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日蓮大聖人御書全集0101~0200
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0191 0192 0193 0194 0195 0196 0197 0198 0199 0200
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01 放逸の邪見の輩なり、権者に於ては之を用いず賢哲又之に随うこと無し。
02 然る間斗賀尾の明慧房は天下無雙の智人・広学多聞の明匠なり、 摧邪輪三巻を造つて選択の邪義を破し、三井
03 寺の長吏・実胤大僧正は希代の学者・名誉の才人なり 浄土決疑集三巻を作つて専修の悪行を難じ、比叡山の住侶・
04 仏頂房・隆真法橋は天下無雙の学匠・山門探題の棟梁なり弾選択上下を造つて法然房が邪義を責む、 しかのみなら
05 ず南都・山門・三井より度度奏聞を経て法然が選択の邪義 亡国の基為るの旨訴え申すに依つて人王八十三代・土御
06 門院の御宇・承元元年二月上旬に専修念仏の張本たる安楽・住蓮等を捕縛え 忽ちに頭を刎ねられ畢んぬ、法然房源
07 空は遠流の重科に沈み畢んぬ、 其の時・摂政左大臣家実と申すは近衛殿の御事なり 此の事は皇代記に見えたり誰
08 か之を疑わん。
09 しかのみならず法然房死去の後も 又重ねて山門より訴え申すに依つて人皇八十五代・後堀河院の御宇嘉禄三年
10 京都六箇所の本所より 法然房が選択集・並に印版を責め出して 大講堂の庭に取り上げて 三千の大衆会合し三世
11 の仏恩を報じ奉るなりとて之れを焼失せしめ 法然房が墓所をば犬神人に仰せ付けて 之れを掘り出して鴨河に流さ
12 れ畢んぬ。
13 宣旨・院宣・関白殿下の御教書を五畿.七道に成し下されて、六十六箇国に念仏の行者.一日片時も之れを置く可
14 からず対馬の島に追い遣る可きの旨諸国の国司に仰せ付けられ畢んぬ、 此等の次第・両六波羅の注進状・関東相模
15 守の請文等明鏡なる者なり。
16 嘉禄三年七月五日に山門に下さるる宣旨に云く。
17 専修念仏の行は諸宗衰微の基なり、茲に因つて代代の御門・頻に厳旨を降され殊に禁遏を加うる所なり、 而る
18 を頃年又興行を構へ 山門訴え申さしむるの間・先符に任せて仰せ下さるること先に畢んぬ、 其の上且は仏法の陵
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01 夷を禁ぜんが為 且は衆徒の欝訴を優に依つて其の根本と謂うを以て 隆寛・成覚・空阿弥陀仏等其の身を遠流に処
02 せしむ可きの由・不日に宣下せらるる所なり、 余党に於ては其の在所を尋ね捜して帝土を追却す可きなり、 此の
03 上は早く愁訴を慰じて 蜂起を停止す可きの旨・時刻を回さず御下知有る可く候、 者綸言此の如し頼隆・誠恐・頓
04 首謹言。
05 七月五日酉刻 右中弁頼隆奉わる
06 進上天台座主大僧正御房政所
07 同七月十三日山門に下さるる宣旨に云く。
08 専修念仏興行の輩を 停止す可きの由・五畿七道に宣下せられ畢んぬ、 且御存知有る可く候綸言此の如く之を
09 悉にす・頼隆・誠恐・頓首謹言。
10 七月十三日 右中弁頼隆奉わる
11 進上天台座主大僧正御房政所
12 殿下御教書
13 専修念仏の事、 五畿七道に仰せて永く停止せらる可きの由・先日宣下せられ候い畢んぬ、而るを諸国に尚其の
14 聞え有り云云、宣旨の状を守つて沙汰致す可きの由・地頭守護所等に仰せ付けらる可きの旨・山門訴え申し候、 御
15 存知有る可く候、此の旨を以て沙汰申さしめ給う可き由・殿下の御気色候所なり、仍て執達件の如し。
16 嘉禄三年十月十日 参議範輔在り判
17 武蔵守 殿
18 永尊竪者の状に云く、 此の十一日に大衆僉議して云く法然房所造の選択は謗法の書なり天下之を止め置く可か
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01 夷を禁ぜんが為 且は衆徒の欝訴を優に依つて其の根本と謂うを以て 隆寛・成覚・空阿弥陀仏等其の身を遠流に処
02 せしむ可きの由・不日に宣下せらるる所なり、 余党に於ては其の在所を尋ね捜して帝土を追却す可きなり、 此の
03 上は早く愁訴を慰じて 蜂起を停止す可きの旨・時刻を回さず御下知有る可く候、 者綸言此の如し頼隆・誠恐・頓
04 首謹言。
05 七月五日酉刻 右中弁頼隆奉わる
06 進上天台座主大僧正御房政所
07 同七月十三日山門に下さるる宣旨に云く。
08 専修念仏興行の輩を 停止す可きの由・五畿七道に宣下せられ畢んぬ、 且御存知有る可く候綸言此の如く之を
09 悉にす・頼隆・誠恐・頓首謹言。
10 七月十三日 右中弁頼隆奉わる
11 進上天台座主大僧正御房政所
12 殿下御教書
13 専修念仏の事、 五畿七道に仰せて永く停止せらる可きの由・先日宣下せられ候い畢んぬ、而るを諸国に尚其の
14 聞え有り云云、宣旨の状を守つて沙汰致す可きの由・地頭守護所等に仰せ付けらる可きの旨・山門訴え申し候、 御
15 存知有る可く候、此の旨を以て沙汰申さしめ給う可き由・殿下の御気色候所なり、仍て執達件の如し。
16 嘉禄三年十月十日 参議範輔在り判
17 武蔵守 殿
18 永尊竪者の状に云く、 此の十一日に大衆僉議して云く法然房所造の選択は謗法の書なり天下之を止め置く可か
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当世念仏者無間地獄事
01 安房の国・長狭郡・東条花房の郷蓮華寺に於て浄円房に対して日蓮阿闍梨之を註るす、文永元
02 年甲子九月二十二日。
03 問うて曰く当世の念仏者・無間地獄と云う事其の故如何、答えて云く法然の選択に就いて云うなり、 問うて云
04 く其の選択の意如何、 答えて曰く後鳥羽院の治天下・建仁年中に日本国に一の彗星出でたり 名けて源空法然と曰
05 う 選択一巻を記して六十余紙に及べり、 科段を十六に分つ第一段の意は 道綽禅師の安楽集に依つて聖道浄土の
06 名目を立つ、 其の聖道門とは浄土の三部経等を除いて自余の大小乗の一切経殊には朝家帰依の大日経・法華経・仁
07 王経・金光明経等の顕密の諸大乗経の名目 阿弥陀仏より已外の諸仏・菩薩・朝家御帰依の真言等の八宗の名目之を
08 挙げて聖道門と名く、 此の諸経諸仏諸宗は正像の機に値うと雖も 末法に入つて之を行ぜん者は一人も生死を離る
09 可からずと云云、 又曇鸞法師の往生論註に依つて難易の二行を立つ 第二段の意は善導和尚の五部九巻の書に依つ
10 て正雑二行を立つ、 其の雑行とは道綽の聖道門の料簡の如し、 又此の雑行は末法に入つては往生を得る者の千中
11 に一も無きなり、下の十四段には或は聖道・難行・雑行をば小善根・随他意・有上功徳等と名け念仏等を以ては大善
12 根・随自意・無上功徳等と名けて、 念仏に対して末代の凡夫此れを捨てよ此の門を閉じよ之を閣けよ之を抛てよ等
13 の四字を以て之を制止す、 而て日本国中の無智の道俗を始めて大風に草木の従うが如く 皆此の義に随つて忽に法
14 華真言等に随喜の意を止め建立の思を廃す、 而る間人毎に平形の念珠を以て弥陀の名号を唱え 或は毎日三万遍・
15 六万遍・十万遍・四十八万遍・百万遍等唱る間 又他の善根も無く念仏堂を造ること稲麻竹葦の如く、結句は法華真
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01 言等の智者とおぼしき人人も皆 或は帰依を受けんが為に或は往生極楽の為に皆本宗を捨てて 念仏者と成り或は本
02 宗にして念仏の法門を仰げるなり。
03 今云く日本国中の四衆の人人は形は異り替ると雖も 意根は皆一法を行じて悉く西方の往生を期す、仏法繁昌の
04 国と見えたる処に 一の大なる疑を発する事は念仏宗の亀鏡と仰ぐ可き智者達・念仏宗の大檀那と為る 大名・小名
05 並びに有徳の者多分は 臨終思う如くならざるの由之を聞き之を見る、 而るに善導和尚・十即十生と定め十遍乃至
06 一生の間・念仏者は一人も漏れず往生を遂ぐ可しと見えたり人の臨終と善導の釈とは水火なり。
07 爰に念仏者会して云く往生に四つ有り、一には意念往生・般舟三昧経に出でたり、二には正念往生・阿弥陀経に
08 出でたり、三には無記往生・群疑論に出でたり、 四には狂乱往生・観経の下品下生に出でたり、詰つて曰く此の中
09 の意・正の二は且く之を置く 無記往生は何れの経論に依つて懐感禅師・之を書けるや、経論に之無くば信用取り難
10 し、 第四の狂乱往生とは引証は観経の下品下生の文なり、 第一に悪人臨終の時妙法を覚れる善知識に値つて覚る
11 所の諸法実相を説かしめて之を聞く者 正念存し難く十悪・五逆・具諸不善の苦に逼め被れて覚ることを得ざれば善
12 知識実相の初門と為る故に 称名して阿弥陀仏を念ぜよと云うに音を揚げて唱え了んぬ、 此れは苦痛に堪え難くし
13 て正念を失う狂乱の者に非るか 狂乱の者争か十念を唱う可き、 例せば正念往生の所摂なり全く狂乱の往生には例
14 す可からず、 而るに汝等が本師と仰ぐ所の善導和尚は此の文を受けて 転教口称とは云えども 狂乱往生とは云わ
15 ず、其の上汝等が昼夜十二時に祈る所の願文に云く 願くは弟子等命終の時に臨んで心顛倒せず心錯乱せず 心失念
16 せず身心諸の苦痛無く身心快楽禅定に入るが如し等云云、 此の中に錯乱とは狂乱か 而るに十悪五逆を作らざる当
17 世の念仏の上人達並に大檀那等の臨終の悪瘡等の諸の悪重病並に臨終の狂乱は 意を得ざる事なり、 而るに善導和
18 尚の十即十生と定め又定得往生等の釈の如きは 疑無きの処に十人に九人往生すと雖も 一人往生せざれば猶不審発
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01 る可し,何に況や念仏宗の長者為る善慧・隆観・聖光・薩生.南無・真光等・皆悪瘡等の重病を受けて臨終に狂乱して
02 死するの由之を聞き又之を知る、 其の已下の念仏者の臨終の狂乱其の数を知らず、 善導和尚の定むる所の十即十
03 生は闕けて 嫌える所の千中無一と成んぬ、 千中無一と定められし法華・真言の行者は粗ぼ臨終の正念なる由之を
04 聞けり、念仏の法門に於ては正像末の中には末法に殊に流布す可し、利根・鈍根・善人・悪人・持戒破戒等の中には
05 鈍根・悪人・破戒等殊に往生す可しと見えたり、 故に道綽禅師は唯有浄土一門と書かれ、善導和尚は十即十生と定
06 め往生要集には濁世末代の目足と云えり、 念仏は時機已に叶えり行ぜん者空しかる可からざるの処に 是くの如き
07 の相違は大なる疑なり、 若し之に依つて本願を疑わば仏説を疑うに成んぬ 進退惟谷れり此の疑を以て念仏宗の先
08 達並びに聖道の先達に之を尋るに一人として答うる人之れ無し、 念仏者救うて云く、 汝は法然上人の捨閉閣抛の
09 四字を謗法と過むるか汝が小智の及ばざる所なり、 故に上人此の四字を私に之を書くと思えるか、源曇鸞・道綽・
10 善導の三師の釈より之を出したり、 三師の釈又私に非ず、 源浄土の三部経・竜樹菩薩の十住毘婆沙論より出ず、
11 雙観経の上巻に云く設い我仏を得乃至十念等と云云、 第十九の願に云く設い我仏を得て諸の功徳を修め 菩提心を
12 発す等と云云、 下巻に云く乃至一念等と云云、第十八の願成就の文なり、又下巻に云く「其の上輩者○一向専念・
13 其中輩者○一向専念・其下輩者○一向専念」と云云、 此れは十九願成就の文なり、 観無量寿経に云く「仏阿難に
14 告ぐ汝好く是の語を持て 是の語を持つ者は即ち是れ無量寿仏の名を持つ」等と云云、 阿弥陀経に云く小善根を以
15 てす可からず乃至一日七日等と云云、 先ず雙観経の意は念仏往生・諸行往生と説けども 一向専念と云つて諸行往
16 生を捨て了んぬ、 故に弥勒の付属には一向に念仏を付属し了んぬ、 観無量寿経の十六観も上の十五の観は諸行往
17 生、下輩一観の三品は念仏往生なり、 仏・阿難尊者に念仏を付属するは諸行を捨つる意なり、 阿弥陀経には雙観
18 経の諸行・観無量寿経の前十五観を束ねて 小善根と名け往生を得ざるの法と定め畢んぬ、 雙観経の念仏をば無上
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01 功徳と名けて弥勒に付属し、 観経念仏をば芬陀利華と名けて阿難に付属し、 阿弥陀経の念仏をば大善根と名けて
02 舎利弗に付属す、 終の付属は一経の肝心を付属するなり又一経の名を付属するなり、 三部経には諸の善根多しと
03 雖も其の中に念仏最なり、 故に題目には無量寿経・観無量寿経・阿弥陀経等と云えり、釈摩訶衍論・法華論等の論
04 を以て之れを勘うるに 一切経の初には必ず南無の二字有り、 梵本を以て之を言わば三部経の題目には南無之れ有
05 り、 雙観経の修諸の二字に念仏より外の八万聖教残る可からず、 観無量寿経の三福九品等の読誦大乗の一句に一
06 切経残る可からず、 阿弥陀経の念仏の大善根に対する小善根の語に法華経等漏る可きや、 総じて浄土の三部経の
07 意は行者の意楽に随わんが為に 暫く諸行を挙ぐと雖も、 再び念仏に対する時は諸行の門を閉じて捨閉閣抛する事
08 顕然なり、 例せば法華経を説かんが為に無量義経を説くの時に四十余年の経を捨てて法華の門を開くが如し、 竜
09 樹菩薩十住毘婆沙論を造つて 一代聖教を難易の二道に分てり、 難行道とは三部経の外の諸行なり易行道とは念仏
10 なり、 経論此くの如く分明なりと雖も震旦の人師此の義を知らず唯善導一師のみ此の義を発得せり、 所以に雙観
11 経の三輩を観念法門に書いて云く 「一切衆生・根性不同にして上中下有り 其の根性に随つて仏皆無量寿仏の名を
12 専念することを勧む」等云云、 此の文の意は発菩提心・修諸功徳等の諸行は他力本願の念仏に値わざりし以前に修
13 する事よと有りけるを忽に之を捨てよと云うとも行者用ゆ可からず 故に暫く諸行を許すなり、 実には念仏を離れ
14 て諸行を以て往生を遂ぐる者之無しと書きしなり、 観無量寿経の仏告阿難等の文を 善導の疏の四に之れを受けて
15 曰く「上来に定散両門を説くと雖も 仏の本願に望めば意衆生の一向に専ら阿弥陀の名を称するに在り」云云、 定
16 散とは八万の権実・顕密の諸経を尽して 之を摂して念仏に対して之れを捨つるなり、 善導の法事讃に阿弥陀経の
17 大小善根の故を釈して云く 「極楽は無為涅槃界なり随縁の雑善恐らくは生じ難し 故に如来要法を選んで教えて弥
18 陀専修を念ぜしむ」等と云云、 諸師の中に三部経の意を得たる人は但導一人のみ、 如来の三部経に於ては是くの
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01 如く有れども正法像法の時は根機猶利根の故に諸行往生の機も之有りけるか。
02 然るに機根衰えて末法と成る間・諸行の機漸く失い念仏の機と成れり、更に阿弥陀如来・善導和尚と生れて震旦
03 に此の義を顕し、 和尚日本に生れて初は叡山に入つて修行し 後には叡山を出でて一向に専修念仏して三部経の意
04 を顕し給いしなり、 汝捨閉閣抛の四字を謗法と咎むる事未だ導和尚の釈並びに三部経の文を窺わざるか、 狗の雷
05 を齧むが如く地獄の業を増す汝知らずんば浄土家の智者に問え。
06 不審して云く 上の所立の義を以て法然の捨閉閣抛の謗言を救うか実に浄土の三師並に竜樹菩薩・仏説により此
07 の三部経の文を開くに 念仏に対して諸行を傍と為す事粗経文に之見えたり、 経文に嫌われし程の諸行念仏に対し
08 て之を嫌わんこと過む可きに非ず、 但不審なる処は雙観経の念仏已外の諸行・観無量寿経の念仏以外の定散・阿弥
09 陀経の念仏の外の小善根の中に法華・涅槃・大日経等の極大乗経を入れ 念仏に対して不往生の善根ぞと仏の嫌わせ
10 給いけるを竜樹菩薩・三師並に法然之を嫌わば何の失有らん 但三部経の小善根等の句に法華・涅槃・大日経等は入
11 る可しとも覚えざれば 三師並に法然の釈を用いざるなり、 無量義経の如きは四十余年・未顕真実と説いて法華八
12 箇年を除きて以前四十二年に説く所の大小・権実の諸経は 一字一点も未顕真実の語に漏る可しとも覚えず、 しか
13 のみならず四十二年の間に説く所の阿含・方等・般若・華厳の名目之を出だせり、 既に大小の諸経を出して生滅無
14 常を説ける諸の小乗経を阿含の句に摂し、 三にして無差別の法門を説ける諸大乗経を華厳海空の句に摂し、 十八
15 空等を説ける諸大乗経を般若の句に摂し、 弾呵の意を説ける諸大乗経を方等の句に摂す、 是くの如く年限を指し
16 経の題目を挙げ 無量義経に依つて法華経に対して諸経を嫌い・嫌える所の諸経に依れる諸宗を下すこと 天台大師
17 の私に非ず、 汝等が浄土の三部経の中には念仏に対して 諸行を嫌う文は之有りとも嫌わるる諸行は浄土の三部経
18 よりの外の五十年の諸経なりと云う現文は之無し、 又無量義経の如く阿含・方等・般若・華厳等をも挙げず誰か知
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01 る三部経には諸の小乗経並に歴劫修行の諸経等の諸行を 仏・小善根と名け給うと云ふ事を、 左右無く念仏よりの
02 外の諸行を小善等と云えるを 法華涅槃等の一代の教なりと打ち定めて 捨閉閣抛の四字を置きては仏意にや乖くら
03 んと不審する計りなり、例せば王の所従には諸人の中・諸国の中の凡下等一人も残る可からず民が所従には諸人諸
04 国の主は入る可からざるが如し、 誠に浄土の三部経等が一代超過の経ならば 五十年の諸経を嫌うも其の謂れ之有
05 りなん 三部経の文より事起つて一代を摂す可しとは見えず、 但一機一縁の小事なり 何ぞ一代を摂して之を嫌わ
06 ん、三師並に法然此の義を弁えずして 諸行の中に法華・涅槃並に一代を摂して 末代に於て之を行ぜん者は千中無
07 一と定むるは近くは依経に背き遠くは仏意に違う者なり、 但し竜樹の十住毘婆沙論の難行の中に 法華真言等を入
08 ると云うは論文に分明に之有りや、 設い論文に之有りとも慥なる経文之無くば不審の内なり、 竜樹菩薩は権大乗
09 の論師為りし時の論なるか、 又訳者の入れたるかと意得可し、 其の故は仏は無量義経に四十余年は難行道・無量
10 義経は易行道と定め給う事金口の明鏡なり、 竜樹菩薩仏の記文に当つて出世して諸経の意を演ぶ 豈仏説なる難易
11 の二道を破つて私に難易の二道を立てんや、 随つて十住毘婆沙論の一部始中終を開くに 全く法華経を難行の中に
12 入れたる文之無く 只華厳経の十地を釈するに第二地に至り畢つて宣べず、 又此の論に諸経の歴劫修行の旨を挙ぐ
13 るに菩薩難行道に堕し二乗地に堕して永不成仏の思を成す由見えたり 法華已前の論なる事疑無し、 竜樹菩薩の意
14 を知らずして 此の論の難行の中に法華真言を入れたりと料簡するか、 浄土の三師に於ては書釈を見るに難行・雑
15 行・聖道の中に法華経を入れたる意粗之有り、 然りと雖も法然が如き放言の事之無し、 しかのみならず仏法を弘
16 めん輩は教機時国教法流布の前後をカンガむ可きか。
17 如来在世に前の四十余年には大小を説くと雖も説時至らざるの故に本懐を演べ給わず、 機有りと雖も時無けれ
18 ば大法を説き給わず、 霊山八年の間誰か円機ならざる時も来る故に本懐を演べたもうに 権機移つて実機と成る、
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01 法華経の流通並に涅槃経には実教を前とし 権教を後とす可きの由見えたり、 在世には実を隠して権を前にす滅後
02 には実を前として権を後と為す可き道理顕然なり、 然りと雖も天竺国には正法一千年の間は外道有り、 一向小乗
03 の国有り、又一向大乗の国有り、 又大小兼学の国有り、 漢土に仏法渡つても又天竺の如し、日本国に於ては外道
04 も無く小乗の機も無く唯大乗の機のみ有り、 大乗に於ても法華よりの外の機無し、 但し仏法日本に渡り始めし時
05 暫く小乗の三宗・権大乗の三宗を弘むと雖も 桓武の御宇に伝教大師の御時六宗情を破つて天台宗と成りぬ、倶舎・
06 成実・律の三宗の学者も 彼の教の如く七賢三道を経て見思を断じ二乗と成らんとは思わず、 只彼の宗を習つて大
07 乗の初門と為し彼の極を得んとは思わず、 権大乗の三宗を習える者も五性各別等の宗義を捨てて 一念三千・五輪
08 等の妙観を窺う、大小・権実を知らざる在家の檀那等も 一向に法華真言の学者の教に随つて之を供養する間・日本
09 一洲は印度震旦には似ず 一向純円の機なり、 恐くは霊山八年の機の如し、 之を以て之を思うに浄土の三師は震
10 旦・権大乗の機に超えじ、法然に於ては純円の機・純円の教・純円の国を知らず、権大乗の一分為る観経等の念仏、
11 権実をも弁えざる震旦の三師の釈之を以て 此の国に流布せしめ実機に権法を授け、純円の国を権教の国と成し 醍
12 醐を嘗むる者に蘇味を与うるの失誠に甚だ多し。
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題目弥陀名号勝劣事
01 南無妙法蓮華経と申す事は唱えがたく 南無阿弥陀仏・南無薬師如来なんど申す事は唱えやすく又文字の数の程
02 も大旨は同けれども 功徳の勝劣は遥に替りて候なり、 天竺の習ひ仏出世の前には二天・三仙の名号を唱えて天を
03 願ひけるに 仏世に出させ給いては仏の御名を唱ふ、 然るに仏の名号を二天・三仙の名号に対すれば天の名は瓦礫
04 のごとし仏の名号は金銀・如意宝珠等のごとし、 又諸仏の名号は題目の妙法蓮華経に対すれば 瓦礫と如意宝珠の
05 如くに侍るなり、 然るを仏教の中の大小権実をも弁へざる人師なんどが 仏教を知りがほにして仏の名号を外道等
06 に対して 如意宝珠に譬へたる経文を見・又法華経の題目を如意宝珠に譬へたる経文と喩の同きをもつて 念仏と法
07 華経とは同じ事と思へるなり、 同じ事と思う故に 又世間に貴と思う人の只弥陀の名号計を唱うるに随つて・皆人
08 一期の間一日に六万遍・十万遍なんど申せども 法華経の題目をば一期に一遍も唱へず、 或は世間に智者と思はれ
09 たる人人・ 外には智者気にて内には仏教を弁へざるが故に 念仏と法華経とは只一なり南無阿弥陀仏と唱うれば法
10 華経を一部よむにて侍るなんど申しあへり 是は一代の諸経の中に一句一字もなき事なり、 設ひ大師先徳の釈の中
11 より出たりとも 且は観心の釈か且はあて事かなんど心得べし、 法華経の題目は過去に十万億の生身の仏に値ひ奉
12 つて功徳を成就する人・初めて妙法蓮華経の五字の名を聞き始めて信を致すなり、諸仏の名号は外道・諸天・二乗・
13 菩薩の名号にあはすれば瓦礫と如意宝珠の如くなれども 法華経の題目に対すれば又瓦礫と如意宝珠との如し、 当
14 世の学者は 法華経の題目と諸仏の名号とを功徳ひとしと思ひ 又同じ事と思へるは瓦礫と如意宝珠とを同じと思ひ
15 一と思うが如し、 止観の五に云く「設い世を厭う者も下劣の乗を翫び 枝葉に攀付し狗作務に狎れ ミ猴を敬いて
0112top
01 帝釈と為し瓦礫を崇めて是明珠なりとす 此の黒闇の人豈道を論ず可けんや」等云云、 文の心は設ひ世をいとひて
02 出家遁世して山林に身をかくし 名利名聞をたちて一向後世を祈る人人も 法華経の大乗をば修行せずして権教下劣
03 の乗につきたる名号等を唱うるを 瓦礫を明珠なんどと思いたる僻人に 譬へ闇き悪道に行くべき者と書れて侍るな
04 り、 弘決の一には妙楽大師・善住天子経をかたらせ給いて 法華経の心を顕はして云く「法を聞いて謗を生じ地獄
05 に堕するは恒沙の仏を供養する者に勝る等」云云、 法華経の名を聞いてそしる罪は阿弥陀仏・釈迦仏・薬師仏等の
06 恒河沙の仏を供養し名号を唱うるにも 過ぎたりされば当世の念仏者の 念仏を六万遍・乃至十万遍申すなんど云へ
07 ども彼にては終に生死をはなるべからず、 法華経を聞くをば千中無一・雑行・未有一人得者なんど名けて 或は抛
08 よ或は門を閉じよなんど申す謗法こそ設ひ無間大城に堕るとも 後に必生死は離れ侍らんずれ、 同くは今生に信を
09 なしたらばいかによく候なん。
10 問う世間の念仏者なんどの申す様は 此身にて法華経なんどを破する事は争か候べき念仏を申すもとくとく極楽
11 世界に参りて法華経をさとらんが為なり、 又或は云く法華経は不浄の身にては叶ひがたし 恐れもあり念仏は不浄
12 をも嫌はねばこそ申し候へなんど申すはいかん、 答えて云く 此の四五年の程は世間の有智無智を嫌はず此の義を
13 ばさなんめりと思いて過る程に 日蓮一代聖教をあらあら引き見るにいまだ此の二義の文を勘へ出さず 詮ずるとこ
14 ろ近来の念仏者並に有智の明匠とおぼしき人人の 臨終の思うやうにならざるは是大謗法の故なり、 人ごとに念仏
15 申して浄土に生れて法華経をさとらんと思う故に 穢土にして法華経を行ずる者をあざむき又 行ずる者もすてて念
16 仏を申す心は出来るなりと覚ゆ 謗法の根本此の義より出たり、 法華経こそ此の穢土より浄土に生ずる正因にては
17 侍れ念仏等は未顕真実の故に浄土の直因にはあらず、 然るに浄土の正因をば極楽にして 後に修行すべき物と思ひ
18 極楽の直因にあらざる念仏をば 浄土の正因と思う事僻案なり、 浄土門は春沙を田に蒔いて秋米を求め天月をすて
0113top
01 て水に月を求るに似たり人の心に叶いて 法華経を失ふ大術此の義にはすぎず、 次に不浄念仏の事・一切念仏者の
02 師とする善導和尚・法然上人は他事にはいわれなき事多けれども 此の事にをいてはよくよく禁められたり、 善導
03 の観念法門経に云く酒肉五辛を手に取らざれ 口にかまざれ手にとり口にもかみて念仏を申さば 手と口に悪瘡付く
04 べしと禁め 法然上人は起請を書いて云く酒肉五辛を服して念仏申さば予が門弟にあらずと云云、 不浄にして念仏
05 を申すべしとは当世の念仏者の大妄語なり。
06 問うて云く善導和尚・法然上人の釈を引くは彼の釈を用るや否や、 答えて云くしからず念仏者の師たる故に彼
07 がことば己が祖師に相違するが故に 彼の祖師の禁めをもて彼を禁るなり、 例せば世間の沙汰の彼が語の彼の文書
08 に相違するを責るが如し、 問うて云く善導和尚・法然上人には何事の失あれば用いざるや、 答えて云く仏の御遺
09 言には我が滅度の後には 四依の論師たりといへども 法華経にたがはば用うべからずと涅槃経に返す返す禁め置か
10 せ給いて侍るに 法華経には我が滅度の後末法に諸経失せて 後殊に法華経流布すべき由・一所二所ならずあまたの
11 所に説かれて侍り、随つて天台・妙楽・伝教・安然等の義に此事分明なり、然るに善導・法然・法華経の方便の一分
12 たる四十余年の内の未顕真実の観経等に依つて 仏も説かせ給はぬ我が依経の読誦大乗の内に 法華経をまげ入れて
13 還つて我が経の名号に対して読誦大乗の一句をすつる時 法華経を抛てよ門を閉じよ 千中無一なんど書いて侍る僻
14 人をば眼あらん人是をば用うべしやいなや。
15 疑つて云く善導和尚は三昧発得の人師・本地阿弥陀仏の化身・口より化仏を出せり、法然上人は本地大勢至菩薩
16 の化身既に日本国に生れては 念仏を弘めて頭より光を現ぜり争か此等を僻人と申さんや、 又善導和尚・法然上人
17 は汝が見る程の法華経並に一切経をば見給はざらんや 定めて其の故是あらんか、 答えて云く汝が難ずる処をば世
18 間の人人・定めて道理と思はんか、是偏に法華経並に天台・妙楽等の実経・実義を述べ給へる文義を捨て善導・法然
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01 等の謗法の者にたぼらかされて年久くなりぬるが故に 思はする処なり、 先ず通力ある者を信ぜば外道天魔を信ず
02 べきか 或る外道は大海を吸干し或る外道は恒河を十二年まで耳に湛えたり 第六天の魔王は三十二相を具足して仏
03 身を現ず、 阿難尊者・猶魔と仏とを弁へず善導・法然が通力いみじしというとも天魔外道には勝れず、 其の上仏
04 の最後の禁しめに通を本とすべからずと見えたり、次に善導・法然は一切経・並に法華経をばおのれよりも見たりな
05 んどの疑ひ 是れ又謗法の人のためにはさもと思ひぬべし、 然りといへども如来の滅後には先の人は多分賢きに似
06 て後の人は大旨ははかなきに似たれども 又先の世の人の世に賢き名を取りてはかなきも是あり、 外典にも三皇・
07 五帝・老子・孔子の五経等を学びて賢き名を取れる人も後の人にくつがへされたる例是れ多きか、 内典にも又かく
08 の如し、 仏法漢土に渡りて五百年の間は明匠国に充満せしかども 光宅の法雲・道場の慧観等には過ぎざりき、此
09 等の人人は 名を天下に流し智水を国中にそそぎしかども・天台智者大師と申せし末の人・彼の義どもの僻事なる由
10 を立て申せしかば 初には用ひず後には信用を加えし時 始めて五百余年の間の人師の義どもは僻事と見えしなり、
11 日本国にも仏法渡りて二百余年の間は異義まちまちにして 何れを正義とも知らざりし程に 伝教大師と申す人に破
12 られて前二百年の間の私義は破られしなり、 其の時の人人も当時の人の申す様に 争か前前の人は一切経並に法華
13 経をば見ざるべき定めて様こそあるらめなんと申しあひたりしかども 叶はず経文に違ひたりし義どもなれば 終に
14 破れて止みにき、 当時も又かくの如し此の五十余年が間は善導の千中無一・法然が捨閉閣抛の四字等は 権者の釈
15 なれば・ゆへこそあらんと思いてひら信じに信じたりし程に 日蓮が法華経の或は悪世末法時 或は於後末世或は令
16 法久住等の文を引きむかへて相違をせむる時 我が師の私義破れて疑いあへるなり、 詮ずるところ後五百歳の経文
17 の誠なるべきかの故に念仏者の念仏をもて法華経を失ひつるが還つて 法華経の弘まらせ給うべきかと覚ゆ、 但し
18 御用心の御為に申す世間の悪人は 魚鳥鹿等を殺して世路を渡る、 此等は罪なれども仏法を失ふ縁とはならず懺悔
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01 をなさざれば三悪道にいたる、 又魚鳥鹿等を殺して売買をなして善根を修する事もあり、 此等は世間には悪と思
02 はれて遠く善となる事もあり、 仏教をもつて仏教を失ふこそ失ふ人も失ふとも思はず 只善を修すると打ち思うて
03 又そばの人も善と打ち思うてある程に 思はざる外に悪道に堕つる事の出来候なり、 当世には念仏者なんどの日蓮
04 に責め落されて 我が身は謗法の者なりけりと思う者も是あり、 聖道の人人の御中にこそ実の謗法の人人は侍れ彼
05 の人人の仰せらるる事は 法華経を毀る念仏者も不思議なり念仏者を毀る日蓮も奇怪なり、 念仏と法華とは一体の
06 物なり、 されば法華経を読むこそ念仏を申すよ念仏申すこそ 法華経を読むにては侍れと思う事に候なりとかくの
07 如く仰せらるる人人・聖道の中にあまたをはしますと聞ゆ、 随つて檀那も此の義を存じて 日蓮並に念仏者をおこ
08 がましげに思へるなり先日蓮が是れ程の事をしらぬと思へるははかなし。
09 仏法漢土に渡り初めし事は 後漢の永平なり渡りとどまる事は唐の玄宗皇帝・開元十八年なり、渡れるところの
10 経律論・五千四十八巻・訳者一百七十六人其の経経の中に 南無阿弥陀仏は即南無妙法蓮華経なりと申す経は一巻一
11 品もおはしまさざる事なり、 其の上阿弥陀仏の名を仏説き出し給う事は 始め華厳より終り般若経に至るまで四十
12 二年が間に所所に説かれたり、 但し阿含経をば除く一代聴聞の者・是を知れり、 妙法蓮華経と申す事は仏の御年
13 七十二・成道より已来四十二年と申せしに 霊山にましまして無量義処三昧に入り給いし時・文殊・弥勒の問答に過
14 去の日月燈明仏の例を引いて 我燈明仏を見る乃至法華経を説かんと欲すと 先例を引きたりし時こそ 南閻浮提の
15 衆生は法華経の御名をば聞き初めたりしか、 三の巻の心ならば阿弥陀仏等の十六の仏は 昔大通智勝仏の御時・十
16 六の王子として 法華経を習つて後に正覚をならせ給へりと見えたり、 弥陀仏等も凡夫にてをはしませし時は妙法
17 蓮華経の五字を習つてこそ 仏にはならせ給ひて侍れ、 全く南無阿弥陀仏と申して正覚をならせ給いたりとは見え
18 ず、 妙法蓮華経は能開なり南無阿弥陀仏は所開なり、 能開所開を弁へずして南無阿弥陀仏こそ南無妙法蓮華経よ
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01 と物知りがほに申し侍るなり、 日蓮幼少の時・習いそこなひの天台宗・真言宗に教へられて此の義を存じて数十年
02 の間ありしなり、 是れ存外の僻案なり但し人師の釈の中に一体と見えたる釈どもあまた侍る、 彼は観心の釈か或
03 は仏の所証の法門につけて述たるを今の人弁へずして全体一なりと思いて人を僻人に思うなり、 御ケイ迹あるべき
04 なり、 念仏と法華経と一つならば仏の念仏説かせ給いし観経等こそ如来出世の本懐にては侍らめ、 彼をば本懐と
05 もをぼしめさずして法華経を出世の本懐と説かせ給うは 念仏と一体ならざる事明白なり、 其の上多くの真言宗・
06 天台宗の人人に値い奉りて候し時・此の事を申しければされば僻案にて侍りけりと申す人 是れ多し、 敢て証文に
07 経文を書いて進ぜず候はん限りは御用ひ有るべからず是こそ謗法となる根本にて侍れ、 あなかしこ・あなかしこ。
08 日 蓮 花 押
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法華浄土問答抄
01 ┌─ 理 即
02 ├─ 名字即――――三諦の名を聞く
03 ┌穢土├─ 観行即――――五品を明かす
04 │ │ ┌── 八十八使の見惑を断ず
05 法華宗立六即┼ └─ 相似即 ┼── 八十一品の思惑を断ず
06 │ └── 九品の塵沙を断ず
07 └報土─┬ 分真即 ─── 四十一品の無明を断ず
08 └ 究竜即 ─── 一品の無明を断ず
09 ┌── 中品戒行世善等
10 ┌穢土── 理 即 ┴── 浄土下品
11 浄土宗の所立┤ ┌─ 名字即
12 │ ├─ 観行即
13 └報土┼─ 相似即
14 ├─ 分真即
15 └─ 究竜即
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01 弁成の立、 我が身叶い難きが故に且く聖道の行を捨閉し閣抛し浄土に帰し浄土に往生して法華を聞いて無生を
02 悟ることを得べきなり。
03 日蓮難じて云く、 我が身叶い難ければ穢土に於て法華経等・教主釈尊等を捨閉し閣抛し浄土に至つて之を悟る
04 可し等云云、何れの経文に依つて此くの如き義を立つるや、 又天台宗の報土は分真即・究竟即・浄土宗の報土は名
05 字即・乃至・究竟即等とは何れの経論釈に出でたるや、 又穢土に於ては法華経等・教主釈尊等を捨閉し閣抛し浄土
06 に至つて法華経を悟る可しとは何れの経文に出でたるや。
07 弁成の立に、 余の法華等の諸行等を捨閉し閣抛して念仏を用ゆる文は観経に云く「仏・阿難に告ぐ汝好く是の
08 語を持て 是の語を持つ者は即ち是れ無量寿仏の名を持つ」文、 浄土に往生して法華を聞くと云う事は 文に云く
09 「観世音・大勢至・大悲の音声を以つて其れが為に広く諸法実相除滅罪法を説く、 聞き已つて歓喜し時に応じて即
10 菩提の心を発す」文、余は繁き故に且く之を置く。
11 又日蓮難じて云く、 観無量寿経は如来成道・四十余年の内なり法華経は後八箇年の説なり如何んが已説の観経
12 に兼ねて未説の法華経の名を載せて 捨閉閣抛の可説と為す可きや、 随つて「仏告阿難」等の文に至つては只弥陀
13 念仏を勧進する文なり 未だ法華経を捨閉し閣抛することを聞かず、 何に況や無量義経に法華経を説かんが為に先
14 ず四十余年の已説の経経を挙げて 未顕真実と定め畢んぬ、 豈未顕真実の観経の内に已顕真実の法華経を挙げて捨
15 て乃至之を抛てと為す可きや、 又云く「久しく此の要を黙して務めて速かに説かず」等云云、 既に教主釈尊四十
16 余年の間・法華の名字を説かず 何ぞ已説観経の念仏に対して此の法華経を抛たんや、 次ぎに「下品下生・諸法実
17 相・除滅罪法等」云云、 夫れ法華経已前の実相其の数一に非ず先ず外道の内の長爪の実相・内道の内の小乗乃至爾
18 前の四教・皆所詮の理は実相なり、 何ぞ必ずしも已説の観経に載する所の実相のみ 法華経に同じと意得べきや、
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01 今度慥なる証文を出して法然上人の無間の苦を救わるべきか。
02 又弁成の立に、 観経は已説の経なりと雖も未来を面とする故に未来の衆生は未来に有る所の経巻之を読誦して
03 浄土に往生すべし、 既に法華等の諸経・未来流布の故に之れを読誦して往生すべきか、 其の法華を捨閉閣抛し観
04 経の持無量寿仏の文に依つて 法然是くの如く行じ給うか、 観経の持無量寿仏の文の上に諸善を説き一向に無量寿
05 仏を勧持せる故に申せしめ候、 実相に於いても多く有りと云う難、 彼は浄土の故に此の難来るべからず、法然上
06 人・聖道の行機堪え難き故に 未来流布の法華を捨閉閣抛す、 故に是れ慈悲の至進なれば此の慈悲を以て浄土に往
07 生し全く地獄に堕すべからざるか。
08 日蓮難じて云く、 観経を已説の経なりと云云、已説に於ては承伏か、観経の時未だ法華経を説かずと雖も未来
09 を鑒みて捨閉閣抛すべしと法然上人は意得給うか云云、 仏・未来を鑒みて已説の経に未来の経を載せて 之を制止
10 すと云わば 已説の小乗経に未説の大乗経を載せて之を制止すべきか、 又已説の権大乗経に未説の実大乗経を載せ
11 て未来流布の法華経を制止せば、何が故に仏爾前経に於て法華の名を載せざる由、之を説きたまうや。
12 法然上人慈悲の事、 慈悲の故に法華経と教主釈尊とを抛つなりと云わば所詮上に出す所の証文は未だ分明なら
13 ず慥なる証文を出して 法然上人の極苦を救わる可きか、 上の六品の諸行往生を下の三品の念仏に対して諸行を捨
14 つ豈法華を捨つるに非ずや等云云、 観無量寿経の上六品の諸行は法華已前の諸行なり、 設い下の三品の念仏に対
15 して上六品の諸行之を抛つとも 但法華経は諸行に入らず何ぞ之を閣かんや、 又法華の意は爾前の諸行と観経の念
16 仏と共に之を捨て畢りて如来出世の本懐を遂げ給うなり、 日蓮管見を以て 一代聖教並びに法華経の文を勘うるに
17 未だ之を見ず、 法華経の名を挙げて或は之を抛ち或は其の門を閉ずる等と云う事を、 若し爾らば法然上人の憑む
18 所の弥陀本願の誓文並びに法華経の入阿鼻獄の釈尊の誡文・如何ぞ之を免る可けんや、 法然上人・無間獄に堕せば
0120top
01 所化の弟子並びに諸檀那等共に阿鼻大城に堕ちんか、 今度分明なる証文を出して 法然上人の阿鼻の炎を消さる可
02 し云云。 文永九年太歳壬申正月十七日 日 蓮 花 押
04 弁 成 花 押
法華真言勝劣事
01 東寺の弘法大師空海の所立に云く法華経は猶華厳経に劣れり何に況や大日経等に於いてをやと云云、 慈覚大師
02 円仁・智証大師円珍・安然和尚等の云く 法華経の理は大日経に同じ印と真言との事に於ては是れ猶劣れるなりと云
03 云其の所釈は余処に之を出す.空海は大日経.菩提心論等に依つて十住心を立てて顕密の勝劣を判ず、其の中に第六に
他縁大乗
04 心は法相宗・ 第七に覚心不生心は三論宗・第八に如実一道心は天台宗・第九に極無自性心は華厳宗・第十に秘密荘
05 厳心は真言宗なり、 此の所立の次第は浅き従り深きに至る 其の証文は大日経の住心品と菩提心論とに出づと云え
06 り、 然るに出す所の大日経の住心品を見て他縁大乗・覚心不生・極無自性を尋ぬるに名目は経文に之有り然りと雖
07 も他縁・覚心・極無自性の三句を法相・三論・華厳に配する名目は之無し、其の上覚心不生と極無自性との中間に如
08 実一道の文義共に之無し、 但し此の品の初に「云何なるか菩提・謂く如実に自心を知る」等の文之有り、 此の文
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01 を取つて 此の二句の中間に置いて天台宗と名づけ華厳宗に劣るの由之を存す、 住心品に於ては全く文義共に之無
02 し、有文有義・無文有義の二句を虧く信用に及ばず、 菩提心論の文に於ても法華・華厳の勝劣都て之を見ざる上、
03 此の論は竜猛菩薩の論と云う事 上古より諍論之れ有り、 此の諍論絶えざる已前に亀鏡に立つる事は竪義の法に背
04 く、其の上善無畏・金剛智等評定有つて大日経の疏義釈を作れり 一行阿闍梨の執筆なり、 此の疏義釈の中に諸宗
05 の勝劣を判ずるに 法華経と大日経とは広略の異なりと定め畢んぬ、 空海の徳貴しと雖も争か先師の義に背く可き
06 やと云う難此れ強し此れ安然の難なり、之に依つて空海の門人之を陳ずるに旁陳答之有り或は守護経或は六波羅蜜経
07 或は楞伽経或は金剛頂経等に見ゆと多く会通すれども総じて難勢を免れず、 然りと雖も東寺の末学等大師の高徳を
08 恐るるの間 強ちに会通を加えんとすれども結句会通の術計之無く 問答の法に背いて伝教大師最澄は弘法大師の弟
09 子なりと云云、又宗論の甲乙等旁論ずる事之有りと云云。
10 日蓮案じて云く華厳宗の杜順.智厳.法蔵等・法華経の始見今見の文に就いて法華.華厳.斉等の義之を存す、其の
11 後澄観 始今の文に依つて斉等の義を存すること 祖師に違せず其の上 一往の弁を加えて法華と華厳と斉等なりと
12 云えり、 但し華厳は法華経より先なり華厳経の時仏最初に法慧功徳林等の大菩薩に対して 出世の本懐之を遂ぐ、
13 然れども 二乗並に下賎の凡夫等・根機未熟の故に之を用いず、阿含・方等・般若等の調熟に依つて還つて華厳経に
14 入らしむ此れを今見の法華経と名づく、 大陣を破るに余残堅からざる等の如し、 然れば実に華厳経法華経に勝れ
15 たり等と云云、 本朝に於て勤操等に値いて此の義を習学す 後に天台真言を学すと雖も旧執改まらざるが故に此の
16 義を存するか、 何に況や華厳経法華経に勝るの由は陳隋より已前・南三・北七皆此の義を存す、天台已後も又諸宗
17 此の義を存せり 但だ弘法一人に非ざるか、 但し澄観始見今見の文に依つて 華厳経は法華経より勝ると料簡する
18 才覚に於ては 天台智者大師涅槃経の「是経出世乃至如法華中」等の文に依つて 法華涅槃斉等の義を存するのみに
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01 非ず 又勝劣の義を存するは此の才覚を学びて此の義を存する 此の義若し僻案ならば 空海の義も又僻見なる可き
02 なり、 天台真言の書に云く法華経と大日経とは広略の異なり略とは法華経なり、 大日経と斉等の理なりと雖も印
03 真言之を略する故なり、 広とは大日経なり極理を説くのみに非ず印真言をも説く故なり、 又法華経と大日経とに
04 同劣の二義有り、謂く理同事劣なり、 又二義有り一には大日経は五時の摂なり是れ与の義なり、 二には大日経は
05 五時の摂に非ず是れ奪の義なり、 又云く法華経は譬えば裸形の猛者の如し 大日経は甲冑を帯せる猛者なり等と云
06 云、又云く印真言無きは其の仏を知る可からず等と云云。
07 日蓮不審して云く 何を以て之を知る理は法華経と大日経と斉等なりと云う事を、 答えて云く疏と義釈並に慈
08 覚・智証等の所釈に依るなり。
09 求めて云く此等の三蔵大師等は又何を以て之を知るや理は斉等の義なりと、 答えて云く三蔵大師等をば疑う可
10 からず等と云云、 難じて云く此の義・ 論義の法に非ざる上仏の遺言に違背す慥に経文を出す可し若し経文無くん
11 ば義分無かる可し如何、答う威儀形色経・瑜祇経・観智儀軌等なり、 文は口伝す可し、問うて云く法華経に印・真
12 言を略すとは仏よりか経家よりか訳者よりか、 答えて云く或は仏と云い或は経家と云い或は訳者と云うなり、 不
13 審して云く仏より真言・ 印を略して法華経と大日経と理同事勝の義之有りといわば 此の事何れの経文ぞや文証の
14 所出を知らず我意の浮言ならば之を用ゆ可からず若し経家・ 訳者より之を略すといわば 仏説に於ては何ぞ理同事
15 勝の釈を作る可きや法華経と大日経とは全躰斉なり能く能く子細を尋ぬ可きなり。
16 私に日蓮云く威儀形色経・瑜祇経等の文の如くば仏説に於ては法華経に印真言有るか、若し爾らば経家・訳者之
17 を略せるが、 六波羅蜜経の如きは経家之を略す、 旧訳の仁王経の如きは訳者之を略せるか、若し爾らば天台真言
18 の理同事異の釈は経家並に訳者の時より法華経・ 大日経の勝劣なり、 全く仏説の勝劣に非ず此れ天台真言の極な
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01 り、 天台宗の義勢才覚の為に此の義を難ず、天台真言の僻見此くの如し、 東寺所立の義勢は且く之を置く僻見眼
02 前の故なり、 抑天台真言宗の所立・理同事勝に二難有り、 一には法華経と大日経と理同の義其の文全く之無し、
03 法華経と大日経と先後如何、 既に義釈に二経の前後之を定め畢つて法華経は先き大日経は後なりと云へり、 若し
04 爾らば大日経は法華経の重説なる流通なり、 一法を両度之を説くが故なり 若し所立の如くば法華経の理を重ねて
05 之を説くを大日経と云う、 然れば則ち法華経と大日経と敵論の時は大日経の理之を奪つて法華経に付く可し、 但
06 し大日経の得分は但印真言計りなり、 印契は身業・真言は口業なり 身口のみにして意無くば印・真言有る可から
07 ず、 手口等を奪つて法華経に付けなば手無くして印を結び口無くして真言を誦せば 虚空に印真言を誦結す可きか
08 如何、 裸形の猛者と甲冑を帯せる猛者との譬の事、 裸形の猛者の進んで大陣を破ると甲冑を帯せる猛者の退いて
09 一陣をも破らざるとは何れが勝るるや、 又猛者は法華経なり甲冑は大日経なり、 猛者無くんば甲冑何の詮か之有
10 らん此れは理同の義を難ずるなり、 次に事勝の義を難ぜば 法華経には印・真言無く大日経には印真言之有りと云
11 云、 印契真言の有無に付て二経の勝劣を定むるに大日経に印真言有つて法華経に之無き故に劣ると云わば、 阿含
12 経には世界建立・賢聖の地位是れ分明なり、 大日経には之無し、 彼の経に有る事が此の経に無きを以て勝劣を判
13 ぜば大日経は阿含経より劣るか、 雙観経等には四十八願是れ分明なり大日経に之無し、 般若経には十八空是れ分
14 明なり大日経には之無し、此等の諸経に劣ると云う可きか、 又印・真言無くんば仏を知る可からず等と云云、 今
15 反詰して云く理無くんば仏有る可からず仏無くんば印契真言・一切徒然と成るべし。
16 彼難じて云く賢聖並に四十八願等をば印真言に対す可からず等と云云、 今反詰して云く最上の印真言之無くば
17 法華経は大日経等よりも劣るか、 若し爾らば法華経には二乗作仏・久遠実成之有り 大日経には之無し印真言と二
18 乗作仏・久遠実成とを対論せば天地雲泥なり、 諸経に印真言を簡わざるに 大日経に之を説いて何の詮か有る可き
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01 や、 二乗若し灰断の執を改めずんば印真言も無用なり、 一代の聖教に皆二乗を永不成仏と簡い随つて大日経にも
02 之を隔つ、 皆成仏までこそ無からめ三分が二之を捨て百分が六十余分得道せずんば 仏の大悲何かせん、凡そ理の
03 三千之有つて成仏すと云う上には何の不足か有る可き成仏に於てはアなる仏・ 中風の覚者は之有る可からず、 之
04 を以て案ずるに印真言は規模無きか、 又諸経には始成正覚の旨を談じて三身相即の無始の古仏を顕さず、 本無今
05 有の失有れば 大日如来は有名無実なり、 寿量品に此の旨を顕す釈尊は天の一月・諸仏菩薩は万水に浮べる影なり
06 と見えたり、委細の旨は且く之を置く。
07 又印・真言無くんば祈祷有る可からずと云云、是れ又以ての外の僻見なり、過去現在の諸仏・法華経を離れて成
08 仏す可からず法華経を以て正覚を成じ給う、 法華経の行者を捨て給わば 諸仏還つて凡夫と成り給うべし恩を知ら
09 ざる故なり、 又未来の諸仏の中の二乗も法華経を離れては永く枯木敗種なり、 今は再生の華果なり、他経の行者
10 と相論を為す時は華光如来・光明如来等は何れの方に付く可きや、華厳経等の諸経の仏・菩薩・人天・乃至四悪趣等
11 の衆は皆法華経に於て一念三千・久遠実成の説を聞いて正覚を成ず可し 何れの方に付く可きや、 真言宗等と外道
12 並に小乗・権大乗の行者等と敵対相論を為すの時は甲乙知り難し、 法華経の行者に対する時は 竜と虎と師子と兎
13 との闘いの如く諍論分絶えたる者なり、 慧亮脳を破りし時・次第位に即き相応加持する時・真済の悪霊伏せらるる
14 等是なり、 一向真言の行者は法華経の行者に劣れる証拠是なり、 問うて云く義釈の意は法華経・大日経共に二乗
15 作仏・久遠実成を明かすや如何、 答えて云く共に之を明かす、義釈に云く「此の経の心の実相は彼あの経の諸法実
16 相なり」と云云、又云く「本初は是れ寿量の義なり」等と云云。
17 問うて云く華厳宗の義に云く華厳経には二乗作仏・久遠実成之を明かす、 天台宗は之を許さず、宗論は且く之
18 を置く人師を捨てて本経を存せば 華厳経に於ては二乗作仏・久遠実成の相似の文之有りと雖も実には之無し、 之
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01 を以て之を思うに義釈には大日経に於て二乗作仏・久遠実成を存すと雖も実には之無きか如何、 答えて云く華厳経
02 の如く相似の文之有りと雖も実義之無きか、 私に云く二乗作仏無くば四弘誓願満足す可からず、 四弘誓願満たず
03 んば又別願も満す可からず、総別の二願満せずんば衆生の成仏も有り難きか能く能く意得可し云云。
04 問うて云く大日経の疏に云く大日如来は無始無終なり遥に五百塵点に勝れたりと如何、 答う毘廬遮那の無始無
05 終なる事華厳・浄名・般若等の諸大乗経に之を説く 独り大日経のみに非ず、 問うて云く若し爾らば五百塵点は際
06 限有れば有始有終なり無始無終は際限無し、 然れば則ち法華経は諸経に破せらるるか如何、 答えて云く他宗の人
07 は此の義を存す 天台一家に於て此の難を会通する者有り難きか、 今大日経並に諸大乗経の無始無終は法身の無始
08 無終なり三身の無始無終に非ず、 法華経の五百塵点は 諸大乗経の破せざる伽耶の 始成之を破りたる五百塵点な
09 り、大日経等の諸大乗経には全く此の義無し、宝塔の涌現・地涌の涌出・弥勒の疑・寿量品の初の三誡四請・弥勒菩
10 薩・ 領解の文に「仏希有の法を説きたもう昔より未だ曾つて聞かざる所なり」等の文是なり、 大日経六巻並に供
11 養法の巻・金剛頂経・蘇悉地経等の諸の真言部の経の中に未だ三止四請・三誡四請・二乗の劫国名号・難信難解等の
12 文を見ず。
13 問うて云く五乗の真言如何、 答う未だ二乗の真言を知らず四諦・十二因縁の梵語のみ有るなり、又法身平等に
14 会すること有らんや。
15 問うて云く慈覚・智証等・理同事勝の義を存す争か此等の大師等に過ぎんや、 答えて云く人を以て人を難ずる
16 は仏の誡なり何ぞ汝・仏の制誡に違背するや但経文を以て勝劣の義を存す可し、 難じて云く末学の身として祖師の
17 言に背かば之を難ぜざらんや、 答う末学の祖師に違する之を難ぜば 何ぞ智証慈覚の天台・妙楽に違するを何ぞ之
18 を難ぜざるや、 問うて云く相違如何、 答えて云く天台妙楽の意は已今当の三説の中に法華経に勝れたる経之れ有
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01 る可からず、 若し法華経に勝れたる経之有りといわば一宗の宗義之を壊る可きの由之を存す、 若し大日経・法華
02 経に勝るといわば天台妙楽の宗義忽に破る可きをや。
03 問うて云く天台妙楽の已今当の宗義証拠経文に有りや、 答えて云く之れ有り法華経法師品に云く「我が所説の
04 経典は無量千万億 已に説き今説き当に説かん而も其の中に於て此の法華経最も為れ難信難解なり」等と云云、 此
05 の経文の如くんば 五十余年の釈迦所説の一切経の内には法華経は最第一なり、 難じて云く真言師の云く法華経は
06 釈迦所説の一切経の中に第一なり、 大日経は大日如来所説の経なりと、 答えて云く釈迦如来より外に大日如来閻
07 浮提に於て八相成道して大日経を説けるか是一、 六波羅蜜経に云く過去現在並に釈迦牟尼仏の所説の諸経を分ちて
08 五蔵と為し其の中の第五の陀羅尼蔵は真言なりと真言の経・釈迦如来の所説に非ずといわば経文に違す是二、 「我
09 所説経典」等の文は 釈迦如来の正直捨方便の説なり大日如来の証明分身の諸仏広長舌相の経文なり是三、 五仏の
10 章・尽く諸仏皆法華経を第一なりと説き給う是四、「要を以て之を言わば・如来の一切の所有の法・乃至皆此の経に
11 於て宣示顕説す」等と云云、 此の経文の如くならば法華経は釈迦所説の諸経の第一なるのみに非ず、 大日如来・
12 十方無量諸仏の諸経の中に法華経第一なり、 此の外一仏二仏の所説の諸経の中に 法華経に勝れたるの経之有りと
13 云わば信用す可からず是五、大日経等の諸の真言経の中に法華経に勝れたる由の経文之れ無し是六,仏より外の天竺.
14 震旦・日本国の論師・人師の中に天台大師より外の人師の所釈の中に一念三千の名目之無し、 若し一念三千を立て
15 ざれば性悪の義之無し性悪の義之無くんば仏菩薩の普現色身・不動愛染等の降伏の形・十界の曼荼羅・三十七尊等・
16 本無今有の外道の法に同じきか是七。
17 問うて云く七義の中に一一の難勢之有り然りと雖も六義は且く之を置く第七の義如何、 華厳の澄観・真言の一
18 行等・皆性悪の義を存す何ぞ諸宗に此の義無しと云うや、 答えて云く華厳の澄観・真言の一行は天台所立の義を盗
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01 んで自宗の義と成すか、 此の事余処に勘えたるが如し、 問うて云く天台大師の玄義の三に云く「法華は衆経を総
02 括す乃至舌口中に爛る人情を以て 彼の大虚を局ること莫れ」等と云云、 釈籤の三に云く「法華宗極の旨を了せず
03 して声聞に記する事 相のみ華厳・般若の融通無礙なるに如かずと謂う諌暁すれども止まず 舌の爛れんこと何ぞ疑
04 わん、 乃至已今当の妙茲に於て固く迷えり舌爛れて止まざるは 猶為れ華報なり謗法の罪苦・長劫に流る」等と云
05 云、若し天台妙楽の釈実ならば南三.北七並に華厳・法相・三論・東寺の弘法等.舌爛れんこと何の疑有らんや、乃至
06 苦流長劫の者なるか、 是は且く之を置く慈覚・智証等の親り此の宗義を承けたる者 法華経は大日経より劣の義存
07 す可し、 若し其の義ならば此の人人の「舌爛口中苦流長劫」は如何、 答えて云く此の義は最上の難の義なり口伝
08 に存り云云。
09 文永元年甲子七月二十九日之を記す。 日 蓮 花 押
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真言七重勝劣事 文永七年 四十九歳御作 与富木常忍
01 一 法華・大日二経の七重勝劣の事。
02 一 戸那・扶桑の人師・一代聖教を判ずるの事。
03 一 鎮護国家の三部の事。
04 一 内裏に三宝有り内典の三部に当るの事。
05 一 天台宗に帰伏する人人の四句の事。
06 一 今経の位を人に配するの事。
07 一 三塔の事。
08 一 日本国仏神の座席の事。
09 法華・大日二経の七重勝劣の事。
10 巳今当第一────────────────────┬本門第一
11 ┌法華経 第一 「薬王今汝に告ぐ・諸経の中に於いて最も其の上に在り」 └迹門第二
12 ├涅槃経 第二 「是経出世」
13 ├無量義経第三 「次に法等十二部経・摩訶般若・華厳海空を説く・真実甚深・真実甚深」
14 ├華厳経 第四
15 ├般若経 第五
01 ├蘇悉地経第六 上に云く「三部の中に於て此の経を王と為す」、中に云く「猶成就せずんば当に此の法を作す
02 │ べし決定として成就せん、所謂乞食・精勤・念誦.大恭敬・巡八聖跡.巡礼行道なり、或は復大
03 │ 般若経七遍或は一百遍を転読す」下に云く「三時に常に大乗般若等の経を読め」
04 └大日経 第七 三国に末だ弘通せざる法門なり。
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05 戸那・扶桑の人師一代聖教を判ずるの事
06 華厳経第一 ┐
07 涅槃経第二 ┼南北の義 晋・斉等五百余年・三百六十余人光宅を以て長と為す。
08 法華経第三 ┘
09 般若経第一 ─吉蔵の義 梁代の人なり。
10 法華経第一 ┐ 南岳の御弟子なり。
11 涅槃経第二 ┼天台智者大師の御義 陳隋二代の人なり。
12 華厳経第三 ┘ 妙楽之を用う。
13 深密経第一 ┐
14 法華経第二 ┼玄弉の義 唐の始め太宗の御宇の人なり。
15 般若経第三 ┘
16 華厳経第一 ┐
17 法華経第二 ┼法蔵・澄観等の義 唐の半ば則天皇后の御宇の人なり。
18 涅槃経第三 ┘
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01 大日経第一 ┐
02 法華経第二 ┼善無畏・不空等の義 唐の末・玄宗御宇の人なり。
03 諸経 第三 ┘
04 法華経第一 ┐
05 涅槃経第二 ┼伝教の御義 人王五十代桓武の御宇及び平城・嵯峨の御代の人、比叡山延暦寺なり。
06 諸経 第三 ┘
07 大日経第一 ┐
08 華厳経第二 ┼弘法の義 人王五十二代嵯峨・淳和二代の人、東寺・高野山なり。
09 法華経第三 ┘
10 大日経第一 ┐
11 法華経第二 ┼滋覚の義 善無畏を以て師と為す、仁明・文徳・清和の三代、叡山講堂総持院なり。
12 諸経 第三 ┘ 智証之に同ず、園城寺なり。
13 鎮護国家の三部の事
14 法 華 経 ┐
15 密 厳 経 ┼不空三蔵 大唐に法華寺に之を置く、 大暦二年護摩寺を改めて法華寺を立つ、中央に法華経・脇
16 仁 王 経 ┘ 士に両部の大日なり
17 法 華 経 ┐
18 浄 名 経 ┼聖徳太子 人王三十四代推古天皇の御宇、 四天王寺に之を置く 摂津の国難波郡仏法税所の寺な
01 勝 鬘 経 ┘り。 0131top
02 法 華 経 ┐
03 金光明 経 ┼伝教大師 人王五十代桓武天皇の御宇、 比叡山延暦寺止観院に 之を置く、年分得度者一人は遮
04 仁 王 経 ┘ 那業一人は止観業なり。
05 大 日 経 ┐
06 金剛頂 経 ┼滋覚大師 人王五十四代仁明天皇の御宇、 比叡山東塔の西総持院に之を置かる、 ご本尊は大日
07 蘇悉地 経 ┘ 如来、金蘇の二疏十四巻安置せらる。
08 内裏に三宝有り内典の三部に当るの事。
09 ┌神 ジ 国の手験なり。
10 ├宝 剣 国敵を禦ぐ財なり、平家の乱の時に湖に入りて見えず。
11 └内侍所 天照太神影を浮かべ給う神鏡と言う、左馬頭頼茂に打たれて焼失す。
12 天台宗に帰伏する人人の四句の事
13 一に身心 倶に移る─┬三諭の嘉祥大師
14 └華厳の澄観法師
15 ┌真言の善無畏・不空
16 二に心移りて身移らず─┼華厳の法蔵
17 └法相の滋恩
18 三に身移りて心移らず─┬滋覚大師
01 └智証大師 0132top
02 四に身心倶に 移らず──弘法大師
03 今経の位を人に配するの事
04 鎌倉殿
05 ┌征夷将軍───────無量義経
06 ├摂 政───────涅槃経
07 ├院 ───────迹門十四品
08 └天 子───────本門十四品
09 三塔の事
10 ┌中 堂─伝教大師の御建立 止観・遮那の二業を置く、 御本尊は薬師如来なり延暦年中の御建立・王城の丑
11 │ 寅に当る、桓武天皇の御尊重、天子本名の道場と云う。
12 ├止 観 院───────── 天竺には霊鷲山と云い震旦には天台山と云い扶桑には比叡山と云う、 三国伝灯
13 │ 本院 の仏法此に極まれり。
14 ├講 堂─慈覚大師の 建立 鎮護国家の道場と云う、御本尊は大日如来なり、承和年中の建立、 止観院の西
15 │ 総持院 に真言の三部を置き是を東塔と云うなり、伝教の御弟子第三の座主なり。
16 │西搭
17 ├釈 迦 堂─円澄の 建立 伝教の弟子なり
18 │ 宝幢院
19 │横川
20 └観 音 堂─慈覚の 建立
21 楞厳院
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01 日本国仏神の座席の事
02 問う吾が朝には何れの仏を以て一の座と為し何れの法を以て一の座と為し何れの僧を以て一の座と為すや、 答
03 う観世音菩薩を以て一の座と為し真言の法を以て一の座と為し東寺の僧を以て一の座と為すなり。
04 問う日本には人王三十代に仏法渡り始めて後は山寺種種なりと雖も 延暦寺を以て天子本命の道場と定め鎮護国
05 家の道場と定む、 然して日本最初の本尊釈迦を一の座と為す然らずんば延暦寺の薬師を以て一の座と為すか、 又
06 代代の帝王起請を書いて山の弟子とならんと定め給ふ故に 法華経を以て法の一の座と為し 延暦寺の僧を以て一の
07 座と為す可し、 何ぞ仏を本尊とせず菩薩を以て諸仏の一の座と為すや、 答う尤も然る可しと雖も慈覚の御時・叡
08 山は真言になる 東寺は弘法の真言を建立す故に共に真言師なり、 共に真言師なるが故に東寺を本として真言を崇
09 む真言を崇むる 故に観音を以て本尊とす真言には菩薩をば仏にまされりと談ずるなり、 故に内裏に毎年正月八日
10 の内道場の法行わる 東寺の一の長者を召して行わる 若し一の長者暇有らざれば二の長者行うべし三までは及ぼす
11 可からず云云、故に仏には観音・法には真言・僧には東寺法師なり、 比叡山をば鬼門の方とて之を下す譬えば武士
12 の如しと云うて崇めざるなり故に日本国は亡国とならんとするなり。
13 問う神の次第如何、 答う天照太神を一の座と為し八幡大菩薩を第二の座と為す是より已下の神は三千二百三十
14 二社なり。
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真言天台勝劣事 文永七年 四十九歳御作
01 問う何なる経論に依つて真言宗を立つるや、答う大日経・金剛頂経・蘇悉地経並びに菩提心論此の三経一論に依
02 つて真言宗を立つるなり、 問う大日経と法華経と何れか勝れたるや、 答う法華経は或は七重或いは八重の勝なり
03 大日経は七八重の劣なり、 難じて云く驚いて云く古より今に至るまで法華より真言劣ると云う義都て之無し 之に
04 依つて 弘法大師は十住心を立てて 法華は真言より三重の劣と釈し給へり 覚鑁は法華は真言の履取に及ばずと釈
05 せり打ち任せては 密教勝れ顕教劣るなりと世挙つて此を許す 七重の劣と云う義は甚珍しき者をや、 答う真言は
06 七重の劣と云う事 珍しき義なりと驚かるるは理なり、 所以に法師品に云く 「已に説き今説き当に説かん而も其
07 の中に於て此の法華経は最も為れ難信難解なり」云云、 又云く「諸経の中に於て最も其の上に在り」云云、 此の
08 文の心は法華は一切経の中に勝れたり此其一、次に無量義経に云く「次に方等十二部経摩訶般若華厳海空を説く」云
09 云、又云く「真実甚深甚深甚深なり」云云、 此の文の心は無量義経は諸経の中に勝れて 甚深の中にも猶甚深なり
10 然れども法華の序分にして機もいまだなましき故に正説の法華には劣るなり此其二、 次に涅槃経の九に云く「是の
11 経の世に出ずるは彼の果実の利益する所多く 一切を安楽ならしむるが如く能く衆生をして仏性を見せしむ、 法華
12 の中の八千の声聞記ベツを得授するが如く大果実を成じ秋収冬蔵して 更に所作無きが如し」云云、 籤の一に云く
13 「一家の義意謂く二部同味なれども然も涅槃尚劣る」云云、 此の文の心は涅槃経も醍醐味・法華経も醍醐味同じ醍
14 醐味なれども涅槃経は尚劣るなり 法華経は勝れたりと云へり、 涅槃経は既に法華の序分の無量義経よりも劣り醍
15 醐味なるが故に華厳経には勝たり此其三、 次に華厳経は最初頓説なるが故に般若には勝れ涅槃経の醍醐味には劣れ
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01 り此其四、 次に蘇悉地経に云く「猶成ぜざらん者は或は復大般若経を転読すること七遍」云云、此の文の心は大般
02 若経は華厳経には劣り蘇悉地経には勝ると見えたり此其五、 次に蘇悉地経に云く「三部の中に於て此の経を王と為
03 す」云云、 此の文の心は蘇悉地経は大般若経には劣り大日経金剛頂経には勝ると見えたり此其六、此の義を以て大
04 日経は法華経より七重の劣とは申すなり法華の本門に望むれば八重の劣とも申すなり。
05 次に弘法大師の十住心を立てて法華は三重劣ると云う事は 安然の教時義と云う文に十住心の立様を破して云く
06 五つの失有り謂く 一には大日経の義釈に違する失・二には金剛頂経に違する失・三には守護経に違する失・四には
07 菩提心論に違する失・五には衆師に違する失なり、 此の五つの失を陳ずる事無くしてつまり給へり、 然る間法華
08 は真言より三重の劣と釈し給へるが大なる僻事なり 謗法に成りぬと覚ゆ、 次に覚鑁の法華は真言の履取に及ばず
09 と舎利講の式に書かれたるは舌に任せたる言なり 証拠無き故に専ら謗法なる可し、 次に世を挙げて密教勝れ顕教
10 劣ると此を許すと云う事 是れ偏に弘法を信じて法を信ぜざるなり、 所以に弘法をば安然和尚五失有りと云うて用
11 いざる時は 世間の人は何様に密教勝ると思ふ可き 抑密教勝れ顕教劣るとは何れの経に説きたるや 是又証拠無き
12 事を世を挙げて申すなり、 猶難じて云く大日経等は 是中央大日法身無始無終の如来法界宮或は色究竟天他化自在
13 天にして菩薩の為に真言を説き給へり 法華は釈迦応身霊山にして二乗の為に説き給へり 或は釈迦は大日の化身な
14 りとも云へり、 成道の時は大日の印可を蒙てオン字の観を教えられ 後夜に仏になるなり大日如来だにもましまさ
15 ずば争か釈迦仏も仏に成り給うべき 此等の道理を以て案ずるに法華より真言勝れたる事は 云うに及ばざるなり、
16 答て云く依法不依人の故に いかやうにも経説のやうに依る可きなり、 大日経は釈迦の大日となつて説き給へる経
17 なり 故に金光明と最勝王経との第一には中央釈迦牟尼と云へり 又金剛頂経の第一にも中央釈迦牟尼仏と云へり大
18 日と釈迦とは一つ中央の仏なるが故に大日経をば釈迦の説とも云うべし 大日の説とも云うべし、 又毘盧遮那と云
0136top
01 うは天竺の語大日と云うは 此の土の語なり 釈迦牟尼を毘盧遮那と名づくと云う時は 大日は釈迦の異名なり加之
02 旧訳の経に盧舎那と云うをば 新訳の経には毘盧遮那と云う 然る間・新訳の経の毘盧遮那法身と云うは旧訳の経の
03 盧舎那他受用身なり、 故に大日法身と云うは法華経の自受用報身にも及ばず 況や法華経の法身如来にはまして及
04 ぶ可からず法華経の自受用身と法身とは 真言には分絶えて知らざるなり 法報不分二三莫弁と天台宗にもきらはる
05 るなり、 随つて華厳経の新訳には或は釈迦と称づけ 或は毘盧遮那と称くと説けり 故に大日は只是釈迦の異名な
06 りなにしに別の仏とは意得可きや、 次に法身の説法と云う事何れの経の説ぞや弘法大師の二教論には楞伽経に依つ
07 て法身の説法を立て給へり、 其の楞伽経と云うは釈迦の説にして 未顕真実の権教なり法華経の自受用身に及ばざ
08 れば法身の説法とはいへどもいみじくもなし 此の上に法は定んで説かず 報は二義に通ずるの二身の有るをば一向
09 知らざるなり、 故に大日法身の説法と云うは定んで法華の他受用身に当るなり、 次に大日無始無終と云う事既に
10 「我昔道場に坐して四魔を降伏す」とも宣べ又「四魔を降伏し六趣を解脱し一切智智の明を満足す」等云云、此等の
11 文は大日は始て四魔を降伏して 始て仏に成るとこそ見えたれ全く無始の仏とは見えず、 又仏に成りて何程を経る
12 と説かざる事は権経の故なり 実経にこそ五百塵点等をも説きたれ、 次に法界宮とは色究竟天か又何れの処ぞや色
13 究竟天 或は他化自在天は法華宗には別教の仏の説処と云うていみじからぬ事に申すなり 又菩薩の為に説くとも高
14 名もなし 例せば華厳経は一向菩薩の為なれども尚法華の方便とこそ云はるれ、 只仏出世の本意は仏に成り難き二
15 乗の仏に成るを一大事とし給へり されば大論には二乗の仏に成るを密教と云ひ 二乗作仏を説かざるを顕教と云へ
16 り、 此の趣ならば真言の三部経は二乗作仏の旨無きが故に 還つて顕教と云ひ法華は二乗作仏を旨とする故に密教
17 と云う可きなり、 随つて諸仏秘密の蔵と説けば子細なし 世間の人密教勝ると云うはいかやうに意得たるや 但し
18 「若し顕教に於て修行する者は 久く三大無数劫を経」等と云えるは既に三大無数劫と云う故に 是三蔵四阿含経を
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01 指して顕教と云いて権大乗までは云わず況や法華実大乗までは都て云わざるなり。
02 次に釈迦は大日の化身オン字を教えられてこそ仏には成りたれと云う事此は偏に六波羅蜜経の説なり、彼の経一
03 部十巻は是れ釈迦の説なり 大日の説には非ず是れ未顕真実の権教なり 随つて成道の相も三蔵教の教主の相なり六
04 年苦行の後の儀式なるをや、 彼の経説の五味を天台は盗み取つて 己が宗に立つると云う無実を云い付けらるるは
05 弘法大師の大なる僻事なり、 所以に天台は涅槃経に依つて立て給へり 全く六波羅蜜経には依らず況んや天台死去
06 の後百九十年あつて貞元四年に渡る経なり 何として天台は見給うべき不実の過弘法大師にあり、 凡そ彼の経説は
07 皆未顕真実なり 之を以て法華経を下さん事甚だ荒量なり、 猶難じて云く如何に云うとも印真言・三摩耶尊形を説
08 く事は大日経程法華経には之無く 事理倶密の談は真言ひとりすぐれたり、 其の上真言の三部経は釈迦一代五時の
09 摂属に非ずされば弘法大師の宝鑰には釈摩訶衍論を証拠として 法華は無明の辺域・戯論の法と釈し給へり・爰を以
10 て法華劣り真言勝ると申すなり、 答う凡そ印相尊形は是れ権経の説にして実教の談に非ず 設い之を説くとも権実
11 大小の差別浅深有るべし、 所以に阿含経等にも印相有るが故に必ず法華に印相尊形を説くことを得ずして 之を説
12 かざるに非ず説くまじければ 是を説かぬにこそ有れ法華は只三世十方の仏の本意を説いて 其形がとあるかうある
13 とは云う可からず、 例せば世界建立の相を説かねばとて法華は倶舎より劣るとは云う可からざるが如し、次に事理
14 倶密の事・法華は理秘密・真言は事理倶密なれば勝るとは何れの経に説けるや 抑法華の理秘密とは何様の事ぞや、
15 法華の理とは迹門・開権顕実の理か 其の理は真言には分絶えて知らざる理なり、 法華の事とは又久遠実成の事な
16 り此の事又真言になし真言に云う所の事理は未開会の権教の事理なり 何ぞ法華に勝る可きや、 次に一代五時の摂
17 属に非ずと云う事 是れ往古より諍なり唐決には四教有るが故に 方等部に摂すと云へり、 教時義には一切智智・
18 一味の開会を説くが故に法華の摂と云へり、 二義の中に方等の摂と云うは吉き義なり、 所以に一切智智・一味の
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01 文を以て法華の摂と云う事甚だいはれなし 彼は法開会の文にして全く人開会なし争か法華の摂と云わるべき、 法
02 開会の文は方等般若にも盛んに談ずれども 法華に等き事なし彼の大日経の始終を見るに 四教の旨具にあり尤も方
03 等の摂と云う可し、 所以に開権顕実の旨有らざれば法華と云うまじ 一向小乗三蔵の義無ければ阿含の部とも云う
04 可からず、 般若畢竟空を説かねば般若部とも云う可からず、 大小四教の旨を説くが故に方等部と云わずんば何れ
05 の部とか云わん、 又一代五時を離れて外に仏法有りと云う可からず 若し有らば二仏並出の失あらん、 又其の法
06 を釈迦統領の国土にきたして弘む可からず、 次に弘法大師釈摩訶衍論を証拠と為て 法華を無明の辺域戯論の法と
07 云う事是れ以ての外の事なり、 釈摩訶衍論は竜樹菩薩の造なり、 是は釈迦如来の御弟子なり争か弟子の論を以て
08 師の一代第一と仰せられし 法華経を押下して戯論の法等と云う可きや、 而も論に其の明文無く随つて彼の論の法
09 門は別教の法門なり権経の法門なり 是円教に及ばず又実教に非ず何にしてか法華を下す可き、 其の上彼の論に幾
10 の経をか引くらんされども 法華経を引く事は都て之無し権論の故なり、 地体弘法大師の華厳より法華を下された
11 るは遥に仏意にはくひ違いたる心地なり、用ゆべからず用ゆべからず。
12 日 蓮 花 押
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真言諸宗違目 文永九年五月 五十一歳御作 与富木常忍
01 土木殿等の人人御中 日 蓮
02 空に読み覚えよ老人等は具に聞き奉れ早早に御免を蒙らざる事は之を歎く可からず 定めて天之を抑うるか、
03 藤河入道を以て之を知れ去年流罪有らば今年横死に値う可からざるか 彼を以て之を惟うに愚者は用いざる事
04 なり、日蓮が御免を蒙らんと欲するの事を色に出す弟子は不孝の者なり、敢て後生を扶く可からず、 各各此
05 の旨を知れ。
06 真言宗は天竺より之無し開元の始に善無畏三蔵・金剛智三蔵・不空三蔵等・天台大師己証の一念三千の法門を盗
07 んで大日経に入れて之を立て真言宗と号す、 華厳宗は則天皇后の御宇に之を始む、 澄観等天台の十乗の観法を盗
08 んで華厳経に入れて之を立て華厳宗と号す、 法相三論は言うに足らず、 禅宗は梁の世に達磨大師楞伽経等を以て
09 す大乗の空の一分なり、 其の学者等大慢を成して教外別伝等と称し一切経を蔑如す天魔の所為なり、 浄土宗は善
10 導等・観経等を見て一分の慈悲を起し摂地二論の人師に向つて一向専修の義を立て畢んぬ、日本の法然之をアヤマり
11 天台真言等を以て雑行に入れ 末代不相応の思いを為して国中を誑惑して長夜に迷わしむ、 之を明めし導師は但日
12 蓮一人なるのみ。
13 涅槃経に云く「若し善比丘法を壊る者を見て置いて 呵嘖し駈遣し挙処せずんば当に知るべし是の人は仏法の中
14 の怨なり」等云云、 潅頂章安大師云く「仏法を壊乱するは 仏法の中の怨なり慈無くして詐り親しむは 即ち是れ
15 彼が怨なり彼が為に悪を除くは即ち是れ彼が親なり」等云云、 法然が捨閉閣抛・禅家等が教外別伝・若し仏意に叶
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01 わずんば 日蓮は日本国の人の為には賢父なり聖親なり導師なり、 之を言わざれば一切衆生の為に「無慈詐親即是
02 彼怨」の重禍脱れ難し、 日蓮既に日本国の王臣等の為には「為彼除悪即是彼親」に当れり 此の国既に三逆罪を犯
03 す天豈之を罰せざらんや、 涅槃経に云く「爾の時に世尊・地の少しの土を取つて之を抓の上に置いて迦葉に告げて
04 言わく是の土多きや十方世界の地土多きや、 迦葉菩薩仏に白して言さく 世尊抓の上の土は十方所有の土の比なら
05 ざるなり○四重禁を犯し 五逆罪を作つて○一闡提と作つて 諸の善根を断じ 是の経を信ぜざるものは十方界所有
06 の地土の如し○五逆罪を作らず○一闡提と作らず 善根を断ぜず 是くの如き等の涅槃経典を信ずるは 抓の上の土
07 の如し」等云云、経文の如くんば当世日本国は十方の地土の如く日蓮は抓の上の土の如し。
08 法華経に云く「諸の無智の人有つて悪口罵詈」等云云、法滅尽経に云く「吾・般泥オンの後五逆濁世に魔道興盛
09 なり魔沙門と作つて 吾が道を壊乱す○悪人転た多くして海中の沙の如し 劫尽きんとする時・日月転た短く善者甚
10 だ少くして若しは一若しは二人」等云云、 又云く「衆魔の比丘・命終の後精神当に無択地獄に堕つべし」等云云、
11 今道隆が一党・良観が一党・聖一が一党・日本国の一切の四衆等は是の経文に当るなり、法華経に云く「仮使い劫焼
12 に乾れたる草を担い負いて中に入つて焼けざらんも 亦未だ難しとせず我が滅度の後に 若し此の経を持つて一人の
13 為にも説かん是れ則ち為れ難し」等云云、 日蓮は此の経文に当れり、 「諸の無智の人有つて悪口罵詈等し及び刀
14 杖を加うる者あらん」等云云、 仏陀記して云く後の五百歳に法華経の行者有つて 諸の無智の者の為に必ず悪口罵
15 詈・刀杖瓦礫・流罪死罪せられん等云云、日蓮無くば釈迦・多宝・十方の諸仏の未来記は当に大妄語なるべきなり。
16 疑つて云く汝当世の諸人に勝るることは一分爾る可し真言・華厳・三論・法相等の元祖に勝るとは豈に慢過慢の
17 者に非ずや過人法とは是なり 汝必ず無間大城に堕つ可し、 故に首楞厳経に説いて云く 「譬えば窮人妄りに帝王
18 と号して自ら誅滅を取るが如し況んや 復法王如何ぞ妄りに竊まん因地直からざれば果紆曲を招かん」等云云、涅槃
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01 経に云く 「云何なる比丘か過人法に堕する○未だ四沙門果を得ず 云何んぞ当に諸の世間の人をして 我は已に得
02 たりと謂わしむべき」等云云、 答えて云く法華経に云く 「又大梵天王の一切衆生の父の如く」又云く「此の経は
03 ○諸経の中の王なり最も為れ第一なり 能く是の経典を受持すること有らん者は 亦復是くの如し一切衆生の中に於
04 て亦為れ第一なり」等云云、 伝教大師の秀句に云く「天台法華宗の諸宗に勝れたるは 所宗の経に拠るが故なり自
05 讃毀他ならず 庶くは有智の君子経を尋ねて宗を定めよ」等云云、 星の中に勝れたる月・星月の中に勝れたるは日
06 輪なり、 小国の大臣は大国の無官より下る傍例なり、 外道の五通を得るより仏弟子の小乗の三賢の者の未だ一通
07 を得ざるは天地猶勝る、 法華経の外の諸経の大菩薩は法華の名字即の凡夫より下れり 何ぞ汝始めて之を驚かんや
08 教に依つて人の勝劣を定む先ず経の勝劣を知らずんば何ぞ人の高下を論ぜんや。
09 問うて云く汝法華経の行者為らば何ぞ天汝を守護せざるや、 答えて云く法華経に云く「悪鬼其の身に入る」等
10 云云、 首楞厳経に云く「修羅王有り世界を執持して 能く梵王及び天の帝釈四天と権を諍う 此の阿修羅は変化に
11 因つて有り天趣の所摂なり」等云云。
12 能く大梵天王.帝釈・四天と戦う大阿修羅王有りて禅宗・念仏宗.律宗等の棟梁の心中に付け入つて次第に国主国
13 中に遷り入つて賢人を失う、 是くの如き大悪は梵釈も猶防ぎ難きか 何に況んや日本守護の小神をや但地涌千界の
14 大菩薩・釈迦・多宝・諸仏の御加護に非ざれば叶い難きか、日月は四天の明鏡なり、諸天定めて日蓮を知りたまうか
15 日月は十方世界の明鏡なり諸仏も定めて日蓮を知りたまうか、 一分も之を疑う可からず、 但し先業未だ尽きざる
16 なり日蓮流罪に当れば教主釈尊衣を以て之を覆いたまわんか、 去年九月十二日の夜中には虎口を脱れたるか 「必
17 ず心の固きに仮りて神の守り即ち強し」 等とは是なり、 汝等努努疑うこと勿れ決定して疑い有る可からざる者な
18 り、恐恐謹言。
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01 五月五日 日 蓮 花 押
02 此の書を以て諸人に触れ示して恨を残すこと勿れ。
03 土 木殿
真言見聞 文永九年七月 五十一歳御作 与三位房日行
01 問う真言亡国とは証文何なる経論に出ずるや、 答う法華誹謗・正法向背の故なり、問う亡国の証文之無くば云
02 何に信ず可きや、 答う謗法の段は勿論なるか若し謗法ならば亡国堕獄疑い無し、 凡そ謗法とは謗仏・謗僧なり三
03 宝一体なる故なり 是れ涅槃経の文なり、 爰を以て法華経には「則ち一切世間の仏種を断ず」と説く是を即ち一闡
04 提と名づく涅槃経の一と十と十一とを委細に見る可きなり、 罪に軽重有れば獄に浅深を構えたり、 殺生・偸盗等
05 乃至一大三千世界の衆生を殺害すれども 等活黒繩等の上七大地獄の因として無間に堕つることは都て無し、 阿鼻
06 の業因は経論の掟は五逆・七逆・因果撥無・正法誹謗の者なり、 但し五逆の中に一逆を犯す者は無間に堕つと雖も
07 一中劫を経て罪を尽して浮ぶ、 一戒をも犯さず道心堅固にして後世を願うと雖も 法華に背きぬれば無間に堕ちて
08 展転無数劫と見えたり、 然れば則ち謗法は無量の五逆に過ぎたり、 是を以て国家を祈らんに天下将に泰平なるべ
09 しや、 諸法は現量に如かず 承久の兵乱の時・関東には其の用意もなし国主として調伏を企て四十一人の貴僧に仰
10 せて十五壇の秘法を行はる、 其の中に守護経の法を紫宸殿にして 御室始めて行わる七日に満ぜし日・京方負け畢
11 んぬ亡国の現証に非ずや、是は僅に今生の小事なり権教・邪法に依つて悪道に堕ちん事浅マシかるべし。
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01 問う権教邪宗の証文は如何既に真言教の大日覚王の秘法は即身成仏の奥蔵なり、 故に上下一同に是の法に帰し
02 天下悉く大法を仰ぐ海内を静め天下を治むる事偏に真言の力なり、 権教・邪法と云う事如何、答う権教と云う事・
03 四教含蔵・帯方便の説なる経文顕然なり、 然れば四味の諸教に同じて久遠を隠し 二乗を隔つ況んや尽形寿の戒等
04 を述ぶれば小乗権教なる事疑無し、 爰を以て遣唐の疑問に禅林寺の広修・国清寺の維ケンの決判分明に方等部の摂
05 と云うなり、疑つて云く経文の権教は且く之を置く唐決の事は天台の先徳・円珍大師之を破す、大日経の指帰に「法
06 華すら尚及ばず況や自余の教をや」云云、 既に祖師の所判なり誰か之に背く可きや、 決に云く「道理前の如し」
07 依法不依人の意なり但し此の釈を智証の釈と云う事不審なり、 其の故は授決集の下に云く「若し法華・華厳・涅槃
08 等の経に望めば是れ摂引門」と云へり、 広修・維ケンを破する時は法華尚及ばずと書き授決集には是れ摂引門と云
09 つて二義相違せり指帰が円珍の作ならば授決集は智証の釈に非ず、 授決集が実ならば指帰は智証の釈に非じ、 今
10 此の事を案ずるに授決集が智証の釈と云う事 天下の人皆之を知る上、 公家の日記にも之を載せたり指帰は人多く
11 之を知らず公家の日記にも之無し、 此を以つて彼を思うに後の人作つて智証の釈と号するが 能く能く尋ぬ可き事
12 なり、授決集は正しき智証の自筆なり、 密家に四句の五蔵を設けて十住心を立て 論を引き伝を三国に寄せ家家の
13 日記と号し我が宗を厳るとも 皆是れ妄語胸臆の浮言にして荘厳己義の法門なり、 所詮法華経は大日経より三重の
14 劣・戯論の法にして 釈尊は無明纒縛の仏と云う事慥なる如来の金言経文を尋ぬ可し、 証文無くんば何と云うとも
15 法華誹謗の罪過を免れず 此の事当家の肝心なり返す返す忘失する事勿れ、 何れの宗にも正法誹謗の失之有り対論
16 の時は但此の一段に在り仏法は自他宗異ると雖も 翫ぶ本意は道俗・貴賎・共に離苦得楽・現当二世の為なり、 謗
17 法に成り伏して悪道に堕つ可くば 文殊の智慧・富楼那の弁説一分も無益なり無間に堕つる程の 邪法の行人にて国
18 家を祈祷せんに将た善事を成す可きや、 顕密対判の釈は且らく之を置く 華厳に法華劣ると云う事能く能く思惟す
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01 可きなり、華厳経の十二に云く四十華厳なり「又彼の所修の一切功徳六分の一常に王に属す○是くの如く修及び造を
02 障る不善所有の罪業六分の一還つて王に属す」文、六波羅蜜経の六に云く 「若し王の境内に殺を犯す者有れば其の
03 王便ち第六分の罪を獲ん偸盗・邪行・及び妄語も亦復是くの如し何を以ての故に 若しは法も非法も王為れ根本なれ
04 ば罪に於いても福に於いても 第六の一分は皆王に属するなり」云云、最勝王経に云く 「悪人を愛敬し善人を治罰
05 するに由るが故に 他方の怨賊来り国人喪乱に遭わん」云云、 大集経に云く 「若し復諸の刹利国王・諸の非法を
06 作し世尊の声聞の弟子を悩乱し若しは以て毀罵し 刀杖もて打斫し 及び衣鉢種種の資具を奪い若しは他の給施に留
07 難を作す者有らば、我等彼をして自然に卒に他方の怨敵を起さしめ 及び自の国土にも亦兵起・疫病・饑饉・非時風
08 雨・闘諍言訟せしめ又其の王久しからずして復当に己が国を亡失すべからしむ」云云、 大三界義に云く 「爾の時
09 に諸人共に聚りて衆の内に 一の有徳の人を立て名けて田主と為して 各所収の物六分の一を以て以て 田主に貢輸
10 す一人を以て主と為し政法を以て之を治む、 茲に因つて以後・刹利種を立て大衆欽仰して恩率土に流る復・大三末
11 多王と名ずく」已上倶舎に依り之を出すなり。
12 顕密の事、無量義経十功徳品に云く第四功徳の下「深く諸仏秘密の法に入り演説す可き所違無く失無し」と、抑
13 大日の三部を密説と云ひ法華経を顕教と云う事金言の所出を知らず、 所詮真言を密と云うは是の密は隠密の密なる
14 か微密の密なるか、 物を秘するに二種有り一には金銀等を蔵に篭むるは微密なり、 二には疵・片輪等を隠すは隠
15 密なり、然れば則ち真言を密と云うは隠密なり 其の故は始成と説く 故に長寿を隠し二乗を隔つる故に記小無し、
16 此の二は教法の心髄・文義の綱骨なり、 微密の密は法華なり、然れば則ち文に云く四の巻法師品に云く「薬王此の
17 経は是れ諸仏秘要の蔵なり」云云、 五の巻安楽行品に云く「文殊師利・此の法華経は 諸仏如来秘密の蔵なり諸経
18 の中に於て最も其の上に在り」云云、 寿量品に云く「如来秘密神通之力」云云、 如来神力品に云く「如来一切秘
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01 要之蔵」云云、しかのみならず真言の高祖・竜樹菩薩・法華経を秘密と名づく二乗作仏有るが故にと釈せり、 次に
02 二乗作仏無きを秘密とせずば真言は即ち秘密の法に非ず、 所以は何ん大日経に云く 「仏・不思議真言相道の法を
03 説いて一切の声聞・縁覚を共にせず 亦世尊普く一切衆生の為にするに非ず」云云、 二乗を隔つる事前四味の諸教
04 に同じ、随つて唐決には方等部の摂と判ず経文には四教含蔵と見えたり、大論第百巻に云く第九十品を釈す「問うて
05 曰く更に 何れの法か甚深にして般若に勝れたる者有つて般若を以て阿難に嘱累し 而も余の経をば菩薩に嘱累する
06 や、 答えて曰く般若波羅蜜は秘密の法に非ず而も 法華等の諸経に阿羅漢の受決作仏を説いて大菩薩能く受用す譬
07 えば大薬師の能く毒を以て薬と為すが如し」等云云、 玄義の六に云く「譬えば良医の能く毒を変じて薬と為すが如
08 く二乗の根敗反た復すること能わず 之を名づけて毒と為す今経に記を得るは即ち是れ毒を変じて薬と為す、 故に
09 論に云く 余経は秘密に非ずとは法華を秘密と為せばなり、 復本地の所説有り諸経に無き所後に在つて当に広く明
10 すべし」云云、 籤の六に云く「第四に引証の中・論に云く等と言うは大論の文証なり 秘密と言うは八経の中の秘
11 密には非ず 但是れ前に未だ説かざる所を秘と為し開し已れば外無きを密と為す」文、 文句の八に云く「方等般若
12 に実相の蔵を説くと雖も 亦未だ五乗の作仏を説かず 亦未だ発迹顕本せず頓漸の諸経は皆未だ融会せず故に名づけ
13 て秘と為す」文、 記の八に云く「大論に云く法華は是れ秘密・諸の菩薩に付すと、 今の下の文の如きは下方を召
14 すに 尚本眷属を待つ験けし余は未だ堪えざることを」云云、 秀句の下に竜女の成仏を釈して「身口密なり」と云
15 えり云云、 此等の経論釈は分明に法華経を諸仏は最第一と説き秘密教と定め給へるを 経論に文証も無き妄語を吐
16 き法華を顕教と名づけて之を下し之を謗ず豈大謗法に非ずや。
17 抑も唐朝の善無畏金剛智等法華経と大日経の両経に理同事勝の釈を作るは梵華両国共に勝劣か、法華経も天竺
18 には十六里の宝蔵に有れば無量の事有れども流沙・葱嶺等の険難・五万八千里・十万里の路次容易ならざる間・枝葉
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01 をば之を略せり、 此等は併ながら訳者の意楽に随つて広を好み略を悪む人も有り略を好み広を悪む人も有り、 然
02 れば則ち 玄弉は広を好んで四十巻の般若経を六百巻と成し、 羅什三蔵は略を好んで千巻の大論を 百巻に縮めた
03 り、 印契・真言の勝るると云う事是を以て弁え難し、 羅什所訳の法華経には是を宗とせず不空三蔵の法華の儀軌
04 には印・真言之有り、 仁王経も羅什の所訳には印・真言之無し不空所訳の経には之を副えたり知んぬ是れ訳者の意
05 楽なりと、 其の上法華経には「為説実相印」と説いて合掌の印之有り、 譬喩品には「我が此の法印・世間を利益
06 せんと欲するが為の故に説く」云云、 此等の文如何只広略の異あるか、又舌相の言語・皆是れ真言なり、 法華経
07 には「治生の産業は皆実相と相違背せず」と宣べ、 亦「是れ前仏経中に説く所なり」 と説く此等は如何、 真言
08 こそ有名無実の真言・未顕真実の権教なれば成仏得道跡形も無く始成を談じて久遠無ければ性徳本有の仏性も無し、
09 三乗が仏の出世を感ずるに 三人に二人を捨て三十人に二十人を除く、 「皆令入仏道」の仏の本願満足す可からず
10 十界互具は思いもよらず・まして非情の上の色心の因果争か説く可きや。
11 然らば陳隋二代の天台大師が法華経の文を解りて印契の上に立て給へる十界互具・百界千如・一念三千を善無畏
12 は盗み取つて我が宗の骨目とせり、 彼の三蔵は唐の第七玄宗皇帝の開元四年に 来る如来入滅より一千六百六十四
13 年か、 開皇十七年より百二十余年なり 何ぞ百二十余年已前に天台の立て給へる一念三千の法門を盗み取つて我が
14 物とするや、而るに己が依経たる大日経には衆生の中に機を簡ひ 前四味の諸経に同じて二乗を簡へり、 まして草
15 木成仏は思いもよらず されば理を云う時は盗人なり、 又印契・真言何れの経にか之を簡える若し爾れば大日経に
16 之を説くとも規模ならず、 一代に簡われ諸経に捨てられたる二乗作仏は法華に限れり、 二乗は無量無辺劫の間・
17 千二百余尊の印契真言を行ずとも 法華経に値わずんば成仏す可からず、 印は手の用・真言は口の用なり其の主が
18 成仏せざれば口と手と別に成仏す可きや、 一代に超過し三説に秀でたる二乗の事をば 物とせず事に依る時は印真
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01 言を尊む者・劣謂勝見の外道なり。
02 無量義経説法品に云く「四十余年・未顕真実」文、 一の巻に云く「世尊は法久くして後要ず当に真実を説きた
03 もうべし」文、 又云く「一大事の因縁の故に世に出現したもう」文、 四の巻に云く「薬王今汝に告ぐ我が所説の
04 諸経あり 而も此の経の中に於て法華最も第一なり」文、 又云く「已に説き今説き当に説かん」文、宝塔品に云く
05 「我仏道を為つて無量の土に於て始より今に至るまで広く諸経を説く而も其の中に於て此の経第一なり」文、 安楽
06 行品に云く「此の法華経は 是れ諸の如来第一の説なり諸経の中に於て最も為甚深なり」文、 又云く「此の法華経
07 は諸仏如来秘密の蔵なり 諸経の中に於て最も其の上に在り」文、 薬王品に云く「此の法華経も亦復是くの如し諸
08 経の中に於て 最も為其の上なり」文、 又云く「此の経も亦復是くの如し諸経の中に於て最も為其の尊なり」文、
09 又云く「此の経も亦復是の如し諸経の中の王なり」文、 又云く「此の経も亦復是の如し一切の如来の所説 若しは
10 菩薩の所説若しは声聞の所説諸の経法の中に 最為第一なり」等云云、 玄の十に云く「又・已今当の説に最も為れ
11 難信難解・前経は是れ已説なり」文、 秀句の下に云く「謹んで案ずるに 法華経法師品の偈に云く薬王今汝に告ぐ
12 我が所説の諸経あり 而も此の経の中に於て法華最も第一なり」文、 又云く「当に知るべし已説は四時の経なり」
13 文、文句の八に云く「今法華は法を論ずれば」云云、 記の八に云く「鋒に当る」云云、 秀句の下に云く「明かに
14 知んぬ他宗所依の経は是れ王中の王ならず」云云、釈迦.多宝・十方の諸仏・天台・妙楽.伝教等は法華経は真実・華
15 厳経は方便なり、 「未だ真実を顕さず正直に方便を捨てて余経の一偈をも受けざれ」 「若し人信ぜずして乃至其
16 の人命終して阿鼻獄に入らん」と云云。
17 弘法大師は「法華は戯論・華厳は真実なり」と云云、 何れを用う可きや、宝鑰に云く「此くの如き乗乗は自乗
18 に名を得れども後に望めば戯論と作る」文、 又云く「謗人謗法は定めて阿鼻獄に堕せん」文、記の五に云く「故に
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01 実相の外は皆戯論と名づく」文、 梵網経の疏に云く「第十に謗三宝戒亦は謗菩薩戒と云い 或は邪見と云う謗は是
02 れ乖背の名なりスベて是れ解・理に称わず言は実に当らずして異解して説く者を皆名づけて謗と為すなり」文、 玄
03 の三に云く 「文証無き者は悉く是れ邪偽・彼の外道に同じ」文、 弘の十に云く「今の人他の所引の経論を信じて
04 謂いて憑み有りと為して 宗の源を尋ねず謬誤何ぞ甚しき」文、 守護章上の中に云く「若し所説の経論明文有らば
05 権実・大小・偏円・半満を簡択す可し」文、玄の三に云く「広く経論を引いて己義を荘厳す」文。
06 抑弘法の法華経は真言より三重の劣・戯論の法にして 尚華厳にも劣ると云う事 大日経六巻に供養法の巻を加
07 えて七巻三十一品・或は三十六品には何れの品何れの巻に見えたるや、 しかのみならず蘇悉地経三十四品・金剛頂
08 経三巻三品 或は一巻に全く見えざる所なり、 又大日経並びに三部の秘経には何れの巻・何れの品にか十界互具之
09 有りや都て無きなり、 法華経には事理共に有るなり、 所謂久遠実成は事なり二乗作仏は理なり、善無畏等の理同
10 事勝は臆説なり信用す可からざる者なり。
11 凡そ真言の誤り多き中
12 一、十住心に第八法華・第九華厳・第十真言云云何れの経論に出でたるや。
13 一、善無畏の四句と弘法の十住心と眼前違目なり何ぞ師弟敵対するや。
14 一、五蔵を立つる時・六波羅蜜経の陀羅尼蔵を何ぞ必ず我が家の真言と云うや。
15 一、震旦の人師争つて醍醐を盗むと云う年紀何ぞ相違するや、其の故は開皇十七年より唐の徳宗の貞元四年戊辰
16 の歳に至るまで百九十二年なり 何ぞ天台入滅百九十二年の後に渡れる 六波羅蜜経の醍醐を盗み給う可きや 顕然
17 の違目なり、若し爾れば謗人謗法定堕阿鼻獄というは自責なるや。
18 一、弘法の心経の秘鍵の五分に何ぞ法華を摂するや能く能く尋ぬ可き事なり。
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01 真言七重難。
02 一、真言は法華経より外に大日如来の所説なり云云、 若し爾れば大日の出世成道・説法利生は釈尊より前か後
03 か如何、 対機説法の仏は八相作仏す父母は誰れぞ名字は如何に娑婆世界の仏と云はば世に二仏無く国に二主無きは
04 聖教の通判なり、 涅槃経の三十五の巻を見る可きなり、 若し他土の仏なりと云はば 何ぞ我が主師親の釈尊を蔑
05 にして他方・疎縁の仏を崇むるや 不忠なり不孝なり逆路伽耶陀なり、 若し一体と云はば何ぞ別仏と云うや若し別
06 仏ならば何ぞ我が重恩の仏を捨つるや、 唐尭は老い衰へたる母を敬ひ虞舜は頑なる父を崇む是一、六波羅蜜経に云
07 く「所謂過去無量ゴウ伽沙の諸仏世尊の所説の正法・ 我今亦当に是の如き説を作すべし所謂八万四千の諸の妙法蘊
08 なり○而も阿難陀等の諸大弟子をして 一たび耳に聞いて皆悉く憶持せしむ」云云、 此の中の陀羅尼蔵を弘法我が
09 真言と云える若し爾れば此の陀羅尼蔵は釈迦の説に非ざるか 此の説に違す是二、凡そ法華経は無量千万億の已説・
10 今説・当説に最も第一なり、諸仏の所説・菩薩の所説・声聞の所説に此の経第一なり諸仏の中に大日漏る可きや、法
11 華経は正直無上道の説・大日等の諸仏長舌を梵天に付けて真実と示し給う是三、 威儀形色経に「身相黄金色にして
12 常に満月輪に遊び定慧智拳の印法華経を証誠す」と、 又五仏章の仏も法華経第一と見えたり是四、「要を以て之を
13 云わば如来の一切所有の法乃至 皆此の経に於て宣示顕説す」云云、 此等の経文は釈迦所説の諸経の中に第一なる
14 のみに非ず 三世の諸仏の所説の中に第一なり 此の外・一仏二仏の所説の経の中に法華経に勝れたる経有りと云は
15 ば用ゆ可からず法華経は三世不壊の経なる故なり是五、又大日経等の諸経の中に法華経に勝るる経文之無し是六、釈
16 尊御入滅より已後天竺の論師二十四人の付法蔵・其の外大権の垂迹・震旦の人師・南三北七の十師・三論法相の先師
17 の中に天台宗より外に十界互具・百界千如・一念三千と談ずる人之無し、 若し一念三千を立てざれば性悪の義之無
18 し性悪の義無くば仏菩薩の普現色身・真言両界の漫荼羅・五百七百の諸尊は本無今有の外道の法に同ぜんか、 若し
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01 十界互具・百界千如を立てば本経何れの経にか十界皆成の旨之を説けるや、 天台円宗見聞の後・邪智荘厳の為に盗
02 み取れる法門なり、才芸を誦し浮言を吐くには依る可からず正しき経文・金言を尋ぬ可きなり是七。
03 涅槃経の三十五に云く「我処処の経の中に於て説いて言く 一人出世すれば多人利益す一国土の中に二の転輪王
04 あり 一世界の中に二仏出世すといわば 是の処有ること無し」文、 大論の九に云く「十方恒河沙の三千大千世界
05 を名づけて一仏世界と為す是の中に更に余仏無し 実には一りの釈迦牟尼仏なり」文、 記の一に云く「世には二仏
06 無く国には二主無し一仏の境界には二の尊号無し」文、 持地論に云く「世に二仏無く国に二主無く 一仏の境界に
07 二の尊号無し」文。
08 七月 日 日 蓮 花 押
蓮盛抄 建長七年 三十四歳御作
01 禅宗云く涅槃の時.世尊座に登り拈華して衆に示す迦葉・破顔微笑せり、仏の言く吾に正法眼蔵.涅槃の妙心・実
02 相無相・微妙の法門有り文字を立てず教外に別伝し摩訶迦葉に付属するのみと、 問うて云く何なる経文ぞや、 禅
03 宗答えて云く 大梵天王問仏決疑経の文なり、 問うて云く件の経何れの三蔵の訳ぞや貞元・開元の録の中に曾つて
04 此の経無し如何、 禅宗答えて云く此の経は秘経なり故に文計り天竺より之を渡す云云、 問うて云く何れの聖人何
05 れの人師の代に渡りしぞや 跡形無きなり此の文は上古の録に載せず中頃より之を載す 此の事禅宗の根源なり尤も
06 古録に載すべし知んぬ偽文なり、 禅宗云く涅槃経の二に云く「我今所有の無上の正法悉く以て摩訶迦葉に付属す」
07 云云此の文如何、 答えて云く 無上の言は大乗に似たりと雖も是れ小乗を指すなり外道の邪法に対すれば小乗をも
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01 正法といはん、 例せば大法東漸と云えるを妙楽大師解釈の中に「通じて仏教を指す」と云いて 大小権実をふさね
02 て大法と云うなり云云、 外道に対すれば小乗も大乗と云われ 下﨟なれども分には殿と云はれ上﨟と云はるるがご
03 とし、 涅槃経の三に云く「若し法宝を以て阿難及び諸の比丘に付属せば久住を得じ何を以ての故に 一切の声聞及
04 び大迦葉は悉く当に無常なるべし 彼の老人の他の寄物を受くるが如し、 是の故に応に無上の仏法を以て諸の菩薩
05 に付属すべし 諸の菩薩は善能問答するを以て 是くの如きの法宝則ち久住することを得・無量千世増益熾盛にして
06 衆生を利安せん 彼の壮なる人の他の寄物を受くるが如し 是の義を以ての故に諸大菩薩乃ち能く問うのみ」云云、
07 大小の付属其れ別なること分明なり、 同経の十に云く「汝等文殊当に四衆の為に 広く大法を説くべし今此の経法
08 を以て汝に付属す 乃至迦葉阿難等も来らば復当に是くの如き正法を付属すべし」云云 故に知んぬ文殊迦葉に大法
09 を付属すべしと云云、 仏より付属する処の法は小乗なり 悟性論に云く「人心をさとる事あれば菩提の道を得る故
10 に仏と名づく」菩提に五あり何れの菩提ぞや 得道又種種なり何れの道ぞや 余経に明す所は大菩提にあらず又無上
11 道にあらず経に云く「四十余年未顕真実」云云。
12 問うて云く法華は貴賎男女何れの菩提の道を得べきや、答えて云く「乃至一偈に於ても皆成仏疑い無し」云云、
13 又云く「正直に方便を捨て但無上道を説く」云云、 是に知んぬ 無上菩提なり「須臾も之を聞いて即ち阿耨菩提を
14 究竟することを得るなり」此の菩提を得ん事須臾も此の法門を聞く功徳なり、 問うて云く 須臾とは三十須臾を一
15 日一夜と云う「須臾聞之」の須臾は之を指すか如何、 答う件の如し 天台止観の二に云く「須臾も廃すること無か
16 れ」云云、弘決に云く「暫くも廃することを許さざる故に須臾と云う」故に須臾は刹那なり。
17 問うて云く本分の田地にもとづくを禅の規模とす、 答う本分の田地とは何者ぞや又何れの経に出でたるぞや法
18 華経こそ 人天の福田なればむねと人天を教化し給ふ故に 仏を天人師と号す此の経を信ずる者は己身の仏を見るの
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01 のみならず過・現・未の三世の仏を見る事・浄頗梨に向ふに色像を見るが如し、経に云く「又浄明鏡に悉く諸の色像
02 を見るが如し」云云。
03 禅宗云く是心即仏・即身是仏と、 答えて云く経に云く「心は是れ第一の怨なり此の怨最も悪と為す此の怨能く
04 人を縛り送つて閻羅の処に到る 汝独り地獄に焼かれて 悪業の為に養う所の妻子兄弟等・親属も救うこと能わじ」
05 云云、 涅槃経に云く「願つて心の師と作つて心を師とせざれ」云云、 愚癡無懺の心を以て即心即仏と立つ豈未得
06 謂得・未証謂証の人に非ずや。
07 問う法華宗の意如何、答う経文に「具三十二相・乃是真実滅」云云、或は「速成就仏身」云云、禅宗は理性の仏
08 を尊んで己れ仏に均しと思ひ 増上慢に堕つ定めて是れ阿鼻の罪人なり、 故に法華経に云く「増上慢の比丘は将に
09 大坑に墜ちんとす」禅宗云く毘盧の頂上をフむと、 云く毘盧とは何者ぞや 若し周遍法界の法身ならば山川・大地
10 も皆是れ毘盧の身土なり是れ理性の毘盧なり、 此の身土に於ては狗・野干の類も之をフむ禅宗の規模に非ず・若し
11 実に仏の頂をフまんか梵天も其の頂を見ずと云えり 薄地争でか之をフむ可きや、 夫れ仏は一切衆生に於いて主師
12 親の徳有り 若し恩徳広き慈父をフまんは不孝逆罪の大愚人・悪人なり、 孔子の典籍尚以て此の輩を捨つ況んや如
13 来の正法をや豈此の邪類・邪法を讃めて 無量の重罪を獲んや云云、 在世の迦葉は頭頂礼敬と云う滅後の闇禅は頂
14 上をフむと云う恐る可し。
15 禅宗云く教外別伝不立文字、 答えて云く凡そ世に流布の教に三種を立つ、一には儒教此れに二十七種あり、二
16 には道教此れに二十五家あり、 三には十二分教・天台宗には四教・八教を立つるなり此等を教外と立つるか、医師
17 の法には 本道の外を外経師と云う人間の言には姓のつづかざるをば外戚と云う 仏教には経論にはなれたるをば外
18 道と云う、 涅槃経に云く「若し仏の所説に順わざる者有らば当に知るべし是の人は是れ魔の眷属なり」云云、弘決
0153top
01 九に云く「法華已前は猶是れ外道の弟子なり」云云、 禅宗云く仏祖不伝云云、 答えて云く然らば何ぞ西天の二十
02 八祖東土の六祖を立つるや、 付属摩訶迦葉の立義已に破るるか自語相違は如何、禅宗云く向上の一路は先聖不伝云
03 云、答う爾らば今の禅宗も向上に於ては解了すべからず若し解らずんば禅に非ざるか凡そ向上を歌つて以てキョウ慢
04 に住し未だ妄心を治せずして見性に奢り機と法と相乖くこと 此の責尤も親し旁がた化儀を妨ぐ 其の失転多し謂く
05 教外と号し剰さえ教外を学び文筆を嗜みながら文字を立てず 言と心と相応せず 豈天魔の部類・外道の弟子に非ず
06 や、仏は文字に依つて衆生を度し給うなり、 問う其の証拠如何、 答えて云く涅槃経の十五に云く「願わくは諸の
07 衆生悉く皆出世の文字を受持せよ」文、 像法決疑経に云く「文字に依るが故に衆生を度し 菩提を得」云云、 若
08 し文字を離れば何を以てか仏事とせん 禅宗は言語を以て人に示さざらんや 若し示さずといはば南天竺の達磨は四
09 巻の楞伽経に依つて五巻の疏を作り慧可に伝うる時我漢地を見るに 但此の経のみあつて人を度す可し 汝此れに依
10 つて世を度す可し云云、 若し爾れば猥に教外別伝と号せんや、 次に不伝の言に至つては冷煖二途・唯自覚了と云
11 つて文字に依るか其れも相伝の後の冷煖自知なり 是を以て法華に云く「悪知識を捨て善友に親近せよ」文、 止観
12 に云く「師に値わざれば邪慧日に増し生死月に甚し稠林に曲木を曵くが如く出づる期有こと無けん」云云、 凡そ世
13 間の沙汰尚以て他人に談合す況んや出世の深理寧ろ輙く自己を本分とせんや、 故に経に云く「近きを見る可からざ
14 ること人の睫の如く 遠きを見る可からざること空中の鳥の跡の如し」云云、 上根上機の坐禅は且く之を置く当世
15 の禅宗は瓮を蒙つて壁に向うが如し、 経に云く「盲冥にして見る所無し大勢の仏及び断苦の法を求めず 深く諸の
16 邪見に入つて苦を以て苦を捨てんと欲す」云云、 弘決に云く「世間の顕語尚識らず 況んや中道の遠理をや円常の
17 密教寧ろ当に識る可けんや」云云、 当世の禅者皆是れ大邪見の輩なり、 就中三惑未断の凡夫の語録を用いて四智
18 円明の如来の言教を軽んずる返す返す過てる者か、 疾の前に薬なし・機の前に教なし・等覚の菩薩すら尚教を用い
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01 き底下の愚人何ぞ経を信ぜざる云云、 是を以て漢土に禅宗興ぜしかば 其の国忽ちに亡びき本朝の滅す可き瑞相に
02 闇証の禅師充満す、止観に云く「此れ則ち法滅の妖怪なり亦是れ時代の妖怪なり」云云。
03 禅宗云く法華宗は不立文字の義を破す何故ぞ仏は一字不説と説き給うや、 答う汝楞伽経の文を引くか本法自法
04 の二義を知らざるか学ばずんば習うべし其の上彼の経に於いては未顕真実と破られ畢んぬ何ぞ指南と為ん。
05 問うて云く像法決疑経に云く「如来の一句の法を説きたもうを見ず」云云如何、 答う是は常施菩薩の言なり法
06 華経には「菩薩是の法を聞いて疑網皆已に除く 千二百の羅漢悉く 亦当に作仏すべし」と云つて八万の菩薩も千二
07 百の羅漢も悉く 皆列座し聴聞随喜す、 常施一人は見えず何れの説に依る可き法華の座に挙ぐる 菩薩の上首の中
08 に常施の名之無し見えずと申すも道理なり、 何に況や次下に「然るに諸の衆生出没有るを見て 法を説いて人を度
09 す」云云、 何ぞ不説の一句を留めて可説の妙理を失う可き、 汝が立義一一大僻見なり執情を改めて法華に帰伏す
10 可し、然らずんば豈無道心に非ずや。
八宗違目抄 文永九年二月 五十一歳御作 与富木常忍
01 記の九に云く「若し其れ未だ開せざれば法報は迹に非ず 若し顕本し已れば本迹各三なり」文句の九に云く「仏
02 三世に於て等しく三身有り諸教の中に於て之を秘して伝えず」
03 ┌ 法身如来 ┌正因仏性
04 仏───┼ 報身如来 衆生───┼了因仏性
05 └ 応身如来 └縁因仏性
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01 ┌ 小乗には仏性を論ぜず。
02 衆生の仏性┼ 華厳・法等・般若・大日等には衆生本より正因仏性あつて了因・縁因無し。
03 └ 法華経には本より三因仏性有り。
04 文句の十に云く「正因仏性法身の性なりは本当に通互す、縁・了仏性は種子本有なき今に適むに非ざらるなり」
05 ┌今此の三界は皆我が有なり──────主国王世尊なり
06 法華経第二に云く┼其の中の衆生は悉く是れ我が子なり──親父なり
07 ├而も今此の処は諸の患難多し────┐
08 └唯我一人のみ能く救護をなす────┴導師なり
09 ┌主─国王─報身如来
10 寿量品に云く我も亦為世の父文 ┼師────応身如来
11 └親────法身如来
12 五百間論に云く 「若し父の寿の遠を知らずして 復父統の邦に迷わば徒らに才能と謂うとも全く人の子に非ず」
13 又云く「但恐らくは才一国に当るとも父母の年を識らざんや」
14 古今仏道論衛道宣の作に云く「三皇已然は末だ文字有らず但其の母を識つて其の父を識らず禽獣に同じ鳥等なり等
15 云云、慧遠法師周の武帝を詰る語なり
16 倶舎宗┐
17 成実宗┼ 一向に釈尊を以て本尊と為す爾りとと雖も但応身に限る。
18 律 宗┘
19 華厳宗┐
20 三論宗┼ 釈尊を以て本尊と為すと雖も法身は無始無終・報身は有始無終・応身は有始有終なり。
21 法相宗┘
22 真言宗─ 一向に大日如来を以て本尊と為す二義有り┬ 一義に云く大日如来は釈迦の法身なり。
23 └ 一義に云く大日如来は釈迦の法身に非ず。
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01 但し大日経には大日如来は釈迦牟尼仏なりと見えたり人師よりの僻見なり。
02 浄土宗 一向に阿弥陀如来を以て本尊と為す。
03 法華宗より外の真言等の七宗・並に浄土宗等は 釈迦如来を以て父と為すことを知らず、 例せば三皇已前の人・
04 禽獣に同ずるが如し鳥の中に鷦鷯鳥も鳳凰鳥も 父を知らず獣の中には兎も師子も父を知らず、 三皇以前は大王も
05 小民も共に其の父を知らず 天台宗よりの外真言等の諸宗の大乗宗は師子と鳳凰の如く 小乗宗は鷦鷯と兎等の如く
06 共に父を知らざるなり。
07 華厳宗に十界互具一念三千を立つること澄観の疏に之有り。
08 真言宗に十界互具一念三千を立つること大日経の疏に之を出す。
09 天台宗と同異如何、天台宗已前にも十界互具・一念三千を立つるや、 記の三に云く「然るに衆釈を攅むるに既に
10 三乗及び一乗・三一倶に性相等の十有りと許す何すれぞ六道の十を語らざるや」此の釈の如くんば天台已前五百余年
の人師三蔵等の法華経に依る者一念
11 三千の名目を立てざるか。
12 問うて云く華厳宗は一念三千の義を用いるや華厳宗は唐の則天皇后の御宇に之を立つ答えて云く澄観の疏三十三清
涼国師に云く「
13 止観の第五に十法成乗を明す中の第二に 真正発菩提心○釈して云く然も此の経の上下の発心の義は文理淵博にして
14 其の撮略を見る故に 取つて之を用い引いて之を証とす」と、 二十九に云く「法華経に云く唯仏与仏等と天台云く
15 ○便ち三千世間を成すと彼の宗には此れを以つて実と為す○一家の意理として通ぜざる無し」文。
16 華厳経に云く旧訳には功徳林菩薩之を説くと,新訳には覚林菩薩之を説くと,弘決には如来林菩薩と引く「心は工なる
画師の種種の五陰を画くが如く一切世間
17 の中に法として造らざること無し 心の如く仏も亦爾なり仏の如く衆生も然なり 心と仏と及び衆生と是の三差別無
18 し若し人三世一切の仏を了知せんと欲せば当に是くの如く観ずべし心は諸の如来を造ると」
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01 法華経に云く此れは略開三の文なり仏の自説なり「所謂諸法とは如是相・如是性・如是体・如是力・如是作・如是
因・如是縁・如是果・如
02 是報・如是本末究竟等」又云く「唯一大事の因縁を以ての故に 世に出現したもう 諸仏世尊は衆生をして仏知見を
03 開かしめんと欲す」
04 蓮華三昧経に云く「本覚心・法身常に妙法の心蓮台に住して本より来た三身の徳を具足し三十七尊金剛界の三十七
尊なり心
05 城に住したまえるを帰命したてまつる・心王大日遍照尊・心数恒沙・諸の如来も普門塵数・諸の三昧・因果を遠離し
06 て法然として具す 無辺の徳海・本より円満還つて我・心の諸仏を頂礼す」、仏蔵経に云く「仏一切衆生心中に皆如
07 来有して結跏趺坐すと見そなわす」文。
08 問うて云く真言宗は一念三千を用いるや、答えて云く大日経の義釈善無畏・金剛智・不空・一行に云く、此の文
に五本有り十巻の本は伝教弘法之を見ず智証之
09 を渡す「此の経は是れ法王の秘宝なり妄りに卑賎の人に示さざれ 釈迦出世して四十余年に舎利弗の慇懃なる三請に
10 因りて方に為に 略して妙法蓮華の義を説きたまいしが如し、 今此の本地の身又是れ妙法蓮華最深の秘処なるが故
11 に、寿量品に云く常在霊鷲山・及余諸住処・乃至・我浄土不毀・而衆見焼尽と即ち此の宗の瑜伽の意ならくのみ又補
12 処の菩薩の慇懃の三請に因つて方に為に之を説けり」と、 又云く「又此の経の宗は横に一切の仏教を統ぶ 唯蘊無
13 我にして世間の心を出で蘊の中に住すと説くが如きは 即ち諸部の小乗三蔵を摂す、 蘊の阿頼耶を観じて自心の本
14 不生を覚ると説くが如きは 即ち諸経の八識・三性・無性の義を摂す、極無自性心と十縁生の句を説くが如きは即ち
15 華厳・般若の種種の不思議の境界を摂して皆其の中に入る、 如実知自心を一切種智と名づくと説くが如きは 則ち
16 仏性涅槃経なり一乗法華経なり如来秘蔵大日経なり皆其の中に入る種種の聖言に於て其の精要を統べざること無し、
毘盧遮那
17 経の疏伝教弘法之を見る第七の下に云く天台の誦経は是れ円頓の数息なりと謂う是れ此の意なり」と。
18 大宋の高僧伝巻の第二十七の含光の伝に云く「代宗光を重んずること玄宗代宗の御宇に真言わたる含光は不空三
蔵の弟子なり不空を見るが
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01 如し勅委して五台山に往いて功徳を修せしむ、時に天台の宗学湛然妙楽・天台第六の師なり禅観を解了して深く智者
天台なりの
02 膏腴を得たりと、 嘗つて江淮の僧四十余人と清涼の境界に入る、 湛然・光と相見て西域伝法の事を問う、光の云
03 く一国の僧空宗を体得する有りと問うて 智者の教法に及ぶ梵僧云く 曾て聞く此の教邪正を定め偏円を暁り止観を
04 明して功第一と推す 再三・光に嘱す 或は因縁あつて重ねて至らば 為に唐を翻して梵と為して 附し来れ某願く
05 は受持せんと屡屡手を握つて叮嘱す、 詳かにするに其の南印土には 多く竜樹の宗見を行ず故に 此の流布を願う
06 こと有るなりと、 菩提心義の三に云く一行和上は元是れ天台一行三昧の禅師なり 能く天台円満の宗趣を得たり故
07 に凡そ説く所の文言義理動もすれば天台に合す、 不空三蔵の門人含光・天竺に帰るの日・天竺の僧問わく伝え聞く
08 彼の国に天台の教有りと理致・須ゆ可くば翻訳して此の方に将来せんや云云、 此の三蔵の旨も亦天台に合す、 今
09 或る阿闍梨の云く真言を学せんと欲せば先ず共に天台を学せよと而して門人皆瞋る」云云。
10 問うて云く華厳経に一念三千を明すや、 答えて云く「心仏及衆生」等云云、 止観の一に云く「此の一念の心は
11 縦ならず横ならず不可思議なり 但己のみ爾るに非ず仏及び衆生も亦復是くの如し、 華厳に云く心と仏と及び衆生
12 と是の三差別無しと 当に知るべし己心に一切の法を具することを」文、 弘の一に云く「華厳の下は引いて理の斉
13 きことを証す、 故に華厳に初住の心を歎じて云く心の如く仏も亦爾なり 仏の如く衆生も然り心と仏と及び衆生と
14 是の三差別無し諸仏は 悉く一切は心に従つて転ずと了知したまえり、 若し能く是くの如く解すれば彼の人真に仏
15 を見たてまつる、 身亦是れ心に非ず心も亦是れ身に非ず 一切の仏事を作すこと自在にして未曾有なり、若し人・
16 三世一切の仏を知らんと欲求せば 応に是くの如き観を作すべし心・諸の如来を造すと、 若し今家の諸の円文の意
17 無くんば彼の経の偈の旨・理として実に消し難からん」と。
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01 ┌小乗の四阿含経
02 ┌ 三蔵教─┴─────────心生の六界──心具の六界を明かさず。
03 │ ┌大乗
04 ├ 通 教─┴─────────心生の六界──亦心具を明さず。
05 ├ 別 教─┬─────────心生の六界──心具の十界を明さず。
06 │ └思議の十界
07 │ ┌爾前・華厳等の円
08 └ 円 教─┼─────────不思議の十界互具。
09 └法華の円
10 止の五に云く「華厳に云く 心は工なる画師の種種の五陰を造るが如く 一切世間の中に心より造らざること莫し
11 と種種の五陰とは 前の十法界の五陰の如きなり」又云く「又十種の五陰・一一に各十法を具す 謂く如是相・性・
12 体.力.作.因.縁.果.報.本末究竟等なり」文,又云く「夫れ一心に十法界を具す一法界に又十法界を具すれば百法界な
13 り一界に三十種の世間を具すれば百法界には即ち三千種の世間を具す此の三千・一念の心に在り」文、 弘の五に云
14 く「故に大師・覚意三昧・観心食法及び誦経法・小止観等の諸の心観の文に 但自他等の観を以て三仮を推せり並び
15 に未だ一念三千具足を云わず、 乃至観心論の中に亦只三十六の問を以て四心を責むれども 亦一念三千に渉らず、
16 唯四念処の中に略して 観心の十界を云うのみ、 故に止観に正しく観法を明すに至つて並びに三千を以て指南と為
17 せり、 乃ち是れ終窮究竟の極説なり、 故に序の中に説己心中所行法門と云う良に以有るなり請う尋ね読まん者心
18 に異縁無かれ」、 止の五に云く「此の十重の観法は横竪に収束し微妙精巧なり初は則ち境の真偽を簡び中は則ち正
19 助相添い後は則ち安忍無著なり、 意円かに法巧みに該括周備して 初心に規矩し将に行者を送つて彼の薩雲に到ら
20 んとす初住なり闇証の禅師.誦文の法師の能く知る所に非ざるなり、蓋し如来積劫の懃求したまえる所.道場の妙悟し
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01 たまえる所・身子の三請する所・法譬の三たび説く所正しく茲に在るに由るか」、弘の五に云く「四教の一十六門乃
02 至八教の一期の始終に遍せり 今皆開顕して束ねて一乗に入れ遍く諸経を括りて一実に備う、 若し当分を者尚偏教
03 の教主の知る所に非ず 況んや復た世間闇証の者をや○、 蓋し如来の下は称歎なり十法は既に是れ法華の所乗なり
04 是の故に還つて法華の文を用いて歎ず 迹の説に約せば即ち大通智勝仏の時を指して 以て積劫と為し寂滅道場を以
05 て妙悟と為す若し本門に約せば 我本行菩薩道の時を指して以て積劫と為し 本成仏の時を以て妙悟と為す、 本迹
06 二門只是れ此の十法を求悟せるなり、 身子等とは寂場にして説かんと欲するに物の機未だ宜からず其の苦に堕せん
07 事を恐れて更に方便を施す 四十余年種種に調熟し法華の会に至つて初めて略して権を開するに 動執生疑して慇懃
08 に三請す五千起ち去つて方に枝葉無し四一を点示して 五仏の章を演べ上根の人に被るを名づけて法説と為し、 中
09 根は未だ解せざれば猶譬喩をネガう下根は器劣にして復た因縁を待つ、仏意聯綿として茲の十法に在り、故に十法の
10 文の末に皆大車に譬えたり 今の文の憑る所意此に在り、 惑者は未だ見ず尚華厳を指す唯華厳円頓の名を知つて而
11 して彼の部の兼帯の説に昧し、 全く法華絶待の意を失つて妙教独顕の能を貶挫す、 迹本の二文を験して五時の説
12 をカンガうれば円極謬らず何ぞ須らく疑を致すべけん是の故に結して正しく茲に在るかと曰う」、又云く「初に華厳
13 を引くことを者重ねて初に引いて境相を示す文をチョウす前に心造と云うは即ち是れ心具なり故に造の文を引いて以
14 て心具を証す、 彼の経第十八の中に功徳林菩薩の偈を説いて云うが如く心は工なる画師の種種の五陰を造るが如く
15 一切世界の中に法として造らざること無し 心の如く仏も亦爾なり仏の如く衆生も然なり 心と仏と及び衆生と是の
16 三差別無し、 若し人三世の一切の仏を知らんと欲求せば応に是くの如く観ずべし 心は諸の如来を造ると今の文を
17 解せずんば如何ぞ偈の心造一切三無差別を消せん」文、諸宗の是非之を以て之を糾明す可きなり、恐恐謹言。
18 二月十八日 日 蓮 在 御 判
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早勝問答 文永八年 五十歳御作
01 浄土宗問答。
02 問う六字の名号は善悪の中には何ぞや、 答う一義に云く今問う所の善悪は世出の中には何ぞや、一義に云く云
02 う所の善悪を治定せば堕獄治定なるか、 一義に云く名号悪と治定せば堕獄治定なるか、 一義に云く念仏無間治定
03 して其の上に善悪を尋ぬるか、一義に云く汝が依経は権実の中には何れぞや。
04 問う念仏無間と云わば法華も無間なり、 答う一義に云く法華無間とは自義なるか経文なるか、一義に云く念仏
05 無間をば治定して法華無間と云うか、 一義に云く祖師の謗法を治定して法華も無間と云うか、 一義に云く汝が云
06 う所の法華は超過の法華か又弥陀成仏の法華か。
07 問うて云く念仏無間の証拠二十八品の中には何れぞや、 答う一義に云く二十八品の中に証拠有らば堕獄治定な
08 るか、 一義に云く法華を誹謗するを証拠とするなり、 一義に云く法華の文を尋ぬるは信じて問うか信ぜずして問
09 うか、 一義に云く直に入阿鼻獄の文を出すなり、 一義に云く妙法蓮華経其の証拠なり、一義に云く弥陀の本誓に
10 背く故なり、 一義に云く弥陀の命を断つ故なり、 一義に云く有縁の釈尊に背く故なり念仏無間は三世諸仏の配立
11 なり。
12 問う止観の念仏の事、 答う一義に云く法然所立の念仏は堕獄治定して止観を問うか、一義に云く西方の念仏と
13 一なるか異なるか、 一義に云く止観の念仏は法華を誹謗するか、 一義に云く彼に文段を問う可し、一義に云く止
14 観に依つて浄土宗を建立するか。
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01 問う観経は法華已後の事、 答う一義に云く此の故に法華を謗ずるか、 一義に云く已前ならば無間は治定なる
02 か、一義に云く汝が謗法は無間をば治定して問うか。
03 問う観経と法華と同時なり、答う一義に云く同時なる故に法華を謗ずるか、さては返つて観経をも謗ずるなり。
04 問う先師の謗法は一往なり且くの字を置く故なり、 答う一義に云く且く謗ぜよとは自義か経文か、一義に云く
05 始終共に謗ぜば堕獄は治定なるか。
06 問う未顕真実は往生に非ず成仏の方なり、 答う一義に云く此の故に法華を謗ずるか、一義に云く余経は無得道
07 と云う人は僻事か。
08 問う法華本迹の阿弥陀をば如何、 答う一義に云く法華の弥陀は法華経を謗ぜんと誓い給いしか、一義に云く法
09 華の弥陀と三部経と同じきか異なるか、異ならば無間治定なるか。
10 問う一称南無仏と何んぞ称名を無益と云わんや、 答う一義に云く此の故に法華を謗ずるか、一義に云く法華を
11 信じて問うか信ぜずして問うか。
12 問う法華に「諸の如来に於て」「諸仏を恭敬す」と何ぞ弥陀を捨つるや、答う一義に云く此の故に法華を謗ずる
13 か大旨上の如し。
14 問う「余の深法中に示教利喜す」と何ぞ余経を謗ずるや、答う一義に云く此の故に法華を謗ずるや、一義に云く
15 汝が誹謗は治定して問うか又自義か経文か大旨上の如し。
16 問う普門品に観世音の称名功徳を挙ぐと見えたり何ぞ余の仏・菩薩を捨てんや、 答う一義に云く此の故に法華
17 を謗ずるか、 一義に云く此の観音は法華を謗ずるか、 一義に云く此の品に依つて念仏を立つるか、私に云く彼が
18 経文釈義を引かん時は先ず文段を一一問う可し、 大段万事の問には誹謗の言を先とす可きなり、 前の当家の義云
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01 云。
02 禅宗問答。
03 問う禅天魔の故如何、答う一義に云く仏経に依らざる故なり、一義に云く一代聖教を誹謗する故なり。
04 問う禅とは三世諸仏成道の始は坐禅し給へり如何、 答う一義に云く汝が坐禅は仏の出世に背かば天魔治定なる
05 か、又坐禅は大小の中には何れぞや、一義に云く仏の端座六年は法華に無益と云うか。
06 問う禅法には仏説無益なり、答う一義に云く是自義なるか経文なるか、一義に云くやがて是が天魔の所為なり。
07 問う経文には「是法不可示」と如何、 答う一義に云く此の文は法華無益と云う文なるか、一義に云く爾らば法
08 華に依るか、一義に云く文段を以て責む可きなり。
09 問う竜女は坐禅の成仏なり 其の故は経文に「深く禅定に入つて諸法に了達す」と説き給へり、知んぬ法華無益
10 と云うことを、 答う一義に云く此の義は自義なるか経文なるか、 一義に云く若し法華の成仏ならば天魔治定なる
11 か、一義に云く文殊海中の教化は論説妙法と宣べたり如何。
12 問う常に坐禅を好み深く禅定に入つて常に坐禅を貴ぶとも説けり如何、 答う一義に云く文段を以て責む可し、
13 一義に云く此の文は法華無益と云う文なるか、一義に云く此の文を以て禅宗を建立するか。
14 問う唯独り自のみ明了にして余人の見ざる所と云う故に禅宗ひとり真性を見て余人は見ずと云うなり、 答う一
15 義に云く 文段を以て責む可し経文を見る可し、 問う像法決疑経に云く「一字不説」と爾らば一代は未顕真実と聞
16 きたり 真実は只迦葉一人教の外に別伝し給へり如何、 答う此の文は仏説か若し仏説ならば汝此の文に依る故に自
17 語相違なり、 一義に云く言う所の迦葉は何なる経にて成仏するや、 一義に云く言う所の経文は三説の中には何れ
18 ぞや、一義に云く楞伽経は仏説なるか。
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01 問う三大部に観心之有り何ぞ禅天魔と云うや、 答う一義に云く汝は三大部にて宗を立つるか、一義に云く三大
02 部の観心は汝が禅と同じきか、一義に云く汝は天台を師とするか、一義に云く三大部の観心は諸経を捨つるか。
03 問う雙非の禅の事如何、 答う一義に云く一度は法華に依り一度は法華無益なり、一義に云く二義共に天魔なり
04 一義に云く此の義に背かん者は僻事なるか。
05 問う法華宗は妙法の道理を知るや、 答う一義に云く汝は天魔を治定して問うか、一義に云く汝は法華を信じて
06 問うか、 一義に云く妙法を知つて問うか知らずして問うか、 一義に云く汝が問う所の妙法は今経に付いて百二十
07 の妙有り其の品品を問うか、一義に云く汝は此の妙法に依つて禅を建立するか。
08 天台宗問答。
09 問う天台宗を無間という証拠如何、答う一義に云く法華を誹謗する故なり、一義に云く経文に背く故なり。
10 問う余経無益と云う事はソを判ずる一往の意なり 再往の日は諸乗一仏乗と開会す何ぞ一往を執して再往の義を
11 捨つるや、 答う一義に云く今言う所の開会とは何れの教の開会ぞや、 一義に云く今経に於て本迹の十妙の下に各
12 二十の開会あり亦教行人理の四一開会の中には何れぞや、 一義に云く能開・所開の中には何れぞや、 一義に云く
13 開会の後善悪無しと云うか、 一義に云く天台宗は法華を信ずるか、 一義に云く開会の後諸宗を簡ばずと云わば天
14 台大師僻事なるか 其の故は南三北七云云伝教大師は六宗と云云、 一義に云く天台宗は悪行をも致す可きか性悪不
15 断と云うが故に自語相違なりと責む可きなり、 一義に云く開会の後に権実を立つる人は 僻事なるか爾らば薬王の
16 十喩・法師の三説超過云云、 一義に云く此の故に開会の心を以て慈覚は法華を謗ずるか、 一義に云く汝は慈覚の
17 弟子なるか爾らば謗法治定なるか。
18 問う善悪不二・邪正一如の故に強ちに善悪を云う可からず元意の重是なり、 答えて云く天台の出世は悪を息め
0165top
01 んが為か又悪を増さんが為か、一義に云く悪事を致せとは法華経二十八品の中には何れの処に見えたるや。
02 問う絶待妙の事、 答う一義に云く先ず文段を問う可し、一義に云く何れの教の絶待ぞや、一義に云く此の故に
03 慈覚は法華を謗ずるか。
04 問う相待は一往・絶待は再往と見えたり如何、 答う自義なるか経文なるか、一義に云く相待妙一往と云うは二
05 十八品の中には何れに見えたるや、 一義に云く相待妙は法華に明すか 余経に明すか若し法華に明さば法華は一往
06 なるか。
07 問う約教約部の故に約部の日は一往爾前の円を嫌うなり、 答う一義に云く言う所の約教は天台の判釈の四種の
08 約教の中には何れぞや、 一義に云く約部は落居の釈なるか、 一義に云く約部を捨つ可きか、一義に云く約教の時
09 爾前の円を嫌わば堕獄は治定なるか、 一義に云く約教の辺にて今昔円同じとは法華経二十八品の中何れぞや、一
10 義に云く玄文の第一の施開廃の三重の故に開会の後も余経を捨つると云う文をば知るか知らざるか。
11 山門流の真言宗問答。
12 問う法華第一と云うは顕教の門なり真言に対すれば第一とは云う可からず、 答う自義なるか経文なるか爰を以
13 て慈覚大師を 無間と申すなり、 一義に云く真言に対して法華第一ならば亡国治定なるか、 一義に云く真言は已
14 今・当・の中には何れぞや、若し外と云わば一機一縁の一往にして秘密とは云わる可からざるなり。
15 問う法華と真言とは理同事勝の故に真言に対すれば戯論の法と云うか、 答う一義に云くさてこそ汝は無間治定
16 なれ、一義に云くさては慈覚は真言をも謗ずるなり其の故は理同の法華を謗ずる故なり。
17 問う伝教の本理大綱集の文を以て顕密同と云う事、 答う一義に云く此の書は伝教の御作に非ざるなり、一義に
18 云く此の書に依つて法華を慈覚は謗ずるか。
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01 東寺流の問答。
02 問う真言は釈尊の説と云う事其の証拠如何、答う若し真言釈尊の説ならば亡国は治定なるか、 若し然なりと云
03 わば 弘法大師五蔵を立つる時・法華を六波羅蜜経の五蔵の第四般若波羅蜜蔵・第五の陀羅尼蔵をば真言と建立し給
04 へり如何。
05 問う真言宗を未顕真実とは言うべからず其の故は釈迦の説の外に建立する故なり如何、 答えて云く若し釈尊の
06 説教ならば亡国は治定なるか、 一義に云く六波羅蜜経は釈迦の説なるか大日の説なるか、 若し釈迦の説ならば未
07 顕真実は治定なるか、他云く釈迦所説の顕教無益なりと。
08 尋ねて云く六波羅蜜経は顕教密教の中には何れぞや、 他云く六波羅蜜経は雑部の真言なり我が家の三部は純説
09 の真言なり、 答う助証正証と云う事全く弘法の所判に見えず若し弘法の義ならば堕獄は治定なるか、 他云く真言
10 は速疾の教・顕教は迂回歴劫の教なり云云、 自ら云く自義なるか経文なるか、 他云く五秘密教に云く「若し顕教
11 に於て修行する者は久しく三大無数劫を経」と説けり是れ其の証拠なり如何、 答う、 さて此の経は釈迦の説なる
12 か大日の説なるか若し釈迦の説ならば未顕真実は治定なるか。
13 問う法華宗は何れの経に依つて仏の印契相好を造るや 顕教には無し但真言の印を盗むと覚えたり如何、 答う
14 之に依つて法華を謗ずるか、 一義に云く汝盗むの義相違せば亡国は治定なるか、 一義に云く汝法華宗の建立する
15 所の大段の妙法蓮華経をば 本尊と落居して問うか、 一義に云く釈尊を三部に依つて建立する故に驢牛の三身と下
16 すか若し爾なりと云わば返つて 汝は真言を誹謗する者なりと責む可し、 一義に云く三世の諸仏の印契相好実に妙
17 法蓮華経に依つて具足するの義・落居せば亡国は治定なるか、又盗人は治定なるか、 一義に云く竜女・霊山に即身
18 に印契相好具足し南方に成道を唱えしは 真言に依つて建立するか 若し爾なりと云わば直に経文を出せと責む可き
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01 なり。
02 問う亡国の証拠如何、 答う法華を誹謗する故なり云云、一義に云く三徳の釈尊に背く故なり云云、一義に云く
03 現世安穏・後生善処の妙法蓮華経に背き奉る故に今生には亡国・後生には無間と云うなり、 一義に云く法華経第三
04 の劣とは経文なるか自義なるか若し爾らば亡国治定なるか。
05 他云く密教に対すれば第三の劣なり、 答う一義に云く此の義経文なるか自義なるか、一義に云く顕教の内に法
06 華第一なる事・落居するか、 若し爾なりと云はばさては弘法は僻事なり顕教の内にして法華を華厳に対して第二・
07 真言に対して第三と云う故なり、一義に云く真言に対して第一ならば亡国は治定なるか。
08 他云く印真言を説かざるが故に第三の劣と云うなり、 答う此の故に劣とは経文なるか自義なるか、一義に云く
09 若し法華に説かば亡国は治定なるか。
10 他云く大日・釈迦各別なり、答う一義に云く此の故に法華を謗ずるか、 一義に云く若し一仏ならば亡国は治定
11 なるか、一義に云く各別なれば劣とは経文なるか自義なるか。
12 他云く顕教は応身・密教は法身の説なり此の故に法華は第三の劣なり、 自ら云く応身の説の故に法華劣とは経
13 文なるか自義なるか、 一義に云く法華法身の説ならば亡国治定なるか、 一義に云く真言は応身の説ならば亡国は
14 治定なるか。
15 他云く五智・五仏の時は北方は釈迦・中央は大日と見えたり如何、答う一義に云く中央釈迦ならば亡国治定なる
16 か、一義に云く北方釈迦と云う事は三部の内に無し不空の義なり仏説に非ず。
17 他云く法華は穢土の説なり真言は三界の外の法界宮の説なり、答う一義に云く真言は三界の内の説ならば亡国治
18 定なるか義釈の文。
0168top
01 他云く顕教の内にて大日釈迦一体と説くとも 密教の内にては二仏各別なり名は同じけれども義異るなり如何、
02 答う此の故に亡国と云うなり、一義に云く此くの如く云う事直に経文を出す可きなり。
03 他云く竜女は真言の成仏・法華には三密闕くる故なり、答う自義なるか経文なるか。
04 他云く経文なり「陀羅尼を得・不退転を得たり」云云、陀羅尼は三密の加持なり、答う、此の陀羅尼を真言と云
05 うは自義なるか経文なるか、 一義に云くさては弘法の僻事なり 其の故は此の陀羅尼を戯論第三の劣と下すなり、
07 一義に云く自語相違なり法華に印有る故なり。
08 他云く守護経の文に依れば釈迦は大日より三密の法門を習いて成仏するなり、 答う此の故に法華を謗ずるか、
09 一義に云く此の文は三説の内なるか外なるか、一義に云く此れに相違せば亡国は治定なるか。
10 他云く法華経には「合掌を以て敬心し・具足の道を聞かんと欲す」と云へり何ぞ印・真言を捨つるや、答う此の
11 故に法華を謗ずるか、 一義に云く自義なるか経文なるか、一義に云く此の故に真言を捨てずとは経文なるか、 一
12 義に云く此の文は真言を持つと云う文なるか、一義に文段を以て責む可し。
13 他云く弘法大師を無間と云うは経文なるか自義なるか、答う経文なり。
14 他云く二十八品の中には何れぞや、 答う二十八品の中に有らば堕獄治定なるか、他云く爾なり、答う法華を誹
15 謗すること治定なるか若し爾らば経文を出して責む可きなり。
0169top
十一通御書 文永五年八月 四十七歳御作 於鎌倉
宿屋入道への御状 文永五年八月 四十七歳御作 与宿屋光則 於鎌倉
01 其の後は書・絶えて申さず不審極り無く候、抑去る正嘉元年丁巳八月二十三日戌亥の刻の大地震、日蓮諸経を引
02 いて之を勘えたるに念仏宗と禅宗等とを御帰依有るが故に 日本守護の諸大善神瞋恚を作して起す所の災なり、 若
03 し此れを対治無くんば他国の為に此の国を破らる可きの由 勘文一通之を撰し正元二年庚申七月十六日御辺に付け奉
04 つて故最明寺入道殿へ之を進覧す、 其の後九箇年を経て 今年大蒙古国より牒状之有る由・風聞す等云云、 経文
05 の如くんば 彼の国より此の国を責めん事必定なり、 而るに日本国の中には日蓮一人当に彼の西戎を調伏するの人
06 たる可しと兼て之を知り論文に之を勘う、君の為・国の為・神の為・仏の為・内奏を経らる可きか、委細の旨は見参
07 を遂げて申す可く候、恐恐謹言。
08 文永五年八月二十一日 日 蓮 花 押
09 宿屋左衛門入道殿
北条時宗への御状
01 謹んで言上せしめ候、 抑も正月十八日・西戎大蒙古国の牒状到来すと、日蓮先年諸経の要文を集め之を勘えた
02 ること立正安国論の如く少しも違わず普合しぬ、 日蓮は聖人の一分に当れり未萠を知るが故なり、 然る間重ねて
03 此の由を驚かし奉る急ぎ建長寺・寿福寺・極楽寺・多宝寺・浄光明寺・大仏殿等の御帰依を止めたまえ、然らずんば
04 重ねて又四方より責め来る可きなり、 速かに蒙古国の人を調伏して我が国を安泰ならしめ給え、 彼を調伏せられ
0170top
01 ん事日蓮に非ざれば叶う可からざるなり、 諌臣国に在れば則ち其の国正しく争子家に在れば則ち其の家直し、 国
02 家の安危は政道の直否に在り仏法の邪正は経文の明鏡に依る。
03 夫れ此の国は神国なり神は非礼を稟けたまわず天神七代・地神五代の神神・其の外諸天善神等は一乗擁護の神明
04 なり、 然も法華経を以て食と為し正直を以て力と為す、 法華経に云く諸仏救世者・大神通に住して衆生を悦ばし
05 めんが為の故に無量の神力を現ずと、 一乗棄捨の国に於ては豈善神怒を成さざらんや、 仁王経に云く「一切の聖
06 人去る時七難必ず起る」と、 彼の呉王は伍子胥が詞を捨て吾が身を亡し・桀紂は竜比を失つて国位を喪ぼす、今日
07 本国既に蒙古国に奪われんとす 豈歎かざらんや豈驚かざらんや、 日蓮が申す事御用い無くんば定めて後悔之有る
08 可し、 日蓮は法華経の御使なり経に云く「則ち如来の使如来の所遣として如来の事を行ず」と、 三世諸仏の事と
09 は法華経なり、 此の由方方へ之を驚かし奉る一所に集めて御評議有つて御報に予かる可く候、 所詮は万祈を抛つ
10 て諸宗を御前に召し合せ仏法の邪正を決し給え、 澗底の長松未だ知らざるは良匠の誤り 闇中の錦衣を未だ見ざる
11 は愚人の失なり。
12 三国仏法の分別に於ては殿前に在り所謂阿闍世・陳隋・桓武是なり、敢て日蓮が私曲に非ず只偏に大忠を懐く故
13 に身の為に之を申さず神の為・君の為・国の為・一切衆生の為に言上せしむる所なり、恐恐謹言。
14 永五年戊辰十月十一日 日 蓮 花 押
15 謹上 宿屋入道殿
宿屋左衛門光則への御状
01 先年勘えたるの書 安国論に普合せるに就て言上せしめ候い畢んぬ、 抑正月十八日西戎大蒙古国より牒状到来
0171top
01 すと、 之を以て之を按ずるに日蓮は聖人の一分に当り候か、 然りと雖も未だ御尋に予らず候の間重ねて諌状を捧
02 ぐ、 希くば御帰依の寺僧を停止せられ宜しく法華経に帰せしむべし、 若し然らずんば後悔何ぞ追わん、此の趣を
03 以て 十一所に申せしめ候なり定めて御評議有る可く候か、 偏に貴殿を仰ぎ奉る早く日蓮が本望を遂げしめ給え、
04 十一箇所と申すは平の左衛門尉殿に申せしむる所なり 委悉申し度く候と雖も上書分明なる間省略せしめ候、 御気
05 色を以て御披露庶幾せしむる所に候、恐恐謹言。
06 文永五年戊辰十月十一日 日 蓮 花 押
07 謹上 宿屋入道殿
平左衛門尉頼綱への御状
01 蒙古国の牒状 到来に就いて言上せしめ候い畢んぬ、 抑先年日蓮立正安国論に之を勘えたるが如く少しも違わ
02 ず普合せしむ、 然る間重ねて訴状を以て愁欝を発かんと欲す爰を以て諌旗を公前に飛ばし争戟を私後に立つ、 併
03 ながら 貴殿は一天の屋梁為り万民の手足為り 争でか此の国滅亡の事を歎かざらんや慎まざらんや、 早く須く退
04 治を加えて謗法の咎を制すべし。
05 夫れ以れば 一乗妙法蓮華経は諸仏正覚の極理・諸天善神の威食なり 之を信受するに於ては何ぞ七難来り三災
06 興らんや、 剰え此の事を申す日蓮をば流罪せらる争でか日月星宿罰を加えざらんや、 聖徳太子は守屋の悪を倒し
07 て仏法を興し 秀郷は将門を挫いて名を後代に留む、 然らば法華経の強敵為る御帰依の寺僧を退治して宜く善神の
08 擁護を蒙るべき者なり、 御式目を見るに非拠を制止すること分明なり、 争でか日蓮が愁訴に於ては御叙い無らん
09 豈御起請の文を破るに非ずや、此の趣を以て方方へ愚状を進らす、所謂鎌倉殿・宿屋入道殿・建長寺・寿福寺・極楽
0172top
01 寺・大仏殿・長楽寺・多宝寺・浄光明寺・弥源太殿並びに此の状合せ十一箇所なり、各各御評議有つて速かに御報に
02 預るべく候、 若し爾らば卞和が璞磨いて玉と成り 法王髻中の明珠此の時に顕れんのみ、 全く身の為に之を申さ
03 ず、神の為君の為国の為一切衆生の為に言上せしむるの処なり件の如し、恐恐謹言。
04 文永五年戊辰十月十一日 日 蓮 花 押
05 平左衛門尉殿
北条弥源太への御状
01 去ぬる月 御来臨急ぎ急ぎ御帰宅本意無く存ぜしめ候い畢んぬ、 抑蒙古国の牒状到来の事・上一人より下万民
02 に至るまで驚動極り無し 然りと雖も何の故なること人未だ之れを知らず、 日蓮兼ねて存知せしむるの間既に一論
03 を造つて之を進覧せり 徴先達つて顕れ則ち災必ず後に来る、 去ぬる正嘉元年丁巳八月廿三日戌亥の刻の大地震是
04 併ながら此の瑞に非ずや、 法華経に云く如是相と天台大師云く「蜘蛛下りて喜事来りカン鵲鳴いて行人来る」と、
05 易に云く 吉凶動に於て生ずと此等の本文豈替るべけんや、 所詮諸宗の帰依を止めて一乗妙経を信受せしむべきの
06 由勘文を捧げ候、 日本亡国の根源は浄土・真言・禅宗・律宗の邪法悪法より起れり諸宗を召し合せ諸経勝劣を分別
07 せしめ給え、 殊に貴殿は相模の守殿の同姓なり根本滅するに於ては枝葉豈栄えんや、 早く蒙古国を調伏し国土を
08 安穏ならしめ給え、 法華を謗ずる者は三世諸仏の大怨敵なり、天照太神・八幡大菩薩等・此の国を放ち給う故・大
09 蒙古国より牒状来るか、 自今已後各各生取と成り他国の奴と成る可し、 此の趣き方方へ之れを驚かし愚状を進ぜ
10 しめ候なり、恐恐謹言。
11 文永五年戊辰十月十一日 日 蓮 花 押
0173top
01 謹上 弥源太入道殿
建長寺道隆への御状
01 夫れ仏閣軒を並べ法門屋に拒る仏法の繁栄は身毒支那に超過し僧宝の形儀は六通の羅漢の如し、 然りと雖も一
02 代諸経に於て未だ勝劣・浅深を知らず併がら禽獣に同じ忽ち三徳の釈迦如来を抛つて、 他方の仏・菩薩を信ず是豈
03 逆路伽耶陀の者に非ずや、念仏は無間地獄の業・禅宗は天魔の所為・真言は亡国の悪法・律宗は国賊の妄説と云云、
04 爰に日蓮去ぬる文応元年の比勘えたるの書を立正安国論と名け 宿屋入道を以て故最明寺殿に奉りぬ、 此の書の所
05 詮は念仏・真言・禅・律等の悪法を信ずる故に 天下に災難頻りに起り剰え他国より 此の国責めらる可きの由之を
06 勘えたり、 然るに去ぬる正月十八日牒状到来すと日蓮が勘えたる所に少しも違わず普合せしむ、 諸寺諸山の祈祷
07 威力滅する故か将又悪法の故なるか 鎌倉中の上下万人・道隆聖人をば仏の如く之を仰ぎ 良観聖人をば羅漢の如く
08 之れを尊む、 其の外寿福寺・多宝寺・浄光明寺・長楽寺・大仏殿の長老等は「我慢の心充満し、未だ得ざるを得た
09 りと謂う」の増上慢の大悪人なり、 何ぞ蒙古国の大兵を 調伏せしむ可けんや、 剰え日本国中の上下万人 悉く
10 生取と成る可く今世には国を亡し 後世には必ず無間に堕せん、 日蓮が申す事を御用い無くんば後悔之れ有る可し
11 此の趣鎌倉殿・宿屋入道殿・平の左衛門の尉殿等へ之を進状せしめ候、 一処に寄り集りて御評議有る可く候、敢て
12 日蓮が私曲の義に非ず 只経論の文に任す処なり、 具には紙面に載せ難し併ながら対決の時を期す、 書は言を尽
13 さず言は心を尽さず、恐恐謹言。
14 文永五年戊辰十月十一日 日 蓮 花 押
15 進上 建長寺道隆聖人侍者御中
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極楽寺良観への御状
01 西戎大蒙古国簡牒の事に就て鎌倉殿其の外へ書状を進ぜしめ候、 日蓮去る文応元年の比勘え申せし立正安国論
02 の如く 毫末計りも之に相違せず候、 此の事如何、 長老忍性速かに嘲哢の心を翻えし 早く日蓮房に帰せしめ給
03 え、 若し然らずんば人間を軽賎する者・白衣の与に法を説くの失脱れ難きか、 依法不依人とは如来の金言なり、
04 良観聖人の住処を 法華経に説て云く「或は阿練若に有り納衣にして空閑に在り」と、 阿練若は無事と翻ず争か日
05 蓮を讒奏するの条 住処と相違せり 併ながら三学に似たる矯賊の聖人なり、 僣聖増上慢にして今生は国賊・来世
06 は那落に堕在せんこと必定なり、 聊かも先非を悔いなば日蓮に帰す可し、 此の趣き鎌倉殿を始め奉り建長寺等其
07 の外へ披露せしめ候、 所詮本意を遂げんと欲せば対決に如かず、 即ち三蔵浅近の法を以て諸経中王の法華に向う
08 は江河と大海と華山と妙高との勝劣の如くならん、 蒙古国調伏の秘法定めて御存知有る可く候か、 日蓮は日本第
09 一の法華経の行者 蒙古国退治の大将為り「於一切衆生中亦為第一」とは是なり、 文言多端理を尽す能わず併なが
10 ら省略せしめ候、恐恐謹言。
11 文永五年戊辰十月十一日 日 蓮 花 押
12 謹上 極楽寺長老良観聖人御所
大仏殿別当への御状
01 去る正月十八日西戎大蒙古国より牒状到来し候い畢んぬ、 其の状に云く大蒙古国皇帝・日本国王に書を上る大
02 道の行わるる其の義バクたり信を構え睦を修す其の理何ぞ異ならん乃至至元三年丙寅正月日と、 右此の状の如くん
03 ば返牒に依つて日本国を襲う可きの由分明なり、 日蓮兼ねて勘え申せし立正安国論に少しも相違せず 急かに退治
0175top
01 を加え給え、 然れば日蓮を放て之を叶う可からず、 早く我慢を倒して日蓮に帰すべし、今生空しく過ぎなば後悔
02 何ぞ追わん委しく之を記すこと能わず、此の趣方方へ申せしめ候、一処に聚集して御調伏有る可く候か。
03 文永五年十月十一日 日 蓮 花 押
04 謹上 大仏殿別当御房
寿福寺への御状
01 風聞の如くんば蒙古国の簡牒・去る正月十八日慥に到来候い畢んぬ、 然れば先年日蓮が勘えし書の立正安国論
02 の如く普合せしむ、恐くは日蓮は未萠を知る者なるか、之を以て之を按ずるに念仏・真言・禅・律等の悪法・一天に
03 充満して上下の師と為るの故に 此の如き他国侵逼の難起れるなり、 法華不信の失に依つて皆一同に後生は無間地
04 獄に堕す可し早く邪見を翻し 達磨の法を捨てて一乗正法に帰せしむ可し、 然る間方方へ披露せしめ候の処なり、
05 早早一処に集りて御評議有る可く候、委くは対決の時を期す、恐恐謹言。
06 文永五年十月十一日 日 蓮 花 押
07 謹上 寿福寺侍司御中
浄光明寺への御状
01 大蒙古国の皇帝・日本国を奪う可きの由・牒状を渡す、此の事先年立正安国論に勘え申せし如く少しも相違せし
02 めず 内内日本第一の勧賞に行わる可きかと存ぜしめ候の処 剰え御称歎に預らず候、 是れ併ながら鎌倉中著ソの
03 類・律宗・禅宗等が「向国王大臣誹謗説我悪」の故なり、 早く二百五十戒を抛つて日蓮に帰して成仏を期す可し、
0176top
01 若し然らずんば堕在無間の根源ならん、 此の趣き方方へ披露せしめ候い畢んぬ、 早く一処に集りて対決を遂げし
02 め給え日蓮・庶幾せしむる処なり、 敢て諸宗を蔑如するに非ざるのみ、法華の大王戒に対して小乗蟁蝱戒・豈相対
03 に及ばんや、笑う可し笑う可し。
04 文永五年十月十一日 日 蓮 花 押
05 謹上 浄光明寺侍者御中
多宝寺への御状
01 日蓮・故最明寺殿に奉りたるの書・立正安国論御披見候か未萠を知つて之を勘え申す処なり、既に去る正月蒙古
02 国の簡牒到来す何ぞ驚かざらんや、 此の事不審千万なり縦い日蓮は悪しと雖も 勘うる所の相当るに於ては何ぞ用
03 いざらんや、 早く一所に集りて御評議有る可し、 若し日蓮が申す事を御用い無くんば今世には国を亡し後世は必
04 ず無間大城に堕す可し、 此の旨方方へ之を申せしめしなり敢て日蓮が私曲に非ず 委しく御報に預る可く候、言は
05 心を尽さず書は言を尽さず併ながら省略せしめ候、恐恐謹言。
06 文永五年十月十一日 日 蓮 花 押
07 謹上 多宝寺侍司御中
長楽寺への御状
01 蒙古国・調伏の事に就いて方方へ披露せしめ候い畢んぬ、既に日蓮・立正安国論に勘えたるが如く普合せしむ、
02 早く邪法邪教を捨て実法実教に帰す可し、 若し御用い無くんば今生には国を亡し身を失い 後生には必ず那落に堕
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01 す可し、 速かに一処に集りて談合を遂げ評議せしめ給え日蓮庶幾せしむる所なり、 御報に依つて其の旨を存ず可
02 く候の処なり敢て諸宗を蔑如するに非ず但此の国の安泰を存する計りなり、恐恐謹言。
03 文永五年十月十一日 日 蓮 花 押
04 謹上 長楽寺侍司御中
弟子檀那中への御状
01 大蒙古国の簡牒到来に就いて十一通の書状を以て方方へ申せしめ候、定めて日蓮が弟子檀那・流罪・死罪一定な
02 らん少しも之を驚くこと莫れ 方方への強言申すに及ばず 是併ながら而強毒之の故なり、 日蓮庶幾せしむる所に
03 候、 各各用心有る可し少しも妻子眷属を憶うこと莫れ権威を恐るること莫れ、 今度生死の縛を切つて仏果を遂げ
04 しめ給え、鎌倉殿.宿屋入道.平の左衛門尉・弥源太.建長寺・寿福寺.極楽寺・多宝寺.浄光明寺・大仏殿.長楽寺已上
05 十一箇所仍つて十一通の状を書して諌訴せしめ候い畢んぬ 定めて子細有る可し、日蓮が所に来りて書状等披見せし
06 め給え、恐恐謹言。
07 文永五年戊辰十月十一日 日 蓮 花 押
08 日蓮弟子檀那中
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問注得意抄 文永六年五月 四十八歳御作 与富木入道外二人
01 土木入道殿 日 蓮
02 今日召し合せ御問注の由承り候、 各各御所念の如くならば三千年に一度花さき菓なる優曇華に値えるの身か、
03 西王母の薗の桃・九千年に三度之を得たる東方朔が心か 一期の幸何事か之に如かん、 御成敗の甲乙は且らく之を
04 置く前立つて欝念を開発せんか、 但し兼日御存知有りと雖も駿馬にも鞭うつの理之有り、 今日の御出仕・公庭に
05 望んでの後は設い知音為りと雖も 傍輩に向つて雑言を止めらる可し両方召し合せの時・御奉行人・訴陳の状之を読
06 むの尅何事に付けても御奉行人の御尋ね無からんの外 一言を出す可からざるか、 設い敵人等悪口を吐くと雖も各
07 各当身の事・一二度までは聞かざるが如くすべし、 三度に及ぶの時・顔貌を変ぜずソ言を出さずソ語を以て申す可
08 し各各は一処の同輩なり 私に於ては全く遺恨無きの由之を申さる可きか、 又御供雑人等に能く能く禁止を加え喧
09 嘩を出す可からざるか、 是くの如き事書札に尽し難し心を以て御斟酌有る可きか、 此等の矯言を出す事恐を存す
10 と雖も仏経と行者と檀那と三事相応して一事を成さんが為に愚言を出す処なり、恐恐謹言。
11 五月九日 日 蓮 花 押
12 三人御中
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行敏御返事 文永八年七月 五十歳御作 与浄土僧行敏
行敏初度の難状
01 末だ見参に入らずと雖も 事の次を以て申し承るは常の習に候か、 抑風聞の如くんば所立の義尤も以て不審な
02 り、法華の前に説ける一切の諸経は 皆是妄語にして出離の法に非ずと是一、 大小の戒律は世間を誑惑して悪道に
03 堕せしむるの法と是二、 念仏は無間地獄の業為と是三、 禅宗は天魔の説・若し依つて行ずる者は悪見を増長すと
04 是四、事若し実ならば仏法の怨敵なり、 仍て対面を遂げて悪見を破らんと欲す、将又其の義無くんば争でか悪名を
05 痛ませられざらんや、是非に付き委く示し賜わる可きなり、恐恐謹言。
06 七月八日 僧行敏花押
07 日蓮阿闍梨御房
聖人御返事
01 条条御不審の事・私の問答は事行き難く候か、 然れば上奏を経られ仰せ下さるるの趣に随つて是非を糾明せら
02 る可く候か、此の如く仰せを蒙り候条尤も庶幾する所に候、恐恐謹言。
03 七月十三日 日 蓮 花 押
04 行敏御房御返事
0180top
行敏訴状御会通 文永八年 五十歳御作
01 当世日本第一の持戒の僧・良観聖人並びに法然上人の孫弟子念阿弥陀仏・道阿弥陀仏等の諸聖人等日蓮を訴訟す
02 る状に云く 早く日蓮を召し決せられて邪見を摧破し正義を興隆せんと欲する事云云、 日蓮云く邪見を摧破し正義
03 を興隆せば一眼の亀の浮木の穴に入るならん、幸甚幸甚。
04 彼の状に云く右八万四千の教乃至一を是として諸を非とする理豈に然る可けんや云云、 道綽禅師云く当今末法
05 は是れ五濁悪世なり 唯浄土の一門のみ有つて路に通入す可し云云、 善導和尚云く千中無一云云、法然上人云く捨
06 閉閣抛云云、 念阿上人等の云く一を是とし諸を非とす謗法なり云云、 本師三人の聖人の御義に相違す豈に逆路伽
07 耶陀の者に非ずや、 将又忍性良観聖人彼等の立義に与力して此を正義と存せらるるか、 又云く而るに日蓮偏えに
08 法華一部に執して諸余の大乗を誹謗す云云、 無量義経に云く四十余年未顕真実・法華経に云く要当説真実と・又云
09 く宣示顕説と・多宝仏証明を加えて云く皆是真実と・十方の諸仏は舌相至梵天と云う云云、 已今当の三説を非毀し
10 て法華経一部を讃歎するは 釈尊の金言なり諸仏の傍例なり敢て日蓮が自義に非ず、 其の上此の難は去る延暦・大
11 同・弘仁の比・南都の徳一大師が伝教大師を難破せし言なり、其の難已に破れて法華宗を建立し畢んぬ。
12 又云く所謂法華前説の諸経は皆是れ妄語なりと云云此又日蓮が私の言に非ず、 無量義経に云く未だ真実を顕さ
13 ず未顕真実とは妄語の異名なり法華経第二に云く寧ろ虚妄有りや不なり云云、第六に云く此の良医虚妄の罪を説くや
14 不や云云、涅槃経に云く如来虚妄の言無しと雖も若し衆生虚妄の説に因ると知れば云云、天台云く則ち為如来綺語の
15 語云云、四十余年の経経を妄語と称すること又日蓮が私の言に非ず、 又云く念仏は無間の業と云云法華経第一に云
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01 く我れ則ち慳貪に堕せん 此の事為不可なり云云、 第二に云く其の人命終して阿鼻獄に入らん云云、 大覚世尊但
02 観経念仏等の四十余年の経経を説て 法華経を演説したまわずんば三悪道を脱れ難し云云、 何に況や末代の凡夫一
03 生の間但自らも念仏の一行に留り 他人をも進めずんば豈無間に堕せざらんや、 例せば民と子との王と親とに随わ
04 ざるが如し、何に況や道綽・善導・法然上人等・念仏等を修行する輩・法華経の名字を挙げて念仏に対当して勝劣難
05 易等を論じ未有一人得者・十即十生・百即百生・千中無一等と謂うは無間の大火を招かざらんや、 又云く禅宗は天
06 魔波旬の説と云云、 此又日蓮が私の言に非ず彼の宗の人人の云く教外別伝と云云、 仏の遺言に云く我が経の外に
07 正法有りといわば天魔の説なり云云、 教外別伝の言豈此の科を脱れんや、 又云く大小の戒律は世間誑惑の法と云
08 云、 日蓮が云く小乗戒は仏世すら猶之を破す其の上月氏国に三寺有り、 所謂一向小乗の寺と一向大乗の寺と大小
09 兼行の寺となり云云、 一向小と一向大とは水火の如し将又道路をも分隔せり、 日本国に去る聖武皇帝と孝謙天皇
10 との御宇に小乗の戒壇を三所に建立せり、 其の後・桓武の御宇に伝教大師之を責め破りたまいぬ、 其の詮は小乗
11 戒は末代の機に当らずと云云、 護命・景深の本師等其の諍論に負くるのみに非ず六宗の碩徳・各退状を捧げ伝教大
12 師に帰依し円頓の戒体を伝受す云云、 其の状今に朽ちず汝自ら開き見よ、 而るを良観上人・当世日本国の小乗は
13 昔の科を存せずという、 又云く年来の本尊・弥陀観音等の像を火に入れ水に流す等云云、 此の事慥なる証人を指
14 し出し申す可し若し 証拠無くんば良観上人等自ら本尊を取り出して火に入れ水に流し 科を日蓮に負せんと欲する
15 か委細は之を糾明せん時・其の隠れ無らんか、 但し御尋ね無き間は其の重罪は良観上人等に譲り渡す、 二百五十
16 戒を破失せる因縁此の大妄語に如かず無間大城の人・他処に求ること勿れ、 又云く凶徒を室中に集むと云云、 法
17 華経に云く或は阿練若に有り等云云、 妙楽云く東春云く輔正記云く 此等の経釈等を以て当世日本国に引き向うる
18 に汝等が挙る所の建長寺.寿福寺・極楽寺・多宝寺・大仏殿.長楽寺・浄光明寺等の寺寺は妙楽大師の指す所の第三最
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01 最甚の悪所なり、東春に云く即ち是れ出家処に一切の悪人を摂す云云、又云く両行は公処に向う等云云、 又云く兵
02 杖等云云、 涅槃経に云く・天台云く・章安云く・妙楽云く 法華経守護の為の弓箭兵杖は 仏法の定れる法なり例
03 せば国王守護の為に刀杖を集むるが如し、 但し良観上人等弘通する所の法・日蓮が難脱れ難きの間 既に露顕せし
04 む可きか、 故に彼の邪義を隠さんが為に諸国の守護・地頭・雑人等を相語らいて言く日蓮並びに弟子等は阿弥陀仏
05 を火に入れ水に流す汝等が大怨敵なりと云云、 頚を切れ所領を追い出せ等と勧進するが故に 日蓮の身に疵を被り
06 弟子等を殺害に及ぶこと数百人なり、 此れ偏に良観・念阿・道阿等の上人の大妄語より出たり心有らん人人は驚く
07 可し怖る可し云云、 毘瑠璃王は七万七千の諸の得道の人を殺す、 月氏国の大族王は卒都婆を滅毀し僧伽藍を廃す
08 ること凡そ一千六百余処乃至大地震動して 無間地獄に堕ちにき、 毘盧釈迦王は釈種九千九百九十万人を生け取り
09 て並べ従えて殺戮す 積屍莽の如く流血池を成す、 弗沙弥多羅王は四兵を興して五天を回らし 僧侶を殺し寺塔を
10 焼く、説賞迦王は仏法を毀壊す、 訖利多王は僧徒を斥逐し仏法を毀壊す、欽明・敏達・用明の三王の詔に曰く炳然
11 として宜く仏法を断ずべし云云、 二臣自ら寺に詣で堂塔を斫倒し仏像を毀破し 火を縦つて之を焼き所焼の仏像を
12 取つて難波の堀江に棄て 三尼を喚び出して其の法服を奪い並びに笞を加う云云、 大唐の武宗は四千六百余処を滅
13 失して僧尼還俗する者計うるに二十六万五百人なり、 去る永保年中には山僧・園城寺を焼き払う云云、 御願は十
14 五所・堂院は九十所.塔婆は四基・鐘楼は六宇.経蔵は二十所・神社は十三所.僧坊は八百余宇.舎宅は三千余等云云、
15 去る治承四年十二月二十二日・太政入道浄海・東大・興福の両寺を焼失して僧尼等を殺す、 此等は仏記に云く此等
16 の悪人は仏法の怨敵には非ず 三明六通の羅漢の如き僧侶等が我が正法を滅失せん、所謂守護経に云く・ 涅槃経に
17 云く。 日 蓮 花 押
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一昨日御書 文永八年九月 五十歳御作 与平左衛門尉頼綱
01 一昨日見参に罷入候の条悦び入り候、 抑人の世に在る誰か後世を思わざらん仏の出世は専ら衆生を救わんが為
02 なり、 爰に日蓮比丘と成りしより旁法門を開き 已に諸仏の本意を覚り 早く出離の大要を得たり、其の要は妙法
03 蓮華経是なり、一乗の崇重・三国の繁昌の儀・眼前に流る誰か疑網を貽さんや、 而るに専ら正路に背いて偏に邪途
04 を行ず然る間・聖人国を捨て 善神瞋を成し七難並びに起つて四海閑かならず、 方今世は悉く関東に帰し人は皆士
05 風を貴ぶ、 就中日蓮生を此の土に得て豈吾が国を思わざらんや、 仍つて立正安国論を造つて故最明寺入道殿の御
06 時・宿屋の入道を以て見参に入れ畢んぬ、 而るに近年の間・多日の程・犬戎浪を乱し夷敵国を伺う、先年勘え申す
07 所・近日符合せしむる者なり、 彼の太公が殷の国に入りしは西伯の礼に依り張良が秦朝を量りしは 漢王の誠を感
08 ずればなり、 是れ皆時に当つて賞を得・謀を帷帳の中に回らし勝つことを千里の外に決せし者なり、 夫れ未萠を
09 知る者は六正の聖臣なり法華を弘むる者は諸仏の使者なり、 而るに日蓮忝くも鷲嶺・鶴林の文を開いて鵝王・烏瑟
10 の志を覚り 剰え将来を勘えたるに粗符合することを得たり 先哲に及ばずと雖も 定んで後人には希なる可き者な
11 り、 法を知り国を思うの志尤も賞せらる可きの処・邪法邪教の輩・讒奏讒言するの間久しく大忠を懐いて而も未だ
12 微望を達せず、 剰え不快の見参に罷り入ること偏に難治の次第を愁うる者なり、 伏して惟みれば泰山に昇らずん
13 ば天の高きを知らず深谷に入らずんば地の厚きを知らず、 仍て御存知の為に立正安国論一巻之を進覧す、 勘え載
14 する所の文は九牛の一毛なり 未だ微志を尽さざるのみ、 抑貴辺は当時天下の棟梁なり 何ぞ国中の良材を損せん
15 や、早く賢慮を回らして須く異敵を退くべし世を安じ国を安ずるを忠と為し孝と為す、是れ偏に身の為に之を述べず
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01 君の為仏の為神の為一切衆生の為に言上せしむる所なり、恐恐謹言。
02 文永八年九月十二日 日 蓮 花 押
03 謹上 平左衛門殿
強仁状御返事 建治元年十二月 五十四歳御作 与真言僧強仁
01 強仁上人・十月二十五日の御勘状・同十二月二十六日に到来す、此の事余も年来欝訴する所なり忽に返状を書い
02 て自他の疑冰を釈かんと欲す、 但し歎ずるは田舎に於て邪正を決せば暗中に錦を服して遊行し 澗底の長松・匠を
03 知らざるか、兼ねて又定めて喧嘩出来の基なり、 貴坊本意を遂げんと欲せば 公家と関東とに奏聞を経て露点を申
04 し下し是非を糾明せば 上一人咲を含み下万民疑を散ぜんか、 其の上大覚世尊は仏法を以て王臣に付属せり世・出
05 世の邪正を決断せんこと必ず公場なる可きなり、 就中当時我が朝の体為る二難を盛んにす 所謂自界叛逆難と他国
06 侵逼難となり、 此の大難を以て大蔵経に引き向えて之を見るに定めて国家と仏法との中に大禍有るか、 仍つて予
07 正嘉・文永二箇年の大地震と大長星とに驚いて一切経を開き見るに 此の国の中に前代未起の二難有る可し 所謂自
08 他叛逼の両難なり、是れ併ながら真言・禅門・念仏・持斎等・権小の邪法を以て法華真実の正法を滅失する故に招き
09 出す所の大災なり、 只今他国より我が国を逼む可き由・兼ねて之を知る故に身命を仏神の宝前に捨棄して刀剣・武
10 家の責を恐れず昼は国主に奏し夜は弟子等に語る、然りと雖も真言・禅門・念仏者・律僧等・種種の誑言を構え重重
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01 の讒訴を企つるが故に 叙用せられざるの間・処処に於て刀杖を加えられ 両度まで御勘気を蒙る剰え頭を刎ねんと
02 擬する是の事なり、 夫れ以れば月支・漢土の仏法の邪正は且らく之を置く大日本国・亡国と為る可き由来之を勘う
03 るに真言宗の元祖たる東寺の弘法・天台山第三の座主慈覚・此の両大師 法華経と大日経との勝劣に迷惑し日本第一
04 の聖人なる 伝教大師の正義を隠没してより已来・叡山の諸寺は慈覚の邪義に付き 神護七大寺は弘法の僻見に随う
05 其れより已来王臣邪師を仰ぎ万民僻見に帰す、 是くの如き諂曲既に久しく四百余年を経歴し 国漸く衰え王法も亦
06 尽きんとす彼の月支の弗沙弥多羅王の八万四千の寺塔を焚焼し 無量仏子の頚を刎ねし、 此の漢土の会昌天子の寺
07 院四千六百余所を滅失し九国の僧尼還俗せしめたる此等大悪人為りと雖も 我が朝の大謗法には過ぎず、 故に青天
08 は眼を瞋らして我が国を睨み黄地は憤を含んで動もすれば夭ゲツを発す、 国主聖主に非れば謂れ之を知らず諸臣儒
09 家に非れば事之を勘えず、 剰え此の災夭を消さんが為に真言師を渇仰し大難を郤けんが為に持斎等を供養す、 譬
10 えば火に薪を加え冰に水を増すが如く悪法は弥貴まれ大難は益々来る只今此の国滅亡せんとす。
11 予粗先ず此の子細を勘うるの間・身命を捨棄し国恩を報ぜんとす、 而るに愚人の習い遠きを尊び近きを蔑るか
12 将又多人を信じて一人を捨つるかの故に 終に空しく年月を送る、 今幸に強仁上人・御勘状を以て日蓮を暁諭す然
13 る可くは此の次でに天聴を驚かし奉つて決せん、 誠に又御勘文の体為非を以て先と為し 若し上人黙止して空しく
14 一生を過せば 定めて師檀共に泥梨の大苦を招かん、 一期の大慢を以て永劫の迷因を殖ること勿れ速速天奏を経て
15 疾疾対面を遂げ邪見を翻えし給え、書は言を尽さず言は心を尽さず悉悉公場を期す、恐恐謹言。
16 十二月廿六日 日 蓮 花 押
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開目抄上 文永九年二月 五十一歳御作 与門下一同 於佐渡塚原
01 夫れ一切衆生の尊敬すべき者三あり所謂主師親これなり、又習学すべき物三あり、所謂儒外内これなり。
02 儒家には三皇.五帝・三王・此等を天尊と号す諸臣の頭目.万民の橋梁なり、三皇已前は父をしらず人皆禽獣に同
03 ず五帝已後は父母を弁て孝をいたす、 所謂重華はかたくなはしき父をうやまひ沛公は帝となつて大公を拝す、 武
04 王は西伯を木像に造り丁蘭は母の形をきざめり、 此等は孝の手本なり、比干は殷の世の・ほろぶべきを見て・しゐ
05 て帝をいさめ頭をはねらる、 公胤といゐし者は懿公の肝をとつて我が腹をさき 肝を入て死しぬ 此等は忠の手本
06 なり、尹寿は尭王の師・務成は舜王の師・大公望は文王の師・老子は孔子の師なり此等を四聖とがうす、天尊・頭を
07 かたぶけ万民・掌をあわす、 此等の聖人に三墳・五典・三史等の三千余巻の書あり、其の所詮は三玄をいでず三玄
08 とは一には有の玄・周公等此れを立つ、 二には無の玄・老子等・三には亦有亦無等・荘子が玄これなり、玄とは黒
09 なり父母・未生・已前をたづぬれば或は元気よりして生じ或は貴賎・苦楽・是非・得失等は皆自然等云云。
10 かくのごとく巧に立つといえども・いまだ過去・未来を一分もしらず玄とは黒なり幽なりかるがゆへに玄という
11 但現在計りしれるににたり、 現在にをひて仁義を制して身をまほり 国を安んず此に相違すれば族をほろぼし家を
12 亡ぼす等いう、 此等の賢聖の人人は聖人なりといえども過去を・しらざること凡夫の背を見ず・未来を・かがみざ
13 ること盲人の前をみざるがごとし、 但現在に家を治め孝をいたし堅く五常を行ずれば 傍輩も・うやまい名も国に
14 きこえ賢王もこれを召して 或は臣となし或は師とたのみ或は位をゆづり天も来て守りつかう、 所謂周の武王には
15 五老きたりつかえ 後漢の光武には二十八宿来つて二十八将となりし此なり、 而りといえども過去未来をしらざれ
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01 ば父母・主君・師匠の後世をもたすけず不知恩の者なり・まことの賢聖にあらず、 孔子が此の土に賢聖なし西方に
02 仏図という者あり 此聖人なりといゐて外典を仏法の初門となせしこれなり、 礼楽等を教て内典わたらば戒定慧を
03 しりやすからせんがため・王臣を教て尊卑をさだめ 父母を教て孝の高きをしらしめ 師匠を教て帰依をしらしむ、
04 妙楽大師云く「仏教の流化実に茲に頼る礼楽前きに馳せて 真道後に啓らく」等云云、 天台云く「金光明経に云く
05 一切世間所有の善論皆此の経に因る、 若し深く世法を識れば即ち是れ仏法なり」等云云、 止観に云く「我れ三聖
06 を遣わして彼の真丹を化す」等云云、 弘決に云く「清浄法行経に云く月光菩薩彼に顔回と称し 光浄菩薩彼に仲尼
07 と称し迦葉菩薩彼に老子と称す天竺より此の震旦を指して彼と為す」等云云。
08 二には月氏の外道.三目八臂の摩醯首羅天.毘紐天・此の二天をば一切衆生の慈父.悲母・又天尊.主君と号す、迦
09 毘羅.ウ楼僧ギャ・勒娑婆.此の三人をば三仙となづく、此等は仏前八百年・已前已後の仙人なり、此の三仙の所説を
10 四韋陀と号す六万蔵あり、乃至・仏・出世に当つて六師外道・此の外経を習伝して五天竺の王の師となる支流・九十
11 五六等にもなれり、 一一に流流多くして 我慢の幢・高きこと 非想天にもすぎ 執心の心の堅きこと金石にも超
12 えたり、其の見の深きこと巧みなるさま儒家には.にるべくもなし、或は過去・二生・三生.乃至七生・八万劫を照見
13 し又兼て未来・八万劫をしる、其の所説の法門の極理・或は因中有果・或は因中無果・或は因中亦有果・亦無果等云
14 云、此れ外道の極理なり所謂善き外道は五戒・十善戒等を持つて有漏の禅定を修し上・色・無色をきわめ上界を涅槃
15 と立て屈歩虫のごとく・せめのぼれども非想天より 返つて三悪道に堕つ 一人として天に留るものなし而れども天
16 を極むる者は永くかへらずと・をもえり、各各・自師の義をうけて堅く執するゆへに 或は冬寒に一日に三度・恒河
17 に浴し或は髪をぬき 或は巌に身をなげ或は身を火にあぶり或は五処をやく 或は裸形或は馬を多く殺せば福をう或
18 は草木をやき或は一切の木を礼す、 此等の邪義其の数をしらず 師を恭敬する事・諸天の帝釈をうやまい諸臣の皇
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01 帝を拝するがごとし、 しかれども外道の法・九十五種・善悪につけて一人も生死をはなれず 善師につかへては二
02 生・三生等に悪道に堕ち 悪師につかへては順次生に悪道に堕つ、 外道の所詮は内道に入る即最要なり或外道云く
03 「千年已後・仏出世す」等云云、 或外道云く「百年已後・仏出世す」等云云、大涅槃経に云く「一切世間の外道の
04 経書は 皆是れ仏説にして外道の説に非ず」等云云、 法華経に云く「衆に三毒有りと示し又邪見の相を現ず我が弟
05 子是くの如く方便して衆生を度す」等云云。
06 三には大覚世尊は此一切衆生の大導師.大眼目・大橋梁.大船師,大福田等なり、外典・外道の四聖.三仙其の名は
07 聖なりといえども実には三惑未断の凡夫・其の名は賢なりといえども 実に因果を弁ざる事嬰児のごとし、 彼を船
08 として生死の大海をわたるべしや彼を橋として六道の巷こゑがたし 我が大師は変易・猶を・わたり給へり況や分段
09 の生死をや元品の無明の根本猶を・かたぶけ給へり 況や見思枝葉のソ惑をや、此の仏陀は三十成道より八十御入滅
10 にいたるまで五十年が間・一代の聖教を説き給へり、 一字一句・皆真言なり一文一偈・妄語にあらず外典・外道の
11 中の聖賢の言すらいうこと・あやまりなし事と心と相符へり 況や仏陀は無量曠劫よりの不妄語の人・されば一代・
12 五十余年の説教は外典外道に対すれば大乗なり大人の実語なるべし、 初成道の始より泥オンの夕にいたるまで説く
13 ところの所説・皆真実なり。
14 但し仏教に入て五十余年の経経.八万法蔵を勘たるに小乗あり大乗あり権経あり実経あり顕教.密教.ナン語.ソ語
15 実語・妄語・正見・邪見等の種種の差別あり、但し法華経計り教主釈尊の正言なり三世・十方の諸仏の真言なり、大
16 覚世尊は四十余年の年限を指して 其の内の恒河の諸経を未顕真実・八年の法華は 要当説真実と定め給しかば多宝
17 仏・大地より出現して皆是真実と証明す、 分身の諸仏・来集して長舌を梵天に付く此の言赫赫たり明明たり晴天の
18 日よりも・あきらかに夜中の満月のごとし仰いで信ぜよ伏して懐うべし。
0189top
01 但し此の経に二箇の大事あり倶舎宗.成実宗・律宗・法相宗.三論宗等は名をもしらず華厳宗と真言宗との二宗は
02 偸に盗んで自宗の骨目とせり、 一念三千の法門は但法華経の本門・寿量品の文の底にしづめたり、竜樹・天親・知
03 つてしかも・いまだ・ひろいいださず但我が天台智者のみこれをいだけり。
04 一念三千は十界互具よりことはじまれり、 法相と三論とは八界を立てて十界をしらず況や互具をしるべしや、
05 倶舎・成実・律宗等は阿含経によれり六界を明めて四界をしらず、 十方唯有一仏と云つて 一方有仏だにもあかさ
06 ず、一切有情・悉有仏性とこそ・とかざらめ一人の仏性猶ゆるさず、而るを律宗・成実宗等の十方有仏・有仏性なん
07 ど申すは 仏滅後の人師等の大乗の義を自宗に盗み入れたるなるべし、 例せば外典・外道等は仏前の外道は執見あ
08 さし仏後の外道は仏教をききみて自宗の非をしり巧の心・出現して仏教を盗み取り 自宗に入れて邪見もつとも・ふ
09 かし、附仏教・学仏法成等これなり、外典も又又かくのごとし漢土に仏法いまだ・わたらざりし時の儒家・道家は・
10 いういうとして嬰児のごとく・はかなかりしが後漢・已後に釈教わたりて 対論の後・釈教やうやく流布する程に釈
11 教の僧侶・破戒のゆへに或は還俗して家にかへり 或は俗に心をあはせ儒道の内に 釈教を盗み入れたり、止観の第
12 五に云く「今世多く悪魔の比丘有つて 戒を退き家に還り駈策を懼畏して更に道士に越済す、 復た名利を邀て荘老
13 を誇談し仏法の義を以て 偸んで邪典に安き高を押して下に就け尊を摧いて 卑に入れ概して平等ならしむ」云云、
14 弘に云く「比丘の身と作つて仏法を破滅す 若しは戒を退き家に還るは衛の元嵩等が如し、 即ち在家の身を以て仏
15 法を破壊す、 此の人正教を偸竊して邪典に助添す、 押高等とは道士の心を以て二教の概と為し邪正をして等しか
16 らしむ義是の理無し、 曾つて仏法に入つて正を偸んで邪を助け 八万十二の高きを押して五千二篇の下きに就け用
17 つて彼の典の邪鄙の教を釈するを摧尊入卑と名く」等云云、此の釈を見るべし次上の心なり。
18 仏教又かくのごとし、後漢の永平に漢土に仏法わたりて邪典やぶれて内典立つ、 内典に南三・北七の異執をこ
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01 りて蘭菊なりしかども陳隋の智者大師にうちやぶられて仏法二び群類をすくう、其の後・法相宗・真言宗・天竺より
02 わたり華厳宗又出来せり、 此等の宗宗の中に 法相宗は一向・天台宗に敵を成す宗・法門水火なり、 しかれども
03 玄奘三蔵・慈恩大師・委細に天台の御釈を見ける程に自宗の邪見ひるがへるかのゆへに 自宗をば・すてねども其の
04 心天台に帰伏すと見へたり、 華厳宗と真言宗とは本は権経・権宗なり善無畏三蔵・金剛智三蔵・天台の一念三千の
05 義を盗みとつて自宗の肝心とし其の上に印と真言とを加て超過の心ををこす、 其の子細をしらぬ学者等は天竺より
06 大日経に一念三千の法門ありけりと・うちをもう、 華厳宗は澄観が時・華厳経の心如工画師の文に 天台の一念三
07 千の法門を偸み入れたり、人これをしらず。
08 日本.我朝には華厳等の六宗.天台・真言.已前にわたりけり、華厳.三論・法相.諍論水火なりけり、伝教大師,此
09 の国にいでて六宗の邪見をやぶるのみならず 真言宗が天台の法華経の理を盗み取て 自宗の極とする事あらはれ・
10 をはんぬ、伝教大師・宗宗の人師の異執をすてて専ら経文を前として責めさせ給しかば六宗の高徳・八人・十二人・
11 十四人・三百余人・並に弘法大師等せめをとされて日本国.一人もなく天台宗に帰伏し南都・東寺・日本一州の山寺.
12 皆叡山の末寺となりぬ、 又漢土の諸宗の元祖の天台に帰伏して謗法の失を・まぬかれたる事もあらはれぬ、 又其
13 の後やうやく世をとろへ人の智あさく・なるほどに天台の深義は習うしないぬ、 他宗の執心は強盛になるほどにや
14 うやく六宗・七宗に天台宗をとされて・よわりゆくかの・ゆへに結句は六宗・七宗等にもをよばず、いうにかいなき
15 禅宗・浄土宗にをとされて始めは檀那やうやくかの邪宗にうつる、 結句は天台宗の碩徳と仰がる人人みな・をちゆ
16 きて彼の邪宗をたすく、さるほどに六宗・八宗の田畠.所領みなたをされ正法失せはてぬ天照太神・正八幡・山王等.
17 諸の守護の諸大善神も法味を・なめざるか国中を去り給うかの故に悪鬼・便を得て国すでに破れなんとす。
18 此に予愚見をもつて 前四十余年と後八年との相違をかんがへみるに其の相違多しといえども先ず世間の学者も
0191top
01 ゆるし我が身にも・さもやと・うちをぼうる事は二乗作仏・久遠実成なるべし、 法華経の現文を拝見するに舎利弗
02 は華光如来・迦葉は光明如来・須菩提は名相如来・迦旃延は閻浮那提金光如来・目連は多摩羅跋栴檀香仏・富楼那は
03 法明如来・阿難は山海慧自在通王仏・羅喉羅は蹈七宝華如来・五百七百は普明如来・学無学二千人は宝相如来・摩訶
04 波闍波提比丘尼・耶輸多羅比丘尼等は 一切衆生喜見如来・具足千万光相如来等なり、 此等の人人は法華経を拝見
05 したてまつるには尊きやうなれども 爾前の経経を披見の時はけをさむる事どもをほし、 其の故は仏世尊は実語の
06 人なり故に聖人・大人と号す、外典・外道の中の賢人・聖人・天仙なんど申すは実語につけたる名なるべし此等の人
07 人に勝れて第一なる故に世尊をば大人とは・申すぞかし、 此の大人「唯以一大事因縁故・出現於世」となのらせ給
08 いて「未だ真実を顕さず・世尊は法久しうして後・要ず当に真実を説くべし・正直に方便を捨て」等云云、多宝仏・
09 証明を加え分身・舌を出す等は 舎利弗が未来の華光如来・迦葉が光明如来等の説をば 誰の人か疑網をなすべき。
10 而れども爾前の諸経も又仏陀の実語なり・大方広仏華厳経に云く「如来の知慧・大薬王樹は唯二処に於て生長し
11 て利益を為作すこと能わず、 所謂二乗の無為広大の深坑に堕つると及び 善根を壊る非器の衆生は大邪見・貪愛の
12 水に溺るるとなり」等云云、 此の経文の心は雪山に大樹あり無尽根となづく 此を大薬王樹と号す、閻浮提の諸木
13 の中の大王なり 此の木の高さは十六万八千由旬なり、 一閻浮提の一切の草木は此の木の根ざし枝葉・華菓の次第
14 に随つて華菓なるなるべし、 此の木をば仏の仏性に譬へたり 一切衆生をば一切の草木にたとう、但し此の大樹は
15 火坑と水輪の中に生長せず、 二乗の心中をば火坑にたとえ一闡提人の心中をば 水輪にたとえたり、此の二類は永
16 く仏になるべからずと申す経文なり、 大集経に云く「二種の人有り必ず死して活きず 畢竟して恩を知り恩を報ず
17 ること能わず、 一には声聞二には縁覚なり、 譬えば人有りて深坑に堕墜し是の人自ら利し他を利すること能わざ
18 るが如く声聞・縁覚も亦復是くの如し、 解脱の坑に堕して自ら利し及以び他を利すること能わず」等云云、外典・
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01 三千余巻の所詮に二つあり 所謂孝と忠となり忠も又孝の家よりいでたり、 孝と申すは高なり天高けれども孝より
02 も高からず又孝とは厚なり 地あつけれども孝よりは厚からず、 聖賢の二類は孝の家よりいでたり何に況や仏法を
03 学せん人・知恩報恩なかるべしや、仏弟子は必ず四恩をしつて知恩報恩をいたすべし、 其の上舎利弗・迦葉等の二
04 乗は二百五十戒三千の威儀・持整して味・浄・無漏の三静慮・阿含経をきわめ三界の見思を尽せり知恩報恩の人の手
05 本なるべし、 然るを不知恩の人なりと世尊定め給ぬ、 其の故は父母の家を出て出家の身となるは必ず父母を・す
06 くはんがためなり、 二乗は自身は解脱と・をもえども利他の行かけぬ設い分分の利他ありといえども 父母等を永
07 不成仏の道に入るれば・かへりて不知恩の者となる。
08 維摩経に云く「維摩詰又文殊師利に問う 何等をか如来の種と為す、 答えて曰く一切塵労の疇は如来の種と為
09 る、 五無間を以て具すと雖も 猶能く此の大道意を発す」等云云 又云く「譬えば族姓の子・高原陸土には青蓮芙
10 蓉衡華を生ぜず卑湿汚田乃ち 此の華を生ずるが如し」等云云、 又云く「已に阿羅漢を得て応真と為る者は終に復
11 道意を起して仏法を具すること能わざるなり、 根敗の士・其の五楽に於て復利すること能わざるが如し」等云云、
12 文の心は貪・瞋・癡等の三毒は仏の種となるべし 殺父等の五逆罪は仏種となるべし 高原の陸土には青蓮華生ずべ
13 し、二乗は仏になるべからず、 いう心は二乗の諸善と凡夫の悪と相対するに 凡夫の悪は仏になるとも二乗の善は
14 仏にならじとなり、 諸の小乗経には悪をいましめ善をほむ、 此の経には二乗の善をそしり凡夫の悪をほめたり、
15 かへつて仏経とも・をぼへず 外道の法門のやうなれども 詮するところは二乗の永不成仏をつよく定めさせ給うに
16 や、方等陀羅尼経に云く「文殊・舎利弗に語らく 猶枯樹の如く更に華を生ずるや不や 亦山水の如く本処に還るや
17 不や折石還つて合うや不や焦種芽を生ずるや不や、 舎利弗の言く不なり、 文殊の言く若し得べからずんば云何ぞ
18 我に菩提の記を得るを問うて心に歓喜を生ずるや」等云云、 文の心は枯れたる木・華さかず山水・山にかへらず破
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01 れたる石あはず・いれる種をいず、二乗また・かくのごとし仏種をいれり等となん。
02 大品般若経に云く「諸の天子今未だ三菩提心を発さずんば応に発すべし、 若し声聞の正位に入れば是の人能く
03 三菩提心を発さざるなり、 何を以ての故に 生死の為に障隔を作す故」等云云、 文の心は二乗は菩提心を・をこ
04 さざれば我随喜せじ 諸天は菩提心を・をこせば我随喜せん、 首楞厳経に云く「五逆罪の人・是の首楞厳三昧を聞
05 いて阿耨菩提心を発せば 還つて仏と作るを得、 世尊・漏尽の阿羅漢は猶破器の如く永く是の三昧を受くるに堪忍
06 せず」等云云、 浄名経に云く「其れ汝に施す者は福田と名けず、 汝を供養する者は三悪道に堕す」等云云、文の
07 心は迦葉・舎利弗等の聖僧を供養せん人天等は 必ず三悪道に堕つべしとなり、 此等の聖僧は仏陀を除きたてまつ
08 りては人天の眼目・一切衆生の導師とこそ・をもひしに幾許の人天・大会の中にして・かう度度・仰せられしは本意
09 なかりし事なり只詮するところは我が御弟子を責めころさんとにや、此の外牛驢の二乳・瓦器・金器・螢火・日光等
10 の無量の譬をとつて二乗を呵嘖せさせ給き、 一言二言ならず一日二日ならず 一月二月ならず一年二年ならず一経
11 二経ならず、 四十余年が間・無量・無辺の経経に無量の大会の諸人に対して一言もゆるし給う事もなく・そしり給
12 いしかば世尊の不妄語なりと我もしる人もしる天もしる地もしる、 一人二人ならず百千万人・三界の諸天・竜神・
13 阿修羅.五天・四洲・六欲.色・無色.十方世界より雲集せる人天・二乗.大菩薩等皆これをしる又皆これをきく、各各
14 国国へ還りて娑婆世界の釈尊の説法を彼れ 彼れの国国にして一一にかたるに 十方無辺の世界の一切衆生・一人も
15 なく迦葉・舎利弗等は永不成仏の者・供養しては・あしかりぬべしと・しりぬ。
16 而るを後八年の法華経に忽に悔還して二乗作仏すべしと仏陀とかせ給はんに人天大会・信仰をなすべしや、 用
17 ゆべからざる上・先後の経経に疑網をなし五十余年の説教・皆虚妄の説となりなん、 されば四十余年・未顕真実等
18 の経文はあらませしか 天魔の仏陀と現じて後八年の経をばとかせ給うかと疑網するところに・げにげに・しげに劫
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01 国・名号と申して二乗成仏の国をさだめ 劫をしるし所化の弟子なんどを定めさせ給へば 教主釈尊の御語すでに二
02 言になりぬ自語相違と申すはこれなり、 外道が仏陀を大妄語の者と咲いしこと・これなり、人天大会けをさめて・
03 ありし程に 爾の時に東方・宝浄世界の多宝如来・高さ五百由旬・広さ二百五十由旬の大七宝塔に乗じて教主釈尊の
04 人天・大会に自語相違をせめられて・とのべ・かうのべさまざまに宣べさせ給いしかども不審猶をはるべしとも・み
05 へず・もてあつかいて・をはせし時・仏前に大地より涌現して虚空にのぼり給う、 例せば暗夜に満月の東山より出
06 づるがごとし七宝の塔・大虚にかからせ給いて大地にも・つかず 大虚にも付かせ給はず・天中に懸りて宝塔の中よ
07 り梵音声を出して証明して云く「爾の時に宝塔の中より大音声を出して歎めて云く、善哉善哉・釈迦牟尼世尊・能く
08 平等大慧・教菩薩法・仏所護念の妙法華経を以て 大衆の為に説きたもう、 是くの如し是くの如し、釈迦牟尼世尊
09 の所説の如きは皆是れ真実なり」等云云、 又云く「爾の時に世尊・文殊師利等の無量百千万億・旧住娑婆世界の菩
10 薩・乃至人非人等一切の衆の前に於て 大神力を現じたもう、 広長舌を出して上み梵世に至らしめ一切の毛孔より
11 乃至十方世界・衆の宝樹の下の師子の座の上の諸仏も 亦復是くの如く広長舌を出し 無量の光を放ちたもう」等云
12 云、又云く「十方より来りたまえる諸の分身の仏をして 各本土に還らしめ 乃至多宝仏の塔も還つて故の如くし給
13 うべし」等云云、大覚世尊・初成道の時・諸仏十方に現じて釈尊を慰諭し給う上・諸の大菩薩を遣しき、般若経の御
14 時は釈尊・長舌を三千にをほひ千仏・十方に現じ給い・金光明経には四方の四仏現せり、阿弥陀経には六方の諸仏・
15 舌を三千にををう、大集経には十方の諸仏・菩薩・大宝坊にあつまれり、 此等を法華経に引き合せて・かんがうる
16 に黄石と黄金と白雲と白山と白冰と銀鏡と黒色と青色とをば翳眼の者・眇目の者・一眼の者・邪眼の者は・みたがへ
17 つべし、華厳経には先後の経なければ仏語相違なしなにに・つけてか大疑いで来べき、 大集経・大品経・金光明経
18 ・阿弥陀経等は諸小乗経の二乗を 弾呵せんがために 十方に浄土をとき凡夫・菩薩を欣慕せしめ二乗を・わずらは
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01 す、 小乗経と諸大乗経と一分の相違あるゆへに或は十方に仏現じ給ひ 或は十方より大菩薩をつかはし或は十方世
02 界にも此の経をとくよしをしめし 或は十方より諸仏あつまり給う或は釈尊・舌を三千に・をほひ或は諸仏の舌をい
03 だす・よしをとかせ給う、此ひとえに諸小乗経の十方世界・唯有一仏と・とかせ給いしをもひを・やぶるなるべし、
04 法華経のごとくに先後の諸大乗経と相違・出来して舎利弗等の諸の声聞・大菩薩・人天等に将非魔作仏と・をもはれ
05 させ給う大事にはあらず、而るを華厳.法相・三論・真言.念仏等の翳眼の輩・彼彼の経経と法華経とは同じと・うち
06 をもへるは・つたなき眼なるべし。
07 但在世は四十余年をすてて法華経につき候ものもや・ありけん、仏滅後に此の経文を開見して信受せんこと・か
08 たかるべし、 先ず一つには爾前の経経は多言なり法華経は一言なり 爾前の経経は多経なり此の経は一経なり彼彼
09 の経経は多年なり此の経は八年なり、 仏は大妄語の人・永く信ずべからず不信の上に 信を立てば爾前の経経は信
10 ずる事もありなん法華経は永く信ずべからず、 当世も法華経をば皆信じたるやうなれども 法華経にては・なきな
11 り、 其の故は法華経と大日経と法華経と華厳経と 法華経と阿弥陀経と一なるやうを・とく人をば悦んで帰依し別
12 別なるなんど申す人をば用いずたとい用ゆれども本意なき事とをもへり。
13 日蓮云く日本に仏法わたりて・すでに七百余年・但伝教大師・一人計り法華経をよめりと申すをば諸人これを用
14 いず、但し法華経に云く「若し須弥を接つて 他方の無数の仏土に擲置かんも亦 未だ為難しとせず、 乃至若し仏
15 滅後に悪世中に於て 能く此の経を説かん 是れ則ち為難し」等云云、 日蓮が強義・経文に普合せり法華経の流通
16 たる涅槃経に末代濁世に謗法の者は十方の地のごとし正法の者は爪上の土のごとしと・とかれて候は・いかんがし候
17 べき、 日本の諸人は爪上の土か日蓮は十方の土かよくよく思惟あるべし、 賢王の世には道理かつべし愚主の世に
18 非道・先をすべし、聖人の世に法華経の実義顕るべし等と心うべし、 此の法門は迹門と爾前と相対して爾前の強き
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01 やうに・をぼゆもし爾前つよるならば舎利弗等の諸の二乗は永不成仏の者なるべし・いか・なげかせ給うらん。
02 二には教主釈尊は住劫.第九の減.人寿百歳の時・師子頬王には孫.浄飯王には嫡子.童子悉達太子・一切義成就菩薩
03 これなり、御年十九の御出家・三十成道の世尊・始め寂滅道場にして 実報華王の儀式を示現して十玄・六相・法界
04 円融・頓極微妙の大法を説き給い 十方の諸仏も顕現し一切の菩薩も雲集せり、 土といひ機といひ諸仏といひ始め
05 といひ何事につけてか大法を秘し給うべき、 されば経文には顕現自在力・演説円満経等云云、 一部六十巻は一字
06 一点もなく円満経なり、 譬へば如意宝珠は一珠も無量珠も共に同じ一珠も万宝を尽して雨し 万珠も万宝を尽すが
07 ごとし、 華厳経は一字も万字も但同事なるべし、 心仏及衆生の文は華厳宗の肝心なるのみならず法相・三論・真
08 言・天台の肝要とこそ申し候へ、 此等程いみじき御経に何事をか隠すべき、なれども二乗闡提・不成仏と・とかれ
09 しは珠のきずと・みゆる上三処まで始成正覚と・なのらせ給いて久遠実成の寿量品を説きかくさせ給いき、 珠の破
10 たると月に雲のかかれると日の蝕したるがごとし不思議なりしことなり、 阿含・方等・般若・大日経等は仏説なれ
11 ば・いみじき事なれども華厳経にたいすれば・いうにかいなし、彼の経に秘せんこと此等の経経にとかるべからず、
12 されば雑阿含経に云く「初め成道」等云云、 大集経に云く「如来成道始め十六年」等云云、 浄名経に云く「始め
13 仏樹に坐して力めて魔を降す」等云云、 大日経に云く「我昔道場に坐して」等云云、 仁王般若経に云く「二十九
14 年」等云云。
15 此等は言うにたらず只耳目を.をどろかす事は無量義経に華厳経の唯心法界.方等・般若経の海印三昧・混同無二
16 等の大法をかきあげて或は未顕真実・或は歴劫修行等・下す程の御経に 我先きに道場菩提樹の下に端坐すること六
17 年阿耨多羅三藐三菩提を成ずることを得たりと 初成道の華厳経の始成の文に同せられし 不思議と打ち思うところ
18 に此は法華経の序分なれば正宗の事をいはずもあるべし、法華経の正宗・略開三・広開三の御時・唯仏与仏・及能究
0197top
01 尽・諸法実相等・世尊法久後等・正直捨方便等・多宝仏・迹門八品を指して皆是真実と証明せられしに何事をか隠す
02 べきなれども 久遠寿量をば秘せさせ給いて 我始め道場に坐し樹を観じて亦経行す等云云、 最第一の大不思議な
03 り、 されば弥勒菩薩・涌出品に四十余年の未見今見の大菩薩を仏・爾して乃ち之を教化して初めて道心を発さしむ
04 等と・とかせ給いしを疑つて云く「如来太子為りし時・釈の宮を出でて伽耶城を去ること遠からず 道場に坐して阿
05 耨多羅三藐三菩提を成ずることを得たまえり、 是より已来 始めて四十余年を過ぎたり世尊・云何ぞ此の少時に於
06 て大いに仏事を作したまえる」等云云、 教主釈尊此等の疑を晴さんがために 寿量品を・とかんとして爾前迹門の
07 ききを挙げて云く「一切世間の天人及び阿修羅は皆 今の釈迦牟尼仏・釈氏の宮を出でて 伽耶城を去ること遠から
08 ず道場に坐して 阿耨多羅三藐三菩提を得たまえりと謂えり」等と云云、 正しく此の疑を答えて云く「然るに善男
09 子・我実に成仏してより已来無量無辺・百千万億・那由佗劫なり」等云云。
10 華厳・乃至般若・大日経等は二乗作仏を隠すのみならず久遠実成を説きかくさせ給へり、此等の経経に二つの失
11 あり、一には行布を存するが故に 仍お未だ権を開せずとて迹門の一念三千をかくせり、 二には始成を言うが故に
12 尚未だ迹を発せずとて 本門の久遠をかくせり、 此等の二つの大法は一代の綱骨・一切経の心髄なり、迹門方便品
13 は一念三千・二乗作仏を説いて爾前二種の失・一つを脱れたり、しかりと・いえども・いまだ発迹顕本せざれば・ま
14 ことの一念三千もあらはれず 二乗作仏も定まらず、 水中の月を見るがごとし・根なし草の波の上に浮べるににた
15 り、本門にいたりて始成正覚をやぶれば四教の果をやぶる、 四教の果をやぶれば 四教の因やぶれぬ、爾前迹門の
16 十界の因果を打ちやぶつて 本門の十界の因果をとき顕す、 此即ち本因本果の法門なり、九界も無始の仏界に具し
17 仏界も無始の九界に備りて・真の十界互具・百界千如・一念三千なるべし、 かうて・かへりみれば華厳経の台上十
18 方・阿含経の小釈迦・方等般若の金光明経の阿弥陀経の大日経等の権仏等は・此の寿量の仏の天月 しばらく影を大
0198top
01 小の器にして浮べ給うを・諸宗の学者等・近くは自宗に迷い 遠くは法華経の寿量品をしらず水中の月に実の月の想
02 いをなし或は入つて取らんと・をもひ或は縄を・つけて・つなぎとどめんとす、天台云く「天月を識らず 但池月を
03 観ず」等云云。
04 日蓮案じて云く二乗作仏すら猶爾前づよにをぼゆ、 久遠実成は又にるべくも・なき爾前づりなり、其の故は爾
05 前・法華相対するに猶爾前こわき上・爾前のみならず迹門十四品も一向に爾前に同ず、 本門十四品も涌出・寿量の
06 二品を除いては皆始成を存せり、 雙林最後の大般涅槃経・四十巻・其の外の法華・前後の諸大経に一字一句もなく
07 法身の無始・無終はとけども応身・報身の顕本はとかれず、いかんが広博の爾前・本迹・涅槃等の諸大乗経をばすて
08 て但涌出・寿量の二品には付くべき。
09 されば法相宗と申す宗は西天の仏滅後・九百年に無著菩薩と申す大論師有しき、 夜は都率の内院にのぼり弥勒
10 菩薩に対面して・一代聖教の不審をひらき・昼は阿輸舎国にして法相の法門を弘め給う、彼の御弟子は世親・護法・
11 難陀・戒賢等の大論師なり、 戒日大王・頭をかたぶけ五天幢を倒して此れに帰依す、 尸那国の玄奘三蔵・月氏に
12 いたりて十七年印度百三十余の国国を見ききて 諸宗をばふりすて此の宗を漢土にわたして 太宗皇帝と申す賢王に
13 さづけ給い肪・尚・光・基を弟子として大慈恩寺並に三百六十余箇国に弘め給い、日本国には人王三十七代・孝徳天
14 皇の御宇に道慈・道昭等ならいわたして山階寺にあがめ給へり、 三国第一の宗なるべし、此の宗の云く始め華厳経
15 より終り法華・涅槃経にいたるまで無性有情と決定性の二乗は永く仏になるべからず、 仏語に二言なし一度・永不
16 成仏と定め給いぬる上は日月は地に落ち給うとも 大地は反覆すとも永く変改有べからず、 されば法華経・涅槃経
17 の中にも爾前の経経に嫌いし無性有情・決定性を正くついさして成仏すとは・とかれず、 まづ眼を閉じて案ぜよ法
18 華経・涅槃経に決定性・無性有情.正く仏になるならば無著・世親ほどの大論師.玄奘・慈恩ほどの三蔵・人師これを
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01 みざるべしや 此をのせざるべしやこれを信じて伝えざるべしや、 弥勒菩薩に問いたてまつらざるべしや、汝は法
02 華経の文に依るやうなれども天台・妙楽・伝教の僻見を信受して其の見をもつて 経文をみるゆえに爾前に法華経は
03 水火なりと見るなり、華厳宗と真言宗は法相・三論にはにるべくもなき超過の宗なり、 二乗作仏・久遠実成は法華
04 経に限らず華厳経・大日経に分明なり、華厳宗の杜順.智儼・法蔵.澄観・真言宗の善無畏.金剛智・不空等は天台.伝
05 教には・にるべくもなき高位の人なり、 其の上善無畏等は大日如来より系みだれざる相承あり、 此等の権化の人
06 いかでかアヤマりあるべき、随つて華厳経には「或は釈迦・仏道を成じ已つて不可思議劫を経るを見る」等云云、大
07 日経には「我れは一切の本初なり」等云云、 何ぞ但久遠実成・寿量品に限らん、 譬へば井底の蝦が大海を見ず山
08 左が洛中を・しらざるがごとし、汝但寿量の一品を見て華厳・大日経等の諸経をしらざるか、其の上月氏・尸那・新
09 羅・百済等にも一同に二乗作仏・久遠実成は法華経に限るというか。
10 されば八箇年の経は四十余年の経経には 相違せりというとも先判・後判の中には後判につくべしというとも猶
11 爾前づりにこそをぼうれ、又、但在世計りならば・さもあるべきに滅後に居せる論師・人師・多は爾前づりにこそ候
12 へ、かう法華経は信じがたき上、 世もやうやく末になれば聖賢はやうやく・かくれ迷者はやうやく多し、 世間の
13 浅き事すら猶あやまりやすし何に況や出世の深法アヤマなかるべしや、 犢子・方広が聡敏なりし猶を大小乗経にあ
14 やまてり、 無垢・摩沓が利根なりし権実・二教を弁えず、正法一千年の内、在世も近く月氏の内なりし・すでにか
15 くのごとし、況や尸那・日本等は国もへだて音もかはれり 人の根も鈍なり寿命も日あさし貪瞋癡も倍増せり、 仏
16 世を去つてとし久し仏経みなあやまれり 誰れの智解か直かるべき、 仏涅槃経に記して云く「末法には正法の者は
17 爪上の土・謗法の者は十方の土」とみへぬ、 法滅尽経に云く「謗法の者は恒河沙・正法の者は一二の小石」と記し
18 をき給う、千年・五百年に一人なんども正法の者ありがたからん、 世間の罪に依つて悪道に堕る者は爪上の土・仏
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01 法によつて悪道に堕る者は十方の土・俗よりも僧・女より尼多く悪道に堕つべし。
02 此に日蓮案じて云く世すでに末代に入つて二百余年・辺土に生をうけ其の上下賎・其の上貧道の身なり、輪回六
03 趣の間・人天の大王と生れて万民をなびかす事・大風の小木の枝を吹くがごとくせし時も仏にならず、 大小乗経の
04 外凡・内凡の大菩薩と修しあがり一劫・二劫・無量劫を経て菩薩の行を立てすでに不退に入りぬべかりし時も・強盛
05 の悪縁におとされて仏にもならず、 しらず大通結縁の第三類の在世をもれたるか 久遠五百の退転して今に来れる
06 か、法華経を行ぜし程に世間の悪縁・王難・外道の難・小乗経の難なんどは忍びし程に権大乗・実大乗経を極めたる
07 やうなる道綽・善導・法然等がごとくなる悪魔の身に入りたる者・法華経をつよくほめあげ機をあながちに下し 理
08 深解微と立て未有一人得者・千中無一等と・すかししものに無量生が間・恒河沙の度すかされて 権経に堕ちぬ権経
09 より小乗経に堕ちぬ外道・外典に堕ちぬ 結句は悪道に堕ちけりと深く此れをしれり、 日本国に此れをしれる者は
10 但日蓮一人なり。
11 これを一言も申し出すならば父母.兄弟・師匠に国主の王難必ず来るべし、いはずば・慈悲なきに.にたりと思惟
12 するに法華経・涅槃経等に此の二辺を合せ見るに・いはずば今生は事なくとも後生は必ず無間地獄に堕べし、 いう
13 ならば三障四魔必ず競い起るべしと・しりぬ、二辺の中には・いうべし、 王難等・出来の時は退転すべくは一度に
14 思ひ止るべしと且くやすらいし程に 宝塔品の六難九易これなり、 我等程の小力の者・須弥山はなぐとも我等程の
15 無通の者・乾草を負うて劫火には・やけずとも我等程の無智の者・恒沙の経経をば・よみをぼうとも法華経は一句一
16 偈も末代に持ちがたしと・とかるるは・これなるべし、今度・強盛の菩提心を・をこして退転せじと願しぬ。
17 既に二十余年が間・此の法門を申すに日日.月月・年年に難かさなる、少少の難は.かずしらず大事の難・四度な
18 り二度は・しばらく・をく王難すでに二度にをよぶ、 今度はすでに我が身命に及ぶ其の上弟子といひ檀那といひ・
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