緑幻想〜後編〜 4. 広い部屋。高い天井。 大きく開け放たれた窓からは、風に運ばれて若草の香りが漂う。 テンカワ・アキトは、そんな部屋のソファーに腰を落していた。 彼の前には、机があり一枚の紙が乗っている。 その向こうには、ルリの父、ピースランドの国王が椅子に座ってこちらを見ていた。 「テンカワ殿、姫と結婚するとなるとそれなりの身分が必要なのだよ」 机の上の紙をアキトに渡す。 「それは養子縁組みに必要な物だ、テンカワ殿をピースランド王家の遠縁ということにしておいた。後はサインをしてくれればよい」 アキトはその書類を、なんとも言い難い表情で見ていた。 「ルリちゃ・・姫は了承しているのですか?」 「ああ、もちろんだともテンカワ殿。とても喜んでいたぞ」 国王は、ルリもすでに納得しているとにこやかに言う。 「姫に会わせて頂けますか?」 あくまで本人に合って話をしたい。アキトは国王にお願いする。 「ルリは昨夜の疲れから部屋で休んでいる。申し訳ない、テンカワ殿」 「・・・・国王様」 ぬけぬけと嘘をつく国王に、アキトは無礼を承知で訊ねる。 アキトには国王の真意が分からなかった。 国王は大きく息を吐くと立ち上がり、窓の側まで歩いていった。 そしてゆっくりと、心の内を話し始めた。 「このままでは娘は戦場に戻ってしまう。そうなれば、命を落してしまうことになるかもしれん。それが私には耐えられんのだ。私にとって、ルリは何よりも大切なのだよ」 アキトに背を向たまま、国王は窓の外を見つづけている。 「それゆえここに留まっていてもらいたいのだ、どんな手段を使ってもな・・・」 沈黙が辺を支配する。 その中を風だけが動いている。 アキトはしばらく考えていたが、側にあるペンを手に取ると、書類にサインをした。 「国王様・・」 国王は窓際から机に歩み寄り、書類を確認する。 「感謝する・・・テンカワ殿」 アキトは何も答えられなかった。 彼はただ思っていた。これでルリちゃんが幸せになれるなら・・・と。 窓から入ってくる風は、暑く感じられるようになっていた。 太陽は、だいぶ高くなっている。 今日も暑い一日になりそうだった。 5. 差し込む強い日射しを、薄いレースのカーテンが遮っている。 カーテンは、入ってくる風にそよいでいた。 穏やかな午後にピースランド王宮はとても静かだった。 王宮の一角にあるその一室もまた、例外ではなかった。 だが、その部屋に流れてる空気はどこかピンと張り詰めていた。 「父、これは一体どういうことですか」 暢気にお茶を飲む父親にルリは少し・・・いや、かなり怒り気味だった。 冷静沈着を体言するような彼女には、珍しい事と言えよう。 「何をそんなに怒っているのだ?ルリ」 国王は、カップから口を放すと、人の良い笑顔で訊ね返す。 「私が・・テ・テンカワさんと・・け・けっ・・結婚・・・・」 口にするのが恥ずかしいのか、もう顔を上げてはいられない。 ルリはそれだけ言って俯いてしまう。 「ああ、そのことか。何、今は婚約だけだ。結婚は、いずれ時期がきたら、改めて式を挙げる」 今日の天気を話すように、さらりと言う。 「・・・私は婚約などしません」 ルリは俯いたまま拒否する。 「何か不服でもあるのか?ルリ」 「・・・」 やんわりと切り返され、ルリは言葉に詰まる。 不満がある訳では無い。いや、この甘美な誘惑に惑わされてしまえと囁く自分がいる。 そうすれば、きっと幸せになれる。そう囁く自分がいた。 ここには父と母がいる。 そして、一番大事な人が側にいてくれるというのだ。 夢見ていた。幸せな家庭を。私が得られなと思っていた物だったから。 でも、私はあの時見つけた。大事なものを。 未来は創っていけると知ったから。 過去は未来の道しるべ。私はそれを失っている。 でも見つけたから、未来に辿りつくために。 「父、テンカワさんに会わせて下さい」 ルリは真直ぐに父を見つめる。 ルリはアキトがなぜ同意したのか、彼の心を知りたかった。 「その必要は無い。ルリ、正式な婚約発表は今夜だ。それまでこの部屋で休んでいるとよい」 国王はルリのその視線から目を逸らし、それだけ言うと逃げるように部屋から出ていった。 「疚しい行為だと、自覚しているのですか」 ルリはその後ろ姿から思った。 バンッ クッションがドアに激突した。ぽとりと床に落ちる。 国王が出ていった後、ルリはすぐ脇にあったクッションをドアに向かって叩き付けた。 それははしたない行為だと自覚していた。 しかし、自分の想いを無視する父に本気で怒っているルリは、衝動に駆られるままに行動する自分を止められなかった。 「私は所詮、道具でしかないのですか?」 生まれてからずっと、そう扱われてきた。 父にとってもそれは変わらないのか。そんな思いがルリの心を締め付ける。 「そうね、私は・・・」 「ルリちゃんは、ルリちゃんだよ」 自己完結する寸前に、ルリの脳裏に突然浮かんだ言葉があった。 胸が苦しくなる、そんな微笑みと共に思い出されるアキトの言葉。 その言葉は彼女にとって、大切な呪文。 でも、その呪文をかけてくれる魔法使いはここにはいない。 「テンカワさん・・・」 だから名を呼んでみた。 それだけで、なぜか強くなれる気がした。 ルリは顔を上げ、彼女を閉じ込める部屋から出るために、ドアに向かって歩き出した。 おそらく鍵がかかっているだろうドアに手をかけようとしたその時。 ガチャ 小気味良い音と共にドアが勝手に開いた。 「母」 入ってきたのは、ルリの母であった。 王妃はドアを閉めると、ルリに近寄り腰を落した。視線の高さを合わせるように。 「あの人を許してあげて」 真摯な瞳でルリを見つめている。 「すべて、すべてあなたの為を思ってした事なの。だけどあなたを傷つけてしまったようね」 王妃はルリの手に、自分の手を重ねている。 その感触を確かめるように、そっと握り締めた。 「私のためなら、すべて許されるのですか?」 辛辣な言葉を投げるルリ。 そんな言葉が免罪符になるのかと。 「そうね。私達は許されない事をしてしまったわ。ごめんなさい、ルリ。それでも私達はあなたに、ここにいて欲しかったの」 親の気持ちとは、そういうものなのか。 ルリはそう思った。 そして、その言葉だけで満足だった。 実験動物としてこの世界に生まれたのでは無いのを知ったから。 もう一つの可能性がそこにあったのだから。 でもそれでは私になれない。それではきっと出会えなかった人がいるのだから。 「母。テンカワさんに会わせて下さい」 そんな娘の顔を見て、王妃はすべて悟ったような表情で頷いた。 陽はいつの間にか沈みかけていた。 6. ルリはそのドアを引いた。 そして部屋の中に入ると、そこには逢いたかった人がいた。 アキトは驚いた表情で、ルリを見てた。 「テンカワさん。なぜ、同意したのですか?」 怒ったようなルリは、琥珀の瞳で、アキトを射ぬいた。 彼女は確かめようとしてた。彼の想いを。 なぜ、ここに留まろうとしたのかを。 「ルリちゃんに、幸せになって欲しかったから」 アキトは答えた。ルリの瞳から顔をそらして。 パシーン!! 小気味良い音が部屋に響く。ルリの平手がアキトの頬を打ったのだ。 「ルリちゃん?」 アキトは驚いたような声を挙げる。 まさか叩かれるとは思っていなかったのだろう。 ルリはそんなアキトをジッと見つめていた。とても哀しげな表情で。 アキトの頬を叩いた手は痛かった。だが心はもっと痛かった。 「私の瞳を見て下さい、テンカワさん!私を・・私を哀れまないで下さい」 アキトはルリの瞳を真直ぐに見つめた。 ルリの琥珀の瞳は、澄んだ湖に映った月のように美しかった。 しかし、その湖に悲しみの小船を浮かべており、月は徐々に揺らいでいった。 その瞳を見てアキトは、自分のしたことの愚かしさに気づいた。 「ルリちゃん、ごめん」 アキトはルリに謝罪する。 「謝らないで下さい」 ルリはその謝罪を切り捨てる。 謝ってもらいたいのではない。 ただその瞳で見つめて欲しかった。私になれる呪文をかけて欲しかった。 「ごめん、ルリちゃん」 もう一度、アキトに文句を言おうとしたルリだったが、その言葉は口からこぼれる事は無かった。 自分の体を抱きしめられたから。 アキトは初めてルリを抱きしめていた。 「ごめん、ルリちゃん」 アキトの抱擁は、今までのなかで一番痛いものだった。 だが、その不器用な抱擁は、ルリの心まで抱きしめようとしているようだった。 ゆっくりとルリは、アキトを抱きしめ返した。 「二人とも、あまり時間が無いわ。早くお逃げなさい」 抱きしめあう二人を、まるで眩しいものを見るようにしていた王妃は二人に声を掛ける。 ルリとアキトはその声を聞き、どちらともなくゆっくりと離れた。 そして自分達のしていたことに、たった今気づいたようにお互い顔を赤らめた。 「あなた達の乗ってきた機械はこちらです、ついてきて下さい」 王妃は小さく笑った後、真面目な顔になって言う。 ルリとアキトは、王妃の後に続き、部屋を後にした。 アキトのいた部屋からほど近い場所に、エステバリスは主の帰りを待っていた。 陽はすっかり落ちて暑さは影をひそめ、涼しい風が吹いていた。 辺りからは虫達の鳴き声が聞こえる。 澄んだ空気のおかげで、満天のの星が綺麗に見えた。 アキトはエステバリスのコクピットに乗り込むと、起動準備に入った。 その様子を、ルリは少し離れた所から見守っている。 側で王妃はルリの横顔を見ていた。 「気おつけてね。ルリ」 言いたい事は沢山あるのだろう。だが王妃はその言葉を口にすると、瞳に涙を浮かべルリを見つめる事しか出来なかった。 「母、ありがとうございます。私、母に会えて嬉しかったです」 王妃は、ルリの名を何度も呼びながら彼女を抱きしめた。 「行こう、ルリちゃん」 アキトは操縦席から顔を出し抱き合う母子を見ながら声を掛けた。 アキトの声を聞き、王妃は名残惜しそうに娘をそっと離した。 「行きなさい、ルリ」 ルリも何か言いたそうにしていたが、結局何も言えず王妃に背を向け、エステバリスに乗り込もうとした。 そして操縦席から差し出された、アキトの手を取ろうとした瞬間、 「どこへ行かれる?ルリ、テンカワ殿」 突如後ろの方から呼び止められた。 その声にルリは振り返ると、いつのまにかエステバリスの周囲は囲まれているのが分かった。 その中から、国王がゆっくりと歩いてきた。 「君たちを帰す訳にはいかないのだよ。なにしろ婚約発表がひかえているものでね」 あの人の良い笑顔を浮かべている。 「違約金を請求されますよ?」 ネルガルから、莫大な金を取られると、ルリは指摘する。 二人の滞在帰還は二日だけだ。それ以上拘束したとなると問題になるはずだ。 ましてや二度と戻さないとなると、どれくらい請求されるか知れた物ではない。 「たいした問題ではない」 しかし国王は、事も無げに言った。 「最初からそのつもりなんですね」 きっばりと言い切った国王の言葉に、ルリはそう判断した。 全部仕組まれていたのだと。 「あなた・・・」 王妃は不安げに夫を見ていた。 国王はそんな妻を一瞥すると、 「まさか、裏切るとは思わなかったよ。おまえなら分かってくれると思っていた」 さも意外だったように、首をふりながら言う。  「なぜそうまでして、私を手元に置こうとするのですか?」 何故莫大なお金をはらってまで、テンカワさんと結婚させてまで、留まって欲しいのか。 なぜそこまで執着するのか、ルリには理解出来なかった。 「ルリが私の娘だからだ」 ルリはその言葉を信じてはいなかった。 いや、それもあるのだろう。だがそれだけとは思えなかった。 「それだけでは無いはずです」 本音を聞かせて欲しい。ルリは国王に訊ねる。 国王は少し困ったような表情で考え込んでいた。 そして真剣な表情になり、ルリの側によると、頭をかるく撫でた。 「ルリ、私達夫婦は子宝に恵まれなかった。だから人工受精という手段を用いて子供を得ようとしたのだ」 国王は静かに話はじめた。 「しかし、その子は盗まれてしまった。犯人にとっては多数の中の一つに過ぎなかったのかもしれない。しかし我々には重大な問題だった」 国王は夜空を見上げた。瞳に光る物が見えた。 「なぜならその子は、私達のたった一人の子供だったからだ」 ルリは黙って聞いている。いやルリだけで無い、だれもが静かに聞いていた。 「ピースランド王家の総力を上げて探した。そして十数年、ついに見つけたのだ、我が娘をな。ルリ、そなたを」 国王は涙が溢れるのもかまわず、ルリを見下ろした。 「そなたは、ピースランド王家にとっても大切な存在なのだ。親として国王として手放す訳にはいかぬのだ、ルリ」 夜風が辺を吹き抜ける。草原を通る風は、草葉の香りを運んできた。 星の明かりがすべてを照らす。 「ありがとうございます、父」 ルリは国王を見上げながら、そっと礼をいう。 その言葉に、ホッとしたような表情になる国王。 「でも、私は行かなければいけません。私にはまだやらなければいけない事があります」 ルリは真直ぐに父を見つめる。その瞳はまるで、地上に落ちた星の様だった。 「ルリ!命を落すかもしれないのだぞ!!」 血相をかえ、強い口調の国王。 それを一番危惧している。娘は戦艦に乗り、戦っているのだから。 ルリは優しく微笑みながら、胸の前に両手をあてた。 「私は大事な物を守りたいんです。それは失ってはいけない物ですから」 ルリはそう言うと、アキトの手を取りエステバリスに乗り込む。 「ルリ!」 「ルリ、行きなさい!!」 国王の制止を遮って、王妃はルリに叫んだ。 「母」 ルリはコクピットから、父と母を振り返った。 「ルリ、行きなさい。でも、覚えていて。ここがあなたの生まれた場所なのだという事を。いつでも帰ってきて良いのよ、ルリ。私達はいつでも歓迎するわ」 王妃は毅然とルリを見ていた。 「母、ありがとうございます。父、ルリを許して下さい」 閉まるハッチ。 低く重い音とともに、巨人が空を舞う。 そして赤い巨人は、姫と、姫を守る騎士を乗せ夜空へと消えた。 「行ってしまいましたね」 王妃は、国王に近寄り話し掛けた。 「なぜなのだ?」 どうして行かせたのかと、国王は訊ねる。 「私達の娘は、もう子供ではないのですよ。寂しいですけれど」 国王は、二人の消えていった夜空を、ずっと見つづけてる。 そんな夫を、妻は微笑みながら見ていた。 「大丈夫です、あなた。ルリは私達の娘です。必ず、必ず帰ってきてくれます」 断言する妻を夫は不思議そうに見つめる。 二人の視線が交わる。 「なぜそう思う?」 その問に王妃は、自信満々といった感じで答えた。 「女のカンです」 国王は分からないというように首を振った。 そんな当てにならない事を本気で思っているのかというように。 王妃はそんな夫を可笑しそうに見ながら、 「それに、今度帰ってくる時は、夫を連れて、もしかしたら、孫の顔を見れるかもしれませんよ?」 国王は妻の顔をまじまじと見つめた。 そして、妻の言葉を噛みしめると、不意に笑い始めた。 「そうだな、それもよいかもしれぬ」 娘は生きていたのだ。 命を落すかもしれないと心配するより、生きて帰ってくる事を待てばよい。 ずっと待ちつづけたのだ。待つ事には慣れている。 いつか娘が、二人が帰ってくるのを待つのもよいか。 国王の笑い声は、しばらくの間、静かな王宮に響きわたった。 王妃は感慨深けに夜空を振り仰いだ。 「ルリ、私達はいつかまた逢えるわ。その時は話をしましょうね、思い出を、夢を」 王妃の囁いた言葉は、夜空吸い込まれていった。 その願いを叶えるためか、星が一粒流れ落ちた。 エピローグ 初夏を思わせる、照りつける日差し。 だが、優しい風がその日差しを和らげてくれる。 地平線の彼方にまで続く、緑色の海。 草原が風を受けて、波のように揺れている。 そんな草原の真ん中に、ホシノ・ルリは佇んでいた。 「気に入っていただけましたか?」 ルリの脇にスクリーンが浮いている。 「ありがとう、オモイカネ」 ルリはその風景に見入っていた。 ここはナデシコのバーチャル・ルーム。 ルリはオモイカネに呼ばれ、この部屋に来ていた。 そこには彼女の記憶に新しい風景が広がっていた。 「喜んでもらえて嬉しいです、ルリ」 そんな事を言うオモイカネを見て、ルリは小さく笑う。 最近オモイカネは、嬉しいなどの感情を口にするようになっていた。 それは、ルリの変化に伴いより顕著になっていた。 ルリは皆にそうされているように、オモイカネを、スクリーンを撫でてあげた。 「綺麗だね、ルリちゃん」 オモイカネを撫でていたルリは、突然聞き覚えのある声を聞いて、驚いて振り返った。 そこには彼女の思った通り、テンカワ・アキトがいた。 いつのまにか彼は、ルリのすぐ側にまで来ていた。 「テンカワさん!?どうしてここにいるんですか?」 「えっ?ルリちゃんに呼ばれて来たんだけど・・」 ルリの驚いた様子に、アキトは戸惑っているようだ。 いったい誰が!?・・・まさか!! 「オモイカネ?」 はたと気づいたルリは、声に出して該当する者の名を呼んでみた。 だが、側にあったスクリーンはいつの間にか消えていた。 ルリは追求すべく、IFSを通しオモイカネに呼び掛けてみたが、返事はなかった。 「やっぱり、あなたなのね」 幾ら呼んでも返事をしないオモイカネに、ルリは心の中で呟いた。 「いったい何のためにオモイカネはテンカワさんを呼んだのだろう?」 ルリはオモイカネの目的を考え始めた。 「綺麗だね。ルリちゃん」 アキトの一言で、ルリは思考の渦から抜け出した。 キレイって・・テンカワさん? ルリの頬が少し染まっている。 「綺麗な光景だね。ルリちゃん」 「・・・・」 拍子抜けしたように、ガックリと肩を落すルリ。 一体何を期待してしていたのだろう。 「私ってバカ?」 そんなルリの心中に気づかずアキトは、オモイカネによって再現された風景に見入っている。 「いつかまた、一緒に見に行けたらいいね?ルリちゃん」 その言葉にルリはハッと顔をあげ、アキトの顔を見つめた。 アキトは、微笑んでルリ見ていた。 互いの視線が重なる。 「気をきかせすぎです、オモイカネ」 ルリは心の中で、オモイカネに感謝した。 そして口に出しては、 「そうですね、いつかまた行きましょう、テンカワさん」 と言って、目の前に広がる風景に目を移した。 アキトは吹く風の中で、緑の草原を眺めていた。 ルリはそんなアキトの横顔を覗き見る。 しばらくして視線を下に落とし、アキトの手を見た。 「テンカワさん、いつか私を連れていって下さい。あの場所に、そして未来に」 そう思いながら、ルリは緑の海に視線を戻した。 「えっ!?」 ルリはそんな風景の中に、自分とアキトの姿を見た。 瑠璃色の髪は今よりももっと長く、背丈もアキトの胸のあたりまである。 そんな自分の手を取り、その指先を見つめているアキト。 ルリもその手を愛おしそうに見ていた。 「テンカワさん!?」 「どうしたの?ルリちゃん」 ルリのひどく慌てたような口調に、アキトは心配そうにルリを見た。 その光景は一瞬で消えてしまったが、ルリの心に焼き付いて離れなかった。 ルリは目をゴシゴシと何度か擦った後、もう一度よく見てみたが、草原が風に揺られているだけだった。 「いえ・・なんでもありません」 それは緑の草原が見せた、幻想なのかもしれない。 だがルリは、未来の自分を見たような気がしていた。 緑幻想 完 後書き こんにちは。赤城しぐれです。 緑幻想〜後編〜いかがでしたでしょうか? 楽しんで読んで頂けたら幸いです。 これにて緑幻想は完結いたしました。 すでにお気づきの方もいらっしゃるでしょう。 この作品は、冴木 忍の著書 風の歌 星の道(角川スニーカー文庫)を元に書いた物です。 私はこの作品が大好きで、今でも読み返す事があります。 今まで発表した作品の題名も、上記の著書より勝手に拝借しているものがあります。 ちなみに、今までの発表作の題名は、 未来からきた天使 :赤川 次郎著 棚から落ちてきた天使 より 両手いっぱいの花束を:冴木 忍著 風の歌 星の道外伝 あなたに逢いたい から 両手いっぱいの花束を より いつか私になるために:新井 素子著 いつか猫になる日まで より 花咲く頃に :冴木 忍著 風の歌 星の道外伝 あなたに逢いたい から 花咲く頃に より 緑幻想 :新井 素子著 緑幻想 グリーンレクイエムU より となっています。 ”未来からきた天使”は当初”未来から落ちてきた天使”で、”いつか私になるために”は”いつか私になる日まで”という題でした。 その他は、もうそのままです。 この緑幻想は、当初”天の川 瑠璃の星”という題名でした。 (これは”風の歌 星の道”のパクリです) そして私の書く、ルリとアキトの物語の最終話となる予定だったものです。 しかし作者の個人的な事情により、題名と内容を変更して発表させて頂きました。 この物語を最後まで読んで下さいました皆様、本当にありがとうございます。 最後になりましたが、お忙しい中この作品を掲載してくださいました、中田様に感謝を込めて。