技巧大絶賛!

★画面は新ジャンル!
 これまで、『ハーメルン』の名の数だけ見聞きした(もう枕詞…)一般的否定的意見。例
外なく一“動かない”。『ハーメルン以外のTVアニメ』の感覚で見れば、それも苦になる
だろう。しかし『ハーメルン』は、既存の「TVアニメ」の範疇に収まる作品ではない。逆
に『ハーメルン』こそが、「TVアニメ」の手法を踏襲した部分と、それとは違う大胆な画
面で見せて行く部分を併せ持った、全く新しいアニメ映像作品なのだ。
 ここで言う「TVアニメ」とは、画面の中でキャラの動きに動画枚数が絶えず費されつつ
時間が経過する映像、と定義する。これに対して“動かない”というのは2通りの意味に取
れる。完全に動きのない静止画が多用されるという意味と、キャラに派手な動きのアクショ
ンが少ないという意味である。(因みに私は“動かない”と感じたことは一度もないが…)

 ではまず、静止画について。「TVアニメ」でも時折、(特に回のラストなどの)場面の
印象を強めたり余韻を残す為に特例的に使用されるそれが、『ハーメルン』では何故劇中で
頻繁に使用されるのか。それは番組の構成自体が「TVアニメ」と大きく異なるからである。
 仮に全ての静止画部分を動画に描き直してみるとどうなるか?_ほとんど、「TVアニメ」
のOPフィルムである。目まぐるしく落ち着かず、台詞も拾いづらい。要はそれだけ、場面
転換・カット割りが異常に早いのだ。「TVアニメ」で1〜10の動画で長回しする所を、
『ハーメルン』では1・10の2枚だけや5の1枚だけをサッサと見せて済ます。その分展
開は先を急ぐ事となり、30分の内容は濃密さを増す。逆に通常の「TVアニメ」をこの手
法でやったら、2・3話分が簡単に1話分で収まるだろう。それもただ順番通りに詰め込む
だけでは、味気無いダイジェスト。ここで、構成・脚本が表舞台に踊り出る。

 よく“紙芝居アニメ”とも形容されるが、実際この言葉通りに、一筋縄で行く構成だろう
か?因みに紙芝居とは、ある場面で最小限必要な一枚の絵に、その絵で無理のない最大限の
音声を被せていく見せ方である。つまり、場面と音声は完全一致が原則である。
 一方『ハーメルン』では、場面の中に存在しないキャラの台詞が、時間的にもズレた形で
被る二重構造が朝飯前なのだ。台詞が経過を語る間に、画面はもう結果を見せる。(その逆
もある)しかも台詞はストーリーの意図にた易く妥協しない。ご親切な説明句に富んだ「T
Vアニメ」からすれば言葉不足な感もあるが、逆に「…。」という台詞を実にニュアンス豊
かに“聞かせ”て、場面を“語り切る”高等ワザを軽々やってのける。また、現実場面と回
想場面が同時進行感覚で複雑に絡み合ったり、別地点にいるキャラを一つの話題で繋げて進
めたり、突如飛び込む記憶の断片カットも特徴的である。シンプルで少ない基本舞台を、幾
重にも厚い層に見せる構成なのである。
 『ハーメルン』では、見慣れた「TVアニメ」で培われた時間・空間感覚は通用しない。
次の絵の予測が付かない静止画、厳選された台詞も目耳が離せない。そしてこの集中させる
力、緊張感は見事そのまま画面自身の牲格へと転化されている。
 又、静止画のほとんどには時には背景とも連動した効果線が描き込まれたり、足元からの
豪快なパンで見せたり、キャラの存在感は動画のみでは味わえない凄味に満ちている。その
全ての作画レベルも、前述の「TVアニメ」における特例的な静止画に何ら引けを取らない
(それ以上と言った方が、正しいだろう)。そんな完成度を誇る一連の絵に値するエピソー
ドの濃さ…とまで来れば、もうお分かりだろう。『ハーメルン』の1話30分は、“見せ場”
の連続なのである。ムダは、一切無いのである。
 そして、動画部分(ここぞと動く時には目も眩む背景動画!)と静止画部分の絶妙なコン
ビネーションはドラマの抑揚とも融合を果たす。その計算し尽くされた相乗効果は止まる所
を知らず、正に1+1=100以上!の現象が『ハーメルン』の画面では起こり続けるのだ。
全てはマイナスを、極める事で。
 もはや『ハーメルン』はその作品一つで「TVアニメ」界に新たなジャンルを生み出し、
形成し、欄熟させたと言っても過言ではない。ポイントを絞らない数任せの動画より、脚本
・構成・演出・作画次第で一枚の静止画の方が強烈なビジュアルとなり、一つ一つの場面が
確実に印象深く残る…これを白日の下に証明してみせたのだ。
 そしてこの話題は次の言葉で閉めよう。一『ハーメルン』がもし、『ハーメルン以外のT
Vアニメ』風の凡庸で均一な動画枚数と速度で動き、その時間感覚に沿って脚本・構成も改
竄を迫られたら、それはもう『ハーメルン』ではない。あの独特の緊迫感やムードはいたく
損なわれ、その魅力は半減してしまう事、不可避であろうから。

 さあ、それでも“キャラが派手に動かない!”という向きは、スタッフがキャラ以外の部
分にいかに繊細な注意を払っ“空気全体を動かしている”かに是非、御注目頂きたい。小
動物、植物、風、光、影、火、水…こんな脇役中の脇役が、いかに様々な表情でドラマに直
接深く関わっているか。
 中でも“水”の表現の饒舌さは比類無きものだ。川、泉、滝、ライエルの精霊、そして、
雨。8話ラストに至っては、敢えてキャラ自体は止メのまま、動画はその服・装身具・肌を
伝い、地面に落ちる水滴の表情を追う事に費される。何故そこまで、‘本物’の雨を描く必
要が有るのか。一ドラマの中に、その答えが在るのだ。
 恐らくこれは、ストーリー構成・脚本を務める今川泰宏氏のカラーの反映だと推測する。
過去監督を務めた『Gガンダム』においても、“水”が使われた場面はかなり印象的であっ
た(大体ヒロインの名前からして‘レイン’だったよな)。
 他にも『ハーメルン』には、迫力・ケレン味たっぷりな演出や、一言一言真似したくなる
キメ台詞と共に勇ましく飛ぴ回るヒゲのオヤジや、過剰に劇画テイストな静止画など、『G
ガン』に通ずる感覚は相当に多い。(余談だが麦人氏や田中公平氏も共通スタッフ)
 再び“水”の話に戻ろう。かつてロシア映画の巨匠に、A.タルコフスキーという監督が
居たが‘映像の詩人’の異名を取るのも、その監督作品に欠かせない“水”を単に「映す」
だけでなく、「確実にフィルムに定着させる」表現力があったればこそであろう。現在日本
で、アニメ・実写の差異を間わず、今川氏の『ハーメルン』はこれに匹敵する面目躍如作で
はないだろうか。
★クラシック音楽が主役!
 例えば、あなたの好きな『ハーメルン以外のTVアニメ』を何か一つ思い出して欲しい。
そしてロボット物なら搭乗機を、格闘物なら拳を、超能力を秘めた楽器に置き換えて想像し
て欲しい。但し、他の設定や主人公の敵側の武器は変わらない。ミサイルや拳が主人公側を
狙って飛んで来る。主人公側は自分の楽器を奏でる事によってこれと戦う。『白鳥の湖』で
水を大放流させ、『カルメン』で炎を燃え上がらせる。
 …どうだろう?どう考えても無理があり過ぎるのではないだろうか?ただのへンなアニメ
に終わらせるか、思い切ってギャグアニメにすればまだ成り立つか?といった苦しさだ。_
そして『ハーメルン』も、この条件は同じである。
 勿論、異議は有るだろう。それは違う!『ハーメルン』はズパリ異世界ファンタジー物の
“魔法”を“魔曲”に置き換えただけ、絶対こっちの方が条件いい!という事である。
 だがあくまで架空の、モンスターと人間が戦争をする「異世界」だ。そこに私達の世界で
作られたクラシックの名曲が、それもキャラが曲名・作曲家名・解説を語りながら入り込む
余地など、普通ではまず考えにくい。こちらの方が条件悪い感さえ有る。物語がギャグ仕立
てならまだしも、『ハーメルン』ではこれをドが付くシリアスな物語のヤマ場で、それもB
GMとしてではなく、前面主役に押し出してやらなければならないのである。一そして見事
この難題を、クリアしているのだ。
 この勝因は、選曲と場面の関連性、その圧倒的な説得力。まかり間違えば雰囲気が浮きか
ねないクラシック音楽の演奏場面は、堅実な脚本・演出に支えられ、むしろ『ハーメルン』
世界の長、紛う事なき主役として君臨するのである。そして曲の持ち味を最大限に引き出す
絵作り。それも決して予定調和に陥らない。明るくリズミカルな『くるみ割り人形』の旋律
の中、ホラー映画張りの異様な惨劇が繰り広げられ、果敢で華やかな『カルメン』が響く中、
主人公は精神の崩壊を見る。…もはやシュール。圧巻である。
 結果、『ハーメルン』ではあの聞き慣れた名曲にこんな表情があったのかと、その昔海の
向こうで作られた音楽が現代日本のアニメ作品の中でかくも鮮やかに蘇るものかと、そんな
全身総毛立つカルチャー・ショックが毎回起こるのである。
 勿論、オリジナルBGMも物語の重さを深く語る。バイオリンが悲痛に泣いてハーメルの
過酷な連命を象徴するあの曲、この曲ノもう涙なしには、とはこの事か。

★『ハーメルン』は問い掛ける!
 初めて第1話を見た時、何より最初からこんなショッキングな絵を、悪夢の様な光景をパ
ンバン出す大胆さに目を覚まされる思いがした。これは好みも分かれる所だが、スタッフが
碓かに勝負に出ている証しとして、その気合いに感服せずにはおれなかった。…長々と述べ
て来たが、『ハーメルン』がいかに『ハーメルン以外のTVアニメ』とは一線を画す実験的
意欲に満ち溢れているか、味わった事のない未知の刺激の宝庫のような作品であるか、少し
でもお分かり頂けただろうか?
 では、結論に入る。ってまだ半分しか見ないで出すか、出たんだこれが。『ハーメルン』
という作品は、いかにアニメは典いや映像は“見せ方”ひとつに掛かっているか、物語は
“語り方”が命であるか一こんな当然でありきたりな命題を圧倒的パワーでこの世に訴える、
大問題作なのだ!…美形・美少女キャラー山お幾ら?や神経症的なメカニック描写、湯水の
様な動画枚数(CGも毎回押さえてます!)だけがビジュアルの快感とされがちな現在にお
いて、余りに挑発的であり、最先端であり、最原点なのである。
 どんなキャラ・設定・物語だろうと、生かすも殺すもそれは造り手の腕次第。これは極論
だが、『ハーメルン』のスタッフが『ハーメルン』と時間も予算も同じ条件のもとに、もし
SFロボット物、学園恋愛物、スポ根物を作ったとしても、制作するテンションが不変であ
れば、その面白さは『ハーメルン』と全く変わらないであろう。

(97年8月7日)


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