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日蓮大聖人御書全集0201~0300
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01 わづかの聴聞の俗人なんど来つて重科に行わる謀反なんどの者のごとし。
02 法華経の第四に云く「而も此経は如来の現在にすら猶怨嫉多し況や滅度の後をや」等云云、 第二に云く「経を
03 読誦し書持すること有らん者を見て 軽賎憎嫉して結恨を懐かん」等云云、 第五に云く「一切世間怨多くして信じ
04 難し」等云云、又云く「諸の無智の人の悪口罵詈する有らん」等、 又云く「国王・大臣・婆羅門・居士に向つて誹
05 謗し我が悪を説いて 是れ邪見の人なりと謂わん」と、 又云く「数数擯出見れん」等云云、又云く「杖木瓦石もて
06 之を打擲せん」等云云、 涅槃経に云く「爾の時に多く無量の外道有つて 和合して 共に摩訶陀の王・阿闍世の所
07 に往き、 今は唯一の大悪人有り瞿曇沙門なり、 一切世間の悪人利養の為の故に 其の所に往集して眷属と為つて
08 能く善を修せず、呪術の力の故に迦葉及び舎利弗・目ケン連を調伏す」等云云、 天台云く「何に況や未来をや理化
09 し難きに在るなり」等云云、 妙楽云く「障り未だ除かざる者を怨と為し 聞くことを喜ばざる者を 嫉と名く」等
10 云云、南三・北七の十師・漢土無量の学者・天台を怨敵とす、 得一云く「咄かな智公・汝は是れ誰が弟子ぞ三寸に
11 足らざる舌根を以て 覆面舌の所説を謗ずる」等云云、 東春に云く「問う在世の時許多の怨嫉あり仏滅度の後此経
12 を説く時・何が故ぞ亦留難多きや、 答えて云く俗に良薬口に苦しと云うが如く 此経は五乗の異執を廃して一極の
13 玄宗を立つ、 故に凡を斥け聖を呵し大を排い 小を破り天魔を銘じて毒虫と為し外道を説いて悪鬼と為し執小を貶
14 して貧賎と為し菩薩を挫きて新学と為す、 故に天魔は聞くを悪み外道は耳に逆い二乗は驚怪し菩薩は怯行す、 此
15 くの如きの徒 悉く留難を為す 多怨嫉の言豈唐しからんや」等云云、 顕戒論に云く「僧統奏して曰く西夏に鬼弁
16 婆羅門有り東土に巧言を吐く禿頭沙門あり、 此れ乃ち物類冥召して世間を誑惑す」等云云、 論じて曰く「昔斉朝
17 の光統に聞き今は本朝の六統に見る、 実なるかな法華に何況するをや」等云云、 秀句に云く「代を語れば則ち像
18 の終り末の始め地を尋ぬれば 則ち唐の東羯の西・人を原ぬれば則ち五濁の生・闘諍の時なり、 経に云く猶多怨・
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01 況滅度後・此の言良に以有るなり」等云云、 夫れ小児に灸治を加れば必ず母をあだむ 重病の者に良薬をあたうれ
02 ば定んで口に苦しとうれう、 在世猶をしかり乃至像末辺土をや、 山に山をかさね波に波をたたみ難に難を加へ非
03 に非をますべし、像法の中には天台一人法華経・一切経をよめり、 南北これをあだみしかども陳隋・二代の聖主・
04 眼前に是非を明めしかば敵ついに尽きぬ、 像の末に伝教一人・法華経一切経を仏説のごとく読み給へり、南都・七
05 大寺蜂起せしかども桓武・乃至嵯峨等の賢主・我と明らめ給いしかば又事なし、 今末法の始め二百余年なり況滅度
06 後のしるしに闘諍の序となるべきゆへに 非理を前として 濁世のしるしに召し合せられずして流罪乃至寿にも・を
07 よばんと・するなり。
08 されば日蓮が法華経の智解は天台・伝教には千万が一分も及ぶ事なけれども難を忍び慈悲のすぐれたる事は・を
09 それをも・いだきぬべし、 定んで天の御計いにもあづかるべしと存ずれども一分のしるしもなし、 いよいよ重科
10 に沈む、還つて此の事を計りみれば 我が身の法華経の行者にあらざるか、 又諸天・善神等の此の国をすてて去り
11 給えるか・かたがた疑はし、 而るに法華経の第五の巻・勧持品の二十行の偈は日蓮だにも此の国に生れずば・ほと
12 をど世尊は大妄語の人・八十万億那由佗の菩薩は提婆が虚誑罪にも堕ちぬべし、 経に云く「諸の無智の人あつて・
13 悪口罵詈等し・刀杖瓦石を加う」等云云、 今の世を見るに日蓮より外の諸僧たれの人か法華経につけて 諸人に悪
14 口罵詈せられ刀杖等を加えらるる者ある、 日蓮なくば此の一偈の未来記は 妄語となりぬ、「悪世の中の比丘は・
15 邪智にして心諂曲」又云く「白衣の与に法を説いて 世に恭敬せらるること 六通の羅漢の如し」此等の経文は今の
16 世の念仏者・禅宗・律宗等の法師なくば世尊は又大妄語の人、 常在大衆中・乃至向国王大臣婆羅門居士等、今の世
17 の僧等・日蓮を讒奏して流罪せずば此の経文むなし、 又云く「数数見擯出」等云云、日蓮・法華経のゆへに度度な
18 がされずば数数の二字いかんがせん、此の二字は天台・伝教もいまだ・よみ給はず況や余人をや、末法の始のしるし
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01 恐怖悪世中の金言の・あふゆへに但日蓮一人これをよめり、 例せば世尊が付法蔵経に記して云く「我が滅後・一百
02 年に阿育大王という王あるべし」 摩耶経に云く「我が滅後・六百年に竜樹菩薩という人・南天竺に出ずべし」大悲
03 経に云く「我が滅後・六十年に末田地という者・地を竜宮につくべし」此れ等皆仏記のごとくなりき、 しからずば
04 誰か仏教を信受すべき、而るに仏・恐怖悪世・然後末世・末法滅時・後五百歳なんど正妙の二本に正しく時を定め給
05 う、 当世・法華の三類の強敵なくば誰か仏説を信受せん 日蓮なくば誰をか法華経の行者として仏語をたすけん、
06 南三・北七・七大寺等.猶像法の法華経の敵の内・何に況や当世の禅・律.念仏者等は脱るべしや、経文に我が身・普
07 合せり御勘気をかほれば・いよいよ悦びをますべし、 例せば小乗の菩薩の未断惑なるが願兼於業と申して・つくり
08 たくなき罪なれども 父母等の地獄に堕ちて大苦を・うくるを見てかたのごとく 其の業を造つて願つて地獄に堕ち
09 て苦に同じ苦に代れるを 悦びとするがごとし、 此れも又かくのごとし当時の責はたうべくも・なけれども未来の
10 悪道を脱すらんと・をもえば悦びなり。
11 但し世間の疑といゐ自心の疑と申しいかでか天扶け給わざるらん、 諸天等の守護神は仏前の御誓言あり法華経
12 の行者には・さるになりとも 法華経の行者とがうして 早早に仏前の御誓言を・とげんとこそをぼすべきに其の義
13 なきは我が身・法華経の行者にあらざるか、此の疑は此の書の肝心・一期の大事なれば処処にこれをかく上疑を強く
14 して答をかまうべし。
15 李札といひし者は心のやくそくを・たがへじと王の重宝たる剣を徐君が墓にかく・王寿と云いし人は河の水を飲
16 んで金の鵞目を水に入れ・公胤といひし人は 腹をさいて主君の肝を入る・此等は賢人なり恩をほうずるなるべし、
17 況や舎利弗迦葉等の大聖は・二百五十戒・三千の威儀・一もかけず見思を断じ三界を離れたる聖人なり、梵帝・諸天
18 の導師・一切衆生の眼目なり、 而るに四十余年が間・永不成仏と嫌いすてはてられて・ありしが法華経の不死の良
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01 薬をなめてイレタル種の生い破石の合い.枯木の華菓なんどならんとせるがごとく仏になるべしと許されて.いまだ八
02 相をとなえず・いかでか此の経の重恩をば・ほうぜざらん、 若しほうぜずば彼彼の賢人にも・をとりて不知恩の畜
03 生なるべし、 毛宝が亀はあをの恩をわすれず昆明池の大魚は命の恩をほうぜんと 明珠を夜中にささげたり、 畜
04 生すら猶恩をほうず何に況や大聖をや、 阿難尊者は斛飯王の次男・羅ゴ羅尊者は浄飯王の孫なり、 人中に家高き
05 上証果の身となつて成仏を・をさへられたりしに八年の霊山の席にて山海慧・トウ七宝華なんと如来の号をさづけら
06 れ給う、若し法華経ましまさずば・いかに・いえたかく大聖なりとも誰か恭敬したてまつるべき、 夏の桀・殷の紂
07 と申すは万乗の主・土民の帰依なり、 しかれども政あしくして世をほろぼせしかば今に・わるきものの手本には桀
08 紂・桀紂とこそ申せ、下賎の者・癩病の者も桀紂のごとしと・いはれぬればのられたりと腹たつなり、千二百・無量
09 の声聞は法華経ましまさずば誰か名をも・きくべき其の音をも習うべき、 一千の声聞・一切経を結集せりとも見る
10 人よもあらじ、 まして此等の人人を絵像・木像にあらはして 本尊と仰ぐべしや、 此偏に法華経の御力によつて
11 一切の羅漢帰依せられさせ給うなるべし、 諸の声聞・法華を・はなれさせ給いなば魚の水をはなれ猿の木をはなれ
12 小児の乳をはなれ民の王を・はなれたるが・ごとし、 いかでか法華経の行者をすて給うべき、諸の声聞は爾前の経
13 経にては肉眼の上に天眼慧眼をう法華経にして法眼・仏眼備われり、 十方世界すら猶照見し給うらん、 何に況や
14 此の娑婆世界の中法華経の行者を知見せられざるべしや、設い日蓮.悪人にて一言・二言・一年・二年・一劫・二劫.
15 乃至百千万億劫・此等の声聞を悪口・罵詈し奉り 刀杖を加えまいらする色なりとも法華経をだにも信仰したる行者
16 ならばすて給うべからず、 譬へば幼稚の父母をのる父母これを・すつるや、梟鳥が母を食う母これをすてず・破鏡
17 父をがいす父これにしたがふ、 畜生すら猶かくのごとし大聖・法華経の行者を捨つべしや、 されば四大声聞の領
18 解の文に云く「我等今は真に是れ声聞なり仏道の声を以て 一切をして聞かしむ我等今は真に 阿羅漢なり緒の世間
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01 天人・魔・梵に於て普く其の中に於て・応に供養を受くべし、 世尊は大恩まします希有の事を以て憐愍教化して我
02 等を利益し給う、 無量億劫にも誰か能く報ずる者あらん手足をもつて 供給し頭頂をもつて礼敬し一切をもつて供
03 養すとも皆報ずること能わじ、 若しは以て頂戴し両肩に荷負して 恒沙劫に於て心を尽して恭敬し又美膳・無量の
04 宝衣及び諸の臥具・種種の湯薬を以てし、 牛頭栴檀及び諸の珍宝を以て 塔廟を起て宝衣を地に布き斯くの如き等
05 の事を以用て供養すること恒沙劫に於てすとも亦報ずること能わじ」等云云。
06 諸の声聞等は前四味の経経にいくそばくぞの呵嘖を蒙り 人天・大会の中にして恥辱がましき事・其の数をしら
07 ず、 しかれば迦葉尊者の渧泣の音は三千をひびかし須菩提尊者は亡然として手の一鉢をすつ、 舎利弗は飯食をは
08 き富楼那は画瓶に糞を入ると嫌わる、 世尊・鹿野苑にしては阿含経を讃歎し 二百五十戒を師とせよなんど慇懃に
09 ほめさせ給いて、 今又いつのまに我が所説をば・かうはそしらせ給うと二言・相違の失とも申しぬべし、例せば世
10 尊・提婆達多を汝愚人・人の唾を食うと罵詈せさせ給しかば毒箭の胸に入るがごとく・をもひて・うらみて云く「瞿
11 曇は仏陀にはあらず我は斛飯王の嫡子・阿難尊者が兄・瞿曇が一類なり、 いかにあしき事ありとも内内・教訓すべ
12 し、此等程の人天・大会に此程の大禍を現に向つて申すもの大人・仏陀の中にあるべしや、 されば先先は妻のかた
13 き今は一座のかたき 今日よりは生生・世世に大怨敵となるべし」と誓いしぞかし、 此れをもつて思うに今諸の大
14 声聞は本と外道・婆羅門の家より出でたり、 又諸の外道の長者なりしかば 諸王に帰依せられ 諸檀那にたつとま
15 る、或は種姓・高貴の人もあり 或は富福・充満のやからもあり、 而るに彼彼の栄官等をうちすて慢心の幢を倒し
16 て俗服を脱ぎ 壊色の糞衣を身にまとひ白払・弓箭等をうちすてて一鉢を手ににぎり貧人・乞丐なんどの・ごとくし
17 て世尊につき奉り風雨を防ぐ宅もなく身命をつぐ衣食乏少なりし・ありさまなるに五天・四海・皆外道の弟子・檀那
18 なれば仏すら九横の大難にあひ給ふ、 所謂提婆が大石をとばせし 阿闍世王の酔象を放ちし阿耆多王の馬麦・婆羅
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01 門城のこんづ・せんしや婆羅門女が鉢を腹にふせし、 何に況や所化の弟子の数難申す計りなし、 無量の釈子は波
02 瑠璃王に殺され千万の眷属は酔象にふまれ、 華色比丘尼は提婆にがいせられ迦廬提尊者は馬糞にうづまれ目ケン尊
03 者は竹杖にがいせらる、 其の上六師同心して阿闍世・婆斯匿王等に讒奏して云く「瞿曇は閻浮第一の大悪人なり、
04 彼がいたる処は三災七難を前とす、 大海の衆流をあつめ大山の衆木をあつめたるが・ごとし、 瞿曇がところには
05 衆悪をあつめたり、所謂迦葉・舎利弗・目連・須菩提等なり、 人身を受けたる者は忠孝を先とすべし、彼等は瞿曇
06 にすかされて父母の教訓をも用いず、 家をいで王法の宣旨をも・そむいて山林にいたる、 一国に跡をとどむべき
07 者にはあらず、されば天には日月・衆星・変をなす地には衆夭さかんなりなんど・うつたう、堪べしとも・おぼえざ
08 りしに又うちそうわざわいと仏陀にもうちそい・がたくて・ありしなり、 人天大会の衆会の砌にて時時呵嘖の音を
09 ききしかば・いかにあるべしとも・おぼへず只あわつる心のみなり、 其の上大の大難の第一なりしは浄名経の「其
10 れ汝に施す者は福田と名けず汝を供養する者は三悪道に堕す」等云云、 文の心は仏・菴羅苑と申すところに・をは
11 せしに梵天・帝釈・日月・四天.三界諸天・地神・竜神等.無数恒沙の大会の中にして云く須菩提等の比丘等を供養せ
12 ん天人は三悪道に堕つべし、 此等をうちきく天人・此等の声聞を供養すべしや、 詮ずるところは仏の御言を用つ
13 て諸の二乗を殺害せさせ給うかと見ゆ、 心あらん人人は仏をも・うとみぬべし、 されば此等の人人は仏を供養し
14 たてまつりしついでに・こそ・わづかの身命をも扶けさせ給いしか、 されば事の心を案ずるに四十余年の経経のみ
15 とかれて法華八箇年の所説なくて 御入滅ならせ給いたらましかば 誰の人か此等の尊者をば供養し奉るべき現身に
16 餓鬼道にこそ・をはすべけれ。
17 而るに四十余年の経経をば東春の大日輪・寒冰を消滅するがごとく 無量の草露を大風の零落するがごとく一言
18 一時に未顕真実と打ちけし、 大風の黒雲をまき大虚に満月の処するがごとく 青天に日輪の懸り給うがごとく世尊
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01 法久後・要当説真実と照させ給いて華光如来・光明如来等と舎利弗・迦葉等を赫赫たる日輪・明明たる月輪のごとく
02 鳳文にしるし亀鏡に浮べられて候へばこそ 如来滅後の人天の諸檀那等には 仏陀のごとくは仰がれ給しか、 水す
03 まば月・影を・をしむべからず風ふかば草木なびかざるべしや、 法華経の行者あるならば此等の聖者は大火の中を
04 すぎても大石の中を・とをりてもとぶらはせ給うべし、迦葉の入定もことにこそ・よれ、いかにと・なりぬるぞ・い
05 ぶかしとも申すばかりなし、 後五百歳のあたらざるか広宣流布の妄語となるべきか 日蓮が法華経の行者ならざる
06 か、法華経を教内と下して 別伝と称する大妄語の者をまほり給うべきか、 捨閉閣抛と定めて法華経の門をとぢよ
07 巻をなげすてよと・ゑりつけて 法華堂を失える者を守護し給うべきか、仏前の誓いはありしかども濁世の・大難の
08 はげしさ・をみて諸天下り給わざるか、日月・天にまします須弥山いまも・くづれず海潮も増減す四季も・かたのご
09 とく・たがはず・いかに・なりぬるやらんと大疑いよいよ・つもり候。
10 又諸大菩薩天人等のごときは爾前の経経にして記ベツを.うるやうなれども水中の月を取らんと.するがごとく影
11 を体とおもうがごとく・いろかたち・のみあつて実義もなし、 又仏の御恩も深くて深からず、世尊初成道の時はい
12 まだ説教もなかりしに法慧菩薩・功徳林菩薩・金剛幢菩薩・金剛蔵菩薩等なんど申せし六十余の大菩薩・十方の諸仏
13 の国土より教主釈尊の御前に来り給いて賢首菩薩・解脱月等の菩薩の請にをもむいて十住・十行・十回向・十地等の
14 法門を説き給いき、 此等の大菩薩の所説の法門は釈尊に習いたてまつるにあらず、 十方世界の諸の梵天等も来つ
15 て法をとく又釈尊に・ならいたてまつらず、 総じて華厳会座の大菩薩・天竜等は釈尊以前に不思議解脱に住せる大
16 菩薩なり、釈尊の過去・因位の御弟子にや有るらん・十方世界の先仏の御弟子にや有るらん、 一代教主・始成の正
17 覚の仏の弟子にはあらず、阿含・方等・般若の時・四教を仏の説き給いし時こそ・やうやく御弟子は出来して候へ、
18 此も又.仏の自説なれども正説にはあらず、ゆへ・いかんとなれば方等・般若の別・円.二教は華厳経の別・円・二教
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01 の義趣をいでず、彼の別・円・二教は教主釈尊の別・円・二教にはあらず、法慧等の別円二教なり、此等の大菩薩は
02 人目には仏の御弟子かとは見ゆれども仏の御師とも・いゐぬべし、 世尊・彼の菩薩の所説を聴聞して智発して後・
03 重ねて方等・般若の別・円をとけり、 色もかわらぬ華厳経の別・円・二教なり、されば此等の大菩薩は釈尊の師な
04 り、華厳経に此等の菩薩をかずへて善知識ととかれしはこれなり、 善知識と申すは一向・師にもあらず一向・弟子
05 にもあらずある事なり、蔵.通・二教は又・別.円の枝流なり別・円.二教をしる人必ず蔵・通.二教をしるべし、人の
06 師と申すは弟子のしらぬ事を教えたるが師にては候なり、 例せば仏より前の一切の人天・外道は二天・三仙の弟子
07 なり、九十五種まで流派したりしかども三仙の見を出でず、 教主釈尊もかれに習い伝えて外道の弟子にて・ましま
08 せしが苦行・楽行.十二年の時・苦・空.無常・無我の理をさとり出してこそ外道の弟子の名をば離れさせ給いて無師
09 智とはなのらせ給いしか、 又人天も大師とは仰ぎまいらせしか、 されば前四味の間は教主釈尊・法慧菩薩等の御
10 弟子なり、例せば文殊は釈尊九代の御師と申すがごとし、つねは諸経に不説一字と・とかせ給うも・これなり。
11 仏・御年.七十二の年・摩竭提国・霊鷲山と申す山にして無量義経を.とかせ給いしに四十余年の経経をあげて枝
12 葉をば其の中におさめて四十余年・未顕真実と打消し給うは此なり、 此の時こそ諸大菩薩・諸天人等はあはてて実
13 義を請せんとは申せしか、 無量義経にて実義とをぼしき事 一言ありしかども・いまだまことなし、譬へば月の出
14 でんとして其の体東山にかくれて 光り西山に及べども諸人月体を見ざるがごとし、 法華経・方便品の略開三顕一
15 の時・仏略して一念三千・心中の本懐を宣べ給う、 始の事なればほととぎすの初音をねをびれたる者の一音ききた
16 るが・やうに月の山の半を出でたれども薄雲の.をほへるが・ごとく・かそかなりしを舎利弗等・驚いて諸天・竜神.
17 大菩薩等をもよをして諸天・竜神等・其の数恒沙の如し 仏を求むる諸の菩薩大数八万有り・又諸の万億国の転輪聖
18 王の至れる合掌して敬心を以て具足の道を聞かんと欲す等とは請ぜしなり、 文の心は四味・三教・四十余年の間い
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01 まだ・きかざる法門うけ給はらんと請ぜしなり、 此の文に具足の道を聞かんと欲すと申すは大経に云く「薩とは具
02 足の義に名く」等云云、 無依無得大乗四論玄義記に云く「沙とは訳して六と云う 胡法に六を以て具足の義と為す
03 なり」等云云、 吉蔵の疏に云く「沙とは翻じて具足と為す」等云云、 天台の玄義の八に云く「薩とは梵語此に妙
04 と翻ずるなり」等云云、付法蔵の第十三真言・華厳・諸宗の元祖・本地は法雲自在王如来・迹に竜猛菩薩・初地の大
05 聖の大智度論千巻の肝心に云く「薩とは六なり」等云云、 妙法蓮華経と申すは漢語なり、 月支には薩達磨分陀利
06 伽蘇多攬と申す、善無畏三蔵の法華経の肝心真言に云く「曩謨三曼陀没駄南帰命普仏陀オン三身如来阿阿暗悪開示悟
入薩縛勃陀
07 一切仏枳攘知娑乞蒭毘耶見ギヤギヤ曩三娑縛如虚空性羅乞叉ニ離塵相也薩哩達磨正法浮陀哩迦白蓮華蘇駄覧経惹入吽
遍鑁住発歓喜縛曰
08 羅堅固羅乞叉マン擁護吽空無相無願娑婆訶決定成就此の真言は南天竺の鉄塔の中の法華経の肝心の真言なり、此の真
言の中に薩
09 哩達磨と申すは正法なり薩と申すは 正なり正は妙なり妙は正なり 正法華・妙法華是なり、又妙法蓮華経の上に南
10 無の二字ををけり南無妙法蓮華経これなり、 妙とは具足・六とは六度万行、 諸の菩薩の六度万行を具足するやう
11 を・きかんとをもう、具とは十界互具・足と申すは一界に十界あれば当位に余界あり満足の義なり、 此の経一部八
12 巻・二十八品・六万九千三百八十四字・一一に皆妙の一字を備えて三十二相・八十種好の仏陀なり、十界に皆己界の
13 仏界を顕す妙楽云く「尚仏果を具す、余果も亦然り」等云云、 仏此れを答えて云く、 「衆生をして仏知見を開か
14 令めんと欲す」等云云、衆生と申すは舎利弗・衆生と申すは一闡提・衆生と申すは九法界・衆生無辺誓願度・此に満
15 足す、「我本誓願を立つ 一切の衆をして我が如く等しくして異なること無からしめんと欲す 我が昔の願せし所の
16 如き今は已に満足しぬ」等云云。
17 諸大菩薩・諸天等・此の法門をきひて 領解して云く「我等昔より来数世尊の説を聞きたてまつれども 未だ曾
18 て是の如き深妙の上法を聞かず」等云云、 伝教大師云く「我等昔より 来数世尊の説を聞く・と謂うは昔法華経の
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01 前・華厳等の大法を説くを聞けども・となり、 未だ曾て是くの如き深妙の上法を聞かずと謂うは未だ法華経の唯一
02 仏乗の教を聞かざるなり」等云云、華厳・方等・般若・深密・大日等の恒河沙の諸大乗経はいまだ一代の肝心たる一
03 念三千の大綱・骨髄たる二乗作仏・久遠実成等をいまだきかずと領解せり。
開目抄下
01 又今よりこそ諸大菩薩も梵帝・日月・四天等も教主釈尊の御弟子にては候へ、されば宝塔品には此等の大菩薩を
02 仏我が御弟子等とをぼすゆへに 諌暁して云く「諸の大衆に告ぐ 我が滅度の後・誰か能く此の経を護持し読誦する
03 今仏前に於て 自ら誓言を説け」とは・したたかに仰せ下せしか、 又諸大菩薩も「譬えば大風の小樹の枝を吹くが
04 如し」等と吉祥草の大風に随い河水の大海へ引くがごとく仏には随いまいらせしか。
05 而れども霊山日浅くして夢のごとく・うつつならずありしに証前の宝塔の上に起後の宝塔あつて十方の諸仏・来
06 集せる皆我が分身なりとなのらせ給い 宝塔は虚空に釈迦・多宝坐を並べ 日月の青天に並出せるが如し、 人天大
07 会は星をつらね 分身の諸仏は大地の上宝樹の下の師子のゆかにまします、 華厳経の蓮華蔵世界は十方・此土の報
08 仏・各各に国国にして彼の界の仏・此の土に来つて分身となのらず 此の界の仏・彼の界へゆかず但法慧等の大菩薩
09 のみ互いに来会せり、大日経・金剛頂経等の八葉九尊・三十七尊等・大日如来の化身とはみゆれども其の化身・三身
10 円満の古仏にあらず、 大品経の千仏・阿弥陀経の六方の諸仏いまだ来集の仏にあらず大集経の来集の仏・又分身な
11 らず、 金光明経の四方の四仏は化身なり、 総じて一切経の中に各修・各行の三身円満の諸仏を集めて我が分身と
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01 はとかれず、これ寿量品の遠序なり、 始成四十余年の釈尊が一劫・十劫等・已前の諸仏を集めて分身ととかる・さ
02 すが平等意趣にもにず・をびただしくをどろかし、 又始成の仏ならば所化・十方に充満すべからざれば分身の徳は
03 備わりたりとも示現して益なし、 天台云く「分身既に多し当に知るべし成仏の久しきことを」等云云、 大会のを
04 どろきし意をかかれたり。
05 其の上に地涌千界の大菩薩・大地より出来せり 釈尊に第一の御弟子とをぼしき普賢文殊等にも・にるべくもな
06 し、華厳・方等・般若・法華経の宝塔品に来集する大菩薩・大日経等の金剛薩タ等の十六の大菩薩なんども此の菩薩
07 に対当すればミ猴の群る中に帝釈の来り給うが如し、 山人に月卿等のまじはるにことならず、 補処の弥勒すら猶
08 迷惑せり何に況や其の已下をや、此の千世界の大菩薩の中に四人の大聖まします所謂・上行・無辺行・浄行・安立行
09 なり、此の四人は虚空・霊山の諸菩薩等・眼もあはせ心もをよばず、華厳経の四菩薩・大日経の四菩薩・金剛頂経の
10 十六大菩薩等も此の菩薩に対すれば翳眼のものの日輪を見るが如く 海人が皇帝に向い奉るが如し、 大公等の四聖
11 の衆中にありしに・にたり商山の四皓が恵帝に仕えしにことならず、 巍巍堂堂として尊高なり、釈迦・多宝・十方
12 の分身を除いては一切衆生の善知識ともたのみ奉りぬべし、 弥勒菩薩・心に念言すらく、我は仏の太子の御時より
13 三十成道・今の霊山まで四十二年が間此の界の菩薩・十方世界より来集せし諸大菩薩皆しりたり、 又十方の浄穢土
14 に或は御使い或は我と遊戯して其の国国に大菩薩を見聞せり、 此の大菩薩の御師なんどは・いかなる仏にてや・あ
15 るらん、 よも此の釈迦・多宝・十方の分身の仏陀にはにるべくもなき仏にてこそ・をはすらめ、雨の猛を見て竜の
16 大なる事をしり華の大なるを見て池のふかきことは・しんぬべし、 此等の大菩薩の来る国・又誰と申す仏にあいた
17 てまつり・いかなる大法をか習修し給うらんと疑いし、 あまりの不審さに音をも・いだすべくも・なけれども仏力
18 にやありけん、 弥勒菩薩疑つて云く「無量千万億の大衆の諸の菩薩は 昔より未だ曾て見ざる所なり是の諸の大威
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01 徳の精進の菩薩衆は 誰か其の為に法を説いて教化して成就せる、 誰に従つてか初めて発心し何れの仏法をか称揚
02 せる、 世尊我昔より来未だ曾つて是の事を見ず、 願くは其の所従の国土の名号を説きたまえ、 我常に諸国に遊
03 べども未だ曾つて是の事を見ず、 我れ此の衆の中に於て乃し一人をも識らず 忽然に地より出でたり願くは其の因
04 縁を説きたまえ」等云云、 天台云く「寂場より已降 今座已往十方の大士来会絶えず 限る可からずと雖も我補処
05 の智力を以つて悉く見悉く知る、 而れども此の衆に於て一人をも識らず然るに 我れ十方に遊戯して諸仏に覲奉し
06 大衆に快く識知せらる」等云云、 妙楽云く「智人は起を知る蛇は自ら蛇を識る」等云云、 経釈の心・分明なり詮
07 ずるところは初成道よりこのかた此の土十方にて此等の菩薩を見たてまつらず・きかずと申すなり。
08 仏此の疑を答えて云く「阿逸多・汝等昔より未だ見ざる所の者は 我是の娑婆世界に於て阿耨多羅三藐三菩提を
09 得已つて是の諸の菩薩を教化し 示導して其の心を調伏して道の意を発こさしめたり」等、 又云く「我伽耶城菩提
10 樹下に於て坐して最正覚を成ずることを得て 無上の法輪を転じ爾して乃ち之を教化して 初めて道心を発さしむ今
11 皆不退に住せり、 乃至我久遠より来是等の衆を教化せり」等云云、 此に弥勒等の大菩薩大に疑いをもう、 華厳
12 経の時・法慧等の無量の大菩薩あつまる いかなる人人なるらんと・をもへば我が善知識なりとをほせられしかば、
13 さもやと・うちをもひき、其の後の大宝坊・白鷺池等の来会の大菩薩も・しかのごとし、 此の大菩薩は彼等にはに
14 るべくもなき・ふりたりげにまします定めて釈尊の御師匠かなんどおぼしきを 令初発道心とて幼稚のものども・な
15 りしを教化して弟子となせりなんど・をほせあれば・大なる疑なるべし、 日本の聖徳太子は人王第三十二代・用明
16 天皇の御子なり、御年六歳の時・百済・高麗・唐土より老人どものわたりたりしを六歳の太子・我が弟子なりと・を
17 ほせありしかば彼の老人ども 又合掌して我が師なり等云云、 不思議なりし事なり、外典に申す或者道をゆけば路
18 のほとりに年三十計りなる・わかものが八十計りなる老人を・とらへて打ちけり、 いかなる事ぞと・とえば此の老
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01 翁は我が子なりなんど申すと・かたるにもにたり、 されば弥勒菩薩等疑つて云く「世尊・如来太子為りし時・釈の
02 宮を出で伽耶城を去ること遠からずして 道場に坐して阿耨多羅三藐三菩提を成ずることを得給えり、 是より已来
03 始めて四十余年を過ぎたり、 世尊・云何ぞ此の少時に於て 大いに仏事を作し給える」等云云、 一切の菩薩始め
04 華厳経より四十余年・会会に疑をまうけて一切衆生の疑網をはらす中に此の疑・第一の疑なるべし、 無量義経の大
05 荘厳等の八万の大士・四十余年と 今との歴劫・疾成の疑にも超過せり、 観無量寿経に韋提希夫人の 阿闍世王が
06 提婆にすかされて 父の王をいましめ母を殺さんとせしが 耆婆月光に・をどされて母をはなちたりし時仏を請じた
07 てまつて・まづ第一の問に云く「我れ宿し何の罪あつて 此の悪子を生む世尊・復た何等の因縁有つて提婆達多と共
08 に眷属となり給う」等云云、 此の疑の中に「世尊復た何等の因縁有つて」等の疑は大なる大事なり、 輪王は敵と
09 共に生れず帝釈は鬼と・ともならず 仏は無量劫の慈悲者なりいかに大怨と共にはまします還つて仏には・ましまさ
10 ざるかと疑うなるべし、而れども仏答え給はず、されば観経を読誦せん人・法華経の提婆品へ入らずば・ いたづら
11 ごとなるべし、 大涅槃経に迦葉菩薩の三十六の問もこれには及ばず、 されば仏・此の疑を晴させ給はずば一代の
12 聖教は泡沫にどうじ一切衆生は疑網にかかるべし、寿量の一品の大切なるこれなり。
13 其の後・仏・寿量品を説いて云く「一切世間の天人及び阿修羅は皆今の釈迦牟尼仏は釈氏の宮を出で伽耶城を去
14 ること遠からず道場に坐して 阿耨多羅三藐三菩提を得給えりと謂えり」等云云、 此の経文は始め寂滅道場より終
15 り法華経の安楽行品にいたるまでの一切の大菩薩等の所知をあげたるなり、 「然るに善男子・我れ実に成仏してよ
16 り已来・無量無辺百千万億那由佗劫なり」等云云、 此の文は華厳経の「三処の始成正覚」阿含経に云く「初成」浄
17 名経の「始坐仏樹」大集経に云く「始十六年」大日経の「我昔坐道場」等・ 仁王経の「二十九年」無量義経の「我
18 先道場」法華経の方便品に云く「我始坐道場」等を一言に大虚妄なりと・やぶるもんなり。
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01 此の過去常顕るる時.諸仏皆釈尊の分身なり爾前・迹門の時は諸仏・釈尊に肩を並べて各修.各行の仏なり、かる
02 がゆへに諸仏を本尊とする者・釈尊等を下す、今華厳の台上・方等・般若・大日経等の諸仏は皆釈尊の眷属なり、仏
03 三十成道の御時は大梵天王・第六天等の知行の娑婆世界を奪い取り給いき、 今爾前・迹門にして十方を浄土と・が
04 うして此の土を 穢土ととかれしを打ちかへして此の土は本土なり 十方の浄土は垂迹の穢土となる、仏は久遠の仏
05 なれば迹化・他方の大菩薩も教主釈尊の御弟子なり、 一切経の中に此の寿量品ましまさずば天に日月の・国に大王
06 の・山河に珠の・人に神のなからんが・ごとくして・あるべきを華厳・真言等の権宗の智者とをぼしき澄観・嘉祥・
07 慈恩・弘法等の一往・権宗の人人・且は自の依経を讃歎せんために或は云く「華厳経の教主は報身・法華経は応身」
08 と・或は云く「法華寿量品の仏は無明の辺域・大日経の仏は明の分位」等云云、 雲は月をかくし讒臣は賢人をかく
09 す・人讃すれば黄石も玉とみへ 諛臣も賢人かとをぼゆ、 今濁世の学者等・彼等の讒義に隠されて寿量品の玉を翫
10 ばず、又天台宗の人人もたぼらかされて金石・一同のをもひを・なせる人人もあり、仏・久成に・ましまさずば所化
11 の少かるべき事を弁うべきなり、 月は影を慳ざれども水なくば・うつるべからず、仏・衆生を化せんと・をぼせど
12 も結縁うすければ八相を現ぜず、 例せば諸の声聞が初地・初住には・のぼれども爾前にして自調自度なりしかば未
13 来の八相をごするなるべし、 しかれば教主釈尊始成ならば今此の世界の梵帝・日月・四天等は劫初より此の土を領
14 すれども四十余年の仏弟子なり、 霊山・八年の法華結縁の衆今まいりの主君にをもひつかず 久住の者にへだてら
15 るるがごとし、 今久遠実成あらはれぬれば東方の薬師如来の日光・月光・西方阿弥陀如来の観音勢至・乃至十方世
16 界の諸仏の御弟子・大日・金剛頂等の両部の大日如来の御弟子の諸大菩薩・猶教主釈尊の御弟子なり、諸仏・釈迦如
17 来の分身たる上は諸仏の所化申すにをよばず 何に況や此の土の劫初より・このかたの日月・衆星等・教主釈尊の御
18 弟子にあらずや。
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01 而るを天台宗より外の諸宗は本尊にまどえり、倶舎・成実・律宗は三十四心・断結成道の釈尊を本尊とせり、天
02 尊の太子が迷惑して我が身は民の子とをもうがごとし、華厳宗・真言宗・三論宗・法相宗等の四宗は大乗の宗なり、
03 法相・三論は勝応身ににたる仏を本尊とす天王の太子・我が父は侍と・をもうがごとし、 華厳宗・真言宗は釈尊を
04 下げて盧舎那の大日等を本尊と定む 天子たる父を下げて種姓もなき者の 法王のごとくなるに・つけり、浄土宗は
05 釈迦の分身の阿弥陀仏を 有縁の仏とをもうて教主をすてたり、 禅宗は下賎の者・一分の徳あつて父母をさぐるが
06 ごとし、仏をさげ経を下す此皆本尊に迷えり、 例せば三皇已前に父をしらず 人皆禽獣に同ぜしが如し、寿量品を
07 しらざる諸宗の者は畜に同じ不知恩の者なり、 故に妙楽云く「一代教の中未だ曾て遠を顕さず、 父母の寿知らず
08 んばある可からず 若し父の寿の遠きを知らずんば復父統の邦に迷う、 徒に才能と謂うとも全く人の子に非ず」等
09 云云、妙楽大師は唐の末・天宝年中の者なり三論・華厳・法相・真言等の諸宗・並に依経を深くみ広く勘えて寿量品
10 の仏をしらざる者は父統の邦に迷える才能ある畜生とかけるなり、 徒謂才能とは華厳宗の法蔵・澄観・乃至真言宗
11 の善無畏三蔵等は才能の人師なれども 子の父を知らざるがごとし、 伝教大師は日本顕密の元祖・秀句に云く「他
12 宗所依の経は一分仏母の義有りと雖も 然も但愛のみ有つて厳の義を闕く、 天台法華宗は厳愛の義を具す一切の賢
13 聖・学・無学及び菩薩心を発せる者の父なり」等云云、真言・華厳等の経経には種熟脱の三義・名字すら猶なし何に
14 況や其の義をや、 華厳・真言経等の一生初地の即身成仏等は経は権経にして過去をかくせり、 種をしらざる脱な
15 れば超高が位にのぼり道鏡が王位に居せんとせしがごとし。
16 宗宗・互に種を諍う予此をあらそはず但経に任すべし、 法華経の種に依つて天親菩薩は種子無上を立てたり天
17 台の一念三千これなり、華厳経・乃至諸大乗経・大日経等の諸尊の種子・皆一念三千なり天台智者大師・一人此の法
18 門を得給えり、 華厳宗の澄観・此の義を盗んで 華厳経の心如工画師の文の神とす、 真言・大日経等には二乗作
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01 仏・久遠実成・一念三千の法門これなし、善無畏三蔵・震旦に来つて後・天台の止観を見て智発し大日経の心実相・
02 我一切本初の文の神に 天台の一念三千を盗み入れて 真言宗の肝心として 其の上に印と真言とをかざり法華経と
03 大日経との勝劣を判ずる時・理同事勝の釈をつくれり、 両界の漫荼羅の二乗作仏・十界互具は一定・大日経にあり
04 や第一の誑惑なり、 故に伝教大師云く「新来の真言家は則ち筆受の相承を泯じ、 旧到の華厳家は則ち影響の規模
05 を隠す」等云云、俘囚の嶋なんどに・わたて・ほのぼのといううたはわれよみたりなんど申すは・えぞていの者は・
06 さこそとをもうべし、漢土.日本の学者又かくのごとし、良シヨ和尚云く「真言・禅門・華厳.三論乃至若し法華等に
07 望めば是接引門」等云云、 善無畏三蔵の閻魔の責にあづからせ給しは此の邪見による 後に心をひるがへし法華経
08 に帰伏してこそ・このせめをば脱させ給いしか、 其の後善無畏・不空等・法華経を両界の中央にをきて大王のごと
09 くし胎蔵の大日経・金剛の金剛頂経をば左右の臣下のごとくせし・これなり、 日本の弘法も教相の時は華厳宗に心
10 をよせて法華経をば第八にをきしかども事相の時には実慧・真雅・円澄・光定等の人人に伝え給いし時・両界の中央
11 に上のごとく・をかれたり、 例せば三論の嘉祥は法華玄十巻に法華経を第四時・会二破二と定れども天台に帰伏し
12 て七年つかへ廃講散衆して身を肉橋となせり、 法相の慈恩は法苑林・七巻・十二巻に一乗方便・三乗真実等の妄言
13 多し、 しかれども玄賛の第四には 故亦両存等と我が宗を不定になせり、言は両方なれども心は天台に帰伏せり、
14 華厳の澄観は華厳の疏を造て 華厳・法華・相対して法華を方便とかけるに似れども彼の宗之を以て実と為す此の宗
15 の立義・理通ぜざること無し等とかけるは悔い還すにあらずや、 弘法も又かくのごとし、 亀鏡なければ我が面を
16 みず敵なければ我が非をしらず、 真言等の諸宗の学者等・我が非をしらざりし程に 伝教大師にあひたてまつて自
17 宗の失をしるなるべし。
18 されば諸経の諸仏・菩薩・人天等は彼彼の経経にして仏にならせ給うやうなれども実には法華経にして正覚なり
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01 給へり、 釈迦諸仏の衆生無辺の総願は皆此の経にをいて満足す今者已満足の文これなり、 予事の由を・をし計る
02 に華厳・観経.大日経等をよみ修行する人をば・その経経の仏・菩薩・天等.守護し給らん疑あるべからず、但し大日
03 経・観経等をよむ行者等・法華経の行者に敵対をなさば彼の行者をすてて 法華経の行者を守護すべし、 例せば孝
04 子・慈父の王敵となれば父をすてて王にまいる孝の至りなり、仏法も又かくのごとし、 法華経の諸仏・菩薩・十羅
05 刹・日蓮を守護し給う上.浄土宗の六方の諸仏・二十五の菩薩・真言宗の千二百等・七宗の諸尊.守護の善神・日蓮を
06 守護し給うべし、例せば七宗の守護神・伝教大師をまほり給いしが如しと・をもう、日蓮案じて云く法華経の二処・
07 三会の座にましましし、 日月等の諸天は法華経の行者出来せば磁石の鉄を吸うがごとく 月の水に遷るがごとく須
08 臾に来つて行者に代り 仏前の御誓をはたさせ給べしとこそをぼへ候に いままで日蓮をとぶらひ給はぬは日蓮・法
09 華経の行者にあらざるか、されば重ねて経文を勘えて我が身にあてて、身の失をしるべし。
10 疑て云く当世の念仏宗・禅宗等をば何なる智眼をもつて法華経の敵人・一切衆生の悪知識とはしるべきや、答え
11 て云く私の言を出すべからず 経釈の明鏡を出して謗法の醜面をうかべ其の失をみせしめん生盲は力をよばず、 法
12 華経の第四宝塔品に云く「爾の時に多宝仏・宝塔の中に於て 半座を分ち釈迦牟尼仏に与う、 爾の時に大衆二如来
13 の七宝の塔の中の師子の座の上に在して 結跏趺坐し給うを見たてまつる、 大音声を以て普く四衆に告げ給わく、
14 誰か能く此の娑婆国土に於て広く妙法華経を説かん、 今正しく是れ時なり、 如来久しからずして当に涅槃に入る
15 べし、仏此の妙法華経を以て付属して在ること有らしめんと欲す」等云云、第一の勅宣なり。
16 又云く「爾の時に世尊重ねて此の義を宣べんと欲して偈を説いて言く、 聖主世尊・久しく滅度し給うと雖も宝
17 塔の中に在して尚法の為に来り給えり、 諸人云何ぞ勤めて法に為わざらん、 又我が分身の無量の諸仏・恒沙等の
18 如く来れる法を聴かんと欲す 各妙なる土及び弟子衆・天人・竜神・諸の供養の事を捨てて法をして久しく住せしめ
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01 んが故に此に来至し給えり、 譬えば大風の小樹の枝を吹くが如し、是の方便を以て法をして久しく住せしむ、 諸
02 の大衆に告ぐ 我が滅度の後誰か能く此の経を護持し読誦せん今仏前に於て自ら誓言を説け」、 第二の鳳詔なり。
03 「多宝如来および我が身 集むる所の化仏 当に此の意を知るべし、 諸の善男子・各諦かに 思惟せよ此れは為れ
04 難き事なり、 宜しく大願を発こすべし、 諸余の経典数・恒沙の如し此等を説くと雖も未だ為れ難しとするに足ら
05 ず、若し須弥を接つて 他方無数の仏土に擲げ置かんも亦未だ為れ難しとせず、 若し仏滅後・悪世の中に於て能く
06 此の経を説かん是則ち為れ難し、 仮使劫焼に乾れたる草を担い負うて中に入つて焼けざらんも 亦未だ為れ難しと
07 せず、 我が滅度の後に若し此の経を持ちて一人の為にも説かん是則ち為れ難し、 諸の善男子・我が滅後に於て誰
08 か能く此の経を護持し読誦せん、 今仏前に於て自ら誓言を説け」等云云、第三の諌勅なり、 第四・第五の二箇の
09 諌暁・提婆品にあり下にかくべし。
10 此の経文の心は眼前なり 青天に大日輪の懸がごとし白面に黶のあるににたり、 而れども生盲の者と邪眼の者
11 と一眼のものと各謂自師の者・辺執家の者はみがたし 万難をすてて道心あらん者にしるしとどめてみせん、 西王
12 母がそののもも・輪王出世の優曇華よりも あいがたく沛公が項羽と八年・漢土をあらそいし頼朝と宗盛が七年・秋
13 津嶋にたたかひし修羅と帝釈と金翅鳥と竜王と阿耨池に諍えるも 此にはすぐべからずとしるべし、 日本国に此の
14 法顕るること二度なり伝教大師と日蓮となりとしれ、 無眼のものは疑うべし力及ぶべからず 此の経文は日本・漢
15 土・月氏・竜宮・天上・十方世界の一切経の勝劣を釈迦・多宝・十方の仏・来集して定め給うなるべし。
16 問うて云く華厳経.方等経・般若経.深密経.楞伽経・大日経.涅槃経等は九易の内か六難の内か、答えて云く華厳
17 宗の杜順・智儼・法蔵・澄観等の三蔵大師・読んで云く「華厳経と法華経と六難の内・名は二経なれども所説・乃至
18 理これ同じ四門観別.見真諦同のごとし」、法相の玄奘三蔵・慈恩大師等.読んで云く「深密経と法華経とは同く唯識
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01 の法門にして第三時の教・六難の内なり」三論の吉蔵等読んで云く「般若経と法華経とは名異体同・二経一法なり」
02 善無畏三蔵・金剛智三蔵・不空三蔵等・読んで云く「大日経と法華経とは理同じ、をなじく六難の内の経なり」、日
03 本の弘法・読んで云く「大日経は六難・九易の内にあらず大日経は釈迦所説の一切経の外・法身・大日如来の所説な
04 り」、又或る人云く「華厳経は報身如来の所説・六難・九易の内にはあらず」、此の四宗の元祖等かやうに読みけれ
05 ば其の流れをくむ数千の学徒等も又此の見をいでず、 日蓮なげいて云く 上の諸人の義を左右なく非なりといはば
06 当世の諸人面を向くべからず非に非をかさね結句は国王に讒奏して命に及ぶべし、 但し我等が慈父・ 雙林最後の
07 御遺言に云く「法に依つて人に依らざれ」等云云、不依人等とは初依・二依・三依・第四依・普賢・文殊等の等覚の
08 菩薩が法門を説き給うとも経を手ににぎらざらんをば用ゆべからず、 「了義経に依つて不了義経に依らざれ」 と
09 定めて経の中にも了義・ 不了義経を糾明して信受すべきこそ候いぬれ、 竜樹菩薩の十住毘婆沙論に云く「修多羅
10 黒論に依らずして修多羅白論に依れ」等云云、 天台大師云く「修多羅と合う者は録して之を用いよ 文無く義無き
11 は信受すべからず」等云云、 伝教大師云く「仏説に依憑して口伝を信ずること莫れ」等云云、 円珍智証大師云く
12 「文に依つて伝うべし」等云云、上にあぐるところの諸師の釈・皆一分・経論に依つて勝劣を弁うやうなれども皆自
13 宗を堅く信受し先師の謬義をたださざるゆへに曲会私情の勝劣なり荘厳己義の法門なり・ 仏滅後の犢子・ 方広・
14 漢已後の外典は仏法外の外道の見よりも三皇五帝の儒書よりも邪見・強盛なり邪法・巧なり、華厳・法相・真言等の
15 人師・天台宗の正義を嫉ゆへに実経の文を会して権義に順ぜしむること強盛なり、しかれども道心あらん人・ 偏党
16 をすて自他宗をあらそはず人をあなづる事なかれ。
17 法華経に云く「已今当」等云云、 妙楽云く「縦い経有つて諸経の王と云うとも已今当説最為第一と云わず」等
18 云云、又云く「已今当の妙ココに於て固く迷う謗法の罪苦長劫に流る」等云云、此の経釈にをどろいて一切経・並に
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01 人師の疏釈を見るに狐疑の冰とけぬ今真言の愚者等・ 印真言のあるを・たのみて真言宗は法華経にすぐれたりとを
02 もひ慈覚大師等の真言勝れたりとをほせられぬれば・なんど・をもえるは・いうにかいなき事なり。
03 密厳経に云く「十地華厳等と大樹と神通勝鬘及び余経と皆此の経従り出でたり、 是くの如きの密厳経は一切経
04 の中に勝れたり」等云云、 大雲経に云く 「是の経は即是諸経の転輪聖王なり何を以ての故に是の経典の中に衆生
05 の実性・仏性・常住の法蔵を宣説する故なり」等云云、 六波羅蜜経に云く「所謂過去無量の諸仏・所説の正法及び
06 我今説く所の所謂八万四千の諸の妙法蘊なり、 摂して五分と為す一には索咀纜・二には毘奈耶・三には阿毘達磨・
07 四には般若波羅蜜・ 五には陀羅尼門となり此の五種の蔵をもつて有情を教化す、 若し彼の有情契経調伏対法般若
08 を受持すること能わず或は復有情諸の悪業・四重・ 八重・五無間罪方等経を謗ずる一闡提等の種種の重罪を造るに
09 銷滅して速疾に解脱し頓に涅槃を悟ることを得せしむ、 而も彼が為に諸の陀羅尼蔵を説く、 此の五の法蔵譬えば
10 乳・酪・生蘇・熟蘇及び妙なる醍醐の如し、総持門とは譬えば醍醐の如し醍醐の味は乳・酪・蘇の中に微妙第一にし
11 て能く諸の病を除き 諸の有情をして身心安楽ならしむ、 総持門とは契経等の中に最も第一と為す 能く重罪を除
12 く」等云云、 解深密経に云く「爾の時に勝義生菩薩復仏に白して云く世尊・初め一時に於て波羅ナツ斯仙人堕処施
13 鹿林の中に在て唯声聞乗を発趣する者の為に 四諦の相を以て正法輪を転じ給いき、 是甚だ奇にして甚だ此れ希有
14 なり一切世間の諸の天人等・ 先より能く法の如く転ずる者有ること無しと雖も、 而も彼の時に於て転じ給う所の
15 法輪は有上なり有容なり 是れ未了義なり是れ諸の諍論安足の処所なり、 世尊在昔第二時の中に唯発趣して大乗を
16 修する者の為にして 一切の法は皆無自性なり無性無滅なり本来寂静なり 自性涅槃なるに依る隠密の相を以て正法
17 輪を転じ給いき、 更に甚だ奇にして甚だ為れ希有なりと雖も、 彼の時に於て転じ給う所の法輪亦是れ有上なり容
18 受する所有り猶未だ了義ならず、 是れ諸の諍論安足の処所なり、 世尊今第三時の中に於て普く一切乗を発趣する
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01 者の為に一切の法は皆無自性・無生無滅・本来寂静・自性涅槃にして 無自性の性なるに依り顕了の相を以て正法輪
02 を転じ給う、 第一甚だ奇にして最も為れ希有なり、 今に世尊転じ給う所の法輪・無上無容にして是れ真の了義な
03 り諸の諍論安息の処所に非ず」等云云、 大般若経に云く 「聴聞する所の世・出世の法に随つて皆能く方便して般
04 若甚深の理趣に会入し 諸の造作する所の世間の事業も亦般若を以て法性に会入し 一事として法性を出ずる者を見
05 ず」等云云、 大日経第一に云く「秘密主大乗行あり無縁乗の心を発す 法に我性無し何を以ての故に彼往昔是くの
06 如く修行せし者の如く 蘊の阿頼耶を観察して自性幻の如しと知る」等云云、 又云く「秘密主彼是くの如く無我を
07 捨て心主自在にして自心の本不生を覚す」等云云、 又云く「所謂空性は根境を離れ無相にして 境界無く諸の戯論
08 に越えて虚空に等同なり乃至極無自性」等云云、 又云く「大日尊秘密主に告げて言く 秘密主云何なるか菩提・謂
09 く実の如く自心を知る」等云云、 華厳経に云く「一切世界の諸の群生声聞乗を求めんと 欲すること有ること尠し
10 縁覚を求むる者転・復少し、 大乗を求むる者甚だ希有なり大乗を求むる者 猶為れ易く能く是の法を信ずる為れ甚
11 だ難し、 況や能く受持し・正憶念し・説の如く修行し・真実に解せんをや、若し三千大千界を以て頂戴すること一
12 劫身動ぜざらんも 彼の所作未だ為れ難からず是の法を信ずるは為れ甚だ難し、 大千塵数の衆生の類に一劫諸の楽
13 具を供養するも 彼の功徳未だ為れ勝れず 是の法を信ずるは為れ殊勝なり、 若し掌を以て十仏刹を持し虚空に中
14 に於て住すること 一劫なるも彼の所作未だ為れ難からず是の法を信ずるは為れ甚だ難し、 十仏刹塵の衆生の類に
15 一劫諸の楽具を供養せんも 彼の功徳未だ勝れりと為さず是の法を信ずるは為れ殊勝なり、 十仏刹塵の諸の如来を
16 一劫恭敬して 供養せん若し能く此の品を受持せん者の功徳彼よりも最勝と為す」等云云、 涅槃経に云く「是の諸
17 の大乗方等経典復無量の功徳を 成就すと雖も是の経に比せんと欲するに 喩を為すを得ざること 百倍千倍百千万
18 倍、 乃至算数譬喩も及ぶこと能わざる所なり、 善男子譬えば牛従り乳を出し乳従り酪を出し酪従り生蘇を出し生
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01 蘇従り熟蘇を出し 熟蘇従り醍醐を出す醍醐は最上なり、 若し服すること有る者は 衆病皆除き所有の諸薬も悉く
02 其の中に入るが如し、 善男子仏も亦是くの如し 仏従り十二部経を出し 十二部経従り修多羅を出し修多羅従り方
03 等経を出し 方等経従り般若波羅蜜を出し 般若波羅蜜従り大涅槃を出す 猶醍醐の如し醍醐と言うは仏性に喩う」
04 等云云。
05 此等の経文を法華経の已今当・六難・九易に相対すれば月に星をならべ九山に須弥を合せたるににたり、しかれ
06 ども華厳宗の澄観・法相・三論・真言等の慈恩・嘉祥・弘法等の仏眼のごとくなる人・猶此の文にまどへり、何に況
07 や盲眼のごとくなる当世の学者等・勝劣を弁うべしや、黒白のごとく.あきらかに須弥・芥子のごとくなる勝劣なを.
08 まどへり・いはんや 虚空のごとくなる理に迷わざるべしや、 教の浅深をしらざれば理の浅深を弁うものなし巻を
09 へだて文・前後すれば教門の色弁えがたければ文を出して愚者を扶けんとをもう、王に小王・大王・一切に少分・全
10 分・五乳に全喩・分喩を弁うべし、 六波羅蜜経は有情の成仏あつて無性の成仏なし何に況や久遠実成をあかさず、
11 猶涅槃経の五味にをよばず何に況や法華経の迹門・本門にたいすべしや、 而るに日本の弘法大師・此の経文にまど
12 ひ給いて法華経を第四の熟蘇味に入れ給えり、 第五の総持門の醍醐味すら 涅槃経に及ばずいかにし給いけるやら
13 ん、 而るを震旦の人師争つて醍醐を盗むと天台等を盗人とかき給へり 惜い哉古賢醍醐を嘗めず等と自歎せられた
14 り、 此等はさてをく我が一門の者のためにしるす他人は信ぜざれば逆縁なるべし、 一渧をなめて大海のしををし
15 り一華を見て春を推せよ、 万里をわたて宋に入らずとも三箇年を経て霊山にいたらずとも 竜樹のごとく竜宮に入
16 らずとも無著菩薩のごとく弥勒菩薩にあはずとも 二所三会に値わずとも一代の勝劣はこれをしれるなるべし、 蛇
17 は七日が内の洪水をしる竜の眷属なるゆへ 烏は年中の吉凶をしれり過去に 陰陽師なりしゆへ鳥はとぶ徳人にすぐ
18 れたり。
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01 日蓮は諸経の勝劣をしること華厳の澄観.三論の嘉祥・法相の慈恩.真言の弘法にすぐれたり、天台・伝教の跡を
02 しのぶゆへなり、 彼の人人は天台・伝教に帰せさせ給はずば謗法の失脱れさせ給うべしや、 当世・日本国に第一
03 に富める者は日蓮なるべし命は法華経にたてまつり名をば後代に留べし、 大海の主となれば諸の河神・皆したがう
04 須弥山の王に諸の山神したがはざるべしや、法華経の六難九易を弁うれば一切経よまざるにしたがうべし。
05 宝塔品の三箇の勅宣の上に提婆品に二箇の諌暁あり、提婆達多は一闡提なり天王如来と記せらる、 涅槃経四十
06 巻の現証は此の品にあり、 善星・阿闍世等の無量の五逆・謗法の者の一をあげ頭をあげ万ををさめ枝をしたがふ、
07 一切の五逆・七逆・謗法・闡提・天王如来にあらはれ了んぬ毒薬変じて甘露となる衆味にすぐれたり、竜女が成仏此
08 れ一人にはあらず一切の女人の成仏をあらはす、 法華已前の諸の小乗教には女人の成仏をゆるさず、 諸の大乗経
09 には成仏・往生をゆるすやうなれども 或は改転の成仏にして 一念三千の成仏にあらざれば有名無実の成仏往生な
10 り、挙一例諸と申して 竜女が成仏は末代の女人の成仏往生の道をふみあけたるなるべし、 儒家の孝養は今生にか
11 ぎる未来の父母を扶けざれば 外家の聖賢は有名無実なり、 外道は過未をしれども父母を扶くる道なし仏道こそ父
12 母の後世を扶くれば聖賢の名はあるべけれ、 しかれども法華経已前等の大小乗の経宗は 自身の得道猶かなひがた
13 し何に況や父母をや但文のみあつて義なし、 今法華経の時こそ女人成仏の時・悲母の成仏も顕われ・達多の悪人成
14 仏の時・慈父の成仏も顕わるれ、此の経は内典の孝経なり、二箇のいさめ了んぬ。
15 已上五箇の鳳詔にをどろきて勧持品の弘経あり、明鏡の経文を出して当世の禅.律・念仏者.並びに諸檀那の謗法
16 をしらしめん、 日蓮といゐし者は去年九月十二日子丑の時に頚はねられぬ、 此れは魂魄・佐土の国にいたりて返
17 年の二月・雪中にしるして有縁の弟子へをくればをそろしくて・をそろしからず・みん人いかに・をぢぬらむ、此れ
18 は釈迦・多宝・十方の諸仏の未来日本国・当世をうつし給う明鏡なりかたみともみるべし。
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18 勧持品に云く「唯願くは慮したもうべからず 仏滅度の後恐怖悪世の中に於て我等当に広く説くべし、 諸の無
02 智の人の悪口罵詈等し及び刀杖を加うる者有らん 我等皆当に忍ぶべし、 悪世の中の比丘は邪智にして心諂曲に未
03 だ得ざるを為れ得たりと謂い 我慢の心充満せん、 或は阿練若に納衣にして空閑に在つて自ら真の道を行ずと謂つ
04 て人間を軽賎する者有らん利養に貪著するが故に 白衣の与に法を説いて世に 恭敬せらるることを為ること六通の
05 羅漢の如くならん、 是の人悪心を懐き常に世俗の事を念い名を阿練若に仮て好んで 我等が過を出さん、常に大衆
06 の中に在つて我等を毀らんと欲するが故に 国王・大臣・婆羅門・居士及び余の比丘衆に向つて誹謗して我が悪を説
07 いて是れ邪見の人・外道の論議を説くと謂わん、 濁劫悪世の中には多く諸の恐怖有らん 悪鬼其身に入つて我を罵
08 詈毀辱せん、 濁世の悪比丘は仏の方便随宜の所説の法を知らず 悪口し顰蹙し数数擯出せられん」等云云、記の八
09 に云く「文に三 初に一行は通じて邪人を明す即ち俗衆なり、 次に一行は道門増上慢の者を明す、三に七行は僣聖
10 増上慢の者を明す、 此の三の中に初は忍ぶ可し次の者は前に過ぎたり 第三最も甚だし後後の者は転識り難きを以
11 ての故に」等云云、 東春に智度法師云く「初に有諸より下の五行は 第一に一偈は三業の悪を忍ぶ是れ外悪の人な
12 り次に悪世の下の一偈は 是上慢出家の人なり 第三に或有阿練若より下の三偈は 即是出家の処に一切の悪人を摂
13 す」等云云、 又云く「常在大衆より下の両行は公処に向つて法を毀り人を謗ず」等云云、 涅槃経の九に云く「善
14 男子一闡提有り羅漢の像を作して 空処に住し方等大乗経典を誹謗せん諸の凡夫人見已つて 皆真の阿羅漢是大菩薩
15 なりと謂わん」等云云、 又云く「爾の時に是の経閻浮提に於て当に広く流布すべし、 是の時に当に諸の悪比丘有
16 つて是の経を抄略し分ちて多分と作し 能く正法の色香美味を滅すべし、 是の諸の悪人復是くの如き経典を読誦す
17 と雖も如来の深密の要義を滅除して 世間の荘厳の文飾無義の語を安置す前を抄して 後に著け後を抄して前に著け
18 前後を中に著け中を前後に著く当に知るべし 是くの如きの諸の悪比丘は是れ魔の伴侶なり」等云云、 六巻の般泥
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01 オン経に云く「阿羅漢に似たる一闡提有つて悪業を行ず、 一闡提に似たる阿羅漢あつて慈心を作さん羅漢に似たる
02 一闡提有りとは是の諸の衆生方等を誹謗するなり、 一闡提に似たる阿羅漢とは声聞を毀呰し 広く方等を説くなり
03 衆生に語つて言く 我れ汝等と倶に是れ菩薩なり所以は何ん一切皆如来の性有る故に 然も彼の衆生一闡提なりと謂
04 わん」等云云、 涅槃経に云く「我涅槃の後乃至正法滅して後像法の中に於て当に比丘有るべし 持律に似像して少
05 かに経を読誦し飲食を貪嗜し其の身を長養す、 袈裟を服ると雖も猶猟師の細視徐行するが如く 猫の鼠を伺うが如
06 し、 常に是の言を唱えん我羅漢を得たりと外には賢善を現わし 内には貪嫉を懐かん唖法を受けたる婆羅門等の如
07 し、実に沙門に非ずして沙門の像を現じ邪見熾盛にして正法を誹謗せん」等云云。
08 夫れ鷲峯・雙林の日月・毘湛・東春の明鏡に当世の諸宗・並に国中の禅律・念仏者が醜面を浮べたるに一分もく
09 もりなし、 妙法華経に云く「於仏滅度後恐怖悪世中」安楽行品に云く「於後悪世」又云く「於末世中」又云く「於
10 後末世法欲滅時」 分別功徳品に云く「悪世末法時」薬王品に云く「後五百歳」等云云、 正法華経の勧説品に云く
11 「然後末世」又云く「然後来末世」等云云、 添品法華経に云く等、 天台の云く「像法の中の南三北七は法華経の
12 怨敵なり」、伝教の云く「像法の末・南都・六宗の学者は法華の怨敵なり」等云云、彼等の時はいまだ分明ならず、
13 此は教主釈尊・多宝仏・宝塔の中に日月の並ぶがごとく十方・分身の諸仏・樹下に星を列ねたりし中にして正法一千
14 年・像法一千年・二千年すぎて末法の始に法華経の怨敵・三類あるべしと 八十万億那由佗の諸菩薩の定め給いし虚
15 妄となるべしや、当世は如来滅後・二千二百余年なり大地は指ば・はづるとも春は・花は・さかずとも三類の敵人・
16 必ず日本国にあるべし、 さるにては・たれたれの人人か三類の内なるらん 又誰人か法華経の行者なりとさされた
17 るらん・をぼつかなし、 彼の三類の怨敵に我等入りてやあるらん 又法華経の行者の内にてやあるらん・をぼつか
18 なし、周の第四昭王の御宇二十四年甲寅・四月八日の夜中に天に五色の光気・南北に亘りて昼のごとし、大地・六種
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01 に震動し雨ふらずして江河・井池の水まさり一切の草木に花さき菓なりたりけり 不思議なりし事なり、 昭王・大
02 に驚き大史・蘇由・占つて云く「西方に聖人生れたり」昭王問て云く「此の国いかん」答えて云く「事なし一千年の
03 後に彼の聖言・此の国にわたつて 衆生を利すべし」彼のわづかの外典の一毫未断・見思の者・しかれども一千年の
04 ことをしる、はたして仏教・一千一十五年と申せし後漢の第二・明帝の永平十年丁卯の年・仏法・漢土にわたる、此
05 は似るべくもなき釈迦・多宝・十方分身の仏の御前の諸菩薩の未来記なり、 当世・日本国に三類の法華経の敵人な
06 かるべしや、されば仏・付法蔵経等に記して云く「我が滅後に正法一千年が間・我が正法を弘むべき人・二十四人・
07 次第に相続すべし」迦葉・阿難等はさてをきぬ一百年の脇比丘・六百年の馬鳴・七百年の竜樹菩薩等・一分もたがは
08 ず・すでに出で給いぬ、 此の事いかんが・むなしかるべき此の事相違せば一経・皆相違すべし、所謂舎利弗が未来
09 の華光如来・迦葉の光明如来も皆妄語となるべし、 爾前返つて一定となつて永不成仏の諸声聞なり、 犬野干をば
10 供養すとも阿難等をば供養すべからずとなん、いかんがせん・いかんがせん。
11 第一の有諸無智人と云うは経文の 第二の悪世中比丘と 第三の納衣の比丘の大檀那と見へたり、随つて妙楽大
12 師は「俗衆」等云云、 東春に云く「公処に向う」等云云、 第二の法華経の怨敵は経に云く「悪世中の比丘は邪智
13 にして心諂曲に未だ得ざるを為れ得たりと謂い 我慢の心充満せん」等云云、 涅槃経に云く「是の時に当に諸の悪
14 比丘有るべし乃至是の諸の悪人復是くの如き経典を読誦すと雖も 如来深密の要義を滅除せん」等云云、 止観に云
15 く「若し信無きは高く聖境に推して己が智分に非ずとす、 若し智無きは増上慢を起し 己れ仏に均しと謂う」等云
16 云、 道綽禅師が云く「二に理深解微なるに由る」等云云、 法然云く「諸行は機に非ず時を失う」等云云、記の十
17 に云く「恐くは人 謬り解せん者初心の功徳の大なることを識らずして 功を上位に推り此の初心を蔑にせん 故に
18 今彼の行浅く功深きことを示して以て経力を顕す」等云云、 伝教大師云く「正像稍過ぎ已て 末法太はだ近きに有
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01 り法華一乗の機 今正しく是其の時なり何を以て知ることを得る 安楽行品に云く末世法滅の時なり」等云云、 慧
02 心の云く「日本一州円機純一なり」等云云、 道綽と伝教と法然と慧心といづれ此を信ずべしや、彼は一切経に証文
03 なし此れは正しく法華経によれり、 其の上日本国・一同に叡山の大師は受戒の師なり 何ぞ天魔のつける法然に心
04 をよせ我が剃頭の師をなげすつるや、 法然智者ならば何ぞ此の釈を選択に載せて 和会せざる人の理をかくせる者
05 なり、 第二の悪世中比丘と指さるるは法然等の無戒・邪見の者なり、涅槃経に云く「我れ等悉く邪見の人と名く」
06 等云云、 妙楽云く「自ら三教を指して皆邪見と名く」等云云、 止観に云く「大経に云く此よりの前は我等皆邪見
07 の人と名くるなり、 邪豈悪に非ずや」等云云、 弘決に云く「邪は即ち是れ悪なり是の故に当に知るべし唯円を善
08 と為す、復二意有り、 一には順を以つて善と為し背を以つて悪と為す相待の意なり、 著を以つて悪と為し達を以
09 つて善と為す 相待・絶待倶に須く悪を離るべし 円に著する尚悪なり況や復余をや」等云云、 外道の善悪は小乗
10 経に対すれば皆悪道小乗の善道・乃至四味三教は法華経に対すれば皆邪悪・但法華のみ正善なり、 爾前の円は相待
11 妙なり、 絶待妙に対すれば猶悪なり前三教に摂すれば猶悪道なり、 爾前のごとく彼の経の極理を行ずる猶悪道な
12 り、 況や観経等の猶華厳・般若経等に及ばざる小法を本として法華経を観経に取り入れて 還つて念仏に対して閣
13 抛閉捨せるは法然並びに所化の弟子等・檀那等は誹謗正法の者にあらずや、 釈迦・多宝・十方の諸仏は法をして久
14 しく住せしめんが故に此に来至し給えり、 法然並に日本国の念仏者等は 法華経は末法に念仏より前に滅尽すべし
15 と豈三聖の怨敵にあらずや。
16 第三は、 法華経に云く「或は阿練若に有り納衣にして空閑に在つて乃至白衣の与に法を説いて世に恭敬せらる
17 ることを為ること 六通の羅漢の如くならん」等云云、 六巻の般泥恒経に云く「羅漢に似たる一闡提有つて悪業を
18 行じ一闡提に似たる阿羅漢あつて慈心を作さん、 羅漢に似たる一闡提有りとは是 諸の衆生の方等を誹謗するなり
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01 一闡提に似たる阿羅漢とは 声聞を毀呰して広く方等を説き衆生に語つて言く 我汝等と倶に是れ菩薩なり所以は何
02 ん一切皆如来の性有るが故に然かも彼の衆生は一闡提と謂わん」等云云、 涅槃経に云く「我れ涅槃の後・像法の中
03 に当に比丘有るべし 持律に似像して少かに経典を読誦し飲食を貪嗜して其の身を長養せん 袈裟を服ると雖も猶猟
04 師の細視徐行するが如く猫の鼠を伺うが如し、 常に是の言を唱えん我羅漢を得たりと 外には賢善を現し内には貪
05 嫉を懐く唖法を受けたる婆羅門等の如く 実には沙門に非ずして沙門の像を現じ 邪見熾盛にして正法を誹謗せん」
06 等云云、 妙楽云く「第三最も甚し後後の者転識り難きを以つての故に」等云云、 東春云く「第三に或有阿練若よ
07 り下の三偈は 即是出家の処に一切の悪人を摂す」等云云、 東春に「即是出家の処に一切の悪人を摂する」等とは
08 当世・日本国には何れの処ぞや、 叡山か園城か東寺か南都か建仁寺か寿福寺か建長寺か・よくよく・たづぬべし、
09 延暦寺の出家の頭に甲冑をよろうを・さすべきか、 園城寺の五分法身の膚に鎧杖を帯せるか、 彼等は経文に納衣
10 在空閑と指すにはにず為世所恭敬・如六通羅漢と人をもはず 又転難識故というべしや華洛には聖一等・鎌倉には良
11 観等ににたり、 人をあだむことなかれ眼あらば経文に我が身をあわせよ、 止観の第一に云く「止観の明静なるこ
12 とは前代未だ聞かず」等云云、 弘の一に云く「漢の明帝夜夢みし自り陳朝にオヨぶまで 禅門に予り厠て衣鉢伝授
13 する者」等云云、 補注に云く「衣鉢伝授とは達磨を指す」等云云、 止の五に云く「又一種の禅人乃至盲跛の師徒
14 二倶に堕落す」等云云、 止の七に云く「九の意世間の文字の法師と共ならず、 事相の禅師と共ならず、一種の禅
15 師は唯観心の一意のみ有り 或は浅く或は偽る余の九は 全く此無し虚言に非ず後賢眼有らん者は当に証知すべきな
16 り」、 弘の七に云く「文字法師とは内に観解無くして唯法相を構う事相の禅師とは 境智を閑わず鼻膈に心を止む
17 乃至根本有漏定等なり、 一師唯有観心一意等とは此は且く与えて論を為す 奪えば則ち観解倶に闕く、世間の禅人
18 偏えに理観を尚ぶ 既に教を諳んぜず観を以つて経を消し八邪八風を数えて 丈六の仏と為し五陰三毒を合して名け
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01 て八邪と為し六入を用いて 六通と為し四大を以つて四諦と為す、 此くの如く経を解するは偽の中の偽なり何ぞ浅
02 くして論ず可けんや」等云云、止観の七に云く「昔ギヨウ洛の禅師名河海に播き住するときは四方雲の如くに仰ぎ去
03 るときは阡陌群を成し隠隠轟轟亦何の利益か有る,臨終に皆悔ゆ」等云云,弘の七に云く「ギヨウ洛の禅師とはギヨウ
04 は相州に在り即ち斉魏の都する所なり、 大に仏法を興す禅祖の一・其の地を王化す、時人の意を護りて其の名を出
05 さず洛は即ち洛陽なり」等云云、 六巻の般泥オン経に云く「究竟の処を見ずとは彼の一闡提の輩の究竟の悪業を見
06 ざるなり」等云云、妙楽云く「第三最も甚だし転識り難きが故に」等、無眼の者・一眼の者・邪見の者は末法の始の
07 三類を見るべからず 一分の仏眼を得るもの此れをしるべし、 向国王大臣婆羅門居士等云云、東春に云く「公処に
08 向い法を毀り人を謗ず」等云云、 夫れ昔像法の末には護命・修円等・奏状をささげて伝教大師を讒奏す、今末法の
09 始には良観・念阿等偽書を注して将軍家にささぐ・あに三類の怨敵にあらずや。
10 当世の念仏者等・天台法華宗の檀那の国王.大臣・婆羅門.居士等に向つて云く「法華経は理深我等は解微法は至
11 つて深く機は至つて浅し」等と申しうとむるは 高推聖境・非己智分の者にあらずや、 禅宗の云く 「法華経は月
12 をさす指・禅宗は月なり月をえて指なにかせん、 禅は仏の心・法華経は仏の言なり仏・法華経等の一切経をとかせ
13 給いて後・最後に一ふさの華をもつて迦葉一人にさづく、 其のしるしに仏の御袈裟を迦葉に付属し 乃至付法蔵の
14 二十八・六祖までに伝う」等云云、此等の大妄語・国中を誑酔せしめてとしひさし、又天台・真言の高僧等・名は其
15 の家にえたれども我が宗にくらし、 貪欲は深く公家・武家を・をそれて此の義を証伏し讃歎す、昔の多宝・分身の
16 諸仏は法華経の令法久住を証明す、 今天台宗の碩徳は理深解微を証伏せり、 かるがゆへに日本国に但法華経の名
17 のみあつて得道の人一人もなし、 誰をか法華経の行者とせん、寺塔を焼いて流罪せらるる僧侶は・かずをしらず、
18 公家・武家に諛うて・にくまるる高僧これ多し、此等を法華経の行者というべきか。
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01 仏語むなしからざれば三類の怨敵すでに国中に充満せり、 金言のやぶるべきかのゆへに法華経の行者なし・い
02 かがせん・いかがせん、 抑たれやの人か衆俗に悪口罵詈せらるる 誰の僧か刀杖を加へらるる、 誰の僧をか法華
03 経のゆへに公家・武家に奏する・誰の僧か数数見擯出と度度ながさるる、 日蓮より外に日本国に取り出さんとする
04 に人なし、 日蓮は法華経の行者にあらず天これを・すて給うゆへに、 誰をか当世の法華経の行者として仏語を実
05 語とせん、 仏と提婆とは身と影とのごとし生生にはなれず 聖徳太子と守屋とは蓮華の花菓・同時なるがごとし、
06 法華経の行者あらば必ず三類の怨敵あるべし、 三類はすでにあり法華経の行者は誰なるらむ、 求めて師とすべし
07 一眼の亀の浮木に値うなるべし。
08 有る人云く当世の三類はほぼ有るににたり、 但し法華経の行者なし汝を法華経の行者といはんとすれば大なる
09 相違あり、 此の経に云く「天の諸の童子以て給使を為さん、刀杖も加えず、 毒も害すること能わざらん」又云く
10 「若し人悪罵すれば口則閉塞す」等、 又云く「現世には安穏にして後・善処に生れん」等云云、又「頭破れて七分
11 と作ること 阿梨樹の枝の如くならん」又云く「亦現世に於て其の福報を得ん」等又云く「若し復 是の経典を受持
12 する者を見て其の過悪を出せば 若しは実にもあれ若しは不実にもあれ此の人現世に白癩の病を得ん」等云云、 答
13 えて云く汝が疑い大に吉しついでに不審を晴さん、 不軽品に云く「悪口罵詈」等、又云く「或は杖木瓦石を以て之
14 を打擲す」等云云、 涅槃経に云く「若しは殺若しは害」等云云、 法華経に云く「而かも此の経は 如来の現在す
15 ら猶怨嫉多し」等云云、 仏は小指を提婆にやぶられ九横の大難に値い給う此は法華経の行者にあらずや、 不軽菩
16 薩は一乗の行者といはれまじきか、目連は竹杖に殺さる法華経記ベツの後なり、 付法蔵の第十四の提婆菩薩・第二
17 十五の師子尊者の二人は人に殺されぬ、 此等は法華経の行者にはあらざるか、 竺の道生は蘇山に流されぬ法道は
18 火印を面にやいて 江南にうつさる・此等は一乗の持者にあらざるか、 外典の者なりしかども白居易北野の天神は
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01 遠流せらる賢人にあらざるか、 事の心を案ずるに前生に法華経・誹謗の罪なきもの 今生に法華経を行ずこれを世
02 間の失によせ或は罪なきをあだすれば 忽に現罰あるか・修羅が帝釈をいる 金翅鳥の阿耨池に入る等必ず返つて一
03 時に損するがごとし、 天台云く「今我が疾苦は皆過去に由る今生の修福は報・将来に在り」等云云、心地観経に曰
04 く「過去の因を知らんと欲せば 其の現在の果を見よ未来の果を知らんと欲せば其の現在の因を見よ」等云云、 不
05 軽品に云く「其の罪畢已」等云云、 不軽菩薩は過去に法華経を謗じ給う罪・身に有るゆへに 瓦石をかほるとみへ
06 たり、又順次生に必ず地獄に堕つべき者は 重罪を造るとも現罰なし一闡提人これなり、 涅槃経に云く「迦葉菩薩
07 仏に白して言く世尊・仏の所説の如く大涅槃の光一切衆生の毛孔に入る」等云云、 又云く「迦葉菩薩仏に白して言
08 く世尊云何んぞ未だ菩提の心を発さざる者・菩提の因を得ん」等云云、 仏・此の問を答えて云く「仏迦葉に告わく
09 若し是の大涅槃経を聞くこと有つて 我菩提心を発すことを用いずと言つて正法を誹謗せん、 是の人即時に夜夢の
10 中に羅刹の像を見て 心中怖畏す羅刹語つて言く咄し善男子 汝今若し菩提心を発さずんば当に汝が命を断つべし是
11 の人惶怖し寤め已つて 即ち菩提の心を発す当に是の人是れ大菩薩なりと知るべし」等云云、 いたうの大悪人なら
12 ざる者が正法を誹謗すれば即時に夢みて・ひるがへる心生ず,又云く「枯木.石山」等、又云く「ショウ種甘雨に遇う
13 と雖も」等・又「明珠淤泥」等、 又云く「人の手に創あるに毒薬を捉るが如し」等、又云く「大雨空に住せず」等
14 云云、此等多くの譬あり、 詮ずるところ上品の一闡提人になりぬれば順次生に必ず無間獄に堕つべきゆへに現罰な
15 し例せば夏の桀・殷の紂の世には 天変なし重科有て必ず世ほろぶべきゆへか、 又守護神此国をすつるゆへに現罰
16 なきか謗法の世をば守護神すて去り 諸天まほるべからずかるがゆへに正法を行ずるものにしるしなし 還つて大難
17 に値うべし 金光明経に云く「善業を修する者は日日に衰減す」等云云、 悪国・悪時これなり具さには立正安国論
18 にかんがへたるがごとし。
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01 詮ずるところは天もすて給え諸難にもあえ身命を期とせん、 身子が六十劫の菩薩の行を退せし乞眼の婆羅門の
02 責を堪えざるゆへ、 久遠大通の者の三五の塵をふる悪知識に値うゆへなり、 善に付け悪につけ法華経をすつるは
03 地獄の業なるべし、 大願を立てん日本国の位をゆづらむ、 法華経をすてて観経等について後生をごせよ、父母の
04 頚を刎ん念仏申さずば、 なんどの種種の大難・出来すとも智者に我義やぶられずば用いじとなり、 其の外の大難
05 ・風の前の塵なるべし、 我日本の柱とならむ我日本の眼目とならむ我日本の大船とならむ等とちかいし願やぶるべ
06 からず。
07 疑つて云くいかにとして汝が流罪・死罪等を過去の宿習としらむ、答えて云く銅鏡は色形を顕わす秦王・験偽の
08 鏡は現在の罪を顕わす 仏法の鏡は過去の業因を現ず、般泥オン経に云く「善男子過去に曾て無量の諸罪種種の悪業
09 を作るに是の諸の罪報は或は軽易せられ・或は形状醜陋・衣服足らず・飲食ソ疎・財を求むるに利あらず・貧賎の家
10 邪見の家に生れ・或は王難に遭い・及び余の 種種の人間の苦報あらん 現世に軽く受るは斯れ護法の功徳力に由る
11 が故なり」云云、此の経文・日蓮が身に宛も符契のごとし 狐疑の氷とけぬ千万の難も由なし 一一の句を我が身に
12 あわせん、或被軽易等云云、法華経に云く「軽賎憎嫉」等云云・二十余年が間の軽慢せらる、或は形状醜陋・又云く
13 衣服不足は予が身なり 飲食ソ疎は予が身なり求財不利は予が身なり生貧賎家は予が身なり、 或遭王難等・此の経
14 文疑うべしや、法華経に云く「数数擯出せられん」此の経文に云く「種種」等云云、斯由護法功徳力故等とは摩訶止
15 観の第五に云く「散善微弱なるは動せしむること能わず 今止観を修して健病虧ざれば 生死の輪を動ず」等云云、
16 又云く「三障四魔紛然として競い起る」等云云 我れ無始よりこのかた悪王と生れて 法華経の行者の衣食・田畠等
17 を奪いとりせしこと・かずしらず、 当世・日本国の諸人の法華経の山寺をたうすがごとし、又法華経の行者の頚を
18 刎こと其の数をしらず此等の重罪はたせるもあり・いまだ・はたさざるも・あるらん、果すも余残いまだ・つきず生
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01 死を離るる時は必ず此の重罪をけしはてて出離すべし、 功徳は浅軽なり此等の罪は深重なり、 権経を行ぜしには
02 此の重罪いまだ・をこらず 鉄を熱にいたう・きたわざればきず隠れてみえず、 度度せむれば・きずあらはる、麻
03 子を・しぼるに・つよくせめざれば油少きがごとし、 今ま日蓮・強盛に国土の謗法を責むれば此の大難の来るは過
04 去の重罪の今生の護法に 招き出だせるなるべし、 鉄は火に値わざれば黒し火と合いぬれば赤し 木をもつて急流
05 をかけば波山のごとし睡れる師子に手をつくれば大に吼ゆ。
06 涅槃経に曰く「譬えば貧女の如し居家救護の者有ること無く加うるに復病苦飢渇に逼められて遊行乞丐す、 他
07 の客舎に止り一子を寄生す是の客舎の主駈逐して去らしむ、 其の産して未だ久しからず 是の児を擕抱して他国に
08 至らんと欲し、 其の中路に於て悪風雨に遇て寒苦並び至り多く蚊虻蜂螫毒虫の唼い食う所となる、 恒河に逕由し
09 児を抱いて渡る其の水漂疾なれども 而も放ち捨てず是に於て母子遂に共倶に没しぬ、 是くの如き女人慈念の功徳
10 命終の後梵天に生ず、 文殊師利若し善男子有つて正法を護らんと欲せば 彼の貧女の恒河に在つて子を愛念するが
11 為に身命を捨つるが如くせよ、 善男子護法の菩薩も亦是くの如くなるべし、 寧ろ身命を捨てよ是くの如きの人解
12 脱を求めずと雖も解脱自ら至ること 彼の貧女の梵天を求めざれども 梵天自ら至るが如し」等云云、 此の経文は
13 章安大師・三障をもつて釈し給へり、 それをみるべし、 貧人とは法財のなきなり女人とは一分の慈ある者なり、
14 客舎とは穢土なり 一子とは法華経の信心・了因の子なり 舎主駈逐とは流罪せらる 其の産して未だ久しからずと
15 はいまだ信じて・ひさしからず、 悪風とは流罪の勅宣なり蚊虻等とは諸の無智の人有り 悪口罵詈等なり母子共に
16 没すとは終に 法華経の信心をやぶらずして頚を刎らるるなり、 梵天とは仏界に生るるをいうなり引業と申すは仏
17 界までかはらず、 日本・漢土の万国の諸人を殺すとも五逆・謗法なければ無間地獄には堕ちず、余の悪道にして多
18 歳をふべし、 色天に生るること万戒を持てども万善を修すれども散善にては生れず、 又梵天王となる事・有漏の
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01 引業の上に慈悲を加えて生ずべし、 今此の貧女が子を念うゆへに梵天に生る常の性相には相違せり、 章安の二は
02 あれども詮ずるところは子を念う慈念より外の事なし、 念を一境にする、 定に似たり専子を思う又慈悲にも・に
03 たり、かるがゆへに他事なけれども天に生るるか、 又仏になる道は華厳の唯心法界・三論の八不・法相の唯識・真
04 言の五輪観等も実には叶うべしともみへず、 但天台の一念三千こそ仏になるべき道とみゆれ、 此の一念三千も我
05 等一分の慧解もなし、 而ども一代経経の中には此の経計り一念三千の玉をいだけり、 余経の理は玉に・にたる黄
06 石なり 沙をしぼるに油なし石女に子のなきがごとし、 諸経は智者・猶仏にならず此の経は愚人も仏因を種べし不
07 求解脱・解脱自至等と云云、 我並びに我が弟子・諸難ありとも疑う心なくば自然に仏界にいたるべし、天の加護な
08 き事を疑はざれ現世の安穏ならざる事をなげかざれ、 我が弟子に朝夕教えしかども・疑いを・をこして皆すてけん
09 つたなき者のならひは約束せし事を・まことの時はわするるなるべし、 妻子を不便と・をもうゆへ現身にわかれん
10 事を・なげくらん、 多生曠劫に・したしみし妻子には心とはなれしか仏道のために・はなれしか、いつも同じわか
11 れなるべし、我法華経の信心をやぶらずして霊山にまいりて返てみちびけかし。
12 疑つて云く念仏者と禅宗等を無間と申すは諍う心あり修羅道にや堕つべかるらむ、 又法華経の安楽行品に云く
13 「楽つて人及び経典の過を説かざれ 亦諸余の法師を軽慢せざれ」等云云、 汝此の経文に相違するゆへに天にすて
14 られたるか、 答て云く止観に云く「夫れ仏に両説あり一には摂・二には折・安楽行に不称長短という如き是れ摂の
15 義なり、大経に刀杖を執持し 乃至首を斬れという是れ折の義なり与奪・途を殊にすと雖も 倶に利益せしむ」等云
16 云、 弘決に云く「夫れ仏に両説あり等とは大経に刀杖を執持すとは第三に云く 正法を護る者は五戒を受けず威儀
17 を修せず、 乃至下の文仙予国王等の文、 又新医禁じて云く若し更に為すこと有れば 当に其の首を断つべし是く
18 の如き等の文並びに是れ破法の人を折伏するなり一切の経論此の二を出でず」等云云、 文句に云く「問う大経には
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01 国王に親付し 弓を持ち箭を帯し悪人を摧伏せよと明す、 此の経は豪勢を遠離し謙下慈善せよと剛柔碩いに乖く云
02 何ぞ異ならざらん、 答う大経には偏に折伏を論ずれども一子地に住す 何ぞ曾て摂受無からん、 此の経には偏に
03 摂受を明せども頭破七分と云う 折伏無きに非ず各一端を挙げて 時に適う而已」等云云、 涅槃経の疏に云く「出
04 家在家法を護らんには 其の元心の所為を取り事を棄て理を存して 匡に大経を弘む故に護持正法と言うは小節に拘
05 わらず故に不修威儀と言うなり、 昔の時は平にして法弘まる応に戒を持つべし杖を持つこと勿れ 今の時は嶮にし
06 て法翳る応に杖を持つべし戒を持つこと勿れ、 今昔倶に嶮ならば倶に杖を持つべし 今昔倶に平ならば倶に戒を持
07 つべし、取捨宜きを得て一向にす可からず」等云云、汝が不審をば世間の学者・多分・道理とをもう、いかに諌暁
08 すれども 日蓮が弟子等も此のをもひをすてず一闡提人の・ごとくなるゆへに先づ天台・妙楽等の釈をいだして・か
09 れが邪難をふせぐ、 夫れ摂受・折伏と申す法門は水火のごとし火は水をいとう水は火をにくむ、 摂受の者は折伏
10 をわらう折伏の者は摂受をかなしむ、 無智・悪人の国土に充満の時は摂受を前とす安楽行品のごとし、邪智・謗法
11 の者の多き時は折伏を前とす常不軽品のごとし、 譬へば熱き時に寒水を用い寒き時に火をこのむがごとし、 草木
12 は日輪の眷属・寒月に苦をう諸水は月輪の所従・熱時に本性を失う、末法に摂受・折伏あるべし所謂悪国・破法の両
13 国あるべきゆへなり、日本国の当世は悪国か破法の国かと・しるべし。
14 問うて云く摂受の時・折伏を行ずると折伏の時・摂受を行ずると利益あるべしや、答えて云く涅槃経に云く「迦
15 葉菩薩仏に白して言く 如来の法身は金剛不壊なり未だ所因を知ること能わず云何、 仏の言く迦葉能く正法を護持
16 する因縁を以ての故に 是の金剛身を成就することを得たり、 迦葉我護持正法の因縁にて今是の金剛身常住不壊を
17 成就することを得たり、 善男子正法を護持する者は五戒を受けず威儀を修せず応に刀剣弓箭を持つべし、 是くの
18 如く種種に法を説くも然も 故師子吼を作すこと能わず非法の悪人を降伏すること能わず、 是くの如き比丘自利し
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01 及び衆生を利すること能わず、 当に知るべし是の輩は懈怠懶惰なり 能く戒を持ち浄行を守護すと雖も当に知るべ
02 し是の人は能く為す所無からん、 乃至時に破戒の者有つて是の語を聞き已つて咸共に瞋恚して 是の法師を害せん
03 是の説法の者・設い復命終すとも 故持戒自利利他と名く」等云云、 章安の云く「取捨宜きを得て一向にす可から
04 ず」等、天台云く「時に適う而已」等云云、 譬へば秋の終りに種子を下し田畠をかえさんに 稲米をうることかた
05 し、建仁年中に法然・大日の二人・出来して念仏宗・禅宗を興行す、 法然云く「法華経は末法に入つては未有一人
06 得者・千中無一」等云云、大日云く「教外別伝」等云云、此の両義・国土に充満せり、天台真言の学者等・念仏・禅
07 の檀那を・へつらいをづる事犬の主にををふり・ねづみの猫ををそるるがごとし、国王・将軍に・みやつかひ破仏法
08 の因縁・破国の因縁を能く説き能くかたるなり、 天台・真言の学者等・今生には餓鬼道に堕ち後生には阿鼻を招く
09 べし、 設い山林にまじわつて一念三千の観をこらすとも 空閑にして三密の油をこぼさずとも時機をしらず摂折の
10 二門を弁へずば・いかでか生死を離るべき。
11 問うて云く念仏者・禅宗等を責めて彼等に.あだまれたる.いかなる利益かあるや、答えて云く涅槃経に云く「若
12 し善比丘法を壊る者を見て置いて呵責し駈遣し挙処せずんば 当に知るべし是の人は仏法の中の怨なり、 若し能く
13 駈遣し呵責し挙処せば 是れ我が弟子真の声聞なり」等云云、 「仏法を壊乱するは仏法中の怨なり慈無くして詐り
14 親しむは是れ彼が怨なり 能く糾治せんは是れ護法の声聞真の我が弟子なり 彼が為に悪を除くは即ち是れ彼が親な
15 り能く呵責する者は是れ我が弟子駈遣せざらん者は仏法中の怨なり」等云云。
16 夫れ法華経の宝塔品を拝見するに釈迦・多宝・十方分身の諸仏の来集はなに心ぞ「令法久住・故来至此」等云云、
17 三仏の未来に法華経を弘めて 未来の一切の仏子にあたえんと・おぼしめす御心の中をすいするに 父母の一子の大
18 苦に値うを見るよりも 強盛にこそ・みへたるを法然いたはしとも・おもはで末法には法華経の門を堅く閉じて人を
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01 入れじとせき狂児をたぼらかして 宝をすてさするやうに法華経を抛させける心こそ 無慚に見へ候へ、 我が父母
02 を人の殺さんに父母につげざるべしや、 悪子の酔狂して父母を殺すをせいせざるべしや、 悪人・寺塔に火を放た
03 んにせいせざるべしや、 一子の重病を炙せざるべしや、日本の禅と念仏者とを・みて制せざる者は・かくのごとし
04 「慈無くして詐り親しむは即ち是れ彼が怨なり」等云云。
05 日蓮は日本国の諸人にしうし父母なり 一切天台宗の人は彼等が大怨敵なり「彼が為に悪を除くは即ち是れ彼が
06 親」等云云、 無道心の者生死をはなるる事はなきなり、 教主釈尊の一切の外道に大悪人と罵詈せられさせ給い天
07 台大師の南北・並びに得一に三寸の舌もつて五尺の身をたつと 伝教大師の南京の諸人に「最澄未だ唐都を見ず」等
08 といはれさせ給いし皆 法華経のゆへなればはぢならず愚人にほめられたるは第一のはぢなり、 日蓮が御勘気を・
09 かほれば天台・真言の法師等・悦ばしくや・をもうらんかつはむざんなり・かつはきくわいなり、夫れ釈尊は娑婆に
10 入り羅什は秦に入り 伝教は尸那に入り提婆師子は身をすつ 薬王は臂をやく上宮は手の皮をはぐ釈迦菩薩は肉をう
11 る楽法は骨を筆とす、 天台の云く「適時而已」等云云、 仏法は時によるべし日蓮が流罪は今生の小苦なれば・な
12 げかしからず、後生には大楽を・うくべければ大に悦ばし。
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如来滅後五五百歳始観心本尊抄 本朝沙門日蓮撰 文永十年 五十二歳御作
01 摩訶止観第五に云く世間と如是と一なり開合の異なり。
02 「夫れ一心に十法界を具す一法界に又十法界を具すれば百法界なり 一界に三十種の世間を具すれば百法界に即
03 三千種の世間を具す、 此の三千・一念の心に在り 若し心無んば而已介爾も心有れば即ち三千を具す乃至所以に称
04 して不可思議境と為す意此に在り」等云云或本に云く一界に 三種の世間を具す。
05 問うて云く玄義に一念三千の名目を明かすや、答えて曰く妙楽云く明かさず、問うて曰く文句に一念三千の名目
06 を明かすや、 答えて曰く妙楽云く明かさず、 問うて曰く其の妙楽の釈如何、答えて曰く並に未だ一念三千と云わ
07 ず等云云、 問うて曰く止観の一二三四等に一念三千の名目を明かすや、 答えて曰く之れ無し、問うて曰く其の証
08 如何、 答えて曰く妙楽云く「故に止観に至つて正しく観法を明かす 並びに三千を以て指南と為す」等云云、 疑
09 つて曰く玄義第二に云く「又一法界に九法界を具すれば百法界に千如是」等云云、 文句第一に云く「一入に十法界
10 を具すれば 一界又十界なり十界各十如是あれば即ち是れ一千」等云云、 観音玄に云く「十法界交互なれば即ち百
11 法界有り千種の性相・冥伏して心に在り現前せずと雖も 宛然として具足す」等云云、 問うて曰く止観の前の四に
12 一念三千の名目を明かすや、 答えて曰く妙楽云く明さず、問うて云く其の釈如何、 答う弘決第五に云く「若し正
13 観に望めば全く未だ行を論ぜず 亦二十五法に歴て事に約して解を生ず方に能く正修の方便と為すに堪えたり 是の
14 故に前の六をば皆解に属す」等云云、 又云く「故に止観の正しく観法を明かすに至つて並びに 三千を以て指南と
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01 為す 乃ち是れ終窮究竟の極説なり故に序の中に「説己心中所行法門」と云う 良に以所有るなり請う尋ね読まん者
02 心に異縁無れ」等云云。
03 夫れ智者の弘法三十年・二十九年の間は玄文等の諸義を説いて五時・八教・百界千如を明かし前き五百余年の間
04 の諸非を責め 並びに天竺の論師未だ述べざるを顕す、 章安大師云く「天竺の大論尚其の類に非ず震旦の人師何ぞ
05 労わしく語るに及ばん 此れ誇耀に非ず法相の然らしむるのみ」等云云、 墓ないかな天台の末学等華厳真言の元祖
06 の盗人に 一念三千の重宝を盗み取られて 還つて彼等が門家と成りぬ 章安大師兼ねて此の事を知つて歎いて言く
07 「斯の言若し墜ちなば将来悲む可し」云云。
08 問うて曰く百界千如と一念三千と差別如何、答えて曰く百界千如は有情界に限り一念三千は情非情に亘る、 不
09 審して云く 非情に十如是亘るならば草木に心有つて有情の如く成仏を為す可きや如何、 答えて曰く此の事難信難
10 解なり 天台の難信難解に二有り一には教門の難信難解二には観門の難信難解なり、 其の教門の難信難解とは一仏
11 の所説に於て爾前の諸経には 二乗闡提・未来に永く成仏せず 教主釈尊は始めて正覚を成ず 法華経迹本二門に来
12 至し給い彼の二説を壊る 一仏二言水火なり誰人か之を信ぜん 此れは教門の難信難解なり、 観門の難信難解は百
13 界千如一念三千・ 非情の上の色心の二法十如是是なり、 爾りと雖も木画の二像に於ては 外典内典共に之を許し
14 て本尊と為す 其の義に於ては天台一家より出でたり、 草木の上に色心の因果を置かずんば 木画の像を本尊に恃
15 み奉ること無益なり、 疑つて云く草木国土の上の十如是の因果の二法は 何れの文に出でたるや、 答えて曰く止
16 観第五に云く「国土世間亦十種の法を具す所以に悪国土・相・性・体・力」等と云云、 釈籤第六に云く「相は唯色
17 に在り性は唯心に在り体・力・作・縁は義色心を兼ね因果は唯心・報は唯色に在り」等云云、金ペイ論に云く「乃ち
18 是れ一草・一木・一礫・一塵・各一仏性・各一因果あり縁了を具足す」等云云。
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01 問うて曰く出処既に之を聞く観心の心如何、 答えて曰く観心とは我が己心を観じて十法界を見る是を観心と云
02 うなり、 譬えば他人の六根を見ると雖も未だ自面の六根を見ざれば 自具の六根を知らず明鏡に向うの時始めて自
03 具の六根を見るが如し、 設い諸経の中に処処に六道並びに四聖を載すと雖も 法華経並びに天台大師所述の摩訶止
04 観等の明鏡を見ざれば自具の十界・百界千如・一念三千を知らざるなり。
05 問うて云く法華経は何れの文ぞ天台の釈は如何、 答えて曰く法華経第一方便品に云く「衆生をして仏知見を開
06 かしめんと欲す」等云云 是は九界所具の仏界なり、 寿量品に云く「是くの如く我成仏してより已来 甚大に久遠
07 なり寿命・無量阿僧祇劫・常住にして滅せず諸の善男子・我本菩薩の道を行じて成ぜし所の寿命 今猶未だ尽きず復
08 上の数に倍せり」等云云 此の経文は仏界所具の九界なり、 経に云く「提婆達多乃至天王如来」等云云地獄界所具
09 の仏界なり、 経に云く「一を藍婆と名け乃至汝等但能く法華の名を護持する者は 福量るべからず」等云云、是れ
10 餓鬼界所具の十界なり、 経に云く「竜女乃至成等正覚」等云云 此れ畜生界所具の十界なり、 経に云く「婆稚阿
11 修羅王乃至一偈一句を聞いて・阿耨多羅三藐三菩提を得べし」等云云 修羅界所具の十界なり、 経に云く「若し人
12 仏の為の故に乃至皆已に仏道を成ず」等云云 此れ人界所具の十界なり、 経に云く「大梵天王乃至我等も亦是くの
13 如く・必ず当に作仏することを得べし」等云云 此れ天界所具の十界なり、 経に云く「舎利弗乃至華光如来」等云
14 云此れ声聞界所具の十界なり、 経に云く「其の縁覚を求むる者・比丘比丘尼乃至合掌し 敬心を以て具足の道を聞
15 かんと欲す」等云云、 此れ即ち縁覚界所具の十界なり、 経に云く「地涌千界乃至真浄大法」等云云此れ即ち菩薩
16 所具の十界なり、経に云く「或説己身或説他身」等云云即ち仏界所具の十界なり。
17 問うて曰く自他面の六根共に之を見る彼此の十界に於ては未だ之を見ず如何が之を信ぜん、答えて曰く法華経法
18 師品に云く 「難信難解」宝塔品に云く 「六難九易」等云云、 天台大師云く 「二門悉く昔と反すれば難信難解
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01 なり」章安大師云く「仏此れを将て大事と為す 何ぞ解し易きことを得可けんや」等云云、 伝教大師云く「此の法
02 華経は最も為れ難信難解なり随自意の故に」等云云、 夫れ在世の正機は過去の宿習厚き上教主釈尊・多宝仏・十方
03 分身の諸仏・地涌千界・文殊・弥勒等之を扶けて諌暁せしむるに猶信ぜざる者之れ有り 五千席を去り人天移さる況
04 や正像をや何に況や末法の初をや汝之を信ぜば正法に非じ。
05 問うて曰く経文並に天台章安等の解釈は疑網無し 但し火を以て水と云い墨を以て白しと云う設い仏説為りと雖
06 も信を取り難し、 今数ば他面を見るに但人界に限つて余界を見ず 自面も亦復是くの如し如何が信心を立てんや、
07 答う数ば他面を見るに 或時は喜び或時は瞋り或時は平に或時は貪り現じ或時は癡現じ或時は諂曲なり、 瞋るは地
08 獄・貪るは餓鬼・癡は畜生・諂曲なるは修羅・喜ぶは天・平かなるは人なり他面の色法に於ては六道共に之れ有り四
09 聖は冥伏して現われざれども委細に之を尋ねば之れ有る可し。
10 問うて曰く六道に於て分明ならずと雖も粗之を聞くに之を備うるに似たり、 四聖は全く見えざるは如何、答え
11 て曰く前には人界の六道之を疑う、 然りと雖も強いて之を言つて相似の言を出だせしなり 四聖も又爾る可きか試
12 みに道理を添加して万か一之を宣べん、 所以に世間の無常は眼前に有り豈人界に二乗界無からんや、 無顧の悪人
13 も猶妻子を慈愛す菩薩界の一分なり、 但仏界計り現じ難し 九界を具するを以て強いて之を信じ疑惑せしむること
14 勿れ、 法華経の文に人界を説いて云く 「衆生をして仏知見を開かしめんと欲す」涅槃経に云く「大乗を学する者
15 は肉眼有りと雖も名けて仏眼と為す」等云云、 末代の凡夫出生して法華経を信ずるは 人界に仏界を具足する故な
16 り。
17 問うて曰く十界互具の仏語分明なり然りと雖も 我等が劣心に仏法界を具すること信を取り難き者なり今時之を
18 信ぜずば必ず一闡提と成らん願くば大慈悲を起して之を信ぜしめ阿鼻の苦を救護したまえ。
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01 答えて曰く汝既に唯一大事因縁の経文を見聞して之を信ぜざれば 釈尊より已下四依の菩薩並びに末代理即の我
02 等如何が汝が不信を救護せんや、 然りと雖も試みに之を云わん 仏に値いたてまつつて覚らざる者・阿難等の辺に
03 して得道する者之れ有ればなり、 其れ機に二有り一には仏を見たてまつり法華にして得道す 二には仏を見たてま
04 つらざれども法華にて得道するなり、 其の上仏教已前は漢土の道士・月支の外道・儒教・四韋陀等を以て縁と為し
05 て正見に入る者之れ有り、 又利根の菩薩凡夫等の華厳・方等・般若等の諸大乗経を聞きし縁を以て大通久遠の下種
06 を顕示する者多々なり 例せば独覚の飛花落葉の如し教外の得道是なり、 過去の下種結縁無き者の権小に執着する
07 者は設い法華経に値い奉れども小権の見を出でず、 自見を以て正義と為るが故に還つて法華経を以て 或は小乗経
08 に同じ或は華厳大日経等に同じ或は之を下す、 此等の諸師は儒家外道の賢聖より劣れる者なり、 此等は且らく之
09 を置く、 十界互具之を立つるは石中の火・木中の花信じ難けれども 縁に値うて出生すれば之を信ず人界所具の仏
10 界は水中の火・火中の水最も甚だ信じ難し、 然りと雖も竜火は水より出で竜水は火より生ず 心得られざれども現
11 証有れば之を用ゆ、 既に人界の八界之を信ず、 仏界何ぞ之を用いざらん 尭舜等の聖人の如きは万民に於て偏頗
12 無し人界の仏界の一分なり、 不軽菩薩は所見の人に於て仏身を見る悉達太子は 人界より仏身を成ず此等の現証を
13 以て之を信ず可きなり。
14 問うて曰く教主釈尊は此れより堅固に之を秘す三惑已断の仏なり又十方世界の国主.一切の菩薩・二乗.人天等の
15 主君なり行の時は梵天左に在り帝釈右に侍べり四衆八部後に聳い金剛前に導びき八万法蔵を演説して一切衆生を得脱
16 せしむ是くの如き仏陀何を以て我等凡夫の己心に住せしめんや、 又迹門爾前の意を以て之を論ずれば教主釈尊は始
17 成正覚の仏なり、 過去の因行を尋ね求れば或は能施太子 或は儒童菩薩或は尸毘王或は薩タ王子或は三祇・百劫或
18 は動喩塵劫或は無量阿僧祇劫或は初発心時 或は三千塵点等の間七万・五千・六千・七千等の仏を供養し劫を積み行
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01 満じて今の教主釈尊と成り給う、 是くの如き因位の諸行は皆我等が己身所具の菩薩界の功徳か、 果位を以て之を
02 論ずれば教主釈尊は 始成正覚の仏四十余年の間四教の色身を示現し爾前・迹門・涅槃経等を演説して一切衆生を利
03 益し給う、所謂華蔵の時・十方台上の盧舎那・阿含経の三十四心・断結成道の仏、方等般若の千仏等、大日・金剛頂
04 の千二百余尊、 並びに迹門宝塔品の四土色身、 涅槃経の或は丈六と見る或は小身大身と現じ或は盧舎那と見る或
05 は身虚空に同じと見る 四種の身乃至八十御入滅舎利を留めて正像末を利益し給う、 本門を以て之れを疑わば教主
06 釈尊は五百塵点已前の仏なり因位も又是くの如し、 其れより已来十方世界に分身し一代聖教を演説して 塵数の衆
07 生を教化し給う、 本門の所化を以て迹門の所化に比校すれば一渧と大海と一塵と大山となり、 本門の一菩薩を迹
08 門十方世界の文殊観音等に対向すれば 猴猿を以て帝釈に比するに尚及ばず、 其の外十方世界の断惑証果の二乗並
09 びに梵天・帝釈・日月・四天・四輪王・乃至無間大城の大火炎等此等は皆我が一念の十界か己身の三千か、仏説為り
10 と雖も之を信ず可からず。
11 此れを以て之を思うに爾前の諸経は実事なり実語なり、 華厳経に云く「究竟して虚妄を離れ染無きこと虚空の
12 如し」と仁王経に云く「源を窮め性を尽して妙智存せり」 金剛般若経に云く「清浄の善のみ有り」 馬鳴菩薩の起
13 信論に云く「如来蔵の中に清浄の功徳のみ有り」 天親菩薩の唯識論に云く 「謂く余の有漏と劣の無漏と種は金剛
14 喩定が現在前する時 極円明純浄の本識を引く 彼の依に非ざるが故に皆永く棄捨す」 等云云、 爾前の経経と法
15 華経と之を校量するに 彼の経経は無数なり時説既に長し一仏二言彼に付く可し、 馬鳴菩薩は付法蔵第十一にして
16 仏記に之れ有り天親は千部の論師・四依の大士なり、 天台大師は辺鄙の小僧にして一論をも宣べず 誰か之を信ぜ
17 ん、其の上多を捨て小に付くとも 法華経の文分明ならば少し恃怙有らんも 法華経の文に何れの所にか十界互具・
18 百界千如・一念三千の分明なる証文之れ有りや、 随つて経文を開拓するに「断諸法中悪」等云云、 天親菩薩の法
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01 華論・堅慧菩薩の宝性論に十界互具之れ無く 漢土南北の諸大人師・日本七寺の末師の中にも此の義無し但天台一人
02 の僻見なり伝教一人の謬伝なり、 故に清涼国師の云く「天台の謬りなり」 慧苑法師の云く「然るに天台は小乗を
03 呼んで三蔵教と為し其の名謬濫するを以て」等云云、 了洪が云く「天台独り未だ華厳の意を尽さず」等云云、 得
04 一が云く「咄いかな智公汝は是れ誰が弟子ぞ、 三寸に足らざる舌根を以て覆面舌の所説の教時を謗ず」 等云云、
05 弘法大師の云く 「震旦の人師等諍つて醍醐を盗んで各自宗に名く」等云云、 夫れ一念三千の法門は一代の権実に
06 名目を削り四依の諸論師其の義を載せず漢土日域の人師も之を用いず、如何が之を信ぜん。
07 答えて曰く此の難最も甚し最も甚し 但し諸経と法華との相違は経文より事起つて分明なり未顕と已顕と証明と
08 舌相と二乗の成不と始成と久成と等之を顕わす、 諸論師の事、 天台大師云く「天親竜樹・内鑒冷然たり外には時
09 の宜きに適い各権に拠る所あり、 而るに人師偏に解し学者苟も執し遂に矢石を興し 各一辺を保ちて 大に聖道に
10 乖けり」等云云、 章安大師云く「天竺の大論尚其の類に非ず 真旦の人師何ぞ労わしく語るに及ばん此れ誇耀に非
11 ず法相の然らしむるのみ」等云云、天親・竜樹・馬鳴・堅慧等は内鑒冷然なり然りと雖も時未だ至らざるが故に之を
12 宣べざるか、 人師に於ては天台已前は或は珠を含み或は一向に之を知らず 已後の人師或は初に之を破して後に帰
13 伏する人有り 或は一向用いざる者も之れ有り但し断諸法中悪の経文を会す可きなり、 彼は法華経に爾前の経文を
14 載するなり往いて之を見るに 経文分明に十界互具之を説く所謂「欲令衆生開仏知見」等云云、 天台此の経文を承
15 けて云く「若し衆生に仏の知見無んば 何ぞ開を論ずる所あらん 当に知るべし仏の知見衆生に蘊在することを」云
16 云、 章安大師の云く「衆生に若し仏の知見無くんば何ぞ開悟する所あらん若し貧女に蔵無んば何ぞ示す所あらん
17 や」等云云。
18 但し会し難き所は上の教主釈尊等の大難なり、此の事を仏遮会して云く「已今当説最為難信難解」と次下の六難
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01 九易是なり、 天台大師云く 「二門悉く昔と反すれば信じ難く解し難し 鉾に当るの難事なり」 章安大師の云く
02 「仏此れを将つて大事と為す 何ぞ解し易きことを得可けんや」 伝教大師云く 「此の法華経は最も為れ難信難解
03 なり随自意の故に」等云云、 夫れ仏滅後に至つて一千八百余年・三国に経歴して但三人のみ有つて始めて此の正法
04 を覚知せり所謂月支の釈尊・真旦の智者大師・日域の伝教此の三人は内典の聖人なり、 問うて曰く竜樹天親等は如
05 何、 答えて曰く此等の聖人は知つて之を言わざる仁なり、 或は迹門の一分之を宣べて本門と観心とを云わず或は
06 機有つて時無きか 或は機と時と共に之れ無きか、 天台伝教已後は之を知る者多多なり二聖の智を用ゆるが故なり
07 所謂三論の嘉祥・南三北七の百余人・華厳宗の法蔵.清涼等・法相宗の玄奘三蔵・慈恩大師等.真言宗の善無畏三蔵・
08 金剛智三蔵・不空三蔵等・律宗の道宣等初には反逆を存し後には一向に帰伏せしなり。
09 但し初の大難を遮せば無量義経に云く「譬えば国王と夫人と新たに王子を生ぜん 若は一日若は二日若は七日に
10 至り若は一月若は二月若は七月に至り 若は一歳若は二歳若は七歳に至り復 国事を領理すること能わずと雖も已に
11 臣民に宗敬せられ諸の大王の子以て伴侶と為らん、 王及び夫人の愛心偏に重くして常に与共に語らん 所以は何ん
12 稚小なるを以ての故にと云うが如く、 善男子是の持経者も亦復是くの如し、 諸仏の国王と是の経の夫人と和合し
13 て共に是の菩薩の子を生ず 若し菩薩是の経を聞くことを得て 若しは一句若しは一偈若しは一転若しは二転若しは
14 十若しは百若しは千若しは万若しは億万恒河沙・無量無数転せば復 真理の極を体すること能わずと雖も、 乃至已
15 に一切の四衆八部に宗仰せられ 諸の大菩薩を以て眷属と為し乃至常に諸仏に護念せられ 慈愛偏に覆われん新学な
16 るを以ての故なり」等云云、 普賢経に云く「此の大乗経典は諸仏の宝蔵十方三世の諸仏の眼目なり 乃至三世の諸
17 の如来を出生する種なり 乃至汝大乗を行じて仏種を断ぜざれ」等云云、 又云く「此の方等経は是れ諸仏の眼なり
18 諸仏是に因つて 五眼を具することを得・仏の三種の身は方等従り生ず 是れ大法印にして涅槃海に印す此くの如き
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01 海中能く三種の仏の清浄身を生ず此の三種の身は人天の福田なり」等云云。
02 夫れ以れば.釈迦如来の一代.顕密.大小の二教・華厳・真言等の諸宗の依経往いて之を勘うるに或は十方台葉.毘
03 盧遮那仏・大集雲集の諸仏如来・ 般若染浄の千仏示現・大日金剛頂等の千二百尊・ 但其の近因近果を演説して其
04 の遠因果を顕さず、 速疾頓成之を説けども三五の遠化を亡失し化導の始終跡を削りて見えず、 華厳経・大日経等
05 は一往之を見るに 別円四蔵等に似たれども再往之を勘うれば 蔵通二教に同じて未だ別円にも及ばず本有の三因之
06 れ無し何を以てか仏の種子を定めん、 而るに新訳の訳者等漢土に来入するの日・ 天台の一念三千の法門を見聞し
07 て或は自ら所持の経経に添加し 或は天竺より受持するの由之を称す、 天台の学者等或は自宗に同ずるを悦び或は
08 遠きを貴んで近きを蔑みし 或は旧を捨てて新を取り魔心・愚心出来す、 然りと雖も詮ずる所は一念三千の仏種に
09 非ずんば有情の成仏・木画二像の本尊は有名無実なり。
10 問うて曰く上の大難未だ其の会通を聞かず如何。
11 答えて曰く無量義経に云く「未だ六波羅蜜を修行する事を得ずと雖も六波羅蜜自然に在前す」等云云、 法華経
12 に云く「具足の道を聞かんと欲す」等云云、 涅槃経に云く「薩とは具足に名く」等云云、竜樹菩薩云く「薩とは六
13 なり」等云云、 無依無得大乗四論・玄義記に云く「沙とは訳して六と云う胡法には六を以て具足の義と為すなり」
14 吉蔵疏に云く「沙とは翻じて具足と為す」 天台大師云く「薩とは梵語なり此には妙と翻ず」等云云、 私に会通を
15 加えば本文を黷が如し爾りと雖も 文の心は釈尊の因行果徳の二法は妙法蓮華経の五字に具足す 我等此の五字を受
16 持すれば自然に彼の因果の功徳を譲り与え給う、 四大声聞の領解に云く「無上宝聚・不求自得」云云、 我等が己
17 心の声聞界なり、 「我が如く等くして異なる事無し 我が昔の所願の如き今は已に満足しぬ一切衆生を化して皆仏
18 道に入らしむ」、 妙覚の釈尊は我等が血肉なり因果の功徳は骨髄に非ずや、 宝塔品に云く「其れ能く此の経法を
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01 護る事有らん者は 則ち為れ我及び多宝を供養するなり、 乃至亦復諸の来り給える化仏の諸の世界を荘厳し光飾し
02 給う者を供養するなり」等云云、 釈迦・多宝・十方の諸仏は我が仏界なり其の跡を継紹して其の功徳を受得す「須
03 臾も之を聞く・即阿耨多羅三藐三菩提を究竟するを得」とは是なり、 寿量品に云く「然るに我実に成仏してより已
04 来・無量無辺百千万億那由佗劫なり」等云云、我等が己心の釈尊は五百塵点乃至所顕の三身にして無始の古仏なり、
05 経に云く「我本菩薩の道を行じて・成ぜし所の寿命・今猶未だ尽きず・復上の数に倍せり」等云云、 我等が己心の
06 菩薩等なり、地涌千界の菩薩は己心の釈尊の眷属なり、 例せば大公・周公旦等は周武の臣下・成王幼稚の眷属・武
07 内の大臣は神功皇后の棟梁・仁徳王子の臣下なるが如し、上行・無辺行・浄行・安立行等は我等が己心の菩薩なり、
08 妙楽大師云く 「当に知るべし身土一念の三千なり故に 成道の時此の本理に称うて一身一念法界に遍し」等云云。
09 夫れ始め寂滅道場.華蔵世界より沙羅林に終るまで五十余年の間・華蔵・密厳・三変.四見等の三土四土は皆成劫
10 の上の無常の土に変化する所の方便・実報・寂光・安養・浄瑠璃・密厳等なり能変の教主涅槃に入りぬれば所変の諸
11 仏随つて滅尽す土も又以て是くの如し。
12 今本時の娑婆世界は三災を離れ四劫を出でたる常住の浄土なり 仏既に過去にも滅せず未来にも生ぜず所化以て
13 同体なり此れ即ち己心の三千具足・三種の世間なり 迹門十四品には未だ之を説かず 法華経の内に於ても時機未熟
14 の故なるか。
15 此の本門の肝心南無妙法蓮華経の五字に於ては 仏猶文殊薬王等にも之を付属し給わず何に況や其の已外をや但
16 地涌千界を召して八品を説いて之を付属し給う、 其の本尊の為体本師の娑婆の上に宝塔空に居し 塔中の妙法蓮華
17 経の左右に釈迦牟尼仏・多宝仏・ 釈尊の脇士上行等の四菩薩・文殊弥勒等は四菩薩の眷属として末座に居し迹化他
18 方の大小の諸菩薩は万民の大地に処して 雲閣月卿を見るが如く十方の諸仏は大地の上に処し給う 迹仏迹土を表す
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01 る故なり、是くの如き本尊は在世五十余年に之れ無し 八年の間にも但八品に限る、 正像二千年の間は小乗の釈尊
02 は迦葉・阿難を脇士と為し権大乗並に涅槃・法華経の迹門等の釈尊は文殊普賢等を以て脇士と為す 此等の仏をば正
03 像に造り画けども未だ寿量の仏有さず、末法に来入して始めて此の仏像出現せしむ可きか。
04 問う正像二千余年の間は四依の菩薩並びに人師等余仏.小乗・権大乗・爾前.迹門の釈尊等の寺塔を建立すれども
05 本門寿量品の本尊並びに四大菩薩をば 三国の王臣倶に未だ之を崇重せざる由之を申す、 此の事粗之を聞くと雖も
06 前代未聞の故に耳目を驚動し心意を迷惑す請う重ねて之を説け委細に之を聞かん。
07 答えて曰く法華経一部八巻二十八品・進んでは前四味・退いては涅槃経等の一代の諸経惣じて之を括るに但一経
08 なり始め寂滅道場より終り般若経に至るまでは 序分なり無量義経・法華経・普賢経の十巻は正宗なり涅槃経等は流
09 通分なり、 正宗十巻の中に於て亦序正流通有り無量義経並に序品は序分なり、 方便品より分別功徳品の十九行の
10 偈に至るまで十五品半は正宗分なり、 分別功徳品の現在の四信より普賢経に至るまでの十一品半と一巻は 流通分
11 なり。
12 又法華経等の十巻に於ても二経有り 各序正流通を具するなり、 無量義経と序品は序分なり方便品より人記品
13 に至るまでの八品は正宗分なり、 法師品より安楽行品に至るまでの五品は流通分なり、其の教主を論ずれば始成正
14 覚の仏・本無今有の百界千如を説いて已今当に超過せる随自意・難信難解の正法なり、 過去の結縁を尋れば大通十
15 六の時仏果の下種を下し 進んでは華厳経等の前四味を以て助縁と為して大通の種子を覚知せしむ、 此れは仏の本
16 意に非ず但毒発等の一分なり、 二乗凡夫等は前四味を縁と為し漸漸に法華に来至して種子を顕わし 開顕を遂ぐる
17 の機是なり、 又在世に於て始めて八品を聞く人天等或は一句一偈等を聞て下種とし或は熟し或は脱し或は普賢・涅
18 槃等に至り或は正像末等に小権等を以て縁と為して法華に入る例せば在世の前四味の者の如し。
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01 又本門十四品の一経に序正流通有り涌出品の半品を序分と為し 寿量品と前後の二半と此れを正宗と為す其の余
02 は流通分なり、 其の教主を論ずれば始成正覚の釈尊に非ず 所説の法門も亦天地の如し十界久遠の上に国土世間既
03 に顕われ一念三千殆んど竹膜を隔つ、 又迹門並びに前四味・無量義経・涅槃経等の三説は悉く随他意の易信易解・
04 本門は三説の外の難信難解・随自意なり。
05 又本門に於て序正流通有り過去大通仏の法華経より 乃至現在の華厳経乃至迹門十四品涅槃経等の一代五十余年
06 の諸経・十方三世諸仏の微塵の経経は皆寿量の序分なり 一品二半よりの外は小乗教・邪教・未得道教・覆相教と名
07 く、其の機を論ずれば徳薄垢重・幼稚・貧窮・孤露にして禽獣に同ずるなり、 爾前迹門の円教尚仏因に非ず何に況
08 や大日経等の諸小乗経をや何に況や華厳・真言等の七宗等の論師・人師の宗をや、 与えて之を論ずれば前三教を出
09 でず奪つて之を云えば蔵通に同ず、 設い法は甚深と称すとも 未だ種熟脱を論ぜず還つて灰断に同じ化の始終無し
10 とは是なり、 譬えば王女たりと雖も畜種を懐妊すれば其の子尚旃陀羅に劣れるが如し、 此等は且く之を閣く迹門
11 十四品の正宗の八品は一往之を見るに 二乗を以て正と為し菩薩凡夫を以て傍と為す、 再往之を勘うれば凡夫・正
12 像末を以て正と為す 正像末の三時の中にも末法の始を以て正が中の正と為す、 問うて曰く其の証如何ん、答えて
13 曰く法師品に云く「而も此の経は如来の現在すら 猶怨嫉多し況や滅度の後をや」宝塔品に云く 「法をして久住せ
14 しむ乃至来れる所の化仏当に此の意を知るべし」等、 勧持安楽等之を見る可し迹門是くの如し、 本門を以て之を
15 論ずれば一向に末法の初を以て正機と為す 所謂一往之を見る時は久種を以て下種と為し 大通前四味迹門を熟と為
16 して本門に至つて等妙に登らしむ、 再往之を見れば迹門には似ず 本門は序正流通倶に末法の始を以て詮と為す、
17 在世の本門と末法の始は一同に純円なり但し彼は脱此れは種なり彼は一品二半此れは但題目の五字なり。
18 問うて曰く其の証文如何、 答えて云く涌出品に云く「爾の時に他方の国土の諸の来れる菩薩摩訶薩の八恒河沙
0250top
01 の数に過ぎたる大衆の中に於て 起立し合掌し礼を作して仏に白して言さく、 世尊若し我等に仏の滅後に於て娑婆
02 世界に在つて勤加精進して 是の経典を護持し読誦し書写し供養せんことを聴し給わば 当に此の土に於て広く之を
03 説きたてまつるべし、 爾の時に仏・諸の菩薩摩訶薩衆に告げ給わく止ね善男子・汝等が此の経を護持せんことを須
04 いじ」等云云、 法師より已下五品の経文前後水火なり、 宝塔品の末に云く「大音声を以て普く四衆に告ぐ誰か能
05 く此の娑婆国土に於て 広く妙法華経を説かんものなる」等云云、 設い教主一仏為りと雖も之を奨勧し給わば薬王
06 等の大菩薩・梵帝・日月・四天等は之を重んず可き処に多宝仏・十方の諸仏客仏と為て之を諌暁し給う、諸の菩薩等
07 は此の慇懃の付属を聞いて「我不愛身命」の誓言を立つ、 此等は偏に仏意に叶わんが為なり、 而るに須臾の間に
08 仏語相違して過八恒沙の此の土の弘経を制止し給う 進退惟れ谷まり凡智に及ばず、 天台智者大師前三後三の六釈
09 を作つて之を会し給えり、 所詮迹化他方の大菩薩等に我が内証の寿量品を以て授与すべからず 末法の初は謗法の
10 国にして悪機なる故に之を止めて 地涌千界の大菩薩を召して寿量品の肝心たる妙法蓮華経の五字を以て 閻浮の衆
11 生に授与せしめ給う、 又迹化の大衆は釈尊初発心の弟子等に非ざる故なり、 天台大師云く「是れ我が弟子なり応
12 に我が法を弘むべし」 妙楽云く「子父の法を弘む世界の益有り」、 輔正記に云く「法是れ久成の法なるを以ての
13 故に久成の人に付す」等云云。
14 又弥勒菩薩疑請して云く経に云く「我等は復た仏の随宜の所説・ 仏所出の言未だ曾て虚妄ならず・仏の所知は
15 皆悉く通達し給えりと信ずと雖も 然も諸の新発意の菩薩・仏の滅後に於て 若し是の語を聞かば或は信受せずして
16 法を破する罪業の因縁を起さん、 唯然り世尊・願くは為に解説して我等が疑を除き給え 及び未来世の諸の善男子
17 此の事を聞き已つて亦疑を生ぜじ」等云云、 文の意は寿量の法門は滅後の為に 之を請ずるなり、 寿量品に云く
18 「或は本心を失える或は失わざる者あり 乃至心を失わざる者は 此の良薬の色香倶に好きを見て即便之を服するに
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01 病尽く除癒ぬ」等云云、 久遠下種・大通結縁乃至前四味迹門等の一切の菩薩・二乗・人天等の本門に於て得道する
02 是なり、 経に云く「余の心を失える者は其の父の来れるを見て 亦歓喜し問訊して 病を治せんことを求むと雖も
03 然も其の薬を与うるに而も肯えて服せず、 所以は何ん毒気深く入つて本心を失えるが故に此の好き色香ある薬に於
04 て美からずと謂えり 乃至我今当に方便を設け此の薬を服せしむべし、 乃至是の好き良薬を今留めて此に在く汝取
05 つて服す可し差じと憂うること勿れ、 是の教を作し已つて復た他国に至つて 使を遣わして還つて告ぐ」等云云、
06 分別功徳品に云く「悪世末法の時」等云云。
07 問うて曰く此の経文の遣使還告は如何、答えて曰く四依なり四依に四類有り、 小乗の四依は多分は正法の前の
08 五百年に出現す、 大乗の四依は多分は正法の後の五百年に出現す、 三に迹門の四依は多分は像法一千年・少分は
09 末法の初なり、 四に本門の四依は地涌千界末法の始に必ず出現す可し 今の遣使還告は地涌なり是好良薬とは寿量
10 品の肝要たる名体宗用教の南無妙法蓮華経是なり、 此の良薬をば仏 猶迹化に授与し給わず 何に況や他方をや。
11 神力品に云く「爾の時に千世界微塵等の菩薩摩訶薩の地より涌出せる者 皆仏前に於て一心に合掌し尊顔を瞻仰
12 して仏に白して言さく世尊・我等仏の滅後・世尊分身の所在の国土・滅度の処に於て 当に広く此の経を説くべし」
13 等云云、天台の云く「但下方の発誓のみを見たり」等云云、 道暹云く「付属とは此の経をば 唯下方涌出の菩薩に
14 付す何が故に爾る法 是れ久成の法なるに由るが故に久成の人に付す」等云云、 夫れ文殊師利菩薩は東方金色世界
15 の不動仏の弟子・観音は西方無量寿仏の弟子・薬王菩薩は日月浄明徳仏の弟子・普賢菩薩は宝威仏の弟子なり 一往
16 釈尊の行化を扶けん為に娑婆世界に来入す 又爾前迹門の菩薩なり本法所持の人に非れば 末法の弘法に足らざる者
17 か、 経に云く「爾の時に世尊乃至一切の衆の前に大神力を現じ給う 広長舌を出して上梵世に至らしめ乃至十方世
18 界衆の宝樹の下 師子の座の上の諸仏も 亦復是くの如く広長舌を出し給う」等云云、 夫れ顕密二道・一切の大小
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01 乗経の中に釈迦諸仏並び坐し舌相梵天に至る文之無し、 阿弥陀経の広長舌相三千を覆うは有名無実なり、 般若経
02 の舌相三千光を放つて般若を説きしも全く証明に非ず、 此は皆兼帯の故に久遠を覆相する故なり、 是くの如く十
03 神力を現じて 地涌の菩薩に妙法の五字を嘱累して云く、 経に曰く「爾の時に仏上行等の菩薩大衆に告げ給わく諸
04 仏の神力は是くの如く 無量無辺不可思議なり若し我れ是の神力を以て 無量無辺百千万億阿僧祇劫に於て嘱累の為
05 の故に此の経の功徳を説くとも 猶尽すこと能わじ要を以て之を言わば 如来の一切の所有の法・如来の一切の自在
06 の神力・如来の一切の秘要の蔵・如来の一切の甚深の事皆此の経に於て宣示顕説す」等云云、 天台云く「爾時仏告
07 上行より下は第三結要付属なり」云云、伝教云く「又神力品に云く以要言之・如来一切所有之法・乃至宣示顕説已上
08 経文 明かに知んぬ果分の一切の所有の法.果分の一切の自在の神力.果分の一切の秘要の蔵・果分の一切の甚深の事
09 皆法華に於て宣示顕説するなり」等云云、 此の十神力は妙法蓮華経の五字を以て上行・安立行・浄行・無辺行等の
10 四大菩薩に授与し給うなり前の五神力は 在世の為後の五神力は滅後の為なり、 爾りと雖も再往之を論ずれば一向
11 に滅後の為なり、 故に次下の文に云く「仏滅度の後に能く此の経を持たんを以ての故に 諸仏皆歓喜して無量の神
12 力を現じ給う」等云云。
13 次下の嘱累品に云く「爾の時に釈迦牟尼仏・法座より起つて大神力を現じ給う 右の手を以て無量の菩薩摩訶薩
14 の頂を摩で乃至今以て汝等に付属す」等云云、 地涌の菩薩を以て頭と為して迹化他方乃至・梵釈・四天等に此の経
15 を嘱累し給う・十方より来る諸の分身の仏 各本土に還り給う 乃至多宝仏の塔還つて故の如くし給う可し等云云、
16 薬王品已下乃至涅槃経等は 地涌の菩薩去り了つて迹化の衆他方の菩薩等の為に重ねて之を付属し給うクン拾遺嘱是
17 なり。
18 疑つて云く正像二千年の間に地涌千界閻浮提に出現して此の経を流通するや、答えて曰く爾らず、 驚いて云く
0253top
01 法華経並びに本門は 仏の滅後を以て本と為して 先ず地涌に之を授与す 何ぞ正像に出現して此の経を弘通せざる
02 や、答えて云く宣べず、 重ねて問うて云く如何、答う之を宣べず、 又重ねて問う如何、答えて曰く之を宣ぶれば
03 一切世間の諸人・威音王仏の末法の如く 又我が弟子の中にも粗之を説かば皆誹謗を為す可し黙止せんのみ、 求め
04 て云く説かずんば汝慳貪に堕せん、 答えて曰く進退惟れ谷れり試みに粗之を説かん、 法師品に云く「況んや滅度
05 の後をや」寿量品に云く「今留めて此に在く」 分別功徳品に云く「悪世末法の時」 薬王品に云く「後の五百歳閻
06 浮提に於て広宣流布せん」 涅槃経に云く「譬えば七子あり父母平等ならざるに非ざれども然れども 病者に於て心
07 則ち偏に重きが如し」等云云、 已前の明鏡を以て仏意を推知するに 仏の出世は霊山八年の諸人の為に非ず正像末
08 の人の為なり、 又正像二千年の人の為に非ず末法の始め予が如き者の為なり、 然れども病者に於いてと云うは滅
09 後法華経誹謗の者を指すなり、「今留在此」とは「於此好色香薬而謂不美」の者を指すなり。
10 地涌千界正像に出でざることは 正法一千年の間は小乗権大乗なり機時共に之れ無く四依の大士小権を以て縁と
11 為して在世の下種之を脱せしむ 謗多くして熟益を破る可き故に之を説かず例せば在世の前四味の機根の如し、 像
12 法の中末に観音・薬王・南岳・天台等と示現し出現して迹門を以て面と為し本門を以て裏と為して百界千如・一念三
13 千其の義を尽せり、 但理具を論じて事行の南無妙法蓮華経の五字 並びに本門の本尊未だ広く之を行ぜず所詮円機
14 有つて円時無き故なり。
15 今末法の初小を以て大を打ち権を以て実を破し 東西共に之を失し天地顛倒せり迹化の四依は隠れて現前せず諸
16 天其の国を棄て之を守護せず、 此の時地涌の菩薩始めて世に出現し 但妙法蓮華経の五字を以て 幼稚に服せしむ
17 「因謗堕悪必因得益」とは是なり、 我が弟子之を惟え地涌千界は教主釈尊の初発心の弟子なり 寂滅道場に来らず
18 雙林最後にも訪わず不孝の失之れ有り 迹門の十四品にも来らず本門の六品には座を立つ 但八品の間に来還せり、
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01 是くの如き高貴の大菩薩・三仏に約束して之を受持す 末法の初に出で給わざる可きか、 当に知るべし此の四菩薩
02 折伏を現ずる時は賢王と成つて愚王を誡責し摂受を行ずる時は僧と成つて正法を弘持す。
03 問うて曰く仏の記文は云何答えて曰く「後の五百歳閻浮提に於て広宣流布せん」と、 天台大師記して云く「後
04 の五百歳遠く妙道に沾おわん」 妙楽記して云く「末法の初冥利無きにあらず」 伝教大師云く「正像稍過ぎ已つて
05 末法太だ近きに有り」等云云、 末法太有近の釈は我が時は正時に非ずと云う意なり、 伝教大師日本にして末法の
06 始を記して云く 「代を語れば像の終末の初・地を尋れば唐の東・羯の西・人を原れば則ち五濁の生・闘諍の時なり
07 経に云く猶多怨嫉・況滅度後と此の言良とに以有るなり」
08 此の釈に闘諍の時と云云、今の自界叛逆・西海侵逼の二難を指すなり、 此の時地涌千界出現して本門の釈尊を
09 脇士と為す一閻浮提第一の本尊此の国に立つ可し 月支震旦に未だ此の本尊有さず、 日本国の上宮・四天王寺を建
10 立して未だ時来らざれば阿弥陀・他方を以て本尊と為す、聖武天皇・東大寺を建立す、 華厳経の教主なり、未だ法
11 華経の実義を顕さず、 伝教大師粗法華経の実義を顕示す然りと雖も 時未だ来らざるの故に東方の鵝王を建立して
12 本門の四菩薩を顕わさず、 所詮地涌千界の為に此れを譲り与え給う故なり、 此の菩薩仏勅を蒙りて近く大地の下
13 に在り正像に未だ出現せず末法にも又出で来り給わずば大妄語の大士なり、三仏の未来記も亦泡沫に同じ。
14 此れを以て之を惟うに正像に無き大地震・大彗星等出来す、此等は金翅鳥・修羅・竜神等の動変に非ず偏に四大
15 菩薩を出現せしむ可き先兆なるか、 天台云く「雨の猛きを見て竜の大なるを知り 花の盛なるを見て池の深きこと
16 を知る」等云云、 妙楽云く「智人は起を知り蛇は自ら蛇を識る」等云云、 天晴れぬれば地明かなり法華を識る者
17 は世法を得可きか。
18 一念三千を識らざる者には仏・大慈悲を起し五字の内に此の珠を裹み末代幼稚の頚に懸けさしめ給う、 四大菩
0255top
01 薩の此の人を守護し給わんこと太公周公の文王を摂扶し四皓が恵帝に侍奉せしに異ならざる者なり。
02 文永十年太歳癸酉卯月二十五日 日蓮之を註す
観心本尊抄送状
01 帷一つ・墨三長・筆五官給び候い了んぬ、観心の法門少少之を注して大田殿・教信御房等に奉る、此の事日蓮身
02 に当るの大事なり之を秘す、 無二の志を見ば之を開拓せらる可きか、 此の書は難多く答少し未聞の事なれば人耳
03 目を驚動す可きか、 設い他見に及ぶとも三人四人坐を並べて之を読むこと勿れ、 仏滅後二千二百二十余年未だ此
04 の書の心有らず、 国難を顧みず五五百歳を期して之を演説す 乞い願くば一見を歴来るの輩は師弟共に霊山浄土に
05 詣でて三仏の顔貌を拝見したてまつらん、恐恐謹言。
06 文永十年太歳癸酉卯廿六日 日 蓮 花 押
07 富木殿御返事
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撰時抄 建治元年 五十四歳御作 釈 子 日 蓮 述ぶ
01 夫れ仏法を学せん法は必ず先づ時をならうべし、 過去の大通智勝仏は出世し給いて十小劫が間一経も説き給は
02 ず経に云く一坐十小劫又云く「仏時の未だ至らざるを知り請を受けて黙然として坐す」等云云、 今の教主釈尊は四
03 十余年の程法華経を説き給はず経に云く「説く時未だ至らざるが故」と云云、 老子は母の胎に処して八十年、 弥
04 勒菩薩は兜率の内院に篭らせ給いて 五十六億七千万歳をまち給うべし、 彼の時鳥は春ををくり鶏鳥は暁をまつ畜
05 生すらなをかくのごとし 何に況や仏法を修行せんに時を糾ざるべしや、 寂滅道場の砌には十方の諸仏示現し一切
06 の大菩薩集会し給い梵帝・ 四天は衣をひるがへし竜神・八部は掌を合せ凡夫・ 大根性の者は耳をそばだて生身得
07 忍の諸菩薩・解脱月等請をなし給いしかども 世尊は二乗作仏・久遠実成をば名字をかくし即身成仏・一念三千の肝
08 心、 其義を宣べ給はず、 此等は偏にこれ機は有りしかども時の来らざればのべさせ給はず経に云く「説く時未だ
09 至らざるが故」等云云、 霊山会上の砌には閻浮第一の不孝の人たりし阿闍世大王座につらなり、一代謗法の提婆達
10 多には 天王如来と名をさづけ五障の竜女は蛇身をあらためずして仏になる、決定性の成仏はイレル種の花さき果な
11 り久遠実成は百歳の臾・二十五の子となれるかとうたがふ、 一念三千は九界即仏界・仏界即九界と談ず、されば此
12 の経の一字は如意宝珠なり一句は諸仏の種子となる 此等は機の熟不熟はさてをきぬ時の至れるゆへなり、 経に云
13 く「今正しく是れ其の時なり決定して大乗を説かん」等云云。
14 問うて云く機にあらざるに大法を授けられば 愚人は定めて誹謗をなして悪道に堕るならば豈説く者の罪にあら
0257top
01 ずや、答えて云く 人路をつくる路に迷う者あり作る者の罪となるべしや 良医・薬を病人にあたう病人嫌いて服せ
02 ずして死せば良医の失となるか、 尋ねて云く法華経の第二に云く「無智の人の中に此の経を説くこと莫れ」同第四
03 に云く「分布して妄りに人に授与すべからず」 同第五に云く「此の法華経は諸仏如来の秘密の蔵なり、 諸経の中
04 に於て最も其の上に在り 長夜に守護して妄りに宣説せざれ」等云云、 此等の経文は機にあらずば説かざれという
05 か、 今反詰して云く不軽品に云く「而も是の言を作さく我深く汝等を敬う等云云 四衆の中に瞋恚を生じ心不浄な
06 る者有り、 悪口罵詈して言く是の無智の比丘○又云く 衆人或は杖木瓦石を以て之を打擲す」等云云、勧持品に云
07 く「諸の無智の人の 悪口罵詈等し及び刀杖を加うる者有らん」等云云、 此等の経文は悪口・罵詈・乃至打擲すれ
08 どもととかれて候は説く人の失となりけるか、 求めて云く此の両説は水火なりいかんが心うべき 答えて云く天台
09 云く 「時に適うのみ」章安云く「取捨宜きを得て一向にすべからず」等云云、 釈の心は或る時は謗じぬべきには
10 しばらくとかず 或る時は謗ずとも強て説くべし 或る時は一機は信ずべくとも万機謗べくばとくべからず或る時は
11 万機一同に謗ずとも強て説くべし、初成道の時は法慧.功徳林・金剛幢・金剛蔵・文殊・普賢・弥勒.解脱月等の大菩
12 薩、梵帝・四天等の凡夫・大根性の者かずをしらず、鹿野苑の苑には倶鄰等の五人・迦葉等の二百五十人・舎利弗等
13 の二百五十人・八万の諸天、 方等大会の儀式には世尊の慈父の浄飯大王ねんごろに恋せさせ給いしかば仏・宮に入
14 らせ給いて観仏三昧経をとかせ給い、 悲母の御ためにトウ利天に九十日が間 篭らせ給いしには摩耶経をとかせ給
15 う、慈父・悲母なんどにはいかなる秘法か惜ませ給うべきなれども 法華経をば説かせ給はず せんずるところ機に
16 はよらず時いたらざれば・いかにもとかせ給はぬにや。
17 問うて云くいかなる時にか小乗・権経をときいかなる時にか法華経を説くべきや、答えて云く十信の菩薩より等
18 覚の大士にいたるまで時と機とをば相知りがたき事なり 何に況や我等は凡夫なりいかでか時機をしるべき、 求め
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01 て云くすこしも知る事あるべからざるか、 答えて云く仏眼をかつて時機をかんがへよ 仏日を用て国土をてらせ、
02 問うて云く其の心如何、 答えて云く大集経に大覚世尊・月蔵菩薩に対して未来の時を定め給えり 所謂我が滅度の
03 後の五百歳の中には解脱堅固.次の五百年には禅定堅固已上一千年次の五百年には読誦多聞堅固.次の五百年には多造
04 塔寺堅固已上二千年次の五百年には我法の中に於て闘諍言訟して白法隠没せん等云云、此の五の五百歳・二千五百余
05 年に人人の料簡さまざまなり、 漢土の道綽禅師が云く正像二千・四箇の五百歳には小乗と大乗との 白法盛なるべ
06 し末法に入つては彼等の白法 皆消滅して浄土の法門・念仏の白法を修行せん人計り生死をはなるべし、 日本国の
07 法然が料簡して云く今日本国に流布する法華経・華厳経並びに大日経・諸の小乗経・天台・真言・律等の諸宗は大集
08 経の記文の正像二千年の白法なり 末法に入つては彼等の白法は皆滅尽すべし 設い行ずる人ありとも一人も生死を
09 はなるべからず、 十住毘婆沙論と曇鸞法師の難行道・道綽の未有一人得者・善導の千中無一これなり、彼等の白法
10 隠没の次には浄土三部経・ 弥陀称名の一行ばかり大白法として出現すべし、 此を行ぜん人人はいかなる悪人・愚
11 人なりとも十即十生・百即百生・唯浄土の一門のみ有つて路に通入すべしとはこれなり、 されば後世を願はん人人
12 は叡山・東寺・園城・七大寺等の日本一州の諸寺・諸山の御帰依をとどめて彼の寺山によせをける田畠郡郷をうばい
13 とつて念仏堂につけば決定往生 ・南無阿弥陀仏とすすめければ 我が朝一同に其の義になりて今に五十余年なり、
14 日蓮此等の悪義を難じやぶる事はことふり候いぬ、 彼の大集経の白法隠没の時は 第五の五百歳当世なる事は疑ひ
15 なし、 但し彼の白法隠没の次には法華経の肝心たる南無妙法蓮華経の大白法の 一閻浮提の内・八万の国あり其の
16 国国に八万の王あり王王ごとに 臣下並びに万民までも今日本国に弥陀称名を 四衆の口口に唱うるがごとく広宣流
17 布せさせ給うべきなり。
18 問うて云く其の証文如何、 答えて云く法華経の第七に云く「我が滅度の後後の五百歳の中に広宣流布して閻浮
0259top
01 提に於て断絶せしむること無けん」等云云、 経文は大集経の白法隠没の次の時をとかせ給うに 広宣流布と云云、
02 同第六の巻に云く「悪世末法の時能く是の経を持つ者」等云云 又第五の巻に云く「後の末世の法滅せんとする時」
03 等・又第四の巻に云く「而も此経は如来現在にすら猶怨嫉多し 況や滅度の後をや」又第五の巻に云く「一切世間怨
04 多くして信じ難し」又第七の巻に 第五の五百歳闘諍堅固の時を説いて云く「悪魔魔民諸の天竜・夜叉・鳩槃荼等其
05 の便を得ん」 大集経に云く「我が法の中に於て闘諍言訟せん」等云云、 法華経の第五に云く「悪世の中の比丘」
06 又云く「或は阿蘭若に有り」等云云 又云く「悪鬼其身に入る」等云云、 文の心は第五の五百歳の時・悪鬼の身に
07 入る大僧等・国中に充満せん其時に智人一人出現せん 彼の悪鬼の入る大僧等・時の王臣・万民等を語て悪口罵詈・
08 杖木瓦礫・流罪死罪に行はん時釈迦・多宝・十方の諸仏・地涌の大菩薩らに仰せつけ大菩薩は梵帝・日月・四天等に
09 申しくだされ其の時天変・地夭・盛なるべし、 国主等・其のいさめを用いずば鄰国にをほせつけて彼彼の国国の悪
10 王・悪比丘等をせめらるるならば 前代未聞の大闘諍・一閻浮提に起るべし其の時・日月所照の四天下の一切衆生、
11 或は国ををしみ或は身ををしむゆへに 一切の仏菩薩にいのりをかくともしるしなくば 彼のにくみつる一の小僧を
12 信じて無量の大僧等八万の大王等、 一切の万民・皆頭を地につけ掌を合せて一同に南無妙法蓮華経ととなうべし、
13 例せば神力品の十神力の時・十方世界の一切衆生一人もなく 娑婆世界に向つて大音声をはなちて 南無釈迦牟尼仏
14 南無釈迦牟尼仏・南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経と一同にさけびしがごとし。
15 問うて曰く経文は分明に候・天台・妙楽・伝教等の未来記の言はありや、答えて曰く汝が不審逆なり釈を引かん
16 時こそ経論はいかにとは不審せられたれ 経文に分明ならば釈を尋ぬべからず、 さて釈の文が経に相違せば経をす
17 てて釈につくべきか如何、 彼云く道理至極せり、 しかれども凡夫の習経は遠し釈は近し近き釈分明ならばいます
18 こし信心をますべし、 今云く汝が不審ねんごろなれば少少釈をいだすべし 天台大師云く「後の五百歳遠く妙道に
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01 沾わん」妙楽大師云く「末法の初め冥利無きにあらず」伝教大師云く「正像稍過ぎ已つて末法太だ近きに有り法華一
02 乗の機今正しく是れ其の時なり、 何を以て知ることを得る、 安楽行品に云く末世法滅の時なり」又云く「代を語
03 れば則ち像の終り末の初め地を尋ぬれば唐の東・羯の西・人を原ぬれば五濁の生・闘諍の時なり、 経に云く猶多怨
04 嫉況滅度後と此の言良に以有るなり」云云、 夫れ釈尊の出世は住劫第九の減・ 人寿百歳の時なり百歳と十歳との
05 中間・在世五十年・滅後二千年と一万年となり、其の中間に法華経の流布の時・二度あるべし所謂在世の八年・滅後
06 には末法の始の五百年なり、 而に天台・妙楽・伝教等は進んでは在世法華経の時にも・もれさせ給いぬ、退いては
07 滅後・末法の時にも生れさせ給はず中間なる事をなげかせ給いて 末法の始をこひさせ給う御筆なり、 例せば阿私
08 陀仙人が悉達太子の生れさせ給いしを見て 悲んで云く 現生には九十にあまれり太子の成道を見るべからず後生に
09 は無色界に生れて五十年の説法の坐にもつらなるべからず 正像末にも生るべからずとなげきしがごとし、 道心あ
10 らん人人は此を見ききて悦ばせ給え 正像二千年の大王よりも後世ををもはん人人は 末法の今の民にてこそあるべ
11 けれ此を信ぜざらんや、 彼の天台の座主よりも南無妙法蓮華経と唱うる癩人とはなるべし、 梁の武帝の願に云く
12 「寧ろ提婆達多となて無間地獄には沈むとも欝頭羅弗とはならじ」と云云。
13 問うて云く竜樹・天親等の論師の中に此の義ありや、答えて云く竜樹・天親等は内心には存ぜさせ給うといえど
14 も言には此の義を宣べ給はず、 求めて云くいかなる故にか宣給ざるや、 答えて云く多くの故あり 一には彼の時
15 には機なし・二には時なし・三には迹化なれば付嘱せられ給はず、 求めて云く願くは此の事よくよくきかんとをも
16 う、答えて云く夫仏の滅後二月十六日よりは正法の始なり 迦葉尊者仏の付嘱をうけて二十年、 次に阿難尊者二十
17 年・次に商那和修二十年・次に優婆崛多二十年・次に提多迦二十年、 已上一百年が間は但小乗経の法門をのみ弘通
18 して諸大乗経は名字もなし何に況や法華経をひろむべしや、次には弥遮迦・仏陀難提・仏駄密多・脇比丘・富那奢等
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01 の四五人、前の五百余年が間は大乗経の法門少々.出来せしかども.とりたてててて弘道し給はず、但小乗経を面とし
02 てやみぬ、 已上大集経の先五百年解脱堅固の時なり、正法の後六百年・已後一千年が前・其の中間に馬鳴菩薩・毘
03 羅尊者.竜樹菩薩.提婆菩薩.羅喉尊者.僧佉難提.僧伽耶奢.鳩摩羅駄・闍夜那・盤陀・摩奴羅・鶴勒夜那・師子等の十
04 余人の人人始には外道の家に入り 次には小乗経をきわめ後には 諸大乗経をもて諸小乗経をさんざんに破し失ひ給
05 いき此等の大士等は諸大乗経をもつて 諸小乗経をば破せさせ給いしかども 諸大乗経と法華経の勝劣をば分明にか
06 かせ給はず、設い勝劣をすこしかかせ給いたるやうなれども本迹の十妙・二乗作仏・久遠実成・已今当の妙・百界千
07 如・一念三千の肝要の法門は分明ならず、 但或は指をもつて月をさすがごとくし或は文にあたりてひとはし計りか
08 かせ給いて化導の始終・師弟の遠近・得道の有無はすべて一分もみへず、 此等は正法の後の五百年・大集経の禅定
09 堅固の時にあたれり、 正法一千年の後は月氏に仏法充満せしかども 或は小をもて大を破し或は権経をもつて実経
10 を隠没し仏法さまざまに乱れしかば 得道の人やふやくすくなく仏法につけて悪道に堕る者かずをしらず、 正法一
11 千年の後・像法に入つて一十五年と申せしに仏法東に流れて漢土に入りにき、 像法の前五百年の内・始の一百余年
12 が間は漢土の道士と月氏の仏法と諍論していまだ事さだまらず 設い定まりたりしかども 仏法を信ずる人の心いま
13 だふかからず、 而るに仏法の中に大小・権実・顕密をわかつならば聖教一同ならざる故・疑をこりてかへりて外典
14 とともなう者もありぬべし、 これらのをそれ・あるかのゆへに摩騰・竺蘭は自は知つて而も大小を分けず権実をい
15 はずしてやみぬ、其の後.魏・晋・斉.宋.梁の五代が間・仏法の内に大小・権実.顕密をあらそひし程にいづれこそ道
16 理ともきこえずして 上み一人より下も万民にいたるまで不審すくなからず 南三・北七と申して仏法十流にわかれ
17 ぬ所謂南には三時.四時.五時.北には五時.半満・四宗.五宗.六宗、二宗の大乗.一音等.各各義を立て辺執水火なり、
18 しかれども大綱は一同なり所謂一代聖教の中には華厳経第一・涅槃経第二・法華経第三なり法華経は阿含・般若・浄
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01 名・思益等の経経に対すれば真実なり了義経・正見なりしかりといへども涅槃経に対すれば無常教・不了義経・邪見
02 の経等云云、 漢より四百余年の末へ五百年に入つて陳隋二代に智顗と申す小僧一人あり 後には天台智者大師と号
03 したてまつる、 南北の邪義をやぶりて一代聖教の中には法華経第一・涅槃経第二・華厳経第三なり等云云、此れ像
04 法の前・五百歳・大集経の読誦多聞堅固の時にあひあたれり、 像法の後五百歳は唐の始・太宗皇帝の御宇に玄奘三
05 蔵・月支に入つて十九年が間、 百三十箇国の寺塔を見聞して多くの論師に値いたてまつりて八万聖教・十二部経の
06 淵底を習いきわめしに其の中に二宗あり所謂法相宗・三論宗なり、 此の二宗の中に法相大乗は遠くは弥勒・無著近
07 くは戒賢論師に伝えて漢土にかへりて 太宗皇帝にさづけさせ給う、 此の宗の心は仏教は機に随うべし一乗の機の
08 ためには三乗方便・一乗真実なり所謂法華経等なり、三乗の機のためには三乗真実・一乗方便・所謂深密経・勝鬘経
09 等此れなり、 天台智者等は此の旨を弁えず等云云、 而も太宗は賢王なり当時名を一天にひびかすのみならず三皇
10 にもこえ 五帝にも勝れたるよし四海にひびき 漢土を手ににぎるのみならず高昌・高麗等の一千八百余国をなびか
11 し内外を極めたる王ときこへし賢王の第一の御帰依の僧なり、 天台宗の学者の中にも 頭をさしいだす人一人もな
12 し、 而れば法華経の実義すでに一国に隠没しぬ、 同じき太宗の太子高宗・高宗の継母則天皇后の御宇に法蔵法師
13 といふ者あり法相宗に天台宗のをそわるるところを見て 前に天台の御時せめられし華厳経を取出して 一代の中に
14 は華厳第一・法華第二・涅槃第三と立てけり、太宗第四代・玄宗皇帝の御宇・開元四年・同八年に西天印度より善無
15 畏三蔵・金剛智三蔵・不空三蔵・大日経・金剛頂経・蘇悉地経を持て渡り真言宗を立つ、此の宗の立義に云く教に二
16 種あり一には釈迦の顕教・所謂華厳・法華等、二には大日の密教・所謂大日経等なり、法華経は顕教の第一なり此の
17 経は大日の密教に対すれば極理は少し同じけれども 事相の印契と真言とはたえてみへず 三密相応せざれば不了義
18 経等云云、 已上法相・華厳・真言の三宗一同に天台法華宗をやぶれども天台大師程の智人・法華宗の中になかりけ
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01 るかの間内内はゆはれなき由は存じけれども 天台のごとく公場にして論ぜられざりければ 上国王大臣・下一切の
02 人民にいたるまで皆仏法に迷いて衆生の得道みなとどまりけり、 此等は像法の後の五百年の前二百余年が内なり、
03 像法に入つて四百余年と申しけるに百済国より一切経並びに教主釈尊の木像・僧尼等・日本国にわたる、 漢土の梁
04 の末・陳の始にあひあたる、日本には神武天王よりは第三十代・欽明天王の御宇なり、欽明の御子・用明の太子に上
05 宮王子・仏法を弘通し給うのみならず並びに法華経・浄名経・勝鬘経を鎮護国家の法と定めさせ給いぬ、其の後・人
06 王第三十七代に孝徳天王の御宇に三論宗・成実宗を観勒僧正・百済国よりわたす、同御代に道昭法師・漢土より法相
07 宗・倶舎宗をわたす、 人王第四十四代・元正天王の御宇に天竺より大日経をわたして有りしかども而も弘通せずし
08 て漢土へかへる 此の僧をば善無畏三蔵という、 人王第四十五代に聖武天皇の御宇に審祥大徳・新羅国より華厳宗
09 をわたして良弁僧正・聖武天王にさづけたてまつりて 東大寺の大仏を立てさせ給えり同御代に大唐の鑒真和尚・天
10 台宗と律宗をわたす、 其の中に律宗をば弘通し小乗の戒場を東大寺に建立せしかども 法華宗の事をば名字をも申
11 し出させ給はずして入滅し了んぬ、 其後・人王第五十代・像法八百年に相当つて桓武天王の御宇に最澄と申す小僧
12 出来せり後には伝教大師と号したてまつる、始には三論・法相・華厳・倶舎・成実・律の六宗並びに禅宗等を行表僧
13 正等に習学せさせ給いし程に我と立て給える国昌寺・後には比叡山と号す、 此にして六宗の本経・本論と宗宗の人
14 師の釈とを引き合せて御らむありしかば 彼の宗宗の人師の釈・所依の経論に相違せる事多き上 僻見多多にして信
15 受せん人 皆悪道に堕ちぬべしとかんがへさせ給う 其の上法華経の実義は宗宗の人人・我も得たり我も得たりと自
16 讃ありしかども其の義なし、 此れを申すならば喧嘩出来すべしもだして申さずば 仏誓にそむきなんとをもひわづ
17 らはせ給いしかども 終に仏の誡ををそれて 桓武皇帝に奏し給いしかば帝・此の事ををどろかせ給いて 六宗の碩
18 学に召し合させ給う、 彼の学者等・始めは慢幢・山のごとし悪心・毒蛇のやうなりしかども終に王の前にしてせめ
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01 をとされて六宗・七寺・一同に御弟子となりぬ、 例せば漢土の南北の諸師・陳殿にして天台大師にせめおとされて
02 御弟子となりしがごとし、 此れはこれ円定・円慧計りなり 其の上天台大師のいまだせめ給はざりし小乗の別受戒
03 をせめをとし 六宗の八大徳に梵網経の大乗別受戒をさづけ給うのみならず 法華経の円頓の別受戒を叡山に建立せ
04 しかば 延暦円頓の別受戒は日本第一たるのみならず 仏の滅後一千八百余年が間身毒尸那一閻浮提にいまだなかり
05 し霊山の大戒日本国に始まる、 されば伝教大師は其の功を論ずれば 竜樹天親にもこえ天台・妙楽にも勝れてをは
06 します聖人なり、されば日本国の当世の東寺.園城・七大寺・諸国の八宗.浄土・禅宗・律宗等の諸僧等誰人か伝教大
07 師の円戒をそむくべき、 かの漢土九国の諸僧等は円定・円慧は天台の弟子ににたれども 円頓一同の戒場は漢土に
08 なければ戒にをいては弟子とならぬ者もありけん、 この日本国は伝教大師の御弟子にあらざる者は 外道なり悪人
09 なり、 而れども漢土日本の天台宗と真言の勝劣は大師心中には存知せさせ給いけれども 六宗と天台宗とのごとく
10 公場にして勝負なかりけるゆへにや、 伝教大師已後には東寺・七寺・園城の諸寺日本一州一同に真言宗は天台宗に
11 勝れたりと 上一人より下万人にいたるまでをぼしめしをもえり、 しかれば天台法華宗は伝教大師の御時計りにぞ
12 ありける此の伝教の御時は 像法の末大集経の多造塔寺堅固の時なり、 いまだ於我法中・闘諍言訟・白法隠没の時
13 にはあたらず。
14 今末法に入つて二百余歳・大集経の於我法中・闘諍言訟・白法隠没の時にあたれり仏語まことならば定んで一閻
15 浮提に闘諍起るべき時節なり、 伝え聞く漢土は三百六十箇国・二百六十余州は すでに蒙古国に打ちやぶられぬ華
16 洛すでにやぶられて徽宗・欽宗の両帝・北蕃にいけどりにせられて韃靼にして終にかくれさせ給いぬ、 徽宗の孫高
17 宗皇帝は長安をせめをとされて 田舎の臨安行在府に落ちさせ給いて今に数年が間京を見ず、 高麗六百余国も新羅
18 百済等の諸国等も皆大蒙古国の皇帝にせめられぬ、 今の日本国の壱岐・対馬並びに九国のごとし 闘諍堅固の仏語
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01 地に堕ちず、 あたかもこれ大海のしをの時をたがへざるがごとし、 是をもつて案ずるに大集経の白法隠没の時に
02 次いで 法華経の大白法の日本国並びに一閻浮提に広宣流布せん事も疑うべからざるか、 彼の大集経は仏説の中の
03 権大乗ぞかし、 生死をはなるる道には法華経の結縁なき者のためには未顕真実なれども六道・四生・三世の事を記
04 し給いけるは寸分もたがはざりけるにや、 何に況や法華経は釈尊・要当説真実となのらせ給い 多宝仏は真実なり
05 と御判をそへ十方の諸仏は広長舌を梵天につけて誠諦と指し示し、 釈尊は重ねて 無虚妄の舌を色究竟に付けさせ
06 給いて後五百歳に一切の仏法の滅せん時 上行菩薩に妙法蓮華経の五字をもたしめて 謗法一闡提の白癩病の輩の良
07 薬とせんと梵帝・日月・四天・竜神等に仰せつけられし金言虚妄なるべしや、 大地は反覆すとも高山は頽落すとも
08 春の後に夏は来らずとも 日は東へかへるとも月は地に落つるとも此の事は一定なるべし、 此の事一定ならば闘諍
09 堅固の時・日本国の王臣と並びに万民等が仏の御使として 南無妙法蓮華経を流布せんとする を或は罵詈し或は悪
10 口し或は流罪し或は打擲し 弟子眷属等を種種の難にあわする人人 いかでか安穏にては候べき、 これをば愚癡の
11 者は咒詛すとをもひぬべし、 法華経をひろむる者は日本国の一切衆生の父母なり 章安大師云く「彼が為に悪を除
12 くは即ち是れ彼が親なり」等云云、されば日蓮は当帝の父母・念仏者・禅衆・真言師等が師範なり又主君なり、 而
13 るを上一人より下万民にいたるまであだをなすをば 日月いかでか彼等が頂を照し給うべき 地神いかでか彼等の足
14 を戴き給うべき、 提婆達多は仏を打ちたてまつりしかば大地揺動して火炎いでにき、 檀弥羅王は師子尊者の頚を
15 切りしかば右の手刀とともに落ちぬ、 徽宗皇帝は法道が面にかなやきをやきて江南にながせしかば 半年が内にゑ
16 びすの手にかかり給いき、 蒙古のせめも又かくのごとくなるべし、 設い五天のつわものをあつめて鉄囲山を城と
17 せりともかなふべからず 必ず日本国の一切衆生・兵難に値うべし、 されば日蓮が法華経の行者にてあるなきかは
18 これにても見るべし、 教主釈尊記して云く末代悪世に法華経を弘通するものを 悪口罵詈等せん人は我を一劫が間
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01 あだせん者の罪にも百千万億倍すぎたるべしと・とかせ給へり、 而るを今の日本国の国主・万民等・雅意にまかせ
02 て父母・宿世の敵よりも いたくにくみ謀反・殺害の者よりも・つよくせめぬるは現身にも大地われて入り天雷も身
03 をさかざるは不審なり、 日蓮が法華経の行者にてあらざるか・もししからばををきになげかし、今生には万人にせ
04 められて片時もやすからず後生には悪道に堕ん事あさましとも申すばかりなし、 又日蓮法華経の行者ならずばいか
05 なる者の一乗の持者にてはあるべきぞ、 法然が法華経をなげすてよ 善導が千中無一・道綽が未有一人得者と申す
06 が法華経の行者にて候か、 又弘法大師の云く法華経を行ずるは 戯論なりとかかれたるが 法華経の行者なるべき
07 か、 経文には能持是経能説此経なんどこそとかれて候へよくとくと申すは いかなるぞと申すに於諸経中最在其上
08 と申して大日経・華厳経・涅槃経・般若経等に法華経はすぐれて候なりと申す者をこそ 経文には法華経の行者とは
09 とかれて候へ、 もし経文のごとくならば日本国に仏法わたて七百余年、 伝教大師と日蓮とが外は一人も法華経の
10 行者はなきぞかし、 いかにいかにとをもうところに頭破作七分・口則閉塞のなかりけるは道理にて候いけるなり、
11 此等は浅き罰なり但一人二人等のことなり、 日蓮は閻浮第一の法華経の行者なり此れをそしり 此れをあだむ人を
12 結構せん人は閻浮第一の大難にあうべし、 これは日本国をふりゆるがす正嘉の大地震一天を罰する 文永の大彗星
13 等なり、 此等をみよ仏滅後の後仏法を行ずる者にあだをなすといへども今のごとくの大難は一度もなきなり、 南
14 無妙法蓮華経と一切衆生にすすめたる人一人もなし、此の徳はたれか一天に眼を合せ四海に肩をならぶべきや。
15 疑つて云く設い正法の時は仏の在世に対すれば根機劣なりとも像末に対すれば最上の上機なり、 いかでか正法
16 の始に法華経をば用いざるべき随つて馬鳴・竜樹・提婆・無著等も正法一千年の内にこそ出現せさせ給へ、 天親菩
17 薩は千部の論師・法華論を造りて諸経の中第一の義を存す真諦三蔵の相伝に云く 月支に法華経を弘通せる家・五十
18 余家・天親は其の一也と已上正法なり、 像法に入つては天台大師・像法の半に漢土に出現して玄と文と止との三十
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01 巻を造りて法華経の淵底を極めたり、 像法の末に伝教大師・日本に出現して天台大師の円慧・円定の二法を我が朝
02 に弘通せしむるのみならず 円頓の大戒場を叡山に建立して 日本一州皆同じく円戒の地になして上一人より下万民
03 まで延暦寺を師範と仰がせ給う 豈に像法の時法華経の広宣流布にあらずや、 答えて云く如来の教法は必ず機に随
04 うという事は世間の学者の存知なり、 しかれども仏教はしからず上根上智の人のために必ず大法を説くならば 初
05 成道の時なんぞ法華経をとき給はざる正法の先五百年に大乗経を弘通すべし、 有縁の人に大法を説かせ給うならば
06 浄飯大王・摩耶夫人に 観仏三昧経・摩耶経をとくべからず、 無縁の悪人謗法の者に秘法をあたえずば覚徳比丘は
07 無量の破戒の者に涅槃経をさづくべからず、 不軽菩薩は誹謗の四衆に向つて いかに法華経をば弘通せさせ給いし
08 ぞ、されば機に随つて法を説くと申すは大なる僻見なり。
09 問うて云く竜樹・世親等は法華経の実義をば宣べ給わずや、 答えて云く宣べ給はず、問うて云く何なる教をか
10 宣べ給いし、答えて云く華厳・方等・般若・大日経等の権大乗・顕密の諸経をのべさせ給いて法華経の法門をば宣べ
11 させ給はず、問うて云く何をもつてこれをしるや 答えて云く竜樹菩薩の所造の論三十万偈・而れども尽して漢土・
12 日本にわたらざれば其の心しりがたしといえども 漢土にわたれる十住毘婆娑論・中論・大論等をもつて天竺の論を
13 も比知して此れを知るなり。
14 疑つて云く天竺に残る論の中にわたれる論よりも勝れたる論やあるらん、 答えて云く竜樹菩薩の事は私に申す
15 べからず仏記し給う 我が滅後に竜樹菩薩と申す人・南天竺に出ずべし彼の人の所詮は 中論という論に有るべしと
16 仏記し給う、 随つて竜樹菩薩の流・天竺に七十家あり七十人ともに大論師なり、 彼の七十家の人人は皆中論を本
17 とす中論四巻・二十七品の肝心は 因縁所生法の四句の偈なり、 此の四句の偈は華厳・般若等の四教・三諦の法門
18 なりいまだ法華開会の三諦をば宣べ給はず。
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01 疑つて云く汝がごとくに料簡せる人ありや、 答えて云く 天台云く「中論を以て相比すること莫れ」又云く「天
02 親竜樹 内鑒冷然にして外は時の宜きに適う」等云云、 妙楽云く「破会を論ぜば未だ法華に若かざる故に」云云、
03 従義の云く「竜樹天親未だ天台に若かず」云云、 問うて云く唐の末に不空三蔵一巻の論をわたす 其の名を菩提心
04 論となづく竜猛菩薩の造なり云云、 弘法大師云く「此の論は竜猛千部の中の第一肝心の論」と云云、 答えて云く
05 此の論一部七丁あり竜猛の言ならぬ事処処に多し故に 目録にも或は竜猛或は不空と両方にいまだ事定まらず、 其
06 上・此の論文は 一代を括れる論にもあらず 荒量なる事此れ多し、 先ず唯真言法中の肝心の文あやまりなり其の
07 故は文証現証ある法華経の即身成仏をばなきになして 文証も現証もあとかたもなき真言経に即身成仏を立て候 又
08 唯という唯の一字は第一のあやまりなり、 事のていを見るに不空三蔵の私につくりて候を 時の人にをもくせさせ
09 んがために事を竜猛によせたるか 其の上不空三蔵は誤る事かずをほし所謂法華経の観智の儀軌に 寿量品を阿弥陀
10 仏とかける眼の前の大僻見・陀羅尼品を神力品の次にをける属累品を経末に下せる 此等はいうかひなし、 さるか
11 とみれば 天台の大乗戒を盗んで代宗皇帝に宣旨を申し五台山の五寺に立てたり、 而も又真言の教相には天台宗を
12 すべしといえりかたがた誑惑の事どもなり、 他人の訳ならば用ゆる事もありなん 此の人の訳せる経論は信ぜられ
13 ず、総じて月支より漢土に経論をわたす人・旧訳・新訳に一百八十六人なり 羅什三蔵一人を除いてはいづれの人人
14 もアヤマらざるはなし、其の中に不空三蔵は殊に誤多き上誑惑の心顕なり、疑つて云く何をもつて知るぞや羅什三蔵
15 より外の人人は あやまりなりとは汝が禅宗・念仏・真言等の七宗を破るのみならず 漢土・日本にわたる一切の訳
16 者を用いざるかいかん、 答えて云く此の事は余が第一の秘事なり委細には向つて問うべし、 但しすこし申すべし
17 羅什三蔵の云く 我漢土の一切経を見るに皆梵語のごとくならず いかでか此の事を顕すべき、 但し一の大願あり
18 身を不浄になして妻を帯すべし 舌計り清浄になして仏法に妄語せじ 我死なば必やくべし焼かん時 舌焼けるなら
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01 ば我が経をすてよと 常に高座にしてとかせ給しなり、 上一人より下万民にいたるまで願じて云く願くは羅什三蔵
02 より後に死せんと、 終に死し給う後焼きたてまつりしかば 不浄の身は皆灰となりぬ御舌計り火中に青蓮華生て其
03 の上にあり五色の光明を放ちて夜は昼のごとく 昼は日輪の御光をうばい給いき、 さてこそ一切の訳人の経経は軽
04 くなりて羅什三蔵の訳し給える経経・殊に法華経は漢土にやすやすとひろまり給いしか。
05 疑つて云く羅什已前はしかるべし 已後の善無畏・不空等は如何、答えて云く已後なりとも訳者の舌の焼けるを
06 ばアヤマリありけりとしるべしされば日本国に法相宗のはやりたりしを伝教大師責めさせ給いしには羅什三蔵は舌焼
07 けず玄奘・慈恩は舌焼けぬとせめさせ給いしかば 桓武天王は道理とをぼして天台法華宗へはうつらせ給いしなり、
08 涅槃経の第三・第九等をみまいらすれば 我が仏法は月支より他国へわたらん時、 多くの謬誤出来して衆生の得道
09 うすかるべしととかれて候、 されば妙楽大師は「並びに進退は人に在り 何ぞ聖旨に関らん」とこそあそばされて
10 候へ、今の人人いかに経のままに 後世をねがうともあやまれる経経のままにねがはば得道もあるべからず、 しか
11 ればとて仏の御とがにはあらじとかかれて候、 仏教を習ふ法には大小・権実・顕密はさてをくこれこそ第一の大事
12 にては候らめ。
13 疑つて云く正法一千年の論師の内心には 法華経の実義の顕密の諸経に超過してあるよしは・しろしめしながら
14 外には宣説せずして 但権大乗計りを宣べさせ給うことは・しかるべしとはをぼへねども 其の義はすこしきこえ候
15 いぬ、 像法一千年の半に天台智者大師・出現して題目の妙法蓮華経の五字を 玄義十巻一千枚にかきつくし、文句
16 十巻には始め 如是我聞より終り作礼而去にいたるまで一字一句に因縁・約教・本迹・観心の四の釈をならべて又一
17 千枚に尽し給う 已上玄義・文句の二十巻には一切経の心を江河として 法華経を大海にたとえ十方界の仏法の露一
18 滴も漏さず妙法蓮華経の大海に入れさせ給いぬ、 其の上天竺の大論の諸義・一点ももらさず漢土・南北の十師の義
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01 破すべきをば・これをはし取るべきをば此れを用う、 其の上・止観十巻を注して一代の観門を一念にすべ十界の依
02 正を三千につづめたり、 此の書の文体は遠くは月支・一千年の間の論師にも超え近くは尸那五百年の人師の釈にも
03 勝れたり、 故に三論宗の吉蔵大師・南北一百余人の先達と長者らをすすめて 天台大師の講経を聞けと勧むる状に
04 云く「千年の興五百の実復今日に在り 乃至南岳の叡聖天台の明哲昔は三業住持し 今は二尊に紹係す豈止甘呂を震
05 旦に灑ぐのみならん 亦当に法鼓を天竺に震うべし、 生知の妙悟魏晉以来典籍風謡実に連類無し乃至禅衆一百余の
06 僧と共に智者大師を奉請す」等云云、 修南山の道宣律師 天台大師を讃歎して云く「法華を照了すること 高輝の
07 幽谷に臨むが若く 摩訶衍を説くこと長風の太虚に遊ぶに似たり 仮令文字の師千羣万衆ありて彼の妙弁を数め尋ぬ
08 とも能く窮むる者無し、 乃至義月を指すに同じ乃至宗一極に帰す」云云、華厳宗の法蔵大師天台を讃して云く「思
09 禅師智者等の如き神異に感通して 迹登位に参わる霊山の聴法憶い今に在り」等云云、 真言宗の不空三蔵・含光法
10 師等・師弟共に真言宗をすてて 天台大師に帰伏する物語に云く 高僧伝に云く「不空三蔵と親たり天竺に遊びたる
11 に彼に僧有り問うて曰く 大唐に天台の迹教有り最も邪正を簡び偏円を暁むるに堪えたり 能く之を訳して将に此土
12 に至らしむ可きや」等云云、 此の物語は含光が妙楽大師にかたり給しなり、 妙楽大師此の物語を聞いて云く「豈
13 中国に法を失いて 之を四維に求むるに非ずや而も此方識ること有る者少し 魯人の如きのみ」等云云、身毒国の中
14 に天台三十巻のごとくなる大論あるならば 南天の僧いかでか漢土の天台の釈をねがうべき、 これあに像法の中に
15 法華経の実義顕れて南閻浮提に広宣流布するにあらずや、 答えて云く正法一千年・像法の前四百年・已上仏滅後・
16 一千四百余年に いまだ論師の弘通し給はざる一代超過の円定・円慧を漢土に弘通し給うのみならず 其の声月氏ま
17 でもきこえぬ、 法華経の広宣流布にはにたれどもいまだ円頓の戒壇を立てられず 小乗の威儀をもつて円の慧定に
18 切りつけるはすこし便なきににたり、 例せば日輪の蝕するがごとし月輪のかけたるに似たり、 何にいわうや天台
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01 大師の御時は大集経の読誦多聞堅固の時にあひあたていまだ広宣流布の時にあらず。
02 問うて云く伝教大師は日本国の士なり 桓武の御宇に出世して欽明より二百余年が間の邪義をなんじやぶり天台
03 大師の円慧・円定をせんじ給うのみならず、 鑒真和尚の弘通せし日本小乗の三処の戒壇をなんじやぶり 叡山に円
04 頓の大乗別受戒を建立せり、 此の大事は仏滅後一千八百年が間の身毒・尸那・扶桑乃至一閻浮提第一の奇事なり、
05 内証は竜樹・天台等には或は劣るにもや或は同じくもやあるらん、 仏法の人をすべて一法となせる事は竜樹・天親
06 にもこえ南岳・天台にもすぐれて見えさせ給うなり、 総じては如来御入滅の後一千八百年が間此の二人こそ 法華
07 経の行者にてはをはすれ、 故に秀句に云く「経に云く若し須弥を接つて他方無数の仏土に擲げ置かんも 亦未だこ
08 れ難しとせず乃至若し仏の滅度悪世の中に於て 能く此の経を説かん是則ちこれ難し云云、 此経を釈して云く浅は
09 易く深は難しとは釈迦の所判なり 浅を去て深に就くは丈夫の心なり天台大師は釈迦に信順し 法華宗を助けて震旦
10 に敷揚し叡山の一家は 天台に相承し法華宗を助けて日本に弘通す」云云、 釈の心は賢劫第九の減・人寿百歳の時
11 より如来・在世五十年・滅後 一千八百余年が中間に高さ十六万八千由旬・六百六十二万里の金山を 有人五尺の小
12 身の手をもつて 方一寸・二寸等の瓦礫をにぎりて 一丁二丁までなぐるがごとく 雀鳥のとぶよりもはやく鉄囲山
13 の外へなぐる者はありとも 法華経を仏のとかせ給いしやうに説かん人は 末法にはまれなるべし、天台大師・伝教
14 大師こそ仏説に相似してとかせ給いたる人にてをはすれとなり、 天竺の論師はいまだ法華経へゆきつき給はず 漢
15 土の天台已前の人師は或はすぎ 或はたらず、慈恩・法蔵・善無畏等は東を西といゐ天を地と申せる人人なり、此等
16 は伝教大師の自讃にはあらず、 去る延暦二十一年正月十九日高雄山に桓武皇帝行幸なりて 六宗・七大寺の碩徳た
17 る善議・勝猷.奉基・寵忍・賢玉・安福・勤操・修円・慈誥・玄耀・歳光・道証.光証・観敏等の十有余人、最澄法師
18 と召し合せられて宗論ありしに或は一言に舌を巻いて二言三言に及ばず 皆一同に頭をかたぶけ手をあざう、 三論
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01 の二蔵.三時・三転法輪.法相の三時.五性・華厳宗の四教.五教・根本枝末.六相・十玄.皆大綱をやぶらる、例せば大
02 屋の棟梁のをれたるがごとし 十大徳の慢幢も倒れにき、 爾の時天子大に驚かせ給いて 同二十九日に弘世・国道
03 の両吏を勅使として重ねて 七寺・六宗に仰せ下れしかば各各帰伏の状を載せて 云く「竊に天台の玄疏を見れば総
04 じて釈迦一代の教を括つて 悉く其の趣を顕すに通ぜざる所無く 独り諸宗に逾え殊に一道を示す 其の中の所説甚
05 深の妙理なり七箇の大寺六宗の学生昔より未だ聞かざる所 曾て未だ見ざる所なり三論法相久年の諍い 渙焉として
06 氷の如く釈け照然として 既に明かに猶雲霧を披いて三光を見るがごとし 聖徳の弘化より以降今に二百余年の間講
07 ずる所の経論其の数多く 彼此理を争えども其の疑未だ解けず、 而るに此の最妙の円宗未だ闡揚せず蓋し以て此の
08 間の羣生未だ円味に応わざるか、 伏して惟れば聖朝久しく如来の付を受け深く純円の機を結び 一妙の義理始めて
09 乃ち興顕し六宗の学者初めて至極を悟る 此の界の含霊今より後悉く妙円の船に載り 早く彼岸に済る事を得ると謂
10 いつべし、 乃至善議等牽れて休運に逢い 乃ち奇詞を閲す深期に非ざるよりは何ぞ聖世に託せんや」等云云、彼の
11 漢土の嘉祥等は百余人をあつめて 天台大師を聖人と定めたり、 今日本の七寺・二百余人は伝教大師を聖人とがう
12 したてまつる、 仏の滅後二千余年に及んで両国に聖人二人・出現せり 其の上天台大師の未弘の円頓大戒を叡山に
13 建立し給う 此れ豈像法の末に法華経広宣流布するにあらずや、 答えて云く迦葉阿難等の弘通せざる大法を馬鳴・
14 竜樹・提婆・天親等の弘通せる事前の難に顕れたり、 又竜樹・天親等の流布し残し給える大法天台大師の弘通し給
15 う事又難にあらはれぬ、 又天台智者大師の弘通し給はざる円頓の大戒を 伝教大師の建立せさせ給う事 又顕然な
16 り、但し詮と不審なる事は仏は説き尽し給えども仏滅後に迦葉.阿難・馬鳴・竜樹・無著・天親.乃至天台・伝教のい
17 まだ弘通しましまさぬ最大の深密の正法経文の面に現前なり、 此の深法・今末法の始五五百歳に 一閻浮提に広宣
18 流布すべきやの事不審極り無きなり。
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01 問ういかなる秘法ぞ先ず名をきき次に義をきかんとをもう 此の事もし実事ならば釈尊の二度・世に出現し給う
02 か上行菩薩の重ねて涌出せるか いそぎいそぎ慈悲をたれられよ、 彼の玄奘三蔵は六生を経て 月氏に入りて十九
03 年・法華一乗は方便教・小乗阿含経は真実教、 不空三蔵は身毒に返りて寿量品を阿弥陀仏とかかれたり、此等は東
04 を西という日を月とあやまてり 身を苦めてなにかせん心に染てようなし、 幸い我等末法に生れて一歩をあゆまず
05 して三祇をこゑ頭を虎にかわずして無見頂相をゑん、 答えて云く此の法門を申さん事は 経文に候へばやすかるべ
06 し但し此の法門には先ず三の大事あり 大海は広けれども死骸をとどめず 大地は厚けれども不孝の者をば載せず、
07 仏法には五逆をたすけ不孝をばすくう 但し誹謗一闡提の者持戒にして第一なるをばゆるされず、 此の三のわざは
08 ひとは所謂念仏宗と禅宗と真言宗となり、 一には念仏宗は日本国に充満して四衆の口あそびとす、 二に禅宗は三
09 衣一鉢の大慢の比丘の四海に充満して 一天の明導とをもへり、 三に真言宗は又彼等の二宗にはにるべくもなし叡
10 山・東寺・七寺・園城或は官主或は御室或は長吏或は検校なり かの内侍所の神鏡燼灰となりしかども 大日如来の
11 宝印を仏鏡とたのみ宝剣西海に入りしかども 五大尊をもつて国敵を切らんと思へり、 此等の堅固の信心は設い劫
12 石はひすらぐとも・かたぶくべしとはみへず 大地は反覆すとも疑心をこりがたし、 彼の天台大師の南北をせめ給
13 いし時も此の宗はいまだわたらず 此の伝教大師の六宗をしゑたげ給いし時ももれぬ、 かたがたの強敵をまぬがれ
14 てかへつて大法をかすめ失う、 其の上伝教大師の御弟子・慈覚大師・此の宗をとりたてて叡山の天台宗をかすめを
15 として一向真言宗になししかば 此の人には誰の人か敵をなすべき、 かかる僻見のたよりをえて弘法大師の邪義を
16 もとがむる人もなし、 安然和尚すこし弘法を難ぜんとせしかども 只華厳宗のところ計りとがむるににてかへて法
17 華経をば大日経に対して沈めはてぬ、ただ世間のたて入の者のごとし。
18 問うて云く此の三宗の謬ゴ如何答えて云く 浄土宗は斉の世に曇鸞法師と申す者あり本は三論宗の人竜樹菩薩の
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01 十住毘婆娑論を見て難行道易行道を立てたり、 道綽禅師という者あり唐の世の者本は涅槃経をかうじけるが 曇鸞
02 法師が浄土にうつる筆を見て 涅槃経をすてて浄土にうつて聖道・浄土二門を立てたり、 又道綽が弟子に善導とい
03 う者あり雑行正行を立つ、 日本国に末法に入つて二百余年・後鳥羽院の御宇に法然というものあり 一切の道俗を
04 すすめて云く仏法は時機を本とす 法華経大日経天台真言等の八宗九宗一代の大小・顕密・権実等の諸宗等は上根上
05 智の正像二千年の機のためなり、 末法に入りてはいかに功をなして行ずるとも 其の益あるべからず、其の上・弥
06 陀念仏にまじへて行ずるならば 念仏も往生すべからず此れわたくしに申すにはあらず 竜樹菩薩・曇鸞法師は難行
07 道となづけ、 道綽は未有一人得者ときらひ善導は千中無一とさだめたり、 此等は他宗なれば御不審もあるべし、
08 慧心先徳にすぎさせ給へる天台真言の智者は 末代にをはすべきか彼の往生要集には 顕密の教法は予が死生をはな
09 るべき法にはあらず、 又三論の永観が十因等をみよされば法華真言等をすてて 一向に念仏せば十即十生・百即百
10 生とすすめければ、叡山・東寺・園城・七寺等始めは諍論するやうなれども、 往生要集の序の詞道理かとみへけれ
11 ば顕真座主落ちさせ給いて法然が弟子となる、 其の上設い法然が弟子とならぬ人々も 弥陀念仏は他仏ににるべく
12 もなく口ずさみとし心よせにをもひければ日本国皆一同に法然房の弟子と見へけり、 此の五十年が間・一天四海・
13 一人もなく法然が弟子となる法然が弟子となりぬれば 日本国一人もなく謗法の者となりぬ、 譬へば千人の子が一
14 同に一人の親を殺害せば 千人共に五逆の者なり一人阿鼻に堕ちなば余人堕ちざるべしや、 結句は法然・流罪をあ
15 だみて悪霊となつて 我並びに弟子等をとがせし国主・山寺の僧等が身に入つて或は謀反ををこし 或は悪事をなし
16 て皆関東にほろぼされぬ、 わづかにのこれる叡山・東寺等の諸僧は俗男俗女にあなづらるること 猿猴の人にわら
17 はれ俘囚が童子に蔑如せらるるがごとし、 禅宗は又此の便を得て持斎等となつて 人の眼を迷かしたつとげなる気
18 色なれば いかにひがほうもんをいゐくるへども失ともをぼへず、 禅宗と申す宗は教外別伝と申して釈尊の一切経
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01 の外に迦葉尊者にひそかにささやかせ給へり、 されば禅宗をしらずして一切経を習うものは、 犬の雷をかむがご
02 とし、 猿の月の影をとるににたり云云、 此の故に日本国の中に不孝にして父母にすてられ無礼なる故に、主君に
03 かんどうせられあるいは 若なる法師等の学文にものうき遊女のものぐるわしき本性に叶る邪法なるゆへに 皆一同
04 に持斎になりて国の百姓をくらう蝗虫となれり、 しかれば天は天眼をいからかし地神は身をふるう、 真言宗と申
05 すは上の二のわざはひには にるべくもなき大僻見なりあらあら此れを申すべし、 所謂大唐の玄宗皇帝の御宇に善
06 無畏三蔵・金剛智三蔵・不空三蔵、大日経・金剛頂経・蘇悉地経を月支よりわたす、此の三経の説相分明なり其の極
07 理を尋ぬれば会二破二の一乗・其の相を論ずれば 印と真言と計りなり、 尚華厳般若の三一相対の一乗にも及ばず
08 天台宗の爾前の別円程もなし 但蔵通二教を面とするを善無畏三蔵をもはく 此の経文をあらわにいゐ出す程ならば
09 華厳法相にもをこつかれ 天台宗にもわらはれなん大事として月支よりは持ち来りぬさてもだせば 本意にあらずと
10 やをもひけん、 天台宗の中に一行禅師という僻人一人ありこれをかたらひて 漢土の法門をかたらせけり、一行阿
11 闍梨うちぬかれて三論・法相・華厳等をあらあら・かたるのみならず 天台宗の立てられけるやうを申しければ善無
12 畏をもはく 天台宗は天竺にして聞きしにも・なをうちすぐれてかさむべきやうもなかりければ善無畏・一行をうち
13 ぬひて云く 和僧は漢土には・こざかしき者にてありけり、 天台宗は神妙の宗なり今真言宗の天台宗にかさむとこ
14 ろは印と真言と計りなりといゐければ 一行さもやとをもひければ善無畏三蔵一行にかたて云く、 天台大師の法華
15 経に疏をつくらせ給へるごとく大日経の疏を造りて 真言を弘通せんとをもう 汝かきなんやといゐければ一行が云
16 くやすう候、 但しいかやうにかき候べきぞ天台宗はにくき宗なり 諸宗は我も我もとあらそいをなせども一切に叶
17 わざる事一あり、 所謂法華経の序分に無量義経と申す経をもつて前四十余年の経経をば 其の門を打ちふさぎ候い
18 ぬ、法華経の法師品・神力品をもつて 後の経経をば又ふせがせぬ肩をならぶ 経経をば今説の文をもつてせめ候大
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01 日経をば三説の中にはいづくにかをき候べきと問ひければ 爾の時に善無畏三蔵大に巧んで云く 大日経に住心品と
02 いう品あり 無量義経の四十余年の経経を打ちはらうがごとし、 大日経の入漫陀羅已下の諸品は漢土にては 法華
03 経・大日経とて二本なれども天竺にては一経のごとし、 釈迦仏は舎利弗・弥勒に向つて大日経を法華経となづけて
04 印と真言とをすてて但 理計りをとけるを羅什三蔵此れをわたす天台大師此れをみる、 大日如来は法華経を大日経
05 となづけて金剛薩タに向つてとかせ給う 此れを大日経となづく我まのあたり天竺にして これを見る、されば汝が
06 かくべきやうは 大日経と法華経とをば水と乳とのやうに一味となすべし、 もししからば大日経は已今当の三説を
07 ば皆法華経のごとくうちをとすべし、 さて印と真言とは心法の一念三千に荘厳するならば 三密相応の秘法なるべ
08 し、三密相応する程ならば 天台宗は意密なり真言は甲なる将軍の甲鎧を帯して 弓箭を横たへ太刀を腰にはけるが
09 ごとし、 天台宗は意密計りなれば甲なる将軍の赤裸なるがごとくならんといゐければ、 一行阿闍梨は此のやうに
10 かきけり、 漢土三百六十箇国には此の事を知る人なかりけるかのあひだ 始めには勝劣を諍論しけれども善無畏等
11 は人がらは重し天台宗の人人は軽かりけり、 又天台大師ほどの智ある者もなかりければ 但日日に真言宗になりて
12 さてやみにけり、 年ひさしくなればいよいよ真言の誑惑の根ふかくかくれて候いけり、 日本国の伝教大師・漢土
13 にわたりて 天台宗をわたし給うついでに真言宗をならべわたす、 天台宗を日本の皇帝にさづけ真言宗を六宗の大
14 徳にならはせ給う、 但し六宗と天台宗の勝劣は入唐已前に定めさせ給う、 入唐已後には円頓の戒場を立てう立て
15 じの論の計りなかりけるかのあひだ敵多くしては 戒場の一事成りがたしとやをぼしめしけん、 又末法にせめさせ
16 んとやをぼしけん皇帝の御前にしても 論ぜさせ給はず弟子等にもはかばかしくかたらせ給はず、 但し依憑集と申
17 す一巻の秘書あり 七宗の人人の天台に落ちたるやうをかかれて候文なり、 かの文の序に真言宗の誑惑一筆みへて
18 候弘法大師は 同じき延暦年中に御入唐・青竜寺の慧果に値い給いて真言宗をならはせ給へり、 御帰朝の後・一代
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01 の勝劣を判じ給いけるに第一真言・第二華厳・第三法華とかかれて候、 此の大師は世間の人人もつてのほかに重ず
02 る人なり、但し仏法の事は申すにをそれあれども・もつてのほかにあらき事どもはんべり、 此の事をあらあら・か
03 んがへたるに漢土にわたらせ給いては 但真言の事相の印真言計り習いつたえて 其の義理をばくはしくもさはぐら
04 せ給はざりけるほどに 日本にわたりて後大に世間を見れば 天台宗もつてのほかに・かさみたりければ、我が重ず
05 る真言宗ひろめがたかりけるかのゆへに 本日本国にして習いたりし華厳宗をとりいだして 法華経にまされるよし
06 を申しけり、 それも常の華厳宗に申すやうに申すならば 人信ずまじとやをぼしめしけん・すこしいろをかえて此
07 れは大日経・竜猛菩薩の菩提心論・善無畏等の実義なりと 大妄語をひきそへたりけれども天台宗の人人いたうとが
08 め申す事なし。
09 問うて云く弘法大師の十住心論・秘蔵宝鑰二教論に云く 「此くの如き乗乗自乗に名を得れども後に望めば戯論
10 と作す」 又云く「無明の辺域にして明の分位に非ず」 又云く「第四熟蘇味なり」又云く「震旦の人師等諍つて醍
11 醐を盗んで各自宗に名く」等云云、 此等の釈の心如何、 答えて云く予此の釈にをどろいて一切経並びに大日の三
12 部経等をひらきみるに 華厳経と大日経とに対すれば法華経戯論・六波羅蜜経に対すれば盗人・守護経に対すれば無
13 明の辺域と申す経文は一字一句も候はず 此の事はいとはかなき事なれども 此の三四百余年に日本国のそこばくの
14 智者どもの用いさせ給へば 定めてゆへあるかとをもひぬべし、 しばらくいとやすきひが事をあげて余事のはかな
15 き事をしらすべし、 法華経を醍醐味と称することは陳隋の代なり六波羅蜜経は唐の半に般若三蔵・此れをわたす、
16 六波羅蜜経の醍醐は陳隋の世にはわたりてあらばこそ 天台大師は真言の醍醐をば盗ませ給はめ、 傍例あり日本の
17 得一が云く天台大師は深密経の三時教をやぶる 三寸の舌をもつて五尺の身をたつべしとののしりしを 伝教大師此
18 れをただして云く深密経は唐の始玄奘これをわたす 天台は陳隋の人・智者御入滅の後・数箇年あつて深密経わたれ
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01 り、 死して已後にわたれる経をばいかでか破り給うべきとせめさせ給いて候いしかば 得一はつまるのみならず舌
02 八にさけて死し候いぬ、これは彼にはにるべくもなき悪口なり、華厳の法蔵・三論の嘉祥・法相の玄奘・天台等・乃
03 至南北の諸師・後漢より已下の三蔵人師を皆をさえて盗人とかかれて候なり、 其の上・又法華経を醍醐と称するこ
04 とは天台等の私の言にはあらず、 仏・涅槃経に法華経を醍醐ととかせ給い天親菩薩は法華経・涅槃経を醍醐とかか
05 れて候、竜樹菩薩は法華経を妙薬となづけさせ給う、 されば法華経等を醍醐と申す人・盗人ならば釈迦・多宝・十
06 方の諸仏・竜樹・天親等は盗人にてをはすべきか、弘法の門人等・乃至日本の東寺の真言師・如何に自眼の黒白はつ
07 たなくして弁へずとも 他の鏡をもつて自禍をしれ、 此の外法華経を戯論の法とかかるること大日経・金剛頂経等
08 にたしかなる経文をいだされよ、設い彼彼の経経に法華経を戯論ととかれたりとも訳者のアヤマる事もあるぞかしよ
09 くよく思慮のあるべかりけるか、 孔子は九思一言・周公旦は沐には三にぎり 食には三はかれけり 外書のはかな
10 き世間の浅き事を習う人すら智人はかう候ぞかし、 いかにかかるあさましき事はありけるやらん、 かかる僻見の
11 末へなれば彼の伝法院の本願とがうする 聖覚房が舎利講の式に云く「尊高なる者は 不二摩訶衍の仏なり驢牛の三
12 身は車を扶くること能はず 秘奥なる者は両部・漫陀羅の教なり 顕乗の四法は履を採るに堪へず」と云云、 顕乗
13 の四法と申すは法相.三論・華厳・法華の四人、驢牛の三身と申すは法華・華厳・般若.深密経の教主の四仏、此等の
14 仏僧は真言師に対すれば聖覚・弘法の牛飼・履物取者にもたらぬ程の事なりとかいて候、 彼の月氏の大慢婆羅門は
15 生知の博学・顕密二道 胸にうかべ内外の典籍・掌ににぎる、 されば王臣頭をかたぶけ 万人師範と仰ぐあまりの
16 慢心に世間に尊崇する者は大自在天・婆籔天・那羅延天・大覚世尊・此の四聖なり我が座の四足にせんと座の足につ
17 くりて坐して法門を申しけり、 当時の真言師が釈迦仏等の 一切の仏をかきあつめて 潅頂する時敷まんだらとす
18 るがごとし、 禅宗の法師等が云く 此の宗は仏の頂をふむ大法なりというがごとし、 而るを賢愛論師と申せし小
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01 僧あり彼をただすべきよし申せしかども 王臣万民これをもちゐず、 結句は大慢が弟子等・檀那等に申しつけて無
02 量の妄語をかまへて悪口打擲せしかども すこしも命もをしまずののしりしかば帝王・賢愛をにくみて つめさせん
03 とし給いしほどに かへりて大慢がせめられたりしかば、 大王天に仰ぎ地に伏してなげひての給はく朕はまのあた
04 り此の事をきひて邪見をはらしぬ 先王はいかに此の者にたぼらされて阿鼻地獄にをはすらんと 賢愛論師の御足に
05 とりつきて悲涙せさせ給いしかば、 賢愛の御計いとして大慢を驢にのせて 五竺に面をさらし給いければいよいよ
06 悪心盛になりて現身に無間地獄に堕ちぬ、 今の世の真言と禅宗等とは此れにかわれりや、 漢土の三階禅師の云く
07 教主釈尊の法華経は第一・第二階の正像の法門なり 末代のためには我がつくれる普経なり 法華経を今の世に行ぜ
08 ん者は十方の大阿鼻獄に堕つべし、 末代の根機にあたらざるゆへなりと申して、六時の礼懺・四時の坐禅・生身仏
09 のごとくなりしかば、 人多く尊みて弟子万余人ありしかどもわづかの小女の 法華経をよみしにせめられて当坐に
10 は音を失い後には大蛇になりてそこばくの檀那 弟子並びに小女処女等をのみ食いしなり、 今の善導・法然等が千
11 中無一の悪義もこれにて候なり、 此等の三大事はすでに久くなり候へばい やしむべきにはあらねども申さば信ず
12 る人もやありなん、 これよりも百千万億倍・信じがたき最大の悪事はんべり、 慈覚大師は伝教大師の第三の御弟
13 子なりしかれども上一人より下万民にいたるまで 伝教大師には勝れてをはします人なりとをもひり、 此の人真言
14 宗と法華宗の実義を極めさせ給いて候が 真言は法華経には勝れたりとかかせ給へり、 而るを叡山三千人の大衆・
15 日本一州の学者等・一同の帰伏の義なり、 弘法の門人等は大師の法華経を華厳経に劣るとかかせ給えるは、 我が
16 かたながらも少し強きやうなれども、 慈覚大師の釈をもつてをもうに 真言宗の法華経に勝れたることは 一定な
17 り、 日本国にして真言宗を法華経に勝るると立つるをば 叡山こそ強きかたきなりぬべかりつるに慈覚をもつて三
18 千人の口をふさぎなば真言宗はをもうごとし、 されば東寺第一のかたうど慈覚大師にはすぐべからず、 例せば浄
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01 土宗・禅宗は余国にてはひろまるとも 日本国にしては延暦寺のゆるされなからんには 無辺劫はふとも叶うまじか
02 りしを安然和尚と申す 叡山第一の古徳・教時諍論と申す文に九宗の勝劣を立てられたるに第一真言宗・第二禅宗・
03 第三天台法華宗・第四華厳宗等云云、 此の大謬釈につひて禅宗は 日本国に充満して すでに亡国とならんとはす
04 るなり法然が念仏宗のはやりて一国を失わんとする因縁は慧心の往生要集の序よりはじまれり、 師子の身の中の虫
05 の師子を食うと仏の記し給うはまことなるかなや。
06 伝教大師は日本国にして 十五年が間・天台真言等を自見せさせ給う生知の妙悟にて師なくしてさとらせ給いし
07 かども、 世間の不審をはらさんがために漢土に亘りて 天台真言の二宗を伝へ給いし時漢土の人人はやうやうの義
08 ありしかども我が心には 法華は真言にすぐれたりとをぼしめししゆへに 真言宗の宗の名字をば削らせ給いて天台
09 宗の止観・真言等かかせ給う、 十二年の年分得度の者二人ををかせ給い、重ねて止観院に法華経・金光明経・仁王
10 経の三部を鎮護国家の三部と定めて宣旨を申し下し永代・日本国の第一の重宝・神璽・宝剣・内侍所とあがめさせ給
11 いき、叡山第一の座主・義真和尚・第二の座主・円澄大師までは此の義相違なし、第三の慈覚大師・御入唐・漢土に
12 わたりて十年が間・顕密二道の勝劣を八箇の大徳にならひつたう、又天台宗の人人・広修・惟ケン等にならはせ給い
13 しかども心の内にをぼしけるは 真言宗は天台宗には勝れたりけり、 我が師・伝教大師はいまだ此の事をばくはし
14 く習せ給わざりけり 漢土に久しくもわたらせ給わざりける故に此の法門はあらうちにをはしけるやとをぼして 日
15 本国に帰朝し・叡山・東塔・止観院の西に総持院と申す大講堂を立て御本尊は金剛界の大日如来・此の御前にして大
16 日経の善無畏の疏を本として金剛頂経の疏七巻・蘇悉地経の疏七巻・已上十四巻をつくる、 此の疏の肝心の釈に云
17 く「教に二種有り 一は顕示教謂く三乗教なり世俗と勝義と未だ円融せざる故に、 二は秘密教謂く一乗教なり世俗
18 と勝義と一体にして融する故に、 秘密教の中に亦二種有り 一には理秘密の教諸の華厳般若維摩法華涅槃等なり但
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01 だ世俗と勝義との不二を説いて 未だ真言密印の事を説かざる故に、 二には事理倶密教謂く大日教金剛頂経蘇悉地
02 経等なり亦世俗と勝義との不二を説き 亦真言密印の事を説く故に」等云云、 釈の心は法華経と真言の三部との勝
03 劣を定めさせ給うに真言の三部経と法華とは 所詮の理は同じく一念三千の法門なり、 しかれども密印と真言等の
04 事法は法華経かけてをはせず 法華経は理秘密・真言の三部経は事理倶密なれば天地雲泥なりとかかれたり、 しか
05 も此の筆は私の釈にはあらず 善無畏三蔵の大日経の疏の心なりとをぼせども なをなを二宗の勝劣不審にやありけ
06 ん、はた又他人の疑いをさんぜんとやをぼしけん、 大師慈覚の伝に云く「大師二経の疏を造り功を成し已畢つて心
07 中独り謂らく此の疏仏意に通ずるや否や 若し仏意に通ぜざれば世に流伝せじ 仍つて仏像の前に安置し七日七夜深
08 誠を翹企し祈請を勤修す五日の五更に至つて夢らく 正午に当つて日輪を仰ぎ見弓を以て之を射る 其の箭日輪に当
09 つて日輪即転動す夢覚めての後深く 仏意に通達せりと悟り後世に伝うべし」等云云、 慈覚大師は本朝にしては伝
10 教・弘法の両家を習いきわめ 異朝にしては八大徳並に南天の宝月三蔵等に十年が間・最大事の秘法をきわめさせ給
11 える上二経の疏をつくり了り 重ねて本尊に祈請をなすに智慧の矢すでに中道の日輪にあたりて うちをどろかせ給
12 い、歓喜のあまりに仁明天王に宣旨を 申しそへさせ給い・天台の座主を真言の官主となし 真言の鎮護国家の三部
13 とて今に四百余年が間・碩学稲麻のごとし渇仰竹葦に同じ、 されば桓武・伝教等の日本国・建立の寺塔は一宇もな
14 く真言の寺となりぬ公家も武家も一同に真言師を召して師匠とあをぎ 官をなし寺をあづけ給ふ、 仏事の木画の開
15 眼供養は八宗一同に大日仏眼の印真言なり。
16 疑つて云く法華経を真言に勝ると申す人は 此の釈をばいかがせん用うべきか又すつべきか、答う仏の未来を定
17 めて云く「法に依つて人に依らざれ」竜樹菩薩の云く「修多羅に依れるは白論なり 修多羅に依らざれば黒論なり」
18 天台の云く「復修多羅と合せば録して之を用ゆ 文無く義無きは信受すべからず」 伝教大師云く「仏説に依憑して
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01 口伝を信ずること莫れ」等云云、 此等の経論釈のごときんば夢を本にはすべからず ただついさして法華経と大日
02 経との勝劣を分明に説きたらん 経論の文こそたいせちに候はめ、 但印真言なくば木画の像の開眼の事・此れ又を
03 この事なり真言のなかりし已前には木画の開眼はなかりしか、天竺・漢土・日本には 真言宗已前の木画の像は或は
04 行き或は説法し或は 御物言あり、印・真言をもて仏を供養せしよりこのかた利生もかたがた失たるなり、 此れは
05 常の論談の義なり、 此の一事にをひては但し日蓮は分明の証拠を余所に引くべからず 慈覚大師の御釈を仰いで信
06 じて候なり。
07 問うて云く何にと信ぜらるるや、答えて云く此の夢の根源は真言は法華経に勝ると造定めての御ゆめなり、 此
08 の夢吉夢ならば 慈覚大師の合せさせ給うがごとく真言勝るべし、 但日輪を射るとゆめにみたるは吉夢なりという
09 べきか、 内典五千七千余巻外典三千余巻の中に日を射るとゆめに見て吉夢なる証拠をうけ給わるべし、 少少此れ
10 より出し申さん阿闍世王は天より月落るとゆめにみて 耆婆大臣に合せさせ給しかば大臣合せて云く 仏の御入滅な
11 り須抜多羅天より日落るとゆめにみる我とあわせて云く 仏の御入滅なり、 修羅は帝釈と合戦の時まづ日月をいた
12 てまつる、夏の桀・殷の紂と申せし悪王は 常に日をいて身をほろぼし国をやぶる、 摩耶夫人は日をはらむとゆめ
13 にみて悉達太子をうませ給う、 かるがゆへに仏のわらわなをば 日種という、 日本国と申すは天照太神の日天に
14 てましますゆへなり、 されば此のゆめは天照太神・伝教大師・釈迦仏・法華経をいたてまつれる矢にてこそ二部の
15 疏は候なれ、 日蓮は愚癡の者なれば経論もしらず 但此の夢をもつて法華経に真言すぐれたりと申す人は今生には
16 国をほろぼし家を失ひ後生にはあび地獄に入るべしとはしりて候、 今現証あるべし 日本国と蒙古との合戦に一切
17 の真言師の調伏を行ひ候へば 日本かちて候ならば真言はいみじかりけりとおもひ候なん、 但し承久の合戦にそこ
18 ばくの真言師のいのり候しが調伏せられ給し 権の大夫殿はかたせ給い、 後鳥羽院は隠岐の国へ御子の天子は佐渡
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01 の嶋嶋へ調伏しやりまいらせ候いぬ、 結句は野干のなきの身にをうなるやうに 還著於本人の経文にすこしもたが
02 はず叡山の三千人かまくらにせめられて 一同にしたがいはてぬ、 しかるに今はかまくらの世さかんなるゆへに東
03 寺・天台・園城・七寺の真言師等と並びに自立をわすれたる法華宗の謗法の人人・関東にをちくだりて頭をかたぶけ
04 ひざをかがめやうやうに武士の心をとりて、 諸寺・諸山の別当となり長吏となりて 王位を失いし悪法をとりいだ
05 して国土安穏といのれば、 将軍家並びに所従の侍已下は国土の安穏なるべき事なんめりと うちをもひて有るほど
06 に法華経を失う大禍の僧どもを用いらるれば 国定めてほろびなん、 亡国のかなしさ亡身のなげかしさに身命をす
07 てて此の事をあらわすべし、 国主世を持つべきならばあやしとおもひてたづぬべきところに ただざんげんのこと
08 ばのみ用いてやうやうのあだをなす、而るに法華経守護の梵天・帝釈・日月・四天・地神等は古の謗法をば不思議と
09 はをぼせども此れをしれる人なければ 一子の悪事のごとくうちゆるして、 いつわりをろかなる時もあり又すこし
10 つみしらする時もあり、 今は謗法を用いたるだに不思議なるにまれまれ諌暁する人をかへりてあだをなす、 一日
11 二日・一月・二月・一年・二年ならず数年に及ぶ、 彼の不軽菩薩の杖木の難に値いしにもすぐれ覚徳比丘の殺害に
12 及びしにもこえたり、而る間.梵釈の二王・日月・四天・衆星.地神等やうやうにいかり度度いさめらるれども・いよ
13 いよあだをなすゆへに天の御計いとして 隣国の聖人にをほせつけられて此れをいましめ 大鬼神を国に入れて人の
14 心をたぼらかし自界反逆せしむ、 吉凶につけて瑞大なれば難多かるべきことわりにて 仏滅後・二千二百三十余年
15 が間いまだいでざる大長星いまだふらざる大地しん出来せり、 漢土・日本に智慧すぐれ才能いみじき聖人は 度度
16 ありしかどもいまだ日蓮ほど法華経のかたうどして 国土に強敵多くまうけたる者なきなり、 まづ眼前の事をもつ
17 て日蓮は閻浮提第一の者としるべし、 仏法日本にわたて七百余年・一切経は五千七千・宗は八宗十宗・智人は稲麻
18 のごとし弘通は竹葦ににたり、 しかれども仏には阿弥陀仏・諸仏の名号には 弥陀の名号ほどひろまりてをはする
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01 は候はず、此の名号を弘通する人は 慧心は往生要集をつくる日本国・三分が一は一同の弥陀念仏者・永観は十因と
02 往生講の式をつくる 扶桑三分が二分は一同の念仏者・法然せんちやくをつくる本朝一同の念仏者、 而れば今の弥
03 陀の名号を唱うる人人は一人が弟子にはあらず、 此の念仏と申すは雙観経・観経・阿弥陀経の題名なり権大乗経の
04 題目の広宣流布するは実大乗経の題目の流布せんずる序にあらずや、 心あらん人は此れをすひしぬべし、 権経流
05 布せば実経流布すべし 権経の題目流布せば実経の題目も又流布すべし、 欽明より当帝にいたるまで七百余年いま
06 だきかずいまだ見ず 南無妙法蓮華経と唱えよと他人をすすめ我と唱えたる智人なし、 日出でぬれば星かくる賢王
07 来れば愚王ほろぶ 実経流布せば権経のとどまり智人・南無妙法蓮華経と唱えば 愚人の此れに随はんこと影と身と
08 声と響とのごとくならん、 日蓮は日本第一の法華経の行者なる事あえて疑ひなし、 これをもつてすいせよ漢土月
09 支にも一閻浮提の内にも肩をならぶる者は有るべからず。
10 問うて云く正嘉の大地しん文永の大彗星はいかなる事によつて出来せるや 答えて云く天台云く「智人は起を知
11 り蛇は自ら蛇を識る」等云云、 問て云く心いかん、 答えて云く上行菩薩の大地より出現し給いたりしをば弥勒菩
12 薩・文殊師利菩薩・観世音菩薩・薬王菩薩等の四十一品の無明を断ぜし人人も 元品の無明を断ぜざれば愚人といは
13 れて寿量品の南無妙法蓮華経の末法に流布せんずるゆへに、 此の菩薩を召し出されたるとは しらざりしという事
14 なり、問うて云く 日本漢土月支の中に此の事を知る人あるべしや、 答えて云く見思を断尽し四十一品の無明を尽
15 せる大菩薩だにも此の事をしらせ給はずいかにいわうや一毫の惑をも断ぜぬ者どもの 此の事を知るべきか、 問う
16 て云く智人なくばいかでか此れを対治すべき例せば病の所起を知らぬ人の病人を治すれば 人必ず死す、 此の災の
17 根源を知らぬ人人がいのりをなさば国まさに亡びん事疑いなきか、 あらあさましやあらあさましや、 答えて云く
18 蛇は七日が内の大雨をしり烏は年中の吉凶をしる此れ則ち大竜の所従又久学のゆへか、 日蓮は凡夫なり、 此の事
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01 をしるべからずといえども汝等にほぼこれをさとさん、 彼の周の平王の時・禿にして裸なる者出現せしを 辛有と
02 いゐし者うらなつて云く百年が内に世ほろびん 同じき幽王の時山川くづれ大地ふるひき白陽と云う者 勘えていは
03 く十二年の内に大王事に値せ給うべし、 今の大地震・大長星等は国王・日蓮をにくみて亡国の法たる禅宗と念仏者
04 と真言師をかたふどせらるれば天いからせ給いていださせ給うところの災難なり。
05 問うて云くなにをもつてか此れを信ぜん、 答えて云く最勝王経に云く「悪人を愛敬し善人を治罰するに由るが
06 故に星宿及び風雨皆時を以て行われず」等云云、 此の経文のごときんば 此国に悪人のあるを王臣此れを帰依すと
07 いう事疑いなし、 又此の国に智人あり国主此れをにくみてあだすという事も又疑いなし、 又云く「三十三天の衆
08 咸忿怒の心を生じ 変怪流星堕ち二の日倶時に出で他方の怨賊来りて国人喪乱に遭わん」等云云、 すでに此の国に
09 天変あり地夭あり他国より此れをせむ 三十三天の御いかり有こと又疑いなきか、 仁王経に云く「諸の悪比丘多く
10 名利を求め国王太子王子の前に於て自ら破仏法の因縁破国の因縁を説く其王別ずして信じて 此語を聴く」等云云、
11 又云く「日月度を失い時節反逆し 或は赤日出で 或は黒日出で二三四五の日出で 或は日蝕して光無く或は日輪一
12 重二重四五重輪現ず」等云云、文の心は悪比丘等・国に充満して国王・太子・王子等をたぼらかして破仏法・破国の
13 因縁をとかば 其の国の王等此の人にたぼらかされてをぼすやう、 此の法こそ持仏法の因縁・持国の因縁とをもひ
14 此の言ををさめてをこなうならば 日月に変あり大風と大雨と大火等出来し 次には内賊と申して親類より大兵乱お
15 こり我がかたうどしぬべき者をば 皆打ち失いて後には他国にせめられて 或は自殺し或はいけどりにせられて或は
16 降人となるべし 是れ偏に仏法をほろぼし 国をほろぼす故なり、 守護経に云く「彼の釈迦牟尼如来所有の教法は
17 一切の天魔外道悪人五通の神仙皆乃至少分をも破壊せず而るに此の名相の諸の悪沙門 皆悉く毀滅して余り有ること
18 無からしむ須弥山を仮使三千界の中の草木を尽して 薪と為し長時に焚焼すとも一毫も損すること無し 若し劫火起
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01 りて火内従り生じ 須臾も焼滅せんには灰燼をも余す無きが如し」等云云、 蓮華面経に云く「仏阿難に告わく譬え
02 ば師子の命終せんに 若しは空若しは地若しは水若しは陸 所有の衆生敢て師子の身の宍を食わず 唯師子自ら諸の
03 虫を生じて自ら師子の宍を食うが如し 阿難我が之の仏法は余の能く壊るに非ず 是れ我法の中の諸の悪比丘我が三
04 大阿僧祇劫積行勤苦し集むる所の仏法を破らん」 等云云、 経文の心は過去の迦葉仏釈迦如来の末法の事を訖哩枳
05 王にかたらせ給い釈迦如来の仏法をば いかなるものがうしなうべき、 大族王の五天の堂舎を焼き払い十六大国の
06 僧尼を殺せし 漢土の武宗皇帝の九国の寺塔四千六百余所を消滅せしめ 僧尼二十六万五百人を還俗せし等のごとく
07 なる悪人等は釈迦の仏法をば失うべからず、 三衣を身にまとひ一鉢を頚にかけ 八万法蔵を胸にうかべ十二部経を
08 口にずうせん僧侶が彼の仏法を失うべし、 譬へば須弥山は金の山なり 三千大千世界の草木をもつて四天六欲に充
09 満してつみこめて 一年二年百千万億年が間やくとも一分も損ずべからず、 而るを劫火をこらん時須弥の根より豆
10 計りの火いでて須弥山をやくのみならず三千大千世界をやき失うべし、 若し仏記のごとくならば十宗・八宗・内典
11 の僧等が仏教の須弥山をば焼き払うべきにや、 小乗の倶舎・成実・律僧等が大乗をそねむ胸の瞋恚は炎なり真言の
12 善無畏・禅宗の三階等・浄土宗の善導等は仏教の師子の肉より出来せる蝗虫の比丘なり、伝教大師は三論・法相・華
13 厳等の日本の碩徳等を六虫とかかせ給へり、 日蓮は真言・禅宗・浄土等の元祖を三虫となづく、又天台宗の慈覚・
14 安然・慧心等は法華経・伝教大師の師子の身の中の三虫なり。
15 此等の大謗法の根源をただす日蓮にあだをなせば 天神もをしみ地祇もいからせ給いて災夭も大に起るなり、さ
16 れば心うべし一閻浮提第一の大事を申すゆへに 最第一の瑞相此れをこれり、 あわれなるかなや・なげかしきかな
17 や 日本国の人皆無間大城に堕ちむ事よ、 悦しきかなや・楽かなや不肖の身として 今度心田に仏種をうえたる、
18 いまにしもみよ 大蒙古国・数万艘の兵船をうかべて日本をせめば 上一人より下万民にいたるまで一切の仏寺一切
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01 の神寺をばなげすてて各各声をつるべて南無妙法蓮華経・ 南無妙法蓮華経と唱え掌を合せてたすけ給え、 日蓮の
02 御房・ 日蓮の御房とさけび候はんずるにや、 例せば月支のいう大族王は幻日王に掌をあはせ日本の宗盛はかぢわ
03 らをうやまう、 大慢のものは敵に随うという・このことわりなり、 彼の軽毀大慢の比丘等は始めには杖木をとと
04 のへて不軽菩薩を打ちしかども 後には掌をあはせて失をくゆ、 提婆達多は釈尊の御身に血をいだししかども 臨
05 終の時には南無と唱えたりき、 仏とだに申したりしかば地獄には堕つべからざりしを 業ふかくして但南無とのみ
06 となへて仏とはいはず、 今日本国の高僧等も南無日蓮聖人ととなえんとすと も南無計りにてやあらんずらんふび
07 んふびん。
08 外典に曰く未萠をしるを聖人という内典に云く三世を知るを 聖人という余に三度のかうみようあり一には去し
09 文応元年太歳庚申七月十六日に立正安国論を最明寺殿に奏したてまつりし時宿谷の入道に向つて云く禅宗と念仏宗と
10 を失い給うべしと申させ給へ 此の事を御用いなきならば 此の一門より事をこりて他国にせめられさせ給うべし、
11 二には去し文永八年九月十二日申の時に平左衛門尉に向つて云く 日蓮は日本国の棟梁なり 予を失なうは日本国の
12 柱橦を倒すなり、 只今に自界反逆難とてどしうちして他国侵逼難とて 此の国の人人・他国に打ち殺さるのみなら
13 ず多くいけどりにせらるべし、建長寺・寿福寺・極楽寺・大仏・長楽寺等の一切の念仏者・禅僧等が寺塔をばやきは
14 らいて彼等が頚をゆひのはまにて切らずば日本国必ずほろぶべしと申し候了ぬ、第三には去年文永十一年四月八日左
15 衛門尉に語つて云く、 王地に生れたれば身をば随えられたてまつるやうなりとも 心をば随えられたてまつるべか
16 らず念仏の無間獄・禅の天魔の所為なる事は疑いなし、 殊に真言宗が此の国土の大なるわざはひにては候なり 大
17 蒙古を調伏せん事・真言師には仰せ付けらるべからず若し 大事を真言師・調伏するならば いよいよいそいで此の
18 国ほろぶべしと申せしかば 頼綱問うて云くいつごろよせ候べき、 予言く経文にはいつとはみへ候はねども天の御
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01 気色いかりすくなからず・きうに見へて候よも 今年はすごし候はじと語りたりき、 此の三つの大事は日蓮が申し
02 たるにはあらず 只偏に釈迦如来の御神・我身に入りかわせ給いけるにや我が身ながらも 悦び身にあまる法華経の
03 一念三千と申す大事の法門はこれなり、 経に云く所謂諸法如是相と申すは何事ぞ 十如是の始の相如是が第一の大
04 事にて候へば仏は世にいでさせ給う、 智人は起をしる蛇みづから蛇をしるとはこれなり、 衆流あつまりて大海と
05 なる微塵つもりて須弥山となれり、 日蓮が法華経を信じ始めしは日本国には一渧・一微塵のごとし、 法華経を二
06 人・三人・十人・百千万億人・唱え伝うるほどならば妙覚の須弥山ともなり大涅槃の大海ともなるべし仏になる道は
07 此れよりほかに又もとむる事なかれ。
08 問うて云く 第二の文永八年九月十二日の御勘気の時はいかにとして我をそんせば自他のいくさをこるべしとは
09 しり給うや、 答う大集経五十に云く「若し復諸の刹利国王諸の非法を作し世尊の声聞の弟子を悩乱し若しは以て毀
10 罵し刀杖をもて打斫し及び衣鉢種種の資具を奪い 若しは他の給施に留難を作す者有らば 我等彼をして自然に卒に
11 他方の怨敵を起さしめ及び自界の国土にも亦 兵起り飢疫飢饉非時の風雨闘諍言訟譏謗せしめ、 又其の王をして久
12 しからずして 復当に己れが国を亡失せしむべし」等云云、 夫れ諸経に諸文多しといえども此の経文は身にあたり
13 時にのぞんで 殊に尊くをぼうるゆへにこれをせんしいだす、 此の経文に我等とは梵王と帝釈と第六天の魔王と日
14 月と四天等の三界の一切の天竜等なり、此等の上主・仏前に詣して誓つて云く仏の滅後・正法・像法・末代の中に正
15 法を行ぜん者を 邪法の比丘等が国主にうつたへば 王に近きもの王に心よせなる者・我がたつとしとをもう者のい
16 うことなれば 理不尽に是非を糾さず・彼の智人をさんざんとはぢにをよばせなんどせば、 其の故ともなく其の国
17 ににわかに大兵乱・出現し後には他国にせめらるべし 其の国主もうせ其の国もほろびなんずととかれて候、 いた
18 ひとかゆきとはこれなり、 予が身には今生にはさせる失なし但国をたすけんがため 生国の恩をほうぜんと申せし
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01 を御用いなからんこそ本意にあらざるに、あまさへ召し出して法華経の第五の巻を懐中せるをとりいだしてさん
02 ざんとさいなみ、 結句はこうぢをわたしなんどせしかば申したりしなり、 日月天に処し給いながら日蓮が大難に
03 あうを今度かわらせ給はずば 一つには日蓮が法華経の行者ならざるか 忽に邪見をあらたむべし、 若し日蓮・法
04 華経の行者ならば忽に国にしるしを見せ給へ 若ししからずば今の日月等は釈迦・多宝・十方の仏をたぶらかし奉る
05 大妄語の人なり、 提婆が虚誑罪・倶伽利が大妄語にも百千万億倍すぎさせ給へる大妄語の天なりと 声をあげて申
06 せしかば忽に出来せる自界反逆難なり、 されば国土いたくみだれば 我身はいうにかひなき 凡夫なれども御経を
07 持ちまいらせ候分斉は当世には日本第一の大人なりと申すなり。
08 問うて云く慢煩悩は七慢・九慢・八慢あり汝が大慢は仏教に明すところの大慢にも百千万億倍すぐれたり、彼の
09 徳光論師は弥勒菩薩を礼せず・大慢婆羅門は四聖を座とせり、 大天は凡夫にして阿羅漢となのる・無垢論師が五天
10 第一といゐし、 此等は皆阿鼻に堕ちぬ無間の罪人なり 汝いかでか一閻浮提第一の智人となのれる地獄に堕ちざる
11 べしやおそろしおそろし、 答えて云く汝は七慢・九慢・八慢等をばしれりや大覚世尊は三界第一となのらせ給う一
12 切の外道が云く 只今天に罰せらるべし大地われて入りなんと、 日本国の七寺・三百余人が云く最澄法師は大天が
13 蘇生か鉄腹が再誕か等云云、 而りといえども天も罰せずかへて左右を守護し地もわれず金剛のごとし、 伝教大師
14 は叡山を立て一切衆生の眼目となる 結句七大寺は落ちて弟子となり諸国は檀那となる、 されば現に勝れたるを勝
15 れたりという事は 慢ににて大功徳なりけるか、 伝教大師云く「天台法華宗の諸宗に勝れたるは所依の経に拠るが
16 故に自讃毀他ならず」等云云 法華経第七に云く「衆山の中に須弥山これ第一なり 此の法華経も亦復かくの如し諸
17 経の中に於て最もこれ其の上なり」等云云、 此の経文は已説の華厳・般若・大日経等、今説の無量義経、当説の涅
18 槃経等の五千.七千.月支.竜宮.四王天.トウ利天.日月の中の一切経.尽十方界の諸経は土山.黒山・小鉄囲山・大鉄囲
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01 山のごとし日本国にわたらせ給える法華経は須弥山のごとし。
02 又云く「能く是の経典を受持すること有らん者も、亦復是くの如し、 一切衆生の中に於て亦これ第一なり」等
03 云云、此の経文をもつて案ずるに華厳経を持てる普賢菩薩・解脱月菩薩等・竜樹菩薩・馬鳴菩薩・法蔵大師・清涼国
04 師.則天皇后・審祥大徳.良弁僧正・聖武天皇,深密般若経を持てる勝義生菩薩.須菩提尊者・嘉祥大師・玄奘三蔵・太
05 宗.高宗・観勒・道昭.孝徳天皇、真言宗の大日経を持てる金剛薩タ.竜猛菩薩・竜智菩薩・印生王.善無畏三蔵・金剛
06 智三蔵・不空三蔵.玄宗・代宗・慧果.弘法大師・慈覚大師、涅槃経を持てる迦葉童子菩薩.五十二類.曇無懺三蔵、光
07 宅寺の法雲南三北七の十師等よりも末代悪世の凡夫の一戒も持たず 一闡提のごとくに人には思はれたれども、 経
08 文のごとく已今当にすぐれて法華経より外は仏になる道なしと強盛に信じて 而も一分の解なからん人人は、 彼等
09 の大聖には 百千万億倍のまさりなりと申す経文なり、 彼の人人は或は彼の経経に且く人を入れて法華経へうつさ
10 んがためなる人もあり、 或は彼の経に著をなして法華経へ入らぬ人もあり、 或は彼の経経に留逗のみならず彼の
11 経経を深く執するゆへに 法華経を彼の経に劣るという人もあり、 されば今法華経の行者は心うべし、譬えば「一
12 切の川流江河の諸水の中に海これ第一なるが如く 法華経を持つ者も亦復是くの如し、 又衆星の中に月天子最もこ
13 れ第一なるが如く 法華経を持つ者も亦復是くの如し」等と御心えあるべし、 当世日本国の智人等は衆星のごとし
14 日蓮は満月のごとし。
15 問うて云く古へかくのごとくいえる人ありや、 答えて云く伝教大師の云く「当に知るべし他宗所依の経は未だ
16 最為第一ならず其の能く経を持つ者も亦未だ第一ならず 天台法華宗は所持の経最為第一なるが故に能く法華を持つ
17 者も亦衆生の中に第一なり、 已に仏説に拠る豈自歎ならんや」等云云、 夫れ麒麟の尾につけるだにの 一日に千
18 里を飛ぶといゐ、 転王に随える劣夫の須臾に四天下をめぐるというをば難ずべしや 疑うべしや、 豈自歎哉の釈
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01 は肝にめいずるか 若し爾らば法華経を経のごとくに持つ人は梵王にもすぐれ帝釈にもこえたり、 修羅を随へば須
02 弥山をもになひぬべし 竜をせめつかはば大海をもくみほしぬべし、 伝教大師云く「讃むる者は福を安明に積み謗
03 る者は罪を無間に開く」等云云、 法華経に云く「経を読誦し書持すること有らん者を見て 軽賎憎嫉して結恨を懐
04 かん乃至其の人命終して阿鼻獄に入らん」等云云、 教主釈尊の金言まことならば 多宝仏の証明たがずば 十方の
05 諸仏の舌相一定ならば 今日本国の一切の衆生・無間地獄に堕ちん事疑うべしや、 法華経の八の巻に云く「若し後
06 の世に於て 是の経典を受持し読誦せん者は乃至諸願虚しからず、 亦現世に於て其の福報を得ん」又云く「若し之
07 を供養し讃歎すること有らん者は 当に今世に於て現の果報を得べし」等云云、 此の二つの文の中に亦於現世・得
08 其福報の八字・当於今世・得現果報の八字・已上 十六字の文むなしくして 日蓮今生に大果報なくば 如来の金言
09 は提婆が虚言に同じく 多宝の証明は倶伽利が妄語に異ならじ、 謗法の一切衆生も阿鼻地獄に堕つべからず、三世
10 の諸仏もましまさざるか、 されば我が弟子等心みに法華経のごとく 身命もおしまず修行して 此の度仏法を心み
11 よ、南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経。
12 抑此の法華経の文に 「我身命を愛せず但無上道を惜しむ」 涅槃経に云く「譬えば王使の善能談論して方便に
13 巧なる命を他国に奉るに 寧ろ身命を喪うとも終に王所説の言教を匿さざるが如し 智者も亦爾なり凡夫中に於て身
14 命を惜まずかならず 大乗方等如来の秘蔵一切衆生に皆仏性有りと宣説すべし」等云云 いかやうな事のあるゆへに
15 身命をすつるまでにてあるやらん委細にうけ給わり候はん、 答えて云く予が初心の時の存念は伝教・弘法・慈覚・
16 智証等の勅宣を給いて 漢土にわたりし事の我不愛身命にあたれるか、 玄奘三蔵の漢土より月氏に入りしに六生が
17 間・身命をほろぼししこれ等か、雪山童子の半偈のために身をなげ、 薬王菩薩の七万二千歳が間・臂をやきし事か
18 なんどをもひしほどに 経文のごときんば此等にはあらず、 経文に我不愛身命と申すは上に三類の敵人をあげて彼
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01 等がのりせめ 刀杖に及んで身命をうばうともみへたり、 又涅槃経の文に寧喪身命等と とかれて候は 次下の経
02 文に云く「一闡提有り 羅漢の像を作し空処に住し方等経典を誹謗す、 諸の凡夫人見已つて皆真の阿羅漢是れ大菩
03 薩なりと謂わん」等云云、 彼の法華経の文に第三の敵人を説いて云く「或は阿蘭若に納衣にして 空閑に在つて乃
04 至世に恭敬せらるること六通の羅漢の如き有らん」等云云、 般泥オン経に云く「羅漢に似たる一闡提有つて悪業を
05 行ず」等云云、 此等の経文は正法の強敵と申すは悪王悪臣よりも外道魔王よりも破戒の僧侶よりも、 持戒有智の
06 大僧の中に大謗法の人あるべし、 されば妙楽大師かいて云く「第三最も甚し 後後の者は転識り難きを 以ての故
07 なり」等云云、 法華経の第五の巻に云く「此の法華経は諸仏如来の秘密の蔵なり、 諸経の中に於て最も其の上に
08 在り」等云云、 此の経文に最在其上の四字あり、 されば此の経文のごときんば 法華経を 一切経の頂にありと
09 申すが法華経の行者にてはあるべきか、 而るを又国王に尊重せらるる人人あまたありて、 法華経にまさりてをは
10 する経経ましますと申す人にせめあひ候はん時、 かの人は王臣に御帰依あり法華経の行者は貧道なるゆへに、 国
11 こぞつてこれをいやしみ候はん時、 不軽菩薩のごとく賢愛論師がごとく申しつをらば身命に及ぶべし、 此れが第
12 一の大事なるべしとみへて候 此の事は今の日蓮が身にあたれり、 予が分斉として弘法大師・慈覚大師・善無畏三
13 蔵・金剛智三蔵・不空三蔵なんどを法華経の強敵なり 経文まことならば無間地獄は疑なしなんど申すは 裸形にて
14 大火に入るはやすし 須弥を手にとてなげんはやすし 大石を負うて大海をわたらんはやすし日本国にして此の法門
15 を立てんは大事なるべし云云。
16 霊山浄土の教主釈尊.宝浄世界の多宝仏.十方分身の諸仏・地涌千界の菩薩等・梵釈.日月・四天等.冥に加し顕に
17 助け給はずば一時一日も安穏なるべしや。
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報恩抄 日蓮之を撰す
01 夫れ老狐は塚をあとにせず白亀は毛宝が恩をほうず畜生すらかくのごとしいわうや人倫をや、 されば古への賢
02 者予譲といゐし者は剣をのみて智伯が恩にあてこう演と申せし 臣下は腹をさひて衛の懿公が肝を入れたり、 いか
03 にいわうや仏教をならはん者父母・師匠・国恩をわするべしや、 此の大恩をほうぜんには必ず仏法をならひきはめ
04 智者とならで叶うべきか、 譬へば衆盲をみちびかんには生盲の身にては橋河をわたしがたし 方風を弁えざらん大
05 舟は諸商を導きて宝山にいたるべしや、 仏法を習い極めんとをもはばいとまあらずば叶うべからず いとまあらん
06 とをもはば父母・師匠・国主等に随いては叶うべからず 是非につけて出離の道をわきまへざらんほどは父母・師匠
07 等の心に随うべからず、 この義は諸人をもはく顕にもはづれ冥にも叶うまじとをもう、しかれども外典の孝経にも
08 父母主君に随はずして 忠臣・孝人なるやうもみえたり、 内典の仏経に云く「恩を棄て無為に入るは真実報恩の者
09 なり」等云云、比干が王に随わずして賢人のなをとり悉達太子の浄飯大王に背きて三界第一の孝となりしこれなり。
10 かくのごとく存して父母・師匠等に随わずして仏法をうかがひし程に一代聖教をさとるべき明鏡十あり、所謂る
11 倶舎.成実・律宗.法相・三論・真言.華厳・浄土・禅宗.天台法華宗なり此の十宗を明師として一切経の心をしるべし
12 世間の学者等おもえり 此の十の鏡はみな正直に仏道の道を照せりと 小乗の三宗はしばらく・これををく民の消息
13 の是非につけて他国へわたるに用なきがごとし、 大乗の七鏡こそ生死の大海をわたりて 浄土の岸につく大船なれ
14 ば此を習いほどひて 我がみも助け人をも・みちびかんとおもひて習ひみるほどに 大乗の七宗いづれも・いづれも
15 自讃あり我が宗こそ一代の心はえたれ・えたれ等云云、所謂華厳宗の杜順・智儼・法蔵・澄観等、法相宗の玄奘・慈
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01 恩・智周.智昭等、三論宗の興皇・嘉祥等、真言宗の善無畏.金剛智・不空.弘法.慈覚.智証等、禅宗の達磨.慧可・慧
02 能等、浄土宗の道綽・善導・懐感・源空等、此等の宗宗みな本経・本論によりて我も我も一切経をさとれり仏意をき
03 はめたりと云云、 彼の人人云く一切経の中には華厳経第一なり法華経大日経等は臣下のごとし、 真言宗の云く一
04 切経の中には大日経第一なり余経は衆星のごとし、 禅宗が云く一切経の中には楞伽経第一なり 乃至余宗かくのご
05 とし、 而も上に挙ぐる諸師は世間の人人・各各おもえり 諸天の帝釈をうやまひ衆星の日月に随うがごとし我等凡
06 夫はいづれの師師なりとも 信ずるならば不足あるべからず 仰いでこそ信ずべけれども 日蓮が愚案はれがたし、
07 世間をみるに各各・我も我もといへども 国主は但一人なり二人となれば国土おだやかならず 家に二の主あれば其
08 の家必ずやぶる一切経も又 かくのごとくや有るらん 何の経にても・をはせ一経こそ一切経の大王にてはをはすら
09 め、 而るに十宗七宗まで各各・諍論して随はず国に七人・十人の大王ありて万民をだやかならじいかんがせんと疑
10 うところに一の願を立つ我れ八宗十宗に随はじ 天台大師の専ら経文を師として 一代の勝劣をかんがへしがごとく
11 一切経を開きみるに 涅槃経と申す経に云く「法に依つて人に依らざれ」等云云 依法と申すは一切経・不依人と申
12 すは仏を除き奉りて 外の普賢菩薩・文殊師利菩薩乃至上にあぐるところの諸の人師なり、 此の経に又云く「了義
13 経に依つて不了義経に依らざれ」等云云、 此の経に指すところ了義経と申すは 法華経・不了義経と申すは華厳経
14 ・大日経・涅槃経等の已今当の一切経なり、 されば仏の遺言を信ずるならば専ら法華経を明鏡として一切経の心を
15 ばしるべきか。
16 随つて法華経の文を開き奉れば「此の法華経は諸経の中に於て 最も其の上に在り」等云云此の経文のごとくば
17 須弥山の頂に帝釈の居がごとく 輪王の頂に如意宝珠のあるがごとく 衆木の頂に月のやどるがごとく 諸仏の頂に
18 肉髻の住せるがごとく此の法華経は華厳経・大日経・涅槃経等の一切経の頂上の如意宝珠なり。
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01 されば専ら論師人師をすてて経文に依るならば 大日経・華厳経等に法華経の勝れ給えることは日輪の青天に出
02 現せる時眼あきらかなる者の天地を見るがごとく高下宛然なり、 又大日経・華厳経等の一切経をみるに此の経文に
03 相似の経文・一字・一点もなし、 或は小乗経に対して勝劣をとかれ或は俗諦に対して真諦をとき 或は諸の空仮に
04 対して中道をほめたり、 譬へば小国の王が我が国の臣下に対して大王というがごとし、 法華経は諸王に対して大
05 王等と云云、 但涅槃経計こそ法華経に相似の経文は候へ、 されば天台已前の南北の諸師は迷惑して法華経は涅槃
06 経に劣と云云、されども専ら経文を開き見るには無量義経のごとく華厳・阿含・方等・般若等の四十余年の経経をあ
07 げて涅槃経に対して 我がみ勝ると・とひて又法華経に対する時は 是の経の出世は乃至法華の中の八千の声聞に記
08 ベツを授くることを得て大菓実を成ずるが如き秋収冬蔵して更に所作無きが如し等と云云、 我れと涅槃経は法華経
09 には劣るととける経文なり、 かう経文は分明なれども南北の大智の諸人の迷うて有りし経文なれば 末代の学者能
10 く能く眼をとどむべし、 此の経文は但法華経・涅槃経の勝劣のみならず十方世界の一切経の勝劣をもしりぬべし、
11 而るを経文にこそ迷うとも天台・妙楽・伝教大師の御れうけんの後は眼あらん人人はしりぬべき事ぞかし、 然れど
12 も天台宗の人たる慈覚・智証すら猶此の経文にくらし・いわうや余宗の人人をや。
13 或る人疑つて云く漢土・日本にわたりたる経経にこそ法華経に勝たる経はをはせずとも月氏・竜宮.四王・日月.
14 トウ利天・都率天なんどには恒河沙の経経ましますなれば其中に法華経に勝れさせ給う御経やましますらん、 答て
15 云く一をもつて万を察せよ 庭戸を出でずして天下をしるとはこれなり、 癡人が疑つて云く我等は南天を見て東西
16 北の三空を見ず 彼の三方の空に此の日輪より別の日やましますらん、 山を隔て煙の立つを見て火を見ざれば煙は
17 一定なれども火にてやなかるらんかくのごとくいはん者は 一闡提の人としるべし生盲にことならず、 法華経の法
18 師品に釈迦如来金口の誠言をもつて 五十余年の一切経の勝劣を定めて云く「我所説の経典は 無量千万億にして已
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01 に説き今説き当に説ん而も其の中に於て此法華経は最も為難信難解なり」等云云、 此の経文は但釈迦如来・一仏の
02 説なりとも等覚已下は仰いで信ずべき上 多宝仏・東方より来りて真実なりと証明し 十方の諸仏集りて釈迦仏と同
03 く広長舌を梵天に付け給て後・各各・国国へ還らせ給いぬ、 已今当の三字は 五十年並びに十方三世の諸仏えの御
04 経、 一字一点ものこさず引き載せて法華経に対して説せ給いて候を 十方の諸仏・此座にして御判形を加えさせ給
05 い各各・又自国に還らせ給いて 我弟子等に向わせ給いて 法華経に勝れたる御経ありと説せ給はば其の所化の弟子
06 等信用すべしや、又我は見ざれば月氏・竜宮・四天・日月等の宮殿の中に法華経に勝れさせ給いたる経や・おはしま
07 すらんと疑いをなすはされば梵釈・日月・四天・竜王は法華経の御座にはなかりけるか、 若し日月等の諸天・法華
08 経に勝れたる御経まします 汝はしらずと仰せあるならば大誑惑の日月なるべし、 日蓮せめて云く日月は虚空に住
09 し給へども我等が大地に処するがごとくして 堕落し給はざる事は上品の不妄語戒の力ぞかし、 法華経に勝れたる
10 御経ありと仰せある大妄語あるならば 恐らくはいまだ壊劫にいたらざるに大地の上にどうとおち候はんか 無間大
11 城の最下の堅鉄にあらずばとどまりがたからんか、 大妄語の人は須臾も空に処して 四天下を廻り給うべからずと
12 せめたてまつるべし、而るを華厳宗の澄観等・真言宗の善無畏・金剛智・不空・弘法・慈覚・智証等の大智の三蔵大
13 師等の華厳経・大日経等は 法華経に勝れたりと立て給わば 我等が分斉には及ばぬ事なれども大道理のをすところ
14 は豈諸仏の大怨敵にあらずや、提婆・瞿伽梨もものならず大天・大慢・外にもとむべからず・かの人人を信ずる輩は
15 をそろし・をそろし。
16 問て云く華厳の澄観.三論の嘉祥.法相の慈恩.真言の善無畏・乃至弘法・慈覚.智証等を仏の敵との給うか、答え
17 て云く此大なる難なり仏法に入りて第一の大事なり 愚眼をもつて経文を見るには 法華経に勝れたる経ありといは
18 ん人は設いいかなる人なりとも 謗法は免れじと見えて候、 而るを経文のごとく申すならば・いかでか此の諸人仏
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01 敵たらざるべき、 若し又恐をなして指し申さずは一切経の勝劣むなしかるべし、 又此人人を恐れて末の人人を仏
02 敵といはんとすれば 彼の宗宗の末の人人の云く法華経に大日経をまさりたりと申すは 我れ私の計にはあらず祖師
03 の御義なり・戒行の持破・智慧の勝劣・身の上下はありとも所学の法門はたがふ事なしと申せば彼人人にとがなし、
04 又日蓮此れを知りながら 人人を恐れて申さずは寧喪身命・不匿教者の仏陀の諌暁を用いぬ者となりぬ、 いかんが
05 せん・いはんとすれば世間をそろし 止とすれば仏の諌暁のがれがたし進退此に谷り、 むべなるかなや、 法華経
06 の文に云く「而かも此経は如来の現在にすら 猶怨嫉多し況んや滅度の後をや」又云く 一切世間怨多くして信じ難
07 し等云云、釈迦仏を摩耶夫人はらませ給いたりければ 第六天の魔王・摩耶夫人の御腹をとをし見て我等が大怨敵・
08 法華経と申す 利剣をはらみたり事の成ぜぬ先に・いかにしてか失うべき、 第六天の魔王大医と変じて浄飯王宮に
09 入り御産安穏の良薬を持候 大医ありとののしりて毒を后にまいらせつ、 初生の時は石をふらし 乳に毒をまじへ
10 城を出でさせ給いしには黒き毒蛇と変じて道にふさがり 乃至提婆・瞿伽利・波瑠璃王・阿闍世王等の悪人の身に入
11 りて或は大石をなげて仏の御身より血をいだし 或は釈子をころし或は御弟子等を殺す、 此等の大難は皆遠くは法
12 華経を仏 世尊に説かせまいらせじと たばかりし如来現在・猶多怨嫉の大難ぞかし、此等は遠き難なり近き難には
13 舎利弗・目連・諸大菩薩等も 四十余年が間は法華経の大怨敵の内ぞかし、況滅度後と申して未来の世には又此の大
14 難よりも・すぐれてをそろしき大難あるべしと・とかれて候、仏だにも忍びがたかりける大難をば 凡夫はいかでか
15 忍ぶべきいわうや在世より大なる大難にて・あるべかんなり、 いかなる大難か提婆が長三丈広一丈六尺の 大石阿
16 闍世王の酔象にはすぐべきとはおもへども 彼にもすぐるべく候なれば小失なくとも 大難に度度値う人をこそ滅後
17 の法華経の行者とはしり候はめ、 付法蔵の人人は四依の菩薩・仏の御使なり 提婆菩薩は外道に殺され師子尊者は
18 檀弥羅王に頭を刎ねられ 仏陀密多・竜樹菩薩等は赤幡を七年十二年さしとをす 馬鳴菩薩は金銭三億がかわりとな
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01 り如意論師はおもひじにに死す。
02 此れ等は正法・一千年の内なり、像法に入つて五百年・仏滅後・一千五百年と申せし時漢土に一人の智人あり始
03 は智顗・後には智者大師とがうす、 法華経の義をありのままに 弘通せんと思い給しに 天台已前の百千万の智者
04 しなじなに一代を判ぜしかども詮して十流となりぬ 所謂南三北七なり十流ありしかども一流をもて最とせり、 所
05 謂南三の中の第三の光宅寺の法雲法師これなり、 此の人は一代の仏教を五にわかつ 其の五の中に三経をえらびい
06 だす、所謂華厳経・涅槃経・法華経なり一切経の中には華厳経第一・大王のごとし涅槃経第二・摂政関白のごとし第
07 三法華経は公卿等のごとし此れより已下は万民のごとし、 此の人は本より智慧かしこき上慧観・慧厳・僧柔・慧次
08 なんど申せし大智者より習ひ伝え給るのみならず 南北の諸師の義をせめやぶり山林にまじわりて法華経・涅槃経・
09 華厳経の功をつもりし上梁の武帝召し出して内裏の内に寺を立て光宅寺となづけて 此の法師をあがめ給う、 法華
10 経をかうぜしかば天より花ふること在世のごとし、 天鑒五年に大旱魃ありしかば 此の法雲法師を請じ奉りて法華
11 経を講ぜさせまいらせしに 薬草喩品の其雨普等・四方倶下と申す二句を講ぜさせ給いし時・天より甘雨下たりしか
12 ば天子御感のあまりに現に僧正になしまいらせて 諸天の帝釈につかえ万民の国王ををそるるがごとく 我とつかへ
13 給いし上或人夢く 此人は過去の灯明仏の時より法華経をかうぜる人なり、 法華経の疏四巻あり此の疏に云く「此
14 経未だ碩然ならず」亦云く「異の方便」等云云、正く法華経はいまだ仏理をきわめざる経と書かれて候、此の人の御
15 義・仏意に相ひ叶ひ給いければこそ 天より花も下り雨もふり候けらめ、 かかるいみじき事にて候しかば漢土の人
16 人さては法華経は華厳経・涅槃経には劣にてこそあるなれと思いし上新羅・百済・高麗・日本まで此の疏ひろまりて
17 大体一同の義にて候しに法雲法師・御死去ありていくばくならざるに 梁の末・陳の始に智顗法師と申す小僧出来せ
18 り、 南岳大師と申せし人の御弟子なりしかども 師の義も不審にありけるかのゆへに一切経蔵に入つて度度御らん
0299top
01 ありしに華厳経・涅槃経・法華経の三経に詮じいだし此の三経の中に殊に華厳経を講じ給いき、 別して礼文を造り
02 て日日に功をなし給いしかば世間の人おもわく 此人も華厳経を第一とおぼすかと見えしほど に法雲法師が一切経
03 の中に華厳第一・涅槃第二・法華第三と立てたるが あまりに不審なりける故に・ことに華厳経を御らんありけるな
04 り、かくて一切経の中に法華第一・涅槃第二・華厳第三と見定めさせ給いて なげき給うやうは如来の聖教は漢土に
05 わたれども人を利益することなしかへりて一切衆生を悪道に導びくこと人師のあやまりによれり、例せば国の長とあ
06 る人・東を西といゐ天を地といゐいだしぬれば万民は・かくのごとくに心うべし、後にいやしき者出来して汝等が西
07 は東・汝等が天は地なりといはば・もちうることなき上我が長の心に叶わんがために 今の人を・のりうちなんどす
08 べしいかんがせんとは・おぼせしかども・さてもだすべきにあらねば 光宅寺の法雲法師は謗法によつて地獄に堕ち
09 ぬとののしられ給う、 其の時・南北の諸師はちのごとく蜂起しからすのごとく烏合せり、智顗法師をば頭をわるべ
10 きか国ををうべきかなんど申せし程に 陳主此れを・きこしめして南北の数人に召し合せて 我と列座してきかせ給
11 いき、法雲法師が弟子等の慧栄.法歳・慧曠.慧ゴウなんど申せし僧正・僧都.已上の人人.百余人なり各各・悪口を先
12 とし眉をあげ眼をいからし手をあげ柏子をたたく、而れども智顗法師は末座に坐して色を変ぜず言をアヤマらず威儀
13 しづかにして 諸僧の言を一一に牒をとり言ごとに・せめかえす、 をしかへして難じて云く抑も法雲法師の御義に
14 第一華厳・第二涅槃・第三法華と立させ給いける証文は何れの経ぞ 慥かに明かなる証文を出ださせ給えとせめしか
15 ば各各頭をうつぶせ色を失いて一言の返事なし。
16 重ねてせめて云く無量義経に正しく次説方等十二部経・摩訶般若・華厳海空等云云、仏我と華厳経の名をよびあ
17 げて無量義経に対して 未顕真実と打ち消し給う法華経に劣りて候・無量義経に 華厳経はせめられて候ぬいかに心
18 えさせ給いて華厳経をば 一代第一とは候けるぞ各各・御師の御かたうどせんとをぼさば 此の経文をやぶりて此れ
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01 に勝れたる経文を取り出だして御師の御義を助け給えとせめたり。
02 又涅槃経を法華経に勝るると候けるは.いかなる経文ぞ涅槃経の第十四には華厳.阿含・方等・般若をあげて涅槃
03 経に対して勝劣は説れて候へども まつたく法華経と涅槃経との勝劣はみへず、 次上の第九の巻に法華経と涅槃経
04 との勝劣分明なり、 所謂経文に云く「是の経の出世は乃至法華の中の八千の声聞・ 記を受くることを得て大菓
05 実を成ずるが如き秋収冬蔵して 更に所作無きが如し」等云云、 経文明に諸経をば春夏と説かせ給い涅槃経と法華
06 経とをば菓実の位とは説かれて候へども法華経をば秋収冬蔵の大菓実の位・涅槃経をば秋の末・冬の始クン拾の位と
07 定め給いぬ、 此の経文正く法華経には我が身劣ると承伏し給いぬ、法華経の文には已説・今説・当説と申して此の
08 法華経は前と並との経経に勝れたるのみならず 後に説かん経経にも勝るべしと仏定め給う、 すでに教主釈尊かく
09 定め給いぬれば疑うべきにあらねども 我が滅後はいかんかと疑いおぼして 東方・宝浄世界の多宝仏を証人に立て
10 給いしかば多宝仏・大地よりをどり出でて妙法華経・皆是真実と証し十方分身の諸仏 重ねてあつまらせ給い広長舌
11 を大梵天に付け又教主釈尊も付け給う、 然して後・多宝仏は宝浄世界えかへり十方の諸仏各各本土にかへらせ給い
12 て後多宝分身の仏もおはせざらんに 教主釈尊・涅槃経をといて法華経に勝ると仰せあらば 御弟子等は信ぜさせ給
13 うべしやとせめしかば 日月の大光明の修羅の眼を照らすがごとく 漢王の剣の諸侯の頚にかかりしがごとく両眼を
14 とぢ一頭を低れたり、 天台大師の御気色は師子王の狐兎の前に吼えたるがごとし鷹鷲の鳩雉をせめたるににたり、
15 かくのごとくありしかば・さては法華経は華厳経・涅槃経にもすぐれてありけりと 震旦一国に流布するのみならず
16 かへりて五天竺までも聞へ月氏・大小の諸論も智者大師の御義には勝れず 教主釈尊・両度出現しましますか仏教二
17 度あらはれぬとほめられ給いしなり。
18 其の後天台大師も御入滅なりぬ陳隋の世も代わりて唐の世となりぬ 章安大師も御入滅なりぬ、 天台の仏法よ
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