「寺町」


米のとき汁に
母のようなものを尋ね
寺町の路地に迷い込むと
それぞれの曲がり角には
浅黄色の幟がはためいていた

ひび割れたガラス窓に
丸い絆創膏のはってある煙草屋が
芝居小屋のようにぬっとあって
後ろの方で
拍手もパラパラ聞こえるもんだから
下手なセリフで
「ハイライト、一つ下さい」
店子のお婆さんが
「この坂を登ると赤いお宮で そこが
いわゆる 気が狂う 入り口だ」
とかなんとか
磯の岩に張り付く富士壺の奥
つぶれた片目が僕をにらんだ

折り返せ
お前の親切はほんとうは
こころの病だ
つまりお前は
大切にされたかったような
赤ん坊
だあ、とさあ

「実は飢えてるだろう」
と、奥の間に案内され
出てきたひ孫の巫女さんが
「お前様はね、こんなの見たさに生まれてきたのに違いない」
余興の逆立ちで
ちょきのように出したのは
あんまりな美しい神殿の
二本柱のエンタシス
真白な脛とふくらはぎ
僕は笑うところを泣いてしまった
いつものことさ

苦いハイライトをくゆらせて
たなびく紫の向こう
たとえ狂ったとしても
これだけは永遠覚えておこうと
ふーふー息をきらしている
清らかな白痴の娘の逆さの
がんばってる顔を
米のとき汁に刺青する
ここは折り返し
昭和の寺町の路地裏
ここは折り返し


         

              (2004.4/3)

               
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