ろうにんナヴァ20万ヒット記念 銀河アイドル伝説ラピス・ラズリ アイドル誕生!! プロローグ ピンと張り詰めた糸のような緊張に包まれていた。 部屋は主人の趣味が伺える高価な調度品が置いてある。 絨毯もすべての足音を吸収してしまうような、やわらかいものだった。 丁度、中央に鎮座するテーブルもこの時代にしてはめずらしい、本物の木から出来ていた。 そしてテーブルをはさみ、二人の男がソファーに腰を落としていた。 一人は、パリっとしたスーツに身を包んでいた。 もう一人は、黒衣をその身に纏い大きな漆黒のグラスでその顔を隠していた。 スーツの男はネルガル会長である、アカツキ・ナガレ。 黒衣の男は、テンカワ・アキトという。 「どうしたんだい、テンカワ君」 アカツキは正面に座るアキトを興味深げに見ている。 復讐を終えた青年は僕に何を望むのだろう。 アキトの顔は隠されているため、表情を伺うことは出来ない。 彼はこの部屋に入ってきてから、はじめて口を開いた。 「アカツキ・・・ラピスを、アイドルとしてデビューさせる。そのために俺は、会社を作ろうと思う」 一瞬、何のことだか理解できなかったアカツキだが、事態を把握すると、笑い始めた。 ひとしきり笑うとまじめな顔になり、目には涙が浮かんでいたが、アキトに言った。 「いいよテンカワ君、おもしろそうだ」 こうして世界いや、宇宙で一番小さい芸能プロダクション"天川芸能"は誕生した。 1. 戦艦ユーチャリス。 いくつかのコロニーと、数千の人を葬った最凶の宇宙船である。 しかし、その宇宙船は今、生まれ変わろうとしていた。 復讐を終えた青年と、青年のためにその身を刃に変えた少女によって。 ただ広いだけの何も無い部屋の真ん中に、少女が佇んでいた。 淡い桜色の長い髪をした少女は、その色に合わせたようにピンクを基調にした服を身につけていた。 シンプルなデザインの服だったが、少女の持つ美しさを際立たせるには十分であった。 アキトは、その部屋に静かに入室すると、ぼんやりとしている少女に声をかけた。 「緊張しているのか?ラピス」 「アキト!!」 ラピスは嬉しそうにアキトの元へと駆け寄った。 そして、彼の体にぶつかるように飛び込む。 アキトはしっかりとラピスを受け止めると、彼女の頭を軽く二度叩いた。 「ラピス、リハーサルは終わったのかい?」 「うん。プラスも上手だって誉めてくれたよ。アキト、もう一度聞いてみる?」 こぼれんばかりの笑みを浮かべ、ラピスはアキトに報告する。 そんなラピスの周りに幾つかのスクリーンが現れる。 「ラピス上手!」 「最高!」 「ヒット間違いなし!」 などの文字が映し出されていた。 この船の中枢であり、優秀な裏方を務めてもらうことになる、オモイカネ・プラスである。 アキト、ラピスそしてオモイカネ・プラスが天川芸能の全社員である。 そんなラピスを応援するプラスに、アキトは可笑しくなり声を立てずに笑った。 ラピスもアキトが笑うのを見て、つられるように微笑んだ。 笑う二人の周りには、ブラスが特殊効果で花を飛ばしていた。 2. ラピスをアイドルとしてデビューさせるにあたり、アキトはアカツキへ二つばかり頼み事をした。 ひとつはユーチャリスの使用である。 これは音響、照明、通信設備などがユーチャリスにはあり、また録音、編集、特殊効果などをプラスが担当出来るからである。 そしてもうひとつは、ネルガルの持つ宇宙通信回線の使用である。 地球、月、火星、木星とコロニーなどの人類が居住可能な場所、全域に通信可能なネットワークを持つのは、ネルガル以外にないのである。 アキトはこれに目をつけた。 この太陽系規模のネットワークを利用できれば、銀河をまたにかけるアイドルを誕生させることも不可能ではないと。 そしてアカツキはアキトに使用を許可した。 アキトは15分の回線使用権を得たのだった。 たった15分だが、全宇宙の人々が新たなアイドルの誕生を目の当たりにするのだ。 「ラピス。準備はいいか」 「うん、アキト。私がんばるからね!見てて!!」 先ほどの部屋にラピスはいた。 その部屋を見下ろす場所に位置する部屋にアキトはいた。 ラピスのいる場所は本来格納庫であり、アキトがいる場所は管制室である。 通常ここにはアキトの愛機ブラック・サレナが置いてあるが、今はユーチャリスの外に係留されている。 格納庫には、68の照明、30個のマイクと42の高感度カメラが備え付けられている。 それらが今は、ラピス一人に向けられていた。 「プラス。スタンバイ」 「了解」 アキトの横のスクリーンに映し出される文字。 同時に格納庫の照明がラピスを照らす。 やわらかい光が只の格納庫をステージに変える。 カメラが作動する。アキトを無数のスクリーンが囲む。 そのスクリーン一つ一つにあらゆる角度からとらえられたラピスが映る。 各種センサーも動き始める。歌が始まれば数々の特殊効果を実現するだろう。 ラピスとアキトの目の前のスクリーンが数字を映し出す。 本番までのカウント・ダウンが始まった。 5・・4・・3・・2・・1・・ 伝説はここから始まった。 3. 「はじめまして。私、ラピス・ラズリといいます。今日デビューしたばかりの新人ですけど、がんばりますので私の歌を聴いてください」 ゆっくりと、丁寧にお辞儀をするラピス。 とても落ち着いている。 その様子を見守っているアキト。彼も少し笑みがもれた。 イントロが流れ始める。 「曲は、あなたに逢うたびに・・です」 そっと瞼を閉じるラピス。 歌いだしと共に口を開く。そこから紡ぎ出される歌声。 透き通るような声。アキトにプラスに、そして放送を見ている人々に届いた。 貴方に逢うたびに高鳴る鼓動だけ・・・ Accident? Necessity? Woo はじめて出会ったよ。想いを纏う人。 その見えぬ瞳で、過去だけ見てる人。 偶然と言うなの、悪魔に魅入られて。 悲しみの数だけ、自分の心傷つける人。 出会い?これは何? 必然?それは何処? 見えぬ瞳で私をはじめて見つめた人。 触れ合う心。それは幻? 暖かい手。それは偽り? 心に宿る人の微笑が、今の貴方を傷つける。 私は貴方を見つめてるのに・・・ 今は見ていて苦しい。こんな気持を抱かせる人。 その見えぬ瞳で、涙を流す人。 必然と言うなの、想いに魅入られて。 私を引き付けて、心気づかぬ残酷な人。 想い?それは強さ? 焦がれ?それは弱さ? 震える心で私を捕まえた人。 伝え合う心。それは悲しみ? 哀しい背中。それは悪夢? 心に宿る思い出が、今の貴方を撃ち付ける。 私は貴方を想っているのに・・・ 貴方に逢うたびに惹かれるこの心・・・ Accident? Necessity? 想い?それは強さ? 焦がれ?それは弱さ? 震える心で私を捕まえた人。 伝え合う心。それは悲しみ? 哀しい背中。それは悪夢? 心に宿る思い出が、今の私を霞めゆく。 私は貴方を想っているのに・・・ 歌が終わる。 ラピスを照らす照明が落ちる。 放送は、この歌の宣伝に入った。 これはプラスがVTRを流している。 「お疲れ、ラピス。よくやったね、とてもよかったよ」 アキトは格納庫へ入ってくる。その顔に満面の笑みを湛えて。 「うん、ラピス、がんばったもん」 ラピスも満足そうに、小さくガッツポーズをして答えた。 プラスもラピスの健闘を称えるように、特殊効果で花を飛ばしている。 やれることはやった。 後は視聴者の反応を待つだけであった・・・。 エピローグ 秋を予感させる爽やかな風と穏やかな日差し。 赤くいろづきはじめた木々の立ち並ぶ道を、青年と少女が歩いていた。 「ねぇアキト、私がいっぱいいるよ」 ラピスはチョコとバニラで半分半分のソフト・クリームを可愛らしく食べながら、あいている手の方の人差し指で、ずらりと並んでいるポスターを指す。 「ああ、いまやラピスはアイドルだからな」 感慨深げに呟くアキト。 上下を黒のスーツで固め、大きめのサングラスをかけている。 並んで歩く二人はまるで、お嬢様とそのボディーガード、といった雰囲気だ。 衝撃のデビュー。 そう、評されるラピスの登場から早一週間。 デビューシングルの販売枚数は2,000万枚を越えた。 売り出してから一週間でこれだけを販売したのだ。 いまやラピス・ラズリの名は太陽系に轟いている。 この成功によりユーチャリスは現在、月にあるネルガルのドックで改修を受けていた。 アイドルとしてのラピスをサポートする宇宙船へと。 そして二人は休日を楽しんでいた。 「ねぇアキト」 ソフト・クリームを食べ終えたラピスは、アキトへ可愛らしく小さい手を差し出した。 「なんだ、またソフト・クリームが食べたいのか?」 「違うよ!!・・もう」 アキトの言葉にラピスは立腹したように、頬を膨らませる。 だが、ラピスは自分からアキトの大きく、ごつい手をとった。 「ラ、ラピス!駄目だといっただろう」 珍しく動揺するアキト。 しかし、ラピスは別に気にした様子もなく、嬉しそうにアキトを見上げた。 「ご褒美」 「・・・駄目だよ・・ラピス」 「どうして?」 「・・・汚れているから」 サングラスに隠され、アキトの表情は分からない。 でもラピスは、ラピスには青年がどんな表情をしているのかよく知っていた。 「汚れてなんかないよ!アキトの手も、アキトの足も、アキトの目も・・・アキトの心も、汚れてなんか・・ないよ」 少し涙声になりながら、それでも瞳をそらさずに真っ直ぐ見つめてくる少女。 まぶしいばかりの輝きを放つ少女から、アキトは目をはずせなかった。 「ありがとう・・ラピス」 「ううん、いいの。アキトが元気になってくれたら」 二人はまた歩き始めた。 ラピスは手をしっかり握り締め、アキトは迷っているように力なくそえているだけだった。 伝説は始まったばかりであった・・・。 銀河アイドル伝説ラピス・ラズリ アイドル誕生!!〜了〜 後書き こんにちは、赤城しぐれです。 ほんの思い付きから始まったこの話が、すばらしい詩を頂いたことによりこうして一般公開されました。 詩をくださいました河田様。 掲示版掲載にもかかわらず、感想をくださいましたK.Masuda様。 そして発表の場を与えてくださった中田様には感謝をしています。 この場を借りて御礼申し上げます。 さて、次回は、 毎週土曜日、夜九時から全宇宙で放送される番組、 「ラピスの宝石箱」 そこで語られるアイドル誕生の秘話。 なぜ彼女は、銀河系をまたにかけるアイドルになろうとしたのか? すべてが今夜明かされる。 銀河アイドル伝説ラピス・ラズリ〜夢と希望とサム・マネー〜 にTURN ON!! この番組は、 おはようからおやすみまで「ろうにんナヴァ」 あすの暮らしをみつめる「S.K Home Page」 ごらんのスポンサーの提供でお送りしました。