いきいき介護セミナー2004(第2回目)
日時:平成16年6月19日(土) 10:00〜15:30
場所:第一生命ビル
講師:浜田きよ子先生
テーマ:「排泄がわかれば、ケアは楽しくなる」

○私が母の介護を通して学んだこと

 元々会社員で介護の世界に縁がなかったが、母の目が不自由になった。うまくトイレに自分で行っていたが、ある日転んで、おむつをつけることとなった。一ヶ月くらいで亡くなった。本人にとってはプライドを傷つけられてしまっただろう。それが原点となって、歳をとって弱った機能を補完する用具について考えることがライフワークとなった。
当時、今のような排泄用具は日本にはなかった。厚生省の福祉用具アセスメントマニュアルづくりに関わったが、4年間、人体にこだわって、暮らしにこだわって、いろいろな意見をぶつけ合った。当たり前のことだが、暮らしと技術療法が大事だと痛感した経験であった。
 
 排泄ケア=おむつでないが、おむつの役割は重要。母が使っていた頃のおむつと、最近のおむつの違いを紹介したい。母の頃は、全体を包み込む布おむつで、起き上がる動作等においてかなりの圧迫感がある。母もおむつをつけられた心理的なショックで寝たきりになってしまったのかと思っていたが、物理的に動作の支障となっていたのであろう。圧迫は動作の妨げとなるばかりでなく、褥瘡の原因にもなる。「ぐるぐる巻きの重装備」はマイナスにしか働かない。最近の紙おむつは、布のように漏れが少ないばかりでなく、椅子に座っても圧迫感がなく、足を上げても楽なおむつもある。
ある意味、おむつは下着でもあるし、その人に合ったおむつを選択することが大切。「漏れないため」という観点だけではなく、本人にとっては快適性が重要。お風呂は2,3日に1回でもいいが、排泄はそれ以上に日常的なこと。

○排泄のメカニズム

排便・排尿のメカニズムを知ることは重要。早く専門家に診せるとずっと容態がよくなる人が、「歳をとっているからこれくらい漏れても当たり前」と片付けられて治療の機会を逃していることが多い。

<資料:トイレにだけは自分で行きたい!>
 トイレを困難にしているのは何なのかをはじめによく考えてみましょう。
・病気でないか確認(男性;前立腺肥大、女性;子宮ガンの後など)
・部分的にでもトイレを基本に(大便だけ・昼間だけ・介護者がいるときだけでも)
    
<資料;排泄のしくみ>
(排尿)
  尿は腎臓でつくられて尿管を通って膀胱にためられ、膀胱から尿道を通って体外へ出る。「ゴム風船」に膀胱はたとえられる。たまっているのに、それを出せずにまだたまったまま、ということがある。男性の場合は尿道が曲がりくねっていることから、「ホースの出が悪くなる」ことによって残尿が生じることが多い。空っぽになっていないのでしょっちゅうトイレに行くが、どうしても残尿がある状態を繰り返し、尿がぽたぽた漏れるためパッドを当てることとなる。このような排尿障害の場合、医療との連携が必要。
 一方で、女性は構造的に出る際の「邪魔者」がないため、力がかかったとき拍子に出てしまう(蓄尿が阻害されている状態)ことがある。ここでも医療との連携が必要。
皆さんはトイレに一日、何回行くか?3〜4回(少数)6〜7回(多数)、10回(少数)と個人差がある。何故、違うのか?飲む量(水分摂取量)も一つ。汗をかく量も一つ。もうひとつ重要なのは膀胱でためることのできる量。朝一番が最もたくさん尿が出るときであるが、出た尿を複数人について計量したところ150mlから750mlの差があった。
排泄で重要なのはしっかりためられることと、しっかり出せること。

(排便)
  ためたままで出せないと、そのまま直腸にとどまった便は水分を失いますます出しにくくなる。ためる・がまんする・出すというプロセスのうち、がまんするということの前提は神経系統に支障がないことが前提となる。

<資料;排尿パターンを知る>
  排尿の間隔、量、漏れ方をチェックする必要があり、それらの観察のため排尿日誌をつけることがおすすめ(3日以上記録することが望ましい)。
  摂取した水分(牛乳・お茶)について記録するとともに、排尿については500mlのコップで計量する。排尿量は1回、200から400mlくらいが望ましいと言われている。一般的な回数(日中;8回以下、夜間(就寝後;2回以下)、一回の排尿量(200から400ml)、一日の排尿量(1200から2000ml)、理想的な水分摂取量(1000から1800ml)という目安を基準に、排尿日誌を見ると、問題点の発見が可能となる。例の場合、何故、1回80mlくらいなのか、と次の分析のステップに移ることができる。

<資料;失禁のタイプ>
 ・腹圧性尿失禁
  妊娠・便秘の際、膀胱が圧迫され、トイレが近くなる。対応法としては一番簡単なのは骨盤底筋訓練(肛門・膣をお臍の方向に力を入れて5秒とめる)。歳をとったときの予防になるので、若いうちから朝昼晩10秒繰り返すことをお奨め。
 ・切迫性尿失禁
  膀胱が勝手に収縮してしまうという膀胱が過敏な状態。対応としての膀胱訓練は、あくまで医療的に問題点がないとわかった場合に行う。
 ・頻尿
  トイレという個室空間に行きたいという心理が影響することもある。昼間はトイレに行きたいが寝ている間は大丈夫というストレス性の起因するもの。
 ・溢流性尿失禁
  いつも尿がたまった状態で溢れるという状態なので、早く病院で受診が必要。残尿をどうするかという対応も必要となる。
 ・機能性尿失禁
  このケースでは特に福祉用具が果たす役割が大きい。痴呆による判断・認識力低下や運動機能低下によるもの。介護力と環境整備が大きく関係してくる。

<資料;薬と排尿の関係を教えて>
  薬の調整により状態が随分改善することもある。風邪薬・血圧の薬でトイレが近くなったり尿が出にくくなることがある。交感神経が刺激されれば尿をためる方に、副交感神経が刺激されると尿を出すほうに働く。

<資料;排便について>
 ・目覚める(迷走神経が刺激されて消化液の分泌と消化管運動がはじまる)
 ・起立する(腸運動)
 ・朝食を摂る(超運動がさらに亢進、便が直腸内に移動、直腸内圧が上昇、神経を解して脳の中枢に伝えられ便意がおこる)
 ・便所に行く(排便の体制をとると直腸内圧はさらに上昇する)
 ・排便反射
 ・便が排出
  よって、食堂のすぐ隣にあるトイレの数が限られていて、エレベーター待ちを余儀なくされる場合に、はタイミングを逸することとなりかねない。排尿は我慢しても尿意はなくならないが、排便は我慢すると便意がなくなる。朝ご飯を食べることをはじめ、ひとつひとつの手順が非常に大切。

立位は便が出しにくい体勢。座位は出しやすい体勢。寝ている体勢というのは、立位より更に出しにくい体勢。尿も便も座ってほしい。「何とか座れないか」という発想が福祉用具を考える上では重要になる。和式便器を跨ぐくらいに肩幅まで足を広げ、しゃがんだ状態というのが一番ベストな体勢。洋式ではなかなかお尻が広がる状態とならないが、前かがみの姿勢をとることで、その体勢近づけるような工夫が必要。

○排泄の自立のために
排泄ケアはおむつ選び、ポータブルトイレ選びのことではない。排泄ケアは、暮らし・生活に規定される。明治の頃は女性も立小便だった。痴呆の女性の方が昔の排泄習慣を思い出すこともある。その人がどのような暮らしをしてきたかを知ることが基本となる。一言でトイレといっても京都でも西陣(連棟)・美山町(離れ)で全くイメージが違う。

福祉器具を選ぶときの基本として、最初に本人の身体状況を考えること。次に介護者について考えること(体力のある人か、器具の操作能力があるか)。本人・介護者の身体寸法だけでなく、どこで使うかということも考える。また、道具同士の相性(ポータブルトイレとベッドなど)も次に考える。その次に、特定福祉用具の購入費の対象としてレンタルも含めどのように制度を使うかということを考える。

○トイレの工夫
(トイレ環境整備)
ドアノブをまわしてトイレに入れるかという確認を行う。引き戸をつけられなくとも袖壁スペースがあれば車椅子の方も後ろに下がる動作が不要となる。スリッパを履くというステップもできれば省略したほうがよい。トイレに入るのが大変なのか、衣服を下ろすことが大変なのか、何がネックになっているかを見つけることがトイレ環境整備の基本。
   トイレで排泄することを困難にしているのは何なのか?仮に座ることができたとしても、その姿勢保持が困難な人が多いので座面の高さ(足がちゃんと着くか)・バックレストや肘掛、座面のやわらかさについて工夫が必要となる。肛門が開く体勢をゆっくり保つための環境の改善が必要。
 ・姿勢保持のための肘掛けはすぐそばに、手すりは重心が前に向くように誘導するような位置(離れた前)の方が好ましい。
・「補高便座」でかさ上げすることができるが、電動昇降便座を使うと高さの微調整ができる。
 ・何も考えないまま洗浄便座をつけると4センチくらい座面が高くなり足が着きにくくなるので注意が必要。
 ・便器に乗り移るとき、アームレストやレッグサポートが簡単に外れるものを選ぶことで、簡単に乗り移りができる。滑りにくくするために裏が吸着するシートを敷くことが必要。
 ・座面をやわらかくするための敷物によって座高が高くなりかねないので注意が必要。
 ・ズボンを上げる動作を楽にするという観点からは、太いゴムが1本入ったトランクスよりも細いゴムが2、3本入った下着が便利(衣服も考える必要がある)。ファスナー部分を大きくしたりファスナーに輪をつけることも有効。
   
トイレはリラックスできる空間。トイレの改善を考えないままポータブルトイレを検討するのは避けるべき。

○ポータブルトイレの選び方
  車椅子の選び方のポイントと同じ観点から、座位保持機能(高さの調節が出来るアームレスト、バックレストがついていること、便座の高さが合うこと、座面がやわらかいこと)、移動・移乗・姿勢(座って乗り移る人にとってはアームレストが着脱できることが必要)について考える。また、介助者の状況についても勘案すること。その他細消臭・洗浄機能について検討。

  ポータブルトイレには様々な「個性」がある。キャンプ時に使用するもの、椅子型(見栄え重視)、洗浄機能付き(介助者の負担は増)・・・。
 
 ・座面について、今はやわらかいものも多いが、まだまだ硬いものが多い。形状として先が細くなっているか、大きすぎてお尻が落ちてしまわないかということにも注意が必要。固定型の肘掛で片方は短くし、片方は長くすることで、短い方から移乗しやすくしているタイプのものがあるが、姿勢が安定するかどうかの確認が必要。
 ・座面の処理(上げ下げ)は、誰がその上げ下げを行うのかが重要になる。半分に折るタイプが扱いにくい場合もある。
・座面の高さの調整の際の基本は足がきっちり着くこと。
・角度調整機能はなかなか役に立つ。
・奥行きがありすぎる場合は、座布団やクッションをつけることで前屈姿勢がとれることもある。
・ベッドから乗り移る場合、一旦便蓋に座る方法、リフトやスリングシートを使って移る方法等がある。リフトは特定福祉用具。
・洋式トイレから立ち上がる場合、かなり前屈しなければならない。壁との距離が足りない場合、前屈姿勢が十分にとれないため、立ち上がりにくい。

ポータブルは次善のトイレだが、個人仕様とすることができるという利点や、介護空間が広いという利点があるのは確か。その人に必要な機能は何かを考えながら使うとなかなか使いやすいもの。

○尿器の選び方
 ・しびんはできれば、座った状態で使う方がよい。
 ・差し込み便器はベッド上でもできれば背上げした状態、できれば座った状態で使うのがよい。角度やクッション性によって様々な種類のものがある。
   
(衣服の工夫)
 ・一枚布をスカートとして、ショールとして使い、トイレで陰部を簡単にかけてあげることができる仕組みのものの紹介。
 ・尿器を使う方の前開きとなるスカート
  指先が不自由で着脱しにくいというなら着脱を容易にする工夫が重要になる。
  おしゃれとの兼ね合いを考えると楽しい。

○おむつやパッドの選び方
・誤った使い方(とにかく重ねる使い方)をしていないか。適切な用法を。
 ・ひょうたん型の1枚ものはどうしても横が弱いので、横を向いて寝ることが多い人にはむれやすいが、基本的に上を向いて寝る人にとっては有効。やせている人には鼠形部から隙間からもれやすいので長方形型の方が望ましい。
 ・紙パッド・姿勢と吸収
  横には吸収材がないので、横をむいて使うと標準吸収量以下の吸収しかできない。基本的には吸収帯は横にはほとんどないため、横もれが生じやすい性質はある。もれを気にするあまりパッドを重ねすぎると、寝返り・座る体勢等に影響が出かねない。排尿量が多い人であれば、上に重ねると横にもれるもと。できるだけ小さなもので動きやすさを保った上での工夫を。一番いいのは横に布おむつをあてること。
 ・はくパンツ型(長方形で短い)は夜はもれるというのは当たり前。昼間向け。重ねるのは有効でない。テープどめのおむつでは窮屈すぎることがあるので、横の部分に吸収体がないので補う必要がある。漏れを防止しようとして大きなものをあてると、立体をつぶし、横もれを手伝うことがある(立体を生かす工夫を)。それぞれメーカーは苦心しているのは確かで、われわれは、皮膚の状況、夜は起こしたくないのかといった状況で最適なおむつを選ぶべき。
 ・本人が排尿動作ができるときは、その人の、「ヨコから出す」「前のファスナーを下げて」というその動作にあわせたものを選択するとよい。寝ている姿勢・昼の状態、自身で何ができるかの視点で選ぶべき。
 ・おむつは破ったり切ったりはしないこと(ポリマーが出てしまう)。
 ・圧迫が少ないパンツ・カバーの組み合わせを。パンツorカバーはその人・状況によって変わるが、組み合わせはいろいろ工夫できる。
 ・ウエストを大きく圧迫すると、座ったときにお腹・太もものしめつけで寝返り動作に大きく影響する。
 
今使っているおむつがベストなのかをもう一度考えてみてよいのでは。動きがよくて、快適性がよく、吸収性がいいものを選ぶべき。外が布、中が紙が基本か。

  おむつを外そうとする人がいたら、何故おむつのところに手がいってしまうのか、痒いからなのか、または退屈だという背景があるのではないか、その解決を先に考えるべき。
  
  排泄用具選びというよりその人の暮らしぶりがある、という視点で選んでほしい。そうでないと、「こっちが吸収量が多いから」という選び方になってしまう。
  
<むつき庵> 
・京都の町屋をデザイン
・20センチのあがり框をいかしたスロープ
・さまざまな紙おむつ、15種類のポータブルトイレを展示

改めて、排泄ケアを排泄用具選びにしないでほしい。トイレまで行きたいと思っても間に合わなくなった、といってもベッドの背上げを付けるだけでトイレに行けるようになるかもしれない。排泄はその人の人生を支えること。
  体が不自由になると介護が必要になるが、それは介護は必要条件であって十分条件ではない。その人が人生の主人公となることが最終目標。排泄は非常に重要なウエイトを占める。排泄ケアを通して生きる力を応援したい。

                                  以  上
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