨が降る夜、呼び鈴の音で目が覚めた。
こんな夜分に誰だろう、と用心しつつ扉を開けると、みすぼらしい服に身を包み、びしょ濡れになっている星がいるではないか。
一体何が、と問いを発する前に床に押し倒される。
そのままペロペロと顔中を舐めまわされ、涎で顔がベタベタになる。
驚きのあまり声も出せないでいると、星は俺に馬乗りになったまま穏やかに微笑んだ。
「宝塔も財宝も何もかもを捨てて来ました。今の私は毘沙門天代理ではありません。ただの妖獣です。さぁ、これであなたが遠慮をする必要はありませんね。あ、心配はいりませんよ妖怪と人間の恋愛譚なんて最近じゃ珍しいものじゃありませんから。だから、今度こそ私を受け入れてくれますよね? だって、私は毘沙門天じゃないんだから」
俺は、何も言えなかった。
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