未来からきた天使EX〜未来からきた戦乙女 前編〜 プロローグ 迫りくる、昆虫に良く似た物体。 それは綺麗な光を放ちながら向かってくる。 その光、死をもたらす光の矢を躱しながら突き進む赤い巨人。 どちらが上で、どちらが下なのか分からない。 そんな漆黒の闇に包まれた空間を彩る輝き。 巨人の手に握られた銃から光が放たれると、確実に昆虫型の物体を破壊していった。 周りに味方はいないのだろう、全ての火線は巨人に向かってくる。 だが、それをまるで踊るように躱している。誰も触れることすら出来ない。 巨人は昆虫を一方的に破壊している。 だがそこに凄惨な雰囲気はない。それ以上に美しさを感じさせた。 そして、最後の一匹が巨人の放った光の矢に貫かれるた。 同時に「パーフェクト」「お見事」「ミッション・コンプリート」などと、巨人のパイロットのスクリーンに文字が次々と表示される。 そんな自分を賞賛する言葉を、パイロットは無感動に見ていた。 音も無くコックピットのハッチが開く。 さきほどのパイロットが出てきた。 見ると非常に若い女性である。まだ少女といっても良いかもしれない。 黒く長い髪を、三つ編みにして束ねている。 猫科を思わせるような、しなやかに動く体は将来美女になることを約束しているようであった。 「相変わらず、いい腕してるな〜。さすが戦乙女」 声を掛けられた少女は、シュミレーターのすぐ側に、女性が立っていることに気がついた。 「シュミレーションですから、教官」 教官と呼ばれ女性はちょと苦笑しながら、 「リョーコでいいよ」 「ですが・・・」 少女は気さくな態度で接してくれる女性に戸惑っているようだ。 「まあいいから、シャワーでも浴びてきな。飯でも食おうぜ」 リョーコと名乗る女性は少女の肩を軽く叩いた。 「はぁ」 なんとも気の抜けた返事をする少女。 リョーコはそんな少女の様子に、「父親似だな」と思った。 少女はシャワーを浴びた後、リョーコに連れられ食堂に来ていた。 編んでいた髪はほどかれており先程は分からなかったが、その黒髪は光の加減によっては青くも見えた。 なんとも不思議な色合いをしている。 その少女は、食堂の料理をあまり興味もなさそうに食べている。 リョーコはそんな少女をニヤニヤしながら見ていた。 「どうかなさいましたか?教官」 少女は自分を見て笑っているリョーコを訝るように訊ねる。 その質問を待っていましたとばかりにリョーコは、 「いや。やっぱり父親の料理が懐かしいのかなと思ってさ」 揶揄するように言う。 「そんなことありません!すこし調子が悪いだけです!」 少女はちょと眉を寄せ、強めの口調で否定した。 「へぇー。さっき訓練でパーフェクトを叩き出した人のセリフとは思えないな」 「・・・そんなこと・・・ありません」 図星なのだろう。弱々しく呟いた少女は、俯き黙ってしまう。 「しまった、からかいすぎたかな」 リョーコはそう思い、心配そうに少女を見やった。 「変なこと言って悪かった。今日はゆっくり休むといいよ」 少女の頭を軽く二度ほど叩いた。 「すみません教官。失礼致します」 少女はそう言って食堂を出て行った。 「やっぱ、父親似だな」 後に一人残ったリョーコは感慨深く呟いた。 夜空に浮かぶ月のような美しい瞳を持つ少女。 それは父親のそれとは似ても似つかないものだった。 だが、そこに宿るものは確かに父親と一緒だと、リョーコは少女の後ろ姿を見送りながら思った。 少女は部屋に戻ると、ベットに仰向けに寝転んだ。 両手で顔を覆い隠している。 「父様」 ポツリと呟くと左手を胸にやり、ペンダントを手にする。 それは家を後にしたとき、彼女の父親が渡してくれたものだった。 「いつでも帰っておいで」 そう言って見送ってくれた父の姿を思い出す。 帰れば優しく迎えてくれるだろう。 だがそれは出来ない。出来ない理由があった。 少女はギュッと両手で握り締め、目を閉じた。 郷愁の思いに捕らわれた少女は、ベットの上で寒さに耐えるように丸くなっていた。 そして、訓練の疲れか、寂しさから逃れるためか、いつのまにか眠りについていた。 その少女の手の中で、突然光が溢れ出した。 ぼんやりととた光は徐々に強くなっていき、やがて少女を包み込んだ。 瞬間、少女は光と共にベットの上から消えていた。 まるで最初から存在しなかったように。 しかしベットにはつい先程まで少女がいた証、温もりを確かに残していた。 一章 始まりは突然に 薄暗い部屋の、ちょうど中央に位置する場所に布団があった。 その布団の上には青年が薄手の毛布を一枚掛け、大の字になって寝ていた。 とても気持ちよさそうに寝ている。 そんな青年のすぐ右側に光の繭が出現した。 その光の繭は徐々に輝きを失っていき、やがて完全に消えてしまった。 静かに眠る少女を残して。 光の繭から生まれた少女は、青年の腕に頭を乗せていた。 青年は腕に違和感を感じたのか、少女を包み込むように寝返りをうった。 「・・・父様」 青年に抱きしめられるような形になった少女は、その小さな手で握り締めてしたペンダントを放し、青年のシャツをギュッと掴んだ。 体勢が落ち着いたのか、二人はそのまま寝息をたてていた。 そんな二人の側に、一枚のスクリーンが現れた。 スクリーンは、青年の、テンカワ・アキトの胸に顔をうずめて眠る少女に近寄った。 ナデシコにクルー以外の存在を感知したオモイカネだ。 前回の反省から、いきなり警報を出さずに確認をしているようだ。 以前に現れた少女ではないようだ。 まず髪の色が違う。身長も若干低いようだ。 しばらく観察した後、オモイカネの出した結論は、「問題なし」という、ずいぶんアバウトなものだった。 彼もナデシコのクルーの毒が回っているのだろうか? まあともかく、オモイカネは二人を見守ることにした。 どちらかが目覚めれば大騒ぎになるかもしれないのだから。 その頃、ナデシコのブリッジに待機していたルリは、オモイカネの様子がおかしい事に気がついた。 ゲームに飽きたので、話し相手をしてもらおうと思い呼んでみたが、返事が無いのだ。 「いつもならすぐに返事が返ってくるのに・・」 どうしたのか確かめるため、IFSを介し呼んでみた。 「どうしました?ルリ」 異常でもあったのかと心配したルリは、ホッとした。 「呼んでも返事がなかったから。何かあったの?オモイカネ」 「・・・いえ、何もありません、ルリ」 「やっぱりおかしい」とルリは思った。 でなければ、あの一瞬の間は何なのか。 「オモイカネ。何があったの?」 「するどい」とオモイカネは思った。 以前のルリなら気がつくはずはなかっただろう。 だがどうだ、今は自分の動揺を見抜いている。 そう考えてオモイカネは可笑しくなった。 自分も以前なら動揺などしないだろう。それより隠し事などしただろうか。 そして可笑しいなどと感じたろうか。 IFSにより、ルリの自分を心配する心が流れ込んでくる。 自分はこの少女のおかげで成長しているのだ。 そしてこの少女はおそらく・・・ だからあれを見せてしまうのは躊躇われた。 確固たる理由はないが、そう判断していた。 「オモイカネ」 ルリは不安気な声でオモイカネを呼んだ。 オモイカネは迷った。 だが彼はルリを優先する事にした。 オモイカネにとって、彼女は大事な人だったから。 「実は・・・」 そういってルリの目の前に映し出される映像。 「!?!?!?」 それを見て衝撃のあまり、硬直してしまったルリ。 「ルリ、これはですね・・・」 説明しようとするオモイカネ。 たが、ルリは耳を貸さずにスックと立ち上がりブリッジの入り口に向かって歩き始めた。 「どうしたの、ルリルリ?」 ルリのいきなりの行動を不審に思った、ハルカ・ミナトは読んでいた本から目を離した。 だがルリはその声を無視するようにブリッジを出ていった。 「ルリルリ?」 ドアが閉まったのを見届けながらミナトは追いかけようか迷っていた。 一瞬諮詢したが結局、任務よりルリをとった。 「まっいいわよね。どうせ暇なんだから」 そしてミナトもブリッジを出ていった。 鈍い光を放つ無機質なドア。 そのドアはルリの前に立ちふさがっていた。 「オモイカネ、開けてください」 久しぶりに聞く、感情のない声。 いや感情を押し殺しているのだろう、とても冷たい声。 「ルリルリ?ちょとまずいんじゃないの?勝手にテンカワ君の部屋に入るなんて」 ミナトはルリを諌めようとする。 しかしルリは耳を貸そうとはしなかった。 「オモイカネ」 ドアを開けないオモイカネに、ルリはもう一度お願いをする。 もし言葉に温度というものが存在するなら、その一言は確実に氷点下であろう。 プシュー その言葉に危険なものを感じ取ったオモイカネはおとなしくドアを開けた。 ルリはさも当然のように、アキトの部屋へと入っていった。 暗い部屋に明かりが灯る。 「一体何がテンカワ君にあったの?」 そんなミナトの疑問は、アキトの部屋に入った瞬間氷解した。 「・・・・」 さすがのミナトもその光景を目の当たりにして絶句してしまった。 「これはルリルリでなくとも怒るわね・・・」 もっともだとミナトは一人納得した。 ルリは自分の目で事実を確認すると、心が冷えていくのを感じた。 彼の部屋の布団で女性を抱いて眠るアキト。 この状態を見ての解釈はどうしても一つしかない。 ルリの明晰な頭脳もまた、同様の見解を示した。 「・・・!!」 凍えるような寒さを感じアキトは一気に覚醒した。 しかし金縛りにあったように体は動かなかった。 原因はすぐに分かった。 自分のシャツを握り締めて眠る、見知らぬ少女がいたからだ。 それは十分に驚愕に値するのだが、それ以上に感じる冷たい視線が彼には問題であった。 アキトは首だけを動かして冷気の元を見た。 そこには良く知った少女がいた。 冷気はその少女の瞳から放射されていた。 ヘビに睨まれたカエル。 そんな言葉がアキトの脳裏に浮かんだ。 普段から冷たいように感じる瞳だが、今はまるで炎すらも凍らせるようだった。 アキトはその瞳に魂を奪われたように固まっていた。 「どういうことか説明して頂けますか?テンカワさん」 本人は冷静に訊ねたつもりなのかもしれない。 だが、その言葉には明らかに怒気が含まれていた。 証拠に瞳に宿る光はますます剣呑なものになっていた。 「ルリちゃん?どうしてここに?それにこの娘はいったい・・」 目覚めてみれば、知らない少女が一緒に寝ていて、しかもルリもいた。 事態の把握が出来ないアキトは逆に訊ね返す。 「とぼけないで下さい。テンカワさんが連れ込んだのでしょう」 そんなアキトに、今度は怒りを隠そうともせず、ルリは断言する。 「えっ?俺じゃないよ」 ルリの剣幕に気を殺がれながらも、アキトは答える。 「では、その娘が勝手に入ってきたと言うんですね」 「そうです。ルリ」 オモイカネはアキトに代わりに答えた。 「・・・そうですか、そうなんですね」 オモイカネは「しまった」と思った。 この場合事実をそのまま告げれば良いというものではない。 「いや!ルリちゃん、そうじゃないんだ!」 「ルリ、そうではないんです」 アキトとオモイカネは必死の弁明を試みる。実際後ろ暗い事はないのだ。 「別にどうでもいいじゃないですか。私には関係ありません」 俯き、吐き棄てるように言うルリ。 誤解を解こうとアキトは口を開こうとするが、 「見損なったわ、テンカワ君」 ミナトに遮られてしまった。 そんなミナトは俯くルリを庇うように抱きしめアキトを睨んでいた。 「う・・んっ・・」 そんな中、周りの騒がしさで少女は目を覚ました。 とは言っても、まだ完全には目覚めておらず、ぼんやりと目の前を見ていた。 少女はそこで、見慣れた人物を見つけた。 なぜその人が自分を抱きしめているのか分からないまま、今度はゆっくりと周囲を見回す。 すると知らない女性に抱きしめられている、良く知った女性を見つけた。 様子から二人は喧嘩をしているようにも思えた。 なぜ、その二人がいるのか分からない。 はっきりとしない頭で考えてみる。 「・・・夢?」 それなら二人が昔、写真で見せてもらった格好をしているのも頷ける。 それにあんなに仲の良い二人が喧嘩をしているはずがない。 彼女はそう結論ずけた。 そう言えば、まだ幼い頃に父様の頬にキスをしたらこんな感じでした。 そうそう、確かあの時父様と母様は喧嘩をしてしまったのです。 そして私が仲裁を・・・ 「喧嘩をしないで下さい。父様、母様」 少女にそう呼ばれたルリとアキトは、少し前に自分達を違う言葉で同じように呼ぶ少女を思い出した。 「ヒスイちゃん!?」 アキトは叫ぶように言うと、彼の腕の中で寝ぼけ眼な少女は、ちょっと怒ったように、 「私はメノウです、父様。姉様と間違えるなんて失礼ですよ」 生意気なことを、眠たげに言う少女。 「メノウ・・」 少女の名を呟くアキト。 「そうです、メノウです・・父・・・様・・・」 名前を呼ばれた事がうれしいのか、かわいい笑顔を浮かべたまま少女、メノウは再びアキトの胸に体を預け眠りに就いた。 この日、再び未来から彼らの元に天使が現れた。 その天使は、みんなの視線を浴びながら、アキトの腕の中でしあわせそうに眠っていた。 未来からきた天使EX〜未来からきた戦乙女 前編〜 了 後編に続く 後書き ワンパターン。 たとえそう言われようとも、書いてしまうものがある。 読者の皆様お久しぶりです。赤城しぐれです。 やってしまいました。しかも前後編 この物語を読んで下さいました皆様、どうか見捨てないで下さい。 戦乙女 「なぜ私の髪型は三つ編みなのですか?」 作者 「ワルキューレといったら、三つ編みでしょう」 戦乙女 「・・・・」 この物語を最後まで読んで下さいました皆様、本当にありがとうございます。 お忙しい中この作品を掲載してくださいました、中田様には大変感謝をしております。 それでは皆様、後編でお会いしましょう。 次回予告 高校生の星野 瑠璃は担任の天河 秋人に憧れていた。 そんな彼女のクラスに転校してきた少女 星野 瑪瑙。 瑪瑙は秋人に対し積極的な行動をとる。 満更でもない秋人に瑠璃は危機感を覚える。 「嫉妬深いと嫌われますよ?」 彼女の目的は一体? 「行かないで下さい。天河先生」 瑠璃の願いは叶うのか? 「君は何者なんだ・・・」 秋人に忍び寄る影。 「さよならです・・・・父様」 その微笑みの意味は? 未来からきた天使〜未来からきた戦乙女 後編〜をお楽しみに。 なお、この予告の信頼性はぜんぜんありません。