■紫2

「うぐぇっ!」
「あらあら、案外スキーに慣れてないのかしら?」
「最後にスキーなんてやったのは十五、六年ほど前の話ですよ!」
「それは意外ね、○○のことだからてっきりスイスイ楽に滑るのかと思ったのだけど」
「受験生の前で滑るなんて言わないで下さいよ、紫さん」
「あら、これは失礼」
「でもスキーをすると言われて、着いて来たのは誰かしら?」
「いや、それはそうですけど……」
「ならいいじゃない?それに、どうせもう貴方はココから逃げられないのよ?」
「逃がしてくれないのは誰のおかげでしょうね?」
「あなたの目の前のかわいい美少女の仕業じゃないかしら?」
「なにせ、ほら、『神隠しの主犯』というあだ名もあることだし」
「自分で自分を犯人と言いますか……。というか、紫さんはかわいい美少女という歳は越えてるでしょうに」
「なら、どう言うのが合ってるのかしら?」
「えーっと……麗しい女性?」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない、それに、貴方の頼みなら私は聞いてあげないこともないわよ?」
「その代償は?」
「……今後百数年のあなたの自由?」
「聞いてあげるだけで自由にはさせてくれないんですか……」
「後、僕はそこまで生きては居ませんよ、きっと」
「ああ、そのことなら大丈夫よ。」
「あなたは既に妖怪だもの、ココから逃げても行き場所は無く、いずれ人間を喰らって人間に殺される存在」
「―なら、居場所はココしかありませんわ」
「……いきなり拉致して自分の家に住まわせて珍しく外に出したらソレですか」
「ええ、一応契約は済ませてあるでしょう?」
「泥酔状態で騙して名前を書かせたあの書類ですか?」
「そう、その通りよ」
「ちなみに、あの書類の名前は婚約届ですわ」
「さて、結婚式はどこで挙げようかしら?」
「ウェディングドレスでもいいし、白無垢でもいいわね」
「……疑問に、思わないんですね」
「これでも私は永く生きた妖怪、あなたの心ぐらい解りますわ」
「さあ、行きましょうか、○○」
「私達の新しい家、幻想郷に―」

>>up0289









 神隠しというものをご存知だろうか?
 なんの脈絡も無しに唐突に人が消え去ることである。
 なんらかの事件に巻き込まれた、人には言えない秘密があってやむを得ぬ事情があり失踪した。
 消えた人の周りはそう口々に推測するが、実際はそうではない。

 そう、幻想郷と呼ばれる妖怪物の怪たちの楽園、そこの管理者たる八雲紫こそが主犯なのである。

「この俺こと○○は、神隠しをされて今はマヨヒガと呼ばれる不可思議な空間にある屋敷に身を寄せている」

 ぐるりと部屋を見渡し誰も聞いていない事を確認。

「八雲紫…奴にとって俺は何故生かされているのか…あんなナリでも妖怪っ!いつ食われても可笑しくは無いっ!」

 ババッと両手を広げ無駄に格好をつける。

「そう!俺はただの非常食!だがただ手を拱いて燻ぶる俺ではない!」

 テンション上がってきた。

「ヤラレル前にヤレ!昔の人は言いました。一番、○○行きま〜す!」

 勢い良くふすまを開ける、そりゃもうバシン!と音が鳴るくらいに。

 視線を下に向ければ布団。

 ただの布団ではない。

 膨らんでいる布団だ。

 中身は当然アレ。

「…ふ、ふふ、ふふふ。紫…貴様は妖怪でありながら惰眠を貪るお寝坊さん。叩いて起こしても起きやしねぇ!」

 だからこそ隣で騒いでも問題は無い。

 と言いつつもこそこそと布団の足元の方に移動、ゆっくりと正座する。

「お邪魔しまーす」

 静かにゆっくりと、それでいて洗練された完璧な動きで頭から突入する。

「おお!これはっ!…この香り!足だ!間違いないっ!……ハァハァ」

 げしっ!

 顔面を蹴られて布団から追い出された俺は、痛む鼻を押さえて悶絶する。

「ぐおっ!ってぇ…」

「…ちょっと○○、なにしてんのよ…」

「……オハヨウゴザイマス、朝餉の用意がデキマシタ。」

「○○…毎度こんな起こし方はやめてよね…」

 紫はため息を付きながら身を起こした。

「んじゃ起きた所で藍さんに迷惑がかからない様にさっさと来てくださいね」

 そう言って俺はさっさと食卓の間に行く。

 居の間ではてきぱきと忙しそうに藍さんが動いていた。

「起こしてきましたよ、まぁすぐに来るとは思います」

 そういってテーブルのいつもの席に座ると藍さんが同時にお茶を淹れてくれていた。

「あ、ありがとうございます」

「なに、紫様を起こす事に比べれば大したことじゃない」

 そういって藍さんは優しく微笑んだ。

「なにいい雰囲気だしてんのよ、もう…」

 紫がのっそりとこっちをジト目で見ながらやってきた。

「だいたい○○、私の寝込みを襲ってきたくせになんで藍と…ぶつぶつ」

「え!○○、紫様にそんな事をしたのか!」

「だって普通にやってたら起きないじゃないですか。本気でやってませんから」

「そ、そうか…ならいいんだ…」

「いいわけないでしょうがー!藍もなに言ってるのよ!あー!もう!」


 そんな和やかな雰囲気から朝が始まる。

 藍さんは掃除や洗濯に忙しい、昼食の準備は朝の内に済ましてあるそうだ。

 最近は俺が人里まで買い物をする事もある。

 紫から貰った符を掲げて合言葉を唱えると人里の近くまで隙間が開く優れもの。

 これなんてDocodemoドア?

 紫は大抵は博麗神社に遊びにいく。

 昼を済ますと藍さんは幻想郷の結界の確認をしにいく、紫は昼寝をする。

 藍さんは結界の綻びが無いかを確認し、なにかあれば補強、それが終わって帰ってくるのが夕方だ。

 俺は夕食の準備をしておく、合間に洗濯の取り込みなどを手伝い、たまに来る橙の話し相手などもする。

 疲れた顔で帰ってきた欄さんにねぎらいの言葉をかけて、少し休憩をしてから夕食となる。

 その後「肩がこってしまったよ」という藍さんのために肩をもんであげる。

 妖獣なのに肩がこるのか?と疑問ではあるが藍さんが言うのだから、そうなのだろう。

 肩や腕、ふくらはぎなど順番に揉んで終えると「ありがとう、コリがほぐれたよ」と少し赤みがかった頬で嬉しそうにお礼を言うからこっちも嬉しくなる。

 それを見て紫も「わたしもー」とかいうが却下、お前は昼寝してたろうが。

 罰が悪そうな藍さんに不貞腐れた紫、そのあとは大抵が頃合をみて就眠となる。 


 しかし今日は少し勝手が違った。

「いつも世話になってるお礼に、たまにはお返しとして耳掃除でもしてやろうか?」

 とか藍さんが言ってきた。

「おお?ぜひお願いします!」

「そ、そうか…じゃあ…」
 
 そういって藍さんは正座になり、恥ずかしそうに膝をポンポンと叩く。

 俺は迷わずダイブ。

 それを紫は呆けたような、それでいて寂しそうな顔でこっちを見ていた。

「…なんで藍ばっかり…」

 紫が何かを呟いたように聴こえたが、耳掻きが入っていて良く聞き取れなかった。

「もう寝るわ。お休み藍、○○」

「あ!はい、おやすみなさい」

 紫と藍さんがやり取りをしていたが俺は動けず、片手をあげて返事をした。





 深夜、俺は何かの気配を感じて目が覚めた。

 何かが俺の布団に入ってきている。

「…え?な、なに」

「だめよ…○○…騒がないで…」

「…紫?っちょ!お前なにや…」

 叫ぼうとした途端、口を手で押さえられる。

「ねぇ○○、いい事しない?とても気持ちのいい事よ……ね?」

 紫の身体には身を包むものも無く、薄暗い部屋の中、月明かりで青白く浮かんだ裸体を表していた。

「っく!やめてくれ!」

 俺はとっさに紫を押しのける。

「…また俺をからかうつもりか?今度のはタチが悪いぞ?」

 動揺を鎮めるように俺はそんな事を勝手に口走っていた。

「……そう……ええ、ただの戯言。引っかかると思ったのに」

 紫の口調はいつもの胡散臭い言い方だったけど、どこかが違う。

「っ!紫!」

 呼び止めようとしたが、紫は次の瞬間、隙間に消えていなくなっていた。





 次の日、俺は昨日の事を問いただそうと思った。

 しかし「なんのことかしら?」とはぐらかされてしまった。

 それからの日々は、いつもと変わらぬ毎日で、あの一件はただの冗談だと俺は結論付けた。



 その日の昼、紫は博麗神社に行っており、そしてまた藍さんも珍しく屋敷にいた。

 のんびりと縁側でお茶して、ゆったりとここに来た時のことを思い出していた。 

「今思えば藍さんは最初の頃は冷たかったですね」

「む、そんな事…あったかもな…」

「ええ、でも実は主人思いで家事掃除と家庭的だったのが印象に残りましたね」

「それは当然だろう、私は紫様を尊敬してるからな」

 藍さんは誇らしげに笑う。

「だが○○が来てからは本当に助かっている」

「そうだとしたら嬉しいですね。俺は藍さんの事が……っと、んん」

 危うく口走るところだった。

「…なんだ?」

 しかし藍さんは疑問そうに聞いてきた。

「いや、なんでもないです」

「…むぅ。気になるじゃないか、言いなさい」

 意地が悪そうな笑みで命令系か。

「いやいやいや。無理です」

「ダメだ、言わないと…こうだ!」

 と、藍さんが俺の背後からチョークスリーパーをがががが。

「あいたたたた、痛いっす!」

 パンパンと手を藍さんの腕に叩く。

「言うか?」

「言いません」

 ギュ。

 痛い、実際はそんなに痛くない。

 しかし問題がある。

 そう。

 藍さんの豊満な胸が、胸が、おおう、俺の背中に密着型おっぱい。俺大混乱。

「むぅ、なかなかしぶといな…仕方ない」

 そう言って藍さんは離れていく、さらば俺のバックパック。

「意外と頑固だな」

 残念そうな顔になってもダメですよ。

「まぁ大したとこじゃないんで」

「…はぁ、無駄に動いて喉が渇いてしまったよ」

 藍さんはやれやれとばかりに座ってお茶を飲んでいる。

「うむ。この茶葉は○○が買ってきた奴だったな。いつものよりうまいな」

「お、分かりますか。実はそれ葉自体は同じなんです」

「ん、そうなのか?でも少し味が違うと思うんだが」

「製造方法が拘ってるらしく、手もみらしいです」

「それは普通じゃないのか?」

「いえ、一度に固めて蒸さず、手で揉みこみながら蒸すそうで…」

 といつの間にか茶葉の話に変わっていた。

「なるほどなぁ、茶の作り方は色々あって面白いな。ところでさっきは何を言おうとしたんだ?」

「ええ、面白いでしょう。さっき?…ああ、危うく好きだと言いs…」

 なんという誘導尋問!

 どうする俺、とにかくごまかし…

「な!なぁ!ななな!なん!なななな!」

 あ、藍さんが真っ赤になって面白い事になっている。

「○、○○!い、いまなん、なんと言っちゃんだ!」

 いや、アレです。相手が慌てふためいていると自然とこっちは冷静になるというか。

「好きだと言いました」

「くわぁーーーーー!」

 いやー赤い赤い、ほおずきの様に紅いとはこの事か。

 しかし…この藍さん。見事にテンパッてます。

 ガシッ!

 いきなり両肩を掴まれた。

「○○!好きとは好きの好きなことか!?」

 どの好きだろう?

「えーっと、別名、愛とも言います」

「あ、あ、ああ、あいーーー!?」

 あ、倒れた。

 その後、時折痙攣しながら愛だの好きだの呟く藍さんを横目で見ながら俺はのどかにお茶を飲んだ。



「…○○」

 どうやら落ち着いたらしい。

「はい、なんでしょう?」

 肝心の藍さんはそっぽを向いたまま続けた。

「…その…な。あの…私も…○○のことが…す、…好きなんだ」

 そういって俺の目をじっと見つめ、俺も藍さんの事を見つめ、ゆっくりと近づいて…



「…なによそれ」

「っ!ゆ、紫様!」

 俺と藍さんのすぐそばに紫がうつむいたまま、いた。

「藍ばっかり……どうして……○○を連れて来たのは私じゃない」

「紫?どうしたんだ?」

 俺は何か薄寒い気配を感じて紫に声をかけたが。

「……認めない」

「え?」

 紫が顔を上げた。

 その目は禍々しくつり上がり、そして血走っていた。

「藍も私が○○のこと好きって知ってたはず…式神ふぜいが…何でしゃばってるのよ!」

「紫様!私はただ…その!」

 藍さんは真っ青になって紫の元へと駆け寄ろうとするが、手にした日傘を藍さんに向けて留める。

「藍…らん?貴方は私の何?式神よね?そうただの下僕!口答えなど許さないっ!」

「あああ!すみませんすみません!私はただ、ただ○○の事が…!」

 藍さんはいつの間にか涙まで零していた。

 俺は…ただ、呆然と見ていることしかできない。

「…黙りさない」

 そう紫は無表情で言って懐から一枚のお札をとりだした。

「紫様!それは、それだけは!」

『‐式神‐八雲 藍』

 紫はそういって、身にまとう妖気を放出していた。

「ああああ、○○すまないっ私はっ!…○○、○○っ!」

 俺は、俺はただ、ただ見ていることしかできなかった。

 けど、あれが藍さんにとって、俺にとって悲しい事になると悟っていた。



「ねぇ○○?」

 紫が笑顔で俺に話しかけてきた。

「なにしたんだ?」

「なにって?」

 胡散臭い、その笑顔。

「藍さんだよ…」

「何を言ってるの?藍ならここにちゃんといるでしょ?」

 ほらほら、と紫はその隣に居る藍さんを指差す。

「…なんだよ、これ」

 たしかにいる。でもコレは藍さんだけど藍さんじゃない。

「…なにって、式神の藍。八雲 藍よ」

 したり顔で言う。


 紫の隣には、藍さんがいた。

 ただその藍さんの目には何も映さず、ただ機械のように立つ、式神がいた。





 あれから数日がたった。

 俺は軟禁状態になっていた。

 人里へのお札は取り上げられてしまった。

 藍さんはあれ以来、機械のようだ。

 掃除も洗濯もする人がいない。

 しかし食事はなぜかいつの間にか用意されてたりする。

「なぁ、藍さんを戻してくれ」

「なにを言っているのかしら?コレが元々本来の式神というものじゃない」

 あれ以来、紫はいつも薄気味悪い笑みを浮かべている。

「俺が悪かったんだろう?もう変なことはしないから藍を許してやってくれよ」

「……気にいらないわね…。こんなにも○○に思われてるなんて…」

 嫌な予感がした。

「いっそ式神なんて捨ててしまおうかしら」

「分かった!もう、もう何も言わないっ!だから…」

「よかった…○○なら分かってくれるって思ったわ。それでこそ私の○○…」

 ああ、なんでこんな事になってしまったんだろう。

 俺は何も出来ない自分に悲しくて、悔しくてただ目の前の食事を黙々と食べた。


「…なんだ?なんか熱い…」

「ふふ、効いてきたみたいね」

 からんと音を立てて箸が指から零れ落ちる。

「…なにをした?身体が…」

「ふふふ、薬師に頼んでわざわざ調合してもらったのよ?」

 紫が酷く嬉しそうにワラウ。

「その薬は性欲を増幅するの。それはもう獣の様に、ね」

 ああああああ、女、女、女、女女女女おんなおんなおんなオンナオンナオンナ。

「さぁ○○、自分に正直になりましょう?本当は私を求めてたんでしょう?シッテルんだから、毎日毎日マイニチずっとずっとあんなに寝込みを襲って、今は私と二人きり、藍なんて式神も今は隙間の中よ?もう十分辛抱したわね?愛していいのよ?私をアイシテ」

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!











 藍さまがおかしくなっちゃった。

 紫さまもおかしくなっちゃった。

 ○○って人間、最初は良い人だと思ったのに。

 本当は○○が一番キケンなニンゲンだったんだ。

 ○○がマヨヒガに来てから全部おかしくなっちゃった。

 藍さまが怖い。

 紫さまが怖い。

 まるで能面のようで。

 藍さまは無表情。

 優しい藍さまは消えてしまった。

 紫さまは薄笑い。

 優しい紫さまは消えてしまった。

 全部、全部○○が悪い。

 だから。


 わたしがふたりを助けてあげないといけないんだ。


 マヨヒガは誰も来れない。

 妖怪、人間、問わず誰も来れない。

 でもわたしは別。

 きっとあの人間は油断している。

 今の藍さまと紫さまは人間に操られているんだ。

 紫さまと藍さまがいない時を狙わないと、あの人間に操られている紫さまと藍さまにわたしが攻撃されてしまうから。
 

 わたしは泥と埃にまみれながらも、ずっと機会をうかがっていた。

 ただ気配を隠して、猫又の本能でただ、ずっとじっと待っていた。



 そして。


 ○○が一人で庭にいる時、私は。







 黒い何かが突然、目の前に現れた。

 それが何なのか一瞬では分からなかった。

 長い間ずっと泥の中に居たかのような、汚れきったそれは橙だった。

 それが橙だと気づいた時、俺の腹が焼けるように熱く、訳が分からなかった。

 下を見ると橙の腕が俺の腹を突き破っていた。

 妙に納得した。



 あの日、紫に薬を盛られた夜、俺は獣となった。

 歓喜に溢れた表情の紫をただ貪り、猛る欲望を叩き付け、冷静になったのは次の日の昼だった。

 その日から毎日俺は紫と床を共にした。

 ただ惰性に流されていただけだった。

 藍さんの顔が見れない。

 何も出来なかった自分が恨めしい、情けない。

 ただ藍さんは無表情で立っているだけだった。

 紫の顔も見れない。

 ただ言いなりになるだけの俺が悔しく、そして紫が憎い。

 紫はそれでも嬉しそうに笑い、俺に纏わりついてくる。


 誰か、こんな俺を助けてくれ。


 その救いはやってきた。

 橙。

 すまない、橙。

 憎しみで歪んだその顔が申し訳なくて。

 俺を殺した事で二人が帰ってくると喜ぶ橙が申し訳なくて。

 だから橙。

 本当にごめんな。


 倒れ逝く俺の目に映ったのは、隙間から半身を出し橙の首を絞めている紫の姿だった。






「汚い鼠、いえ猫が潜んでいたなんて…。まさかこんなことになるなんて…」

 ○○は死んだ。

 一瞬で心臓を突き破られた○○は、どうやっても助からない。

「許さない。バケ猫風情が私の私の私の○○を!」

「ゆ…かぁ…り…さぁま…」

 薄汚い汚物が何かを呟いてるが知ったことではない。

 地面を這いずる汚物が、血肉を撒き散らしながら腕を上げる。

「藍、○○と同じ様に腹を突き破りなさい」

 ○○の受けた痛みを思い知りなさい。

 いいえ、それだけじゃ済まさない。

「丁寧に死なないように、臓物を抉り出すようにその腹を引き裂きなさい!」

 私の命令で式神である藍が汚物を引き裂いていく。

 それで私はその汚物に興味が無くなった。

 今すべき事があるからだ。

 そう、○○の魂、閻魔の所になんて行かせはしない。

「……ち…ぇ……ん……」

 今、かすかに藍が声を発した様な気がしたが気のせいだろう、今の藍は機械でしかないのだから。

 青く光る○○の魂を大事に身に包み、紫はそっと魂と共に隙間へと消えていった。

 ただ淡々と橙を引き裂く藍の目からは、とめどなく涙が溢れ流され続けていた。





 目、目、目、目、目、目。

 そこはただ目が魂だけとなった俺を見つめていた。

 手、手、手、手、手、手。

 あやふやなところから手が伸ばされ、魂だけとなった俺を掴んで離さない。
 
 生前であれば、肉体があれば気が狂っているだろう、この場所は隙間の中だった。

「おはよう○○。今日も幻想郷は平和よ?」

 定期的に訪れる紫が嬉しそうに、楽しそうに笑う。

 魂だけとなり、拘束された俺は狂うことも出来ない。

「○○、愛しているわ。永遠に…」

 なんでこんな事になったんだろう? 

 ただ一つ分かる事がある。

 この地獄は永遠に続くんだろうという事が。











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色々とグチャグチャ詰め込んだら滅茶苦茶になった。
友人にヤンデレ書けと言われて書いたらこんなんになった。
反省はしない、なぜなら俺の得意分野じゃないからだ。







 隙間から覗くは外界の、不要な人間、生きる糧を無くした人間、自ら命を落とそうとする人間。常識を失った人間。

 それを幻想郷に誘うが私の仕事の一つ。

 幻想郷の妖怪は幻想郷に列なる人間を食べてはならない約束がある。

 それを解消するのが外来人、つまり餌である。

 しかし、ただ餌として招くには一方的すぎる。

 故に、再思の道に誘うのが閻魔との取り決めの一つである、が、その事は誰も知らない。

 その所為か、思い直した人間のために緩んである結界を抜けられず、妖怪に食われるのは管轄外というものだ。

 むしろ食わす為に招いてるのだから私を責められても困るというもの。

 私は幻想郷を愛している。

 幻想郷のためになら、いくらでもこの力を振るいましょう。

 そう思っていた時期が私にもありました。




「やーん、今日も○○ってば可愛いんだから♪」

 時は昼頃。

 所は博麗の社。

 対するは楽園の素敵な巫女で、かつ私の惚気話のお相手。

「でね、○○ってば毎朝、毎朝よ?わ・た・しの〜布団にもぐりこんで来るの!
○○が来たらすぐ目が覚めるんだけどいつも寝た振りしてるんだけどね?どんな事してくるのかいつもドキドキするのよね〜」

 霊夢ったらいっつも変な顔してるけど、きっと羨ましいんだろうな。

「それでねっ、それでね!」

「…ちょっと。ストップ。止まれ。つかお願いやめて」

「…なによ、これからが良いところなのに…」

 霊夢はため息を付くと、こめかみを指でぐっと押さえて言った。

「あんた、そんな性格だっけ?いや今更かもしんないけどさ、○○って人が来てから変わりすぎじゃない?」

「そうかしら?もしそうなら愛のなせる技って奴ね……ふふふ」

 ○○と出会ってからの私は幸せ一色。

 彼は人間、私は妖怪、だけど種族を超えたLOVE!萌える!じゃなくて燃える!…まぁ、どっちでもいいわね。

 いざとなれば幻想郷には、ありとあらゆる方法で共に歩める道を作る事もできるのだから。

「……はぁ。もうあんたがどんなに変わろうがどうでも良くなったわ。ただ一つ言わせてもらうと…」

「うん?何かしら?…○○の事だったらいくらでも良いわよ?ただし惚れたら霊夢と言えども容赦はしないけどね…ふふ」

「あーうざっ。聞きたくない。聞きたくないから帰ってくんない?つか帰れ」

 酷く疲れた顔をして霊夢は言った、どうしたのかしら?きっと栄養が足りないのよ。

 今度、食料をお土産に持ってこよう、するといつもご機嫌なんだから。

「はいはい、分かったわ。…ああ、でも人里で○○にあったら絶対に粉かけちゃダメよ?ゆかりんとの約束よ?」

 隙間を開いて上半身だけだして可愛くウインク、キラッと星を出すのがポイントよね。

「なにが「ゆかりん」じゃ!うがーー!」

 カルシウムが足りないんじゃないのかしら、一々弾幕まで放ってくるなんて。

 まぁ今日も昼寝をする振りをしながら○○を誘ってみようっと。







 ある日のことである。

「お邪魔するわね」

 そう言って私は隙間から、とある場所に躍り出た。

「出来れば玄関から入ってもらえないかしら」

 目的の人物は突然の来訪をものともせず、こちらを見る事無く淡々と机に向かったまま作業を続けていた。

「今日は頼みがあって来たのだけれど」

「頼み?」

 そこで漸くその人物は振り向いた。

 どうやらこの私が頼みごとをするのが珍しかったのが随分と意外そうな表情をしている。

「貴方が私に頼みごとだなんてどういう風の吹き回しかしら?」

 訝しげな顔でこちらの心情を推測するような値踏みをするその人物。

 永遠亭の薬師、月の賢者、そして誰よりも遥かに遠い時を刻み込んだ月の民。

 八意 永琳。

「別に私達は敵対している訳ではないでしょう?」

「……そうね…でも気にはなるのよ」

 薬師は月の裏切り者、そして私は月への戦争を仕掛けた張本人。

 この両者が集えば何が起こっても不思議ではないし、私が薬師に何を頼むのかも警戒されてもおかしくはない。

 けれど私は純粋に、とある事をお願いに来たのだから。

「…私の恋のお手伝い。と言ったらどうかしら?」

 ぷっ!

 薬師はたまらず噴出していた、そんなに可笑しなことかしら。

「…は、はぁ? えっと、聞き間違い…かしら?今、恋と聴こえたような…」

「ええ、恋、恋愛とも言うわよ? 愛って素晴らしいわね」

 ○○の事を思う…それだけで視線の先に彼の微笑みが浮かびあがる、胸が高鳴る、ああ○○!

「……あー冗談じゃなさそうね。何を言われるのかと警戒した私がバカみたい」

 そういって薬師はいつもの霊夢みたいな変な顔して、何も無い空間に何かを投げ捨てるようなしぐさをしている。

「で? 一体なにして欲しいのかしら?」

 なんだか投げやりな言い方でなんか気に食わないわね……でも頼む身としては仕方が無い。

「そうね……正直になれる薬。なんてどうかしら?」

「正直? ああアレね? たしかツンデレって言うんだっけ。彼の前だとつい逆の態度でもとってしまうとか?」

 あらあら、勘違いされてるわね。

「私じゃないのよ。彼…○○なんだけど、いっつも私の気を引こうとしてくるんだけと、すぐ逃げちゃうのよね」

 そう、だからもっと彼には正直になって欲しい。

 自分の心の思いを素直に出せる、そんな薬。

 …でもちょっとエッチなのもいいかもしんない、……えへ。

「ねぇ、なにを妄想してるのか知りたくないけど、ここではヤメテ欲しいのよね…」

 もう、今良いところだったのに。

 じゃない、薬よ薬。

 こうして私は要望をつたえ……少し、ちょっぴりエッチな気分になるのも付け加えつつ、その場を後にした。





 


 その日の夕食後、○○は藍の膝枕で嬉しそうに耳掻きをしてもらっていた。

 違和感。

 そうね、これは違和感だわ。

 ○○との出会いから私は恋に落ちた。

 藍には私の伴侶となる人間だから丁重に扱いなさいと命令した。

 けどこれは行き過ぎ、まるで恋する乙女……まさか。

 私の心には不安の感情が溢れ出した。

 今すぐにでも藍に問いただしてしまいそう、妖怪は精神に依存する存在。

 このままだと非常にまずい事になりかねない。

 だから私は気持ちを落ち着ける為に、その場を離れた。




 私は○○が好き。

 だから○○も私を好きになって欲しい。

 沢山のアプローチを考えたわ。

 沢山の相談も幻想郷の面々としたわ。

 けれど。

 まさか藍がユダだなんて信じたくは無い。

 藍は私にとって唯一無二の大切な家族。

 しかし考えれば考えるほど嫌な事ばかり思い浮かぶ。

 不安と不信、ifへの恐怖、藍を信じられない自分への嫌悪感。

 どんどん感情が乱されていく。

 だから私はついに、いてもたってもいられず○○へ部屋に押し入ってしまった。

 こんなやり方が間違っているのは自分でもわかる。

 でも知りたい。

 ○○の気持ちを知りたい。

 愛しているの。

 だから○○、私を受け入れて……お願い。







「落ち着いた?」

 私はその日、朝日が昇ると同時に霊夢の胸で散々泣いてしまった。

 霊夢は叩き起こされて怒りはしたが、私を見るなりすぐに「どうしたの?」と言った。

 それで私は堪らず涙を一粒零し、それを切欠に堰を切ったかのように涙が止まらなかった。

 嗚咽が口から漏れ、苦しい感情に身を焼き、やっとの思いで落ち着かせた頃には霊夢の服はびしょぬれになっていた。

「……ごめんなさい霊夢。朝からこんなに迷惑をかけて」

「紫にしては殊勝な事ね。……なにがあったの?」

 私は言葉を一つ一つ、まるで子供の様に単語を並べる様な、そんな説明をし始めた。


「……そっか……あんた妖怪だもんね。人間の、しかも異性の心なんて分からないのも無理はないわ」

「う、うう、だって、だって〜」

 ため息をつく霊夢に見放された様な気がして、つい又涙がこぼれそうになる。

「いいこと? あんたみたいに普段が胡散臭い態度とってると分からない事があるの」

「なにそよそれ?」

「好きかどうかって事。あんたちゃんと○○に伝えたの?好きって」

「ちゃんと言ってるわよ〜」

「どうせからかいのネタにしか思われてないんじゃないの?」

「……う、そうかも…しれない…」

「なら!やることは一つ! 帰って○○に真面目に本心を伝えなさい?」

 態度一つで真実の言葉は嘘にも冗談にも変化する。

 だからこそ、態度を改めなさい、そう霊夢は言っているのだと、漸く私は気づく事ができた。

「……そうね……ありがとう霊夢!すぐにでも○○の所へ行ってくるわ…」

「待ちなさい紫! そんな顔で行くつもり? 裏から水を汲んできて顔を洗ってきなさい。酷い顔よ?今のあんた」

 そう言われて私は赤くなった、こんな顔で○○の前に出られやしない。

 それにしても、本当に私は良い友達を持った。

 幽々子は幽霊となってからは感情の起伏が無くなってしまったが、それでも大事な友達。

 けれどこんな弱みを見せられるのは霊夢しかいない。

 本当に、本当にありがとう霊夢。








 その日、藍が裏切った。

 藍が、私の家族が、主人として私を慕い、そして私もただの式神としてではなく、家族として愛した藍が。

 藍が、私の愛した○○を奪おうとしている、私の全てを捧げてもいいと思ったほど、いとおしい○○を藍が。

 藍、藍? なんで藍が、どうして藍が、やっぱり藍が、やはり藍、藍、藍、藍、お前が……○○を奪うのだな?

 仲良く家族ごっこなんぞにうつつを抜かしていたからこうなるのだ。

 考えても見れば自由を与えすぎたのが原因だったのだ。

 所詮は妖獣、雄を見れば尻尾を振って発情する牝豚でしかない。

 獣ごときに○○の世話をさせるべきではなかった。

 式神き式神として、そうあればいい。

 そうよ、○○も獣臭い藍に言い寄られていい迷惑だわ、ふふふふふ。

 でももう大丈夫、安心して○○、私が守ってあげるから。

 ずーっとずーっと傍に居るから大丈夫。

 家族なんてイラナイ、○○だけでいいの、○○がいればそれでいいのよ、ふふふふふ。

 これからは私が○○の欲しい物もやりたい事も全部かなえてあげるの。

 ほら、この薬、凄く高かったのよ? 貴方の為に作ってもらったの。

 ああ……○○、好き、大好きよ……。

 身も心も全部溶け合ってしまいたい……。 








 依存。

 全てが依存だった。

 私の心はただ○○の事だけで一杯だった。


 だから一目でソレが何なのか気づいたし、自分が何をやっているのかも理解していた。

 家族。

 家族だったもの。

 家族になるはずだったもの。

 その二人を私はそこらに転がっている小石の様な、どうでもいい感情で見ていた。

 式神として起動をしていても藍の心は現状を見ている。

 今後、藍の心は壊れるだろう。

 その藍の手にあるのは、彼女が愛した家族だから。

 橙。

 貴方は○○の身体を奪った。

 いつからか分からぬほどずっと潜んでいたのだろう。

 かなり消耗した力を取り戻すかの様に、その残った妖力で○○の身体の生気を奪いつくした。

 残された○○の肉体は干物の様な物体。


 私の○○を食べたのだから、最後に愛すべき者の手で殺される罰を与えましょう。



 ○○。

 私の○○。

 幻想郷のルールを侵してでも私は離さない。

 魂となっても傍にいるわ、○○。




















































---------------見なくてもいいあとがき-----------------------
うわっ何この蛇足。

いや紫の壊れて衣玖さーん!過程…(誤変換ですが残します
壊れていく過程があったらとか言われたのでツイやってしまった。
なぜこんな事をしたのか。
豚もおだてリャ木に登るといいまして。
俺もGJ言われまくると調子にのって糞SS排出する、という事ですね分かります。

とりあえず批判が怖いので本スレに逃げますサラバ


>>up0559-0560




寝室の襖を開けると、紫が眠っていた。
「帰るのが面倒だから、今日はここに泊まるわ」とのこと。
スキマを使えばすぐだろうと言い返せば、「それが面倒なのよ」だそうだ。
生憎とここは宿泊施設ではなく、布団は一つだけ。
俺はどこで寝ろと言うのか。
思えばいつもそうだ。幻想郷最強の妖怪、八雲紫。
いつも突然やって来ては、人の迷惑を考えない真似をやってくれる。
この間は確か式のエサを切らしたとかでやって来て、当然のように三日分くらいの食料を持っていきやがった。
抗議に対して「あなたをエサにしないだけありがたく思いなさい」などと平気でのたまう始末。
いつも余裕たっぷりの微笑、人を馬鹿にしたような言動、何者も恐れぬ態度。
……気に入らない。
いつもそうだ。
……腹立たしい。
あいつのせいで、無駄に苛々が募る。
……あの女が憎い。
だったら、あんな奴いなくなってしまえば……

……殺してしまいたい。

気が付けば包丁を片手に寝室に入っていた。
頭の中は紫への憎しみで埋め尽くされている。
枕元に立つと、紫を見下ろした。
穏やかな寝息をたて眠っている。
目の前に命を狙う人間がいるというのに、なんと無防備なことか。
幻想郷最強の妖怪が聞いて呆れる。
ゆっくりと包丁を振り上げ、首筋に狙いを定めた。
「さよならだ。八雲紫」
包丁を握る手に力を込める。
そのまま首筋に突き刺さるはずの包丁は…
「……っ!」
動かなかった。

「…どう……して」

幸せそうな寝顔が不愉快で、腹立たしくて、憎らしくて。
……でも愛しい。
どうしようもなく憎らしくて、だけど愛しい。
「……くっ!」
憎くて憎くて仕方ないのに……
「紫っ!」
沸き上がる気持ちを理解しきれないまま、紫を抱き締めた。


〇〇の胸の中で紫は妖しく微笑む。
「そうやって愛と憎の境界の中で、私のことだけを想って生きてもらうわ、〇〇」

平和的にヤンデレなゆかりん……になってるかな?

1スレ目 >>128




>>885からの派生みたいな感じで。紫メインです。





「……○○が外の世界に返ってから大体60年ぐらい経ったかしら。そろそろこっちに呼んでもいいかもしれないわね」

紫は、永琳が○○に異常なまでに固執していることを知っていたが、問題を起こしていなかったので特に気にしていなかった。
それが○○が帰る直前になって蓬莱の薬を飲ませることを許してしまったのだが……

「それも計算の内、なんて言わないけど面白いことになったわね……私にとって」

紫は、永琳ほどの人物が執着する○○という人物のことが気になっていた。
当初は○○に直接接触して色々と話を聞いてみたかったのだが、それには○○が心の内を露呈してからまるで離れない永琳が邪魔で仕方なかった。
……なので、○○が外の世界に帰ってから接触することにした。

最初は単なる好奇心だった。
数回会えばもう興味が沸かずそれで終わりだろう、と。
○○は幻想郷で会った時に挨拶したように、普通の人間だった。
しかしそれはあくまで外の世界での基準で言ったことであり、幻想郷の基準で見れば充分変わった存在だった。
永琳もその普通さに惹かれたと紫は予想していたのだが……

「……ミイラ取りはミイラ、って言うのよねこれ」

紫は心底おかしそうに笑う。
永琳がどうして執着するのかが気になると周囲に完全に隠して外の世界で○○に接触し続けていたら、自分も○○を欲するようになっただなんて。
紫は○○と会っている間の記憶を自分の能力で操作して会ってない間忘れさせていたが、それで最初は満足していた。
しかし段々それで満足できないようになり、当初の永琳が執着する理由を探ると言う目的も忘れ○○との時間が増えていった。
とは言え○○にも外の生活があったので時間は全然足りなかったが。





紫は○○が欲しくてたまらなくなった。
なので、周囲から孤立させることにした。
永琳が○○に知られないように与えた蓬莱の薬の所為で時間が経てば経つほど気味悪がられ次第に孤立することは分かっていたのだが、それだと遅すぎると感じたからだ。
本当は紫が○○を独占したかっただけなのだが。

そうして紫は○○が早い段階から孤独になるように○○の親しい人間の心の境界を弄くり、遠ざけるようにした。
だがすぐに孤立させれば○○が訝しむだろうと紫は時間をかけて、だが蓬莱の薬の効果で次第に周囲から孤立するのより早い程度にした。

○○が外の世界に帰ってから二十年ほどかかったが、紫の暗躍があってか○○は次第に孤立していった。
まだ当時は○○も見た目が若くても異常だと思われるレベルではなかったので、紫は夫婦間の亀裂を大きくすることにした。
子供が出来ない原因は○○にある、○○は子供が出来ない原因は結婚した女性にあると思い込み浮気をしている……などと○○と結婚した女性に思い込ませたのだ。
すると簡単に夫婦仲は冷え始めた。
後は放っておけば勝手に修復不可能な段階になるだろうと紫は次に会社での同僚や○○の大学からの友人を次の標的にした。

人間は自分と違うものを恐れる。自分に理解出来ないものを恐れる。
○○の周囲の人間にとって○○がまさにそれだと紫は思わせるようにした。
それは紫がほんの少し○○の周囲の認識の境界を操作すれば後は勝手に広まった。

そうなると○○はその時以外覚えていないのだが、昔から変わらず接してくれる紫に依存するようになった。
紫は○○と会わない時は会っている間の記憶を忘れさせ、会う時は○○の倫理観を麻痺させた。
するとますます○○は紫に熱中した。全て紫の計画通りだった。

紫はそうして○○の隣という最も重要なポジションを獲得したのだ。




















──そして、○○が再び幻想郷にやって来てから数十年後。

「ねぇ、○○は今幸せ?」
「ああ……紫みたいな人に支えてもらえて僕は本当に果報者だ」
「私も貴方が隣に居さえしてくれたら………………ごめんなさい、○○。誰か来たみたいだから様子を見てくるわ。部屋で待っててくれる?」
「分かった。お茶でも用意して待ってるよ」
「ならすぐに終わらせたいのだけど……少し時間がかかるかもしれないわ」
「そうなのか?」
「何でもないわ。それじゃちょっと行ってくるわね」










「……あら、永遠亭の薬師じゃない。何か用事?」

1スレ目 >>905-907




 俺が幻想郷に来て、どのくらい経ったのだろう。ざっと、一年とちょっとか。
 訳も分からず幻想郷に放り出された俺は、八雲紫と名乗る女性に保護されていた。
 紫さんは俺のどこが気に入ったのか、寝床の面倒、食事の面倒、さらには夜の面倒まで見てくれていた。
 俺も彼女の魔性の魅力の虜になり、互いに求め合う淫蕩の日々に耽るようになっていった。
 だが、魔法はいずれ解けるもの。ある日、俺は紫さんに切り出した。

「紫さん。……俺、外に戻ろうと思うんだ」

 なぜ、と問う彼女。もちろん、それには理由がある。
 外には、俺の大事な人がいるからだ。恋人? そうじゃない。もっと、大事かもしれない人たちだ。
 身寄りのない俺を引き取って、まるで本当の子供のように育ててくれた義父と義母。
 俺が今、ここに在るのはあの人たちがいるからだ。だけど、俺はその恩を未だ一厘とて返していない。
 それなのに、突然行方不明になって心配をかけた挙げ句、老後の世話も出来ないんじゃ未練を残さずにはいられない。
 俺はその思いを包み隠さず、紫さんに話した。
 俺がいた時間なんて、紫さんの人生からすれば一瞬も同然だろう。すぐに思い出に変わるはずだと、俺は考えていた。
 すると紫さんは何の屈託もなく笑って、私に任せておきなさい。何の心配も要らないようにしてあげる、と言った。
 彼女ほどの頭脳と能力を持つ妖怪ならば、俺のような凡人には思いもつかない解決方法があるのだろう。
 俺が紫さんに全てを委ねる旨を告げると、彼女は嬉しそうにスキマの中へと消えていった。
 すみません、義父さん、義母さん。俺はもう顔も見せられないけれど、どうか幸せに……。
 半日ほど経って、紫さんはスキマの中から姿を現した。お召し物に紅い斑点があるのは何だろうか。
 どうだったかと尋ねる俺に、紫さんはにっこりと答えた。

「大丈夫よ。きっちり『始末』しておいたから、もう心配は要らないわ」



 ああ、そうか。そんな簡単な話だったのか。さすが紫さん、俺みたいな凡人には思いつきもしなかったよ。
 これで何の気兼ねもなく、紫さんと一緒に……。



 気が付けば、俺は渾身の力で紫を縊り上げていた。窒息させようなどという生易しい話ではない。首の骨を砕くつもりで、だ。
 笑う紫。開くスキマの空間。
 それが俺に覆い被さるようにして……。
 大事な人たちだけでなく、最愛の人まで失わなくてよかった。
 なぜか安堵しつつ、俺の意識は失われていった。
--------------------------------------- 中と外、両方に譲れない大事なもののある○○はどうするんだろうか……と考えてたらこんなことに。

2スレ目 >>59




「お〜い、めいゆうー」
「お、にとりじゃあないか」
 ○○が里の裏路地を歩いていると、にとりが駆け寄ってきた。
「にとり、盟友っていう呼び方はやめなさい。病院の待合室でお婆ちゃんって呼ぶのと同じだぞ」
「たとえがよく判らないけど、そういうならそうするよ」
 にとりは荒い息をつきながら答え、○○は満足したように二度頷いた。
「ところで腕に抱えているそれはなんだい?」
「これはさっき紫様に貰ったデフラグさんとチェケラッチョディスクさんだよ」
「チェケ……なに?」
「いや俺もよくは判らんが、整理してくれるらしい」
 にとりはそう説明されると少し考え込み、言った。
「ねえ、これちょっと分解させてよ」
「別に構わないけれども、またエンジニアの性か?」
 そう言われると、にとりはばれたかといったような顔をして、○○の手から2個の機械を取り上げた。
「じゃあ、早速分解するよ。1週間ぐらいで返せると思うから待っててね」
 にとりは走り去りながら言い、○○は大きく手を振ってそれを見送った。


 にとりと会って3日ほどたった日のことだ。
「お〜い、めいゆうー」
「にとり、だから盟友言うなって言ってるだろ」
「ああ、ごめんごめん」
 ○○はにとりと里の路地で再開していた。
 にとりは咎められたことに笑顔で謝ると、一転して渋い表情を作る。
「それで、あの二つの機械のことなんだけれども……」
 にとりはそこまで言うと、言い難そうにもじもじと体をゆすった。
 見かねて○○が促すと、にとりは静支部といった調子で言葉を続ける。
「あれが夜中に家を壊そうとしたんで、分解してよく調べることにしたよ。だから返すのはもっと遅れるね」
「そりゃ構わないが家を壊すとは怖いな。あげるから部品取りにでも使ってくれ」
 そう言われてにとりは驚いたような表情を作る。
「いいの? あの部品いい奴だよ」
 にとりの喜びように○○は苦笑しながら返す。
「別に機械いじりは出来ないから、部品があっても使えないし。なら使ってくれる奴が持っていたほうがいいだろ」
 にとりはそれを聞くと両手を挙げて万歳をし、御礼をするからと○○の手を引いて甘味屋に入っていった。

 ○○がにとりと話していると、その路地から少し離れた上空にふいと何かが現れる。
(あの河童……。せっかくデフラグさんに○○の家をデフラグさせて家に転がり込ませようとしていたのに……)
 それは見る間に大きくなると口を開け、中からは八雲紫が顔を出した。
(まあいいわ。次はてふてふを送り込みましょう……)
 紫が身を隠すとそれはするりと口を閉じ、辺りは何事も無かったかのように鳥が舞った。


思い浮かんだんで>>336を改変。
ここいら辺がヤミと非ヤミのボーダー辺りだろうか。

2スレ目>>362




「なあ」

「何かしら」

「いつになったらこの縛鎖は解かれる?
 正直腕が痛くてな」

「貴方様が私に心傾けるその日まで」

「……そうかい。それじゃあ無理だな」

「貴方様はどうして私の気持ちに――」
「気付いていたさ」

「ならどうして……こんなにも想っているのに」

「無理なもんは無理だ。俺の心はあんたのもんにはならない。
 俺はあいつのもので、あいつは俺のもんだ」

「あら。"こんなもの"に心を重ねるんですの?」

「――っ、手前」

「貴方様が悪いのです。ワタシを愛して下さらない、貴方様が――ね?」


4スレ目>>8




○○が私の物になるにはどうすればいいか考えてみた。

まず彼を取り巻く人間達を排除することからはじめよう。
殺したりすれば怪しまれる、事は慎重に行わなければ……

まずは肉親や友人、近隣の住人達の認識の境界を操作する。
これで○○は独りぼっち、効果が薄いが彼に強い違和感を抱かせないためには仕方ない。

次に彼の勤務する会社を破産させる。景気と不景気の境界を弄ればいい。
念には念を入れて近所の求人も全て無くす、これで無職になった。

更に彼の心を追い詰めよう。躁と鬱の境界を操るだけだ。
ころころと躁と鬱を繰り返させ揺さぶりをかける。
自殺、それも樹海での首吊りを選ぶように誘導する。

縄を枝にかけ、遺書を置き、台に上った瞬間……神隠し、そして縄を切る。
絞まったのはほんの一瞬、でも○○は気絶してしまっていた。
まあ、いいわ。家に運んでゆっくりと寝顔を眺めさせてもらうもの。

藍が○○を抱えた姿を見て、呆れた顔をしていた。
なによ、○○は渡さないわよ。

4スレ目 >>981




「ふぅ……」

ふと、真夜中(?)に目が覚めた。
と言っても今の俺の時間を知る術は、部屋に掛かった年代物の柱時計のみだ。
これが示す時間が本当かどうか、知っているのは俺の隣で寝ている女だろう。
金色の髪がふんわりと広がっている。
彼女は俺の上に跨り交わるのが好きなようだ。
その際の灯りを背にして広がる金髪は、まるで映画でのクライマックスシーンのように素晴らしい。
例え、現状が彼女によって俺がこの隙間のど真ん中にある幽閉部屋に閉じ込められていても、だ。

そっと、小窓を開いて外を見てみる。
無数に流れる漂流物と此方を凝視している目玉。
絶対に逃げ出せない、隙間の個室を監視する彼女の目だ。

「……○○」

彼女に呼ばれ、振り返る。
うっすらと目を開けた彼女が、むずがるように俺を呼んでいる。
いつもは胡散臭くて、妖しい妖怪なのに、ここに居る時は凄く素直だ。
まるで、親と一緒に眠る事を強請った子供のような仕草だ。

小窓を閉じ、寝床へと戻ると彼女に引きずり込まれた。
汗ばんだ乳房の間に抱き込まれ、抱え込むようにして彼女は寝息を立て始める。
……少し息苦しいんだが。加えて白い肌とたわわな2つの丘が目の前に。
数時間前に轟チンした愚息が頭をもたげてくる。

……何だかんだいって、この監禁生活を受け容れている自分は異常なんだろうか。
それとも、異常すら受け容れるのが愛なのか。
取り敢えず、昂ぶったものを彼女に鎮めて貰うとしよう。
自分を閉じ込めているんだから、そのぐらいはして貰わないとな。

5スレ目 >>63




夜の風を切り車は夜道の道路を、街頭がぽつりぽつりと照らす道を走っていく。
山中の精神病棟を目指して走っていく。
乗り手は2人、○○とその彼女。
彼女は苛立たしげな顔でハンドルを握り、
○○は後部座席で毛布を被って怯えている。


「○○、何を恐れてそんな格好をしているの?」

隈の浮いた目を瞬きさせ、○○は運転席に言う。

「お前には見えないのか? あいつが、あいつが居るのが見えないのか」

男は震える手で、車の進行方向を指差す。
何も無い、寒々としてうっすらと霧の張った夜道を。

「○○……あれはただの霧よ。そう見えるだけ」


ガタガタと震える○○は、毛布を被っても尚、耳元で囁かれる言葉を聞いていた。

「愛しい○○。私と楽しく遊びましょう。
彼の郷の四季は私の能力で幾らでも弄れる。
望みのままの美しい景色の中で楽しく遊びましょう。
貴方と私を着飾る衣装も沢山あるわよ」

誘惑の声は途絶えない。
寝ようが醒めようが○○の脳裏に木霊する。


「何でなんだ、誰も聞こえないのか!?
あの女の声が、お前にも聞こえないのか!!?」

ここしばらく、行方不明だった彼が戻って来てから繰り返される台詞。
他の女の事を叫ばれて、苛立ちの為か彼女の声が刺々しくなる。

「……はぁ、落ち着きなさいよ。枯葉が風で揺れているだけよ」

発見された当初は凄く喜んでいたのに、何でこんな事になってしまったのか。
家族達のたっての願いで、こうして好意を抱いていた男性をあんな病棟に送らなければならない。

(どうしてこんな事に……それに、あの女って誰よ。本当に行方不明になっていただけ?)

猜疑に苛立つ彼女の心境を他所に、○○は怯えきっていた。
どこからともなく聞こえる声は、途絶える事はないのだから。

「素敵な殿方。私と一緒に戻りましょう。
私が手ずから貴方の面倒を見ましょう。詩や舞いも披露しましょう。式にだって邪魔はさせはしないわ」


「お前には見えないのか!? 暗がりからあの女が俺を手招きしているのを!?
俺をあの世界に引きずり込んだ、あの異様な隙間から!!!」

ギシリとハンドルが軋む。
彼女の心境は最悪だった。
必死に堪忍袋の緒を引き締め、苛立ちに浮つきそうな声で宥める。

「ええ、ええぇ、○○、確かに見えるよ。……灰色の古い柳だけどね!」

堪えきれず、語尾がきつくなった。

だが、険悪な社内の雰囲気など意には介されなかった。

○○の怯えは頂点に達していたのだ。

「貴方が大好きよ、その私に対して怯えるその様さえ。
嫌がろうとも拒絶しようとも、最後には私を愛させて見せる。
なんなら、もう一度力尽くでこちらへとご招待しようかしら?」

声に鳴らない叫びをあげ、○○は彼女に助けを求める。

「た、助けてくれ。隙間が、俺を捉えようとする!!
あの女の手が、俺を掴んでいるんだ!! 助けてくれ!!」

最悪のタイミングで、○○の彼女は、堪忍袋の緒を切れさせてしまった。

急停車した車。
悲鳴を上げて座席の下に転がり落ちる○○。
憤怒の顔で○○を見下ろした彼女は、こう言い放ってしまった。

「そう、そんなにその女の事ばかり見ているんだったら、どこへなりと連れて行って貰えばいいじゃない!!」



あまりの物言いに、絶望と呆然が入り交じった顔で彼女を見上げた○○。
その姿が、後部座席を包み込むようにして発生した裂け目へと沈んでいく。


裂け目から上半身を出した、絶世の美女と共に。

「本当にありがとう愚者殿、これで○○は現世への執着や未練を捨て、我が理想郷で永劫に私と愛の生活を営める事が出来る」

美女の気品に満ちつつも、胡散臭そうな笑みが嘲笑へと変わる。

「ではさようなら、あなたの言うとおり、あなたの願い通り、○○は私がどこへなりと連れて行くわねぇ」

見せつけるように○○の唇を女は奪い、そのまま隙間へと沈んでいった。


勝ち誇った、高らかな笑い声と共に。




「……○○?」

唖然としたまま、彼女は呟く。

残された毛布が、僅かに開いた窓から吹き込む夜風に揺られていた。




終わり

5スレ目 >>257