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日蓮大聖人御書全集
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01 やく習い失せし程に 唐の太宗の御宇に玄奘三蔵といゐし人・貞観三年に始めて月氏に入りて 同十九年にかへりし
02 が月氏の仏法尋ね尽くして法相宗と申す宗をわたす、 此の宗は天台宗と水火なり 而るに天台の御覧なかりし深密
03 経・瑜伽論・唯識論等をわたして法華経は一切経には勝れたれども深密には劣るという、 而るを天台は御覧なかり
04 しかば天台の末学等は智慧の薄きかのゆへに・さもやとおもう、 又太宗は賢王なり玄奘の御帰依あさからず、 い
05 うべき事ありしかども・いつもの事なれば時の威をおそれて申す人なし、 法華経を打ちかへして三乗真実・一乗方
06 便・五性各別と申せし事は心うかりし事なり、 天竺よりは・わたれども月氏の外道が漢土にわたれるか法華経は方
07 便・深密経は真実といゐしかば釈迦・多宝・十方の諸仏の誠言もかへりて虚くなり玄奘・慈恩こそ時の生身の仏にて
08 はありしか。
09   其後則天皇后の御宇に天台大師にせめられし華厳経に又重ねて新訳の華厳経わたりしかば、 さきのいきどをり
10 を・はたさんがために新訳の華厳をもつて 天台にせめられし旧訳の華厳経を扶けて 華厳宗と申す宗を法蔵法師と
11 申す人立てぬ、此の宗は華厳経をば根本法輪・法華経をば枝末法輪と申すなり、南北は一華厳・二涅槃・三法華・天
12 台大師は一法華・二涅槃・三華厳・今の華厳宗は一華厳・二法華・三涅槃等云云。
13   其の後玄宗皇帝の御宇に 天竺より善無畏三蔵は大日経・蘇悉地経をわたす、金剛智三蔵は金剛頂経をわたす、
14 又金剛智三蔵の弟子あり不空三蔵なり、 此の三人は月氏の人・種姓も高貴なる上・人がらも漢土の僧ににず法門も
15 なにとはしらず 後漢より今にいたるまで・なかりし印と真言という事をあひそいて・ゆゆしかりしかば天子かうべ
16 をかたぶけ万民掌をあわす、 此の人人の義にいわく華厳・深密・般若・涅槃・法華経等の勝劣は顕教の内・釈迦如
17 来の説の分なり、 今の大日経等は大日法王の勅言なり彼の経経は民の万言此経は天子の一言なり、華厳経・涅槃経
18 等は大日経には梯を立ても及ばず 但法華経計りこそ大日経には相似の経なれ、 されども彼の経は釈迦如来の説・
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01 民の正言・此の経は天子の正言なり 言は似れども人がら雲泥なり、 譬へば濁水の月と清水の月のごとし月の影は
02 同じけれども 水に清濁ありなんど申しければ、 此の由尋ね顕す人もなし諸宗皆落ち伏して真言宗にかたぶきぬ、
03 善無畏・金剛智・死去の後・不空三蔵又月氏にかへりて菩提心論と申す論をわたし いよいよ真言宗盛りなりけり、
04 但し妙楽大師といふ人あり 天台大師よりは二百余年の後なれども 智慧かしこき人にて天台の所釈を見明めてあり
05 しかば天台の釈の心は 後にわたれる深密経・法相宗又 始めて漢土に立てたる華厳宗・大日経真言宗にも法華経は
06 勝れさせ給いたりけるを、 或は智のをよばざるか或は人に畏るるか 或は時の王威をおづるかの故にいはざりける
07 かかくて・あるならば天台の正義すでに失なん、 又陳隋已前の南北が邪義にも勝れたりとおぼして 三十巻の末文
08 を造り給う所謂弘決・釈籤・疏記これなり、 此の三十巻の文は本書の重なれるをけづりよわきをたすくるのみなら
09 ず天台大師の御時なかりしかば 御責にものがれてあるやうなる法相宗と華厳宗と真言宗とを 一時にとりひしがれ
10 たる書なり。
11   又日本国には 人王第三十代・欽明天皇の御宇 十三年壬申十月十三日に百済国より一切経・釈迦仏の像をわた
12 す、又用明天皇の御宇に 聖徳太子仏法をよみはじめ 和気の妹子と申す臣下を漢土につかはして先生所持の一巻の
13 法華経をとりよせ給いて持経と定め、其の後人王第三十七代・孝徳天王の御宇に三論宗・華厳宗・法相宗・倶舎宗・
14 成実宗わたる、 人王第四十五代に聖武天王の御宇に律宗わたる 已上六宗なり、 孝徳より人王五十代の桓武天皇
15 にいたるまでは十四代・一百二十余年が間は天台真言の二宗なし、 桓武の御宇に最澄と申す小僧あり 山階寺の行
16 表僧正の御弟子なり、 法相宗を始めとして六宗を習いきわめぬ 而れども仏法いまだ極めたりとも・おぼえざりし
17 に華厳宗の法蔵法師が造りたる起信論の疏を見給うに 天台大師の釈を引きのせたり此の疏こそ子細ありげなれ 此
18 の国に渡りたるか又いまだ・わたらざるかと不審ありしほどに 有人にとひしかば 其の人の云く 大唐の揚州竜興
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01 寺の僧鑒真和尚は 天台の末学・道暹律師の弟子天宝の末に 日本国にわたり給いて小乗の戒を弘通せさせ給いしか
02 ども天台の御釈持ち来りながらひろめ給はず 人王第四十五代聖武天王の御宇なりとかたる、 其の書を見んと申さ
03 れしかば取り出だして見せまいらせしかば 一返御らんありて生死の酔をさましつ 此の書をもつて六宗の心を尋ね
04 あきらめしかば一一に邪見なる事あらはれぬ、 忽に願を発て云く日本国の人皆・謗法の者の檀越たるが 天下一定
05 乱れなんずとおぼして六宗を難ぜられしかば七大寺・六宗の碩学蜂起して京中烏合し天下みなさわぐ、 七大寺六宗
06 の諸人等悪心強盛なり、 而るを去ぬる延暦二十一年正月十九日に天王高雄寺に行幸あつて 七寺の碩徳十四人・善
07 議.勝猷・奉基.寵忍.賢玉.安福・勤操.修円.慈誥.玄耀・歳光.道証・光証.観敏等の十有余人を召し合わす、華厳.三
08 論・法相等の人人.各各・我宗の元祖が義にたがはず最澄上人は六宗の人人の所立.一一に牒を取りて本経・本論・並
09 に諸経・諸論に指し合わせてせめしかば一言も答えず 口をして鼻のごとくになりぬ、 天皇をどろき給いて委細に
10 御たづねありて重ねて勅宣を下して 十四人をせめ給いしかば承伏の謝表を奉りたり、 其書に云く「七箇の大寺六
11 宗の学匠乃至初て至極を悟る」等云云又云く「聖徳の弘化より以降今に二百余年の間講ずる所の経論其数多し、 彼
12 此理を争うて其の疑未だ解けず而も此の最妙の円宗猶未だ闡揚せず」等云云、 又云く「三論法相・久年の諍渙焉と
13 して氷の如く解け照然として 既に明かに猶雲霧を披いて三光を見るがごとし」云云、 最澄和尚十四人が義を判じ
14 て云く「各一軸を講ずるに 法鼓を深壑に振い賓主三乗の路に徘徊し 義旗を高峰に飛す長幼三有の結を摧破して猶
15 未だ歴劫の轍を改めず白牛を門外に混ず、 豈善く初発の位に昇り阿荼を宅内に悟らんや」等云云、 弘世真綱二人
16 の臣下云く「霊山の妙法を南岳に聞き総持の妙悟を天台に闢く一乗の権滞を慨き三諦の未顕を悲しむ」等云云、 又
17 十四人の云く「善議等牽れて休運に逢て乃ち奇詞を閲す深期に非るよりは何ぞ聖世に託せんや」等云云、 此の十四
18 人は華厳宗の法蔵.審祥・三論宗の嘉祥.観勒・法相宗の慈恩.道昭・律宗の道宣・鑒真等の漢土.日本元祖等の法門・
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01 瓶はかはれども水は一なり、 而るに十四人・彼の邪義をすてて 伝教の法華経に帰伏しぬる上は誰の末代の人か華
02 厳・般若・深密経等は法華経に超過せりと申すべきや、 小乗の三宗は又彼の人人の所学なり大乗の三宗破れぬる上
03 は沙汰のかぎりにあらず、 而るを今に子細を知らざる者・六宗はいまだ破られずとをもへり、 譬へば盲目が天の
04 日月を見ず聾人が雷の音をきかざるゆへに天には日月なし空に声なしと・をもうがごとし。
05   真言宗と申すは日本人王・第四十四代と申せし元正天皇の御宇に善無畏三蔵・大日経をわたして弘通せずして漢
06 土へかへる、 又玄昉等・大日経の義釈十四巻をわたす又東大寺の得清大徳わたす、 此等を伝教大師御らんありて
07 ありしかども大日経・法華経の勝劣いかんがと・おぼしけるほどにかたがた不審ありし故に 去る延暦二十三年七月
08 御入唐・西明寺の道邃和尚・仏滝寺の行満等に値い奉りて 止観円頓の大戒を伝受し 霊感寺の順暁和尚に値い奉り
09 て真言を相伝し 同延暦二十四年六月に帰朝して桓武天王に御対面・宣旨を下して 六宗の学生に止観真言を習はし
10 め同七大寺にをかれぬ、 真言・止観の二宗の勝劣は漢土に多く子細あれども 又大日経の義釈には理同事勝とかき
11 たれども伝教大師は善無畏三蔵のあやまりなり、 大日経は法華経には劣りたりと知しめして 八宗とはせさせ給は
12 ず真言宗の名をけづりて法華宗の内に入れ七宗となし 大日経をば法華天台宗の傍依経となして華厳・大品・般若・
13 涅槃等の例とせり、 而れども大事の円頓の大乗別受戒の大戒壇を 我が国に立う立じの諍論がわずらはしきに依り
14 てや真言・天台の二宗の勝劣は 弟子にも分明にをしえ給わざりけるか、 但依憑集と申す文に正しく真言宗は法華
15 天台宗の正義を偸みとりて大日経に入れて理同とせり、 されば彼の宗は天台宗に落ちたる宗なり、 いわうや不空
16 三蔵は善無畏・金剛智・入滅の後・月氏に入りてありしに竜智菩薩に値い奉りし時・月氏には仏意をあきらめたる論
17 釈なし、漢土に天台という人の釈こそ邪正をえらび 偏円をあきらめたる文にては候なれ、 あなかしこ・あなかし
18 こ月氏へ渡し給えとねんごろにあつらへし事を 不空の弟子含光といゐし者が妙楽大師にかたれるを 記の十の末に
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01 引き載せられて候を この依憑集に取り載せて候、 法華経に大日経は劣るとしろしめす事・伝教大師の御心顕然な
02 り、 されば釈迦如来・天台大師・妙楽大師・伝教大師の御心は一同に 大日経等の一切経の中には法華経はすぐれ
03 たりという事は分明なり、 又真言宗の元祖という竜樹菩薩の御心も かくのごとし、 大智度論を能く能く尋ぬる
04 ならば此の事分明なるべきを不空があやまれる菩提心論に皆人ばかされて此の事に迷惑せるか。
05   又石淵の勤操僧正の御弟子に空海と云う人あり後には弘法大師とがうす、 去ぬる延暦二十三年五月十二日に御
06 入唐、漢土にわたりては 金剛智・善無畏の両三蔵の第三の御弟子 慧果和尚といゐし人に両界を伝受し大同二年十
07 月二十二日に御帰朝平城天王の御宇なり、 桓武天王は御ほうぎよ 平城天王に見参し御用いありて御帰依・他にこ
08 となりしかども 平城ほどもなく嵯峨に世をとられさせ給いしかば 弘法ひき入れてありし程に伝教大師は嵯峨天王
09 の弘仁十三年六月四日御入滅、 同じき弘仁十四年より弘法大師・王の御師となり 真言宗を立てて東寺を給真言和
10 尚とがうし此より八宗始る、 一代の勝劣を判じて云く第一真言大日経・第二華厳・第三は法華涅槃等云云、 法華
11 経は阿含・方等・般若等に対すれば真実の経なれども華厳経・大日経に望むれば戯論の法なり、 教主釈尊は仏なれ
12 ども大日如来に向うれば 無明の辺域と申して皇帝と俘囚との如し、 天台大師は盗人なり真言の醍醐を盗んで法華
13 経を醍醐というなんどかかれしかば 法華経はいみじとをもへども弘法大師にあひぬれば物のかずにもあらず、 天
14 竺の外道はさて置きぬ漢土の南北が法華経は涅槃経に対すれば 邪見の経といゐしにもすぐれ 華厳宗が法華経は華
15 厳経に対すれば枝末教と申せしにもこへたり、 例ば彼の月氏の大慢婆羅門が大自在天・那羅延天・婆籔天・教主釈
16 尊の四人を高座の足につくりて 其の上にのぼつて邪法を弘めしがごとし、 伝教大師・御存生ならば一言は出され
17 べかりける事なり、 又義真・円澄・慈覚・智証等もいかに御不審はなかりけるやらん天下第一の大凶なり、慈覚大
18 師は去ぬる承和五年に御入唐・漢土にして十年が間・天台・真言の二宗をならう、法華・大日経の勝劣を習いしに法
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01 全・元政等の八人の真言師には法華経と大日経は理同事勝等云云、天台宗の志遠・広修・維ケン等に習いしには大日
02 経は方等部の摂等云云、 同じき承和十三年九月十日に御帰朝・嘉祥元年六月十四日に宣旨下、法華・大日経等の勝
03 劣は漢土にして しりがたかりけるかのゆへに 金剛頂経の疏七巻・蘇悉地経の疏七巻・已上十四巻此疏の心は大日
04 経・金剛頂経・蘇悉地経の義と法華経の義は 其の所詮の理は一同なれども 事相の印と真言とは真言の三部経すぐ
05 れたりと云云、 此れは偏に善無畏・金剛智・不空の造りたる大日経の疏の心のごとし、 然れども我が心に猶不審
06 やのこりけん 又心にはとけてんけれども人の不審をはらさんとや・おぼしけん、 此の十四巻の疏を御本尊の御前
07 にさしをきて御祈請ありき・かくは造りて候へども 仏意計りがたし大日の三部やすぐれたる 法華経の三部やまさ
08 れると御祈念有りしかば五日と申す五更に忽に夢想あり、 青天に大日輪かかり給へり 矢をもてこれを射ければ矢
09 飛んで天にのぼり日輪の中に立ちぬ 日輪動転してすでに地に落んとすと・をもひて・うちさめぬ、悦んで云く我吉
10 夢あり法華経に真言勝れたりと造りつるふみは 仏意に叶いけりと悦ばせ給いて 宣旨を申し下して日本国に弘通あ
11 り、 而も宣旨の心に云く「遂に知んぬ 天台の止観と真言の法義とは理冥に符えり」等と云云、祈請のごときんば
12 大日経に法華経は劣なるやうなり、宣旨を申し下すには法華経と大日経とは同じ等云云。
13   智証大師は本朝にしては義真和尚・円澄大師別当・慈覚等の弟子なり、顕密の二道は大体・此の国にして学し給
14 いけり天台・真言の二宗の勝劣の御不審に 漢土へは渡り給けるか、 去仁寿二年に御入唐・漢土にしては真言宗は
15 法全・元政等にならはせ給い大体・大日経と法華経とは理同事勝・慈覚の義のごとし、天台宗は良ジョ和尚にならひ
16 給い・真言・天台の勝劣・大日経は華厳・法華等には及ばず等云云、七年が間・漢土に経て去る貞観元年五月十七日
17 に御帰朝、 大日経の旨帰に云く「法華尚及ばず況や自余の教をや」等云云、 此釈は法華経は大日経には劣る等云
18 云、 又授決集に云く「真言禅門乃至若し華厳法華涅槃等の経に望むれば是れ摂引門」等云云、普賢経の記・論の記
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01 に云く同じ等云云、 貞観八年丙戌四月廿九日壬申・勅宣を申し下して云く「聞くならく真言・止観・両教の宗同じ
02 く醍醐と号し倶に深秘と称す」等云云、 又六月三日の勅宣に云く「先師既に両業を開いて以て 我が道と為す代代
03 の座主相承して 兼ね伝えざること莫し 在後の輩豈旧迹に乖かんや、 聞くならく山上の僧等専ら先師の義に違い
04 て偏執の心を成ず殆んど余風を扇揚し 旧業を興隆するを顧みざるに似たり、 凡そ厥の師資の道・一を闕きても不
05 可なり伝弘の勤め寧ろ兼備せざらんや、 今より以後宜く両教に通達するの人を以て 延暦寺の座主と為し立てて恒
06 例と為すべし」云云。
07   されば慈覚・智証の二人は伝教・義真の御弟子、漢土にわたりては又天台・真言の明師に値いて有りしかども二
08 宗の勝劣は思い定めざりけるか或は真言すぐれ 或は法華すぐれ或は理同事勝等云云、 宣旨を申し下すには二宗の
09 勝劣を論ぜん人は違勅の者といましめられたり、 此れ等は皆自語相違といゐぬべし 他宗の人はよも用いじとみえ
10 て候、 但二宗斉等とは先師伝教大師の御義と宣旨に引き載せられたり、 抑も伝教大師いづれの書にかかれて候ぞ
11 や此の事よくよく尋ぬべし、 慈覚・智証と日蓮とが伝教大師の御事を不審申すは 親に値うての年あらそひ日天に
12 値い奉りての目くらべにては候へども 慈覚・智証の御かたふどを・せさせ給はん人人は分明なる証文をかまへさせ
13 給うべし、 詮ずるところは信をとらんがためなり、 玄奘三蔵は月氏の婆沙論を見たりし人ぞかし天竺にわたらざ
14 りし宝法師にせめられにき、法護三蔵は印度の法華経をば見たれども嘱累の先後をば漢土の人みねどもあやまりとい
15 ひしぞかし、 設い慈覚・伝教大師に値い奉りて習い伝えたりとも智証・義真和尚に口決せりといふとも伝教・義真
16 の正文に相違せばあに不審を加えざらん、 伝教大師の依憑集と申す文は大師第一の秘書なり、 彼の書の序に云く
17 「新来の真言家は則ち筆授の相承を泯し 旧到の華厳家は則ち影響の軌範を隠し、 沈空の三論宗は弾訶の屈恥を忘
18 れて称心の酔を覆う、 著有の法相は撲揚の帰依を非し青竜の判経を撥う等、 乃至謹んで依憑集の一巻を著わして
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01 同我の後哲に贈る某の時興ること 日本第五十二葉・弘仁の七丙申の歳なり」云云、 次ぎ下の正宗に云く 「天竺
02 の名僧 大唐天台の教迹最も邪正を簡ぶに堪えたりと聞いて 渇仰して訪問す」云云、 次ぎ下に云く「豈中国に法
03 を失つて之を四維に求むるに非ずや 而かも此の方に識ること有る者少し 魯人の如きのみ」等云云、 此の書は法
04 相・三論・華厳・真言の四宗をせめて候文なり、天台・真言の二宗・同一味ならばいかでかせめ候べき、而も不空三
05 蔵等をば魯人のごとしなんどかかれて候、 善無畏・金剛智・不空の真言宗いみじくば・いかでか魯人と悪口あるべ
06 き、 又天竺の真言が天台宗に同じきも又勝れたるならば 天竺の名僧いかでか不空にあつらへ 中国に正法なしと
07 はいうべき、 それは・いかにもあれ慈覚・智証の二人は言は伝教大師の御弟子とは・なのらせ給ども心は御弟子に
08 あらず、其の故は此の書に云く「謹で依憑集一巻を著わして 同我の後哲に贈る」等云云、 同我の二字は真言宗は
09 天台宗に劣るとならひてこそ 同我にてはあるべけれ 我と申し下さるる宣旨に云く「専ら先師の義に違い偏執の心
10 を成す」等云云、 又云く「凡そ厥師資の道一を闕いても不可なり」等云云、 此の宣旨のごとくならば慈覚・智証
11 こそ専ら先師にそむく人にては候へ、 かうせめ候もをそれにては候へども 此れをせめずば大日経・法華経の勝劣
12 やぶれなんと存じていのちをまとに・かけてせめ候なり、 此の二人の人人の 弘法大師の邪義をせめ候はざりける
13 は最も道理にて候いけるなり、 されば粮米をつくし人をわづらはして漢土へわたらせ給はんよりは本師・伝教大師
14 の御義を・よくよく・つくさせ給うべかりけるにや、されば叡山の仏法は但だ伝教大師・義真和尚・円澄大師の三代
15 計りにてやありけん、 天台座主すでに真言の座主にうつりぬ名と所領とは天台山其の主は真言師なり、 されば慈
16 覚大師・智証大師は已今当の経文をやぶらせ給う人なり、已今当の経文をやぶらせ給うは・あに釈迦・多宝・十方の
17 諸仏の怨敵にあらずや、 弘法大師こそ第一の謗法の人とおもうに、これは・それには・にるべくもなき僻事なり、
18 其の故は水火・天地なる事は僻事なれども人用ゆる事なければ 其の僻事成ずる事なし、 弘法大師の御義はあまり
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01 僻事なれば弟子等も用ゆる事なし事相計りは其の門家なれども 其の教相の法門は弘法の義いゐにくきゆへに 善無
02 畏・金剛智・不空・慈覚・智証の義にてあるなり、慈覚・智証の義こそ真言と天台とは理同なりなんど申せば皆人さ
03 もやと・をもう、かう・をもうゆへに事勝の印と真言とにつひて天台宗の人人・画像・木像の開眼の仏事を・ねらは
04 んがために日本・一同に真言宗におちて天台宗は一人もなきなり、 例せば法師と尼と黒と青とは・まがひぬべけれ
05 ば眼くらき人はあやまつぞかし、 僧と男と白と赤とは目くらき人も迷わず、いわうや眼あきらかなる者をや、 慈
06 覚・智証の義は法師と尼と黒と青とが・ごとくなる・ゆへに智人も迷い 愚人もあやまり候て此の四百余年が間は叡
07 山・園城・東寺・奈良・五畿・七道・日本一州・皆謗法の者となりぬ。
08   抑も法華経の第五に「文殊師利此の法華経は諸仏如来の秘密の蔵なり諸経の中に於て最も其の上に在り」云云、
09 此の経文のごとくならば法華経は大日経等の衆経の頂上に住し給う正法なり、 さるにては善無畏・金剛智・不空・
10 弘法・慈覚・智証等は此の経文をばいかんが会通せさせ給うべき、 法華経の第七に云く「能く是の経典を受持する
11 こと有らん者も亦復是くの如し 一切衆生の中に於て亦為第一なり」等云云、 此の経文のごとくならば法華経の行
12 者は川流.江河の中の大海・衆山の中の須弥山・衆星の中の月天・衆明の中の大日天、転輪王.帝釈・諸王の中の大梵
13 王なり、 伝教大師の秀句と申す書に云く「此の経も亦復是くの如し 乃至諸の経法の中に最も為第一なり能く是の
14 経典を受持すること有らん者も亦復是くの如し 一切衆生の中に於て亦為第一なり」 已上経文なりと引き入れさせ
15 給いて次下に云く「天台法華玄に云く」等云云、 已上玄文と・かかせ給いて上の心を釈して云く「当に知るべし他
16 宗所依の経は未だ最も為れ第一ならず 其の能く経を持つ者も亦未だ第一ならず、 天台法華宗所持の法華経は最も
17 為れ第一なる故に能く法華を持つ者も亦衆生の中の第一なり 已に仏説に拠る豈自歎ならん哉」等云云、 次下に譲
18 る釈に云く「委曲の依憑具さに別巻に有るなり」等云云、 依憑集に云く「今吾が天台大師法華経を説き法華経を釈
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01 すること群に特秀し唐に独歩す 明に知んぬ如来の使なり 讃る者は福を安明に積み 謗る者は罪を無間に開く」等
02 云云、法華経・天台・妙楽・伝教の経釈の心の如くならば今日本国には法華経の行者は一人も・なきぞかし、月氏に
03 は教主釈尊・宝塔品にして一切の仏を・あつめさせ給て 大地の上に居せしめ大日如来計り宝塔の中の南の下座にす
04 へ奉りて教主釈尊は北の上座につかせ給う、 此の大日如来は 大日経の胎蔵界の大日・金剛頂経の金剛界の大日の
05 主君なり、 両部の大日如来を郎従等と定めたる多宝仏の上座に教主釈尊居せさせ給う 此れ即ち法華経の行者なり
06 天竺かくのごとし、漢土には陳帝の時・天台大師・南北にせめかちて現身に大師となる「群に特秀し唐に独歩す」と
07 いう・これなり、日本国には伝教大師・六宗にせめかちて日本の始第一の根本大師となり給う・月氏・漢土・日本に
08 但三人計りこそ於一切衆生中亦為第一にては候へ、 されば秀句に云く「浅きは易く深きは難しとは釈迦の所判なり
09 浅きを去つて深きに就くは丈夫の心なり 天台大師は釈迦に信順して 法華宗を助けて震旦に敷揚し叡山の一家は天
10 台に相承して法華宗を助けて日本に弘通す」等云云、 仏滅後・一千八百余年が間に法華経の行者・漢土に一人・日
11 本に一人・已上二人釈尊を加へ奉りて已上三人なり。
12   外典に云く聖人は一千年に一出で 賢人は五百年に一出づ、 黄河は涇渭ながれを・わけて五百年には 半河す
13 み千年には共に清むと申すは一定にて候けり、 然るに日本国は叡山計りに 伝教大師の御時・法華経の行者ましま
14 しけり、 義真・円澄は第一第二の座主なり第一の義真計り伝教大師ににたり、第二の円澄は半は伝教の御弟子・半
15 は弘法の弟子なり、 第三の慈覚大師は始めは伝教大師の御弟子に・にたり、御年四十にて漢土に・わたりてより名
16 は伝教の御弟子・其の跡をば・つがせ給えども法門は全く御弟子にはあらず、 而れども円頓の戒計りは又御弟子に
17 にたり蝙蝠鳥のごとし 鳥にもあらず・ねずみにもあらず梟鳥禽・破鏡獣のごとし、 法華経の父を食らい持者の母
18 をかめるなり日をいるとゆめに・みしこれなり、 されば死去の後は墓なくてやみぬ、智証の門家・園城寺と慈覚の
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01 門家・叡山と修羅と悪竜と合戦ひまなし 園城寺をやき叡山をやく、 智証大師の本尊の慈氏菩薩もやけぬ慈覚大師
02 の本尊・大講堂もやけぬ現身に無間地獄をかんぜり、 但中堂計りのこれり、 弘法大師も又跡なし弘法大師の云く
03 東大寺の受戒せざらん者をば 東寺の長者とすべからず等御いましめの状あり、 しかれども寛平法王は仁和寺を建
04 立して東寺の法師をうつして 我寺には叡山の円頓戒を持ざらん者をば 住せしむべからずと宣旨分明なり、 され
05 ば今の東寺の法師は鑒真が弟子にもあらず 弘法の弟子にもあらず 戒は伝教の御弟子なり又伝教の御弟子にもあら
06 ず伝教の法華経を破失す、 去る承和二年三月二十一日に死去ありしかば・公家より遺体をば・ほうぶらせ給う、其
07 の後誑惑の弟子等集りて御入定と云云、 或はかみをそりて・まいらするぞと・いゐ或は三鈷をかんどより・なげた
08 りといゐ或は日輪・夜中に出でたりといゐ或は現身に大日如来となりたりといひ 或は伝教大師に十八道を・をしへ
09 まいらせ給うといゐて、 師の徳をあげて智慧にかへ我が師の邪義を扶けて 王臣を誑惑するなり、 又高野山に本
10 寺・伝法院といいし二の寺あり本寺は弘法のたてたる大塔・大日如来なり、 伝法院と申すは正覚房の立てし金剛界
11 の大日なり、此の本末の二寺・昼夜に合戦あり 例せば叡山・園城のごとし、 誑惑のつもりて日本に 二の禍の出
12 現せるか、 糞を集めて栴檀となせども 焼く時は但糞の香なり大妄語を集めて仏と・がうすとも但無間大城なり、
13 尼ケンが塔は数年が間・利生広大なりしかども 馬鳴菩薩の礼をうけて忽にくづれぬ、 鬼弁婆羅門がとばりは多年
14 人を・たぼらかせしかども阿涇縛ク沙菩薩にせめられて・やぶれぬ、 留外道は石となつて八百年・陳那菩薩にせ
15 められて水となりぬ、 道士は漢土をたぼらかすこと数百年・摩騰・竺蘭にせめられて仙経もやけぬ、趙高が国をと
16 りし王莽が位をうばいしが・ごとく 法華経の位をとて大日経の所領とせり、 法王すでに国に失せぬ人王あに安穏
17 ならんや、日本国は慈覚・智証・弘法の流なり一人として謗法ならざる人はなし。
18   但し事の心を案ずるに大荘厳仏の末・一切明王仏の末法のごとし、 威音王仏の末法には改悔ありしすら猶・千
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01 劫・阿鼻地獄に堕つ、 いかにいわうや日本国の真言師・禅宗・念仏者等は一分の廻心なし如是展転至無数劫疑なき
02 ものか、 かかる謗法の国なれば天もすてぬ天すつれば ふるき守護の善神もほこらをやひて寂光の都へかへり給い
03 ぬ、但日蓮計り留り居て告げ示せば 国主これをあだみ数百人の民に或は罵詈・或は悪口・或は杖木・或は刀剣・或
04 は宅宅ごとにせき・或は家家ごとにをう、 それにかなはねば我と手をくだして 二度まで流罪あり、去ぬる文永八
05 年九月の十二日に頚を切らんとす、 最勝王経に云く「悪人を愛敬し 善人を治罰するに由るが故に 他方の怨賊来
06 つて国人喪乱に遭う」等云云、 大集経に云く「若しは復諸の刹利国王有つて諸の非法を作して 世尊の声聞の弟子
07 を悩乱し、 若しは以て毀罵し 刀杖をもつて打斫し 及び衣鉢種種の資具を奪い、 若しは他の給施せんに留難を
08 作さば我等彼れをして自然に他方の怨敵を卒起せしめん 及び自らの国土も亦 兵起り病疫飢饉し非時の風雨・闘諍
09 言訟せしめん、 又其の王をして久しからずして復当に己が国を亡失せしめん」等云云、 此等の経文のごときは日
10 蓮この国になくば 仏は大妄語の人・阿鼻地獄はいかで脱給うべき、 去ぬる文永八年九月十二日に平の左衛門並び
11 に数百人に向て云く 日蓮は日本国のはしらなり日蓮を失うほどならば日本国のはしらを・たをすになりぬ等云云、
12 此の経文に智人を国主等・若は悪僧等がざんげんにより 若は諸人の悪口によつて失にあつるならば、 にはかに・
13 いくさをこり又 大風吹き他国よりせめらるべし等云云、 去ぬる文永九年二月のどしいくさ同じき十一年の四月の
14 大風同じき十月に大蒙古の来りしは偏に日蓮が・ゆへにあらずや、 いわうや前よりこれを・かんがへたり誰の人か
15 疑うべき、弘法.慈覚.智証のアヤマリ国に年久し其の上禅宗と念仏宗とのわざわいあいをこりて逆風に大波をこり大
16 地震のかさなれるがごとし、 さればやふやく国をとろう太政入道が国をおさへ 承久に王位つきはてて世東にうつ
17 りしかども 但国中のみだれにて 他国のせめはなかりき、 彼は謗法の者はあれども又天台の正法もすこし有り、
18 其の上ささへ顕わす智人なし・かるがゆへに・なのめなりき、 譬へば師子のねぶれるは手をつけざれば・ほへず迅
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01 流は櫓をささへざれば波たかからず盗人はとめざれば・いからず火は薪を加えざれば・さかんならず、 謗法はあれ
02 ども・あらわす人なければ王法もしばらくはたえず 国も・をだやかなるに・にたり、例せば日本国に仏法わたりは
03 じめて候いしに始は・なに事もなかりしかども守屋・仏をやき僧をいましめ堂塔をやきしかば 天より火の雨ふり国
04 にはうさうをこり兵乱つづきしがごとし、 此れはそれには・にるべくもなし、謗法の人人も国に充満せり、 日蓮
05 が大義も強くせめかかる 修羅と帝釈と仏と魔王との合戦にも・をとるべからず、金光明経に云く 「時に鄰国の怨
06 敵是くの如き念を興さん当に 四兵を具して彼の国土を壊るべし」等云云、 又云く「時に王見已つて即四兵を厳い
07 て彼の国に発向し討罰を為んと欲す 我等爾の時に 当に眷属無量無辺の薬叉諸神と各形を隠して 為に護助を作し
08 彼の怨敵をして自然に降伏せしむべし」等云云、 最勝王経の文又かくのごとし、 大集経云云仁王経云云、此等の
09 経文のごときんば正法を行ずるものを国主あだみ 邪法を行ずる者のかたうどせば大梵天王・帝釈・日月・四天等・
10 隣国の賢王の身に入りかわりて 其の国をせむべしとみゆ、 例せば訖利多王を雪山下王のせめ大族王を幻日王の失
11 いしがごとし、 訖利多王と大族王とは月氏の仏法を失いし王ぞかし、 漢土にも仏法をほろぼしし王みな賢王にせ
12 められぬ、 これは彼には・にるべくもなし仏法の・かたうど・なるようにて 仏法を失なう法師を扶くと見えて正
13 法の行者を失うゆへに愚者はすべてしらず 智者なんども常の智人はしりがたし、 天も下劣の天人は知らずもやあ
14 るらん、されば漢土・月氏のいにしへのみだれよりも大きなるべし。
15   法滅尽経に云く「吾般泥オンの後五逆濁世に魔道興盛し魔沙門と作つて吾が道を壊乱せん、乃至悪人転多く海中
16 の沙の如く善者甚だ少して若しは一若しは二」云云、 涅槃経に云く 「是くの如き等の涅槃経典を信ずるものは爪
17 上の土の如く 乃至是の経を信ぜざるものは十方界の所有の地土の如し」等云云、 此の経文は時に当りて貴とく予
18 が肝に染みぬ、当世日本国には我も法華経を信じたり信じたり、 諸人の語のごときんば一人も謗法の者なし、 此
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01 の経文には末法に謗法の者・十方の地土・正法の者爪上の土等云云、経文と世間とは水火なり、 世間の人云く日本
02 国には日蓮一人計り謗法の者等云云、 又経文には大地より多からんと云云、法滅尽経には善者一二人、 涅槃経に
03 は信者爪上土等云云、 経文のごとくならば日本国は但日蓮一人こそ爪上土一二人にては候へ、 されば心あらん人
04 人は経文をか用ゆべき世間をか用ゆべき。
05   問て云く涅槃経の文には涅槃経の行者は爪上の土等云云、 汝が義には法華経等云云如何、答えて云く涅槃経に
06 云く「法華の中の如し」等云云、 妙楽大師云く「大経自ら法華を指して極と為す」等云云、大経と申すは涅槃経な
07 り涅槃経には法華経を極と指て候なり、 而るを涅槃宗の人の涅槃経を法華経に勝ると申せしは 主を所従といゐ下
08 郎を上郎といゐし人なり、 涅槃経をよむと申すは法華経をよむを申すなり、 譬へば賢人は国主を重んずる者をば
09 我を・さぐれども悦ぶなり、 涅槃経は法華経を下て我をほむる人をば・あながちに敵と・にくませ給う、 此の例
10 をもつて知るべし 華厳経・観経・大日経等をよむ人も法華経を劣とよむは 彼れ彼れの経経の心にはそむくべし、
11 此れをもつて知るべし 法華経をよむ人の此の経をば信ずるよう・なれども 諸経にても得道なるとおもうは 此の
12 経をよまぬ人なり、 例せば嘉祥大師は法華玄と申す文・十巻造りて法華経をほめしかども・妙楽かれをせめて云く
13 「毀其の中に在り何んぞ弘讃と成さん」等云云、 法華経をやぶる人なりされば 嘉祥は落ちて天台につかひて法華
14 経をよまず我れ経をよむならば 悪道まぬかれがたしとて七年まで身を橋とし給いき、 慈恩大師は玄賛と申して法
15 華経をほむる文・十巻あり 伝教大師せめて云く「法華経を讃むると雖も還て法華の心を死す」等云云、 此等をも
16 つておもうに法華経をよみ讃歎する人人の中に無間地獄は多く有るなり、 嘉祥・慈恩すでに一乗誹謗の人ぞかし、
17 弘法・慈覚・智証あに法華経蔑如の人にあらずや、 嘉祥大師のごとく講を廃し衆を散じて身を橋となせしも猶已前
18 の法華経・誹謗の罪や・きへざるらん、 例せば不軽軽毀の衆は不軽菩薩に信伏随従せしかども重罪いまだ・のこり
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01 て千劫阿鼻に堕ちぬ、 されば弘法・慈覚・智証等は設いひるがへす心ありとも尚法華経をよむならば重罪きへがた
02 しいわうや・ひるがへる心なし、 又法華経を失い真言教を昼夜に行い朝暮に伝法せしをや、世親菩薩・馬鳴菩薩は
03 小をもつて大を破せる 罪をば舌を切らんとこそせさせ給いしか、 世親菩薩は仏説なれども阿含経をば・たわふれ
04 にも舌の上にをかじとちかひ、 馬鳴菩薩は懺悔のために起信論をつくりて小乗をやぶり給き、 嘉祥大師は天台大
05 師を請じ奉りて百余人の智者の前にして 五体を地になげ遍身にあせをながし 紅の・なんだをながして 今よりは
06 弟子を見じ法華経をかうぜじ弟子の面を・まほり法華経をよみたてまつれば 我力の此の経を知るににたりとて・天
07 台よりも高僧老僧にて.おはせしが・わざと人のみるとき・をひまいらせて河をこへ・かうざに.ちかづきて・せなか
08 にのせまいらせて 高座にのぼせたてまつり結句・御臨終の後には隋の皇帝にまいらせて 小児が母にをくれたるが
09 ごとくに足ずりをしてなき給いしなり、 嘉祥大師の法華玄を見るにいたう法華経を謗じたる疏にはあらず 但法華
10 経と諸大乗経とは門は浅深あれども心は一とかきてこそ候へ此れが謗法の根本にて候か。
11   華厳の澄観も真言の善無畏も大日経と法華経とは理は一とこそ・かかれて候へ、嘉祥大師・とがあらば善無畏三
12 蔵も脱がたしされば 善無畏三蔵は中天の国主なり位をすてて 他国にいたり殊勝・招提の二人にあひて 法華経を
13 うけ百千の石の塔を立てしかば 法華経の行者とこそみへしか、 しかれども大日経を習いしよりこのかた法華経を
14 大日経に劣るとや・おもひけん、 始はいたう其の義もなかりけるが漢土にわたりて玄宗皇帝の師となりぬ、 天台
15 宗をそねみ思う心つき給いけるかのゆへに、 忽に頓死して二人の獄卒に鉄の縄 七すぢつけられて閻魔王宮にいた
16 りぬ、命いまだ・つきずと・いゐてかへされしに法華経を謗ずるとや・おもひけん真言の観念・印・真言等をば・な
17 げすてて法華経の今此三界の文を唱えて 縄も切れかへされ給いぬ、 又雨のいのりを・おほせつけられたりしに忽
18 に雨は下たりしかども 大風吹きて国をやぶる、 結句死し給いてありしには弟子等集りて 臨終いみじきやうを・
0316top
01 ほめしかども無間大城に堕ちにき、 問うて云く何をもつてか・これをしる、 答えて云く彼の伝を見るに云く「今
02 畏の遺形を観るに 漸く加縮小し黒皮隠隠として骨其露なり」等云云、 彼の弟子等は 死後に地獄の相の顕われた
03 るをしらずして徳をあぐなど・をもへども・かきあらはせる筆は畏が失をかけり、 死してありければ身やふやく・
04 つづまり・ちひさく皮はくろし骨あらはなり等云云、 人死して後・色の黒きは地獄の業と定むる事は仏陀の金言ぞ
05 かし、善無畏三蔵の地獄の業はなに事ぞ 幼少にして位をすてぬ第一の道心なり、 月氏・五十余箇国を修行せり慈
06 悲の余りに漢土にわたれり、天竺・震旦・日本一閻浮提の内に真言を伝へ鈴をふる此の人の徳にあらずや、 いかに
07 して地獄に堕ちけると後生をおもはん人人は御尋ねあるべし。
08   又金剛智三蔵は南天竺の大王の太子なり、金剛頂経を漢土にわたす其の徳善無畏のごとし、 又互いに師となれ
09 り、而るに金剛智三蔵・勅宣によて雨の祈りありしかば 七日が中に雨下る・天子大に悦ばせ給うほどに忽に大風吹
10 き来る、 王臣等けうさめ給いき使をつけて追はせ給いしかども・とかうのべて留りしなり、 結句は姫宮の御死去
11 ありしに、 いのりをなすべしとて御身の代に殿上の二女七歳になりしを 薪に・つみこめて焼き殺せし事こそ無慚
12 にはおぼゆれ、 而れども・姫宮も・いきかへり給はず不空三蔵は金剛智と月支より御ともせり、此等の事を不審と
13 やおもひけん畏と智と入滅の後・月氏に還りて 竜智に値い奉り真言を習いなをし 天台宗に帰伏してありしが心計
14 りは帰えれども身はかへる事なし、 雨の御いのり・うけ給わりたりしが三日と申すに雨下る、 天子悦ばせ給いて
15 我れと御布施ひかせ給う、 須臾ありしかば大風落ち下りて内裏をも吹きやぶり雲閣・月卿の宿所・一所もあるべし
16 とも・みへざりしかば 天子大に驚きて宣旨なりて風をとどめよと仰せ下さる・且らくありては又吹き又吹きせしほ
17 どに数日が間やむことなし、 結句は使をつけて追うてこそ 風も・やみてありしか、此の三人の悪風は漢土日本の
18 一切の真言師の大風なり。
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01   さにてあるやらん去ぬる文永十一年四月十二日の大風は阿弥陀堂の加賀法印・ 東寺第一の智者の雨のいのりに
02 吹きたりし逆風なり、 善無畏・ 金剛智・ 不空の悪法をすこしもたがへず伝えたりけるか 心にくし心にくし。
03 弘法大師は 去ぬる天長元年の二月大旱魃のありしに先には守敏・ 祈雨して七日が内に雨を下す 但京中にふりて
04 田舎にそそがず、 次に弘法承取て一七日に雨気なし二七日に雲なし 三七日と申せしに天子より和気の真綱を使者
05 として御幣を神泉苑にまいらせたりしかば天雨下事三日、 此れをば弘法大師並に弟子等此の雨をうばひとり 我が
06 雨として今に四百余年・弘法の雨という、 慈覚大師の夢に日輪をいしと弘法大師の大妄語に云く弘仁九年の春・大
07 疫をいのりしかば夜中に大日輪出現せりと云云、 成劫より已来・住劫の第九の減・已上二十九劫が間に日輪夜中に
08 出でしという事なし、 慈覚大師は夢に日輪をいるという内典五千七千・外典三千余巻に日輪をいると・ゆめにみる
09 は吉夢という事有りやいなや、 修羅は帝釈をあだみて日天を・いたてまつる其の矢かへりて我が眼にたつ、 殷の
10 紂王は日天を的にいて身を亡す、 日本の神武天皇の御時度美長と五瀬命と合戦ありしに命の手に矢たつ、 命の云
11 く我はこれ日天の子孫なり日に向い奉りて弓をひくゆへに日天のせめを・ かをほれりと云云、 阿闍世王は邪見を
12 ひるがえして仏に帰しまいらせて内裏に返りて・ ぎよしんなりしが、おどろいて諸臣に向て云く日輪・天より地に
13 落つと・ ゆめにみる諸臣の云く仏の御入滅か云云、須跋陀羅がゆめ又かくのごとし、 我国は殊にいむべきゆめな
14 り神をば天照という国をば日本という、 又教主釈尊をば日種と申す摩耶夫人・日をはらむと・ゆめにみて・まうけ
15 給える太子なり、 慈覚大師は大日如来を叡山に立て 釈迦仏をすて真言の三部経をあがめて法華経の三部の敵とな
16 せしゆへに此の夢出現せり。
17   例せば漢土の善導が始は密州の明勝といゐし者に 値うて法華経をよみたりしが後には道綽に値うて法華経をす
18 て観経に依りて疏をつくり法華経をば千中無一・ 念仏をば十即十生・ 百即百生と定めて此の義を成ぜんがために
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01 阿弥陀仏の御前にして祈誓をなす、 仏意に叶うやいなや毎夜夢の中に常に一りの僧有りて来て指授すと云云、 乃
02 至一経法の如くせよ乃至観念法門経等云云、 法華経には「若し法を聞く者有れば 一として成仏せざる無し」と善
03 導は「千の中に一も無し」等云云、 法華経と善導とは水火なり善導は観経をば十即十生・百即百生・無量義経に云
04 く「観経は未だ真実を顕さず」等云云、 無量義経と楊柳房とは天地なり 此れを阿弥陀仏の僧と成りて来つて汝が
05 疏は 真なりと証し給わんはあに真事ならんや、 抑阿弥陀は法華経の座に来りて 舌をば出だし給はざりけるか、
06 観音勢至は法華経の座にはなかりけるか、此れをもつてをもへ慈覚大師の御夢はわざわひなり。
07   問うて云く弘法大師の心経の秘鍵に云く「時に弘仁九年の春天下大疫す、 爰に皇帝自ら黄金を筆端に染め紺紙
08 を爪掌に握りて般若心経一巻を書写し奉り給う 予講読の撰に範りて経旨の宗を綴る未だ結願の 詞を吐かざるに蘇
09 生の族途に彳ずむ、 夜変じて而も日光赫赫たり是れ愚身の戒徳に非ず金輪御信力の所為なり、 但し神舎に詣でん
10 輩は 此の秘鍵を誦し奉れ、 昔予鷲峰説法の筵に 陪して親り其の深文を聞きたてまつる 豈其の義に 達せざら
11 んや」等云云、 又孔雀経の音義に云く「弘法大師帰朝の後真言宗を立てんと欲し 諸宗を朝廷に群集す即身成仏の
12 義を疑う、大師智拳の印を結びて南方に向うに面門俄に開いて 金色の毘盧遮那と成り 即便本体に還帰す、入我・
13 我入の事・即身頓証の疑い此の日釈然たり、 然るに真言・瑜伽の宗・秘密曼荼羅の道彼の時より建立しぬ」、又云
14 く「此の時に諸宗の学徒大師に帰して始めて真言を得て 請益し習学す三論の道昌・法相の源仁・華厳の道雄・天台
15 の円澄等皆其の類なり」、 弘法大師の伝に云く「帰朝泛舟の日発願して云く 我が所学の教法若し感応の地有らば
16 此三鈷其の処に到るべし仍て日本の方に向て 三鈷を抛げ上ぐ遥かに飛んで雲に入る十月に帰朝す」云云、 又云く
17 「高野山の下に入定の所を占む 乃至彼の海上の三鈷今新たに此に在り」等云云、 此の大師の徳無量なり 其の両
18 三を示す・かくのごとくの大徳ありいかんが此の人を信ぜずして・かへりて阿鼻地獄に堕といはんや、 答えて云く
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01 予も仰いで信じ奉る事 かくのごとし 但古の人人も不可思議の徳ありしかども 仏法の邪正は其にはよらず、外道
02 が或は恒河を耳に十二年留め 或は大海をすひほし 或は日月を手ににぎり或は釈子を牛羊となしなんど・せしかど
03 も・いよいよ大慢を・をこして 生死の業とこそなりしか、 此れをば天台云く「名利を邀め見愛を増す」とこそ釈
04 せられて候へ、 光宅が忽に雨を下し須臾に花をさかせしをも妙楽は「感応此の如くなれども猶理に称わず」とこそ
05 かかれて候へ、 されば天台大師の法華経をよみて「須臾に甘雨を下せ」 伝教大師の三日が内に甘露の雨をふらし
06 ておはせしも 其をもつて仏意に叶うとは・をほせられず、 弘法大師いかなる徳ましますとも法華経を戯論の法と
07 定め釈迦仏を無明の辺域とかかせ給へる御ふでは 智慧かしこからん人は用ゆべからず、 いかにいわうや上にあげ
08 られて候徳どもは不審ある事なり、「弘仁九年の春・天下大疫」等云云、春は九十日・何の月・何の日ぞ是一、又弘
09 仁九年には大疫ありけるか是二、 又「夜変じて日光赫赫たり」と云云、 此の事第一の大事なり弘仁九年は 嵯峨
10 天皇の御宇なり左史右史の記に載せたりや是三、 設い載せたりとも信じがたき事なり 成劫二十劫・住劫九劫・已
11 上二十九劫が間に ・いまだ無き天変なり 、夜中に日輪の出現せる事如何・ 又如来一代の聖教にもみへず未来に
12 夜中に日輪出ずべしとは三皇五帝の三墳・五典にも載せず 仏経のごときんば壊劫にこそ二の日・三の日・乃至七の
13 日は出ずべしとは見えたれども・かれは昼のことぞかし・夜日出現せば東西北の三方は如何、 設い内外の典に記せ
14 ずとも現に弘仁九年の春・何れの月・何れの日・何れの夜の何れの時に日出ずるという・公家・諸家・叡山等の日記
15 あるならば・すこし信ずるへんもや、 次ぎ下に「昔予鷲峰説法の筵に陪して 親り其の深文を聞く」等云云、 此
16 の筆を人に信ぜさせしめんがために かまへ出だす大妄語か、 されば霊山にして法華は戯論・大日経は真実と仏の
17 説き給けるを阿難.文殊がアヤマリりて妙法華経をば真実とかけるか.いかん、いうにかいなき婬女・破戒の法師等が
18 歌をよみて雨す雨を三七日まで下さざりし人は・かかる徳あるべしや是四、孔雀経の音義に云く「大師智拳の印を結
0320top
01 んで南方に向うに面門俄かに開いて金色の毘盧遮那と成る」等云云、 此れ又何れの王・ 何れの年時ぞ漢土には建
02 元を初とし日本には大宝を初として 緇素の日記・大事には必ず年号のあるが、これほどの大事に・いかでか王も臣
03 も年号も日時もなきや、 又次ぎに云く「三論の道昌・法相の源仁・華厳の道雄・天台の円澄」等云云、抑も円澄は
04 寂光大師・天台第二の座主なり、 其の時何ぞ第一の座主義真・根本の伝教大師をば召さざりけるや、円澄は天台第
05 二の座主・伝教大師の御弟子なれども又弘法大師の弟子なり、弟子を召さんよりは三論・法相・華厳よりは天台の伝
06 教・義真の二人を召すべかりけるか、 而も此の日記に云く「真言瑜伽の宗・秘密曼荼羅彼の時よりして建立す」等
07 云云、此の筆は伝教・義真の御存生かとみゆ、 弘法は平城天皇・大同二年より弘仁十三年までは盛に真言をひろめ
08 し人なり、 其の時は此の二人現におはします 又義真は天長十年までおはせしかば其の時まで弘法の真言は・ひろ
09 まらざりけるか・かたがた不審あり、 孔雀経の疏は弘法の弟子・真済が自記なり信じがたし、又邪見者が公家・諸
10 家・円澄の記をひかるべきか、又道昌・源仁・道雄の記を尋ぬべし、「面門俄かに開いて金色の毘盧遮那と成る」等
11 云云、 面門とは口なり口の開けたりけるか眉間開くとかかんとしけるがアヤマりて面門とかけるか、ぼう書をつく
12 るゆへに・かかるあやまりあるか、 「大師智拳の印を結んで南方に向うに 面門俄かに開いて金色の毘盧遮那と成
13 る」等云云、 涅槃経の五に云く「迦葉仏に白して言さく 世尊我今是の四種の人に依らず何を以ての故に瞿師羅経
14 の中の如き仏瞿師羅が為に説きたまわく 若し天魔梵破壊せんと欲するが為に 変じて仏の像と為り三十二相・八十
15 種好を具足し荘厳し円光一尋面部円満なること猶月の盛 明なるが如く眉間の毫相白きこと珂雪に踰え 乃至左の脇
16 より水を出し右の脇より火を出す」等云云、 又六の巻に云く「仏迦葉に告げたまわく 我般涅槃して乃至後是の魔
17 波旬漸く 当に我が正法を沮壊す乃至化して阿羅漢の身及仏の色身と作り 魔王此の有漏の形を以て無漏の身と作り
18 我が正法を壊らん」等云云、 弘法大師は法華経を華厳経・大日経に対して戯論等云云、 而も仏身を現ず此れ涅槃
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01 経には魔・有漏の形をもつて仏となつて 我が正法をやぶらんと記し給う、 涅槃経の正法は法華経なり故に経の次
02 ぎ下の文に云く「久く已に成仏す」、 又云く「法華の中の如し」等云云、釈迦・多宝・十方の諸仏は一切経に対し
03 て「法華経は真実・大日経等の一切経は不真実」等云云、弘法大師は仏身を現じて華厳経・大日経に対して「法華経
04 は戯論」等云云、 仏説まことならば弘法は天魔にあらずや、 又三鈷の事・殊に不審なり漢土の人の日本に来りて
05 ほりいだすとも信じがたし、 已前に人をや・つかわして・うづみけん、いわうや弘法は日本の人かかる誑乱其の数
06 多し此等をもつて仏意に叶う人の証拠とはしりがたし。
07   されば此の真言.禅宗・念仏等やうやく・かさなり来る程に人王八十二代・尊成・隠岐の法皇.権の太夫殿を失わ
08 んと年ごろ・はげませ給いけるゆへに大王たる国主なれば・なにとなくとも師子王の兎を伏するがごとく、 鷹の雉
09 を取るやうにこそ.あるべかりし上.叡山・東寺・園城・奈良七大寺.天照太神・正八幡・山王・加茂.春日等に数年が
10 間・或は調伏・或は神に申させ給いしに二日.三日・だにも・ささへかねて佐渡国・阿波国.隠岐国等にながし失て終
11 にかくれさせ給いぬ、 調伏の上首・御室は但東寺をかへらるるのみならず 眼のごとくあひせさせ給いし第一の天
12 童・勢多伽が頚切られたりしかば調伏のしるし 還著於本人のゆへとこそ見へて候へ、 これはわづかの事なり此の
13 後定んで日本国の諸臣万民一人もなく 乾草を積みて火を放つがごとく 大山のくづれて谷をうむるがごとく 我が
14 国・他国にせめらるる事出来すべし、 此の事・日本国の中に但日蓮一人計りしれり、いゐいだすならば殷の紂王の
15 比干が胸を・さきしがごとく 夏の桀王の竜蓬が頚を切りしがごとく 檀弥羅王の師子尊者が頚を刎ねしがごとく竺
16 の道生が流されしがごとく 法道三蔵のかなやきをやかれしがごとく・ならんずらんとは・かねて知りしかども法華
17 経には「我身命を愛せず、 但無上道を惜しむ」ととかれ涅槃経には「寧身命を喪うとも 教を匿さざれ」といさめ
18 給えり、今度命をおしむならば・いつの世にか仏になるべき、又何なる世にか父母・師匠をも・すくひ奉るべきと・
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01 ひとへに・をもひ切りて申し始めしかば案にたがはず 或は所をおひ或はのり或はうたれ或は疵を・かうふるほどに
02 去ぬる弘長元年辛酉五月十二日に 御勘気を・かうふりて伊豆の国伊東にながされぬ、 又同じき弘長三年癸亥二月
03 二十二日にゆりぬ。
04   其の後弥菩提心強盛にして申せば・いよいよ大難かさなる事・大風に大波の起るがごとし、 昔の不軽菩薩の杖
05 木のせめも我身に・つみしられたり覚徳比丘が歓喜仏の末の大難も 此れには及ばじとをぼゆ、日本六十六箇国・嶋
06 二の中に一日・片時も何れの所に・すむべきやうもなし、 古は二百五十戒を持ちて忍辱なる事・羅云のごとくなる
07 持戒の聖人も富楼那のごとくなる智者も日蓮に値いぬれば 悪口をはく・正直にして魏徴・忠仁公のごとくなる賢者
08 等も日蓮を見ては理をまげて非とをこなう、 いわうや世間の常の人人は 犬のさるをみたるがごとく猟師が鹿を・
09 こめたるににたり、 日本国の中に一人として故こそ・あるらめと・いう人なし道理なり、人ごとに念仏を申す人に
10 向うごとに念仏は無間に堕つるというゆへに、 人ごとに真言を尊む 真言は国をほろぼす悪法という、国主は禅宗
11 を尊む日蓮は天魔の所為というゆへに我と招ける・わざわひなれば人の・のるをも・とがめず・とがむとても一人な
12 らず、打つをも・いたまず本より存ぜしがゆへに・かう・いよいよ身も・をしまず力にまかせて・せめしかば禅僧数
13 百人・念仏者数千人・真言師百千人・或は奉行につき 或はきり人につき或はきり女房につき或は後家尼御前等につ
14 いて無尽のざんげんをなせし程に 最後には天下第一の大事・日本国を失わんと咒そする法師なり、故最明寺殿・極
15 楽寺殿を無間地獄に堕ちたりと申す法師なり 御尋ねあるまでもなし 但須臾に頚をめせ弟子等をば又頚を切り或は
16 遠国につかはし或は篭に入れよと尼ごぜんたち・いからせ給いしかば・そのまま行われけり。
17   去ぬる文永八年辛未九月十二日の夜は 相模の国たつの口にて切らるべかりしが、 いかにしてやありけん其の
18 夜は・のびて依智というところへつきぬ、 又十三日の夜はゆりたりと・どどめきしが又いかにやありけん・さどの
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01 国までゆく、 今日切るあす切るといひしほどに四箇年というに結句は 去ぬる文永十一年太歳甲戌二月十四日に・
02 ゆりて同じき三月二十六日に鎌倉へ入り 同じき四月八日平の左衛門の尉に見参して やうやうの事申したりし中に
03 今年は蒙古は一定よすべしと申しぬ、 同じき五月の十二日にかまくらをいでて 此の山に入れり、これは・ひとへ
04 に父母の恩・師匠の恩・三宝の恩・国恩をほうぜんがために身をやぶり命をすつれども破れざれば・さでこそ候へ、
05 又賢人の習い三度国をいさむるに用いずば 山林にまじわれと・いうことは定まるれいなり、 此の功徳は定めて上
06 三宝・下梵天・帝釈・日月までも・しろしめしぬらん、 父母も故道善房の聖霊も扶かり給うらん、 但疑い念うこ
07 とあり目連尊者は扶けんとおもいしかども 母の青提女は餓鬼道に墜ちぬ、 大覚世尊の御子なれども善星比丘は阿
08 鼻地獄へ墜ちぬ、 これは力のまますくはんと・をぼせども自業自得果のへんは・すくひがたし、故道善房はいたう
09 弟子なれば日蓮をば・にくしとは・をぼせざりけるらめども・きわめて臆病なりし上・清澄を・はなれじと執せし人
10 なり、地頭景信がをそろしさといゐ・提婆・瞿伽利に・ことならぬ円智・実成が上と下とに居てをどせしをあながち
11 にをそれて・いとをしと・をもうとしごろの弟子等をだにも・すてられし人なれば後生はいかんがと疑わし、 但一
12 の冥加には景信と円智・実成とが・さきにゆきしこそ一のたすかりとは・をもへども彼等は法華経十羅刹のせめを・
13 かほりて・はやく失ぬ、 後にすこし信ぜられてありしは・いさかひの後のちぎりきなり、ひるのともしびなにかせ
14 ん其の上いかなる事あれども子弟子なんどいう者は不便なる者ぞかし、 力なき人にも・あらざりしがさどの国まで
15 ゆきしに一度もとぶらはれざりし事は 法華経を信じたるにはあらぬぞかし・それにつけても・あさましければ彼の
16 人の御死去ときくには火にも入り 水にも沈み・はしりたちても・ゆひて御はかをも・たたいて経をも一巻読誦せん
17 とこそ・おもへども賢人のならひ心には遁世とは・おもはねども人は遁世とこそ・おもうらんに・ゆへもなくはしり
18 出ずるならば末へも・とをらずと人おもひぬべし、 さればいかにおもひたてまつれども・まいるべきにあらず、但
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01 し各各・二人は日蓮が幼少の師匠にて・おはします、 勤操僧正・行表僧正の伝教大師の御師たりしが・かへりて御
02 弟子とならせ給いしがごとし、 日蓮が景信にあだまれて清澄山を出でしに かくしおきてしのび出でられたりしは
03 天下第一の法華経の奉公なり後生は疑いおぼすべからず。
04   問うて云く法華経.一部・八巻.二十八品の中に何物か肝心なるや、答えて云く華厳経の肝心は大方広仏華厳経・
05 阿含経の肝心は仏説中阿含経・大集経の肝心は大方等大集経・般若経の肝心は 摩訶般若波羅蜜経・雙観経の肝心は
06 仏説無量寿経・観経の肝心は仏説観無量寿経・阿弥陀経の肝心は仏説阿弥陀経・涅槃経の肝心は大般涅槃経・かくの
07 ごとくの一切経は皆如是我聞の上の題目・其の経の肝心なり、 大は大につけ小は小につけて 題目をもつて肝心と
08 す、大日経・金剛頂経・蘇悉地経等・亦復かくのごとし、仏も又かくのごとし大日如来・日月燈明仏・燃燈仏・大通
09 仏・雲雷音王仏・是等の仏も又名の内に其の仏の種種の徳をそなへたり、 今の法華経も亦もつて・かくのごとし、
10 如是我聞の上の妙法蓮華経の五字は即一部八巻の肝心、亦復.一切経の肝心・一切の諸仏・菩薩・二乗・天人.修羅・
11 竜神等の頂上の正法なり、 問うて云く南無妙法蓮華経と心もしらぬ者の唱うると 南無大方広仏華厳経と心もしら
12 ぬ者の唱うると斉等なりや浅深の功徳差別せりや、 答えて云く浅深等あり、疑て云く其の心如何、 答えて云く小
13 河は 露と涓と井と渠と江とをば収むれども 大河ををさめず・大河は露乃至小河を摂むれども 大海ををさめず、
14 阿含経は井江等露涓ををさめたる小河のごとし、方等経・阿弥陀経・大日経・華厳経等は小河ををさむる大河なり、
15 法華経は露・涓・井.江・小河・大河.天雨等の一切の水を一渧ももらさぬ大海なり、譬えば身の熱者の大寒水の辺に
16 いねつればすずしく.小水の辺に臥ぬれば苦きがごとし、五逆・謗法の大きなる一闡提人・阿含・華厳.観経・大日経
17 等の小水の辺にては大罪の大熱さんじがたし、法華経の大雪山の上に臥ぬれば 五逆・誹謗・一闡提等の大熱忽に散
18 ずべし・されば愚者は必ず法華経を信ずべし、 各各経経の題目は易き事・同じといへども愚者と智者との唱うる功
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01 徳は天地雲泥なり、譬へば大綱は大力も切りがたし小力なれども小刀をもつて・たやすく・これをきる、 譬へば堅
02 石をば鈍刀をもてば大力も破がたし、 利剣をもてば小力も破りぬべし、 譬へば薬はしらねども 服すれば病やみ
03 ぬ食は服すれども病やまず、譬へば仙薬は命をのべ凡薬は病をいやせども命をのべず。
04   疑つて云く二十八品の中に何か肝心ぞや、答えて云く或は云く品品皆事に随いて肝心なり、 或は云く方便品・
05 寿量品肝心なり、 或は云く方便品肝心なり、 或は云く寿量品肝心なり、或は云く開示悟入肝心なり、或は云く実
06 相肝心なり。
07   問うて云く汝が心如何答う南無妙法蓮華経肝心なり、其の証如何阿難・文殊等・如是我聞等云云、問うて云く心
08 如何、答えて云く阿難と文殊とは八年が間・此の法華経の 無量の義を一句・一偈・一字も残さず聴聞してありしが
09 仏の滅後に結集の時・九百九十九人の阿羅漢が 筆を染めてありしに 先づはじめに妙法蓮華経とかかせ給いて如是
10 我聞と唱えさせ給いしは妙法蓮華経の五字は一部・八巻・二十八品の肝心にあらずや、 されば過去の燈明仏の時よ
11 り法華経を講ぜし光宅寺の法雲法師は「如是とは将に所聞を伝えんとす 前題に一部を挙ぐるなり」等云云、 霊山
12 にまのあたり・きこしめしてありし 天台大師は「如是とは所聞の法体なり」等云云章安大師の云く記者釈して曰く
13 「蓋し序王とは経の玄意を叙し玄意は文心を述す」等云云、 此の釈に文心とは題目は法華経の心なり妙楽大師云く
14 「一代の教法を収むること法華の文心より出ず」等云云、天竺は七十箇国なり総名は月氏国・日本は六十箇国・総名
15 は日本国・月氏の名の内に七十箇国・乃至人畜・珍宝みなあり、日本と申す名の内に六十六箇国あり、出羽の羽も奥
16 州の金も乃至国の珍宝・人畜乃至寺塔も神社もみな日本と申す二字の名の内に摂れり、 天眼をもつては日本と申す
17 二字を見て六十六国乃至人畜等をみるべし・法眼をもつては 人畜等の此に死し彼に生るをもみるべし・譬へば人の
18 声をきいて体をしり跡をみて大小をしる 蓮をみて池の大小を計り雨をみて竜の分斉をかんがう、 これはみな一に
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01 一切の有ることわりなり、 阿含経の題目には大旨一切はあるやうなれども 但小釈迦・一仏のみありて他仏なし、
02 華厳経・観経・大日経等には又一切有るやうなれども二乗を仏になすやうと久遠実成の釈迦仏いまさず、 例せば華
03 さいて菓ならず雷なつて雨ふらず 鼓あつて音なし 眼あつて物をみず 女人あつて子をうまず 人あつて命なし又
04 神なし、大日の真言・薬師の真言・阿弥陀の真言・観音の真言等又かくのごとし、彼の経経にしては大王・須弥山・
05 日月・良薬・如意珠・利剣等のやうなれども法華経の題目に対すれば雲泥の勝劣なるのみならず皆各各・当体の自用
06 を失ふ、 例せば衆星の光の一の日輪にうばはれ 諸の鉄の一の磁石に値うて利性のつき大剣の小火に値て用を失な
07 い牛乳・驢乳等の師子王の乳に値うて水となり 衆狐が術・一犬に値うて失い、狗犬が小虎に値うて色を変ずるがご
08 とし、 南無妙法蓮華経と申せば南無阿弥陀仏の用も南無大日真言の用も観世音菩薩の用も一切の諸仏・諸経・諸菩
09 薩の用皆悉く妙法蓮華経の用に失なはる、 彼の経経は妙法蓮華経の用を借ずば 皆いたづらのものなるべし当時眼
10 前のことはりなり、 日蓮が南無妙法蓮華経と弘むれば南無阿弥陀仏の用は 月のかくるがごとく塩のひるがごとく
11 秋冬の草の・かるるがごとく冰の日天に・とくるがごとく・なりゆくをみよ。
12   問うて云く此の法実にいみじくばなど迦葉.阿難.馬鳴.竜樹.無著.天親・南岳.天台・妙楽・伝教等は善導が南無
13 阿弥陀仏とすすめて漢土に弘通せしがごとく、慧心・永観・法然が日本国を皆阿弥陀仏になしたるがごとく・すすめ
14 給はざりけるやらん、 答えて云く此の難は古の難なり今はじめたるにはあらず、馬鳴・竜樹菩薩等は仏の滅後・六
15 百年・七百年等の大論師なり、 此の人人世にいでて大乗経を弘通せしかば諸諸の小乗の者・疑つて云く迦葉・阿難
16 等は仏の滅後・二十年・四十年住寿し給いて正法をひろめ給いしは 如来一代の肝心をこそ弘通し給いしか、而るに
17 此の人人は但苦・空・無常・無我の法門をこそ詮とし給いしに今.馬鳴・竜樹等かしこしといふとも迦葉.阿難等には
18 すぐべからず是一、 迦葉は仏にあひまいらせて解をえたる人なり、此の人人は仏にあひたてまつらず是二、 外道
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01 は常.楽・我.浄と立てしを仏・世に出でさせ給いて苦.空・無常.無我と説かせ給いき、此のものどもは常楽我浄とい
02 へり、 されば仏も御入滅なり又迦葉等もかくれさせ給いぬれば 第六天の魔王が此のものどもが身に入りかはりて
03 仏法をやぶり外道の法となさんとするなり、 されば仏法のあだをば頭をわれ 頚をきれ命をたて食を止めよ国を追
04 へと諸の小乗の人人申せしかども 馬鳴・竜樹等は但・一二人なり昼夜に悪口の声をきき朝暮に杖木をかうふりしな
05 り、而れども此の二人は仏の御使ぞかし、 正く摩耶経には六百年に馬鳴出で 七百年に竜樹出でんと説かれて候、
06 其の上楞伽経等にも記せられたり 又付法蔵経には申すにをよばず、 されども諸の小乗のものどもは用いず但めく
07 らぜめにせめしなり、 如来現在・猶多怨嫉・況滅度後の経文は此の時にあたりて少しつみしられけり、提婆菩薩の
08 外道にころされ師子尊者の頚をきられし此の事をもつて・おもひやらせ給へ。
09   又仏滅後・一千五百余年にあたりて月氏よりは東に漢土といふ国あり陳隋の代に天台大師出世す、 此の人の云
10 く如来の聖教に大あり小あり顕あり密あり権あり実あり、迦葉・阿難等は一向に小を弘め馬鳴・竜樹・無著・天親等
11 は権大乗を弘めて実大乗の法華経をば 或は但指をさして義をかくし 或は経の面をのべて始中終をのべず、 或は
12 迹門をのべて本門をあらはさず、 或は本迹あつて観心なしといひしかば、南三・北七の十流が末・数千万人・時を
13 つくりどつとわらふ、 世の末になるままに不思議の法師も出現せり、 時にあたりて我等を偏執する者はありとも
14 後漢の永平十年丁卯の歳より今陳隋にいたるまでの 三蔵・人師・二百六十余人をものもしらずと申す上 謗法の者
15 なり悪道に墜つるといふ者・出来せり、 あまりの・ものくるはしさに法華経を持て来り給へる羅什三蔵をも・もの
16 しらぬ者と申すなり、 漢土はさてもをけ月氏の大論師・竜樹・天親等の数百人の四依の菩薩もいまだ実義をのべ給
17 はずといふなり、 此をころしたらん人は鷹をころしたるものなり鬼をころすにもすぐべしとののしりき、 又妙楽
18 大師の時・月氏より法相・真言わたり漢土に華厳宗の始まりたりしを・とかくせめしかば・これも又さはぎしなり。
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01 日本国には伝教大師が仏滅後・一千八百年にあたりて・いでさせ給い 天台の御釈を見て欽明より已来 二百六十余
02 年が間の六宗をせめ給いしかば在世の外道・漢土の道士・日本に出現せりと謗ぜし上・仏滅後・一千八百年が間・月
03 氏・漢土・日本になかりし円頓の大戒を立てんというのみならず、西国の観音寺の戒壇・東国下野の小野寺の戒壇・
04 中国大和の国・東大寺の戒壇は同く小乗臭糞の戒なり瓦石のごとし、 其を持つ法師等は野干・猿猴等のごとしとあ
05 りしかばあら不思議や法師ににたる大蝗虫・国に出現せり仏教の苗一時に・うせなん、殷の紂・夏の桀・法師となり
06 て日本に生まれたり、 後周の宇文・唐の武宗・二たび世に出現せり仏法も但今失せぬべし国もほろびなんと大乗・
07 小乗の二類の法師出現せば修羅と帝釈と項羽と高祖と一国に並べるなるべしと、 諸人手をたたき舌をふるふ、 在
08 世には仏と提婆が二の戒壇ありて・そこばくの人人・死にき、 されば他宗には・そむくべし我が師天台大師の立て
09 給はざる 円頓の戒壇を立つべしという不思議さよ・あらおそろしおそろしと ののしりあえりき、されども経文分
10 明にありしかば叡山の大乗戒壇すでに立てさせ給いぬ、 されば内証は同じけれども 法の流布は迦葉・阿難よりも
11 馬鳴・竜樹等はすぐれ馬鳴等よりも天台はすぐれ 天台よりも伝教は超えさせ給いたり、 世末になれば人の智はあ
12 さく仏教はふかくなる事なり、例せば軽病は凡薬・重病には仙薬・弱人には強きかたうど有りて扶くるこれなり。
13   問うて云く天台伝教の弘通し給わざる正法ありや、 答えて云く有り求めて云く何物ぞや、答えて云く三あり、
14 末法のために仏留め置き給う迦葉.阿難等・馬鳴・竜樹等.天台・伝教等の弘通せさせ給はざる正法なり、求めて云く
15 其の形貌如何、 答えて云く一には日本・乃至一閻浮提・一同に本門の教主釈尊を本尊とすべし、 所謂宝塔の内の
16 釈迦多宝・外の諸仏・並に上行等の四菩薩脇士となるべし、 二には本門の戒壇、三には日本・乃至漢土・月氏・一
17 閻浮提に人ごとに有智無智をきらはず 一同に他事をすてて南無妙法蓮華経と唱うべし、 此の事いまだ・ひろまら
18 ず一閻浮提の内に仏滅後・二千二百二十五年が間 一人も唱えず日蓮一人・南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経等と声
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01 もをしまず唱うるなり、 例せば風に随つて波の大小あり薪によつて火の高下 あり池に随つて蓮の大小あり雨の大
02 小は竜による根ふかければ枝しげし 源遠ければ流ながしと・いうこれなり、 周の代の七百年は 文王の礼孝によ
03 る秦の世ほどもなし始皇の左道によるなり、 日蓮が慈悲曠大ならば 南無妙法蓮華経は万年の外・未来までもなが
04 るべし、 日本国の一切衆生の盲目をひらける功徳あり、 無間地獄の道をふさぎぬ、此の功徳は伝教・天台にも超
05 へ竜樹・迦葉にもすぐれたり、 極楽百年の修行は穢土の一日の功徳に及ばず、 正像二千年の弘通は末法の一時に
06 劣るか、是れひとへに日蓮が智のかしこきには・あらず時のしからしむる耳、 春は花さき秋は菓なる夏は・あたた
07 かに冬は・つめたし時のしからしむるに有らずや。
08   「我滅度の後.後の五百歳の中に広宣流布して閻浮提に於て断絶して悪魔.魔民.諸の天竜.夜叉・鳩槃荼等に其の
09 便りを得せしむること無けん」等云云、 此の経文若しむなしくなるならば 舎利弗は華光如来とならじ迦葉尊者は
10 光明如来とならじ目ケンは多摩羅跋栴檀香仏とならじ阿難は山海慧自在通王仏とならじ 摩訶波闍波提比丘尼は一切
11 衆生喜見仏とならじ 耶輸陀羅比丘尼は具足千万光相仏とならじ、三千塵点も戯論となり・五百塵点も妄語となりて
12 恐らくは教主釈尊は無間地獄に堕ち 多宝仏は阿鼻の炎にむせび 十方の諸仏は八大地獄を栖とし一切の菩薩は一百
13 三十六の苦をうくべし・いかでかその義候べき、 其の義なくば 日本国は一同の南無妙法蓮華経なり、 されば花
14 は根にかへり真味は土にとどまる、 此の功徳は故道善房の聖霊の御身にあつまるべし、 南無妙法蓮華経・南無妙
15 法蓮華経。
16       建治二年太歳丙子七月二十一日    之を記す
17     甲州波木井郷身延山より安房の国・東条の郡・清澄山・浄顕房・義成房の許に奉送す
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報恩抄送文
01   御状給り候畢ぬ、親疎と無く法門と申すは心に入れぬ人にはいはぬ事にて候ぞ御心得候へ、御本尊図して進候・
02 此の法華経は仏の在世よりも仏の滅後・正法よりも像法・像法よりも末法の初には 次第に怨敵強くなるべき由をだ
03 にも御心へあるならば日本国に是より外に 法華経の行者なしこれを皆人存じ候ぬべし、 道善御房の御死去の由・
04 去る月粗承わり候、 自身早早と参上し此の御房をも・やがてつかはすべきにて候しが 自身は内心は存ぜずといへ
05 ども人目には遁世のやうに見えて候へば なにとなく此の山を出でず候、 此の御房は又内内・人の申し候しは宗論
06 や・あらんずらんと申せしゆへに 十方にわかて経論等を尋ねしゆへに国国の寺寺へ 人をあまたつかはして候に此
07 の御房はするがの国へつかはして当時こそ来て候へ、 又此の文は随分大事の大事どもをかきて候ぞ 詮なからん人
08 人にきかせなば・あしかりぬべく候、 又設いさなくとも・あまたになり候はばほかさまにも・きこえ候なば御ため
09 又このため安穏ならず候はんか、 御まへと義成房と二人・此の御房をよみてとして嵩がもりの頂にて二三遍・又故
10 道善御房の御はかにて一遍よませさせ給いては 此の御房にあづけさせ給いてつねに御聴聞候へ、 たびたびになり
11 候ならば心づかせ給う事候なむ、恐恐謹言。
12       七月二十六日                       日 蓮 花 押
13     清澄御房
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法華取要抄    文永十一年五月    五十三歳御作    与富木常忍 於身延 扶桑沙門日蓮之を述ぶ
01   夫れ以れば月支西天より漢土日本に渡来する所の経論五千七千余巻なり、其中の諸経論の勝劣・浅深・難易・先
02 後・自見に任せて之を弁うことは其の分に及ばず、 人に随い宗に依つて之を知る者は其の義紛紕す、所謂華厳宗の
03 云く「一切経の中に此の経第一」と、法相宗の云く「一切経の中に深密経第一」と、三論宗の云く「一切経の中に般
04 若経第一」と.真言宗の云く「一切経の中に大日の三部経第一」と,禅宗の云く或は云く「教内には楞伽経第一」と、
05 或は云く「首楞厳経第一」と或は云く「教外別伝の宗なり」と、浄土宗の云く「一切経の中に浄土の三部経末法に入
06 りては機教相応して第一なり」と、倶舎宗・成実宗・律宗云く「四阿含・並に律論は仏説なり華厳経・法華経等は仏
07 説に非ず外道の経なり」或は云く或は云く、而に彼れ彼れ宗宗の元祖等.杜順・智儼.法蔵・澄観.玄奘・慈恩.嘉祥・
08 道朗・善無畏・金剛智・不空・道宣・鑒真・曇鸞・道綽・善導・達磨・慧可等なり、 此等の三蔵大師等は皆聖人な
09 り智は日月に斉く徳は四海に弥れり、 其の上各各に経律論に依り 更互に証拠有り随つて王臣国を傾け土民之を仰
10 ぐ末世の偏学設い是非を加うとも人信用を致さじ、 爾りと雖も宝山に来り登つて瓦石を採取し 栴檀に歩み入つて
11 伊蘭を懐き取らば悔恨有らん、故に万人の謗りを捨て猥りに取捨を加う我が門弟委細に之を尋討せよ。
12   夫れ諸宗の人師等或は旧訳の経論を見て 新訳の聖典を見ず或は新訳の経論を見て旧訳を捨置き或は自宗の曲に
13 執著して己義に随い愚見を注し 止めて後代に之を加添す、 株杭に驚き騒ぎて兎獣を尋ね求め智円扇に発して仰い
14 で天月を見る 非を捨て理を取るは智人なり、 今末の論師・本の人師の邪義を捨て置いて専ら本経本論を引き見る
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01 に五十余年の諸経の中に 法華経第四法師品の中の已今当の三字最も第一なり、 諸の論師・諸の人師定めて此経文
02 を見けるか、 然りと雖も或は相似の経文に狂い或は本師の邪会に執し 或は王臣等の帰依を恐るるか、所謂金光明
03 経の「是諸経之王」密厳経の 「一切経中勝」六波羅蜜経の「総持第一」 大日経の「云何菩提」華厳経の「能信是
04 経.最為難」般若経の「会入法性.不見一事」大智度論の「般若波羅蜜最第一」涅槃論の「今者涅槃理」等なり、此等
05 の諸文は 法華経の已今当の三字に相似せる文なり・然りと雖も或は梵帝・四天等の諸経に対当すれば是れ諸経の王
06 なり或は小乗経に相対すれば 諸経の中の王なり或は華厳・勝鬘等の経に相対すれば 一切経の中に勝れたり全く五
07 十余年の大小・権実・顕密の諸経に相対して是れ諸経の王の大王なるに非ず 所詮所対を見て経経の勝劣を弁うべき
08 なり、 強敵を臥伏するに始て大力を知見する是なり、 其の上諸経の勝劣は釈尊一仏の浅深なり全く多宝分身の助
09 言を加うるに非ず私説を以て公事に混ずる事勿れ、 諸経は或は二乗凡夫に対揚して小乗経を演説し、或は文殊・解
10 脱月・金剛タ等の弘伝の菩薩に対向して全く地涌千界の上行等には非ず、 今・ 法華経と諸経とを相対するに一代
11 に超過すること二十種之有り、 其の中最要二有り所謂三五の二法なり 三とは三千塵点劫なり諸経は或は釈尊の因
12 位を明すこと或は三祇・或は動逾塵劫・或は無量劫なり、 梵王云く此の土には二十九劫より已来知行の主なり第六
13 天・帝釈・四天王等も以て是くの如し、 釈尊と梵王等と始めて知行の先後之を諍論す爾りと雖も一指を挙げて之を
14 降伏してより已来梵天頭を傾け魔王掌を合せ 三界の衆生をして釈尊に帰伏せしむる是なり、 又諸仏の因位と釈尊
15 の因位と之を糾明するに諸仏の因位は 或は三祇或は五劫等なり 釈尊の因位は既に三千塵点劫より已来娑婆世界の
16 一切衆生の結縁の大士なり、 此の世界の六道の一切衆生は他土の他の菩薩に有縁の者一人も之無し、 法華経に云
17 く「爾の時に法を聞く者は各諸仏の所に在り」等云云、 天台云く「西方は仏別に縁異り 故に子父の義成せず」等
18 云云、 妙楽云く「弥陀釈迦二仏既に殊なり 況や宿昔の縁別にして化導同じからざるをや結縁は生の如く成熟は養
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01 の如し生養縁異れば父子成ぜず」等云云、 当世日本国の一切衆生 弥陀の来迎を待つは譬えば 牛の子に馬の乳を
02 含め瓦の鏡に天月を浮ぶるが如し、 又果位を以て之を論ずれば 諸仏如来或は十劫・百劫・千劫已来の過去の仏な
03 り、 教主釈尊は既に五百塵点劫より已来妙覚果満の仏なり大日如来・阿弥陀如来・薬師如来等の尽十方の諸仏は我
04 等が本師教主釈尊の所従等なり、 天月の万水に浮ぶ是なり、華厳経の十方台上の毘盧遮那・大日経・金剛頂経・両
05 界の大日如来は宝塔品の多宝如来の左右の脇士なり、 例せば世の王の両臣の如し 此の多宝仏も寿量品の教主釈尊
06 の所従なり、 此の土の我等衆生は五百塵点劫より已来教主釈尊の愛子なり 不孝の失に依つて今に覚知せずと雖も
07 他方の衆生には似る可からず、 有縁の仏と結縁の衆生とは譬えば天月の清水に浮ぶが如く 無縁の仏と衆生とは譬
08 えば聾者の雷の声を聞き盲者の日月に向うが如し、 而るに或る人師は釈尊を下して大日如来を仰崇し 或る人師は
09 世尊は無縁なり阿弥陀は有縁なり、 或る人師の云く小乗の釈尊と 或は華厳経の釈尊と或は法華経迹門の釈尊と此
10 等の諸師並びに檀那等釈尊を忘れて 諸仏を取ることは例せば阿闍世太子の頻婆沙羅王を殺し 釈尊に背いて提婆達
11 多に付きしが如し、 二月十五日は釈尊御入滅の日乃至十二月十五日も三界慈父の御遠忌なり、善導・法然・永観等
12 の提婆達多に誑されて 阿弥陀仏の日と定め畢んぬ、 四月八日は世尊御誕生の日なり薬師仏に取り畢んぬ、 我が
13 慈父の忌日を他仏に替るは孝養の者なるか如何、 寿量品に云く「我も亦為れ世の父・狂子を治する為の故に」等云
14 云、天台大師云く「本此の仏に従つて 初めて道心を発す亦此の仏に従つて不退地に住す 乃至猶百川の海に潮すべ
15 きが如く縁に牽かれて応生すること亦復是くの如し」等云云。
16   問うて云く法華経は誰人の為に之を説くや、 答えて曰く方便品より人記品に至るまでの八品に二意有り上より
17 下に向て次第に之を読めば第一は菩薩・第二は二乗・第三は凡夫なり、安楽行より勧持・提婆・宝塔・法師と逆次に
18 之を読めば滅後の衆生を以て本と為す 在世の衆生は傍なり滅後を以て之を論ずれば 正法一千年像法一千年は傍な
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01 り、 末法を以て正と為す末法の中には 日蓮を以て正と為すなり、 問うて曰く其の証拠如何、答えて曰く況滅度
02 後の文是なり、疑つて云く日蓮を正と為す正文如何、 答えて云く「諸の無智の人有つて・悪口罵詈等し・及び刀杖
03 を加うる者」等云云、 問うて曰く自讃は如何、 答えて曰く喜び身に余るが故に堪え難くして自讃するなり、問う
04 て曰く本門の心如何、 答えて曰く本門に於て二の心有り一には涌出品の略開近顕遠は 前四味並に迹門の諸衆をし
05 て脱せしめんが為なり、 二には涌出品の動執生疑より一半並びに寿量品・分別功徳品の半品已上一品二半を広開近
06 顕遠と名く一向に滅後の為なり、問うて曰く略開近顕遠の心如何、答えて曰く文殊弥勒等の諸大菩薩・梵天・帝釈・
07 日月・衆星・竜王等 初成道の時より般若経に至る已来は一人も釈尊の御弟子に非ず 此等の菩薩天人は初成道の時
08 仏未だ説法したまわざる已前に不思議解脱に住して 我と別円二教を演説す釈尊其の後に阿含・方等・般若を宣説し
09 給う然りと雖も全く此等の諸人の得分に非ず、 既に別円二教を知りぬれば蔵通をも又知れり 勝は劣を兼ぬる是な
10 り委細に之を論ぜば或は釈尊の師匠なるか 善知識とは是なり釈尊に随うに非ず、 法華経の迹門の八品に来至して
11 始めて未聞の法を聞いて此等の人人は弟子と成りぬ 舎利弗目連等は鹿苑より已来初発心の弟子なり、 然りと雖も
12 権法のみを許せり、 今法華経に来至して実法を授与し 法華経本門の略開近顕遠に来至して華厳よりの大菩薩・二
13 乗・大梵天・帝釈・日月・四天・竜王等は位妙覚に隣り又妙覚の位に入るなり、若し爾れば今我等天に向つて之を見
14 れば生身の妙覚の仏本位に居して衆生を利益する是なり。
15   問うて曰く誰人の為に広開近顕遠の寿量品を演説するや、 答えて曰く寿量品の一品二半は始より終に至るまで
16 正く滅後衆生の為なり 滅後の中には末法今時の日蓮等が為なり、 疑つて云く此の法門前代に未だ之を聞かず経文
17 に之れ有りや、 答えて曰く予が智前賢に超えず設い経文を引くと雖も 誰人か之を信ぜん卞和が啼泣・伍子胥が悲
18 傷是なり、 然りと雖も略開近顕遠・動執生疑の文に云く 「然も諸の新発意の菩薩・仏の滅後に於て若し是の語を
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01 聞かば或は信受せずして 法を破する罪業の因縁を起さん」等云云、 文の心は寿量品を説かずんば末代の凡夫皆悪
02 道に堕せん等なり、 寿量品に云く「是の好き良薬を今留めて此に在く」等云云、 文の心は上は過去の事を説くに
03 似たる様なれども此の文を以て之れを案ずるに 滅後を以て本と為す先ず先例を引くなり、 分別功徳品に云く「悪
04 世末法の時」等云云、 神力品に云く「仏滅度の後に能く是の経を持たんを以つての故に 諸仏皆歓喜して無量の神
05 力を現じ給う」等云云、 薬王品に云く「我が滅度の後・後の五百歳の中に広宣流布して 閻浮提に於て断絶せしむ
06 ること無けん」等云云、 又云く「此の経は則ち為れ閻浮提の人の病の良薬なり」等云云、 涅槃経に云く「譬えば
07 七子の如し父母平等ならざるに非ざれども 然も病者に於て心則ち偏に重し」等云云、 七子の中の第一第二は一闡
08 提謗法の衆生なり諸病の中には 法華経を謗ずるが第一の重病なり、 諸薬の中には南無妙法蓮華経は第一の良薬な
09 り、 此の一閻浮提は縦広七千由善那八万の国之れ有り 正像二千年の間未だ広宣流布せざるに法華経当世に当つて
10 流布せしめずんば 釈尊は大妄語の仏・多宝仏の証明は 泡沫に同じく十方分身の仏の助舌も 芭蕉の如くならん。
11   疑つて云く多宝の証明・十方の助舌・地涌の涌出此等は誰人の為ぞや、答えて曰く世間の情に云く在世の為と、
12 日蓮云く舎利弗.目ケン等は現在を以て之を論ずれば 智慧第一.神通第一の大聖なり、過去を以て之を論ずれば金竜
13 陀仏・青竜陀仏なり、 未来を以て之を論ずれば華光如来、 霊山を以て之を論ずれば三惑頓尽の大菩薩、本を以て
14 之を論ずれば内秘外現の古菩薩なり、文殊・弥勒等の大菩薩は過去の古仏・現在の応生なり、梵帝・日月・四天等は
15 初成已前の大聖なり、 其の上前四味・四教・一言に之を覚りぬ・仏の在世には一人に於ても無智の者之れ無し誰人
16 の疑を晴さんが為に多宝仏の証明を借り諸仏舌を出し 地涌の菩薩を召さんや方方以て謂れ無き事なり、 経文に随
17 つて「況滅度後・令法久住」等云云、 此等の経文を以て之を案ずるに偏に我等が為なり、 随つて天台大師当世を
18 指して云く「後の五百歳遠く妙道に沾わん」 伝教大師当世を記して云く「正像稍過ぎ已つて 末法太だ近きに有り
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01「末法太有近」の五字は我が世は法華経流布の世に非ずと云う釈なり。
02   問うて云く如来滅後二千余年・竜樹・天親・天台・伝教の残したまえる所の秘法は何物ぞや、 答えて云く本門
03 の本尊と戒壇と題目の五字となり、問うて曰く正像等に何ぞ弘通せざるや、答えて曰く正像に之を弘通せば小乗・権
04 大乗・迹門の法門・一時に滅尽す可きなり、 問うて曰く仏法を滅尽するの法何ぞ之を弘通せんや、 答えて曰く末
05 法に於ては大小・権実・顕密共に教のみ有つて得道無し 一閻浮提皆謗法と為り畢んぬ、逆縁の為には但妙法蓮華経
06 の五字に限る、 例せば不軽品の如し我が門弟は順縁なり日本国は逆縁なり、 疑つて云く何ぞ広略を捨て要を取る
07 や、答えて曰く玄奘三蔵は略を捨てて広を好み 四十巻の大品経を六百巻と成す 羅什三蔵は広を捨て略を好む千巻
08 の大論を百巻と成せり、 日蓮は広略を捨てて肝要を好む 所謂上行菩薩所伝の妙法蓮華経の五字なり、 九包淵が
09 馬を相するの法は玄黄を略して駿逸を取る 支道林が経を講ずるには細科を捨てて元意を取る等云云、 仏既に宝塔
10 に入つて二仏座を並べ分身来集し 地涌を召し出し肝要を取つて 末代に当てて五字を授与せんこと当世異義有る可
11 からず。
12   疑つて云く今世に此の法を流布せば先相之れ有りや、答えて曰く法華経に「如是相乃至本末究竟等」云云、天台
13 云く 「蜘虫掛りて喜び事たり 鵲鳴いて客人来る 小事猶以て是くの如し何に況や大事をや」取意、 問うて曰く
14 若し爾れば其の相之れ有りや、 答えて曰く去ぬる正嘉年中の大地震・文永の大彗星・其より已後今に種種の大なる
15 天変・地夭此等は此先相なり、仁王経の七難.二十九難.無量の難、金光明経.大集経・守護経.薬師経等の諸経に挙ぐ
16 る所の諸難皆之有り 但し無き所は二三四五の日出る大難なり、 而るを今年佐渡の国の土民は口口に云う今年正月
17 廿三日の申の時西の方に 二の日出現す或は云く三の日出現す等云云、 二月五日には東方に明星二つ並び出ず其の
18 中間は三寸計り等云云、 此の大難は日本国先代にも未だ之有らざるか、 最勝王経の王法正論品に云く「変化の流
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01 星堕ち二の日倶時に出で 他方の怨賊来つて国人喪乱に遭う」等云云、 首楞厳経に云く「或は二の日を見し或は両
02 つの月を見す」等、 薬師経に云く「日月薄蝕の難」等云云、 金光明経に云く「彗星数ば出で両つの日並び現じ薄
03 蝕恒無し」 大集経に云く「仏法実に隠没せば乃至日月明を現ぜず」 仁王経に云く「日月度を失い 時節返逆し或
04 は赤日出で黒日出で二三四五の日出ず或は日蝕して光無く 或は日輪一重二三四五重輪現ぜん」等云云、 此の日月
05 等の難は 七難二十九難無量の諸難の中に第一の大悪難なり、 問うて曰く 此等の大中小の諸難は何に因つて之を
06 起すや、 答えて曰く「最勝王経に曰く 非法を行ずる者を見て当に愛敬を生じ善法を行ずる人に於て苦楚して治罰
07 す」等云云、法華経に云く・涅槃経に云く・金光明経に云く「悪人を愛敬し善人を治罰するに由るが故に星宿及び風
08 雨皆時を以て行われず」等云云、 大集経に云く「仏法実に隠没し乃至是くの如き不善業の悪王悪比丘 我が正法を
09 毀壊す」等、仁王経に云く「聖人去る時七難必ず起る」等、 又云く「法に非ず律に非ず比丘を繋縛すること獄囚の
10 法の如くす爾の時に当つて法滅せんこと久しからず」等、 又云く「諸の悪比丘多く名利を求め 国王太子王子の前
11 に於て 自ら破仏法の因縁破国の因縁を説かん 其の王別まえずして 此の語を信聴せん」等云云、此等の明鏡を齎
12 て 当時の日本国を引き向うるに天地を浮ぶること宛も符契の如し 眼有らん我が門弟は之を見よ、 当に知るべし
13 此の国に悪比丘等有つて天子・王子・将軍等に向つて讒訴を企て聖人を失う世なり、問うて曰く弗舎密多羅王・会昌
14 天子・守屋等は月支・真旦・日本の仏法を滅失し提婆菩薩・師子尊者等を殺害す其の時何ぞ此の大難を出さざるや、
15 答えて曰く災難は人に随つて大小有る可し 正像二千年の間悪王悪比丘等は或は外道を用い 或は道士を語らい或は
16 邪神を信ず仏法を滅失すること 大なるに似たれども其の科尚浅きか、 今当世の悪王・悪比丘の仏法を滅失するは
17 小を以て大を打ち 権を以て実を失う 人心を削て身を失わず寺塔を焼き尽さずして 自然に之を喪す其の失前代に
18 超過せるなり、 我が門弟之を見て法華経を信用せよ目を瞋らして鏡に向え、天瞋るは人に失有ればなり、 二の日
0338top
01 並び出るは一国に二の国王並ぶ相なり、 王と王との闘諍なり、星の日月を犯すは臣・王を犯す相なり、 日と日と
02 競い出るは四天下一同の諍論なり、 明星並び出るは太子と太子との諍論なり、 是くの如く国土乱れて後に上行等
03 の聖人出現し本門の三つの法門之を建立し一四天・四海一同に妙法蓮華経の広宣流布疑い無からん者か。
04       文永十一年五月                             在御判
四信五品抄    建治三年四月十日    五十六歳御作    与富木常忍
01   青鳧一結送り給び候い了んぬ。
02   今来の学者一同の御存知に云く「在世滅後異なりと雖も 法華を修行するには必ず三学を具す一を欠いても成ぜ
03 ず」云云。
04   余又年来此の義を存する処一代聖教は且らく之を置く法華経に入つて 此の義を見聞するに序正の二段は且らく
05 之を置く 流通の一段は末法の明鏡尤も依用と為すべし、 而して流通に於て二有り一には所謂迹門の中の法師等の
06 五品・二には 所謂本門の中の分別功徳の半品より経を終るまで十一品半なり、 此の十一品半と五品と合せて十六
07 品半・此の中に 末法に入つて法華を修行する相貌分明なり 是に尚事行かずんば普賢経・涅槃経等を引き来りて之
08  れを糾明せんに其の隠れ無きか、其の中の分別功徳品の四信と五品とは法華を修行するの大要・在世・滅後の亀鏡
09 なり。
10  ケイ谿の云く「一念信解とは即ち是れ本門立行の首なり」と云云、 其の中に現在の四信の初の一念信解と滅後の
0339top
01 五品の第一の初随喜と此の二処は一同に百界千如・一念三千の宝篋・十方三世の諸仏の出る門なり、 天台妙楽の二
02 の聖賢此の二処の位を定むるに三の釈有り所謂或は相似・十信・鉄輪の位・或は観行五品の初品の位・未断見思或は
03 名字即の位なり、 止観に其の不定を会して云く「仏意知り難し機に赴きて異説す 此を借つて開解せば何ぞ労しく
04 苦に諍わん」云云等。
05   予が意に云く、 三釈の中名字即は経文に叶うか滅後の五品の初の一品を説いて云く「而も毀呰せずして随喜の
06 心を起す」と 若し此の文相似の五品に渡らば而不毀呰の言は便ならざるか、 就中寿量品の失心不失心等は皆名字
07 即なり、 涅槃経に「若信若不信乃至熈連」とあり之を勘えよ、 又一念信解の四字の中の信の一字は四信の初めに
08 居し解の一字は後に奪わるる故なり、 若し爾らば無解有信は四信の初位に当る 経に第二信を説いて云く「略解言
09 趣」と云云、 記の九に云く「唯初信を除く初は解無きが故に」随つて次下の随喜品に至つて上の初随喜を重ねて之
10 を分明にす五十人是皆展転劣なり、 第五十人に至つて二の釈有り 一には謂く第五十人は初随喜の内なり二には謂
11 く第五十人は初随喜の外なりと云うは名字即なり、 教弥よ実なれば位弥よ下れりと云う釈は此の意なり、四味三教
12 よりも円教は機を摂し 爾前の円教よりも法華経は機を摂し 迹門よりも本門は機を尽すなり教弥実位弥下の六字心
13 を留めて案ず可し。
14   問う末法に入つて初心の行者必ず円の三学を具するや不や、 答えて曰く此の義大事たる故に経文を勘え出して
15 貴辺に送付す、 所謂五品の初二三品には仏正しく戒定の二法を制止して 一向に慧の一分に限る慧又堪ざれば信を
16 以て慧に代え・信の一字を詮と為す、不信は一闡提謗法の因・信は慧の因・名字即の位なり、天台云く「若し相似の
17 益は隔生すれども忘れず 名字観行の益は隔生すれば即ち忘る或は忘れざるも有り忘るる者も 若し知識に値えば宿
18 善還つて生ず若し悪友に値えば則ち本心を失う」云云、 恐らくは中古の天台宗の慈覚・智証の両大師も天台・伝教
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01 の善知識に違背して心・無畏・不空等の悪友に遷れり、 末代の学者・慧心の往生要集の序に誑惑せられて法華の本
02 心を失い弥陀の権門に入る退大取小の者なり、 過去を以て之を推するに未来無量劫を経て三悪道に処せん若し悪友
03 に値えば即ち本心を失うとは是なり。
04   問うて曰く其の証如何 答えて曰く止観第六に云く「前教に其の位を高うする所以は方便の説なればなり円教の
05 位下きは真実の説なればなり」 弘決に云く「前教と云うより下は正く権実を判ず 教弥よ実なれば位弥よ下く教弥
06 よ権なれば位弥よ高き故に」と、 又記の九に云く「位を判ずることをいわば観境弥よ深く実位弥よ下きを顕す」と
07 云云、他宗は且らく之を置く天台一門の学者等何ぞ実位弥下の釈を閣いて 慧心僧都の筆を用ゆるや、畏・智・空と
08 覚・証との事は追つて之を習え大事なり大事なり一閻浮提第一の大事なり心有らん人は聞いて後に我を外め。
09   問うて云く末代初心の行者何物をか制止するや、 答えて曰く檀戒等の五度を制止して一向に南無妙法蓮華経と
10 称せしむるを一念信解初随喜の気分と為すなり 是れ則ち此の経の本意なり、 疑つて云く此の義未だ見聞せず心を
11 驚かし耳を迷わす 明かに証文を引て請う苦に之を示せ、 答えて云く経に云く「須く我が為に復た塔寺を起て及び
12 僧坊を作り四事を以て 衆僧を供養することをもちいざれ」此の経文明かに 初心の行者に檀戒等の五度を制止する
13 文なり、 疑つて云く汝が引く所の経文は但寺塔と衆僧と計りを制止して未だ諸の戒等に及ばざるか、答えて曰く初
14 を挙げて後を略す、 問て曰く何を以て之を知らん、 答えて曰く次下の第四品の経文に云く「況や復人有つて能く
15 是の経を持ちて兼ねて布施・持戒等を行ぜんをや」云云、 経文分明に初二三品の人には檀戒等の五度を制止し第四
16 品に至つて始めて之を許す 後に許すを以て知んぬ初に制する事を、 問うて曰く 経文一往相似たり将た又疏釈有
17 りや、 答えて曰く汝が尋ぬる所の釈とは月氏四依の論か 将た又漢土日本の人師の書か本を捨て末を尋ね体を離れ
18 て影を求め源を忘れて流を貴ぶ 分明なる経文を閣いて論釈を請い尋ぬ 本経に相違する末釈有らば本経を捨てて末
0341top
01 末釈に付く可きか 然りと雖も好みに随て之を示さん、文句の九に云く「初心は縁に紛動せられて正業を修するを妨
02 げんことを畏る直ちに専ら此の経を持つ即ち上供養なり事を廃して理を存するは所益弘多なり」と、 此の釈に縁と
03 云うは五度なり 初心の者兼ねて五度を行ずれば正業の信を妨ぐるなり、 譬えば小船に財を積んで海を渡るに財と
04 倶に没するが如し、 直専持此経と云うは一経に亘るに非ず専ら題目を持つて余文を雑えず 尚一経の読誦だも許さ
05 ず何に況や五度をや、 「廃事存理」と云うは戒等の事を捨てて題目の理を専らにす云云、 所益弘多とは初心の者
06 諸行と題目と並び行ずれば所益全く失うと云云。
07   文句に云く「問う若爾らば経を持つは即ち是れ第一義の戒なり 何が故ぞ復能く戒を持つ者と言うや、答う此は
08 初品を明かす後を以て難を作すべからず」等云云、 当世の学者此の釈を見ずして末代の愚人を以て 南岳天台の二
09 聖に同ず誤りの中の誤りなり、 妙楽重ねて之を明して云く「問う若し爾らば若し事の塔及び色身の骨を須いず 亦
10 須く事の戒を持つべからざるべし 乃至事の僧を供養することを須いざるや」等云云、 伝教大師の云く「二百五十
11 戒忽に捨て畢んぬ」唯教大師一人に限るに非ず 鑒真の弟子・如宝・道忠並びに七大寺等一同に捨て了んぬ、 又教
12 大師未来を誡めて云く「末法の中に持戒の者有らば是れ怪異なり市に虎有るが如し此れ誰か信ず可き」云云。
13   問う汝何ぞ一念三千の観門を勧進せず唯題目許りを唱えしむるや、 答えて曰く日本の二字に六十六国の人畜財
14 を摂尽して一も残さず月氏の両字に豈七十ケ国無からんや、 妙楽の云く「略して経題を挙ぐるに玄に一部を収む」
15 又云く「略して界如を挙ぐるに具さに三千を摂す、 文殊師利菩薩・阿難尊者・三会八年の間の仏語之を挙げて妙法
16 蓮華経と題し次下に領解して云く「如是我聞」と云云。
17   問う其の義を知らざる人唯南無妙法蓮華経と唱うるに解義の功徳を具するや否や、 答う小児乳を含むに其の味
18 を知らざれども自然に身を益す 耆婆が妙薬誰か弁えて之を服せん 水心無けれども火を消し火物を焼く豈覚有らん
0342top
01 や竜樹・天台皆此の意なり重ねて示す可し。
02   問う何が故ぞ題目に万法を含むや、 答う章安の云く「蓋し序王とは経の玄意を叙す玄意は文の心を述す文の心
03 は迹本に過ぎたるは莫し」妙楽の云く「法華の文心を出して 諸教の所以を弁ず」云云、 濁水心無けれども月を得
04 て自ら清めり 草木雨を得豈覚有つて花さくならんや 妙法蓮華経の五字は経文に非ず其の義に非ず唯一部の意なる
05 のみ、初心の行者其の心を知らざれども而も之を行ずるに自然に意に当るなり。
06   問う汝が弟子一分の解無くして 但一口に南無妙法蓮華経と称する其の位如何、答う此の人は但四味三教の極位
07 並びに爾前の円人に超過するのみに非ず将た又真言等の諸宗の元祖.畏・厳・恩・蔵・宣・摩.導等に勝出すること百
08 千万億倍なり、 請う国中の諸人我が末弟等を軽ずる事勿れ 進んで過去を尋ぬれば八十万億劫に供養せし大菩薩な
09 り豈熈連一恒の者に非ずや退いて未来を論ずれば 八十年の布施に超過して五十の功徳を備う可し 天子の襁褓に纒
10 れ大竜の始めて生ずるが如し蔑如すること勿れ蔑如すること勿れ、 妙楽の云く「若し悩乱する者は頭 七分に破れ
11 供養すること有る者は福十号に過ぐ」と、 優陀延王は賓頭盧尊者を蔑如して七年の内に身を喪失し 相州は日蓮を
12 流罪して百日の内に兵乱に遇えり、 経に云く「若し復是の経典を受持する者を見て其の過悪を出さん 若は実にも
13 あれ若は不実にもあれ此の人現世に白癩の病を得ん 乃至諸悪重病あるべし」又云く「当に世世に眼無かるべし」等
14 云云、 明心と円智とは現に白癩を得・道阿弥は無眼の者と成りぬ、 国中の疫病は頭破七分なり罰を以て徳を推す
15 るに我が門人等は福過十号疑い無き者なり。
16   夫れ人王三十代欽明の御宇に始めて仏法渡りし以来 桓武の御宇に至るまで二十代二百余年の間六宗有りと雖も
17 仏法未だ定らず、 爰に延暦年中に一りの聖人有つて此の国に出現せり所謂伝教大師是なり、 此の人先きより弘通
18 する六宗を糾明し七寺を弟子と為して終に叡山を建てて本寺と為し 諸寺を取つて末寺と為す、 日本の仏法唯一門
0343top
01 なり王法も二に非ず法定まり 国清めり其の功を論ぜば源已今当の文より出でたり 其の後弘法・慈覚・智証の三大
02 師事を漢土に寄せて 大日の三部は法華経に勝ると謂い 剰さえ教大師の削ずる所の真言宗の宗の 一字之を副えて
03 八宗と云云、 三人一同に勅宣を申し下して日本に弘通し 寺毎に法華経の義を破る是偏に已今当の文を破らんと為
04 して釈迦・多宝・十方の諸仏の大怨敵と成りぬ、 然して後仏法漸く廃れ王法次第に衰え天照太神・正八幡等の久住
05 の守護神は力を失い梵帝四天は国を去つて已に亡国と成らんとす 情有らん人誰か傷み嗟かざらんや、 所詮三大師
06 の邪法の興る所は 所謂東寺と叡山の総持院と園城寺との三所なり 禁止せずんば国土の滅亡と衆生の悪道と疑い無
07 き者か予粗此の旨を勘え国主に示すと雖も敢て叙用無し悲む可し悲む可し。
下山御消息    建治三年六月    五十六歳御代作   与下山兵庫光基
01   例時に於ては尤も阿弥陀経を読まる可きか等云云此の事は仰せ候はぬ 已前より親父の代官といひ私の計と申し
02 此の四五年が間は退転無し、 例時には阿弥陀経を読み奉り候しが 去年の春の末へ夏の始めより阿弥陀経を止めて
03 一向に法華経の内・自我偈読誦し候又同くば一部を読み奉らむとはげみ候 これ又偏に現当の御祈祷の為なり、 但
04 し阿弥陀経念仏を止めて候事は 此れ日比・日本国に聞へさせ給う 日蓮聖人去る文永十一年の夏の比同じき甲州飯
05 野・御牧・波木井の郷の内身延の嶺と申す深山に御隠居せさせ給い候へば、 さるべき人人御法門承わる可きの由候
06 へども御制止ありて入れられず おぼろげの強縁ならではかなひがたく候しに 有人見参の候と申し候しかば信じま
07 いらせ候はんれうには参り候はず、 ものの様をも見候はんために 閑所より忍びて参り御庵室の後に隠れ人人の御
08 不審に付きてあらあら御法門とかせ給い候き。
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01   法華経と大日経.華厳・般若.深密・楞伽.阿弥陀経等の経経の勝劣.浅深等を先として説き給いしを承り候へば法
02 華経と阿弥陀経等の勝劣は 一重二重のみならず天地雲泥に候けり、 譬ば帝釈と猿猴と鳳凰と烏鵲と大山と微塵と
03 日月と螢炬等の高下勝劣なり、 彼彼の経文と法華経とを引き合せてたくらべさせ給いしかば 愚人も弁えつ可し白
04 白なり・赤赤なり、 されば此の法門は大体人も知れり始めておどろくべきにあらず 又仏法を修行する法は必ず経
05 経の大小・権実・顕密を弁うべき上よくよく時を知り機を鑑みて申すべき事なり、 而るに当世日本国は人毎に阿み
06 だ経並に弥陀の名号等を本として法華経を忽諸し奉る 世間に智者と仰がるる 人人・我も我も時機を知れり知れり
07 と存ぜられげに候へども 小善を持て大善を打ち奉り権経を以て実経を失ふとがは 小善還つて大悪となる薬変じて
08 毒となる親族還つて怨敵と成るが如し 難治の次第なり、 又仏法には賢なる様なる人なれども 時に依り機に依り
09 国に依り先後の弘通に依る事を弁へざれば 身心を苦めて修行すれども験なき事なり、 設い一向に小乗流布の国に
10 は大乗をば弘通する事はあれども 一向大乗の国には小乗経をあながちにいむ事なりしゐてこれを弘通すれば 国も
11 わづらひ人も悪道まぬかれがたし、 又初心の人には二法を並べて修行せしむる事をゆるさず 月氏の習いには一向
12 小乗の寺の者は王路を行かず 一向大乗の僧は左右の路をふむ事なし 井の水・河の水同じく飲む事なし何に況や一
13 房に栖みなんや、されば法華経に初心の一向大乗の寺を仏説き給うに 「但大乗経典を受持せんことを楽つて、 乃
14 至余経の一偈をも受けざれ」又云く 「又声聞を求むる比丘比丘尼優婆塞優婆夷に親近せざれ」 又云く「亦問訊せ
15 ざれ」等云云、 設い親父たれども一向小乗の寺に住する比丘比丘尼をば 一向大乗の寺の子息これを礼拝せず親近
16 せず何に況や其法を修行せんや大小兼行の寺は後心の菩薩なり。
17   今日本国は最初に仏法渡りて候し比・大小雑行にて候しが 人王四十五代聖武天皇の御宇に唐の揚州竜興寺の鑑
18 真和尚と申せし人漢土より我が朝に 法華経天台宗を渡し給いて有りしが 円機未熟とやおぼしけん此の法門をば已
0345top
01 心に収めて口にも出だし給はず、 大唐の終南山の豊徳寺の道宣律師の小乗戒を 日本国の三所に建立せり此れ偏に
02 法華宗の流布すべき方便なり、 大乗出現の後には肩を並べて行ぜよとにはあらず 例せば儒家の本師たる孔子老子
03 等の三聖は仏の御使として漢土に遣されて内典の初門に礼楽の文を諸人に教えたりき、 止観に経を引いて云く「我
04 三聖を遣して彼の震旦を化す」等云云、 妙楽大師云く「礼楽前に馳せ真道後に啓く」と云云、 仏は大乗の初門に
05 且らく小乗戒を説き給いしかども時すぎぬれば禁めて云く 涅槃経に云く「若し人有つて 如来は無常なりと言わん
06 云何んぞ是の人舌堕落せざらん」と等云云、 其の後人王第五十代桓武天皇の御宇に 伝教大師と申せし聖人出現せ
07 り始めには華厳・三論・法相・倶舎・成実・律の六宗を習い極め給うのみならず、 達磨宗の淵底を探り究め給ひ剰
08 へいまだ日本国に弘通せざる天台真言の二宗をも尋ね顕わして 浅深勝劣を心中に究竟し給へり、 去延暦二十一年
09 正月十九日に桓武皇帝・高雄山に行幸なり給い、南都七大寺の長者・善議・勤操等の十四人を教大師に召し合せて六
10 宗と法華宗との勝劣を糾明せられしに 六宗の碩学宗宗毎に我宗は一代超過の由各各に立て申されしかども 教大師
11 の一言に万事破れ畢んぬ、其の後皇帝重ねて口宣す和気弘世を御使として 諌責せられしかば 七大寺・六宗の碩学
12 一同に謝表を奉り畢んぬ、 一十四人の表に云く 「此界の含霊而今而後悉く妙円の船に載り 早く彼岸に済ること
13 を得」云云、教大師云く「二百五十戒忽ちに捨て畢んぬ」云云、 又云く「正像稍過ぎ已つて末法太だ近きに有り」
14 又云く「一乗の家には都て権を用いず」 又云く「穢食を以て宝器に置くこと無し」 又云く「仏世の大羅漢已に此
15 の呵嘖を被むれり 滅後の小蚊虻何ぞ此れに随わざらん」云云、 此れ又私の責めにはあらず法華経には「正直に方
16 便を捨て但無上道を説く」云云涅槃経には「邪見の人」等云云、 邪見方便と申すは華厳・大日経・般若経・阿弥陀
17 経等の四十余年の経経なり、 捨とは天台の云く「廃るなり」 又云く「謗とは背くなり」正直の初心の行者の法華
18 経を修行する法は 上に挙ぐるところの経経・ 宗宗を抛つて一向に法華経を行ずるが真の正直の行者にては候なり
0346top
01 而るを初心の行者・深位の菩薩の様に彼彼の経経と法華経とを並べて行ずれば 不正直の者となる、 世間の法にも
02 賢人は二君に仕へず貞女は両夫に嫁がずと申す是なり、又私に異議を申すべきにあらず。
03  如来は未来を鑑みさせ給いて 我が滅後正法一千年・像法一千年・末法一万年が間我が法門を弘通すべき人人並に
04 経経を一一にきりあてられて候、 而るに此を背く人世に出来せば設い智者賢王なりとも用うべからず、所謂・我が
05 滅後の次の日より正法五百年の間は 一向小乗経を弘通すべし迦葉・阿難乃至富那奢等の十余人なり、後の五百年に
06 は権大乗経の内華厳.方等・深密・般若.大日経・観経.阿みだ経等を弥勒菩薩.文殊師利菩薩.馬鳴菩薩.竜樹菩薩・無
07 著菩薩・天親菩薩等の四依の大菩薩等の大論師弘通すべしと云云、 此れ等の大論師は法華経の深義を知し食さざる
08 にあらず 然而法華経流布の時も来らざる上・釈尊よりも仰せ付けられざる大法なれば 心には存じて口に宣べ給は
09 ず或時は粗口に囀る様なれども 実義をば一向に隠して演べ給はず、 像法一千年の内に入りぬれば月氏の仏法漸く
10 漢土日本に渡り来る世尊眼前に 薬王菩薩等の迹化他方の大菩薩に法華経の半分・迹門十四品を譲り給う、これは又
11 地涌の大菩薩・末法の初めに出現せさせ給いて 本門寿量品の肝心たる南無妙法蓮華経の五字を 一閻浮提の一切衆
12 生に唱えさせ給うべき先序のためなり、所謂・迹門弘通の衆は南岳・天台・妙楽・伝教等是なり、今の時は世すでに
13 上行菩薩等の御出現の時剋に相当れり、 而るに余愚眼を以てこれを見るに先相すでにあらはれたるか、 而るに諸
14 宗所依の華厳・大日・阿みだ経等は其の流布の時を論ずれば 正法一千年の内・後の五百年乃至像法の始めの諍論の
15 経経なり、而るに人師等・経経の浅深・勝劣等に迷惑するのみならず 仏の譲り状をもわすれ時機をも勘へず猥りに
16 宗宗を構え像末の行となせり、 例せば白田に種を下だして玄冬に穀をもとめ 下弦に満月を期し夜中に日輪を尋ぬ
17 る如し、 何に況や律宗なんど申す宗は一向小乗なり月氏には 正法一千年の前の五百年の小法又日本国にては像法
18 の中比・法華経 天台宗の流布すべき前に且らく機を調養せむがためなり、 例せば日出でんとて明星前に立ち雨下
0347top
01 らむとて雲先おこるが如し、 日出雨下て後の星雲はなにかせん 而るに今は時過ぬ又末法に入りて之を修行せば重
02 病に軽薬を授け大石を小船に載するが如し修行せば身は苦く暇は入りて験なく 華のみ開きて菓なからん、 故に教
03 大師・像法の末に出現して 法華経の迹門の戒定慧の三が内・其の中・円頓の戒壇を叡山に建立し給いし時二百五十
04 戒忽に捨て畢んぬ、 随つて又鑑真の末の南都七大寺の一十四人・三百余人も加判して 大乗の人となり一国挙つて
05 小律儀を捨て畢んぬ、其の授戒の書を見る可し分明なり。
06   而るを今邪智の持斎の法師等昔し捨てし小乗経を取り出して 一戒もたもたぬ名計りなる二百五十戒の法師原有
07 つて公家武家を誑惑して 国師とののしる剰我慢を発して 大乗戒の人を破戒無戒とあなづる、 例せば狗犬が師子
08 を吠え猿猴が帝釈をあなづるが如し、 今の律宗の法師原は世間の人人には 持戒実語の者の様には見ゆれども其の
09 実を論ぜば天下第一の大不実の者なり、 其の故は彼等が本文とする四分律・十誦律等の文は 大小乗の中には一向
10 小乗・小乗の中にも最下の小律なり、 在世には十二年の後・方等大乗へうつる程の且くのやすめ言滅後には正法の
11 前の五百年は一向小乗の寺なり 此れ亦・一向大乗の寺の毀謗となさんがためなり、 されば日本国には像法半に鑑
12 真和尚大乗の手習とし給う 教大師・彼の宗を破し給いて 人をば天台宗へとりことし宗をば失うべしといへども後
13 に事の由を知らしめんがために 我が大乗の弟子を遣してたすけをき給う、 而るに今の学者等は此の由を知らずし
14 て六宗は本より破れずして有りとおもへり墓無し墓無し、 又一類の者等天台の才学を以て 見れば我が律宗は幼弱
15 なる故に漸漸に梵網経へうつり 結句は法華経の大戒を我が小律に盗み入れて 還つて円頓の行者を破戒無戒と咲へ
16 ば、 国主は当時の形貌の貴げなる気色にたぼらかされ給いて 天台宗の寺に寄せたる田畠等を奪い取つて彼等にあ
17 たへ万民は又 一向大乗の寺の帰依を抛ちて彼の寺にうつる、 手づから火をつけざれども日本一国の大乗の寺を焼
18 き失い抜目鳥にあらざれども 一切衆生の眼を抜きぬ仏の記し給ふ阿羅漢に似たる闡提是なり、 涅槃経に云く「我
0348top
01 涅槃の後無量百歳に四道の聖人も悉く復涅槃せん正法滅して 後像法の中に於いて当に比丘有るべし、 持律に似像
02 し少く経を読誦し 飲食を貪嗜して其の身を長養せん、 乃至袈裟を服すと雖も猶猟師の細視徐行するが如く猫の鼠
03 を伺うが如く外には賢善を現し 内には貪嫉を懐き唖法を受けたる婆羅門等の如く 実に沙門に非ずして沙門の像を
04 現し 邪見熾盛にして正法を誹謗せん」等云云、 此の経文に世尊未来を記し置き給う。 抑釈尊は我等がためには
05 賢父たる上明師なり聖主なり、 一身に三徳を備へ給へる仏の仏眼を以て 未来悪世を鑑み給いて記し置き給う 記
06 文に云く「我涅槃の後無量百歳」云云 仏滅後二千年已後と見へぬ、 又「四道の聖人悉く復涅槃せん」云云、付法
07 蔵の二十四人を指すか、 「正法滅後」等云云 像末の世と聞えたり、「当に比丘有るべし持律に似像し」等云云今
08 末法の代に比丘の似像を撰び出さば日本国には誰の人をか引き出して 大覚世尊をば不妄語の人とし奉るべき、 俗
09 男俗女比丘尼をば此の経文に載たる事なし 但比丘計なり比丘は日本国に数を知らず、 然るに其の中に三衣一鉢を
10 身に帯せねば似像と定めがたし 唯持斎の法師計相似たり 一切の持斎の中には次下の文に 持律ととけり律宗より
11 外は又脱ぬ、 次下の文に「少し経を読誦す」云云 相州鎌倉の極楽寺の良観房にあらずば誰を指し出だし経文をた
12 すけ奉るべき、 次下の文に「猶猟師の細視徐行するが如く猫の鼠を伺うが如く 外には賢善を現し内には貪嫉を懐
13 く」等云云両火房にあらずば誰をか三衣一鉢の猟師伺猫として仏説を信ず可し、哀れなるかな当時の俗男・俗女・比
14 丘尼等・檀那等が山の鹿・家の鼠となりて猟師・猫に似たる両火房に伺われたぼらかされて 今生には守護国土の天
15 照太神・正八幡等にすてられ他国の兵軍にやぶられて 猫の鼠を捺え取るが如く猟師の鹿を射死が如し、俗男・武士
16 等は射伏・切伏られ俗女は捺え取られて他国へおもむかん 王昭君・楊貴妃が如くになりて後生には無間大城に一人
17 もなく趣くべし。
18  而るを余・此の事を見る故に彼が檀那等が大悪心をおそれず 強盛にせむる故に両火房・内内諸方に讒言を企てて
0349top
01 余が口を塞がんとはげみしなり、 又経に云く「汝を供養する者は三悪道に堕つ」等云云、 在世の阿羅漢を供養せ
02 し人尚三悪道まぬかれがたし、 何に況や滅後の誑惑の小律の法師原をや、 小戒の大科をば これを以て知んぬ可
03 し、或は又驢乳にも譬えたり還つて糞となる、 或は狗犬にも譬えたり大乗の人の糞を食す、或は援猴或は瓦礫と云
04 云、然れば時を弁へず機をしらずして 小乗戒を持たば大乗の障となる、 破れば又必ず悪果を招く其の上今の人人
05 小律の者どもは大乗戒を小乗戒に盗み入れ 驢乳は牛乳を入れて大乗の人をあざむく、 大偸盗の者大謗法の者其の
06 とがを論ずれば 提婆達多も肩を並べがたく 瞿伽利尊者が足も及ばざる閻浮第一の大悪人なり帰依せん国土安穏な
07 るべしや、余此の事を見るに自身だにも弁へなば・さでこそあるべきに 日本国に智者とおぼしき人人一人も知らず
08 国すでにやぶれなんとす、 其の上仏の諌暁を重んずる上一分の慈悲にもよをされて 国に代りて身命を捨て申せど
09 も国主等彼にたぼらかされて用ゆる人一人もなし 譬へば熱鉄に冷水を投げ睡眠の師子に手を触るが如し、 爰に両
10 火房と申す法師あり 身には三衣を皮の如くはなつ事なし、 一鉢は両眼をまほるが如し二百五十戒堅く持ち三千の
11 威儀をととのへたり、 世間の無智の道俗国主よりはじめて万民にいたるまで 地蔵尊者の伽羅陀山より出現せるか
12 迦葉尊者の霊山より下来するかと疑ふ、 余法華経の第五の巻の勧持品を拝見したてまつれば 末代に入りて法華経
13 の大怨敵三類あるべし 其の第三の強敵は此の者かと見畢んぬ、 便宜あらば国敵をせめて彼れが大慢を倒して仏法
14 の威験をあらはさんと思う処に 両火房常に高座にして歎いて云く「日本国の僧尼には二百五十戒・五百戒・男女に
15 は五戒・八斎戒等を一同に持たせんとおもうに、日蓮が此の願の障りとなる」と云云、 余案じて云く「現証に付て
16 事を切らんと思う処に、 彼常に雨を心に任せて下す由披露あり、 古へも又雨を以て得失をあらはす例これ多し、
17 所謂伝教大師と護命と守敏と弘法と等なり、 此に両火房上より祈雨の御いのりを仰せ付けられたり」と云云、 此
18 に両火房祈雨あり 去る文永八年六月十八日より二十四日なり、 此に使を極楽寺へ遣す年来の御歎きこれなり 「七
0350top
01 日が間に 若一雨も下らば御弟子となりて二百五十戒具さに持たん上に、 念仏無間地獄と申す事ひがよみなりけり
02 と申すべし余だにも帰伏し奉らば 我弟子等をはじめて日本国・大体かたぶき候なん」と云云、 七日が間に三度の
03 使をつかはす、然れどもいかんがしたりけむ一雨も下らざるの上、頽風.ヒョウ風.旋風.暴風等の八風.十二時にやむ
04 事なし 剰二七日まで一雨も下らず風もやむ事なし、 されば此の事は何事ぞ 和泉式部と云いし色好み能因法師と
05 申せし無戒の者 此は彼の両火房がいむところの三十一字ぞかし、 彼の月氏の大盗賊・南無仏と称せしかば天頭を
06 得たり、 彼の両火房並に諸僧等の二百五十戒・真言法華の小法・大法の数百人の仏法の霊験いかなれば婬女等の誑
07 言・大盗人が称仏には劣らんとあやしき事なり、 此れを以て彼等が大科をばしらるべきにさはなくして還つて讒言
08 をもちゐらるるは実とはおぼへず 所詮・日本国亡国となるべき期来るか、 又祈雨の事はたとひ雨下らせりとも雨
09 の形貌を以て祈る者の賢・不賢を知る事あり 雨種種なり或は天雨或は竜雨或は 修羅雨或はソ雨或は甘雨或は雷雨
10 等あり、今の祈雨は都て一雨も下らざる上 二七日が間前よりはるかに超過せる大旱魃・大悪風・十二時に止む事な
11 し、 両火房真の人ならば忽に邪見をもひるがへし跡をも山林にかくすべきに 其の義なくして面を弟子檀那等にさ
12 らす上剰讒言を企て 日蓮が頚をきらせまいらせんと申し上あづかる人の国まで 状を申し下して 種をたたんとす
13 る大悪人なり、 而るを無智の檀那等は恃怙して現世には国をやぶり 後生には無間地獄に堕ちなん事の不便さよ、
14 起世経に云く「諸の衆生有りて放逸を為し清浄の行を汚す故に天・雨を下さず」又云く「不如法あり慳貪・嫉妬・邪
15 見・顛倒なる故に天則ち雨を下さず」又経律異相に云く「五事有て雨無し 一二三之を略す四には雨師婬乱五には国
16 王理をもつて治めず 雨師瞋る故に雨ふらず」云云、 此等の経文の亀鏡をもて両火房が身に指し当て見よ少もくも
17 りなからん、 一には名は持戒ときこゆれども実には放逸なるか・二には慳貪なるか・三には嫉妬なるか・四には邪
18 見なるか・五には婬乱なるか・此の五にはすぐべからず、 又此の経は両火房一人には限るべからず昔をかがみ今を
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01 もしれ、 弘法大師の祈雨の時二七日の間一雨も下らざりしもあやしき事なり、 而るを誑惑の心強盛なりし人なれ
02 ば天子の御祈雨の雨を盗み取て我が雨と云云、 善無畏三蔵・金剛智三蔵・不空三蔵の祈雨の時も小雨は下たりしか
03 ども三師共に 大風連連と吹いて勅使をつけてをはれしあさましさと、 天台大師・伝教大師の須臾と三日が間に帝
04 釈雨を下らして小風も吹かざりしもたとくぞおぼゆるおぼゆる。
05   法華経に云く「或は阿練若に納衣にして空閑に在りて、 乃至利養に貪著するが故に白衣の与に法を説いて世に
06 恭敬せらるること六通の羅漢の如きもの有らん」 又云く「常に大衆の中に在て 我等を毀らんと欲するが故に国王
07 大臣婆羅門居士及び余の比丘衆に向つて誹謗して我が悪を説き 乃至悪鬼其の身に入つて我を罵詈毀辱せん」、 又
08 云く「濁世の悪比丘は仏の方便随宜所説の法を知らずして悪口して 顰蹙し数数擯出せられん」等云云、 涅槃経に
09 云く「一闡提有つて羅漢の像を作し 空処に住し方等大乗経典を誹謗す 諸の凡夫人見已つて皆真の阿羅漢是れ大菩
10 薩なりと謂えり」等云云、 今予・法華経と涅槃経との仏鏡をもつて当時の日本国を浮べて其影をみるに誰の僧か国
11 主に六通の羅漢の如くたとまれて而も法華経の行者を讒言して 頚をきらせんとせし、 又いづれの僧か万民に大菩
12 薩とあをがれたる、 誰の智者か法華経の故に度度・処処を追はれ頚をきられ弟子を殺され 両度まで流罪せられて
13 最後に頚に及ばんとせし、 眼無く耳無きの人は除く眼有り耳有らん人は経文を見聞せよ、 今の人人は人毎とに経
14 文を我もよむ我も信じたりといふ只にくむところは 日蓮計なり経文を信ずるならば 慥にのせたる強敵を取出して
15 経文を信じてよむしるしとせよ、 若し爾らずんば 経文の如く読誦する日蓮をいかれるは経文をいかれるにあらず
16 や仏の使をかろしむるなり、 今の代の両火房が法華経の第三の強敵とならずば釈尊は大妄語の仏・多宝・十方の諸
17 仏は不実の証明なり、 又経文まことならば御帰依の国主は現在には 守護の善神にすてられ国は他の有となり後生
18 には阿鼻地獄疑なし、 而るに彼等が大悪法を尊まるる故に理不尽の政道出来す 彼の国主の僻見の心を推するに日
0352top
01 蓮は阿弥陀仏の怨敵・父母の建立の堂塔の讎敵なれば仮令政道をまげたりとも 仏意には背かじ 天神もゆるし給う
02 べしとをもはるるか、 はかなしはかなし委細にかたるべけれども此れは小事なれば申さず 心有らん者推して知ん
03 ぬべし、上に書挙るより雲泥大事なる日本第一の大科此の国に出来して年久くなる間、 此の国既に梵釈・日月・四
04 天・大王等の諸天にも捨てられ守護の諸大善神も還つて大怨敵となり 法華経守護の梵帝等・鄰国の聖人に仰せ付け
05 て日本国を治罰し仏前の誓状を遂げんとおぼしめす事あり。
06   夫れ正像の古へは世濁世に入るといへども始めなりしかば 国土さしも乱れず聖賢も間間出現し福徳の王臣も絶
07 えざりしかば政道も曲る事なし万民も直かりし故に小科を対治せんがために三皇・五帝・三王・三聖等・出現して墳
08 典を作りて代を治す、 世しばらく治りたりしかども漸漸にすへになるままに 聖賢も出現せず福徳の人もすくなけ
09 れば三災は多大にして七難・先代に超過せしかば外典及びがたし、 其の時治を代えて内典を用いて世を治す 随つ
10 て世且くはおさまるされども 又世末になるままに人の悪は日日に増長し 政道は月月に衰減するかの故に又三災・
11 七難先よりいよいよ増長して小乗戒等の力験なかりしかば 其の時治をかへて小乗の戒等を止めて大乗を用ゆ、 大
12 乗又叶わねば法華経の円頓の大戒壇を叡山に建立して代を治めたり、 所謂伝教大師・日本三所の小乗戒並に華厳・
13 三論・法相の三大乗戒を破失せし是なり、 此の大師は六宗をせめ落させ給うのみならず 禅宗をも習い極め剰え日
14 本国にいまだひろまらざりし法華宗・真言宗をも勘え出して 勝劣鏡をかけ顕密の差別・黒白なり、然れども世間の
15 疑を散じがたかりしかば去る延暦年中に御入唐・漢土の人人も他事には賢かりしかども 法華経・大日経・天台・真
16 言の二宗の勝劣・浅深は分明に知らせ給はざりしかば、 御帰朝の後・本の御存知の如く妙楽大師の記の十の不空三
17 蔵の改悔の言を 含光がかたりしを引き載せて天台勝れ真言劣なる明証を依憑集に定め給う 剰え真言宗の宗の一字
18 を削り給う、其の故は善無畏・金剛智・不空の三人・一行阿闍梨をたぼらかして本はなき大日経に天台の己証の一念
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01 三千の法門を盗み入れて人の珍宝を我が有とせる 大誑惑の者なりと心得給へり、 例せば澄観法師が天台大師の十
02 法成乗の観法を華厳に盗み入れて 還つて天台宗を末教と下せしが如しと御存知あて 宗の一字を削りて叡山は唯七
03 宗たるべしと云云、 而るを弘法大師と申し天下第一の自讃毀他の大妄語の人、 教大師御入滅の後対論なくして公
04 家をかすめたてまつりて八宗と申し立てぬ、 然れども本師の跡を紹継する人人は 叡山は唯七宗にてこそあるべき
05 に教大師の第三の弟子・慈覚大師と叡山第一の座主・義真和尚の末弟子 智証大師と此の二人は漢土に渡り給いし時
06 日本国にて一国の大事と諍論せし事なれば 天台・真言の碩学等に値い給う毎に勝劣・浅深を尋ね給う、然るに其の
07 時の明匠等も或は真言宗勝れ 或は天台宗勝れ或は二宗斉等し或は理同事異といへども 倶に慥の証文をば出さず、
08 二宗の学者等併しながら胸臆の言なり然るに 慈覚大師は学極めずして帰朝して 疏十四巻を作れり所謂・金剛頂経
09 の疏七巻・蘇悉地経の疏七巻なり 此の疏の体たらくは法華経と大日経の三部経とは 理は同く事は異なり等云云、
10 此の疏の心は 大日経の疏と義釈との心を出すが・なを不審あきらめがたかりけるかの故に 本尊の御前に疏を指し
11 置て此の疏仏意に叶へりやいなやと祈せいせし処に 夢に日輪を射ると云云、 うちをどろきて吉夢なり真言勝れた
12 る事疑なしとおもひて宣旨を申し下す 日本国に弘通せんとし給いしがほどなく疫病やみて 四ケ月と申せしかば跡
13 もなくうせ給いぬ、 而るに智証大師は慈覚の御為にも御弟子なりしかば、遺言に任せて宣旨を申し下し給う所謂・
14 真言・法華斉等なり譬ば鳥の二の翼・人の両目の如し又叡山も八宗なるべしと云云、 此の両人は身は叡山の雲の上
15 に臥すといへども 心は東寺里中の塵にまじはる本師の遺跡を紹継する様にて 還つて聖人の正義を忽諸し給へり、
16 法華経の於諸経中最在其上の上の字をうちかへして 大日経の下に置き先づ大師の怨敵となるのみならず 存外に釈
17 迦・多宝・十方分身・大日如来等の諸仏の讎敵となり給う、 されば慈覚大師の夢に日輪を射ると見しは是なり仏法
18 の大科此れよりはじまる日本国亡国となるべき先兆なり、 棟梁たる法華経既に大日経の椽梠となりぬ、 王法も下
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01 剋上して王位も臣下に随うべかりしを 其の時 又一類の学者有りて堅く此の法門を諍論せし上座主も両方を兼ねて
02 事いまだきれざりしかば世も忽にほろびず有りけるか、例せば外典に云く「大国には諍臣七人・中国には五人・小国
03 には三人・諍論すれば 仮令政道に謬誤出来すれども国破れず 乃至家に諌子あれば不義におちず」と申すが如し仏
04 家も又是くの如し、 天台・真言の勝劣・浅深事きれざりしかば少少の災難は出来せしかども青天にも捨てられず黄
05 地にも犯されず一国の内の事にてありし程に 人王七十七代・後白河の法皇の御宇に当りて天台座主明雲・伝教大師
06 の止観院の法華経の三部を捨てて 慈覚大師の総持院の大日経の三部に付き給う、 天台山は名計りにて真言の山に
07 なり法華経の所領は大日経の地となる 天台と真言と座主と大衆と敵対あるべき序なり、 国又王と臣と諍論して王
08 は臣に随うべき序なり 一国乱れて他国に破らるべき序なり、 然れば明雲は義仲に殺されて院も清盛にしたがひら
09 れ給う、 然れども公家も叡山も共に此の故としらずして世静ならずすぐる程に 災難次第に増長して人王八十二代
10 隠岐の法皇の御宇に至つて 一災起れば二災起ると申して禅宗・念仏宗起り合いぬ、 善導房は法華経は末代には千
11 中無一とかき、法然は捨閉閣抛と云云、禅宗は法華経を失はんがために教外別伝・不立文字とののしる、此の三の大
12 悪法鼻を並べて一国に出現せしが故に 此の国すでに梵釈・二天・日月・四王に捨てられ奉り守護の善神も還つて大
13 怨敵とならせ給う 然れば相伝の所従に責随えられて主上・上皇共に夷島に放たれ給い 御返りなくしてむなしき島
14 の塵となり給う 詮ずる所は実経の所領を奪い取りて権経たる真言の知行となせし上日本国の万民等・禅宗・念仏宗
15 の悪法を用いし故に天下第一・先代未聞の下剋上出来せり 而るに相州は謗法の人ならぬ上・文武きはめ尽せし人な
16 れば天許し国主となす随つて世且く静なりき、 然而又先に王法を失いし真言漸く関東に落ち下る 存外に崇重せら
17 るる故に鎌倉又還つて大謗法・一闡提の官僧・禅僧・念仏僧の檀那と成りて 新寺を建立して旧寺を捨つる故に天神
18 は眼を瞋らして 此の国を睨め地神は憤を含めて身を震ふ長星は一天に覆ひ 地震は四海を動かす 余此等の災夭に
0355top
01 驚いて粗内典五千七千外典三千等を引き見るに 先代にも希なる天変地夭なり、 然而儒者の家には記せざれば知る
02 事なし仏法は自迷なればこころへず 此の災夭は常の政道の相違と世間の謬誤より出来せるにあらず 定めて仏法よ
03 り事起るかと勘へなしぬ、 先ず大地震に付て去る正嘉元年に書を一巻注したりしを 故最明寺の入道殿に奉る御尋
04 ねもなく御用いもなかりしかば 国主の御用いなき法師なればあやまちたりとも科あらじとやおもひけん 念仏者並
05 に檀那等又さるべき人人も同意したるとぞ聞へし 夜中に日蓮が小庵に 数千人押し寄せて殺害せんとせしかどもい
06 かんがしたりけん其の夜の害もまぬかれぬ、 然れども心を合せたる事なれば寄せたる者も科なくて 大事の政道を
07 破る日蓮が未だ生きたる不思議なりとて 伊豆の国へ流しぬ、 されば人のあまりににくきには 我がほろぶべきと
08 がをもかへりみざるか 御式目をも破らるるか御起請文を見るに梵釈・四天・天照太神・正八幡等を書きのせたてま
09 つる、余存外の法門を申さば子細を弁えられずば 日本国の御帰依の僧等に召し合せられて 其れになを事ゆかずば
10 漢土・月氏までも尋ねらるべし、 其れに叶わずば子細ありなんとて且くまたるべし、子細も弁えぬ人人が身のほろ
11 ぶべきを指をきて大事の起請を破らるる事心へられず。
12   自讃には似たれども本文に任せて申す 余は日本国の人人には上は天子より下は万民にいたるまで三の故あり、
13 一には父母なり二には師匠なり三には主君の御使なり、 経に云く「即如来の使なり」と又云く 「眼目なり」と又
14 云く「日月なり」と章安大師の云く「彼が為に悪を除くは則ち是彼が親なり」等云云、 而るに謗法一闡提・国敵の
15 法師原が讒言を用いて其義を弁えず左右なく 大事たる政道を曲げらるるはわざとわざはひをまねかるるか 墓無し
16 墓無し、 然るに事しづまりぬれば科なき事は恥かしきかの故にほどなく 召返されしかども故最明寺の入道殿も又
17 早くかくれさせ給いぬ、 当御時に成りて或は身に疵をかふり 或は弟子を殺され或は所所を追れ或はやどをせめし
18 かば一日片時も地上に栖むべき便りなし、 是に付けても仏は一切世間・多怨難信と説き置き給う 諸の菩薩は我不
0356top
01 我不愛身命但惜無上道と誓へり、加刀杖瓦石数数見擯出の文に任せて流罪せられ刀のさきにかかりなば法華経一部よ
02 みまいらせたるにこそとおもひきりてわざと不軽菩薩の如く 覚徳比丘の様に竜樹菩薩・提婆菩薩・仏陀密多・師子
03 尊者の如く弥強盛に申しはる、今度・法華経の大怨敵を見て経文の如く父母・師匠・朝敵・宿世の敵の如く散散に責
04 るならば定めて万人もいかり国主も讒言を収て流罪し頚にも及ばんずらん、 其時仏前にして誓状せし梵釈・日月・
05 四天の願をもはたさせたてまつり 法華経の行者をあだまんものを 須臾ものがさじと 起請せしを身にあてて心み
06 ん、釈尊・多宝・十方分身の諸仏の或は共に宿し或は衣を覆はれ 或は守護せんとねんごろに説かせ給いしをも実か
07 虚言かと知つて信心をも増長せんと退転なくはげみし程に 案にたがはず去る文永八年九月十二日に 都て一分の科
08 もなくして佐土の国へ流罪せらる、 外には遠流と聞えしかども内には頚を切ると定めぬ 余又兼て此の事を推せし
09 故に弟子に向つて云く 我が願既に遂ぬ悦び身に余れり人身は受けがたくして破れやすし、 過去遠遠劫より由なき
10 事には失いしかども 法華経のために命をすてたる事はなし、 我頚を刎られて師子尊者が絶えたる跡を継ぎ天台伝
11 教の功にも超へ付法蔵の二十五人に一を加えて二十六人となり 不軽菩薩の行にも越えて釈迦・多宝・十方の諸仏に
12 いかがせんとなげかせまいらせんと思いし故に 言をもおしまず已前にありし事・後に有るべき事の様を平の金吾に
13 申し含めぬ此の語しげければ委細にはかかず。
14   抑も日本国の主となりて万事を心に任せ給へり 何事も両方を召し合せてこそ勝負を決し御成敗をなす人のいか
15 なれば日蓮一人に限つて 諸僧等に召合せずして大科に行わるるらん 是れ偏にただ事にあらずたとひ日蓮は大科の
16 者なりとも国は安穏なるべからず、 御式目を見るに五十一箇条を立てて終りに 起請文を書載せたり、第一・第二
17 は神事・仏事・乃至五十一等云云、 神事仏事の肝要たる法華経を手ににぎれる者を讒人等に召合せられずして彼等
18 が申すままに頚に及ぶ然れば他事の中にも 此の起請文に相違する政道は有るらめども此れは第一の大事なり、 日
0357top
01 蓮がにくさに国をかへ身を失はんとせらるるか 魯の哀公が忘事の第一なる事を記せらるるに は移宅に妻をわする
02 と云云、 孔子の云く身をわするる者あり国主と成りて政道を曲ぐるなり是云云、将又国主は此の事を委細には知ら
03 せ給はざるか、 いかに知らせ給はずとのべらるるとも 法華経の大怨敵と成給いぬる重科は脱るべしや、多宝・十
04 方の諸仏の御前にして 教主釈尊の申す口として末代当世の事を説かせ給いしかば 諸の菩薩記して云く「悪鬼其の
05 身に入つて我を罵詈毀辱せん、 乃至数数擯出せられん」等云云、 又四仏釈尊の所説の最勝王経に云く「悪人を愛
06 敬し善人を治罰するに由るが故に、 乃至他方の怨賊来つて国人喪乱に遭わん」等云云、たとい日蓮をば軽賎せさせ
07 給うとも教主釈尊の金言・多宝・十方の諸仏の証明は空かるべからず一切の真言師・禅宗・念仏者等の謗法の悪比丘
08 をば前より御帰依ありしかども 其の大科を知らせ給はねば少し天も許し善神もすてざりけるにや、 而るを日蓮が
09 出現して一切の人を恐れず 身命を捨てて指し申さば賢なる国主ならば子細を聞き給うべきに 聞きもせず用いられ
10 ざるだにも不思議なるに剰へ頚に及ばむとせし事は存外の次第なり、 然れば大悪人を用いる大科・正法の大善人を
11 耻辱する大罪・二悪・鼻を並べて此の国に出現せり、譬ば修羅を恭敬し日天を射奉るが如し故に前代未聞の大事・此
12 の国に起るなり、 是又先例なきにあらず夏の桀王は竜蓬が頭を刎ね 殷の紂王は比干が胸をさき二世王は李斯を殺
13 し優陀延王は賓頭盧尊者を蔑如し 檀弥羅王は師子尊者の頚をきる 武王は慧遠法師と諍論し憲宗王は白居易を遠流
14 し徽宗皇帝は法道三蔵の面に火印をさす、 此等は皆諌暁を用いざるのみならず還つて怨を成せし人人 現世には国
15 を亡し身を失ひ後生には悪道に堕つ 是れ又人をあなづり讒言を納れて理を尽さざりし故なり、 而るに去る文永十
16 一年二月に佐土の国より召返されて 同四月の八日に平金吾に対面して有りし時 理不尽の御勘気の由委細に申し含
17 めぬ、 又恨むらくは此の国すでに他国に破れん事のあさましさよと歎き申せしかば 金吾が云く何の比か大蒙古は
18 寄せ候べきと問いしかば 経文には分明に年月を指したる事はなけれども 天の御気色を拝見し奉るに以ての外に此
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01 の国を睨みさせ給うか 今年は一定寄せぬと覚ふ若し寄するならば 一人も面を向う者あるべからず 此れ又天の責
02 なり、 日蓮をばわどのばらが用いぬ者なれば力及ばず、 穴賢穴賢・真言師等に調伏行わせ給うべからず若し行わ
03 するほどならいよいよ悪かるべき由申付けてさて帰りてありしに 上下共に先の如く用いさりげに有る上 本より存
04 知せり国恩を報ぜんがために三度までは諌暁すべし用いずば 山林に身を隠さんとおもひしなり、 又上古の本文に
05 も三度のいさめ用いずば 去れといふ本文にまかせて且く山中に罷り入りぬ、 其の上は国主の用い給はざらんに其
06 れ已下に法門申して何かせん申したりとも国もたすかるまじ人も又仏になるべしともおぼへず。
07   又念仏無間地獄・阿弥陀経を読むべからずと申す事も私の言にはあらず、 夫れ弥陀念仏と申すは源と釈迦如来
08 の五十余年の説法の内・前四十余年の内の阿弥陀経等の三部経より出来せり、 然れども如来の金言なれば定めて真
09 実にてこそ・あるらめと信ずる処に 後八年の法華経の序分たる無量義経に仏・法華経を説かせ給はんために先づ四
10 十余年の経経・並に年紀等を具に数へあげて 未顕真実・乃至終不得成・無上菩提と若干の経経並に法門を唯一言に
11 打ち消し給う事 譬えば大水の小火をけし 大風の衆の草木の露を落すが如し、 然後に正宗の 法華経の第一巻に
12 至つて世尊法久後・要当説真実・又云く正直捨方便・但説無上道と説き給う譬へば 闇夜に大月輪の出現し大塔立て
13 後足代を切り捨つるが如し、 然後実義を定めて云く「今此の三界は皆是れ我が有なり 其の中の衆生は悉く是れ吾
14 が子なり而も今此の処は諸の患難多し 唯我一人のみ能く救護を為す、 復教詔すと雖も而も信受せず、乃至経を読
15 誦し書き持つこと有らん者を見て軽賎憎嫉して而も結恨を懐かん、其の人命終して阿鼻獄に入らん」等云云、 経文
16 の次第・普通の性相の法には似ず常には五逆・七逆の罪人こそ阿鼻地獄とは定めて候に 此れはさにては候はず在世
17 滅後の一切衆生・阿弥陀経等の四十余年の経経を堅く執して 法華経へうつらざらんとたとひ 法華経へ入るとも本
18 執を捨てずして 彼彼の経経を法華経に並て修行せん人と 又自執の経経を法華経に勝れたりといはん人と法華経を
0359top
01 法の如く修行すとも法華経の行者を恥辱せん者と 此れ等の諸人を指しつめて 其人命終入阿鼻獄と定めさせ給いし
02 なり、此の事はただ釈迦一仏の仰なりとも、 外道にあらずば疑うべきにてはあらねども 已今当の諸経の説に色を
03 かへて重き事をあらはさんがために 宝浄世界の多宝如来は自はるばる来給いて 証人とならせ給う、 釈迦如来の
04 先判たる大日経・阿弥陀経・念仏等を堅く執して 後の法華経へ入らざらむ人人は入阿鼻獄は一定なりと証明し、又
05 阿弥陀仏等の十方の諸仏は各各の国国を捨てて 霊山・虚空会に詣で給い宝樹下に坐して 広長舌を出し大梵天に付
06 け給うこと無量無辺の虹の虚空に立ちたらんが如し、 心は四十余年の中の観経・阿弥陀経・悲華経等に法蔵比丘の
07 諸菩薩・四十八願等を発して凡夫を九品の浄土へ来迎せんと説く事は 且く法華経已前のやすめ言なり、 実には彼
08 れ彼れの経経の文の如く十方西方への来迎はあるべからず 実とおもふことなかれ 釈迦仏の今説き給うが如し実に
09 は釈迦・多宝・十方の諸仏・寿量品の肝要たる南無妙法蓮華経の五字を信ぜしめんが為なりと出し給う広長舌なり、
10 我等と釈迦仏とは同じ程の仏なり 釈迦仏は天月の如し我等は水中の影の月なり 釈迦仏の本土は実には娑婆世界な
11 り天月動き給はずば我等もうつるべからず 此の土に居住して法華経の行者を守護せん事 臣下が主上を仰ぎ奉らん
12 が如く父母の一子を愛するが如くならんと出し給う舌なり、 其の時阿弥陀仏の一二の弟子・観音・勢至等は阿弥陀
13 仏の塩梅なり雙翼なり左右の臣なり両目の如し、 然而極楽世界よりはるばると御供し奉りたりしが無量義経の時・
14 仏の阿弥陀経等の四十八願等は未顕真実乃至法華経にて 一名阿弥陀と名をあげて 此等の法門は真実ならずと説き
15 給いしかば実とも覚へざりしに 阿弥陀仏正く来りて合点し給いしをうち見て さては我等が念仏者等を九品の浄土
16 へ来迎の蓮台と合掌の印とは虚しかりけりと聞定めてさては 我等も本土に還りて何かせんとて 八万二万の菩薩の
17 うちに入り或は観音品に遊於娑婆世界と申して 此の土の法華経の行者を守護せんとねんごろに申せしかば、 日本
18 国より近き一閻浮提の内・南方・補陀落山と申す小所を釈迦仏より給いて宿所と定め給ふ、 阿弥陀仏は左右の臣下
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01 たる観音勢至に捨てられて西方世界へは還り給はず 此の世界に留りて法華経の行者を守護せんとありしかば 此の
02 世界の内・欲界第四の兜率天・弥勒菩薩の所領の内・四十九院の一院を給いて 阿弥陀院と額を打つておはするとこ
03 そうけ給はれ、其の上.阿弥陀経には仏・舎利弗に対して凡夫の往生すべき様を説き給ふ、舎利弗・舎利弗.又舎利弗
04 ・と二十余処まで いくばくもなき経によび給いしは かまびすしかりし事ぞかし、然れども四紙の一巻が内すべて
05 舎利弗等の諸声聞の往生成仏を許さず 法華経に来りてこそ 始て華光如来・光明如来とは記せられ給いしか一閻浮
06 提第一の大智者たる舎利弗すら 浄土の三部経にて往生成仏の跡をけづる、 まして末代の牛羊の如くなる男女・彼
07 彼の経経にて生死を離れなんや、 此の由を弁へざる末代の学者等・並に法華経を修行する初心の人人かたじけなく
08 阿弥陀経を読み念仏を申して或は法華経に鼻を並べ、 或は後に此れを読みて法華経の肝心とし 功徳を阿弥陀経等
09 にあつらへて 西方へ回向し往生せんと思ふは譬へば飛竜が驢馬を乗物とし 師子が野干をたのみたるか将又日輪出
10 現の後の衆星の光・大雨の盛時の小露なり、 故に教大師云く「白牛を賜う朝には三車を用いず、家業を得る夕に何
11 ぞ除糞を須いん」、 故に経に云く「正直に方便を捨て但無上道を説く」又云く「日出でぬれば星隠れ巧を見て拙を
12 知る」と云云、 法華経出現の後は已今当の諸経の捨てらるる事は勿論なり たとひ修行すとも法華経の所従にてこ
13 そあるべきに今の日本国の人人・道綽が未有一人得者・善導が千中無一・慧心が往生要集の序・永観が十因・法然が
14 捨閉閣抛等を堅く信じて 或は法華経を抛ちて一向に念仏を申す者もあり、 或は念仏を本として助けに法華経を持
15 つ者もあり或は弥陀念仏と法華経とを鼻を並べて 左右に念じて二行と行ずる者もあり 或は念仏と法華経と一法の
16 二名なりと思いて行ずる者もあり、 此れ等は皆教主釈尊の御屋敷の内に居して 師主をば指し置き奉りて阿弥陀堂
17 を釈迦如来の御所領の内に 国毎に郷毎に家家毎に並べ立て 或は一万・二万或は七万返或は一生の間一向に修行し
18 て主師親をわすれたるだに不思議なるに、 剰へ親父たる教主釈尊の御誕生・御入滅の両日を奪い取りて、十五日は
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01 阿弥陀仏の日・八日は薬師仏の日等云云、 一仏誕入の両日を東西二仏の死生の日となせり 是豈に不孝の者にあら
02 ずや逆路七逆の者にあらずや、 人毎に此の重科有りてしかも人毎に我が身は 科なしとおもへり無慚無愧の一闡提
03 人なり、法華経の第二の巻に主と親と師との三大事を説き給へり 一経の肝心ぞかし、 其の経文に云く「今此の三
04 界は皆是れ我有なり 其中の衆生は悉く是れ吾が子なり、 而も今此の処は諸の患難多し唯我一人のみ能く救護を為
05 す」等云云、 又此の経に背く者を文に説いて云く「復教詔すと雖も而も信受せず、 乃至其の人命終して阿鼻獄に
06 入らん」等云云、 されば念仏者が本師の導公は其中衆生の外か唯我一人の経文を破りて 千中無一といいし故に現
07 身に狂人と成りて楊柳に登りて身を投げ 堅土に落ちて死にかねて十四日より二十七日まで 十四日が間・顛倒狂死
08 し畢んぬ、 又真言宗の元祖・善無畏三蔵・金剛智三蔵・不空三蔵等は親父を兼ねたる教主釈尊・法王を立下て大日
09 他仏をあがめし故に善無畏三蔵は閻魔王のせめにあづかるのみならず 又無間地獄に堕ちぬ、 汝等此の事疑あらば
10 眼前に閻魔堂の画を見よ、 金剛智・不空の事はしげければかかず、 又禅宗の三階信行禅師は法華経等の一代聖教
11 をば別教と下だす我が作れる経をば普経と崇重せし故に 四依の大士の如くなりしかども 法華経の持者の優婆夷に
12 せめられてこえを失ひ現身に大蛇となり数十人の弟子を呑み食う。
13   今日本国の人人はたとひ法華経を持ち釈尊を釈尊と崇重し奉るとも真言宗・禅宗・念仏者をあがむるならば無間
14 地獄はまぬがれがたし、 何に況や三宗の者共を日月の如く渇仰し我が身にも念仏を事とせむ者をや 心あらん人人
15 は念仏・阿弥陀経等をば父母・師・君・宿世の敵よりもいむべきものなり、例せば逆臣が旗をば官兵は指す事なし寒
16 食の祭には火をいむぞかし、 されば古への論師・天親菩薩は小乗経を舌の上に置かじと誓ひ、 賢者たりし吉蔵大
17 師は法華経をだに読み給はず、 此等はもと小乗経を以て大乗経を破失し 法華経を以て天台大師を毀謗し奉りし謗
18 法の重罪を消滅せんがためなり、 今日本国の人人は一人もなく不軽軽毀の如く苦岸・勝意等の如く一国万人・皆無
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01 間地獄に堕つべき人人ぞかし、 仏の涅槃経に記して末法には法華経誹謗の者は 大地微塵よりもおほかるべしと記
02 し給いし是なり、 而に今法華経の行者出現せば一国万人・皆法華経の読誦を止めて 吉蔵大師の天台大師に随うが
03 如く身を肉橋となし不軽軽毀の還つて不軽菩薩に信伏随従せしが如く仕うるとも、一日二日・一月二月・一年二年・
04 一生二生が間には 法華経誹謗の重罪は尚なをし滅しがたかるべきに 其の義はなくして当世の人人は四衆倶に一慢
05 をおこせり、 所謂念仏者は法華経を捨てて 念仏を申す日蓮は法華経を持といへども念仏を持たず我等は念仏を持
06 ち法華経をも信ず戒をも持ち一切の善を行ず等云云、 此等は野兎が跡を隠し金鳥が頭を穴に入れ、 魯人が孔子を
07 あなづり善星が仏ををどせしにことならず鹿馬迷いやすく鷹鳩変じがたき者なり、 墓無し墓無し、 当時は予が古
08 へ申せし事の漸く合かの故に 心中には如何せんとは思ふらめども 年来あまりに法にすぎてそしり悪口せし事が忽
09 に翻がたくて信ずる由をせず、 而も蒙古はつよりゆく、 如何せんと宗盛・義朝が様になげくなり、 あはれ人は
10 心はあるべきものかな孔子は九思一言・周公旦は浴する時は三度にぎり 食する時は三度吐給う 賢人は此の如く用
11 意をなすなり世間の法にもはふにすぎば・あやしめといふぞかし、 国を治する人なんどが人の申せばとて 委細に
12 も尋ねずして左右なく科に行はれしはあはれくやしかるらんに 夏の桀王が湯王に責められ 呉王が越王に生けどり
13 にせられし時は賢者の諌暁を用いざりし事を悔ひ 阿闍世王が悪瘡身に出で他国に襲はれし時は 提婆を眼に見じ耳
14 に聞かじと誓い、 乃至宗盛がいくさにまけ義経に生けどられて鎌倉に下されて 面をさらせし時は東大寺を焼き払
15 はせ山王の御輿を射奉りし事を歎きしなり、 今の世も又一分もたがふべからず 日蓮を賎み諸僧を貴び給う故に自
16 然に法華経の強敵となり給う事を弁へず、政道に背きて行はるる間・梵釈.日月・四天.竜王等の大怨敵となり給う、
17 法華経守護の釈迦・多宝.十方分身の諸仏・地涌千界.迹化他方・二聖.二天・十羅刹女・鬼子母神.他国の賢王の身に
18 入り代りて国主を罰し国をほろぼさんとするを知らず、 真の天のせめにてだにもあるならば たとひ鉄囲山を日本
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01 国に引回し須弥山を蓋として 十方世界の四天王を集めて波際に立て 並べてふせがするとも法華経の敵となり教主
02 釈尊より大事なる行者を 法華経の第五の巻を以て日蓮が頭を打ち十巻共に引き散して散散にフミたりし大禍は現当
03 二世にのがれがたくこそ候はんずらめ 日本守護の天照太神・正八幡等もいかでか・かかる国をばたすけ給うべきい
04 そぎいそぎ治罰を加えて 自科を脱がれんとこそはげみ給うらめ をそく科に行う間・日本国の諸神ども 四天大王
05 にいましめられてやあるらん 知り難き事なり教大師云く「竊に以れば 菩薩は国の宝なること 法華経に載せ大乗
06 の利他は摩訶衍の説なり 弥天の七難は大乗経に非ずんば何を以てか除くことを為ん、 未然の大災は菩薩僧に非ず
07 んば豈冥滅することを得んや」等云云、 而るを今大蒙古国を調伏する 公家武家の日記を見るに或は五大尊或は七
08 仏薬師或は仏眼或は金輪等云云、 此れ等の小法は大災を消すべしや 還著於本人と成りて 国忽に亡びなんとす、
09 或は日吉の社にして法華の護摩を行うといへども不空三蔵がアヤマれる法を本として行う間祈祷の儀にあらず、又今
10 の高僧等は或は東寺の真言或は天台の真言なり 東寺は弘法大師・天台は慈覚・智証なり、此の三人は上に申すが如
11 く大謗法の人人なり、 其れより已外の諸僧等は或は東大寺の戒壇の小乗の者なり、 叡山の円頓戒は又慈覚の謗法
12 に曲げられぬ彼の円頓戒も迹門の大戒なれば 今の時の機にあらず 旁叶うべき事にはあらず、 只今国土やぶれな
13 ん・後悔さきにたたじ不便・不便と語り給いしを千万が一を書き付けて参らせ候。
14   但し身も下賎に生れ心も愚に候へば此の事は道理かとは承わり候へども 国主も御用いなきかの故に鎌倉にては
15 如何が候けん不審に覚え候、 返す返すも愚意に存じ候はこれ程の国の大事をば いかに御尋ねもなくして両度の御
16 勘気には行はれけるやらんと聞食しほどかせ給はぬ人人の 或は道理とも或は僻事とも 仰せあるべき事とは覚え候
17 はず、 又此の身に阿弥陀経を読み候はぬも 併ら御為父母の為にて候、 只理不尽に読むべき由を仰せを蒙り候は
18 ば其の時重ねて申すべく候、 いかにも聞食さずしてうしろの推義をなさん人人の 仰せをばたとひ身は随う様に候
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01 えども心は一向に用いまいらせ候まじ、 又恐れにて候へども兼ねてつみしらせまいらせ候、 此の御房は唯一人お
02 はします若しやの御事の候はん時は 御後悔や候はんずらん世間の人人の 用いねばとは一旦のをろかの事なり上の
03 御用あらん時は誰人か用いざるべきや、 其の時は又用いたりとも何かせん人を信じて法を信ぜず、又世間の人人の
04 思いて候は親には子は 是非に随うべしと君臣師弟も此くの如しと 此れ等は外典をも弁えず内典をも知らぬ人人の
05 邪推なり外典の孝経には子父・臣君諍うべき段もあり、 内典には恩を棄て無為に入るは 真実に恩を報ずる者なり
06 と仏定め給いぬ、 悉達太子は閻浮第一の孝子なり父の王の命を背きてこそ 父母をば引導し給いしか、比干が親父
07 紂王を諌暁して胸をほられてこそ賢人の名をば流せしか、 賎み給うとも小法師が諌暁を用ひ給はずば 現当の御歎
08 きなるべし、 此れは親の為に読みまいらせ候はぬ 阿弥陀経にて候へば いかにも当時は叶うべしとはおぼへ候は
10 ず、恐恐申し上げ候。
11       建治三年六月 日                                僧 日永
12     下山兵庫五郎殿御返事
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本尊問答抄    弘安元年九月    五十七歳御作   与浄顕房日仲
01   問うて云く末代悪世の凡夫は何物を以て本尊と定むべきや、答えて云く法華経の題目を以て本尊とすべし、 問
02 うて云く 何れの経文何れの人師の釈にか出でたるや、 答う法華経の第四法師品に云く「薬王在在処処に若しは説
03 き若しは読み若しは誦し若しは書き若しは経巻所住の処には 皆応に七宝の塔を起てて極めて 高広厳飾なら令むべ
04 し復舎利を安んずることを須いじ 所以は何ん此の中には已に如来の全身有す」等云云、 涅槃経の第四如来性品に
05 云く「復次に迦葉諸仏の師とする所は 所謂法なり是の故に如来恭敬供養す 法常なるを以ての故に 諸仏も亦常な
06 り」云云、 天台大師の法華三昧に云く「道場の中に於て好き高座を敷き法華経一部を安置し 亦必ずしも形像舎利
07 並びに余の経典を安くべからず唯法華経一部を置け」等云云。
08   疑つて云く天台大師の摩訶止観の第二の四種三昧の御本尊は阿弥陀仏なり、 不空三蔵の法華経の観智の儀軌は
09 釈迦多宝を以て法華経の本尊とせり、 汝何ぞ此等の義に相違するや、 答えて云く是れ私の義にあらず上に出だす
10 ところの経文並びに天台大師の御釈なり、 但し摩訶止観の四種三昧の本尊は 阿弥陀仏とは彼は常坐・常行・非行
11 非坐の三種の本尊は阿弥陀仏なり、 文殊問経・般舟三昧経・請観音経等による、是れ爾前の諸経の内・未顕真実の
12 経なり、半行半坐三昧には二あり、 一には方等経の七仏・八菩薩等を本尊とす彼の経による、 二には法華経の釈
13 迦・多宝等を引き奉れども 法華三昧を以て案ずるに法華経を本尊とすべし、 不空三蔵の法華儀軌は宝塔品の文に
14 よれり、此れは法華経の教主を本尊とす法華経の正意にはあらず、 上に挙ぐる所の本尊は釈迦・多宝・十方の諸仏
15 の御本尊・法華経の行者の正意なり。
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01   問うて云く日本国に十宗あり所謂.倶舎.成実.律.法相.三論・華厳.真言.浄土・禅.法華宗なり、此の宗は皆本尊
02 まちまちなり所謂・倶舎・成実・律の三宗は劣応身の小釈迦なり、 法相三論の二宗は大釈迦仏を本尊とす華厳宗は
03 台上のるさな報身の釈迦如来、 真言宗は大日如来、浄土宗は阿弥陀仏、禅宗にも釈迦を用いたり、 何ぞ天台宗に
04 独り法華経を本尊とするや、 答う彼等は仏を本尊とするに是は経を本尊とす 其の義あるべし、 問う其の義如何
05 仏と経といづれか勝れたるや、 答えて云く本尊とは勝れたるを用うべし、例せば儒家には三皇五帝を用いて本尊と
06 するが如く仏家にも又釈迦を以て本尊とすべし。
07   問うて云く然らば汝云何ぞ釈迦を以て本尊とせずして法華経の題目を本尊とするや、 答う上に挙ぐるところの
08 経釈を見給へ私の義にはあらず 釈尊と天台とは法華経を本尊と定め給へり、 末代今の日蓮も仏と天台との如く法
09 華経を以て本尊とするなり、 其の故は法華経は釈尊の父母・諸仏の眼目なり釈迦・大日総じて十方の諸仏は法華経
10 より出生し給へり 故に今能生を以て本尊とするなり、 問う其証拠如何、 答う普賢経に云く「此の大乗経典は諸
11 仏の宝蔵なり十方三世の諸仏の眼目なり 三世の諸の如来を出生する種なり」等云云、 又云く「此の方等経は是れ
12 諸仏の眼なり諸仏は 是に因つて五眼を具することを得たまえり 仏の三種の身は方等より生ず是れ大法印にして涅
13 槃海を印す 此くの如き海中より能く三種の仏の清浄の身を生ず 此の三種の身は人天の福田応供の中の最なり」等
14 云云、 此等の経文仏は所生・法華経は能生・仏は身なり法華経は神なり、 然れば則ち木像画像の開眼供養は唯法
15 華経にかぎるべし而るに今木画の二像をまうけて大日仏眼の印と真言とを以て開眼供養をなすはもとも逆なり。
16   問うて云く法華経を本尊とすると大日如来を本尊とするといづれか勝るや、答う弘法大師・慈覚大師・智証大師
17 の御義の如くならば大日如来はすぐれ法華経は劣るなり、 問う其の義如何、 答う弘法大師の秘蔵宝鑰十住心に云
18 く「第八法華・第九華厳・第十大日経」等云云是は浅きより深きに入る、慈覚大師の金剛頂経の疏・蘇悉地経の疏・
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01 智証大師の大日経の旨帰等に云く「大日経第一・法華経第二」等云云、問う汝が意如何、答う釈迦如来・多宝仏・総
02 じて十方の諸仏の御評定に云く 已今当の一切経の中に法華最為第一なり云云、 問う今日本国中の天台・真言等の
03 諸僧並びに王臣・万民疑つて云く日蓮法師めは弘法・慈覚・智証大師等に勝るべきか如何、 答う日蓮反詰して云く
04 弘法・慈覚・智証大師等は釈迦・多宝・十方の諸仏に勝るべきか是一、今日本の国王より民までも教主釈尊の御子な
05 り釈尊の最後の御遺言に云く「法に依つて人に依らざれ」等云云、 法華最第一と申すは法に依るなり、 然るに三
06 大師等に勝るべしやとの給ふ諸僧・王臣・万民・乃至所従牛馬等にいたるまで不孝の子にあらずや是二、 問う弘法
07 大師は法華経を見給はずや、 答う弘法大師も一切経を読み給へり、其の中に法華経・華厳経・大日経の浅深・勝劣
08 を読み給うに法華経を読給う様に云く 文殊師利此の法華経は諸仏如来秘密の蔵なり 諸経の中に於て最も其の下に
09 在り、 又読み給う様に云く薬王今汝に告ぐ我が所説の諸経あり 而も此の経の中に於て法華最第三云云、又慈覚智
10 証大師の読み給う様に云く諸経の中に於て最も其の中に在り又最為第二等云云、 釈迦如来・多宝仏・大日如来・一
11 切の諸仏・法華経を一切経に相対して説いての給はく法華最第一、 又説いて云く法華最も其の上に在り云云、 所
12 詮釈迦十方の諸仏と慈覚・弘法等の三大師といづれを本とすべきや、 但し事を日蓮によせて釈迦・十方の諸仏には
13 永く背きて三大師を本とすべきか如何。
14   問う弘法大師は讃岐の国の人勤操僧正の弟子なり、 三論・法相の六宗を極む、去る延暦二十三年五月桓武天皇
15 の勅宣を帯びて漢土に入り 順宗皇帝の勅に依りて青竜寺に入りて慧果和尚に真言の大法を相承し給へり 慧果和尚
16 は大日如来よりは七代になり給う人はかはれども 法門はをなじ譬えば瓶の水を猶瓶にうつすがごとし、 大日如来
17 と金剛薩タ・竜猛・竜智・金剛智.不空・慧果.弘法との瓶は異なれども所伝の智水は同じ真言なり此の大師・彼の真
18 言を習いて三千の波涛をわたりて日本国に付き給うに平城・嵯峨・淳和の三帝にさづけ奉る、 去る弘仁十四年正月
0368top
01 十九日に東寺を建立すべき勅を給いて真言の秘法を弘通し給う 然らば五畿・七道・六十六箇国・二の島にいたるま
02 でも鈴をとり杵をにぎる人たれかこの末流にあらざるや。
03   又慈覚大師は下野の国の人・広智菩薩の弟子なり、大同三年・御歳十五にして伝教大師の御弟子となりて叡山に
04 登りて十五年の間・六宗を習い法華真言の二宗を習い伝え 承和五年御入唐・漢土の会昌天子の御宇なり、法全・元
05 政・義真・法月・宗叡・志遠等の天台・真言の碩学に値い奉りて顕密の二道を習い極め給う、其の上殊に真言の秘教
06 は十年の間功を尽し給う 大日如来よりは九代なり嘉祥元年・仁明天皇の御師なり、仁寿・斉衡に金剛頂経・蘇悉地
07 経の二経の疏を造り叡山に総持院を建立して第三の座主となり給う天台の真言これよりはじまる。
08   又智証大師は讃岐の国の人・天長四年.御年十四・叡山に登り義真和尚の御弟子となり給う、日本国にては義真.
09 慈覚・円澄・別当等の諸徳に八宗を習い伝え去る 仁寿元年に文徳天皇の勅を給いて漢土に入り宣宗皇帝の大中年中
10 に法全良ショ和尚等の諸大師に七年の間・顕密の二教習い極め給いて去る天安二年に御帰朝・文徳・清和等の皇帝の
11 御師なり、 何れも現の為当の為月の如く日の如く代代の明主・時時の臣民・信仰余り有り帰依怠り無し故に愚癡の
12 一切偏に信ずるばかりなり 誠に法に依つて人に依らざれの金言を背かざるの外は 争か仏によらずして弘法等の人
13 によるべきや、 所詮其の心如何、 答う夫れ教主釈尊の御入滅一千年の間・月氏に仏法の弘通せし次第は先五百年
14 は小乗・後の五百年は大乗・小大・権実の諍はありしかども顕密の定めはかすかなりき、 像法に入りて十五年と申
15 せしに漢土に仏法渡る 始は儒道と釈教と諍論して定めがたかりきされども 仏法やうやく弘通せしかば小大・権実
16 の諍論いできたる、 されどもいたくの相違もなかりしに、漢土に仏法渡りて六百年・玄宗皇帝の御宇善無畏・金剛
17 智・不空の三三蔵・月氏より入り給いて後・真言宗を立てしかば、華厳・法華等の諸宗は以ての外にくだされき上一
18 人自り下万民に至るまで 真言には法華経は雲泥なりと思いしなり、 其の後・徳宗皇帝の御宇に妙楽大師と申す人
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01 真言は法華経に あながちにをとりたりとおぼしめししかども、 いたく立てる事もなかりしかば法華・真言の勝劣
02 を弁える人なし。
03   日本国は人王三十代・欽明の御時・百済国より仏法始めて渡りたりしかども始は神と仏との諍論こわくして三十
04 余年はすぎにき、 三十四代推古天皇の御宇に聖徳太子始めて仏法を弘通し給う慧観・観勒の二の上人・百済国より
05 わたりて三論宗を弘め、 孝徳の御宇に道昭・禅宗をわたす文武の御宇に新羅国の智鳳・法相宗をわたす第四十四代
06 元正天皇の御宇に善無畏三蔵・大日経をわたす然而弘まらず、 聖武の御宇に審祥大徳・朗弁僧正等・華厳宗をわた
07 す人王四十六代・孝謙天皇の御宇に唐代の鑒真和尚・律宗と法華経をわたす 律をばひろめ法華をば弘めず、第五十
08 代桓武天皇の御宇に延暦二十三年七月・伝教大師勅宣を給いて 漢土に渡り妙楽大師の御弟子・道邃・行満に値い奉
09 りて法華宗の定慧を伝え 道宣律師に菩薩戒を伝え 順暁和尚と申せし人に真言の秘教を習い伝えて日本国に帰り給
10 いて、 真言・法華の勝劣は漢土の師のおしへに依りては定め難しと思食しければ ここにして大日経と法華経と彼
11 の釈と此の釈とを引き並べて勝劣を判じ給いしに 大日経は法華経に劣りたるのみならず 大日経の疏は天台の心を
12 とりて我が宗に入れたりけりと勘え給へり。
13   其の後・弘法大師・真言経を下されける事を遺恨とや思食しけむ真言宗を立てんとたばかりて法華経は大日経に
14 劣るのみならず華厳経に劣れりと云云、 あはれ慈覚・智証・叡山・園城にこの義をゆるさずば弘法大師の僻見は日
15 本国にひろまらざらまし、 彼の両大師・華厳・法華の勝劣をばゆるさねど法華・真言の勝劣をば永く弘法大師に同
16 心せしかば存外に本の伝教大師の大怨敵となる、 其の後日本国の諸碩徳等各智慧高く有るなれども 彼の三大師に
17 こえざれば今四百余年の間・日本一同に 真言は法華経に勝れけりと定め畢んぬ たまたま天台宗を習へる人人も真
18 言は法華に及ばざるの由存ぜども 天台の座主御室等の高貴におそれて申す事なし あるは又其の義をもわきまへぬ
0370top
01 かのゆへにからくして同の義をいへば一向真言師はさる事おもひもよらずとわらふなり。
02   然らば日本国中に数十万の寺社あり皆真言宗なりたまたま法華宗を並ぶとも 真言は主の如く法華は所従の如く
03 なり若しくは兼学の人も心中は一同に真言なり、 座主・長吏・検校・別当・一向に真言たるうへ上に好むところ下
04 皆したがふ事なれば一人ももれず真言師なり、 されば日本国・或は口には法華経最第一とはよめども心は最第二・
05 最第三なり或は身口意共に最第二三なり、 三業相応して最第一と読める法華経の行者は 四百余年が間一人もなし
06 まして能持此経の行者はあるべしともおぼへず、 如来現在・猶多怨嫉・況滅度後の衆生は上一人より下万民にいた
07 るまで法華経の大怨敵なり。
08   然るに日蓮は東海道・十五箇国の内.第十二に相当る安房の国長狭の郡・東条の郷.片海の海人が子なり、生年十
09 二同じき郷の内・清澄寺と申す山にまかり登り住しき、 遠国なるうへ寺とはなづけて候へども 修学の人なし然而
10 随分・諸国を修行して学問し候いしほどに 我が身は不肖なり人はおしへず 十宗の元起勝劣たやすくわきまへがた
11 きところに、 たまたま仏菩薩に祈請して一切の経論を勘て十宗に合せたるに 倶舎宗は浅近なれども一分は小乗経
12 に相当するに似たり、 成実宗は大小兼雑して謬ゴあり律宗は本は小乗・中比は権大乗・今は一向に大乗宗とおもへ
13 り又伝教大師の律宗あり別に習う事なり、 法相宗は源権大乗経の中の浅近の法門にてありけるが 次第に増長して
14 権実と並び結句は彼の宗宗を打ち破らんと存ぜり 譬えば日本国の将軍将門・純友等のごとし 下に居て上を破る、
15 三論宗も又権大乗の空の一分なり 此れも我は実大乗とおもへり、 華厳宗は又権大乗と云ひながら余宗にまされり
16 譬えば 摂政関白のごとし 然而法華経を敵となして立てる宗なる故に 臣下の身を以て大王に順ぜんとするがごと
17 し、 浄土宗と申すも権大乗の一分なれども 善導法然が・たばかりかしこくして諸経をば上げ観経をば下し正像の
18 機をば上げ末法の機をば下して末法の機に相叶える念仏を取り出して 機を以て経を打ち一代の聖教を失いて 念仏
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01 の一門を立てたり譬えば心かしこくして身は卑しき者が 身を上げて心はかなきものを敬いて 賢人をうしなふがご
02 とし、 禅宗と申すは一代聖教の外に 真実の法有りと云云譬えばをやを殺して子を用い主を殺せる所従のしかも其
03 の位につけるがごとし、 真言宗と申すは一向に大妄語にて候が深く其の根源をかくして候へば 浅機の人あらはし
04 がたし一向に誑惑せられて数年を経て候先ず天竺に真言宗と申す宗なし 然れども有りと云云、 其の証拠を尋ぬ可
05 きなり所詮大日経ここにわたれり 法華経に引き向けて其の勝劣を見候処に 大日経は法華経より七重下劣の経なり
06 証拠彼の経・此の経に分明なり此に之を引かずしかるを或は云く法華経に三重の主君・或は二重の主君なりと云云以
07 ての外の大僻見なり、 譬えば劉聡が下劣の身として愍帝に馬の口をとらせ 超高が民の身として横に帝位につきし
08 がごとし又彼の天竺の大慢婆羅門が釈尊を床として 坐せしがごとし漢土にも知る人なく 日本にもあやしめずして
09 すでに四百余年をおくれり。
10   是くの如く仏法の邪正乱れしかば王法も漸く尽きぬ結句は此の国・他国にやぶられて亡国となるべきなり、 此
11 の事日蓮独り勘え知れる故に 仏法のため王法のため諸経の要文を集めて 一巻の書を造る仍つて 故最明寺入道殿
12 に奉る立正安国論と名けき、 其の書にくはしく申したれども 愚人は知り難し、 所詮現証を引いて申すべし抑人
13 王八十二代・隠岐の法王と申す王有き 去ぬる承久三年太歳辛巳五月十五日伊賀太郎判官光末を打捕まします鎌倉の
14 義時をうち給はむとての門出なり、 やがて五畿七道の兵を召して 相州鎌倉の権の太夫義時を打ち給はんとし給う
15 ところに還りて義時にまけ給いぬ、 結句・我が身は隠岐の国にながされ太子二人は佐渡の国・阿波の国にながされ
16 給う公卿七人は忽に頚をはねられてき、 これはいかにとしてまけ給いけるぞ 国王の身として民の如くなる義時を
17 打ち給はんは 鷹の雉をとり猫の鼠を食むにてこそあるべけれ これは猫のねずみにくらはれ鷹の雉にとられたるや
18 うなり、しかのみならず調伏力を尽せり所謂天台の座主・慈円僧正・真言の長者・仁和寺の御室・園城寺の長吏・総
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01 じて七大寺・十五大寺・智慧戒行は日月の如く、秘法は弘法・慈覚等の三大師の心中の深密の大法・十五壇の秘法な
02 り、 五月十九日より六月の十四日にいたるまであせをながしなづきをくだきて行いき 最後には御室・紫宸殿にし
03 て日本国にわたりて いまだ三度までも行はぬ大法・六月八日始めて之を行う程に・同じき十四日に関東の兵軍・宇
04 治勢多をおしわたして洛陽に打ち入りて三院を生け取り奉りて九重に火を放ちて 一時に焼失す、 三院をば三国へ
05 流罪し奉りぬ又公卿七人は忽に頚をきる、 しかのみならず御室の御所に押し入りて 最愛の弟子の小児勢多伽と申
06 せしをせめいだして終に頚をきりにき 御室思いに堪えずして死に給い畢んぬ母も死す童も死す、 すべて此のいの
07 りをたのみし人いく千万といふ事をしらず死にき たまたまいきたるもかひなし、 御室祈りを始め給いし六月八日
08 より同じき十四日までなかをかぞふれば七日に満じける日なり、此の十五壇の法と申すは一字金輪・四天王・不動・
09 大威徳.転法輪・如意輪.愛染王・仏眼・六字.金剛童子・尊星王.太元守護経等の大法なり此の法の詮は国敵王敵とな
10 る者を降伏して命を召し取りて 其の魂を密厳浄土へつかはすと云う法なり、 其の行者の人人も又軽からず天台の
11 座主慈円・東寺・御室・三井の常住院の僧正等の四十一人並びに伴僧等・三百余人なり云云、法と云ひ行者と云ひ又
12 代も上代なりいかにとしてまけ給いけるぞ たとひかつ事こそなくとも 即時にまけおはりてかかるはぢにあひたり
13 ける事、 いかなるゆへといふ事を余人いまだしらず、 国主として民を討たん事鷹の鳥をとらんがごとしたとひま
14 け給うとも一年・二年・十年・二十年もささうべきぞかし 五月十五日におこりて六月十四日にまけ給いぬわづかに
15 三十余日なり、権の大夫殿は此の事を兼てしらねば祈祷もなしかまへもなし。
16   然而日蓮小智を以て勘えたるに其の故あり 所謂彼の真言の邪法の故なり僻事は一人なれども万国のわづらひな
17 り一人として行ずとも一国二国やぶれぬべし 況や三百余人をや国主とともに 法華経の大怨敵となりぬいかでかほ
18 ろびざらん、 かかる大悪法としをへてやうやく関東におち下りて諸堂の別当供僧となり 連連と行えり本より辺域
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01 の武士なれば 教法の邪正をば知らずただ三宝をばあがむべき事とばかり思ふゆへに 自然としてこれを用いきたり
02 てやうやく年数を経る程に今他国のせめをかうふりて 此の国すでにほろびなんとす、 関東八箇国のみならず叡山
03 ・東寺・園城・七寺等の座主・別当・皆関東の御はからひとなりぬるゆへに隠岐の法皇のごとく大悪法の檀那と成定
04 まり給いぬるなり、国主となる事は大小皆・梵王・帝釈・日月・四天の御計いなり、法華経の怨敵となり定まり給は
05 ば忽に治罰すべきよしを誓い給へり、 随つて人王八十一代・安徳天皇に太政入道の一門 与力して兵衛佐頼朝を調
06 伏せんがために、 叡山を氏寺と定め山王を氏神とたのみしかども 安徳は西海に沈み明雲は義仲に殺さる一門・皆
07 一時にほろび畢んぬ、第二度なり今度は第三度にあたるなり。
08   日蓮がいさめを御用いなくて真言の悪法を以て大蒙古を調伏せられば 日本国還つて調伏せられなむ還著於本人
09 と説けりと申すなり、 然らば則ち罰を以て利生を思うに 法華経にすぎたる仏になる大道はなかるべきなり現世の
10 祈祷は兵衛佐殿・法華経を読誦する現証なり。
11   此の道理を存ぜる事は父母と師匠との御恩なれば父母はすでに過去し給い畢んぬ、 故道善御房は師匠にておは
12 しまししかども法華経の故に 地頭におそれ給いて心中には不便とおぼしつらめども 外にはかたきのやうににくみ
13 給いぬ、 後にはすこし信じ給いたるやうにきこへしかども 臨終にはいかにやおはしけむおぼつかなし地獄までは
14 よもおはせじ又生死をはなるる事はあるべしともおぼへず 中有にやただよひましますらむとなげかし、 貴辺は地
15 頭のいかりし時・義城房とともに 清澄寺を出でておはせし人なれば 何となくともこれを法華経の御奉公とおぼし
16 めして生死をはなれさせ給うべし。
17   此の御本尊は世尊説きおかせ給いて後二千二百三十余年が間・一閻浮提の内にいまだひろめたる人候はず、 漢
18 土の天台 日本の伝教ほぼしろしめしていささかひろめさせ給はず 当時こそひろまらせ給うべき時にあたりて候へ
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01 経には上行・無辺行等こそ出でてひろめさせ給うべしと見へて候へども いまだ見へさせ給はず、 日蓮は其の人に
02 候はねどもほぼこころえて候へば 地涌の菩薩の出でさせ給うまでの口ずさみに あらあら申して況滅度後のほこさ
03 きに当り候なり、 願わくは此の功徳を以て父母と師匠と一切衆生に回向し奉らんと祈請仕り候、 其の旨をしらせ
04 まいらせむがために御不審を書きおくりまいらせ候に 他事をすてて此の御本尊の御前にして 一向に後世をもいの
05 らせ給い候へ、又これより申さんと存じ候、いかにも御房たちはからい申させ給へ。
06                                     日蓮花押。
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諸宗問答抄    建長七年    三十四歳御作   与三位房日行
01   問うて云く抑法華宗の法門は天台・妙楽・伝教等の御釈をば御用い候や如何、答て云く最も此の御釈共を明鏡の
02 助証として立て申す法門にて候、 問て云く何を明鏡として立てられ候ぞや 彼の御釈共には爾前権教を簡び捨てら
03 る事候はず、 随つて或は初後仏慧・円頓義斉とも或は此妙彼妙・妙義殊なること無しとも釈せられて華厳と法華と
04 の仏慧同じ仏慧にて異なること無しと釈せられ候、 通教・別教の仏慧も法華と同じと見えて候 何を以て偏に法華
05 勝れたりとは仰せられ候や意得ず候如何、 答て云く天台の御釈を引かれ候は 定て天台宗にて御坐候らん、 然る
06 に天台の御釈には教道・証道とて二筋を以て六十巻を造られて候、 教道は即教相の法門にて候証道は 即内証の悟
07 の方にて候、 只今引れ候釈の文共は教証の二道の中には何れの文と 御得意候て引かれ候ぞや、若し教門の御釈に
08 て候わば教相には三種の教相を立て 爾前法華を釈して勝劣を判ぜられ候、 先づ三種の教相と申すは何にて候ぞや
09 と之を尋ぬ可し、 若し三種の教相と申すは一には根性の融不融の相・二には化導の始終不始終の相・三には師弟の
10 遠近不遠近の相なりと答へばさては 只今引かれ候御釈は何れの教相の下にて引かれ候やと尋ぬ可きなり、 若し根
11 性の融不融の下にて釈せらると答へば 又押し返して問う可し 根性の融不融の下には約教・約部とて二の法門あり
12 何れぞと尋ぬ可し、 若し約教の下と答へば又問う可し約教約部に付いて与奪の二の釈候 只今の釈は与の釈なるか
13 奪の釈なるかと之を尋ぬ可し、 若し約教・約部をも与奪をも弁えずと云わばさては・さては天台宗の法門は堅固に
14 無沙汰にて候けり、 尤も天台法華の法門は教相を以て諸仏の御本意を宣られたり 若し教相に闇くして法華の法門
15 を云ん者は雖讃法華経還死法華心とて 法華の心を殺すと云う事にて候、 其の上「若し余経を弘むるに教相を明ら
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01 めざるも義に於て傷ること無し 若し法華を弘むるに教相を明さざれば文義闕くること有り」と釈せられて 殊更教
02 相を本として天台の法門は建立せられ候、 仰せられ候如く次第も無く偏円をも簡ばず 邪正も選ばず法門申さん者
03 をば信受せざれと天台堅く誡しめられ候なり、 是程に知食さず候けるに中々・天台の御釈を引かれ候事浅マシき御
04 事なりと責む可きなり、 但し天台の教相を三種に立てらるる中に根性の融不融の相の下にて 相待妙・絶待妙とて
05 二妙を立て候、 相待妙の下にて又約教・約部の法門を釈して仏教の勝劣を判ぜられて候、約教の時は一代の教を蔵
06 通別円の四教に分つて之に付いて 勝劣を判ずる時は前三為ソ・後一為妙とは判ぜられて 蔵通別の三教をばソ教と
07 嫌ひ後の一教をば妙法と選取せられ候へども 此の時もなほ爾前権教の当分の得道を許し且く 華厳等の仏慧と法華
08 の仏慧とを等から令めて只今の初後仏慧・円頓義斉等の与の釈を作られ候なり、 然りと雖も約部の時は一代の教を
09 五時に分つて五味に配し華厳部・阿含部・方等部・般若部・法華部と立てられ前四味為ソ・後一為妙と判じて奪の釈
10 を作られ候なり、然れば奪の釈に云く「細人ソ人二倶犯過・従過辺説倶名ソ人」と、 此釈の意は華厳部にも別円二
11 教を説かれて候へば円の方は仏慧と云わるるなり、 方等部にも蔵通別円の四教を説れたれば 円の方は又仏慧なり
12 般若部にも通別円の後三教を説いて候へば 其れも円の方は仏慧なり、 然りと雖も華厳は別教と申すえせ物をつれ
13 て説れたる間わるき物つれたる仏慧なりとて 簡わるるなり方等部の円も前三教のえせ物をつれたる仏慧なり 般若
14 部の円も前二のえせ物をつれたる仏慧なり、 然る間仏慧の名は同と雖も 過の辺に従つてソと云われて わるき円
15 教の仏慧と下され候なり、 之に依て四教にても真実の勝劣を判ずる時は 一往は三蔵を名て小乗と為し再往は三教
16 を名て小乗と為すと釈して 一往の時は二百五十戒等の阿含三蔵教の法門を総じて 小乗の法と簡い 捨てらるれど
17 も、 再往の釈の時は三蔵教と大乗と云いつる通教と別教との三教皆小乗の法と 本朝の智証大師も法華論の記と申
18 す文を作つて判釈せられて候なり。
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01   次に絶待妙と申すは開会の法門にて候なり、 此の時は爾前権教とて嫌ひ捨らるる所の教を皆法華の大海におさ
02 め入るるなり、 随つて法華の大海に入りぬれば爾前の権教とて嫌わるる者無きなり、 皆法華の大海の不可思議の
03 徳として南無妙法蓮華経と云う一味にたたきなしつる間 念仏・戒・真言・禅とて別の名言を呼び出す可き道理曾て
04 無きなり、随つて釈に云く「諸水入海・同一鹹味・諸智入如実智・失本名字」等と釈して本の名字を一言も呼び顕す
05 可らずと釈せられて候なり、 世間の人・天台宗は開会の後は相待妙の時斥い捨てられし所の 前四味の諸経の名言
06 を唱うるも又諸仏・諸菩薩の名言を唱うるも 皆是法華の妙体にて有るなり 大海に入らざる程こそ各別の思なりけ
07 れ大海に入つて後に見れば 日来よしわるしと嫌ひ用ひけるは大僻見にて有りけり、 嫌はるる諸流も用ひらるる冷
08 水も源はただ大海より出でたる一水にて有りけり、 然れば何の水と呼びたりとても ただ大海の一水に於て 別別
09 の名言をよびたるにてこそあれ、 各別各別の物と思うてよぶにこそ科はあれ 只大海の一水と思うて何れをも心に
10 任せて有縁に従つて唱え持つに苦しかる可からずとて念仏をも真言をも何れをも心に任せて持ち唱うるなり。
11   今云う此の義は与えて云う時はさも有る可きかと覚れども奪つて云う時は随分堕地獄の義にて有るなり、 其の
12 故は縦ひ一人此くの如く意得何れをも持ち唱るとても 万人此の心根を得ざる時は 只例の偏見・偏情にて持ち唱え
13 れば一人成仏するとも 万人は皆地獄に堕す可き邪見の悪義なり、 爾前に立てる所の法門の名言と其の法門の内に
14 談ずる所の道理の所詮とは皆是・偏見・偏情によりて入邪見稠林・若有若無等の権教なり、然れば此等の名言を以て
15 持ち唱へ此等の所詮の理を観ずれば 偏に心得たるも心得ざるも皆大地獄に堕つべし、 心得たりとて唱へ持ちたら
16 ん者は 牛蹄に大海を納めたる者の如し是僻見の者なり、 何ぞ三悪道を免がれん又心得ざる者の唱へ持たんは本迷
17 惑の者なれば邪見権教の執心によつて 無間大城に入らん事疑い無き者なり、 開会の後もソ教とて嫌い捨てし悪法
18 をば名言をも其の所詮の極理をも唱へ持つて 交ゆべからずと見えて候・弘決に云く「相待絶待倶に須く悪を離るべ
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01 し円に著する尚悪なり況や復余をや」云云、 文の心は相待妙の時も絶待妙の時も 倶に須く悪法をば離るべし円に
02 著する尚悪し況や復余の法をやと云う文なり、 円と云うは満足の義なり余と云うは闕減の義なり、 円教の十界平
03 等に成仏する法をすら著したる方を悪ぞと嫌ふ、 況や復十界平等に成仏せざるの悪法の闕たるを以て 執著をなし
04 て朝夕・受持・読誦・解説・書写せんをや、設ひ爾前の円を今の法華に開会し入るるとも爾前の円は法華の一味とな
05 る事無し、 法華の体内に開会し入れられても体内の権と云われて実とは云わざるなり、 体内の権を体外に取出し
06 て且く於一仏乗分別説三する時権に於て 円の名を付て三乗の中の円教と云われたるなり、 之に依りて古へも金杖
07 の譬を以て三乗にあてて沙汰する事あり、 譬へば金の杖を三に打をりて一づつ三乗の機根に与へて 何れも皆金な
08 り然れば何ぞ同じ金に於て 差別の思をなして勝劣を判ぜんやと談合したり、 此はうち聞く所はさもやと覚えたれ
09 ども悪く学者の得心たるなり、 今云う此の義は譬へば法華の体内の権の金杖を 仏三根にあてて体外に三度うちふ
10 り給へる其の影を機根が見付ずして 皆真実の思を成して己が見に任せたるなり、 其の真実には金杖を打折て三に
11 なしたる事が有らばこそ今の譬は合譬とはならめ、 仏は権の金杖を折らずして三度ふり給へるを 機根ありて三に
12 成りたりと執著し得心たる 返す返す不得心の大邪見なり大邪見なり、 三度振りたるも法華の体内の権の功徳を体
13 外の三根に配して三度振りたるにてこそ有れ、 全く妙体不思議の円実を振りたる事無きなり、 然れば体外の影の
14 三乗を体内の本の権の本体へ開会し入るれば 本の体内の権と云われて全く体内の円とは成らざるなり、 此の心を
15 以て体内体外の権実の法門をば得意弁ふべき者なり。
16   次に禅宗の法門は或は教外別伝・不立文字と云ひ或は仏祖不伝と云ひ 修多羅の教は月をさす指の如しとも云ひ
17 或は即身即仏とも云つて文字をも立てず 仏祖にも依らず教法をも修学せず画像木像をも信用せずと云うなり、 反
18 詰して云く仏祖不伝にて候はば何ぞ月氏の二十八祖・東土の六祖とて相伝せられ候や、 其の上・迦葉尊者は何ぞ一
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01 枝の花房を釈尊より授けられ微笑して 心の一法を霊山にして伝えたりとは自称するや、 又祖師無用ならば何ぞ達
02 磨大師を本尊とするや、 又修多羅の法・無用ならば何ぞ朝夕の所作に真言陀羅尼をよみつるぞや、首楞厳経・金剛
03 経・円覚経等を或は談し或は読誦するや、 又仏菩薩を信用せずんば 何ぞ南無三宝と行住坐臥に唱うるやと責む可
04 きなり、 次に聞き知らざる言を以て種種申し狂はば云う可し、 凡そ機には上中下の三根あり随つて法門も三根に
05 与へて説事なり、禅宗の法門にも理致・機関・向上として三根に配て法門を示され候なり、 御辺は某が機をば三根
06 の中には 何れと得意て聞知せざる法門を仰せられ候ぞや、 又理致の分か機関の分か向上の分に候かと責む可きな
07 り、 理致と云うは下根に道理を云いきかせて禅の法門を知らする名目なり、 機関とは中根には何なるか本来の面
08 目と問へば 庭前の柏樹子なんど答えたる様の言づかひをして禅法を示す様なり、 向上と云うは上根の者の事なり
09 此の機は祖師よりも伝えず仏よりも伝えず 我として禅の法門を悟る機なり、 迦葉・霊山微笑の花に依て心の一法
10 を得たりと云う時に是れ尚・中根の機なり、 所詮・禅の法門と云う事は迦葉一枝の花房を得しより已来出来せる法
11 門なり、 抑も伝えし時の花房は木の花か草の花か五色の中には何様なる色の花ぞや 又花の葉は何重の葉ぞや委細
12 に之を尋ぬ可きなり、 此の花をありのままに云い出したる禅宗有らば 実に心の一法をも一分得たる者と知る可き
13 なり、 設ひ得たりとは存知すとも真実の仏意には叶う可からず如何となれば法華経を信ぜざるが故なり、 此の心
14 は法華経の方便品の末長行に委く見えたり 委は引て拝見し奉る可きなり、 次に禅の法門何としても物に著する所
15 を離れよと教えたる法門にて有るなり、 さと云へば其れも情なりかうと云うも其れも情なりとあなた・こなたへ・
16 すべりとどまらぬ法門にて候なり、 夫れを責む可き様は他人の情に著したらん計りをば沙汰して 己が情量に著し
17 封ぜらる所をば知らざるなり、 云うべき様は御辺は人の情計りをば責むれども 御辺・情を情と執したる情をばな
18 ど離れ得ぬぞと反詰すべきなり、 凡そ法として三世諸仏の説きのこしたる法は無きなり 汝仏祖不伝と云つて仏祖
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01 よりも伝えずとなのらばさては 禅法は天魔の伝うる所の法門なり如何、 然る間汝断常の二見を出でず無間地獄に
02 堕せん事疑無しと云つて 何度もかれが云う言にてややもすれば己がつまる語なり、 されども非学匠は理につまら
03 ずと云つて 他人の道理をも自身の道理をも聞き知らざる間暗証の者とは云うなり、 都て理におれざるなり譬えば
04 行く水にかずかくが如し。
05   次に即身即仏とは即身即仏なる道理を立てよと責む可し 其の道理を立てずして無理に唯即身即仏と云わば例の
06 天魔の義なりと責む可し 但即身即仏と云う名目を聞くに 天台法華宗の即身成仏の名目つかひを盗み取て禅宗の家
07 につかふと覚えたり、 然れば法華に立つる様なる即身即仏なるか如何とせめよ、 若し其の義無く押して名目をつ
08 かはばつかはるる語は無障礙の法なり 譬えば民の身として国王と名乗ん者の如くなり 如何に国王と云うとも言に
09 は障り無し己が舌の和かなるままに云うとも 其の身は即土民の卑しく嫌われたる身なり、 又瓦礫を玉と云う者の
10 如し石瓦を玉と云いたりとも曾て石は玉にならず、 汝が云う所の即身即仏の名目も此くの如く有名無実なり 不便
11 なり不便なり。
12   次に不立文字と云う 所詮文字と云う事は何なるものと得心此くの如く立てられ候や、 文字は是一切衆生の心
13 法の顕れたる質なりされば人のかける物を以て 其の人の心根を知つて相する事あり、 凡そ心と色法とは不二の法
14 にて有る間かきたる物を以て 其の人の貧福をも相するなり、 然れば文字は是一切衆生の色心不二の質なり 汝若
15 し文字を立てざれば汝が色心をも立つ可からず 汝六根を離れて禅の法門一句答へよと責む可きなり、 さてと云う
16 も・かうと云うも 有と無との二見をば離れず無と云わば 無の見なりとせめよと有と云わば有の見なりとせめよ、
17 何れも何れも叶わざる事なり。
18   次に修多羅の教は月をさす指の如しと云うは月を見て後は徒者と云う義なるか 若其義にて候わば御辺の親も徒
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01 者と云う義か又師匠は弟子の為に 徒者か又大地は徒者か又天は徒者か、 如何となれば父母は御辺を出生するまで
02 の用にてこそあれ御辺を出生して後はなにかせん、 人の師は物を習い取るまでこそ用なれ 習い取つて後は無用な
03 り、夫れ天は雨露を下すまでこそあれ 雨ふりて後は天無用なり大地は草木を出生せんが為なり 草木を出生して後
04 は大地無用なりと云わん者の如し、 是を世俗の者の譬に喉過ぬればあつさわすれ 病愈えぬれば医師をわすると云
05 うらん譬に少も違わず相似たり、 所詮修多羅と云うも文字なり文字は 是れ三世諸仏の気命なりと 天台釈し給へ
06 り、天台は震旦・禅宗の祖師の中に入れたり、  何ぞ祖師の言を嫌はん其の上御辺の色心なり凡そ一切衆生の三世
07 不断の色心なり、 何ぞ汝本来の面目を捨て不立文字と云うや、 是れ昔し移宅しけるに 我が妻を忘れたる者の如
08 し、真実の禅法をば何としてか知るべき哀なる禅の法門かなと責む可し。
09   次に華厳.法相・三論・倶舎・成実.律宗等の六宗の法門いかに花をさかせても申しやすく返事すべき方は能能い
10 はせて後・南都の帰伏状を唯読みきかす可きなり、 既に六宗の祖師が帰伏の状をかきて桓武天皇に奏し奉る、 仍
11 て彼帰伏状を山門に納められぬ其外内裏にも記せられたり 諸道の家家にも記し留めて今にあり、 其より已来・華
12 厳宗等の六宗の法門・末法の今に至るまで一度も頭をさし出さず 何ぞ唯今・事新く捨られたる所の権教・無得道の
13 法にをいて真実の思をなし此くの如く仰せられ候ぞや心得られずとせむべし。
14   次に真言宗の法門は先ず真言三部経は大日如来の説か釈迦如来の説かと 尋ね定めて釈迦の説と言はば釈尊・五
15 十年の説教にをいて已今当の三説を分別せられたり、 其の中に大日経等の三部は何れの分にをさまり候ぞと 之を
16 尋ぬ可し、 三説の中には・いづくにこそ・おさまりたりと云はば例の法門にてたやすかるべき問答なり、若法華と
17 同時の説なり義理も法華と同じと云はば 法華は是純円一実の教にて曾て方便を交へて説く事なし、 大日経等は四
18 教を含用したる経なり 何ぞ時も同じ義理も同じと云わんや 謬りなりとせめよ、 次に大日如来の説法と云はば大
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01 日如来の父母と生ぜし所と 死せし所を委く沙汰し問うべし、 一句一偈も大日の父母なし説所なし生死の所なし有
02 名無実の大日如来なり 然る間殊に法門せめやすかるべきなり 若法門の所詮の理を云はば教主の有無を定めて説教
03 の得不得をば極む可き事なり、 設ひ至極の理密・事密を沙汰すとも訳者に虚妄有り 法華の極理を盗み取て事密真
04 言とか立てられてあるやらん不審なり、 之に依りて法の所談は教主の有無に随て沙汰有る可きなりと 責む可きな
05 り、 次に大日如来は法身と云はば 法華よりは未顕真実と嫌い捨てられたる爾前権教にも法身如来と説たり何ぞ不
06 思議なるべきやと云う可きなり、 若無始無終の由を云て・いみじき由を立て申さば必大日如来に限らず我等・一切
07 衆生・螻蟻ミンモウ等に至るまでみな無始無終の色心なり、衆生に於て有始有終と思ふは外道の僻見なり汝外道に同
08 ず如何と云う可きなり。
09   次に念仏は是浄土宗所用の義なり、 此れ又権教の中の権教なり譬えば夢の中の夢の如し有名無実にして其の実
10 無きなり一切衆生願て所詮なし、 然れば云う所の仏も有為無常の阿弥陀仏なり 何ぞ常住不滅の道理にしかんや、
11 されば本朝の根本大師の御釈に云く 「有為の報仏は夢中の権果・無作の三身は覚前の実仏」と釈して阿弥陀仏等の
12 有為無常の仏をば大にいましめ捨てをかれ候なり、 既に憑む所の阿弥陀仏・有名無実にして名のみ有つて 其の体
13 なからんには 往生す可き道理をば委く須弥山の如く高く立て大海の如くに 深く云とも何の所詮有るべきや又経論
14 に正き明文ども 有と云はば明文ありとも未顕真実の文なり、 浄土の三部経に限らず 華厳経等より初て何の経・
15 教・論・釈にか成仏の明文無らんや、 然れども権教の明文なる時は汝等が所執の拙きにてこそあれ経論に無き僻事
16 なり、何れも法門の道理を宣べ厳り依経を立てたりとも夢中の権果にて無用の義に成る可きなり返す返す。
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一生成仏抄    建長七年    三十四歳御作   与富木常忍
01   夫れ無始の生死を留めて此の度決定して無上菩提を証せんと思はばすべからく衆生本有の妙理を観ずべし、 衆
02 生本有の妙理とは・妙法蓮華経是なり故に妙法蓮華経と唱へたてまつれば 衆生本有の妙理を観ずるにてあるなり、
03 文理真正の経王なれば文字即実相なり 実相即妙法なり唯所詮一心法界の旨を説き顕すを妙法と名く 故に此の経を
04 諸仏の智慧とは云うなり、 一心法界の旨とは十界三千の依正色心・非情草木・虚空刹土いづれも除かず・ちりも残
05 らず一念の心に収めて此の一念の心・法界にヘン満するを指して万法とは云うなり、 此の理を覚知するを一心法界
06 とも云うなるべし、 但し妙法蓮華経と唱へ持つと云うとも若し己心の外に法ありと思はば 全く妙法にあらずソ法
07 なり、 ソ法は今経にあらず今経にあらざれば方便なり権門なり、 方便権門の教ならば成仏の直道にあらず成仏の
08 直道にあらざれば 多生曠劫の修行を経て成仏すべきにあらざる故に一生成仏叶いがたし、 故に妙法と唱へ蓮華と
09 読まん時は我が一念を指して妙法蓮華経と名くるぞと深く信心を発すべきなり。
10   都て一代八万の聖教・三世十方の諸仏菩薩も我が心の外に有りとは・ゆめゆめ思ふべからず、然れば仏教を習ふ
11 といへども 心性を観ぜざれば全く生死を離るる事なきなり、 若し心外に道を求めて万行万善を修せんは譬えば貧
12 窮の人 日夜に隣の財を計へたれども半銭の得分もなきが如し、 然れば天台の釈の中には若し心を観ぜざれば重罪
13 滅せずとて若し心を観ぜざれば無量の苦行となると判ぜり、 故にかくの如きの人をば仏法を学して 外道となると
14 恥しめられたり、 爰を以て止観には雖学仏教・還同外見と釈せり、然る間・仏の名を唱へ経巻をよみ華をちらし香
15 をひねるまでも 皆我が一念に納めたる功徳善根なりと信心を取るべきなり、 之に依つて浄名経の中には諸仏の解
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01 脱を衆生の心行に求めば衆生即菩提なり生死即涅槃なりと明せり、 又衆生の心けがるれば土もけがれ 心清ければ
02 土も清しとて浄土と云ひ 穢土と云うも土に二の隔なし只我等が心の善悪によると見えたり、 衆生と云うも仏と云
03 うも亦此くの如し迷う時は衆生と名け悟る時をば仏と名けたり、 譬えば闇鏡も磨きぬれば玉と見ゆるが如し、 只
04 今も一念無明の迷心は磨かざる鏡なり 是を磨かば必ず法性真如の明鏡と成るべし、 深く信心を発して日夜朝暮に
05 又懈らず磨くべし何様にしてか磨くべき只南無妙法蓮華経と唱へたてまつるを是をみがくとは云うなり。
06   抑妙とは何と云う心ぞや只我が一念の心・不思議なる処を妙とは云うなり 不思議とは心も及ばず語も及ばずと
07 云う事なり、 然れば・すなはち起るところの一念の心を尋ね見れば有りと云はんとすれば 色も質もなし又無しと
08 云はんとすれば 様様に心起る有と思ふべきに非ず無と思ふべきにも非ず、 有無の二の語も及ばず有無の二の心も
09 及ばず有無に非ずして而も有無にヘンして中道一実の妙体にして不思議なるを妙とは名くるなり、 此の妙なる心を
10 名けて法とも云うなり、 此の法門の不思議をあらはすに譬を事法にかたどりて蓮華と名く、 一心を妙と知りぬれ
11 ば亦転じて 余心をも妙法と知る処を妙経とは云うなり、 然ればすなはち善悪に付いて起り起る処の念心の当体を
12 指して是れ妙法の体と説き宣べたる経王なれば 成仏の直道とは云うなり、 此の旨を深く信じて妙法蓮華経と唱へ
13 ば一生成仏更に疑あるべからず、 故に経文には「我が滅度の後に於て・応に斯の経を受持すべし・是の人仏道に於
14 て・決定して疑有る事無けん」とのべたり、 努努不審をなすべからず穴賢穴賢、 一生成仏の信心南無妙法蓮華経
15 南無妙法蓮華経。
16                                     日 蓮 花 押
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主師親御書    建長七年    三十四歳御作
01   釈迦仏は我等が為には主なり師なり親なり一人してすくひ護ると説き給へり、 阿弥陀仏は我等が為には主なら
02 ず親ならず師ならず、 然れば天台大師是を釈して曰く「西方は仏別にして縁異なり 仏別なるが故に隠顕の義成ぜ
03 ず縁異なるが故に子父の義成ぜず、 又此の経の首末に全く此の旨無し眼を閉じて 穿鑿せよ」と実なるかな釈迦仏
04 は中天竺の浄飯大王の太子として十九の御年・家を出で給いて檀特山と申す山に篭らせ給ひ、 高峯に登つては妻木
05 をとり深谷に下つては水を結び 難行苦行して御年三十と申せしに仏にならせ給いて一代聖教を説き給いしに、 上
06 には華厳・阿含・方等・般若等の種種の経経を説かせ給へども内心には法華経を説かばやと・おぼしめされしかども
07 衆生の機根まちまちにして一種ならざる間 仏の御心をば説き給はで人の心に随ひ万の経を説き給へり、 此くの如
08 く四十二年が程は心苦しく思食しかども今 法華経に至つて我が願既に満足しぬ 我が如くに衆生を仏になさんと説
09 き給へり、 久遠より已来或は鹿となり或は熊となり或時は鬼神の為に食われ給へり、 此くの如き功徳をば法華経
10 を信じたらん衆生は是れ真仏子とて 是実の我が子なり此の功徳を此の人に与へんと説き給へり、 是れ程に思食し
11 たる親の釈迦仏をば・ないがしろに思ひなして 唯以一大事と説き給へる法華経を信ぜざらん人は 争か仏になるべ
12 きや能く能く心を留めて案ずべし。
13   二の巻に云く「若し人信ぜずして・此の経を毀謗せば・即ち一切世間の仏種を断ず・乃至余経の一偈をも受けざ
14 れ」と文の心は仏にならん為には 唯法華経を受持せん事を願つて余経の一偈一句をも受けざれと、 三の巻に云く
15 「飢国より来つて忽ち大王の膳に遇うが如し」と 文の心は飢えたる国より来つて忽に大王の膳にあへり心は犬野干
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01 の心を致すとも迦葉・目連等の小乗の心をば起さざれ・破れたる石は合うとも 枯木に花はさくとも二乗は仏になる
02 べからずと仰せられしかば 須菩提は茫然として手の一鉢をなげ 迦葉は涕泣の声大千界を響すと申して歎き悲みし
03 が今法華経に至つて迦葉尊者は光明如来の記別を授かりしかば目連・ 須菩提・ 摩訶迦旃延等は是を見て我等も定
04 めて仏になるべし 飢えたる国より来つて忽に大王の膳にあへるが如しと喜びし文なり、 我等衆生・無始曠劫より
05 已来・妙法蓮華経の如意宝珠を 片時も相離れざれども・無明の酒にたぼらかされて衣の裏にかけたりと・しらずし
06 て少きを得て足りぬと思ひぬ、 南無妙法蓮華経とだに唱え奉りたらましかば 速に仏に成るべかりし衆生どもの五
07 戒・十善等のわずかなる戒を以て 或は天に生れて大梵天・帝釈の身と成つていみじき事と思ひ或時は人に生れて諸
08 の国王・大臣・公卿・殿上人等の身と成つて是れ程のたのしみなしと思ひ少きを得て 足りぬと思ひ悦びあへり、是
09 を仏は夢の中のさかへ・まぼろしの・たのしみなり唯法華経を持ち奉り速に仏になるべしと説き給へり、 又四の巻
10 に云く「而も此の経は如来の現在すら猶怨嫉多し況や滅度の後をや」云云。
11   釈迦仏は師子頬王の孫・浄飯王には嫡子なり 十善の位をすて五天竺第一なりし美女耶輸多羅女をふりすてて十
12 九の御年・出家して勤め行ひ給いしかば 三十の御年・成道し御坐して三十二相・八十種好の御形にて御幸なる時は
13 大梵天王・帝釈・左右に立ち多聞・持国等の四天王・先後囲繞せり、法を説き給ふ御時は四弁・八音の説法は祇園精
14 舎に満ち三智五眼の徳は四海にしけり、 然れば何れの人か仏を悪むべきなれども尚怨嫉するもの多し、まして滅度
15 の後・一毫の煩悩をも断ぜず 少しの罪をも弁へざらん法華経の行者を悪み 嫉む者多からん事は雲霞の如くならん
16 と見えたり、 然れば則ち・末代悪世に此の経を有りのままに説く人には 敵多からんと説かれて候に世間の人人我
17 も持ちたり我も読み奉り行じ候に 敵なきは仏の虚言か法華経の実ならざるか、 又実の御経ならば当世の人人・経
18 をよみまいらせ候は 虚よみか実の行者にてはなきか如何・能く能く心得べき事なり明むべき物なり、 四の巻に多
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01 宝如来は釈迦牟尼仏・御年三十にして仏に成り給ふに、 初には華厳経と申す経を 十方華王のみぎりにして別円頓
02 大の法輪・法慧・垢徳林・金剛幢・金剛蔵の四菩薩に対して三七日の間説き給いしにも来り給はず、其の二乗の機根
03 叶はざりしかば瓔珞細ナンの衣をぬぎすてソ弊垢膩の衣を著・波羅奈国・鹿野苑に趣いて十二年の間・生滅四諦の法
04 門を説き給ひしに阿若・倶鄰等の五人証果し八万の諸天は無生忍を得たり、 次に欲色二界の中間・大宝坊の儀式・
05 浄名の御室には三万二千の牀を立て般若・白鷺池の辺・十六会の儀式・染浄虚融の旨をのべ給いしにも来り給はず、
06 法華経にも一の巻乃至四の巻・人記品までも来り給はず宝塔品に至つて初めて来り給へり。
07   釈迦仏・先四十余年の経を我と虚事と仰せられしかば 人用うる事なく法華経を真実なりと説かせ給へども仏と
08 云うは無虚妄の人とて永く虚言し給はずと聞きしに 一日ならず二日ならず一月ならず二月ならず 一年二年ならず
09 四十余年の程まで虚言したり仰せられしかば 又此の経を実と説き給うも 虚言にやあらんずらんと 不審なししか
10 ば此の不審・釈迦仏一人しては 舎利弗を始め事はれがたかりしに此の多宝仏・宝浄世界よりはるばると来らせ給い
11 て法華経は皆是れ真実なりと証明し給いしに 先の四十余年の経を虚言と仰せらるる事実の虚言に定まるなり、 又
12 法華経より外の一切経を空に浮べて文文・句句・阿難尊者の如く覚り 富楼那の弁舌の如くに説くとも其れを難事と
13 せず、 又須弥山と申す山は十六万八千由旬の金山にて候を 他方世界へつぶてに・なぐる者ありとも難事には候は
14 じ、 仏の滅度の後・当世・末代悪世に法華経を有りのままに能く説かん是を難しとすと説かせ給へり、五天竺・第
15 一の大力なりし提婆達多も 長三丈五尺・広一丈二尺の石をこそ仏になげかけて候いしか 又漢土第一の大力楚の項
16 羽と申せし人も九石入の釜に水満ち候いしをこそひさげ候いしか 其れに是は須弥山をばなぐる者は有りとも 此の
17 経を説の如く読み奉らん人は 有りがたしと説かれて候に人ごとに此の経をよみ書き説き候、 経文を虚言に成して
18 当世の人人を皆法華経の行者と思ふべきか 能く能く御心得有るべき事なり、 五の巻提婆品に云く「若し善男子善
0388top
01 女人有りて妙法華経の提婆達多品を聞いて浄心に信敬して疑惑を生ぜざらん者は 地獄・餓鬼・畜生に堕せずして十
02 方の仏前に生ぜん」と、 此の品には二つの大事あり一には提婆達多と申すは阿難尊者には兄・斛飯王には嫡子・師
03 子頬王には孫・仏にはいとこにて有りしが 仏は一閻浮提第一の道心者にてましまししに 怨をなして我は又閻浮提
04 第一の邪見放逸の者とならんと誓つて 万の悪人を語いて仏に怨をなして三逆罪を作つて 現身に大地破れて無間大
05 城に堕ちて候いしを 天王如来と申す記別を授けらるる品にて候、 然れば善男子と申すは男此の経を信じまひらせ
06 て聴聞するならば 提婆達多程の悪人だにも仏になる、 まして末代の人はたとひ重罪なりとも多分は十悪をすぎず
07 まして深く持ち奉る人仏にならざるべきや、 二には娑竭羅竜王のむすめ竜女と申すは八歳のくちなは 仏に成りた
08 る品にて候此の事めづらしく貴き事にて候、 其の故は華厳経には「女人は地獄の使なり 能く仏種子を断ず外面は
09 菩薩に似て内心は夜叉の如し」と、 文の心は女人は地獄の使・よく仏の種をたつ 外面は菩薩に似たれども内心は
10 夜叉の如しと云へり、 又云く「一度女人を見る者はよく眼の功徳を失ふ設ひ大蛇をば見るとも 女人を見るべから
11 ず」と云い、 又有る経には「所有の三千界の男子の諸の煩悩を合せ集めて 一人の女人の業障と為す」と三千大千
12 世界にあらゆる男子の諸の煩悩を取り集めて 女人一人の罪とすと云へり、 或経には「三世の諸仏の眼は脱て大地
13 に堕つとも女人は仏に成るべからず」と説き給へり、 此の品の意は人畜をいはば 畜生たる竜女だにも仏に成れり
14 まして我等は形のごとく人間の果報なり、彼の果報にはまされり争か仏にならざるべきやと思食すべきなり。
15   中にも三悪道におちずと説かれて候 其の地獄と申すは八寒八熱乃至八大地獄の中に初め浅き等活地獄を尋ぬれ
16 ば此の一閻浮提の下一千由旬なり、 其の中の罪人は互に常に害心をいだけり もしたまたま相見れば猟師が鹿にあ
17 へるが如し各各鉄の爪を以て互につかみさく 血肉皆尽きて唯残つて骨のみあり 或は獄卒棒を以て頭よりあなうら
18 に至るまで皆打ちくだく 身も破れくだけて猶沙の如し、 焦熱なんど申すは譬えんかたなき苦なり鉄城四方に回つ
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01 て門を閉じたれば力士も開きがたく 猛火高くのぼつて金翅のつばさもかけるべからず、 餓鬼道と申すは其の住処
02 に二あり 一には地の下五百由旬の閻魔王宮にあり、 二には人天の中にもまじはれり其の相種種なり或は腹は大海
03 の如くのんどは鍼の如くなれば 明けても暮れても食すともあくべからず、 まして五百生・七百生なんど飲食の名
04 をだにもきかず或は己が頭をくだきて脳を食するもあり 或は一夜に五人の子を生んで夜の内に食するもあり、 万
05 菓林に結べり取らんとすれば 悉く剣の林となり万水大海に流入りぬ 飲んとすれば猛火となる如何にしてか此の苦
06 をまぬがるべき、 次に畜生道と申すは其の住所に二あり 根本は大海に住す枝末は人天に雑れり短き物は長き物に
07 のまれ小き物は大なる物に食はれ 互に相食んでしばらくもやすむ事なし、 或は鳥獣と生れ 或は牛馬と成つても
08 重き物をおほせられ 西へ行かんと思へば東へやられ 東へ行かんとすれば西へやらる山野に多くある水と草をのみ
09 思いて余は知るところなし、 然るに善男子・善女人・此の法華経を持ち南無妙法蓮華経と唱え奉らば此の三罪を脱
10 るべしと説き給へり 何事か是にしかん・たのもしきかな・たのもしきかな、 又五の巻に云く「我れ大乗教を闡い
11 て苦の衆生を度脱す」と心はわれ 大乗の教をひらいてと申すは 法華経を申す苦の衆生とは何ぞや 地獄の衆生に
12 もあらず 餓鬼道の衆生にもあらず 只女人を指して苦の衆生と名けたり、 五障三従と申して三つしたがふ事有つ
13 て五つの障りあり竜女我女人の身を受けて 女人の苦をつみしれり 然れば余をば知るべからず 女人を導かんと誓
14 へり、南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経。
15                                      日蓮 花押
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一代聖教大意    正嘉二年二月    三十七歳御作
01   四教は一には三蔵教・二には通教・三には別教・四には円教なり。
02   始に三蔵とは阿含経の意なり.此の経の意は六道より外を明さず但し六道地餓畜修人天の内の因果の道理を明す,
03 但し正報は十界を明すなり地.餓.畜.修・人.天・声聞・縁覚.菩薩.仏なり依報が六にて有れば六界と申すなり、此の
04 教の意は六道より外を明さざれば三界より外に浄土と申す生処ありと言わず又三世に仏は次第・次第に出世すとは云
05 へども横に十方に並べて仏有りとも云わず、三蔵とは一には経蔵亦云定蔵二には律蔵亦云戒蔵三には論蔵亦云慧蔵な
06 り但し経律論の定戒慧.戒定慧・慧定戒と云う事あるなり,戒蔵とは五戒.八戒.十善戒巻.二百五十戒・五百戒なり.定
07 蔵とは味禅定名・浄禅.無漏禅なり.巻慧蔵とは.苦.空.無常・無我の智慧なり,戒定慧の勝劣と云うは但上の戒計りを
08 つ者は三界の内の欲界の人天に生を受くる凡夫なり、但し上の定計りを修する人は 戒を持たざれども定の力に依つ
09 て上の戒を具するなり、此の定の内に味禅・浄禅は三界の内・色無色界へ生ず無漏禅は声聞・縁覚と成つて見思を断
10 じ尽し灰身滅智するなり、慧は又苦・空・無常・無我と我が色心を観ずれば上の戒・定を自然に具足して声聞・縁覚
11 とも成るなり、 故に戒より定は勝れ定より慧は勝れたり、而れども此の三蔵教の意は戒が本体にてあるなり、 さ
12 れば阿含経を総結する 遺教経には戒を説けるなり、 此の教の意は依報には六界・正報には十界を明せども而も依
13 報に随つて六界を明す経と名くるなり、 又正報に十界を明せども縁覚・菩薩・仏も声聞の悟に過ぎざれば但声聞教
14 とも申す、されば仏も菩薩も縁覚も灰身滅智する教なり、声聞に付いて七賢七聖の位あり、六道は凡夫なり。
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01                  ┌ 一に五 停 心 ┐
02              ┌三 賢┼ 二に別想念処 ┼外凡
03              │   └ 三に総想念処 ┘
04   七聖 智と言う事なり ┤   ┌ 一にナン 法 ┐
05              │   ├ 二に頂  法 ┼内凡 慧
06              └四善根┼ 三に忍  法 ┤
07                  └ 四に世第一法 ┘
08   此の七賢の位は六道の凡夫より賢く生死を厭ひ煩悩を具しながら煩悩を発さざる賢人なり、例せば外典の許由巣
09   父が如し。
10       ┌ 一に数息 息を数えて散乱を治す
11       ├ 二に不浄 身の不浄を観じて貪欲を治す
12   五 停 心┼ 三に慈悲 慈悲を観じて嫉妬を治す
13       ├ 四に因縁 十二因縁を観じて愚癡を治す
14       └ 五に界方便 地水火風空識の六界を観じて障道を治す又は念仏と云う
15       ┌ 一に身 外道は身を浄と言い仏は不浄と説き給う
16   別想念処┼  二に受 外道は三界を楽と言い仏は苦と説き給う
17       ├ 三に心 外道は心を常と言い仏は無常と説き給う
18       └ 四に法 外道は一切衆生に我有りと云い仏は無我と説き給う
0392top
01  外道は常心楽受我法浄身仏は苦.不浄.無常・無我と説く総想念処とは先の苦・不浄.無常.無我を調練して観ずるな
02 りナン法は智慧の火・煩悩の薪を蒸せば煙の立つなり故にナン法と云う、頂法は山の頂に登つて四方を見るに雲無き
03 が如し、世間出世間の因果の道理を委く知つて闇き事無きに譬えたるなり、 始め五停心より此の頂法に至るまで退
04 位と申して悪縁に値へば悪道に堕つ 而れども此の頂法の善根は失せずと習うなり、 忍法は此の位に入る人は永く
05 悪道に堕ちず、世第一法は此の位に至る賢人なり但今聖人と成る可きなり。
06                      ┌隋信行─鈍根
07             ┌ 一に見 道 二┴隋法行─利根
08             │        ┌信 解─鈍根
09  七聖三 正と言う事なり┼ 二に修 道 三┼見 得─利根
10             │        └身 証─利鈍に亘る
11             └ 三に無学道 二┬慧解脱─鈍根
12                阿羅漢   └倶解脱─利根
13   見・思の煩悩を断ずる者を聖と云う、此の聖人に三道あり,見道とは見・思の内の見惑を断じ尽くす,此の見惑を
14 尽くす人をば初果の聖者と申す、此の人は欲界の人・天には生るれども永く地・餓・畜・修の四悪趣には堕ちず、天
15 台云く「見惑を破るが故に四悪趣を離る」文、 此の人は未だ思惑を断ぜず貪・瞋・癡・有り、身に貪欲ある故に妻
16 を帯す、而れども他人の妻を犯さず、 瞋恚あれども物を殺さず、鋤を以て地をすけば虫・自然に四寸去る、愚癡な
17 る故に我が身・初果の聖者と知らず、婆娑論に云く「初果の聖者は妻を八十一度・一夜に犯すと」取意天台の解釈に
18 云く「初果地を耕すに虫四寸を離るるは道共の力なり」と、 第四果の聖者・阿羅漢を無学と云ひ亦は不生と云う、
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01 永く見思を断じ尽して 三界六道に此の生の尽きて後生ずべからず見思の煩悩無きが故なり、 又此の教の意は三界
02 六道より外に処を明さざれば 生処有りと知らず・身に煩悩有りとも知らず 又生因なく但灰身滅智と申して身も心
03 もうせ虚空の如く成るべしと習う、 法華経にあらずば永く仏になるべからずと云うは二乗是なり、 此の教の修行
04 の時節は声聞は三生鈍根六十劫利根又一類の最上利根の声聞一生の内に阿羅漢の位に登る事あり、縁覚は四生鈍根百
05 劫利根菩薩は一向凡夫にて見思を断ぜず而も四弘誓願を発し六度万行を修し三僧祇・百大劫を経て三蔵教の仏と成る
06 仏と成る時始めて見思を断尽するなり、見惑とは一には身見亦我見と云う二には辺見亦断見常見と云う三には邪見亦
                                              撥無見と云う四に
07 は見取見亦劣謂勝見と云う五には戒禁取見亦非因計因非道計道見と云うなり見惑は八十八有れども此の五が根本にて
                                               有るなり思惑と
08 は一には貪・二には瞋・三には癡・四には慢なり思惑は八十一有れども 此の四が根本にて有るなり、此の法門は阿
09 含経四十巻・婆沙論二百巻・正理論・顕宗論・倶舎論に具に明せり、別して倶舎宗と申す宗有り又諸の大乗に此の法
10 門少少明す事あり・謂く方等部の経・涅槃経等なり但し華厳・般若・法華には此の法門無し。
11   次に通教とは大乗の始なり又戒定慧の三学あり、此の教の意のおきて大旨は六道を出でず少分利根なる菩薩六道
12 より外に推し出すことあり、声聞.縁覚.菩薩.共に一の法門を習い見思を三人共に断じ而も声聞.縁覚・灰身滅智の意
13 に入る者もあり入らざる者もあり、此の教に十地あり。
14     ┌ 一 乾 慧 地─ 三 賢┬賢人
15     ├ 二 性  地─ 四菩薩┘
16     ├ 三 八 人 地┬ 見道位聖人
17     │       ├ 見惑を断ず
18     ├ 四 見  地┴ 初果の聖人
01   十地┼ 五 薄  地┐      0394top
02     ├ 六 離 欲 地┼ 思惑を断ず
03     ├ 七 巳 弁 地┴ 阿羅漢──見思を断じ尽す 
04     ├ 八 辟支仏地─ 習気を尽す
05     ├ 九 菩 薩 地─ 誓つて習を扶けて生ずるなり
06     └ 十 仏  地─ 見思を断じ尽す
07 此通教の法門は別して一経に限らず 方等経般若経心経観経阿弥陀経雙観経金剛般若等の経に散在せり、 此通教の
08 修行の時節は動踰塵劫を経て仏に成ると習うなり、 又一類の疾く成ると云う辺もあり・已上・上の蔵通二教には六
09 道の凡夫・本より仏性ありとも談ぜず始めて修すれば声聞・縁覚・菩薩・仏とおもひおもひに成ると談ずる教なり。
10   次に別教又戒定慧の三学を談ず此の教は但菩薩計りにて声聞縁覚を雑えず、 菩薩戒とは三聚浄戒なり五戒・八
11 戒.十善戒・二百五十戒・五百戒梵網の五十八の戒・瓔珞の十無尽戒・華厳の十戒・涅槃経の自行の五支戒.護佗の十
12 戒・大論の十戒・是等は皆菩薩の三聚浄戒の内・摂律儀戒なり、摂善法戒とは八万四千の法門を摂す、饒益有情戒と
13 は四弘誓願なり定とは 観練熏修の四種の禅定なり慧とは心生十界の法門なり、 五十二位を立つ五十二位とは一に
14 十信・二に十住・三に十行・四に十回向・五に十地等覚一位妙覚二位なり、已上五十二位。
15       ┌十 信┬退位
16       │   └凡夫菩薩の見思を断ぜず
17       ├十 住┬不退位
18   五十二位┼十 行┤
19       ├十回向┴見思塵沙を断ぜる菩薩
01       ├十 地┐     0395top
02       ├等 覚┴無明を断ぜる菩薩
03       └妙 覚─無明を断じ尽せる仏なり
04   此の教は大乗なり戒定慧を明す.戒は前の蔵通二教に似ず尽未来際の戒.金剛宝戒なり、此の教の菩薩は三悪道を
05 恐しとせず二乗道を恐る地・餓・畜等の三悪道は仏の種子を断ぜず 二乗の道は仏の種子を断ずればなり、大荘厳論
06 に云く「恒に地獄に処すと雖も 大菩提を障えず若し自利の心を起さば是れ大菩提の障なり」と、此の教の習は真の
07 悪道とは三無為の火キョウなり真の悪人とは二乗を云うなり、されば悪を造るとも二乗の戒をば持たじと談ず、故に
08 大般若経に云く「若し菩薩 設い恒河沙劫に妙なる五欲を受くるとも 菩薩戒に於ては猶犯と名けずと・若し一念二
09 乗の心を起さば即ち名けて犯と為す」文、此の文に妙なる五欲とは色.声・香・味・触の五欲なり.色欲とは青黛・珂
10 雪・白歯等声欲とは絲竹管絃.香欲とは沈檀芳薫・味欲とは猪鹿等の味.触欲とはナン膚等なり、此に恒河沙劫に著す
11 れども菩薩戒は破れず一念の二乗の心を起すに 菩薩戒は破ると云える文なり、 太賢の古迹に云く「貪に汚さるる
12 と雖も大心尽きざるをもつて無余の犯無し 起せども無犯と名く」文、 二乗戒に趣くを菩薩の破戒とは申すなり華
13 厳・般若・方等総じて爾前の経にはあながちに二乗をきらうなり 定慧此れを略す、梵網経に云く「戒をば謂いて大
14 地と為し定をば謂いて室宅と為す智慧は為灯明なり」文、此の菩薩戒は人・畜・黄門・二形の四種を嫌わず但一種の
15 菩薩戒を授く、 此の教の意は五十二位を一一の位に多倶低劫を経て 衆生界を尽して仏に成るべし一人として一生
16 に仏に成る者無し、 又一行を以て仏に成る事無し一切行を積んで仏と成る 微塵を積んで須弥山と成すが如し、華
17 厳.方等.般若.梵網.瓔珞等の経に此の旨分明なり、但し二乗界の此の戒を受くる事を嫌ふ、妙楽の釈に云く「アマネ
18 く法華已前の諸経を尋ぬるに実に二乗作仏の文無し」文
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01   次に円教とは此の円教に二有り一には爾前の円・二には法華・涅槃の円なり、爾前の円に五十二位・又戒定慧あ
02 り、爾前の円とは華厳経の法界唯心の法門・文に云く「初発心の時便ち正覚を成ずと」又云く「円満修多羅」文、浄
03 名経に云く「無我無造にして受者無けれども善悪の業敗亡せず」文、 般若経に云く「初発心より即ち道場に坐す」
04 文、観経に云く「韋提希時に応じて 即ち無生法忍を得」文、 梵網経に云く「衆生仏戒を受くれば位大覚に同じ即
05 ち諸仏の位に入り真に是れ諸仏の子なり」文、 此は皆爾前の円の証文なり、 此の教の意は又五十二位を明す名は
06 別教の五十二位の如し但し義はかはれり、 其の故は五十二位が互に具して浅深も無く勝劣も無し、 凡夫も位を経
07 ずとも仏にも成り又往生するなり、 煩悩も断ぜざれども仏に成る障り無く 一善一戒を以ても 仏に成る少少開会
08 の法門を説く処もあり、 所謂浄名経には凡夫を会し煩悩悪法も皆会す 但し二乗を会せず、般若経の中には二乗の
09 所学の法門をば開会して二乗の人と悪人をば開会せず、 観経等の経に凡夫一毫の煩悩をも断ぜず 往生すと説くは
10 皆爾前の円教の意なり、法華経の円経は後に至つて書く可し已上四教。
11   次に五時,五時とは一には華厳経結経梵網経別円二教を説く,二には阿含結経遺教経但三蔵教の小乗の法門を説く,
12 三には方等経宝積経.観経等の説時を知らざる権大乗経なり結経瓔珞経,但し蔵.通.別.円の四教を皆説く,四には般若
13 経結経仁王経通教.別教.円教の後三教を説く三蔵教を説かず、華厳経は三七日の間の説.阿含経は十二年の説.方等・
14 般若は三十年の説、 已上華厳より般若に至る四十二年なり、 山門の義には方等は説時定まらず説処定まらず般若
15 経三十年と申す、 寺門の義には方等十六年・般若十四年と申す、秘蔵の大事の義には方等般若は説時三十年・但し
16 方等は前・般若は後と申すなり、 仏は十九出家・三十成道と定むる事は大論に見えたり、一代聖教五十年と申す事
17 は涅槃経に見えたり、 法華経已前・四十二年と申す事は無量義経に見えたり、法華経・八箇年と申す事は涅槃経の
18 五十年の文と無量義経の四十二年の文の間を勘うれば八箇年なり、 已上十九出家・三十成道・五十年の転法輪・八
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01 十入滅と定む可し、 此等の四十二年の説教は皆法華経の汲引の方便なり、 其の故は無量義経に云く「我先に道場
02 菩提樹下に端坐すること六年 阿耨多羅三藐三菩提を成ずることを得たり○方便力を以てす、 四十余年には未だ真
03 実を顕さず初に四諦を説き阿含経なり次に方等十二部経摩訶般若華厳海空を説く」文。
04   私に云く説の次第に順ずれば華厳.阿含・方等.般若.法華.涅槃なり、法門の浅深の次第を列ぬれば阿含.方等.般
05 若・華厳・涅槃・法華と列ぬべし、されば法華経・涅槃経には爾くの如く見えたり華厳宗と申す宗は智厳法師・法蔵
06 法師・澄観法師等の人師.華厳経に依つて立てたり、倶舎宗・成実宗.律宗は宝法師・光法師・道宣等の人師・阿含経
07 に依つて立てたり、法相宗と申す宗は玄奘三蔵・慈恩法師等・方等部の内に上生経・下生経・成仏経・解深密経・瑜
08 伽論・唯識論等の経論に依つて立てたり、三論宗と申す宗は般若経・百論・中論・十二門論・大論等の経論に依つて
09 吉蔵大師立て給へり、 華厳宗と申すは華厳と法華涅槃は同じく円教と立つ余は皆劣と云うなる可し、 法相宗には
10 解深密経と華厳・般若.法華・涅槃は同じ程の経と云う、三論宗とは般若経と華厳.法華・涅槃は同じ程の経なり、但
11 し法相の依経・諸の小乗経は劣なりと立つ、 此等は皆法華已前の諸経に依つて立てたる宗なり、爾前の円を極とし
12 て立てたる宗どもなり、 宗宗の人人の諍は有れども経経に依つて勝劣を判ぜん時は いかにも法華経は勝れたるべ
13 きなり、人師の釈を以て勝劣を論ずる事無し。
14   五には法華経と申すは開経には無量義経一巻法華経八巻.結経には普賢経一巻上の四教.四時の経論を書き挙ぐる
15 事は此の法華経を知らん為なり、法華経の習としては前の諸経を習わずしては永く心を得ること莫きなり、 爾前の
16 諸経は一経・一経を習うに 又余経を沙汰せざれども苦しからず、 故に天台の御釈に云く「若し余経を弘むるには
17 教相を明さざれども義に於て傷むこと無し 若し法華を弘むるには教相を明さずんば文義闕くること有り」文、 法
18 華経に云く「種種の道を示すと雖も 其れ実には仏乗の為なり」文、 種種の道と申すは爾前一切の諸経なり仏乗の
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01 為とは法華経の為に一切の経を説くと申す文なり。
02   問う諸経の如きは或は菩薩の為或は人天の 為或は声聞・縁覚の為機に随つて法門もかわり益もかわる此の経は
03 何なる人の為ぞや、答う此の経は相伝に有らざれば知り難し所詮悪人.善人・有智.無智・有戒・無戒.男子・女子.四
04 趣・八部総じて十界の衆生の為なり、所謂悪人は提婆達多・妙荘厳王・阿闍世王善人は韋提希等の人天の人・有智は
05 舎利弗・無智は須利槃特・有戒は声聞.菩薩・無戒は竜・畜なり女人は竜女なり、総じて十界の衆生.円の一法を覚る
06 なり此の事を知らざる学者・法華経は我等凡夫の為には有らずと申す仏意恐れ有り、 此の経に云く「一切の菩薩の
07 阿耨多羅三藐三菩提は皆此の経に属せり」文、此の文の菩薩とは九界の衆生・善人.悪人.女人.男子.三蔵教の声聞・
08 縁覚・菩薩・通教の三乗・別教の菩薩・爾前の円教の菩薩・皆此の経の力に有らざれば仏に成るまじと申す文なり、
09 又此の経に云く「薬王多く 人有りて在家出家の菩薩の道を行ぜんに 若し是の法華経を見聞し読誦し書持し供養す
10 ることを得ること能わずんば当に知るべし 是の人は未だ善く菩薩の道を行ぜず、 若し是の経典を聞くことを得る
11 こと有らば乃ち能く菩薩の道を行ずるなりと」文、 此の文は顕然に権教の菩薩の 三祇・百劫・動踰塵劫・無量阿
12 僧祇劫の間の六度万行・四弘誓願は此の経に至らざれば 菩薩の行には有らず善根を修したるにも有らずと云う文な
13 り、又菩薩の行無ければ仏にも成らざる事も顕然なり。
14   天台妙楽の末代の凡夫を勧進する文,文句に云く「好堅.地に処して牙已に百囲せり頻伽カイコに在つて声衆鳥に
15 勝れたり」文、 此の文は法華経の五十展転の第五十の功徳を釈する文なり、仏苦に校量を説き給うに権教の多劫の
16 修行・又大聖の功徳よりも此の経の 須臾・結縁の愚人の随喜の功徳百千万億勝れたる事経に見えつれば此の意を大
17 師譬を以て顕し給えり、 好堅樹と申す木は一日に百囲にて高くをう、 頻伽と申す鳥は幼だも諸の大小の鳥の声に
18 勝れたり、 権教の修行の久きに諸の草木の遅く生長するを譬へ、 法華の行の速に仏に成る事を一日に百囲なるに
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01 譬へ、権教の大小の聖人をば諸鳥に譬へ法華の凡夫のはかなきをカイコの声の衆鳥に勝るるに譬う、妙楽大師重ねて
02 釈して云く「恐らくば人謬りて解せる者 初心の功徳の大なることを測らずして功を上位に推り此の初心を蔑る故に
03 今彼の行浅く 功深きことを示して以て経力を顕す」文、 末代の愚者は法華経は深理にして・いみじけれども我等
04 が下機に叶わずと言つて法を挙げ機を下して退する者を釈する文なり。
05   又妙楽大師末代に此の法の捨てられん事を歎いて云く 「此の円頓を聞きて崇重せざる者は良に近代に大乗を習
06 える者の雑濫するに由るが故なり、 況や像末に情澆く信心寡薄に円頓の教法・蔵に溢れ函に盈れども暫くも思惟せ
07 ず便ち目を瞑ぐに至る・徒に生じ 徒に死す一に何ぞ痛ましきや有る人云く 聞いて行ぜずんば汝に於て何ぞ預らん
08 此れは未だ深く久遠の益を知らず、 善住天子経の如き文殊舎利弗に告ぐ法を聞き謗を生じて 地獄に堕つるは恒沙
09 の仏を供養する者に勝れたり地獄に堕つと雖も 地獄より出でて還つて法を聞くことを得ると、 此れは仏を供し法
10 を聞かざる者を以て校量と為り聞いて謗を生ずる尚遠種と為す況や聞いて思惟し勤めて修習せんをや」と、 又云く
11 「一句も神に染ぬれば咸く彼岸を資く思惟修習永く舟航に用いたり随喜見聞恒に主伴と為る、若は取・若は捨・耳に
12 経て縁と成り或は順・或は違・終に斯れに因つて脱すと」文,私に云く若取.若捨.或順.或違の文は肝に銘ずるなり。
13   法華翻経の後記に云く釈僧肇記「羅什三蔵なり姚興王に対して曰く予昔天竺国に在りし時アマネく五竺に遊びて
14 大乗を尋討し大師須梨耶蘇摩に従つて理味を餐受するに頂を摩でて此の経を属累して言く、仏日西に隠れ遺光東北を
15 照らす茲の典東北諸国に有縁なり汝慎んで伝弘せよ」と文,私に云く天竺よりは此の日本は東北の州なり,慧心の一乗
16 要決に云く「日本一州・円機純熟・朝野遠近・同じく一乗に帰し緇素貴賎悉く成仏を期す・唯一師等あつて若し信受
17 せず権とや為ん実とや為ん権為らば責む可し」浄名に云く 「衆の魔事を覚知して其行に随わず 善力方便を以て意
18 に随つて度すと実為らば憐む可し」 此経に云く「当来世の悪人は仏説の一乗を聞いて 迷惑して信受せず法を破し
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01 て悪道に堕つ」文。
02   妙法蓮華経・妙は天台玄義に云く「言う所の妙とは妙は不可思議に名くるなり」と、又云く「秘密の奥蔵を発く
03 之を称して妙と為す」と、 又云く「妙とは最勝・修多羅・甘露の門なり 故に妙と言うなり」と、法は玄義に云く
04 「言う所の法とは十界十如・権実の法なり」、 又云く「権実の正軌を示す故に号して法と為す」と、 蓮華は玄義
05 に云く「蓮華とは権実の法に譬うるなり」、 又云く「久遠の本果を指す之を喩うるに蓮を以てし不二の円道に会す
06 之を譬うるに華を以てす」文、 経は又云く「声仏事を為す之を称して経と為す」文、 私に云く法華以前の諸経に
07 小乗は心生ずれば六界・心滅すれば四界なり、 通教以て是くの如し、爾前の別円の二教は心生の十界なり小乗の意
08 は六道四生の苦楽は衆生の心より生ずと習うなりされば 心滅すれば六道の因果は無きなり、 大乗の心は心より十
09 界を生ず、 華厳経に云く「心は工なる画師の如く種種の五陰を造る 一切世界の中に法として造らざること無し」
10 文、造種種五陰とは十界の五陰なり 仏界をも心法をも造ると習う・心が過去・現在・未来の十方の仏と顕ると習う
11 なり、 華厳経に云く「若し人三世一切の仏を了知せんと欲せば当に是くの如く観すべし 心は諸の如来を造ると」
12 法華已前の経のおきては 上品の十悪は地獄の引業・中品の十悪は餓鬼の引業・下品の十悪は畜生の引業・五常は修
13 羅の引業.三帰・五戒は人の引業.三帰・十善は六欲天の引業なり、有漏の坐禅は色界.無色界の引業・五戒.八戒・十
14 戒.十善戒.二百五十戒.五百戒の上に苦.空・無常.無我の観は声聞.縁覚の引業・五戒・八戒・乃至三聚浄戒の上に六
15 度・四弘の菩提心を発すは 菩薩なり仏界の引業なり、 蔵通二教には仏性の沙汰なし但菩薩の発心を仏性と云う、
16 別円二教には衆生に仏性を論ず 但し別教の意は二乗に仏性を論ぜず、 爾前の円教は別教に附して二乗の仏性の沙
17 汰無し此等は皆ソ法なり、 今の妙法とは此等の十界を互に具すと説く時・妙法と申す、 十界互具と申す事は十界
18 の内に一界に余の九界を具し 十界互に具すれば百法界なり、 玄の二に云く「又一法界に九法界を具すれば即ち百

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