いきいき介護セミナー2006


日時;平成18年8月20日(日) 10:00〜15:35
場所;おおつ第一生命ビル
講師;大渕哲也 先生(特別養護老人ホーム白ふじの里・次長)
(理学療法士・介護支援専門員)


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(はじめに)
新潟の長岡からやって来た。学生(岡山)時代、滋賀県は帰省のときなど、よく電車で通過したが、下車したのは初めて。現在、次長職をやりながら、なるべく現場の仕事に携わる時間をつくっている。
今日は座位についてしっかり考えたい。それから食事・車椅子の話をしていきたい。
本来1.5日かかる内容を3時間でご紹介したい。
配布資料は本日お話しする内容全体の章目ではなく、重点項目についての補足説明。

(スライドにて)
これは、俗にいうデラックス型リクライニング車椅子に座ったお年寄り。相談を受けて検討を加えた。本人の座り姿勢が間違っているのだが、どこを改善したら良いのか、理学療法士だから云々ではなく、それ以外の職種でもポイントを指摘できるようにしてほしい。

これは、食事のときの姿勢の写真だが、食事をするのにやたら高い天板となっており、肩や喉元近くにテーブルの天板がある。皆さんもその位置にラーメン鉢を置かれた場面を想像して欲しい。しかも足が浮いている。

これは、パーキンソンの方で、12時に食事がはじまるが、同じテーブル・車椅子で、食べやすくするために工夫を加えて欲しいという11:30に相談を受けた、という場面でその前後比較の写真。
ここで、4つ変更点を加えた。その4つは障害がある方が自分で食事をしていただくに欠かせないポイントと考えてもらっていい。
理学療法士も魔法使いではない。本人の力を引き出すために工夫を加えるが、それが施行する側・管理する側にとって楽な方向に作用するとは限らない。

多くの車椅子は、ビニールレザーでスリング構造なのは何故か?
そちらの方が安いから。というのが一つの理由で、もうひとつの理由はそういう構造でないと折りたためないから。つまりは、車椅子に座る人のための構造でなく車椅子を管理するための構造。たしかに一般家屋内であれば、折りたためないと困るだろう。それでも30分以上座らせるのは、虐待と言っても良い。

身体障害者等の施設ではいわゆる「西洋式」の施設・設備となっているのは何故か?
床から立ったり座ったりというのは負担が大きいから。というのが理由の半分。もう半分は、椅子座位はADLの場面場面に応じた調整が行いやすい、という理由。たとえばパイプ椅子は会議用、ソファーはリラックス用という具合。それでは場面場面で、椅子を使い分けているか?ソファーはくつろぐにはいいが、ラーメンは非常に食べにくい。

(本論)
座位とはどういう姿勢か?
お尻の下に両手をひいて、骨を感じることができるが、その2点の坐骨(背骨でなく)に体重がかかるのが基本姿勢で、反り返りでなく会話もしやすくなる。
いわゆる浅掛けした上で、背を背板につける、その上で顎を出す、それは相当きつい体勢だろう。お年寄りは多少骨盤が倒れた姿勢となることはやむをえないが、それをどうフォローするか。座面の体重の分散性などが、その椅子の機能を決定する。

椅子は大別すると「事務作業用の椅子」と「安楽椅子」の2種類に分けることができるだろう。パイプ椅子は非常に安い部類に入る作業用椅子。では、車椅子は?標準型車椅子はどちらか?安いものほど、どちらとも区別がつけにくい。そのままでは患者搬送用の荷車。
フットレストにしっかり足を着けることができるか。高すぎると、太ももが浮いて拳骨が入るくらいになってしまい坐骨の2点に体重がかかりすぎる。指が1本2本入るくらいが太もも全体に体重が分散されて程良い。

安楽椅子は、座面が低いことが多い。それによって足を前に投げ出すことができ、上半身が倒れ、背もたれに体重がかかる。事務作業椅子は、座面が高く、足を後ろに引いて、上半身を起こし、背もたれには体重がかからない構造となっている。そういった両者の基本をまず押さえておく。
事務作業椅子は、むしろ能動的な身体的能力が要求される。リクライニング車椅子は後ろに重心を逃がす。ただ、リクライニングしたからといって車椅子で寝かせて良いわけではない。

食事の座位姿勢は、頭がやや前傾するのが基本。
壁際に立って踵もお尻も後頭部もしっかりつける。その上で、唾液を飲み込んでみると、非常につらいのがわかる。後頭部を少し(指3本くらい)前にすると飲み込みやすい。逆に、カクンと前傾すると飲み込みにくい。そのわずかな違いが食事をしやすいか、むせるかの決め手となる。
また、足をしっかり着けて支持しないと、安定した姿勢をとれない。よって、お年よりは無理に浅掛けしようとする。それが不安定な姿勢につながることもある。これは、便器と座位の問題にも関連すること。

安楽型であっても頭は前に来るように。お尻から体まで完全な一枚板という椅子では体幹が安定しにくい。ここで、先ほどの事例で改善を加えたポイント4点だが、
@椅子後部車輪に分厚いカタログをはさんで、重心を前にもってくる
A背中に毛布を背中の上半分にはさみこんで前傾させる
B食事の時は足をしっかり後ろに引いて、足台にしっかり着ける(なおキャスターが小さいほうがフットレストを後ろにひきやすい)
Cお尻の下に座布団をひいて座面をもちあげる(=テーブル面を相対的に下げる)
これが、パーキンソンの方が自分で座ってお食事をとっていただくことに不可欠な4点。

@について、食事の度にカタログを車椅子の下に敷くわけにもいかないので、自転車のスタンド立てを応用したもので、タイヤを3センチくらい浮くようにした「車椅子スタンド」を私の施設では取り付けている。あくまでも食事用の姿勢のための装置なので、食事が終わったらスタンドをすぐに畳む。部品代は2000円くらい、工作時間は30分くらい。

「おはよう21」の秋号の元原稿を配布資料に掲載しているが、椅子での食事について。
背板をとりはらい布製のものを貼り直し、脚をパイプカッターで切った。後脚より前脚をたくさん切っている。見た目陳腐だが、本人にとっては使い勝手が良い。

せっかくモジュラー型車椅子が登場して、それを現場で活かしきれていないことが多い。
しかし、家具椅子については、現場の活用以前にそもそもモジュラー型が存在していない。何故かというと、メーカーの技術力が無いからではなく、介護保険の対象外だから。大事な寝たきり予防の用具ということで家具椅子も対象に認定していただければ、と思うが現場からそういう声が足りないということかもしれない。

リクライニング車椅子の背もたれは1枚板。クッションを挟むことで骨盤をおこし、体幹をバランスよく支え、頭が自分で起こせるようにすることが必要。

喉頭蓋の蓋の閉まり方が不十分であれば気道を塞ぐことができず、むせやすいため、片麻痺の人については方向が大切。

食事について
テーブルの高さは床から何センチではなく、椅子の座面から何センチか、というのが尺度。
本人の座高の3分の1マイナス2センチくらいがいい。これは医療・介護の分野ではなく工業デザイン(インテリアデザイン)で使われていた目安の模様。42センチの家具椅子と70センチのテーブルというのが標準だが、この28センチについては、身長172センチの人(大体90センチの座高)にぴったりのサイズ。椅子やテーブル・浴槽もそうだが健常な成人男性を基準につくられている。それを基本とすると、肩や喉仏にテーブルの板がきて、足は浮いて、ということになる。座高が60センチというお年寄りが多い。その場合、テーブルが10センチ低くてよいことになる。椅子だけでなくテーブルも調整しないと、その人にとって使い勝手の良い仕様とならない。もっとも昇降テーブルも60センチより下がらないものが多く、こういった製品しか売られていないという現実があるが。

(食事の六段階)
@食物の認識
テーブルがやたらと高いと丼の中身が見えないこともある。1口目、2口目はそのままでも中身が見えるが、3口目は見えるようにスプーンで向こうに押しやって見えるようにしながら食べている、という「けなげ」な動作の例。
普通の食器は、普通の生活が醸し出されるという利点があるが、深みにより「壁」となって奥の方が見えない、という弊害もある。
A口への取り込み(捕食)
普通に食べる時の口腔内は、下向きとなっている。捕食機能に問題があれば、前にぼたぼた落ちてしまう。水平にする必要がある。ただ、救命救急の気道確保的に頭全体を水平にしてしまってはいけない。
肘を固定されて持ち上げることができない場合、テーブル面が低いと口まで届かないので頭を下げざるをえず、犬食いになってしまう。この場合、思い切ってテーブル面をあげる。能動的に食べるためにはテーブル面を下げるのが原則だが、やっとこ食べられる方には上げる方がよい。あくまでケースバイケース。
B咀しゃくと食塊形成
ベッドに寝ていて、首も顎も全く普段動かさない人が食事の時だけ顎だけを動かすというのは、まず考えられないこと。よって、顔面マッサージ。掌のでっぱりで、頬をはじめやさしく、次に口が開くくらいに。舌根部も硬いままでは嚥下しにくい。この30秒のマッサージで大きな効果が得られる。
そういった取組をしつつ、それでも硬いものが食べにくい方にはソフト食。
C奥舌への移送、咽頭への送り込み(口腔相)
おしゃべりなし・テレビなしで自分が噛むことに集中した状態で、最初の味噌汁一口。それで体全体が食べる準備に入るのを実感できるだろう。最初の一口の味噌汁介助をないがしろにしないこと。われわれにとって当たり前のことが、意味深なことが多い。とんかつ定食が出た時に、まずとんかつを、がぶっとかじりつく人が居たとしても、それは下品な例。最初は味噌汁だろう。
唇と耳の穴を結んだラインがやや水平となるように(耳の方が下となると激しくむせることになる)する(車椅子の上で座りなおしというプロセスや、背中にブーメラン枕をはさむという工夫を加えた上で)。身体予備力がない方に、いかに微調整することで本人の力を引き出すことができるかを工夫するのが介護の力。
D咽頭通過(咽頭相)
嚥下の瞬間を見逃さないこと。口の中に残っていないかということ。私達は、嚥下をした瞬間には、早食いしているわけではないのに、次の動作に入っている。口の中が空になって1分も2分もすると「食事が終わってしまったモード」になりかねない。あたかも自分が食べるかのようなリズムが望まれる。2段階に分けて嚥下する人もいる。一人のスタッフが、複数人の食事介助を行っているのに嚥下を見極められっこない、というのはごもっともだが、ただ機械的なリズムで行うのではなく、厳しい状況だからこそ、そのような見極めの技術力をあげてほしい。
E食堂通過(食堂相)

理想は食事前の口腔ケア。雑菌が繁殖した状態ではおいしくない、ということで我々は朝食前に歯磨きをする。

<午後の部>
安楽座位
リクライニング座位が本当に座位になっているのか?むしろ垂直の方が楽、ということもある。ギャッチアップによって骨盤だけが寝て背骨だけ押し上げられて、という例が見られる。骨盤と背骨はそのまま、まっすぐに寝てほしい。背骨だけ押し倒されると、圧迫骨折をはじめ色々な障害を招きかねない。実際に様々な事故が頻発している。若い体が柔らかい人なら問題ないが、体が硬ければ、ギャッチアップすればすぐに苦しくなる。その人によって、たくさん起こしていいか、少し起こしていいかは異なる。
できるだけ膝を伸ばさせて、足をどれだけ持ち上げられるかをまず、試してみる。一定以上を超えると骨盤が持ち上げる。そうなる前の角度が、ギャッチアップの限界と考えられる。そうみると、意外とギャッチアップできる角度は小さいと思われる。
大抵は骨盤が寝たままで上半身がぐいぐい上げられかねない。ギャッチアップの軸が上であると(モーターが小さくて済むからかどうか分らないが)特に不具合が大きい。尚、東京の下町の工場でつくってもらっているベッドは、膝の部分が同時に上がる仕組みとなっている。また、横半分がベッドから横に出てきて、膝下を下に垂らすことができる。これが完成したら紹介したい。
現状のギャッチアップでどう工夫するか。本人をできるだけ頭を上に近づけて、できるだけ骨盤の近くから曲がるように。ギャッチアップが、平らな部分を残しているがゆえに、骨盤がそこに落ち込んでしまう構造となっている。骨盤を寝かしたままでなく、上に上にというのが基本。

車椅子
使用目的を明らかに。車椅子に色々な使用目的がある。その車椅子を使って楽に過ごすのか、食事するのか、移動するのか。使用目的が多岐にわたる、使用者の身体状況が重度になるほど、加速度的に一台で全てを満たすことは難しい。
その上で、使用目的がどうであれ、座り心地は重視したい。

@タイヤ空気量と虫ゴム:座り心地
若い職員が、「パンクです」ともってくるが、ガラスや釘が施設に落ちているわけはない。虫ゴムが原因。虫ゴムが原因でタイヤがおかしくなればブレーキの効きにも影響してくる。
Aブレーキの効き具合
二つのボルトネジを緩めて調整
Bレッグレスト
レッグレストが張ったままでは、立ち座りしにくい。本人の力で立ち座りする場合は必ず外す
Cフットレストの有無
膝が突きあがっていると左右どちらかに倒れやすい
D座面への配慮・座面の整え
スリングシートのまま座らせておくのは、それだけで虐待。シートを通して、坐骨の2点を探ることができる。それだけシート上に体重が極度に集中している。それが嫌で体重を前にずらして不自然な姿勢となってしまう。1センチでも中心をずらすと、極度に傾いてしまう。体重の分散性・支持性でもスリングシートは最悪。
クッションを敷くと、坐骨を探ることはできない(分散性は解消できる)。しかし、座面支持性は改善されない。そこで、100円ショップで買った平ぶちネットを敷いた上でクッションを敷く(支持性も解消できる)。紐で縛ってしまうと折りたためなくなってしまって管理者は都合が悪いだろうが、それでも良い。
これでようやくパイプ椅子の座面に追いつきました、という状態。これが最低限と思っている。
  
フットレストの高さをしっかり合わせて、座面をまっすぐして、ということをするのが高齢者のリハビリの第一。変形が起こってから、リハビリというのではない。

一つの不良姿勢は複数の原因から起こる。スタッフから、座っている姿勢がどうもおかしいということを言われるが、複数原因があるから。同じようなずっこけ座位(滑り座位)にも色々な原因がある。車椅子が大きく、沈まないために前の方に座ったため、膝の屈曲拘縮によりお尻が前に引き出されている、股関節が90度以上屈曲しない、等等原因は様々。

@〜Dを最低限行わないと、車椅子が生活場面の道具とならない。
更に、背シートもへたる。フレームを金属で支えた上で(突っ張り棒をいれた上で)、背シートを貼る。
背中が特に丸まっている方については、車椅子の後ろを強く縛ることで、背シートを平面の円筒型とする。

車椅子はそのままでは使い勝手が悪いが、逆に言えば、身の回りの道具でどうにでも工夫できるということ。
フットレストを広くした板(ただしキャスターが当たらないために角を削ってホームベース型にした板)を置くと、足元を広く使えて楽。ただキャスターが大きいと削らなければならないスペースが大きくて不便。

最近は「車椅子シーティング」が流行だが、車椅子だけに取り組んでもはじまらない。座るということは、椅子に座って食事する、ということは、というところを踏まえる。午前中お話したような内容をしっかり押さえておけば、午後の内容は身の回りの道具を使って工夫できる。

本日お話したような内容は、普遍的な内容と思う。その根本(援助の本質・介護の本質)さえしっかり押さえておけば、制度に振り回されることはない。くれぐれも制度(加算)に振り回されないように、しっかり本質部分を持った上で、制度をうまく使いましょう。

以  上