派遣法改正に際して、私たちが持っておくべき展望とは

                    イダヒロユキ(「ユニオンぼちぼち」組合員)

                     088月執筆

 

『ワーカーズ・レポート』(労働通信 08年9月号)の原稿の元原稿(長いバージョン)

 

はじめに

 自民、公明両党の「新雇用対策に関するプロジェクトチーム(PT)」の意向を受けて、厚生労働省の有識者研究会(座長・鎌田耕一東洋大教授)の「労働者派遣法の改正に向けた報告書」(08年7月28日提出)が作成された。その線にそって、派遣法改正案が作成され今秋の臨時国会に提出される。その内容は、予想通りまったく不十分なものである。本稿では、労働運動側が、派遣労働について今秋の法改正以降、さらにどのような内容を求めていく必要があるかの整理を行っておきたい。

 

政府の派遣法改正案(上記PTや研究会報告書の内容などを含めてこう呼ぶ)には、一定の前進はある。これは運動の成果ではある。しかしまったく不十分である。政府案の発想は、現行制度の骨格を維持したまま、一部だけの規制を少し強化するというもので、世間の風当たりが強くなった中で改善のポーズをとるに過ぎず、派遣労働者の実態が改善される見込みがきわめて薄いものである。

以下、政府案との対比で労働側のあるべき案を確認しておこう。

 

経緯

なお、簡単に経緯を振り返っておくと、2007年7月、参議院選挙で民主党が第一党となったこと、偽装請負が社会問題化したこと、連合が07年9月に登録型派遣を原則禁止することを求める方針を打ち出したこと、安倍が倒れ、福田首相になって07年10月の代表質問で派遣法の見直しを検討すると答弁したこと、10月に「格差是正と派遣法改正を考える国会内シンポ」が、11月に「今こそ派遣法改正を実現しよう」院内集会が開催されたこと、しかし0712月「労働者派遣制度の検討状況について」で、労働側と使用者側の対立が埋められず派遣法改正がいったん中断(断念)したこと、その中で更正労働省は改正案の国会上程をあきらめ、日雇い派遣の規制を強める指針と省令で対応しようとしたこと(派遣法の日雇い派遣指針 084月施行)、08年1月、グッドウィルが違法派遣などで事業停止命令を受けたこと、081月と4月にも派遣法改正の院内集会が開かれたこと、2月に「今後の派遣制度のあり方に関する研究会」を発足させ、09年通常国会に改正案を出す方針としたこと、08年春ごろに各党が派遣法改正案を出したこと、その中で改正案の国会上程の機運が高まったこと、08年6月の秋葉原無差別殺傷事件の容疑者が派遣労働者だったこと、それらを受けて舛添要一厚生労働相が「日雇い派遣はかなり厳しいかたちで見直すべき」と発言し、当初09年の通常国会に提出予定だった派遣法改正案を08年秋へ繰り上げ提出することとなったのである。

 

派遣の基本的なあり方

派遣の基本のあり方については、中間搾取の禁止などの精神を尊重し、基本は派遣の原則禁止、ただし、専門職が急に、かつ短期的に必要なときに調達できる仕組みとして部分的に承認されるとすべきである(たとえば、極めて専門性の高い通訳などの業務や育休代替など)。つまり、直接雇用が困難な場合にのみ例外的に派遣を認めるという派遣制度の趣旨の徹底が必要である。

通常、登録型だけにこれが言われるが、常用型も含めて、専門職の一時的利用に限定すべきである。

そもそも、雇用と指揮命令を分離させることがおかしい。基本は一体化していなくてはならないのである。使用者責任が不明確になってならないし、中間搾取を許してはならないからである。労働災害についても、加入義務は雇用主(派遣元会社)、安全衛生・環境整備責任は派遣先の現場であり、無理がある。時間外労働も、本来は派遣にあってはならないが、派遣先で36協定によって残業があれば、派遣された労働者もそれに巻き込まれることは多い。残業命令は、指揮命令の問題であり、それは派遣先にあるのだから、実際上は、派遣が残業しないということは難しい。だからこそ、雇用と指揮命令を一体化させるべきが原則で、派遣労働は例外でなくてはならない。当面、派遣会社も派遣先も両方で36協定が結ばれていないと残業禁止とすべきである。また、協定において、残業の規制についての条件を守らせることが必要である。

 

これが原則だが、ここまで派遣が拡大した中で、過渡期としては、派遣を一定認めるとしても、常用型派遣派遣会社に勤務する正社員となり、そこから派遣されるもので、特定派遣とも言われている。登録型と異なり、期間の定めのない雇用契約となり、賞与も支給され、有給休暇なども派遣会社からえられる)基本とし、登録型派遣(派遣会社に登録し、労働者は仕事の紹介を待っている。派遣会社から仕事が紹介されると就労期間を決め雇用契約を結ぶ。一般派遣と呼ばれている)は、専門的・一時的・臨時的業務に限定するようにすべきである。(実は登録型でも労働日数に応じて実は有給休暇はとれるが)

だが、政府案では、この点の規制がまったく放置されたままである。

派遣契約が切れるたびに失業状態になるようなことが、そもそもおかしいのであり、労働側が登録型の原則禁止を求めているのは正しい。だが政府案は、「登録型派遣には、労使双方に需要がある」といういつもの理由で維持するというのだ。これでは派遣労働の実態は変わらない。

専門的業務というのも従来の26の専門的業務の規定はまったく不十分であるので、通訳など本当に特定のものに限るべきである(労働者派遣事業対象業務の根本的見直し)たとえば、「事務用機器操作の業務」「秘書の業務」「ファイリングの業務」「添乗の業務」「案内・受付、駐車場管理等の業務」「研究開発の業務」「書籍等の製作・編集の業務」「広告デザインの業務」などは専門的でなかったり、直接雇用や外注ですますべきものである。

理想は以上であるが、妥協策としては、せめてただちに製造業務への派遣を禁止し、ネガティブリスト化(原則自由化)を絶対に廃止すること(26業種限定へ戻すこと)である。そして、さらにできるだけ派遣対象業務を減らす(最初の13業種ポジティブリストへ近づけ、さらに、業種を専門職に限定して4〜5業種にまで絞り込む)ということが必要である。

 

そもそも、職業安定法4条6項や同法44条は労働者供給事業を禁止している。その趣旨は、労働の強制、中間搾取、使用者責任の不明確化が危惧されるからである。労基法第6条も中間搾取を禁止している。したがって、労働者派遣は、先述したように、急には直接雇用できないような専門職に限定されなくてはならない。だが、1986年の派遣法成立時から、財界側の要望におもねた官僚と学者(高梨がその一例)と政治家が、専門的なもの限定という体裁をとって派遣法を成立させ、徐々にその穴を大きくして事実上何でも派遣で済ませられるような、「中間搾取と使用者責任の不明確化、労働者の細切れ使い捨て」だらけの雇用を横行させたのである。パートなどもそうだが、非正規雇用は、結局、正社員から、見下し的、差別的、侮蔑的、非仲間的に扱われやすい。そのような雇用を減らさねばならないのに、派遣法はそれを増やしたのである。

最初にこの法律を成立させた時点から間違っていた。一部労働側は最初からこうなる自体を予測して反対していたが、形式的に「そうはならない」という論理でごまかされてきた。

いま、成立時、及び1996年の「対象業務を26に拡大」した規制緩和、99年の大改悪(対象業務自由化、2004年の更なる改悪(派遣期間の上限を1年から3年に延長。製造業も解禁という規制緩和)、07年の「製造業の派遣も上限を1年から3年に延長」という規制緩和に手を貸したものは、全員「切腹」して責任を取るべきであるが誰も責任を取らない。

 

(注 常用型派遣などあるのかと思う方もいるであろうが、実は男性の派遣ではこれが多い。それに対し、女性では多くが登録型になっている。派遣トラブルの大半は登録型である。派遣の契約期間の9割以上は6ヶ月未満である。)

 

最長派遣期間

派遣期間の問題(最長派遣期間)については、原則は、派遣は一時的・短期のものであるべきで、長期のものならちゃんと専門職であろうと直接雇用(時には有期雇用であるかもしれないが)すればいいだけのことである。したがって、派遣なら、3ヶ月とか6ヶ月以内に限定すべきであろう。この点、野党案でも「1年以内」が多いのはおかしい。1年も雇うなら最初から有期の直接雇用でいいではないか。政府案は、規制緩和で3年まで延ばしてきた現状を維持する。しかも26業種などは期間制限撤廃したままというのである。まったく話にならない「改正」である。

 

日雇い派遣、最短派遣期間

次に、日雇い派遣に絡む、派遣期間の最短期間をどうするかの問題。

一応、みなが「日雇い派遣の原則禁止」は言うようになった。(日雇い派遣は、交通費も支給されず、低賃金で、細切れで、不安定、労災の危険性大、二重派遣、誰も現場の状況を把握していない、給与振込みは手数料負担、携帯電話不可欠でその料金も自己負担、集合時間からの拘束、欠勤に対するペナルティ、会社側からのドタキャンあり、前日夕方の直前発注などで就労予定立てられない、などの問題がよくある。したがって、その禁止は当然である)

 

しかしその内容が問題である。

政府案は、原則禁止とすべき日雇い派遣の定義は「30日以内の期間を定めて雇用するもの」というもの。つまり1ヶ月以内の契約はダメということ。ただし、専門職等を除くとする。

労働者側・民主党案は、「短期派遣の規制を強化し、雇用契約期間が2ヶ月以下の労働者派遣を禁止」というものである。解雇予告や社会保険の加入が義務付けられるには2ヶ月が必要だからだ。

一般的にいって、労働者の雇用の安定からは、社会保険加入は当然だし、最低期間は長いほうがいいので、労働者側・民主党案のほうがよいだろう。だが、大事な問題はそこにあるのではない。

1日単位の短期契約はダメというのは前進だが、改正後も、1ヶ月とか2ヶ月の契約というもの(その更新)はあるわけで、低賃金や不安定な派遣労働が存続するということにあまり変わりはない。そのこと自体が問題なのである。日雇い派遣が禁止されれば、「日雇い」から形式的に中長期の派遣へ切り替えが進むだけである。

例えば、週2日、3日という契約でも1カ月間以上の契約は「日雇い」でないということになり、いままで登録型派遣でおもにおこなわれてきた事務系の派遣は、今までと同じように続く。「ワーキングプア」の温床となっている製造派遣や物流派遣などにおいて、ほとんど現状(通常2〜6ヶ月を反復更新)と同じような状況が続き、「契約満了」の一言で切られる状況も変わらない。

 

 政府案(報告書)では「短期雇用でも労働者に特段の不利益が生じない業務で、1日単位の派遣が常態化しているものは禁止する必要がない」として、その業種の選定は労政審の協議に委ねており、結局、規制はこの点でも骨抜きになる可能性が高い。

つまり、根本問題は、派遣の基本のあり方の項目の問題(常用のみにするか、対象業務を専門職限定するかなど)がまったく前進していないので、日雇い派遣禁止だけではほとんど効果はないということだ。私がいう短期の専門職限定にはならないので、結局、今度の法改正では多くの職種で、短期の派遣が(更新も含めて)使われることになる。実態はほとんど変わらない。今までも日雇い派遣で数ヶ月というものもあった。契約更新もされるだろう。有期雇用の問題がここにかかわっている。直接雇用とすべきところを間接雇用が続くのである。

 

規制強化は労働者のためにならない?

なお、「日雇い派遣の禁止」と言っても、今後自民党や政府は、更なる改正の骨抜きをすすめる可能性がある。というのは、使用者側が「1日はダメだが、数日以上の契約なら認めるべきだ。禁止は中小企業への影響が大きい」と巻き返しを図っているからだ。日雇い派遣会社が加盟する日本人材派遣協会でも、日雇い派遣禁止には反対している。

よく言われるのは、日雇い派遣頼みだった、引っ越し業や小売業、イベント会社、外食産業などへの影響の問題だ。人手不足が恒常化しており、たとえば引越し業者の99%が中小零細企業といわれる。繁忙期や大口の仕事があると、通常の3〜4倍の人手が必要だが、直接募集では人が集まらないというのだ。

だが、それはウソだ。派遣法以前も臨時的にアルバイトの直接採用で対応してきたのだ。外食業界、コンビニ業界などでは、都心部でアルバイトの確保が難しいなどというが、労働条件をよくすれば人は確保できる。あまり労働条件をよくしないで何とかしようとするから、どん詰まりになるのだ。

派遣は確かに企業(派遣を利用する派遣先企業)にとって、電話一本で好きなときに好きなだけ人を集められるからそりゃ便利だ。人集めの手間や労災の処理など、派遣先は派遣元会社に丸投げして、派遣制度解禁によってもっとも利益をこうむってきた。日雇い派遣料金は、アルバイト直接雇用の1・5〜2倍と割高でも、それでも使いたい(得をする)ほど、簡単に人を集められ、簡単に解雇や入れ替えができる、雇用の調整弁扱いできるといった、派遣先起業に有利な点があったのだ。そして派遣会社は、労働者に大量に登録させておいて電話一本で人を送り込み、中間マージンをとって儲ける。結局、この構造では、労働者だけが、細切れで不安定な雇用にされ、言いたいことも言えず、代替品はいくらでもあるというようなひどい扱いをされ、賃金も低いというようになる。

結局、業界は、この美味しい派遣という雇用システムを手放したくないといっているだけである。それは企業の甘えである。そのように底辺労働者にしわ寄せ意をしないと生きていけないような企業のあり方がおかしいのであるから、そのようなところは廃業にいたってもしかたない。派遣業界など基本的につぶれて、一部専門職派遣だけになったらいい。

 

 通常、このような議論になると、現実的でないとか、それでは結局労働者が失業するだけというのが定番の反論だ。業界も政府も、日雇い派遣については、全面的に禁止すれば労働者の雇用機会が減る可能性があるため、よく話し合ってどのよう場合は日雇い派遣でもいいのか検討するというような言い方をしている。

 だが、少しでも考えれば、派遣への規制が強まっても、世の中全体の必要労働量は基本的に一定なので、派遣に替わって、直接雇用が増えるだけである。失業者が増大するということはありえない。たとえば、目の前のある一企業(グッドウィルなど)がつぶれても、当該企業や政府や職業紹介所が適切な行動を取れば、仕事を失う労働者には次の仕事を保障できる。

実際、与党案でも、「日雇い派遣事業」から日雇いの仕事を紹介する「日雇い職業紹介事業」への切り替えの促進、ハローワークの機能強化が盛り込まれており、派遣でなくても、日雇いの直接雇用でよいという理解が出始めている(もちろん、直接雇用になったから問題がないのではなく、むしろ、その先の均等待遇、雇用の安定が問題である)。

 下請け構造の議論でも、最低賃金引き上げの議論でもそうだが、すぐに「労働者が困るだけ」等というようなカタチで結局現状維持を主張するインチキにだまされないでほしい。現状維持は、今の構造で得をしているものにはいいが、不利益を被っている派遣労働者等にはよくない。派遣労働者にとっては、直接雇用が増えることで失うものはない。短期だけ働きたいというようなニーズがあるというが、それなら、職業紹介機能を充実させて、短期のアルバイト情報を充実させれば、事実上、労働者には派遣会社からの仕事提供と同じ効果を保障できる。

 通常、間接雇用と直接雇用の区別さえついていないので、「1週間だけのイベントのために人を雇えない」などという。だが、短期アルバイトを雇えばいいだけである。派遣を使うというのがおかしいのだ。こんな基礎をわかっていないほど、仕事がある時だけ人を雇う、そのために派遣を使って何が悪いという考え方が会社、世間にしみついてしまっており、間接雇用の危険性(中間搾取の人材送りは禁止)など完全に忘れ去られている。そうした社会がおかしいが、今回の法改正はなんらそこに手をつけていない。

 

 

「もっぱら派遣」

次に、同じグループ内だけへの派遣、いわゆる「もっぱら派遣」の規制問題である。

もっぱら派遣(大企業が人材派遣会社をつくってグループ企業だけに労働者を派遣するもの)は、本来は正社員で雇うべき人を、低賃金で不安定な派遣社員として働かせることになりうるとして、派遣法で禁止されているのだが、抜け道が多かった。たとえば、グループ内への派遣割合が100%でも、グループ外への派遣の営業努力をしていたり、グループ外からの派遣依頼を拒否していなかったりすれば違法にはならないとされていた。

それに対して、政府案は、今回、グループ内への派遣割合を8割以下にするという規制を設けようとしている。また正社員を解雇し、グループ内の派遣会社に転籍させて派遣社員として働かせることも、解雇後の一定期間は禁じようとしている。

規制をかけることは必要だが、8割とは生ぬるい。そもそも、直接雇用するべきものである。グループ内ということで、形式的に派遣という形にして、事実上は直接雇用と同じ、ただ会社が違うから賃金形態も違うというような、「派遣」の悪用にすぎない。

したがって原則は、もっぱら派遣、常用代替を目的とした労働者派遣は全面禁止とすべきである。連結決算の対象となる派遣会社からの派遣を禁止するとすべきである。当面の妥協策というなら、その数値をたとえば50%以下にすべきであろう。

 

 

雇用責任問題(みなし雇用)

次に、派遣先の雇用責任問題である。

これについて、政府案も、一応、違法派遣を受け入れた企業への新たな制裁措置を盛り込んではいる。だがそれは、意図的な偽装請負や禁止業務への派遣など、違法派遣に関係した派遣受け入れ企業に、派遣労働者の直接雇用の申し込みを行政が勧告するというもの。使用者側は、されに後退して、単純な過失もあるので、すべて派遣先への直接雇用とするのではなく、個別に検討し、重過失があるときだけ直接雇用とすべきとしている。

 今までも、一応、「派遣先の会社が、同じ業務に同じ派遣労働者を継続して3年を超えて使った場合、その3年を超えた日以後、その業務に新たに労働者を雇入れるときは、当該派遣労働者に対し、雇用契約を申し込まなければならない」とされているが、この規定は実際は機能してこなかった。

したがって、現実にひどい違法状態が横行しており、今までのようでは正社員化などほとんど皆無であったのだから、行政勧告などという実効性の乏しいものではなく、ここは、労働側・野党側が主張するように、派遣期間をこえた場合や違法行為があった場合事前面接、偽装請負等)、自動的に派遣先が直接雇用したものとみなす「みなし雇用」規定を導入すべきである(これはすでドイツや韓国などで導入されている)。

 しかも、偽装直接雇用(直接雇用と称してすぐに雇止めなどして事実上の解雇)を防止するために、派遣先が直接雇用を申し出た場合、正社員採用(期間の定めのない直接雇用)、または長期契約でなければならないとすべきである(国民新党案)。

 

 そもそも、派遣という形態自体がおかしく、労働現場での指揮命令が派遣先企業にあるのだから、本来は派遣先企業の直接雇用でなくてはならない。したがって、100歩譲って、派遣法が存続するとしても、派遣元だけでなく、派遣先企業にも雇用責任があるとみることは当然である。

今までの法律でさえ、派遣元と派遣先は実際に派遣労働者から苦情を受けた場合、密接に連携をとりあい、誠意をもって速やかに苦情に対応しなければならないとされていた(労働者派遣法第40条第1項)が、これをもっと推し進め、派遣先の企業の責任を明確化せねばならない。

 この観点から、まず、違法状態があった場合、派遣元企業だけでなく、派遣先企業へも、罰金、企業名の公表、勧告等をするような法律にすべきである。労災が起きた時の派遣先の責任を重くすることも必要である。

また、労働契約の中途解除は、よほどの理由がないとしてはならないとすべきである。やむをえない事情でも途中解除した場合、最低、休業手当(6割)、会社側の責任である場合は100%全額を補償すべきである。

さらに労働者派遣法では、派遣労働者を特定することを目的とする行為(簡単にいえば、派遣する者を選考すること)は禁止されているのだが、実際は、事前面接が多く行われている。派遣元が、この人はこの専門的な仕事が出来る人と送り込めば派遣先は拒否してはならない。面接して選り好みしたり、しばらく使って気に入らないところがあるとすぐに人を代えるように要求したりするのは許されてはならない。派遣先の企業で正社員を簡単に解雇できないように、派遣労働者も派遣先企業の気分でどんどん使い捨てにされないよう規制すべきである。

また、紹介予定派遣(派遣終了後の直接雇用[正社員、契約社員]を前提とし、派遣先に就労する形態)もおかしい。それなら最初から直接雇用にすべきであるのに、低賃金かつ、様子見、ということで企業に体よく使われている。正式に直接雇用されるまでは、特に言いたいこともいえず従順になってしまうだろう。試用期間ということで簡単に首を切ってもいいのだという理解で利用されてきた。法改正でこれも禁止すべきである。

 セクハラ防止、個人情報の保護も当然強化して違反した場合、強い罰則を与えるべきである。

 賃金未払いなどあらゆる問題に対して、派遣元、派遣先、両方が共同して責任を持っていくようにすべきで、片方ができないとき他方が責任を遂行しなくてはならないようにすべきある。

 

均等待遇問題

これに絡むが、派遣労働問題の根源に関わる均等待遇問題についても原則を確認しておこう。派遣は一時的専門職に限るべきだが、いまの実態はほとんどの職種での、雇用責任もない、簡単に調達でき、簡単に首を切れる、安価な労働力となっている。

それに対しての原則は、直接雇用にして、その上で、同一価値労働同一賃金という均等待遇を拡大していくことがもっとも自体を改善していく王道である。

つまり、派遣形態という間接雇用自体を問題とすべきだが、現実に派遣がある中でなかなかそれを一挙に変えていくのが難しいということがある。そのなかで、派遣が安価すぎるという問題に対処するためには、派遣先の労働者との均等待遇を追及していかねばならない。派遣法を改正するというならこの点は非常に重要である。

だが、政府案ではまったくこの点は無視されそうである。これでは改正の名に値しない。

また、派遣先の労働者にとっても、均等待遇でない労働者が来るのは、まともな精神を持っている者なら、本来心苦しいことである。したがって、派遣先企業の従業員の組合、過半数代表の意見を聴取し、その承認があって始めて派遣受け入れとなるように義務化すべきである。

 

ピンはね規制・情報公開

低賃金だという批判に対して、派遣会社が手にする手数料(マージン)を開示すべきだという意見があったのだが、今回の法改正では、これに対しては、派遣会社に平均的な手数料(マージン率)の公開を義務づけることとするようである。ただし、上限規制は「他事業では規制がなく、合理的でない」と拒否した。

これでは、ほとんど現状維持で何の効果もないであろう。派遣労働者が自分の仕事がどれくらいの金額で派遣元会社に出されて自分にどれだけ払われているか、その差額がわかるよう、個々の派遣労働者の個別契約の派遣料金とマージンを開示させるべきである。

また、完全に情報公開がすすめば自動的にむちゃなマージンはとれなくなるであろうが、個別の情報公開も怪しいので、マージンの上限も2030%程度と書いておいていいだろう。

なお、情報公開という点では、契約労働内容、派遣期間、教育訓練、社会・労働保険の加入状況とその保険料等の明示なども義務化すべきであろう。

 

 

さまざまな問題の改善が見込めない

派遣労働については、従来から労働運動側が違法や問題状況が横行していることを再三指摘してきたが、政府は聞く耳をもたず、規制緩和の道を突き進んできた。

たとえば、二重派遣(多重派遣)は派遣法でも職業安定法でも禁止されているが、行われている。派遣禁止業務への派遣も違法だが行われている。電話一本で翌日に急に派遣され、何の労災補償もないような危険な仕事をやらされるような日雇い派遣。派遣元は現場を巡回して契約内容が正しく守られているかチェックする義務があるが、実際は(特に前日にきまるような日雇い派遣において)現場巡回などしていない場合が多いこと。派遣元による根拠のない管理費、データ装備費といった名目の天引き問題もあった。仕事をキャンセルしたりゴミを出したりしたら高額の罰金をとるようなむちゃな管理もあった。事前面接や正当な理由なき中途解約などもあった。いったん嫌われると仕事を回してもらえず、また時給を下げられたりすることもある。社会保険非加入や労災隠しも行われてきた。正社員を削減し、新たに派遣会社を作って、同じ仕事を別賃金体系の労働者にさせて、支払い賃金を下げていく「もっぱら派遣」もあった。派遣元が派遣労働者に対する教育訓練を何もしていないようなことが多くあった。紹介予定派遣といいながら、試用期間ということで簡単に首を切ることもなされてきた。

日雇い派遣業界におけるこうした不正、不当行為は無数にあった。ただ、労働者の立場が弱いため、派遣先や派遣元の都合が優先されてきた。

今回の法改正で、こうした違法、脱法、不正行為が激減するという展望はもてない。骨抜きの改正というしかない。

 

 

請負問題

派遣の規制によって、均等待遇の直接雇用が増えると見るのはもちろん甘い。今回の法改正では効果はまったく不十分なので、派遣が大量に今後も存続するが、同時に請負という間接雇用形態も増えていくと予想される。

というのは、請負への規制がまったく不十分だからである。請負についての明確な法律はなく、いい加減な会社が多いので、低賃金、社会保険非加入などがおこりやすい。契約解除も簡単で、事実上の首切りが簡単になされる。管理者不在の偽装請負は実際は数多くあり、請負を利用する会社は、力が強く簡単に雇用の調整を請負会社に押し付ける。

経験者の話によると、たとえば、請負会社から送られている労働者達は、事実上、本社(請負先、請負発注元企業)の社員が職制として作業の指示(指揮命令)をしていても、請負会社の労働者の中から「リーダー」を選んでおき、そのリーダーが指揮をしているのであって、請負先の社員が直接指揮命令していないという体裁をととのえている。地方工場での派遣や偽装請負では、寮費などが高くて、賃金が実質上低くされている。定時分の予算しかないということで、サービス残業も横行している。

単純労働をやらせるような請負は禁止していくような、根本的な請負対策も必要である。

 

 

おわりに

派遣や請負という間接雇用問題の背景には、非正規雇用全体の問題――有期雇用、低賃金、軽い扱い、身分差別、均等待遇――がある。今回はそこには触れていないが、当然、その問題の一部であるのだから、非正規問題自体を問題としていく必要がある。また正社員も含めた、長時間過密労働、ワーク・ライフ・バランスの悪さの問題などもある。

そのなかには、そもそもカップル単位システムが問題だというような話もある。「ジェンダーと貧困」に関わるところで、最近、「ジェンダーと貧困――DVを中心として 」(『貧困の学校――貧困をどう伝えるか、どう学ぶか』明石書店 2008年)として少し書いた。今でも「男性が妻子を養う」ということを根源的に見直すということはほとんどなされていない。労働運動側においても。

 またもちろん、世界的な新自由主義のなかで、日本の賃金・雇用体系をどうしていくのか、社会保障システムをどうするのか、という問題もある。

 

労働者にとっては派遣やパートは都合がいい働き方なのだ(労働者のニーズ)というような、ふざけた意見がいまだ横行している。目の前に、まともに人間らしく、ワーク・ライフ・バランスある正規雇用があるとき、一体誰が、条件の悪い非正規雇用を選ぶであろうか? 選べないのである。正社員の雇用がない、正社員の採用で通らない、正社員の労働条件が長時間・過重責任・過重ノルマなどひどすぎて選べない、などがあって、しかたなく、消極的な選択(ニーズ)として、非正規雇用を「選んで」いるのである。同じ労働時間で、正社員と非正社員があるとき、だれが非正規を選ぶだろうか?

短時間の正規雇用、均等待遇を進めることこそが、必要なのである。

 

以上

 

HOMEへ