両手いっぱいの花束を プロローグ その日、久々の休日となったナデシコの面々。 それぞれ街に繰り出し、思い思いの時を過ごしていた。 ハルカ・ミナトは、同僚のメグミ・レイナードと共にショッピングをして、前々から調べてあった最近有名なイタリア料理の店での食事を楽しんだ後、ナデシコの自室へと戻っていた。 そんな彼女が、今日一日の疲れを癒すべくシャワーを浴びていた時、来客を告げるチャイムが鳴った。 誰だろうと思い、浴室からバスタオル一枚を体に巻き付け、長い髪をタオルで軽く包み込んだ彼女は、ドアの向こうにいる人物を確かめようとした。 だが、そこにいたのは真っ赤な花。とてもすばらしい色のバラが、画面一杯に映し出されていた。 「どちらさまですか?」 ミナトは、花の向こうにいるはずの人物に問い掛けた。 「ミナトさん、ルリです」 その花の向こうからは、彼女のよく知る少女の声が聞こえてきた。 慌ててドアを開けるミナト。 そのドアの向こうには、バラの花束を両手に抱きかかえ、その花束に顔を隠されたホシノ・ルリの姿があった。 1. 「ふう〜ん。そう言う事だったの」 訪ねてきたルリを部屋へと招き、オレンジ・ジュースを出したミナトは、手早く着替えた後、事情を聞いてそう言った。 ルリは今日、テンカワ・アキトと一緒に、遊園地へ行っていた。 休暇を貰っても、何もする事のなかったルリにアキトから声をかけてきたのだ。 最初、子供扱いされたと思ったルリは断わったが、アキトは、 「俺、実はさ、そういうとこ一度も行った事がないんだ。だからルリちゃん、一緒に来てくれないかな?」 と頼まれ、ルリは仕方なく付き合ったと言うのだ。 「その帰りにその花束を、テンカワさんが私にくれたんです」 そういって、ルリはストローに口をつける。 コップの中のオレンジ・ジュースが、ルリの元へと運ばれる。 「ルリルリはアキト君とデートしてたんだ?」 「・・!!」 口からストローを離し、ルリは何度かむせ返る。 「あらあら、ルリルリ。大丈夫?」 「ミナトさん!変な事言わないで下さい」 ルリは、ミナトを上目遣いに睨みながら、彼女を非難する。 「変な事って?」 睨まれたミナトだが、そんな事は気にせず微笑みながら訊ねる。 実際、ちょっと涙目になってルリに睨まれても、愛らしいとは思っても、恐くはないだろう。 「テ・テンカワさんと、デ・デ・デートなんて、していません」 珍しくどもりながら話すルリ。 よく見ると、少し頬を紅潮させているのが分かる。 「そのデートの記念にルリルリは、アキト君から花束を貰ったと」 「ミナトさん!人の話を聞いて下さい!!」 「あら、ちゃんと聞いてるわよ〜ぉ?」 優しい眼差しでミナトに見つめられ、ルリはそれ以上何も言えなくなり、再び手にしたコップのストローに口をつけ、ミナトの視線から顔を逸らした。 2. 「それで、私に何の用があるの?ルリルリ」 俯き、オレンジ・ジュースを飲んでいたルリのコップが、溶けかかった氷を残すだけになるのを見届けたミナトは、ルリに訊ねた。 ルリは空になったコップを静かにテーブルの上に戻し、側に置いてある花束に目を向けた。 「私、花を貰った事なんて今まで一度もなくて、どうしていいか分からないんです。それでミナトさんなら、どうすればいいのか知っていると思って・・・」 そんなルリの言葉を聞いたミナトは、嬉しかった。 今までなら、きっとオモイカネに相談して、それで終わりだったろう。 それが自分の所へ訊ねにきてくれる。その事がとても嬉しかった。 「そうね。まず、花瓶に入れてルリルリの部屋に飾りましょ。そして、それからドライフラワーにするのもいいわね。あっルリルリ、花瓶持ってる?」 「いえ・・」 ミナトは、やっぱりねと思う。 この少女は生活必需品しか持っていないのだ。その事は何度か少女の部屋に行った事があるので知っている。 「ちょと待っててね、ルリルリ」 そう言ってミナトは、部屋の奥へと消えていった。 ルリは声をかける間もなく行ってしまったミナトが見えなくなると、コップに残っていた氷をストローで突ついて遊んでいたが、自分の傍らにあるバラの花束に目を向けると、今日の出来事を思い出し微笑んだ。 ミナトは自分で使っていない花瓶を見つけると、それを手にルリの所へ戻った。 そして、花束を見つめながら微笑むルリを見て、テンカワ君もやるのね、と思いながら声をかけた。 「ルリルリ。これ、私からルリルリにプレゼント」 急に声をかけられ、ハッとするルリ。 見ると、ミナトがいつの間にか側にいて、こちらを見ていた。 そんなミナトの顔を見て、ルリはさらに頬を赤らめた。 「はい。ルリルリ」 ルリに花瓶を渡そうとするミナト。 「そんな、悪いです」 遠慮するルリ。 「いいのよルリルリ。この花瓶、ルリルリに貰ってほしいの。ルリルリ、貰ってくれる?」 目の高さを合わせて、覗き込むように見つめるミナトに言われ、ルリは素直に受け取った。 「ありがとうございます・・」 そんなルリの頭をミナトは何度も撫でていた。 ルリは貰った花瓶を、透けるような青色をした、自分の髪と同じ色の花瓶を大事に胸に抱えながら、おとなしく撫でられていた。 3. 「こんなものでしょ。どう?ルリルリ」 ミナトは、ルリと共にルリの部屋にいた。もちろん、花を飾るためである。 それに、ルリだけでは花束だけでもいっぱいで、とても花瓶まで持って部屋まで帰る事は出来なかったからでもある。 「キレイ・・・ですね」 飾られた、バラを見ながらルリは呟く。 「でしょう?」 ミナトは相づちをうつ。 飾り気の無い、ルリの部屋に置かれた花。それだけで、ずいぶん印象が違って見える。 花をジッと見つめるルリをみて、ミナトは、いい傾向ね、と思う。 「しっかしテンカワ君も、ずいぶん大胆ね」 ミナトの言葉の意味が分からず、首をかしげるルリ。 そんなルリの、かわいいしぐさを見ながら、ミナトは、 「だって、バラの花言葉って、永遠の愛、じゃなかったけ?」 「・・!!!」 顔全体を真っ赤にしたルリ。 「よかったわね、ルリルリ」 滅多に見る事の出来ないその姿が面白いのか、ミナトはさらに追い討ちをかけた。 「もう!ミナトさん!!」 声を荒げて言うルリ。しかし、真っ赤な顔を俯かせた状態で言っても迫力はない。 「じゃ、おやすみ。ルリルリ」 からかい過ぎたかなと、ちょっと反省しながらミナトはルリの部屋を後にする。 そして自分の部屋へ戻ってきた。 そこには、ルリの持ってきたバラの香りが残っていた。 クスッと笑うミナト。 多分、あの少女は今でも顔を赤くして、そしてあの花を見つめているだろう。 そして今日一日を思い出しているはずだ。 あまりいい夢を見た事が無い、と言っていた少女。 だが、今日は素敵な夢を見るだろう。いや今日だけでない。これからもずっと見続ける事だろう。 そう思うと、ミナトはうれしくてたまらなかった。 深呼吸一つして、部屋に残る香りを胸いっぱいに吸うと、 「おやすみ、ルリルリ。・・いい夢を見てね」 そういって、彼女はベットに体を預けた。 エピローグ 再びナデシコに休日が訪れた。 ミナトはルリを誘ったが、フラれてしまった。 顔を赤くして、ゴニョゴニョと何やら言っていた所を見て、アキトとデートするのが分かったので、追及しなかった。 なので、またメグミと一緒にショッピングをした。 ナデシコに帰ってきて、メグミと別れ、自室に戻る途中、前を歩くルリとアキトを見つけた。 ルリは、白と青色のチェックのワンピースを着ている。 最近この少女は、私服の数を増やしていた。 アキトはジーンズに緑のTシャツ。その上に青いパーカーを着ていた。 仲良く歩く二人に声をかけようかどうかミナトは迷ったが、ルリがこちらに気付き話しかけてきた。 「ミナトさん、今おかえりですか?」 ミナトは二人に近づいた。 「そうよ。・・・・ルリルリ、今日のデータは楽しかった?」 ルリをからかいたくなったミナトは、ルリだけに聞こえるように、そっと質問する。 「ええ、とっても楽しかったですよ」 まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかったミナトは、固まった。 そんなミナトを無視して、ルリはアキトへ向き直り、 「テンカワさん、今日とっても楽しかったです。また誘って下さい」 「ああ、もちろんだよ。よろこんで」 アキトの言葉を聞き、ペコリと頭を下げるとルリは、駆け足で部屋に戻っていった。 そんなルリの後ろ姿を見送ったミナトは、アキトが白束い花を両手に抱えている事に気がついた。 「テンカワ君、その花束どうしたの?」 「ああ、これですか?ルリちゃんが、今日のお礼だって、俺にくれたんですよ」 テレくさそうに答えるアキト。 ふぅん、ルリルリもやるわね。そう思いミナトは、 「テンカワ君、その花の、ライラックの花言葉ってしってる?」 「えっ?」 「今度、調べてみるといいわ」 そう言ってミナトは歩き始めた。 後に残されたのは困惑しているアキト。 そんなアキトを横目に見たミナトは、妹のように思う少女の想いを乗せた、ライラックの香りを吸い込んだ。 初恋か・・実るといいね、ルリルリ。 いつも通りの、何の変哲もない通路が、ミナトにはまるで咲き誇るライラックにうめ尽くされた、花畑のように感じた。 Fin 後書き こんにちは、赤城しぐれです。 今回の物語はナデシコの操舵仕である、ハルカ・ミナトの視点からみた物語です。 本当は、ルリもしくはアキトの視点からみて作りたかったのですが、ちょっと無理でした。 こういう役回りは通常ですと、イネスなのかもしれませんが、私の場合ミナトになります。 私の位置付けですと、ミナト=ルリの姉的存在、となっているからです。 この物語を、最後まで読んで下さいました皆様ありがとうございます。 また、この物語を発表する場を与えて下さいました、中田様。大変感謝しております。 今後も、当ホームページと共に、よろしくお願いします。