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日蓮大聖人御書全集0001~0100
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唱法華題目抄    文応元年五月    三十九歳御作   於鎌倉名越
01   有る人予に問うて云く世間の道俗させる法華経の文義を弁へずとも 一部一巻四要品自我偈一句等を受持し或は
02 自らもよみかき 若しは人をしてもよみかかせ 或は我とよみかかざれども 経に向い奉り合掌礼拝をなし香華を供
03 養し、 或は上の如く行ずる事なき人も他の行ずるを見て わづかに随喜の心ををこし国中に此の経の弘まれる事を
04 悦ばん、 是体の僅かの事によりて世間の罪にも引かれず 彼の功徳に引かれて小乗の初果の聖人の度度人天に生れ
05 て而も悪道に堕ちざるがごとく 常に人天の生をうけ終に法華経を心得るものと成つて 十方浄土にも往生し又此の
06 土に於ても即身成仏する事有るべきや委細に之を聞かん、 答えて云く させる文義を弁えたる身にはあらざれども
07 法華経・涅槃経・並に天台妙楽の釈の心をもて推し量るに かりそめにも法華経を信じて聊も謗を生ぜざらん人は余
08 の悪にひかれて悪道に堕つべしとはおぼえず、 但し悪知識と申して わづかに権教を知れる人智者の由をして 法
09 華経を我等が機に叶い難き由を和げ申さんを誠と思いて 法華経を随喜せし心を打ち捨て余教へうつりはてて一生さ
10 て法華経へ帰り入らざらん人は 悪道に堕つべき事も有りなん、 仰せに付いて疑はしき事侍り実にてや侍るらん法
11 華経に説かれて候とて智者の語らせ給いしは昔三千塵点劫の当初・ 大通智勝仏と申す仏います 其の仏の凡夫にて
12 いましける時十六人の王子をはします、 彼の父の王仏にならせ給ひて 一代聖教を説き給いき 十六人の王子も亦
13 出家して其の仏の御弟子とならせ給いけり、 大通智勝仏法華経を説き畢らせ給いて 定に入らせ給いしかば十六人
14 の王子の沙弥 其の前にしてかはるがはる法華経を講じ給いけり、 其の所説を聴聞せし人幾千万といふ事をしらず
15 当座に悟をえし人は不退の位に入りにき、 又法華経をおろかに心得る結縁の衆もあり其の人人・当座中間に不退の
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01 位に入らずし 三千塵点劫をへたり、 其の間又つぶさに六道四生に輪廻し 今日釈迦如来の法華経を説き給うに不
02 退の位に入る所謂・舎利弗・目連・迦葉・阿難等是なり猶猶信心薄き者は当時も覚らずして未来無数劫を経べきか知
03 らず我等も 大通智勝仏の十六人の結縁の衆にもあるらん此の結縁の衆をば 天台妙楽は名字観行の位にかなひたる
04 人なりと定め給へり 名字観行の位は一念三千の義理を弁へ 十法成乗の観を凝し能能義理を弁えたる人なり 一念
05 随喜・五十展転と申すも 天台妙楽の釈のごときは皆観行五品の初随喜の位と定め給へり 博地の凡夫の事にはあら
06 ず然るに我等は末代の一字一句等の結縁の衆一分の義理をも知らざらんは 豈無量の世界の塵点劫を経ざらんや 是
07 れ偏えに理深解微の故に教は至つて深く機は実に浅きがいたす処なり 只弥陀の名号を唱えて順次生に西方極楽世界
08 に往生し西方極楽世界に 永く不退の無生忍を得て 阿弥陀如来・ 観音勢至等の法華経を説き給わん時聞いて 悟を
09 得んには如かじ然るに弥陀の本願は有智・無智・善人・悪人・持戒・破戒等をも択ばず只一念唱うれば臨終に必ず弥
10 陀如来・本願の故に来迎し給ふ 是を以て思うに此の土にして 法華経の結縁を捨て浄土に往生せんとをもふは億千
11 世界の塵点を経ずして疾法華経を悟るがためなり 法華経の根機にあたはざる人の 此の穢土にて法華経にいとまを
12 いれて一向に念仏を申さざるは法華経の証は取り難く 極楽の業は定まらず中間になりて 中中法華経をおろそかに
13 する人にてやおはしますらんと申し侍るは如何に、 其の上只今承り候へば 僅に法華経の結縁計ならば 三悪道に堕
14 ちざる計にてこそ候へ 六道の生死を出るにはあらず、 念仏の法門はなにと義理を知らざれども弥陀の名号を唱え
15 奉れば浄土に往生する由を申すは遥かに法華経よりも弥陀の名号はいみじくこそ聞え侍れ、 答えて云く 誠に仰せ
16 めでたき上智者の御物語にも侍るなれば さこそと存じ候へども但し若し御物語のごとく侍らば  すこし不審なる事
17 侍り、 大通結縁の者をあらあらうちあてがい申すには 名字観行の者とは釈せられて侍れども正しく名字即の位の
18 者と定められ侍る上退大取小の者とて法華経をすてて 権教にうつり後には悪道に堕ちたりと見えたる上 正しく法
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01 法華経を誹謗して之を捨てし者なり、設え義理を知るようなる者なりとも 謗法の人にあらん上は三千塵点無量塵点
02 も経べく侍るか、 五十展転一念随喜の人人を観行初随喜の位の者と釈せられたるは 末代の我等が随喜等は彼の随
03 喜の中には入る可からずと仰せ候か、 是を天台妙楽初随喜の位と釈せられたりと申さるるほどにては 又名字即と
04 釈せられて侍る釈はすてらるべきか、 所詮 仰せの御義を委く案ずればをそれにては候へども謗法の一分にやあら
05 んずらん 其の故は法華経を我等末代の機に叶い難き由を仰せ候は 末代の一切衆生は穢土にして法華経を行じて詮
06 無き事なりと仰せらるるにや、 若しさやうに侍らば末代の一切衆生の中に 此の御詞を聞きて既に法華経を信ずる
07 者も打ち捨て未だ行ぜざる者も行ぜんと思うべからず 随喜の心も留め侍らば謗法の分にやあるべかるらん、 若し
08 謗法の者に 一切衆生なるならばいかに念仏を申させ給うとも 御往生は不定にこそ侍らんずらめ又弥陀の名号を唱
09 へ極楽世界に往生をとぐべきよしを仰せられ侍るは 何なる経論を証拠として此の心はつき給いけるやらん 正くつ
10 よき証文候か若しなくば其の義たのもしからず、 前に申し候いつるがごとく 法華経を信じ侍るはさせる解なけれ
11 ども三悪道には堕すべからず候 六道を出る事は一分のさとりなからん人は有り難く侍るか、 但し悪知識に値つて
12 法華経随喜の心を云いやぶられて候はんは 力及ばざるか又仰せに付いて驚き覚え侍り 其の故は法華経は末代の凡
13 夫の機に叶い難き由を智者申されしかばさかと思い侍る処に 只今の仰せの如くならば 弥陀の名号を唱うとも法華
14 経をいゐうとむるとがによりて往生をも遂げざる上 悪道に堕つべきよし承るはゆゆしき大事にこそ侍れ、 抑大通
15 結縁の者は謗法の故に 六道に回るも又名字即の浅位の者なり 又一念随喜五十展転の者も又名字観行即の位と申す
16 釈は何の処に候やらん委く承り候はばや、 又義理をも知らざる者僅かに法華経を信じ侍るが 悪智識の教によて法
17 華経を捨て権教に移るより外の世間の悪業に引かれては 悪道に堕つべからざる由申さるるは証拠あるか、 又無智
18 の者の念仏申して 往生すると何に見えてあるやらんと申し給うこそよに事あたらしく侍れ、 雙観経等の浄土の三
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01 部経・善導和尚等の経釈に明かに見えて侍らん上は なにとか疑い給うべき、 答えて曰く大通結縁の者を退大取小
02 の謗法・名字即の者と申すは私の義にあらず 天台大師の文句第三の巻に云く 「法を聞いて未だ度せず而して世世
03 に相い値うて今に声聞地に住する者有り 即ち彼の時の結縁の衆なり」と釈し給いて侍るを、 妙楽大師の疏記第三
04 に重ねて此の釈の心を述べ給いて云く「但全く未だ品に入らず、 倶に結縁と名づくるが故に」文・文の心は大通結
05 縁の者は名字即の者となり、 又天台大師の玄義の第六に大通結縁の者を釈して云く 「若しは信若しは謗因つて倒
06 れ因つて起く喜根を謗ずと雖も後要らず度を得るが如し」文 ・文の心は大通結縁の者の三千塵点を経るは謗法の者
07 なり 例せば勝意比丘が喜根菩薩を謗ぜしが如しと釈す 五十展転の人は五品の初めの初随喜の位と申す釈もあり、
08 又初随喜の位の先の名字即と申す釈もあり 疏記第十に云く 「初めに法会にして聞く是れ初品なるべし第五十人は
09 必ず随喜の位の初めに在る人なり」文・ 文の心は初会聞法の人は必ず初随喜の位の内・第五十人は初随喜の位の先
10 の名字即と申す釈なり。
11   其の上五種法師にも受持・読・誦・書写の四人は自行の人大経の九人の先の四人は解無き者なり解説は化他後の
12 五人は解有る人と証し給へり、疏記第十に五種法師を釈するには「或は全く未だ品に入らず」又云く「一向未だ凡位
13 に入らず」文・ 文の心は五種法師は観行五品と釈すれども又五品已前の名字即の位とも釈するなり、此等の釈の如
14 くんば義理を知らざる名字即の凡夫が随喜等の功徳も 経文の一偈・一句・一念随喜の者・五十展転等の内に入るか
15 と覚え候、 何に況や此の経を信ぜざる謗法の者の罪業は譬喩品に委くとかれたり 持経者を謗ずる罪は法師品にと
16 かれたり、 此の経を信ずる者の功徳は分別功徳品・随喜功徳品に説けり謗法と申すは違背の義なり随喜と申すは随
17 順の義なりさせる義理を知らざれども一念も貴き由申すは 違背随順の中には何れにか取られ候べき、 又末代無智
18 の者のわづかの供養随喜の功徳は 経文には載せられざるか如何、 其の上天台妙楽の釈の心は他の人師ありて法華
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01 経の乃至童子戯・一偈・一句・五十展転の者を爾前の諸経のごとく 上聖の行儀と釈せられたるをば謗法の者と定め
02 給へり、 然るに我が釈を作る時機を高く取りて末代造悪の凡夫を迷はし給わんは 自語相違にあらずや故に妙楽大
03 師五十展転の人を釈して云く 「恐らくは人謬りて解せる者初心の功徳の大なる事を測らず 而して功を上位に推り
04 此の初心を蔑る故に今彼の行浅く功深き事を示して以て経力を顕わす」文・ 文の心は謬つて法華経を説かん人の此
05 の経は利智精進・上根上智の人のためといはん事を仏をそれて 下根下智末代の無智の者のわづかに 浅き随喜の功
06 徳を四十余年の諸経の大人上聖の功徳に勝れたる事を顕わさんとして 五十展転の随喜は説かれたり、 故に天台の
07 釈には外道小乗権大乗までたくらべ来て 法華経の最下の功徳が勝れたる由を釈せり、 所以に阿竭多仙人は十二年
08 が間恒河の水を耳に留め 耆兎仙人は一日の中に大海の水をすいほす 此くの如き得通の仙人は小乗・阿含経の三賢
09 の浅位の一通もなき凡夫には百千万倍劣れり、 三明六通を得たりし小乗の舎利弗・目連等は華厳・方等・般若等の
10 諸大乗経の未断三惑の一通もなき一偈・一句の凡夫には 百千万倍劣れり華厳・方等・般若経を習い極めたる等覚の
11 大菩薩は法華経を僅かに結縁をなせる未断三惑・無悪不造の末代の凡夫には百千万倍劣れる由釈の文顕然也、 而る
12 を当世の念仏宗等の人我が身の権教の機にて 実経を信ぜざる者は方等般若の時の 二乗のごとく自身をはぢしめて
13 あるべき処に敢えて其の義なし、 あまつさへ世間の道俗の中に僅かに観音品・自我偈なんどを読み 適父母孝養な
14 んどのために 一日経等を書く事あればいゐさまたげて云く 善導和尚は念仏に法華経をまじうるを雑行と申し百の
15 時は希に一二を得 千の時は希に三五を得ん乃至千中無一と仰せられたり、 何に況や智慧第一の法然上人は法華経
16 等を行ずる者をば 祖父の履或は群賊等にたとへられたりなんどいゐうとめ侍るは 是くの如く申す師も弟子も阿鼻
17 の焔をや招かんずらんと申す。
18   問うて云く何なるすがた並に語を以てか 法華経を世間にいゐうとむる者には侍るや・よにおそろしくこそおぼ
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01 え候へ、 答えて云く始めに智者の申され候と御物語候いつるこそ法華経をいゐうとむる悪知識の語にて侍れ、 末
02 代に法華経を失うべき者は 心には一代聖教を知りたりと思いて 而も心には権実二経を弁へず身には三衣一鉢を帯
03 し或は阿練若に身をかくし 或は世間の人にいみじき智者と思はれて 而も法華経をよくよく知る由を人に知られな
04 んとして世間の道俗には三明六通の阿羅漢の如く貴ばれて法華経を失うべしと見えて候。
05   問うて云く其の証拠如何、 答えて云く法華経勧持品に云く「諸の無智の人悪口罵詈等し及び刀杖を加うる者有
06 らん我等皆当に忍ぶべし」文妙楽大師此の文の心を釈して云く「初めの一行は通じて邪人を明す、 即ち俗衆なり」
07 文文の心は此の一行は在家の俗男俗女が権教の比丘等にかたらはれて敵をすべしとなり、 経に云く 「悪世の中の
08 比丘は邪智にして心諂曲に未だ得ざるを為得たりと謂い我慢の心充満せん」文・ 妙楽大師此の文の心を釈して云く
09 「次の一行は道門増上慢の者を明す」文・ 文の心は悪世末法の権教の諸の比丘我れ法を得たりと慢じて 法華経を
10 行ずるものの敵となるべしといふ事なり、 経に云く「或は阿練若に納衣にして空閑に在つて自ら真の道を行ずと謂
11 いて人間を軽賎する者有らん 利養に貪著するが故に白衣の与に法を説き 世に恭敬せらるる事六通の羅漢の如くな
12 らん是の人悪心を懐き常に世俗の事を念い 名を阿練若に仮りて好んで我等が過を出さん 而も是くの如き言を作さ
13 ん此の諸の比丘等は 利養を貪るを為つての故に 外道の論義を説き自ら此の経典を作りて世間の人を誑惑す名聞を
14 求むるを為つての故に分別して是の経を説くと、 常に大衆の中に在りて我等を毀らんと欲するが故に国王・大臣・
15 婆羅門・居士及び余の比丘衆に向つて誹謗して我が悪を説いて是れ邪見の人・外道の論議を説くと謂わん」已上妙楽
16 大師此の文を釈して云く 「三に七行は僣聖増上慢の者を明す」文 経並に釈の心は悪世の中に多くの比丘有つて身
17 には三衣一鉢を帯し阿練若に居して 行儀は大迦葉等の三明六通の羅漢のごとく 在家の諸人にあふがれて一言を吐
18 けば如来の金言のごとくをもはれて 法華経を行ずる人をいゐやぶらんがために 国王大臣等に向ひ奉つて此の人は
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01 邪見の者なり法門は邪法なりなんどいゐうとむるなり。
02   上の三人の中に第一の俗衆の毀よりも 第二の邪智の比丘の毀は猶しのびがたし又第二の比丘よりも第三の大衣
03 の阿練若の僧は甚し、 此の三人は当世の権教を手本とする 文字の法師並に諸経論の言語道断の文を信ずる暗禅の
04 法師並に彼等を信ずる在俗等四十余年の諸経と法華経との権実の文義を弁へざる故に、 華厳・方等・般若等の心仏
05 衆生・即心是仏・即往十方西方等の文と法華経の諸法実相・即往十方西方の文と語の同じきを以て 義理のかはれる
06 を知らず 或は諸経の言語道断・心行所滅の文を見て 一代聖教には 如来の実事をば宣べられざりけりなんどの邪
07 念をおこす、 故に悪鬼・此の三人に入つて末代の諸人を損じ 国土をも破るなり故に経文に云く「濁劫悪世の中に
08 は多く諸の恐怖有らん悪鬼其の身に入つて我を罵詈し毀辱せん 乃至仏の方便随宜所説の法を知らず」文・ 文の心
09 は濁悪世の時比丘我が信ずる所の教は 仏の方便随宜の法門ともしらずして 権実を弁へたる人出来すれば詈り破し
10 なんどすべし、是偏に悪鬼の身に入りたるをしらずと云うなり、 されば末代の愚人の恐るべき事は刀杖・虎狼・十
11 悪・五逆等よりも三衣・一鉢を帯せる暗禅の比丘と並に権経の比丘を貴しと見て実経の人をにくまん俗侶等なり。
12   故に涅槃経二十二に云く 「悪象等に於ては心に恐怖する事無かれ悪知識に於ては怖畏の心を生ぜよ何を以ての
13 故に是悪象等は唯能く身を壊りて心を破ること能わず 悪知識は二倶に壊るが故に 乃至悪象の為に殺されては三趣
14 に至らず悪友の為に殺されては必ず三趣に至らん」文 此文の心を章安大師宣べて云く 「諸の悪象等は但是れ悪縁
15 にして人に悪心を生ぜしむる事能わず 悪知識は甘談詐媚巧言令色もて人を牽いて悪を作さしむ 悪を作すを以ての
16 故に人の善心を破る之を名づけて殺と為す即ち地獄に堕す」文、 文の心は悪知識と申すは甘くかたらひ 詐り媚び
17 言を巧にして愚癡の人の心を取つて善心を破るといふ事なり、 総じて涅槃経の心は十悪・五逆の者よりも謗法闡提
18 のものをおそるべしと誡めたり 闡提の人と申すは法華経・涅槃経を云いうとむる者と 見えたり、 当世の念仏者
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01 等・法華経を知り極めたる由をいふに因縁・譬喩をもて釈しよくよく知る由を人にしられて 然して後には此の経の
02 いみじき故に 末代の機のおろかなる者及ばざる由をのべ 強き弓重き鎧かひなき人の用にたたざる由を申せば無智
03 の道俗さもと思いて 実には叶うまじき権教に心を移して 僅かに法華経に結縁しぬるをも飜えし又人の法華経を行
04 ずるをも随喜せざる故に師弟倶に謗法の者となる。
05   之れに依つて 謗法の衆生国中に充満して適仏事をいとなみ 法華経を供養し追善を修するにも念仏等を行ずる
06 謗法の邪師の僧来て法華経は末代の機に叶い難き由を示す、 故に施主も其の説を実と信じてある間 訪るる過去の
07 父母夫婦兄弟等は 弥地獄の苦を増し 孝子は不孝謗法の者となり聴聞の諸人は 邪法を随喜し悪魔の眷属となる、
08 日本国中の諸人は 仏法を行ずるに似て仏法を行ぜず適・ 仏法を知る智者は国の人に捨てられ守護の善神は法味を
09 なめざる故に威光を失ひ 利生を止此の国をすて他方に去り給い、 悪鬼は便りを得て国中に入り替り大地を動かし
10 悪風を興し一天を悩し五穀を損ず故に 飢渇出来し人の五根には鬼神入つて精気を奪ふ 是を疫病と名く一切の諸人
11 善心無く多分は 悪道に堕つることひとへに悪知識の教を信ずる故なり、 仁王経に云く「諸の悪比丘多く名利を求
12 め国王太子王子の前に於て 自ら破仏法の因縁破国の因縁を説かん 其の王別えずして此の語を信聴し 横に法制を
13 作りて仏戒に依らず是れを破仏破国の因縁と為す」文、 文の心は末法の諸の悪比丘国王大臣の御前にして 国を安
14 穏ならしむる様にして終に国を損じ 仏法を弘むる様にして還つて仏法を失うべし、 国王大臣此の由を深く知し食
15 さずして此の言を信受する故に 国を破り仏教を失うと云う文なり、 此の時日月度を失ひ時節もたがひて夏はさむ
16 く冬はあたたかに秋は悪風吹き 赤き日月出で望朔にあらずして日月蝕し或は二つ三つ等の日出来せん大火大風彗星
17 等をこり飢饉疫病等あらんと見えたり、国を損じ人を悪道にをとす者は悪知識に過ぎたる事なきか。
18   問うて云く始めに智者の御物語とて申しつるは 所詮後世の事の疑わしき故に善悪を申して承らんためなり、彼
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01 の義等は恐ろしき事にあるにこそ侍るなれ 一文不通の我等が如くなる者は いかにしてか法華経に信をとり候べき
02 又心ねをば何様に思い定め侍らん、 答えて云く此の身の申す事をも 一定とおぼしめさるまじきにや其の故はかや
03 うに申すも天魔波旬・悪鬼等の身に入つて人の善き法門を破りや・すらんとおぼしめされ候はん 一切は賢きが智者
04 にて侍るにや。
05   問うて云く若しかやうに疑い候はば 我身は愚者にて侍り万の智者の御語をば疑いさて信ずる方も無くして空く
06 一期過し侍るべきにや、 答えて云く仏の遺言に依法不依人と説かせ給いて候へば 経の如くに説かざるをば何にい
07 みじき人なりとも御信用あるべからず候か、 又依了義経不依不了義経と説かれて候へば 愚癡の身にして一代聖教
08 の前後浅深を弁えざらん程は了義経に付かせ給い候へ、 了義経不了義経も多く候阿含小乗経は不了義経・華厳・方
09 等・般若・浄土の観経等は了義経、又四十余年の諸経を法華経に対すれば 不了義経・法華経は了義経、涅槃経を法
10 華経に対すれば法華経は了義経・涅槃経は不了義経、大日経を法華経に対すれば 大日経は不了義経・法華経は了義
11 経なり、故に四十余年の諸経並に涅槃経を打ち捨てさせ給いて 法華経を師匠と御憑み候へ法華経をば国王・父母・
12 日月.大海.須弥山.天地の如くおぼしめせ、諸経をば関白.大臣・公卿・乃至万民.衆星・江河・諸山.草木等の如くお
13 ぼしめすべし、 我等が身は末代造悪の愚者・鈍者・非法器の者、国王は臣下よりも人をたすくる人父母は他人より
14 も子をあはれむ者日月は衆星より暗を照らす者法華経は機に叶わずんば 況や余経は助け難しとおぼしめせ、 又釈
15 迦如来と阿弥陀如来.薬師如来・多宝仏・観音・勢至・普賢.文殊等の一切の諸仏・菩薩は我等が慈悲の父母此の仏菩
16 薩の衆生を教化する慈悲の極理は唯法華経にのみとどまれりとおぼしめせ、諸経は悪人・愚者・鈍者・女人・根欠等
17 の者を救ふ秘術をば未だ説き顕わさずとおぼしめせ 法華経の一切経に勝れ候故は但此の事に侍り、 而るを当世の
18 学者・法華経をば一切経に勝れたりと讃めて、 而も末代の機に叶わずと申すを皆信ずる事豈謗法の人に侍らずや、
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01 只一口におぼしめし切らせ給い候へ 所詮法華経の文字を破りさきなんどせんには法華経の心やぶるべからず、 又
02 世間の悪業に対して云いうとむるとも 人人用ゆべからず只相似たる権経の義理を以て云いうとむるにこそ 人はた
03 ぼらかさるれとおぼしめすべし。
04   問うて云く或智者の申され候しは 四十余年の諸経と八箇年の法華経とは成仏の方こそ爾前は難行道・法華経は
05 易行道にて候へ、 往生の方にては同事にして易行道に侍り法華経を書き読みても 十方の浄土・阿弥陀仏の国へも
06 生るべし観経等の諸経に付いて弥陀の名号を唱えん人も 往生を遂ぐべし只機縁の有無に随つて 何をも諍ふべから
07  ず、 但し弥陀の名号は人ごとに行じ易しと思いて日本国中に行じつけたる事なれば法華経等の余行よりも易きに
08 こそと申されしは如何、 答えて云く仰せの法門はさも侍るらん 又世間の人も多くは道理と思いたりげに侍り但し
09 身には此の義に不審あり、 其の故は前に申せしが如く 末代の凡夫は智者と云うともたのみなし世こぞりて上代の
10 智者には及ぶべからざるが故に 愚者と申すともいやしむべからず 経論の証文顕然ならんには抑無量義経は法華経
11 を説くが為の序分なり、 然るに始め寂滅道場より今の常在霊山の無量義経に至るまで 其の年月日数を委く計へ挙
12 げれば四十余年なり、其の間の所説の経を挙るに華厳.阿含・方等・般若なり所談の法門は三乗.五乗・所習の法門な
13 り修行の時節を定むるには 宣説菩薩歴劫修行と云ひ 随自意随他意を分つには是を随他意と宣べ 四十余年の諸経
14 と八箇年の所説との語同じく 義替れる事を定めるには 文辞一と雖ど義各異るととけり 成仏の方は別にして往生
15 の方は一つなるべしともおぼえず華厳.方等・般若・究竟最上の大乗経・頓悟・漸悟の法門.皆未顕真実と説かれたり
16 此の大部の諸経すら未顕真実なり 何に況や浄土の三部経等の往生極楽ばかり未顕真実の内にもれんや 其の上・経
17 経ばかりを出すのみにあらず既に年月日数を出すをや、 然れば華厳・方等・般若等の弥陀往生已に未顕真実なる事
18 疑い無し、 観経の弥陀往生に限つて豈多留難故の内に入らざらんや、 若し随自意の法華経の往生極楽を随他意の
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01 観経の往生極楽に同じて易行道と定めて 而も易行の中に取つても猶観経の念仏往生は 易行なりと之を立てられば
02 権実雑乱の失・大謗法たる上 一滴の水漸漸に流れて大海となり一塵積つて須弥山となるが如く 漸く権経の人も実
03 経にすすまず実経の人も権経におち 権経の人次第に国中に充満せば 法華経随喜の心も留り国中に王なきが如く人
04 の神を失えるが如く法華・真言の諸の山寺荒れて 諸天善神・竜神等・一切の聖人国を捨てて去らば 悪鬼便りを得
05 て乱れ入り悪風吹いて 五穀も成らしめず疫病流行して人民をや亡さんずらん、 此の七八年が前までは諸行は永く
06 往生すべからず 善導和尚の千中無一と定めさせ給いたる 上選択には諸行を抛てよ行ずる者は群賊と見えたりなん
07 ど放語を申し立てしが、 又此の四五年の後は選択集の如く人を勧めん者は 謗法の罪によつて師檀共に無間地獄に
08 堕つべしと経に見えたりと申す法門出来したりげに有りしを、 始めは念仏者こぞりて不思議の思いをなす上 念仏
09 を申す者 無間地獄に堕つべしと申す悪人外道ありなんどののしり候しが 念仏者・無間地獄に堕つべしと申す語に
10 智慧つきて各選択集を委く披見する程に げにも謗法の書とや見なしけん 千中無一の悪義を留めて諸行往生の由を
11 念仏者毎に之を立つ、 然りと雖も唯口にのみゆるして心の中は猶本の千中無一の思いなり 在家の愚人は内心の謗
12 法なるをばしらずして 諸行往生の口にばかされて念仏者は法華経をば謗ぜざりけるを 法華経を謗ずる由を聖道門
13 の人の申されしは僻事なりと思へるにや、 一向諸行は千中無一と申す人よりも 謗法の心はまさりて候なり失なき
14 由を人に知らせて而も念仏計りを亦弘めんとたばかるなり偏に天魔の計りごとなり。
15   問うて云く天台宗の中の人の立つる事あり天台大師爾前と法華と相対して爾前を嫌うに二義あり、 一には約部
16 四十余年の部と法華経の部と相対して爾前はソなり法華は妙なりと之を立つ 二には約教・教にソ妙を立て華厳・方
17 等・般若等の円頓速疾の法門をば妙と歎じ 華厳・方等・般若等の三乗歴別の修行の法門をば前三教と名づけてソな
18 りと嫌へり円頓速疾の方をば嫌わず 法華経に同じて一味の法門とせりと申すは如何、 答えて云く此の事は不審に
0012top
01 もする事侍るらん 然る可しとをぼゆ天台妙楽より已来今に論有る事に侍り 天台の三大部六十巻総じて五大部の章
02 疏の中にも約教の時は爾前の円を嫌う文無し、 只約部の時ばかり爾前の円を押ふさねて嫌へり、 日本に二義あり
03 園城寺には智証大師の釈より起つて爾前の円を嫌ふと云い 山門には嫌はずと云う 互に文釈あり倶に料簡あり然れ
04 ども今に事ゆかず、 但し予が流の義には不審晴れておぼえ候、其の故は天台大師四教を立て給うに四の筋目あり、
05 一には爾前の経に 四教を立つ二には法華経と爾前と相対して 爾前の円を法華の円に同じて前三教を嫌う事あり、
06 三には爾前の円をば別教に摂して 前三教と嫌ひ法華の円をば純円と立つ 四には爾前の円をば法華に同ずれども但
07 法華経の二妙の中の相待妙に同じて 絶待妙には同ぜず、 此の四の道理を相対して六十巻をかんがうれば狐疑の冰
08 解けたり一一の証文は 且つは秘し且つは繁き故に之を載せず、 又法華経の本門にしては爾前の円と迹門の円とを
09 嫌う事不審なき者なり、 爾前の円をば別教に摂して約教の時は 前三為ソ後一為妙と云うなり此の時は爾前の円は
10 無量義経の歴劫修行の内に入りぬ、 又伝教大師の註釈の中に 爾前の八教を挙げて 四十余年未顕真実の内に入れ
11 或は前三教をば迂回と立て爾前の円をば直道と云い無量義経をば大直道と云う委細に見る可し。
12   問うて云く法華経を信ぜん人は本尊並に行儀並に常の所行は何にてか候べき、 答えて云く第一に本尊は法華経
13 八巻一巻一品 或は題目を書いて本尊と定む可しと法師品並に神力品に見えたり、 又たへたらん人は釈迦如来・多
14 宝仏を書いても造つても 法華経の左右に之を立て奉るべし、 又たへたらんは十方の諸仏・普賢菩薩等をもつくり
15 かきたてまつるべし、 行儀は本尊の御前にして必ず坐立行なるべし 道場を出でては行住坐臥をえらぶべからず、
16 常の所行は題目を南無妙法蓮華経と唱うべし、 たへたらん人は一偈・一句をも読み奉る可し助縁には南無釈迦牟尼
17 仏・多宝仏・十方諸仏・一切の諸菩薩・二乗・天人・竜神・八部等心に随うべし愚者多き世となれば一念三千の観を
18 先とせず其の志あらん人は必ず習学して之を観ずべし。
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01   問うて云く只題目計を唱うる功徳如何、答えて云く釈迦如来・法華経をとかんとおぼしめして世に出で・ましま
02 ししかども四十余年の程は 法華経の御名を秘しおぼしめして 御年三十の比より七十余に至るまで法華経の方便を
03 まうけ七十二にして始めて題目を呼び出させ給へば 諸経の題目に是を比ぶべからず、 其の上法華経の肝心たる方
04 便・寿量の一念三千・久遠実成の法門は妙法の二字におさまれり、 天台大師・玄義十巻を造り給う第一の巻には略
05 して妙法蓮華経の五字の意を宣べ給う、 第二の巻より七の巻に至るまでは 又広く妙の一字を宣べ八の巻より九の
06 巻に至るまでは法蓮華の三字を釈し第十の巻には経の一字を宣べ給へり、経の一字に華厳・阿含・方等・般若・涅槃
07 経を収めたり妙法の二字は玄義の心は百界千如・心仏衆生の法門なり 止観十巻の心は一念三千・百界千如・三千世
08 間・心仏衆生・三無差別と立て給う、一切の諸仏菩薩十界の因果・十方の草木・瓦礫等・妙法の二字にあらずと云う
09 事なし、 華厳・阿含等の四十余年の経経・小乗経の題目には大乗経の功徳を収めず又大乗経にも往生を説く経の題
10 目には成仏の功徳をおさめず 又王にては有れども王中の王にて無き経も有り仏も又 経に随つて他仏の功徳をおさ
11 めず平等意趣をもつて他仏自仏とをなじといひ 或は法身平等をもて自仏・他仏同じといふ、実には一仏に一切仏の
12 功徳をおさめず 今法華経は四十余年の諸経を一経に収めて 十方世界の三身円満の諸仏をあつめて釈迦一仏の分身
13 の諸仏と談ずる故に一仏・一切仏にして 妙法の二字に諸仏皆収まれり、 故に妙法蓮華経の五字を唱うる功徳莫大
14 なり諸仏・諸経の題目は法華経の所開なり妙法は能開なりとしりて法華経の題目を唱うべし。
15   問うて云く 此の法門を承つて又智者に尋ね申し候えば法華経のいみじき事は左右に及ばず候但し器量ならん人
16 は唯我が身計りは然る可し、 末代の凡夫に向つてただちに機をも知らず 爾前の教を云いうとめ法華経を行ぜよと
17 申すはとしごろの念仏なんどをば打ち捨て 又法華経には未だ功も入れず 有にも無にもつかぬようにてあらんずら
18 ん、又機も知らず法華経を説かせ給はば信ずる者は 左右に及ばず若し謗ずる者あらば 定めて地獄に堕ち候はんず
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01 らん、其の上仏も四十余年の間・法華経を説き給はざる事は 若但讃仏乗・衆生没在苦の故なりと在世の機すら猶然
02 なり何に況や末代の凡夫をや、 されば譬喩品には「仏舎利弗に告げて言わく 無智の人の中に此の経を説くことな
03 かれ」云云 此等の道理を申すは如何が候べき、 答えて云く智者の御物語と仰せ承り候へば所詮末代の凡夫には機
04 をかがみて説け 左右なく説いて人に謗ぜさする事なかれとこそ候なれ、 彼人さやうに申され候はば御返事候べき
05 やうは抑若但讃仏乗・乃至無智人中等の文を出し給はば 又一経の内に凡有所見・我深敬汝等等と説いて 不軽菩薩
06 の杖木瓦石をもつて・うちはられさせ給いしをば顧みさせ給はざりしは如何と申させ給へ。
07   問うて云く一経の内に相違の候なる事こそよに得心がたく侍ればくわしく承り候はん、 答えて云く方便品等に
08 は機をかがみて此の経を説くべしと見え 不軽品には謗ずとも唯強いて之を説くべしと見え侍り 一経の前後水火の
09 如し、 然るを天台大師会して云く「本已に善有るは釈迦小を以て之を将護し 本未だ善有らざるは不軽大を以て之
10 を強毒す」文・ 文の心は本と善根ありて今生の内に得解すべき者の為には直に法華経を説くべし、然るに其の中に
11 猶聞いて謗ずべき機あらば 暫く権経をもてこしらえて後に法華経を説くべし、 本と大の善根もなく今も法華経を
12 信ずべからずなにとなくとも 悪道に堕ちぬべき故に但押して法華経を説いて之を謗ぜしめて 逆縁ともなせと会す
13 る文なり、此の釈の如きは末代には善無き者は多く善有る者は少し故に悪道に堕ちんこと疑い無し、 同くは法華経
14 を強いて説き聞かせて 毒鼓の縁と成す可きか然らば法華経を説いて 謗縁を結ぶべき時節なる事諍い無き者をや、
15 又法華経の方便品に五千の上慢あり 略開三顕一を聞いて広開三顕一の時仏の御力をもて 座をたたしめ給ふ後に涅
16 槃経並に四依の辺にして今生に悟を得せしめ給うと、 諸法無行経に喜根菩薩・勝意比丘に向つて大乗の法門を強い
17 て説ききかせて謗ぜさせしと、 此の二の相違をば天台大師会して云く 「如来は悲を以ての故に発遣し喜根は慈を
18 以ての故に強説す」文・ 文の心は仏は悲の故に後のたのしみをば閣いて 当時法華経を謗じて地獄にをちて苦にあ
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01 うべきを悲み給いて座をたたしめ給いき、 譬えば母の子に病あると知れども 当時の苦を悲んで左右なく灸を加へ
02 ざるが如し、喜根菩薩は慈の故に当時の苦をばかへりみず後の楽を思いて強いて之を説き聞かしむ、 譬えば父は慈
03 の故に子に病あるを見て 当時の苦をかへりみず後を思ふ故に灸を加うるが如し、 又仏在世には仏法華経を秘し給
04 いしかば 四十余年の間等覚不退の菩薩名をしらず、 其の上寿量品は法華経八箇年の内にも名を秘し給いて最後に
05 きかしめ給いき末代の凡夫には 左右なく如何がきかしむべきとおぼゆる処を 妙楽大師釈して云く「仏世は当機の
06 故に簡ぶ末代は結縁の故に聞かしむ」と釈し給へり 文の心は仏在世には仏一期の間多くの人 不退の位にのぼりぬ
07 べき故に法華経の名義を出して謗ぜしめず 機をこしらへて之を説く 仏滅後には当機の衆は少く結縁の衆多きが故
08 に多分に就いて左右なく法華経を説くべしと云う釈なり 是体の多くの品あり又末代の師は多くは機を知らず 機を
09 知らざらんには強いて 但実教を説くべきかされば天台大師の釈に云く「等しく是れ見ざれば但大を説くに咎無し」
10 文・文の心は機をも知らざれば 大を説くに失なしと云う文なり又時の機を見て説法する方もあり皆国中の諸人・権
11 経を信じて実経を謗し強に用いざれば弾呵の心をもて説くべきか時に依つて用否あるべし。
12   問うて云く 唐土の人師の中に一分一向に権大乗に留つて実経に入らざる者はいかなる故か候、答えて云く仏世
13 に出でましまして先ず四十余年の権大乗・小乗の経を説き後には法華経を説いて言わく「若以小乗化・乃至於一人・
14 我則堕慳貪・此事為不可」文 文の心は仏但爾前の経許りを説いて法華経を説き給はずば仏慳貪の失ありと説かれた
15 り、 後に属累品にいたりて仏右の御手をのべて三たび諌めをなして三千大千世界の外・八方・四百万億那由佗の国
16 土の諸菩薩の頂をなでて 未来には必ず法華経を説くべし、 若し機たへずば余の深法の四十余年の経を説いて 機
17 をこしらへて法華経を説くべしと見えたり、 後に涅槃経に重ねて此の事を説いて 仏滅後に四依の菩薩ありて法を
18 説くに又法の四依あり実経をついに弘めずんば天魔としるべきよしを説かれたり 故に如来の滅後後の五百年・九・
0016top
01 百年の間に出で給いし竜樹菩薩.天親菩薩等アマネく如来の聖教を弘め給うに天親菩薩は先に小乗の説一切有部の人.
02 倶舎論を造つて阿含十二年の経の心を宣べて 一向に大乗の義理を明さず次に十地論・摂大乗論・釈論等を造つて四
03 十余年の権大乗の心を宣べ後に仏性論・法華論等を造りて粗実大乗の義を宣べたり 竜樹菩薩亦然なり天台大師・唐
04 土の人師として一代を分つに大小・権実顕然なり 余の人師は僅かに義理を説けども 分明ならず又証文たしかなら
05 ず 但し末の論師並に訳者・唐土の人師の中に大小をば分つて 大にをいて権実を分たず或は語には分つといへども
06 心は権大乗のをもむきを出でず此等は不退諸菩薩・其数如恒沙・亦復不能知とおぼえて候なり。
07   疑つて云く 唐土の人師の中に慈恩大師は十一面観音の化身牙より光を放つ、善導和尚は弥陀の化身口より仏を
08 いだすこの外の人師通を現じ徳をほどこし 三昧を発得する人世に多し なんぞ権実二経を弁へて 法華経を詮とせ
09 ざるや、 答えて云く阿竭多仙人外道は十二年の間耳の中に恒河の水をとどむ 婆籔仙人は自在天となりて三目を現
10 ず、唐土の道士の中にも張階は霧をいだし鸞巴は雲をはく第六天の魔王は仏滅後に比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷・
11 阿羅漢・辟支仏の形を現じて四十余年の経を説くべしと見えたり 通力をもて智者愚者をばしるべからざるか、 唯
12 仏の遺言の如く 一向に権経を弘めて実経をつゐに弘めざる人師は 権経に宿習ありて実経に入らざらん者は 或は
13 魔にたぼらかされて通を現ずるか、但し法門をもて邪正をただすべし利根と通力とにはよるべからず。
14       文応元年太歳庚申五月二十八日日 蓮 花 押
15     鎌倉名越に於て書き畢んぬ
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立正安国論    文応元年七月    三十九歳御作    与北条時頼書    於鎌倉
01   旅客来りて嘆いて曰く 近年より近日に至るまで天変地夭・飢饉疫癘・遍く天下に満ち広く地上に迸る牛馬巷に
02 斃れ 骸骨路に充てり死を招くの 輩既に大半に超え 悲まざるの族敢て一人も無し、 然る間或は利剣即是の文を
03 専にして 西土教主の名を唱え 或は衆病悉除の願を持ちて 東方如来の経を誦し、 或は病即消滅 不老不死の詞
04 を仰いで法華真実の妙文を崇め 或は七難即滅七福即生の句を信じて 百座百講の儀を調え有るは秘密真言の教に因
05 て五瓶の水を灑ぎ有るは 坐禅入定の儀を全して空観の月を澄し、 若くは七鬼神の号を書して 千門に押し若くは
06 五大力の形を図して万戸に懸け 若くは天神地祇を拝して四角四堺の祭祀を企て 若くは万民百姓を哀んで国主・国
07 宰の徳政を行う、 然りと雖も唯肝胆を摧くのみにして弥飢疫に逼られ 乞客目に溢れ死人眼に満てり、 臥せる屍
08 を観と為し並べる尸を橋と作す、 観れば夫れ二離璧を合せ五緯珠を連ぬ 三宝も世に在し百王未だ窮まらざるに此
09 の世早く衰え其の法何ぞ廃れたる是れ何なる禍に依り是れ何なる誤に由るや。
10   主人の曰く独り此の事を愁いて胸臆に憤ピす 客来つて共に嘆く屡談話を致さん、 夫れ出家して道に入る者は
11 法に依つて仏を期するなり 而るに今神術も協わず仏威も験しなし、 具に当世の体を覿るに愚にして後生の疑を発
12 す、 然れば則ち円覆を仰いで恨を呑み方載に俯して慮を深くす、 倩ら微管を傾け聊か経文を披きたるに 世皆正
13 に背き人悉く悪に帰す、 故に善神は国を捨てて相去り聖人は所を辞して還りたまわず、 是れを以て魔来り鬼来り
14 災起り難起る言わずんばある可からず恐れずんばある可からず。
15   客の曰く天下の災・国中の難・余独り嘆くのみに非ず衆皆悲む、 今蘭室に入つて初めて芳詞を承るに神聖去り
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01 災難並び起るとは何れの経に出でたるや其の証拠を聞かん。
02   主人の曰く其の文繁多にして其の証弘博なり。
03   金光明経に云く 「其の国土に於て此の経有りと雖も 未だ甞て流布せしめず 捨離の心を生じて聴聞せん事を
04 楽わず 亦供養し尊重し讃歎せず 四部の衆・持経の人を見て亦復た尊重し 乃至供養すること能わず、 遂に我れ
05 等及び余の眷属無量の諸天をして 此の甚深の妙法を聞くことを得ざらしめ 甘露の味に背き 正法の流を失い威光
06 及以び勢力有ること無からしむ、 悪趣を増長し人天を損減し生死の河に墜ちて 涅槃の路に乖かん、 世尊我等四
07 王並びに諸の眷属及び薬叉等 斯くの如き事を見て 其の国土を捨てて擁護の心無けん、 但だ我等のみ是の王を捨
08 棄するに非ず 必ず無量の国土を守護する諸大善神有らんも 皆悉く捨去せん、 既に捨離し已りなば 其の国当に
09 種種の災禍有つて 国位を喪失すべし、 一切の人衆皆善心無く唯繋縛殺害瞋諍のみ有つて 互に相讒諂し枉げて辜
10 無きに及ばん、 疫病流行し彗星数ば出で 両日並び現じ薄蝕恒無く 黒白の二虹不祥の相を表わし 星流れ地動き
11 井の内に声を発し 暴雨・悪風・時節に依らず常に飢饉に遭つて苗実成らず、 多く他方の怨賊有つて国内を侵掠し
12 人民諸の苦悩を受け土地所楽の処有ること無けん」已上。
13   大集経に云く 「仏法実に隠没せば鬚髪爪皆長く諸法も亦忘失せん、 当の時虚空の中に大なる声あつて地を震
14 い一切皆遍く動かんこと猶水上輪の如くならん.城壁破れ落ち下り屋宇悉くヤブれ圻け樹林の根.枝.葉・華葉・菓.薬
15 尽きん唯浄居天を除いて 欲界の一切処の七味・三精気損減して 余り有ること無けん、 解脱の諸の善論当の時一
16 切尽きん、 所生の華菓の味い希少にして亦美からず、 諸有の井泉池・一切尽く枯涸し 土地悉く鹹鹵しテキ裂し
17 て丘澗と成らん、諸山皆ショウ燃して天竜雨を降さず苗稼も皆枯死し生ずる者皆死し尽き余草更に生ぜず、土を雨ら
18 し皆昏闇に日月も明を現ぜず 四方皆亢旱して数ば諸悪瑞を現じ、 十不善業の道・貪瞋癡倍増して衆生父母に於け
0019top
01 る之を観ることショウ鹿の如くならん、衆生及び寿命・色力・威楽減じ人天の楽を遠離し皆悉く悪道に堕せん、是く
02 の如き不善業の悪王・悪比丘我が正法を毀壊し 天人の道を損減し、諸天善神・王の衆生を悲愍する者此の濁悪の国
03 を棄てて皆悉く余方に向わん」已上。
04   仁王経に云く「国土乱れん時は先ず鬼神乱る鬼神乱るるが故に万民乱る賊来つて国を刧かし百姓亡喪し臣・君・
05 太子・王子.百官共に是非を生ぜん、天地怪異し二十八宿・星道.日月時を失い度を失い多く賊起ること有らん」と、
06 亦云く 「我今五眼をもつて明に三世を見るに 一切の国王は皆過去の世に五百の仏に侍えるに由つて帝王主と為る
07 ことを得たり、 是を為つて一切の聖人羅漢而も為に彼の国土の中に来生して 大利益を作さん、若し王の福尽きん
08 時は一切の聖人皆為に捨て去らん、若し一切の聖人去らん時は七難必ず起らん」已上。
09   薬師経に云く「若し刹帝利・潅頂王等の災難起らん時所謂人衆疾疫の難・他国侵逼の難・自界叛逆の難・星宿変
10 怪の難・日月薄蝕の難・非時風雨の難・過時不雨の難あらん」已上。
11   仁王経に云く「大王吾が今化する所の百億の須弥・百億の日月・一一の須弥に四天下有り、 其の南閻浮提に十
12 六の大国・五百の中国・十千の小国有り其の国土の中に七つの畏る可き難有り一切の国王是を難と為すが故に、 云
13 何なるを難と為す日月度を失い.時節返逆し・或は赤日出で・黒日出で・二三四五の日出で・或は日蝕して光無く.或
14 は日輪一重.二三四五重輪現ずるを一の難と為すなり、二十八宿度を失い金星.彗星・輪星・鬼星.火星・水星・風星.
15 チョウ星.南斗.北斗.五鎮の大星.一切の国主星.三公星.百官星.是くの如き諸星各各変現するを二の難と為すなり,大
16 火国を焼き万姓焼尽せん或は鬼火.竜火・天火・山神火・人火・樹木火.賊火あらん是くの如く変怪するを三の難と為
17 すなり、大水百姓を没し・時節返逆して・冬雨ふり.夏雪ふり・冬時に雷電霹礰し.六月に氷霜雹を雨らし・赤水・
18 黒水・青水を雨らし 土山石山を雨らし沙礫石を雨らす 江河逆に流れ山を浮べ石を流す是くの如く変ずる時を四の
0020top
01 難と為すなり、大風.万姓を吹殺し国土.山河.樹木.一時に滅没し、非時の大風.黒風・赤風・青風.天風・地風・火風
02 水風あらん是くの如く変ずるを五の難と為すなり、天地・国土・亢陽し炎火洞燃として・百草亢旱し・五穀登らず・
03 土地赫燃と万姓滅尽せん 是くの如く変ずる時を六の難と為すなり、 四方の賊来つて国を侵し内外の賊起り、火賊
04 水賊・風賊・鬼賊ありて・百姓荒乱し・刀兵刧起らん・是くの如く怪する時を七の難と為すなり」大集経に云く「若
05 し国王有つて無量世に於て 施戒慧を修すとも我が法の滅せんを見て 捨てて擁護せずんば是くの如く種ゆる所の無
06 量の善根悉く皆滅失して 其の国当に三の不祥の事有るべし、 一には穀貴・二には兵革・三には疫病なり、 一切
07 の善神悉く之を捨離せば其の王教令すとも 人随従せず常に隣国の侵ニョウする所と為らん、 暴火横に起り悪風雨
08 多く暴水増長して人民を吹タダヨワし内外の親戚其れ共に謀叛せん、 其の王久しからずして当に重病に遇い寿終の
09 後・大地獄の中に生ずべし、乃至王の如く夫人・太子・大臣・城主・柱師・郡守・宰官も亦復た是くの如くならん」
10 已上。
11   夫れ四経の文朗かなり万人誰か疑わん、 而るに盲瞽の輩迷惑の人妄に邪説を信じて正教を弁えず、故に天下世
12 上・諸仏・衆経に於て捨離の心を生じて擁護の志無し、 仍て善神聖人国を捨て所を去る、 是を以て悪鬼外道災を
13 成し難を致す。
14   客色を作して曰く 後漢の明帝は金人の夢を悟つて白馬の教を得、 上宮太子は守屋の逆を誅して寺塔の構を成
15 す、 爾しより来た上一人より下万民に至るまで仏像を崇め経巻を専にす、然れば則ち叡山・南都・園城・東寺・四
16 海.一州.五畿.七道.仏経は星の如く羅なり堂宇雲の如く布けり、シュウ子の族は則ち鷲頭の月を観じ鶴勒の流は亦鶏
17 足の風を伝う、誰か一代の教を褊し三宝の跡を廃すと謂んや若し其の証有らば委しく其の故を聞かん。
18   主人喩して曰く仏閣甍を連ね経蔵軒を並べ 僧は竹葦の如く侶は稲麻に似たり崇重年旧り尊貴日に新たなり、但
0021top
01 し法師は諂曲にして 人倫を迷惑し王臣は不覚にして 邪正を弁ずること無し、 仁王経に云く「諸の悪比丘多く名
02 利を求め国王・太子・王子の前に於て自ら破仏法の因縁・破国の因縁を説かん、 其の王別えずして此の語を信聴し
03 横に法制を作つて仏戒に依らず是を破仏・破国の因縁と為す」已上。
04   涅槃経に云く「菩薩悪象等に於ては心に恐怖すること無かれ悪知識に於ては怖畏の心を生ぜよ・悪象の為に殺さ
05 れては三趣に至らず悪友の為に殺されては必ず三趣に至る」已上。
06   法華経に云く「悪世の中の比丘は邪智にして心諂曲に未だ得ざるを為れ得たりと謂い我慢の心充満せん、 或は
07 阿練若に納衣にして空閑に在り 自ら真の道を行ずと謂いて人間を軽賎する者有らん、 利養に貪著するが故に白衣
08 の与めに法を説いて 世に恭敬せらるること六通の羅漢の如くならん、 乃至常に大衆の中に在つて我等を毀らんと
09 欲するが故に国王・大臣・婆羅門・居士及び余の比丘衆に向つて誹謗して我が悪を説いて是れ邪見の人・外道の論議
10 を説くと謂わん、 濁劫悪世の中には多く諸の恐怖有らん悪鬼其の身に入つて 我を罵詈し毀辱せん、濁世の悪比丘
11 は仏の方便・随宜所説の法を知らず悪口して顰蹙し数数・擯出せられん」已上。
12   涅槃経に云く「我れ涅槃の後・無量百歳・四道の聖人悉く復た涅槃せん、正法滅して後像法の中に於て当に比丘
13 有るべし、持律に似像して少く経を読誦し 飲食を貪嗜して其の身を長養し 袈裟を著すと雖も猶猟師の細めに視て
14 徐に行くが如く猫の鼠を伺うが如し、 常に是の言を唱えん我羅漢を得たりと 外には賢善を現し内には貪嫉を懐く
15 唖法を受けたる婆羅門等の如し、実には沙門に非ずして沙門の像を現じ邪見熾盛にして正法を誹謗せん」已上。
16 文に就て世を見るに誠に以て然なり悪侶を誡めんずばあに豈善事を成さんや。
17   客猶憤りて曰く、 明王は天地に因つて化を成し聖人は理非を察して世を治む、 世上の僧侶は天下の帰する所
18 なり、悪侶に於ては明王信ず可からず 聖人に非ずんば賢哲仰ぐ可からず、 今賢聖の尊重せるを以て則ち竜象の軽
0022top
01 からざるを知んぬ、何ぞ妄言を吐いて強ちに誹謗を成し誰人を以て悪比丘と謂うや委細に聞かんと欲す。
02   主人の曰く、 後鳥羽院の御宇に法然と云うもの 有り選択集を作る則ち一代の聖教を破しアマネく十方の衆生
03 を迷わす、 其の選択に云く 道綽禅師・聖道浄土の二門を立て聖道を捨てて正しく浄土に帰するの文、 初に聖道
04 門とは之に就いて二有り 乃至之に準じ之を思うに 応に密大及以び実大をも存すべし、 然れば則ち今の真言・仏
05 心・天台・華厳・三論・法相・地論・摂論・此等の八家の意正しく此に在るなり、 曇鸞法師往生論の注に云く謹ん
06 で竜樹菩薩の十住毘婆沙を案ずるに云く 菩薩・阿毘跋致を求むるに二種の道有り 一には難行道 二には易行道な
07 り、 此の中難行道とは即ち是れ聖道門なり 易行道とは即ち是れ浄土門なり、 浄土宗の学者先ず須らく此の旨を
08 知るべし設い先より聖道門を学ぶ人なりと雖も 若し浄土門に於て其の志有らん者は 須らく聖道を棄てて浄土に帰
09 すべし又云く 善導和尚・正雑の二行を立て 雑行を捨てて正行に帰するの文、 第一に読誦雑行とは 上の観経等
10 の往生浄土の経を除いて 已外・大小乗・顕密の諸経に於て 受持読誦するを悉く読誦雑行と名く、 第三に礼拝雑
11 行とは上の弥陀を礼拝するを除いて 已外一切の諸仏菩薩等及び 諸の世天等に於て 礼拝し恭敬するを悉く礼拝雑
12 行と名く、 私に云く此の文を見るに 須く雑を捨てて 専を修すべし 豈百即百生の 専修正行を捨てて 堅く千
13 中無一の雑修雑行を執せんや 行者能く之を思量せよ、 又云く 貞元入蔵録の中に始め 大般若経六百巻より 法
14 常住経に終るまで 顕密の大乗経 総じて 六百三十七部二千八百八十三巻なり、 皆須く 読誦大乗の一句に摂す
15 べし、 当に知るべし 随他の前には暫く定散の門を開くと雖も 随自の後には還て定散の門を閉ず、 一たび開い
16 て以後永く閉じざるは唯是れ念仏の一門なりと、 又云く念仏の行者必ず三心を具足す可きの文、 観無量寿経に云
17 く同経の疏に云く問うて曰く 若し解行の不同・邪雑の人等有つて 外邪異見の難を防がん 或は行くこと一分二分
18 にして群賊等喚廻すとは即ち別解.別行・悪見の人等に喩う、私に云く又此の中に一切の別解・別行.異学・異見等と
0023top
01 言うは是れ聖道門を指す已上、 又最後結句の文に云く 「夫れ速かに生死を離れんと欲せば 二種の勝法の中に且く
02 聖道門を閣きて選んで浄土門に入れ、 浄土門に入らんと欲せば 正雑二行の中に且く諸の雑行を抛ちて 選んで応
03 に正行に帰すべし」已上。
04   之に就いて之を見るに 曇鸞・道綽・善導の謬釈を引いて聖道・浄土・難行・易行の旨を建て法華真言惣じて一
05 代の大乗 六百三十七部二千八百八十三巻・一切の諸仏菩薩及び諸の世天等を以て皆聖道・難行・雑行等に摂して、
06 或は捨て或は閉じ 或は閣き或は抛つ此の四字を以て 多く一切を迷わし、 剰え三国の聖僧十方の仏弟を以て皆群
07 賊と号し併せて罵詈せしむ、 近くは所依の浄土の三部経の唯除五逆誹謗正法の誓文に背き、 遠くは一代五時の肝
08 心たる法華経の第二の「若し人信ぜずして 此の経を毀謗せば 乃至其の人命終つて阿鼻獄に入らん」の誡文に迷う
09 者なり、 是に於て代末代に及び人・聖人に非ず・各冥衢に容つて 並びに直道を忘る・悲いかな瞳矇をたず痛い
10 かな徒に邪信を催す、 故に上国王より下土民に至るまで 皆経は浄土三部の外の経無く 仏は弥陀三尊の外の仏無
11 しと謂えり。
12   仍つて伝教・義真・慈覚・智証等或は万里の波涛を渉つて渡せし所の聖教或は一朝の山川を廻りて崇むる所の仏
13 像若しくは高山の巓に華界を建てて以て安置し 若しくは深谷の底に蓮宮を起てて 以て崇重す、 釈迦薬師の光を
14 並ぶるや威を現当に施し 虚空地蔵の化を成すや益を生後に被らしむ、 故に国王は郡郷を寄せて 以て灯燭を明に
15 し地頭は田園を充てて以て供養に備う。
16   而るを法然の選択に依つて則ち教主を忘れて 西土の仏駄を貴び付属を抛つて 東方の如来を閣き唯四巻三部の
17 教典を専にして 空しく一代五時の妙典を抛つ 是を以て弥陀の堂に非ざれば 皆供仏の志を止め 念仏の者に非ざ
18 れば早く施僧の懐いを忘る、 故に仏閣零落して瓦松の煙老い僧房荒廃して庭草の露深し、 然りと雖も各護惜の心
0024top
01 を捨て並びに建立の思を廃す、 是を以て住持の聖僧行いて帰らず 守護の善神去つて来ること無し、 是れ偏に法
02 然の選択に依るなり、 悲いかな数十年の間百千万の人魔縁に蕩かされて 多く仏教に迷えり、 傍を好んで正を忘
03 る善神怒を為さざらんや円を捨てて 偏を好む悪鬼便りを得ざらんや、 如かず彼の万祈を修せんよりは此の一凶を
04 禁ぜんには。
05   客殊に色を作して曰く、 我が本師釈迦文浄土の三部経を説きたまいて以来、曇鸞法師は四論の講説を捨てて一
06 向に浄土に帰し、 道綽禅師は涅槃の広業を閣きて 偏に西方の行を弘め、 善導和尚は 雑行を抛つて 専修を立
07 て、 慧心僧都は諸経の要文を集めて念仏の一行を宗とす、 弥陀を貴重すること 誠に以て然なり又往生の人其れ
08 幾ばくぞや、 就中法然聖人は幼少にして天台山に昇り 十七にして六十巻に渉り並びに八宗を究め具に大意を得た
09 り、 其の外一切の経論・七遍反覆し章疏伝記究め看ざることなく智は日月に斉しく徳は先師に越えたり、 然りと
10 雖も猶出離の趣に迷いて涅槃の旨を弁えず、 故にアマネく覿悉く鑑み 深く思い遠く慮り遂に諸経を抛ちて専ら念
11 仏を修す、其の上一夢の霊応を蒙り四裔の親疎に弘む、 故に或は勢至の化身と号し或は善導の再誕と仰ぐ、 然れ
12 ば則ち 十方の貴賎頭を低れ一朝の男女歩を運ぶ、 爾しより来た春秋推移り星霜相積れり、 而るに忝くも釈尊の
13 教を疎にして 恣に弥陀の文を譏る 何ぞ近年の災を以て 聖代の時に課せ 強ちに 先師を毀り 更に聖人を罵る
14 や、 毛を吹いて疵を求め皮を剪つて血を出す昔より今に至るまで此くの如き悪言未だ見ず惶る可く慎む可し、 罪
15 業至つて重し科条争か遁れん対座猶以て恐れ有り杖に携われて則ち帰らんと欲す。
16   主人咲み止めて曰く 辛きことを蓼の葉に習い 臭きことを溷厠に忘る善言を聞いて 悪言と思い謗者を指して
17 聖人と謂い正師を疑つて悪侶に擬す、 其の迷誠に深く其の罪浅からず、 事の起りを聞け委しく其の趣を談ぜん、
18 釈尊説法の内一代五時の間に先後を立てて権実を弁ず、 而るに曇鸞・道綽・善導既に権に就いて 実を忘れ先に依
0025top
01 つて後を捨つ末だ仏教の淵底を探らざる者なり、 就中法然は其の流を酌むと雖も其の源を知らず、 所以は何ん大
02 乗経の六百三十七部二千八百八十三巻・並びに一切の諸仏 菩薩及び諸の世天等を以て捨閉閣抛の字を置いて 一切
03 衆生の心を薄んず、 是れ偏に私曲の詞を展べて全く仏経の説を見ず、 妄語の至り悪口の科言うても比無し責めて
04 も余り有り 人皆其の妄語を信じ 悉く彼の選択を貴ぶ、 故に浄土の三経を崇めて 衆経を抛ち極楽の一仏を仰い
05 で諸仏を忘る、誠に是れ諸仏諸経の怨敵聖僧衆人の讎敵なり、 此の邪教広く八荒に弘まり 周く十方に遍す、 抑
06 近年の災難を以て往代を難ずるの由 強ちに之を恐る、 聊か先例を引いて汝が迷を悟す可し、 止観第二に史記を
07 引いて云く「周の末に被髪・袒身・礼度に依らざる者有り」弘決の第二に此の文を釈するに 左伝を引いて曰く「初
08 め平王の東に遷りしに 伊川に髪を被にする者の野に於て祭るを見る、 識者の曰く、 百年に及ばじ其の礼先ず亡
09 びぬ」と、 爰に知んぬ 徴前に顕れ災い後に致ることを、 又阮藉が逸才なりしに 蓬頭散帯す後に公卿の子孫皆
10 之に教いて奴苟相辱しむる者を 方に自然に達すと云いソン節兢持する者を呼んで田舎と為す 是を司馬氏の滅する
11 相と為す已上。
12   又慈覚大師の入唐 巡礼記を案ずるに云く、 「唐の武宗皇帝・会昌元年勅して章敬寺の鏡霜法師をして諸寺に
13 於て弥陀念仏の教を伝え令む寺毎に三日巡輪すること絶えず、 同二年回鶻国の軍兵等唐の堺を侵す、 同三年河北
14 の節度使忽ち乱を起す、 其の後大蕃国更た命を拒み回鶻国重ねて地を奪う、 凡そ兵乱秦項の代に同じく災火邑里
15 の際に起る、何に況んや武宗大に仏法を破し多く寺塔を滅す乱を撥ること能わずして遂に以て事有り」已上取意。
16   此れを以て之を惟うに法然は後鳥羽院の御宇・建仁年中の者なり、彼の院の御事既に眼前に在り、 然れば則ち
17 大唐に例を残し 吾が朝に証を顕す、 汝疑うこと莫かれ汝怪むこと莫かれ 唯須く凶を捨てて善に帰し 源を塞ぎ
18 根を截べし。
0026top
01   客聊か和ぎて曰く 未だ淵底を究めざるに数ば其の趣を知る但し華洛より柳営に至るまで釈門に枢ケン在り仏家
02 に棟梁在り、 然るに未だ勘状を進らせず 上奏に及ばず汝賎身を以て輙く莠言を吐く 其の義余り有り其の理謂れ
03 無し。
04   主人の曰く、 予少量為りと雖も忝くも大乗を学す 蒼蝿驥尾に附して万里を渡り 碧蘿松頭に懸りて千尋を延
05 ぶ、弟子一仏の子と生れて諸経の王に事う、何ぞ仏法の衰微を見て心情の哀惜を起さざらんや。
06   其の上涅槃経に云く「若し善比丘あつて法を壊ぶる者を見て置いて 呵責し駈遣し挙処せずんば当に知るべし是
07 の人は仏法の中の怨なり、 若し能く駈遣し呵責し挙処せば是れ我が弟子・真の声聞なり」と、余・善比丘の身為ら
08 ずと雖も「仏法中怨」の責を遁れんが為に唯大綱を撮つて粗一端を示す。
09   其の上去る元仁年中に延暦興福の両寺より度度奏聞を経・勅宣・御教書を申し下して、 法然の選択の印板を大
10 講堂に取り上げ 三世の仏恩を報ぜんが為に 之を焼失せしむ、 法然の墓所に於ては感神院の犬神人に仰せ付けて
11 破却せしむ其の門弟・隆観・聖光・成覚・薩生等は遠国に配流せらる、 其の後未だ御勘気を許されず豈未だ勘状を
12 進らせずと云わんや。
13   客則ち和ぎて曰く、 経を下し僧を謗ずること一人には論じ難し、 然れども大乗経六百三十七部二千八百八十
14 三巻並びに一切の諸仏菩薩及び諸の世天等を以て 捨閉閣抛の四字に載す其の詞勿論なり、 其の文顕然なり、 此
15 の瑕瑾を守つて 其の誹謗を成せども迷うて言うか覚りて語るか、 賢愚弁ぜず是非定め難し、 但し災難の起りは
16 選択に因るの由、 其の詞を盛に弥よ其の旨を談ず、 所詮天下泰平国土安穏は 君臣の楽う所土民の思う所なり、
17 夫れ国は法に依つて昌え 法は人に因つて貴し国亡び人滅せば仏を誰か崇む可き 法を誰か信ず可きや、 先ず国家
18 を祈りて須く仏法を立つべし若し災を消し難を止むるの術有らば聞かんと欲す。
0027top
01   主人の曰く、 余は是れ頑愚にして敢て賢を存せず唯経文に就いて聊か所存を述べん、抑も治術の旨内外の間其
02 の文幾多ぞや 具に挙ぐ可きこと難し、 但し仏道に入つて数ば愚案を廻すに 謗法の人を禁めて 正道の侶を重ん
03 ぜば国中安穏にして天下泰平ならん。
04   即ち涅槃経に云く「仏の言く唯だ一人を除いて余の一切に施さば皆讃歎す可し、 純陀問うて言く云何なるをか
05 名けて唯除一人と為す、 仏の言く此の経の中に説く所の如きは破戒なり、 純陀復た言く、我今未だ解せず唯願く
06 ば之を説きたまえ、 仏純陀に語つて言く、 破戒とは謂く一闡提なり其の余の在所一切に布施すれば皆讃歎すべく
07 大果報を獲ん、 純陀復た問いたてまつる、一闡提とは其の義何ん、仏言わく、純陀若し比丘及び比丘尼・優婆塞・
08 優婆夷有つてソ悪の言を発し 正法を誹謗し是の重業を造つて永く改悔せず心に懺悔無らん、 是くの如き等の人を
09 名けて一闡提の道に趣向すと為す、 若し四重を犯し五逆罪を作り自ら定めて 是くの如き重事を犯すと知れども而
10 も心に初めより怖畏懺悔無く肯て発露せず 彼の正法に於て永く護惜建立の心無く 毀呰・軽賎して言に過咎多から
11 ん、 是くの如き等の人を亦た一闡提の道に趣向すと名く、 唯此くの如き一闡提の輩を除いて其の余に施さば一切
12 讃歎せん」と。
13   又云く「我れ往昔を念うに閻浮提に於て大国の王と作れり名を仙予と曰いき、 大乗経典を愛念し敬重し其の心
14 純善にソ悪嫉リン有ること無し、 善男子我爾の時に於て心に大乗を重んず婆羅門の方等を誹謗するを聞き聞き已つ
15 て即時に其の命根を断ず、 善男子是の因縁を以て是より已来地獄に堕せず」と、 又云く「如来昔国王と為りて菩
16 薩の道を行ぜし時爾所の婆羅門の命を断絶す」と、 又云く「殺に三有り謂く下中上なり、 下とは蟻子乃至一切の
17 畜生なり唯だ菩薩の示現生の者を除く、 下殺の因縁を以て地獄・畜生・餓鬼に堕して具に下の苦を受く、 何を以
18 ての故に是の諸の畜生に微善根有り 是の故に殺す者は具に罪報を受く、中殺とは凡夫の人より阿那含に至るまで是
0028top
01 を名けて中と為す、 是の業因を以て地獄・畜生・餓鬼に堕して具に中の苦を受く・上殺とは父母乃至阿羅漢・辟支
02 仏・畢定の菩薩なり阿鼻大地獄の中に堕す、 善男子若し能く一闡提を殺すこと有らん者は 則ち此の三種の殺の中
03 に堕せず、善男子彼の諸の婆羅門等は一切皆是一闡提なり」已上。
04   仁王経に云く「仏波斯匿王に告げたまわく・是の故に諸の国王に付属して比丘・比丘尼に付属せず何を以ての故
05 に王のごとき威力無ければなり」已上。
06   涅槃経に云く「今無上の正法を以て諸王・大臣・宰相・及び四部の衆に付属す、正法を毀る者をば大臣四部の衆
07 当に苦治すべし」と。
08   又云く「仏の言く、 迦葉能く正法を護持する因縁を以ての故に是の金剛身を成就することを得たり善男子正法
09 を護持せん者は五戒を受けず威儀を修せず応に刀剣・弓箭・鉾槊を持すべし」と、又云く「若し五戒を受持せん者有
10 らば名けて大乗の人と為す事を得ず、 五戒を受けざれども正法を護るを為て乃ち大乗と名く、 正法を護る者は当
11 に刀剣器仗を執持すべし刀杖を持すと雖も我是等を説きて名けて持戒と曰わん」と。
12   又云く 「善男子・過去の世に此の拘尸那城に於て仏の世に出でたまうこと有りき歓喜増益如来と号したてまつ
13 る、 仏涅槃の後正法世に住すること無量億歳なり余の四十年仏法の末、 爾の時に一の持戒の比丘有り名を覚徳と
14 曰う、 爾の時に多く破戒の比丘有り是の説を作すを聞きて皆悪心を生じ刀杖を執持し是の法師を逼む、 是の時の
15 国王名けて有徳と曰う 是の事を聞き已つて護法の為の故に 即便ち説法者の所に往至して 是の破戒の諸の悪比丘
16 と極めて共に戦闘す、 爾の時に説法者厄害を免ることを得たり 王・爾の時に於て身に刀剣鉾槊の瘡を被り体に完
17 き処は芥子の如き許りも無し、 爾の時に覚徳尋いで王を讃めて言く、 善きかな善きかな王今真に是れ正法を護る
18 者なり 当来の世に此の身当に無量の法器と為るべし、 王是の時に於て法を聞くことを得已つて心大に歓喜し尋い
0029top
01 で即ち命終して阿シュク仏の国に生ず而も彼の仏の為に第一の弟子と作る、其の王の将従・人民・眷属・戦闘有りし
02 者.歓喜有りし者.一切菩提の心を退せず命終して悉く阿シュク仏の国に生ず、覚徳比丘却つて後寿終つて亦阿シュク
03 仏の国に往生することを得て 彼の仏の為に 声聞衆中の第二の弟子と作る、 若し正法尽きんと欲すること有らん
04 時当に是くの如く受持し擁護すべし、 迦葉・爾の時の王とは即ち我が身是なり、 説法の比丘は迦葉仏是なり、迦
05 葉正法を護る者は是くの如き等の無量の果報を得ん、 是の因縁を以て我今日に於て種種の相を得て 以て自ら荘厳
06 し法身不可壊の身を成す、 仏迦葉菩薩に告げたまわく、 是の故に法を護らん優婆塞等は応に刀杖を執持して擁護
07 すること是くの如くなるべし、 善男子・我涅槃の後濁悪の世に国土荒乱し 互に相抄掠し人民飢餓せん、爾の時に
08 多く飢餓の為の故に発心出家するもの有らん 是くの如きの人を名けて禿人と為す、 是の禿人の輩正法を護持する
09 を見て 駈逐して出さしめ若くは殺し若くは害せん、 是の故に我今持戒の人・諸の白衣の刀杖を持つ者に依つて以
10 て伴侶と為すことを聴す、 刀杖を持すと雖も我是等を説いて名けて持戒と曰わん、 刀杖を持すと雖も命を断ずべ
11 からず」と。
12   法華経に云く 「若し人信ぜずして此の経を毀謗せば即ち一切世間の仏種を断ぜん、 乃至其の人命終して阿鼻
13 獄に入らん」已上。
14   夫れ経文顕然なり私の詞何ぞ加えん、 凡そ法華経の如くんば大乗経典を謗ずる者は無量の五逆に勝れたり、故
15 に阿鼻大城に堕して永く出る期無けん、 涅槃経の如くんば設い五逆の供を許すとも謗法の施を許さず、 蟻子を殺
16 す者は必ず三悪道に落つ、 謗法を禁ずる者は不退の位に登る、 所謂覚徳とは是れ迦葉仏なり、有徳とは則ち釈迦
17 文なり。
18   法華涅槃の経教は 一代五時の肝心なり 其の禁実に重し誰か帰仰せざらんや、 而るに謗法の族正道を忘るの
0030top
01   人・剰え法然の選択に依つて弥よ愚癡の盲瞽を増す、是を以て或は彼の遺体を忍びて木画の像に露し或は其の妄
02 説を信じて 莠言を模に彫り 之を海内に弘め之を外に翫ぶ、 仰ぐ所は則ち 其の家風施す所は則ち其の門弟な
03 り、 然る間或は釈迦の手指を切つて弥陀の印相に結び或は東方如来の鴈宇を改めて西土教主の鵝王を居え、 或は
04 四百余回の如法経を止めて 西方浄土の三部経と成し 或は天台大師の講を停めて善導講と為す、此くの如き群類其
05 れ誠に尽くし難し是破仏に非ずや是破法に非ずや是破僧に非ずや、此の邪義則ち選択に依るなり。
06   嗟呼悲しいかな、如来誠諦の禁言に背くこと、 哀なるかな愚侶迷惑のソ語に随うこと、早く天下の静謐を思わ
07 ば須く国中の謗法を断つべし。
08   客の曰く、若し謗法の輩を断じ若し仏禁の違を絶せんには彼の経文の如く斬罪に行う可きか、 若し然らば殺害
09 相加つて罪業何んが為んや。
10   則ち大集経に云く「頭を剃り袈裟を著せば持戒及び毀戒をも、 天人彼を供養す可し、 則ち我を供養するに為
11 りぬ、是れ我が子なり 若し彼をカ打する事有れば則ち我が子を打つに為りぬ、 若し彼を罵辱せば則ち我を毀辱す
12 るに為りぬ」料り知んぬ善悪を論ぜず是非を択ぶこと無く僧侶為らんに於ては 供養を展ぶ可し、 何ぞ其の子を打
13 辱して忝くも其の父を悲哀せしめん、 彼の竹杖の目連尊者を害せしや 永く無間の底に沈み、 提婆達多の蓮華比
14 丘尼を殺せしや久しく阿鼻の焔に咽ぶ、 先証斯れ明かなり後昆最も恐あり、 謗法を誡むるには似たれども既に禁
15 言を破る此の事信じ難し如何が意得んや。
16   主人の云く、 客明に経文を見て猶斯の言を成す心の及ばざるか理の通ぜざるか、全く仏子を禁むるには非ず唯
17 偏に謗法を悪むなり、 夫れ釈迦の以前仏教は其の罪を斬ると雖も能忍の以後経説は則ち其の施を止む、 然れば則
18 ち四海万邦一切の四衆其の悪に施さず皆此の善に帰せば何なる難か並び起り何なる災か競い来らん。
0031top
01   客則ち席を避け襟を刷いて曰く、 仏教斯く区にして旨趣窮め難く不審多端にして理非明ならず、 但し法然聖
02 人の選択現在なり諸仏・諸経・諸菩薩・諸天等を以て捨閉閣抛と載す、 其の文顕然なり、茲れに因つて聖人国を去
03 り善神所を捨てて 天下飢渇し世上疫病すと、 今主人広く経文を引いて明かに理非を示す、 故に妄執既に飜えり
04 耳目数朗かなり、 所詮国土泰平・天下安穏は一人より万民に至るまで好む所なり楽う所なり、 早く一闡提の施を
05 止め永く衆僧尼の供を致し・ 仏海の白浪を収め法山の緑林を截らば 世は羲農の世と成り国は唐虞の国と為らん、
06 然して後法水の浅深を斟酌し仏家の棟梁を崇重せん。
07   主人悦んで曰く、 鳩化して鷹と為り雀変じて蛤と為る、 悦しきかな汝蘭室の友に交りて 麻畝の性と成る、
08 誠に其の難を顧みて 専ら此の言を信ぜば風和らぎ浪静かにして不日に豊年ならん、 但し人の心は時に随つて移り
09 物の性は境に依つて改まる、 譬えば猶水中の月の波に動き 陳前の軍の剣に靡くがごとし、 汝当座に信ずと雖も
10 後定めて永く忘れん、 若し先ず国土を安んじて現当を祈らんと欲せば速に情慮を回らしイソイで対治を加えよ、所
11 以は何ん、 薬師経の七難の内五難忽に起り二難猶残れり、 所以他国侵逼の難・ 自界叛逆の難なり、 大集経の
12 三災の内二災早く顕れ 一災未だ起らず 所以兵革の災なり、 金光明経の内の種種の災過一一起ると雖も 他方の
13 怨賊国内を侵掠する 此の災未だ露れず此の難未だ来らず、 仁王経の七難の内六難今盛にして一難未だ現ぜず所以
14 四方の賊来つて国を侵すの難なり 加之国土乱れん時は先ず鬼神乱る 鬼神乱るるが故に万民乱ると、 今此の文に
15 就いて具さに事の情を案ずるに 百鬼早く乱れ万民多く亡ぶ 先難是れ明かなり後災何ぞ疑わん・若し残る所の難悪
16 法の科に依つて並び起り競い来らば其の時何んが為んや、 帝王は国家を基として天下を治め 人臣は田園を領して
17 世上を保つ、 而るに他方の賊来つて其の国を侵逼し 自界叛逆して其の地を掠領せば 豈驚かざらんや豈騒がざら
18 んや、 国を失い家を滅せば何れの所にか世を遁れん 汝須く一身の安堵を思わば 先ず四表の静謐を祷らん者か、
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01 就中人の世に在るや各後生を恐る、 是を以て 或は邪教を信じ 或は謗法を貴ぶ 各是非に迷うことを悪むと雖も
02 而も猶 仏法に帰することを哀しむ、 何ぞ同じく信心の力を以て 妄りに邪義の詞を宗めんや、 若し執心飜らず
03 亦曲意猶存せば早く有為の郷を辞して必ず無間の獄に堕ちなん、 所以は何ん、 大集経に云く「若し国王有つて無
04 量世に於て施戒慧を修すとも 我が法の滅せんを見て 捨てて擁護せずんば 是くの如く種ゆる所の無量の善根悉く
05 皆滅失し、乃至其の王久しからずして当に重病に遇い 寿終の後大地獄に生ずべし・王の如く夫人・太子・大臣・城
06 主・柱師・郡主・宰官も亦復是くの如くならん」と。
07   仁王経に云く「人仏教を壊らば復た孝子無く六親不和にして天竜も祐けず 疾疫悪鬼日に来つて侵害し災怪首尾
08 し連禍縦横し死して地獄・餓鬼・畜生に入らん、 若し出て人と為らば兵奴の果報ならん、響の如く影の如く人の夜
09 書くに火は滅すれども字は存するが如く、三界の果報も亦復是くの如し」と。
10   法華経の第二に云く 「若し人信ぜずして此の経を毀謗せば乃至其の人命終して阿鼻獄に入らん」と、 同第七
11 の巻不軽品に云く「千劫阿鼻地獄に於て大苦悩を受く」と、 涅槃経に云く「善友を遠離し正法を聞かず 悪法に住
12 せば是の因縁の故に沈没して阿鼻地獄に在つて、受くる所の身形・縦横八万四千由延ならん」と。
13   広く衆経を披きたるに専ら謗法を重んず、 悲いかな皆正法の門を出でて深く邪法の獄に入る、 愚なるかな各
14 悪教の綱に懸つて鎮に謗教の網に纒る、 此の朦霧の迷彼の盛焔の底に沈む 豈愁えざらんや豈苦まざらんや、 汝
15 早く信仰の寸心を改めて 速に実乗の一善に帰せよ、 然れば則ち三界は皆仏国なり 仏国其れ衰んや 十方は悉く
16 宝土なり宝土何ぞ壊れんや、 国に衰微無く土に破壊無んば 身は是れ安全・心は是れ禅定ならん、 此の詞此の言
17 信ず可く崇む可し。
18   客の曰く、 今生後生誰か慎まざらん誰か和わざらん、 此の経文を披いて 具に仏語を承るに誹謗の科至つて
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01 重く毀法の罪誠に深し 我一仏を信じて諸仏を抛ち 三部経を仰いで諸経を閣きしは、 是れ私曲の思に非ず 則ち
02 先達の詞に随いしなり、 十方の諸人も亦復是くの如くなるべし、 今の世には性心を労し来生には阿鼻に堕せんこ
03 と文明かに 理詳かなり疑う可からず、 弥よ貴公の慈誨を仰ぎ 益愚客の癡心を開けり、 速に対治を回して早く
04 泰平を致し先ず生前を安じて更に没後を扶けん、唯我が信ずるのみに非ず又他の誤りをも誡めんのみ。
立正安国論奥書
01   文応元年太歳庚申之を勘う正嘉より之を始め文応元年に勘え畢る。
02   去ぬる正嘉元年太歳丁巳八月二十三日戌亥の尅の大地震を見て之を勘う、其の後文応元年太歳庚申七月十六日を
03 以て宿屋禅門に付して 故最明寺入道殿に奉れり、其の後文永元年太歳甲子七月五日大明星の時弥此の災の根源を知
04 る、文応元年太歳庚申より文永五年太歳戊辰後の正月十八日に至るまで九ケ年を経て西方大蒙古国自り我が朝を襲う
05 可きの由牒状之を渡す、 又同六年重ねて牒状之を渡す、既に勘文之に叶う、 之に準じて之を思うに未来亦然る可
06 きか、此の書は徴有る文なり是れ偏に日蓮が力に非ず法華経の真文の感応の至す所か。
07     文永六年太歳己巳十二月八日之を写す。
安国論御勘由来
01  正嘉元年太歳丁巳八月廿三日戌亥の時前代に超え大に地振す,同二年戊午八月一日大風.同三年己未大飢饉・正元元
                                                   年己未
02 大疫病同二年庚申 四季に亘つて大疫已まず万民既に大半に超えて死を招き了んぬ、而る間国主之に驚き内外典に仰
03 せ付けて種種の御祈祷有り、爾りと雖も一分の験も無く還つて飢疫等を増長す。
04   日蓮世間の体を見て粗一切経を勘うるに御祈請験無く 還つて凶悪を増長するの由道理文証之を得了んぬ、 終
05 に止むこと無く勘文一通を造り作して其の名を立正安国論と号す、文応元年庚申七月十六日辰時屋戸野入道に付けて
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01 古最明寺入道殿に奏進申し了んぬ此れ偏に国土の恩を報ぜんが為なり、 其勘文の意は日本国・天神七代・地神五代
02 百王百代・人王第卅代欽明天皇の御宇に 始めて百済国より仏法此の国に渡り 桓武天皇の御宇に至つて其の中間五
03 十余代・二百六十余年なり、 其の間一切経並びに六宗之れ有りと雖も 天台真言の二宗未だ之れ有らず、桓武の御
04 宇に山階寺の行表僧正の御弟子に最澄と云う小僧有り後に伝教大師と号す、已前に渡る所の六宗並に禅宗之を極むと
05 雖も未だ我が意に叶わず、 聖武天皇の御宇に大唐の鑒真和尚渡す所の天台の章疏・四十余年を経て已後始めて最澄
06 之を披見し粗仏法の玄旨を覚り了んぬ、 最澄・天長地久の為に延暦四年叡山を建立す 桓武皇帝之を崇め天子本命
07 の道場と号し六宗の御帰依を捨て一向に天台円宗に帰伏し給う。
08   同延暦十三年に長岡の京を遷して平安城を建つ、 同延暦廿一年正月十九日高雄寺に於て南都七大寺の六宗の碩
09 学・勤操・長耀等の十四人を召し合せ勝負を決談す、六宗の明匠・一問答にも及ばず口を閉ずること鼻の如し華厳宗
10 の五教・法相宗の三時・三論宗の二蔵・三時の所立を破し了んぬ 但自宗を破らるるのみに非ず皆謗法の者為ること
11 を知る、 同じき廿九日皇帝勅宣を下して之を詰る、 十四人謝表を作つて皇帝に捧げ奉る、 其の後代代の皇帝叡
12 山の御帰依は孝子の父母に仕うるに超え 黎民の王威を恐るるに勝れり、 或御時は宣明を捧げ或御時は非を以て理
13 に処す等云云、 殊に清和天皇は 叡山の恵亮和尚の法威に依つて位に即き 帝王の外祖父・九条右丞相は誓状を叡
14 山に捧げ、源の右将軍は清和の末葉なり鎌倉の御成敗是非を論ぜず叡山に違背す天命恐れ有る者か。
15   然るに後鳥羽院の御宇・建仁年中に法然・大日とて二人の増上慢の者有り悪鬼其の身に入つて国中の上下を誑惑
16 し代を挙げて念仏者と成り人毎に禅宗に趣く、 存の外に山門の御帰依浅薄なり 国中の法華真言の学者棄て置かれ
17 了んぬ、故に叡山守護の天照太神・正八幡宮・山王七社・国中守護の諸大善神法味をクラわずして威光を失い国土を
18 捨て去り了んぬ、 悪鬼便りを得て災難を致し結句他国より此の国を破る可き先相勘うる所なり、 又其の後文永元
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01 年甲子七月五日彗星東方に出で余光大体一国土に及ぶ、 此れ又世始まりてより已来無き所の凶瑞なり内外典の学者
02 も其の凶瑞の根源を知らず、 予弥よ悲歎を増長す、 而るに勘文を捧げて已後九ケ年を経て今年後の正月大蒙古国
03 の国書を見るに 日蓮が勘文に相叶うこと宛かも符契の如し、 仏記して云く「我が滅度の後一百余年を経て 阿育
04 大王出世し我が舎利を弘めん」と、 周の第四昭王の御宇・大史蘇由が記に云く 「一千年の外・声教此の土に被ら
05 しめん」と、 聖徳太子の記に云く 「我が滅度の後二百余年を経て山城の国に平安城を立つ可し」と、 天台大師
06 の記に云く「我が滅後二百余年の已後東国に生れて我が正法を弘めん」等云云、皆果して記文の如し。
07   日蓮正嘉の大地震同じく大風同じく飢饉・正元元年の大疫等を見て記して云く 他国より此の国を破る可き先相
08 なりと、自讃に似たりと雖も若し此の国土を毀壊せば復た仏法の破滅疑い無き者なり。
09   而るに当世の高僧等謗法の者と同意の者なり復た自宗の玄底を知らざる者なり、 定めて勅宣御教書を給いて此
10 の凶悪を祈請するか、仏神弥よ瞋恚を作し国土を破壊せん事疑い無き者なり。
11   日蓮復之を対治するの方 之を知る叡山を除いて日本国には但一人なり、 譬えば日月の二つ無きが如く聖人肩
12 を並べざるが故なり、 若し此の事妄言ならば日蓮が持つ所の法華経守護の十羅刹の治罰之を蒙らん、 但偏に国の
13 為法の為人の為にして身の為に之を申さず、 復禅門に対面を遂ぐ故に之を告ぐ 之を用いざれば定めて後悔有る可
14 し、恐恐謹
15       文永五年太歳戊辰四月五日
16     法鑒御房                         日 蓮 花 押
安国論別状
01    立正安国論の正本、富木殿に候、かきて給び候はん、ときどのか、又。
02       五月廿六日                      日 蓮 花 押
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守護国家論    正元元年    三十八歳御作
01   夫れ以んみれば偶十方微塵の三悪の身を脱れて 希に閻浮日本の爪上の生を受け 亦閻浮日域・爪上の生を捨て
02 て十方微塵・三悪の身を受けんこと疑い無き者なり、 然るに生を捨てて悪趣に堕つるの縁・一に非ず或は妻子眷属
03 の哀憐に依り 或は殺生悪逆の重業に依り 或は国主と成つて民衆の歎きを知らざるに依り 或は法の邪正を知らざ
04 るに依り或は悪師を信ずるに依る、 此の中に於ても世間の善悪は眼前に在り 愚人も之を弁うべし仏法の邪正・師
05 の善悪に於ては証果の聖人・尚之を知らず況や末代の凡夫に於ておや。
06   しかのみならず仏日・西山に隠れ余光・東域を照してより已来・四依の慧灯は日に減じ三蔵の法流は月に濁る実
07 教に迷える論師は 真理の月に雲を副え権経に執する訳者は 実経の珠を砕きて権経の石と成す、 何に況や震旦の
08 人師の宗義其の誤り無からんや 何に況や日本辺土の末学誤りは多く実は少き者か、 随つて其の教を学する人数は
09 竜鱗よりも多く得道の者は麟角よりも希なり、 或は権教に依るが故に 或は時機不相応の教に依るが故に或は凡聖
10 の教を弁えざるが故に 或は権実二教を弁えざるが故に或は権教を実教と謂うに依るが故に 或は位の高下を知らざ
11 るが故に、凡夫の習い仏法に就て生死の業を増すこと其の縁・一に非ず。
12   中昔・邪智の上人有つて 末代の愚人の為に一切の宗義を破して選択集一巻を造る、 名を鸞・綽・導の三師に
13 仮つて一代を二門に分ち実経を録して 権経に入れ法華真言の直道を閉じて浄土三部の隘路を開く、 亦浄土三部の
13 義にも順ぜずして権実の謗法を成し 永く四聖の種を断じて阿鼻の底に沈む可き僻見なり、 而るに世人之に順うこ
15 と譬えば大風の小樹の枝を吹くが如く門弟此の人を重んずること天衆の帝釈を敬うに似たり。
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01   此の悪義を破らんが為に亦多くの書有り所謂・浄土決義鈔・弾選択・摧邪輪等なり、此の書を造る人・皆碩徳の
02 名一天に弥ると雖も 恐くは未だ選択集謗法の根源を顕わさず 故に還つて悪法の流布を増す、 譬えば盛なる旱魃
03 の時に小雨を降せば草木弥枯れ兵者を打つ刻に弱兵を先んずれば強敵倍力を得るが如し。
04   予此の事を歎く間・一巻の書を造つて選択集謗法の縁起を顕わし名づけて守護国家論と号す、 願わくば一切の
05 道俗一時の世事を止めて 永劫の善苗を種えよ、 今経論を以て邪正を直す 信謗は仏説に任せ敢て自義を存する事
06 無かれ。
07   分ちて七門と為す、一には如来の経教に於て権実二教を定むることを明し、二には正像末の興廃を明し、 三に
08 は選択集の謗法の縁起を明し、 四には謗法の者を対治すべき証文を出すことを明し、 五には 善知識並に真実の
09 法には値い難きことを明し、六には法華涅槃に依る行者の用心を明し、七には問に随つて答うることを明す。
10   大文の第一に如来の経教に於て権実二教を定むることを明すとは此れに於て四有り、 一には大部の経の次第を
11 出して流類を摂することを明し、 二には諸経の浅深を明し、 三には大小乗を定むることを明し、四には且らく権
12 を捨てて実に就くべきことを明す。
13   第一に大部の経の次第を出して流類を摂することを明さば、問うて云く仏最初に何なる経を説きたまうや、 答
14 えて云く華厳経なり、 問うて云く其の証如何、 答えて云く六十華厳経の離世間浄眼品に云く「是の如く我聞く一
15 時・仏.摩竭提国・寂滅道場に在つて始めて正覚を成ず」と、法華経の序品に放光瑞の時・弥勒菩薩.十方世界の諸仏
16 の五時の次第を見る時 文殊師利菩薩に問うて云く、 「又諸仏聖主師子の経典の微妙第一なることを演説し給うに
17 其の声清浄に柔軟の音を出して 諸の菩薩を教え給うこと 無数億万なることを覩る」 亦方便品に仏自ら初成道の
18 時を説いて云く 「我始め道場に坐し樹を観じ亦経行す、 乃至・爾の時に諸の梵王及び諸天帝釈・護世四天王及び
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01 大自在天並に余の諸の天衆・眷属百千万・恭敬合掌し礼して我に転法輪を請ずと」 此等の説は法華経に華厳経の時
02 を指す文なり、故に華厳経の第一に云く毘沙門天王略月天子略日天子略釈提桓因略大梵略摩醯首羅等略 已上。
03   涅槃経に華厳経の時を説いて云く 「既に成道し已つて梵天勧請すらく唯願わくば如来当に衆生の為に広く甘露
04 の門を開き給うべし、乃至・梵王復言く世尊・一切衆生に凡そ三種有り所謂・利根・中根・鈍根なり利根は能く受く
05 唯願わくば為に説き給え、 仏言く梵王諦に聴け 我今当に一切衆生の為に甘露の門を開くべし」 亦三十三に華厳
06 経の時を説いて云く「十二部経・修多羅の中の微細の義を我先に已に諸の菩薩の為に説くが如し」。
07   此くの如き等の文は皆諸仏・世に出で給いて一切経の初めには必ず華厳経を説き給いし証文なり。
08   問うて云く無量義経に云く「初めに四諦を説き、乃至・次に方等十二部経・摩訶般若・華厳海空を説く」此くの
09 如き文は般若経の後に華厳経を説くと相違如何、答えて云く浅深の次第なるか或は後分の華厳経なるか、 法華経の
10 方便品に一代の次第浅深を列ねて云く「余乗有ること無し華厳経なり若は二般若経なり若は三方等経なり」と此の意
                                                   なり。
11   問うて云く華厳経の次に何の経を説き給うや、 答えて云く阿含経を説き給うなり、問うて云く何を以て之を知
12 るや、答えて云く法華経の序品に華厳経の次の経を説いて云く 「若し人・苦に遭うて老病死を厭うには為に涅槃を
13 説く」方便品に云く「即・波羅奈に趣き、乃至・五比丘の為に説く」涅槃経に華厳経の次の経を定めて云く「即・波
14 羅奈国に於て正法輪を転じて中道を宣説す」此等の経文は華厳経より後に阿含経を説くなり。
15   問うて云く阿含経の後に何の経を説き給うや、 答えて云く方等経なり、問うて云く何を以て之を知るや、答え
16 て云く無量義経に云く「初に四諦を説き乃至・次に方等十二部経を説く」涅槃経に云く「修多羅より方等を出す」
17   問うて云く方等とは天竺の語.此には大乗と云う華厳・般若・法華.涅槃等は皆方等なり何ぞ独り方等部に限り方
18 等の名を立つるや、 答えて云く実には華厳・般若・法華等皆方等なり然りと雖も今方等部に於て別して方等の名を
0039top
01 立つることは私の義に非ず無量義経・涅槃経の文に顕然たり、 阿含の証果は一向小乗なり次に大乗を説く方等より
02 已後皆大乗と云うと雖も 大乗の始なるが故に初に従つて方等部を方等と云うなり、 例せば十八界の十半は色なり
03 と雖も初に従つて色境の名を立つるが如し。
04   問うて云く方等部の諸経の後に何の経を説き給うや、 答えて云く般若経なり、問うて云く何を以て之を知るや
05 答えて云く涅槃経に云く「方等より般若を出す」
06   問うて云く般若経の後には何の経を説き給うや、 答えて云く無量義経なり、問うて云く何を以て之を知るや、
07 答えて云く仁王経に云く「二十九年中」無量義経に云く「四十余年」問うて云く無量義経には般若経の後に華厳経を
08 列ね涅槃経には般若経の後に涅槃経を列ぬ、 今の所立の次第は般若経の後に無量義経を列ぬる相違如何、 答えて
09 云く涅槃経第十四の文を見るに 涅槃経已前の諸経を列ねて涅槃経に対して勝劣を論じ而も法華経を挙げず、 第九
10 の巻に於て法華経は涅槃経より已前なりと之を定め給う、 法華経の序品を見るに 無量義経は法華経の序分なり、
11 無量義経には般若の次に華厳経を列ぬれども華厳経を初時に遣れば般若経の後は無量義経なり。
12   問うて云く無量義経の後に何の経を説き給うや、答えて云く法華経を説き給うなり、問うて云く何を以て之を知
13 るや、 答えて云く法華経の序品に云く 「諸の菩薩の為に大乗経の無量義・教菩薩法・仏所護念と名づくるを説き
14 給う、仏此の経を説き已つて結跏趺坐し無量義処三昧に入る」
15   問うて云く法華経の後に何の経を説き給うや、 答えて云く普賢経を説き給うなり、問うて云く何を以て之を知
16 るや、答えて云く普賢経に云く「卻て後・三月我当に般涅槃すべし、 乃至・如来昔・耆闍崛山及び余の住処に於て
17 已に広く一実の道を分別し今も此の処に於てす」
18   問うて云く普賢経の後に何の経を説き給うや、 答えて云く涅槃経を説き給うなり、問うて云く何を以て之を知
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01 るや、答えて云く普賢経に云く 「卻て後・三月我当に般涅槃すべし」涅槃経三十に云く「如来何が故ぞ二月に涅槃
02 し給うや、亦・如来は初生・出家・成道・転法輪皆八日を以てす何ぞ仏の涅槃独り十五日なるやと云う」と大部の経
03 大概是くの如し 此より已外諸の大小乗経は次第不定なり、 或は阿含経より已後に華厳経を説き法華経より已後に
04 方等般若を説く皆義類を以て之を収めて一処に置くべし。
05   第二に諸経の浅深を明さば、無量義経に云く「初に四諦を説き阿含次に方等十二部経.摩訶般若.華厳海空を説き
06 菩薩の歴劫修行を宣説す」亦云く「四十余年には未だ真実を顕わさず」又云く「無量義経は尊く過上無し」此等の文
07 の如くんば四十余年の諸経は無量義経に劣ること疑い無き者なり。
08  問うて云く密厳経に云く「一切経の中に勝れたり」大雲経に云く「諸経の転輪聖王なり」金光明経に云く「諸経の
09 中の王なり」と 此等の文を見るに諸大乗経の常の習なり 何ぞ一文を瞻て無量義経は四十余年の諸経に勝ると云う
10 や、 答えて云く教主釈尊若し諸経に於て互に勝劣を説かずんば・大小乗の差別・権実の不同有るべからず、若し実
11 に差別無きに互に差別浅深等を説かば 諍論の根源・悪業起罪の因縁なり、 爾前の諸経の第一は縁に随つて不定な
12 り或は小乗の諸経に対して第一と或は報身の寿を説くに諸経の第一なり 或は俗諦・真諦・中諦等を説くに第一なり
13 と一切の第一に非ず、今の無量義経の如きは四十余年の諸経に対して第一なり。
14   問うて云く法華経と無量義経と何れが勝れたるや、 答えて云く法華経勝れたり、問うて云く何を以て之を知る
15 や、答えて云く無量義経には未だ二乗作仏と久遠実成とを明さず故に法華経に嫌われて今説の中に入るなり。
16  問うて云く法華経と涅槃経と何れが勝れたるや、答えて云く法華経勝るるなり、問うて云く何を以て之を知るや、
17 答えて云く涅槃経に自ら如法華中等と説き更無所作と云う、法華経に当説を指して難信難解と云わざるが故なり。
18   問うて云く涅槃経の文を見るに 涅槃経已前をば皆邪見なりと云う如何、 答えて云く法華経は如来出世の本懐
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01 る故に「今者已満足・今正是其時・然善男子我実成仏已来」等と説く、 但し諸経の勝劣に於ては仏自ら「我所説経
02 典無量千万億」なりと挙げ了つて「已説・今説・当説」等と説く時、 多宝仏・地より涌現して皆是真実と定め分身
03 の諸仏は舌相を梵天に付け給う是くの如く 諸経と法華経との勝劣を定め了んぬ、 此の外・釈迦一仏の所説なれば
04 先後の諸経に対して 法華経の勝劣を論ずべきに非ざるなり、 故に涅槃経に諸経を嫌う中に法華経を入れず法華経
05 は諸経に勝るる由・之を顕わす故なり、 但し邪見の文に至つては法華経を覚知せざる一類の人・涅槃経を聞いて悟
06 を得る故に迦葉童子・自身並に所引を指して涅槃経より已前を邪見等と云うなり経の勝劣を論ずるには非ず。
07   第三に大小乗を定むることを明さば、 問うて云く大小乗の差別如何、答えて云く常途の説の如くんば阿含部の
08 諸経は小乗なり華厳・方等・般若・法華・涅槃等は大乗なり、或は六界を明すは小乗・十界を明すは大乗なり、其の
09 外・法華経に対して実義を論ずる時・法華経より外の四十余年の諸大乗経は皆小乗にして法華経は大乗なり。
10   問うて云く諸宗に亘て我所拠の経を実大乗と謂い 余宗所拠の経を権大乗と云うこと常の習いなり末学に於ては
11 是非定め難し、 未だ聞知せず法華経に対して諸大乗経を小乗と称する証文如何、 答えて云く宗宗の立義互に是非
12 を論ず就中末法に於て 世間出世に就て非を先とし是を後とす自ら是非を知らず愚者の歎くべき所なり、 但し且く
13 我等が智を以て四十余年の現文を観るに 此の言を破する文無ければ人の是非を信用すべからざるなり、 其の上・
14 法華経に対して 諸大乗経を小乗と称することは自答を存すべきに非ず、 法華経の方便品に云く「仏は自ら大乗に
15 住し給えり、 乃至・自ら無上道大乗平等の法を証しき若し小乗を以て化すること 乃至一人に於てせば我即ち慳貪
16 に堕せん、 此の事は為て不可なり」此の文の意は法華経より外の諸経を皆小乗と説けるなり、亦寿量品に云く「小
17 法を楽う」と此等の文は 法華経より外の四十余年の諸経を皆小乗と説けるなり、 天台・妙楽の釈に於て四十余年
18 の諸経を小乗なりと釈すとも他師之を許すべからず故に但経文を出すなり。
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01   第四に且らく権経を閣いて実経に就くことを明さば、 問うて云く証文如何、答えて云く十の証文有り法華経に
02 云く「但大乗経典を受持することを楽て乃至余経の一偈をも受けざれ是一 涅槃経に云く「了義経に依つて不了義経
03 に依らざれ」四十余年を不了義経と云う、是二法華経に云く「此の経は持ち難し若し暫くも持つ者は我即ち歓喜す諸
                                                  仏も亦然
04 なり是の如き人は諸仏の歎めたもう所なり、 是れ則ち勇猛なり是れ則ち精進なり是を戒を持ち頭陀を行ずる者と名
05 く」末代に於て四十余年の持戒無し、唯法華経を持つを持戒と為す、是三涅槃経に云く「乗に緩なる者に於ては乃ち
                                          名けて緩と為す戒緩の者に
06 於ては名けて緩と為さず菩薩摩訶薩・此の大乗に於て心懈慢せずんば是を奉戒と名づく正法を護らんが為に大乗の水
07 を以て而も自ら澡浴す是の故に菩薩・破戒を現ずと雖も名づけて緩と為さず」此の文は法華経の戒を流通する文なり
                                              、是四法華経第四
08 に云く「妙法華経.乃至.皆是真実」此の文は多宝の証明なり是五法華経第八普賢菩薩の誓に云く「如来の滅後に於て
                                                 閻浮提の内
09 に広く流布せしめて断絶せざらしめん」是六法華経第七に云く「我が滅度の後・後の五百歳の中に閻浮提に於て断絶
10 せしむること無けん」釈迦如来の誓なり・是七法華経第四に多宝並に十方諸仏来集の意趣を説いて云く「法をして久
                                                    しく
11 住せしめんが故に此に来至し給えり」是八法華経第七に法華経を行ずる者の住処を説いて云く「如来の滅後に於て応
12 に一心に受持・読・誦・解説・書写して説の如く修行すべし所在の国土に乃至・若は経巻所住の処若は園の中に於て
13 も若は林の中に於ても若は樹の下に於ても若は僧坊に於ても 若は白衣の舎にても若は殿堂に在つても若は山谷曠野
14 にても是の中に皆塔を起て供養すべし 所以は何ん当に知るべし 是の処は即ち是れ道場なり 諸仏此に於て阿耨多
15 羅三藐三菩提を得給う」是九法華経の流通たる涅槃経の第九に云く「我涅槃の後正法未だ滅せず余の八十年・爾時に
16 是の経閻浮提に於て当に広く流布すべし 是の時当に諸の悪比丘有るべし 是の経を抄掠して分つて多分と作し 能
17 く正法の色香美味を滅す 是の諸の悪人復是の如き経典を読誦すと雖も 如来深密の要義を滅除して世間荘厳の文を
18 安置し無義の語を飾り 前を抄て後に著け後を抄て 前に著け前後を中に著け中を前後に著けん当に知るべし是くの
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01 如き諸の悪比丘は是魔の伴侶なり、 乃至・譬えば牧牛女の多く水を乳に加うるが如く 諸の悪比丘も亦復是の如し
02 雑るに世語を以てし錯りて是の経を定む多くの衆生をして正説.正写・正取・尊重.讃歎・供養・恭敬することを得ざ
03 らしむ是の悪比丘は利養の為の故に 是の経を広宣流布すること能わず 分流すべき所少く言うに足らず彼の牧牛の
04 貧窮の女人展転して乳を売るに 乃至糜と成して乳味無きが如し、 是の大乗経典・大涅槃経も亦復是の如く展転薄
05 淡にして気味有ること無し 気味無しと雖も猶余経に勝る是れ一千倍なること 彼の乳味の諸の苦味に於て千倍勝る
06 と為すが如し何を以ての故に是の大乗経典・大涅槃経は声聞の経に於て最上首為り」是十。
07   問うて云く 不了義経を捨てて了義経に就くとは、 大円覚修多羅了義経・大仏頂如来密因修証了義経是の如き
08 諸大乗経は皆了義経なり依用と為す可きや、 答えて云く了義・不了義は所対に随つて不同なり 二乗菩薩等の所説
09 の不了義に対すれば 一代の仏説皆了義なり仏説に就て小乗経は不了義・ 大乗経は了義なり大乗に就て又四十余年
10 の諸経は不了義経・法華・涅槃・大日経等は了義経なり而るに円覚・大仏頂等の諸経は小乗及び歴劫修行の不了義経
11 に対すれば了義経なり法華経の如き了義には非ざるなり。
12   問うて云く華厳・法相・三論等の天台真言より已外の諸宗の高祖・各其の依憑の経経に依つて其の経経の深義を
13 極めたりと欲えり是れ爾る可しや如何、 答えて云く華厳宗の如きは 華厳経に依つて諸経を判じて華厳経の方便と
14 為すなり、 法相宗の如きは阿含・般若等を卑しめ華厳・法華・涅槃を以て深密経に同じ同じく中道教と立つると雖
15 も亦法華・涅槃は一類の一乗を説くが故に 不了義経なり深密経には五性各別を論ずるが故に了義経と立つるなり、
16 三論宗の如きは二蔵を立てて 一代を摂し大乗に於て浅深を論ぜず而も般若経を以て依憑と為す、 此等の諸宗の高
17 祖・多分は四依の菩薩なるか定めて所存有らん是非に及ばず。
18   然りと雖も自身の疑を晴らさんが為に 且らく人師の異解を閣いて諸宗の依憑の経経を開き見るに華厳経は旧訳
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01 は五十・六十・新訳は八十・四十・其の中に法華涅槃の如く一代聖教を集めて方便と為すの文無し、四乗を説くと雖
02 も其の中の仏乗に於て十界互具・久遠実成を説かず 但し人師に至つては五教を立てて 先の四教に諸経を収めて華
03 厳経の方便と為す、 法相宗の如きは三時教を立つる時・法華等を以て 深密経に同ずと雖も深密経五巻を開き見る
04 に全く法華等を以て中道の内に入れず。
05   三論宗の如きは二蔵を立つる時・ 菩薩蔵に於て華厳法華等を収め般若経に同ずと雖も新古の大般若経を開き見
06 るに全く大般若を以て法華涅槃に同ずるの文無し 華厳は頓教・法華は漸教等とは 人師の意楽にして仏説に非ざる
07 なり。
08   法華経の如きは序分無量義経に慥に四十余年の年限を挙げ華厳・方等・般若等の大部の諸経の題名を呼んで未顕
09 真実と定め正宗の法華経に至つて一代の勝劣を定むる時・我が所説の経典・無量千万億・已説・今説・当説の金言を
10 吐いて、而も其の中に於て 此の法華経は最も難信難解なりと説き給う時・多宝仏・地より涌出し妙法蓮華経皆是真
11 実と証誠し分身の諸仏十方より悉く一処に集つて舌を梵天に付け給う。
12  今此の義を以て余推察を加うるに唐土・日本に渡れる所の五千七千余巻の諸経・以外の天竺・竜宮・四王天・過去
13 の七仏等の諸経並に阿難の未結集の経・十方世界の塵に同ずる諸経の勝劣・浅深・難易・掌中に在り無量千万億の中
14 に豈釈迦如来の所説の諸経を漏らす可けんや 已説・今説・当説の年限に入らざる諸経之れ有るべきや願わくば末代
15 の諸人且らく諸宗の高祖の弱文・無義を閣きて釈迦多宝十方諸仏の強文有義を信ず可し、 何に況や諸宗の末学・偏
16 執を先と為し末代の愚者人師を本と為して 経論を抛つ者に依憑すべきや、 故に法華の流通たる雙林最後の涅槃経
17 に仏・迦葉童子菩薩に遺言して言く 「法に依つて人に依らざれ義に依つて語に依らざれ 智に依つて識に依らざれ
18 了義経に依つて不了義経に依らざれ」と云云。
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01   予世間を見聞するに自宗の人師を以て 三昧発得智慧第一と称すれども無徳の凡夫として実経に依つて法門を信
02 ぜしめず不了義の観経等を以て 時機相応の教と称し了義の法華涅槃を閣いて 譏つて理深解微の失を付け如来の遺
03 言に背いて「人に依つて法に依らざれ・語に依つて義に依らざれ・識に依つて智に依らざれ・不了義経に依つて了義
04 経に依らざれ」と談ずるに非ずや、 請い願わくば心有らん人は思惟を加えよ 如来の入滅は既に二千二百余の星霜
05 を送れり文殊・迦葉・阿難・経を結集して已後・四依の菩薩重ねて出世し論を造り経の意を申ぶ末の論師に至つて漸
06 く誤り出来す 亦訳者に於ても梵漢未達の者・権教宿習の人有つて実の経論の義を曲げて 権の経論の義を存せり、
07 之に就て亦唐土の人師・過去の権教の宿習の故に 権の経論心に叶う間・実経の義を用いず或は少し自義に違う文有
08 れば理を曲げて会通を構え以て自身の義に叶わしむ、 設い後に道理と念うと雖も 或は名利に依り或は檀那の帰依
09 に依つて権宗を捨てて実宗に入らず、 世間の道俗亦無智の故に理非を弁えず但・人に依つて法に依らず設い悪法た
10 りと雖も多人の邪義に随つて一人の実説に依らず、 而るに衆生の機多くは流転に随う 設い出離を求むとも亦多分
11 は権経に依る、  但恨むらくは悪業の身・善に付け悪に付け生死を離れ難きのみ、然りと雖も今の世の一切の凡夫
12 設い今生を損すと雖も 上に出す所の涅槃経第九の文に依つて 且らく法華・涅槃を信ぜよ其の故は世間の浅事すら
13 展転多き時は 虚は多く実は少し況や仏法の深義に於てをや、 如来の滅後二千余年の間・仏法に邪義を副え来り万
14 に一も正義無きか一代の聖教多分は誤り有るか、 所以に心地観経の法爾無漏の種子・正法華経の属累の経末・婆沙
15 論の一十六字・摂論の識の八九・法華論と妙法華経との相違・涅槃論の法華煩悩所汚の文・法相宗の定性無性の不成
16 仏・摂論宗の法華経の一称南無の別時意趣・ 此等は皆訳者人師の誤りなり、 此の外に亦四十余年の経経に於て多
17 くの誤り有るか 設い法華涅槃に於て誤有るも誤無きも四十余年の諸経を捨てて 法華涅槃に随う可し其の証上に出
18 し了んぬ況や誤り有る諸経に於て信心を致す者・生死を離るべきや。
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01  大文の第二に正像末に就て仏法の興廃有ることを明すとは、之に就て二有り、 一には爾前四十余年の内の諸経と
02 浄土の三部経と末法に於て久住・不久住を明す、二には法華涅槃と浄土の三部経並に諸経との久住・不久住を明す。
03   第一に爾前四十余年の内の諸経と 浄土の三部経と末法に於て久住・不久住を明すとは、問うて云く如来の教法
04 は大小・浅深・勝劣を論ぜず但時機に依つて之を行ぜば定めて利益有るべきなり、然るに賢劫・大術・大集等の諸経
05 を見るに 仏滅後二千余年已後は仏法皆滅して但・教のみ有つて行証有るべからず、 随つて伝教大師の末法灯明記
06 を開くに我延暦二十年辛巳一千七百五十歳一説なり延暦二十年より已後亦四百五十余歳なり既に末法に入れり、設い
07 教法有りと雖も行証無けん、 然るに於ては仏法を行ずる者・万が一も得道有り難きか、 然るに雙観経の「当来の
08 世・経道滅尽せんに 我慈悲哀愍を以て特り此の経を留め止住せんこと百歳ならん 其れ衆生の斯の経に値うこと有
09 らん者は意の所願に随つて皆得道す可し」 等の文を見るに 釈迦如来一代の聖教皆滅尽の後・唯特り雙観経の念仏
10 のみを留めて衆生を利益す可しと見え了んぬ。
11   此の意趣に依つて粗浄土家の諸師の釈を勘うるに其の意無きに非ず、 道綽禅師は「当今末法は是れ五濁悪世な
12 り唯浄土の一門のみ通入すべき路なり」と書し、 善導和尚は「万年に三宝滅して此の経のみ住すること百年なり」
13 と宣べ、 慈恩大師は「末法万年に余経悉く滅し弥陀の一教利物偏に増さん」と定め、日本国の叡山の先徳慧心僧都
14 は 一代聖教の要文を集めて末代の指南を教ゆる往生要集の序に云く 「夫れ往生極楽の教行は濁世末代の目足なり
15 道俗貴賎誰か帰せざる者あらん但し 顕密の教法は其の文一に非ず 事理の業因其の行惟れ多し利智精進の人は未だ
16 難しと為ず予が如き頑魯の者豈敢てせんや」 乃至・次下に云く「就中念仏の教は多く末代経道滅尽の後の濁悪の衆
17 生を利する計りなり」と、 総じて諸宗の学者も此の旨を存す可し 殊に天台一宗の学者誰か此の義に背く可けんや
18 如何、答えて云く 爾前四十余年の経経は各時機に随つて 而も興廃有るが故に多分は浄土の三部経より已前に滅尽
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01 有る可きか、諸経に於ては多く 三乗現身の得道を説く故に末代に於ては現身得道の者之少きなり 十方の往生浄土
02 は多くは末代の機に蒙らしむ、 之に就て西方極楽は娑婆隣近なるが故に 最下の浄土なるが故に日輪東に出で西に
03 没するが故に諸経に多く之を勧む、 随つて浄土の祖師のみ独り此の義を勧むるのみに非ず 天台妙楽等も亦爾前の
04 経に依るの日は且らく此の筋あり、 亦独り人師のみに非ず竜樹・天親も此の意有り、是れ一義なり、亦仁王経等の
05 如きは浄土の三部経より尚久く末法万年の後・八千年住す可しとなり、故に爾前の諸経に於ては一定すべからず。
06   第二に法華涅槃と浄土の三部経との久住・不久住とを明さば、問うて云く法華・涅槃と浄土の三部経と何れが先
07 に滅すべきや、 答えて云く法華涅槃より已前に浄土の三部経は滅す可きなり、 問うて云く何を以て之を知るや、
08 答えて云く無量義経に四十余年の大部の諸経を挙げ了つて「未顕真実」と云う故に雙観経等の「特り此の経を留む」
09 の言は皆方便なり虚妄なり、 華厳・方等・般若・観経等の速疾歴劫の往生成仏は無量義経の実義を以て之を検うる
10 に無量無辺不可思議阿僧祇劫を過ぐれども 終に無上菩提を成ずることを得ず、 乃至・険き逕を行くに留難多きが
11 故にと云う経なり、 往生成仏倶に別時意趣なり、 大集・雙観経等の住滅の先後は皆随宜の一説なり、法華経に来
12 らざる已前は彼の外道の説に同じ、 譬えば江河の大海に趣かず民臣の大王に随わざるが如し、 身を苦しめ行を作
13 すとも法華涅槃に至らずんば 一分の利益無く有因無果の外道なり、 在世滅後倶に教有つて人無く行有つて証無き
14 なり諸木は枯るると雖も 松柏は萎まず衆草は散ると雖も 鞠竹は変ぜず法華経も亦復是くの如し釈尊の三説・多宝
15 の証明・諸仏の舌相偏に令法久住に在るが故なり。
16   問うて云く諸経滅尽の後特り法華経のみ留る可き証文如何、 答えて云く法華経の法師品に釈尊自ら流通せしめ
17 て云く 「我が所説の経典無量千万億已に説き今説き当に説かん 而も其の中に於て此の法華経最も為れ難信難解な
18 り」と云云、 文の意は一代五十年の已今当の三説に於て最第一の経なり、 八万聖教の中に殊に未来に留めんと欲
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01 して説き給えるなり、 故に次の品に多宝如来は地より涌出し 分身の諸仏は十方より一処に来集し釈迦如来は諸仏
02 を御使として八方・四百万億那由佗の世界に充満せる菩薩・二乗・人天・八部等を責めて多宝如来並に十方の諸仏・
03 涌出来集の意趣は偏に令法久住の為なり、 各三説の諸経滅尽の後・ 慥に未来五濁難信の世界に於て此の経を弘め
04 んとの誓言を立てよと云える時に 二万の菩薩・八十万億那由佗の菩薩・各誓状を立てて云く「我身命を愛せず但無
05 上道を惜む」と、 千世界の微塵の菩薩・文殊等皆誓つて云く「我等仏の滅後に於て、乃至・当に広く此の経を説く
06 べし」と云云、 其の後・仏十喩を挙げ給う、 其の第一の喩は川流江河を以て四十余年の諸経に譬え法華経を以て
07 大海に譬う、 末代濁悪の無慚無愧の大旱魃の時・ 四味の川流江河は渇ると雖も 法華経の大海は減少せず等と説
08 き了つて、次下に正しく説いて云く 「我滅度の後・後の五百歳の中に広宣流布し閻浮提に於て断絶せしむること無
09 けん」と定め了んぬ。
10   倩文の次第を案ずるに我滅度後の次の後の字は 四十余年の諸経滅尽の後の後の字なり、 故に法華経の流通た
11 る涅槃経に云く 「応に無上の仏法を以て諸の菩薩に付すべし諸の菩薩は 善能く問答するを以てなり是くの如き法
12 宝は 則ち久住することを得・無量千世にも増益熾盛にして衆生を利安すべし」已上此の如き等の文は法華涅槃は無
13 量百歳にも絶ゆ可からざる経なり、 此の義を知らざる世間の学者・ 大集権門の五五百歳の文を以て此の経に同じ
14 浄土の三部経より已前に滅尽す可しと存ずる立義は一経の先後起尽を忘れたるなり。
15  問うて云く上に挙ぐる所の曇鸞・道綽・善導・慧心等の諸師は皆法華・真言等の諸経に於て末代不相応の釈を作る
16 之に依つて源空並に所化の弟子・法華・真言等を以て雑行と立て難行道と疎み、行者をば群賊・悪衆・悪見の人等と
17 罵り、或は祖父が履に類し聖光房の語或は絃歌等にも劣ると云う南無房の語其の意趣を尋ぬれば偏に時機不相応の義
18 を存するが故なり、此等の人師の釈をば如何に之を会すべきや、答えて云く釈迦如来一代五十年の説教・一仏の金言
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01 に於て権実二教を分ち 権経を捨てて実経に入らしむる仏語顕然たり、 此に於て若但讃仏乗・衆生没在苦の道理を
02 恐れ且らく四十二年の権経を説くと雖も若以小乗化・ 乃至於一人我則堕慳貪の失を脱れんが為に 入大乗為本の義
03 を存し本意を遂げ法華経を説き給う。
04   然るに涅槃経に至つて我滅度せば必ず四依を出して 権実二教を弘通せしめんと約束し了んぬ、故に竜樹菩薩は
05 如来の滅後八百年に出世して十住毘婆沙等の権論を造りて華厳・方等・般若等の意を宣べ 大論を造りて般若法華の
06 差別を分ち、 天親菩薩は如来の滅後・九百年に出世して倶舎論を造りて 小乗の意を宣べ唯識論を造りて方等部の
07 意を宣べ最後に仏性論を造りて法華涅槃の意を宣べ 了教不了教を分ちて敢て仏の遺言に違わず、 末の論師並に訳
08 者の時に至つては一向に権経に執するが故に 実経を会して権経に入れ権実雑乱の失・出来せり、 亦人師の時に至
09 つては各依憑の経を以て本と為すが故に余経を以て権経と為す是より弥仏意に背く。
10   而るに浄土の三師に於ては鸞・綽の二師は十住毘婆沙論に依つて難易・聖浄の二道を立つ若し本論に違して法華
11 真言等を以て難易の内に入れば信用に及ばじ、 随つて浄土論註並に安楽集を見るに多分は本論の意に違わず、 善
12 導和尚は亦浄土の三部経に依つて弥陀称名等の一行一願の往生を立つる時・梁・陳・隋・唐の四代の摂論師総じて一
13 代聖教を以て別時意趣と定む、 善導和尚の存念に違するが故に摂論師を破する時・ 彼の人を群賊等に譬う順次生
14 の功徳を賊するが故に 其の所行を難行と称することは 必ず万行を以て往生の素懐を遂ぐる故に此の人を責むる時
15 に千中無一と嫌えり、是の故に善導和尚も雑行の言の中に敢えて法華真言等を入れず。
16   日本国の源信僧都は亦叡山第十八代の座主・慈慧大師の御弟子なり 多くの書を造れることは皆法華を弘めんが
17 為なり、 而るに往生要集を造る意は 爾前四十余年の諸経に於て往生・成仏の二義有り成仏の難行に対して往生易
18 行の義を存し往生の業の中に於て 菩提心観念の念仏を以て最上と為す、 故に大文第十の問答料簡の中・第七の諸
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01 行勝劣門に於ては念仏を以て最勝と為し 次下に爾前最勝の念仏を以て 法華経の一念信解の功徳に対して勝劣を判
02 ずる時・一念信解の功徳は 念仏三昧より勝るる百千万倍なりと定め給えり、 当に知るべし往生要集の意は爾前最
03 上の念仏を以て法華最下の功徳に対して 人をして法華経に入らしめんが為に造る所の書なり、 故に往生要集の後
04 に一乗要決を造つて自身の内証を述ぶる時・法華経を以て本意と為すなり。
05   而るに源空並に所化の衆此の義を知らざるが故に 法華真言を以て三師並に源信所破の難聖雑並に往生要集の序
06 の顕密の中に入れて 三師並に源信を法華真言の謗法の人と為す、 其の上日本国の一切の道俗を化して法華真言に
07 於て時機不相応の旨を習わしめ 在家出家の諸人に於て 法華真言の結縁を留む豈仏の記し給う所の「悪世中比丘邪
08 智心諂曲」の人に非ずや、亦則ち一切世間の仏種を断ずの失を免る可けんや。
09  其の上・山門・寺門.東寺・天台並に日本国中に法華真言を習う諸人を群賊・悪衆.悪見の人等に譬うる源空が重罪
10 何れの劫にか其の苦果を経尽す可きや、 法華経の法師品に持経者を罵る罪を説いて云く 「若し悪人有つて不善の
11 心を以て一劫の中に於て 現に仏前に於て常に仏を毀罵せん其の罪尚軽し若し人・ 一つの悪言を以て在家出家の法
12 華経を読誦する者を毀シせん其の罪甚だ重し」已上経文一人の持者を罵る罪すら尚是くの如し況や書を造り日本国の
13 諸人に罵らしむる罪をや、 何に況や此の経を千中無一と定めて法華経を行ずる人に疑を生ぜしむる罪をや、 何に
14 況や此の経を捨てて 観経等の権経に遷らしむる謗法の罪をや、 願わくば一切の源空が所化の四衆 頓に選択集の
15 邪法を捨てて忽に法華経に遷り今度阿鼻の炎を脱れよ。
16   問うて云く正しく源空が法華経を誹謗する証文如何、 答えて云く法華経の第二に云く「若し人信ぜずして斯の
17 経を毀謗せば則一切世間の仏種を断ぜん」 経文不信の相貌は人をして法華経を捨てしむればなり、故に天親菩薩の
18 仏性論の第一に此の文を釈して云く 「若し大乗に憎背する者此は是れ一闡提の因なり 衆生をして此の法を捨てし
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01 むるを為の故に」論文謗法の相貌は此の法を捨てしむるが故なり、 選択集は人をして法華経を捨てしむる書に非ず
02 や閣抛の二字は 仏性論の憎背の二字に非ずや、 亦法華経誹謗の相貌は四十余年の諸経の如く小善成仏を以て別時
03 意趣と定むる等なり。
04   故に天台の釈に云く 「若し小善成仏を信ぜずんば則世間の仏種を断ずるなり」妙楽重ねて此の義を宣べて云く
05 「此の経は遍く六道の仏種を開す若し此の経を謗ぜば義.断に当るなり」釈迦多宝十方の諸仏・天親.天台・妙楽の意
06 の如くんば源空は謗法の者なり 所詮選択集の意は人をして 法華真言を捨てしめんと定めて書き了んぬ 謗法の義
07 疑い無き者なり。
08   大文の第三に選択集謗法の縁起を出さば、問うて云く何れの証拠を以て源空を謗法の者と称するや、 答えて云
09 く選択集の現文を見るに一代聖教を以て二つに分つ一には聖道・難行・雑行・二には浄土・易行・正行なり、其の中
10 に聖.難.雑と云うは華厳・阿含.方等.般若・法華.涅槃・大日経等なり取意浄.易・正とは浄土の三部経の称名念仏等
11 なり取意聖.難・雑の失を判ずるには末代の凡夫之を行ぜば百の時に希に一二を得.千の時に希に三五を得ん或は千が
12 中に一も無し或は群賊.悪衆・邪見・悪見・邪雑の人等と定むるなり、浄・易.正の得を判ずるには末代の凡夫之を行
13 ぜば十は即十生し百は即百生せん等なり謗法の邪義是なり。
14   問うて云く一代聖教を聖道.浄土・難行・易行・正行・雑行と分ち其の中に難.聖・雑を以て時機不相応と称する
15 こと源空一人の新義に非ず曇鸞・道綽・善導の三師の義なり、此亦此等の人師の私の案に非ず其の源は竜樹菩薩の十
16 住毘婆沙論より出でたり、 若し源空を謗法の者と称せば竜樹菩薩並に三師を謗法の者と称するに非ずや、 答えて
17 云く竜樹菩薩並に三師の意は 法華已前の四十余年の経経に於て難易等の義を存す、 而るに源空より已来竜樹並に
18 三師の難行等の語を借りて法華真言等を以て難・雑等の内に入れぬ、 所化の弟子・師の失を知らずして此の邪義を
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01 以て正義と存じ此の国に流布せしむるが故に 国中の万民悉く法華・真言に於て時機不相応の想を作す、 其の上世
02 間を貪る天台真言の学者世の情に随わんが為に 法華真言に於て時機不相応の悪言を吐いて 選択集の邪義を扶け、
03 一旦の欲心に依つて釈迦多宝並に十方諸仏の御評定の 「令法久住・於閻浮提広宣流布」の誠言を壊り一切衆生をし
04 て三世十方の諸仏の舌を切る罪を得せしむ、 偏に是れ悪世の中の比丘は邪智にして 心諂曲に未だ得ざるを為得た
05 りと謂い、乃至・悪鬼其の身に入り仏の方便随宜所説の法を知らざる故なり。
06   問うて云く竜樹菩薩並に三師は法華真言等を以て難・聖・雑の中に入れざりしを源空私に之を入るるとは何を以
07 て之を知るや、 答えて云く遠く余処に証拠を尋ぬ可きに非ず即選択集に之を見たり、 問うて云く其の証文如何、
08 答えて云く選択集の第一篇に云く 道綽禅師・聖道浄土の二門を立て 而して聖道を捨てて正しく浄土に帰するの文
09 と約束し了つて、次下に安楽集を引いて私の料簡の段に云く 「初に聖道門とは之に就て二有り・一には大乗・二に
10 は小乗なり大乗の中に就て顕密権実等の不同有りと雖も 今此の集の意は唯顕大及以び権大を存す故に 歴劫迂回の
11 行に当る之に準じて之を思うに応に密大及以び実大をも存すべし」已上選択集の文なり、 此の文の意は道綽禅師の
12 安楽集の意は法華已前の大小乗経に於て聖道浄土の二門を分つと雖も 我私に法華・真言等の実大・密大を以て四十
13 余年の権大乗に同じて聖道門と称す「準之思之」の四字是なり、 此の意に依るが故に亦曇鸞の難易の二道を引く時
14 亦私に法華真言を以て難行道の中に入れ 善導和尚の正雑二行を分つ時も亦 私に法華真言を以て雑行の内に入る総
15 じて選択集の十六段に亘つて無量の謗法を作す根源は偏に此の四字より起る誤れるかな畏しきかな。
16   爰に源空の門弟・師の邪義を救つて云く諸宗の常の習い 設い経論の証文無しと雖も義類の同じきを聚めて一処
17 に置く而も選択集の意は 法華真言等を集めて雑行の内に入れ正行に対して之を捨つ 偏に経の法体を嫌うに非ず但
18 風勢無き末代の衆生を常没の凡夫と定め 此の機に易行の法を撰ぶ時・称名の念仏を以て 其の機に当て易行の法を
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01 以て諸教に勝ると立つ権実浅深の勝劣を詮ずるに非ず、 雑行と云うも嫌つて雑と云うに非ず 雑と云うは不純を雑
02 と云う其の上諸の経論並に諸師も此の意無きに非ず故に叡山の先徳の往生要集の意偏に是の義なり。
03   所以に往生要集の序に云く 「顕密の教法は其の文一に非ず事理の業因其の行惟れ多し利智精進の人は未だ難し
04 と為ず予が如き頑魯の者豈敢てせんや 是の故に念仏の一門に依る」と云云、 此の序の意は慧心先徳も法華真言等
05 を破するに非ず 但偏に我等頑魯の者の機に当つて法華真言は聞き難く行じ難きが故に 我身鈍根なるが故なり敢て
06 法体を嫌うに非ず、 其の上序より已外正宗に至るまで十門有り大文第八の門に述べて云く 「今念仏を勧むること
07 是れ余の種種の妙行を遮するに非ず 只是れ男女・貴賎・行住坐臥を簡ばず時処諸縁を論ぜず之を修するに難からず
08 乃至・臨終には往生を願求するに其の便宜を得ること念仏には如かず」已上此等の文を見るに源空の選択集と源信の
09 往生要集と一巻三巻の不同有りと雖も 一代聖教の中には易行を撰んで 末代の愚人を救わんと欲する意趣は但同じ
10 事なり、源空上人・法華真言を難行と立てて 悪道に堕せば慧心先徳も亦此の失を免るべからず如何、 答えて云く
11 汝・師の謗法の失を救わんが為に事を 源信の往生要集に寄せて謗法の上に弥重罪を招く者なり 其の故は釈迦如来
12 五十年の説教に総じて先き四十二年の意を無量義経に定めて云く 「険逕を行くに留難多き故に」と無量義経の已後
13 を定めて云く「大直道を行くに留難無きが故に」と仏自ら難易・勝劣の二道を分ちたまえり、 仏より外等覚已下末
14 代の凡師に至るまで自義を以て難易の二道を分ち此の義に背く者は外道魔王の説に同じきか、 随つて四依の大士・
15 竜樹菩薩の十住毘婆沙論には法華已前に於て 難易の二道を分ち敢て四十余年已後の経に於て 難行の義を存せず、
16 其の上若し修し易きを以て易行と定めば 法華経の五十展転の行は称名念仏より行じ易きこと百千万億倍なり、 若
17 し亦勝を以て易行と定めば分別功徳品に爾前四十余年の八十万億劫の間の檀・戒・忍・進・念仏三昧等先きの五波羅
18 蜜の功徳を以て法華経の一念信解の功徳に比するに 一念信解の功徳は念仏三昧等の先きの五波羅蜜に勝るる事 百
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01 千万億倍なり、難易・勝劣と云い行浅功深と云い 観経等の念仏三昧を法華経に比するに難行の中の極難行・劣が中
02 の極劣なり。
03   其の上悪人愚人を扶くること亦教の浅深に依る 阿含十二年の戒門には現身に四重五逆の者に得道を許さず、華
04 厳方等般若雙観経等の諸経は阿含経より教深き故に 勧門の時は重罪の者を摂すと雖も 猶戒門の日は七逆の者に現
05 身の受戒を許さず、 然りと雖も決定性の二乗・無性の闡提に於て誡勧共に之を許さず、 法華涅槃等には唯五逆七
06 逆謗法の者を摂するのみに非ず 亦定性無性をも摂す、 就中末法に於ては常没の闡提之多し 豈観経等の四十余年
07 の諸経に於て之を扶く可けんや 無性の常没・決定性の二乗は 但法華涅槃等に限れり、四十余年の経に依る人師は
08 彼の経の機と取る此の人は未だ教相を知らざる故なり。
09   但し往生要集は一往序分を見る時は法華真言等を以て顕密の内に入れて 殆ど末代の機に叶わずと書すと雖も文
10 に入つて委細に一部三巻の始末を見るに、 第十の問答料簡の下に正しく諸行の勝劣を定むる時・観仏三昧・般舟三
11 昧・十住毘婆沙論・宝積・大集等の爾前の経論を引いて一切の万行に対して念仏三昧を以て王三昧と立て了んぬ、最
12 後に一つの問答有り爾前の禅定・念仏三昧を以て法華経の一念信解に対するに 百千万億倍劣ると定む、 復問を通
13 ずる時念仏三昧を万行に勝るると云うは爾前の当分なりと云云、 当に知るべし 慧心の意は往生要集を造つて末代
14 の愚機を調えて法華経に入れんが為なり、例せば仏の四十余年の経を以て権機を調え法華経に入れ給うが如し。
15   故に最後に一乗要決を造る其の序に云く「諸宗の権実は古来の諍いなり倶に経論に拠て互いに是非を執す、 余
16 寛弘丙午の歳冬十月病中に歎いて云く仏法に遇うと雖も 仏意を了せず若し終に手を空うせば後悔何ぞ追わん、 爰
17 に経論の文義・賢哲の章疏或は人をして尋ねしめ 或は自ら思択し全く自宗他宗の偏党を捨つる時・専ら権智実智の
18 深奥を深ぐるに 終に一乗は真実の理・五乗は方便の説を得る者なり、 既に今生の蒙を開く何ぞ夕死の恨を残さん
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01 や」已上此の序の意は偏に慧心の本意を顕すなり、 自宗他宗の偏党を捨つるの時浄土の法門を捨てざらんや一乗は
02 真実の理と得る時専ら法華経に依るに非ずや、 源信僧都は永観二年甲申の冬十一月往生要集を造り 寛弘二年丙午
03 の冬十月の比・一乗要決を作る 其の中間二十余年なり権を先にし実を後にする宛も仏の如く亦竜樹・天親・天台等
04 の如し、 汝往生要集を便りとして師の謗法の失を救わんと欲すれども 敢えて其の義類に似ず義類の同じきを以て
05 一処に聚むとならば何等の義類同なるや、 華厳経の如きは二乗界を隔つるが故に 十界互具無し方等・般若の諸経
06 は亦十界互具を許さず観経等の往生極楽も亦 方便の往生なり成仏往生倶に法華経の如き往生に非ず 皆別時意趣の
07 往生成仏なり。
08   其の上源信僧都の意は四威儀に行じ易き故に 念仏を以て易行と云い四威儀に行じ難きが故に法華を以て難行と
09 称せば天台・妙楽の釈を破する人なり所以に 妙楽大師の末代の鈍者無智の者等の 法華経を行ずるに普賢菩薩並に
10 多宝十方の諸仏を見奉るを易行と定めて云く 「散心に法華を誦し禅三昧に入らず坐立行・一心に法華の文字を念ぜ
11 よ」已上 此の釈の意趣は末代の愚者を摂せんが為なり散心とは定心に対する語なり誦法華とは八巻一巻一字一句一
12 偈題目一心一念随喜の者 五十展転等なり坐立行とは四威儀を嫌わざるなり 一心とは定の一心に非ず理の一心に非
13 ず散心の中の一心なり 念法華文字とは此の経は諸経の文字に似ず一字を誦すと雖も 八万宝蔵の文字を含み一切諸
14 仏の功徳を納むるなり天台大師玄義の八に云く「手に巻を執らざれども常に是の経を読み口に言声無けれどもアマネ
15 く衆典を誦し仏・説法せざれども 恒に梵音を聞き心に思惟せざれども普く法界を照す」已上此の文の意は手に法華
16 経一部八巻を執らざれども是の経を信ずる人は 昼夜十二時の持経者なり口に読経の声を出さざれども 法華経を信
17 ずる者は日日時時念念に一切経を読む者なり。
18   仏の入滅は既に二千余年を経たり然りと雖も法華経を信ずる者の許に仏の音声を留めて時時・刻刻・念念に我死
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01 せざる由を聞かしむ心に一念三千を観ぜざれども 偏く十方法界を照す者なり 此等の徳は偏に法華経を行ずる者に
02 備わるなり、 是の故に法華経を信ずる者は設い臨終の時・ 心に仏を念ぜず口に経を誦せず道場に入らざれども心
03 無くして法界を照し音無くして一切経を誦し巻軸を取らずして 法華経八巻を拳る徳之有り 是れ豈権教の念仏者の
04 臨終正念を期して・十念の念仏を唱えんと欲する者に・百千万倍勝るる易行に非ずや、 故に天台大師文句の十に云
05 く「都て諸教に勝るるが故に随喜功徳品と云う」 妙楽大師の法華経は諸経より浅機を取る而るを人師此の義を弁え
06 ざる故に 法華経の機を深く取る事を破して云く 「恐らくは人謬つて解する者初心の功徳の大なることを測らずし
07 て功を上位に推り此の初心を蔑る故に今彼の行は浅く功は深きことを示して以て経力を顕す」已上 以顕経力の釈の
08 意趣は法華経は観経等の権経に勝れたるが故に 行は浅く功は深し浅機を摂むる故なり、 若し慧心の先徳・法華経
09 を以て念仏より難行と定め 愚者頑魯の者を摂せずと云わば恐らくは逆路伽耶陀の罪を招かざらんや、 恐人謬解の
10 内に入らざらんや。
11   総じて天台・妙楽の三大部の本末の意には法華経は諸経に漏れたる愚者・悪人・女人・常没闡提等を摂し給う他
12 師仏意を覚らざる故に法華経を諸経に同じ 或は地住の機を取り或は凡夫に於ても別時意趣の義を存す、 此等の邪
13 義を破して人天四悪を以て法華経の機と定む、 種類相対を以て過去の善悪を収む 人天に生ずる人豈過去の五戒十
14 善無からんや等と定め了んぬ、 若し慧心此の義に背かば豈天台宗を知れる人ならんや、 而るを源空深く此の義に
15 迷うが故に往生要集に於て 僻見を起し自ら失ち他をも誤る者なり、 適宿善有つて実教に入りながら 一切衆生を
16 化して権教に還らしめ 剰え実教を破せしむ豈悪師に非ずや、 彼の久遠下種・大通結縁の者の如き五百・三千の塵
17 劫を経るが如きは法華の大教を捨てて 爾前の権小に遷るが故に後に権経を捨てて 六道を回りぬ不軽軽毀の衆は千
18 劫阿鼻地獄に堕つ、権師を信じ実経を弘むる者に誹謗を作したるが故なり。
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01   而るに源空我が身唯実経を捨てて 権経に入るのみに非ず人を勧めて実経を捨てて権経に入らしめ亦権人をして
02 実経に入らしめず剰え実経の行者を罵るの罪永劫にも浮び難からんか。
03   問うて云く十住毘婆沙論は一代の通論なり難易の二道の内に何ぞ法華・真言・涅槃を入れざるや、答えて云く一
04 代の諸大乗経に於て華厳経の如きは 初頓後分有り初頓の華厳は二乗の成不成を論ぜず 方等部の諸経には一向に二
05 乗・無性闡提の成仏を斥う 般若部の諸経も之に同じ総じて四十余年の諸大乗経の意は法華・涅槃・大日経等の如く
06 には二乗.無性の成仏を許さず,此等を以て之をカンガうるに爾前法華の相違は水火の如し滅後の論師.竜樹.天親も亦
07 倶に千部の論師なり所造の論に 通別の二論有り通論に於ても亦二有り四十余年の通論と一代五十年の通論となり、
08 其の差別を分つに決定性の二乗・無性闡提の成不成を以て論の権実を定むるなり、 而るに大論は竜樹菩薩の造・羅
09 什三蔵の訳なり此の論にも亦二乗作仏を許さず 之を以て知んぬ法華已前の諸大乗経の意を申べたる論なることを。
10   問うて云く十住毘婆沙論の何処に二乗作仏を許さざるの文出でたるや、 答えて云く十住毘婆沙論の第五に云く
11 「若し声聞地及び辟支仏地に堕する 是を菩薩の死と名く則ち一切の利を失す 若し地獄に堕すとも是の如き畏れを
12 生ぜじ若し 二乗地に堕すれば則ち大怖畏と為す地獄の中に堕すとも 畢竟して仏に至ることを得・若し二乗地に堕
13 すれば畢竟して仏道を遮す」已上此の文二乗作仏を許さず宛も浄名等の「於仏法中以如敗種」の文の如し。
14   問うて云く大論は般若経に依つて二乗作仏を許さず 法華経に依つて二乗作仏を許すの文如何、答えて云く大論
15 の一百に云く 「問うて云く更に何の法か甚深にして 般若に勝れたる者あれば而も般若を以て阿難に属累し余経を
16 以て菩薩に属累するや、 答えて云く般若波羅蜜は秘密の法に非ず 而るに法華等の諸経は阿羅漢の受決作仏を説く
17 所以に大菩薩能く受けて持用す 譬えば大薬師の能く毒を以て薬と為すが如し」と、 亦九十三に云く 「阿羅漢の
18 成仏は論義者の知る所に非ず 唯仏のみ能く了し給う」已上 此等の文を以て之を思うに論師の権実は宛も仏の権実
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01 の如し而るを権経に依る人師 猥りに法華等を以て観経等の権説に同じ法華・涅槃等の義を仮りて 浄土三部経の徳
02 と作し決定性の二乗・無性の闡提・常没の往生を許す権実雑乱の失脱れ難し、 例せば外典の儒者・内典を賊みて外
03 典を荘るが如し謗法の失免れ難きか 仏自ら権実を分ち給う其の詮を探るに 決定性の二乗・無性有情の成・不成是
04 なり、而るに此の義を弁えざる訳者・爾前の経経を訳する時・二乗の作仏・無性の成仏を許す此の義を知る訳者は爾
05 前の経を訳する時・二乗の作仏無性の成仏を許さず、 之に依つて仏意を覚らざる人師も亦爾前の経に於て決定性・
06 無性の成仏を明すと見て 法華と爾前と同じき思いを作し 或は爾前の経に於て決定無性を嫌う文を見・此の義を以
07 て了義経と為し法華・涅槃を以て不了義経と為す 共に仏意を覚らず権実二経に迷えり 、此等の誤りを出さば但源
08 空一人に限るのみに非ず 天竺の論師並に訳者より唐土の人師に至るまで其の義有り、 所謂地論師・摂論師の一代
09 の別時意趣・善導・懐感の法華経の一称南無仏の別時意趣・此等は皆権実を弁えざるが故に出来する所の誤りなり、
10 論を造る菩薩・経を訳する三蔵・三昧発得の人師猶以て是くの如し况や末代の凡師に於てをや。
11   問うて云く汝末学の身として何ぞ論師並に訳者人師を破するや、 答えて云く敢て此の難を致すこと勿れ摂論師
12 並に善導等の釈は権実二教を弁えずして 猥りに法華経を以て別時意趣と立つ故に天台妙楽の釈と水火を作す間・且
13 らく人師の相違を閣いて経論に付て是非をカンガうる時権実の二教は仏説より出でたり天親・竜樹重ねて之を定む、
14 此の義に順ずる人師をば且らく之を仰ぎ 此の義に順ぜざる人師をば 且らく之を用いず敢て自義を以て是非を定む
15 るに非ず但相違を出す計りなり。
16   大文の第四に謗法の者を対治すべき証文を出さば、 此れに二有り、一には仏法を以て国王大臣並に四衆に付属
17 することを明し、 二には正しく謗法の人・王地に処るをば対治す可き証文を明す、 第一に仏法を以て国王大臣並
18 に四衆に付属することを明さば、 仁王経に云く「仏・波斯匿王に告わく、乃至・是の故に 諸の国王に付属して比
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01 丘・比丘尼・清信男・清信女に付属せず何を以ての故に王の威力無きが故に、乃至・此の経の三宝をば諸の国王・四
02 部の弟子に付属す」已上 大集経二十八に云く「若し国王有つて我が法の滅せんことを見て捨てて擁護せずんば無量
03 世に於て施戒慧を修すとも悉く皆滅失し其の国に三種の不祥の事を出さん、 乃至・命終して大地獄に生ぜん」已上
04 仁王経の文の如くならば 仏法を以て先ず国王に付属し 次に四衆に及ぼす王位に居る君・国を治むる臣は仏法を以
05 て先と為し国を治む可きなり、 大集経の文の如くならば王臣等・仏道の為に無量劫の間・頭目等の施を施し八万の
06 戒行を持ち無量の仏法を学ぶと雖も 国に流布する所の法の邪正を直さざれば国中に大風・旱魃・大雨の三災起りて
07 万民を逃脱せしめ王臣定めて三悪に堕せん、 又雙林最後の涅槃経の第三に云く「今正法を以て諸王・大臣・宰相・
08 比丘・比丘尼.優婆塞・優婆夷に付属す、乃至・法を護らざる者をば禿居士と名く」又云く「善男子.正法を護持せん
09 者は五戒を受けず威儀を修せずして応に刀剣・弓箭・ 鉾槊を持つべし」又云く「五戒を受けざれども正法を護るを
10 為て乃ち大乗と名く正法を護る者は応に刀剣・器杖を執持すべし」云云 四十余年の内にも梵網等の 戒の如くなら
11 ば国王大臣の諸人等も一切刀杖・弓箭・矛斧闘戦の具を畜うることを得ず、 若し此を畜うる者は定めて現身に国王
12 の位・比丘・比丘尼の位を失い後生は三悪道の中に堕つ可しと定め了んぬ。
13   而るに今の世は道俗を択ばず弓箭・刀杖を帯せり梵網経の文の如くならば 必ず三悪道に堕せんこと疑無き者な
14 り、涅槃経の文無くんば如何にしてか之を救わん 亦涅槃経の先後の文の如くならば 弓箭・刀杖を帯して悪法の比
15 丘を治し正法の比丘を守護せん者は先世の四重五逆を滅して必ず無上道を証せんと定め給う。
16   亦金光明経の第六に云く 「若し人有つて其の国土に於て此の経有りと雖も未だ嘗て流布せず捨離の心を生じ聴
17 聞せんことを楽わず亦供養し尊重し讃歎せず四部の衆の持経の人を見て 亦復尊重し乃至供養すること能わず、 遂
18 に我等及び余の眷属・無量の諸天をして 此の甚深の妙法を聞くことを得ざらしめん 甘露の味に背き正法の流れを
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01 失い威光及以び勢力有ること無く 悪趣を増長し人天を損減し 生死の河に墜ちて涅槃の路に乖かん世尊・我等四王
02 並に諸の眷属及び薬叉等 斯くの如き事を見て其の国土を捨てて 擁護の心無からん但我等のみ是の王を捨棄するに
03 非ず亦無量の国土を守護する諸大善神有らんも 皆悉く捨去せん 既に捨離し已りなば 其の国当に種種の災禍有つ
04 て国位を喪失すべし 一切の人衆皆善心無けん唯繋縛殺害瞋諍のみ有つて互に相讒諂し枉げて辜無きに及ばん、 疫
05 病流行し彗星数数出で 両日並び現じ薄蝕恒無く黒白の二虹不祥の相を表わし 星流れ地動き井の内に声を発し暴雨
06 悪風時節に依らず 常に飢饉に遭いて苗実も成らず多く他方の怨賊有つて 国内を侵掠し人民諸の苦悩を受け土地所
07 楽の処有る事無けん」已上。
08   此の経文を見るに世間の安穏を祈るとも而も 国に三災起らば悪法流布する故なりと知る可し而るに当世は随分
09 国土の安穏を祈ると雖も 去る正嘉元年には大地・大に動じ同二年に大雨大風苗実を失えり 定めて国を喪うの悪法
10 此の国に有るかと勘うるなり、 選択集の或る段に云く 「第一に読誦雑行とは上の観経等の往生浄土の経を除いて
11 已外・大小顕密の諸経に於て受持読誦する悉く読誦雑行と名く」 と書き了つて次に書いて云く「次に二行の得失を
12 判ぜば法華真言等の雑行は失・浄土の三部経は得なり」次下に善導和尚の往生礼讃の十即十生・百即百生・千中無一
13 の文を書き載せて云く 「私に云く此の文を見るに弥よ雑を捨てて 専を修すべし 豈百即百生の専修正行を捨てて
14 堅く千中無一の雑修雑行を執せんや行者能く之を思量せよ」已上、此等の文を見るに世間の道俗豈諸経を信ず可けん
15 や、 次下に亦書して法華経等の雑行と念仏の正行と勝劣難易を定めて云く「一には勝劣の義・二には難易の義なり
16 初に勝劣の義とは念仏は是れ勝・余行は是れ劣なり次に難易の義とは念仏は修し易く諸行は修し難し」と、 亦次下
17 に法華真言等の失を定めて云く 「故に知んぬ諸行は機に非ず時を失う念仏往生のみ機に当り時を得たり」亦次下に
18 法華・真言等の雑行の門を閉じて云く「随他の前には暫らく定散の門を開くと雖も 随自の後には還つて定散の門を
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01 閉ず一度開て以後永く閉じざるは唯・是れ念仏の一門なり」已上 最後の述懐に云く「夫れ速に生死を離れんと欲せ
02 ば二種の勝法の中に且らく聖道門を閣いて撰んで 浄土門に入れ浄土門に入らんと欲せば 正雑二行の中に且らく諸
03 の雑行を抛つて撰んで応に正行に帰すべし」已上門弟此の書を伝えて日本六十余州に充満するが故に門人・世間無智
04 の者に語つて云く 「上人は智慧第一の身と為て此の書を造り 真実の義と定め法華真言の門を閉じて後に開くの文
05 無く抛つて後に還て取るの文無し」 等と立つる間世間の道俗一同に頭を傾け 其の義を訪う者には仮字を以て選択
06 の意を宣べ或は法然上人の物語を書す間・法華真言に於て難を付けて 或は去年の暦・祖父の履に譬え或は法華経を
07 読むは管絃より劣ると 是くの如き悪書・国中に充満するが故に法華真言等国に在りと雖も 聴聞せんことを楽わず
08 偶行ずる人有りと雖も 尊重を生ぜず一向念仏者・法華経の結縁を作すをば 往生の障と成ると云う 故に捨離の意
09 を生ず、此の故に諸天・妙法を聞くことを得ず法味を甞めざれば威光勢力有ること無し 四天王並に眷属・此の国を
10 捨て日本国守護の善神捨離し已るが故に、 正嘉元年に大地大に震い 同二年に春の大雨苗を失い夏の大旱魃に草木
11 を枯し秋の大風に菓実を失い 飢渇忽に起りて 万民を逃脱せしむること金光明経の文の如し 豈選択集の失に非ず
12 や、仏語虚しからざる故に悪法の流布有り 既に国に三災起れり而も此の悪義を対治せずんば 仏の所説の三悪を脱
13 がる可けんや、而るに近年より予「我身命を愛せず但無上道を惜む」の文を瞻る間・雪山常啼の心を起し命を大乗の
14 流布に替え強言を吐いて云く選択集を信じて後世を願わん人は 無間地獄に堕つ可しと、 爾時に法然上人の門弟選
15 択集に於て上に出す所の悪義を隠し 或は諸行往生を立て或は選択集に於て法華真言を破らざる由を称し、 或は在
16 俗に於て選択集の邪義を知らしめざる為に妄語を構えて云く日蓮は念仏を称うる人は三悪道に堕せんと云うと。
17   問うて云く法然上人の門弟・諸行往生を立つるに失有りや否や、 答えて云く法然上人の門弟と称し諸行往生を
18 立つるは逆路伽耶陀の者なり 当世も亦諸行往生の義を立つ而も 内心には一向に念仏往生の義を存し外には諸行不
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01 謗の由を聞かしむるなり、 抑此の義を立つる者は選択集の法華真言等に於て失を付け 捨閉閣抛・群賊邪見悪見邪
02 雑人・千中無一等の語を見ざるや否や。
03   第二に正しく謗法人の王地に処るを対治す可き証文を出さば、 涅槃経第三に云く「懈怠にして戒を破し正法を
04 毀る者をば王者・大臣・四部の衆応に苦治すべし 善男子是の諸の国王及び四部の衆は当に罪有るべきや不や・不な
05 り・世尊・善男子是の諸の国王及び四部の衆は尚罪有ること無し」と、又第十二に云く「我往昔を念うに閻浮提に於
06 て大国の王と作り 名を仙予と曰いき大乗経典を愛念し敬重し 其の心純善にして麁悪嫉妬慳恡有ること無かりき、
07 乃至善男子我爾の時に於て心に大乗を重んず 婆羅門の方等を誹謗するを聞き・聞き已つて 即時に其の命根を断ち
08 き善男子是の因縁を以て是より已来地獄に堕せず」已上。
09   問うて云く梵網経の文を見るに比丘等の四衆を誹謗するは波羅夷罪なり 而るに源空が謗法の失を顕わすは豈阿
10 鼻の業に非ずや、 答えて曰く涅槃経の文に云く「迦葉菩薩・世尊に言さく如来何が故ぞ彼当に阿鼻地獄に堕すべし
11 と記するや、善男子・善星比丘は多く眷属有り皆善星は是れ阿羅漢なり 是れ道果を得つと謂えり我・彼が悪邪の心
12 を壊らんと欲するが故に彼の善星は放逸を以ての故に地獄に堕せりと記す」已上 此の文に放逸とは謗法の名なり源
13 空も亦彼の善星の如く謗法を以ての故に無間に堕すべし 所化の衆此の邪義を知らざるが故に 源空を以て一切智人
14 と号し或は 勢至菩薩或は善導の化身なりと云う 彼が悪邪の心を壊らんが為の故に謗法の根源を顕わす梵網経の説
15 は謗法の者の外の四衆なり仏誡めて云く「謗法の人を見て其の失を顕わさざれば仏弟子に非ず」と、 故に涅槃経に
16 云く 「我涅槃の後其の方面に随い持戒の比丘有つて威儀具足し 正法を護持せば法を壊ぶる者を見て即ち能く駈遣
17 し呵責し徴治せよ当に知るべし是人は福を得んこと無量にして称計す可からず」 亦云く「若し善比丘あつて法を壊
18 る者を見て呵責し駈遣し挙処せずんば当に知るべし 是の人は仏法の中の怨なり 若し能く駈遣し呵責し挙処せば是
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01 我弟子真の声聞なり」已上。
02   予仏弟子の一分に入らんが為に 此の書を造り謗法の失を顕わし世間に流布す願わくば十方の仏陀此の書に於て
03 力を副え大悪法の流布を止め一切衆生の謗法を救わしめたまえ。
04   大文の第五に善知識並に真実の法に値い難きことを明さば之に付いて三有り、 一には受け難き人身値い難き仏
05 法なることを明し、 二には受け難き人身を受け値い難き仏法に値うと雖も悪知識に値うが故に 三悪道に堕するを
06 明し、三には正く末代凡夫の為の善知識を明す。
07   第一に受け難き人身値い難き仏法なることを明さば、涅槃経三十三に云く「爾の時に世尊・地の少土を取つて之
08 を爪上に置き迦葉に告げて言く、 是の土多きや十方世界の地土多きや、迦葉菩薩・仏に白して言く、世尊・爪上の
09 土は十方所有の土に比べず 善男子・人有り身を捨てて還つて人身を得・三悪の身を捨てて人身を受くることを得・
10 諸根完く具して中国に生れ 正信を具足して能く道を修習し 道を修習し已つて能く正道を修し正道を修し已つて能
11 く解脱を得・解脱を得已つて能く涅槃に入るは爪上の土の如く、 人身を捨て已つて三悪の身を得・三悪の身を捨て
12 て三悪の身を得・諸根具せずして辺地に生じ 邪倒の見を信じ邪道を修習し 解脱常楽の涅槃を得ざるは十方界の所
13 有の地土の如し」已上経文此の文は多く法門を集めて一具と為せり人身を捨てて還つて人身を受くるは爪上の土の如
14 し人身を捨てて三悪道に堕るは十方の土の如し 三悪の身を捨てて人身を受くるは 爪上の土の如く三悪の身を捨て
15 て三悪の身を得るは十方の土の如し人身を受くるは 十方の土の如く人身を受けて六根欠けざるは 爪上の土の如し
16 人身を受けて六根を欠けざれども 辺地に生ずるは十方の土の如く中国に生ずるは 爪上の土の如し中国に生ずるは
17 十方の土の如く仏法に値うは爪上の土の如し、又云く「一闡提と作らず善根を断ぜず是の如き等の涅槃の経典を信ず
18 るは爪上の土の如し乃至・一闡提と作りて諸の善根を断じ是の経を信ぜざる者は十方界所有の地土の如し」已上経文
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01   此の文の如くんば法華涅槃を信ぜずして一闡提と作るは十方の土の如く法華涅槃を信ずるは爪上の土の如し・此
02 の経文を見て弥感涙押え難し 今日本国の諸人を見聞するに多分は権教を行ず 設い身口は実教を行ずと雖も 心に
03 は亦権教を存ず。
04   故に天台大師摩訶止観の五に云く 「其の癡鈍なる者は毒気深く入つて本心を失う故に既に其れ信ぜざれば則ち
05 手に入らず、乃至・大罪聚の人なり、 乃至・設い世を厭う者も下劣の乗を翫び枝葉に攀付し狗・作務に狎れ瀰猴を
06 敬うて帝釈と為し瓦礫を崇んで是れ明珠なりとす此黒闇の人豈道を論ず可けんや」已上 、源空並に所化の衆深く三
07 毒の酒に酔うて大通結縁の本心を失う 法華涅槃に於て不信の思を作し 一闡提と作り観経等の下劣の乗に依て方便
08 称名の瓦礫を翫び 法然房のエン猴を敬うて智慧第一の帝釈と思い法華涅槃の如意珠を捨てて 如来の聖教を褊する
09 は権実二教を弁えざるが故なり。
10   故に弘決の第一に云く 「此の円頓を聞いて崇重せざる者は良に近代大乗を習う者の雑濫に由るが故なり」大乗
11 に於て権実二教を弁えざるを雑濫と云うなり、 故に末代に於て法華経を信ずる者は 爪上の土の如く法華経を信ぜ
12 ずして権教に堕落する者は十方の微塵の如し、 故に妙楽歎いて云く 「像末は情澆く信心寡薄にして円頓の教法蔵
13 に溢れ函に満れども 暫くも思惟せず便ち瞑目に至る徒に生じ徒に死す一に何ぞ痛しきや」已上 此の釈は偏に妙楽
14 大師・権者たるの間遠く日本国の当代を鑒みて記し置く所の未来記なり。
15   問うて云く法然上人の門弟の内にも一切経蔵を安置し法華経を行ずる者有り何ぞ皆謗法の者と称せんや、 答え
16 て云く 一切経を開き見て法華経を読み 難行道の由を称し選択集の悪義を扶けんが為なり 経論を開くに付て弥謗
17 法を増すこと 例せば善星の十二部経・提婆達多が六万蔵の如し 智者の由を称するは自身を重くし悪法を扶けんが
18 為なり。
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01   第二に受け難き人身を受け値い難き仏法に値うと雖も 悪知識に値うが故に三悪道に堕することを明さば仏蔵経
02 に云く「大荘厳仏の滅後に五比丘あり 一人は正道を知つて多億の人を度し 四人は邪見に住す此四人命終の後阿鼻
03 地獄に堕つ仰ぎ伏し伏に臥し 左脇に臥し右脇に臥すこと各九百万億歳なり、 乃至・若し在家出家の此の人に親近
04 せしもの並に諸の檀越凡そ六百四万億の人あり 此の四師と倶に生じ倶に死して大地獄に在つて 諸の焼煮を受く大
05 劫若し尽くれば是の四悪人及び六百四万億の人・此の阿鼻地獄より他方の大地獄の中に転生す」已上涅槃経三十三に
06 云く「爾時に城中に一の尼乾有り名を苦得と曰う、 乃至・善星・苦得に問う答えて曰く我食吐鬼の身を得・善星諦
07 に聴け、乃至・爾の時に善星即ち我所に還つて是の如き言を作す 世尊・苦得尼乾は命終の後に 三十三天に生ぜん
08 と、乃至・爾時に如来即ち迦葉と善星の所に往き給う 善星比丘遥に我来るを見・見已つて即ち悪邪の心を生ず悪心
09 を以ての故に生身に陥ち入つて阿鼻地獄に堕す」已上 善星比丘は仏の菩薩たりし時の子なり仏に随い奉り出家して
10 十二部経を受け 欲界の煩悩を壊り四禅定を獲得せり 然りと雖も悪知識たる苦得外道に値い仏法の正義を信ぜざる
11 に依つて出家の受戒・十二部経の功徳を失い 生身に阿鼻地獄に堕す 苦岸等の四比丘に親近せし六百四万億の人は
12 四師と倶に十方の大阿鼻地獄を経るなり、 今の世の道俗は選択集を貴ぶが故に 源空の影像を拝して一切経難行の
13 邪義を読む 例せば尼乾の所化の弟子が尼乾の遺骨を礼して 三悪道に堕せしが如く願わくば今の世の道俗選択集の
14 邪正を知つて後に供養恭敬を致せ爾らずんば定めて後悔有らん。
15   故に涅槃経に云く 「菩薩摩訶薩悪象等に於て心に怖畏すること無く悪知識に於ては怖畏の心を生ぜよ何を以て
16 の故に是の悪象等は唯能く身を壊りて心を壊る能わず 悪知識は二倶に壊る故に、 是の悪象等は唯一身を壊り悪知
17 識は無量の善身無量の善心を壊る 是の悪象等は唯能く不浄の臭き身を破壊す 悪知識は能く浄身及以び浄心を壊る
18 是の悪象等は能く肉身を壊り 悪知識は法身を壊る悪象の為に殺されては三趣に至らず 悪友の為に殺されては必ず
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01 三趣に至る是の悪象等は但身の怨と為り 悪知識は善法の怨と為らん 是の故に菩薩常に当に諸の悪知識を遠離すべ
02 し」已上。
03   請い願わくば今の世の道俗設い此の書を邪義と思うと雖も 且らく此の念を抛つて十住毘婆沙論を開き其の難行
04 の内に法華経の入不入をカンガがえ選択集の準之思之の四字を案じて後に是非を致せ謬つて悪知識を信じ邪法を習い
05 此の生を空うすること莫れ。
06   第三に正しく末代の凡夫の為の善知識を明さば、問うて云く善財童子は五十余の善知識に値いき其の中に普賢・
07 文殊・観音.弥勒等有り常啼・班足・妙荘厳.阿闍世等は曇無竭.普明・耆婆.二子夫人に値い奉りて生死を離れたり此
08 等は皆大聖なり仏・世を去つて後是の如きの師を得ること難しとなす 滅後に於て亦竜樹・天親も去りぬ南岳・天台
09 にも値わず如何が生死を離る可きや、 答えて云く末代に於て真実の善知識有り所謂法華涅槃是なり、 問うて云く
10 人を以て善知識と為すは常の習いなり 法を以て知識と為すに証有りや、 答えて云く人を以て知識と為すは常の習
11 いなり然りと雖も末代に於て真の知識無ければ法を以て知識と為すに多くの証有り、 摩訶止観に云く「或は知識に
12 従い或は経巻に従い上に説く所の一実の菩提を聞く」已上此の文の意は経巻を以て善知識と為す、法華経に云く「若
13 し法華経を閻浮提に行じ受持すること有らん者は応に此の念を作すべし皆是れ普賢威神の力なり」已上 此の文の意
14 は末代の凡夫 法華経を信ずるは普賢の善知識の力なり、 又云く「若し是の法華経を受持し読誦し正憶念し修習し
15 書写すること有らん者は当に知るべし是の人は 即ち釈迦牟尼仏を見るなり仏口より此の経典を聞くが如し 当に知
16 るべし是の人は釈迦牟尼仏を供養するなり」已上 此の文を見るに法華経は即ち釈迦牟尼仏なり法華経を信ぜざる人
17 の前には釈迦牟尼仏入滅を取り此の経を信ずる者の前には滅後為りと雖も仏の在世なり。
18   又云く「若し我成仏して滅度の後十方の国土に於て法華経を説く処有らば 我が塔廟是の経を聴かんが為の故に
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01 其の前に涌現し為に証明を為さん」已上此の文の意は我等法華の名号を唱えて多宝如来本願の故に必ず来りたまう、
02 又云く 「諸仏の十方世界に在つて法を説くを尽く還し一処に集めたまう」已上 釈迦多宝十方の諸仏・普賢菩薩等
03 は我等が善知識なり若し此の義に依らば 我等は亦宿善・善財・常啼・班足等にも勝れたり彼は権経の知識に値い我
04 等は実経の知識に値えばなり彼は権経の菩薩に値い我等は実経の仏菩薩に値い奉ればなり。
05  涅槃経に云く「法に依つて人に依らざれ智に依つて識に依らざれ」已上依法と云うは法華涅槃の常住の法なり不依
06 人とは法華涅槃に依らざる人なり 設い仏菩薩為りと雖も法華涅槃に依らざる仏菩薩は 善知識に非ず況や法華涅槃
07 に依らざる論師・訳者・人師に於てをや、依智とは仏に依る不依識とは等覚已下なり、今の世の世間の道俗・源空の
08 謗法の失を隠さんが為に徳を天下に挙げて 権化なりと称す依用すべからず、 外道は五通を得て能く山を傾け海を
09 竭すとも神通無き阿含経の凡夫に及ばず 羅漢を得・六通を現ずる二乗は華厳・方等・般若の凡夫に及ばず華厳・方
10 等・般若の等覚の菩薩も法華経の名字・観行の凡夫に及ばず設い神通智慧有りと雖も 権教の善知識をば用うべから
11 ず、我等常没の一闡提の凡夫法華経を信ぜんと欲するは仏性を顕わさんが為の先表なり。
12   故に妙楽大師の云く「内薫に非ざるよりは何ぞ能く悟を生ぜん故に知んぬ 悟を生ずる力は真如に在り故に冥薫
13 を以て外護と為すなり」已上 法華経より外の四十余年の諸経には十界互具無し十界互具を説かざれば内心の仏界を
14 知らず内心の仏界を知らざれば外の諸仏も顕われず 故に四十余年の権行の者は仏を見ず設い仏を見ると雖も 他仏
15 を見るなり、 二乗は自仏を見ざるが故に成仏無し爾前の菩薩も亦 自身の十界互具を見ざれば二乗界の成仏を見ず
16 故に衆生無辺誓願度の願も満足せず 故に菩薩も仏を見ず凡夫も亦十界互具を知らざるが故に 自身の仏界も顕われ
17 ず、故に阿弥陀如来の来迎も無く諸仏如来の加護も無し譬えば盲人の自身の影を見ざるが如し。
18   今法華経に至つて九界の仏界を開くが故に四十余年の菩薩・二乗・六凡始めて自身の仏界を見る此の時此の人の
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01 前に始めて仏菩薩二乗立ち給う此の時に 二乗菩薩始めて成仏し凡夫も始めて往生す、 此の故に在世滅後の一切衆
02 生の誠の善知識は法華経是なり、 常途の天台宗の学者は爾前に於て当分の得道を許せども 自義に於ては猶当分の
03 得道を許さず然りと雖も此の書に於ては其の義を尽くさず略して之を記すれば追つて之を記すべし。
04   大文の第六に法華涅槃に依る行者の用心を明さば、一代教門の勝劣・浅深・難易等に於ては先の段に既に之を出
05 す、此の一段に於ては一向に後世を念う 末代常没の五逆謗法一闡提等の愚人の為に之を注す、 略して三有り、一
06 には在家の諸人 正法を護持するを以て生死を離れ悪法を持つに依つて三悪道に堕す可きことを明し、 二には但法
07 華経の名字計りを唱えて三悪道を離る可きことを明し、三には涅槃経は法華経の為の流通と成ることを明す。
08   第一に在家の諸人正法を護持するを以て生死を離れ悪法を持つに依つて三悪道に堕す可きことを明さば、 涅槃
09 経第三に云く 「仏・迦葉に告わく能く正法を護持するの因縁を以ての故に 是の金剛身を成就することを得たり」
10 と亦云く「時に国王有り名を有徳と曰う、乃至・法を護らんが為の故に、乃至・是の破戒の諸の悪比丘と極めて共に
11 戦闘す,乃至.王是の時に於て法を聞くことを得已つて心大に歓喜し尋で即ち命終して阿シュク仏の国に生ず」已上此
12 の文の如くならば在家の諸人別の智行無しと雖も謗法の者を対治する功徳に依つて生死を離る可きなり。
13   問うて云く在家の諸人仏法を護持す可き様如何、 答えて云く涅槃経に云く「若し衆生有つて財物に貪著せば我
14 当に財を施し然して 後に是の大涅槃経を以て之を勧め読ましむべし、 乃至・先に愛語を以て其の意に随い然る後
15 に漸く当に 是の大乗大涅槃経を以て之を勧めて読ましむべし若し 凡庶の者には当に威勢を以て之に逼りて読まし
16 むべし若しキョウ慢の者には我当に其れが為に僕使と作り其の意に随順し其れをして歓喜せしめ然して後に復当に大
17 涅槃を以て之を教導すべし、 若し大乗経を誹謗する者有らば 当に勢力を以て之を摧きて伏せしめ既に摧伏し已つ
18 て然して後に勧めて大涅槃を読ましむべし、 若し大乗経を愛楽する者有らば 我躬ら当に往いて恭敬し供養し尊重
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01 し讃歎すべし」已上。
02   問うて云く 今の世の道俗偏に選択集に執して 法華涅槃に於ては自身不相応の念を作すの間・護惜建立の心無
03 く偶邪義の由を称する人有れば 念仏誹謗の者と称して悪名を天下に雨らす 斯れ等は如何、答えて云く自答を存す
04 可きに非ず仏自ら此の事を記して云く、 仁王経に云く「大王我が滅度の後・未来世の中の四部の弟子 諸の小国の
05 王・太子・王子乃ち是れ三宝を住持して護る者 転更に三宝を滅破せんこと師子の身中の虫の自ら師子を食うが如く
06 ならん外道には非ざるなり 多く我仏法を壊り大罪過を得ん正法衰薄し 民に正行無く漸く悪を為すを以て其の寿日
07 に減じて百歳に至らん人 仏法を壊りて復孝子無く六親不和にして 天神も祐けず疾疫悪鬼日に来りて侵害し災怪首
08 尾し連禍縦横して地獄餓鬼畜生に入らん」 亦次下に云く「大王未来世の中の諸の小国の王 四部の弟子自ら此の罪
09 を作らん破国の因縁、乃至・諸の悪比丘多く名利を求め 国王太子王子の前に於て 自ら破仏法の因縁破国の因縁を
10 説かん其の王別えずして此の語を信聴し、乃至・其の時に当つて正法将に滅せんこと久しからず」已上。
11   余選択集を見るに敢て此の文の未来記に違わず、 選択集は法華真言等の正法を定めて雑行難行と云い末代の我
12 等に於ては時機相応せず 之を行ずる者は千が中に一も無く仏還つて法華等を説くと雖も 法華真言の諸行の門を閉
13 じて念仏の一門を開く末代に於て之を行ずる者を 群賊等と定め当世の一切の道俗に 此の書を信ぜしめ此の義を以
14 て如来の金言と思えり、 此の故に世間の道俗に仏法建立の意無く 法華真言の正法の法水忽ちに竭き 天人減少し
15 て三悪日に増長する 偏に選択集の悪法に催されて起る所の邪見なり、 此の経文を仏記して「我滅度後」と云える
16 は正法の末八十年像法の末八百年末法の末八千年なり 選択集の出る時は像法の末・ 末法の始なれば八百年の内な
17 り仁王経の記する所の時節に当れり、 諸の小国王の王とは日本国の王なり中下品の善は粟散王是なり 「如師子身
18 中虫」とは仏弟子の源空是なり 諸悪比丘とは所化の衆是なり「説破仏法因縁破国因縁」とは上に挙る所の選択集の
0070top
01 語是なり「其王不別信聴此語」とは今の世の道俗邪義を弁えずして猥りに之を信ずるなり。
02   請い願わくば道俗法の邪正を分別して其の後正法に就て後生を願え今度人身を失い 三悪道に堕して後に後悔す
03 とも何ぞ及ばん。
04   第二に但法華経の題目計りを唱えて三悪道を離る可きことを明さば、 法華経の第五に云く「文殊師利是の法華
05 経は無量の国中に於て 乃至名字をも聞くことを得べからず」第八に云く 「汝等但能く法華名を受持する者を擁護
06 する福量る可らず」提婆品に云く 「妙法華経の提婆品を聞いて 浄心に信敬して疑惑を生ぜざらん者は地獄餓鬼畜
07 生に堕ちず」 大般涅槃経名字功徳品に云く「若し善男子善女人有つて是の経の名を聞いて悪趣に生ずと云わば是の
08 処有ること無けん」涅槃経は法華経の流通たるが故に引けるなり。
09   問うて云く但法華の題目を聞くと雖も解心無くば如何にして三悪趣を脱れんや、 答えて云く法華経流布の国に
10 生れて此の経の題名を聞き信を生ずるは 宿善の深厚なるに依れり 設い今生は悪人無智なりと雖も必ず過去の宿善
11 有るが故に此の経の名を聞いて信を致す者なるが故に悪道に堕せず。
12   問うて云く過去の宿善とは如何、 答えて云く法華経の第二に云く「若し此の経法を信受すること有らん者は是
13 の人は已に曾て過去の仏を見たてまつり 恭敬し供養し亦此の法を聞けるなり」 法師品に云く「又如来滅度の後若
14 し人有つて妙法華経の乃至・一偈一句を聞いて一念も随喜せん者は、 乃至・当に知るべし是の諸人等已に曾て十万
15 億の仏を供養せしなり」流通たる涅槃経に云く「若し衆生有つて熈連河沙等の諸仏に於て 菩提心を発し乃ち能く是
16 の悪世に於て 是の如き経典を受持して誹謗を生ぜず善男子 若し能く一恒沙等の諸仏世尊に於て菩提心を発すこと
17 有つて然る後に乃ち能く悪世の中に於て是の法を謗せず是の典を愛敬せん」已上経文。
18   此等の文の如くんば設い先に解心無くとも 此の法華経を聞いて謗ぜざるは大善の所生なり、夫れ三悪の生を受
0071top
01 くること大地微塵より多く 人間の生を受くるは爪上の土より少し、 乃至四十余年の諸経に値うことは大地微塵よ
02 りも多く法華涅槃に値うことは 爪上の土より少し上に挙ぐる所の涅槃経の三十三の文を見るに 設い一字一句なり
03 と雖も此の経を信ずる者は宿縁多幸なり。
04   問うて云く設い法華経を信ずと雖も悪縁に随わば何ぞ三悪道に堕せざらんや、 答えて云く解心無き者権教の悪
05 知識に遇うて実教を退せば 悪師を信ずる失に依つて必ず三悪道に堕す可きなり、 彼の不軽・軽毀の衆は権人なり
06 大通結縁の者の三千塵点を経しは 法華経を退して権教に遷りしが故なり、 法華経を信ずる輩は法華経の信を捨て
07 て権人に随わんより外は世間の悪業に於ては法華の功徳に及ばざる故に三悪道に堕つ可からざるなり。
08   問うて云く日本国は法華涅槃有縁の地なりや否や、 答えて云く法華経第八に云く「如来の滅後に於て閻浮提の
09 内に広く流布せしめ断絶せざらしむ」七の巻に云く 「広宣流布して閻浮提に於て断絶せしむること無けん」涅槃経
10 第九に云く「此の大乗経典大涅槃経も亦復是の如し南方の諸の菩薩の為の故に当に広く流布すべし」已上経文三千世
11 界広しと雖も仏自ら法華涅槃を以て南方流布の処と定む、南方の諸国の中に於ては日本国は殊に法華経の流布す可き
12 処なり。
13   問うて云く其の証如何、 答えて云く肇公の法華翻経の後記に云く羅什三蔵・須利耶蘇摩三蔵に値い奉りて法華
14 経を授かる時の語に云く「仏日西山に隠れ遺耀東北を照す茲の典東北の諸国に有縁なり汝慎んで伝弘せよ」已上東北
15 とは日本なり 西南の天竺より東北の日本を指すなり、 故に慧心の一乗要決に云く「日本一州円機純一なり朝野遠
16 近同じく一乗に帰し緇素貴賎悉く成仏を期す」已上 願わくば日本国の道俗選択集の久習を捨てて法華涅槃の現文に
17 依り肇公慧心の日本記を恃みて法華修行の安心を企てよ。
18   問うて云く法華経修行の者何の浄土を期す可きや、 答えて云く法華経二十八品の肝心たる寿量品に云く「我常
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01 に此の娑婆世界に在り」亦云く「我常に此処に住し」亦云く「我が此土は安穏」文此の文の如くんば本地久成の円仏
02 は此の世界に在り 此の土を捨てて何の土を願う可きや、 故に法華経修行の者の所住の処を浄土と思う可し何ぞ煩
03 しく他処を求めんや、故に神力品に云く 「若は経巻所住の処若は園中に於ても 若は林中に於ても若は樹下に於て
04 も若は僧坊に於ても若は白衣舎にても 若は殿堂に在つても若は山谷曠野にても、 乃至・当に知るべし是の処は即
05 ち是道場なり」涅槃経に云く 「善男子是の大涅槃微妙の経典流布せらるる処は 当に知るべし其の地は即ち是れ金
06 剛なり此の中の諸人も亦金剛の如し」已上 法華涅槃を信ずる行者は余処に求む可きに非ず此の経を信ずる人の所在
07 の処は即ち浄土なり。
08  問うて云く華厳・方等.般若・阿含.観経等の諸経を見るに兜率・西方・十方の浄土を勧む其の上・法華経の文を見
09 るに亦兜率・西方・十方の浄土を勧む何ぞ此等の文に違して但此の瓦礫荊棘の穢土を勧むるや、 答えて云く爾前の
10 浄土は 久遠実成の釈迦如来の所現の浄土にして実には皆穢土なり、 法華経は亦方便寿量の二品なり寿量品に至つ
11 て実の浄土を定むる時此の土は即ち浄土と定め了んぬ、 但し兜率・安養・十方の難に至つては爾前の名目を改めず
12 して此の土に於て兜率安養等の名を付く、 例せば此の経に三乗の名有りと雖も 三乗有らざるが如し「不須更指観
13 経等也」の釈の意是なり、 法華経に結縁無き衆生の当世西方浄土を願うは 瓦礫の土を楽う者なり、法華経を信ぜ
14 ざる衆生は誠に分添の浄土無き者なり。
15   第三に涅槃経は法華経流通の為に之を説き給うことを明さば、 問うて云く光宅の法雲法師並に道場の慧観等の
16 碩徳は法華経を以て第四時の経と定め 無常の熟蘇味と立つ、天台智者大師は法華涅槃同味と立つと雖も亦クン拾の
17 義を存す二師共に権化なり 互に徳行を具せり 何を正として我等の迷心を晴らす可きや、 答えて曰く設い論師訳
18 者為りと雖も仏教に違して権実二教を判ぜずんば且らく疑を加う可し 何に況や唐土の人師たる天台・南岳・光宅・
0073top
01 慧観・智儼・嘉祥・善導等の釈に於てをや、 設い末代の学者為りと雖も依法不依人の義を存し本経本論に違わずん
02 ば信用を加う可し。
03   問うて云く涅槃経の第十四巻を開きたるに 五十年の諸大乗経を挙て前四味に譬え涅槃経を以て醍醐味に譬う諸
04 大乗経は涅槃経より劣ること百千万倍なりと定め了んぬ、 其の上迦葉童子の領解に云く 「我今日より始て正見を
05 得たり 此よりの前は我等悉く邪見の人と名く」 と此の文の意は涅槃経已前の法華等の一切の衆典を皆邪見と云う
06 なり、当に知るべし 法華経は邪見の経にして未だ正見の仏性を明らめず、 故に天親菩薩の涅槃論に諸経と涅槃と
07 勝劣を定むる時・法華経を以て般若経に同じて 同じく第四時に摂したり 豈正見の涅槃経を以て邪見の法華経の流
08 通と為んや如何、答て云く法華経の現文を見るに仏の本懐残すこと無し、 方便品に云く「今正しく是れ其時なり」
09 寿量品に云く「毎に自ら是の念を作す何を以てか 衆生をして無上道に入ることを得・速かに仏身を成就することを
10 得せしめん」と神力品に云く「要を以て之を言えば如来の一切の所有の法、乃至・皆此の経に於て宣示顕説す」已上
11 此等の現文は釈迦如来の内証は皆此の経に尽くし給う 其の上多宝並に十方の諸仏来集の庭に於て 釈迦如来の已今
12 当の語を証し法華経に如く経無しと定め了んぬ、 而るに多宝諸仏・本土に還るの後に但 釈迦一仏のみ異変を存じ
13 て還つて涅槃経を説いて法華経を卑まば誰人か之を信ぜん、 深く此の義を存ぜよ、 随つて涅槃経の第九を見るに
14 法華経を流通して説いて云く 「是の経・世に出ること彼の菓実の一切を利益し安楽する所多きが如く 能く衆生を
15 して仏性を見わさしむ 法華の中の八千の声聞の記を授かるを得て 大菓実を成ずるが如く 秋収冬蔵して更に所
16 作無きが如し」と。
17   此の文の如くんば法華経邪見ならば 涅槃経も豈に邪見に非ずや、法華経は大収・涅槃経はクン拾なりと見え了
18 んぬ、涅槃経は自ら法華経より劣るの由を称す法華経の当説の文敢て相違無し、 但し迦葉の領解並に第十四の文は
0074top
01 法華経を下す文に非ず 迦葉の自身並に所化の衆今始めて法華経の所説の 常住仏性・久遠実成を覚る故に我が身を
02 指して此より已前は邪見なりと云う、 法華経已前の無量義経に嫌わるる諸経を涅槃経に重ねて 之を挙げて嫌うな
03 り法華経を嫌うには非ざるなり、 亦涅槃論に至つては此等の論は書付くるが如く 天親菩薩の造・菩提流支の訳な
04 り経文に違すること之多し涅槃論も亦本経に違す当に知るべし訳者の誤りなり信用に及ばず。
05   問うて云く 先の教に漏れたる者を後の教に之を承け取つて得道せしむるを流通と称せば阿含経は華厳経の流通
06 と成る可きや、 乃至法華経は前四味の流通と成る可きや如何、 答えて曰く前四味の諸経は菩薩人天等の得道を許
07 すと雖も決定性の二乗・無性闡提の成仏を許さず、其の上仏意を探りて実を以て之をカンガうるに亦菩薩人天等の得
08 道も無し十界互具を説かざるが故に久遠実成無きが故に、 問うて云く証文如何、 答えて云く法華経方便品に云く
09 「若し小乗を以て化すること乃至一人に於てせば 我則ち慳貪に堕せん此の事は為て不可なり」已上此の文の意は今
10 選択集の邪義を破せんが為に余事を以て詮と為ず故に爾前得道の有無の実義は之を出さず追つて之をカンガうべし、
11 但し四十余年の諸経は 実に凡夫の得道無きが故に法華経は爾前の流通と為らず 法華経に於て十界互具・久遠実成
12 を顕わし了んぬ故に涅槃経は法華経の為に流通と成るなり。
13   大文の第七に問に随つて答うとは、 若し末代の愚人上の六門に依つて万が一も法華経を信ぜば権宗の諸人或は
14 自惑に依り 或は偏執に依つて法華経の行者を破せんが為に 多く四十余年並に涅槃等の諸経を引いて之を難ぜん、
15 而るに権教を信ずる人は之多く 或は威勢に依り或は世間の資縁に依り人の意に随つて 世路を亘らんが為に或は権
16 教には学者多く実教には智者少し 是非に就て万が一も実教を信ずる者有るべからず、 是の故に此の一段を撰んで
17 権人の邪難を防がん。
18  問うて云く諸宗の学者難じて云く「華厳経は報身如来の所説・七処・八会・皆頓極頓証の法門なり、法華経は応身
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01 如来の所説・教主既に優劣有り、 所説の法門に於て何ぞ浅深無からん随つて対告衆も法慧・功徳林・金剛幢等なり
02 永く二乗を雑えず、法華経は舎利弗等を以て対告衆と為す」華厳宗難、法相宗の如きは解深密経を以て依憑と為し難
03 を加えて云く「解深密経は文殊観音等を以て対告衆と為す 勝義生菩薩の領解には一代を有・空・中と詮す其の中の
04 中とは華厳・法華・涅槃・深密等なり法華経の信解品の五時の領解は四大声聞なり菩薩と声聞と勝劣天地なり」、浄
05 土宗の如きは道理を立てて云く 「我等は法華等の諸経を誹謗するに非ず 彼等の諸経は正には大人の為傍には凡夫
06 の為にす断惑証理・理深の教にして 末代の我等之を行ずるに千人の中に一人も彼の機に当らず 在家の諸人多分は
07 文字を見ず亦 華厳法相等の名を聞かず況や其の義を知らんや、 浄土宗の意は我等凡夫は但口に任せて六字の名号
08 を称すれば 現在に阿弥陀如来二十五の菩薩等を遣わし 身に影の随う如く 百重千重に行者を囲繞して之を守り給
09 う、 故に現世には七難即滅・七福即生し乃至臨終の時は必ず来迎有つて 観音の蓮台に乗じ須臾の間に浄土に至り
10 業に随つて蓮華開け 法華経を聞いて実相を覚る何ぞ煩しく穢土に於て余行を行じて何の詮か有る 但万事を抛つて
11 一向に名号を称せよ」と云云、 禅宗等の人云く「一代聖教は月を指す指・天地日月等も汝等が妄心より出でたり十
12 方の浄土も執心の影像なり 釈迦十方の仏陀は汝が覚心の所変・文字に執する者は 株を守る愚人なり我が達磨大師
13 は文字を立てず方便を仮らず一代聖教の外に仏迦葉に印して此の法を伝う法華経等は未だ真実を宣べず」已上。
14   此等の諸宗の難一に非ず如何ぞ法華経の信心を壊らざる可しや、 答て云く法華経の行者は心中に「四十余年已
15 今当皆是真実・依法不依人」等の文を存し而も外に語に之を出さず 難に随て之を問うべし抑所立の宗義は何の経に
16 依るや、 彼経を引かば引くに随つて亦之を尋ねよ、 一代五十年の間の説の中に法華経より先か後か同時なるか亦
17 先後不定なるかと、 若し先と答えば未顕真実の文を以て之を責めよ敢えて彼の経の説相を尋ぬること勿れ、 後と
18 答えば当説の文を以て之を責めよ、 同時と答えば今説の文を以て之を責めよ、 不定と答えば不定の経は大部の経
0076top
01 に非ず一時一会の説にして 亦物の数に非ず其の上不定の教と雖も三説を出でず、 設い百千万の義を立つと雖も四
02 十余年の文を載せて虚妄と称せざるより外は用うべからず、仏の遺言に不依不了義経と云うが故なり。
03   亦智儼・嘉祥・慈恩・善導等を引いて徳を立て難ずと雖も法華涅槃に違する人師に於ては用うべからず依法不依
04 人の金言を仰ぐが故なり。
05   亦法華経を信ぜん愚者の為に二種の信心を立つ、一には仏に就て信を立て二には経に就て信を立つ、 仏に就て
06 信を立つとは権宗の学者来り難じて云わん 善導和尚は三昧発得の人師・本地弥陀の化身なり 慈恩大師は十一面観
07 音の化身亦筆端より舎利を雨らす 此等の諸人は皆彼彼の経経に依つて皆証有り 何ぞ汝彼の経に依らず亦彼の師の
08 義を用いざるや、答えて云く汝聞け一切の権宗の大師先徳並に舎利弗.目連・普賢・文殊・観音乃至阿弥陀.薬師・釈
09 迦如来・我等並に十方の諸人の前に集まりて説いて 法華経は汝等が機に叶わず 念仏等の権経の行を修して往生を
10 遂げ後に法華経を覚ると云わん 是の如き説を聞くと雖も敢えて用う可からず、 其の故は四十余年の諸の経には法
11 華経の名字を呼ばず 何れの処にか機の堪不堪を論ぜん、 法華経に於ては釈迦多宝十方諸仏一処に集りて撰定して
12 云く法をして久住せしむ 如来の滅後に於て閻浮提の内に広く流布せしめ断絶せざらしむ、 此の外に今仏出来して
13 法華経を末代不相応と定めば 既に法華経に違す知んぬ 此の仏は涅槃経に出す所の滅後の魔仏なり之を信用す可か
14 らず、其の已下の菩薩・声聞・比丘等は亦言論するに及ばず 此等は不審無し涅槃経に記する所の滅後の魔の所変の
15 菩薩等なり、 其の故は法華経の座は三千大千世界の外四百万億阿僧祇の世界なり其の中に充満せる菩薩・二乗・人
16 天・八部等皆如来の告勅を蒙むり 各各所在の国土に法華経を弘む可きの由之を願いぬ、 善導等若し権者ならば何
17 ぞ竜樹・天親等の如く 権教を弘めて後に法華経を弘めざるや 法華経の告勅の数に入らざるや何ぞ仏の如く権教を
18 弘めて後に法華経を弘めざるや、 若し此の義無くんば設い仏為りと雖も之を信ず可からず 今は法華経の中の仏を
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01 信ず故に仏に就て信を立つと云うなり。
02   問うて云く 釈迦如来の所説を他仏之を証するを実説と称せば何ぞ阿弥陀経を信ぜざるや、答えて云く阿弥陀経
03 に於ては法華経の如き証明無きが故に之を信ぜず、 問うて云く 阿弥陀経を見るに釈迦如来の所説の一日七日の念
04 仏を六方の諸仏舌を出し三千を覆うて之を証明せり何ぞ証明無しと云うや、 答えて云く 阿弥陀経に於ては全く法
05 華経の如き証明無く 但釈迦一仏舎利弗に向つて説いて言く我一人阿弥陀経を説くのみに非ず 六方の諸仏舌を出し
06 三千を覆うて阿弥陀経を説くと云う 此等は釈迦一仏の説なり敢えて諸仏来りたまわず、 此等の権文は四十余年の
07 間は教主も権仏の始覚の仏なり仏権なるが故に所説も亦権なり 故に四十余年の権仏の説は之を信ず可からず、 今
08 の法華涅槃は久遠実成の円仏の実説なり 十界互具の実言なり 亦多宝十方の諸仏来りて之を証明し給う故に之を信
09 ずべし阿弥陀経の説は無量義経の未顕真実の語に壊れ了ぬ全く釈迦一仏の語にして諸仏の証明には非ざるなり。
10   二に経に就て信を立つとは、 無量義経に四十余年の諸経を挙げて未顕真実と云う、涅槃経に云く「如来は虚妄
11 の言無しと雖も 若し衆生・虚妄の説に因つて法利を得と知れば宜しきに随つて方便して 則ち為に之を説き給う」
12 又云く「了義経に依つて不了義経に依らざれ」已上是の如きの文一に非ず皆四十余年の自説の諸経を虚妄・方便・不
13 了義・魔説と称す是れ皆人をして其の経を捨てて 法華涅槃に入らしめんが為なり、 而るに何の恃み有つて妄語の
14 経を留めて行儀を企て得道を期するや、今権教の情執を捨て偏に実経を信ず故に経に就て信を立つと云うなり。
15   問うて云く善導和尚も人に就て信を立て行に就て信を立つ何の差別有らんや、 答えて云く彼は阿弥陀経等の三
16 部に依つて之を立て一代の経に於て 了義不了義経を分たずして之を立つ、 故に法華涅槃の義に対して之を難ずる
17 時は其の義壊れ了んぬ。
18       守護国家論
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災難対治抄    正元二年    三十九歳御作
01   国土に大地震.非時の大風・大飢饉.大疫病・大兵乱等の種種の災難の起る根源を知りて対治を加う可きの勘文。
02   金光明経に云く 「若し人王有りて其の国土に於て此の経有りと雖も未だ嘗て流布せず捨離の心を生じて聴聞せ
03 んことを楽わず亦供養し尊重し 讃歎せず四部の衆の持経の人を見て亦復 尊重し乃至供養すること能わず遂に我等
04 及び余の眷属無量の諸天をして 此の甚深の妙法を聞くことを得ず 甘露の味に背き正法の流を失い威光及以び勢力
05 有ること無らしむ悪趣を増長し 人天を損減し生死の河に墜ちて涅槃の路に背かん、 世尊・我等四王並に諸の眷属
06 及び薬叉等斯くの如き事を見て其の国土を捨てて 擁護の心無けん但我等是の王を捨棄するのみに非ず 亦無量の国
07 土を守護する諸天善神有らんも 皆悉く捨去せん既に捨離し已れば 其の国に当に種種の災禍有つて国位を喪失すべ
08 し、一切の人衆皆善心無けん 唯繋縛・殺害・瞋諍のみ有つて互に相讒諂し枉げて 辜無きに及ばん、疫病流行し彗
09 星数ば出で両日並び現じ 薄蝕恒無く黒白の二虹不祥の相を表わし星流れ地動き井の内に声を発し暴雨・悪風・時節
10 に依らず常に飢饉に遭い 苗実も成らず 多く他方の怨賊有つて国内を侵掠し 人民諸の苦悩を受け土地に所楽の処
11 有ること無けん」と。
12   大集経に云く 「若し国王有つて我が法の滅せんを見て擁護せずんば無量世に於て施戒慧を修すとも悉く皆滅失
13 して其の国の中に三種の不祥の事を出さん、乃至命終して大地獄に生ぜん」と。
14   仁王経に云く「大王・国土乱れん時は先ず鬼神乱る鬼神乱るるが故に万民乱ると、亦云く大王・我今五眼をもつ
15 て明に三世を見るに一切の国王は 皆過去世に五百の仏に侍うるに由つて 帝王主と為ることを得たり、是をもつて
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01 一切の聖人羅漢而も為に 彼の国土の中に来生して大利益を作さん 若し王の福尽きん時は一切の聖人皆捨て去るこ
02 とを為さん若し一切の聖人去らん時は七難必ず起る」と。
03   仁王経に云く「大王吾今化する所の百億の須弥・百億の日月・一一の須弥に四天下有り其の南閻浮提に十六の大
04 国五百の中国十千の小国有り其の国土の中に七つの畏る可き難有り一 切の国王是の難の為の故に、 云何なるを難
05 と為す日月度を失い 時節返逆し或は赤日出で黒日出で 二三四五の日出づ或は日蝕して光無く或は日輪一重二三四
06 五重輪現ずるを一の難と為すなり、二十八宿度を失い金星.彗星.輪星.鬼星.火星.水星・風星.トウ星・南斗.北斗.五
07 鎮の大星・一切の国主星・三公星・百宦星是くの如き諸星各各変現するを二の難と為すなり、大火・国を焼き万姓焼
08 尽し或は鬼火.竜火・天火・山神火・人火・樹木火・賊火是くの如く変怪するを三の難と為すなり、大水.百姓を漂没
09 して時節返逆し冬雨ふり夏雪ふり冬時に雷電霹靂し六月に冰霜雹を雨らし赤水・黒水・青水を雨らし・土山・石山を
10 雨らし沙礫石を雨らし江河逆まに流れ 山を浮かべ石を流す是くの如く変ずる時を四の難と為すなり、 大風万姓を
11 吹殺し国土の山河樹木.一時に滅没して非時の大風.黒風・赤風・青風.天風・地風・火風・水風.是くの如く変ずる時
12 を五の難と為すなり、 天地国土亢陽し炎火洞然として百草亢旱し五穀登らず 土地赫然として万姓滅尽せん是くの
13 如く変ずる時を六の難と為すなり、 四方の賊来りて国を侵し内外の賊起り火賊・水賊・風賊・鬼賊あつて百姓荒乱
14 し刀兵劫起せん是くの如く怪する時を七の難と為すなり」と。
15   法華経に云く「百由旬の内をして諸の衰患無からしめん」と。
16   涅槃経に云く「是の大涅槃微妙の経典・流布せらるる処は当に知るべし其の地は即ち是れ金剛なり 是の中の諸
17 人亦金剛の如し」と。
18   仁王経に云く「是の経は常に千の光明を放ちて千里の内をして七難起らざらしむと、 又云く諸の悪比丘多く名
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01 利を求め国王・太子・王子の前に於て 自ら破仏法の因縁・破国の因縁を説く 其の王別えずして此の語を信聴し横
02 に法制を作り仏戒に依らず是を破仏破国の因縁と為す」と。
03   今之を勘うるに 法華経に云く「百由旬の内諸衰患なからしむ」と仁王経に云く「千里の内に七難不起らしむ」
04 と、涅槃経に云く「当に知るべし其の地は即ち是れ金剛、是の中の諸人亦金剛の如し」と文。
05   疑つて云く 今此の国土に種種の災難起ることを見聞するに所謂建長八年八月自り正元二年二月に至るまで大地
06 震非時の大風・大飢饉・大疫病等種種の災難連連として 今に絶えず大体国土の人数尽く可きに似たり、之に依つて
07 種種の祈請を致す人之多しと雖も其の験無きか、 正直捨方便・多宝の証明・諸仏出舌の法華経の文の令百由旬内・
08 雙林最後の遺言の涅槃経の其地金剛の文、仁王経の千里の内に七難不起の文皆虚妄に似たり如何。
09   答えて云く今愚案を以て之を勘うるに 上に挙ぐる所の諸大乗経・国土に在り而も祈請と成らずして災難起るこ
10 とは少し其の故有るか、 所謂金光明経に云く其の国土に於て此の経有りと雖も 未だ嘗つて流布せず捨離の心を生
11 じて聴聞せんことを楽わず 我等四王皆悉く捨て去り其の国当に種種の災禍有るべし、 大集経に云く「若し国王有
12 つて我が法の滅せんを見て 捨てて擁護せざれば其の国内三種の不祥を出さん」と、 仁王経に云く「仏戒に依らざ
13 る是を破仏破国の因縁と為す若し一切の聖人去る時は七難必ず起らん」已上、 此等の文を以て之を勘うるに法華経
14 等の諸大乗経・国中に在りと雖も一切の四衆 捨離の心を生じて聴聞し供養するの志を起さざる故に 国中の守護の
15 善神・一切の聖人此の国を捨て去り守護の善神聖人等無きが故に出来する所の災難なり。
16   問うて曰く国中の諸人・諸大乗経に於て捨離の心を生じて供養する志を生ぜざる事は何の故より之起るや。
17   答えて曰く仁王経に曰く「諸の悪比丘多く名利を求め国王・太子・王子の前に於て自ら破仏法の因縁・破国の因
18 縁を説かん其の王別えずして此の語を信聴し 横に法制を作りて仏戒に依らず」と、 法華経に云く「悪世の中の比
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01 丘は邪智にして心諂曲に未だ得ざるをこれ得たりと謂い 我慢の心充満せん是の人悪心を懐き国王・大臣・婆羅門・
02 居士及び余の諸の比丘に向つて誹謗して 我が悪を説いて是れ邪見の人・外道の論議を説くと謂わん 悪鬼其の身に
03 入る」等と云云。
04   此等の文を以て之を思うに 諸の悪比丘国中に充満して破国・破仏法の因縁を説く国王並に国中の四衆弁えずし
05 て信聴を加うるが故に諸大乗経に於て捨離の心を生ずるなり。
06   問うて曰く 諸の悪比丘等国中に充満して破国・破仏戒等の因縁を説くことは仏弟子の中に出来す可きか外道の
07 中に出来す可きか。
08   答えて曰く 仁王経に云く「三宝を護る者にして転た更に三宝を滅し破らんこと師子の身中の虫の自ら師子を食
09 うが如し外道には非ず」文。
10   此の文の如くんば 仏弟子の中に於て破国破仏法の者出来す可きか、 問うて曰く諸の悪比丘正法を壊るに相似
11 の法を以て之を破らんか 当に亦悪法を以て之を破るべしとせんか、 答えて曰く 小乗を以て権大乗を破し権大乗
12 を以て 実大乗を破し師弟共に謗法破国の因縁を知らざるが故に 破仏戒・破国の因縁を成して 三悪道に堕するな
13 り。
14   問うて曰く其の証拠如何、 答えて曰く法華経に云く仏の方便・随宜所説の法を知らずして悪口して顰蹙し数数
15 擯出せられんと。
16   涅槃経に云く我涅槃の後 当に百千無量の衆生有つて誹謗して是の大涅槃を信ぜざるべし三乗の人も亦復是くの
17 如く無上の大涅槃経を憎悪せん已上。
18   勝意比丘の喜根菩薩を謗じて 三悪道に堕ちし尼思仏等の不軽菩薩を打つて阿鼻の炎を招くも皆大小権実を弁え
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01   ざるより之起れり十悪五逆は愚者皆罪為ることを知る故に輙く破国・破仏法の因縁を成ぜず、故に仁王経に云く
02 「其の王別えずして此の語を信聴す」と、 涅槃経に云く「若し四重を犯し五逆罪を作り自ら定めて 是くの如き重
03 事を犯すと知り而も心に初より怖畏・懺悔無くして肯て発露せず」已上。
04   此くの如き等の文は謗法の者は自他共に子細を知らざる故に重罪を成して国を破し仏法を破するなり。
05   問うて曰く 若爾らば此の国土に於て権教を以て人の意を取り実教を失う者之有るか如何、答えて曰く爾なり、
06 問うて曰く 其の証拠如何、 答えて曰く法然上人所造等の選択集是れなり 今其の文を出して上の経文に合せ其の
07 失を露顕せしめん 若し対治を加えば国土を安穏ならしむ可きか、 選択集に云く 「道綽禅師・聖道浄土の二門を
08 立て聖道を捨てて正しく浄土に帰するの文・初に聖道門とは之に就て二有り 一には大乗二には小乗なり 大乗の中
09 に就いて顕密・権実等の不同有りと雖も 今此の集の意は唯顕大及以び権大を存す 故に歴劫迂回の行に当る之に準
10 じて之を思うに密大及以び実大を存すべし、然れば則ち今真言.仏心・天台・華厳・三論・法相.地論・摂論此等の八
11 家の意正しく此れに在るなり、 曇鸞法師の往生論の注に云く 「謹んで竜樹菩薩の十住毘婆沙を案ずるに云く 菩
12 薩・阿毘跋致を求むるに二種の道有り一には難行道二には易行道なり、 此の中に難行道とは即ち 是れ聖道門なり
13 易行道とは即ち是れ浄土門なり、 浄土宗の学者先ず須く此の旨を知るべし 設い先ず聖道門を学する人と雖も 若
14 し浄土門に於て其の志有らん者は須く聖道を棄てて 浄土に帰すべし」文、 又云く 「善導和尚正雑二行を立て雑
15 行を捨てて正行に帰するの文、 第一に読誦雑行とは上の観経等の往生浄土の経を除いて已外・大小乗・顕密の諸経
16 に於て受持読誦するを悉く読誦雑行と名く、 第三に礼拝雑行とは 上の弥陀を礼拝するを除いて已外一切諸余の仏
17 菩薩等及び諸の世天等に於て礼拝恭敬するを悉く礼拝雑行と名く」
18   私に云く此の文を見るに 須く雑を捨てて専を修すべし 豈百即百生の専修正行を捨てて堅く千中無一の雑修雑
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01 行を執せんや行者能く之を思量せよと。
02   又云く 貞元入蔵録の中・始め大般若経六百巻より法常住経に終るまで 顕密の大乗経 総じて六百三十七部二
03 千八百八十三巻なり 皆須く読誦大乗の一句に摂すべし当に知るべし 随他の前には暫く定散の門を開くと雖も随自
04 の後には還つて定散の門を閉づ一たび開きて以後永く閉じざるは 唯是れ念仏の一門なり文、 又最後結句の文に云
05 く「夫れ速に生死を離れんと欲せば 二種の勝法の中に且く聖道門を閣て 選んで浄土門に入れ 浄土門に入らんと
06 欲せば正雑二行の中に且く諸の雑行を抛て選んで正行に帰すべし、」已上選択集の文なり。
07   今之を勘うるに日本国中の上下万人深く法然上人を信じて此の書をモテアソぶ故に無智の道俗此の書の中の捨閉
08 閣抛等の字を見て浄土の三部経.阿弥陀仏より外は諸経・諸仏・菩薩.諸天善神等に於て捨閉閣抛等の思を作し彼の仏
09 経等に於て供養受持等の志を起さず 還つて捨離の心を生ず故に 古の諸大師等の建立せし所の鎮護国家の道場零落
10 せしむと雖も護惜建立の心無し 護惜建立の心無きが故に 亦読誦供養の音絶え守護の善神も法味を嘗めざるが故に
11 国を捨てて去り四依の聖人も来らざるなり、 偏に金光明・仁王等の一切の聖人去る時は七難必ず起らん 我等四王
12 皆悉く捨去せん既に捨離し已れば其の国当に種種の災禍有るべしの文に当れり 豈諸悪比丘多く名利を求め、 悪世
13 の中の比丘は邪智にして心諂曲の人に非ずや。
14   疑つて云く国土に於て選択集を流布せしむるに依つて災難起ると云わば 此の書無き已前は国中に於て災難無か
15 りしか、 答えて曰く彼の時も亦災難有り云く五常を破り仏法を失いし者之有りしが故なり 所謂周の宇文・元嵩等
16 是なり、 難じて曰く 今の世の災難五常を破りしが故に 之起ると云わば 何ぞ必ずしも選択集流布の失に依らん
17 や、 答えて曰く仁王経に云く「大王・未来の世の中に諸の小国王・四部の弟子諸の悪比丘横に法制を作りて仏戒に
18 依らず亦復仏像の形・仏塔の形を造作することを聴さず七難必ず起らん」と、 金光明経に云く「供養し尊重し讃歎
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01 せず其の国に当に種種の災禍有るべし」 涅槃経に云く「無上の大涅槃経を憎悪す」等と云云、豈弥陀より外の諸仏
02 諸経等を供養し礼拝し讃歎するを悉く雑行と名くると云うに当らざらんや、 難じて云く 仏法已前国に於て災難有
03 るは何ぞ謗法の者の故ならんや、 答えて云く 仏法已前に五常を以て国を治むるは遠く仏誓を以て国を治むるなり
04 礼義を破るは仏の出したまえる五戒を破るなり、 問うて云く其の証拠如何、 答えて曰く金光明経に云く「一切世
05 間の所有る善論は皆此の経に因る」と、 法華経に云く「若し俗間の経書・治世の語言・資生の業等を説かんも皆正
06 法に順ず」と 普賢経に云く「正法をもつて国を治め人民を邪枉せず是れを第三懺悔を修すと名く」と、 涅槃経に
07 云く 「一切世間の外道の経書は皆是れ仏説なり外道の説に非ず」と、 止観に云く「若し深く世法を識れば即ち是
08 れ仏法なり」と、弘決に云く「礼楽前に駈せて真道後に啓く」と、広釈に云く「仏三人を遣して且く震旦を化す五常
09 以て五戒の方を開く昔は大宰・孔子に問うて云く 三皇五帝は是れ聖人なるか孔子答えて云く 聖人に非ず又問う夫
10 子是れ聖人なるか亦答う非なり又問う若し爾らば誰か聖人なる、答えて云く吾聞く西方に聖有り釈迦と号く」文。
11   此等の文を以て之を勘うるに仏法已前の三皇五帝は五常を以て国を治む夏の桀・殷の紂・周の幽等の礼義を破り
12 て国を喪すは遠く仏誓の持破に当れり。
13   疑つて云く若し爾らば法華真言等の諸大乗経を信ずる者は何ぞ此の難に値えるや、 答えて曰く金光明経に云く
14 「枉げて辜無きに及ばん」と、 法華経に云く「横に其の殃に羅る」等と云云、此等の文を以て之を推するに法華真
15 言等を行ずる者も未だ位深からず 信心薄く口に誦すれども其の義を知らず 一向名利の為に之を誦す先生の謗法の
16 失未だ尽きず 外に法華等を行じて内に選択の心を存す 此の災難の根源等を知らざる者は 此の難を免れ難きか。
17   疑つて云く 若し爾らば何ぞ選択集を信ずる謗法者の中に此の難に値わざる者之有りや、 答えて曰く業力不定
18 なり順現業は法華経に云く此の人現世に白癩の病乃至諸の悪重病を得んと、 仁王経に云く「人仏教を壊らば復孝子
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01 無く六親不和にして天神祐けず 疾疫悪鬼日に来りて侵害し災怪首尾し連禍せん」と、 涅槃経に云く「若し是の経
02 典を信ぜざる者有らば若は臨終の時或は荒乱に値い刀兵競い起り帝王の暴虐・怨家の讎隙に侵逼せられん」已上、順
03 次生業は法華経に云く「若し人信ぜずして此の経を毀謗せば 其の人命終して阿鼻獄に入らん」と、 仁王経に云く
04 「人仏教を壊らば死して地獄餓鬼畜生に入らん」已上、順後業等は之を略す。
05   問うて曰く如何にして速かに此の災難を留む可きや、 答えて曰く速に謗法の者を治す可し若し爾らずんば無尽
06 の祈請有りと雖も災難を留む可からざるなり、 問うて曰く如何が対治す可き、 答えて曰く治方亦経に之有り涅槃
07 経に曰く仏言く 唯一人を除いて余の一切に施せ正法を誹謗して是の重業を造る 唯此くの如き一闡提の輩を除いて
08 其の余の者に施さば一切讃歎すべし已上、 此の文の如んば施を留めて対治す可しと見えたり此の外にも亦治方是れ
09 多く具に出すに暇あらず、 問うて曰く謗法の者に於て供養を留め苦治を加うるは罪有りや不や、 答えて曰く涅槃
10 経に云く、今無上の正法を以て諸王.大臣・宰相・比丘・比丘尼に付属す正法を毀る者は王者.大臣・四部の衆当に苦
11 治すべし尚罪有ること無けん已上。
12   問うて曰く汝僧形を以て比丘の失を顕すは罪業に非ずや、 答えて曰く涅槃経に云く「若し善比丘あつて法を壊
13 る者を見て置いて呵責し駈遣し挙処せざれば当に知るべし 是の人は仏法の中の怨なり 若し能く駈遣し呵責し挙処
14 せば是れ我が弟子真の声聞なり」已上、 予此の文を見るが故に仏法中怨の責を免れんが為に見聞を憚からずして法
15 然上人並に所化の衆等の阿鼻大城に堕つ可き由を称す、 此の道理を聞き解く道俗の中に 少少は廻心の者有り若し
16 一度高覧を経ん人は上に挙ぐる所の如く之を行ぜずんば 大集経の文の若し国王有つて 我が法の滅せんを見て捨て
17 て擁護せざれば 無量世に於て施戒慧を修すとも 悉く皆滅失して其の国の内に三種の不祥を出さん 乃至命終して
18 大地獄に生ぜんとの記文を免かれ難きか、 仁王経に云く「若し王の福尽きん時は七難必ず起らん」と、 此の文に
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01 云く「無量世に於て施戒慧を修すとも 悉く皆滅失す」等と云云、 此の文を見るに且く万事を閣いて 先ず此の災
02 難の起る由を勘う可きか若し爾からざれば弥亦重ねて災難起る可きか、愚勘是くの如し取捨は人の意に任す。
念仏者・追放せしむる宣旨・御教書・五篇に集列する勘文状    正元元年    三十八歳御作
01   夫れ以みれば仏法流布の砌には天下静謐なり神明仰崇の界には国土豊饒なり、 之に依つて月氏より日域に覃ん
02 で君王より人民に至るまで此の義改むること無き職として然り。
03   爰に後鳥羽院の御宇に源空法師と云う者あり 道俗を欺くが故に専修を興して 顕密の教理を破し男女を誑かす
04 が故に邪義を構えて仏神の威光を滅し常に四衆を誘うて云く、 浄土三部の外は衆経を棄置すべし唱名一行の外は余
05 行を廃退すべし 矧んや神祇冥道の恭敬に於ておや 況や孝養報恩の事善に於ておや之を信ぜざる者は本願を疑うな
06 りと、 爰に頑愚の類は甚深の妙典を軽慢し無智の族は神明の威徳を蔑如す、 就中止観・遮那の学窓に臨む者は出
07 離を抑ゆる癡人なり三論・法相の稽古を励む者は菩提を塞ぐ誑人なりと云云。
08  之に依つて仏法・日に衰え迷執・月に増す然る間・南都北嶺の明徳・奏聞を経て天聴に達するの刻・源空が過咎遁
09 れ難きの間・遠流の宣を蒙むり配所の境に赴き畢んぬ、 其の後門徒猶勅命を憚からずして 弥専修を興すること殆
10 ど先代に超えたり違勅の至り責めても余り有り 故に重ねて専修を停廃し 源空の門徒を流罪すべきの由・綸言頻に
11 下る又関東の御下知・勅宣に相添う。
12   門葉等は遁るべきの術を失い或は山林に流浪し或は遠国に逃隠す、爾してより華夷・称名を抛ちて男女・正説に
13 帰する者なり然るに又近来先規を弁えざるの輩・仏神を崇めざるの類・再び専修の行を企て猶邪悪を増すこと甚し。
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01   日蓮不肖なりと雖も 且は天下の安寧を思うが為・且は仏法の繁昌を致さんが為に強ちに先賢の語を宣説し称名
02 の行を停廃せんと欲し 又愚懐の勘文を添え頗る邪人の慢幢を倒さんとす、 勘注の文繁くして見難し知り易からし
03 めんが為に要を取り諸を省き略して五篇を列ぬ、委細の旨は広本に在くのみ。
04   奏状篇詮を取りて之を注す委くは広本に在り。
05   南都の奏状に云く。
06  一、謗人謗法の事
07   右源空・顕密の諸宗を軽んずること土の如く沙の如く智行の高位を蔑ろにすること蟻の如く螻の如し、 常に自
08 讃して曰く広く一代聖教を見て知れるは我なり 能く八宗の精微を解する者は我なり 我諸行を捨つ況や余人に於て
09 おやと、愚癡の道・俗・之を仰ぐこと仏の如く弟子の偏執遥に其の師に超え 檀那の邪見弥本説に倍し一天四海漸く
10 以てアマネし事の奇特を聞くに驚かずんば有る可からず其の中殊に法華の修行を以て専修の讐敵となす、或は此の経
11 を読む者は皆地獄に堕すと云い 或は其の行を修せん者は永く生死に留まると云い 或は僅に仏道の結縁を許し或は
12 都て浄土の正因を嫌う、 然る間・本八軸十軸の文を誦し 千部万部の功を積める者も永く以て廃退し剰え前非を悔
13 ゆ、 捨つる所の本行の宿習は 実に深く 企つる所の念仏の薫習は 未だ積まず 中途に天を仰いで歎息する者多
14 し、此の外・般若・華厳の帰依・真言・止観の結縁・十の八九皆棄置す之を略す。
15  一、霊神を蔑如する事
16   右我が朝は本是れ神国なり百王彼の苗裔を承けて四海其の加護を仰ぐ、 而るに専修の輩永く神明を別えず権化
17 実類を論ぜず宗廟・祖社を恐れず若し神明を憑まば魔界に堕すと云云。
18   実類の鬼神に於ては置いて論ぜざるか権化の垂迹に至つては既に是れ大聖なり、 上代の高僧皆以て帰伏す行教
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01 和尚・宇佐の宮に参るに釈迦三尊の影・月の如くに顕れ仲算大徳・熊野山に詣るに飛滝千仭の水・簾の如くに巻く、
02 凡そ行基・護命.増利・聖宝・空海・最澄.円珍等は皆神社に於て新に霊異を感ず是くの若きは源空に及ばざるの人か
03 又魔界に堕つ可きの類か之を略す。
04   山門の奏状に云く。
05  一、一向専修の党類・神明に向背する不当の事。
06   右我が朝は神国なり神道を敬うを以て国の勤めと為す 謹んで百神の本を討ぬるに諸仏の迹に非ること無し、所
07 謂伊勢大神宮・八幡.加茂・日吉・春日等は皆是れ釈迦・薬師・弥陀.観音等の示現なり各宿習の地を卜め専ら有縁の
08 儀を調う乃至其の内証に随いて彼の法施を資け 念誦・読経・神に依つて事異なり世を挙げて信を取り人毎に益を被
09 る、 而るに今専修の徒・事を念仏に寄せて永く神明を敬うこと無し、 既に国の礼を失い仍神を無するの咎あり、
10 当に知るべし有勢の神祇定めて降伏の眸を回らして睨みたまわん之を略す。
11  一、一向専修和漢の例快からざる事
12   右慈覚大師の入唐巡礼記を按ずるに云く 唐の武宗皇帝会昌元年章敬寺の鏡霜法師に勅令して 諸寺に於て弥陀
13 念仏の教を伝え寺毎に三日巡輪して絶えず 同じく二年廻鶻国の軍兵等・唐の界を侵す同じく三年河北の節度使・忽
14 ち乱を起す 其の後大蕃国更に命を拒む廻鶻国重ねて地を奪いぬ、 凡そ兵乱秦項の代に同じく災火邑里の際に起る
15 何に況や武宗大に仏法を破し多く寺塔を滅す撥乱すること能わずして遂に以て事有り已上取意、 是れ則ち恣に浄土
16 の一門を信じて 護国の諸教を仰がざるに依つてなり 而るに吾朝一向専修を弘通してより以来・国衰微に属し俗多
17 く艱難す已上之を略す、又云く音の哀楽を以て国の盛衰を知る詩の序に云く治世の音は安んじて以て楽しむ其の政和
18 げばなり乱世の音は怨んで以て怒る 其の政乖けばなり亡国の音は哀んで以て思う其の民困めばなりと云云、近代念
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01 仏の曲を聞くに理世撫民の音に背き已に哀慟の響を成す是れ亡国の音なる可し是四、已上奏状。
02   山門の奏状詮を取る此の如し。
03   又大和の荘の法印俊範.宝地房の法印宗源.同坊の永尊竪者後に僧都と云う並に題者なり等源空が門徒を対治せん
                                                  が為に各
04 各子細を述ぶ其の文広本に在り、又諸宗の明徳面面に書を作りて選択集を破し専修を対治する書籍世に伝う。
05   宣旨篇
06   南都北嶺の訴状に依つて専修を対治し行者を流罪す可きの由 度度の宣旨の内今は少を載せ多を省く委くは広本
07 に在り。
08   永尊竪者の状に云く 弾選択等上送せられて後・山上に披露す弾選択に於ては人毎に之を翫び顕選択は諸人之を
09 謗ず法然上人の墓所は 感神院の犬神人に仰付て之を破郤せしめ畢んぬ其の後奏聞に及んで裁許を蒙り畢んぬ、 七
10 月の上旬に法勝寺の御八講の次山門より南都に触れて云く 清水寺・祇園の辺・南都山門の末寺たるの処に専修の輩
11 身を容れし草菴に於ては 悉く破郤せしめ畢んぬ 其の身に於ては使庁に仰せて 之を搦め取らるるの間・礼讃の声
12 黒衣の色・京洛の中に都て以て止め畢んぬ、 張本三人流罪に定めらると雖も逐電の間未だ配所に向わず 山門今に
13 訴え申し候なり。
14   此の十一日の僉議に云く法然房所造の選択は謗法の書なり 天下に之を止め置く可からず仍つて在在所所の所持
15 並に其の印板を大講堂に取り上げ 三世の仏恩を報ぜんが為に焼失すべきの由 奏聞仕り候い畢んぬ重ねて仰せ下さ
16 れ候か、恐恐。
17   嘉禄三年十月十五日
18  専修念仏の張本成覚法師.讃岐の大手嶋に経回すと云云実否分明ならず慥にタシカ知を加えらる可きの由.山門の人
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01 人申す相尋ね申さしめ給う可きの由殿下の御気色候う所なり仍つて執達件の如し。
02     嘉禄三年十月二十日                      参議範輔在り判
03     修理権亮殿
04   関東より宣旨の御返事
05   隆寛律師の事、 右大弁宰相家の御奉書披露候い畢んぬ、 件の律師去る七月の比・下向せしむ鎌倉近辺に経回
06 すると雖も京都の制符に任せ念仏者を追放せらるるの間奥州の方へ流浪せしめ畢んぬ云云、 早く在所を尋ね捜して
07 仰せ下さるるの旨に任せ対馬の嶋に追遣可きなり、 此の旨を以て言上せしむ可きの状 鎌倉殿の仰せに依つて執達
08 件の如し。
09     嘉禄三年十月十五日                       武蔵守在り判
10                                     相模守在り判
11     掃部助殿
12     修理亮殿
13   専修念仏の事、 停廃の宣下重畳の上偸かに尚興行するの条更に公家の知しめす所にあらず偏に有司の怠慢たり
14 早く先符に任せて禁遏せらる可し、 其の上衆徒の蜂起に於ては 宜く制止を加えしめ給うべし天気に依つて言上件
15 の如し、信盛・頓首恐惶謹言
16     嘉禄三年六月二十九日                            左衛門権佐信盛奉
17     進上 天台座主大僧正御房政所
18   右弁官下す 延暦寺
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01   早く僧の隆寛・幸西・空阿弥陀仏の土縁を取り 進すべき事の書・権大納言源朝臣雅親勅を宣奉するに件の隆寛
02 等の坐せらるること配流宜く 彼の寺に仰せて度縁を取り進せしむ可し、 者れば宜く承知して宣に依つて之を行う
03 べし違失ある可からず。
04     嘉禄三年七月六日                   左太史小槻宿禰在り判
05                                左少弁藤原朝臣在り判
06   大政官の符・五畿内の諸国司まさに宜く専修念仏の興行を停廃し早く隆寛・幸西・空阿弥陀仏等の遺弟の留まる
07 処に禁法を犯す所の輩を捉え搦むべきの事。
08   弘仁聖代の格条眼に在り左大臣勅を宣奉し宜く五畿七道に課せて 興行の道を停廃し違犯の身を捉え搦むべし、
09 者れば諸国司宜く承知して宣に依つて之を行え符到らば奉行を致せ。
10     嘉禄三年七月十七日              修理右宮城使正四位下行右中弁藤原朝臣
11                        修理東大寺大仏長官正五位下左大史兼備前権介小槻宿禰
12   専修念仏興行の輩停止す可きの由五畿七道に宣下せられ候い畢んぬ、 且つは御存知有る可く候、 者れば綸言
13 此の如し之を悉にせよ、頼隆・誠恐頓首謹言。
14     嘉禄三年七月十三日                     右中弁頼隆在り判
15     進上 天台座主大僧正御房政所
16   隆寛対馬の国に改めらる可きの由宣下せられ畢んぬ、 其の由御下知有る可きの旨仰せ下さる所に候なり此の趣
17 を以て申し入れしめ給う可きの状件の如し。
18                                   右中弁頼隆在り判
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01     中納言律師御房
02   隆寛律師専修の張本たるに依つて 山門より訴え申すの間・陸奥に配流せられ畢んぬ而るに衆徒尚申す旨有り仍
03 つて配所を改めて対馬の嶋に追い遣らる可きなり、 当時東国の辺に経回すと云云 不日に彼の島に追い遣らる可き
04 の由関東に申さる可し、者れば殿下の御気色に依つて執達件の如し。
05     嘉禄三年九月二十六日                       参議在り判
06     修理権亮殿
07   専修念仏の事、 京畿七道に仰せて永く停止せらる可きの由・先日宣下せられ候い畢んぬ、 而るに諸国に尚其
08 の聞え有りと云云、宣旨の状を守りて沙汰致す可きの由・地頭・守護所等に仰付けらる可きの由・山門訴え申し候御
09 下知有る可く候、此の旨を以て沙汰申さしめ給う可きの由殿下の御気色候所なり、仍つて執達件の如し。
10     嘉禄三年十月十日                                 参議在り判
11     武蔵守殿
12   嵯峨に下されし院宣
13   近頃破戒不善の輩厳禁に拘わらず猶専修念仏を企つるの由其の聞え有り、 而るに先師法眼存日の時・清涼寺の
14 辺に多く以て止住すと云云、 遺跡を相継ぎて若し同意有らば 彼の寺の執務縦い相承の理を帯すとも免許の義有る
15 可からざるなり、早く此の旨を存して禁止せしめ給う可し院宣此くの如し仍つて執達件の如し。
16     建保七年二月四日                                按 察 使在り判
17     治部卿律師御房
18   謹んで請う 院宣一紙
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01   右当寺四至の内に破戒不善の専修念仏の輩法に任せて制止ある可く候更に以て芳心有る可からず候、 若し猶寺
02 家の力に拘わらずんば事の由を申し上ぐ可く候、謹んで請くる所件の如し。
03     建保七年閏二月四日                                 権律師良暁
04  左弁官下す 綱所
05   まさに諸寺の執務人に下知して専修念仏の輩を糾断せしむべき事。
06   右・左大臣勅を宣奉す、 専修念仏の行は諸宗衰微の基なり、仍つて去る建永二年の春厳制五箇条の裁許を以て
07 せる官符の施行先に畢んぬ、 傾く者は進んでは憲章を恐れず 退いては仏勅を憚からず或は梵宇を占め或は聚洛に
08 交わる破戒の沙門・党を道場に結んで偏に今按の佯を以てす 仏号を唱えんが為に 妄りに邪音を作し 将に蕩して
09 人心を放逸にせんとす、見聞満座の処には賢善の形を現ずと雖も 寂寞破ソウの夕には流俗の睡りに異ならず是れ則
10 ち発心の修善に非ず濫行の奸謀を企つるなり豈仏陀の元意僧徒の所行と謂わんや。
11   宜しく有司に仰せて 慥に糾断せしむべし若し猶違犯の者は罪科の趣き一に先符に同じ但し道心修行の人をして
12 以て 仏法違越の者に濫ぜしむること莫れ 更に弥陀の教説を忽せにするに非ず 只釈氏の法文を全からしめんとな
13 り、 兼ては又諸寺執務の人・五保監行の輩聞知して言わずんば与同罪曾つて寛宥せざれ、 者れば宜しく承知して
14 宣旨に依つて之を行うべし。
15     建保七年閏二月八日                            太史小槻宿禰在り判
16     謹んで請く 綱所
17   宣旨一通載せらるるはまさに諸寺の執務人に下知して専修念仏の輩を糾断せしむべき事。
18   右宣旨の状に任せ諸寺に告げ触る可きの状謹んで請くる所件の如し。
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01     建保七年閏二月二十二日之を行う。
02   頃年以来無慚の徒・不法の侶・如如の戒行を守らず処処の厳制を恐れず 恣に念仏の別宗を建て猥りに衆僧の勤
03 学を謗ず、 しかのみならず内には妄執を凝らして仏意に乖き 外には哀音を引いて人心を蕩かす 遠近併ら専修の
04 一行に帰し緇素殆んど顕密の両教を褊す仏法の衰滅而も斯に由る自由の奸悪誠に禁じても余り有り。
05   是を以て教雅法師に於ては本源を温ねて 遠流し此の外同行の余党等慥かに 其の行を帝土の中に停廃し悉く其
06 の身を洛陽の外に追郤せよ 但し或は自行の為 或は化他の為に至心専念・ 如法修行の輩に於ては制の限りに在ら
07 ず。
08     天福二年六月晦日                       藤原中納言権弁奉る
09       天福二年文暦と改む四条院の御宇後堀河
10       院の太子なり、武蔵前司入道殿の御時。
11   祇園の執行に仰せ付けらるる山門の下知状。
12   大衆の僉議に云く専修念仏者・天下に繁昌す 是れ則ち近年山門無沙汰の致す所なり、件の族は八宗仏法の怨敵
13 なり円頓行者の順魔なり、 先ず京都往返の類・在家称名の所に於ては 例に任せ犬神人に仰せて宜しく停止せしむ
14 べし云云、 者れば大衆僉議の旨斯くの如し 早く先例に任せ犬神人等に仰せ含めて専修念仏者を停止せしめ給う可
15 し云云、恐恐謹言。
16     延応二年五月十四日                               公文勾当審賢
17       四条院の御宇武蔵
18       司殿の御時。
19   謹上 祇園の執行法眼御房
20   遂つて申す、 去る夜・大衆僉議して先ず此の異名に於て殊に犬神人に付けて之を責む可きの由仰せ含めぬ仍つ
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01 て実名之を獻ず、専修念仏の張本の事.唯仏.鏡仏.智願・定真.円真.正阿弥陀仏.名阿弥陀仏・善慧.道弁.真如堂狼藉
02 の張本なり已上、唐橋油小路並に八条大御堂六波羅の総門の向いの堂・已上・当時興行の所なり。
03   延暦寺 別院雲居寺
04 早く一向専修の悪行を禁断す可き事
05   右頃年以来、愚蒙の結党・カンの会衆を名けて専修と曰いテイ閭に旁ねし心に一分の慧解無く口に衆罪の悪言を
06 吐き言を一念十声の悲願に寄せて 敢て三毒五蓋の重悪を憚からず 盲瞑の輩是非を弁えず唯情に順ずるを以て多く
07 愚誨に信伏す、 持戒修善の人を笑うて之を雑行と号し 鎮国護王の教を謗りて之を魔業と称す諸善を擯棄し衆悪を
08 選択し罪を山岳に積み報を泥梨に招く 毒気深く入つて禁じても改むること無く 偏に欲楽を嗜んで自ら止むこと能
09 わず、 猶蒼蝿の唾の為に黏さるるが如く、 何ぞ狂狗の雷を逐うて走るに異ならん、恣ままに三寸の舌を振いて衆
10 生の眼目を抜き五尺の身を養わんが為に 諸仏の肝心を滅す、 併ら只仏法の怨魔と為り 専ら緇門の妖怪と謂う可
11 し。
12   是を以て邪師存生の昔は永く罪条に沈み、 滅後の今は亦屍骨を刎らる其の徒・住蓮と安楽とは死を原野に賜い
13 成覚と薩生とは刑を遠流に蒙りぬ 此の現罰を以て其の後報を察す可し、 方に今且は釈尊の遺法を護らんが為 且
14 は衆生の塗炭を救わんが為に宜く諸国の末寺・荘園・神人・寄人等に仰せて重ねて彼の邪法を禁断すべし縦い片時と
15 雖も彼の凶類を寄宿せしむ可からず 縦い一言と雖も其の邪説を聴受す可からず、 若し又山門所部の内に専修興行
16 の輩有らば永く重科に処して寛宥有ること勿れ、者れば三千衆徒の僉議に依つて仰す所件の如し。
17     延応二年
18   山門申状
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01   近来二つの妖怪有り人の耳目を驚かす所謂達磨の邪法と念仏の哀音となり。
02   顕密の法門に属せず王臣の祈請を致さず 誠に端拱にして世を蔑り暗証にして人を軽んず小生の浅識を崇めて見
03 性成仏の仁と為し耆年の宿老を笑うて螻蟻モンモウの類に擬す論談を致さざれば才の長短を表さず決択に交らざれば
04 智の賢愚を測らず、 唯牆壁に向うて独り道を得たりと謂い 三衣纔に紆い七慢専ら盛なり 長く舒巻を抛つ附仏法
05 の外道吾が朝に既に出現す、 妖怪の至り慎まずんばあるべからず 何ぞ強ちに亡国流浪の僧を撰んで伽藍伝持の主
06 と為さんや。
07   御式目に云く右大将家以後・代代の将軍並に二位殿の御時に於ての事・一向に御沙汰を改ること無きか、追加の
08 状に云く嘉禄元年より仁治に至るまで 御成敗の事・正嘉二年二月十日評定、 右自今以後に於ては三代の将軍並に
09 二位家の御成敗に準じて御沙汰を改むるに及ばずと云云。
10   念仏停廃の事、宣旨御教書の趣き南都北嶺の状粗此くの如し、日蓮オウ弱為りと雖も勅宣並に御下知の旨を守り
11 て偏に南北明哲の賢懐を述ぶ猶此の義を棄置せらるるに非ずんば 綸言徳政を故らる可きか将た御下知を仰せらるる
12 可きか、 称名念仏の行者又賞翫せらると雖も 既に違勅の者なり 関東の御勘気未だ御免許をも蒙らず 何ぞ恣に
13 関東の近住を企てんや、 就中武蔵前司殿の御下知に至りては 三代の将軍 並に二位家の御沙汰に準じて御沙汰を
14 改むること有る可からずと云云。
15   然るに今念仏者何の威勢に依つてか宣旨に背くのみに非ず 御下知を軽蔑して重ねて称名念仏の専修を結構せん
16 人に依つて事異なりと云う此の謂在るか、何ぞ恣に華夷縦横の経回を致さんや。
17   勘文篇
18   念仏者追放宣旨御教書の事
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念仏無間地獄抄    建長七年    三十四歳御作
01   念仏は無間地獄の業因なり法華経は成仏得道の直路なり 早く浄土宗を捨て法華経を持ち生死を離れ菩提を得可
02 き事法華経第二譬喩品に云く「若人信ぜずして此の経を毀謗せば、 即ち一切世間の仏種を断ぜん、其の人命終して
03 阿鼻獄に入らん、 一劫を具足して劫尽きなば更生れん、是くの如く展転して無数劫に至らん」云云、此の文の如く
04 んば方便の念仏を信じて真実の法華を信ぜざらん者は 無間地獄に堕つ可きなり 念仏者云く我等が機は法華経に及
05 ばざる間信ぜざる計りなり毀謗する事はなし何の科に地獄に堕つ可きか、法華宗云く信ぜざる条は承伏なるか、 次
06 に毀謗と云うは即不信なり信は道の源功徳の母と云へり 菩薩の五十二位には十信を本と為し 十信の位には信心を
07 始と為し諸の悪業煩悩は不信を本と為す云云、 然ば譬喩品の十四誹謗も不信を以て体と為せり 今の念仏門は不信
08 と云い誹謗と云い争か入阿鼻獄の句を遁れんや、 其の上浄土宗には現在の父たる教主釈尊を捨て 他人たる阿弥陀
09 仏を信ずる 故に五逆罪の咎に依つて必ず無間大城に堕つ可きなり、 経に今此の三界は皆是我有なりと説き給うは
10 主君の義なり其の中の衆生悉く是れ吾子と云うは父子の義なり 而るに今此の処は諸の患難多し、 唯我一人能く救
11 護を為すと説き給うは師匠の義なり 而して釈尊付属の文に此法華経をば付属有在と云云 何れの機か漏る可き誰人
12 か信ぜざらんや、 而るに浄土宗は主師親たる教主釈尊の付属に背き他人たる西方極楽世界の阿弥陀如来を憑む 故
13 に主に背けり八逆罪の凶徒なり 違勅の咎遁れ難し即ち朝敵なり争か咎無けんや、 次に父の釈尊を捨つる故に五逆
14 罪の者なり 豈無間地獄に堕ちざる可けんや、 次に師匠の釈尊に背く故に七逆罪の人なり争か悪道に堕ちざらんや
15 此の如く教主釈尊は娑婆世界の衆生には 主師親の三徳を備て大恩の仏にて御坐す 此の仏を捨て他方の仏を信じ弥
0098top
01 陀薬師大日等を憑み奉る人は 二十逆罪の咎に依つて悪道に堕つ可きなり、 浄土の三部経とは釈尊一代五時の説教
02 の内第三方等部の内より出でたり、 此の四巻三部の経は全く釈尊の本意に非ず 三世諸仏出世の本懐にも非ず唯暫
03 く衆生誘引の方便なり 譬えば塔をくむに足代をゆふが如し念仏は足代なり 法華は宝塔なり法華を説給までの方便
04 なり法華の塔を説給て後は念仏の足代をば切り捨べきなり、 然るに法華経を説き給うて後念仏に執著するは 塔を
05 くみ立て後足代に著して塔を用ざる人の如し 豈違背の咎無からんや、 然れば法華の序分・無量義経には四十余年
06 未顕真実と説給て念仏の法門を打破り給う、 正宗法華経には正直捨方便・但説無上道と宣べ給て 念仏三昧を捨て
07 給う之に依て阿弥陀経の対告衆長老・舎利弗尊者・阿弥陀経を打捨て法華経に帰伏して華光如来と成り畢んぬ、 四
08 十八願付属の阿難尊者も 浄土の三部経を抛て法華経を受持して 山海慧自在通王仏と成り畢んぬ、 阿弥陀経の長
09 老舎利弗は千二百の羅漢の中に智慧第一の上首の大声聞・閻浮提第一の大智者なり肩を並ぶる人なし、 阿難尊者は
10 多聞第一の極聖・釈尊一代の説法を空に誦せし広学の智人なり、 かかる極位の大阿羅漢すら 尚往生成仏の望を遂
11 げず仏在世の祖師此くの如し祖師の跡を踏む可くば三部経を抛ちて 法華経を信じ無上菩提を成ず可き者なり 仏の
12 滅後に於ては 祖師先徳多しと雖も大唐楊州の善導和尚にまさる人なし唐土第一の高祖なり云云、 始は楊州の明勝
13 と云える聖人を師と為して法華経を習たりしが 道綽禅師に値つて浄土宗に移り法華経を捨て 念仏者と成れり一代
14 聖教に於て聖道浄土の二門を立てたり 法華経等の諸大乗経をば聖道門と名く自力の行と嫌えり 聖道門を修行して
15 成仏を願わん人は 百人にまれに一人二人千人にまれに三人五人得道する者や有んずらん 乃至千人に一人も得道な
16 き事も有るべし 観経等の三部経を浄土門と名け此の浄土門を修行して他力本願を憑んで 往生を願わん者は十即十
17 生百即百生とて 十人は十人百人は百人決定往生す可しとすすめたり、 観無量寿経を所依と為して四巻の疏を作る
18 玄義分・序分義.定善義・散善義是なり、其の外法事讃上下・般舟讃・往生礼讃.観念法門経此等を九帖の疏と名けた
0099top
01 り、善導念仏し給へば口より仏の出給うと云つて 称名念仏一遍を作すに三体づつ口より出給けりと伝へたり、 毎
02 日の所作には 阿弥陀経六十巻・念仏十万遍是を欠く事なし、 諸の戒品を持つて一戒も破らず三依は身の皮の如く
03 脱ぐ事なく鉢ビョウは両眼の如く身を離さず精進潔斎す女人を見ずして一期生不眠三十年なりと自歎す、凡そ善導の
04 行儀法則を云へば酒肉五辛を制止して 口に齧まず手に取らず未来の諸の比丘も 是くの如く行ずべしと定めたり、
05 一度酒を飲み肉を食い 五辛等を食い念仏申さん者は 三百万劫が間地獄に堕す可しと禁しめたり、善導が行儀法則
06 は本律の制に過ぎたり、 法然房が起請文にも書載たり、 一天四海善導和尚を以て善知識と仰ぎ 貴賎上下皆悉く
07 念仏者と成れり・但し一代聖教の大王・三世諸仏の本懐たる法華の文には 若し法を聞くこと有らん者は無一不成仏
08 と説き給へり、 善導は法華経を行ぜん者は千人に一人も得道の者有る可からずと定む 何れの説に付く可きか、無
09 量義経には念仏をば未顕真実とて 実に非ずと言ふ法華経には正直捨方便但説無上道とて 正直に念仏の観経を捨て
10 無上道の法華経を持つ可しと言ふ 此の両説水火なり何れの辺に付く可きや 善導が言を信じて法華経を捨つ可きか
11 法華経を信じて善導の義を捨つ可きか如何、 夫れ一切衆生皆成仏道の法華経、 一たび法華経を聞かば決定して菩
12 提を成ぜんの妙典善導が一言に破れて 千中無一虚妄の法と成り、 無得道教と云はれ平等大慧の巨益は虚妄と成り
13 多宝如来の皆是真実の証明の御言妄語と成るか 十方諸仏の上至梵天の広長舌も破られ給ぬ、 三世諸仏の大怨敵と
14 為り十方如来成仏の種子を失う 大謗法の科甚重し大罪報の至り無間大城の業因なり、 之に依つて忽に物狂いにや
15 成けん所居の寺の前の柳の木に登りて 自ら頚をくくりて身を投げ死し畢んぬ 邪法のたたり踵を回さず 冥罰爰に
16 見たり、 最後臨終の言に云く此の身厭う可し 諸苦に責められ暫くも休息無しと 即ち所居の寺の前の柳の木に登
17 り西に向い願つて曰く 仏の威神以て我を取り観音勢至来つて又我を扶けたまえと唱え畢つて 青柳の上より身を投
18 げて自絶す云云、 三月十七日くびをくくりて飛たりける程にくくり縄や切れけん 柳の枝や折れけん大旱魃の堅土
0100top
01 の上に落て腰骨を打折て、 二十四日に至るまで七日七夜の間悶絶躄地しておめきさけびて死し畢ぬ、 さればにや
02 是程の高祖をば往生の人の内には入れざるらんと覚ゆ 此事全く余宗の誹謗に非ず 法華宗の妄語にも非ず善導和尚
03 自筆の類聚伝の文なり云云、 而も流を酌む者は其の源を忘れず法を行ずる者は 其の師の跡を踏む可し云云 浄土
04 門に入つて師の跡を踏む可くば 臨終の時善導が如く自害有る可きか、 念仏者として頚をくくらずんば師に背く咎
05 有る可きか如何。
06   日本国には法然上人浄土宗の高祖なり十七歳にして一切経を習極め天台六十巻に渡り、 八宗を兼学して一代聖
07 教の大意を得たりとののしり、 天下無雙の智者山門第一の学匠なり云云、 然るに天魔や其の身に入にけん広学多
08 聞の智慧も空く諸宗の頂上たる天台宗を打捨て 八宗の外なる念仏者の法師と成りにけり 大臣公卿の身を捨て民百
09 姓と成るが如し、 選択集と申す文を作つて一代五時の聖教を難破し 念仏往生の一門を立てたり、 仏説法滅尽経
10 に云く 五濁悪世には魔道興盛し魔沙門と作つて我が道を壊乱し悪人転た海中の沙の如く 善人甚だ少くして若は一
11 人若は二人ならん云云 即ち法然房是なりと山門の状に書かれたり、 我が浄土宗の専修の一行をば五種の正行と定
12 め権実顕密の諸大乗をば五種の雑行と簡て 浄土門の正行をば 善導の如く決定往生と勧めたり、 観経等の浄土の
13 三部経の外・一代顕密の諸大乗経・大般若経を始と為して 終り法常住経に至るまで 貞元録に載する所の六百三十
14 七部・二千八百八十三巻は 皆是千中無一の徒物なり永く得道有る可からず、 難行・聖道門をば門を閉じ之を抛ち
15 之を閣き之を捨て・浄土門に入る可しと勧めたり、 一天の貴賎首を傾け四海の道俗掌を合せ 或は勢至の化身と号
16 し或は善導の再誕と仰ぎ一天四海になびかぬ木草なし、 智慧は日月の如く世間を照して 肩を並ぶる人なし名徳は
17 一天に充ちて善導に超え 曇鸞・道綽にも勝れたり貴賎・上下・皆選択集を以て仏法の明鏡なりと思い 道俗・男女
18 悉く法然房を以て生身の弥陀と仰ぐ、 然りと雖も恭敬供養する者は 愚癡迷惑の在俗の人・帰依渇仰する人は無智
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