結婚制度と民法改正:民法772条・300日規定問題
070507
「300日規定」見直し等の民法772条問題(保守派・バックラッシュ派が貞操義務などを理由に法改正などに反対している)で、杉浦ひとみさん(弁護士)がわかりやすくフェミの立場のイロハのイを説明されています(後掲)。
確信犯バックラッシャーだけでなく、新聞記者や多くの「一般の人たち」なども、家族制度の安定などという言葉には弱いものと思われます。
僕などフェミニストたちが当然と思っている出発点程度の認識すら多くの人には理解されてないということだし、ここは結局、家族/結婚制度のあり方に関わるところなので、だからこそフェミは重要なのだとおもいます。私の言い方でいえば、シングル単位感覚をもてるかどうか、がこの問題でも立場を分けます。
ほんの簡単な見取り図ですが、以下、少しまとめておきます(ML上の情報の切り貼りが中心)。必ずしもこの3つにまとまるのではありませんし、改正推進派といってもここでいう「穏健系」や「ラジカルなフェミニスト系」のようなものにはさまざまな考えがあると思います。が、あえて大きな方向性の違いから3つに分けてみました。
1:772条見直し(改正)反対派
民法の婚姻制度、親子制度を維持すべきだ。結婚は、基本的には婚姻中に生まれた子について夫が責任を持つという重い制度だ。DNA鑑定などで生物学的に親子関係を決めることが重要なのではなく、法的な親子関係を決めることが重要。その目的は、子どもの地位を安定させ、家庭生活を平和に営ませるというものである。DNA鑑定で親子を決めるとなると混乱をもたらすので、すべきでない。結婚や離婚、出産には重い自覚が伴うべきもので、離婚が成立していないときに他のものと性関係を持って子どもをもうけるなどというのは、貞操義務に反する、無責任な行為で認めるべきでない。そんなことを認めると不倫を助長し、一夫一婦制が否定され、結婚制度が崩壊する。国の基礎となる法律婚の軽視は、ゆくゆくは事実婚や乱婚、同性婚の容認につながり、結局、男女間には何でもありといった不道徳社会になってしまう。つまり民法722条見直しをいうのは、家族制度を崩壊させようとするフェミニストの主張である。
2:772条見直し(改正)賛成論:穏健系
家族制度・結婚制度・貞操義務は守るべきであるが、民法722条見直し問題はそれとは別である。本人は悪くないのに、不利益を被っている人(子ども)がいるというケースがあるので、それに対応するよう改正すべき。例えば、母のその時の夫を父親とすることにすれば、すっきりする。その他、さまざまな現実対応的改正。
3:772条見直し(改正)賛成論:ラジカルなフェミニスト系
双方が同意すれば離婚は簡単にできるが、相手方が離婚を望まないときには、なかなか簡単には離婚できないのが日本の結婚制度。そのため、事実上、愛情ある夫婦関係は終結しているのに、形式的に夫婦となっている関係はかなりたくさんある(そのなかの一つが別居状態)。離婚を求めても相手が応じてくれない(離婚の話し合い中)、DVなどから逃れて身を隠している、離婚裁判中である、夫が怖くて裁判もできない、など多様な状況がある。そうした「離婚は成立していないが愛情がない関係」のなかで、別の人と親しくなり、子どもができる場合もある。それを非倫理的と非難して、子どもに罰則のように正当な権利を与えないのはおかしい。
そもそも、民法のこの部分の規定は明治民法における家制度の考え方から設計されたものである。それは、ある面からいえば、男を中心に「家」を存続させるために、誰がその家の跡取りかを決めるルールでしかなく、女は家のために子を産む道具であるという感覚とつながっていた。嫡出か否かで家の跡取りとしての序列をつけていたのであり、戦後の新民法においても、嫡出か否かの差別は残された。
また「結婚は、婚姻中に生まれた子について夫が責任を持つ」というが、男女平等・人権重視の見地からは、両親が平等に責任を持つべきものであると同時に、子どもの権利を大事に考え、また多様な状況の人の差別なき公平な処遇を求める。したがってそもそも親の状況によって子どもに「嫡出/非嫡出」などという差別的な区別をつけることが不要である。多様な人のありかたを公平にするという意味で、事実婚や同性婚の容認も必要であろうし、結婚している/していないに関わらず平等な権利が保障されなくてはならない。離婚したいのにできないというのは人権侵害であり、破綻主義を導入すべきであるし、離婚したら暮らせない(男性・結婚に扶養され従属せざるを得ない)というような、女性が自立出来ない状況こそ変えるべきなのである。母親が父親を記載したくない場合もあるので、そのような届け出も認められるべきだろう。
結局、現状の家族単位かつ戸籍筆頭者中心の戸籍制度を廃止し、個人単位の「戸籍に代わる記録制度」にし、税制度や社会保障、苗字選択、労働関係諸制度なども個人単位に設計すればいいのである。
以上の総合的な体系を私は、シングル単位のシステムと呼んでいるのである。(私個人は、そもそも、財産などを「法的家族・家・血縁」によって子ども等に有利に相続することが不平等だと考えており、遺言重視かつ明示がない場合は社会の公共財にすること、だれにであろうと、資産の譲渡には同じ税率をかけること、贈与税に一本化、つまり相続税の事実上の強化などが必要と思っている)
貞操義務を持ち出し、「法改正は、不倫を助長し、一夫一婦制が否定され、結婚制度が崩壊する」とし、古いルールだけが子どもの利益、家庭の平和を守るというのは間違っている。嫡出概念を廃棄して、事実婚の子どもなども皆、対等平等にすればよい。事実、北欧・西欧などの一部ではそのような個人単位的なルールに変更してうまくいっている。無責任な人が増えているという事実はない。
大事なことは、各人が「法律に書いてあるから」、「罰則があるから」、「血縁があるから」「法的な家族だから」などというレベルで、「貞操を守る」とか「パートナーや子どもを大事にする」「財産をもらう、奪い合う」というのではなく、自らの倫理に沿って、パートナーと誠実な関係を持ち、子どもにまともに接し、財産などで争わないレベルの人間になっていくことである。
もちろんそんなことは理想ですぐには達成できない。だから一定の法的ルールは必要である。だが、家制度に替わって、そうした理想的な関係性へ向けて近づく努力として、現実的な落としどころとしての法改正がありうる。民法改正はそのプロセスの一つである。
改正反対派の主張は、離婚したくてもできない人、事実婚や同性愛者など性的なマイノリティへの差別(不利益)を維持し、結婚している男性の権利だけを重視する古い家制度時代の発想とつながっている。愛情という実態より、法律という形式を持って、財産や「子どもの所有権」などを争うという情けないレベルの関係を維持しようとしている。
民法改正派は、何もあらゆる親子をDNA鑑定しろなどとは言っていない。ある特定事情の場合、DNA鑑定によって子どもや母親の人権が尊重され、社会生活を平和に営むことができるから求めているのである。
離婚の自由は非常に大事である。いったん結婚したらそこから離脱させないというような制度はおかしい。強制ではなく、ひとりひとりの民主的な対応力を高めることこそが求められている。722条民法改正の意味は、他の問題とつながっている。
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紹介資料
杉浦ひとみ氏による「離婚前の妊娠の救済について」の意見。
離婚前に妊娠しない方がいい、という考え方に対して
仕事上の経験から
・離婚はしたいと思ったらすぐできるわけではないこと
・女性は妊娠可能な時期的限界があるということ
について知っておいてほしいと思いました。
離婚は、双方が同意して離婚する「協議離婚」が、女性が望むときにできれば問題ありません。
しかしながら、婚姻をしてしまうと、相手方が離婚を望まないときには、なかなか簡単には離婚できません。
たとえば、配偶者が入院したり、骨折したりするほどのDVがあったり、相手方の不倫の証拠がしっかりとあるときには、離婚の裁判をしても裁判所は離婚を認めてくれます。
ただし、この場合でも、相手が離婚を望まず、裁判の結論について控訴(第二審)、上告(最高裁判所への申立)をして争うようなことがあれば、離婚のための法的争いは、1年や2年を要することになります。
上記のような明白な証拠がない場合には、裁判所も離婚を認めにくく、さりとて元の鞘に戻すのが難しいと判断すれば、双方の合意で離婚をするように和解を勧めてきたりします。そうなると、さらに時間が必要になることもあります。
これらの争いが、事実上夫婦関係を破綻させて別居の状態で続けられるような場合には、その間に親しくできる人と巡り会うこともあります。
他方、女性はいつまでも妊娠できるわけではありません。
一定の期間内に妊娠・出産をすることが必要になります。
以上のような状況の中で、離婚前でも新しいパートナーとの間に子どもをもうけることは十分考えられ、またそれは必ずしも非倫理的と非難される必要はないと思います。
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第772条(嫡出の推定)
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
「模範六法 2006」(C)2006(株)三省堂