研究ノート01-1
民族の起源を解明できる唯一の血液型・Gm遺伝子とは?
参考文献:
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書籍名 |
日本人は何処から来たか |
出版社 |
日本放送出版協会 |
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著者・編者 |
松本秀雄 |
初版年月 |
1992.10 |
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血液型研究の発展の契機 1937年のこと、O型の血液型を持った女性が、流産のため多量の出血をした。たまたま同じO型であった夫の血液が輸血されたところ、この妊婦は、輸血不適合によって、命こそとりとめたものの瀕死の副作用を引き起こしてしまった。 まだABO式血液型と、MN式、P式しか知られていない時代であった。 早速、この予期せざる事故の解明が行われたが、結果は思いもよらぬことであった。 夫の血液型を遺伝された胎児の血液(血球が抗原となった)によって、妊婦には既に免疫反応が起こっており、妊婦の身体は、この夫の未知の血液型に対して、異物として排除しようという準備(抗体)が出来ていたのである。 そういうところへ、夫の未知の血液型を含む血液が、どっと輸血されたのだからたまらない。たちまち血液型不適合を起こしたという理由であった。 この妊婦の血液の中から発見された抗体は、検査の結果、従来のABO式血液型などの抗体とは全く違う性質のものであった。 これが今やよく知られている、Rh式血液型、Rh(+)とかRh(−)と呼ばれる血液型発見の経緯である。 この発見を契機として、血液型の研究は飛躍的発展を遂げることになる。 血液は、赤い色の赤血球と黄色透明の血清(血漿)を半々に、そしてわずかな白血球から出来ている。
なお、これから、ここで検討しようとするGm型は血清型のなかに分類されている。 白血球型HLAは、本論の第4部-08.「白血球の型から先祖集団の故郷を探る」で取り上げているので、そちらもご覧いただきたい。 血液のなかの守備隊長・免疫グロブリン いま妊婦が、わが胎児の血球を抗原として、免疫反応を起こし血液型不適合を起こした話を紹介したが、我々の周囲には、細菌、ウィルスのように外部から侵入するもの、輸血や臓器移植などによって持ち込まれる他人の臓器や血液、あるいは自分の身体の中に生じた老廃組織やがん細胞など、無数といってよいほど身体にとって異物であり有害な物質が存在している。 このような異物が身体の中に入り込んできた場合、いち早くこれを身体の外に排除して、健康を維持しようとする働きが「免疫反応」と呼ばれるものである。 この免疫反応で、身体の中に入ってくる異物は「抗原(Antigens)」と言われ、異物の排除に主役を演じる役者は「抗体(Antibody)」と呼ばれる。 「抗体」は物質としては、 血液中の血漿あるいは血清に含まれるタンパク質、グロブリンと呼ばれるもののうち、γ(ガンマ)グロブリンと言われるものである。言葉での説明より、下図の血液の構造図がよく解ると思う。γグロブリンは、また一般的に免疫グロブリンと称され、「抗体」そのものの意味に使われる。
免疫グロブリンは、上図の右上のようなY字構造をしており、そのY字の先の部分が可変部になっている。 無数といってよいほどの異物(抗原)の侵入に対し、その可変部が千変万化することによって、あ らゆる抗原の形状に合わせ、抗体として抗原に取付く(結合する)ことが出来るようになっているのである(右下の図)。 すなわち細菌などの抗原を「鍵」にたとえると、リンパ球B細胞はその形状を認識し、ピッタリ合った「鍵穴」をもつ抗体を産出するしくみになっているのである。(上図の中ほど) 抗原と抗体が結合することを「抗原抗体反応」というが、この反応が細菌のような抗原を中和・無毒化したり、マクロファージなどの貪食(大食)細胞を活発化させて、身体の中からを早く取り除くような生体反応を導くのである。 リンパ球のB細胞は抗体産出細胞とも言われるが、B細胞には一度作った抗体を記憶し、再びその抗体に合致する抗原が現れたとき、素早く対応できる性質がある。たとえば、ハシカに一度かかると、免疫が出来て次からは罹らないという現象は、そのB細胞の性質に由来するものである。 抗体(免疫グロブリン)は、さらに5種類のクラス(Ig G・Ig A・Ig M・Ig D・Ig E )に分類され、それぞれ異なった役割を担っている。 このクラスの違いは、上図のY字構造のうち、重(Heavy)鎖の定常部を形作る、アミノ酸の種類や数の違いなど構造的違いによるという。 Gm型とはどのような血液型か? いま詳しく調べてきた免疫グロブリンは、また生命の進化の歴史を教えてくれるという。 20億年前この地球に生命が誕生し、長い年月をかけて、5億年前いわゆる古生代(魚類、両生類、原始的な爬虫類が生きた時代)に免疫グロブリン(おそらくIg M)が発生したという。 その後、原始的な哺乳類が生まれた中生代、約2億年前、Ig MとIg Gが分化するという画期が訪れる。 ヒトのIg Gに似た免疫グロブリンを持っている、最も低次な動物は両生類であり、カメ、トカゲ、ワニなどの爬虫類は、ヒトのIg MとIg Gに似た二種類の免疫グロブリンを持っている。 鳥以上の種になると、すべて三つの主要な免疫グロブリン、Ig M、Ig G、Ig Aを持つようになる。 さらに哺乳類になると、ヒトと同じ5種類の免疫グロブリンを持つようになる。 免疫グロブリンというのは、こうした動物の進化と深く関わりながら、ゆっくりと永い時間をかけて進化してきたものという。 さて、この項の主題であるGm型の血液型とは、免疫グロブリンG(Ig G)に係わる血液型である。 a,x,f,g,b1,b3,s,t,などの型(18種類が発見されている)があり、特定の結びつき方で遺伝子を表現する。 このGm型という血液型について、松本秀雄は、 −−いろいろの血液型を用いてヒトの人種集団を本当の意味で特徴づけをするということでは、その目的にかなった血液型は、Gm型のほかには全く見出せなかった。(p.27)−− と言い切っている。 そのように言い切る、第1の理由は、Gm遺伝子で人種を区別できることである。
3大人種は上表のようなGm遺伝子の組合せで表現できる。そして、afb1b3は南方系のモンゴロイドを、ab3stは北方系モンゴロイドを識別できる遺伝子であり、fb1b3は白人種に特徴的な遺伝子である。 agとaxgは蒙古系と白人種に共通するが、それは二つの人種の近さを物語っており、黒人種は蒙古系と白人種と共通するGm遺伝子を全く持っていない。これは、黒人種とそれ以外が、かなり古い時代に分化したことを意味するという。 第2の理由は、同じ人種の中でも、Gm各遺伝子の割合が、民族あるいは集団の間で著しい違いをみせることである。また、ある人種や民族から別の人種、民族の中に浸潤してゆくことを「遺伝子の流れ」といっているが、これがGm遺伝子の割合(頻度)から把握できる。(本論で研究したい) 第3の理由は、人種や民族の混血が判別できることである。殊に人種間の混血はGm遺伝子の混交ということから、容易に識別出来る。 ![]() この表から、たとえばインドの隣のビルマは、全く白人種の影響のない、南方系アジア人のGm遺伝子頻度を示している。 ウラルやイランは、fb1b3の頻度が非常に高く、白人種の地帯に蒙古系が若干混血したと読める。 一方、ネパールでは蒙古系の地帯に白人種が混血し、インドでは土着系に、白人種が半々くらいの割合で、混血したと見られる。 これはインド・ヨーロッパ系言語を使うアーリア人の、インド亜大陸への侵入という歴史的事実を血液型の面から、よく説明していると筆者には感じられる。 松本秀雄は、このようなGm遺伝子の特性から、先史時代を含めて民族や集団の移動や混血を、 そして「日本人の起源」を解き明かすことが出来る、唯一の血液型であるとし、その研究から「日本民族の起源は、シベリアのバイカル湖畔にある」と結論している。(本論で研究したい。) 一方、多数の遺伝子の解析に依らないと、民族の系統を論じることは出来ない、という立場に立つ尾本恵市は、「分子人類学と日本人の起源」という著作の中で、 −−Gm遺伝子について、あえて言わせていただくとすれば、一種類の遺伝子で集団のルーツを云々することは大変危険なことです。ましてや、ある対立遺伝子の頻度が日本人とブリアートの間で似ているからといって、日本人の原郷がバイカル地域であると結論することには、多くの人類学者が首をかしげています。(p.155)−− と述べ、松本の研究手法やその結論を否定している。
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