あるクリスマスの物語 プロローグ その荒野で人が、いや人の形をした機械が戦っていた。 エステバリスと名付けられたそれは、互いに一歩も引かなかった。 どのくらい戦闘は続いているのだろか。 すでにエネルギーもなくその用をなさない銃を、まるで棍棒のように持ち殴り合いを繰り広げいる機械達。 激しく野蛮な打ち合いの末に、その銃も壊れてしまいった。 互いに距離を取るエステバリス。 ボロボロになり、武器もなくなった。 だが乗り手も、そしてエステバリス自身からも闘志は失われていない。 どうやらどちらかが壊れるまでこの戦闘は終わらないようだ。 「予備電源も残りわずか、か。そろそろ終わりにしようか」 「そうだな・・・みんな俺を待っているだろうし」 「フッ、僕に勝つつもりなのかい」 一瞬の間をおいてエステバリスは一気に間合いをつめた。 ぶつかりあうエステバリス。 生き残ったのは・・・・。 「勝てると思ったんだがな・・」 高い背と長い髪の青年は、ぼやくように呟く。 負けず嫌いなのか本当に不本意そうだ。 「こっちはまだ現役だからな。負けるわけにはいかないよ、アカツキ」 くせが強いのだろう。 はねぎみの髪の青年は苦笑を押し殺しながら答える。 二人の青年は先程までシュミレータ−による模擬戦闘をしていたのだ。 長髪の青年はアカツキ・ナガレといい、ネルガルという巨大企業の会長を努める人物である。 「まあ今度は負けないさ。・・・・ところでテンカワ君、もう予定は入っているのかい?」 「なんの話だ、アカツキ?」 テンカワ、と呼ばれた青年は何のことか話がまるでみえず訊ねかえす。 彼の名はテンカワ・アキト。 コック兼エステバリス・パイロットである。 「クリスマスの話さ。休暇になったことは聞いているだろう?」 「知っているさ。だけど俺には関係ないさ」 「関係ない、ねぇ?」 長い髪をかきあげながらアカツキは意味深げに呟く。 そのからかうような口調にアキトはいやな表情をみせるが、彼はとりあえず鉾先をかわそうと逆に訊ね返した。 「そう言うお前はどうなんだよ」 「僕はあるさ」 アカツキは当然のことのように言い切った。 だが不意に表情をくずすと、 「とは言っても仕事の予定が、だけどね」 そう言って大袈裟に頭を振った。 そのアカツキのコミカルな態度に、アキトは笑う気にはなれなかった。 本来ならネルガル重工の会長として忙しい日々を送らねばならない彼は、息抜きのつもりなのかナデシコに訪れては、パイロット訓練をするのだ。 今回はクリスマス休暇というおまけもつれて。 だがその彼自身には・・・。 「アカツキ・・・」 「そういう理由だから僕の分まで楽しんでくれたまえ」 いつもの軽口をウインクひとつで飛ばし、アキトの肩を叩く。 どうやそれは少し強かったらしくアキトは顔をしかめながら叩かれた肩をさする。 「どうしろっていうんだ?」 アキトは先を歩くアカツキの背中に向かって問いかける。 「教えてもらわなければ何も出来ないのかい?」 アカツキは振り返りもせず、アキトを無視するようにずんずんと進んでいく。 アキトはほんの少し諮詢したが彼を呼び止めた。 「・・・アカツキ」 「なんだい?・・・テンカワ君」 そこでようやくアカツキは、もったいつけたように振りかえった。 真剣なアキトの表情に笑いだしそうになったが、ぐっと我慢した。 「アカツキ・・・頼みがある」 アキトの言葉にアカツキは、とても彼らしい笑みをうかべた。 「任されよう」 そうこなくてはね、テンカワ君。 1. 「お久しぶりね、ルリ」 「・・・エリナさん、お久しぶりです」 食堂で食事をしていたホシノ・ルリは、声をかけられたので顔をあげると、そこにはネルガル会長の秘書、エリナ・キンジョウ・ウォン、その人がいた。 ナデシコの制服ではなく、おそらくオーダーメイドであろう、シンプルだが彼女に良く似合うスーツを颯爽と着こなしていた。 ハルカ・ミナトとは違う意味で美人だと、ルリは思う。 「どうしたの?ジッと人の顔を見つめて」 「えっ!?」 指摘されて気がついた。 いつの間にかエリナの顔を凝視したらしい。 ルリは恥ずかしさに頬が紅潮するのがはっきりとわかった。 それを誤摩化すためお茶を一口飲む。 「なんでもありません。それにしても、今日もアカツキさんのお迎えですか?秘書というのも大変ですね」 「いつものことよ。もう慣れたわ」 苦笑とも微笑ともつかない笑みを浮かべるエリナ。 そのあたりに彼女の微妙な心境が見て取れるような気がする。 しばらく雑談をかわす二人。 「地球に戻ったらもうクリスマスね」 「・・・ええ、そうみたいですね」 形の良い顎を組んだ手の上に乗せ、コーヒーの香りを楽しんでいたエリナは、ふと思い出したように呟いた。 それに対しルリは、まるで他人ごとのように答える。 だがそのルリの言葉にエリナは、感情めいたものを発見し素直に驚いた。 「あら!?ご機嫌ななめね」 エリナにはこの少女がクリスマスで不機嫌、そう不機嫌になる理由が分からなかったからだ。 「別に不機嫌ではありません。ただ、みんなうかれていてついていけないだけです」 それだけ言うと、ルリはそっぽを向いてしまう。 その様子はまるで拗ねているようだとエリナには思えた。 昔はただ生意気な少女だったげと・・・こういう顔もできるようになったのね。 これもきっと・・・あっ、もしかして。 そこまで考えてエリナはルリの不機嫌の原因に思い当たった。 どうやらあの青年は、この可憐な少女を誘いはしていないようだ。 あと数年もすれば、周りの男共がほおってはおかなくなるのにね。 そんな少女をほったらかしにして一体なにをしているのか・・・。 だらしないと思う反面、彼らしくもあると思うのだが。 エリナは、むすっとした表情のルリに同情を覚えてしまった。 「あなたも苦労するわね」 実感のこもったその言葉に、ルリは力強く頷いた。 2. エリナと別れた後、ルリは自分の部屋に戻っていた。 ルリは、抱きかかえたクッションに顔をうずめるようにしていた。 「どうしました、ルリ?」 考えごとをしているのか、ボッーとしているのかいまいち判然としない少女の前にスクリーンが浮かびあがる。 ナデシコの中枢を司るコンピュータ、オモイカネ。 彼はルリの様子に心配になって自ら姿を現した。 こんなとき頼りになる女性、ハルカ・ミナトはナデシコにはいなかった。 彼女は今、有給を使って木星へと行っているのだから。 だからオモイカネは自分が、と思い切って話しかけてみたのだ。 しかしルリは、 「何でもありません」 と、にべもない。 オモイカネはスクリーンに汗をうかべて黙ってしまう。 こんなきにどうすればよいのか、流石の彼にも分からなかった。 再び重苦しい時間か流れ始まる。 「オモイカネ・・・25日のみなさんの予定はどうなっていますか?」 ルリらしくもない歯切れの悪い質問。 本当は彼の予定を聞きたいのだろう。 だが、それをごまかすために、みんなといったところは少女の複雑な心理がみてとれるようだった。 「終日の自由行動が許可されていますので、大部分の人は外出となっています」 オモイカネは、ルリの真意を理解していたが、わざと答えを濁した。 そうするとやはり少女は考え込むような仕種をみせ、何度か口を開きかけては閉じる、という動作をくり返した。 がやがて決心がついたのだろう、ルリは小さいながらも彼の名をはっきりと口にした。 「テンカワさんは・・・」 「アキトも外出するようです」 「・・・そうですか」 あきらかに落胆した様子のルリ。 再びクッションで顔を覆ってしまう。 「予定がないのは私だけですか・・・」 去年までと一緒だと、思えば気が楽になるかと思ったが、駄目だった。 自分は一体なにを期待しているのか・・・期待していたのか。 いや期待しても良いはずだと、ルリは思った。 結局なんだったんでしょうね。 ぐるぐるまわる思考の渦のなかルリは、自分の肩を叩かれていることに気がついた。 ゆっくりと顔をあげると、心配そうにこちらを見やるオモイカネがいた。 「ルリ・・もしよろしければ私とクリスマスを祝いませんか?」 「・・・」 スクリーンの文字を目にしたルリは、いそがしく瞬きをくり返した。 何度か読み返しそして意味を理解すると、ようやく彼女は笑顔を見せた。 「ありがとう、オモイカネ」 クリスマスの予定がない自分を気遣ってくれるオモイカネの気持ちが嬉しかった。 なにか暖かいものが胸に込み上げてきて、ルリは泣き出しそうになった。 それを我慢するため、より強くクッションを抱きしめた。 3. クリスマス当日。 イブをナデシコのクルーと一緒に祝ったルリは、みんなのバカ騒ぎに巻き込まれてしまいすっかり疲れきり、いつもより目覚めが遅れることになった。 しばらくボッーとしていたルリだが、空腹を覚えたので緩慢な動作で身支度を整え自室を後にする。 普段は騒がしすぎるぐらいのナデシコだが、今日はとても静かだった。 「みなさん、行ってしまったんですね・・・」 感じたことのない寂しさがルリの心に影を落す。 帰る場所も行くあてもない少女。 ルリにとってナデシコが唯一の居場所であった。 しかし、誰もいないナデシコは・・・。 ルリはトボトボと力なく歩き出した。 遅い朝食を取ろうと食堂を訪れたルリは、そこで意外な人物の姿を見つけた。 昨日のパーティーの後片付けをしいるのだろう、テンカワ・アキトは一人で忙しそうに働いていた。 「おはようございます、テンカワさん」 「おはよう、ルリちゃん。って言ってももうお昼近くだよ」 悪戯っぽく微笑むアキト。 ルリは唇を尖らせて子供っぽいしぐさをみせた。 「他の人はどうなさったんですか?」 ホウメイやホウメイ・ガールズの姿が見えないことを疑問に思ったルリは素直に口にした。 いくらなんでも一人ですべての後始末をしているとは思えなかったからだ。 「昨日のパーティーが終わるなり出てったよ。みんな予定があるみたいだからね」 では何故アキトは残っているのか、そして一人で後片付けほしているのか。 そんな疑問がルリの頭をかすめたが、それ以上に気になることがあり一瞬の後に忘却してしまった。 「・・・テンカワさんは、これからどうするんですか?」 「んっ、これが終わったら外に出てくるよ」 「・・何か・・予定があるんですか?」 「それは内緒」 茶目っ気たっぷりに、いかにも楽しそうに言うアキト。 対照的にルリの表情はこわばっていく。 「ルリちゃん?」 皿を洗い終えたアキトは、ドアが閉じる音を聞いて振り返ったが、そこにはもう少女の姿がなかった。 4. まだ眠りにつくには早いだろう、そんな時刻。 暗い部屋のベットの上で子猫のように丸くなって眠っている瑠璃色の髪の少女は、やがてむっくりと起きだした。 少し充血した瞳を小さな手でこすりながら、緩慢な動作でベットから降りる。 そして洗面所へ向かい鏡に映る自分の顔を見た。 「・・ブス、ですね」 そんな一言を呟くとルリは、逃げるように洗面所を出ていった。 再び寝ようとベットの上に横になる。 途端にお腹から可愛らしい音が鳴った。 ルリは今日何も食べていないことを思い出し、食堂に行こうとした。 が、途中で足が止まる。 ナデシコに自分一人だということを思い出したのだ。 食堂にいってもインスタント食品しかない。 なんだかとてもみじめな気持ちになったルリが、ベットに戻ろうとしたときスクリーンが目の前に浮かび上がった。 「ルリ、着替えて下さい。パーティーを始めましょう」 「オモイカネ・・・そうでしたね、ちょっと待っていてください」 ルリはクローゼットにかけより一着のドレスを取り出す。 ミナトが木星に行く前、貸してくれたドレス。 「これならばっちりよ、ルリルリ」 そう言って貸してくれたドレス。 この日のために用意されたもの。 当初とは目的が違ったが、せっかく借りたものだから、とルリは着替えた。 「それでは始めましょう、オモイカネ」 クローゼットの鏡で自分の姿を確認したルリがオモイカネに声をかけたのと同時に、部屋の照明が消えた。 突然なことにルリは何度かオモイカネを呼んでみる。 しかし一向に返事はない。 徐々に暗闇の中に不安を感じ始めたルリ。 そんなルリは前方に点々と続く小さな明かりが現れた。 「これは・・・誘導灯。続けということですか、オモイカネ?」 非常時、あってはほしくないことだが、にクルーを安全な場所まで誘導する明かりが、ルリを導こうとしている。 だんまりをきめこんだのか、やはりオモイカネから返事がなかったので、ルリはその明かりに従い歩き始めた。 部屋の外に出てもやはり暗かったが、誘導灯の明かりが真直ぐ道を作っていた。 自分以外に誰もいないナデシコを一人歩くルリ。 可憐なドレスを身に纏った少女は、弱い光に照らし出され幻想的なまでに綺麗であった。 どのくらい歩いただろう。 明かりは、あるドアを指し示してそこで終わっていた。 どうやらそこが目的地だということがルリにも理解できた。 「ここは・・・展望室ではないですか。ここでパーティーですか?」 オモイカネからの返事はない。 あきらめてルリはパネルに手をかけた。 軽い音を立てて、展望室へのドアが開いた。 5. もう誘導灯の明かりない。 だが、相変わらずあたりは真っ暗であった。 ルリの背後でドアが静かに閉じる。 「えっ!?」 同時にルリは揺れを感じた。 「・・地震・・・地震ですか、オモイカネ?」 オモイカネからの返答はやはりなかった。 しかし、その問が間違いであったことにルリはすぐに気づいた。 揺れているのではい。 ナデシコが動いているのだ。 その証拠に窓のそとから橙色の明かり、ナデシコを誘導する灯、が上から下へと流れていくのが見える。 オモイカネの独断なのだろうか。 発進命令など出ておらず、またルリ以外に人が乗っていないナデシコ。 これからなにが起きるのか、どきどきする気持ちでルリは次を待っていた。 「・・・キレイ・・・」 地下のドックに収容されていたナデシコがリフトアップされ地上へとその姿を現した。 展望室の大きな窓の四方に近くの街のネオンが見える。 地上で溢れんばかりに輝く星々にルリは、完全に見入っていた。 パンッ!! 「きゃっ!」 突然の破裂音に悲鳴をあげてしまうルリ。 「「メリークリスマス!!」」 驚きの表情で手を口元にあてたまま固まるルリ。 まさか、そんなはずは・・・。 あまりのことに思考がうまく働かない。 だけと・・・。 「メリークリスマス、ルリちゃん」 「メリークリスマス、ルリ」 聞き覚えのある声と、見覚えのあるスクリーン。 「・・・メリークリスマス・・・オモイカネ・・・・テンカワさん」 ようやく展望室に明かりがともった。 ルリの目の前には、見覚えのある、決して見間違えるはずのない青年が微笑んでいた。 6. 「すまないね、エリナ君。こんな遅くまでつき合わせてしまって」 「本当にそう思っているのでしたら、日頃から熱心に働いて頂きたいものです。それに、あまり無理なことをしないほうが良いと思います」 最後の書類に目を通しサインを終えたアカツキは、その書類を秘書のエリナに渡す。 その時にアカツキは謝罪の言葉をいつもの軽い調子で言った。 「彼の頼みごとだからね、多少の無理はこのさい勘弁してほしいな」 「それは別にかまいませんが・・・」 「心配してくれるのかい?」 「秘書としましては当然のことかと・・」 からかうようなアカツキの言葉をさらりとかわすエリナ。 どうやら秘書は会長のあしらい方に長けているよだ。 「会長、明日は10:00より会議ですのでお忘れ無く。そけでは失礼いたします」 明日の予定を告げ、部屋を出ていこうとするエリナ。 「エリナ君」 「なんでしょうか、会長」 「こんな時間まで働かせてしまったお詫びがしたいんだが」 「相応の手当ては頂いてます」 エリナはなんの興味もなさそうにドアを開け部屋を出ていこうとする。 そっけないエリナの返事にアカツキは、慌てたようにイスから立ち上がった。 いつもの冷静さにひびが入ったようだ。 「ああ、エリナ君、すまない・・・その・・・これから食事にいかないか」 こんなのは自分らしくない、とアカツキは思う。 だが、 「多分それもお前だよ、ただ認めたくないだけだろ?」 そんな言葉がある青年の姿と一緒に彼の脳裏をかすめた。 しばらく考え込んでいたエリナはやがてゆっくりと振り返る、鮮やかというぐらいの微笑みと一緒に。 「喜んで、会長」 「・・・仕事じゃないんだから、会長はやめてほしいな」 そうだな、テンカワ君。自分らしくいこうか。 僕は僕でしかないんだから。 彼らのクリスマスは、どうやら始まったようだ。 エピローグ キャンドルの明かりだけをたよりにした薄暗い部屋の中。 広い部屋にくらべてとても小さいテーブル。 そのテーブルの上には数々の料理。 イスには青年と少女が向かい合うように座っており。青年のすぐ脇には、ぷかぷかとスクリーンが浮いていた。 楽しい一時になるはずであった。 彼らはそう思っていた。 しかし・・・。 「あの・・・ルリちゃん、怒ってる?」 少女はむすっとした表情でそっぽを向いていた。 アキトは恐る恐るといった感じて言葉をかけてみる。 少女は一瞬だけ青年に視線を向ける。 「うっ・・」 その瞳には青年をたじろがせるほどの怒気が多分に含まれており、青年はそれ以上言葉を失ってしまう。 「機嫌を直してください、ルリ」 今度はオモイカネが様子を伺う。 だがやはりルリは、冷たい視線でオモイカネをフリーズさせてしまう。 アキトとオモイカネは互いに顔を見合わせて同時に溜め息をついた。 そんな二人をルリは上目遣いでじつにうらめしそうに睨んだ。 「「うっ・・・」」 今までに見たこともない少女の姿にすっかり畏縮してしまう。 「・・・騙したんですね、二人で・・・」 ようやくルリが口にした言葉は、冷たいというのとは違う、なんとも表現のしようのないものでアキトとオモイカネに重くのしかかってくるものだった。 「ルリちゃん、ごめん。俺もオモイカネも騙すつもりじゃなかったんだ。ただルリちゃんを驚かそうとおもって・・・」 「・・・傷つきました」 俯いたままルリは言葉を繰り返す。 「すいません、ルリ」 「・・・とても傷つきました」 そんな少女の姿にアキトもオモイカネも良心の呵責を感じずにはいられなかった。 ルリは少し顔を上げ二人の様子を伺うと、しゅんとして自分と同じように俯く二人の姿が目に入った。 そんなアキトとオモイカネを見てルリは、ちらりと可愛い舌を一瞬だけ見せた。 「もういいですよ二人とも、許してあげます」 顔を上げ、微笑みと共に言う。 「ありがとう、ルリちゃん」 「ありがとうございます、ルリ」 ルリの許しの言葉に、アキトとオモイカネは大きく息をつく。 「でも!」 ホッとしたのもつかのま、強い口調とともにルリはまた厳しい顔になった。 二人は再び背筋を正す。 「「でも?」」 そして恐る恐るルリを伺う。 「来年のクリスマスはこうはいきませんよ。今度は私が二人を驚かす番ですから」 アキトとオモイカネはしばらくほうけたようにルリの顔を見つめた。 その二人の様子が可笑しかったのか、ルリはくすくすと小さく、やがて二人を指差して笑いだした。 アキトとオモイカネは、なにが起きたのか理解できずにいたが、彼らの口からもだんだんと笑いがこぼれはじめた。 そして三人の笑いが重なった。 そうですよ、私だけがドキドキしているなんて不公平です。 この半分でもドキドキしてもらわないと納得できませんから。 だから今度は私の番です。 楽しみにしていてくださいね、来年を・・・。 ようやく、ルリのアキトの、そしてオモイカネのクリスマスが始まった。 あるクリスマスの物語 完 後書き 皆様お久しぶりの赤城しぐれでございます。 今回は時期外れのネタとなってしまいました。 下書きはかなり前から出来てたんですが・・・。 元ネタは映画「イングリッシュ・ペイシェント」のワンシーンから。 これで分かる方います? この物語を読んで下さいました皆様、本当にありがとうございます。 そして最後になりましたが、お忙しい中この作品を掲載してくださいました、中田様に最高の感謝を・・。