いきいき介護セミナー(H20.9.20)吉田明日香先生
日時;平成20年9月20日(土) 9:30〜12:30
場所;第一生命ビル
講師;吉田明日香 先生(作業療法士)、コーディネーター;海岸秀 先生(真盛園)

6月名古屋まで山口さんと一緒に吉田先生をたずね、講師を依頼しに行った。吉田先生とは初対面であったが、山口さんも私も吉田さんのマシンガントークに圧倒された。吉田先生は「スーパーOT」としての活動の傍ら、10年前の仕事の延長でテレビのディレクターもされている。さらには主婦・自治会長もされている。先生は「好きなことだからがんばれる」とのこと。「レクリエーションとは?」と尋ねると、「人生にあって当然のもの」とのお答えがあった。
(吉田先生)
「スーパーOT」と言われるとこっぱずかしい。経験年数が多いわけではなく、多くのことを伝えられるわけではないと思うが、是非気楽に聞いていただきたい。
T.レクリエーションの意義
○ あなたの生き甲斐を教えて下さい
いきなり初対面の方にこんなことを質問するのは失礼だと思うが、「これがあるから生きていける」、「これがあるから人生悪くないかな」と思えるような皆さんの「生き甲斐」を教えていただけませんか。(出席者に尋ねる)「家族とのふれあい」「友達と遊ぶ」「好きなことができる」「家族」「わからない」「周りの方とのふれあい」「旅行、知らないところに行くこと」「温泉」…。お答え頂いた通り、何かしら楽しいことがあって生きているのが人間だと思う。高齢者向けのレクリエーションについて今日はお話したいが、今、出てきた「友達と遊ぶ」・「家族とのふれあい」・「旅行に行く」といったことができなくなって行くのが多くの高齢者であり、歳を取るということだと思う。伴侶に先立たれ、子供とも離れ、家族との関係もよくない、助けがないと自分1人では旅行に行けない、おいしいものを食べたいが固いものは食べることができない等、活動が出来なくなっていくのがお年寄り。お年寄りには楽しみがなくていいのか?そんな筈はない、と私は考える。
○「生き甲斐」「趣味」は他者から与えられるものか
それでは楽しいことを提供してあげるのがレクリエーションか、というのもおこがましいこと。レクリエーションは生活にあって普通のこと。「滞りなく食事動作が出来てトイレに行けて歩けて…」といったADLに加え、「この楽しみがあるから生きていける」というところへの支援ができたらいいと考えている。つまり、楽しみを与えてあげるというのではなく、楽しむ手助けができればと考えている。
今日のセミナーの依頼において、「何の目的でレクリエーションを実施しているのか」、「自分たちだけで盛り上がっているのでないか」、「今ひとつレクをやってこれでいいという納得感がない」、「迷いがある」ということをおっしゃっていた。OTは養成過程でレクリエーションについて専門的に学ぶので、そういった知識が少しでも役に立てばと思う。
○ 効果判定の難しさ…標準検査では変化の見られなかった1症例
レクリエーションをやった効果について、「笑顔が見られるようになった」「活動に前向きになった」という抽象的な言葉でしか表現できない。そもそも数値化できることしか検査の対象となっていないためだが、「数字には現れない小さな変化が確かに出ている」ということも存在する。その例を紹介する。
いわゆる「問題行動」のある80歳の女性、老健からは出て行ってください、といわれて来られた方。コミュニケーションをとりにくい(たくさんお話をされるが、おっしゃっていることがわからない)。たくさんお話をされるというところ、病前は畑仕事が好きだったというところを手がかりにアプローチを行った。その結果、長谷川式等の標準検査では介入前後の変化は見られなかった。しかし、この女性の生活と馴染み深い物(野菜や雑貨)の写真を見て指差しや名前を答えてもらうテストを自分で作成して行ったところ、介入前後に大きな変化が見られた。
是非、こういうテストを作ってやってみてください、ということではない。標準検査では表れない変化が、確かに起こっていることがある、ということを言いたかった。レクをやって「何か変化がある」という実感があるときはあきらめずにやって欲しいと思う。
○ 生活のリズムを作り、平穏で自然な感情の流れをサポート
前述の80歳の女性に対し、【午前(会話、整容動作誘導、ふきそうじ、創作活動)、午後(体操・レクリエーション、その他散歩など)】というプログラムを行った。
手続き記憶を使ったADL遂行というのは次のようなもの。歯をみがいているところにコップをわたすと、その意味がわからずその水を飲んでしまう。ところがコップをわたさずに様子をみていると手ですくってうがいをされた。家族に聞くと、家にいるときも手でうがいされていたとのこと。コップをわたさないということで、できないと思っていた動作できるようになった。また、お風呂後の着替えも、鏡の前に連れて行って、「ボタンがはずれていますね」というと自分でできた、こういう発見を重ねていった。
病前、お仕事が好きだったというところをきっかけにふきそうじにはいってもらう。「きれいになってありがたい、助かります」、という言葉をかけるうちに、「仕事を独占したい、もっとやりたい」という意欲が強くなり、仕事をやめて次のスケジュールに移れない状態が見られるようになり、本人の疲労が懸念された。そこで活動性を沈静させるクールダウンとして、創作活動の塗り絵に誘導しようと考えた。
こうした流れによって、生活のリズムを作り、平穏で自然な感情の流れをサポートする、というができたのではないかと考える。一つ何か特別なことをしてもらうというのでなく生活の要素要素に趣味やレクが入ってくるというアプローチを全ての方にできれば望ましいのではないかと思っている。生活のリズム・感情の流れをサポートする、それがレクリエーションでないかと考えている。レクリエーションを、いわゆる風船バレーなどのゲームだけでなく、生活の中の楽しみ、生活の中にあって当然のものと大きくとらえ、その観点からお話させていただいた。
U.レクリエーションの実施計画
○ 計画書を作る…学生のレポートより
OTは養成課程で授業の中でレクリエーションについて学習する。レクリエーションをやって「盛り上がった」、「うまく行った」、「楽しそうだった」で終わってしまうのではなく、「何故盛り上がったのか」という理由付けのきっかけになればと思い、非常勤講師をしている専門学校で学生がつくったレポートを紹介する。
レクリエーションの構成は「導入(ウォーミングアップ)」、「主活動」、「鎮静化(クールダウン)」が基本。
台本を書くように、と学生には指導している。どのタイミングでどの台詞を言う、どういうサポートを行うかを確認し、その通りに行えるか、学生がお年寄りの役をして、実際に予行演習をする。緻密に計画しても、音楽を切るタイミング、楽器演奏の効果等、無駄な動き・足りない動き等、反省事項が生じる。そこでもう一度台本を書き直す。このプロセスを毎回行うことはできないが、一度やってみると、「こういう働きかけによって対象者の方に変化が見られた」等レクリエーションの考え方が変わる。「このレクによって対象者の方にどうなって欲しい」という計画を立てる、それが実現できたかという視点で観察すると、効果も実感できるようになる。
○導入⇒主活動⇒クールダウン…わたしが導入によく用いる手の体操
導入について、よく使うゲームを紹介。
・ 両手をあげて、大きな声で息を吸い込んで「あ〜」「い〜」でもいいので何かと叫んでいただいて、それが長く続いた人が勝者。
・ 右手と左手で違う動きをする、というゲームその1。
どちらかの手を前に出し、前に出した手がパー後ろがグー、交互に動かし、次は逆にする。前がグーだと難度が増す(伸ばす+曲げるの作業が重なるので)。
・ 右手と左手で違う動きをする、というゲームその2。さする・叩くを左右の手で別々に、雪山賛歌に合わせて、片手は上下・片手は△を描く。
・ 「お猿のかご屋」の曲で「えっさえっさえっさほいさ〜」は「さ」が多いので、「さ」のかわりに手をたたいて歌ってみる。
○ 「段階付け」とは?
〜グループワーク〜
・ 同じ種目でも使用道具やルールによって目的や効果が異なる。
・ 「風船バレー」を例に考えてみる。
・ 大きい風船、小さい風船を会場で、参加者間で打って触って回してみる。
・ 大きい風船、小さい風船それぞれにメリット・デメリットがある。相手のことを慮って上手に打ち返すことができる人ばかりではないことを念頭に置いた上で、ゲームのバリエーションをグループで考えてみる。
〔各グループの発表〕
(チーム「いきいき」)
◇小さい風船
・長所: 軽いので打ちやすい。圧迫感がない。
・短所: 変則的な動きがある。迫力がない。
◇大きい風船
・長所: わくわく感がある。
・短所: 重い。スピードが速い。
◇ゲーム
(主に小さい風船、大きい風船でも可能)
・対抗戦でネット越しに打ち合う。2回までで打ち返す。あるいはうちわを使う。
・円陣で歌いながら回す。
・回数を数える。
◇ゲーム(大きい風船)
・ワンバウンド床でさせた上で相手に返す。
(チーム「ハイ」)
◇小さい風船
・長所: 入手しやすい
・短所: 丸くない(楕円)、コントロールしにくい
◇大きい風船
・コントロールしやすい
・顔に来ると怖い
◇(大きい風船・小さい風船共通の)ゲーム
・半透明な風船であれば、中に何か音の鳴るものなどを入れる。
・風船に文字を書いて文字を読み取ってもらう。
・上から風船をばらまいて下で受けてもらう。
・風船にセロハンテープを張ってはがしてもらう。
・手に棘のあるようなものをつけて、割らないように回す。
(チーム「お嬢」)
◇小さい風船
・長所: 自分のところにくるまで準備がしやすい
・短所: 的が小さく打ちにくい
◇大きい風船
・長所: 打ち返しはしやすい。天井が高く広い場所では面白そう。
・短所: スピードがあって恐怖感あり
◇ゲーム(小さい風船)
・しりとりをしながら撃つ
◇ゲーム(大きい風船)
・ワンバウンドさせて撃つ
(チーム「ほんまもん」)
◇小さい風船の特徴
・車椅子の人には拾いにくい 飛び方不安定 撃ち方によってはスピードが出る
◇大きい風船の特徴
・重い 圧迫感ある ゆっくり 遠くにとばない 当たりやすい
◇ゲーム(小さい風船)
・班に分かれて回す、打ち返す
◇ゲーム(大きい風船)
・玉転がしをして蹴る
(チーム「やったローズ」)
◇小さい風船の特徴
・動きがゆっくりという意味で撃ちやすい、迫力はない
◇大きい風船の特徴
・速い、体全体で打てる、硬いのでわたしゲームがやりやすい、怖い、
変化しやすい、転がせる、わくわく感あり
◇大きい風船・小さい風船共通の)ゲーム
・両手で撃つ、片手で撃つ、手の甲で撃つ、
歌いながら、バウンドさせる。足を使う。手を叩いてからキャッチする。
座椅子・床での動作も入れる。
打つだけでなく円陣を組んで手渡しをする。男性・女性交互に打つ。
〔講評〕
大きい風船と小さい風船、それぞれ特徴の差にあまり気付けなかった。一つには、会場の関係で大きい風船が高いところ・遠いところまで飛ぶことが実感していただけなかったこともあるのかもしれない。大きい風船は、動きが大きいので、顔ごと風船を注視する、注意が持続する、姿勢がまっすぐになるといったことが期待できる。「打ちやすい・打ちにくい」という抽象的な言葉で捉えると、正反対の結論となりかねない。「〜だから」の理由付けが必要。今出たアイデアはすべて実施可能と思う。ただ、そのルールで行う目的、どの機能に働くのか、という立ち返りと、どう盛り上げるかという工夫、行ったあとの振り返りをすることで、より価値のある気付きが得られると思う。
尚、大きい風船は、東急ハンズのパーティーグッズコーナーに売っている。直径が90センチで840円。間違いなく盛り上がるが、使用後は空気を抜いて再使用できない。ふくらませるのに時間がかかるため、ハプニングで割れてしまったとき、滞りなくレクリエーションを進行するためには予備を予め用意しておく必要がある。滞りなくレクリエーションを進めるために万全を期すという姿勢は大切。
一口に風船バレーと言っても、その目的はなにか、どういう効果が得られるかを考えてみてルールをつくる。その上で、台本をつくり、楽しんでいただくための配慮(人の配置・ルール整備)を行う。その上で予行演習による改善・検証を積み重ねていく。手間がかかり、最初は大変だが、数回やると自然にできるようになるので、明日からやるレクリエーションの在り方が変わるのでないかな、と思う。
本日出たアイデアは宝物だと思う。それぞれのルールによって、目的も進め方も違うと思うので、学生がつくった台本を参考にしてもらいながら、ご説明した視点を持って帰っていただくことで「何か」が変わるのでないかな、と思う。
なお、レクリエーションの研修を行うにあたっては、レク運営側・レク参加者側を入れ替わりでやってみると多くの気付きが得られる。
V.手作業を中心とした趣味活動
○手作業の段階付け…例:「縫う」動きのバリエーション
高齢者を対象に手作業を行う場合、昔やったことのある「なじみ」の動作をとりいれると誘導しやすいといわれる。そこで「縫う」動きについて考えてみる。実際の裁縫をやってもらうと、視力の低下等もあって若い頃に比べてうまくいかない、と失望につながることもある。私は色画用紙に穴あけパンチで穴をあけたものを使い「裁縫動作を取り入れたアクティビティ」をよく用いた。この色画用紙を使って、かがり縫い、まつり縫い、返し縫い、波縫い、ビーズを通すなど、色々な「段階付け」ができる。通すビーズの穴の大きさ・色によっても難易度が変わってくる。刺繍の経験のある方であれば、規則的でなく色んな穴に刺すことが多く、玄関マットとして使えるような、毛糸をはりめぐらされた作品が出来上がったこともあった。病前・若いときにどんな作業に携わったかによって、出来上がる作品も変わって来る。
色画用紙を使っての裁縫は、針を紙の上に出し切って、下し切る、という過程が必要だが、本来の裁縫の運針は、一針ごとには出し下りしない。若い頃に慣れ親しんだ「運針」の動きを色画用紙でしようとして、紙を破ってしまった方もおられる。何針かを一度に運ぶ、という動きに拘りがある方には、細かい波形の畝の入ったダンボール(例:紙製のケーキの焼き型)の紙を使うことで、その動きを活かしてもらった。この様に、「できる動き」から作業を発想することもある。
隣の穴でなく必ず同じ穴に通そうとする動きとなってしまった方の例。本人に訪ねると、「ボタン屋さん」気分でいらっしゃって、ボタン付けの動作に思い入れがあることが分かった。そこでボタン付けの動きを生かした作業を考えた。布ではなくレースのカーテンに刺繍用の木枠をつけ、半年以上かかって一面にぎっしりボタンをつけてもらった。その作品をご覧になった家族は「もう何も出来ないと思っていたのに」と大喜びされた。
残存している動きをきっかけに、ひょっとするとこういう動作が得意な方かもしれないというヒントを見つけ出し、主体的に行える作業を見つける事ができた例。
○「縫う」という動作を生かしたバリエーション。
・100円ショップで売っている升目のカゴに、モールを針替わりにしてリボンを波縫いする。
・升目になっていない縦の格子状のカゴでも、波縫いの動作で可能。
・植木鉢の底に敷く40枚100円等のネットを使って波縫いをしてもらう。
・ニードルポイント(升目の結び目を斜めにまたぐ縫い方での刺繍、細かい柄が表現できる)も、高度な動きだが一旦身に付けば繰り返しで、きれいな作品ができあがる。
↓さらに発展させて…
・ニードルポイントの図案を使ったシール貼り絵。
・色画用紙に穴を空ける際に出来た廃材の丸い画用紙を再利用した貼り絵。
若い頃手作業が得意だった高齢者の方は、出来上がった作品が幼稚園で作ったような稚拙なものでは失望されることが多いので、それなりの見栄えのものが出来るよう心がけている。
○ 残存能力を生かす?新しい種目に挑戦する?
裁縫動作は、慣れ親しんだ動作を活かしたものだが、時には新しいものに挑戦してもらうことも有効。どちらがいいかはケースバイケース。
○ 「つる」と「風船」が折れなくなった認知症女性の例
80歳から通ったデイサービスで教えてもらって、「つる」と「風船」を折れるようになったが、できなくなってしまったとショックに陥った90歳女性の例。本人は深く思い悩んで、毎夜毎夜眠らずに折り紙を折っていたので、部屋にはつると風船のできかけの残骸が散乱していた。この2つは、折り初めの手順が似通っている。【風船→四角におって三角に開く、つる→三角におって四角に開く】そこでまずは、「つる→三角から」「風船→四角から」という、折り初めの部分を覚えてもらういい術はないかと考え、「つるは三角、風船は四角」という歌詞を本人の好きな民謡の替え歌にして繰り返し歌うことで、記憶を定着させることができた。その後も「手順の流れを切らないこと」に留意しながら何度も折る練習を重ね、最後まで折ることができるようになった。
ところが「リハビリ室では折れるが、部屋では折れない」という状態になってしまった。リハビリ室と自室との折り方の違いを観察すると、「机があるかないか」という違いがあった。そこでリハビリ室でも机なしで折る練習をし直すことによって、無事部屋でも折れるようになった。このような少しの環境の違いが動きに影響することは、ADLにおいてもよく見られる。実際に行うのと同じ環境に近づけないと動作はなかなか定着しない、といったことを教えられた例だった。
○なぜその道具を使うか、なぜその順序で行うか…例:作品「切り紙フック」
保健所主催の「介護予防教室」「認知症・うつ予防教室」で実施したアクティビティを紹介。手順や道具の選択には必ず意味があるという例。
「机の上に切り紙の下絵が記された紙だけを置く」→「これは何でしょうか?と尋ねる」→「切るというアイデアが出たら切った時の形を想像してもらう」→「新しい紙を配り、下絵を転記してもらう」→「転記した紙を切ってもらう(ここで初めてハサミを配る。先に渡しておくと先走って下絵の紙を切ってしまう方がいるため)」→「でんぷん糊で(水糊・木工用ボンド・事務用糊より作業に適している)コルクに貼り付ける」
○ 本日はゲーム的なレクにとどまらず、趣味的活動も含めてお話させてもらった。今日お話した視点を明日からの誘導等にちょっとでも活かしていただければ嬉しい。本日の皆さんとのご縁を今後も大切にしていきたい。
【作品写紹介真】(「介護予防教室」「認知症・うつ予防教室」で作成したもの





