研究ノート02.
 ミトコンドリアDNA(日本人の2集団)-要約編-

 
   参考文献:
 

書籍名

DNA人類進化学 

出版社 

岩波科学ライブラリー 

著者・編者 

宝来 聰 

初版年月 

1997.7 


 宝来 聰氏はミトコンドリア研究の先駆者です。現在ではPCR法という遺伝子の増幅技術の
開発で比較的簡単にミトコンドリアの遺伝子(以後、mtDNAと表示)を得ることが出来ますが、
宝来氏が研究に取り組み始めたころは、大量の胎盤からミトコンドリアを取り出し、それから 
mtDNAを精製するという苦労をされたそうです。
 
   ミトコンドリアDNAとは?
 
 ひとつの細胞には中心に核があり、そのまわりにはミトコンドリアと言う小器官が多数ありま 
す。細胞核にはご承知のとおりDNAという遺伝情報が塩基数にして30億個という膨大な量、 
存在しています。一方、ミトコンドリアの中にも小さなDNA(塩基数16,569個)があります。 
 
  mtDNAの特徴 
 
 ひとつは、mtDNAは核DNAにくらべて突然変異(塩基置換)の起こる速度が5倍から10倍  
速いことです。 
 このことは生物の進化を研究する上で強力な武器となります。それは、比較的短い(といって 
も1万年単位)進化的時間のなかで生じたDNAの変異を、効率よく測ることが出来るからです。 
 
  母性遺伝 
 
 もうひとつの特徴は、母性遺伝をするということです。 
 mtDNAは母親のものだけが子供に伝わり、父親のmtDNAは次世代にはまったく関与しな 
いという、核DNAとは違った遺伝様式をとります。 
 このことは、ある核DNAが、たとえば10世代前の祖先(2の10乗=1024人)の誰に由来する 
か特定するのがほぼ不可能なのに対し、mtDNAでは確実に10世代前の一人の女性に行き 
つくことが出来る、ということを意味します。 
  
 宝来氏は、したがって、系統関係などを復元するのにきわめて適していると説明されます。
しかし、私は一方で、男性中心の“渡来”などがあった場合など逆にその痕跡を発見出来ない
という弱点もあるように思えます。 
 
  日本人の二つのグループ 
 
 宝来氏は国立遺伝学研究所の研究員であったとき、その研究所のあった静岡県三島市の 
近辺の産科医の協力を得て胎盤を集め、それからmtDNAを取り出されました。 
それらを分析すると調べた116人の赤ちゃんは62種類の異なったタイプに分類されました。 
 
 これらのタイプで遺伝距離(塩基置換数)をベースに系統樹を作成すると、日本人(赤ちゃん) 
の集団は大きくグループTとグループUの二つの集団に分かれるそうです。しかもそのグルー 
プが分岐したのは12万5千年も前ということです。 
 
 二つの集団に分かれるということになると、想定されるのは縄文人(先住民)とその後の渡来 
人ではないかということになりますが、その後の研究から必ずしも即断は出来ないようです。 
宝来氏は静岡だけでなく青森と沖縄で同じ分析を進められた結果は、 
 
          グループTの頻度 
    青森     28% 
    静岡     18% 
    沖縄      5% 
 
となっています。 
グループTが仮に縄文人を意味しているとすると、青森の頻度が高いというのは解りますが、 
沖縄が5%の頻度しかないというのは沖縄人は縄文人に近く、渡来人の影響をあまり受けてい 
ないという通説に反します。 
またグループTが渡来人であると規定しても、静岡より青森のほうが頻度が高いと言うのは常 
識に反します。 
 
 mtDNAの分析から分かった日本人の二つの集団は、少なくとも縄文人と渡来人という集団
を意味しないと言えそうです。