うちに帰るともう暗闇で空が埋まっていた。ざっと現在時刻6:30分くらい。

 とりあえず適当かつラフな服装に着替えて、どたどたと足音を立てながら外に出た。

 親に呼び止められたが適当にゲーセンと流した。

 何故だろうか知らんが嫌な感じだ。胸がもやもやしていらいらする。

 やっぱりあれか、ゲーセンなどと言ってしまい、来月の小遣いの減額でも脳裏を掠めたせいか?

 それとも、15年間の今までとの違いに俺が戸惑ってしまっているのか?

 自転車にまたがり、徒歩5分のはずの道を急いでこいでいった。







 着いたはいいが、詩織のやつはいなかった。

 それどころか、詩織のおばさんに泣きつかれそうになりその対処だけで10分くらいつぶされた。

 玄関からもうすでに違和感があった。

 あいつの、整理されていていつも入るものにまっすぐに目に入る靴がないのである。

「家には帰ってないんですか?」

「ええ、聞いたのはついさっきで……」

 詩織のおばさんは、見ている俺ですら嫌な気分にさせるくらい痩せたように見えた。

 もともと詩織もその親も痩せ型ではあるが本当に痩せこけたようである。

「警察にも届けたのですが……」

「甲斐なし、ですね」

 ――台詞は選ぶべきだったな。幼馴染からこんな台詞、聞きたくないだろうな。

 くそっ、何かとりあえず落ち着かせる台詞は無いものか……。おばさんかなり気が参ってるぞ。

 このまま黙りこくるのはよくないはずだがそれでも俺もおばさんも黙り込み――。

 ――気がつけば5分を無駄に経過させた。

「ここにいてもらちがあかない」

 独り言のように呟いたつもりだったがどうやら相手に聞こえたらしい、はっとされさらに俺は胸が締め付けられた。

 ああ、いつもこうだ。

 本当に緊張した場面が嫌いで、それを壊そうとする。

 でもその緊張ってやつは俺の胸を締め付けぎこちなくする。

 まるでいつもの俺じゃないみたいだ。

「俺、あいつを捜してきます」

「え、でも悪いわ。警察の方も動かれてるし」

「冗談じゃない」

 本心が零れ落ちた、そんな風に口が滑った。

 ああくそ、断片でも言っちまったら相手が不審に思うだろ俺、わかれよ俺。

「他人任せで何も起きないのを黙って傍観するのはもうたくさんなんです」

 この言葉を最後に俺は詩織の家を後にした。

「変わらないわね、結君も」

 昔から聞きなれた言葉が聞こえた気がした。おばさんの独り言が妙に胸に、心に染みた。







 翌日、誰の口からも安永 詩織の名前は出なかった。

 終礼後に担任岡本に呼び止められることも無かった。

 そういえば試験一週間前だったな。こんなあいつとしては大事な時期に何故あの真面目っ娘がいなくなるのだろう。

 家に帰るまでにいろいろ考えてみた。

 例えば川とかに転落して見つかっていない……訳がない。残念なことに此処は思いっきり街であり、大きな川は街のはずれまで行かなければない。

 他にも殺人事件にあったとか、誘拐されたのでは、と考えたがだから自分にどうできる、というのが本心であった。

 仮にも事件に巻き込まれたのならば俺は何ができる?

 悪いが俺は天才的な閃きも類まれなる戦闘能力も無いわけだ。

 何ができる……。

「ただいま」

 気付けばもう帰宅していた。

「お帰り」と野太い声。

「――親父、何で帰ってんだ?」

「いやいや、母さんは今日仕事で会社から帰るのが遅いと聞いたからな」

「いや、飯なら自分で作れるから別にいいんだが」

 父親はアニメなどに声をあてる仕事――要するに声優――としてまだ仕事をしている。

 現在、父は仕事先の近くに泊まっていることが多く顔を滅多に見なくなっていたが。

「どうする?飯にするか?」

「……悪い親父。ちょっと勉強してから」

「ん?ああ、構わんよ」

 その言葉を聞き流して階段を上がり部屋に入ろうとした。

「また部屋から抜けてゲーセンに行くなよ、行くなら俺に言っていけ」

 という皮肉たっぷりの言葉を背に俺は部屋のドアを閉じた。

 酷く静かだった。耳鳴りの音が非常に大きく感じた。

 ――明日、学校を休んで詩織を探してみようか。

 どこへ行ったのだろう……とりあえず昨日のように思いつきでぶらぶらしていてはだめだと思う。

 そんなことじゃ手がかりの一つも掴めやしない。

 じゃあどうしたらいいだろうか。

 ああ、こんなときはとりあえず二人でよく行く所にいるものだったりするんだろう。

 明日一日つぶして探してみることにしよう。







 昼になるのを待って、家をでた。

 昼の町をぶらつくのもかなり久しぶりだと思う。

 前は―――ああ、初めて詩織と同じクラスになった春だったっけ。

 確か小学五年生の頃だったな、親父と母さんの仕事が忙しくてちょちょく抜け出して遊んでたはずだから。

 そして、あの日以来俺と詩織は学校に一緒に行くことにしている。

 ふと、あの日のことを記憶から引き出してみる。

 あの日は確かゲーセンに行こうとして歩いて街の中の歩行者天国を歩いてたときだ。

 俺の名前を呼ぶ少女がいた。

 その日、その少女だって学校にいるはずだった。

 何でここにいるって聞いた。少女は口をあけた。

「ここにいたら会えるって思ったから」

 馬鹿だと思った。

「なんで俺と会いたいんだ?あれか、俺のことが好きなのか?」

 さらりとそんなことを言うと詩織は蒼い前髪をさらりと払い

「だって結君がいないと暇なんだもん」

 訳が分からない事を言った。

「何で暇なんだ?」

「授業中とか、掃除時間とか、結君いないと馬鹿話もゲームの話もできないから」

 そうだった、当時から俺と詩織は他愛のないゲーム話をしていたんだ。

 例えば、ゲームの難易度がどうとか、このポ○モンいつ進化するかな、とか。

「話なら学校じゃなくてもできるだろ」

「でも学校だと暇じゃない?先生授業中によく話がそれるでしょ。だからちょくちょくノートに書かなくていい時間ができて暇なの」

 確かに小学生時代の担任は――名前は忘れたが眼鏡をかけた飄々とした男――俺の口から言うのもなんだがマニアックな先生だった。

ボタンを連打しすぎてBボタンが帰ってこなくなった話を何故だか覚えている。

「ね、ゲーセン行くんでしょ?」

 だったら?と言ったと思う。

「一緒に行こ、結君」







 ああ、この日こいつを家に送り届けようとしていれば、と後悔している。

 もしこの日に俺が此処、この場所に帰ってこれたならば……と。







続く