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日蓮大聖人御書全集0901~1000
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01 を度す」云云、前前申す如く御心得あるべく候、穴賢穴賢。
02 弘安元年戊寅卯 月 日 日蓮花押
03 浄顕房
04 義浄房
別当御房御返事
01 聖密房のふみに・くはしく・かきて候よりあいて・きかせ給い候へ、なに事も二間清澄の事をば聖密房に申しあ
02 わせさせ給うべく候か、 世間のりをしりたる物に候へばかう申すに候、 これへの所当なんどの事は・ゆめゆめを
03 もはず候、 いくらほどの事に候べき、但なばかりにてこそ候はめ、又わせいつをの事をそれ入つて候、 いくほど
04 なき事に御心ぐるしく候らんと・かへりてなげき入つて候へども・我が恩をば・しりたりけりと・しらせまつらんた
05 めに候、 大名を計るものは小耻にはぢずと申して、 南無妙法蓮華経の七字を日本国にひろめ震旦高麗までも及ぶ
06 べきよしの大願をはらみて其の願の満すべきしるしにや、 大蒙古国の牒状しきりにありて 此の国の人ごとの大な
07 る歎きとみへ候、 日蓮又先きよりこの事をかんがへたり閻浮第一の高名なり、先きよりにくみぬるゆへに・ままこ
08 のかうみやうのやうに 専心とは用い候はねども・終に身のなげき極まり候時は 辺執のものどもも一定とかへぬと
09 みへて候、 これほどの大事をはらみて候ものの少事をあながちに申し候べきか、 但し当時・日蓮心ざす事は生処
10 なり日本国よりも大切にをもひ候、 例せば漢王の沛郡を・をもくをぼしめししがごとし・かれ生処なるゆへなり、
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01 聖智が跡の主となるをもつてしろしめせ、 日本国の山寺の主ともなるべし、 日蓮は閻浮第一の 法華経の行者な
02 り・天のあたへ給うべきことわりなるべし。
03 米一斗六升.あはの米二升・やき米はふくろへ・それのみならず人人の御心ざし申しつくしがたく候、これは.い
04 たみをもひ候、 これより後は心ぐるしく・をぼしめすべからず候、よく人人にしめすべからず候、 よく人人にも
05 つたへさせ給い候へ。
06 乃 時
07 別当御房御返事
寂日房御書 弘安二年九月 五十八歳御作 与寂日房日家 於身延
01 是まで御をとづれかたじけなく候、 夫れ人身をうくる事はまれなるなり、已にまれなる人身をうけたり又あひ
02 がたきは仏法・是も又あへり、 同じ仏法の中にも法華経の題目にあひたてまつる結句題目の行者となれり、 まこ
03 とにまことに過去十万億の諸仏を供養する者なり。
04 日蓮は日本第一の法華経の行者なりすでに勧持品の二十行の偈の文は日本国の中には日蓮一人よめり、 八十万
05 億那由佗の菩薩は口には宣たれども 修行したる人一人もなし、 かかる不思議の日蓮をうみ出だせし父母は日本国
06 の一切衆生の中には大果報の人なり、 父母となり其の子となるも必ず宿習なり、 若し日蓮が法華経・釈迦如来の
07 御使ならば父母あに其の故なからんや、例せば妙荘厳王・浄徳夫人・浄蔵・浄眼の如し、釈迦多宝の二仏・日蓮が父
08 母と変じ給うか、 然らずんば八十万億の菩薩の生れかわり給うか、 又上行菩薩等の四菩薩の中の垂迹か不思議に
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01 覚え候、一切の物にわたりて名の大切なるなり、さてこそ天台大師・五重玄義の初めに名玄義と釈し給へり。
02 日蓮となのる事自解仏乗とも云いつべし、 かやうに申せば利口げに聞えたれども道理のさすところさもやあら
03 ん、経に云く「日月の光明の能く諸の幽冥を除くが如く 斯の人世間に行じて 能く衆生の闇を滅す」と此の文の心
04 よくよく案じさせ給へ、 斯人行世間の五の文字は上行菩薩・末法の始の五百年に出現して南無妙法蓮華経の五字の
05 光明をさしいだして無明煩悩の闇をてらすべしと云う事なり、 日蓮は此の上行菩薩の御使として 日本国の一切衆
06 生に法華経をうけたもてと勧めしは是なり、 此の山にしてもをこたらず候なり、今の経文の次下に説いて云く「我
07 が滅度の後に於て応に此の経を受持すべし 是の人仏道に於て決定して疑い有ること無けん」と云云、 かかる者の
08 弟子檀那とならん人人は宿縁ふかしと思うて 日蓮と同じく法華経を弘むべきなり、 法華経の行者といはれぬる事
09 はや不祥なりまぬかれがたき身なり、 彼のはんくわいちやうりやうまさかどすみともといはれたる者は 名を・を
10 しむ故にはぢを思う故に・ついに臆したることはなし、 同じはぢなれども今生のはぢは・もののかずならず・ただ
11 後生のはぢこそ大切なれ、 獄卒・だつえば懸衣翁が三途河のはたにて・いしやうをはがん時を思食して法華経の道
12 場へまいり給うべし、法華経は後生のはぢをかくす衣なり、経に云く「裸者の衣を得たるが如し」云云。
13 此の御本尊こそ冥途のいしやうなれ・よくよく信じ給うべし、をとこのはだへをかくさざる女あるべしや・子の
14 さむさをあわれまざるをやあるべしや、 釈迦仏・法華経はめとをやとの如くましまし候ぞ、日蓮をたすけ給う事・
15 今生の恥をかくし給う人なり後生は又日蓮御身のはぢをかくし申すべし、 昨日は人の上・今日は我が身の上なり、
16 花さけばこのみなり・よめのしうとめになる事候ぞ、 信心をこたらずして南無妙法蓮華経と唱え給うべし、 度度
17 の御音信申しつくしがたく候ぞ、此の事寂日房くわしくかたり給へ。
18 九月十六日 日蓮花押
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新尼御前御返事 文永十二年二月 五十四歳御作
01 あまのり一ふくろ送り給び畢んぬ、 又大尼御前よりあまのり畏こまり入つて候、此の所をば身延の嶽と申す駿
02 河の国は南にあたりたり 彼の国の浮島がはらの海ぎはより 此の甲斐の国・波木井の郷・身延の嶺へは百余里に及
03 ぶ、余の道・千里よりもわづらはし、 富士河と申す日本第一のはやき河・北より南へ流れたり、此の河は東西は高
04 山なり谷深く左右は大石にして 高き屏風を立て並べたるがごとくなり、 河の水は筒の中に強兵が矢を射出したる
05 がごとし、 此の河の左右の岸をつたい或は河を渡り或時は河はやく 石多ければ舟破れて微塵となる、かかる所を
06 すぎゆきて身延の嶺と申す大山あり、 東は天子の嶺・南は鷹取りの嶺・西は七面の嶺・北は身延の嶺なり、高き屏
07 風を四ついたてたるがごとし、 峯に上つて・みれば草木森森たり谷に下つてたづぬれば大石連連たり、大狼の音・
08 山に充満し マ猴のなき谷にひびき鹿のつまをこうる音あはれしく 蝉のひびきかまびすし、春の花は夏にさき秋の
09 菓は冬になる、 たまたま見るものは・やまかつがたき木をひろうすがた時時とぶらう人は昔なれし同朋なり、 彼
10 の商山の四皓が世を脱れし心ち 竹林の七賢が跡を隠せし山もかくやありけむ、 峯に上つて・わかめやをいたると
11 見候へば・さにてはなくして・わらびのみ並び立ちたり、 谷に下つてあまのりや・をいたると尋ぬれば、あやまり
12 てや・みるらん・せりのみしげり・ふしたり、古郷の事はるかに思いわすれて候いつるに・今此のあまのりを見候い
13 てよしなき心をもひいでて・うくつらし、 かたうみいちかはこみなとの磯の・ほとりにて昔見しあまのりなり、色
14 形あぢわひもかはらず、など我が父母かはらせ給いけんと・かたちがへなる・うらめしさ・なみだをさへがたし。
15 此れは・さて・とどめ候いぬ、但大尼御前の御本尊の御事おほせつかはされて・おもひわづらひて候、其の故は
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01 此の御本尊は天竺より漢土へ渡り候いし・あまたの三蔵・漢土より月氏へ入り候いし人人の中にも しるしをかせ給
02 はず、 西域慈恩伝・伝燈録等の書どもを開き見候へば五天竺の諸国の寺寺の本尊・皆しるし尽して渡す、又漢土よ
03 り日本に渡る聖人日域より漢土へ入る賢者等のしるされて候、 寺寺の御本尊皆かんがへ尽し・日本国最初の寺・元
04 興寺・四天王寺等の無量の寺寺の日記、 日本紀と申すふみより始めて多くの日記にのこりなく註して候へば 其の
05 寺寺の御本尊又かくれなし、其の中に此の本尊は・あへてましまさず。
06 人疑つて云く経論になきか・なければこそ・そこばくの賢者等は画像にかき奉り木像にも・つくりたてまつらざ
07 るらめと云云、 而れども経文は眼前なり 御不審の人人は経文の有無をこそ尋ぬべけれ、 前代につくりかかぬを
08 難ぜんと・をもうは僻案なり、例せば釈迦仏は悲母・孝養のためにトウ利天に隠れさせ給いたりしをば一閻浮提の一
09 切の諸人しる事なし、 但目連尊者・一人此れをしれり此れ又仏の御力なりと云云、 仏法は眼前なれども機なけれ
10 ば顕れず時いたらざればひろまらざる事・法爾の道理なり、 例せば大海の潮の時に随つて増減し 上天の月の上下
11 にみちかくるがごとし。
12 今此の御本尊は教主釈尊・五百塵点劫より心中にをさめさせ給いて世に出現せさせ給いても四十余年・其の後又
13 法華経の中にも迹門はせすぎて 宝塔品より事をこりて寿量品に説き顕し神力品・属累に事極りて候いしが、 金色
14 世界の文殊師利・兜史多天宮の弥勒菩薩・補陀落山の観世音・日月浄明徳仏の御弟子の薬王菩薩等の諸大士・我も我
15 もと望み給いしかども叶はず、 是等は智慧いみじく才学ある人人とは ・ひびけども・いまだ法華経を学する日あ
16 さし学も始なり、 末代の大難忍びがたかるべし、 我五百塵点劫より大地の底にかくしをきたる真の弟子あり・此
17 れにゆづるべしとて、 上行菩薩等を涌出品に召し出させ給いて、 法華経の本門の肝心たる妙法蓮華経の五字をゆ
18 づらせ給いて、あなかしこ・あなかしこ・我が滅度の後・正法一千年・像法一千年に弘通すべからず、末法の始に謗
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01 法の法師一閻浮提に充満して 諸天いかりをなし彗星は一天にわたらせ大地は大波のごとくをどらむ、 大旱魃・大
02 火.大水・大風.大疫病・大飢饉.大兵乱等の無量の大災難並びをこり、一閻浮提の人人.各各・甲冑をきて弓杖を手に
03 にぎらむ時、 諸仏・諸菩薩・諸大善神等の御力の及ばせ給わざらん時、諸人皆死して無間地獄に堕ること雨のごと
04 く・しげからん時・此の五字の大曼荼羅を身に帯し心に存せば諸王は国を扶け万民は難をのがれん、 乃至後生の大
05 火炎を脱るべしと仏・記しをかせ給いぬ、而るに日蓮・上行菩薩には・あらねども・ほぼ兼てこれをしれるは彼の菩
06 薩の御計らいかと存じて此の二十余年が間此れを申す、 此の法門弘通せんには如来現在猶多怨嫉・況滅度後・一切
07 世間・多怨難信と申して第一のかたきは国主並びに郡郷等の地頭・領家・万民等なり、此れ又第二第三の僧侶が・う
08 つたへに・ついて行者を或は悪口し・或は罵詈し・或は刀杖等云云。
09 而るを安房の国・東条の郷は辺国なれども日本国の中心のごとし、其の故は天照太神・跡を垂れ給へり、昔は伊
10 勢の国に 跡を垂れさせ給いてこそありしかども、 国王は八幡・加茂等を御帰依深くありて天照太神の御帰依浅か
11 りしかば、太神・瞋りおぼせし時・源右将軍と申せし人・御起請文をもつて・あをかの小大夫に仰せつけて頂戴し・
12 伊勢の外宮にしのび・をさめしかば 太神の御心に叶はせ給いけるかの故に・日本を手ににぎる将軍となり給いぬ、
13 此の人東条の郡を天照太神の御栖と定めさせ給う、 されば此の太神は伊勢の国にはをはしまさず 安房の国東条の
14 郡にすませ給うか、 例えば八幡大菩薩は昔は西府にをはせしかども、中比は山城の国・男山に移り給い、 今は相
15 州・鎌倉・鶴が岡に栖み給うこれも・かくのごとし。
16 日蓮は一閻浮提の内・日本国・安房の国・東条の郡に始めて此の正法を弘通し始めたり、随つて地頭敵となる彼
17 の者すでに半分ほろびて今半分あり、 領家は・いつわりをろかにて或時は・信じ或時はやぶる不定なりしが日蓮御
18 勘気を蒙りし時すでに法華経をすて給いき、 日蓮先よりけさんのついでごとに難信難解と申せしはこれなり、 日
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01 蓮が重恩の人なれば 扶けたてまつらんために此の御本尊をわたし奉るならば 十羅刹定めて偏頗の法師と・をぼし
02 めされなん、又経文のごとく不信の人に・わたしまいらせずば日蓮・偏頗は・なけれども尼御前我が身のとがをば・
03 しらせ給はずして・うらみさせ給はんずらん、 此の由をば委細に助阿闍梨の文にかきて候ぞ召して 尼御前の見参
04 に入れさせ給うべく候。
05 御事にをいては御一味なるやうなれども御信心は色あらわれて候、 さどの国と申し此の国と申し度度の御志あ
06 りてたゆむ・けしきは・みへさせ給はねば御本尊は・わたしまいらせて候なり、それも終には・いかんがと・をそれ
07 思う事薄冰をふみ太刀に向うがごとし、 くはしくは又又申すべく候、それのみならず・かまくらにも御勘気の時・
08 千が九百九十九人は堕ちて候人人も ・いまは世間やわらぎ候かのゆへに・くゆる人人も候と申すげに候へども・此
09 れはそれには似るべくもなく・いかにも・ふびんには思いまいらせ候へども 骨に肉をば・かへぬ事にて候へば法華
10 経に相違せさせ給い候はん事を叶うまじき由いつまでも申し候べく候、恐恐謹言。
11 二月十六日 日蓮花押
12 新尼御前御返事
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大尼御前御返事
01 ごくそつえんま王の長は十丁ばかり面はすをさし・眼は日月のごとく・歯はまんぐわの・ねのやうに・くぶしは
02 大石のごとく・大地は舟を海にうかべたるやうに・うごき・声はらいのごとく・はたはたと・なりわたらむにはよも
03 南無妙法蓮華経とはをほせ候はじ、日蓮が弟子にもをはせず・よくよく内をしたためて・をほせを・かほり候はん、
04 なづきをわりみをせめて・いのりてみ候はん、たださきの・いのりと・をぼしめせ、これより後は・のちの事をよく
05 よく御かため候へ、恐恐。
06 九月二十日 日蓮在御判
07 大尼御前御返事
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種種御振舞御書 建治二年 五十五歳御作 与光日房 於身延
01 去ぬる文永五年後の正月十八日・西戎・大蒙古国より日本国ををそうべきよし牒状をわたす、日蓮が去ぬる文応
02 元年太歳庚申に勘えたりし立正安国論今すこしもたがわず符合しぬ、此の書は白楽天が楽府にも越へ仏の未来記にも
03 をとらず末代の不思議なに事かこれにすぎん、 賢王・聖主の御世ならば日本第一の権状にもをこなわれ 現身に大
04 師号もあるべし定めて御たづねありて いくさの僉義をもいゐあわせ 調伏なんども申しつけられぬらんと・をもひ
05 しに其の義なかりしかば 其の年の末十月に十一通の状をかきて・かたがたへをどろかし申す、国に賢人なんども・
06 あるならば不思議なる事かな・これはひとへにただ事にはあらず、 天照太神・正八幡宮の此の僧について日本国の
07 たすかるべき事を御計らいのあるかと・をもわるべきに・さはなくて 或は使を悪口し或はあざむき或はとりも入れ
08 ず或は返事もなし 或は返事をなせども上へも申さずこれひとへにただ事にはあらず、 設い日蓮が身の事なりとも
09 国主となりまつり事をなさん人人は取りつぎ申したらんには政道の法ぞかし、 いわうや・この事は上の御大事いで
10 きらむのみならず各各の身にあたりて・をほいなるなげき出来すべき事ぞかし、 而るを用うる事こそなくとも悪口
11 まではあまりなり、 此れひとへに日本国の上下万人・一人もなく法華経の強敵となりて としひさしくなりぬれば
12 大禍のつもり 大鬼神の各各の身に入る上へ蒙古国の牒状に正念をぬかれてくるうなり、 例せば殷の紂王・比干と
13 いゐし者いさめをなせしかば用いずして 胸をほり周の文・武王にほろぼされぬ、 呉王は伍子胥がいさめを用いず
14 自害をせさせしかば越王勾践の手にかかる、 これもかれがごとくなるべきかと・いよいよ・ふびんにをぼへて名を
15 もをしまず命をもすてて強盛に申しはりしかば 風大なれば波大なり竜大なれば雨たけきやうに・いよいよ・あだを
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01 なし・ますますにくみて御評定に僉議あり、 頚をはぬべきか鎌倉ををわるべきか弟子檀那等をば 所領あらん者は
02 所領を召して頚を切れ或はろうにてせめ・あるいは遠流すべし等云云。
03 日蓮悦んで云く本より存知の旨なり、 雪山童子は半偈のために身をなげ常啼菩薩は身をうり善財童子は火に入
04 り楽法梵士は皮をはぐ薬王菩薩は臂をやく 不軽菩薩は杖木をかうむり師子尊者は頭をはねられ 提婆菩薩は外道に
05 ころさる、 此等はいかなりける時ぞやと勘うれば天台大師は「時に適うのみ」とかかれ 章安大師は「取捨宜きを
06 得て一向にすべからず」としるされ、 法華経は一法なれども機にしたがひ時によりて其の行万差なるべし、 仏記
07 して云く「我が滅後・正像二千年すぎて 末法の始に 此の法華経の肝心題目の五字計りを弘めんもの出来すべし、
08 其の時悪王・悪比丘等・大地微塵より多くして或は大乗或は小乗等をもつて・きそはんほどに、 此の題目の行者に
09 せめられて在家の檀那等をかたらひて 或はのり或はうち或はろうに入れ或は所領を召し 或は流罪或は頚をはぬべ
10 し、 などいふとも退転なく・ひろむるほどならば・あだをなすものは国主は・どし打ちをはじめ餓鬼のごとく身を
11 くらひ後には他国よりせめらるべし、 これひとへに梵天・帝釈・日月・四天等の法華経の敵なる国を他国より責め
12 させ給うなるべし」ととかれて候ぞ、 各各我が弟子となのらん人人は一人もをくしをもはるべからず、 をやをを
13 もひ・めこををもひ所領をかへりみること・なかれ、無量劫より・このかた・をやこのため所領のために命すてたる
14 事は大地微塵よりも・をほし、 法華経のゆへには・いまだ一度もすてず、法華経をばそこばく行ぜしかども・かか
15 る事出来せしかば退転してやみにき、 譬えばゆをわかして水に入れ火を切るにとげざるがごとし、 各各思い切り
16 給へ此の身を法華経にかうるは石に金をかへ糞に米をかうるなり。
17 仏滅後.二千二百二十余年が間.迦葉.阿難等.馬鳴・竜樹等・南岳.天台等・妙楽・伝教等だにも.いまだひろめ給
18 わぬ法華経の肝心・諸仏の眼目たる妙法蓮華経の五字・末法の始に一閻浮提にひろまらせ給うべき瑞相に日蓮さきが
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01 けしたり、 わたうども二陣三陣つづきて迦葉・阿難にも勝ぐれ天台・伝教にもこへよかし、わづかの小島のぬしら
02 がをどさんを・をぢては閻魔王のせめをばいかんがすべき、仏の御使と・なのりながら・をくせんは無下の人人なり
03 と申しふくめぬ、さりし程に念仏者・持斎・真言師等・自身の智は及ばず訴状も叶わざれば上郎・尼ごぜんたちに・
04 とりつきて種種にかまへ申す、 故最明寺入道殿・極楽寺入道殿を無間地獄に堕ちたりと申し建長寺・寿福寺・極楽
05 寺・長楽寺・大仏寺等をやきはらへと申し道隆上人・良観上人等を頚をはねよと申す、 御評定になにとなくとも日
06 蓮が罪禍まぬかれがたし、 但し上件の事・一定申すかと召し出てたづねらるべしとて召し出だされぬ、 奉行人の
07 云く上のをほせ・かくのごとしと申せしかば・上件の事・一言もたがはず申す、但し最明寺殿・極楽寺殿を地獄とい
08 う事は・そらごとなり、此の法門は最明寺殿・極楽寺殿・御存生の時より申せし事なり。
09 詮ずるところ、 上件の事どもは此の国ををもひて申す事なれば世を安穏にたもたんと・をぼさば彼の法師ばら
10 を召し合せて・きこしめせ、 さなくして彼等にかわりて理不尽に失に行わるるほどならば国に後悔あるべし、 日
11 蓮・御勘気をかほらば仏の御使を用いぬになるべし、梵天・帝釈.日月.四天の御とがめありて遠流.死罪の後.百日・
12 一年・三年・七年が内に自界叛逆難とて此の御一門どしうちはじまるべし、 其の後は他国侵逼難とて四方より・こ
13 とには西方よりせめられさせ給うべし、 其の時後悔あるべしと平左衛門尉に申し付けしかども 太政入道のくるひ
14 しやうに・すこしもはばかる事なく物にくるう。
15 去文永八年太歳辛未九月十二日.御勘気をかほる、其の時の御勘気のやうも常ならず法にすぎてみゆ,了行が謀反
16 ををこし大夫の律師が世をみださんと・せしを・めしとられしにもこえたり、 平左衛門尉・大将として数百人の兵
17 者にどうまろきせて ゑぼうしかけして眼をいからし声をあらうす、 大体・事の心を案ずるに太政入道の世をとり
18 ながら国をやぶらんとせしににたり、 ただ事ともみへず、 日蓮これを見てをもうやう日ごろ月ごろ・をもひまう
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01 けたりつる事はこれなり、 さいわひなるかな 法華経のために身をすてん事よ、 くさきかうべをはなたれば沙に
02 金をかへ石に珠をあきなへるがごとし、 さて平左衛門尉が一の郎従・少輔房と申す者 はしりよりて日蓮が懐中せ
03 る法華経の第五の巻を取り出しておもてを 三度さいなみて・さんざんとうちちらす、 又九巻の法華経を兵者ども
04 打ちちらして・あるいは足にふみ・あるいは身にまとひ・あるいはいたじき・たたみ等・家の二三間にちらさぬ所も
05 なし、 日蓮・大高声を放ちて申すあらをもしろや平左衛門尉が・ものにくるうを見よ、とのばら但今日本国の柱を
06 たをすと・よばはりしかば上下万人あわてて見えし、日蓮こそ御勘気をかほれば・をくして見ゆべかりしに・さはな
07 くして.これはひがことなりとや・をもひけん、兵者どものいろこそ・へんじて見へしか、十日並びに十二日の間.真
08 言宗の失・禅宗・念仏等・良観が雨ふらさぬ事・つぶさに平左衛門尉に・いゐきかせてありしに或はどつとわらひ或
09 はいかりなんど・せし事どもはしげければ・しるさず、 せんずるところは六月十八日より七月四日まで良観が雨の
10 いのりして 日蓮に支へられてふらしかね・あせをながし・なんだのみ下して雨ふらざりし上・逆風ひまなくてあり
11 し事・三度まで・つかひをつかわして一丈のほりを・こへぬもの十丈・二十丈のほりを・こうべきか、いづみしきぶ
12 いろごのみの身にして 八斎戒にせいせるうたをよみて雨をふらし、 能因法師が破戒の身として・うたをよみて天
13 雨を下らせしに、 いかに二百五十戒の人人・百千人あつまりて 七日二七日せめさせ給うに雨の下らざる上に大風
14 は吹き候ぞ、 これをもつて存ぜさせ給へ各各の往生は叶うまじきぞとせめられて良観がなきし事・人人につきて讒
15 せし事・一一に申せしかば、平左衛門尉等かたうどし・かなへずして・つまりふしし事どもはしげければかかず。
16 さては十二日の夜・武蔵守殿のあづかりにて夜半に及び頚を切らんがために鎌倉をいでしに・わかみやこうぢに
17 うちいでて四方に兵のうちつつみて・ありしかども、 日蓮云く各各さわがせ給うなべちの事はなし、 八幡大菩薩
18 に最後に申すべき事ありとて 馬よりさしをりて高声に申すやう、 いかに八幡大菩薩はまことの神か 和気清丸が
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01 頚を刎られんとせし時は 長一丈の月と顕われさせ給い、 伝教大師の法華経をかうぜさせ給いし時はむらさきの袈
02 裟を御布施にさづけさせ給いき、 今日蓮は日本第一の法華経の行者なり其の上身に一分のあやまちなし、 日本国
03 の一切衆生の法華経を謗じて 無間大城におつべきを・たすけんがために申す法門なり、 又大蒙古国よりこの国を
04 せむるならば天照太神・正八幡とても安穏におはすべきか、其の上・釈迦仏・法華経を説き給いしかば多宝仏・十方
05 の諸仏・菩薩あつまりて 日と日と月と月と星と星と鏡と鏡とをならべたるがごとくなりし時、 無量の諸天並びに
06 天竺・漢土・日本国等の善神・聖人あつまりたりし時、各各・法華経の行者にをろかなるまじき由の誓状まいらせよ
07 と・せめられしかば一一に御誓状を立てられしぞかし、 さるにては日蓮が申すまでもなし・いそぎいそぎこそ誓状
08 の宿願をとげさせ給うべきに・いかに此の処には・をちあわせ給はぬぞと・たかだかと申す、さて最後には日蓮・今
09 夜・頚切られて霊山浄土へ・まいりてあらん時はまづ天照太神・正八幡こそ 起請を用いぬかみにて候いけれとさし
10 きりて教主釈尊に申し上げ候はんずるぞいたしと・おぼさば・いそぎいそぎ御計らいあるべしとて又馬にのりぬ。
11 ゆいのはまに.うちいでて御りやうのまへに・いたりて又云くしばし.とのばら・これにつぐべき人ありとて、中
12 務三郎左衛門尉と申す者のもとへ 熊王と申す童子を・つかわしたりしかば・いそぎいでぬ、今夜頚切られへ・まか
13 るなり、この数年が間・願いつる事これなり、此の娑婆世界にして・きじとなりし時は・たかにつかまれ・ねずみと
14 なりし時は・ねこにくらわれき、 或はめこのかたきに身を失いし事・大地微塵より多し、法華経の御ためには一度
15 だも失うことなし、 されば日蓮貧道の身と生れて父母の孝養・心にたらず国の恩を報ずべき力なし、 今度頚を法
16 華経に奉りて 其の功徳を父母に回向せん 其のあまりは弟子檀那等にはぶくべしと申せし事 これなりと申せしか
17 ば、左衛門尉・兄弟四人・馬の口にとりつきて・こしごへたつの口にゆきぬ、此にてぞ有らんずらんと・をもうとこ
18 ろに案にたがはず 兵士どもうちまはり・さわぎしかば、 左衛門尉申すやう只今なりとなく、 日蓮申すやう不か
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01 くのとのばらかな・これほどの悦びをば・わらへかし、いかに・やくそくをば・たがへらるるぞと申せし時、江のし
02 まのかたより月のごとく・ひかりたる物まりのやうにて辰巳のかたより戌亥のかたへ・ひかりわたる、 十二日の夜
03 のあけぐれ人の面も・みへざりしが物のひかり月よのやうにて人人の面もみなみゆ、 太刀取目くらみ・たふれ臥し
04 兵共おぢ怖れ・けうさめて一町計りはせのき、或は馬より・をりて・かしこまり 或は馬の上にて・うずくまれるも
05 あり、日蓮申すやう・いかにとのばら・かかる大禍ある召人にはとをのくぞ 近く打ちよれや打ちよれやと・たかだ
06 かと・よばわれども・いそぎよる人もなし、 さてよあけば・いかにいかに頚切べくはいそぎ切るべし夜明けなばみ
07 ぐるしかりなんと・すすめしかども・とかくのへんじもなし。
08 はるか計りありて云くさがみのえちと申すところへ入らせ給へと申す、 此れは道知る者なし・さきうちすべし
09 と申せどもうつ人もなかりしかば・さてやすらうほどに 或兵士の云く・それこそその道にて候へと申せしかば道に
10 まかせてゆく、 午の時計りにえちと申すところへ・ゆきつきたりしかば本間六郎左衛門がいへに入りぬ、 さけと
11 りよせて・もののふどもに・のませてありしかば各かへるとて・かうべをうなたれ手をあさへて申すやう、 このほ
12 どは・いかなる人にてや.をはすらん・我等がたのみて候・阿弥陀仏をそしらせ給うと.うけ給われば・にくみまいら
13 せて候いつるに・まのあたり をがみまいらせ候いつる事どもを見て候へば・たうとさに・としごろ申しつる念仏は
14 すて候いぬとて・ひうちぶくろよりすずとりいだして・すつる者あり、 今は念仏申さじと・せいじやうをたつる者
15 もあり、六郎左衛門が郎従等・番をばうけとりぬ、さえもんのじようも・かへりぬ。
16 其の日の戌の時計りにかまくらより上の御使とてたてぶみをもちて来ぬ、頚切れという・かさねたる御使かと・
17 もののふどもは・をもひてありし程に 六郎左衛門が代官右馬のじようと申す者・立ぶみもちて・はしり来りひざま
18 づひて申す、今夜にて候べし・あらあさましやと存じて候いつるに・かかる御悦びの御ふみ来りて候、 武蔵守殿は
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01 今日・卯の時にあたみの御ゆへ御出で候へば・いそぎ・あやなき事もやと・まづこれへはしりまいりて候と申す、か
02 まくらより御つかいは二時にはしりて候、 今夜の内にあたみの御ゆへ・はしりまいるべしとて・まかりいでぬ、追
03 状に云く此の人はとがなき人なり今しばらくありてゆるさせ給うべし・あやまちしては後悔あるべしと云云。
04 其の夜は十三日・兵士ども数十人.坊の辺り並びに大庭になみゐて候いき、九月十三日の夜なれば月・大に.はれ
05 てありしに夜中に大庭に立ち出でて月に向ひ奉りて・自我偈少少よみ奉り諸宗の勝劣・法華経の文のあらあら申して
06 抑 今の月天は 法華経の御座に列りまします名月天子ぞかし、 宝塔品にして仏勅をうけ給い 嘱累品にして仏に
07 頂を なでられまいらせ 「世尊の勅の如く 当に具に奉行すべし」と誓状をたてし 天ぞかし、 仏前の誓は日蓮
08 なくば虚くてこそをはすべけれ、 今かかる事出来せばいそぎ悦びをなして法華経の行者にも・かはり仏勅をも・は
09 たして誓言のしるしをばとげさせ給うべし、 いかに今しるしのなきは不思議に候ものかな、 何なる事も国になく
10 しては鎌倉へもかへらんとも思はず、 しるしこそなくとも・うれしがをにて澄渡らせ給うはいかに、 大集経には
11 「日月明を現ぜず」ととかれ、 仁王経には「日月度を失う」とかかれ、 最勝王経には「三十三天各瞋恨を生ず」
12 とこそ見え侍るに・いかに月天いかに月天とせめしかば、 其のしるしにや天より明星の如くなる 大星下りて前の
13 梅の木の枝に・かかりてありしかば・もののふども皆えんより・とびをり 或は大庭にひれふし或は家のうしろへに
14 げぬ、 やがて即ち天かきくもりて大風吹き来りて江の島のなるとて空のひびく事・大なるつづみを打つがごとし。
15 夜明れば十四日卯の時に 十郎入道と申すもの来りて云く・昨日の夜の戌の時計りにかうどのに大なるさわぎあ
16 り、 陰陽師を召して御うらなひ候へば申せしは 大に国みだれ候べし・此の御房御勘気のゆへなり、いそぎいそぎ
17 召しかえさずんば世の中いかが候べかるらんと申せば、 ゆりさせ給へ候と申す人もあり、 又百日の内に軍あるべ
18 しと申しつれば・それを待つべしとも申す、依智にして二十余日・其の間鎌倉に或は火をつくる事・七八度・或は人
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01 をころす事ひまなし、 讒言の者共の云く日蓮が弟子共の火をつくるなりと、 さもあるらんとて日蓮が弟子等を鎌
02 倉に置くべからずとて 二百六十余人しるさる、 皆遠島へ遣すべしろうにある弟子共をば 頚をはねらるべしと聞
03 ふ、さる程に火をつくる等は持斎念仏者が計事なり其の余はしげければかかず。
04 同十月十日に依智を立つて同十月二十八日に佐渡の国へ著ぬ、 十一月一日に六郎左衛門が家のうしろ塚原と申
05 す山野の中に洛陽の蓮台野のやうに 死人を捨つる所に一間四面なる堂の仏もなし、 上はいたまあはず四壁はあば
06 らに雪ふりつもりて消ゆる事なし、 かかる所にしきがは打ちしき蓑うちきて夜をあかし日をくらす、 夜は雪雹雷
07 電ひまなし昼は日の光もささせ給はず 心細かるべきすまゐなり、 彼の李陵が胡国に入りてがんくつにせめられし
08 法道三蔵の徽宗皇帝にせめられて面にかなやきをさされて 江南にはなたれしも只今とおぼゆ、 あらうれしや檀王
09 は阿私仙人にせめられて法華経の功徳を得給いき、 不軽菩薩は上慢の比丘等の杖にあたりて 一乗の行者といはれ
10 給ふ、今日蓮は末法に生れて妙法蓮華経の五字を弘めてかかるせめにあへり、 仏滅度後・二千二百余年が間・恐ら
11 くは天台智者大師も 一切世間多怨難信の経文をば行じ給はず数数見擯出の明文は但日蓮一人なり、 一句一偈・我
12 皆与授記は我なり阿耨多羅三藐三菩提は疑いなし、 相模守殿こそ善知識よ 平左衛門こそ提婆達多よ念仏者は瞿伽
13 利尊者・持斎等は善星比丘なり、 在世は今にあり今は在世なり、 法華経の肝心は諸法実相と・とかれて本末究竟等
14 とのべられて候は是なり、摩訶止観第五に云く「行解既に勤めぬれば三障・四魔・紛然として競い起る」文、又云く
15 「猪の金山を摺り衆流の海に入り 薪の火を熾にし風の求羅を益すが如きのみ」等云云、 釈の心は法華経を教のご
16 とく機に叶ひ時に叶うて解行すれば七つの大事出来す、 其の中に天子魔とて第六天の魔王 或は国主或は父母或は
17 妻子或は檀那或は悪人等について 或は随つて法華経の行をさえ或は違してさうべき事なり、 何れの経をも行ぜよ
18 仏法を行ずるには分分に随つて留難あるべし、 其の中に法華経を行ずるには強盛にさうべし、 法華経を・をしへ
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01 の如く時機に当つて行ずるには殊に難あるべし、 故に弘決の八に云く「若し衆生生死を出でず 仏乗を慕わずと知
02 れば魔・是の人に於て猶親の想を生す」等云云、釈の心は人・善根を修すれども念仏・真言・禅・律等の行をなして
03 法華経を行ぜざれば魔王親のおもひをなして 人間につきて其の人をもてなし供養す 世間の人に実の僧と思はせん
04 が為なり、 例せば国主のたとむ僧をば諸人供養するが如し、 されば国主等のかたきにするは既に正法を行ずるに
05 てあるなり、 釈迦如来の御ためには提婆達多こそ第一の善知識なれ、 今の世間を見るに人をよくなすものはかた
06 うどよりも強敵が人をば・よくなしけるなり、 眼前に見えたり此の鎌倉の御一門の御繁昌は 義盛と隠岐法皇まし
07 まさずんば争か日本の主となり給うべき、 されば此の人人は此の御一門の御ためには第一のかたうどなり、 日蓮
08 が仏にならん第一のかたうどは景信・法師には良観・道隆・道阿弥陀仏と平左衛門尉・守殿ましまさずんば争か法華
09 経の行者とはなるべきと悦ぶ。
10 かくて・すごす程に庭には雪つもりて・人もかよはず堂にはあらき風より外は・をとづるるものなし、眼には止
11 観・法華をさらし口には南無妙法蓮華経と唱へ 夜は月星に向ひ奉りて 諸宗の違目と法華経の深義を談ずる程に年
12 もかへりぬ、いづくも人の心のはかなさは佐渡の国の持斎・念仏者の唯阿弥陀仏・生喩房・印性房・慈道房等の数百
13 人より合いて僉議すと承る、聞ふる阿弥陀仏の大怨敵・一切衆生の悪知識の日蓮房・此の国にながされたり・なにと
14 なくとも此の国へ流されたる人の始終いけらるる事なし、 設ひいけらるるとも・かへる事なし、 又打ちころした
15 りとも御とがめなし、 塚原と云う所に只一人ありいかにがうなりとも力つよくとも人なき処なれば 集りていころ
16 せかしと云うものもありけり、 又なにとなくとも頚を切らるべかりけるが 守殿の御台所の御懐妊なれば・しばら
17 くきられず終には一定ときく、 又云く六郎左衛門尉殿に申してきらずんば・はからうべしと云う、 多くの義の中
18 に・これについて守護所に数百人集りぬ、 六郎左衛門尉云く上より殺しまうすまじき副状下りて あなづるべき流
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01 人にはあらず、 あやまちあるならば重連が大なる失なるべし、 それよりは只法門にてせめよかしと云いければ念
02 仏者等・或は浄土の三部経・或は止観・或は真言等を小法師等が頚にかけさせ 或はわきにはさませて正月十六日に
03 あつまる、佐渡の国のみならず越後.越中・出羽・奥州・信濃等の国国より集れる法師等なれば塚原の堂の大庭.山野
04 に数百人・六郎左衛門尉・兄弟一家さならぬもの百姓の入道等かずをしらず集りたり、 念仏者は口口に悪口をなし
05 真言師は面面に色を失ひ天台宗ぞ勝つべきよしを・ののしる、 在家の者どもは聞ふる阿弥陀仏のかたきよと・のの
06 しり.さわぎ・ひびく事・震動雷電の如し、日蓮は暫らく・さはがせて後・各各しづまらせ給へ.法門の御為にこそ御
07 渡りあるらめ悪口等よしなしと申せしかば・六郎左衛門を始めて諸人然るべしとて悪口せし 念仏者をば・そくびを
08 つきいだしぬ、さて止観・真言・念仏の法門一一にかれが申す様を・でつしあげて承伏せさせては・ちやうとはつめ
09 つめ・一言二言にはすぎず、鎌倉の真言師・禅宗・念仏者・天台の者よりも・はかなきものどもなれば只思ひやらせ
10 給へ、利剣をもて・うりをきり大風の草をなびかすが如し、 仏法のおろかなる・のみならず或は自語相違し或は経
11 文をわすれて論と云ひ 釈をわすれて論と云ふ、 善導が柳より落ち弘法大師の三鈷を投たる大日如来と現じたる等
12 をば或は妄語或は物にくるへる処を一一にせめたるに、 或は悪口し或は口を閉ぢ或は色を失ひ 或は念仏ひが事な
13 りけりと云うものもあり、或は当座に袈裟・平念珠をすてて念仏申すまじきよし誓状を立つる者もあり。
14 皆人立ち帰る程に六郎左衛門尉も立ち帰る一家の者も返る、 日蓮不思議一云はんと思いて六郎左衛門尉を大庭
15 よりよび返して云くいつか鎌倉へのぼり給うべき、 かれ答えて云く下人共に農せさせて七月の比と云云、 日蓮云
16 く弓箭とる者は・ををやけの御大事にあひて所領をも給わり候をこそ 田畠つくるとは申せ、 只今いくさのあらん
17 ずるに急ぎうちのぼり高名して所知を給らぬか、 さすがに和殿原はさがみの国には 名ある侍ぞかし、 田舎にて
18 田つくり・いくさに・はづれたらんは恥なるべしと申せしかば・いかにや思いけめあはててものもいはず、念仏者・
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01 持斎・在家の者どもも・なにと云う事ぞやと恠しむ。
02 さて皆帰りしかば去年の十一月より勘えたる開目抄と申す文二巻造りたり、 頚切るるならば日蓮が不思議とど
03 めんと思いて勘えたり、 此の文の心は日蓮によりて日本国の有無はあるべし、 譬へば宅に柱なければ・たもたず
04 人に魂なければ死人なり、 日蓮は日本の人の魂なり 平左衛門既に 日本の柱をたをしぬ、 只今世乱れてそれと
05 もなく・ゆめの如くに妄語出来して 此の御一門どしうちして後には他国よりせめらるべし、 例せば立正安国論に
06 委しきが如し、 かやうに書き付けて中務三郎左衛門尉が使にとらせぬ、 つきたる弟子等もあらぎかなと思へども
07 力及ばざりげにてある程に、 二月の十八日に島に船つく、鎌倉に軍あり京にもあり・そのやう申す計りなし、 六
08 郎左衛門尉・其の夜にはやふねをもつて一門相具してわたる日蓮にたな心を合せて・たすけさせ給へ、 去る正月十
09 六日の御言いかにやと此程疑い申しつるに・いくほどなく 三十日が内にあひ候いぬ、 又蒙古国も一定渡り候いな
10 ん、 念仏無間地獄も一定にてぞ候はんずらん永く念仏申し候まじと申せしかば、 いかに云うとも相模守殿等の用
11 ひ給はざらんには 日本国の人用うまじ用ゐずば国必ず亡ぶべし、 日蓮は幼若の者なれども法華経を弘むれば釈迦
12 仏の御使ぞかし、 わづかの天照太神・正八幡なんどと申すは此の国には重けれども梵釈・日月・四天に対すれば小
13 神ぞかし、 されども此の神人なんどをあやまちぬれば只の人を殺せるには七人半なんど申すぞかし、 太政入道・
14 隠岐法皇等のほろび給いしは是なり、 此れはそれにはにるべくもなし 教主釈尊の御使なれば天照太神・正八幡宮
15 も頭をかたぶけ手を合せて地に伏し給うべき事なり、 法華経の行者をば梵釈・左右に侍り日月・前後を照し給ふ、
16 かかる日蓮を用いぬるともあしくうやまはば国亡ぶべし、 何に況や数百人ににくませ二度まで流しぬ、 此の国の
17 亡びん事疑いなかるべけれども 且く禁をなして国をたすけ給へと日蓮がひかうればこそ 今までは安穏にありつれ
18 ども・はうに過ぐれば罰あたりぬるなり、又 此の度も用ひずば大蒙古国より打手を向けて日本国ほろぼさるべし、
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01 ただ平左衛門尉が好むわざわひなり、 和殿原とても此の島とても安穏なるまじきなりと申せしかば、 あさましげ
02 にて立帰りぬ、 さて在家の者ども申しけるは・此の御房は神通の人にてましますか・あらおそろし・おそろし、今
03 は念仏者をも・やしなひ持斎をも供養すまじ、 念仏者・良観が弟子の持斎等が云く此の御房は謀叛の内に入りたり
04 けるか、さて且くありて世間しづまる。
05 又念仏者集りて僉議す、 かうてあらんには我等かつえしぬべし・いかにもして此の法師を失はばや、既に国の
06 者も大体つきぬ・いかんがせん、念仏者の長者の唯阿弥陀仏・持斎の長者の性諭房・良観が弟子の道観等・鎌倉に走
07 り登りて武蔵守殿に申す、 此の御房・島に候ものならば堂塔一宇も候べからず僧一人も候まじ、 阿弥陀仏をば或
08 は火に入れ或は河にながす、 夜もひるも高き山に登りて日月に向つて大音声を放つて上を呪咀し奉る、其の音声・
09 一国に聞ふと申す、 武蔵前司殿・是をきき上へ申すまでもあるまじ、 先ず国中のもの日蓮房につくならば或は国
10 をおひ或はろうに入れよと私の下知を下す、 又下文下るかくの如く三度其の間の事申さざるに 心をもて計りぬべ
11 し、 或は其の前をとをれりと云うて・ろうに入れ 或は其の御房に物をまいらせけりと云うて国をおひ或は妻子を
12 とる、 かくの如くして上へ此の由を申されければ案に相違して 去る文永十一年二月十四日の御赦免の状・同三月
13 八日に島につきぬ、念仏者等・僉議して云く此れ程の阿弥陀仏の御敵・善導和尚・法然上人をのるほどの者が・たま
14 たま御勘気を蒙りて 此の島に放されたるを御赦免あるとていけて帰さんは心うき事なりと云うて、 やうやうの支
15 度ありしかども何なる事にや有りけん、 思はざるに順風吹き来りて島をば・たちしかばあはいあしければ百日・五
16 十日にもわたらず、 順風には三日なる所を須臾の間に渡りぬ、越後のこう・信濃の善光寺の念仏者・持斎・真言等
17 は雲集して僉議す、 島の法師原は今まで・いけてかへすは人かつたいなり、 我等はいかにも生身の阿弥陀仏の御
18 前をば・とをすまじと僉議せしかども、 又越後のこうより兵者ども・あまた日蓮にそひて善光寺をとをりしかば力
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01 及ばず、三月十三日に島を立ちて同三月二十六日に鎌倉へ打ち入りぬ。
02 同四月八日平左衛門尉に見参しぬ、さきには・にるべくもなく威儀を和らげて・ただしくする上・或る入道は念
03 仏をとふ・或る俗は真言をとふ・或る人は禅をとふ・平左衛門尉は 爾前得道の有無をとふ・一一に経文を引いて申
04 しぬ、 平の左衛門尉は上の御使の様にて大蒙古国はいつか渡り候べきと申す、 日蓮答えて云く今年は一定なりそ
05 れにとつては 日蓮已前より勘へ申すをば御用ひなし、 譬えば病の起りを知らざる人の病を治せば弥よ病は倍増す
06 べし、 真言師だにも調伏するならば 弥よ此の国軍にまくべし・穴賢穴賢、真言師・総じて当世の法師等をもつて
07 御祈り有るべからず・各各は仏法をしらせ給うておわさばこそ 申すともしらせ給はめ、 又何なる不思議にやある
08 らん他事には ・ことにして日蓮が申す事は御用いなし、 後に思い合せさせ奉らんが為に申す隠岐法皇は天子なり
09 権大夫殿は民ぞかし、 子の親をあだまんをば天照太神うけ給いなんや、 所従が主君を敵とせんをば正八幡は御用
10 いあるべしや、いかなりければ公家はまけ給いけるぞ、 此れは偏に只事にはあらず弘法大師の邪義・慈覚大師・智
11 証大師の僻見をまことと思いて叡山・東寺・園城寺の人人の鎌倉をあだみ給いしかば 還著於本人とて其の失還つて
12 公家はまけ給いぬ、 武家は其の事知らずして調伏も行はざればかちぬ 今又かくの如くなるべし、ゑぞは死生不知
13 のもの安藤五郎は因果の道理を弁えて堂塔多く造りし善人なり、いかにとして頚をば・ゑぞに・とられぬるぞ、 是
14 をもつて思うに此の御房たちだに御祈あらば入道殿・事にあひ給いぬと覚え候、あなかしこ・あなかしこ・さ・いは
15 ざりけると・おほせ候なと・したたかに申し付け候いぬ。
16 さてかへりききしかば同四月十日より阿弥陀堂法印に仰付られて 雨の御いのりあり、此の法印は東寺第一の智
17 人・をむろ等の御師.弘法大師・慈覚大師・智証大師の真言の秘法を鏡にかけ天台・華厳等の諸宗を.みな胸にうかべ
18 たり、 それに随いて十日よりの祈雨に十一日に大雨下りて 風ふかず雨しづかにて一日一夜ふりしかば・守殿御感
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01 のあまりに金三十両むまやうやうの御ひきで物ありと・きこふ、 鎌倉中の上下・万人・手をたたき口をすくめてわ
02 らうやうは日蓮ひが法門申して・すでに頚をきられんとせしが・とかうしてゆりたらば・さではなくして念仏・禅を
03 そしるのみならず、真言の密教なんどをも・そしるゆへに・かかる法のしるしめでたしと・ののしりしかば、日蓮が
04 弟子等けうさめて・これは御あら義と申せし程に・日蓮が申すやうはしばしまて 弘法大師の悪義まことにて国の御
05 いのりとなるべくば隠岐法皇こそ・いくさにかち給はめ、 をむろ最愛の児せいたかも頚をきられざるらん、 弘法
06 の法華経を華厳経にをとれりとかける状は 十住心論と申す文にあり、 寿量品の釈迦仏をば凡夫なりとしるされた
07 る文は秘蔵宝鑰に候、 天台大師をぬす人とかける状は二教論にあり、 一乗法華経をとける仏をば真言師のはきも
08 のとりにも及ばずとかける状は 正覚房が舎利講の式にあり、 かかる僻事を申す人の弟子・阿弥陀堂の法印が日蓮
09 にかつならば竜王は法華経のかたきなり、 梵釈・四王にせめられなん子細ぞあらんずらんと申せば、 弟子どもの
10 いはく・いかなる子細のあるべきぞとをこつきし程に、 日蓮云く善無畏も不空も雨のいのりに 雨はふりたりしか
11 ども大風吹きてありけるとみゆ、 弘法は三七日すぎて雨をふらしたり、 此等は雨ふらさぬがごとし、三七・二十
12 一日にふらぬ雨やあるべき 設いふりたりとも・なんの不思議かあるべき、 天台のごとく千観なんどのごとく一座
13 なんど.こそたうとけれ、此れは一定やうあるべしと・いゐもあはせず大風吹来る、大小の舎宅・堂塔・古木.御所等
14 を或は天に吹きのぼせ或は地に吹き入れ、 そらには大なる光り物とび地には棟梁みだれたり、人人をも・ふきころ
15 し牛馬ををくたふれぬ、 悪風なれども秋は時なれば・なをゆるすかたもあり此れは夏四月なり、其の上日本国には
16 ふかず但関東・八箇国なり八箇国にも武蔵・相模の両国なり両国の中には相州につよくふく、相州にも・かまくら・
17 かまくらにも御所・若宮・建長寺・極楽寺等につよくふけり、ただ事ともみへず・ひとへにこのいのりの・ゆへにや
18 と・おぼへて・わらひ口すくめせし人人も・けうさめてありし上我が弟子どももあら不思議やと舌をふるう。
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01 本よりごせし事なれば三度・国をいさめんに・もちゐずば国をさるべしと、されば同五月十二日にかまくらを・
02 いでて此の山に入る、 同十月に大蒙古国よせて壱岐・対馬の二箇国を打ち取らるるのみならず、 太宰府もやぶら
03 れて少弐入道・大友等ききにげににげ其の外の兵者ども其の事ともなく大体打たれぬ、 又今度よせくるならば・い
04 かにも此の国よはよはと見ゆるなり、 仁王経には「聖人去る時は七難必ず起る」等云云、 最勝王経に云く「悪人
05 を愛敬し善人を治罰するに由るが故に 乃至他方の怨賊来りて国人喪乱に遇わん」等云云、 仏説まことならば此の
06 国に一定悪人のあるを国主たつとませ給いて 善人をあだませ給うにや、 大集経に云く「日月明を現ぜず四方皆亢
07 旱す是くの如く不善業の悪王悪比丘我が正法を毀壊せん」云云、 仁王経に云く「諸の悪比丘多く名利を求め国王・
08 太子・王子の前に於て 自ら破仏法の因縁破国の因縁を説く、 其の王別えずして此の語を信聴せん是を破仏法破国
09 の因縁と為す」等云云、 法華経に云く「濁世の悪比丘」等云云、 経文まことならば此の国に一定・悪比丘のある
10 なり、夫れ宝山には曲林をきる大海には死骸をとどめず、 仏法の大海・一乗の宝山には五逆の瓦礫・四重の濁水を
11 ば入るれども誹謗の死骸と一闡提の曲林をば・をさめざるなり、 されば仏法を習わん人・後世をねがはん人は法華
12 誹謗をおそるべし。
13 皆人をぼするやうは・いかでか弘法・慈覚等をそしる人を用うべきと、他人は・さてをきぬ安房の国の東西の人
14 人は此の事を信ずべき事なり、 眼前の現証ありいのもりの円頓房・清澄の西尭房・道義房・かたうみの実智房等は
15 たうとかりし僧ぞかし、 此等の臨終はいかんがありけんと尋ぬべし、 これらはさてをきぬ、円智房は清澄の大堂
16 にして三箇年が間一字三礼の法華経を我とかきたてまつりて 十巻をそらにをぼへ、 五十年が間一日一夜に二部づ
17 つよまれしぞかし、 かれをば皆人は仏になるべしと云云、 日蓮こそ念仏者よりも道義房と円智房とは無間地獄の
18 底にをつべしと申したりしが 此の人人の御臨終はよく候いけるか・いかに、日蓮なくば此の人人をば 仏になりぬ
0924top
01 らんとこそおぼすべけれ、 これをもつて・しろしめせ弘法・慈覚等はあさましき事どもはあれども弟子ども隠せし
02 かば公家にもしらせ給はず末の代は・いよいよ・あをぐなり、 あらはす人なくば未来永劫までも・さであるべし、
03 拘留外道は八百年ありて水となり、迦毘羅外道は一千年すぎてこそ其の失はあらわれしか。
04 夫れ人身をうくる事は五戒の力による、 五戒を持てる者をば二十五の善神これをまほる上同生同名と申して二
05 つの天生れしよりこのかた左右のかたに守護するゆへに 失なくて鬼神あだむことなし、 しかるに此の国の無量の
06 諸人なげきを・なすのみならず、 ゆきつしまの両国の人・皆事にあひぬ太宰府又申すばかりなし、此の国はいかな
07 るとがのあるやらん・しらまほほしき事なり、一人・二人こそ失も・あるらめ・そこばくの人人いかん、これひとへ
08 に法華経をさぐる弘法・慈覚・智証等の末の真言師・善導・法然が末の弟子等・達磨等の人人の末の者ども国中に充
09 満せり、故に梵釈・四天等の法華経の座の誓状のごとく頭破作七分の失にあてらるるなり。
10 疑つて云く 法華経の行者をあだむ者は頭破作七分ととかれて候に・日蓮房をそしれども頭もわれぬは日蓮房は
11 法華経の行者にはあらざるかと申すは 道理なりとをぼへ候はいかん、 答えて云く日蓮を法華経の行者にてなしと
12 申さば法華経をなげすてよとかける法然等 ・無明の辺域としるせる弘法大師・理同事勝と宣たる善無畏・慈覚等が
13 法華経の行者にてあるべきか、 又頭破作七分と申す事はいかなる事ぞ刀をもてきるやうにわるるとしれるか、 経
14 文には如阿梨樹枝とこそとかれたれ、 人の頭に七滴あり七鬼神ありて一滴食へば頭をいたむ 三滴を食へば寿絶え
15 んとす七滴皆食えば死するなり、 今の世の人人は皆頭阿梨樹の枝のごとくに・われたれども悪業ふかくして・しら
16 ざるなり、 例せばてをおいたる人の或は酒にゑい或はねいりぬれば・をぼえざるが如し、又頭破作七分と申すは或
17 は心破作七分とも申して頂の皮の底にある骨のひびたふるなり、 死ぬる時は・わるる事もあり、 今の世の人人は
18 去ぬる正嘉の大地震・文永の大彗星に皆頭われて候なり、 其の頭のわれし時せひせひやみ・五臓の損ぜし時あかき
0925top
01 をやみしなり、これは法華経の行者をそしりしゆへにあたりし罰とはしらずや。
02 されば鹿は味ある故に人に殺され亀は油ある故に命を害せらる女人はみめ形よければ嫉む者多し、 国を治る者
03 は他国の恐れあり財有る者は命危し 法華経を持つ者は必ず成仏し候、 故に第六天の魔王と申す三界の主此の経を
04 持つ人をば強に嫉み候なり、 此の魔王疫病の神の目にも見えずして 人に付き候やうに 古酒に人の酔い候如く国
05 主父母妻子に付きて 法華経の行者を嫉むべしと見えて候、 少しも違わざるは当時の世にて候、日蓮は南無妙法蓮
06 華経と唱うる故に二十余年所を追はれ 二度まで御勘気を蒙り最後には此の山にこもる、 此の山の体たらくは西は
07 七面の山・東は天子のたけ北は身延の山・南は鷹取の山・四つの山高きこと天に付き・さがしきこと飛鳥もとびがた
08 し、中に四つの河あり所謂・富士河・早河・大白河・身延河なり、其の中に一町ばかり間の候に庵室を結びて候、昼
09 は日をみず夜は月を拝せず 冬は雪深く夏は草茂り問う人希なれば道をふみわくることかたし、 殊に今年は雪深く
10 して人問うことなし命を期として法華経計りをたのみ奉り候に 御音信ありがたく候、 しらず釈迦仏の御使か過去
11 の父母の御使かと申すばかりなく候、南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経。
0926top
光日房御書
01 去る文永八年太歳辛未九月のころより御勘気をかほりて北国の海中・佐渡の嶋に・はなたれたりしかば、なにと
02 なく相州・鎌倉に住しには生国なれば安房の国はこひしかりしかども 我が国ながらも人の心も・いかにとや・むつ
03 びにくくありしかば、常には・かよう事もなくして・すぎしに御勘気の身となりて死罪となるべかりしが、 しばら
04 く国の外に・はなたれし上は・をぼろげならではかまくらへはかへるべからず、 かへらずば又父母のはかをみる身
05 となりがたしと・をもひつづけしかば、いまさらとびたつばかり・くやしくて・などか・かかる身とならざりし時・
06 日にも月にも海もわたり山をも・こえて父母のはかをもみ・師匠のありやうをも・とひをとづれざりけんと・なげか
07 しくて、 彼の蘇武が胡国に入りて十九年かりの南へとびけるを・うらやみ、仲丸が日本国の朝使として・もろこし
08 にわたりてありしが ・かへされずしてとしを経しかば月の東に出でたるをみて、 我が国みかさの山にも此の月は
09 出でさせ給いて故里の人も只今・月に向いて・ながむらんと心をすましてけり、此れもかく・をもひやりし時・我が
10 国より或人のびんにつけて衣を・たびたりし時・彼の蘇武が・かりのあし此れは現に衣あり・にるべくもなく・心な
11 ぐさみて候しに、 日蓮は・させる失あるべしとは・をもはねども此の国のならひ念仏者と禅宗と律宗と真言宗にす
12 かされぬるゆへに法華経をば上には・たうとむよしを・ふるまい心には入らざるゆへに、 日蓮が法華経を・いみじ
13 きよし申せば威音王仏の末の末法に不軽菩薩を・にくみしごとく・上一人より下万人にいたるまで名をも・きかじ・
14 まして形をみる事はをもひよらず、されば・たとひ失なくとも・かくなさるる上は・ゆるしがたし、まして・いわう
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01 や日本国の人の父母よりも ・をもく日月よりも・たかくたのみ・たまへる念仏を無間の業と申し・禅宗は天魔の所
02 為・真言は亡国の邪法・念仏者・禅宗・律僧等が寺をばやきはらひ念仏者どもが頚をはねらるべしと申す上、故最明
03 寺 ・極楽寺の両入道殿を阿鼻地獄に堕ち給いたりと申すほどの大禍ある身なり、 此れ程の大事を上下万人に申し
04 つけられぬる上は設ひ・そらごとなりとも此の世にはうかびがたし、 いかにいわうや・これはみな朝夕に申し昼夜
05 に談ぜしうへ平左衛門尉等の数百人の奉行人に申しきかせ ・いかにとがに行わるとも申しやむまじきよし ・した
06 たかに・いゐきかせぬ、 されば大海のそこのちびきの石はうかぶとも天よりふる雨は地に・をちずとも日蓮はかま
07 くらへは還るべからず、 但し法華経のまことにおはしまし 日月我をすて給はずばかへり入りて 又父母のはかを
08 も.みるへんもありなんと心づよく・をもひて梵天・帝釈・日月・四天はいかになり給いぬるやらん、天照太神.正八
09 幡宮は此の国にをはせぬか、 仏前の御起請はむなしくて法華経の行者をばすて給うか、 もし此の事叶わずば日蓮
10 が身のなにともならん事は・をしからず、 各各現に・教主釈尊と多宝如来と十方の諸仏の御宝前にして誓状を立て
11 給いしが今日蓮を守護せずして捨て給うならば 正直捨方便の法華経に大妄語を加へ給へるか、 十方三世の諸仏を
12 たぼらかし奉れる御失は 提婆達多が大妄語にもこへ 瞿伽利尊者が虚誑罪にもまされたり設ひ大梵天として色界の
13 頂に居し千眼天といはれて 須弥の頂におはすとも日蓮をすて給うならば阿鼻の炎には ・たきぎとなり無間大城に
14 はいづるごおはせじ、此の罪をそろしと・おぼさばいそぎ・いそぎ国土にしるしを・いだし給え、本国へ・かへし給
15 へと高き山にのぼりて大音声を・はなちて・さけびしかば、九月の十二日に御勘気・十一月に謀反のもの・いできた
16 り、 かへる年の二月十一日に日本国のかためたるべき大将ども・よしなく打ちころされぬ、 天のせめという事あ
17 らはなり、此れにや・をどろかれけん弟子どもゆるされぬ。
18 而れども・いまだゆりざりしかば・いよいよ強盛に天に申せしかば頭の白き烏とび来りぬ、彼の燕のたむ太子の
0928top
01 馬烏のれい.日蔵上人の・山がらす・かしらもしろく・なりにけり、我がかへるべき・時やきぬらん.とながめし此れ
02 なりと申しもあへず、 文永十一年二月十四日の御赦免状・同三月八日に佐渡の国につきぬ・同十三日に国を立ちて
03 まうらというつにをりて十四日は・かのつにとどまり、 同じき十五日に越後の寺どまりのつに・つくべきが大風に
04 はなたれ・さいわひにふつかぢをすぎてかしはざきにつきて、 次の日はこうにつき・中十二日をへて三月二十六日
05 に鎌倉へ入りぬ、 同じき四月八日に平左衛門尉に見参す、 本より・ごせし事なれば日本国のほろびんを助けんが
06 ために三度いさめんに御用いなくば山林に・まじわるべきよし存ぜしゆへに同五月十二日に鎌倉をいでぬ。
07 但し本国にいたりて今一度.父母のはかをも・みんと・をもへども・にしきをきて故郷へは.かへれといふ事は内
08 外のをきてなり、 させる面目もなくして本国へ・いたりなば不孝の者にてや・あらんずらん、これほどのかたかり
09 し事だにも・やぶれて・かまくらへかへり入る身なれば又にしきを・きるへんもや・あらんずらん、其の時父母のは
10 かをもみよかしと・ふかくをもうゆへに・いまに生国へはいたらねども・さすがこひしくて吹く風・立つくもまでも
11 東のかたと申せば庵をいでて 身にふれ庭に立ちてみるなり、 かかる事なれば故郷の人は 設い心よせにおもはぬ
12 物なれども我が国の人といへば・なつかしくて・はんべるところに・此の御ふみを給びて心もあらずして・いそぎい
13 そぎひらきてみ候へば・をととしの六月の八日に いや四郎にをくれてと・かかれたり、御ふみも・ひらかざりつる
14 までは・うれしくて・ありつるが、今此のことばを・よみてこそ・なにしにかくいそぎひらきけん・うらしまが子の
15 はこなれや・あけてくやしきものかな、 我が国の事はうくつらく・あたりし人のすへまでも・をろかならずをもう
16 に.ことさら此の人は形も常の人には・すぎてみへ・うちをもひたるけしきも・かたくなにも.なしと見えしかども、
17 さすが法華経のみざなれば ・しらぬ人人あまたありしかば言もかけずありしに、 経はてさせ給いて皆人も立ちか
18 へる、 此の人も立ちかへりしが使を入れて申せしは安房の国の・あまつと申すところの者にて候が、 をさなくよ
0929top
01 り御心ざし・をもひまいらせて候上母にて候人も・をろかならず 申しなれなれしき申し事にて候へども・ひそかに
02 申すべき事の候、 さきざきまひりて次第になれまいらせてこそ申し入るべきに候へども・ゆみやとる人に・みやづ
03 かひて・ひま候はぬ上事きうになり候いぬる上は・をそれを・かへりみず申すと・こまごまときこえしかば、なにと
04 なく生国の人なる上そのあたりの事は・はばかるべきにあらずとて 入れたてまつりて・こまごまと・こしかたゆく
05 すへかたりてのちには 世間無常なりいつと申す事をしらず、 其の上武士に身をまかせたる身なり又ちかく申しか
06 けられて候事のがれがたし、 さるにては後生こそをそろしく候へ・たすけさせ給へと・きこへしかば経文をひいて
07 申しきかす、 彼のなげき申せしは父はさてをき候いぬ、 やもめにて候はわをさしをきて前に立ち候はん事こそ不
08 孝にをぼへ候へ、 もしやの事候ならば御弟子に申しつたへてたび候へと・ねんごろに・あつらへ候いしが、そのた
09 びは事ゆへなく候へけれども 後にむなしくなる事のいできたりて候いけるにや、 人間に生をうけたる人上下につ
10 けてうれへなき人はなけれども 時にあたり人人にしたがひて・なげき・しなじななり、譬へば病のならひは何の病
11 も重くなりぬれば是にすぎたる病なしと・をもうがごとし、 主のわかれ・をやのわかれ夫妻のわかれ・いづれか・
12 おろかなるべき・なれども主は又他の主もありぬべし、 夫妻は又かはりぬれば心をやすむる事もありなん、 をや
13 このわかれこそ月日のへだつるままに・いよいよ・なげきふかかりぬべくみへ候へ、 をやこのわかれにも・をやは
14 ゆきて・子は・とどまるは同じ無常なれども・ことはりにもや、をひたるはわは・とどまりて・わきき子のさきにた
15 つ・なさけなき事なれば神も仏もうらめしや、いかなれば・をやに子をかへさせ給いてさきには・たてさせ給はず・
16 とどめをかせ給いて・なげかさせ給うらんと心うし、 心なき畜生すら子のわかれしのびがたし、 竹林精舎の金鳥
17 は・かひこのために身をやき鹿野苑の鹿は胎内の子を・をしみて王の前にまいれり、 いかにいわうや心あらん人に
18 をいてをや、 されば王陵が母は子のためになつきをくだき、 神尭皇帝の后は胎内の太子の御ために腹をやぶらせ
0930top
01 給いき、此等を・をもひ・つづけさせ給はんには 火にも入り頭をもわりて我が子の形をみるべきならば・をしから
02 ずとこそ・おぼすらめとをもひやられて・なみだもとどまらず。
03 又御消息に云く人をも・ころしたりし者なればいかやうなる・ところにか生れて候らん・をほせをかほり候はん
04 と云云、 夫れ針は水にしずむ雨は空にとどまらず、 蟻子を殺せる者は地獄に入り死にかばねを切れる者は悪道を
05 まぬかれず、何に況や人身をうけたる者を・ころせる人をや、 但し大石も海にうかぶ船の力なり大火も・きゆる事
06 水の用にあらずや、 小罪なれども懺悔せざれば悪道をまぬがれず、 大逆なれども懺悔すれば罪きへぬ、所謂る粟
07 をつみたりし比丘は五百生が間・牛となる、マコモをつみし者は三悪道に堕ちにき,羅摩王.抜提王.毘楼真王.那ゴ沙
08 王.迦帝王・毘舎怯王・月光王・光明王・日光王・愛王.持多人王等の八万余人の諸王は皆父を殺して位につく、善知
09 識にあはざれば罪きへずして 阿鼻地獄に入りにき、 波羅奈城に悪人あり其の名をば阿逸多という 母をあひせし
10 ゆへに父を殺し妻とせり、 父が師の阿羅漢ありて教訓せしかば 阿らかむを殺す、 母又他の夫にとつぎしかば又
11 母をも殺しつ、 具に三逆罪をつくりしかば隣里の人うとみしかば、一身たもちがたくして祇オン精舎にゆいて出家
12 をもとめしに諸僧許さざりしかば 悪心強盛にして多くの僧坊をやきぬ、 然れども釈尊に値い奉りて出家をゆるし
13 給にき、 北天竺に城あり細石となづく彼の城に王あり竜印という、 父を殺してありしかども後に此れをおそれて
14 彼の国をすてて仏にまいりたりしかば仏・懺悔を許し給いき、 阿闍世王はひととなり三毒熾盛なり十悪ひまなし、
15 其の上父をころし母を害せんとし 提婆達多を師として無量の仏弟子を殺しぬ、 悪逆のつもりに二月十五日・仏の
16 御入滅の日にあたりて 無間地獄の先相に七処に悪瘡出生して玉体しづかならず、 大火の身をやくがごとく熱湯を
17 くみかくるが・ごとくなりしに・六大臣まいりて六師外道を召されて悪瘡を治すべきやう申しき、 今の日本国の人
18 人の禅師・律師・念仏者・真言師等を善知識とたのみて蒙古国を調伏し後生をたすからんとをもうがごとし、 其の
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01 上提婆達多は阿闍世王の本師なり、 外道の六万蔵仏法の八万蔵をそらにして 世間出世のあきらかなる事日月と明
02 鏡とに向うがごとし、 今の世の天台宗の碩学の顕密二道を胸にうかべ一切経をそらんぜしがごとし、 此れ等の人
03 人・諸の大臣・阿闍世王を教訓せしかば仏に帰依し奉る事なかりし程に 摩竭提に天変・度度かさなり地夭しきりな
04 る上.大風・大旱ばつ・飢饉・疫癘ひまなき上他国よりせめられて・すでに.かうとみえしに悪瘡すら身に出ししかば
05 国土一時にほろびぬとみえし程に俄に仏前にまいり懺悔して罪きえしなり。
06 これらは・さてをき候いぬ人のをやは悪人なれども子・善人なれば・をやの罪ゆるす事あり、又子悪人なれども
07 親善人なれば子の罪ゆるさるる事あり、 されば故弥四郎殿は設い悪人なりともうめる母 ・釈迦仏の御宝前にして
08 昼夜なげきとぶらはば争か彼人うかばざるべき、 いかに・いわうや彼の人は法華経を信じたりしかば・をやをみち
09 びく身とぞ・なられて候らん、 法華経を信ずる人はかまへて・かまへて法華経のかたきををそれさせ給へ、念仏者
10 と持斎と真言師と一切南無妙法蓮華経と申さざらん者をば いかに法華経をよむとも 法華経のかたきとしろしめす
11 べし、かたきをしらねば・かたきにたぼらかされ候ぞ、あはれあはれ・けさんに入りてくわしく申し候はばや、 又
12 これよりそれへわたり候三位房・佐度公等にたびごとに・このふみを・よませてきこしめすべし、 又この御文をば
13 明慧房にあづけさせ給うべし、 なにとなく我が智慧はたらぬ者が 或はをこづき或は此文をさいかくとしてそしり
14 候なり、或はよも此の御房は弘法大師にはまさらじ・よも慈覚大師にはこへじ・なんど人くらべをし候ぞかし、 か
15 く申す人をば・ものしらぬ者と・をぼすべし
16 建治二年丙太子歳三月 日 日 蓮 花 押
17 甲州南部波木井の郷山中
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光日上人御返事 弘安四年八月 六十歳御作
01 法華経二の巻に云く「其の人命終して阿鼻獄に入らん」云云、阿鼻地獄と申すは天竺の言・唐土・日本には無間
02 と申す無間はひまなしとかけり、 一百三十六の地獄の中に一百三十五はひま候、 十二時の中にあつけれども又す
03 ずしき事もありたへがたけれども 又ゆるくなる時もあり、 此の無間地獄と申すは十二時に一時かた時も大苦なら
04 ざる事はなし 故に無間地獄と申す、 此の地獄は此の我等が居て候大地の底 ・二万由旬をすぎて最下の処なり、
05 此れ世間の法にもかろき物は上に重き物は下にあり、 大地の上には水あり地よりも水かろし、 水の上には火あり
06 水よりも火かろし、 火の上に風あり火よりも風かろし、 風の上に空あり風よりも空かろし、人をも此の四大を以
07 て造れり悪人は風と火と先ず去り地と水と留まる 故に人死して後重きは地獄へ堕つる相なり、 善人は地と水と先
08 ず去り風火留る 重き物は去りぬ 軽き物は留まる故に軽し人天へ生まるる相なり、 地獄の相重きが中の重きは無
09 間地獄の相なり、 彼の無間地獄は縦横二万由旬なり八方は八万由旬なり、 彼の地獄に堕つる人人は一人の身大に
10 して八万由旬なり多人も又此くの如し、 身のやはらかなる事綿の如し 火のこわき事は大風の焼亡の如し鉄の火の
11 如し、 詮を取つて申さば我が身より火の出ずる事十三あり、 二の火あり足より出でて頂をとをる・又二の火あり
12 頂より出でて足をとほる ・又二の火あり背より入りて胸より出ず・又二の火あり胸より入りて背へ出ず・又二の火
13 あり左の脇より入りて右の脇へ出ず ・又二の火あり右の脇より入りて左の脇へ出ず・亦一の火あり首より下に向い
14 て雲の山を巻くが如くして下る、 此の地獄の罪人の身は枯れたる草を焼くが如し 東西南北に走れども 逃去所な
15 し、 他の苦は且らく之を置く大火の一苦なり 此の大地獄の大苦を仏委しく説き給うならば我等衆生聞いて皆死す
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01 べし故に仏委しくは説き給う事なしと見えて候。
02 今日本国の四十五億八万九千六百五十八人の人人は皆此の地獄へ堕ちさせ給うべし、 されども一人として堕つ
03 べしとはおぼさず、 例せば此の弘安四年五月以前には 日本の上下万人一人も蒙古の責めにあふべしともおぼさざ
04 りしを日本国に 只日蓮一人計りかかる事・此の国に出来すべしとしる、 其の時日本国の四十五億八万九千六百五
05 十八人の一切衆生 ・一人もなく他国に責められさせ給いて、 其の大苦は譬へばほうろくと申す釜に水を入れてざ
06 つこと申す小魚をあまた入れて枯れたるしば木をたかむが如くなるべしと申せば、 あらおそろし・いまいまし・打
07 ちはれ所を追へ 流せ殺せ信ぜん人人をば田はたを・とれ財を奪へ所領をめせと申せしかども、 此の五月よりは大
08 蒙古の責めに値いてあきれ迷ふ程に さもやと思う人人もあるやらん、 にがにがしうして・せめたくはなけれども
09 有る事なればあたりたり・あたりたり、日蓮が申せし事はあたりたり・ばけ物のもの申す様にこそ候めれ。
10 去る承久の合戦に隠岐の法皇の御前にして 京の二位殿なんどと申せし何もしらぬ女房等の集りて王を勧め奉り
11 戦を起して義時に責められ・あはて給いしが如し、 今今御覧ぜよ法華経誹謗の科と云ひ 日蓮をいやしみし罰と申
12 し経と仏と僧との三宝誹謗の大科によつて 現生には此の国に修羅道を移し後生には無間地獄へ行き給うべし、 此
13 れ又偏に弘法・慈覚・智証等の三大師の法華経誹謗の科と達磨・善導・律僧等の一乗誹謗の科と此れ等の人人を結構
14 せさせ給う国主の科と、 国を思ひ生処を忍びて兼て勘へ告げ示すを用いずして還つて怨をなす大科、 先例を思へ
15 ば呉王・夫差の伍子胥が諌を用いずして越王・勾践にほろぼされ、 殷の紂王が比干が言をあなづりて周の武王に責
16 められしが如し。
17 而るに光日尼御前はいかなる宿習にて法華経をば御信用ありけるぞ、 又故弥四郎殿が信じて候しかば子の勧め
18 か此の功徳空しからざれば 子と倶に霊山浄土へ参り合せ給わん事疑いなかるべし、 烏竜と云いし者は法華経を謗
0934top
01 じて地獄に堕ちたりしかども其の子に遺竜と云いし者 ・法華経を書きて供養せしかば親・仏に成りぬ、 又妙荘厳
02 王は悪王なりしかども御子の浄蔵・浄眼に導かれて娑羅樹王仏と成らせ給う、 其の故は子の肉は母の肉・母の骨は
03 子の骨なり、 松栄れば柏悦ぶ芝かるれば蘭なく 情無き草木すら友の喜び友の歎き一つなり、何に況や親と子との
04 契り胎内に宿して九月を経て生み落し数年まで養ひき、 彼にになはれ彼にとぶらはれんと思いしに 彼をとぶらふ
05 うらめしさ、 彼如何があらんと思うこころぐるしさ・いかにせん・いかにせん、 子を思う金鳥は火の中に入りに
06 き、 子を思いし貧女は恒河に沈みき、 彼の金鳥は今の弥勒菩薩なり彼の河に沈みし女人は大梵天王と生まれ給え
07 り、 何に況や今の光日上人は子を思うあまりに法華経の行者と成り給ふ、 母と子と倶に霊山浄土へ参り給うべし
08 、其の時御対面いかにうれしかるべき・いかにうれしかるべき、恐恐。
09 八月八日 日蓮花押
10 光日上人御返事
光日尼御返事
01 なきなをながさせ給うにや、三つのつなは今生に切れぬ五つのさわりはすでにはれぬらむ、 心の月くもりなく
02 身のあかきへはてぬ、 即身の仏なり・たうとし・たうとし、くはしく申すべく候へども・あまりふみををくかき候
03 ときに・かきたりて候ぞ恐恐謹言。
04 九月十九日 日蓮在御判
05 光日尼ごぜん御返事
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四恩抄 弘長二年正月十六日 四十一歳御作 与工藤左近尉吉隆 於伊豆伊東
01 抑此の流罪の身になりて候につけて二つの大事あり、 一には大なる悦びあり 其の故は此の世界をば娑婆と名
02 く娑婆と申すは忍と申す事なり・故に仏をば能忍と名けたてまつる、 此の娑婆世界の内に百億の須弥山・百億の日
03 月・百億の四州あり、其の中の中央の須弥山・日月・四州に仏は世に出でまします、此の日本国は其の仏の世に出で
04 まします国よりは丑寅の角にあたりたる小島なり 、此の娑婆世界より外の十方の国土は 皆浄土にて候へば人の心
05 もやはらかに賢聖をのり悪む事も候はず、此の国土は十方の浄土にすてはてられて候・十悪・五逆・誹謗賢聖・不孝
06 父母・不敬沙門等の科の衆生が三悪道に堕ちて 無量劫を経て還つて此の世界に生れて候が、先生の悪業の習気失せ
07 ずしてややもすれば十悪・五逆を作り賢聖をのり・父母に孝せず沙門をも敬はず候なり、故に釈迦如来・世に出でま
08 しませしかば或は毒薬を食に雑て奉り或は刀杖・悪象・師子・悪牛・悪狗等の方便を以て害し奉らんとし・或は女人
09 を犯すと云い・或は卑賎の者・或は殺生の者と云い、或は行き合い奉る時は面を覆うて眼に見奉らじとし、 或は戸
10 を閉じ窓を塞ぎ、 或は国王大臣の諸人に向つては邪見の者なり高き人を罵者なんど申せしなり、大集経・涅槃経等
11 に見えたり、 させる失も仏には・おはしまさざりしかども只此の国のくせ・かたわとして悪業の衆生が生れ集りて
12 候上、 第六天の魔王が此の国の衆生を他の浄土へ出さじと・たばかりを成して・かく事にふれて・ひがめる事をな
13 すなり、 此のたばかりも詮する所は仏に法華経を説かせまいらせじ料と見えて候、 其の故は魔王の習として三悪
14 道の業を作る者をば悦び三善道の業を作る者をば・なげく、 又三善道の業を作る者をば・いたうなげかず三乗とな
15 らんとする者をば・いたうなげく、 又三乗となる者をば・いたうなげかず仏となる業をなす者をば 強になげき事
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01 にふれて障をなす、 法華経は一文・一句なれども耳にふるる者は既に仏になるべきと思ひて、 いたう第六天の魔
02 王もなげき思う故に 方便をまはして留難をなし 経を信ずる心をすてしめんと・たばかる、而るに仏の在世の時は
03 濁世なりといへども五濁と始たりし上 仏の御力をも恐れ人の貪・瞋・癡・邪見も強盛ならざりし時だにも竹杖外道
04 は神通第一の目連尊者を殺し、 阿闍世王は悪象を放て三界の独尊ををどし奉り、 提婆達多は証果の阿羅漢・蓮華
05 比丘尼を害し、 瞿伽利尊者は智慧第一の舎利弗に悪名を立てき、 何に況や世漸く五濁の盛になりて候をや、況や
06 世末代に入りて法華経をかりそめにも信ぜん者の人に・そねみ・ねたまれん事は・おびただしかるべきか、 故に法
07 華経に云く「如来の現在にすら猶怨嫉多し 況や滅度の後をや」と云云、 始に此の文を見候いし時は・さしもやと
08 思い候いしに今こそ仏の御言は違はざりけるものかなと殊に身に当つて思ひ知れて候へ。
09 日蓮は身に戒行なく心に三毒を離れざれども 此の御経を若しや我も信を取り人にも縁を結ばしむるかと思うて
10 随分世間の事おだやか・ならんと思いき、 世末になりて候へば妻子を帯して候・比丘も人の帰依をうけ魚鳥を服す
11 る僧もさてこそ候か、 日蓮はさせる妻子をも帯せず魚鳥をも服せず 只法華経を弘めんとする失によりて妻子を帯
12 せずして犯僧の名四海に満ち 螻蟻をも殺さざれども悪名一天に弥れり、 恐くは在世に釈尊を諸の外道が毀り奉り
13 しに似たり、 是れ偏に法華経を信ずることの余人よりも 少し経文の如く信をも・むけたる故に悪鬼其の身に入つ
14 て・そねみを・なすかとをぼえ候へば是れ程の卑賎・無智・無戒の者の二千余年已前に説かれて候・法華経の文にの
15 せられて留難に値うべしと 仏記しをかれ・まいらせて候事のうれしさ申し尽くし難く候、 此の身に学文つかまつ
16 りし事やうやく二十四五年にまかりなるなり、 法華経を殊に信じまいらせ候いし事は わづかに此の六七年よりこ
17 のかたなり、 又信じて候いしかども懈怠の身たる上 或は学文と云ひ或は世間の事にさえられて一日にわづかに一
18 巻・一品・題目計なり、 去年の五月十二日より今年正月十六日に至るまで二百四十余日の程は昼夜十二時に法華経
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01 を修行し奉ると存じ候、 其の故は法華経の故にかかる身となりて候へば 行住坐臥に法華経を読み行ずるにてこそ
02 候へ、人間に生を受けて是れ程の悦びは何事か候べき。
03 凡夫の習い我とはげみて菩提心を発して後生を願うといへども自ら思ひ出し十二時の間に一時・二時こそは・は
04 げみ候へ、 是は思ひ出さぬにも御経をよみ読まざるにも法華経を行ずるにて候か、無量劫の間・六道・四生を輪回
05 し候いけるには或は謀叛をおこし強盗・夜打等の罪にてこそ国主より禁をも蒙り流罪・死罪にも行はれ候らめ、 是
06 は法華経を弘むるかと思う心の強盛なりしに依つて 悪業の衆生に讒言せられて・かかる身になりて候へば 定て後
07 生の勤には・なりなんと覚え候、 是れ程の心ならぬ昼夜十二時の法華経の持経者は末代には有がたくこそ候らめ、
08 又止事なくめでたき事侍り無量劫の間六道に回り候けるには 多くの国主に生れ値ひ奉りて 或は寵愛の大臣・関白
09 等ともなり候けん、 若し爾らば国を給り財宝・官禄の恩を蒙けるか・法華経流布の国主に値ひ奉り其の国にて法華
10 経の御名を聞いて修行し 是を行じて讒言を蒙り流罪に行われまいらせて候 国主には未だ値いまいらせ候はぬか、
11 法華経に云く「是の法華経は無量の国中に於て 乃至名字をも聞くことを得べからず 何に況んや見ることを得て受
12 持し読誦せんをや」と云云、されば此の讒言の人・国主こそ我が身には恩深き人には・をわしまし候らめ。
13 仏法を習う身には必ず四恩を報ずべきに候か、四恩とは心地観経に云く一には一切衆生の恩、 一切衆生なくば
14 衆生無辺誓願度の願を発し難し、 又悪人無くして菩薩に留難をなさずばいかでか功徳をば増長せしめ候べき、 二
15 には父母の恩、六道に生を受くるに必ず父母あり、其の中に或は殺盗・悪律儀・謗法の家に生れぬれば我と其の科を
16 犯さざれども其の業を成就す、 然るに今生の父母は我を生みて法華経を信ずる身となせり、梵天・帝釈・四大天王
17 転輪聖王の家に生まれて三界・四天をゆづられて人天・四衆に恭敬せられんよりも 恩重きは今の某が父母なるか、
18 三には国王の恩、 天の三光に身をあたため 地の五穀に神を養ふこと 皆是れ国王の恩なり、其の上今度・法華経
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01 を信じ今度・生死を離るべき国主に値い奉れり、 争か少分の怨に依つておろかに思ひ奉るべきや、 四には三宝の
02 恩、 釈迦如来・無量劫の間・菩薩の行を立て給いし時一切の福徳を集めて六十四分と成して功徳を身に得給へり、
03 其の一分をば我が身に用ひ給ふ、 今六十三分をば此の世界に留め置きて五濁雑乱の時・非法の盛ならん時・謗法の
04 者・国に充満せん時、 無量の守護の善神も法味をなめずして威光・勢力減ぜん時、日月光りを失ひ天竜雨をくださ
05 ず地神.地味を減ぜん時、草木・根茎・枝葉・華菓・薬等の七味も失せん時、十善の国王も貪瞋癡をまし父母.六親に
06 孝せず・したしからざらん時、 我が弟子無智・無戒にして髪ばかりを剃りて守護神にも捨てられて活命のはかりご
07 となからん比丘比丘尼の命のささへとせんと誓ひ給へり、 又果地の三分の功徳・二分をば我が身に用ひ給ひ、 仏
08 の寿命・百二十まで世にましますべかりしが 八十にして入滅し、 残る所の四十年の寿命を留め置きて我等に与へ
09 給ふ恩をば四大海の水を硯の水とし 一切の草木を焼て墨となして 一切のけだものの毛を筆とし十方世界の大地を
10 紙と定めて注し置くとも 争か仏の恩を報じ奉るべき、 法の恩を申さば法は諸仏の師なり諸仏の貴き事は 法に依
11 る、 されば仏恩を報ぜんと思はん人は法の恩を報ずべし、 次に僧の恩をいはば仏宝法宝は必ず僧によりて住す、
12 譬えば薪なければ火無く大地無ければ草木生ずべからず、 仏法有りといへども僧有りて習伝へずんば正法・像法・
13 二千年過ぎて 末法へも伝はるべからず、 故に大集経に云く五箇の五百歳の後に 無智無戒なる沙門を失ありと云
14 つて・是を悩すは 此の人仏法の大燈明を滅せんと思えと説かれたり、 然れば僧の恩を報じ難し、されば三宝の恩
15 を報じ給うべし、古の聖人は雪山童子・常啼菩薩・薬王大士・普明王等・此等は皆我が身を鬼のうちかひとなし身の
16 血髄をうり臂をたき頭を捨て給いき、 然るに末代の凡夫・三宝の恩を蒙りて三宝の恩を報ぜず、いかにしてか仏道
17 を成ぜん、然るに心地観経・梵網経等には仏法を学し 円頓の戒を受けん人は必ず四恩を報ずべしと見えたり、 某
18 は愚癡の凡夫・血肉の身なり三惑一分も断ぜず 只法華経の故に罵詈・毀謗せられて刀杖を加えられ流罪せられたる
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01 を以て大聖の臂を焼き髄をくだき・頭をはねられたるに・なぞらへんと思ふ、是れ一つの悦びなり。
02 第二に大なる歎きと申すは、 法華経第四に云く「若し悪人有つて不善の心を以て一劫の中に於て現に仏前に於
03 て常に仏を毀罵せん其の罪尚軽し、 若し人一つの悪言を以て在家・出家の法華経を読誦する者を毀呰せん 其の罪
04 甚だ重し」等と云云、 此等の経文を見るに信心を起し身より汗を流し 両眼より涙を流すこと雨の如し我一人此の
05 国に生れて多くの人をして 一生の業を造らしむることを歎く、 彼の不軽菩薩を打擲せし人現身に改悔の心を起せ
06 しだにも猶罪消え難くして千劫阿鼻地獄に堕ちぬ、 今我に怨を結べる輩は未だ一分も悔る心もおこさず、 是体の
07 人の受くる業報を大集経に説いて云く 「若し人あつて千万億の仏の所にして仏身より血を出さん意に於て如何・此
08 の人の罪をうる事寧ろ多しとせんや否や、 大梵王言さく若し人只一仏の身より血を出さん無間の罪尚多し、 無量
09 にして算をおきても数をしらず阿鼻大地獄の中に堕ちん、 何に況や万億の仏身より血を出さん者を見んをや、 終
10 によく広く彼の人の罪業・果報を説く事ある事なからん 但し如来をば除き奉る、 仏の言はく大梵王若し我が為に
11 髪をそり袈裟をかけ片時も禁戒をうけず 欠犯をうけん者をなやましのり ・杖をもつて打ちなんどする事有らば罪
12 をうる事・彼よりは多し」と。
13 弘長二年壬戌正月十六日 日蓮花押
14 工藤左近尉殿
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法華経題目抄 根本大師門人 日蓮 撰
01 南無妙法蓮華経
02 問うて云く法華経の意をもしらず 只南無妙法蓮華経と計り五字七字に限りて一日に一遍一月乃至一年十年一期
03 生の間に只一遍なんど唱えても軽重の悪に引かれずして 四悪趣におもむかずついに不退の位にいたるべしや、 答
04 えて云くしかるべきなり、 問うて云く火火といへども手にとらざればやけず水水といへども 口にのまざれば水の
05 ほしさもやまず、 只南無妙法蓮華経と題目計りを唱うとも 義趣をさとらずば悪趣をまぬかれん事いかがあるべか
06 るらん、 答えて云く師子の筋を琴の絃として一度奏すれば 余の絃悉くきれ梅子のすき声をきけば口につたまりう
07 るをう世間の不思議すら是くの如し 況や法華経の不思議をや 小乗の四諦の名計りをさやづる鸚鵡なを天に生ず三
08 帰計りを持つ人大魚の難をまぬかる 何に況や法華経の題目は八万聖教の肝心一切諸仏の眼目なり 汝等此れを唱え
09 て四悪趣をはなるべからずと疑うか、 正直捨方便の法華経には「信を以て入ることを得」と云い 雙林最後の涅槃
10 経には「是の菩提の因は復無量なりと雖も若し信心を説けば則ち已に摂尽す」等云云。
11 夫れ仏道に入る根本は信をもて本とす 五十二位の中には十信を本とす十信の位には信心初めなりたとひさとり
12 なけれども信心あらん者は 鈍根も正見の者なりたとひさとりあるとも信心なき者は誹謗闡提の者なり、 善星比丘
13 は二百五十戒を持ち四禅定を得十二部経を諳にせし者 ・提婆達多は六万八万の宝蔵をおぼへ 十八変を現ぜしかど
14 も此等は有解無信の者 今に阿鼻大城にありと聞く、 迦葉舎利弗等は無解有信の者なり仏に授記を蒙りて華光如来
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01 光明如来といはれき・仏説いて云く「疑を生じて信ぜざらん者は則ち当に悪道に堕つべし」等云云、 此等は有解無
02 信の者を説き給う、 而るに今の代に世間の学者の云く只信心計りにて解する心なく 南無妙法蓮華経と唱うる計り
03 にて争か悪趣をまぬかるべき等云云、 此の人人は経文の如くならば 阿鼻大城まぬかれがたし、さればさせる解り
04 なくとも 南無妙法蓮華経と唱うるならば悪道をまぬかるべし 譬えば蓮華は日に随つて回る蓮に心なし芭蕉は雷に
05 よりて増長す此の草に耳なし、 我等は蓮華と芭蕉との如く法華経の題目は日輪と雷との如し、 犀の生角を身に帯
06 して水に入りぬれば 水五尺身に近づかず栴檀の一葉開きぬれば四十由旬の伊蘭を変ず 我等が悪業は伊蘭と水との
07 如く法華経の題目は犀の生角と栴檀の一葉との如し、 金剛は堅固にして一切の物に破られず されども羊の角と亀
08 の甲に破らる尼倶類樹は大鳥にも枝おれざれども かのまつげに巣くうせうれう鳥にやぶらる、 我等が悪業は金剛
09 の如く尼倶類樹の如し 法華経の題目は羊の角のごとくせうれう鳥の如し琥珀は塵をとり磁石は鉄をすう 我等が悪
10 業は塵と鉄との如く法華経の題目は琥珀と磁石との如し。
11 かくをもひて常に南無妙法蓮華経と唱うべし、 法華経の第一の巻に云く「無量無数劫にも是の法を聞かんこと
12 亦難し」第五の巻に云く 「是の法華経は無量の国中に於て 乃至名字をも聞くことを得可からず」等云云法華経の
13 御名を聞く事はをぼろげにもありがたき事なり、 されば須仙多仏多宝仏は世にいでさせ給いたりしかども 法華経
14 の御名をだにも説き給わず 釈迦如来は法華経のために世にいでさせ給いたりしかども 四十二年が間は名をひして
15 かたりいださせ給わず 仏の御年七十二と申せし時はじめて 妙法蓮華経ととなえいでさせ給いたりき、しかりとい
16 えども摩訶尸那日本の辺国の者は御名をもきかざりき 一千余年すぎて三百五十余年に及びてこそ 纔に御名計りを
17 ば聞きたりしか、 さればこの経に値いたてまつる事をば三千年に一度華さく優曇華・ 無量無辺劫に一度値うなる
18 一眼の亀にもたとへたり、 大地の上に針を立てて大梵天王宮より芥子をなぐるに針のさきに芥子の・ つらぬかれ
0042top
01 たるよりも法華経の題目に値う事はかたし、 此の須弥山に針を立てて かの須弥山より大風のつよく吹く日・ い
02 とをわたさんにいたりてはりの穴にいとのさきの・ いりたらんよりも 法華経の題目に値い奉る事かたし、 され
03 ばこの経の題目を・ となえさせ給はんにはをぼしめすべし、 生盲の始めて眼をあきて父母等を・みんよりも・う
04 れしく・強き・かたきに・とられたる者の・ゆるされて妻子を見るよりも・めづらしとをぼすべし。
05 問うて云く題目計りを唱うる証文これありや、 答えて云く妙法華経の第八に云く 「法華の名を受持せん者・
06 福量る可からず」 正法華経に云く 「若し此の経を聞いて名号を宣持せば 徳量る可からず」 添品法華経に云く
07 「法華の名を受持せん者 福量る可からず」等云云、 此等の文は題目計りを唱うる福計るべからずとみへぬ、 一
08 部・八巻・二十八品を受持読誦し随喜護持等するは広なり、 方便品寿量品等を受持し乃至護持するは略なり、 但
09 一四句偈乃至題目計りを唱えとなうる者を護持するは要なり、広略要の中には題目は要の内なり。
10 問うて云く妙法蓮華経の五字にはいくばくの功徳をかおさめたるや、 答えて云く大海は衆流を納めたり大地は
11 有情非情を持てり 如意宝珠は万財を雨し梵天は三界を領す 妙法蓮華経の五字また是くの如し一切の九界の衆生並
12 に仏界を納む、 十界を納むれば亦十界の依報の国土を収む、 先ず妙法蓮華経の五字に一切の法を納むる事をいは
13 ば経の一字は諸経の中の王なり一切の群経を納む、 仏世に出でさせ給いて 五十余年の間八万聖教を説きをかせ給
14 いき、仏は人寿・百歳の時・壬申の歳・二月十五日の夜半に御入滅あり、 其の後四月八日より七月十五日に至るま
15 で一夏九旬の間・一千人の阿羅漢・結集堂にあつまりて一切経をかきをかせ給いき、 其の後正法一千年の間は五天
16 竺に一切経ひろまらせ給いしかども 震旦国には渡らず、 像法に入つて一十五年と申せしに後漢の孝明皇帝・永平
17 十年丁卯の歳・仏経始めて渡つて唐の玄宗皇帝・開元十八年庚午の歳に至るまで渡れる訳者・一百七十六人・持ち来
18 る経律論一千七十六部・五千四十八巻・四百八十帙、是れ皆法華経の経の一字の眷属の修多羅なり。
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01 先ず妙法蓮華経の以前・四十余年の間の経の中に大方広仏華厳経と申す経まします、 竜宮城には三本あり上本
02 は十三世界微塵数の品・ 中本は四十九万八千八百偈・下本は十万偈四十八品・此の三本の外に震旦・日本には僅に
03 八十巻六十巻等あり、 阿含・小乗経・方等・般若の諸大乗経等、大日経は梵本には阿バラ訶怯の五字計りを三千五
04 百の偈をもつてむすべり、 況や余の諸尊の種子・尊形三摩耶・其の数をしらず、而るに漢土には但纔に六巻七巻な
05 り、涅槃経は雙林最後の説・ 漢土には但四十巻是も梵本之れ多し、 此等の諸経は皆釈迦如来の所説の法華経の眷
06 属の修多羅なり、 此の外過去の七仏・千仏・遠遠劫の諸仏の所説・現在十方の諸仏の説経皆法華経の経の一字の眷
07 属なり、 されば薬王品に仏 ・宿王華菩薩に対して云く 「譬えば一切の川流江河の諸水の中に海為れ第一なるが
08 如く衆山の中に須弥山為れ第一・衆星の中に月天子最も為れ第一」等云云、 妙楽大師の釈に云く「已今当説最為第
09 一」等云云、 此の経の一字の中に十方法界の一切経を納めたり、 譬えば如意宝珠の一切の財を納め虚空の万象を
10 含めるが如し、 経の一字は一代に勝る故に妙法蓮華の四字も又八万法蔵に超過するなり、妙とは法華経に云く「方
11 便の門を開いて真実の相を示す」、 章安大師の釈に云く「秘密の奥蔵を発く之を称して妙と為す」、 妙楽大師此
12 の文を受けて云く「発とは開なり」等云云、 妙と申す事は開と云う事なり世間に財を積める蔵に鑰なければ開く事
13 かたし開かざれば蔵の内の財を見ず 、華厳経は仏説き給いたりしかども経を開く鑰をば仏・彼の経に説き給はず、
14 阿含・方等・般若・観経等の四十余年の経経も仏説き給いたりしかども彼の経経の意をば開き給はず、門を閉じて・
15 をかせ給いたりしかば人・彼の経経をさとる者一人もなかりき、 たとひ・さとれりとをもひしも僻見にてありしな
16 り、 而るに仏・法華経を説かせ給いて諸経の蔵を開かせ給いき、 此の時に四十余年の九界の衆生始めて諸経の蔵
17 の内の財をば見しりたりしなり、 譬えば大地の上に人畜・草木等あれども日月の光なければ眼ある人も人畜・草木
18 の色形をしらず、日月・出で給いてこそ始めてこれをば知る事なれ、 爾前の諸経は 長夜の闇の如く法華経の本迹
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01 二門は日月の如し、 諸の菩薩の二目ある二乗の眇目なる凡夫の盲目なる闡提の生盲なる共に 爾前の経経にてはい
02 ろかたちをばわきまへずありし程に、 法華経の時・迹門の月輪始めて出で給いし時・菩薩の両眼先にさとり二乗の
03 眇目次にさとり凡夫の盲目次に開き生盲の一闡提未来に眼の開くべき縁を結ぶ是れ偏に妙の一字の徳なり。
04 迹門十四品の一妙・本門十四品の一妙合せて二妙、迹門の十妙本門の十妙合せて二十妙、迹門の三十妙・本門の
05 三十妙合せて六十妙、迹門の四十妙・本門の四十妙・ 観心の四十妙合せて百二十重の妙なり、六万九千三百八十四
06 字一一の字の下に一の妙あり 総じて六万九千三百八十四の妙あり、 妙とは天竺には薩と云い漢土には妙と云う妙
07 とは具の義なり具とは円満の義なり、 法華経の一一の文字・ 一字一字に余の六万九千三百八十四字を納めたり、
08 譬えば大海の一渧の水に 一切の河の水を納め 一の如意宝珠の芥子計りなるが 一切の如意宝珠の財を雨らすが如
09 し、 譬えば秋冬枯れたる草木の春夏の日に値うて枝葉・華菓・出来するが如し、爾前の秋冬の草木の如くなる九界
10 の衆生・法華経の妙の一字の春夏の日輪にあひたてまつりて 菩提心の華さき成仏往生の菓なる、 竜樹菩薩の大論
11 に云く 「譬えば大薬師の能く毒を以て薬と為すが如し」云云、 此の文は大論に法華経の妙の徳を釈する文なり、
12 妙楽大師の釈に云く 「治し難きを能く治す所以に妙と称す」等云云、 総じて成仏往生のなりがたき者・四人あり
13 第一には決定性の二乗・第二には一闡提人・第三には空心の者・ 第四には謗法の者なり、此等を法華経にをいて仏
14 になさせ給ふ故に法華経を妙とは云うなり。
15 提婆達多は斛飯王の第一の太子.浄飯王にはをひ・阿難尊者がこのかみ.教主釈尊にはいとこに当る・南閻浮提に
16 かろからざる・人なり、 須陀比丘を師として出家し阿難尊者に十八変をならひ外道の六万蔵・仏の八万蔵を胸にう
17 かべ五法を行じて殆ど仏よりも尊きけしきなり、 両頭を立てて破僧罪を犯さんために 象頭山に戒壇を築き仏弟子
18 を招き取り、阿闍世太子をかたらいて云く 我は仏を殺して新仏となるべし太子は父の王を殺して新王となり給へ、
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01 阿闍世太子・ すでに父の王を殺せしかば提婆達多は又仏をうかがい 大石をもちて仏の御身より血をいだし阿羅漢
02 たる華色比丘尼を打ちころし 五逆の内たる三逆をつぶさにつくる、 其の上瞿伽梨尊者を弟子とし阿闍世王を檀那
03 とたのみ五天竺・十六の大国・五百の中国等の一逆・二逆・三逆等をつくれる者は皆提婆が一類にあらざる事これな
04 し、譬えば大海の諸河をあつめ大山の草木をあつめたるがごとし、 智慧の者は舎利弗にあつまり・神通の者は目連
05 にしたがひ・悪人は提婆に・かたらいしなり、されば厚さ十六万八千由旬・其の下に金剛の風輪ある大地すでにわれ
06 て生身に無間大城に堕ちにき、 第一の弟子瞿伽梨も又生身に地獄に入る旃遮婆羅門女も・おちにき・波瑠璃王もを
07 ちぬ善星比丘もおちぬ、又此等の人人の生身に堕ちしをば五天竺・十六の大国・五百の中国・十千の小国の人人も皆
08 これをみる、六欲.四禅・色・無色・梵王・帝釈・第六天の魔王も閻魔法王等も皆御覧ありき、三千大千世界.十方法
09 界の衆生も皆聞きしなり、 されば大地・微塵劫はすぐとも無間大城を出づべからず、 劫石はひすらぐとも阿鼻大
10 城の苦は・つきじとこそ思い合いたりしに、 法華経の提婆品にして教主釈尊の昔の師・天王如来と記し給う事こそ
11 不思議にをぼゆれ、爾前の経経・実ならば法華経は大妄語・法華経実ならば爾前の諸経は大虚誑罪なり、 提婆が三
12 逆を具に犯して 其の外無量の重罪を作りし天王如来となる、 況や二逆・一逆等の諸の悪人の得道疑いなき事譬え
13 ば大地をかへすに草木等のかへるがごとく堅石をわる者・ナン草をわるが如し、故に此の経をば妙と云ふ。
14 女人をば内外典に是をそしり三皇五帝の三墳五典に諂曲の者と定む、 されば災は三女より起ると云へり国の亡
15 び人の損ずる源は女人を本とす、 内典の中には初成道の大法たる華厳経には 「女人は地獄の使なり能く仏の種子
16 を断つ 外面は菩薩に似て内心は夜叉の如し」と云い、 雙林最後の大涅槃経には「一切の江河必ず回曲有り一切の
17 女人必ず諂曲有り」と、 又云く「所有三千界の男子の諸の煩悩・合集して一人の女人の業障と為る」等云云、大華
18 厳経の文に「能く仏の種子を断つ」と説かれて候は 女人は仏になるべき種子をいれり、譬えば大旱魃の時・虚空の
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01 中に大雲をこり大雨を大地に下すに・かれたるが如くなる無量無辺の草木・花さき菓なる、 然りと雖もいれる種は
02 をひずして結句・雨しげければ・くちうするが如し、仏は大雲の如く・説教は大雨の如く・かれたるが如くなる草木
03 を一切衆生に譬えたり、 仏教の雨に潤い五戒十善禅定等の功徳を修するは 花さき菓なるが如し、雨・ふれどもい
04 りたる種のをひずかへりて・ くちうするは女人の仏教にあひて生死を・はなれずして・かへりて仏法を失ひ悪道に
05 堕つるに譬ふべし、 是を「能く仏の種子を断つ」とは申すなり、 涅槃経の文に一切の江河のまがれるが如く女人
06 も又まがれりと説かれたるは、 水はやわらかなる物なれば石山なんどの・こわき物にさへられて水のさき・ひるむ
07 ゆへに・あれへ・これへ行くなり、 女人も亦是くの如く女人の心をば水に譬えたり、心よわくして水の如くなり、
08 道理と思う事も男のこわき心に値いぬればせかれて・よしなき方へをもむく、 又水にゑがくに・とどまらざるが如
09 し、女人は不信を体とするゆへに 只今さあるべしと見る事も又しばらくあれば・あらぬさまになるなり、 仏と申
10 すは正直を本とす故に・ まがれる女人は仏になるべからず 五障三従と申して五つのさはり三つしたがふ事あり、
11 されば銀色女経には 「三世の諸仏の眼は大地に落つとも女人は仏になるべからず」と説かれ大論には「清風は・と
12 ると云えども女人の心はとりがたし」と云へり。
13 此くの如く諸経に嫌はれたりし女人を文殊師利菩薩の妙の一字を説き給いしかば忽に仏になりき、 あまりに不
14 審なりし故に宝浄世界の多宝仏の第一の弟子智積菩薩、 釈迦如来の御弟子の智慧第一の舎利弗尊者、 四十余年の
15 大小乗経の経文をもつて竜女の仏になるまじき由を難ぜしかども 終に叶はず仏になりにき、 初成道の「能く仏の
16 種子を断つ」 雙林最後の「一切の江河必ず回曲有り」の文も破れぬ、 銀色女経・並に大論の亀鏡も空しくなりぬ
17 智積・舎利弗は舌を巻きて口を閉ぢ 人天大会は歓喜せしあまりに掌を合せたりき、 是れ偏に妙の一字の徳なり、
18 此の南閻浮提の内に二千五百の河あり一一に皆まがれり、 南閻浮提の女人の心のまがれるが如し、 但し娑婆耶と
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01 申す河あり 縄を引きはえたるが如くして直に西海に入る、 法華経を信ずる女人亦復是くの如く直に西方浄土へ入
02 るべし是れ妙の一字の徳なり、 妙とは蘇生の義なり蘇生と申すはよみがへる義なり、 譬えば黄鵠の子・死せるに
03 鶴の母・子安となけば死せる子・還つて活り、 鴆鳥・水に入れば魚蚌悉く死す犀の角これに・ふるれば死せる者皆
04 よみがへるが如く爾前の経経にて仏種をいりて死せる二乗・闡提・女人等・妙の一字を持ちぬれば・いれる仏種も還
05 つて生ずるが如し、 天台云く「闡提は心有り猶作仏すべし二乗は智を滅す 心生ず可からず法華能く治す復称して
06 妙と為す」と、 妙楽云く「但大と云いて妙と名づけざるは 一には有心は治し易く無心は治し難し治し難きを能く
07 治す所以に妙と称す」等云云、 此等の文の心は大方広仏華厳経・大集経・大品経・大涅槃経等は題目に大の字のみ
08 ありて妙の字なし、 但生る者を治して死せる者をば治せず、 法華経は死せる者をも治するが故に 妙と云ふ釈な
09 り、されば諸経にしては仏になる者も仏になるべからず 其の故は法華は仏になりがたき者すら尚仏になりぬ、 な
10 りやすき者は云ふにや及ぶと云う道理立ちぬれば法華経をとかれて後は諸経にをもむく一人もあるべからず。
11 而るに正像二千年過ぎて末法に入つて当世の衆生の・ 成仏往生のとげがたき事は在世の二乗闡提等にも百千万
12 億倍すぎたる衆生の観経等の四十余年の経経によりて生死をはなれんと思うは・はかなし・はかなし、女人は在世・
13 正像末総じて一切の諸仏の一切経の中に法華経を・ はなれて仏になるべからず、 霊山の聴衆道場開悟たる天台智
14 者大師・定めて云く「他経は但男に記して女に記せず今経は皆記す」等云云、釈迦如来・多宝仏・十方諸仏の御前に
15 して摩竭提国王舎城の艮・ 鷲の山と申す所にて八箇年の間・説き給いし法華経を智者大師まのあたり聞こしめしけ
16 るに我五十余年の一代聖教を説きをく事は 皆衆生利益のためなり、 但し其の中に四十二年の経経には女人・仏に
17 なるべからずと説きたまひしなり、 今法華経にして女人仏に成ると・とくと・なのらせ給いしを仏滅後・一千五百
18 余年に当つて鷲の山より東北 ・十万八千里の山海をへだてて摩訶尸那と申す国あり震旦国是なり、 此の国に仏の
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01 御使に出でさせ給ひ天台智者大師となのりて女人は法華経を・はなれて仏になるべからずと定めさせ給いぬ。
02 尸那国より三千里をへだてて東方に国あり日本国となづけたり、天台大師・御入滅・二百余年と申せしに此の国
03 に生れて伝教大師となのらせ給いて秀句と申す書を造り給いしに 「能化・所化倶に歴劫無し妙法経の力にて 即身
04 に成仏す」と竜女が成仏を定め置き給いたり、 而るに当世の女人は即身成仏こそ・かたからめ往生極楽は法華を憑
05 まば疑いなし、 譬えば江河の大海に入るよりもたやすく雨の空より落つるよりもはやくあるべき事なり、 而るに
06 日本国の一切の女人は 南無妙法蓮華経とは唱へずして 女人の往生成仏をとげざる雙観・ 観経等によりて弥陀の
07 名号を一日に六万遍・十万遍なんどとなうるは、 仏の名号なれば巧なるには似たれども女人不成仏・ 不往生の経
08 によれるが故に いたずらに他の財を数えたる女人なり、 これひとえに悪知識にたぼらかされたるなり、 されば
09 日本国の一切の女人の御かたきは虎狼よりも山賊・ 海賊よりも父母の敵・ とわり等よりも法華経をばをしえずし
10 て念仏ををしゆるこそ一切の女人のかたきなれ。
11 南無妙法蓮華経と一日に六万・十万・千万等も唱えて後に暇あらば時時阿弥陀等の諸仏の名号をも口ずさみ・な
12 るやうに申し給はんこそ法華経を信ずる女人にては・ あるべきに当世の女人は一期の間・弥陀の名号をば・しきり
13 に・ となへ念仏の仏事をば・ ひまなくをこなひ法華経をばつやつや唱へず供養せず或はわづかに法華経を持経者
14 に・よますれども念仏者をば父母・ 兄弟なんどのやうに・をもひなし持経者をば所従眷属よりもかろくをもへり、
15 かくして・しかも法華経を信ずる由を・ なのるなり、抑も浄徳夫人は二人の太子の出家を許して法華経をひろめさ
16 せ竜女は「我闡大乗教・度脱苦衆生」とこそ誓ひしが 全く他経計りを行じて此の経を行ぜじとは誓はず、 今の女
17 人は偏に他経を行じて法華経を行ずる方をしらず、 とくとく心をひるがへすべし・心をひるがへすべし、 南無妙
18 法蓮華経・南無妙法蓮華経。 日蓮花押
0949top
01 文永三年丙寅正月六日清澄寺に於て未の時書し畢んぬ。
富木殿御消息 文永六年六月 四十八歳御作
01 大師講の事今月明性房にて候が此月はさしあい候又余人の中せんと候人候はば申させ給えと候、 貴辺より仰を
02 蒙り候へ、御指合にて候はば他処へ申すべく候、恐々。
03 六月七日 日蓮花押
富木殿富木殿御返事 文永七年 四十九歳御作
01 白米一ほかひ本斗六升たしかに給候、ときれうも候はざりつるに悦び入り候、何事も見参にて申すべく候。
02 乃 時 花押
03 富木殿
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真間釈迦仏御供養逐状 文永七年九月 四十九歳御作
01 釈迦仏御造立の御事、無始曠劫よりいまだ顕れましまさぬ己心の一念三千の仏造り顕しましますか、 はせまい
02 りてをがみまいらせ候わばや、 「欲令衆生開仏知見乃至然我実成仏已来」は是なり、 但し仏の御開眼の御事はい
03 そぎいそぎ伊よ房をもてはたしまいらせさせ給い候へ、 法華経一部御仏の御六根によみ入れまいらせて 生身の教
04 主釈尊になしまいらせてかへりて迎い入れまいらせさせ給へ、 自身並に子にあらずばいかんがと存じ候、 御所領
05 の堂の事等は大進の阿闍梨がききて候、 かへすがへすをがみ結縁しまいらせ候べし、 いつぞや大黒を供養して候
06 いし其後より世間なげかずしておはするか、 此度は大海のしほの満つるがごとく月の満ずるが如く 福きたり命な
07 がく後生は霊山とおぼしめせ。
08 九月二十六日 日蓮花押
09 進上 富木殿御返事
土木殿御返事 文永八年九月 五十歳御作 於相模依智
01 上のせめさせ給うにこそ法華経を信じたる色もあらわれ候へ、 月はかけてみち・ しをはひてみつる事疑なし
0951top
01 此れも罰あり必ず徳あるべし・なにしにか・なげかん。
02 此の十二日酉の時・御勘気・ 武蔵守殿御あづかりにて十三日丑の時にかまくらをいでて佐土の国へながされ候
03 が、たうじはほんまのえちと申すところにえちの六郎左衛門尉殿の代官・右馬太郎と申す者あづかりて候が、 いま
04 四五日はあるべげに候、 御歎きはさる事に候へども・これには一定と本よりごして候へば・なげかず候、いままで
05 頚の切れぬこそ本意なく候へ、 法華経の御ゆへに過去に頚を・うしないたらば・かかる少身のみにて候べきか、又
06 数数見擯出ととかれて度度失にあたりて 重罪をけしてこそ仏にもなり候はんずれば 我と苦行をいたす事は心ゆへ
07 なり。
08 九月十四日 日蓮花押
09 土木殿御返事
寺泊御書 文永八年十月 五十歳御作 与富木常忍 於越後寺泊
01 鵞目一結給び了んぬ、心ざしあらん諸人は一処にあつまりて御聴聞あるべし。
02 今月十月なり、十日相州愛京郡依智の郷を起つて武蔵の国久目河の宿に付き十二日を経て越後の国寺泊の津に付
03 さぬ、此れより大海を亘つて佐渡の国に至らんと欲するに順風定まらず 其の期を知らず、道の間の事心も及ぶこと
04 莫く又筆にも及ばず但暗に推し度る可し、又本より存知の上なれば始めて歎く可きに非ざれば之を止む。
05 法華経の第四に云く 「而も此の経は如来の現在にすら猶怨嫉多し況んや滅度の後をや」第五の巻に云く「一切
0952top
01 世間怨多くして信じ難し」、 涅槃経の三十八に云く「爾の時に一切の外道の衆咸く是の言を作さく○大王今は唯・
02 一の大悪人有り瞿曇沙門なり ○一切の世間の悪人利養の為の故に其の所に往き集り 而も眷属と為つて善を修する
03 こと能わず呪術力の故に迦葉及び舎利弗・目ケン連等を調伏す」云云、 此の涅槃経の文は一切の外道我が本師たる
04 二天三仙の所説の経典を仏陀に毀られて出す所の悪言なり、 法華経の文は仏を怨と為す経文には非ず、 天台の意
05 に云く「一切の声聞・ 縁覚並に近成を楽う菩薩」等云云、 聞かんと欲せず信ぜんと欲せず其の機に当らざるは言
06 を出して謗ること莫きも皆怨嫉の者と定め了んぬ、 在世を以て滅後を推すに 一切諸宗の学者等は皆外道の如し、
07 彼等が云う一大悪人とは日蓮に当れり、 一切の悪人之に集まるとは日蓮が弟子等是なり、 彼の外道は先仏の説教
08 流伝の後・之を謬つて後仏を怨と為せり、 今諸宗の学者等も亦復是くの如し、 所詮仏教に依つて邪見を起す目の
09 転ずる者大山転ずと欲う、 今八宗・十宗等多門の故に諍論を至す、 涅槃経の第十八に贖命重宝と申す法門あり、
10 天台大師の料簡に云く 命とは法華経なり重宝とは涅槃経に説く所の前三教なり、 但し涅槃経に説く所の円教は如
11 何、此の法華経に説く所の仏性常住を重ねて之を説いて帰本せしめ 涅槃経の円常を以て法華経に摂す、 涅槃経の
12 得分は但・前三教に限る、 天台の玄義の三に云く「涅槃は贖命の重宝なり重ねて掌を抵つのみ」文、籤の三に云く
13 「今家の引意は大経の部を指して以て重宝と為す」等云云、 天台大師の四念処と申す文に法華経の「雖示種種道」
14 の文を引いて先ず四味を又重宝と定め了んぬ、 若し爾らば法華経の先後の諸経は法華経の為の重宝なり、世間の学
15 者の想に云 此れは天台一宗の義なり 諸宗は之を用いず等云云、 日蓮之を案じて云く 八宗十宗等は皆仏滅後よ
16 り之を起し論師人師之を立つ 滅後の宗を以て現在の経を計る可からず 天台の所判は一切経に叶うに依つて一宗に
17 属して之を弃つ可からず、 諸宗の学者等自師の誤りを執する故に 或は事を機に寄せ或は前師に譲り或は賢王を語
18 らい結句最後には悪心強盛にして 闘諍を起し失無き者を之を損うて楽と為す、 諸宗の中に真言宗殊に僻案を至す
0953top
01 善無畏・金剛智等の想に云く 一念三千は天台の極理一代の肝心なり 顕密二道の詮たる可きの心地の三千は 且く
02 之を置く、 此の外・印と真言とは仏教の最要等云云、其の後真言師等事を此の義に寄せて印・真言無き経経をば之
03 を下すこと外道の法の如し、 或る義に云く大日経は釈迦如来の外の説なりと、 或る義に云く教主釈尊第一の説な
04 りと、 或る義には釈尊と現じて顕経を説き大日と現じて密経を説くと、道理を得ずして無尽の僻見之を起す、 譬
05 えば乳の色を弁えざる者 種種の邪推を作せども本色に当らざるが如く 又象の譬の如し、今汝等知る可し大日経等
06 は法華経已前ならば華厳経等の如く已後ならば涅槃等の如し。
07 又天竺の法華経には印・真言有れども訳者之を略して羅什は妙法経と名づけ、印・真言を加えて善無畏は大日経
08 と名づくるか、 譬えば正法華・添品法華・法華三昧・薩云分陀利等の如し、仏の滅後天竺に於いて此の詮を得たる
09 は竜樹菩薩、漢土に於いて始めて之を得たるは天台智者大師なり、 真言宗の善無畏等・華厳宗の澄観等・三論宗の
10 嘉祥等・ 法相宗の慈恩等名は自宗に依れども 其の心は天台宗に落ちたり其の門弟等此の事を知らず如何ぞ謗法の
11 失を免れんや、或る人日蓮を難じて云く機を知らずしてアラ議を立て難に値うと、 或る人云く勧持品の如きは深位
12 の菩薩の義なり安楽行品に違すと、 或る人云く我も此の義を存すれども言わずと云云、 或る人云く唯教門計りな
13 りと、 具に我之を存すと雖も卞和は足を切られ清丸は穢丸と云う名を給うて死罪に及ばんと欲す・ 時の人之を咲
14 う、然りと雖も其の人未だ善き名を流さず汝等が邪難も亦爾る可し。
15 勧持品に云く 「諸の無智の人有つて悪口罵詈し」等云云日蓮此の経文に当れり汝等何ぞ此の経文に入らざる、
16 「及び刀杖を加うる者」等云云、 日蓮は此の経文を読めり 汝等何ぞ此の経文を読まざる「常に大衆の中に在つて
17 我等が過を毀らんと欲す」等云云、 「国王大臣婆羅門居士に向つて」等云云、 「悪口して顰蹙し数数擯出せられ
18 ん」数数とは度度なり 日蓮擯出衆度流罪は二度なり、 法華経は三世の説法の儀式なり、過去の不軽品は今の勧持
0954top
01 品今の勧持品は過去の不軽品なり、 今の勧持品は未来は不軽品為る可し、 其の時は日蓮は即ち 不軽菩薩為る可
02 し、一部八巻・二十八品・天竺の御経は一由旬に布くと承わる定めて数品有る可し、 今漢土日本の二十八品は略の
03 中の要なり、 正宗は之を置く流通に至つて宝塔品の三箇の勅宣は霊山虚空の大衆に被らしむ、勧持品の二万・ 八
04 万・八十万億等の大菩薩の御誓言は日蓮が浅智には及ばず 但し「恐怖悪世中」の経文は末法の始を指すなり、 此
05 の「恐怖悪世中」の次下の安楽行品等に云く「於末世」等云云、 同本異訳の正法華経に云く「然後末世」 又云く
06 「然後来末世」、 添品法華経に云く「恐怖悪世中」等云云、時に当り当世三類の敵人は之れ有るに但八十万億・那
07 由他の諸菩薩は一人も見えたまわず 乾たる湖の満たず月の虧けて満ちざるが如し 水清めば月を浮かべ木を植うれ
08 ば鳥棲む、日蓮は八十万億那由他の諸の菩薩の代官として之を申す彼の諸の菩薩の加被を請う者なり。
09 此の入道佐渡の国へ御供為す可きの由之を申す然る可き 用途と云いかたがた煩有るの故に之を還す、 御志し
10 始めて申すに及ばず候 人人に是くの如く申させ給え、 但し囹僧等のみ心に懸り候便宜の時早早之を聴かす可し、
11 穴賢穴賢。
12 十月二十二日 酉の時 日蓮花押
13 土木殿
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富木入道殿御返事 文永八年十一月 五十歳御作 於佐渡塚原
01 此比は十一月の下旬なれば相州鎌倉に候し時の思には 四節の転変は万国皆同じかるべしと存候し処に此北国佐
02 渡の国に下著候て後二月は寒風頻に吹て霜雪更に降ざる時はあれども 日の光をば見ることなし、 八寒を現身に感
03 ず、 人の心は禽獣に同じく主師親を知らず何に況や仏法の邪正・師の善悪は思もよらざるをや、 此等は且く之を
04 置く。
05 去十月十日に付られ候し入道・ 寺泊より還し候し時法門を書き遣わし候き推量候らむ、已に眼前なり仏滅後二
06 千二百余年に月氏・漢土・日本・一閻浮提の内に天親・竜樹内鑑冷然外適時宜云云、天台・伝教は粗釈し給へども之
07 を弘め残せる一大事の秘法を此国に初めて之を弘む日蓮豈其の人に非ずや。
08 前相已に顕れぬ去正嘉の大地震前代未聞の大瑞なり神世十二・ 人王九十代と仏滅後二千二百余年未曾有の大瑞
09 なり神力品に云く「仏滅度の後に於て能く是の経を持つが故に諸仏皆歓喜して無量の神力を現ず」等云云、 「如来
10 一切所有之法」云云、 但此の大法弘まり給ならば爾前迹門の経教は一分も益なかるべし、 伝教大師云く「日出て
11 星隠る」云云、遵式の記に云く「末法の初西を照す」等云云、 法已に顕れぬ、 前相先代に超過せり日蓮粗之を勘
12 うるに是時の然らしむる故なり 経に云く「四導師有り一を上行と名く」云云 又云く「悪世末法時能持是経者」又
13 云く「若接須弥擲置他方」云云。
14 又貴辺に申付し一切経の要文智論の要文五帖一処に取り集め被る可く候、其外論釈の要文散在あるべからず候、
15 又小僧達談義あるべしと仰らるべく候流罪の事痛く歎せ給ふべからず、 勧持品に云く不軽品に云く、 命限り有り
0956top
01 惜む可からず遂に願う可きは仏国也云云。
02 文永八年十一月二十三日 日蓮花押
03 富木入道殿御返事
04 小僧達少少還えし候此国の体為在所の有様御問い有る可く候筆端に載せ難く候。
佐渡御書 文永九年三月 五十一歳御作 与弟子檀那
01 此文は富木殿のかた三郎左衛門殿大蔵たうのつじ十郎入道殿等さじきの尼御前一一に見させ給べき 人人の御中
02 へなり、 京鎌倉に軍に死る人人を書付てたび候へ、 外典抄文句の二玄の四の本末勘文宣旨等 これへの人人もち
03 てわたらせ給へ。
04 世間に人の恐るる者は火炎の中と刀剣の影と此身の死するとなるべし 牛馬猶身を惜む況や人身をや癩人猶命を
05 惜む何に況や壮人をや、 仏説て云く「七宝を以て三千大千世界に布き満るとも手の小指を以て 仏経に供養せんに
06 は如かず」取意、 雪山童子の身をなげし 楽法梵志が身の皮をはぎし 身命に過たる惜き者のなければ是を布施と
07 して仏法を習へば必仏となる身命を捨る人・ 他の宝を仏法に惜べしや、 又財宝を仏法におしまん物まさる身命を
08 捨べきや、 世間の法にも重恩をば命を捨て報ずるなるべし 又主君の為に命を捨る人はすくなきやうなれども其数
09 多し 男子ははぢに命をすて女人は男の為に命をすつ、 魚は命を惜む故に池にすむに池の浅き事を歎きて池の底に
10 穴をほりてすむしかれどもゑにばかされて釣をのむ 鳥は木にすむ木のひきき事をおじて 木の上枝にすむしかれど
11 もゑにばかされて網にかかる、 人も又是くの如し世間の浅き事には身命を失へども 大事の仏法なんどには捨る事
0957top
01 難し故に仏になる人もなかるべし。
02 仏法は摂受・折伏時によるべし譬ば世間の文・武二道の如しされば昔の大聖は時によりて法を行ず雪山童子・薩
03 タ王子は身を布施とせば法を教へん 菩薩の行となるべしと責しかば身をすつ、 肉をほしがらざる時身を捨つ可き
04 や紙なからん世には身の皮を紙とし筆なからん時は骨を筆とすべし、 破戒・無戒を毀り持戒・正法を用ん世には諸
05 戒を堅く持べし儒教・ 道教を以て釈教を制止せん日には道安法師・慧遠法師・法道三蔵等の如く王と論じて命を軽
06 うすべし、 釈教の中に小乗大乗権経実経・雑乱して明珠と瓦礫と牛驢の二乳を弁へざる時は天台大師・伝教大師等
07 の如く大小・ 権実・顕密を強盛に分別すべし、 畜生の心は弱きをおどし強きをおそる当世の学者等は畜生の如し
08 智者の弱きをあなづり王法の邪をおそる 諛臣と申すは是なり強敵を伏して始て力士をしる、 悪王の正法を破るに
09 邪法の僧等が方人をなして智者を失はん時は 師子王の如くなる心をもてる者 必ず仏になるべし 例せば日蓮が如
10 し、 これおごれるにはあらず正法を惜む心の強盛なるべしおごれる者は必ず強敵に値て おそるる心出来するなり
11 例せば修羅のおごり帝釈にせめられて 無熱池の蓮の中に小身と成て隠れしが如し、正法は一字・一句なれども時
12 機に叶いぬれば必ず得道なるべし千経・万論を習学すれども時機に相違すれば叶う可らず。
13 宝治の合戦すでに二十六年今年二月十一日十七日又合戦あり外道・悪人は如来の正法を破りがたし仏弟子等・必
14 ず仏法を破るべし師子身中の虫の師子を食等云云、 大果報の人をば他の敵やぶりがたし親しみより破るべし、 薬
15 師経に云く「自界叛逆難」と是なり、 仁王経に云く「聖人去る時七難必ず起らん」云云、 金光明経に云く「三十
16 三天各瞋恨を生ずるは 其の国王悪を縦にし治せざるに由る」等云云、 日蓮は聖人にあらざれども 法華経を説の
17 如く受持すれば聖人の如し 又世間の作法兼て知るによて注し置くこと 是違う可らず現世に云をく言の違はざらん
18 をもて後生の疑をなすべからず、日蓮は此関東の御一門の棟梁なり・日月なり・亀鏡なり・眼目なり・日蓮捨て去る
0958top
01 時・ 七難必ず起るべしと去年九月十二日御勘気を蒙りし時 大音声を放てよばはりし事これなるべ し纔に六十日
02 乃至百五十日に此事起るか是は華報なるべし 実果の成ぜん時いかがなげかはしからんずらん、 世間の愚者の思に
03 云く日蓮智者ならば何ぞ王難に値哉なんと申す 日蓮兼ての存知なり父母を打子あり阿闍世王なり 仏阿羅漢を殺し
04 血を出す者あり 提婆達多是なり六臣これをほめ瞿伽利等これを悦ぶ、 日蓮当世には此御一門の父母なり仏阿羅漢
05 の如し然を流罪し 主従共に悦びぬるあはれに無慚なる者なり 謗法の法師等が自ら禍の既に顕るるを歎きしがかく
06 なるを一旦は悦ぶなるべし 後には彼等が歎き日蓮が一門に劣るべからず、 例せば泰衡がせうとを討九郎判官を討
07 て悦しが如し既に一門を亡す大鬼の此国に入なるべし法華経に云く「悪鬼入其身」と是なり。
08 日蓮も又かくせめらるるも先業なきにあらず 不軽品に云く「其罪畢已」等云云、不軽菩薩の無量の謗法の者に
09 罵詈打擲せられしも先業の所感なるべし 何に況や日蓮今生には貧窮下賎の者と生れ旃陀羅が家より出たり 心こそ
10 すこし法華経を信じたる様なれども身は人身に似て 畜身なり魚鳥を混丸して赤白二渧とせり 其中に識神をやどす
11 濁水に月のうつれるが如し 糞嚢に金をつつめるなるべし、 心は法華経を信ずる故に梵天帝釈をも猶恐しと思はず
12 身は畜生の身なり色心不相応の故に愚者のあなづる道理なり 心も又身に対すればこそ月金にもたとふれ、 又過去
13 の謗法を案ずるに誰かしる 勝意比丘が魂にもや大天が神にもや 不軽軽毀の流類なるか 失心の余残なるか五千上
14 慢の眷属なるか 大通第三の余流にもやあるらん宿業はかりがたし 鉄は炎打てば剣となる 賢聖は罵詈して試みる
15 なるべし、 我今度の御勘気は世間の失一分もなし 偏に先業の重罪を今生に消して後生の三悪を脱れんずるなるべ
16 し、 般泥オン経に云く「当来の世仮りに袈裟を被て我が法の中に於て出家学道し懶惰懈怠にして此れ等の方等契経
17 を誹謗すること有らん当に知るべし 此等は皆是今日の諸の異道の輩なり」等云云、 此経文を見ん者自身をはづべ
18 し今我等が出家して袈裟をかけ 懶惰懈怠なるは是仏在世の六師外道が弟子なりと仏記し給へり、 法然が一類大日
0959top
01 が一類念仏宗禅宗と号して 法華経に捨閉閣抛の四字を副へて制止を加て 権教の弥陀称名計りを取立教外別伝と号
02 して法華経を月をさす指只文字をかぞふるなんど笑ふ者は 六師が末流の仏教の中に出来せるなるべし、 うれへな
03 るかなや涅槃経に 仏光明を放て地の下一百三十六地獄を照し給に 罪人一人もなかるべし法華経の寿量品にして皆
04 成仏せる故なり 但し一闡提人と申て謗法の者計り地獄守に留られたりき 彼等がうみひろげて今の世の日本国の一
05 切衆生となれるなり。
06 日蓮も過去の種子已に謗法の者なれば 今生に念仏者にて数年が間法華経の行者を見ては未有一人得者千中無一
07 等と笑しなり今謗法の酔さめて見れば 酒に酔る者父母を打て悦しが酔さめて後歎しが如し 歎けども甲斐なし此罪
08 消がたし、 何に況や過去の謗法の心中にそみけんをや経文を見候へば 烏の黒きも鷺の白きも先業のつよくそみけ
09 るなるべし外道は知らずして自然と云い 今の人は謗法を顕して扶けんとすれば 我身に謗法なき由をあながちに陳
10 答して法華経の門を閉よと法然が書けるを とかくあらかひなんどす念仏者はさてをきぬ 天台真言等の人人彼が方
11 人をあながちにするなり、 今年正月十六日十七日に佐渡の国の念仏者等 数百人印性房と申すは念仏者の棟梁なり
12 日蓮が許に来て云く 法然上人は法華経を抛よとかかせ給には非ず 一切衆生に念仏を申させ給いて候此の大功徳に
13 御往生疑なしと書付て候を 山僧等の流されたる並に寺法師等・ 善哉善哉とほめ候をいかがこれを破し給と申しき
14 鎌倉の念仏者よりもはるかにはかなく候ぞ無慚とも申す計りなし。
15 いよいよ日蓮が先生今生先日の謗法おそろしかかりける者の弟子と成けん かかる国に生れけんいかになるべし
16 とも覚えず、般泥オン経に云く「善男子過去に無量の諸罪・種種の悪業を作らんに是の諸の罪報・或は軽易せられ或
17 は形状醜陋衣服足らず飲食ソ疎 財を求めて利あらず貧賎の家及び邪見の家に生れ或は王難に遇う」等云云、 又云
18 く「及び余の種種の人間の苦報現世に軽く受くるは 斯れ護法の功徳力に由る故なり」等云云、 此経文は日蓮が身
0960top
01 なくば殆ど仏の妄語となりぬべし、 一には或被軽易 二には或形状醜陋三には衣服不足 四には飲食ソ疎五には求
02 財不利六には生貧賎家七には及邪見家八には或遭王難等云云、 此八句は只日蓮一人が身に感ぜり、 高山に登る者
03 は必ず下り我人を軽しめば 還て我身人に軽易せられん 形状端厳をそしれば醜陋の報いを得 人の衣服飲食をうば
04 へば必ず餓鬼となる持戒尊貴を笑へば 貧賎の家に生ず正法の家をそしれば邪見の家に生ず 善戒を笑へば国土の民
05 となり王難に遇ふ是は常の因果の定れる法なり、 日蓮は此因果にはあらず 法華経の行者を過去に軽易せし故に法
06 華経は月と月とを並べ星と星とをつらね 華山に華山をかさね玉と玉とをつらねたるが如くなる御経を 或は上げ或
07 は下て嘲弄せし故に此八種の大難に値るなり、 此八種は尽未来際が間一づつこそ現ずべかりしを 日蓮つよく法華
08 経の敵を責るによて 一時に聚り起せるなり 譬ば民の郷郡なんどにあるにはいかなる利銭を地頭等におほせたれど
09 もいたくせめず年年にのべゆく 其所を出る時に競起が如し 斯れ護法の功徳力に由る故なり等は是なり、 法華経
10 には「諸の無智の人有り悪口罵詈等し刀杖瓦石を加うる乃至国王・大臣・婆羅門・居士に向つて乃至数数擯出せられ
11 ん」等云云、 獄卒が罪人を責ずば地獄を出る者かたかりなん 当世の王臣なくば日蓮が過去謗法の重罪消し難し日
12 蓮は過去の不軽の如く 当世の人人は彼の軽毀の四衆の如し人は替れども因は是一なり、 父母を殺せる人異なれど
13 も同じ無間地獄におついかなれば 不軽の因を行じて日蓮一人釈迦仏とならざるべき 又彼諸人は跋陀婆羅等と云は
14 れざらんや 但千劫阿鼻地獄にて責られん事こそ不便にはおぼゆれ 是をいかんとすべき、彼軽毀の衆は始は謗ぜし
15 かども後には信伏随従せりき罪多分は滅して 少分有しが父母千人殺したる程の大苦をうく 当世の諸人は翻す心な
16 し譬喩品の如く無数劫をや経んずらん三五の塵点をやおくらんずらん。
17 これはさてをきぬ 日蓮を信ずるやうなりし者どもが日蓮がかくなれば疑ををこして法華経をすつるのみならず
18 かへりて日蓮を教訓して 我賢しと思はん僻人等が念仏者よりも久く阿鼻地獄にあらん事 不便とも申す計りなし、
0961top
01 修羅が仏は十八界我は十九界と云ひ 外道が云く仏は一究竟道我は九十五究竟道と云いしが如く 日蓮御房は師匠に
02 ておはせども余にこはし 我等はやはらかに法華経を弘むべしと云んは螢火が日月をわらひ 蟻塚が華山を下し井江
03 が河海をあなづり烏鵲が鸞鳳をわらふなるべしわらふなるべし。
04 南無妙法蓮華経。
05 文永九年壬太申歳三月二十日 日 蓮 花 押
06 日蓮弟子檀那等御中
07 佐渡の国は紙候はぬ上 面面に申せば煩あり一人ももるれば恨ありぬべし 此文を心ざしあらん人人は寄合て
08 御覧じ料簡候て心なぐさませ給へ、 世間にまさる歎きだにも出来すれば劣る歎きは物ならず当時の軍に死す
09 る人人実不実は置く幾か悲しかるらん、 いざはの入道さかべの入道いかになりぬらん かはのべ山城得行寺
10 殿等の事いかにと書付て給べし、 外典書の貞観政要すべて外典の物語八宗の相伝等此等がなくしては消息も
11 かかれ候はぬにかまへてかまへて給候べし。
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富木殿御返事 文永九年四月 五十一歳御作 於佐渡一の谷
01 御返事
02 日蓮が臨終一分も疑無く 頭を刎ねらるる時は 殊に喜悦有るべし、 大賊に値うて大毒を宝珠に易ゆと思う可
03 きか。
04 鵞目員数の如く給び候い畢んぬ御志申し送り難く候、 法門の事先度四条三郎左衛門尉殿に書持せしむ其の書能
05 く能く御覧有る可し、 粗経文を勘え見るに日蓮法華経の行者為る事疑無きか 但し今に天の加護を蒙らざるは一に
06 は諸天善神此の悪国を去る故か、 二には善神法味を味わざる故に威光勢力無きか、 三には大悪鬼三類の心中に入
07 り梵天帝釈も力及ばざるか等、 一一の証文道理追て進せしむ可く候、 但生涯本より思い切て候今に飜返ること無
08 く其の上又違恨無し諸の悪人は又善知識なり、 摂受・折伏の二義仏説に依る、 敢て私曲に非ず万事霊山浄土を期
09 す、恐恐謹言。
10 卯月十日 日蓮花押
11 土木殿
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土木殿御返事 文永十年七月 五十二歳御作
01 鵞目二貫給候い畢んぬ、太田殿と其れと二人の御心喜び候、伊与房は機量物にて候ぞ今年留め候い畢んぬ、御勘
02 気ゆりぬ事・御歎き候べからず候、 当世・日本国子細之れ有る可き由之を存ず定めて勘文の如く候べきか、 設い
03 日蓮死生不定為りと雖も 妙法蓮華経の五字の流布は疑い無き者か 伝教大師は御本意の円宗を日本に弘めんとす、
04 但し定慧は存生に之を弘め 円戒は死後に之を顕す事法為る故に一重大難之れ有るか、 仏滅後二千二百二十余年今
05 に寿量品の仏と肝要の五字とは流布せず、 当時果報を論ずれば恐らくは伝教・天台にも超え竜樹・天親にも勝れた
06 るか、 文理無くんば大慢豈之に過んや、 章安大師天台を褒めて云く「天竺の大論尚其の類に非ず真旦の人師何ぞ
07 労しく語るに及ばん 此れ誇耀に非ず法相の然らしむるのみ」等云云、 日蓮又復是くの如し 竜樹天親等尚其の類
08 に非ず等云云、 此れ誇耀に非ず法相の然らしむるのみ、 故に天台大師日蓮を指して云く「後の五百歳遠く妙道に
09 沾わん」等云云、 伝教大師当世を恋いて云く 「末法太はだ近きに有り」等云云、幸いなるかな我が身「数数見擯
10 出」の文に当ること悦ばしいかな悦ばしいかな、諸人の御返事に之を申す故に委細、恐恐。
11 七月六日 日蓮花押
12 土木殿御返事
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富木殿御書 文永十一年 五十三歳御作
01 けかち申すばかりなし米一合もうらずがししぬべし、 此の御房たちも・みなかへして但一人候べし、 このよ
02 しを御房たちにもかたりさせ給へ。
03 十二日さかわ十三日たけのした十四日くるまがへし十五日ををみや十六日なんぶ、 十七日このところ・いまだ
04 さだまらずといえども、 たいしはこの山中・心中に叶いて候へば・しばらくは候はんずらむ、結句は一人になりて
05 日本国に流浪すべきみにて候、又たちとどまるみならば・けさんに入り候べし、恐恐謹言。
06 十七日 日蓮在御判
07 ときどの
土木殿御返事
01 仕候なり
02 褒美に非ず実に器量者なり、来年正月大進阿闍梨房と越中と之を遣わし去るべく候、 白小袖一つ給い候い畢ん
03 ぬ、今年日本国一同に飢渇の上 佐渡の国には七月七日已下天より忽ちに石灰虫と申す虫と雨等にて 一時に稲穀損
04 し其の上疫病処処に遍満し方方死難脱れ難きか、事事紙上に尽し難く候、恐恐謹言。
05 十一月三日 日蓮在御判
06 土木殿御返事
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法華行者逢難事 文永十一年正月 五十三歳御作 与富木常忍
01 河野辺殿等中
02 大和阿闍梨御房御中
03 一切我弟子等中
04 三郎左衛門尉殿
05 謹上 日蓮
06 富木殿
07 追て申す、竜樹.天親は共に千部の論師なり,但権大乗を申べて法華経をば心に存して口に吐きたまわず此に口伝
08 有り,天台伝教は之を宣べて本門の本尊と四菩薩と戒壇と南無妙法蓮華経の五字と之を残したもう,所詮一には仏
09 .授与したまわざるが故に、 二には時機未熟の故なり,今既に時来れり四菩薩出現したまわんか日蓮此の事先ず
10 之を知りぬ、西王母の先相には青鳥・客人の来相にはカン鵲是なり、各各我が弟子たらん者は深く此の由を存ぜ
11 よ設い身命に及ぶとも退転すること莫れ。
12 富木.三郎左衛門の尉・河野辺.大和阿闍梨等・殿原・御房達各各互に読聞けまいらせさせ給え、かかる濁世には
13 互につねに・いゐあわせてひまもなく後世ねがわせ給い候へ。
14 法華経の第四に云く「如来の現在すら猶怨嫉多し況や滅度の後をや」等云云、 同第五に云く「一切世間怨多く
15 して信じ難し」等云云、 涅槃経の三十八に云く「爾の時に外道に無量の人有り○心瞋恚を生ず」等云云、 又云く
0966top
01 「爾の時に多く無量の外道有り和合して共に摩伽陀の王・ 阿闍世の前に往きぬ○今は唯一大悪人有り 瞿曇沙門な
02 り王未だ検校せず我等甚だ畏る、 一切世間の悪人利養の為の故に其の所に往集して眷属と為る乃至迦葉・舎利弗・
03 目ケン連」等云云如来現在猶多怨嫉の心是なり、 得一大徳天台智者大師を罵詈して曰く「智公汝は是れ誰が弟子ぞ
04 三寸に足らざる舌根を以て覆面舌の所説の教時を謗ず」、 又云く「豈是れ顛狂の人に不ずや」等云云、 南都七大
05 寺の高徳寺・護命僧都・景信律師等三百余人・ 伝教大師を罵詈して曰く「西夏に鬼弁婆羅門有り東土に巧言を吐く
06 禿頭沙門あり 此れ乃ち物類冥召して世間を誑惑す」等云云、 秀句に云く「浅きは易く深きは難しとは釈迦の所判
07 なり浅きを去つて深きに就くは丈夫の心なり、 天台大師は釈迦に信順し法華宗を助けて震旦に敷揚し、 叡山の一
08 家は天台に相承し法華宗を助けて日本に弘通す」云云。
09 夫れ在世と滅後と正像二千年の間に法華経の行者・唯三人有り所謂仏と天台・伝教となり、真言宗の善無畏・不
10 空等・華厳宗の杜順・智儼等・三論法相等の人師等は実経の文を会して権の義に順ぜしむる人人なり、竜樹・天親等
11 の論師は内に鑒みて外に発せざる論師なり、 経の如く宣伝すること正法の四依も天台・伝教には如かず、 而るに
12 仏記の如くんば末法に入つて法華経の行者有る可し 其の時の大難・在世に超過せんと云云、 仏に九横の大難有り
13 所謂孫陀利の謗と金鏘と馬麦と琉璃の釈を殺すと 乞食空鉢と旃遮女の謗と調達が山を推すと 寒風に衣を索むると
14 なり、其の上一切外道の讒奏上に引くが如し記文の如くんば天台・伝教も仏記に及ばず。
15 之を以て之を案ずるに末法の始に仏説の如く行者世に出現せんか、 而るに文永十年十二月七日・武蔵の前司殿
16 より佐土の国へ下す状に云く自判之在り。
17 佐渡の国の流人の僧日蓮弟子等を引率し悪行を巧むの由 其の聞え有り所行の企て甚だ以て奇怪なり今より以後
18 彼僧に相い随わん輩に於ては 炳誡を加えしむ可し 、猶以て違犯せしめば 交名を注進せらる可きの由の所に候な
0967top
01 り、仍て執達件の如し。
02 文永十年十二月七日 沙門観恵上る
03 依智六郎左衛門尉等云云。
04 此の状に云く悪行を巧む等云云、外道が云く瞿曇は悪人なり等云云、又九横の難一一に之在り、 所謂琉璃殺釈
05 と乞食空鉢と寒風索衣とは仏世に超過せる大難なり、 恐くは天台・伝教も未だ此の難に値いたまわず 当に知るべ
06 し三人に日蓮を入れ四人と為して 法華経の行者末法に有るか、 喜い哉況滅度後の記文に当れり 悲い哉国中の諸
07 人阿鼻獄に入らんこと茂きを厭うて之を子細に記さず心を以て之を推せよ。
08 文永十一年甲戌正月十四日 日蓮花押
09 一切の諸人之を見聞し志有らん人人は互に之を語れ。
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富木殿御返事 文永十二年 五十四歳御作
01 富木殿御返事 日蓮
02 帷一領給び候い畢んぬ、 夫れ仏弟子の中・比丘一人はんべり、飢饉の世に仏の御時事かけて候いければ比丘袈
03 裟をうて其のあたいを仏に奉る、 仏其の由来を問い給いければ・しかじかとありのままに申しけり、仏云く「袈裟
04 はこれ三世の諸仏・ 解脱の法衣なり、 このあたひをば我ほうじがたし」と辞退しましまししかば此の比丘申すは
05 「この袈裟あたひをば・いかんがせん」と申しければ、 仏の云く「汝悲母有りや不や」答えて云く「有り」仏云く
06 「此の袈裟をば汝母に供養すべし」此の比丘・ 仏に云く「仏は此れ三界の中第一の特尊なり一切衆生の眼目にてを
07 はす、 設い十方世界を覆う衣なりとも大地にしく袈裟なりとも能く報じ給うべし、 我が母は無智なる事牛のごと
08 し羊よりもはかなし いかでか袈裟の信施をほうぜん」と云云、 仏返して告げて云く「汝が身をば誰か生みしぞや
09 汝が母これを生む 此の袈裟の恩報じぬべし」等云云、 此れは又齢九旬にいたれる悲母の愛子にこれをまいらせさ
10 せ給える我と両眼をしぼり身命を尽くせり、 我が子の身として此の帷の恩かたしと・をぼして・ つかわせるか日
11 蓮又ほうじがたし、 しかれども又返すべきにあらず此の帷をきて日天の御前にして 此の子細を申し上げば定めて
12 釈梵諸天しろしめすべし、 帷は一なれども十方の諸天此れをしり給うべし、 露を大海によせ 土を大地に加るが
13 ごとし生生に失せじ世世にくちざらむかし、恐恐謹言。
14 二月五日 日 蓮 花押
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富木殿御書 建治元年 五十四歳御作 与富木常忍
01 妙法蓮華経の第二に云く 「若し人信ぜずして此の経を毀謗し経を読誦し書持すること有らん者を見て軽賎憎嫉
02 して結恨を懐かん 其人命終して阿鼻獄に入らん 乃至是の如く展転して無数劫に至らん」第七に云く「千劫阿鼻獄
03 に於てす」第三に云く 「三千塵点」第六に云く「五百塵点劫」等云云、 涅槃経に云く「悪象の為に殺されては三
04 悪に至らず 悪友の為に殺されては必ず三悪に至る」等云云、 賢慧菩薩の法性論に云く「愚にして正法を信ぜず邪
05 見及びキョウ慢なるは 過去の謗法の障りなり不了義に執着して供養恭敬に著し唯邪法を見て善知識に遠離して謗法
06 者の小乗の法に楽著する是の如き等の衆生に親近して大乗を信ぜず故に諸仏の法を謗ず、智者は怨家・蛇・火毒・因
07 陀羅・霹靂・刀杖諸の悪獣・虎狼・師子等を畏るべからず、 彼は但能く命を断じて人をして畏るべき阿鼻獄に入ら
08 しむること能わず、 畏るべきは深法を謗ずると及び謗法の知識となり決定して 人をして畏るべき阿鼻獄に入らし
09 む、 悪知識に近づきて悪心にして仏の血を出だし及び父母を殺害し 諸の聖人の命を断じ和合僧を破壊し及び諸の
10 善根を断ずると雖も 念を正法に繋ぐるを以て能く彼の処を解脱せん、 若し復余人有つて甚深の法を誹謗せば彼の
11 人無量劫にも解脱を得べからず、 若し人衆生をして是の如きの法を覚信せしめば 彼は是我が父母 亦是れ善知識
12 なり、 彼の人は是智者なり如来の滅後に邪見顛倒を廻して 正道に入らしむるを以ての故に三宝清浄の信・菩提功
13 徳の業なり」等云云、 竜樹菩薩の菩提資糧論に云く「五無間の業を説きたもう乃至若し未解の深法に於て執着を起
14 せるは○彼の前の五無間等の罪聚に之を比するに百分にしても及ばず」云云。
15 夫れ賢人は安きに居て危きを歎き佞人は危きに居て安きを歎く 大火は小水を畏怖し大樹は小鳥に値いて枝を折
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01 らる智人は恐怖すべし大乗を謗ずる故に、 天親菩薩は舌を切らんと云い 馬鳴菩薩は頭を刎ねんと願い吉蔵大師は
02 身を肉橋と為し 玄奘三蔵は此れを霊地に占い不空三蔵は疑いを天竺に決し 伝教大師は此れを異域に求む皆上に挙
03 ぐる所は経論を守護する故か。
04 今日本国の八宗並びに浄土.禅宗等の四衆上主上・上皇より下臣下万民に至るまで皆一人も無く弘法.慈覚・智証
05 の三大師の末孫・檀越なり、円仁・慈覚大師云く「故に彼と異り」円珍・智証大師云く「華厳・法華を大日経に望む
06 れば戯論と為す」空海弘法大師云く「後に望むれば戯論と為す」等と云云、此の三大師の意は法華経は已・今・当の
07 諸経の中の第一なり然りと雖も 大日経に相対すれば戯論の法なり等云云、此の義心有らん人信を取る可きや不や。
08 今日本国の諸人.悪象.悪馬・悪牛.悪狗.毒蛇.悪刺.懸岸.険崖.暴水.悪人.悪国.悪城.悪舎・悪妻.悪子.悪所従等
09 よりも此に超過し以て恐怖すべきこと百千万億倍なれば持戒・ 邪見の高僧等なり、 問うて云く上に挙ぐる所の三
10 大師を謗法と疑うか叡山第二の円澄寂光大師.別当光定大師・安慧大楽大師・慧亮和尚・安然和上・浄観僧都.檀那僧
11 正・慧心先徳・此等の数百人、弘法の御弟子実慧・真済・真雅等の数百人並びに八宗.十宗等の大師先徳・日と日と.
12 月と月と・星と星と・並びに出でたるが如し、 既に四百余年を経歴するに此等の人人一人として此の義を疑わず汝
13 何なる智を以て之を難ずるや云云。
14 此等の意を以て之を案ずるに我が門家は夜は眠りを断ち 昼は暇を止めて之を案ぜよ一生空しく過して万歳悔ゆ
15 ること勿れ、恐恐謹言。
16 八月二十三日 日 蓮 花 押
17 富 木 殿
18 鵞目一結給び候畢んぬ、志有らん諸人は一処に聚集して御聴聞有るべきか。
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御衣並単衣御書 建治元年 五十四歳御作
01 御衣の布並びに御単衣給び候い畢んぬ鮮白比丘尼と申せし人は生れさせ給いて御衣をたてまつりたりけり、 生
02 長するほどに次第にこの衣大になりけり、 後に尼とならせ給いければ 法衣となりにけり、ついに法華経の座にし
03 て記ベツをさづかる一切衆生喜見如来これなり、又法華経を説く人は柔和忍辱衣と申して必ず衣あるべし、 物たね
04 と申すもの一なれども植えぬれば多くとなり 竜は小水を多雨となし人は小火を大火となす、 衣かたびらは一なれ
05 ども法華経にまいらせ給いぬれば法華経の文字は六万九千三百八十四字・ 一字は一仏なり、 此の仏は再生敗種を
06 心符とし 顕本遠寿を其の寿とし常住仏性を咽喉とし一乗妙行を眼目とせる仏なり、 応化非真仏と申して三十二相
07 八十種好の仏よりも 法華経の文字こそ真の仏にてはわたらせ給いて 仏在世に仏を信ぜし人は仏にならざる人もあ
08 り、 仏の滅後に法華経を信ずる人は無一不成仏如来の金言なり、 この衣をつくりてかたびらをきそえて法華経を
09 よみて候わば日蓮は無戒の比丘なり法華経は正直の金言なり、 毒蛇の珠をはき伊蘭の栴檀をいだすがごとし、 恐
10 恐謹言。
11 九月二十八日 日 蓮 花 押
12 御 返 事
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観心本尊得意抄 建治元年十一月 五十四歳御作
01 鵞目一貫文厚綿の白小袖一つ筆十管墨五丁給び畢んぬ。
02 身延山は知食如く冬は嵐はげしくふり積む雪は消えず極寒の処にて候間・ 昼夜の行法もはだうすにては堪え難
03 く辛苦にて候に此の小袖を著ては思い有る可からず候なり、 商那和修は付法蔵の第三の聖人なり、 此の因位を仏
04 説いて云く「乃往過去に病の比丘に衣を与うる故に生生・世世に不思議自在の衣を得たり」、 今の御小袖は彼に似
05 たり此の功徳は日蓮は之を知る可からず併ながら釈迦仏に任せ奉り畢んぬ。
06 抑も今の御状に云く教信の御房・観心本尊抄の未得等の文字に付て迹門をよまじと疑心の候なる事・不相伝の僻
07 見にて候か、 去る文永年中に此の書の相伝は整足して貴辺に奉り候しが其の通りを以て御教訓有る可く候、所詮・
08 在在・ 処処に迹門を捨てよと書きて候事は今我等が読む所の迹門にては候はず、 叡山天台宗の過時の迹を破し候
09 なり、 設い天台伝教の如く法のままありとも今末法に至ては去年の暦の如し 何に況や慈覚自り已来大小権実に迷
10 いて大謗法に同じきをや、然る間・像法の時の利益も之無し増して末法に於けるをや。
11 一北方の能化難じて云く爾前の経をば未顕真実と捨て乍ら 安国論には爾前の経を引き文証とする事自語相違と
12 不審の事・前前申せし如し、 総じて一代聖教を大に分つて二と為す一には大綱二には網目なり、 初の大綱とは成
13 仏得道の教なり、成仏の教とは法華経なり、 次に網目とは法華已前の諸経なり、 彼の諸経等は不成仏の教なり、
14 成仏得道の文言之を説くと雖も 但名字のみ有て其の実義は法華に之有り、 伝教大師の決権実論に云く「権智の所
15 作は唯名のみ有て実義有ること無し」云云、 但し権教に於ても成仏得道の外は説相空しかる可からず 法華の為の
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01 網目なるが故に、 所詮成仏の大綱を法華に之を説き其の余の網目は衆典に之を明す、 法華の為の網目なるが故に
02 法華の証文に之を引き用ゆ可きなり、 其の上法華経にて実義有る可きを 爾前の経にして名字計りののしる事全く
03 法華の為なり、然る間尤も法華の証文となるべし。
04 問う法華を大綱とする証如何、 答う天台は当に知るべし此の経は唯如来説教の大綱を論じて網目を委細にせざ
05 るなりと、 問う爾前を網目とする証如何、 答う妙楽の云く「皮膚毛綵衆典に出在せり」云云、問う成仏は法華に
06 限ると云う証如何、 答う経に云く「唯一乗の法のみ有て二も無く亦三も無し」 文問う爾前は法華の為との証如何
07 答う経に云く「種種の道を示すと雖も仏乗の為なり」 委細申し度く候と雖も 心地違例して候程に省略せしめ候、
08 恐恐謹言。
09 十一月二十三日 日蓮花押
10 富木殿御返事
11 帥殿の物語りしは下総に目連樹と云う木の候よし申し候し、 其の木の根をほりて十両ばかり両方の切目には焼
12 金を宛てて紙にあつく・つつみて風ひかぬ様にこしらへて大夫次郎が便宜に給び候べきよし御伝えあるべく候。
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聖人知三世事 建治元年 五十四歳御作 与富木常忍
01 聖人と申すは委細に三世を知るを聖人と云う、儒家の三皇・五帝並びに三聖は但現在を知つて過・未を知らず外
02 道は過去八万・未来八万を知る一分の聖人なり、 小乗の二乗は過去・未来の因果を知る外道に勝れたる聖人なり、
03 小乗の菩薩は過去三僧祇菩薩、 通教の菩薩は過去に動踰塵劫を経歴せり、 別教の菩薩は一一の位の中に多倶低劫
04 の過去を知る、 法華経の迹門は過去の三千塵点劫を演説す一代超過是なり、 本門は五百塵点劫・過去遠遠劫をも
05 之を演説し又未来無数劫の事をも宣伝し、 之に依つて之を案ずるに 委く過未を知るは聖人の本なり、 教主釈尊
06 既に近くは去つて後三月の涅槃之を知り遠くは 後五百歳・広宣流布疑い無き者か、 若し爾れば近きを以て遠きを
07 推し現を以て当を知る如是相乃至本末究竟等是なり。
08 後五百歳には 誰人を以て法華経の行者と之を知る可きや予は未だ我が智慧を信ぜず然りと雖も自他の返逆・侵
09 逼之を以て我が智を信ず 敢て他人の為に非ず又我が弟子等之を存知せよ 日蓮は是れ法華経の行者なり不軽の跡を
10 紹継するの故に軽毀する人は頭七分に破・ 信ずる者は福を安明に積まん、 問うて云く何ぞ汝を毀る人頭破七分無
11 きや、 答えて云く古昔の聖人は仏を除いて已外之を毀る人・ 頭破但一人二人なり今日蓮を毀呰する事は非一人二
12 人に限る可らず日本一国・ 一同に同じく破るるなり、所謂正嘉の大地震・文永の長星は誰か故ぞ日蓮は一閻浮提第
13 一の聖人なり、 上一人より下万民に至るまで之を軽毀して刀杖を加え流罪に処するが故に梵と釈と日月・ 四天と
14 隣国に仰せ付けて之を逼責するなり、大集経に云く・仁王経に云く・涅槃経に云く・法華経に云く・設い万祈を作す
15 とも日蓮を用いずんば必ず此の国今の壱岐・ 対馬の如くならん、 我が弟子仰いで之を見よ此れ偏に日蓮が貴尊な
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01 るに非ず法華経の御力の殊勝なるに依るなり、 身を挙ぐれば慢ずと想い身を下せば経を蔑る 松高ければ藤長く源
02 深ければ流れ遠し、幸なるかな楽しいかな穢土に於て喜楽を受くるは但日蓮一人なる而已。
富木尼御前御返事 建治二年 五十五歳御作
01 鵞目一貫並びにつつひとつ給い候い了んぬやのはしる事は弓のちから・くものゆくことはりうのちから、 をと
02 このしわざはめのちからなり、 いまときどののこれへ御わたりある事尼ごぜんの御力なり、 けぶりをみれば火を
03 みるあめをみればりうをみる、 をとこをみればめをみる、 今ときどのにけさんつかまつれば尼ごぜんをみたてま
04 つるとをぼう、 ときどのの御物がたり候は このはわのなげきのなかにりんずうのよくをはせしと尼がよくあたり
05 かんびやうせし事のうれしさ いつのよにわするべしともをぼえずと・ よろこばれ候なり、なによりもをぼつかな
06 き事は御所労なり、 かまえてさもと三年はじめのごとくにきうじせさせ給へ、 病なき人も無常まぬかれがたし但
07 しとしのはてにはあらず、 法華経の行者なり非業の死にはあるべからずよも業病にては候はじ、 設い業病なりと
08 も法華経の御力たのもし、 阿闍世王は法華経を持ちて四十年の命をのべ陳臣は十五年の命をのべたり、 尼ごぜん
09 又法華経の行者なり御信心月のまさるがごとく・ しをのみつがごとし、 いかでか病も失せ寿ものびざるべきと強
10 盛にをぼしめし身を持し心に物をなげかざれ、 なげき出来る時はゆきつしまの事だざひふの事 かまくらの人人の
11 天の楽・のごとにありしが、 当時つくしへむかへばとどまるめこゆくをとこ、はなるるときはかわをはぐがごとく
12 かをと・かをとをとりあわせ目と目とをあわせてなげきしが、 次第にはなれてゆいのはま・いなぶらこしごえさか
13 わはこねさか一日二日すぐるほどに、 あゆみあゆみとをざかるあゆみを かわも山もへだて雲もへだつればうちそ
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01 うものはなみだなりともなうものはなげきなり、 いかにかなしかるらむかくなげかんほどに・ もうこのつわもの
02 せめきたらば山か海もいけとりか・ふねの内か・かうらいかにて・うきめにあはん、これ・ひとへに失もなくて日本
03 国の一切衆生の父母となる法華経の行者日蓮をゆへもなく 或はのり或は打ち或はこうじをわたし、 ものにくるい
04 しが十羅刹のせめをかほりてなれる事なり、 又又これより百千万億倍たへがたき事どもいで来るべし、 不思議を
05 目の前に御らんあるぞかし、 我れ等は仏に疑いなしとをぼせば・ なにのなげきか有るべき、きさきになりても・
06 なにかせん天に生れても・ようしなし、 竜女があとをつぎ摩訶波闍波提比丘尼のれちにつらなるべし、 あらうれ
07 し・あらうれし、南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経と唱えさせ給へ、恐恐謹言。
08 三月二十七日 日蓮花押
09 尼ごぜんへ
忘持経事 建治二年 五十五歳御作 与富木常忍
01 忘れ給う所の御持経追て修行者に持たせ之を遣わす。
02 魯の哀公云く人好く忘る者有り移宅に乃ち其の妻を忘れたり云云、 孔子云く又好く忘るること此れより甚しき
03 者有り 桀紂の君は乃ち其の身を忘れたり等云云、 夫れ槃特尊者は名を忘る此れ閻浮第一の好く忘るる者なり今常
04 忍上人は持経を忘る日本第一の好く忘るるの仁か、 大通結縁の輩は衣珠を忘れ三千塵劫を経て貧路に踟ユウし久遠
05 下種の人は良薬を忘れ 五百塵点を送りて三途の嶮地に顛倒せり、今真言宗・念仏宗・禅宗・律宗等の学者等は仏陀
06 の本意を忘失し 未来無数劫を経歴して 阿鼻の火坑に沈淪せん、 此れより第一の好く忘るる者あり所謂今の世の
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01 天台宗の学者等と持経者等との日蓮を誹謗し 念仏者等を扶助する是れなり、 親に背いて敵に付き刀を持ちて自を
02 破る此等は且く之を置く。
03 夫れ常啼菩薩は東に向つて般若を求め善財童子は南に向いて 華厳を得る雪山の小児は半偈に身を投げ楽法梵志
04 は一偈に皮を剥ぐ、此等は皆上聖大人なり其の迹をカンガうるに地.住に居し其の本を尋ぬれば等妙なるのみ.身は八
05 熱に入つて火坑三昧を得・ 心は八寒に入つて清凉三昧を証し身心共に苦無し、 譬えば矢を放つて虚空を射石を握
06 つて水に投ずるが如し。
07 今常忍貴辺は末代の愚者にして見思未断の凡夫なり、 身は俗に非ず道に非ず禿居士心は善に非ず悪に非ず羝羊
08 のみ、 然りと雖も一人の悲母堂に有り朝に出で主君に詣で夕に入て 私宅に返り営む所は悲母の為め存する所は孝
09 心のみ、 而るに去月下旬の比・ 生死の理を示さんが為に 黄泉の道に趣く此に貴辺と歎いて言く齢既に九旬に及
10 び子を留めて 親の去ること次第たりと雖も 倩事の心を案ずるに去つて 後来る可からず何れの月日をか期せん二
11 母国に無し今より後誰をか拝す可き、 離別忍び難きの間舎利を頚に懸け足に任せて大道に出で 下州より甲州に至
12 る其の中間往復千里に及ぶ 国国皆飢饉し山野に盗賊充満し 宿宿粮米乏少なり我身羸弱・所従亡きが若く牛馬合期
13 せず峨峨たる大山重重として 漫漫たる大河多多なり高山に登れば 頭を天にウち幽谷に下れば足雲を踏む鳥に非れ
14 ば渡り難く鹿に非れば越え難し眼眩き足冷ゆ、 羅什三蔵の葱嶺・役の優婆塞の大峰も只今なりと云云、 然る後深
15 洞に尋ね入りて一菴室を見る 法華読誦の音青天に響き一乗談義の言山中に聞ゆ、 案内を触れて室に入り教主釈尊
16 の御宝前に母の骨を安置し五躰を地に投げ合掌して 両眼を開き尊容を拝し歓喜身に余り心の苦み忽ち息む、 我が
17 頭は父母の頭・我が足は父母の足・我が十指は父母の十指・我が口は父母の口なり、 譬えば種子と菓子と身と影と
18 の如し教主釈尊の成道は浄飯.摩耶の得道・吉占師子・青提女・目ケン尊者は同時の成仏なり、是の如く観ずる時.無
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01 始の業障忽ちに消え心性の妙蓮忽ちに開き給うか然して後に随分仏事を為し事故無く還り給う云云、恐恐謹言。
02 富木入道殿
富木殿御返事 建治二年十一月 五十五歳御作
01 鵞目一結天台大師の御宝前を荘厳し候い了んぬ、経に云く「法華最第一なり」と、又云く「能く是の経典を受持
02 すること有らん者も亦復是の如し 一切衆生の中に於て亦これ第一なり」と、 又云く「其の福復彼れに過ぐ」妙楽
03 云く「若し悩乱する者は頭七分に破れ 供養すること有らん者は福十号に過ぐ」 伝教大師も「讃者は福を安明に積
04 み謗者は罪を無間に開く」等云云、 記の十に云く「方便の極位に居る菩薩猶尚第五十人に及ばず」等云云、 華厳
05 経の法慧功徳林大日経の金剛薩タ等尚法華経の博地に及ばず 何に況や其の宗の元祖等 法蔵善無畏等に於てをや、
06 是れは且く之を置く、 尼ごぜんの御所労の御事我身一身の上とをもひ候へば 昼夜に天に申し候なり、此の尼ごぜ
07 んは法華経の行者をやしなう事 灯に油をそへ木の根に土をかさぬるがごとし、 願くは日月天 其の命にかわり給
08 へと申し候なり、又をもいわするる事もやと・いよ房に申しつけて候ぞ、たのもしとをぼしめせ、恐恐。
09 十一月二十九日 日蓮花押
10 富木殿御返事
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道場神守護事 建治二年十二月 五十五歳御作
01 鵞目五貫文慥に送り給び候い了ぬ、 且つ知食すが如く此の所は里中を離れたる深山なり衣食乏少の間読経の声
02 続き難く談義の勤め廃しつ可し、 此の託宣は十羅刹の御計にて檀那の功を致さしむるか、 止観の第八に云く「帝
03 釈堂の小鬼敬い避くるが如し道場の神大なれば妄りに侵ニョウすること無し、又城の主剛ければ守る者も強し城の主
04 オズれば守る者忙る、 心は是れ身の主なり同名同生の天是れ能く人を守護す心固ければ則ち強し身の神尚爾なり況
05 や道場の神をや」弘決の第八に云く 「常に人を護ると雖も必ず心の固きに仮りて神の守り則ち強し」又云く 「身
06 の両肩の神尚常に人を護る 況や道場の神をや」云云、 人所生の時より二神守護す所謂同生天同名天是を倶生神と
07 云う華厳経の文なり、 文句の四に云く「賊南無仏と称して尚天頭を得たり 況や賢者称せば十方の尊神敢て当らざ
08 らんや但精進せよ懈怠すること勿れ」等云云、 釈の意は月氏天を崇めて 仏を用いざる国あり而るに寺を造り第六
09 天の魔王を主とす頭は金を以てす 大賊年来之を盗まんとして得ず有時仏前に詣で物を盗んで法を聴く、 仏説いて
10 云く南無とは驚覚の義也盗人 之を聞いて南無仏と称して天頭を得たり、 之を糾明する処盗人上の如く之を申す一
11 国皆天を捨てて仏に帰せり云云、 彼を以て之を推するに設い科有る者も三宝を信ぜば大難を脱れんか、 而るに今
12 示し給える託宣の状は兼て之を知る 之を案ずるに難を郤て福の来る先兆ならんのみ、 妙法蓮華経の妙の一字は竜
13 樹菩薩の大論に釈して云く 「能く毒を変じて薬と為す」と云云、 天台大師の云く「今経に記を得る即ち是れ毒を
14 変じて薬と為すなり」と云云、 災来るとも変じて幸と為らん何に況や十羅刹之を兼るをや、 薪火を熾にし風求羅
15 を益すとは是なり、言は紙上に尽し難し心を以て之を量れ、恐恐謹言。
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01 十二月十三日 日蓮花押
02 御返事
常忍抄 建治三年十月 五十六歳御作
01 御文粗拝見仕り候い了んぬ。
02 御状に云く常忍の云く記の九に云く「権を禀けて界を出づるを名けて虚出と為す」云云、了性房云く全く以て其
03 の釈無し云云、記の九に云く寿量品の疏「無有虚出より昔虚為実故に至るまでは為の字去声権を禀けて界を出づるを
04 名ケて虚出と為す三乗は皆三界を出でずと云うこと無し人天は三途を出でんが為ならずと云うこと無し並に名けて虚
05 と為す」云云、文句の九に云く「虚より出でて而も実に入らざる者有ること無し、 故に知んぬ昔の虚は去声実の為
06 の故なり」と云云、 寿量品に云く「諸の善男子・ 如来諸の衆生小法を楽う徳薄垢重の者を見て乃至以諸衆生乃至
07 未曾暫廃」云云、此の経の文を承けて、 天台・妙楽は釈せしなり、 此の経文は初成道の華厳の別円より乃至法華
08 経の迹門十四品を或は小法と云い或は徳薄垢重・或は虚出等と説ける経文なり、 若し然らば華厳経の華厳宗・深密
09 経の法相宗・般若経の三論宗・大日経の真言宗・観経の浄土宗・楞伽経の禅宗等の諸経の諸宗は依経の如く其の経を
10 読誦すとも三界を出でず 三途を出でざる者なり何に況や或は彼を実と称し或は勝ぐる等云云、此の人人・ 天に向
11 つて唾を吐き地を忿んで忿を為す者か。
12 此の法門に於て如来滅後・月氏一千五百余年・付法蔵の二十四人・竜樹・天親等知つて未だ此れを顕さず、漢土
13 一千余年の余人も未だ之を知らず但天台・妙楽等粗之を演ぶ、 然りと雖も未だ其の実義を顕さざるか、 伝教大師
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01 以て是くの如し、 今日蓮粗之を勘うるに法華経の此の文を重ねて涅槃経に演べて云く 「若し三法に於て異の想を
02 修する者は当に知るべし是の輩は清浄の三帰則ち依処無く所有の禁戒皆具足せず終に声聞・ 縁覚・菩薩の果を証す
03 ることを得ず」等云云、 此の経文は正しく法華経の寿量品を顕説せるなり 寿量品は木に譬え爾前・迹門をば影に
04 譬うる文なり、経文に又之有り、五時・八教・当分・跨節・大小の益は影の如し本門の法門は木の如し云云、又寿量
05 品已前の在世の益は闇中の木の影なり 過去に寿量品を聞きし者の事なり等云云、 又不信は謗法に非ずと申す事、
06 又云く 不信の者地獄に堕ちずとの事、 五の巻に云く「疑を生じて信ぜざらん者は 則ち当に悪道に堕つべし」云
07 云。
08 総じて御心へ候へ法華経と爾前と引き向えて勝劣・浅深を判ずるに当分・跨節の事に三つの様有り日蓮が法門は
09 第三の法門なり、 世間に粗夢の如く一二をば申せども第三をば申さず候、第三の法門は天台・妙楽・伝教も粗之を
10 示せども未だ事了えず所詮末法の今に譲り与えしなり、 五五百歳は是なり、 但し此の法門の御論談は余は承らず
11 候・彼は広学多聞の者なりはばかり・はばかり・みた・みたと候いしかば此の方のまけなんども申しつけられなば・
12 いかんがし候べき、 但し彼の法師等が彼の釈を知り候はぬは・さてをき候いぬ、六十巻になしなんど申すは天のせ
13 めなり謗法の科の法華経の御使に値うて顕れ候なり、 又此の沙汰の事を定めて・ゆへありて出来せり・かしまの大
14 田次郎兵衛・大進房・又本院主もいかにとや申すぞ・よくよくきかせ給い候へ、 此れ等は経文に子細ある事なり、
15 法華経の行者をば 第六天の魔王の必ず障うべきにて候、 十境の中の魔境此れなり魔の習いは善を障えて悪を造ら
16 しむるをば悦ぶ事に候、 強いて悪を造らざる者をば力及ばずして善を造らしむ 又二乗の行をなす物をば・あなが
17 ちに怨をなして善をすすむるなり、 又菩薩の行をなす物をば遮つて二乗の行をすすむ是後に純円の行を一向になす
18 者をば兼別等に堕すなり止観の八等を御らむあるべし。
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01 又彼が云く止観の行者は持戒等云云、文句の九には初・二・三の行者の持戒をば此れをせいす経文又分明なり、
02 止観に相違の事は 妙楽の問答之有り記の九を見る可し、 初随喜に二有り利根の行者は持戒を兼ねたり鈍根は持戒
03 之を制止す、又正・像・末の不同もあり摂受・折伏の異あり伝教大師の市の虎の事思い合わすべし。
04 此れより後は下総にては御法門候べからず了性・思念を・つめつる・上は他人と御論候わば・かへりてあさくな
05 りなん、 彼の了性と思念とは年来・日蓮をそしるとうけ給わる、 彼等程の蚊虻の者が日蓮程の師子王を聞かず見
06 ずしてうはのそらに・ そしる程のをこじんなり、 天台法華宗の者ならば我は南無妙法蓮華経と唱えて念仏なんど
07 申す者をば・あれはさる事なんど申すだにも・きくわいなるべきに其の義なき上・偶申す人をそしる・でう・あらふ
08 しぎふしぎ、 大進房が事さきざき・かきつかわして候やうに・つよづよとかき上申させ給い候へ、大進房には十羅
09 刹のつかせ給いて引きかへしせさせ給うとをぼへ候ぞ、 又魔王の使者なんどがつきて候いけるが・ はなれて候と
10 をぼへ候ぞ、 悪鬼入其身はよも・そら事にては候はじ、事事重く候へども、此の使いそぎ候へばよるかきて候ぞ、
11 恐恐謹言。
12 十月一日 日蓮花押
始聞仏乗義 建治四年二月 五十七歳御作 与富木常忍
01 青鳧七結下州より甲州に送らる 其の御志悲母の第三年に相当る 御孝養なり、 問う止観明静前代未聞の心如
02 何、答う円頓止観なり、 問う円頓止観の意何ん、答う法華三昧の異名なり、 問う法華三昧の心如何、答う夫れ末
03 代の凡夫法華経を修行する意に二有り 一には就類種の開会 二には相対種の開会なり、 問う此の名は何より出る
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01 や、答う法華経第三薬草喩品に云く「種相体性」の四字なり其の四字の中に第一の種の一字に二あり、 一には就類
02 種二には相対種なり、 其の就類種とは釈に云く 「凡そ心有る者は是れ正因の種なり随つて一句を聞くは是れ了因
03 の種なり低頭挙手は是れ縁因の種なり」等云云、 其の相対種とは煩悩と業と苦との三道・ 其の当体を押えて法身
04 と般若と解脱と称する是なり、 其の中に就類種の一法は宗は法華経に有りと雖も少分又爾前の経経にも通ず、 妙
05 楽云く 「別教は唯就類の種有つて而も相対無し」と云云、 此の釈の別教と云うは本の別教には非ず爾前の円或は
06 他師の円なり、 又法華経の迹門の中・供養舎利已下二十余行の法門も大体就類種の開会なり、 問う其の相対種の
07 心如何、 答う止観に云く「云何なるか聞円法なる生死即法身・煩悩即般若・結業即解脱なりと聞くなり三の名有り
08 と雖も而も三の体無し是れ一体なりと雖も而も三の名を立つ 是の三即ち一相にして其れ実に異有ること無し、 法
09 身究竟すれば般若も解脱も亦究竟なり 般若清浄なれば余亦清浄なり 解脱自在なれば余亦自在なり一切の法を聞く
10 こと亦是の如し 皆仏法を具して減少する所無し是を聞円と名く」等云云、 此の釈は即ち相対種の手本なり其の意
11 如何、答う生死とは我等が苦果の依身なり所謂五陰・十二入・ 十八界なり煩悩とは見思・塵沙・無明の三惑なり結
12 業とは五逆・十悪・四重等なり、 法身とは法身如来・般若とは報身如来・解脱とは応身如来なり我等衆生無始曠劫
13 より已来此の三道を具足し今法華経に値つて三道即三徳となるなり。
14 難じて云く火より水出でず石より草生ぜず悪因・ 悪果を感じ善因善報を生ずるは仏教の定れる習なり而るに我
15 等其の根本を尋ね究むれば父母の精血・ 赤白二渧和合して一身と為る 悪の根本不浄の源なり、 設い大海を傾け
16 て之を洗うとも清浄なる可らず又此れ苦果の依身は其の根本を探り見れば貧・瞋・癡の三毒より出ずるなり、 此の
17 煩悩苦果の二道に依つて業を構う 此の業道即ち是れ結縛の法なり、 譬えば篭に入れる鳥の如し如何ぞ此の三道を
18 以て三仏因と称するや、 譬えば糞を集めて栴檀を造れども終に香しからざるが如し、 答う汝が難大いに道理なり
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01 我此の事を弁えず 但し付法蔵の第十三天台大師の高祖 ・竜樹菩薩・妙法の妙の一字を釈して譬えば大薬師の能く
02 毒を以て薬と為すが如し等云云、毒と云うは何物ぞ我等が煩悩・業・苦の三道なり薬とは何物ぞ法身・般若・解脱な
03 り、 能く毒を以て薬と為すとは何物ぞ三道を変じて三徳と為すのみ、 天台云く妙は不可思議と名づく等云云、又
04 云く一心乃至不可思議境・意此に在り等云云、 即身成仏と申すは此れ是なり、近代の華厳・真言等此の義を盗み取
05 りて我が物と為す大偸盗天下の盗人是なり。
06 問うて云く凡夫の位も此の秘法の心を知るべきや、答う私の答は詮無し竜樹菩薩の大論に云く九十三なり「今漏
07 尽の阿羅漢還つて作仏すと云うは 唯仏のみ能く知ろしめす、論議とは正しく其の事を論ず可し測り知ること能わず
08 是の故に戯論すべからず若し仏を求め得る時 乃ち能く了知す余人は信ずべく而も未だ知るべからず」等云云、 此
09 の釈は爾前の別教の十一品の断無明・ 円教の四十一品の断無明の大菩薩・普賢・文殊等も未だ法華経の意を知らず
10 何に況や蔵通二教の三乗をや何に況や末代の凡夫をやと云う論文なり、 之を以て案ずるに法華経の唯仏与仏・ 乃
11 能究尽とは爾前の灰身滅智の二乗の煩悩・業・苦の三道を押えて法身・般若・解脱と説くに二乗還つて作仏す菩薩・
12 凡夫も亦是くの如しと釈するなり、 故に天台の云く二乗根敗す之を名けて毒と為す 今経に記を得る即ち是れ毒を
13 変じて薬と為す、 論に云く余経は秘密に非ず 法華は是れ秘密なり等云云、 妙楽云く論に云くとは大論なりと云
14 云、問う是くの如し之を聞いて何の益有るや、 答えて云く始めて法華経を聞くなり、 妙楽云く若し三道即是れ三
15 徳と信ぜば尚能く二死の河を渡る 況や三界をやと云云、 末代の凡夫此の法門を聞かば唯我一人のみ成仏するに非
16 ず父母も又即身成仏せん此れ第一の孝養なり病身為るの故に委細ならず又又申す可し。
17 建治四年太歳戊寅二月二十八日 日蓮花押
18 富木殿
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可延定業書 弘安二年 五十八歳御作 与富木常忍妻
01 夫れ病に二あり一には軽病二には重病・重病すら善医に値うて急に対治すれば命猶存す何に況や軽病をや、 業
02 に二あり一には定業二には不定業、 定業すら能く能く懺悔すれば必ず消滅す 何に況や不定業をや、 法華経第七
03 に云く 「此の経は則為閻浮提の人の病の良薬なり」等云云、 此の経文は法華経の文なり、 一代の聖教は皆如来
04 の金言・無量劫より已来不妄語の言なり、 就中此の法華経は仏の正直捨方便と申して真実が中の真実なり、多宝・
05 証明を加え諸仏・舌相を添え給ういかでか・むなしかるべき、 其の上最第一の秘事はんべり此の経文は後五百歳・
06 二千五百余年の時女人の病あらんと・とかれて候文なり、 阿闍世王は御年五十の二月十五日に大悪瘡・身に出来せ
07 り、 大医耆婆が力も及ばず 三月七日必ず死して無間大城に堕つべかりき、 五十余年が間の大楽一時に滅して一
08 生の大苦・三七日にあつまれり、 定業限りありしかども仏・法華経をかさねて演説して涅槃経となづけて大王にあ
09 たい給いしかば身の病・忽に平愈し心の重罪も一時に露と消えにき、 仏滅後一千五百余年・陳臣と申す人ありき命
10 知命にありと申して 五十年に定まりて候いしが天台大師に値いて十五年の命を宣べて六十五までをはしき、 其の
11 上不軽菩薩は更増寿命ととかれて 法華経を行じて定業をのべ給いき、 彼等は皆男子なり 女人にはあらざれども
12 法華経を行じて寿をのぶ、 又陳臣は後五百歳にもあたらず冬の稲米・ 夏の菊花のごとし、当時の女人の法華経を
13 行じて定業を転ずることは秋の稲米・冬の菊花誰か・をどろくべき。
14 されば日蓮悲母をいのりて候しかば現身に病をいやすのみならず 四箇年の寿命をのべたり、今女人の御身とし
15 て病を身にうけさせ給う・ 心みに法華経の信心を立てて 御らむあるべし、 しかも善医あり中務三郎左衛門尉は
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01 法華経の行者なり、 命と申す物は一身第一の珍宝なり一日なりとも・これを延るならば千万両の金にもすぎたり、
02 法華経の一代の聖教に超過して いみじきと申すは寿量品のゆへぞかし、 閻浮第一の太子なれども 短命なれば草
03 よりもかろし、 日輪のごとくなる智者なれども夭死あれば生犬に劣る、 早く心ざしの財をかさねていそぎいそぎ
04 御対治あるべし、 此れよりも申すべけれども人は申すによて吉事もあり 又我が志のうすきかと・ をもう者もあ
05 り人の心しりがたき上先先に少少かかる事候、 此の人は人の申せばすこそ心へずげに思う人なり、 なかなか申す
06 はあしかりぬべし、 但なかうどもなく・ひらなさけに又心もなくうちたのませ給え、 去年の十月これに来りて候
07 いしが御所労の事をよくよくなげき申せしなり、 当事大事のなければ・をどろかせ給わぬにや、 明年正月二月の
08 ころをひは必ずをこるべしと申せしかば・これにも・なげき入つて候。
09 富木殿も此の尼ごぜんをこそ杖柱とも恃たるになんど申して候いしなり随分にわび候いしぞ・きわめて・まけじ
10 たましの人にて 我がかたの事をば大事と申す人なり、 かへすがへす身の財をだに・ をしませ給わば此の病治が
11 たかるべし、 一日の命は三千界の財にもすぎて候なり 先ず御志をみみへさせ給うべし、法華経の第七の巻に三千
12 大千世界の財を供養するよりも手の一指を焼きて仏・ 法華経に供養せよと・とかれて候はこれなり、 命は三千に
13 もすぎて候・而も齢もいまだ・たけさせ給はず、 而して法華経にあわせ給いぬ一日もいきてをはせば功徳つもるべ
14 し、 あらをしの命や・をしの命や、御姓名並びに御年を我とかかせ給いて・わざと・つかわせ大日月天に申しあぐ
15 べし、いよどのもあながちになげき候へば日月天に自我偈をあて候はんずるなり、恐恐。
16 日蓮花押
17 尼ごぜん御返事
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富城殿御返事
01 尼御前御寿命長遠の由天に申し候ぞ其の故御物語り候へ。
02 不断法華経来年三月の料の分銭三貫文米二斗送り給び畢んぬ。
03 十一月二十五日 日蓮在御判
04 富城殿御返事
四菩薩造立抄 弘安二年五月 五十八歳御作
01 白小袖一・薄墨染衣一・同色の袈裟一帖・鵞目一貫文給び候、今に始めざる御志言を以て宣べがたし何れの日を
02 期してか対面を遂げ心中の朦朧を申し披や。
03 一御状に云く本門久成の教主釈尊を造り奉り 脇士には久成地涌の四菩薩を造立し奉るべしと兼て聴聞仕り候い
04 き、然れば聴聞の如くんば何の時かと云云、夫れ仏.世を去らせ給いて二千余年に成りぬ、其の間・月氏.漢土・日本
05 国・一閻浮提の内に仏法の流布する事・僧は稲麻のごとく法は竹葦の如し、然るに・いまだ本門の教主釈尊並に本化
06 の菩薩を造り奉りたる寺は一処も無し三朝の間に未だ聞かず、 日本国に数万の寺寺を建立せし人人も本門の教主・
07 脇士を造るべき事を知らず上宮太子・ 仏法最初の寺と号して四天王寺を造立せしかども 阿弥陀仏を本尊として脇
08 士には観音等・四天王を造り副えたり、 伝教大師・延暦寺を立て給うに中堂には東方の鵞王の相貌を造りて本尊と
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01 して久成の教主・脇士をば建立し給はず、 南京七大寺の中にも此の事を未だ聞かず田舎の寺寺以て爾なり、 かた
02 がた不審なりし間・法華経の文を拝見し奉りしかば其の旨顕然なり、 末法・闘諍堅固の時にいたらずんば造るべか
03 らざる旨分明なり、 正像に出世せし論師・人師の造らざりしは仏の禁を重んずる故なり、 若し正法・像法の中に
04 久成の教主釈尊・ 並びに脇士を造るならば夜中に日輪出で日中に月輪の出でたるが如くなるべし、 末法に入つて
05 始めの五百年に上行菩薩の出でさせ給いて造り給うべき故に正法・ 像法の四依の論師・ 人師は言にも出させ給は
06 ず、 竜樹・天親こそ知らせ給いたりしかども口より外へ出させ給はず、 天台智者大師も知らせ給いたりしかども
07 迹化の菩薩の一分なれば 一端は仰せ出させ給いたりしかども 其の実義をば宣べ出させ給はず、 但ねざめの枕に
08 時鳥の一音を聞きしが如くにして 夢のさめて止ぬるやうに弘め給い候ぬ、 夫れより已外の人師はまして一言をも
09 仰せ出し給う事なし、 此等の論師・人師は霊山にして迹化の衆は末法に入らざらんに正像二千年の論師・人師は本
10 門久成の教主釈尊並に久成の脇士・地涌上行等の四菩薩を影ほども申出すべからずと御禁ありし故ぞかし。
11 今末法に入れば尤も仏の金言の如くんば造るべき時なれば本仏・ 本脇士造り奉るべき時なり、当時は其の時に
12 相当れば地涌の菩薩やがて出でさせ給はんずらん、 先ず其れ程に四菩薩を建立し奉るべし 尤も今は然るべき時な
13 りと云云、 されば天台大師は 後の五百歳遠く妙道に沾わんとしたひ、 伝教大師は正像稍過ぎ已て末法太だ近き
14 に有り法華一乗の機今正に是れ其の時なりと恋いさせ給う、 日蓮は世間には日本第一の貧しき者なれども 仏法を
15 以て論ずれば一閻浮提第一の富る者なり、 是れ時の然らしむる故なりと思へば喜び身にあまり 感涙押へ難く教主
16 釈尊の御恩報じ奉り難し、 恐らくは付法蔵の人人も日蓮には果報は劣らせ給いたり天台智者大師・ 伝教大師等も
17 及び給うべからず最も四菩薩を建立すべき時なり云云、 問うて云く四菩薩を造立すべき証文之れ有りや、 答えて
18 云く涌出品に云く 「四の導師有り一をば上行と名け二をば無辺行と名け 三をば浄行と名け四をば安立行と名く」
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01 等云云、 問うて云く後五百歳に限るといへる経文之れ有りや、 答えて云く薬王品に云く「我が滅度の後後の五百
02 歳の中に閻浮提に広宣流布して断絶せしむること無けん」等云云。
03 一御状に云く大田方の人人一向に迹門に得道あるべからずと申され候由・其の聞え候と是は以ての外の謬なり、
04 御得意候へ本・迹二門の浅深・勝劣・与奪・傍正は時と機とに依るべし、一代聖教を弘むべき時に三あり機もつて爾
05 なり、仏滅後・正法の始の五百年は一向小乗・ 後の五百年は権大乗・像法一千年は法華経の迹門等なり、末法の始
06 には一向に本門なり 一向に本門の時なればとて迹門を捨つべきにあらず、 法華経一部に於て前の十四品を捨つべ
07 き経文之れ無し本迹の所判は一代聖教を三重に配当する時 ・爾前・迹門は正法・像法或は末法は本門の弘まらせ給
08 うべき時なり、 今の時は正には本門・傍には迹門なり、 迹門無得道と云つて迹門を捨てて一向本門に心を入れさ
09 せ給う人人はいまだ日蓮が本意の法門を習はせ給はざるにこそ 以ての外の僻見なり、 私ならざる法門を僻案せん
10 人は偏に天魔波旬の其の身に入り替りて人をして 自身ともに無間大城に堕つべきにて候つたなしつたなし、 此の
11 法門は年来貴辺に申し含めたる様に 人人にも披露あるべき者なり 総じて日蓮が弟子と云つて法華経を修行せん人
12 人は日蓮が如くにし候へ、さだにも候はば釈迦・多宝・十方の分身・十羅刹も御守り候べし、其れさへ尚人人の御心
13 中は量りがたし。
14 一日行房死去の事不便に候、 是にて法華経の文読み進らせて南無妙法蓮華経と唱へ進らせ願くは日行を釈迦・
15 多宝・十方の諸仏・霊山へ迎へ取らせ給へと申し上げ候いぬ、身の所労いまだきらきらしからず候間省略せしめ候、
16 又又申す可く候、恐恐謹言。
17 弘安二年五月十七日 日蓮花押
18 富木殿御返事
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富木殿女房尼御前御書 弘安二年十一月 五十八歳御作
01 いよ房は学生になりて候ぞつねに法門きかせ給へ。
02 はるかに見まいらせ候はねば.をぼつかなく候、たうじとても.たのしき事は候はねども・むかしは・ことにわび
03 しく候いし時より・やしなはれまいらせて候へば・ことにをんをもくをもいまいらせ候、それについては・ いのち
04 はつるかめのごとく・さいはいは月のまさり・しをのみつがごとくとこそ法華経にはいのりまいらせ候へ、 さては
05 えち後房しもつけ房と申す僧を・いよどのにつけて候ぞ、しばらく・ふびんに・あたらせ給へと・とき殿には申させ
06 給へ。
07 十一月二十五日 日蓮花押
08 富城殿女房尼御前
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諸経と法華経と難易の事 弘安三年五月 五十九歳御作
01 問うて云く法華経の第四法師品に云く難信難解と云云いかなる事ぞや、 答えて云く此の経は仏説き給いて後二
02 千余年にまかりなり候、 月氏に一千二百余年・漢土に二百余年を経て後に日本国に渡りて・すでに七百余年なり、
03 仏滅後に此の法華経の此の句を読みたる人但三人なり、 所謂月氏には竜樹菩薩の大論に云く 「譬えば大薬師の能
04 く毒を以て薬と為すが如し」等云云、 此れは竜樹菩薩の難信難解の四字を読み給いしなり、 漢土には天台智者大
05 師と申せし人読んで云く「已今当説最も為れ難信難解」と云云、 日本国には伝教大師読んで云く 「已説の四時の
06 経・今説の無量義経・ 当説の涅槃経は易信易解なり随他意の故に 此の法華経は最も為れ難信難解なり随自意の故
07 に」等云云、問うて云く其の意如何、 答て云く易信易解は随他意の故に・難信難解は随自意の故なり云云、弘法大
08 師並びに日本国東寺の門人をもわく 法華経は顕教の内の難信難解にて密教に相対すれば易信易解なり云云、 慈覚
09 智証並びに門家思うよう 法華経と大日経は倶に難信難解なり 但し大日経と法華経と相対せば法華経は難信難解・
10 大日経は最も為れ難信難解なり云云、 此の二義は日本一同なり、 日蓮読んで云く外道の経は易信易解・小乗経は
11 難信難解・小乗経は易信易解.大日経等は難信難解・大日経等は易信易解・般若経は難信難解なり.般若と華厳と・華
12 厳と涅槃と・涅槃と法華と・迹門と本門と・重重の難易あり。
13 問うて云く此の義を知つて何の詮か有る答えて云く生死の長夜を照す大燈・ 元品の無明を切る利剣は此の法門
14 に過ぎざるか随他意とは真言宗・ 華厳宗等は随他意の易信易解なり 仏九界の衆生の意楽に随つて説く所の経経を
15 随他意という譬えば賢父が愚子に随うが如し、 仏・仏界に随つて説く所の経を随自意という、 譬へば聖父が愚子
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01 を随えたるが如きなり、日蓮此の義に付て大日経・華厳経・涅槃経等を勘え見候に皆随他意の経経なり、 問うて云
02 く其の随他意の証拠如何、 答えて云く勝鬘経に云く 「非法を聞くこと無き衆生には 人天の善根を以て之を成熟
03 す声聞を求むる者には声聞乗を授け縁覚を求むる者には、 縁覚乗を授け大乗を求むる者には授くるに 大乗を以て
04 す」と云云、易信易解の心是なり、華厳・大日・般若・涅槃等又是くの如し「爾の時に世尊・薬王菩薩に因せて八万
05 の大士に告げたまわく薬王汝是の大衆の中の無量の諸天.竜王・夜叉・乾闥婆・阿修羅・迦楼羅・緊那羅.摩ゴ羅伽・
06 人と非人と及び比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷の声聞を求むる者・辟支仏を求むる者・仏道を求むる者を見るや、是
07 くの如き等類咸く仏前に於て 妙法華経の一偈一句を聞いて 一念も随喜する者には我皆記を与え授く当に阿○菩提
08 を得べし」文、諸経の如くんば人は五戒・天は十善・梵は慈悲喜捨・魔王には一無遮・比丘の二百五十・比丘尼の五
09 百戒・声聞の四諦・ 縁覚の十二因縁・菩薩の六度・譬へば水の器の方円に随い象の敵に随つて力を出すがごとし、
10 法華経は爾らず八部・ 四衆皆一同に法華経を演説す、 譬へば定木の曲りを削り師子王の剛弱を嫌わずして大力を
11 出すがごとし。
12 此の明鏡を以て一切経を見聞するに大日の三部.浄土の三部等隠れ無し、而るを・いかにやしけん弘法・慈覚.智
13 証の御義を本としける程に 此の義すでに隠没して 日本国四百余年なり、 珠をもつて石にかへ栴檀を凡木にうれ
14 り、仏法やうやく顛倒しければ 世間も又濁乱せり、 仏法は体のごとし世間はかげのごとし 体曲れば影ななめな
15 り、 幸なるは我が一門仏意に随つて自然に薩般若海に流入す、 世間の学者の若きは随他意を信じて苦海に沈まん
16 ことなり、委細の旨又又申す可く候、恐恐。
17 五月廿六日 日蓮花押
18 富木殿御返事
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富城入道殿御返事 弘安四年十月 六十歳御作 与富木胤継 於身延
01 今月十四日の御札同じき十七日到来、又去ぬる後の七月十五日の御消息同じき二十比到来せり、 其の外度度の
02 貴札を賜うと雖も 老病為るの上又不食気に候間未だ返報を奉らず候 条其の恐れ少からず候、何よりも去ぬる後の
03 七月御状の内に云く鎮西には大風吹き候て浦浦・ 島島に破損の船充満の間乃至京都には思円上人・又云く理豈然ら
04 んや等云云、 此の事別して此の一門の大事なり 総じて日本国の凶事なり仍つて病を忍んで 一端是れを申し候は
05 ん、 是偏に日蓮を失わんと為て無かろう事を造り出さん事兼て知る、 其の故は日本国の真言宗等の七宗・八宗の
06 人人の大科今に始めざる事なり 然りと雖も且く一を挙げて 万を知らしめ奉らん、 去ぬる承久年中に隠岐の法皇
07 義時を失わしめんが為に調伏を山の座主・東寺・御室・七寺・園城に仰せ付けられ、仍つて同じき三年の五月十五日
08 鎌倉殿の御代官・ 伊賀太郎判官光末を六波羅に於て失わしめ畢んぬ、 然る間同じき十九日二十日鎌倉中に騒ぎて
09 同じき二十一日・山道・海道・北陸道の三道より十九万騎の兵者を指し登す、 同じき六月十三日其の夜の戌亥の時
10 より青天俄に陰りて震動雷電して武士共首の上に鳴り懸り鳴り懸りし上・ 車軸の如き雨は篠を立つるが如し、 爰
11 に十九万騎の兵者等・ 遠き道は登りたり兵乱に米は尽きぬ馬は疲れたり 在家の人は皆隠れ失せぬ冑は雨に打たれ
12 て緜の如し、 武士共宇治勢多に打ち寄せて見ければ常には三丁四丁の河なれども既に六丁・七丁・十丁に及ぶ、然
13 る間・一丈・二丈の大石は枯葉の如く浮び五丈・六丈の大木流れ塞がること間無し、昔利綱・高綱等が渡せし時には
14 似る可くも無し武士之を見て 皆臆してこそ見えたりしが、 然りと雖も今日を過さば皆心を飜し堕ちぬ可し去る故
15 に馬筏を作りて之を渡す処・或は百騎・或は千万騎・ 此くの如く皆我も我もと度ると雖も・或は一丁或は二丁三丁
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01 渡る様なりと雖も彼の岸に付く者は一人も無し、 然る間・緋綴・赤綴等の甲其の外弓箭・兵杖・白星の冑等の河中
02 に流れ浮ぶ事は猶長月神無月の紅葉の吉野・立田の河に浮ぶが如くなり、爰に叡山・東寺・七寺・園城寺等の高僧等
03 之を聞くことを得て真言の秘法・大法の験とこそ悦び給いける、内裏の紫宸殿には山の座主・東寺・御室・五壇・十
04 五壇の法を弥盛んに行われければ 法皇の御叡感極り無く玉の厳を地に付け 大法師等の御足を御手にて摩給いしか
05 ば大臣・公卿等は庭の上へ走り落ち五体を地に付け高僧等を敬い奉る。
06 又宇治勢田にむかへたる公卿・殿上人は冑を震い挙げて大音声を放つて云く義時・所従の毛人等慥に承われ昔よ
07 り今に至るまで王法に敵を作し奉る者は 何者か安穏なるや、 狗犬が師子を吼えて其の腹破れざること無く修羅が
08 日月を射るに其の箭還つて其の眼に中らざること無し 遠き例は且く之を置く、 近くは我が朝に代始まつて人王八
09 十余代の間・大山の皇子・ 大石の小丸を始と為て二十余人王法に敵を為し奉れども一人として素懐を遂げたる者な
10 し皆頚を獄門に懸けられ 骸を山野に曝す関東の武士等・ 或は源平・或は高家等先祖相伝の君を捨て奉り伊豆の国
11 の民為る義時が下知に随う故に かかる災難は出来するなり、 王法に背き奉り民の下知に随う者は師子王が野狐に
12 乗せられて東西南北に馳走するが如し 今生の恥之れを何如、 急ぎ急ぎ冑を脱ぎ弓弦をはづして 参参と招きける
13 程に、 何に有りけん申酉の時にも成りしかば関東の武士等・ 河を馳せ渡り勝ちかかりて責めし間京方の武者共一
14 人も無く山林に逃げ隠るるの間、 四つの王をば四つの島へ放ちまいらせ又高僧・御師・御房達は或は住房を追われ
15 或は恥辱に値い給いて今に六十年の間いまだ・そのはぢをすすがずとこそ見え候に、 今亦彼の僧侶の御弟子達・御
16 祈祷承はられて候げに候あひだ いつもの事なれば秋風に纔の水に敵船・ 賊船なんどの破損仕りて候を大将軍生取
17 たりなんど申し祈り成就の由を申し候げに候なり、 又蒙古の大王の頚の参りて候かと問い給うべし、 其の外はい
18 かに申し候とも御返事あるべからず御存知のためにあらあら申し候なり。
0995top0995top
01 乃至此の一門の人人にも相触れ給ふべし 又必ずしいぢの四郎が事は 承り候い畢んぬ、予既に六十に及び候へば
02 天台大師の御恩報じ奉らんと仕り候あひだ みぐるしげに候房をひきつくろい候ときに・ さくれうにおろして候な
03 り、銭四貫をもちて一閻浮提第一の法華堂造りたりと霊山浄土に御参り候はん時は申しあげさせ給うべし、恐恐。
04 十月二十二日 日蓮花押
05 進上富城入道殿御返事
治病大小権実違目 弘安五年六月 六十一歳御作
01 富木入道殿御返事 日蓮
02 さへもん殿の便宜の御かたびら給い了んぬ。
03 今度の人人のかたがたの御さいども佐衛門尉殿の御日記のごとく給い了んぬと申させ給い候へ。
04 太田入道殿のかたがたのもの・ ときどのの日記のごとく給い候了んぬ 此の法門のかたづらは佐衛門尉殿にか
05 きて候、こわせ給いて御らむ有るべく候。
06 御消息に云く凡そ疫病弥興盛等と云云、夫れ人に二の病あり一には身の病・所謂地大百一・水大百一・火大百一
07 風大百一・已上四百四病なり、此の病は設い仏に有らざれども・之を治す所謂治水・流水・耆婆・扁鵲等が方薬・此
08 れを治するにゆいて愈えずという事なし、 二には心の病・所謂三毒乃至八万四千の病なり、此の病は二天・三仙・
09 六師等も治し難し何に況や神農・黄帝等の方薬及ぶべしや、 又心の病・重重に浅深・勝劣分れたり、六道の凡夫の
10 三毒・八万四千の心病は小仏.小乗阿含経・倶舎・成実・律宗の論師.人師此れを治するにゆいて愈えぬべし、但し此
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01 の小乗の者等・ 小乗を本として或は大乗を背き或は心には背かざれども 大乗の国に肩を並べなんどする其の国其
02 の人に諸病起る、 小乗等をもつて此れを治すれば諸病は増すとも治せらるる事なし、 諸大乗経の行者をもつて此
03 れを治すれば則ち平愈す、又華厳経・深密経・般若経・大日経等の権大乗の人人・各各劣謂勝見を起して我が宗は或
04 は法華経と斉等或は勝れたりなんど申す人多く出来し 或は国主等此れを用いぬれば此れによつて三毒・ 八万四千
05 の病起る、 返つて自の依経をもつて治すれども・いよいよ倍増す、 設い法華経をもつて行うとも験なし経は勝れ
06 たれども行者・僻見の者なる故なり。
07 法華経に又二経あり所謂迹門と本門となり本迹の相違は水火天地の違目なり、 例せば爾前と法華経との違目よ
08 りも猶相違あり爾前と迹門とは相違ありといへども 相似の辺も有りぬべし、 所説に八教あり爾前の円と迹門の円
09 は相似せり爾前の仏と迹門の仏は劣応・勝応・報身・法身異れども始成の辺は同じきぞかし、 今本門と迹門とは教
10 主已に久始のかわりめ百歳のをきなと一歳の幼子のごとし、 弟子又水火なり土の先後いうばかりなし、 而るを本
11 迹を混合すれば 水火を弁えざる者なり、 而るを仏は分明に説き分け給いたれども 仏の御入滅より今に二千余年
12 が間三国並びに一閻浮提の内に分明に分けたる人なし、 但漢土の天台・日本の伝教・此の二人計りこそ粗分け給い
13 て候へども 本門と迹門との大事に円戒いまだ分明ならず、 詮ずる処は天台と伝教とは内には鑒み給うといへども
14 一には時来らず 二には機なし三には譲られ給はざる故なり、 今末法に入りぬ地涌出現して弘通有るべき事なり、
15 今末法に入つて本門のひろまらせ給うべきには小乗・ 権大乗・迹門の人人・設い科なくとも彼れ彼れの法にては験
16 有るべからず、 譬へば春の薬は秋の薬とならず設いなれども春夏のごとくならず何に況や彼の小乗・権大乗・法華
17 経の迹門の人人或は大小権実に迷える上・ 上代の国主彼れ彼れの経経に付きて 寺を立て田畠を寄進せる故に彼の
18 法を下せば申し延べがたき上・ 依怙すでに失るかの故に大瞋恚を起して 或は実経を謗じ或は行者をあだむ国主も
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01 又一には多人につき或は上代の国主の崇重の法をあらため難き故・或は自身の愚癡の故・ 或は実教の行者を賎しむ
02 ゆへ等の故彼の訴人等の語を・をさめて実教の行者をあだめば実教の守護神の梵釈・日月・四天等・其の国を罰する
03 故に先代未聞の三災・七難起るべし、所謂去今年・去ぬる正嘉等の疫病等なり。
04 疑つて云く 汝が申すがごとくならば此の国法華経の行者をあだむ故に善神此の国を治罰する等ならば諸人の疫
05 病なるべし何ぞ汝が弟子等又やみ死ぬるや、 答えて云く汝が不審最も其の謂有るか 但し一方を知りて一方を知ら
06 ざるか、 善と悪とは無始よりの左右の法なり権教並びに諸宗の心は 善悪は等覚に限る若し爾ば等覚までは互に失
07 有るべし、 法華宗の心は一念三千・性悪性善・妙覚の位に猶備われり元品の法性は梵天・帝釈等と顕われ元品の無
08 明は第六天の魔王と顕われたり、 善神は悪人をあだむ悪鬼は善人をあだむ、 末法に入りぬれば自然に悪鬼は国中
09 に充満せり瓦石草木の並び滋がごとし善鬼は天下に少し聖賢まれなる故なり、 此の疫病は念仏者・真言師・禅宗・
10 律僧等よりも日蓮が方にこそ多くやみ死ぬべきにて候か、 いかにとして候やらん彼等よりもすくなくやみ・ すく
11 なく死に候は不思議にをぼへ候、人のすくなき故か又御信心の強盛なるか。
12 問うて云く日本国に此の疫病先代に有りや、 答えて云く日本国は神武天皇よりは十代にあたらせ給いし崇神天
13 皇の御代に疫病起りて日本国やみ死ぬる事半にすぐ、 王始めて天照太神等の神を国国に崇しかば 疫病やみぬ故に
14 崇神天皇と申す、 此れは仏法のいまだわたらざりし時の事なり、 人王第三十代・並びに一二の三代の国主並びに
15 臣下等疱瘡と疫病に御崩去等なりき、 其の時は神にいのれども叶わざりき、 去ぬる人王三十代・欽明天皇の御宇
16 に百済国より経・論・僧等をわたすのみならず金銅の教主釈尊を渡し奉る、 蘇我の宿禰等崇むべしと申す物部の大
17 連等の諸臣並びに万民等は 一同に此の仏は崇むべからず 若し崇むるならば必ず我が国の神・瞋りをなして国やぶ
18 れなんと申す、 王は両方弁まえがたくをはせしに三災・七難・先代に超えて起り万民皆疫死す、大連等便りを得て
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01 奏問せしかば僧尼等をはじに及ぼすのみならず 金銅の釈迦仏をすみををこして焼き奉る寺又同じ、 爾の時に大連
02 やみ死ぬ王も隠れさせ給い 仏をあがめし蘇我の宿禰もやみぬ、 大連が子・守屋の大臣云く此の仏をあがむる故に
03 三代の国主すでに・やみかくれさせ給う我が父もやみ死ぬ、 まさに知るべし仏をあがむる聖徳太子・馬子等はをや
04 のかたき公の御かたきなりと申せしかば 穴部の王子・宅部の王子等・並びに諸臣已下数千人一同によりきして仏と
05 堂等をやきはらうのみならず、 合戦すでに起りぬ結句は守屋討たれ了んぬ、 仏法渡りて三十五年が間・年年に三
06 災・七難・疫病起りしが守屋・馬子に討たるるのみならず神もすでに仏にまけしかば災難忽に止み了んぬ、 其の後
07 の代代の三災・七難等は大体は仏法の内の乱れより起るなり、而れども或は一人・二人或は一国・二国或は一類・二
08 類或は一処・二処の事なれば神のたたりも有り謗法の故もあり民のなげきよりも起る。
09 而るに此の三十余年の三災.七難等は一向に他事を雑えず日本.一同に日蓮をあだみて国国.郡郡・郷郷・村村.人
10 ごとに上一人より下万民にいたるまで 前代未聞の大瞋恚を起せり、 見思未断の凡夫の元品の無明を起す事此れ始
11 めなり、 神と仏と法華経にいのり奉らばいよいよ増長すべし、 但し法華経の本門をば法華経の行者につけて除き
12 奉る結句は勝負を決せざらん外は此の災難止み難かるべし、 止観の十境・十乗の観法は天台大師説き給いて後・行
13 ずる人無し、妙楽・伝教の御時少し行ずといへども敵人ゆわきゆへにさてすぎぬ、 止観に三障・四魔と申すは権経
14 を行ずる行人の障りにはあらず今日蓮が時具さに起れり、 又天台・伝教等の時の三障・四魔よりもいまひとしをま
15 さりたり。 一念三千の観法に二つあり一には理・二には事なり天台・伝教等の御時には理なり今は事なり観念すで
16 に勝る故に大難又色まさる、 彼は迹門の一念三千・此れは本門の一念三千なり 天地はるかに殊なりことなりと御
17 臨終の御時は御心へ有るべく候、恐恐謹言。
18 六月二十六日 日蓮花押
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金吾殿御返事 文永七年十一月 四十九歳御作 与大田金吾
01 止観の五・正月一日よりよみ候いて現世安穏後生善処と祈請仕り候、便宜に給わり候本・末は失て候いしかども
02 これにすりさせて候多く本入るべきに申し候。
03 大師講に鵝目五連給候い了んぬ、此の大師講・三四年に始めて候が今年は第一にて候いつるに候。
04 抑此の法門の事・勘文の有無に依つて弘まるべきか弘まらざるか・去年方方に申して候いしかども・いなせの返
05 事候はず候、 今年十一月の比方方へ申して候へば少少返事あるかたも候、 をほかた人の心もやわらぎて・さもや
06 とをぼしたりげに候、 又上のけさんにも入りて候やらむ、 これほどの僻事申して候へば流・死の二罪の内は一定
07 と存ぜしが・ いままでなにと申す事も候はぬは不思議とをぼへ候、 いたれる道理にて候やらむ、又自界叛逆難の
08 経文も値べきにて候やらむ、 山門なんども・いにしへにも百千万億倍すぎて動揺とうけ給わり候、それならず子細
09 ども候やらん震旦・高麗すでに禅門・念仏になりて守護の善神の去るかの間・彼の蒙古に聳い候いぬ、 我が朝も又
10 此の邪法弘まりて天台法華宗を忽諸のゆへに 山門安穏ならず師檀違叛の国と成り候いぬれば十が八・ 九はいかん
11 がと・みへ候、人身すでに・うけぬ邪師又まぬがれぬ、 法華経のゆへに流罪に及びぬ、今死罪に行われぬこそ本意
12 ならず候へ、あわれ・さる事の出来し候へかしと・こそはげみ候いて方方に強言をかきて挙げをき候なり、 すでに
13 年五十に及びぬ余命いくばくならず、 いたづらに曠野にすてん身を同じくは 一乗法華のかたになげて雪山童子・
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01 薬王菩薩の跡をおひ仙予・有徳の名を後代に留めて法華・涅槃経に説き入れられまいらせんと願うところなり、 南
02 無妙法蓮華経。
03 十一月二十八日 日蓮花押
04 御返事
転重軽受法門 文永八年十月 五十歳御作 与大田左衛門・曾谷入道・金原法橋
01 修利槃特と申すは兄弟二人なり、 一人もありしかば・すりはんどくと申すなり、各各三人は又かくのごとし一
02 人も来らせ給へば三人と存じ候なり。
03 涅槃経に転重軽受と申す法門あり、 先業の重き今生につきずして未来に地獄の苦を受くべきが今生にかかる重
04 苦に値い候へば地獄の苦みぱつときへて死に候へば人天・三乗・一乗の益をうる事の候、 不軽菩薩の悪口罵詈せら
05 れ杖木瓦礫をかほるもゆへなきにはあらず・ 過去の誹謗正法のゆへかと・みへて其罪畢已と説れて候は不軽菩薩の
06 難に値うゆへに過去の罪の滅するかとみへはんべり一是、 又付法蔵の二十五人は仏をのぞきたてまつりては皆仏の
07 かねて記しをき給える権者なり、 其の中に第十四の提婆菩薩は外道にころされ 第二十五師子尊者は檀弥栗王に頚
08 を刎られ 其の外仏陀密多竜樹菩薩なんども多くの難にあへり、 又難なくして王法に御帰依いみじくて法をひろめ
09 たる人も候、 これは世に悪国善国有り法に摂受折伏あるゆへかとみへはんべる、 正像猶かくのごとし中国又しか
10 なり、 これは辺土なり末法の始なり、かかる事あるべしとは先にをもひさだめぬ期をこそまち候いつれ二是、この
11 上の法門はいにしえ申しをき候いきめづらしからず 円教の六即の位に 観行即と申すは所行如所言・所言如所行と
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