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今年新しい家族になった妹
福男
- 310 名前:バカは氏んでも名乗らない
:04/01/13 00:45 ID:???
- ───お兄ちゃん
「どうした?寒いのか?」
───ううん…がんばってね
「ああ、絶対一番乗りしてやるからな」
その日は良く晴れていた。門の前には数十人ほどの男たちが
「その時」を待っていた。その神社に纏わる古い伝説を信じて。
誰よりも早く境内に着く、その想いを信じて。
その中に一人少女がいた。幼い少女は近くにいる若者にずっと
寄り添って座っていた。冬空の下、少女の顔は薄紅色になって
いたが、どこか青白い目をしていた。
少女の傍の男にとって、今年のこの「行事」は特別なものだった。
それは男が傍にいる少女、自分の妹の為に走るからであった。
- 311 名前:バカは氏んでも名乗らない
:04/01/13 00:46 ID:???
- ───残念ですが彼女はおそらく二度と歩けは・・・
「どうしてですか!手術は成功したはずでは!」
───外傷は完治しましたが精神面で・・・
「そんな!」
北風が少女の頬に触れる。「その時」までもう数時間も無い。いつの
まにか、門の前には百人は越そうかという男たちで溢れ返っていた。
少女は門の前から数メートルはなれた所にいる親類のおばの背から
門の前の男たちをじっと見つめていた。
ときどき、その男たちの間から、少女の兄が手を降るのが見えた。
それに答えるかのように、少女も手をふり返した。
「一番乗りできるといいねぇ」少女のおばがそう呟いた。
「できるよ。お兄ちゃんは世界で一番速いんだもん」背中から少女の
声が聞こえた。
- 312 名前:バカは氏んでも名乗らない
:04/01/13 00:48 ID:???
- ───あのお祭り、もうすぐだよな
「・・」
───俺、あれに出ることにしたよ
「えっ・・・」
「その時」まで一時間もなくなった。門の前には数え切れない
男たちが集まっていた。少女はおばと共に近くのベンチに腰を
掛けながら、じっと門を見つめていた。
「大丈夫かい?ねむたくないかい?」少女を気遣っておばはそう
語りかけた。「・・・」少女はうつらうつらとしながらもゆっくり頭を
縦に振った。「無理は駄目だよ、お医者さんに言われてるだろ?」
「うん・・・でも大丈夫・・・だいじょうぶ・・・」
小さな寝息を立てている少女を背負いながらおばは旦那の待つ
ワゴン車に戻った。
そして「その時」はやってきた。
- 313 名前:バカは氏んでも名乗らない
:04/01/13 00:50 ID:???
- ───どうして?
「一番乗りになったらお前の足を治してくれって神様に言ったのさ」
───ぜったい無理だよ、一番乗りなんて
「大丈夫だって。俺は世界で一番速いんだぞ?」
「その時」がきた。
大きく開かれた門から境内まで数百メートル。男は妹のためにも
どうしても負けられなかった。
男は走った。誰よりも速く走った。
境内に駆け込んだ男の目に、すでに一番乗りを果たした別の男の
うれしそうな顔が飛び込んできた。
- 314 名前:バカは氏んでも名乗らない
:04/01/13 00:51 ID:???
- ───おにいちゃん?
「・・・」
───一番乗りに、なれた?
「・・・」
帰りのワゴン車では誰も喋ろうとはしなかった。
皆、じっと窓の外を眺めていた。ラジオからは
さきほどの祭り会場からアナウンサーが何か
興奮しながら一番乗りになった男に賛辞を述べ
ていた。
窓の外はまっくらだった。
誰かがラジオを消した。
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