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日蓮大聖人御書全集
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両人御中御書    弘安二年    五十八歳御作    於身延
01   大国阿闍梨・ えもんのたいう志殿等に申す、 故大進阿闍梨の坊は各各の御計らいに有るべきかと存じ候に今
02 に人も住せずなんど候なるはいかなる事ぞ、 ゆづり状のなくばこそ・人人も計らい候はめ、くはしく・うけ給わり
03 候へばべんの阿闍梨にゆづられて候よし・うけ給わり候き、 又いぎあるべしとも・をぼへず候、それに御用いなき
04 は別の子細の候か其の子細なくば大国阿闍梨・ 大夫殿の御計らいとして 弁の阿闍梨の坊へこぼちわたさせ給い候
05 へ、心けんなる人に候へば・いかんが・とこそをもい候らめ、 弁の阿闍梨の坊をすりしてひろくもらずば諸人の御
06 ために御たからにてこそ候はんずらむめ、 ふゆはせうまうしげし、 もしやけなばそむと申し人もわらいなん、こ
07 のふみついて両三日が内に事切て各各御返事給び候はん、恐恐謹言。
08       十月廿日                     日 蓮 花 押
09     両人御中
10   ゆづり状をたがうべからず
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右衛門太夫殿御返事
01   抑久しく申し承らず候の処に御文到来候い畢んぬ、殊にあをきうらの小袖一・ぼうし一・をび一すぢ・鵞目一貫
02 文・くり一篭たしかにうけとり・まいらせ候、 当今は末法の始の五百年に当りて候、かかる時刻に上行菩薩・御出
03 現あつて南無妙法蓮華経の五字を 日本国の一切衆生にさづけ給うべきよし 経文分明なり、又流罪死罪に行わるべ
04 きよし明かなり、 日蓮は上行菩薩の御使にも似たり此の法門を弘むる故に、 神力品に云く「日月の光明の能く諸
05 の幽冥を除くが如く 斯の人世間に行じて能く衆生の闇を滅す」等云云、 此の経文に斯人行世間の五の文字の中の
06 人の文字をば誰とか思し食す、 上行菩薩の再誕の人なるべしと覚えたり、 経に云く「我が滅度の後に於て応に斯
07 の経を受持すべし 是の人仏道に於て決定して疑有ること無けん」云云、 貴辺も上行菩薩の化儀をたすくる人なる
08 べし。
09       弘安二年己卯十二月三日              日 蓮 花 押
10     右衛門太夫殿御返事
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大夫志殿御返事    弘安三年    五十九歳御作
01   小袖一つ直垂三具・同じく腰三具等云云、小袖は七貫・直垂並びに腰は十貫・已上十七貫文に当れり、夫れ以れ
02 ば天台大師の御位を章安大師顕して云く 「止観の第一に序文を引いて云く安禅として化す、 位五品に居したまえ
03 り、故に経に云く四百万億那由佗の国の人に施すに 一一に皆七宝を与え又化して 六通を得しむるすら初随喜の人
04 に如ざること百千万倍せり況や五品をや、 文に云く即如来の使なり如来の所遣として 如来の事を行ず」等云云、
05 伝教大師天台大師を釈して云く 「今吾が天台大師は法華経を説き法華経を釈し群に特秀し唐に独歩す」云云、 又
06 云く「明かに知んぬ如来の使なり讃むる者は福を安明に積み 謗る者は罪を無間に開く」と云云、 是の如きは且ら
07 く之を置く、 滅後一日より正像二千余年の間・仏の御使二十四人なり、所謂第一は大迦葉・第二は阿難・第三は未
08 田地.第四は商那和修.第五はキク多.第六は提多迦・第七は弥遮迦.第八は仏駄難提.第九は仏駄密多.第十は脇比丘・
09 第十一は富那奢.第十二は馬鳴.第十三は毘羅・第十四は竜樹.第十五は提婆・第十六は羅ゴ・第十七は僧ギャ難提.第
10 十八は僧ギャ耶奢・第十九は鳩摩羅駄.第二十は闍夜那・第二十一は盤駄.第二十二は摩奴羅.第二十三は鶴勒夜奢.第
11 二十四は師子尊者、 此の二十四人は金口の記する所の付法蔵経に載す、但し小乗・ 権大乗経の御使なりいまだ法
12 華経の御使にはあらず、 三論宗の云く「道朗吉蔵は仏の使なり」法相宗の云く 「玄奘慈恩は仏の使なり」華厳宗
13 の云く「法蔵・澄観は仏の使なり」真言宗の云く「善無畏・金剛智・不空・慧果・弘法等は仏の使なり」
14   日蓮之を勘えて云く 全く仏の使に非ず全く大小乗の使にも非ず、 之を供養せば災を招き之を謗ぜば福を至さ
15 ん、問う汝の自義か答えて云く 設い自義為りと雖も有文有義ならば何の科あらん、 然りと雖も釈有り伝教大師云
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01 く「誰か福を捨て罪を慕う者あらんや」云云、 福を捨てるとは天台大師を捨てる人なり、 罪を慕うとは上に挙ぐ
02 る所の法相・三論・華厳・真言の元祖等なり、彼の諸師を捨て一向に天台大師を供養する人の其の福を今申すべし、
03 三千大千世界と申すは東西南北・一須弥山・六欲梵天を一四天下となづく、 百億の須弥山・四州等を小千と云う、
04 小千の千を中千と云う、 中千の千を大千と申す、 此の三千大千世界を一にして四百万億那由佗国の六道の衆生を
05 八十年やしなひ法華経より外の已今当の一切経を一一の衆生に読誦せさせて 三明六通の阿羅漢・辟支仏・等覚の菩
06 薩となせる一人の檀那と、 世間出世の財を一分も施さぬ人の法華経計りを一字・一句・一偈持つ人と相対して功徳
07 を論ずるに、法華経の行者の功徳勝れたる事・百千万億倍なり、 天台大師此れに勝れたる事五倍なり、 かかる人
08 を供養すれば福を須弥山につみ給うなりと伝教大師ことはらせ給ひて候、 此の由を女房には申させ給へ、 恐恐謹
09 言。
10       大夫志殿御返事                      花 押
兵衛志殿御返事
01   青鳧五貫文送り給び了んぬ、唱え奉る南無妙法蓮華経一返の事、恐恐。
02       六月十八日                    日 蓮 花 押
03     兵衛志殿御返事
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大夫志殿御返事    弘安四年十二月    六十歳御作
01   聖人一つつ味文字一をけ生和布一こ・聖人と味文字は・さてをき候いぬ生和布は始めてにて候、将又病の由聞か
02 せ給いて不日に此の物して 御使をもつて脚力につかわされて候事 心ざし大海よりふかく善根は大地よりも厚し、
03 かうじんかうじん、恐恐。
04       十二月十一日                    日 蓮 花 押
八幡宮造営事    弘安四年五月    六十歳御作
01   此の法門申し候事すでに廿九年なり、日日の論義・月月の難・両度の流罪に身つかれ心いたみ候いし故にや此の
02 七八年間が間・年年に衰病をこり候いつれどもなのめにて候いつるが、 今年は正月より其の気分出来して既に一期
03 をわりになりぬべし、 其の上齢既に六十にみちぬ、たとひ十に一・今年はすぎ候とも一二をばいかでか・すぎ候べ
04 き、忠言は耳に逆い良薬は口に苦しとは先賢の言なり やせ病の者は命をきらう佞人は諌を用いずと申すなり、 此
05 の程は上下の人人の御返事申す事なし心も・ものうく手も・たゆき故なり、 しかりと申せども此の事大事なれば苦
06 を忍んで申すものうしと・おぼすらん一篇きこしめすべし、 村上天皇の前中書王の書を投げ給いしがごとく・なる
07 ことなかれ。
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01   さては八幡宮の御造営につきて一定さむそうや有らんずらむと疑いまいらせ候なり、 をやと云ひ我が身と申し
02 二代が間きみに・めしつかはれ奉りてあくまで御恩のみなり、 設一事相違すとも・なむのあらみかあるべき、わが
03 み賢人ならば設上より・ つかまつるべきよし 仰せ下さるるとも一往はなに事につけても 辞退すべき事ぞかし、
04 幸に讒臣等がことを左右によせば悦んでこそあるべきに 望まるる事一の失なり、 此れはさてをきぬ五戒を先生に
05 持ちて今生に人身を得たり、 されば云うに甲斐なき者なれども国主等謂なく失にあつれば 守護の天いかりをなし
06 給う況や命をうばわるる事は天の放ち給うなり、 いわうや日本国・四十五億八万九千六百五十九人の男女をば 四
07 十五億八万九千六百五十九の天まほり給うらん、 然るに他国よりせめ来る大難は脱るべしとも見え候はぬは、 四
08 十五億八万九千六百五十九人の人人の天にも捨てられ給う上・六欲・四禅・梵釈・日月・四天等にも放たれまいらせ
09 給うにこそ候いぬれ、 然るに日本国の国主等・八幡大菩薩をあがめ奉りなばなに事のあるべきと思はるるが、八幡
10 は又自力叶いがたければ 宝殿を焼きてかくれさせ給うか、 然るに自の大科をば・かへりみず宝殿を造りてまほら
11 せまいらせむと・おもへり。
12   日本国の四十五億八万九千六百五十九人の一切衆生が釈迦・多宝・十方分身の諸仏地涌と娑婆と他方との諸大士
13 十方世界の梵釈日月四天に捨てられまひらせん 分斉の事ならばはづかなる日本国の小神天照太神・ 八幡大菩薩の
14 力及び給うべしや、 其の時八幡宮は・つくりたりとも 此の国他国にやぶらればくぼきところにちりたまりひきき
15 ところに水あつまると、 日本国の上一人より下万民にいたるまでさたせむ事は兼て又知れり、八幡大菩薩は本地は
16 阿弥陀ほとけにまします、 衛門の大夫は念仏無間地獄と申す 阿弥陀仏をば火に入れ水に入れ 其の堂をやきはら
17 ひ念仏者のくびを切れと申す者なり、 かかる者の弟子檀那と成りて候が 八幡宮を造りて候へども八幡大菩薩用い
18 させ給はぬゆへに 此の国はせめらるるなりと申さむ時はいかがすべき、 然るに天かねて此の事をしろしめすゆへ
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01 に御造営の大ばんしやうを・はづされたるにやあるらむ 神宮寺の事のはづるるも天の御計いか。
02   其の故は去ぬる文永十一年四月十二日に大風ふきて 其の年の他国よりおそひ来るべき前相なり風は是れ天地の
03 使なりまつり事あらければ 風あらしと申すは是なり、 又今年四月廿八日を迎えて此の風ふき来る、而るに四月廿
04 六日は八幡のむね上と承はる、 三日の内の大風は疑なかるべし、 蒙古の使者の貴辺が八幡宮を造りて此の風ふき
05 たらむに人わらひさたせざるべしや。
06   返す返す穏便にして.あだみうらむる気色なくて身をやつし下人をも.ぐせず・よき馬にものらず、のこぎりかな
07 づち手にもちこしにつけて・ つねにえめるすがたてにておわすべし、 此の事一事もたがへさせ給うならば今生に
08 は身をほろぼし後生には悪道に堕ち給うべし、返す返す法華経うらみさせ給う事なかれ、恐恐。
09       五月廿六日                       在 御 判
10     大夫志殿
11     兵衛志殿
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兵衛志殿女房御返事
01   兵衛志殿女房絹片裏給い候、 此の御心は法華経の御宝前に申し上げて候、まこととはをぼへ候はねども此の御
02 房たちの申し候は御子どもはなし・よにせけんふつふつと・ をはすると申され候こそなげかしく候へどもさりとも
03 とをぼしめし候へ、恐恐。
04       十一月廿五日                   日 蓮 在 御 判
兵衛志殿御返事
01   我が法華経も本迹和合して利益を無量にあらはす、各各二人又かくのごとし二人同心して大御所.守殿.法華堂・
02 八幡等つくりまいらせ給うならば 此れは法華経の御利生とをもわせ給わざるべき、 二人一同の儀は車の二つのわ
03 の如し鳥の二つの羽のごとし、 設い妻子等の中のたがわせ給うとも二人の御中・不和なるべからず、恐れ候へども
04 日蓮をたいとしとをもひあわせ給へ、 もし中不和にならせ給うならば 二人の冥加いかんがあるべかるらめと思し
05 めせ、あなかしこあなかしこ、 各各みわきかたきもたせ給いたる人人なり、 内より論出来れば鷸蚌の相扼も漁夫
06 のをそれ有るべし、南無妙法蓮華経と御唱えつつしむべし・つつしむべし、恐恐。
07       十一月十二日                   日 蓮 在 御 判
08     ひやうえの志殿御返事
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四条金吾女房御書
01   懐胎のよし承り候い畢んぬ、それについては符の事仰せ候、日蓮相承の中より撰み出して候・能く能く信心ある
02 べく候、たとへば秘薬なりとも毒を入れぬれば薬の用すくなし、 つるぎなれども・わるびれたる人のためには何か
03 せん、 就中夫婦共に法華の持者なり 法華経流布あるべきたねをつぐ所の玉の子出で生れん目出度覚え候ぞ、色心
04 二法をつぐ人なり争か・をそなはり候べき、 とくとくこそ・うまれ候はむずれ、此の薬をのませ給はば疑いなかる
05 べきなり、闇なれども灯入りぬれば明かなり濁水にも月入りぬればすめり、 明かなる事・日月にすぎんや浄き事・
06 蓮華にまさるべきや、 法華経は日月と蓮華となり故に妙法蓮華経と名く、 日蓮又日月と蓮華との如くなり、信心
07 の水すまば利生の月・必ず応を垂れ守護し給うべし、 とくとくうまれ候べし法華経に云く「如是妙法」又云く「安
08 楽産福子」云云、口伝相承の事は此の弁公にくはしく申しふくめて候・則如来の使なるべし返す返すも信心候べし。
09   天照太神は玉を・そさのをのみことにさづけて玉の如くの子をまふけたり、 然る間日の神・我が子となづけた
10 り、さてこそ正哉吾勝とは名けたれ、 日蓮うまるべき種をさづけて候へば争か我が子にをとるべき、「有一宝珠価
11 直三千」等、「無上宝聚不求自得・釈迦如来皆是吾子」等云云、 日蓮あに此の義にかはるべきや、幸なり幸なりめ
12 でたしめでたし・又又申すべく候、あなかしこあなかしこ。
13       文永八年五月七日                           日蓮花押
14     四条金吾殿女房御返事
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月満御前御書    文永八年五月    五十歳御作
01   若童生れさせ給いし由承り候・目出たく覚へ候、殊に今日は八日にて候、彼れと云い此れと云い所願しをの指す
02 が如く春の野に華の開けるが如し、 然れば・いそぎいそぎ名をつけ奉る 月満御前と申すべし、其の上此の国の主
03 八幡大菩薩は卯月八日にうまれさせ給ふ 娑婆世界の教主釈尊も又卯月八日に御誕生なりき、 今の童女又月は替れ
04 ども八日にうまれ給ふ釈尊八幡のうまれ替りとや申さん、 日蓮は凡夫なれば能くは知らず 是れ併しながら日蓮が
05 符を進らせし故なり、さこそ父母も悦び給うらん、 殊に御祝として餅・酒・鳥目一貫文・送り給び候い畢んぬ是ま
06 た御本尊・十羅刹に申し上げて候、 今日の仏生れさせまします時に 三十二の不思議あり此の事周書の異記と云う
07 文にしるし置けり。
08   釈迦仏は誕生し給いて七歩し口を自ら開いて「天上天下唯我独尊・三界皆苦我当度之」の十六字を唱へ給ふ、今
09 の月満御前はうまれ給いて・うぶごゑに南無妙法蓮華経と唱へ給ふか、 法華経に云く「諸法実相」天台の云く「声
10 為仏事」等云云、日蓮又かくの如く推し奉る、 譬えば雷の音・耳しいの為に聞く事なく日月の光り目くらの為に見
11 る事なし、 定めて十羅刹女は寄り合うて・うぶ水をなで養ひ給うらん・あらめでたや・あらめでたや御悦び推量申
12 し候、念頃に十羅刹女・天照太神等にも申して候、 あまりの事に候間委くは申さず、 是より重ねて申すべく候、
13 穴賢穴賢。
14                                 日 蓮 花 押
15     四条金吾殿御返事
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四条金吾殿御書    文永八年七月    五十歳御作
01   雪のごとく白く候白米一斗・古酒のごとく候油一筒・御布施一貫文、態使者を以て盆料送り給い候、 殊に御文
02 の趣有難くあはれに覚え候。
03   抑盂蘭盆と申すは源 目連尊者の母青提女と申す人慳貪の業によりて五百生・餓鬼道にをち給いて候を目連救ひ
04 しより事起りて候、 然りと雖も仏にはなさず其の故は我が身いまだ法華経の行者ならざる故に 母をも仏になす事
05 なし、 霊山八箇年の座席にして法華経を持ち南無妙法蓮華経と唱えて 多摩羅跋栴檀香仏となり給い此の時母も仏
06 になり給う,又施餓鬼の事仰せ候、法華経第三に云く「如従飢国来忽遇大王膳」云云、此の文は中根の四大声聞.醍醐
07 の珍膳をおとにも・きかざりしが今経に来つて始めて 醍醐の味をあくまでになめて 昔しうへたる心を忽にやめし
08 事を説き給う文なり、 若し爾らば餓鬼供養の時は此の文を誦して 南無妙法蓮華経と唱えてとぶらひ給うべく候。
09   総じて餓鬼にをいて三十六種類・相わかれて候、其の中にカク身餓鬼と申すは目と口となき餓鬼にて候、是は何
10 なる修因ぞと申すに 此の世にて夜討・強盗などをなして候によりて候、 食吐餓鬼と申すは人の口よりはき出す物
11 を食し候・是も修因上の如し、 又人の食をうばふに依り候、 食水餓鬼と云うは父母孝養のために手向る水などを
12 呑む餓鬼なり、 有財餓鬼と申すは馬のひづめの水をのむがきなり是は今生にて財ををしみ食をかくす故なり、 無
13 財がきと申すは 生れてより以来飲食の名をも・きかざるがきなり、 食法がきと申すは出家となりて仏法を弘むる
14 人・我は法を説けば人尊敬するなんど思ひて 名聞名利の心を以て人にすぐれんと思うて 今生をわたり衆生をたす
15 けず父母をすくふべき心もなき人を食法がきとて 法をくらふがきと申すなり、 当世の僧を見るに人に・ かくし
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01 て 我一人ばかり供養をうくる人もあり 是は狗犬の僧と涅槃経に見えたり、 是は未来には牛頭と云う鬼となるべ
02 し、又人にしらせて供養をうくるとも 欲心に住して人に施す事なき人もあり・ 是は未来には馬頭と云う鬼となり
03 候、又在家の人人も我が父母・地獄・餓鬼・畜生におちて苦患をうくるをば・とぶらはずして我は衣服飲食にあきみ
04 ち牛馬眷属・充満して我が心に任せて・たのしむ人をば・いかに父母のうらやましく恨み給うらん、 僧の中にも父
05 母師匠の命日をとぶらふ人は・まれなり、 定めて天の日月・地の地神いかり・いきどをり給いて不孝の者とおもは
06 せ給うらん形は人にして畜生のごとし 人頭鹿とも申すべきなり、 日蓮此の業障をけしはてて 未来は霊山浄土に
07 まいるべしと・おもへば種種の大難・雨のごとくふり雲のごとくに・ わき候へども法華経の御故なれば苦をも苦と
08 もおもはず、 かかる日蓮が弟子檀那となり給う人人・殊に今月十二日の妙法聖霊は法華経の行者なり日蓮が檀那な
09 りいかでか餓鬼道におち給うべきや、 定めて釈迦・多宝仏・十方の諸仏の御宝前にましまさん、是こそ四条金吾殿
10 の母よ母よと同心に頭をなで悦びほめ給うらめ、 あはれ・いみじき子を我はもちたりと釈迦仏と・かたらせ給うら
11 ん、法華経に云く 「若し善男子善女人有つて妙法華経の提婆達多品を聞いて浄心に信敬して疑惑を生ぜざらん者は
12 地獄餓鬼畜生に堕ちずして十方の仏前に生ぜん、 所生の処には常に此の経を聞かん、 若し人天の中に生れば勝妙
13 の楽を受け、 若し仏前に在らば蓮華より化生せん」と云云、 此の経文に善女人と見へたり妙法聖霊の事にあらず
14 んば誰が事にやあらん、 又云く「此の経は持つこと難し若し暫も持つ者は 我即ち歓喜す諸仏も亦然なり是の如き
15 の人は諸仏の歎めたもう所」と云云、 日蓮讃歎したてまつる事は・もののかずならず、諸仏所歎と見えたり、あら
16 たのもしや・あらたのもしやと・信心をふかくとり給うべし・信心をふかくとり給うべし、南無妙法蓮華経・南無妙
17 法蓮華経、恐恐謹言。
18       七月十二日                    日 蓮 花 押
19     四条金吾殿御返事
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四条金吾殿御消息
01   度度の御音信申しつくしがたく候、さても・さても去る十二日の難のとき貴辺たつのくちまで・つれさせ給い、
02 しかのみならず腹を切らんと仰せられし事こそ不思議とも申すばかりなけれ、 日蓮過去に妻子・所領・眷属等の故
03 に身命を捨てし所いくそばくか・ありけむ、 或は山にすて海にすて或は河或はいそ等・路のほとりか、然れども法
04 華経のゆへ 題目の難にあらざれば捨てし身も蒙る難等も成仏のためならず、 成仏のためならざれば捨てし海・河
05 も仏土にもあらざるか。
06   今度法華経の行者として流罪・死罪に及ぶ、流罪は伊東・死罪はたつのくち・相州のたつのくちこそ日蓮が命を
07 捨てたる処なれ仏土におとるべしや、 其の故は・すでに法華経の故なるがゆへなり、 経に云く「十方仏土中唯有
08 一乗法」と此の意なるべきか、 此の経文に一乗法と説き給うは 法華経の事なり、 十方仏土の中には法華経より
09 外は全くなきなり除仏方便説と見えたり、 若し然らば 日蓮が難にあう所ごとに仏土なるべきか、 娑婆世界の中
10 には日本国・日本国の中には相模の国・相模の国の中には片瀬・片瀬の中には竜口に日蓮が命を・とどめをく事は法
11 華経の 御故なれば 寂光土ともいうべきか、 神力品に云く 「若於林中若於園中若山谷曠野是中乃至而般涅槃」
12 とは是か。
13   かかる日蓮にともなひて 法華経の行者として 腹を切らんとの給う事かの弘演が腹をさいて主の懿公がきもを
14 入れたるよりも百千万倍すぐれたる事なり、 日蓮・霊山にまいりて・まづ四条金吾こそ法華経の御故に日蓮とをな
15 じく腹切らんと申し候なりと申し上げ候べきぞ、 又かまくらどのの仰せとて内内・ 佐渡の国へ・つかはすべき由
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01 承り候、 三光天子の中に月天子は光物とあらはれ竜口の頚をたすけ、 明星天子は四五日已前に下りて日蓮に見参
02 し給ふ、 いま日天子ばかりのこり給ふ定めて守護あるべきかとたのもしたのもし、 法師品に云く「則遣変化人為
03 之作衛護」疑あるべからず、 安楽行品に云く「刀杖不加」普門品に云く 「刀尋段段壊」此等の経文よも虚事にて
04 は候はじ、強盛の信力こそありがたく候へ、恐恐謹言。
05       文永八年九月二十一日                日 蓮 花 押
06     四条金吾殿
同生同名御書      文永九年四月      五十一歳御作
01   此の御文は藤四郎殿の女房と常によりあひて御覧あるべく候。
02   大闇をば日輪やぶる女人の心は大闇のごとし法華経は日輪のごとし、 幼子は母をしらず母は幼子をわすれず、
03 釈迦仏は母のごとし女人は幼子のごとし、 二人たがひに思へば・すべてはなれず一人は思へども一人思はざれば・
04 あるときはあひ.あるときはあわず、仏は・をもふものの・ごとし女人は.をもはざるものの・ごとし、我等仏を・を
05 もはば・いかでか釈迦仏・見え給はざるべき、 石を珠といへども珠とならず珠を石といへども石とならず、権経の
06 当世の念仏等は石のごとし、 念仏は法華経ぞと申すとも法華経等にあらず、 又法華経をそしるとも珠の石となら
07 ざるがごとし。
08   昔唐国に徽宗皇帝と申せし悪王あり、 道士と申すものにすかされて仏像・経巻をうしなひ僧尼を皆還俗せしめ
09 しに一人として還俗せざるものなかりき、 其の中に法道三蔵と申せし人こそ勅宣をおそれずして面にかなやきを・
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01   やかれて江南と申せし処へ流されて候いしが、今の世の禅宗と申す道士の法門のやうなる悪法を御信用ある世に
02 生れて、日蓮が大難に値うことは法道に似たり、 おのおの・わずかの御身と生れて鎌倉にゐながら人目をも・はば
03 からず命をも・おしまず法華経を御信用ある事ただ事とも・おぼえず、 但おしはかるに濁水に玉を入れぬれば水の
04 すむがごとし、しらざる事を・よき人に・おしえられて其のままに信用せば道理に・きこゆるがごとし、釈迦仏・普
05 賢菩薩・薬王菩薩・宿王華菩薩等の各各の御心中に入り給へるか、 法華経の文に閻浮提に此の経を信ぜん人は普賢
06 菩薩の御力なりと申す是なるべし、 女人は・たとへば藤のごとし・をとこは松のごとし須臾も・はなれぬれば立ち
07 あがる事なし。
08   はかばかしき下人もなきに・かかる乱れたる世に此のとのを・つかはされたる心ざし大地よりも・あつし地神定
09 めてしりぬらん・虚空よりも・たかし梵天帝釈もしらせ給いぬらん、 人の身には同生同名と申す二のつかひを天生
10 るる時よりつけさせ給いて影の身に.したがふがごとく須臾も・はなれず、大罪・小罪・大功徳.小功徳すこしも・お
11 とさず・かはる・かはる天にのぼて申し候と仏説き給う、此の事ははや天も・しろしめしぬらん、たのもしし・たの
12 もしし。
13       四月 日                                  日蓮花押
14     四条金吾殿女房御返事
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四条金吾殿御返事    文永九年五月    五十一歳御作
01   日蓮が諸難について御とぶらひ今に.はじめざる志ありがたく候、法華経の行者として.かかる大難にあひ候は・
02 くやしくおもひ候はず、 いかほど生をうけ死にあひ候とも是ほどの果報の生死は候はじ、 又三悪・四趣にこそ候
03 いつらめ、今は生死切断し仏果をうべき身となれば・よろこばしく候。
04   天台伝教等は迹門の理の一念三千の法門を弘め給うすら・なを怨嫉の難にあひ給いぬ、 日本にしては伝教より
05 義真.円澄・慈覚等・相伝して弘め給ふ、第十八代の座主・慈慧大師なり御弟子あまたあり、其の中に檀那・慧心.僧
06 賀・禅瑜等と申して四人まします、 法門又二つに分れたり、 檀那僧正は教を伝ふ、慧心僧都は観をまなぶ、され
07 ば教と観とは日月のごとし教はあさく観はふかし、 されば檀那の法門は・ひろくして・あさし、慧心の法門は・せ
08 ばくして・ふかし。
09   今日蓮が弘通する法門は・せばきやうなれども・はなはだふかし、其の故は彼の天台・伝教等の所弘の法よりは
10 一重立入りたる故なり、 本門寿量品の三大事とは是なり、 南無妙法蓮華経の七字ばかりを修行すればせばきが如
11 し、されども三世の諸仏の師範・十方薩タの導師・一切衆生皆成仏道の指南にてましますなれば・ふかきなり、 経
12 に云く「諸仏智慧・甚深無量」云云、 此の経文に諸仏とは十方三世の一切の諸仏・真言宗の大日如来・浄土宗の阿
13 弥陀.乃至諸宗・諸経の仏・菩薩・過去・未来・現在の総諸仏.現在の釈迦如来等を諸仏と説き挙げて次に智慧といへ
14 り、此の智慧とは・ なにものぞ諸法実相・十如果成の法体なり、 其の法体とは又なにものぞ南無妙法蓮華経是な
15 り、釈に云く「実相の深理・本有の妙法蓮華経」といへり、 其の諸法実相と云うも釈迦多宝の二仏とならうなり、
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01 諸法をば多宝に約し実相をば釈迦に約す、 是れ又境智の二法なり多宝は境なり釈迦は智なり、 境智而二にして・
02 しかも境智不二の内証なり、 此等はゆゆしき大事の法門なり煩悩即菩提・生死即涅槃と云うもこれなり、 まさし
03 く男女交会のとき南無妙法蓮華経と・となふるところを煩悩即菩提・生死即涅槃と云うなり、 生死の当体不生不滅
04 とさとるより外に生死即涅槃はなきなり、 普賢経に云く 「煩悩を断ぜず五欲を離れず諸根を浄むることを得て諸
05 罪を滅除す」止観に云く 「無明塵労は即是菩提生死は即涅槃なり」寿量品に云く「毎に自ら是の念を作す、 何を
06 以てか衆生をして無上道に入り、 速に仏身を成就することを得せしめん」と方便品に云く 「世間の相常住なり」
07 等は此の意なるべし、 此くの如く法体と云うも全く余には非ずただ南無妙法蓮華経の事なり、かかる・いみじく・
08 たうとき法華経を過去にてひざのしたに・をきたてまつり或はあなづりくちひそみ、 或は信じ奉らず、 或は法華
09 経の法門をならうて一人をも教化し法命をつぐ人を悪心をもつて・とによせ・かくによせ・おこつきわらひ、 或は
10 後生のつとめなれども先今生かなひがたければ・しばらく・ さしをけなんどと無量にいひうとめ謗ぜしによつて今
11 生に日蓮種種の大難にあうなり。
12   諸経の頂上たる御経をひきくをき奉る故によりて 現世に又人にさげられ用いられざるなり、譬喩品に「人にし
13 たしみつくとも人心にいれて 不便とおもふべからず」と説きたり、 然るに貴辺法華経の行者となり結句大難にも
14 あひ日蓮をもたすけ給う事、 法師品の文に「遣化四衆・比丘比丘尼優婆塞優婆夷」と説き給ふ此の中の優婆塞とは
15 貴辺の事にあらずんば・たれをかささむ、 すでに法を聞いて信受して逆はざればなり不思議や不思議や、 若し然
16 らば日蓮・法華経の法師なる事疑なきか、則ち如来にもにたるらん行如来事をも行ずるになりなん。
17   多宝塔中にして二仏並坐の時・上行菩薩に譲り給いし題目の五字を日蓮粗ひろめ申すなり、此れ即ち上行菩薩の
18 御使いか、 貴辺又日蓮にしたがひて法華経の行者として諸人にかたり給ふ是れ豈流通にあらずや、 法華経の信心
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01 を・とをし給へ・火をきるに・やすみぬれば火をえず、強盛の大信力をいだして法華宗の四条金吾・四条金吾と鎌倉
02 中の上下万人乃至日本国の一切衆生の口にうたはれ給へ、 あしき名さへ流す況やよき名をや 何に況や法華経ゆへ
03 の名をや、 女房にも此の由を云ひふくめて日月・両眼・さうのつばさと調ひ給へ、日月あらば冥途あるべきや両眼
04 あらば三仏の顔貌拝見疑なし、 さうのつばさあらば寂光の宝刹へ飛ばん事・須臾刹那なるべし、 委しくは又又申
05 べく候、恐恐謹言。
06       五月二日 日蓮花押
07     四条金吾殿御返事
四条金吾殿御返事    文永九年九月 五十一歳御作
01   夫れ斉の桓公と申せし王・紫をこのみて服給いき、楚の荘王と言いし王は女の腰のふとき事を・にくみしかば一
02 切の遊女・腰をほそからせんが・ために餓死しけるもの・おほし、 しかれば一人の好む事をば我が心にあはざれど
03 も万民随いしなり、 たとへば大風の草木をなびかし大海の衆流をひくが如し、 風にしたがはざる草木は・をれう
04 せざるべしや、 小河・大海におさまらずば・いづれのところにおさまるべきや、国王と申す事は先生に万人にすぐ
05 れて大戒を持ち天地及び諸神ゆるし給いぬ、 其の大戒の功徳をもちて其の住むべき国土を定む、 二人・三人等を
06 王とせず地王.天王・海王・山王等・悉く来臨して・この人をまほる、いかに・いはんや其の国中の諸民.其の大王を
07 背くべしや、 此の王はたとひ悪逆を犯すとも一二三度等には左右なく 此の大王を罰せず、但諸天等の御心に叶わ
08 ざるは一往は天変地夭等を・もちて・これをいさむ、事過分すれば諸天・善神等・其の国土を捨離し給う、若しは此
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01 の大王の戒力つき期来つて国土のほろぶる事もあり、 又逆罪多くにかさまれば隣国に破らるる事もあり、 善悪に
02 付て国は必ず王に随うものなるべし。
03   世間此くの如し仏法も又然なり、仏陀すでに仏法を王法に付し給うしかればたとひ聖人・賢人なる智者なれども
04 王にしたがはざれば仏法流布せず、 或は後には流布すれども 始めには必ず大難来る、 迦弐志加王は仏の滅後四
05 百余年の王なり健陀羅国を掌のうちににぎれり、 五百の阿羅漢を帰依して 婆沙論二百巻をつくらしむ、 国中総
06 て小乗なり其の国に大乗弘めがたかりき、 発舎密多羅王は五天竺を随へて仏法を失ひ衆僧の頚をきる、誰の智者も
07 叶わず。
08   太宗は賢王なり玄奘三蔵を師として 法相宗を持ち給いき誰の臣下かそむきし、 此の法相宗は大乗なれども五
09 性各別と申して仏教中のおほきなるわざはひと見えたり、 なを外道の邪法にもすぎ悪法なり、月支・震旦・日本・
10 三国共にゆるさず、 終に日本国にして伝教大師の御手にかかりて此の邪法止め畢んぬ、 大なるわざはひなれども
11 太宗これを信仰し給いしかば誰の人かこれをそむきし。
12   真言宗と申すは大日経.金剛頂経・蘇悉地経による・これを大日の三部と号す、玄宗皇帝の御時・善無畏三蔵.金
13 剛智三蔵・天竺より将ち来れり、玄宗これを尊重し給う事・天台・華厳宗等にもこへたり、法相・三論にも勝れて思
14 し食すが故に 漢土は総て大日経は法華経に勝るとおもひ日本国・ 当世にいたるまで天台宗は真言宗に劣るなりと
15 おもふ、彼の宗を学する東寺・天台の高僧等・慢・過慢をおこす、 但し大日経と法華経とこれをならべて偏党を捨
16 て是を見れば 大日経は螢火の如く法華経は明月の如く 真言宗は衆星の如く天台宗は日輪の如し、 偏執の者の云
17 く汝未だ真言宗の深義を習いきはめずして彼の無尽の科を申す、 但し真言宗・漢土に渡つて六百余年・日本に弘ま
18 りて四百余年・此の間の人師の難答あらあら・これをしれり、 伝教大師一人・此の法門の根源をわきまへ給う、し
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01 かるに当世・日本国第一の科是なり、 勝を以て劣と思い劣を以て勝と思うの故に大蒙古国を調伏する時・還つて襲
02 われんと欲す是なり。
03   華厳宗と申すは法蔵法師が所立の宗なり、則天皇后の御帰依ありしによりて諸宗・肩をならべがたかりき、 し
04 かれば王の威勢によりて宗の勝劣はありけり法に依つて勝劣なきやうなり。
05   たとひ深義を得たる論師・人師なりといふとも 王法には勝がたきゆへに・たまたま勝んとせし仁は大難にあへ
06 り、所謂師子尊者は檀弥羅王のために頚を刎ねらる、 提婆菩薩は外道のために殺害せらる、竺の道生は蘇山に流さ
07 れ法道三蔵は面に火印をされて江南に放たれたり、 而るに日蓮は法華経の行者にもあらず又僧侶の数にもいらず。
08   然り而して世の人に随て 阿弥陀仏の名号を持ちしほどに阿弥陀仏の化身とひびかせ給う善導和尚の云く「十即
09 十生・百即百生・乃至千中無一」と、 勢至菩薩の化身とあをがれ給う法然上人此の釈を料簡して云く「末代に念仏
10 の外の法華経等を雑ふる念仏においては千中無一・一向に念仏せば十即十生」と云云、 日本国の有智・無智仰いで
11 此の義を信じて今に五十余年・一人も疑を加へず、 唯日蓮の諸人にかはる所は阿弥陀仏の本願には 「唯五逆と誹
12 謗正法とを除く」とちかひ、 法華経には「若し人信ぜずして此の経を毀謗せば則ち一切世間の仏種を断ず、 乃至
13 其の人命終して阿鼻獄に入らん」と説かれたり、此れ善導・法然・謗法の者なれば・たのむところの阿弥陀仏にすて
14 られをはんぬ、余仏・余経においては我と抛ちぬる上は救い給うべきに及ばず、 法華経の文の如きは無間地獄・疑
15 なしと云云、而るを日本国は・をしなべて彼等が弟子たるあひだ此の大難まぬかれがたし。
16   無尽の秘計をめぐらして日蓮をあだむ是なり先先の諸難はさておき候いぬ、 去年九月十二日・御勘気をかほり
17 て其の夜のうちに頭をはねらるべきにて・ありしが・いかなる事にやよりけん 彼の夜は延びて此の国に来りていま
18 まで候に世間にも・すてられ仏法にも・すてられ天も・とぶらはれず二途にかけたるすてものなり、 而るを何なる
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01 御志にて・これまで御使を・つかはし御身には 一期の大事たる悲母の御追善第三年の御供養を送りつかはされたる
02 両三日は・うつつとも・おぼへず、 彼の法勝寺の修行がいはをが嶋にて・としごろつかひける童にあひたりし心地
03 なり、 胡国の夷陽公といひしもの漢土にいけどられて 北より南へ出けるに飛びまひける雁を見てなげきけんも・
04 これには・しかじとおぼへたり。
05   但し法華経に云く 「若し善男子善女人我が滅度の後に能く竊かに一人の為にも法華経の乃至一句を説かん、当
06 に知るべし是の人は則ち如来の使如来の所遣として 如来の事を行ずるなり」等云云、 法華経を一字一句も唱え又
07 人にも語り申さんものは教主釈尊の御使なり、 然れば日蓮賎身なれども 教主釈尊の勅宣を頂戴して此の国に来れ
08 り、 此れを一言もそしらん人人は罪を無間に開き一字一句も供養せん人は 無数の仏を供養するにも・すぎたりと
09 見えたり。
10   教主釈尊は一代の教主・一切衆生の導師なり、八万法蔵は皆金言・十二部経は皆真実なり、無量億劫より以来持
11 ち給いし不妄語戒の所詮は一切経是なり、 いづれも疑うべきにあらず、 但是は総相なり別してたづぬれば如来の
12 金口より出来して小乗.大乗・顕密・権経.実経是あり、今この法華経は「正直捨方便等・乃至世尊法久後・要当説真
13 実」と説き給う事なれば誰の人か疑うべきなれども多宝如来・証明を加へ諸仏・舌を梵天に付け給う、 されば此の
14 御経は一部なれども 三部なり一句なれども三句なり一字なれども三字なり、 此の法華経の一字の功徳は釈迦・多
15 宝・十方の諸仏の御功徳を一字におさめ給う、 たとへば如意宝珠の如し 一珠も百珠も同じき事なり一珠も無量の
16 宝を雨す百珠も又無尽の宝あり、 たとへば百草を抹りて一丸乃至百丸となせり 一丸も百丸も共に病を治する事こ
17 れをなじ、譬へば大海の一渧も衆流を備へ一海も万流の味を・もてるが如し。
18   妙法蓮華経と申すは総名なり二十八品と申すは別名なり、月支と申すは天竺の総名なり別しては五天竺是なり、
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01 日本と申すは総名なり別しては六十六州これあり、 如意宝珠と申すは釈迦仏の御舎利なり 竜王にこれを給いて頂
02 上に頂戴して帝釈是を持ちて宝をふらす、 仏の身骨の如意宝珠となれるは 無量劫来持つ所の大戒・身に薫じて骨
03 にそみ一切衆生をたすける珠となるなり、 たとへば犬の牙の虎の骨にとく魚の骨のウの気に消ゆるが如し、乃至・
04 師子の筋を琴の絃にかけて・これを弾けば余の一切の獣の筋の絃皆きらざるに・やぶる、 仏の説法をば師子吼と申
05 す乃至法華経は師子吼の第一なり。
06   仏には三十二相そなはり給う一一の相・皆百福荘厳なり、肉髻・白毫なんど申すは菓の如し因位の華の功徳等と
07 成つて三十二相を備え給う、 乃至無見頂相と申すは釈迦仏の御身は丈六なり 竹杖外道は釈尊の御長をはからず御
08 頂を見奉らんとせしに 御頂を見たてまつらず、 応持菩薩も御頂を見たてまつらず、 大梵天王も御頂をば見たて
09 まつらず、これは・いかなるゆへぞと・たづぬれば父母・ 師匠・主君を頂を地につけて恭敬し奉りしゆへに此の相
10 を感得せり。
11   乃至梵音声と申すは仏の第一の相なり、小王・大王・転輪王等・此の相を一分備へたるゆへに此の王の一言に国
12 も破れ国も治まるなり、 宣旨と申すは梵音声の一分なり、万民の万言・一王の一言に及ばず、則ち三墳・五典なん
13 ど申すは小王の御言なり、 此の小国を治め乃至大梵天王三界の衆生を随ふる事・仏の大梵天王・帝釈等をしたがへ
14 給う事もこの梵音声なり、 此等の梵音声一切経と成つて一切衆生を利益す、 其の中に法華経は釈迦如来の書き顕
15 して此の御音を文字と成し給う 仏の御心はこの文字に備れり、 たとへば種子と苗と草と稲とは・かはれども心は
16 たがはず。
17   釈迦仏と法華経の文字とはかはれども心は一つなり、 然れば法華経の文字を拝見せさせ給うは生身の釈迦如来
18 にあひ進らせたりと・おぼしめすべし、 此の志佐渡の国までおくり・つかはされたる事すでに釈迦仏知し食し畢ん
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01 ぬ、実に孝養の詮なり、恐恐謹言。
02       文永九年 月 日                  日 蓮 在 御 判
03     四条三郎左衛門尉殿御返事
経王御前御書   文永九年    五十一歳御作
01   種種御送り物給び候い畢んぬ、法華経第八・妙荘厳王品と申すには妙荘厳王・浄徳夫人と申す后は浄蔵・浄眼と
02 申す太子に導かれ給うと説かれて候、 経王御前を儲させ給いて候へば現世には跡をつぐべき孝子なり 後生には又
03 導かれて仏にならせ給うべし、 今の代は濁世と申して乱れて候世なり、 其の上・眼前に世の中乱れて見え候へば
04 皆人今生には弓箭の難に値いて修羅道におち後生には悪道疑なし。
05   而るに法華経を信ずる人人こそ仏には成るべしと見え候へ、御覧ある様にかかる事出来すべしと見えて候、 故
06 に昼夜に人に申し聞かせ候いしを 用いらるる事こそなくとも科に行はるる事は謂れ無き事なれども、 古も今も人
07 の損ぜんとては善言を用いぬ習なれば 終には用いられず世の中亡びんとするなり、 是れ偏えに法華経・釈迦仏の
08 御使を責むる故に梵天・帝釈・日月・四天等の責を蒙つて候なり、 又世は亡び候とも日本国は南無妙法蓮華経とは
09 人ごとに唱へ候はんずるにて候ぞ、 如何に申さじと思うとも毀らん人には弥よ申し聞かすべし、 命生て御坐ば御
10 覧有るべし、 又如何に唱うとも日蓮に怨をなせし人人は先ず 必ず無間地獄に堕ちて無量劫の後に日蓮の弟子と成
11 つて成仏す可し、恐恐謹言。
12       四条金吾殿御返事                    日蓮花押
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経王殿御返事    文永十年八月    五十二歳御作
01   其の後御をとづれきかまほしく候いつるところに・わざと人ををくり給候、 又何よりも重宝たるあし山海を尋
02 ぬるとも日蓮が身には時に当りて大切に候。
03   夫について経王御前の事・二六時中に日月天に祈り申し候、先日のまほり暫時も身を・はなさずたもち給へ、其
04 の本尊は正法・像法・二時には習へる人だにもなし・ましてかき顕し奉る事たえたり、師子王は前三後一と申して・
05 ありの子を取らんとするにも又たけきものを取らんとする時も・いきをひを出す事は・ただをなじき事なり、 日蓮
06 守護たる処の御本尊を・したため参らせ候事も師子王に・をとるべからず、経に云く「師子奮迅之力」とは是なり、
07 又此の曼荼羅能く能く信ぜさせ給うべし、 南無妙法蓮華経は師子吼の如し・いかなる病さはりをなすべきや、鬼子
08 母神・十羅刹女・法華経の題目を持つものを守護すべしと見えたり、 さいはひは愛染の如く福は毘沙門の如くなる
09 べし、 いかなる処にて遊びたはふるとも・つつがあるべからず遊行して畏れ無きこと師子王の如くなるべし、十羅
10 刹女の中にも皐諦女の守護ふかかるべきなり、但し御信心によるべし、 つるぎなんども・すすまざる人のためには
11 用る事なし、 法華経の剣は信心のけなげなる人こそ用る事なれ鬼に・ かなぼうたるべし、日蓮がたましひをすみ
12 にそめながして・かきて候ぞ信じさせ給へ、 仏の御意は法華経なり日蓮が・たましひは南無妙法蓮華経に・すぎた
13 るはなし、妙楽云く「顕本遠寿を以て其の命と為す」と釈し給う。
14   経王御前には・わざはひも転じて幸となるべし、 あひかまへて御信心を出し此の御本尊に祈念せしめ給へ、何
15 事か成就せざるべき、「充満其願・如清涼池・現世安穏・後生善処」疑なからん、又申し候当国の大難ゆり候はば・
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01 いそぎ・いそぎ鎌倉へ上り見参いたすべし、 法華経の功力を思ひやり候へば不老不死・目前にあり、ただ歎く所は
02 露命計りなり天たすけ給へと強盛に申し候、 浄徳夫人・竜女の跡をつがせ給へ、 南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華
03 経、あなかしこ・あなかしこ。
04       八月十五日                     日 蓮 花 押
05     経王御前御返事
呵責謗法滅罪抄    文永十年    五十二歳御作
01   御文委く承り候、法華経の御ゆへに 已前に伊豆の国に流され候いしもかう申せば謙ぬ口と人は・おぼすべけれ
02 ども心ばかりは悦ば入つて候いき、 無始より已来法華経の御ゆへに実にても虚事にても科に当るならば争か・かか
03 る・つたなき凡夫とは生れ候べき、 一端は・わびしき様なれども法華経の御為なれば・うれしと思い候いしに少し
04 先生の罪は消えぬらんと思しかども無始より已来の十悪.四重・六重・八重・十重.五無間・誹謗正法・一闡提の種種
05 の重罪・大山より高く大海より深くこそ候らめ、五逆罪と申すは一逆を造る猶・一劫・無間の果を感ず。
06   一劫と申すは人寿八万歳より百年に一を減し是くの如く乃至十歳に成りぬ、 又十歳より百年に一を加うれば次
07 第に増して八万歳になるを一劫と申す、 親を殺す者此程の無間地獄に堕ちて隙もなく大苦を受くるなり、 法華経
08 誹謗の者は心には思はざれども色にも嫉み戯れにもソシる程ならば 経にて無けれども法華経に名を寄たる人を軽し
09 めぬれば上の一劫を重ねて無数劫・無間地獄に堕ち候と見えて候、 不軽菩薩を罵打し人は始こそ・さありしかども
10 後には信伏随従して不軽菩薩を仰ぎ尊ぶ事・諸天の帝釈を敬ひ我等が日月を畏るるが如くせしかども 始めソシりし
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01 大重罪消えかねて千劫・大阿鼻地獄に入つて二百億劫・三宝に捨てられ奉りたりき。
02   五逆と謗法とを病に対すれば五逆は霍乱の如くして急に事を切る、 謗法は白癩病の如し始は緩に後漸漸に大事
03 なり、謗法の者は多くは無間地獄に生じ少しは六道に生を受く、 人間に生ずる時は貧窮・下賎等・白癩病等と見え
04 たり、日蓮は法華経の明鏡をもつて自身に引き向かへたるに都て・くもりなし、 過去の謗法の我が身にある事疑い
05 なし此の罪を今生に消さずば 未来争か地獄の苦をば免るべき、 過去遠遠の重罪をば何にしてか皆集めて今生に消
06 滅して未来の大苦を免れんと勘えしに当世・時に当つて謗法の人人・国国に充満せり、 其の上・国主既に第一の誹
07 謗の人たり、 此の時此の重罪を消さずば何の時をか期すべき、 日蓮が小身を日本国に打ち覆うてののしらば無量
08 無辺の邪法の四衆等・無量無辺の口を以て一時にソシるべし、 爾の時に国主は謗法の僧等が方人として日蓮を怨み
09 或は頚を刎ね或は流罪に行ふべし、 度度かかる事、出来せば無量劫の重罪・一生の内に消なんと謀てたる大術・少
10 も違ふ事なく・かかる身となれば所願も満足なるべし。
11   然れども凡夫なれば動すれば悔ゆる心有りぬべし、 日蓮だにも是くの如く侍るに前後も弁へざる女人なんどの
12 各仏法を見ほどかせ給わぬが 何程か日蓮に付いてくやしと・ おぼすらんと心苦しかりしに、 案に相違して日蓮
13 よりも強盛の御志どもありと聞へ候は 偏に只事にあらず、 教主釈尊の各の御心に入り替らせ給うかと思へば感涙
14 押え難し、 妙楽大師の釈に云く記七「故に知んぬ末代一時も聞くことを得聞き已つて信を生ずる事宿種なるべし」
15 等云云、 又云く弘二「運像末に在つて此の真文を矚る宿に妙因を殖うるに非ざれば実に値い難しと為す」等云云。
16   妙法蓮華経の五字をば四十余年・ 此れを秘し給ふのみにあらず 迹門十四品に猶是を抑へさせ給ひ寿量品にし
17 て本果・本因の蓮華の二字を説き顕し給ふ、此の五字をば仏・文殊・普賢・弥勒・薬王等にも付属せさせ給はず、地
18 涌の上行菩薩・無辺行菩薩・浄行菩薩・安立行菩薩等を寂光の大地より召し出して此れを付属し給ふ、 儀式ただ事
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01 ならず宝浄世界の多宝如来・ 大地より七宝の塔に乗じて涌現せさせ給ふ、 三千大千世界の外に四百万億那由佗の
02 国土を浄め高さ五百由旬の宝樹を尽一箭道に殖え並べて・ 宝樹一本の下に五由旬の師子の座を敷き並べ 十方分身
03 の仏尽く来り坐し給ふ、 又釈迦如来は垢衣を脱で宝塔を開き多宝如来に並び給ふ、 譬えば青天に日月の並べるが
04 如し帝釈と頂生王との善法堂に在すが如し、此の界の文殊等・他方の観音等・十方の虚空に雲集せる事・星の虚空に
05 充満するが如し、此の時此の土には華厳経の七処八会・十方世界の台上の盧舎那仏の弟子・法慧・功徳林・金剛幢・
06 金剛蔵等の十方刹土・塵点数の大菩薩雲集せり、方等の大宝坊・雲集の仏菩薩・般若経の千仏・須菩提帝釈等・大日
07 経の八葉九尊の四仏・四菩薩・金剛頂経の三十七尊等・ 涅槃経の倶尸那城へ集会せさせ給いし十方法界の仏菩薩を
08 ば文殊・ 弥勒等互に見知て御物語り是ありしかば 此等の大菩薩は出仕に物狎れたりと見え候、 今此の四菩薩出
09 でさせ給うて後・釈迦如来には九代の本師・ 三世の仏の御母にておはする文殊師利菩薩も一生補処と・ののしらせ
10 給ふ弥勒等も此の菩薩に値いぬれば物とも見えさせ給はず、 譬えば山かつが月卿に交りエン猴が師子の座に列るが
11 如し、 此の人人を召して妙法蓮華経の五字を付属せさせ給いき、 付属も只ならず十神力を現じ給ふ、釈迦は広長
12 舌を色界の頂に付け給へば 諸仏も亦復是くの如く 四百万億那由佗の国土の虚空に 諸仏の御舌赤虹を百千万億・
13 並べたるが如く充満せしかば おびただしかりし事なり、 是くの如く不思議の十神力を現じて結要付属と申して法
14 華経の肝心を抜き出して四菩薩に譲り、 我が滅後に十方の衆生に与へよと慇懃に付属して 其の後又一つの神力を
15 現じて文殊等の自界他方の菩薩・二乗・天人・竜神等には一経乃至・一代聖教をば付属せられしなり、本より影の身
16 に随つて候様につかせ給ひたりし迦葉・ 舎利弗等にも此の五字を譲り給はず此れは・さてをきぬ、文殊・弥勒等に
17 は争か惜み給うべき器量なくとも 嫌い給うべからず、 方方不審なるを或は他方の菩薩は此の土に縁少しと嫌ひ、
18 或は此の土の菩薩なれども 娑婆世界に結縁の日浅し、 或は我が弟子なれども初発心の弟子にあらずと嫌はれさせ
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01 給ふ程に、四十余年・並びに迹門十四品の間は一人も初発心の御弟子なし、 此の四菩薩こそ五百塵点劫より已来・
02 教主釈尊の御弟子として 初発心より又他仏につかずして二門をもふまざる人人なりと見えて候、 天台の云く「但
03 下方の発誓を見る」等云云、 又云く「是れ我が弟子なり応に我が法を弘むべし」等云云、 妙楽の云く「子父の法
04 を弘む」等云云、 道暹云く「法是れ久成の法なるに由るが故に久成の人に付す」等云云、 此の妙法蓮華経の五字
05 をば此の四人に譲られ候。
06  而るに仏の滅後・正法一千年.像法一千年・末法に入つて二百二十余年が間・月氏・漢土.日本・一閻浮提の内に未
07 だ一度も出でさせ給はざるは 何なる事にて有るらん、 正くも譲らせ給はざりし文殊師利菩薩は仏の滅後四百五十
08 年まで此の土におはして大乗経を弘めさせ給ひ、 其の後も香山・清涼山より度度来つて大僧等と成つて法を弘め、
09 薬王菩薩は天台大師となり 観世音は南岳大師と成り、 弥勒菩薩は傅大士となれり、 迦葉阿難等は仏の滅後二十
10 年・四十年・法を弘め給ふ、嫡子として譲られさせ給へる人の未だ見えさせ給はず、二千二百余年が間・教主釈尊の
11 絵像.木像を賢王.聖主は本尊とす、然れども但小乗.大乗・華厳.涅槃・観経・法華経の迹門.普賢経等の仏・真言.大
12 日経等の仏・宝塔品の釈迦・ 多宝等をば書けどもいまだ寿量品の釈尊は山寺精舎にましまさず何なる事とも量りが
13 たし、 釈迦如来は後五百歳と記し給ひ正像二千年をば法華経流布の時とは仰せられず、天台大師は 「後の五百歳
14 遠く妙道に沾わん」と未来に譲り、 伝教大師は「正像稍過ぎ已つて末法太だ近きに有り」等と書き給いて、 像法
15 の末は未だ法華経流布の時ならずと我と時を嫌ひ給ふ、されば・をしはかるに地涌千界の大菩薩は釈迦・多宝・十方
16 の諸仏の御譲り御約束を空く黙止て・はてさせ給うべきか。
17   外典の賢人すら時を待つ郭公と申す畜鳥は卯月五月に限る、此の大菩薩も末法に出ずべしと見えて候、 いかん
18 と候べきぞ瑞相と申す事は内典・ 外典に付いて必ず有るべき事の先に現ずるを云うなり、 蜘蛛かかつて喜事来り
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01 カサ鵲鳴いて客人来ると申して小事すら験先に現ず何に況や大事をや、 されば法華経序品の六瑞は一代超過の大瑞
02 なり、 涌出品は又此れには似るべくもなき大瑞なり、 故に天台の云く「雨の猛きを見ては竜の大きなる事を知り
03 華の盛なるを見ては池の深き事を知る」 と書かれて候、 妙楽云く「智人は起を知り蛇は自ら蛇を知る」と云云、
04 今日蓮も之を推して智人の一分とならん,去る正嘉元年太歳丁巳八月二十三日.戌亥の刻の大地震と、文永元年太歳甲
05 子七月四日の大彗星、 此等は仏滅後二千二百余年の間・未だ出現せざる大瑞なり、 此の大菩薩の此の大法を持ち
06 て出現し給うべき先瑞なるか、尺の池には丈の浪たたず驢・吟ずるに風・鳴らず、 日本国の政事乱れ万民歎くに依
07 つては此の大瑞現じがたし、誰か知らん法華経の滅不滅の大瑞なりと。
08   二千余年の間・悪王の万人にソシらるる謀叛の者の諸人に・あだまるる等日蓮が失もなきに高きにも下きにも罵
09 詈毀辱刀杖瓦礫等ひまなき事二十余年なり、 唯事にはあらず 過去の不軽菩薩の威音王仏の末に 多年の間・罵詈
10 せられしに相似たり、 而も仏・彼の例を引いて云く我が滅後の末法にも然るべし等と記せられて 候に近くは日本
11 遠くは漢土等にも法華経の故にかかる事有りとは 未だ聞かず人は悪んで是を云はず、 我と是を云はば自讃に似た
12 り、云わずば仏語を空くなす過あり、 身を軽んじて法を重んずるは賢人にて候なれば申す、 日蓮は彼の不軽菩薩
13 に似たり、国王の父母を殺すも民が考妣を害するも上下異なれども 一因なれば無間におつ、 日蓮と不軽菩薩とは
14 位の上下はあれども 同業なれば彼の不軽菩薩成仏し給はば日蓮が仏果疑うべきや、 彼は二百五十戒の上慢の比丘
15 に罵られたり、 日蓮は持戒第一の良観に讒訴せられたり、 彼は帰依せしかども千劫阿鼻獄におつ、此れは未だ渇
16 仰せず知らず無数劫をや経んずらん不便なり不便なり。
17    疑つて云く正嘉の大地震等の事は去る文応元年太歳庚申七月十六日宿屋の入道に付けて故最明寺入道殿へ奉る所
18 の勘文・立正安国論には 法然が選択に付いて日本国の仏法を失ふ故に天地瞋をなし自界叛逆難と他国侵遍難起るべ
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01 しと勘へたり、此には法華経の流布すべき瑞なりと申す先後の相違之有るか如何、 答えて云く汝能く之を問えり、
02 法華経の第四に云く 「而も此の経は如来現在すら猶怨嫉多し況や滅度の後をや」等云云、 同第七に況滅度後を重
03 ねて説いて云く 「我が滅度の後・後の五百歳の中に閻浮提に広宣流布せん」等云云、 仏滅後の多怨は後五百歳に
04 妙法蓮華経の流布せん時と見えて候、次ぎ下に又云く「悪魔・魔民・諸天竜・夜叉・鳩槃荼」等云云、行満座主伝教
05 大師を見て云く「聖語朽ちず今此の人に遇えり 我れ披閲する所の法門日本国の阿闍梨に授与す」等云云、 今も又
06 是くの如し 末法の始に妙法蓮華経の五字を流布して 日本国の一切衆生が仏の下種を懐妊すべき時なり、 例せば
07 下女が王種を懐妊すれば諸女瞋りをなすが如し、 下賎の者に王頂の珠を授与せんに大難来らざるべしや、 一切世
08 間・多怨難信の経文是なり、 涅槃経に云く「聖人に難を致せば他国より其の国を襲う」と云云、 仁王経も亦復是
09 くの如し取意、日蓮をせめて弥よ天地・四方より大災・雨の如くふり泉の如くわき浪の如く寄せ来るべし、国の大蝗
10 虫たる諸僧等・ 近臣等が日蓮を讒訴する 弥よ盛ならば大難倍来るべし、 帝釈を射る修羅は箭還つて己が眼にた
11 ち阿那婆達多竜を犯さんとする金翅鳥は 自ら火を出して自身をやく、 法華経を持つ行者は帝釈・阿那婆達多竜に
12 劣るべきや、 章安大師の云く 「仏法を壊乱するは仏法の中の怨なり慈無くして詐わり親むは 即ち是れ彼が怨な
13 り」等云云、又云く「彼が為に悪を除くは即ち是れ彼が親なり」等云云。
14   日本国の一切衆生は法然が捨閉閣抛と禅宗が教外別伝との誑言に誑かされて 一人もなく無間大城に堕つべしと
15 勘へて・ 国主万民を憚からず 大音声を出して二十余年が間よばはりつるは竜逢と比干との直臣にも劣るべきや、
16 大悲・ 千手観音の一時に無間地獄の衆生を取り出すに似たるか、 火の中の数子を父母が一時に取り出さんと思ふ
17 に手少なければ慈悲前後有るに似たり、故に千手・万手・億手ある父母にて在すなり、 爾前の経経は一手・二手等
18 に似たり法華経は 「一切衆生を化して皆仏道に入らしむ」と無数手の菩提是なり、 日蓮は法華経並びに章安の釈
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01 の如くならば日本国の一切衆生の慈悲の父母なり、 天高けれども耳とければ聞かせ給うらん 地厚けれども眼早け
02 れば御覧あるらん天地既に知し食しぬ、 又一切衆生の父母を罵詈するなり父母を流罪するなり、 此の国此の両三
03 年が間の乱政は先代にもきかず法に過ぎてこそ候へ。
04   抑悲母の孝養の事・仰せ遣され候感涙押へ難し、 昔元重等の五童は五郡の異性の他人なり兄弟の契りをなして
05 互に相背かざりしかば財三千を重ねたり、 我等親と云う者なしと歎きて途中に老女を儲けて 母と崇めて一分も心
06 に違はずして二十四年なり、 母忽に病に沈んで物いはず、 五子天に仰いで云く我等孝養の感無くして母もの云わ
07 ざる病あり、 願くは天・孝の心を受け給はば此の母に物いはせ給へと申す、其の時に母・五子に語つて云く我は本
08 是れ大原の陽猛と云うものの女なり、 同郡の張文堅に嫁す文堅死にき、我に一人の児あり名をば烏遺と云いき彼が
09 七歳の時・乱に値うて行く処をしらず、 汝等五子に養はれて二十四年・此の事を語らず、我が子は胸に七星の文あ
10 り右の足の下に黒子ありと語り畢つて死す、 五子葬をなす途中にして国令の行くにあひぬ、 彼の人物記する嚢を
11 落せり此の五童が取れるになして禁め置かれたり、 令来つて問うて云く汝等は何くの者ぞ、 五童答えて云く上に
12 言えるが如し、 爾の時に令上よりまろび下て天に仰ぎ地に泣く、 五人の縄をゆるして我が座に引き上せて物語り
13 して云く我は是れ烏遺なり、 汝等は我が親を養いけるなり此の二十四年の間・ 多くの楽みに値へども非母の事を
14 のみ思い出でて楽みも楽しみならず、 乃至大王の見参に入れて五県の主と成せりき、 他人集つて他の親を養ふに
15 是くの如し、何に況や同父同母の舎弟妹女等が・いういうたるを顧みば天も争か御納受なからんや。
16   浄蔵・浄眼は法華経をもつて邪見の慈父を導びき、提婆達多は仏の御敵・四十余年の経経にて捨てられ臨終悪く
17 して大地破れて無間地獄に行きしかども 法華経にて召し還して天王如来と記せらる、 阿闍世王は父を殺せども仏
18 涅槃の時・法華経を聞いて阿鼻の大苦を免れき。
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01   例せば此の佐渡の国は畜生の如くなり又法然が弟子充満せり、 鎌倉に日蓮を悪みしより百千万億倍にて候、一
02 日も寿あるべしとも見えねども各御志ある故に今まで寿を支へたり、 是を以て計るに法華経をば釈迦・多宝・十方
03 の諸仏・大菩薩.供養恭敬せさせ給へば此の仏・菩薩は各各の慈父慈母に日日・夜夜.十二時にこそ告げさせ給はめ、
04 当時主の御おぼえの・いみじく・おはするも慈父・悲母の加護にや有るらん、兄弟も兄弟とおぼすべからず只子とお
05 ぼせ、 子なりとも梟鳥と申す鳥は母を食ふ破鏡と申す獣の父を食わんと・うかがふ、 わが子・四郎は父母を養ふ
06 子なれども悪くばなにかせん、 他人なれどもかたらひぬれば命にも替るぞかし、 舎弟等を子とせられたらば今生
07 の方人・人目申す計りなし、 妹等を女と念はば・などか孝養せられざるべき、 是へ流されしには一人も訪う人も
08 あらじとこそ・おぼせしかども同行七八人よりは少からず 、上下のくわても各の御計ひなくばいかがせん、 是れ
09 偏に法華経の文字の各の御身に入り替らせ給いて御助けあるとこそ覚ゆれ。
10   何なる世の乱れにも各各をば法華経・十羅刹・助け給へと湿れる木より火を出し乾ける土より水を儲けんが如く
11 強盛に申すなり、事繁ければ・とどめ候。
12     四条金吾殿御返事                     日蓮花押
主君耳入此法門免与同罪事    文永十一年九月    五十三歳御作   与四条金吾
01   銭二貫文給び畢んぬ。
02   有情の第一の財は命にすぎず此れを奪う者は必ず三途に堕つ、 然れば輪王は十善の始には不殺生・仏の小乗経
03 の始には五戒・其の始には不殺生、大乗・梵網経の十重禁の始には不殺生、 法華経の寿量品は釈迦如来の不殺生戒
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01 の功徳に当つて候品ぞかし、 されば殺生をなす者は三世の諸仏にすてられ六欲天も是を守る事なし、 此の由は世
02 間の学者も知れり日蓮もあらあら意得て候、 但し殺生に子細あり彼の殺さるる者の失に軽重あり、我が父母主君・
03 我が師匠を殺せる者を・ かへりて害せば同じつみなれども重罪かへりて軽罪となるべし、 此れ世間の学者知れる
04 処なり、 但し法華経の御かたきをば大慈大悲の菩薩も供養すれば 必ず無間地獄に堕つ、 五逆の罪人も彼を怨と
05 すれば必ず人天に生を受く、 仙予国王・有徳国王は五百・無量の法華経のかたきを打ちて今は釈迦仏となり給う、
06 其の御弟子迦葉・阿難・舎利弗・目連等の無量の眷属は彼の時に先を懸け陣をやぶり 或は殺し或は害し或は随喜せ
07 し人人なり、覚徳比丘は迦葉仏なり、 彼の時に此の王王を勧めて法華経のかたきをば父母・宿世・叛逆の者の如く
08 せし大慈・大悲の法華経の行者なり。
09   今の世は彼の世に当れり、 国主日蓮が申す事を用ゆるならば彼がごとく・ なるべきに用いざる上かへりて彼
10 がかたうどとなり一国こぞりて日蓮・ をかへりてせむ、 上一人より下万民にいたるまで 皆五逆に過ぎたる謗法
11 の人となりぬ、されば各各も彼が方ぞかし、 心は日蓮に同意なれども身は別なれば 与同罪のがれがたきの御事に
12 候に主君に此の法門を耳にふれさせ進せけるこそ・ ありがたく候へ、 今は御用いなくもあれ殿の御失は脱れ給ひ
13 ぬ、此れより後には口をつつみて・おはすべし、又天も一定殿をば守らせ給うらん、此れよりも申すなり。
14   かまへて・かまへて御用心候べし、いよいよ・にくむ人人ねらひ候らん、御さかもり夜は一向に止め給へ、只女
15 房と酒うち飲んで・なにの御不足あるべき、他人のひるの御さかもりおこたるべからず、 酒を離れて・ねらうひま
16 有るべからず、返す返す、恐恐謹言。
17       九月二十六日                      日蓮花押
18     左衛門尉殿御返事
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四条金吾殿女房御返事    文永十二年正月    五十四歳御作
01   所詮日本国の一切衆生の目をぬき神をまどはかす邪法・真言師にはすぎず是は且らく之を置く、 十喩は一切経
02 と法華経との勝劣を説かせ給うと見えたれども仏の御心は・さには候はず、 一切経の行者と法華経の行者とを・な
03 らべて法華経の行者は日月等のごとし諸経の行者は衆星燈炬のごとしと申す事を詮と思し食され候、 なにを・もつ
04 て・これを・しるとならば第八の譬の下に最大事の文あり、所謂此の経文に云く「有能受持是経典者亦復如是於一切
05 衆生中亦為第一」等云云、 此の二十二字は一経・第一の肝心なり一切衆生の眼目なり、文の心は法華経の行者は日
06 月・大梵王・仏のごとし、大日経の行者は衆星・江河・凡夫のごとしと・とかれて候経文なり、されば此の世の中の
07 男女僧尼は嫌うべからず法華経を持たせ給う人は一切衆生のしうとこそ仏は御らん候らめ、 梵王・帝釈は・あをが
08 せ給うらめと・ うれしさ申すばかりなし、 又この経文を昼夜に案じ朝夕によみ候へば常の法華経の行者にては候
09 はぬにはんべり、 是経典者とて者の文字はひととよみ候へば此の世の中の比丘・比丘尼・うば塞・うばいの中に法
10 華経を信じまいらせ候・ 人人かと見えまいらせ候へば・さにては候はず、 次下の経文に此の者の文字を仏かさね
11 てとかせ給うて候には若有女人ととかれて候、 日蓮法華経より外の一切経をみ候には女人とは・ なりたくも候は
12 ず、 或経には女人をば地獄の使と定められ或経には大蛇と・ とかれ或経にはまがれ木のごとし或経には仏種をい
13 れる者とこそとかれて候へ、 仏法ならず外典にも栄啓期と申せし者の三楽をうたひし中に 無女楽と申して天地の
14 中女人と生れざる事を一の楽とこそ・たてられて候へ、 わざはひは三女より・をこれりと定められて候に、 此の
15 法華経計りに此の経を持つ女人は一切の女人に・すぎたるのみならず一切の男子に・こえたりとみえて候、 所詮・
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01 一切の人にそしられて候よりも女人の御ためには・いとをしと・をもはしき男に・ふびんと・をもはれたらんにはす
02 ぎじ、一切の人はにくまばにくめ、釈迦仏.多宝仏・十方の諸仏・乃至梵王・帝釈・日月等にだにも・ふびんと.をも
03 はれまいらせなば・なにかくるしかるべき、法華経にだにも・ほめられたてまつりなば・なにか・くるしかるべき。
04   今三十三の御やくとて御布施送りたびて候へば釈迦仏・法華経・日天の御まへに申し上て候、又人の身には左右
05 のかたあり、このかたに二つの神をはします一をば同名・二をば同生と申す、 此の二つの神は梵天・帝釈・日月の
06 人をまほらせんがために 母の腹の内に入りしよりこのかた一生をわるまで影のごとく眼のごとく・ つき随いて候
07 が、人の悪をつくり善をなしなむどし候をば・つゆちりばかりも・のこさず天にうたへまいらせ候なるぞ。
08   華厳経の文にて候を止観の第八に天台大師よませ給へり、 但し信心のよはきものをば法華経を持つ女人なれど
09 も・すつると・みえて候、例せば大将軍よはければ・したがうものも・かひなし、弓よはければ絃ゆるし・風ゆるけ
10 れば波ちゐさきは自然の道理なり、 而るにさえもん殿は俗の中・日本には・かたをならぶべき者もなき法華経の信
11 者なり、 是にあひつれさせ給いぬるは日本第一の女人なり、 法華経の御ためには竜女とこそ仏は・をぼしめされ
12 候らめ、女と申す文字をば・かかるとよみ候、 藤の松にかかり女の男にかかるも今は左衛門殿を師と・せさせ給い
13 て法華経へ・みちびかれさせ給い候へ。
14   又三十三のやくは転じて三十三のさいはひとならせ給うべし、七難即滅・七福即生とは是なり、年は・わかうな
15 り福はかさなり候べし、あなかしこ・あなかしこ。
16       正月二十七日                      日蓮花押
17     四条金吾殿女房御返事
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四条金吾殿御返事    文永十二年三月    五十四歳御作
01   此経難持の事、抑弁阿闍梨が申し候は貴辺のかたらせ給ふ様に持つらん者は現世安穏・後生善処と承つて・すで
02 に去年より今日まで・かたの如く信心をいたし申し候処にさにては無くして 大難雨の如く来り候と云云、 真にて
03 や候らん又弁公がいつはりにて候やらん、 いかさま・よきついでに不審をはらし奉らん、 法華経の文に難信難解
04 と説き給ふは是なり、 此の経をききうくる人は多し、 まことに聞き受くる如くに大難来れども憶持不忘の人は希
05 なるなり、受くるは・やすく持つはかたし・さる間・成仏は持つにあり、 此の経を持たん人は難に値うべしと心得
06 て持つなり、「則為疾得・無上仏道」は疑なし、三世の諸仏の大事たる南無妙法蓮華経を念ずるを持とは云うなり、
07 経に云く「護持仏所属」といへり、 天台大師の云く「信力の故に受け念力の故に持つ」云云、又云く「此の経は持
08 ち難し若し暫くも持つ者は我即ち歓喜す諸仏も亦然なり」云云、 火にたきぎを加える時はさかんなり、 大風吹け
09 ば求羅は倍増するなり、 松は万年のよはひを持つ故に枝を・まげらる、 法華経の行者は火と求羅との如し薪と風
10 とは大難の如し、 法華経の行者は久遠長寿の如来なり、 修行の枝をきられ・まげられん事疑なかるべし、此れよ
11 り後は此経難持の四字を暫時もわすれず案じ給うべし、○恐恐。
12       文永十二年乙亥三月六日                        日蓮花押
13      四条金吾殿
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王舎城事     建治元年四月    五十四歳御作   与四条金吾
01   銭一貫五百文給び候い畢んぬ、 焼亡の事委く承つて候事悦び入つて候、大火の事は仁王経の七難の中の第三の
02 火難・法華経の七難の中には第一の火難なり、 夫れ虚空をば剣にてきることなし水をば火焼くことなし、聖人・賢
03 人・福人・智者をば火やくことなし、 例せば月氏に王舎城と申す大城は在家・九億万家なり、七度まで大火をこり
04 てやけほろびき、 万民なげきて逃亡せんとせしに大王なげかせ給う事かぎりなし、 其の時賢人ありて云く七難の
05 大火と申す事は聖人のさり王の福の尽くる時をこり候なり、 然るに此の大火・万民をば・やくといえども内裏には
06 火ちかづくことなし、 知んぬ王のとが・にはあらず万民の失なりされば万民の家を王舎と号せば火神・名にをそれ
07 てやくべからずと申せしかば、 さるへんもとて王舎城とぞなづけられしかば・それより火災とどまりぬ、 されば
08 大果報の人をば大火はやかざるなり。
09   これは国王已にやけぬ知んぬ日本国の果報のつくるしるしなり、 然に此の国は大謗法の僧等が強盛にいのりを
10 なして日蓮を降伏せんとする故に 弥弥わざはひ来るにや、 其の上名と申す事は体を顕し候に両火房と申す謗法の
11 聖人・鎌倉中の上下の師なり、 一火は身に留りて極楽寺焼て地獄寺となりぬ、 又一火は鎌倉にはなちて御所やけ
12 候ぬ、 又一火は現世の国をやきぬる上に日本国の師弟ともに無間地獄に堕ちて 阿鼻の炎にもえ候べき先表なり、
13 愚癡の法師等が智慧ある者の申す事を用い候はぬは是体に候なり、不便不便、先先御文まいらせ候しなり。
14   御馬のがいて候へば又ともびきしてくり毛なる馬をこそまうけて候へ、あはれ・あはれ見せまいらせ候はばや、
15 名越の事は是にこそ多くの子細どもをば聞えて候へ、 ある人の・ゆきあひて理具の法門自讃しけるを・さむざむに
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01 せめて候けると承り候。
02   又女房の御いのりの事法華経をば疑ひまいらせ候はねども御信心やよはくわたらせ給はんずらん、 如法に信じ
03 たる様なる人人も実にはさもなき事とも是にて見て候、 それにも知しめされて候、まして女人の御心・風をば・つ
04 なぐとも・とりがたし、 御いのりの叶い候はざらんは弓のつよくしてつるよはく・太刀つるぎにて・つかう人の臆
05 病なるやうにて候べし、 あへて法華経の御とがにては候べからず、 よくよく念仏と持斎とを我もすて人をも力の
06 あらん程はせかせ給へ、 譬へば左衛門殿の人ににくまるるがごとしとこまごまと御物語り候へ、 いかに法華経を
07 御信用ありとも法華経のかたきを・とわりほどには・よもおぼさじとなり、 一切の事は父母にそむき国王にしたが
08 はざれば不孝の者にして天のせめをかうふる、 ただし法華経のかたきに・なりぬれば父母・国主の事をも用ひざる
09 が孝養ともなり国の恩を報ずるにて候。
10   されば日蓮は此の経文を見候しかば 父母手をすりてせいせしかども師にて候し人かんだうせしかども・鎌倉殿
11 の御勘気を二度まで・かほり・すでに頚となりしかども・ついにをそれずして候へば、 今は日本国の人人も道理か
12 と申すへんもあるやらん、 日本国に国主・父母・師匠の申す事を用いずしてついに天のたすけをかほる人は日蓮よ
13 り外は出しがたくや候はんずらん、 是より後も御覧あれ日蓮をそしる法師原が 日本国を祈らば弥弥国亡ぶべし、
14 結句せめの重からん時・上一人より下万民まで・もとどりをわかつやつことなりほぞをくうためしあるべし、 後生
15 はさてをきぬ今生に法華経の敵となりし人をば梵天・帝釈・日月・四天・罰し給いて皆人に・みこりさせ給へと申し
16 つけて候、 日蓮・法華経の行者にてあるなしは是れにて御覧あるべし、 かう申せば国主等は此の法師のをどすと
17 思へるか、 あへてにくみては申さず大慈大悲の力・無間地獄の大苦を今生にけさしめんとなり、章安大師云く「彼
18 が為に悪を除くは即ち是れ彼が親なり」等云云、 かう申すは国主の父母・一切衆生の師匠なり、事事多く候へども
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01 留候ぬ、又麦の白米一だはしかみ送り給び候い畢んぬ。
02       建治元年乙亥卯月十二日               日 蓮 花 押
03     四条金吾殿御返事
四条金吾殿御返事
01   態と御使喜び入つて候、又柑子五十・鵞目五貫文給び候い畢んぬ、各各御供養と云云、 又御文の中に云く去る
02 十六日に有る僧と寄合うて候時・諸法実相の法門を申し合いたりと云云、 今経は出世の本懐・一切衆生皆成仏道の
03 根元と申すも 只此の諸法実相の四字より外は全くなきなり、 されば伝教大師は万里の波涛をしのぎ給いて相伝し
04 まします此の文なり、 一句万了の一言とは是なり、 当世・天台宗の開会の法門を申すも此の経文を悪く意得て邪
05 義を云い出し候ぞ、 只此の経を持ちて南無妙法蓮華経と唱えて正直捨方便・ 但説無上道と信ずるを諸法実相の開
06 会の法門とは申すなり、 其の故は釈迦仏・多宝如来・十方三世の諸仏を証人とし奉り候なり、相構えてかくの如く
07 心得させ給いて諸法実相の四の文字を時時あぢわへ給うべし・ 良薬に毒をまじうる事有るべきや・うしほの中より
08 河の水を取り出す事ありや、 月は夜に出・日は昼出で給う此の事諍ふべきや、此れより後には加様に意得給いて御
09 問答あるべし、 但し細細は論難し給うべからず、 猶も申さばそれがしの師にて候日蓮房に御法門候へとうち咲う
10 て打ち返し打ち返し仰せ給うべく候。
11   法門を書きつる間・御供養の志は申さず候、有り難し有り難し委くは是よりねんごろに申すべく候。
12       建治元年乙亥七月二十二日              日 蓮 花 押
13     四条中務三郎左衛門尉殿御返事
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瑞相御書   建治元年    五十四歳御作   与四条金吾
01   夫れ天変は衆人をおどろかし地夭は諸人をうごかす、仏法華経をとかんとし給う時五瑞六瑞をげんじ給う、 其
02 の中に地動瑞と申すは大地六種に震動す六種と申すは天台大師文句の三に釈して云く 「東涌西没とは東方は青・肝
03 を主どる肝は眼を主どる西方は白・ 肺を主どる肺は鼻を主どる 此れ眼根の功徳生じて鼻根の煩悩互に滅するを表
04 するなり鼻根の功徳生じて眼の中の煩悩互に滅す・余方の涌没して余根の生滅を表するも亦復」云云、 妙楽大師之
05 を承けて云く「表根と言うは眼鼻已に東西を表す耳舌理として南北に対す・ 中央は心なり四方は身なり身四根を具
06 す心アマネく四を縁す故に心を以て身に対して涌没を為す」云云,夫十方は依報なり.衆生は正報なり譬へば依報は影
07 のごとし正報は体のごとし・身なくば影なし正報なくば依報なし・又正報をば依報をもつて此れをつくる、 眼根を
08 ば東方をもつて.これをつくる、舌は南方.鼻は西方・耳は北方.身は四方・心は中央等これを・もつて.しんぬべし、
09 かるがゆへに衆生の五根やぶれんとせば四方中央をどろうべし・ されば国土やぶれんと・するしるしには・まづ山
10 くづれ草木かれ江河つくるしるしあり 人の眼耳等驚そうすれば 天変あり人の心をうごかせば 地動す・抑何の経
11 経にか六種動これなき 一切経を仏とかせ給いしみなこれあり、 しかれども仏法華経をとかせ給はんとて 六種震
12 動ありしかば衆も・ ことにおどろき弥勒菩薩も疑い文殊師利菩薩もこたへしは 諸経よりも瑞も大に久しくありし
13 かば疑も大に決しがたかりしなり、 故に妙楽の云く「何れの大乗経にか集衆・放光・雨花・動地あらざらん但大疑
14 を生ずること無し」等云云、 此の釈の心はいかなる経経にも序は候へども此れほど大なるはなしとなり・されば天
15 台大師の云く 「世人以蜘蛛掛れば喜び来りカン鵲鳴けば行人至ると 小すら尚徴有り大焉ぞ瑞無からん近きを以て
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01 遠きを表す」等云云。
02   夫一代四十余年が間なかりし大瑞を現じて法華経の迹門を・とかせ給いぬ、 其の上本門と申すは又爾前の経経
03 の瑞に迹門を対するよりも大なる大瑞なり、 大宝塔の地より・をどりいでし地涌千界・大地よりならび出でし大震
04 動は大風の大海を吹けば 大山のごとくなる大波のあしのはのごとくなる小船のをひほにつくが・ ごとくなりしな
05 り、 されば序品の瑞をば弥勒は文殊に問い涌出品の大瑞をば 慈氏は仏に問いたてまつる・これを妙楽釈して云く
06 「迹事は浅近・文殊に寄すべし久本は裁り難し故に唯仏に託す」云云・迹門のことは仏説き給はざりしかども文殊ほ
07 ぼこれをしれり、 本門の事は妙徳すこしもはからず、 此の大瑞は在世の事にて候、仏・神力品にいたつて十神力
08 を現ず此れは又さきの二瑞には・にるべくもなき神力なり、 序品の放光は東方・万八千土、神力品の大放光は十方
09 世界、序品の地動は但三千界・神力品の大地動は諸仏の世界地・皆六種に震動す、 此の瑞も又又かくのごとし、此
10 の神力品の大瑞は仏の滅後正像二千年すぎて 末法に入つて法華経の肝要のひろまらせ給うべき大瑞なり、 経文に
11 云く「仏の滅度の後に能く是の経を持つを以ての故に諸仏皆歓喜して無量の神力を現ず」等云云、 又云く「悪世末
12 法の時」等云云。
13   疑つて云く夫れ瑞は吉凶につけて或は一時.二時.或は一日.二日・或は一年.二年・或は七年.十二年か.如何ぞ二
14 千余年已後の瑞あるべきや、 答えて云く周の昭王の瑞は一千十五年に始めてあえり、 訖利季王の夢は二万二千年
15 に始めてあいぬ、 豈二千余年の事の前にあらはるるを疑うべきや、問うて云く在世よりも滅後の瑞・大なる如何、
16 答えて云く大地の動ずる事は人の六根の動くによる、 人の六根の動きの大小によつて大地の六種も高下あり、 爾
17 前の経経には一切衆生・煩悩をやぶるやう・なれども実にはやぶらず、 今法華経は元品の無明をやぶるゆへに大動
18 あり、 末代は又在世よりも悪人多多なり、 かるがゆへに在世の瑞にも・すぐれて・あるべきよしを示現し給う。
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01 疑つて云く証文如何、 答えて云く而かも此の経は如来の現在にすら猶怨嫉多し 況や滅度の後をや等云云、 去る
02 正嘉・文永の大地震.大天変は天神七代・地神五代は・さてをきぬ、人王九十代.二千余年が間・日本国にいまだなき
03 天変地夭なり、 人の悦び多多なれば天に吉瑞をあらはし地に帝釈の動あり、 人の悪心盛なれば天に凶変地に凶夭
04 出来す、 瞋恚の大小に随いて天変の大小あり地夭も又かくのごとし、 今日本国・上一人より下万民にいたるまで
05 大悪心の衆生充満せり、 此の悪心の根本は日蓮によりて起れるところなり、 守護国界経と申す経あり法華経以後
06 の経なり阿闍世王.仏にまいりて云く我国に大早魃・大風・大水・飢饉・疫病.年年に起る上他国より我が国をせむ、
07 而るに仏の出現し給える国なり・いかんと問いまいらせ候しかば・仏答えて云く善き哉・善き哉・大王能く此の問を
08 なせり、 汝には多くの逆罪あり其の中に父を殺し提婆を師として我を害せしむ、 この二罪大なる故かかる大難来
09 ることかくのごとく無量なり、 其の中に我が滅後に末法に入つて提婆がやうなる僧・ 国中に充満せば正法の僧一
10 人あるべし、彼の悪僧等・正法の人を流罪・ 死罪に行いて王の后・乃至万民の女を犯して謗法者の種子の国に充満
11 せば国中に種種の大難をこり後には他国にせめらるべしと・とかれて候、 今の世の念仏者かくのごとく候上・真言
12 師等が大慢・提婆達多に百千万億倍すぎて候、 真言宗の不思議あらあら申すべし、 胎蔵界の八葉の九尊を画にか
13 きて 其の上にのぼりて諸仏の御面をふみて潅頂と申す事を行うなり、 父母の面をふみ天子の頂をふむがごとくな
14 る者・国中に充満して上下の師となれり、いかでか国ほろびざるべき。
15   此の事余が一大事の法門なり又又申すべし、 さきにすこしかきて候、いたう人におほせあるべからず、びんご
16 との心ざし一度・二度ならねばいかにとも。
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四条金吾殿御返事
01   一切衆生.南無妙法蓮華経と唱うるより外の遊楽なきなり経に云く「衆生所遊楽」云云、此の文.あに自受法楽に
02 あらずや、 衆生のうちに貴殿もれ給うべきや、 所とは一閻浮提なり日本国は閻浮提の内なり、遊楽とは我等が色
03 心依正ともに一念三千・自受用身の仏にあらずや、 法華経を持ち奉るより外に遊楽はなし現世安穏・後生善処とは
04 是なり、ただ世間の留難来るとも・とりあへ給うべからず、 賢人・聖人も此の事はのがれず、ただ女房と酒うちの
05 みて南無妙法蓮華経と・となへ給へ、 苦をば苦とさとり楽をば楽とひらき苦楽ともに思い合せて 南無妙法蓮華経
06 とうちとなへゐさせ給へ、これあに自受法楽にあらずや、いよいよ強盛の信力をいたし給へ、恐恐謹言。
07       建治二年丙子六月二十七日                日蓮花押
08     四条金吾殿御返事
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四条金吾釈迦仏供養事    建治二年七月    五十五歳御作
01   御日記の中に釈迦仏の木像一体等云云、開眼の事・普賢経に云く「此の大乗経典は諸仏の宝蔵なり十方三世の諸
02 仏の眼目なり」等云云、又云く「此の方等経は是れ諸仏の眼なり諸仏・是に因つて五眼を具することを得たもう」云
03 云、此の経の中に得具五眼とは一には肉眼・二には天眼・三には慧眼・四には法眼・五には仏眼なり、此の五眼をば
04 法華経を持つ者は自然に相具し候 、譬へば王位につく人は自然に国のしたがうがごとし、 大海の主となる者の自
05 然に魚を得るに似たり、華厳・阿含・方等・般若・大日経等には五眼の名はありといへども其の義なし、今の法華経
06 には名もあり義も備わりて候・設ひ名はなけれども必ず其の義あり。
07   三身の事、普賢経に云く「仏・三種の身は方等より生ず是の大法印は涅槃海を印す此くの如き海中より能く三種
08 の仏の清浄の身を生ず此の三種の身は人天の福田にして応供の中の最なり」云云、 三身とは一には法身如来・二に
09 は報身如来・ 三には応身如来なり、 此の三身如来をば一切の諸仏必ずあひぐす譬へば月の体は法身・月の光は報
10 身・月の影は応身にたとう、 一の月に三のことわりあり・一仏に三身の徳まします、この五眼三身の法門は法華経
11 より外には全く候はず、 故に天台大師の云く「仏三世に於て等しく 三身有り諸教の中に於て之を秘して伝えず」
12 云云、此の釈の中に於諸教中とかかれて候は華厳・方等・般若のみならず法華経より外の一切経なり、 秘之不伝と
13 かかれて候は法華経の寿量品より外の一切経には教主釈尊秘めて説き給はずとなり。
14   されば画像・木像の仏の開眼供養は法華経・天台宗にかぎるべし、其の上一念三千の法門と申すは三種の世間よ
15 りをこれり、 三種の世間と申すは一には衆生世間・二には五陰世間・三には国土世間なり、前の二は且らく之を置
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01 く、第三の国土世間と申すは草木世間なり、 草木世間と申すは五色のゑのぐは草木なり画像これより起る、 木と
02 申すは木像是より出来す、 此の画木に魂魄と申す神を入るる事は法華経の力な り天台大師のさとりなり、 此の
03 法門は衆生にて申せば 即身成仏といはれ画木にて申せば草木成仏と申すなり、 止観の明静なる前代いまだきかず
04 と・かかれて候と無情仏性・惑耳驚心等とのべられて候は是なり、 此の法門は前代になき上・後代にも又あるべか
05 らず、設ひ出来せば此の法門を偸盗せるなるべし、然るに天台以後二百余年の後・善無畏・金剛智・不空等・大日経
06 に真言宗と申す宗をかまへて仏説の大日経等には・ なかりしを法華経・天台の釈を盗み入れて真言宗の肝心とし、
07 しかも事を天竺によせて漢土・日本の末学を誑惑せしかば皆人此の事を知らず 一同に信伏して今に五百余年なり、
08 然る間・真言宗已前の木画の像は霊験・殊勝なり真言已後の寺塔は利生うすし、事多き故に委く注さず。
09   此の仏こそ生身の仏にておはしまし候へ、優填大王の木像と影顕王の木像と一分もたがうべからず、梵・帝・日
10 月・四天等必定して影の身に随うが如く貴辺をば・まほらせ給うべし是一。
11   御日記に云く毎年四月八日より七月十五日まで九旬が間・大日天子に仕えさせ給ふ事、 大日天子と申すは宮殿
12 七宝なり其の大さは八百十六里・五十一由旬なり、 其の中に大日天子居し給ふ、 勝無勝と申して二人の后あり左
13 右には七曜・九曜つらなり前には摩利支天女まします・ 七宝の車を八匹の駿馬にかけて四天下を一日一夜にめぐり
14 四州の衆生の眼目と成り給う、他の仏・菩薩・天子等は利生のいみじくまします事・耳にこれを・きくとも愚眼に未
15 だ見えず、 是は疑うべきにあらず眼前の利生なり 教主釈尊にましまさずば争か是くの如くあらたなる事候べき、
16 一乗の妙経の力にあらずんば 争か眼前の奇異をば現す可き不思議に思ひ候、 争か此の天の御恩をば報ずべきと・
17 もとめ候に仏法以前の人人も心ある人は皆或は礼拝をまいらせ 或は供養を申し皆しるしあり、 又逆をなす人は皆
18 ばつあり、 今内典を以てかんがへて候に金光明経に云く「日天子及以月天子是の経を聞くが故に精気充実す」等云
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01 云、最勝王経に云く「此の経王の力に由つて流暉四天下を遶る」等云云、 当に知るべし日月天の四天下をめぐり給
02 うは仏法の力なり・彼の金光明経・最勝王経は法華経の方便なり勝劣を論ずれば乳と醍醐と金と宝珠との如し、 劣
03 なる経を食しましまして尚四天下をめぐり給う、 何に況や法華経の醍醐の甘味を甞させ給はんをや、 故に法華経
04 の序品には普香天子とつらなりまします、 法師品には阿耨多羅三藐三菩提と記せられさせ給う 火持如来是なり、
05 其の上慈父よりあひつたはりて二代我が身となりて・ としひさし争かすてさせたまひ候べき、 其の上日蓮も又此
06 の天を恃みたてまつり日本国にたてあひて数年なり、 既に日蓮かちぬべき心地す利生のあらたなる事・ 外にもと
07 むべきにあらず、是より外に御日記たうとさ申す計りなけれども紙上に尽し難し。
08   なによりも日蓮が心にたつとき事候、 父母御孝養の事度度の御文に候上に今日の御文なんだ更にとどまらず、
09 我が父母・地獄にや・おはすらんとなげかせ給う事のあわれさよ、仏の弟子の御中に目ケン尊者と申しけるは父をば
10 きつせん師子と申し母をば青提女と申しけるが 餓鬼道におちさせ給いけるを凡夫にてをはしける時は、 しらせ給
11 わざりければ・なげきもなかりける程に、 仏の御弟子とならせ給いて後・阿羅漢となりて天眼をもつて御らんあり
12 ければ餓鬼道におはしけり、 是を御らんありて飲食をまいらせしかば炎となりて・ いよいよ苦をましさせまいら
13 せ給いしかば、 いそぎ・はしりかへり仏に此の由を申させ給いしぞかし、 爾の時の御心をおもひやらせ給へ、今
14 貴辺は凡夫なり肉眼なれば御らんなけれども.もしも・さもあらばと・なげかせ給う・こは孝養の一分なり・梵天.帝
15 釈・日月・四天も定めてあはれとおぼさんか、華厳経に云く「恩を知らざる者は多く横死に遭う」等云云、観仏相海
16 経に云く「是れ阿鼻の因なり」等云云、今既に孝養の志あつし定めて天も納受あらんか是二。
17   御消息の中に申しあはさせ給う事くはしく事の心を案ずるに・ あるべからぬ事なり、日蓮をば日本国の人あだ
18 む是はひとへにさがみどの・ のあだませ給うにて候ゆへなき御政りごとなれども・いまだ此の事にあはざりし時よ
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01 り・かかる事あるべしと知りしかば・今更いかなる事ありとも人をあだむ心あるべからずと・をもひ候へば、 此の
02 心のいのりとなりて候やらん・そこばくのなんをのがれて候、 いまは事なきやうになりて候、日蓮がさどの国にて
03 もかつえしなず又これまで山中にして法華経をよみまいらせ候は・たれか・たすけん・ ひとへにとのの御たすけな
04 り・又殿の御たすけは・なにゆへぞと・たづぬれば入道殿の御故ぞかし、あらわには・しろしめさねども定めて御い
05 のりともなるらん・かうあるならば・ かへりて又とのの御いのりとなるべし父母の孝養も又彼の人の御恩ぞかし、
06 かかる人の御内を如何なる事有ればとて・すてさせ給うべきや・かれより度度すてられんずらんは・いかがすべき・
07 又いかなる命になる事なりとも・すてまいらせ給うべからず、 上にひきぬる経文に不知恩の者は横死有と見えぬ・
08 孝養の者は又横死有る可からず、 鵜と申す鳥の食する鉄はとくれども 腹の中の子はとけず、 石を食する魚あり
09 又腹の中の子はしなず、 栴檀の木は火に焼けず浄居の火は水に消へず・仏の御身をば三十二人の力士・火をつけし
10 かども・やけず、 仏の御身よりいでし火は三界の竜神・雨をふらして消しかどもきえず、殿は日蓮が功徳をたすけ
11 たる人なり・悪人にやぶらるる事かたし、 もしやの事あらば先生に法華経の行者を・あだみたりけるが今生にむく
12 ふなるべし、此の事は如何なる山の中・海の上にても・のがれがたし、不軽菩薩の杖木の責も目ケン尊者の竹杖に殺
13 されしも是なり、なにしにか歎かせ給うべき。
14   但し横難をば忍には.しかじと見へて候・此の文御覧ありて後は・けつして百日が間をぼろげならでは.どうれい
15 並に他人と我が宅ならで夜中の御さかもりあるべからず・主の召さん時は昼ならば・いそぎ参らせ給うべし、 夜な
16 らば三度までは頓病の由を申させ給いて 三度にすぎば下人又他人をかたらひてつじを見せなんどして 御出仕ある
17 べし、 かうつつしませ給はんほどにむこの人もよせなんどし候はば人の心又さきにひきかへ候べし、 かたきをう
18 つ心とどまるべしと申させ給う事は御あやまち・ありとも左右なく御内を出でさせ給うべからず、 まして・なから
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01 んには・なにとも人申せ・くるしかるべからず、 おもひのままに入道にもなりておはせば・さきさきならばくるし
02 からず、又身にも心にもあはぬ事あまた出来せば・なかなか悪縁・度度・来るべし、このごろは女は尼になりて人を
03 はかり男は入道になりて大悪をつくるなり、 ゆめゆめ・あるべからぬ事なり、身に病なくとも・やいとを一二箇所
04 やいて病の由あるべし、さわぐ事ありとも・しばらく人をもつて見せをほせさせ給へ。
05   事事くはしくは・かきつくしがたし、 此の故に法門もかき候はず、御経の事はすずしくなり候いてかいてまい
06 らせ候はん、恐恐謹言。
07       建治二年丙子七月十五日               日 蓮 花 押
08     四条金吾殿御返事
四条金吾殿御返事
01   正法をひろむる事は必ず智人によるべし、故に釈尊は一切経を・とかせ給いて小乗経をば阿難・大乗経をば文殊
02 師利・法華経の肝要をば一切の声聞・文殊等の一切の菩薩をきらひて上行菩薩をめして授けさせ給いき、 設い正法
03 を持てる智者ありとも檀那なくんば争か弘まるべき・ 然れば釈迦仏の檀那は梵王・帝釈の二人なりこれは二人なが
04 ら天の檀那なり、仏は六道の中には人天・人天の中には人に出でさせ給う・人には三千世界の中央・五天竺・五天竺
05 の中には摩竭提国に出でさせ給いて候しに、 彼の国の王を檀那とさだむべき処に 彼の国の阿闍世王は悪人なり、
06 聖人は悪王に生れあふ事第一の怨にて候しぞかし、 阿闍世王は賢王なりし父をころす、 又うちそふわざはひと提
07 婆達多を師とせり、 達多は三逆罪をつくる上・仏の御身より血を出だしたりし者ぞかし、 不孝の悪王と謗法の師
08 とよりあひて候しかば人間に二のわざはひにて候しなり、 一年二年ならず数十年が間・仏にあだを・なしまいらせ
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01 仏の御弟子を殺せし事・数をしらず、かかりしかば天いかりを・なして天変しきりなり、 地神いかりを・なして地
02 夭申すに及ばず、 月月に悪風・年年に飢饉・疫癘来りて万民ほとんど・つきなんとせし上、四方の国より阿闍世王
03 を責む、 既に危く成りて候し程に阿闍世王・或は夢のつげにより・或は耆婆がすすめにより・或は心にあやしむ事
04 ありて提婆達多をば・ うち捨て仏の御前にまいりて・やうやうにたいほう申せしかば身の病忽にいゑ・他方のいく
05 さも留まり国土安穏になるのみならず・ 三月の七日に御崩御なるべかりしが命をのべて四十年なり、 千人の阿羅
06 漢をあつめて一切経・ことには法華経を・かきをかせ給いき、 今我等がたのむところの法華経は阿闍世王のあたへ
07 させ給う御恩なり。
08   是はさてをきぬ・仏の阿闍世王にかたらせ給いし事を 日蓮申すならば日本国の人は今つくれる事どもと申さん
09 ずらんなれども・我が弟子檀那なればかたりたてまつる、 仏言わく我が滅後・末法に入つて又調達がやうなる・た
10 うとく五法を行ずる者・国土に充満して悪王をかたらせて・ 但一人あらん智者を或はのり或はうち或は流罪或は死
11 に及ぼさん時.昔にも・すぐれてあらん天変・地夭・大風・飢饉・疫癘.年年にありて他国より責べしと説かれて候、
12 守護経と申す経の第十の巻の心なり。
13   当時の世にすこしもたがはず、然るに日蓮は此の一分にあたれり・日蓮をたすけんと志す人人・少少ありといへ
14 ども或は心ざしうすし・或は心ざしは・あつけれども身がうごせず・やうやうにをはするに御辺は其の一分なり・心
15 ざし人にすぐれて・をはする上わづかの身命をささうるも又御故なり、 天もさだめて・しろしめし地もしらせ給い
16 ぬらん殿いかなる事にもあはせ給うならば・ ひとへに日蓮がいのちを天のたたせ給うなるべし、人の命は山海・空
17 市まぬかれがたき事と定めて候へども・又定業亦能転の経文もあり・又天台の御釈にも定業をのぶる釈もあり、 前
18 に申せしやうに蒙古国のよするまで・つつしませ給うなるべし、 主の御返事をば申させ給うべし・身に病ありては
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01 叶いがたき上・世間すでに・かうと見え候・それがしが身は時によりて憶病はいかんが候はんずらん、只今の心は・
02 いかなる事も出来候はば 入道殿の御前にして命をすてんと存じ候、 若しやの事候ならば越後よりはせ上らんは・
03 はるかなる上不定なるべし、たとひ所領を・めさるるなりとも今年は・きみをはなれまいらせ候べからず。
04   是より外は・いかに仰せ蒙るとも・をそれまいらせ候べからず、是よりも大事なる事は日蓮の御房の御事と過去
05 に候父母の事なりと・ののしらせ給へ、 すてられまいらせ候とも命はまいらせ候べし・後世は日蓮の御房にまかせ
06 まいらせ候と高声にうちなのり居させ給へ。
07       建治二年丙子九月六日                 日蓮花押
08     四条金吾殿
四条金吾殿御返事
01   はるかに申し承り候はざりつれば・ いぶせく候いつるに・かたがたの物と申し御つかいと申しよろこび入つて
02 候又まほりまいらせ候、 所領の間の御事は上よりの御文ならびに御消息引き合せて見候い畢んぬ、 此の事は御文
03 なきさきにすいして候、 上には最大事と・おぼしめされて候へども御きんずの人人のざんそうにて あまりに所領
04 をきらい上をかろしめたてまつり候、 ぢうあうの人こそををく候にかくまで候へば 且らく御恩をば・おさへさせ
05 給うべくや候らんと申しぬらんと・すいして候なり・それにつけては御心えあるべし御用意あるべし、 我が身と申
06 しをやるいしんと申し・ かたがた御内に不便といはれまいらせて候大恩の主なる上すぎにし日蓮が御かんきの時・
07 日本一同ににくむ事なれば 弟子等も或は所領を・ ををかたよりめされしかば又方方の人人も或は御内内をいだし
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01 或は所領をおいなんどせしに其の御内に・なに事もなかりしは御身にはゆゆしき大恩と見へ候。
02   このうへは・たとひ一分の御恩なくとも・うらみまいらせ給うべき主にはあらず、それにかさねたる御恩を申し
03 所領をきらはせ給う事 ・御とがにあらずや、 賢人は八風と申して八のかぜにをかされぬを賢人と申すなり、利・
04 衰・毀・誉・称・譏・苦・楽なり、 をを心は利あるに・よろこばず・ をとろうるになげかず等の事なり、 此の
05 八風にをかされぬ人をば必ず天はまほらせ給うなりしかるを・ ひりに主をうらみなんどし候へば・いかに申せども
06 天まほり給う事なし、 訴訟を申せど叶いぬべき事もあり、 申さぬに叶うべきを申せば叶わぬ事も候、夜めぐりの
07 殿原の訴訟は申すは叶いぬべきよしを・かんがへて候しに・あながちに・なげかれし上日蓮がゆへに・めされて候へ
08 ば・いかでか不便に候はざるべき、 ただし訴訟だにも申し給はずば・いのりてみ候はんと申せしかば、さうけ給わ
09 り候いぬと約束ありて・又をりかみをしきりにかき・人人・訴訟ろんなんど・ありと申せし時に此の訴訟よも叶わじ
10 とをもひ候いしが・いままでのびて候。
11   だいがくどのゑもんのたいうどのの事どもは申すままにて候あいだ・いのり叶いたるやうに・みえて候、はきり
12 どのの事は法門の御信用あるやうに候へども 此の訴訟は申すままには御用いなかりしかば・ いかんがと存じて候
13 いしほどに.さりとては・と申して候いしゆへにや候けん・すこし・しるし候か、これに・をもうほど.なかりしゆへ
14 に又をもうほどなし、 だんなと師とをもひあわぬいのりは水の上に火をたくがごとし、 又だんなと師とをもひあ
15 ひて候へども大法を小法をもつて・をかしてとしひさしき人人の御いのりは叶い候はぬ上、 我が身も・だんなも・
16 ほろび候なり。
17   天台の座主・明雲と申せし人は第五十代の座主なり、去ぬる安元二年五月に院勘をかほりて伊豆国へ配流・山僧
18 大津よりうばいかへす、 しかれども又かへりて座主となりぬ・又すぎにし壽永二年十一月に義仲に・からめとられ
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01 し上・頚うちきられぬ・是はながされ頚きらるるを・とがとは申さず賢人・聖人もかかる事候、但し源氏の頼朝と平
02 家の清盛との合戦の起りし時・ 清盛が一類・二十余人・起請をかき連判をして願を立てて平家の氏寺と叡山をたの
03 むべし三千人は父母のごとし・山のなげきは我等がなげき・山の悦びは我等がよろこびと申して、近江の国・二十四
04 郡を一向によせて候しかば、 大衆と座主と一同に内には真言の大法をつくし・外には悪僧どもを・もつて源氏をい
05 させしかども 義仲が郎等ひぐちと申せしをのこ義仲とただ五六人計り 叡山中堂にはせのぼり調伏の壇の上にあり
06 しを引き出して・ なわをつけ西ざかを大石をまろばすやうに引き下して 頚をうち切りたりき、かかる事あれども
07 日本の人人真言をうとむ事なし又たづぬる事もなし・ 去ぬる承久三年辛巳五六七の三箇月が間・京・夷の合戦あり
08 き、時に日本国第一の秘法どもをつくして叡山.東寺・七大寺・園城寺等・天照太神・正八幡.山王等に一一に御いの
09 りありき、其の中に日本第一の僧四十一人なり所謂前の座主・慈円大僧正・東寺・御室・三井寺の常住院の僧正等は
10 度度・義時を調伏ありし上、 御室は紫宸殿にして六月八日より御調伏ありしに、七日と申せしに同じく十四日に・
11 いくさに・まけ勢多迦が頚きられ御室をもひ死に死しぬ、 かかる事候へども真言は・いかなるとがとも・あやしむ
12 る人候はず、をよそ真言の大法をつくす事・明雲第一度・慈円第二度に日本国の王法ほろび候い畢んぬ、 今度第三
13 度になり候、当時の蒙古調伏此れなり、かかる事も候ぞ此れは秘事なり人にいはずして心に存知せさせ給へ。
14   されば此の事御訴訟なくて又うらむる事なく 御内をばいでず我かまくらにうちいて・さきざきよりも出仕とを
15 きやうにて・ときどきさしいでて・おはするならば叶う事も候なん、あながちに・わるびれて・みへさせ給うべから
16 ず、よくと名聞・瞋との。
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頼基陳状    建治三年六月    五十六歳御代作
01   去ぬる六月二十三日の御下文・島田の左衛門入道殿・山城の民部入道殿・両人の御承りとして同二十五日謹んで
02 拝見仕り候い畢んぬ、 右仰せ下しの状に云く 竜象御房の御説法の所に参られ候いける次第をほかた穏便ならざる
03 由、見聞の人遍く一方ならず同口に申し合い候事驚き入つて候、徒党の仁其の数兵杖を帯して出入すと云云。
04   此の条跡形も無き虚言なり、 所詮誰人の申し入れ候けるやらん御哀憐を蒙りて召し合せられ実否を糾明され候
05 はば然るべき事にて候、 凡そ此の事の根源は去る六月九日日蓮聖人の御弟子・三位公・頼基が宿所に来り申して云
06 く近日竜象房と申す僧・ 京都より下りて大仏の門の西・桑か谷に止住して日夜に説法仕るが・申して云く現当の為
07 仏法に御不審存ぜむ人は 来りて問答申す可き旨説法せしむる間、 鎌倉中の上下釈尊の如く貴び奉るしかれども問
08 答に及ぶ人なしと風聞し候、 彼へ行き向いて問答を遂げ一切衆生の後生の不審をはらし候はむと思い候、 聞き給
09 はぬかと申されしかども 折節官仕に隙無く候いし程に思い立たず候いしかども、 法門の事と承りてたびたび罷り
10 向いて候えども頼基は俗家の分にて候い一言も出さず候し上は悪口に及ばざる事・厳察足る可く候。
11   ここに竜象房説法の中に申して云く 此の見聞満座の御中に御不審の法門あらば仰せらる可くと申されし処に、
12 日蓮房の弟子・ 三位公問うて云く生を受けしより死をまぬかるまじきことはり始めて・ をどろくべきに候はねど
13 も、ことさら当時・日本国の災孼に死亡する者数を知らず眼前の無常・人毎に思いしらずと云ふ事なし、 然る所に
14 京都より上人・ 御下りあつて人人の不審をはらし給うよし承りて参りて候つれども 御説法の最中骨無くも候なば
15 と存じ候し処に・問うべき事有らむ人は各各憚らず問い給へと候し間・悦び入り候、 先づ不審に候事は末法に生を
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01 受けて辺土のいやしき身に候へども 中国の仏法・幸に此の国にわたれり 是非信受す可き処に経は五千七千数多な
02 り、然而一仏の説なれば所詮は一経にてこそ候らむに華厳・真言・乃至八宗・浄土・禅とて十宗まで分れてをはしま
03 す、此れ等の宗宗も門は・ことなりとも所詮は一かと推する処に、 弘法大師は我が朝の真言の元祖・法華経は華厳
04 経・大日経に相対すれば門の異なるのみならず其の理は戯論の法・無明の辺域なり、 又法華宗の天台大師等は諍盗
05 醍醐等云云、法相宗の元祖慈恩大師云く「法華経は方便・深密経は真実・無性有情・永不成仏」云云、華厳宗の澄観
06 云く「華厳経は本教.法華経は末教・或は華厳は頓頓.法華は漸頓」等云云、三論宗の嘉祥大師の云く「諸大乗経の中
07 には般若教第一」云云、浄土宗の善導和尚云く「念仏は十即十生・百即百生・法華経等は千中無一」云云、法然上人
08 云く「法華経を念仏に対して捨閉閣抛或は行者は群賊」等云云、禅宗の云く「教外別伝・不立文字」云云、教主釈尊
09 は法華経をば世尊の法は久しくして 後に要当に真実を説きたもうべし、 多宝仏は妙法華経は皆是真実なり十方分
10 身の諸仏は舌相梵天に至るとこそ見えて候に弘法大師は法華経をば戯論の法と書かれたり、 釈尊・多宝・十方の諸
11 仏は皆是真実と説かれて候、いづれをか信じ候べき、善導和尚・法然上人は法華経をば千中無一・捨閉閣抛・釈尊・
12 多宝・十方分身の諸仏は一として成仏せずと云う事無し皆仏道を成ずと云云、 三仏と導和尚・然上人とは水火なり
13 雲泥なり何れをか信じ候べき何れをか捨て候べき・ 就中彼の導・然両人の仰ぐ所の雙観経の法蔵比丘の四十八願の
14 中に第十八願に云く「設い我れ仏を得るとも唯五逆と誹謗正法とを除く」と云云、 たとひ弥陀の本願実にして往生
15 すべくとも、 正法を誹謗せむ人人は弥陀仏の往生には除かれ奉るべきか・又法華経の二の巻には「若し人信ぜざれ
16 ば其の人命終して阿鼻獄に入らん」と云云、 念仏宗に詮とする導・然の両人は経文実ならば阿鼻大城をまぬかれ給
17 ふべしや、彼の上人の地獄に堕ち給わせば末学・弟子・檀那等・自然に悪道に堕ちん事・疑いなかるべし、此等こそ
18 不審に候へ上人は如何と問い給はれしかば。
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01   竜上人答て云く上古の賢哲達をばいかでか疑い奉るべき、 竜象等が如くなる凡僧等は仰いで信じ奉り候と答え
02 給しを、 をし返して此の仰せこそ智者の仰せとも覚えず候へ、 誰人か時の代にあをがるる人師等をば 疑い候べ
03 き、但し涅槃経に仏最後の御遺言として「法に依つて人に依らざれ」と見えて候、 人師にあやまりあらば経に依れ
04 と仏は説かれて候、 御辺はよもあやまりましまさじと申され候、 御房の私の語と仏の金言と比には 三位は如来
05 の金言に付きまいらせむと思い候なりと申されしを。
06   象上人は人師にあやまり多しと候は・いづれの人師に候ぞと問はれしかば、上に申しつる所の弘法大師・法然上
07 人等の義に候はずやと答え給い候しかば・ 象上人は嗚呼叶い候まじ我が朝の人師の事は忝くも問答仕るまじく候、
08 満座の聴衆皆皆其の流にて御座す 鬱憤も出来せば定めてみだりがはしき事候なむ恐れあり 恐れありと申されし処
09 に、 三位房の云く人師のあやまり誰ぞと候へば 経論に背く人師達をいだし候し憚あり・ かなふまじと仰せ候に
10 こそ進退きはまりて覚え候へ、  法門と申すは人を憚り世を恐れて仏の説き給うが如く経文の実義を申さざらんは
11 愚者の至極なり、 智者上人とは覚え給はず悪法世に弘まりて人悪道に堕ち 国土滅すべしと見へ候はむに法師の身
12 として争かいさめず候べき、然れば則ち法華経には「我身命を愛まず」涅槃経には「寧ろ身命を喪うとも」等云云、
13 実の聖人にてをはせば 何が身命を惜みて世にも人にも恐れ給うべき、 外典の中にも竜蓬と云いし者、比干と申せ
14 し賢人は頚をはねられ胸をさかれしかども夏の桀・殷の紂をば・ いさめてこそ賢人の名をば流し候しか、内典には
15 不軽菩薩は杖木をかほり師子尊者は頭をはねられ 竺の道生は蘇山にながされ法道三蔵は面に火印を・ さされて江
16 南に・はなたれしかども正法を弘めてこそ聖人の名をば得候しかと難ぜられ候しかば。
17   竜上人の云くさる人は末代にはありがたし 我我は世をはばかり人を恐るる者にて候、さやうに仰せらるる人と
18 ても・ことばの如くには・よもをはしまし候はじと候しかば。
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01   此の御房は争か人の心をば知り給うべき 某こそ当時日本国に聞え給う日蓮聖人の弟子として候へ、 某が師匠
02 の聖人は 末代の僧にて御坐候へども 当世の大名僧の如く望んで請用もせず人をも 諂はず聊か異なる悪名もたた
03 ず・只此の国に真言・禅宗・浄土宗等の悪法・並に謗法の諸僧満ち満ちて上一人をはじめ奉りて下万民に至るまで御
04 帰依ある故に法華経・教主釈尊の大怨敵と成りて現世には天神・ 地祇にすてられ他国のせめにあひ、後生には阿鼻
05 大城に堕ち給うべき由・ 経文にまかせて立て給いし程に此の事申さば大なるあだあるべし 申さずんば仏のせめの
06 がれがたし、 いはゆる涅槃経に「若し善比丘あつて法を壊る者を見て置いて呵責し駈遣し挙処せずんば 当に知る
07 べし是の人は仏法の中の怨なり」等と云云、 世に恐れて申さずんば我が身悪道に堕つべきと 御覧じて身命をすて
08 て去る建長年中より今年建治三年に至るまで二十余年が間・あえて・をこたる事なし、 然れば私の難は数を知らず
09 国王の勘気は両度に及びき、 三位も文永八年九月十二日の勘気の時は 供奉の一人にて有りしかば同罪に行はれて
10 頚を・はねらるべきにてありしは身命を惜むものにて候かと申されしかば。
11   竜象房口を閉て色を変え候しかば 此の御房申されしは是程の御智慧にては人の不審をはらすべき由の仰せ無用
12 に候けり・苦岸比丘・勝意比丘等は我れ正法を知りて人をたすくべき由存ぜられて候しかども 我が身も弟子・檀那
13 等も無間地獄に堕ち候き、 御法門の分斉にてそこばくの人を救はむと説き給うが如くならば 師檀共に無間地獄に
14 や堕ち給はんずらむ今日より後は 此くの如き御説法は御はからひあるべし、 加様には申すまじく候へども悪法を
15 以て人を地獄にをとさん邪師をみながら責め顕はさずば 返つて仏法の中の怨なるべしと仏の御いましめ・ のがれ
16 がたき上聴聞の上下皆悪道にをち給はん事 不便に覚え候へば此くの如く申し候なり、 智者と申すは国のあやうき
17 を・いさめ人の邪見を申しとどむるこそ智者にては候なれ、 是はいかなるひが事ありとも世の恐しければ・いさめ
18 じと申されむ上は力及ばず、 某は文殊の智慧も富楼那の弁説も 詮候はずとて立たれ候しかば、 諸人歓喜をなし
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01 掌を合せ今暫く御法門候へかしと留め申されしかども・ やがて帰り給い了んぬ、 此の外は別の子細候はず・且つ
02 は御推察あるべし・ 法華経を信じ参らせて仏道を願ひ候はむ者の争か法門の時・悪行を企て悪口を宗とし候べき、
03 しかしながら御ぎやうさく有る可く候・ 其上日蓮聖人の弟子と・なのりぬる上罷り帰りても御前に参りて法門問答
04 の様かたり申し候き、 又た其の辺に頼基しらぬもの候はず只頼基をそねみ候人のつくり事にて候にや 早早召し合
05 せられん時其の隠れ有る可らず候。
06   又仰せ下さるる状に云く極楽寺の長老は世尊の出世と仰ぎ奉ると此の条難かむの次第に覚え候、 其の故は日蓮
07 聖人は御経にとかれてましますが如くば久成如来の御使・ 上行菩薩の垂迹・法華本門の行者・五五百歳の大導師に
08 て御座候聖人を頚をはねらるべき由の申し状を書きて 殺罪に申し行はれ候しが、 いかが候けむ死罪を止て佐渡の
09 島まで遠流せられ候しは 良観上人の所行に候はずや・其の訴状は別紙に之れ有り、 抑生草をだに伐るべからずと
10 六斎日夜説法に給われながら 法華正法を弘むる僧を断罪に行わる可き旨申し立てらるるは 自語相違に候はずや如
11 何・此僧豈天魔の入れる僧に候はずや、 但し此の事の起は良観房・常の説法に云く日本国の一切衆生を皆持斎にな
12 して八斎戒を持たせて国中の殺生・ 天下の酒を止めむとする処に 日蓮房が謗法に障えられて此の願叶い難き由歎
13 き給い候間・日蓮聖人此の由を聞き給いて・ いかがして彼が誑惑の大慢心を・たをして無間地獄の大苦をたすけむ
14 と仰せありしかば、 頼基等は此の仰せ法華経の御方人大慈悲の仰せにては候へども 当時日本国・別して武家領食
15 の世きらざる人にてをはしますを・たやすく仰せある事いかがと弟子共・同口に恐れ申し候し程に、 去る文永八年
16 太歳辛未六月十八日大旱魃の時.彼の御房祈雨の法を行いて万民をたすけんと申し付け候由.日蓮聖人聞き給いて此体
17 は小事なれども 此の次でに日蓮が法験を万人に知らせばやと仰せありて、 良観房の所へつかはすに云く七日の内
18 にふらし給はば日蓮が念仏無間と申す法門すてて 良観上人の弟子と成りて二百五十戒持つべし、 雨ふらぬほどな
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01 らば彼の御房の持戒げなるが 大誑惑なるは顕然なるべし、 上代も祈雨に付て勝負を決したる例これ多し、 所謂
02 護命と伝教大師と・守敏と弘法なり、 仍て良観房の所へ周防房・ 入沢の入道と申す念仏者を遣わす御房と入道は
03 良観が弟子又念仏者なりいまに日蓮が法門を用うる事なし 是を以て勝負とせむ、 七日の内に雨降るならば本の八
04 斎戒・念仏を以て往生すべしと思うべし、 又雨らずば一向に法華経になるべしと・いはれしかば是等悦びて極楽寺
05 の良観房に此の由を申し候けり、 良観房悦びないて七日の内に雨ふらすべき由にて弟子・百二十余人・頭より煙を
06 出し声を天にひびかし・或は念仏・或は請雨経・或は法華経・或は八斎戒を説きて種種に祈請す、四五日まで雨の気
07 無ければたましゐを失いて多宝寺の弟子等・数百人呼び集めて力を尽し祈りたるに・ 七日の内に露ばかりも雨降ら
08 ず其の時日蓮聖人使を遣す事・三度に及ぶ、 いかに泉式部と云いし婬女・能因法師と申せし破戒の僧・狂言綺語の
09 三十一字を以て忽にふらせし雨を持戒・ 持律の良観房は法華真言の義理を極め慈悲第一と聞へ給う 上人の数百人
10 の衆徒を率いて 七日の間にいかにふらし給はぬやらむ、 是を以て思ひ給へ一丈の堀を越えざる者二丈三丈の堀を
11 越えてんややすき雨をだに・ふらし給はず況やかたき往生成仏をや、 然れば今よりは日蓮・怨み給う邪見をば是を
12 以て翻えし給へ後生をそろしく・をぼし給はば約束のままに・いそぎ来り給へ、 雨ふらす法と仏になる道をしへ奉
13 らむ七日の内に雨こそふらし給はざらめ、 旱魃弥興盛に八風ますます吹き重りて 民のなげき弥弥深し、 すみや
14 かに其のいのりやめ給へと第七日の申の時・ 使者ありのままに申す処に・良観房は涙を流す弟子檀那同じく声をお
15 しまず口惜しがる日蓮御勘気を蒙る時・ 此の事御尋ね有りしかば有りのままに申し給いき、然れば良観房・身の上
16 の恥を思はば跡をくらまして山林にも・ まじはり・約束のままに日蓮が弟子ともなりたらば 道心の少にてもある
17 べきに・さはなくして無尽の讒言を構えて殺罪に申し行はむとせしは貴き僧かと日蓮聖人かたり給いき・ 又頼基も
18 見聞き候き、他事に於ては・ かけはくも主君の御事畏れ入り候へども此の事はいかに思い候とも・いかでかと思は
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01 れ候べき。
02   仰せ下しの状に云く竜象房・極楽寺の長老見参の後は釈迦・弥陀とあをぎ奉ると云云、此の条又恐れ入り候、彼
03 の竜象房は洛中にして人の骨肉を朝夕の食物とする由 露顕せしむるの間、 山門の衆徒蜂起して世末代に及びて悪
04 鬼・国中に出現せり、 山王の御力を以て対治を加えむとて住所を焼失し 其の身を誅罰せむとする処に自然に逃失
05 し行方を知らざる処に たまたま鎌倉の中に又人の肉を食の間・ 情ある人恐怖せしめて候に仏菩薩と仰せ給う事所
06 従の身として争か主君の御あやまりをいさめ申さず候べき、御内のをとなしき人人いかにこそ存じ候へ。
07   同じき下し状に云く是非につけて主親の所存には相随わんこそ仏神の冥にも世間の礼にも手本と云云、 此の事
08 最第一の大事にて候へば私の申し状恐れ入り候間・本文を引くべく候、 孝経に云く「子以て父に争わずんばあるべ
09 からず臣以て君に争わずんばあるべからず」、 鄭玄曰く「君父不義有らんに 臣子諌めざるは則ち亡国破家の道な
10 り」新序に曰く「主の暴を諌めざれば忠臣に非ざるなり、 死を畏れて言わざるは勇士に非ざるなり」、伝教大師云
11 く「凡そ不誼に当つては則ち子以て父に争わずんばあるべからず 臣以て君に争わずんばあるべからず 当に知るべ
12 し君臣・父子・師弟以て師に争わずんばあるべからず」文、法華経に云く「我れ身命を愛まず但無上道を惜む」文、
13 涅槃経に云く 「譬えば王の使の善能談論し方便に巧にして 命を他国に奉ずるに寧ろ身命を喪うとも終に王の所説
14 の言教を匿さざるが如し智者も亦爾り」文、 章安大師云く「寧ろ身命を喪うとも教を匿さざれとは身は軽く法は重
15 し身を死して法を弘む」文、 又云く「仏法を壊乱するは仏法の中の怨なり慈無くして詐り親むは則ち是れ彼が怨な
16 り能く糺治する者は 彼の為めに悪を除く則ち是れ彼が親なり」文、 頼基をば傍輩こそ無礼なりと思はれ候らめど
17 も世の事にをき候ては是非父母主君の仰せに随い参らせ候べし。
18   其にとて重恩の主の悪法の者に・たぼらかされ・ましまして悪道に堕ち給はむをなげくばかりなり、阿闍世王は
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01 提婆六師を師として 教主釈尊を敵とせしかば摩竭提国・皆仏教の敵となりて闍王の眷属・五十八万人・仏弟子を敵
02 とする中に耆婆大臣計り仏の弟子なり、 大王は上の頼基を思し食すが如く 仏弟子たる事を御心よからず思し食し
03 しかども最後には六大臣の邪義をすてて耆婆が正法にこそ・ つかせ給い候しが・其の如く御最後をば頼基や救い参
04 らせ候はんずらむ此の如く申さしめ候へば 阿闍世は五逆罪の者なり彼に対するかと思し食しぬべし、 恐れにては
05 候へども 彼には百千万倍の重罪にて御座すべしと御経の文には顕然に見えさせ給いて候、 所謂「今此の三界は皆
06 是れ我有なり其中の衆生は悉く是れ吾子なり」文・ 文の如くば教主釈尊は日本国の一切衆生の父母なり師匠なり主
07 君なり阿弥陀仏は此の三の義ましまさず、 而るに三徳の仏を閣いて他仏を昼夜朝夕に称名し 六万八万の名号を唱
08 えましますあに不孝の御所作にわたらせ給はずや、 弥陀の願も釈迦如来の説かせ給いしかども 終にくひ返し給い
09 て唯我一人と定め給いぬ、 其の後は全く二人三人と見え候はず、 随つて人にも父母二人なし何の経に弥陀は此の
10 国の父・何れの論に母たる旨見へて候・観経等の念仏の法門は法華経を説かせ給はむ為の・しばらくの・しつらひな
11 り、塔くまむ為の足代の如し、 而るを仏法なれば始終あるべしと思う人・大僻案なり、塔立てて後・足代を貴ぶほ
12 どのはかなき者なり、 又日よりも星は明と申す者なるべし・ 此の人を経に説いて云く「復教詔すと雖も而も信受
13 せず其の人・命終して阿鼻獄に入らん」、 当世・日本国の一切衆生の釈迦仏を抛つて阿弥陀仏を念じ法華経を抛つ
14 て観経等を信ずる人或は此くの如き謗法の者を供養せむ俗男・ 俗女等・存外に五逆七逆・八虐の罪ををかせる者を
15 智者と竭仰する諸の大名僧並びに国主等なり、 如是展転至無数劫とは是なり、 此くの如き僻事をなまじゐに承り
16 て候間・次を以て申せしめ候、 宮仕を・つかまつる者・上下ありと申せども 分分に随つて主君を重んぜざるは候
17 はず、上の御ため現世・後生あしくわたらせ給うべき事を秘かにも承りて候はむに傍輩・世に憚りて申し上ざらむは
18 与同罪にこそ候まじきか。
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01   随つて頼基は父子二代.命を君に.まいらせたる事顕然なり.故親父中務某故君の御勘気かふらせ給いける時.数百
02 人の御内の臣等・心かはりし候けるに中務一人・ 最後の御供奉して伊豆の国まで参りて候き、頼基は去る文永十一
03 年二月十二日の鎌倉の合戦の時、 折節・伊豆の国に候しかば十日の申の時に承りて唯一人・筥根山を一時に馳せ越
04 えて御前に自害すべき八人の内に候き、 自然に世しづまり候しかば今に君も安穏にこそわたらせ給い候へ、爾来・
05 大事小事に付けて御心やすき者にこそ思い含まれて候・頼基が今更・何につけて疎縁に思いまいらせ候べき、 後生
06 までも随従しまいらせて頼基・成仏し候はば君をも・すくひまいらせ君成仏しましまさば頼基も・たすけられ・まい
07 らせむと・こそ存じ候へ。
08   其れに付ひて諸僧の説法を聴聞仕りて何れか成仏の法と・うかがひ候処に日蓮聖人の御房は三界の主・一切衆生
09 の父母・釈迦如来の御使・上行菩薩にて御坐候ける事の法華経に説かれて・ましましけるを信じまいらせたるに候、
10 今こそ真言宗と申す悪法・日本国に渡りて四百余年去る延暦二十四年に伝教大師・ 日本国にわたし給いたりしかど
11 も此の国にあしかりなむと思し食し候間宗の字・をゆるさず・天台法華宗の方便となし給い畢んぬ、 其の後・伝教
12 大師・御入滅の次を・うかがひて弘法大師・ 伝教に偏執して宗の字を加えしかども・叡山は用うる事なかりしほど
13 に・慈覚・智証・短才にして二人の身は当山に居ながら 心は東寺の弘法に同意するかの故に我が大師には背いて始
14 めて叡山に真言宗を立てぬ・日本亡国の起り是なり、爾来・三百余年・或は真言勝れ法華勝れ一同なむど諍論・事き
15 れざりしかば王法も左右なく尽きざりき、 人王七十七代・後白河法皇の御宇に天台の座主明雲・一向に真言の座主
16 になりしかば明雲は義仲にころされぬ頭破作七分是なり、 第八十二代隠岐の法皇の御時・禅宗・念仏宗出来つて真
17 言の大悪法に加えて国土に流布せしかば、 天照太神・正八幡の百王・百代の御誓やぶれて王法すでに尽きぬ、関東
18 の権の大夫義時に天照太神・正八幡の御計いとして国務をつけ給い畢んぬ、 爰に彼の三の悪法・関東に落ち下りて
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01 存外に御帰依あり、故に梵釈.二天・日月・四天いかりを成し先代・未有の天変・地夭を以ていさむれども.用い給は
02 ざれば鄰国に仰せ付けて法華経・誹謗の人を治罰し給う間、天照太神・正八幡も力及び給はず、日蓮聖人・一人・此
03 の事を知し食せり、 此くの如き厳重の法華経にて・をはして候間、主君をも導きまいらせむと存じ候故に・無量の
04 小事をわすれて今に仕われまいらせ候、 頼基を讒言申す仁は君の御為不忠の者に候はずや、 御内を罷り出て候は
05 ば君たちまちに無間地獄に堕ちさせ給うべし、さては頼基・仏に成り候ても甲斐なしとなげき存じ候。
06   抑彼の小乗戒は富楼那と申せし大阿羅漢・ 諸天の為に二百五十戒を説き候しを・浄名居士たんじて云く「穢食
07 を以て宝器に置くこと無れ」等云云、 鴦崛摩羅は文殊を呵責し・嗚呼蚊蚋の行は大乗空の理を知らずと、又小乗戒
08 をば文殊は十七の失を出だし如来は八種の譬喩を以て是をそしり給うに・ 驢乳と説き蝦蟆に譬えられたり、 此れ
09 等をば鑒真の末弟子は 伝教大師をば悪口の人とこそ・ 嵯峨天皇には奏し申し候しかども 経文なれば力及び候は
10 ず、南都の奏状やぶれて叡山の大戒壇立ち候し上は、 すでに捨てられ候し小乗に候はずや、 頼基が良観房を蚊蚋
11 蝦蟆の法師なりと申すとも経文分明に候はば御とがめあるべからず。
12   剰へ起請に及ぶべき由仰せを蒙むるの条存外に歎き入て候、 頼基・不法時病にて起請を書き候程ならば君忽に
13 法華経の御罰を蒙らせ給うべし、 良観房が讒訴に依りて釈迦如来の御使・ 日蓮聖人を流罪し奉りしかば聖人の申
14 し給いしが如く百日が内に 合戦出来して若干の武者滅亡せし中に、 名越の公達横死にあはせ給いぬ、是れ偏に良
15 観房が失ひ奉りたるに候はずや、 今又・竜象・良観が心に用意せさせ給いて頼基に起請を書かしめ御座さば君又其
16 の罪に当らせ給はざるべしや、 此くの如き道理を知らざる故か、 又君をあだし奉らむと思う故か、頼基に事を寄
17 せて大事を出さむと・たばかり候・人等・御尋ねあつて召し合わせらるべく候、恐惶謹言。
18       建治三年丁丑六月二十五日          四条中務尉頼基・請文
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四条金吾殿御返事
01   去月二十五日の御文・ 同月の二十七日の酉の時に来りて候、仰せ下さるる状と又起請かくまじきよしの御せい
02 じやうとを見候へば優曇華のさきたるをみるか赤栴檀のふたばになるをえたるか 、めづらし・かうばし、 三明六
03 通を得給う上・法華経にて初地・初住にのぼらせ給へる証果の大阿羅漢・得無生忍の菩薩なりし舎利弗・目連・迦葉
04 等だにも娑婆世界の末法に法華経を弘通せん事の大難こらへかねければ・ かなふまじき由・辞退候いき、まして三
05 惑未断の末代の凡夫が争か此経の行者となるべき、 設い日蓮一人は杖木・瓦石・悪口・王難をも忍ぶとも妻子を帯
06 せる無智の俗なんどは争か叶うべき、中中・信ぜざらんはよかりなん・すへ・とをらずしばしならば人に・わらはれ
07 なんと不便にをもひ候いしに、 度度の難・二箇度の御勘気に心ざしを・あらはし給うだにも不思議なるに、かく・
08 おどさるるに二所の所領をすてて法華経を信じ・とをすべしと御起請候事いかにとも申す計りなし、 普賢・文殊等
09 なを末代はいかんがと仏思し食して 妙法蓮華経の五字をば地涌千界の上首・ 上行等の四人にこそ仰せつけられて
10 候へ・只事の心を案ずるに日蓮が道をたすけんと上行菩薩・ 貴辺の御身に入りかはらせ給へるか又教主釈尊の御計
11 いか、彼の御内の人人うちはびこつて良観・竜象が計ひにてや・ぢやうあるらん、起請をかかせ給いなば・いよいよ
12 かつばらをごりて・かたがたに・ふれ申さば鎌倉の内に日蓮が弟子等一人もなく・せめうしなひなん、凡夫のならひ
13 身の上は.はからひがたし、これを・よくよく・しるを賢人・聖人とは申すなり、遠きをば・しばらく.をかせ給へ、
14 近きは武蔵のかう殿・両所をすてて入道になり結局は多くの所領・ 男女のきうだち御ぜん等をすてて御遁世と承わ
15 る、とのは子なし・たのもしき兄弟なし・わづかの二所の所領なり、一生はゆめの上・明日をごせず・いかなる乞食
16 には・なるとも法華経にきずをつけ給うべからず、されば同くは・なげきたるけしきなくて此の状に・かきたるが・
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01 ごとく・すこしも・へつらはず振舞仰せあるべし、中中へつらふならば・あしかりなん、設ひ所領をめされ追い出し
02 給うとも十羅刹女の御計いにてぞ・あるらむと・ふかくたのませ給うべし。
03   日蓮はながされずして・かまくらにだにも・ありしかば・有りし・いくさに一定打ち殺されなん、此れも又御内
04 にては・あしかりぬべければ釈迦仏の御計いにてや・あるらむ、 陳状は申して候へども又それに僧は候へども・あ
05 まりのおぼつかなさに三位房をつかはすべく候に・ いまだ所労きらきらしく候はず候へば・同事に此の御房をまい
06 らせ候、だいがくの三郎殿か・たきの太郎殿か・とき殿かに・いとまに随いて・かかせてあげさせ給うべし、これは
07 あげなば事きれなむ.いたう・いそがずとも内内うちを.したため・又ほかの・かつばらにも.あまねく・さはがせて.
08 さしいだしたらば若や此の文かまくら内にも・ ひろうし上へもまいる事もやあるらん、わざはひの幸はこれなり。
09   法華経の御事は已前に申しふりぬ、しかれども小事こそ善よりは・をこて候へ、大事になりぬれば必ず大なる・
10 さはぎが大なる幸となるなり、 此の陳状・人ごとに・みるならば彼等がはぢあらわるべし、只一口に申し給へ我と
11 は御内を出て所領をあぐべからず、上より・めされいださむは法華経の御布施・幸と思うべしと・ののしらせ給へ、
12 かへすがへす奉行人に・へつらうけしきなかれ、 此の所領は上より給たるにはあらず、 大事の御所労を法華経の
13 薬をもつて・ たすけまいらせて給て候所領なれば召すならば 御所労こそ又かへり候はむずれ、爾時は頼基に御た
14 いじゃう候とも用ひまいらせ候まじく候とうちあて・にくさうげにて・かへるべし。
15   あなかしこ・あなかしこ・御よりあひあるべからず、よるは用心きびしく夜廻の殿原かたらいて用ひ常には・よ
16 りあはるべし今度御内をだにも・いだされずば十に九は内のものねらひなむかまへて・きたなきしにすべからず。
17       建治三年丁丑七月                    日蓮花押
18     四条金吾殿御返事
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四条金吾殿御返事    建治三年    五十六歳御作
01   御文あらあらうけ給わりて長き夜のあけ・とをき道をかへりたるがごとし、夫れ仏法と申すは勝負をさきとし、
02 王法と申すは賞罰を本とせり、 故に仏をば世雄と号し王をば自在となづけたり、 中にも天竺をば月氏という我国
03 をば日本と申す一閻浮提・八万の国の中に大なる国は天竺・小なる国は日本なり、 名のめでたきは印度第二・扶桑
04 第一なり、 仏法は月の国より始めて日の国にとどまるべし、 月は西より出で東に向ひ日は東より西へ行く事天然
05 のことはり、磁石と鉄と雷と象華とのごとし、誰か此のことはりを・やぶらん。
06   此の国に仏法わたりし由来をたづぬれば天神七代・地神五代すぎて人王の代となりて第一神武天皇・乃至第三十
07 代欽明天皇と申せし王をはしき、 位につかせ給いて三十二年治世し給いしに 第十三年壬申十月十三日辛酉に 此
08 の国より西に百済国と申す州あり日本国の大王の御知行の国なり、 其の国の大王・聖明王と申せし国王あり、年貢
09 を日本国にまいらせし・ついでに金銅の釈迦仏・並に一切経・法師・尼等をわたし・たりしかば天皇大に喜びて群臣
10 に仰せて西蕃の仏を・あがめ奉るべしや・いなや、 蘇我の大臣いなめの宿禰と申せし人の云く西蕃の諸国みな此れ
11 を礼す・ とよあきやまとあに独り背やと申す、 物部の大むらじをこし中臣のかまこ等奏して曰く我が国家・ 天
12 下に君たる人は・ つねに天地しやそく百八十神を春夏秋冬に・さいはいするを事とす、しかるを今更あらためて西
13 蕃の神を拝せばおそらくは我が国の神いかりをなさんと云云、 爾の時に天皇わかちがたくして勅宣す、 此の事を
14 只心みに蘇我の大臣につけて一人にあがめさすべし、 他人用いる事なかれ、 蘇我の大臣うけ取りて大に悦び給い
15 て此の釈迦仏を我が居住のおはたと申すところに入まいらせて安置せり、 物部の大連・不思議なりとて・いきどを
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01 程に日本国に大疫病おこりて死せる者・ 大半に及ぶ・ すでに国民尽きぬべかりしかば、 物部の大連・隙を得て
02 此の仏を失うべきよし申せしかば勅宣なる、 早く他国の仏法を棄つべし云云、物部の大連・御使として仏をば取り
03 て炭をもつてをこし・つちをもつて打ちくだき・仏殿をば火をかけて・やきはらひ僧尼をば・むちをくわう、其の時
04 天に雲なくして大風ふき・雨ふり、内裏天火にやけあがつて大王並に物部の大連・蘇我の臣・三人共に疫病あり・き
05 るがごとく・やくがごとし、 大連は終に寿絶えぬ・蘇我と王とは・からくして蘇生す、而れども仏法を用ゆること
06 なくして十九年すぎぬ。
07   第三十一代の敏達天皇は欽明第二の太子・治十四年なり左右の両臣は一は物部の大連が子にて弓削の守屋・父の
08 あとをついで大連に任ず蘇我の宿禰の子は蘇我の馬子と云云、 此の王の御代に聖徳太子生給へり・用明の御子・敏
09 達のをいなり御年二歳の二月・東に向つて無名の指を開いて南無仏と唱へ給へば御舎利・掌にあり、 是れ日本国の
10 釈迦念仏の始めなり、 太子八歳なりしに八歳の太子云く 「西国の聖人・釈迦牟尼仏の遺像末世に之を尊めば則ち
11 禍を銷し・福を蒙る・之を蔑れば則ち災を招き寿を縮む」等云云、大連物部の弓削・宿禰の守屋等いかりて云く「蘇
12 我は勅宣を背きて 他国の神を礼す」等云云、 又疫病未だ息まず人民すでにたえぬべし、 弓削守屋又此れを間奏
13 す云云、 勅宣に云く「蘇我の馬子仏法を興行す宜く仏法を卻ぞくべし」等云云、 此に守屋中臣の臣勝海大連等両
14 臣と、 寺に向つて堂塔を切たうし仏像を・やきやぶり、 寺には火をはなち僧尼の袈裟をはぎ笞をもつてせむ・又
15 天皇並に守屋馬子等疫病す、 其の言に云く「焼くがごとし・きるがごとし」又瘡をこる・はうそうといふ、馬子歎
16 いて云く「尚三宝を仰がん」と・勅宣に云く「汝独り行え但し余人を断てよ」等云云、 馬子欣悦し精舎を造りて三
17 宝を崇めぬ。
18   天皇は終八月十五日・崩御云云、此の年は太子は十四なり第三十二代・用明天皇の治二年・欽明の太子・聖徳太
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01 子の父なり、 治二年丁未四月に天皇疫病あり、 皇勅して云く 「三宝に帰せんと欲す」云云、蘇我の大臣詔に随
02 う可しとて遂に法師を引いて内裏に入る豊国の法師是なり、 物部の守屋・大連等・大に瞋り横に睨んで云く天皇を
03 厭魅すと終に皇隠れさせ給う・五月に物部の守屋が一族・渋河の家にひきこもり多勢をあつめぬ、 太子と馬子と押
04 し寄せてたたかう、五月・六月・七月の間に四箇度・合戦す、三度は太子まけ給ふ第四度めに太子・願を立てて云く
05 「釈迦如来の御舎利の塔を立て四天王寺を建立せん」と・馬子願て云く「百済より渡す所の釈迦仏を寺を立てて崇重
06 すべし」と云云、 弓削なのつて云く「此れは我が放つ矢にはあらず 我が先祖崇重の府都の大明神の放ち給ふ矢な
07 り」と、 此の矢はるかに飛んで太子の鎧に中る、 太子なのる「此は我が放つ矢にはあらず四天王の放ち給う矢な
08 り」とて迹見の赤梼と申す舎人に・いさせ給へば矢はるかに飛んで守屋が胸に中りぬ、 はだのかはかつをちあひて
09 頚をとる、此の合戦は用明崩御・崇峻未だ位に即き給わざる其の中間なり。
10   第三十三・崇峻天皇・位につき給う、太子は四天王寺を建立す此れ釈迦如来の御舎利なり、馬子は元興寺と申す
11 寺を建立して 百済国よりわたりて候いし教主釈尊を崇重す、 今の代に世間第一の不思議は善光寺の阿弥陀如来と
12 いう誑惑これなり、又釈迦仏にあだを・なせしゆへに三代の天皇・並に物部の一族むなしく・なりしなり又太子・教
13 主釈尊の像・ 一体つくらせ給いて 元興寺に居せしむ今の橘寺の御本尊これなり、 此れこそ日本国に釈迦仏つく
14 りしはじめなれ。
15   漢土には後漢の第二の明帝.永平七年に金神の夢を見て博士蔡イン.王遵等の十八人を月氏につかはして仏法を尋
16 ねさせ給いしかば・ 中天竺の聖人摩騰迦・ 竺法蘭と申せし二人の聖人を同永平十年丁卯の歳迎へ取りて崇重あり
17 しかば、漢土にて本より皇の御いのりせし儒家・道家の人人数千人此の事をそねみて・うつたへしかば、 同永平十
18 四年正月十五日に召し合せられしかば 漢土の道士悦びをなして唐土の神・百霊を本尊としてありき、 二人の聖人
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01 は仏の御舎利と釈迦仏の画像と五部の経を本尊と恃怙み給う、 道士は本より王の前にして習いたりし仙経・三墳・
02 五典・二聖・三王の書を薪に・つみこめて・やきしかば古はやけざりしが・はいとなりぬ、先には水にうかびしが水
03 に沈みぬ、鬼神を呼しも来らず、あまりのはづかしさにチョ善信・費叔才なんど申せし道士等はおもい死にししぬ、
04 二人の聖人の説法ありしかば 舎利は天に登りて光を放ちて日輪みゆる事なし、 画像の釈迦仏は眉間より光を放ち
05 給う、 呂慧通等の六百余人の道士は帰伏して出家す、 三十日が間に十寺立ちぬ、されば釈迦仏は賞罰ただしき仏
06 なり、上に挙ぐる三代の帝・並に二人の臣下・釈迦如来の敵とならせ給いて今生は空く後生は悪道に堕ちぬ。
07   今の代も又これに.かはるべからず、漢土の道士・信費等.日本の守屋等は漢土・日本の大小の神祇を信用して教
08 主釈尊の御敵となりしかば 神は仏に随い奉り行者は皆ほろびぬ、 今の代も此くの如く上に挙ぐる所の百済国の仏
09 は教主釈尊なり、 名を阿弥陀仏と云つて日本国をたぼらかして釈尊を他仏にかへたり、 神と仏と仏と仏との差別
10 こそあれども釈尊をすつる心はただ一なり、 されば今の代の滅せん事又疑いなかるべし、 是は未だ申さざる法門
11 なり秘す可し秘す可し、 又吾一門の人人の中にも信心も・うすく日蓮が申す事を背き給はば蘇我が如くなるべし、
12 其の故は仏法日本に立ちし事は蘇我の宿禰と馬子との父子二人の故ぞかし、 釈迦如来の出世の時の梵王・ 帝釈の
13 如くにてこそあらまじなれども、 物部と守屋とを失いし故に只一門になりて位もあがり 国をも知行し一門も繁昌
14 せし故に高挙をなして崇峻天皇を失いたてまつり 王子を多く殺し 結句は太子の御子二十三人を馬子がまご入鹿の
15 臣下失ひまいらせし故に、 皇極天皇は中臣の鎌子が計いとして教主釈尊を造り奉りてあながちに申せしかば入鹿の
16 臣並に父等の一族一時に滅びぬ。
17   此をもつて御推察あるべし、 又我が此の一門の中にも申しとをらせ給はざらん人人は・かへりて失あるべし、
18 日蓮をうらみさせ給うな少輔房・能登房等を御覧あるべし、 かまへて・かまへて此の間はよの事なりとも御起請か
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01 かせ給うべからず・火は・をびただしき様なれども暫くあればしめる・水はのろき様なれども左右なく失いがたし、
02 御辺は腹あしき人なれば火の燃るがごとし一定・ 人にすかされなん、 又主のうらうらと言和かにすかさせ給うな
03 らば火に水をかけたる様に御わたりありぬと覚ゆ、 きたはぬ・かねは・さかんなる火に入るればとくとけ候、冰を
04 ゆに入るがごとし、 剣なんどは大火に入るれども暫くはとけず是きたへる故なり、 まへにかう申すはきたうなる
05 べし、 仏法と申すは道理なり道理と申すは主に勝つ物なりいかに・いとをし・はなれじと思うめなれども死しぬれ
06 ば・かひなし.いかに所領を・をししと・をぼすとも死しては他人の物、すでに・さかへて年久し.すこしも惜む事な
07 かれ、又さきざき申すがごとく・さきざきよりも百千万億倍・御用心あるべし。
08   日蓮は少より今生のいのりなし只仏にならんとをもふ計りなり、されども殿の御事をば・ひまなく法華経・釈迦
09 仏・日天に申すなり其の故は法華経の命を継ぐ人なればと思うなり。穴賢・穴賢あらかるべからず・吾が家に・あら
10 ずんば人に寄合事なかれ、 又夜廻の殿原は・ひとりも・たのもしき事はなけれども・法華経の故に屋敷を取られた
11 る人人なり、常はむつばせ給うべし、 又夜の用心の為と申しかたがた・殿の守りとなるべし、吾方の人人をば少少
12 の事をば・みずきかずあるべし・さて又法門なんどを聞ばやと仰せ候はんに悦んで見え給うべからず、 いかんが候
13 はんずらん、御弟子共に申してこそ見候はめと・やわやわとあるべし・いかにも・うれしさに・いろに顕われなんと
14 覚え聞かんと思う心だにも付かせ給うならば火をつけて・もすがごとく天より雨の下るがごとく万事をすてられ
15 んずるなり。
16   又今度いかなる便も出来せば・したため候し陳状を上げらるべし、大事の文なれば・ひとさはぎは・かならずあ
17 るべし、穴賢穴賢。
18       四条金吾殿                                日蓮花押
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四条金吾殿御返事
01   法華経本迹相対して論ずるに迹門は尚始成正覚の旨を明す故にいまだ留難かかれり、 本門はかかる留難を去り
02 たり然りと雖も 題目の五字に相対する時は末法の機にかなはざる法なり、 真実一切衆生・色心の留難を止むる秘
03 術は唯南無妙法蓮華経なり。
04       四条金吾殿御返事                     日 蓮
崇峻天皇御書    建治三年九月    五十六歳御作   与四条金吾
01   白小袖一領.銭一ゆひ・又富木殿の御文のみ・なによりも・かきなしなまひじきひるひじき.やうやうの物うけ取
02 りしなじな御使にたび候いぬ、 さては・なによりも上の御いたはりなげき入つて候、 たとひ上は御信用なき様に
03 候へども・ との其の内にをはして其の御恩のかげにて法華経をやしなひ・まいらせ給い候へば偏に上の御祈とぞな
04 り候らん、 大木の下の小木・大河の辺の草は正しく其の雨にあたらず其の水をえずといへども露をつたへ・いきを
05 えて・さかうる事に候。
06   此れもかくのごとし、 阿闍世王は仏の御かたきなれども其の内にありし耆婆大臣・仏に志ありて常に供養あり
07 しかば其の功大王に帰すとこそ見へて候へ、 仏法の中に内薫外護と申す大なる大事ありて宗論にて候、 法華経に
08 は「我深く汝等を敬う」 涅槃経には「一切衆生悉く仏性有り」 馬鳴菩薩の起信論には「真如の法常に薫習するを
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01 以ての故に妄心即滅して法身顕現す」 弥勒菩薩の瑜伽論には見えたり、 かくれたる事のあらはれたる徳となり候
02 なり、 されば御内の人人には天魔ついて前より此の事を知りて殿の此の法門を供養するをささえんがために 今度
03 の大妄語をば造り出だしたりしを御信心深ければ 十羅刹たすけ奉らんがために此の病はをこれるか、 上は我がか
04 たきとは・をぼさねども一たん・ かれらが申す事を用い給いぬるによりて御しよらうの大事になりて・ながしらせ
05 給うか、 彼等が柱とたのむ竜象すでにたうれぬ、 和讒せし人も又其の病にをかされぬ、良観は又一重の大科の者
06 なれば大事に値うて大事を・ひきをこして・いかにもなり候はんずらん、よもただは候はじ。
07   此れにつけても殿の御身もあぶなく思いまいらせ候ぞ、一定かたきに・ねらはれさせ給いなん・すぐろくの石は
08 二つ並びぬればかけられず車の輪は二あれば道にかたぶかず、 敵も二人ある者をば・いぶせがり候ぞ、いかにとが
09 ありとも弟ども 且くも身をはなち給うな、 殿は一定・腹あしき相かをに顕れたり、 いかに大事と思へども腹あ
10 しき者をば天は守らせ給はぬと知らせ給へ・ 殿の人にあだまれて・をはさば設い仏には・なり給うとも彼等が悦び
11 と云う、此れよりの歎きと申し口惜しかるべし、 彼等が・いかにもせんと・はげみつるに、古よりも上に引き付け
12 られまいらせて・をはすれば・外のすがたはしづまりたる様にあれども内の胸は・もふる計りにや有らん、 常には
13 彼等に見へぬ様にて古よりも家のこを敬ひ・ きうだちまいらせ給いて・をはさんには上の召しありとも且く・つつ
14 しむべし、入道殿いかにもならせ給はば彼の人人は・まどひ者になるべきをば・かへりみず、物をぼへぬ心に・との
15 のいよいよ来るを見ては一定ほのをを胸にたきいきをさかさまにつくらん、 若しきうだちきり者の女房たち・ い
16 かに上の御そろうはと問い申されば、 いかなる人にても候へ・ 膝をかがめて手を合せ某が力の及ぶべき御所労に
17 は候はず候を・いかに辞退申せども・ただと仰せ候へば御内の者にて候間・かくて候とてびむをも・かかずひたたれ
18 こはからず、さはやかなる小袖・色ある物なんども・きずして且く・ねうじて御覧あれ。
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01   返す返す御心への上なれども 末代のありさまを仏の説かせ給いて候には濁世には聖人も居しがたし大火の中の
02 石の如し、 且くは・こらふるやうなれども終には・やけくだけて灰となる、 賢人も五常は口に説きて身には振舞
03 いがたしと見へて候ぞ、 かうの座をば去れと申すぞかし、 そこばくの人の殿を造り落さんとしつるにをとされず
04 して・ はやかちぬる身が穏便ならずして造り落されなば世間に申すこぎこひでの船こぼれ 又食の後に湯の無きが
05 如し、 上よりへやを給いて居して・をはせば其処にては何事無くとも日ぐれ暁なんど入り返りなんどに定めて・ね
06 らうらん、又我が家の妻戸の脇・持仏堂・家の内の板敷の下か・天井なんどをば、あながちに・心えて振舞い給へ、
07 今度はさきよりも彼等は・たばかり賢かるらん、 いかに申すとも鎌倉のえがら夜廻りの殿原にはすぎじ、 いかに
08 心にあはぬ事有りとも・かたらひ給へ。
09   義経はいかにも平家をば・せめおとしがたかりしかども・成良をかたらひて平家をほろぼし、大将殿は・おさだ
10 を親のかたきとをぼせしかども 平家を落さざりしには頚を切り給はず、 況や此の四人は遠くは法華経のゆへ近く
11 は日蓮がゆへに命を懸けたるやしきを上へ召されたり、 日蓮と法華経とを信ずる人人をば前前・ 彼の人人いかな
12 る事ありとも・かへりみ給うべし、其の上殿の家へ此の人人・常にかようならば・かたきはよる行きあはじと・をぢ
13 るべし、 させる親のかたきならねば顕われてとは・よも思はじ、かくれん者は是れ程の兵士はなきなり、 常にむ
14 つばせ給へ、 殿は腹悪き人にてよも用ひさせ給はじ、 若しさるならば日蓮が祈りの力及びがたし、竜象と殿の兄
15 とは 殿の御ためにはあしかりつる人ぞかし 天の御計いに殿の御心の如くなるぞかしいかに天の御心に背かんとは
16 をぼするぞ設い千万の財をみちたりとも 上にすてられまいらせ給いては 何の詮かあるべき・已に上にはをやの様
17 に思はれまいらせ水の器に随うが如く こうしの母を思ひ老者の杖をたのむが如く・ 主のとのを思食されたるは法
18 華経の御たすけにあらずや、 あらうらやましやとこそ御内の人人は思はるるらめ・ とくとく此の四人かたらひて
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01 日蓮にきかせ給へさるならば強盛に天に申すべし、 又殿の故・御父・御母の御事も左衛門の尉があまりに歎き候ぞ
02 と天にも申し入れて候なり、定めて釈迦仏の御前に子細候らん。
03   返す返す今に忘れぬ事は頚切れんとせし時殿はともして馬の口に付きて・なきかなしみ給いしをば・いかなる世
04 にか忘れなん、 設い殿の罪ふかくして地獄に入り給はば日蓮を・ いかに仏になれと釈迦仏こしらへさせ給うとも
05 用ひまいらせ候べからず同じく地獄なるべし、 日蓮と殿と共に地獄に入るならば釈迦仏・法華経も地獄にこそ・を
06 はしまさずらめ、 暗に月の入るがごとく湯に水を入るるがごとく冰に火を・たくがごとく・日輪にやみをなぐるが
07 如くこそ候はんずれ、若しすこしも此の事をたがへさせ給うならば日蓮うらみさせ給うな。
08   此の世間の疫病は・とののまうすがごとく年帰りなば上へあがりぬと・をぼえ候ぞ、十羅刹の御計いか今且く世
09 にをはして物を御覧あれかし、 又世間の・すぎえぬ・やうばし歎いて人に聞かせ給うな、 若しさるならば賢人に
10 は・はづれたる事なり、 若しさるならば妻子があとに・とどまりてはぢを云うとは思はねども、男のわかれのおし
11 さに他人に向いて我が夫のはぢを・みなかたるなり、 此れ偏に・かれが失にはあらず我がふるまひのあしかりつる
12 故なり。
13   人身は受けがたし爪の上の土・人身は持ちがたし草の上の露、百二十まで持ちて名を・くたして死せんよりは生
14 きて一日なりとも 名をあげん事こそ大切なれ、 中務三郎左衛門尉は主の御ためにも仏法の御ためにも 世間の心
15 ねもよかりけり・よかりけりと鎌倉の人人の口にうたはれ給へ、 穴賢・穴賢、蔵の財よりも身の財すぐれたり身の
16 財より心の財第一なり、此の御文を御覧あらんよりは心の財つませ給うべし。
17   第一秘蔵の物語あり書きてまいらせん、 日本始りて国王二人・人に殺され給う、其の一人は崇峻天皇なり、此
18 の王は欽明天皇の御太子・聖徳太子の伯父なり、 人王第三十三代の皇にて・をはせしが聖徳太子を召して勅宣下さ
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01 る、汝は聖智の者と聞く 朕を相してまいらせよと云云、 太子三度まで辞退申させ給いしかども頻の勅宣なれば止
02 みがたくして敬いて相しまいらせ給う、 君は人に殺され給うべき相ましますと、 王の御気色かはらせ給いて・な
03 にと云う証拠を以て此の事を信ずべき、 太子申させ給はく御眼に赤き筋とをりて候人にあだまるる相なり、 皇帝
04 勅宣を重ねて下し・いかにしてか此の難を脱れん、 太子の云く免脱がたし但し五常と申すつはものあり此れを身に
05 離し給わずば害を脱れ給はん、 此のつはものをば内典には忍波羅蜜と申して六波羅蜜の其の一なりと云云、 且く
06 は此れを持ち給いてをはせしが・ややもすれば腹あしき王にて是を破らせ給いき、 或時人・猪の子をまいらせたり
07 しかば・こうがいをぬきて猪の子の眼をづぶづぶと・ ささせ給いていつか・にくしと思うやつをかくせんと仰せあ
08 りしかば、太子其の座にをはせしが、 あらあさましや・あさましや・君は一定人にあだまれ給いなん、此の御言は
09 身を害する剣なりとて太子多くの財を取り寄せて 御前に此の言を聞きし者に御ひきで物ありしかども、 有人蘇我
10 の大臣・ 馬子と申せし人に語りしかば馬子我が事なりとて東漢直駒・ 直磐井と申す者の子をかたらひて王を害し
11 まいらせつ、 されば王位の身なれども思う事をば・たやすく申さぬぞ、 孔子と申せし賢人は九思一言とてここの
12 たびおもひて一度申す、 周公旦と申せし人は沐する時は三度握り 食する時は三度はき給いき、たしかに・きこし
13 めせ我ばし恨みさせ給うな仏法と申すは是にて候ぞ。
14   一代の肝心は法華経・法華経の修行の肝心は不軽品にて候なり、不軽菩薩の人を敬いしは・いかなる事ぞ教主釈
15 尊の出世の本懐は人の振舞にて候けるぞ、穴賢・穴賢、賢きを人と云いはかなきを畜といふ。
16       建治三年丁丑九月十一日                       日蓮花押
17     四条左衛門尉殿御返事
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四条金吾御書    建治四年一月    五十七歳御作
01   鷹取のたけ.身延のたけ.なないたがれのたけ・いいだにと申し、木のもと.かやのね・いわの上.土の上いかにた
02 づね候へども・をひて候ところなし、されば海にあらざれば・わかめなし・山にあらざれば・くさびらなし、法華経
03 にあらざれば仏になる道なかりけるか・これは・さてをき候いぬ、なによりも承りて・すずしく候事は・いくばくの
04 御にくまれの人の御出仕に人かずに・めしぐせられさせ給いて、 一日・二日ならず御ひまもなきよし・うれしさ申
05 すばかりなし、 えもんのたいうのをやに立ちあひて 上の御一言にてかへりてゆりたると殿のすねんが間のにくま
06 れ・去年のふゆはかうとききしに・かへりて日日の御出仕の御とも・いかなる事ぞ、 ひとへに天の御計い法華経の
07 御力にあらずや、其の上円教房の来りて候いしが申し候は、えまの四郎殿の御出仕に御ともの・さふらい二十四・五
08 其の中にしうはさてをきたてまつりぬ、 ぬしのせいといひ・かをたましひ・むま下人までも中務のさえもんのじや
09 う第一なり、あはれをとこや・をとこやと・かまくらわらはべは・つじちにて申しあひて候しとかたり候。
10   これに・つけてもあまりにあやしく候、孔子は九思一言・周公旦は浴する時は三度にぎり食する時は三度はかせ
11 給う、 古の賢人なり今の人のかがみなり、 されば今度はことに身をつつしませ給うべし、よるはいかなる事あり
12 とも一人そとへ出でさせ給うべからず、 たとひ上の御めし有りともまづ下人をこそへ・つかわして、 なひなひ一
13 定を.ききさだめて・はらまきをきて・はちまきし、先後.左右に人をたてて出仕し御所のかたわらに・心よせの・や
14 かたか又我がやかたかに・ぬぎをきて・まいらせ給うべし、 家へかへらんにはさきに人を入れてとのわきはしのし
15 たむまやのしり・たかどの一切くらきところを・みせて入るべし・せうまうには我が家よりも人の家よりもあれ・た
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01 からを・をしみてあわてて火をけすところへ・づつとよるべからず、 まして走り出る事なかれ、出仕より主の御と
02 もして御かへりの時はみかどより馬より・をりて、いとまの・さしあうよし・はうくわんに申して・いそぎかへるべ
03 し、上のををせなりとも・よに入りて御ともして御所に・ひさしかるべからず、かへらむには第一・心にふかき・え
04 うじんあるべし、ここをば・かならず・かたきの・うかがうところなり。
05   人のさけたばんと申すともあやしみて・あるひは言をいだし・あるひは用いることなかれ、又御をととどもには
06 常はふびんのよしあるべし、 つねにゆせにざうりのあたいなんど心あるべし、 もしやの事のあらむには・かたき
07 はゆるさじ、我がために・いのちをうしなはんずる者ぞかしと・をぼして、とがありとも・せうせうの失をば・しら
08 ぬやうにてあるべし、 又女るひはいかなる失ありとも一向に御けうくんまでも・あるべからず、 ましていさかう
09 ことなかれ、 涅槃経に云く「罪極て重しと雖も女人に及ぼさず」等云云、文の心はいかなる失ありとも女のとがを
10 をこなはざれ、 此れ賢人なり此れ仏弟子なりと申す文なり、 此の文は阿闍世王・父を殺すのみならず母をあやま
11 たむと・せし時・耆婆・月光の両臣がいさめたる経文なり、我が母心ぐるしくをもひて臨終までも心にかけし・いも
12 うとどもなれば失を・めんじて不便というならば母の心やすみて孝養となるべしと・ふかくおぼすべし、 他人をも
13 不便というぞかし・いわうや・をとをとどもをや、 もしやの事の有るには一所にて・いかにもなるべし、此等こそ
14 とどまりゐてなげかんずれば・をもひでにと・ふかくをぼすべし、 かやう申すは他事はさてをきぬ、雙六は二ある
15 石はかけられず、 鳥の一の羽にてとぶことなし、 将門さだたふがやうなりし・いふしやうも一人は叶わず、され
16 ば舎弟等を子とも郎等とも・うちたのみて・をはせば、 もしや法華経もひろまらせ給いて世にもあらせ給わば一方
17 のかたうどたるべし。
18   すでに・きやうのだいり院のごそかまくらの御所・並に御うしろみの御所・一年が内に二度・正月と十二月とに
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01 やけ候いぬ、 これ只事にはあらず謗法の真言師等を御師とたのませ給う上 かれら法華経をあだみ候ゆへに天のせ
02 め法華経・十羅刹の御いさめあるなり、 かへりて大ざんげあるならば・たすかるへんも・あらんずらん、いたう天
03 の此の国ををしませ給うゆへに大なる御いさめあるか、 すでに他国が此の国をうちまきて国主・ 国民を失はん上
04 仏神の寺社・百千万がほろびんずるを天眼をもつて見下して・なげかせ給うなり、 又法華経の御名をいういうたる
05 ものどもの唱うるを誹謗正法の者どもが・をどし候を天のにくませ給う故なり。
06   あなかしこ・あなかしこ、今年かしこくして物を御らんぜよ、山海・空市まぬかるところあらば・ゆきて今年は
07 すぎぬべし、阿私陀仙人が仏の生れ給いしを見て、いのちををしみしがごとし・をしみしがごとし、恐恐謹言。
08       正月二十五日                      日蓮花押
09     中務左衛門尉殿
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陰徳陽報御書

01   いよいよかない候べし、いかにわなくとも・きかぬやうにてをはすべし、此の事をみ候に申すやうに・だに・ふ
02 れまわせ給うならば・なをも所領も・かさなり人のをぼへも・いできたり候べしと・をぼへ候、さきざき申し候いし
03 やうに陰徳あれば陽報ありと申して、 皆人は主にうたへ主もいかんぞをぼせしかども わどのの正直の心に主の後
04 生をたすけたてまつらむとをもう心がうじやうにしてすれんをすすれば・ かかるりしやうにも・あづからせ給うぞ
05 かし・此は物のはしなり大果報は又来るべしとおぼしめせ、 又此の法門の一行いかなる本意なき事ありとも・みず
06 きかず・いわずして・むつばせ給へ、 大人には・いのりなしまいらせ候べし、上に申す事私の事にはあらず外典三
07 千・内典五千の肝心の心をぬきて・かきて候、あなかしこ・あなかしこ・恐恐謹言。
08       卯月二十三日                   日 蓮 在 御 判
09     御返事
中務左衛門尉殿御返事    弘安元年六月    五十七歳御作
01   夫れ人に二病あり、一には身の病所謂地大百一.水大百一.火大百一・風大百一・已上四百四病.此の病は治水.流
02 水・耆婆・偏鵲等の方薬をもつて此れを治す、 二には心の病所謂三毒・乃至八万四千の病なり、仏に有らざれば二
03 天・三仙も治しがたし何に況や神農黄帝の力及ぶべしや、 又心の病に重重の浅深分れたり六道の凡夫の三毒・八万
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01 四千の心の病をば小乗の三蔵・倶舎・成実・律宗の仏此れを治す大乗の華厳・般若・大日経等の経経をそしりて起る
02 三毒八万の病をば小乗をもつて此れを治すれば かへりては増長すれども 平愈全くなし、大乗をもつて此れを治す
03 べし、又諸大乗経の行者の法華経を背きて起る三毒・八万の病をば華厳・般若・大日経・真言三論等をもつて此れを
04 治すれば・いよいよ増長す、 譬へば木石等より出でたる火は水をもつて消しやすし・水より起る火は水をかくれば
05 いよいよ熾盛に炎上りて高くあがる、 今の日本国去今年の疫病は四百四病にあらざれば 華陀偏鵲が治も及ばず小
06 乗権大乗の八万四千の病にもあらざれば諸宗の人人のいのりも叶はず・かへりて増長するか、設い今年は・ とどま
07 るとも年年に止がたからむか、 いかにも最後に大事出来して後定まる事も候はんずらむ、 法華経に云く「若し医
08 道を修して方に順つて病を治せば 更に他の疾を増し或は復死を至さん 而も復増劇せん」涅槃経に云く「爾の時に
09 王舎大城の阿闍世王○偏体に瘡を生じ乃至是くの如き創は心に従て生ず、 四大より起るに非ず、 若し衆生能く治
10 する者有りと言はば 是の処有ること無けん」云云、 妙楽の云く「智人は起を知り・ 蛇は自ら蛇を識る」云云、
11 此の疫病は阿闍世王の瘡の如し彼の仏に非ずんば治し難し 此の法華に非ずんば除き難し、 将又日蓮下痢去年十二
12 月卅日事起り 今年六月三日四日日日に度をまし月月に倍増す 定業かと存ずる処に 貴辺の良薬を服してより已来
13 日日月月に減じて今百分の一となれり、 しらず教主釈尊の入りかわり・まいらせて日蓮をたすけ給うか、 地涌の
14 菩薩の妙法蓮華経の良薬をさづけ給えるかと疑い候なり、くはしくは筑後房申すべく候。
15   又追つて申す・きくせんは今月二十五日戌の時来りて候・種種の物かずへつくしがたし、ときどののかたびらの
16 申し給わるべし、又女房の御ををちの御事なげき入つて候よし申し給ふべし、恐恐。
17       六月廿六日                     日 蓮 花 押
18     中務左衛門尉殿御返事
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四条金吾殿御返事    弘安元年九月    五十七歳御作
01   銭一貫文給いて頼基がまいらせ候とて法華経の御宝前に申し上げて候、定めて遠くは教主釈尊・並に多宝・十方
02 の諸仏・近くは日月の宮殿にわたらせ給うも御照覧候ぬらん、さては人のよに・すぐれんとするをば賢人・聖人と・
03 をぼしき人人も皆そねみ・ねたむ事に候、 いわうや常の人をや、 漢皇の王昭君をば三千のきさき是をそねみ帝釈
04 の九十九億那由佗のきさきはキョウ尸迦をねたむ、前の中書王をば・をのの宮の大臣是をねたむ、北野の天神をば時
05 平のおとど是をざんそうして流し奉る、 此等をもて・をぼしめせ、 入道殿の御内は広かりし内なれども・せばく
06 ならせ給いきうだちは多くわたらせ給う、 内のとしごろの人人・あまたわたらせ給へば池の水すくなくなれば 魚
07 さわがしく秋風立てば鳥こずえをあらそう様に候事に候へば、 いくそばくぞ御内の人人そねみ候らんに 度度の仰
08 せをかへし・ よりよりの御心にたがはせ給へばいくそばくのざんげんこそ候らんに、 度度の御所領をかへして今
09 又所領給はらせ給うと云云、此れ程の不思議は候はず此れ偏に陰徳あれば陽報ありとは此れなり。
10   我が主に法華経を信じさせまいらせんと・をぼしめす御心のふかき故か、 阿闍世王は仏の御怨なりしが耆婆大
11 臣の御すすめによつて法華経を御信じありて 代を持ち給う、 妙荘厳王は二子の御すすめによつて 邪見をひるが
12 へし給う、 此れ又しかるべし貴辺の御すすめによつて今は御心も・やわらがせ給いてや候らん・此れ偏に貴辺の法
13 華経の御信心のふかき故なり、 根ふかければ枝さかへ源遠ければ流長しと申して 一切の経は根あさく流ちかく法
14 華経は根ふかく源とをし、 末代・悪世までも・つきず・さかうべしと天台大師あそばし給へり、此の法門につきし
15 人あまた候いしかども・をほやけわたくしの大難・ 度度重なり候いしかば一年・二年こそつき候いしが後後には皆
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01 或はをち或はかへり矢をいる、或は身はをちねども心をち或は心は・をちねども身はをちぬ。
02   釈迦仏は浄飯王の嫡子.一閻浮提を知行する事・八万四千二百一十の大王なり.一閻浮提の諸王・頭をかたぶけん
03 上御内に召しつかいし人十万億人なりしかども 十九の御年・ 浄飯王宮を出でさせ給いて檀特山に入りて十二年、
04 其の間御ともの人五人なり、 所謂拘鄰とアビと跋提と十力迦葉と拘利太子となり、 此の五人も六年と申せしに二
05 人は去りぬ残りの三人も後の六年にすて奉りて去んぬ、 但一人残り給うてこそ仏にはならせ給いしか、 法華経は
06 又此れにもすぎて人信じがたかるべし難信難解此れなり、 又仏の在世よりも末法は大難かさなるべし、 此れをこ
07 らへん行者は我が功徳には・すぐれたる事・一劫とこそ説かれて候へ、 仏滅度後・二千二百三十余年になり候に月
08 氏一千余年が間・仏法を弘通せる人・伝記にのせて・かくれなし、漢土一千年・日本七百年・又目録にのせて候いし
09 かども仏のごとく大難に値える人人少し、 我も聖人・ 我も賢人とは申せども況滅度後の記文に値える人一人も候
10 はず、竜樹菩薩・天台・伝教こそ仏法の大難に値える人人にては候へども此等も仏説には及ぶ事なし、 此れ即代の
11 あがり法華経の時に生れ値はせ給はざる故なり。
12   今は時すでに後五百歳・末法の始なり、日には五月十五日・月には八月十五夜に似たり、天台・伝教は先に生れ
13 給へり今より後は又のちぐへなり、 大陣すでに破れぬ余党は物のかずならず、 今こそ仏の記しをき給いし後五百
14 歳・末法の初・況滅度後の時に当りて候へば仏語むなしからずば一閻浮提の内に定めて聖人出現して候らん、 聖人
15 の出ずるしるしには 一閻浮提第一の合戦をこるべしと説かれて候に すでに合戦も起りて候にすでに聖人や一閻浮
16 提の内に出でさせ給いて候らん、 きりん出でしかば孔子を聖人としる鯉社なつて聖人出で給う事疑なし、 仏には
17 栴檀の木をひて聖人としる、 老子は二五の文を蹈んで聖人としる、 末代の法華経の聖人をば何を用つてかしるべ
18 き、経に云く「能説此経.能持此経の人・則如来の使なり」八巻・一巻・一品.一偈の人乃至題目を唱うる人・如来の
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01 使なり、始中終すてずして大難を・とをす人・如来の使なり。
02   日蓮が心は全く如来の使にはあらず凡夫なる故なり、 但し三類の大怨敵にあだまれて二度の流難に値へば如来
03 の御使に似たり、 心は三毒ふかく一身凡夫にて候へども口に南無妙法蓮華経と申せば如来の使に似たり、 過去を
04 尋ぬれば不軽菩薩に似たり、 現在を・とぶらうに加刀杖瓦石にたがう事なし、 未来は当詣道場疑いなからんか、
05 これをやしなはせ給う人人は 豈浄土に同居するの人にあらずや、 事多しと申せどもとどめ候心をもて計らせ給う
06 べし。
07   ちごのそらうよくなりたり悦び候ぞ、 又大進阿闍梨の死去の事・末代のぎばいかでか此れにすぐべきと皆人・
08 舌をふり候なり、さにて候いけるやらん、 三位房が事さう四郎が事・此の事は宛も符契符契と申しあひて候、 日
09 蓮が死生をば・まかせまいらせて候、全く他のくすしをば用いまじく候なり。
10       弘安元年戊寅九月十五日                 日蓮花押
11     四条金吾殿
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四条金吾殿御返事
01   鵞目一貫文給い候い畢んぬ、御所領・上より給わらせ給いて候なる事まこととも覚へず候・夢かとあまりに不思
02 議に覚へ候、 御返事なんどもいかやうに申すべしとも覚へず候、 其の故はとのの御身は日蓮が法門の御ゆへに日
03 本国・並にかまくら中御内の人人きうだちまでうけず・ ふしぎにをもはれて候へば其の御内にをはせむだにも不思
04 議に候に御恩をかうほらせ給へば・うちかへし・ 又うちかへしせさせ給へばいかばかり同れいどもも・ふしぎとを
05 もひ・上もあまりなりとをぼすらむ、さればこのたびは・いかんが有るべかるらんと・うたがひ思い候つる上・御内
06 の数十人の人人うつたへて候へばさればこそいかにも・かなひがたかるべし、 あまりなる事なりと疑候いつる上・
07 兄弟にもすてられてをはするに・かかる御をん面目申すばかりなし、 かの処は・とのをかの三倍とあそばして候上
08 さどの国のものの・ これに候がよくよく其の処をしりて候が申し候は・三箇郷の内に・いかだと申すは第一の処な
09 り、田畠はすくなく候へども・とくははかりなしと申し候ぞ、二所はみねんぐ千貫・一所は三百貫と云云、 かかる
10 処なりと承はる、なにとなくとも・どうれいといひ・ したしき人人と申しすてはてられて・わらひよろこびつるに
11 とのをかに・ をとりて候処なりとも御下し文は給たく候つるぞかしまして三倍の処なりと候、いかにわろくとも・
12 わろきよし人にも又上へも申させ給うべからず候、 よきところ・ よきところと申し給はば又かさねて給はらせ給
13 うべし、わろき処・徳分なしなむど候はば天にも人にも・すてられ給い候はむずるに候ぞ、御心へあるべし。
14   阿闍世王は賢人なりしが父を.ころせしかば即時に天にも・すてられ大地も.やぶれて入りぬべかりしかども・殺
15 されし父の王・ 一日に五百りやう五百りやう数年が間・仏を供養しまいらせたりし功徳と後に法華経の檀那となる
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01 べき功徳によりて天もすてがたし地もわれず・ついに地獄にをちずして仏になり給いき、 とのも又かくのごとし・
02 兄弟にもすてられ同れいにも・あだまれ・きうだちにもそばめられ日本国の人にも・にくまれ給いつれども、去ぬる
03 文永八年の九月十二日の子丑の時・日蓮が御勘気をかほりし時・ 馬の口にとりつきて鎌倉を出でてさがみのえちに
04 御ともありしが、 一閻浮提第一の法華経の御かたうどにて有りしかば梵天・帝釈もすてかねさせ給へるか、 仏に
05 ならせ給はん事も・かくのごとし、 いかなる大科ありとも法華経をそむかせ給はず候いし、御ともの御ほうこうに
06 て仏にならせ給うべし、 例せば有徳国王の覚徳比丘の命にかはりて釈迦仏とならせ給いしがごとし、 法華経はい
07 のりとはなり候いけるぞ。
08   あなかしこ・あなかしこ、いよいよ道心堅固にして今度・仏になり給へ、御一門の御房たち又俗人等にも・かか
09 るうれしき事候はず、かう申せば今生のよくとをぼすか、 それも凡夫にて候へば・さも候べき上慾をも・はなれず
10 して仏になり候ける道の候けるぞ、 普賢経に法華経の肝心を説きて候「煩悩を断ぜず五欲を離れず」等云云、 天
11 台大師の摩訶止観に云く「煩悩即菩提・生死即涅槃」等云云、 竜樹菩薩の大論に法華経の一代にすぐれて・いみじ
12 きやうを釈して云く 「譬えば大薬師の能く毒を変じて薬と為すが如し」等云云、 「小薬師は薬を以て病を治す大
13 医は大毒をもつて大重病を治す」等云云。
14        弘安元戊寅年十月 日                  日蓮花押
15     四条金吾殿御返事
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四条金吾殿御返事    弘安元年十月    五十七歳御作
01   今月二十二日.信濃より贈られ候いし物の日記.銭三貫文.白米能米俵一・餅五十枚.酒大筒一・小筒一.串柿五把.
02 柘榴十、 夫れ王は民を食とし民は王を食とす衣は寒温をふせぎ食は身命をたすく、 譬ば油の火を継ぎ水の魚を助
03 くるが如し、 鳥は人の害せん事を恐れて木末に巣くふ、 然れども食のために地にをりてわなにかかる、魚は淵の
04 底に住みて浅き事を悲しみて穴を水の底に掘りて・ すめども餌にばかされて鉤をのむ、 飲食と衣薬とに過ぎたる
05 人の宝や候べき。
06   而るに日蓮は他人にことなる上・山林の栖・就中今年は疫癘飢渇に春夏は過越し秋冬は又前にも過ぎたり、又身
07 に当りて所労大事になりて候つるをかたがたの御薬と申し 小袖・彼のしなじなの御治法にやうやう験し候て 今所
08 労平愈し本よりも・いさぎよくなりて候、 弥勒菩薩の瑜伽論・竜樹菩薩の大論を見候へば定業の者は薬変じて毒と
09 なる法華経は毒変じて薬となると見えて候、 日蓮不肖の身に法華経を弘めんとし候へば 天魔競ひて食をうばはん
10 とするかと思いて歎かず候いつるに 今度の命たすかり候は 偏に釈迦仏の貴辺の身に入り替らせ給いて御たすけ候
11 か。
12   是はさてをきぬ、 今度の御返りは神を失いて歎き候いつるに 事故なく鎌倉に御帰り候事悦びいくそばくぞ、
13 余りの覚束なさに鎌倉より来る者ごとに問い候いつれば 或人は湯本にて行き合せ給うと云い 或人はこうづにと或
14 人は鎌倉にと申し候いしにこそ心落居て候へ、 是より後はおぼろげならずば御渡りあるべからず 大事の御事候は
15 ば御使にて承わり候べし、 返す返す今度の道は・あまりに・おぼつかなく候いつるなり、敵と申す者はわすれさせ
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01 てねらふものなり、 是より後に若やの御旅には御馬をおしましませ給ふべからず、よき馬にのらせ給へ、 又供の
02 者ども・せんにあひぬべからんもの又どうまろもちあげぬべからん・御馬にのり給うべし、 摩訶止観第八に云く弘
03 決第八に云く 「必ず心の固きに仮つて神の守り則ち強し」云云、 神の護ると申すも人の心つよきによるとみえて
04 候、法華経はよきつるぎなれども・つかう人によりて物をきり候か。
05   されば末法に此の経を・ひろめん人人・舎利弗と迦葉と観音と妙音と文殊と薬王と此等程の人やは候べき、二乗
06 は見思を断じて六道を出でて候・菩薩は四十一品の無明を断じて十四夜の月の如し、 然れども此等の人人には・ゆ
07 づり給はずして地涌の菩薩に譲り給へり、 されば能く能く心をきたはせ給うにや、 李広将軍と申せし・つはもの
08 は虎に母を食れて虎に似たる石を射しかば其の矢羽ぶくらまでせめぬ、 後に石と見ては立つ事なし、 後には石虎
09 将軍と申しき、 貴辺も又かくのごとく敵は・ねらふらめども法華経の御信心強盛なれば大難も・かねて消え候か、
10 是につけても能く能く御信心あるべし、委く紙には尽しがたし、恐恐謹言。
11       弘安元年戊寅後十月二十二日                     日蓮花押
12     四条左衛門殿御返事
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日眼女造立釈迦仏供養事    弘安二年二月    五十八歳御作
01   御守書てまいらせ候三界の主教主釈尊一体三寸の木像造立の檀那日眼女・御供養の御布施前に二貫今一貫云云。
02   法華経の寿量品に云く「或は己身を説き或は他身を説く」等云云、 東方の善徳仏・中央の大日如来・十方の諸
03 仏・過去の七仏.三世の諸仏.上行菩薩等.文殊師利・舎利弗等・大梵天王.第六天の魔王.釈提桓因王・日天.月天・明
04 星天.北斗七星.二十八宿・五星.七星.八万四千の無量の諸星.阿修羅王・天神.地神・山神・海神.宅神・里神.一切世
05 間の国国の主とある人何れか教主釈尊ならざる・天照太神・八幡大菩薩も其の本地は教主釈尊なり、 例せば釈尊は
06 天の一月・諸仏・菩薩等は万水に浮べる影なり、釈尊一体を造立する人は十方世界の諸仏を作り奉る人なり、 譬え
07 ば頭をふればかみゆるぐ心はたらけば身うごく、 大風吹けば草木しづかならず・大地うごけば大海さはがし、 教
08 主釈尊をうごかし奉れば・ゆるがぬ草木やあるべき・さわがぬ水やあるべき。
09   今の日眼女は三十七のやくと云云、 やくと申すは譬えばさいにはかどますにはすみ人にはつぎふし方には四維
10 の如し、風は方よりふけばよはく・角より吹けばつよし・ 病は肉より起れば治しやすし節より起れば治しがたし、
11 家にはかきなければ盗人いる・人には・とがあれば敵便をうく、 やくと申すはふしぶしの如し、家にかきなく人に
12 科あるがごとし、 よきひやうしを以てまほらすれば盗人をからめとる、 ふしの病をかぬて治すれば命ながし、今
13 教主釈尊を造立し奉れば下女が太子をうめるが如し国王・尚此の女を敬ひ給ふ何に況や大臣已下をや、 大梵天王・
14 釈提桓因王・日月等・此の女人を守り給ふ況や大小の神祇をや、昔優填大王・釈迦仏を造立し奉りしかば大梵天王・
15 日月等・ 木像を礼しに参り給いしかば木像説いて云く「我を供養せんよりは優填大王を供養すべし」等云云、 影
16 堅王の画像の釈尊を書き奉りしも 又又是くの如し、 法華経に云く「若し人仏の為の故に諸の形像を建立す是くの
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01 如き諸人等皆已に仏道を成じき」云云、 文の心は一切の女人釈迦仏を造り奉れば 現在には日日・月月の大小の難
02 を払ひ後生には必ず仏になるべしと申す文なり。
03   抑女人は一代五千・七千余巻の経経に仏にならずと・きらはれまします、但法華経ばかりに女人・仏になると説
04 かれて候、 天台智者大師の釈に云く「女に記せず」等云云、 釈の心は一切経には女人仏にならずと云云、次下に
05 云く「今経は皆記す」と云云、 今の法華経にこそ竜女仏になれりと云云、 天台智者大師と申せし人は仏滅度の後
06 一千五百年に漢土と申す国に出でさせ給いて 一切経を十五返まで御覧あそばして候いしが 法華経より外の経には
07 女人仏にならずと云云、 妙楽大師と申せし人の釈に云く「一代に絶えたる所なり」等云云、 釈の心は一切経にた
08 えたる法門なり、 法華経と申すは星の中の月ぞかし人の中の王ぞかし山の中の須弥山・水の中の大海の如し、 是
09 れ程いみじき御経に女人仏になると説かれぬれば一切経に嫌はれたるに・なにか・くるしかるべき、 譬えば盗人・
10 夜打・強盗・乞食・渇体にきらはれたらんと国の大王に讃られたらんと何れかうれしかるべき、 日本国と申すは女
11 人の国と申す国なり、 天照太神と申せし女神のつきいだし給える島なり、 此の日本には 男十九億九万四千八百
12 二十八人・女は二十九億九万四千八百三十人なり、 此の男女は皆念仏者にて候ぞ皆念仏なるが故に 阿弥陀仏を本
13 尊とす現世の祈りも又是くの如し、 設い釈迦仏をつくりかけども 阿弥陀仏の浄土へゆかんと思いて本意の様には
14 思い候はぬぞ、中中つくりかかぬには・をとり候なり。
15   今日眼女は今生の祈りのやうなれども教主釈尊をつくりまいらせ給い候へば後生も疑なし、 二十九億九万四千
16 八百三十人の女人の中の第一なりとおぼしめすべし、委くは又又申すべく候、恐恐謹言。
17       弘安二年己卯二月二日                日 蓮 花 押
18     日眼女御返事
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聖人御難事    弘安二年十月    五十八歳御作   与門人等
01   去ぬる建長五年太歳癸丑四月二十八日に安房の国長狭郡の内東条の郷今は郡なり、天照太神の御くりや右大将家
02 の立て始め給いし日本第二のみくりや 今は日本第一なり、 此の郡の内清澄寺と申す寺の諸仏坊の持仏堂の南面に
03 して午の時に此の法門申しはじめて今に二十七年・弘安二年太歳己卯なり、仏は四十余年・天台大師は三十余年・伝
04 教大師は二十余年に出世の本懐を遂げ給う、 其中の大難申す計りなし先先に申すがごとし、 余は二十七年なり其
05 の間の大難は各各かつしろしめせり。
06   法華経に云く「而も此の経は如来の現在にすら猶怨嫉多し、況や滅度の後をや」云云、釈迦如来の大難はかずを
07 しらず、 其の中に馬の麦をもつて九十日・小指の出仏身血・大石の頂にかかりし 、善生比丘等の八人が身は仏の
08 御弟子・心は外道にともないて昼夜十二時に仏の短をねらいし、 無量の釈子の波瑠璃王に殺されし・無量の弟子等
09 が悪象にふまれし・阿闍世王の大難をなせし等、此等は如来現在の小難なり、況滅度後の大難は竜樹・天親・天台・
10 伝教いまだ値い給はず・法華経の行者ならずと・いわば・いかでか行者にて・をはせざるべき、又行者といはんとす
11 れば仏のごとく身より血をあやされず、 何に況や仏に過ぎたる大難なし経文むなしきがごとし、 仏説すでに大虚
12 妄となりぬ。
13   而るに日蓮二十七年が間・弘長元年辛酉五月十二日には伊豆の国へ流罪、文永元年甲子十一月十一日頭にきずを
14 かほり左の手を打ちをらる、同文永八年辛未九月十二日佐渡の国へ配流又頭の座に望む、其の外に弟子を殺され切ら
15 れ追出・くわれう等かずをしらず、仏の大難には及ぶか勝れたるか其は知らず、竜樹・天親・天台・伝教は余に肩を
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01 並べがたし、日蓮末法に出でずば仏は大妄語の人・多宝・十方の諸仏は大虚妄の証明なり、 仏滅後二千二百三十余
02 年が間・一閻浮提の内に仏の御言を助けたる人・但日蓮一人なり、 過去現在の末法の法華経の行者を軽賎する王臣
03 万民始めは事なきやうにて終にほろびざるは候はず、 日蓮又かくのごとし、 始めはしるしなきやうなれども今二
04 十七年が間、 法華経守護の梵釈・日月・四天等さのみ守護せずば仏前の御誓むなしくて無間大城に堕つべしと・お
05 そろしく想う間今は各各はげむらむ、 大田の親昌・長崎次郎兵衛の尉時綱・大進房が落馬等は法華経の罰のあらわ
06 るるか、罰は総罰・別罰・顕罰・冥罰・四候、日本国の大疫病と大けかちとどしうちと他国よりせめらるるは総ばち
07 なり、やくびやうは冥罰なり、 大田等は現罰なり別ばちなり、 各各師子王の心を取り出して・いかに人をどすと
08 もをづる事なかれ、師子王は百獣にをぢず・師子の子・又かくのごとし、 彼等は野干のほうるなり日蓮が一門は師
09 子の吼るなり、 故最明寺殿の日蓮をゆるししと 此の殿の許ししは禍なかりけるを人のざんげんと知りて許ししな
10 り、 今はいかに人申すとも聞きほどかずしては人のざんげんは用い給うべからず、 設い大鬼神のつける人なりと
11 も日蓮をば梵釈・日月・四天等・天照太神・八幡の守護し給うゆへにばつしがたかるべしと存じ給うべし、月月・日
12 日につより給へ・すこしもたゆむ心あらば魔たよりをうべし。
13   我等凡夫のつたなさは経論に有る事と遠き事はおそるる心なし、 一定として平等も城等もいかりて 此の一門
14 をさんざんとなす事も出来せば眼をひさいで観念せよ、当時の人人のつくしへか・さされんずらむ、又ゆく人・又か
15 しこに向える人人を我が身にひきあてよ、 当時までは此の一門に此のなげきなし、 彼等はげんはかくのごとし殺
16 されば又地獄へゆくべし、 我等現には此の大難に値うとも後生は仏になりなん、 設えば灸治のごとし当時はいた
17 けれども後の薬なればいたくていたからず。
18   彼のあつわらの愚癡の者ども・いゐはげまして・をどす事なかれ、彼等にはただ一えんにおもい切れ・よからん
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01 は不思議わるからんは一定とをもへ、 ひだるしとをもわば餓鬼道ををしへよ、 さむしといわば八かん地獄ををし
02 へよ、 をそろししと・いわばたかにあへるきじねこにあえるねずみを他人とをもう事なかれ、 此れはこまごまと
03 かき候事はかくとしどし・月月・日日に申して候へどもなごへの尼せう房・のと房・三位房なんどのやうに候、をく
04 びやう物をぼへず・よくふかく・うたがい多き者どもは・ぬれるうるしに水をかけそらをきりたるやうに候ぞ。
05   三位房が事は大不思議の事ども候いしかども・とのばらのをもいには智慧ある者をそねませ給うかと・ぐちの人
06 をもいなんと・をもいて物も申さで候いしが、 はらぐろとなりて大難にもあたりて候ぞ、なかなか・さんざんと・
07 だにも申せしかば・たすかるへんもや候いなん、 あまりにふしぎさに申さざりしなり、 又かく申せばおこ人ども
08 は死もうの事を仰せ候と申すべし、 鏡のために申す又此の事は彼等の人人も内内は・おぢおそれ候らむと・おぼへ
09 候ぞ。
10   人のさわげばとて・ひやうじなんと此の一門にせられば此れへかきつけて・たび候へ、恐恐謹言。
11       十月一日                        日蓮花押
12   人人御中
13     さぶらうざへもん殿のもとに・とどめらるべし。
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四条金吾殿御返事    弘安二年十月    五十八歳御作
01   先度強敵ととりあひについて御文給いき委く見まいらせ候、さても・さても・敵人にねらはれさせ給いしか、前
02 前の用心といひ又けなげといひ又法華経の信心つよき故に 難なく存命せさせ給い目出たし目出たし、 夫れ運きは
03 まりぬれば兵法もいらず・果報つきぬれば所従もしたがはず、 所詮運ものこり果報もひかゆる故なり、 ことに法
04 華経の行者をば諸天・善神・守護すべきよし属累品にして誓状をたて給い・一切の守護神・諸天の中にも我等が眼に
05 見へて守護し給うは日月天なり争か信をとらざるべき、 ことに・ことに日天の前に摩利支天まします、日天・法華
06 経の行者を守護し給はんに所従の摩利支天尊すて給うべしや、 序品の時・名月天子・普光天子・宝光天子・四大天
07 王・与其眷属・万天子倶と列座し給ふ、 まりし天は三万天子の内なるべし、もし内になくば地獄にこそおはしまさ
08 んずれ、 今度の大事は此の天のまほりに非ずや、 彼の天は剣形を貴辺にあたへ此へ下りぬ、此の日蓮は首題の五
09 字を汝にさづく、 法華経受持のものを守護せん事疑あるべからず、 まりし天も法華経を持ちて一切衆生をたすけ
10 給う、 「臨兵闘者皆陣列在前」の文も法華経より出でたり、 「若説俗間経書治世語言資生業等皆順正法」とは是
11 なり、これに・つけても・いよいよ強盛に大信力をいだし給へ、 我が運命つきて諸天守護なしとうらむる事あるべ
12 からず。
13   将門は・つはものの名をとり兵法の大事をきはめたり、されども王命にはまけぬ、はんくわひ・ちやうりやうも
14 よしなし・ただ心こそ大切なれ、いかに日蓮いのり申すとも不信ならばぬれたる・ほくちに・火をうちかくるが・ご
15 とくなるべし、はげみをなして強盛に信力をいだし給うべし、 すぎし存命不思議とおもはせ給へ、 なにの兵法よ
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01 りも法華経の兵法をもちひ給うべし、 「諸余怨敵・皆悉摧滅」の金言むなしかるべからず、 兵法剣形の大事も此
02 の妙法より出でたり、ふかく信心をとり給へ、あへて臆病にては叶うべからず候、恐恐謹言。
03       十月二十三日                     日蓮花押
04     四条金吾殿御返事
四条金吾殿御返事    弘安三年十月    五十九歳御作
01   殿岡より米送り給び候、今年七月・盂蘭盆供の僧膳にして候、自恣の僧・霊山の聴衆・仏陀・神明も納受随喜し
02 給うらん、尽きせぬ志・連連の御訪い言を以て尽くしがたし。
03   何となくとも殿の事は後生菩提疑なし、何事よりも文永八年の御勘気の時・既に相模の国・竜の口にて頚切られ
04 んとせし時にも 殿は馬の口に付いて足歩赤足にて泣き悲み給いし事 実にならば腹きらんとの気色なりしをば・い
05 つの世にか思い忘るべき、 それのみならず佐渡の島に放たれ北海の雪の下に埋もれ 北山の嶺の山下風に命助かる
06 べしともをぼへず、 年来の同朋にも捨てられ故郷へ帰らん事は 大海の底のちびきの石の思ひしてさすがに凡夫な
07 れば古郷の人人も恋しきに 在俗の官仕隙なき身に此の経を信ずる事こそ稀有なるに 山河を凌ぎ蒼海を経て遥に尋
08 ね来り給いし志・ 香城に骨を砕き雪嶺に身を投げし人人にも争でか劣り給うべき、 又我が身はこれ程に浮び難か
09 りしが・ いかなりける事にてや同十一年の春の比・赦免せられて鎌倉に帰り上りけむ、 倩事の情を案ずるに今は
10 我身に過あらじ、 或は命に及ばんとし弘長には伊豆の国・文永には佐渡の島・ 諌暁再三に及べば留難重畳せり、
11 仏法中怨の誡責をも身には・はや免れぬらん。
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01   然るに今山林に世を遁れ道を進まんと思いしに人人の語・ 様様なりしかども旁存ずる旨ありしに依りて当国・
02 当山に入りて已に七年の春秋を送る、 又身の智分をば且らく置きぬ法華経の方人として 難を忍び疵を蒙る事は漢
03 土の天台大師にも越え日域の伝教大師にも勝れたり、 是は時の然らしむる故なり、 我が身法華経の行者ならば霊
04 山の教主.釈迦・宝浄世界の多宝如来.十方分身の諸仏・本化の大士.迹化の大菩薩・梵・釈・竜神.十羅刹女も定めて
05 此の砌におはしますらん、 水あれば魚すむ林あれば鳥来る蓬莱山には玉多く摩黎山には栴檀生ず 麗水の山には金
06 あり、 今此の所も此くの如し仏菩薩の住み給う功徳聚の砌なり、 多くの月日を送り読誦し奉る所の法華経の功徳
07 は虚空にも余りぬべし、 然るを毎年度度の御参詣には無始の罪障も定めて今生一生に消滅すべきか、 弥はげむべ
08 し・はげむべし。
09       十月八日                        日蓮花押
10     四条中務三郎左衛門殿御返事
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四条金吾許御文    弘安三年十二月    五十九歳御作   与四条金吾女房
01   白小袖一つ.緜十両・慥に給候い畢んぬ、歳もかたぶき候・又処は山の中.風はげしく庵室はかごの目の如し、う
02 ちしく物は草の葉・きたる物は・かみぎぬ身のひゆる事は石の如し、 食物は冰の如くに候へば此の御小袖給候て頓
03 て身をあたたまらんと・をもへども・明年の一日と・かかれて候へば迦葉尊者の鶏足山にこもりて慈尊の出世・五十
04 六億七千万歳をまたるるも・かくや・ひさしかるらん。
05   これは.さてをき候ぬ、しゐぢの四郎がかたり申し候・御前の御法門の事うけ給わり候こそ.よに・すずしく覚え
06 候へ、此の御引出物に大事の法門一つかき付けてまいらせ候、 八幡大菩薩をば世間の智者・愚者・大体は阿弥陀仏
07 の化身と申し候ぞ、 其れもゆへなきにあらず・中古の義に或は八幡の御託宣とて阿弥陀仏と申しける事 少少候、
08 此れはをのをの心の念仏者にて候故に あかき石を金と思いくひせをうさぎと見るが如し、 其れ実には釈迦仏にて
09 おはしまし候ぞ、 其の故は大隅の国に石体の銘と申す事あり、 一つの石われて二つになる、一つの石には八幡と
10 申す二字あり、 一つの石の銘には「昔霊鷲山に於て妙法蓮華経を説き今正宮の中に在りて大菩薩と示現す」云云、
11 是れ釈迦仏と申す第一の証文なり、此れよりも・ことに・まさしき事候、此の八幡大菩薩は日本国・人王第十四代・
12 仲哀天皇は父なり、第十五代・神功皇后は母なり、 第十六代・応神天皇は今の八幡大菩薩是なり、父の仲哀天皇は
13 天照太神の仰せにて新羅国を責めんが為に 渡り給いしが新羅の大王に調伏せられ給いて 仲哀天皇は・はかたにて
14 崩御ありしかば、 きさきの神功皇后は此の太子を御懐妊ありながら・わたらせ給いしが、王の敵を・うたんとて数
15 万騎のせいをあい具して新羅国へ渡り給いしに、 浪の上・船の内にて王子御誕生の気いでき見え給う、 其の時神
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01 功皇后ははらの内の王子にかたり給ふ、 汝は王子か女子か王子ならばたしかに聞き給へ、 我は君の父・仲哀天皇
02 の敵を打たんが為に新羅国へ渡るなり、 我が身は女の身なれば汝を大将とたのむべし、 君・日本国の主となり給
03 うべきならば今度生れ給はずして軍の間・ 腹の内にて数万騎の大将となりて父の敵を打たせ給へ、 是を用ひ給は
04 ずして只今生れ給うほどならば海へ入れ奉らんずるなり、 我を恨みに思い給うなと有りければ、 王子・本の如く
05 胎内にをさまり給いけり、 其の時石のをびを以て胎をひやし 新羅国へ渡り給いて新羅国を打ちしたがへて還つて
06 豊前の国うさの宮につき給い・ここにて王子・誕生あり、 懐胎の後・三年六月三日と申す甲寅の年四月八日に生れ
07 させ給う是を応神天皇と号し奉る、 御年八十と申す壬申の年・二月十五日にかくれさせ給ふ、男山の主・我が朝の
08 守護神・正体めづらしからずして霊験新たにおはします・今の八幡大菩薩是なり。
09   又釈迦如来は住劫.第九の減・人寿百歳の時・浄飯王を父とし摩耶夫人を母として中天竺.伽毘羅衛国らんびに薗
10 と申す処にて甲寅の年四月八日に生れさせ給いぬ、 八十年を経て東天竺・倶尸那城・跛提河の辺にて二月十五日壬
11 申にかくれさせ給いぬ、 今の八幡大菩薩も又是くの如し、 月氏と日本と父母は・かわれども四月八日と甲寅と二
12 月十五日と壬申とはかわる事なし、 仏滅度の後・二千二百二十余年が間・月氏・漢土・ 日本・一閻浮提の内に聖
13 人・賢人と生るる人をば皆釈迦如来の化身とこそ申せども・かかる不思議は未だ見聞せず。
14   かかる不思議の候上・八幡大菩薩の御誓いは月氏にては法華経を説いて正直捨方便となのらせ給い、 日本国に
15 しては正直の頂に・ やどらんと誓い給ふ、 而るに去ぬる十一月十四日の子の時に 御宝殿をやいて天にのぼらせ
16 給いぬる故をかんがへ候に・ 此の神は正直の人の頂に・やどらんと誓へるに・正直の人の頂の候はねば居処なき故
17 に栖なくして天にのぼり給いけるなり、 日本国の第一の不思議には釈迦如来の国に生れて 此の仏をすてて一切衆
18 生・皆一同に阿弥陀仏につけり、 有縁の釈迦をば・すて奉り無縁の阿弥陀仏を・あをぎたてまつりぬ、其の上親父
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01 釈迦仏の入滅の日をば 阿弥陀仏につけ又誕生の日をば薬師になしぬ、 八幡大菩薩をば崇るやうなれども又本地を
02 阿弥陀仏になしぬ、 本地垂迹を捨つる上に此の事を申す人をば・ かたきとする故に力及ばせ給はずして此の神は
03 天にのぼり給いぬるか、 但し月は影を水にうかぶる濁れる水には栖ことなし、 木の上・草の葉なれども澄める露
04 には移る事なれば・かならず国主ならずとも正直の人のかうべには・やどり給うなるべし。
05   然れば百王の頂に.やどらんと誓い給いしかども.人王八十一代・安徳天皇.二代隠岐の法皇・三代阿波.四代佐渡
06 五代東一条等の五人の国王の頂には・ すみ給はず、諂曲の人の頂なる故なり、 頼朝と義時とは臣下なれども其の
07 頂には・やどり給ふ正直なる故か、 此れを以て思うに法華経の人人は正直の法につき給ふ故に釈迦仏・猶是をまほ
08 り給ふ、況や垂迹の八幡大菩薩争か是をまほり給はざるべき、 浄き水なれども濁りぬれば月やどる事なし、 糞水
09 なれども.すめば影を惜み給はず、濁水は清けれども月やどらず.糞水は・きたなけれども・すめば影を・をしまず、
10 濁水は智者・学匠の持戒なるが法華経に背くが如し、 糞水は愚人の無戒なるが貪欲ふかく瞋恚・強盛なれども法華
11 経計りを無二無三に信じまいらせて有るが如し、涅槃経と申す経には法華経の得道の者を列ねて候にコウロウ蝮蠍と
12 申して糞虫を挙げさせ給ふ、 竜樹菩薩は法華経の不思議を書き給うにコン虫と申して糞虫を仏になす等云云、又涅
13 槃経に法華経にして 仏になるまじき人をあげられて候には 「一闡提の人の阿羅漢の如く、 大菩薩の如き」等云
14 云、 此等は濁水は浄けれども月の影を移す事なしと見えて候、 されば八幡大菩薩は不正直をにくみて天にのぼり
15 給うとも、 法華経の行者を見ては争か其の影をばをしみ給うべき、 我が一門は深く此の心を信ぜさせ給うべし、
16 八幡大菩薩は此にわたらせ給うなり、疑い給う事なかれ・疑い給う事なかれ、恐恐謹言。
17       十二月十六日                         日蓮花押
18     四条金吾殿女房御返事
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四条金吾殿御返事    弘安五年正月    六十一歳御作
01   満月のごとくなるもちゐ二十・かんろのごとくなる・せいす一つつ・給候い畢んぬ、春のはじめの御悦びは月の
02 みつるがごとく・しをのさすがごとく・草のかこむが如く・雨のふるが如しと思し食すべし。
03   抑八日は各各の御父・釈迦仏の生れさせ給い候し日なり、 彼の日に三十二のふしぎあり・一には一切の草木に
04 花さき・みなる・二には大地より一切の宝わきいづ・三には一切のでんぱたに雨ふらずして水わきいづ・四には夜変
05 じてひるの如し・ 五には三千世界に歎きのこゑなし、 是くの如く吉瑞の相のみにて候し、是より已来今にいたる
06 まで二千二百三十余年が間・吉事には八日をつかひ給い候なり。
07   然るに日本国.皆釈迦仏を捨てさせ給いて候に・いかなる過去の善根にてや.法華経と釈迦仏とを御信心ありて・
08 各各あつまらせ給いて八日をくやう申させ給うのみならず・ 山中の日蓮に華かうを・をくらせ候やらん、 たうと
09 し・たうとし、恐恐。
10       正月七日                        日蓮花押
11     人人御返事
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月水御書    文永元年四月    四十三歳御作   与大学三郎妻
01   伝え承はる御消息の状に云く 法華経を日ごとに一品づつ二十八日が間に一部をよみまいらせ候しが当時は薬王
02 品の一品を毎日の所作にし候、 ただ・もとの様に一品づつを・よみまいらせ候べきやらんと云云、法華経は一日の
03 所作に一部八巻.二十八品・或は一巻・或は一品・一偈・一句・一字.或は題目ばかりを南無妙法蓮華経と只一遍とな
04 へ・或は又一期の間に只一度となへ・ 或は又一期の間にただ一遍唱うるを聞いて随喜し・或は又随喜する声を聞い
05 て随喜し・是体に五十展転して末になりなば志もうすくなり随喜の心の弱き事・ 二三歳の幼穉の者のはかなきが如
06 く・牛馬なんどの前後を弁へざるが如くなりとも、他経を学する人の利根にして智慧かしこく・舎利弗・目連・文殊
07 弥勒の如くなる人の 諸経を胸の内にうかべて御坐まさん人人の御功徳よりも 勝れたる事・百千万億倍なるべきよ
08 し・経文並に天台・妙楽の六十巻の中に見え侍り、 されば経文には「仏の智慧を以て多少を籌量すとも其の辺を得
09 ず」と説かれて 仏の御智慧すら此の人の功徳をば・しろしめさず、 仏の智慧のありがたさは此の三千大千世界に
10 七日・若しは二七日なんど・ふる雨の数をだにも・ しろしめして御坐候なるが只法華経の一字を唱えたる人の功徳
11 をのみ知しめさずと見えたり、 何に況や我等逆罪の凡夫の此の功徳をしり候いなんや、 然りと云えども如来滅後
12 二千二百余年に及んで 五濁さかりになりて年久し 事にふれて善なる事ありがたし、 設ひ善を作人も一の善に十
13 の悪を造り重ねて結句は小善につけて大悪を造り 心には大善を修したりと云ふ慢心を起す世となれり、 然るに如
14 来の世に出でさせ給いて候し 国よりしては二十万里の山海をへだてて 東によれる日域辺土の小嶋にうまれ・五障
15 の雲厚うして三従の・きづなに・つながれ給へる女人なんどの御身として法華経を御信用候は・ありがたしなんど・
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01 とも申すに限りなく候、 凡そ一代聖教を披き見て 顕密二道を究め給へる様なる智者学匠だにも・近来は法華経を
02 捨て念仏を申し候に何なる御宿善ありてか此の法華経を一偈一句もあそばす御身と生れさせ給いけん。
03   されば此の御消息を拝し候へば優曇華を見たる眼よりもめづらしく・ 一眼の亀の浮木の穴に値へるよりも乏き
04 事かなと・心ばかりは有がたき御事に思いまいらせ候間、 一言・一点も随喜の言を加えて善根の余慶にもやと・は
05 げみ候へども只恐らくは雲の月をかくし 塵の鏡をくもらすが如く 短く拙き言にて殊勝にめでたき御功徳を申し隠
06 しくもらす事にや候らんといたみ思ひ候ばかりなり、 然りと云えども貴命もだすべきにあらず 一滴を江海に加へ
07 シャツ火を日月にそへて水をまし光を添ふると思し食すべし、先法華経と申すは八巻.一巻.一品.一偈.一句.乃至.題
08 目を唱ふるも功徳は同じ事と思し食すべし、 譬えば大海の水は一滴なれども無量の江河の水を納めたり、 如意宝
09 珠は一珠なれども万宝をふらす、 百千万億の滴珠も又これ同じ法華経は一字も一の滴珠の如し、 乃至万億の字も
10 又万億の滴珠の如し、 諸経・諸仏の一字一名号は江河の一滴の水山海の一石の如し、 一滴に無量の水を備えず一
11 石に無数の石の徳をそなへもたず、 若し然らば此の法華経は何れの品にても御坐しませ 只御信用の御坐さん品こ
12 そ・めづらしくは候へ。
13   総じて如来の聖教は何れも妄語の御坐すとは承り候はねども・再び仏教を勘えたるに如来の金言の中にも大小・
14 権実・顕密なんど申す事・経文より事起りて候、随つて論師・ 人師の釈義にあらあら見えたり、詮を取つて申さば
15 釈尊の五十余年の諸教の中に 先四十余年の説教は猶うたがはしく候ぞかし、 仏自ら無量義経に「四十余年未だ真
16 実を顕さず」 と申す経文まのあたり説かせ給へる故なり、 法華経に於ては仏自ら一句の文字を「正直に方便を捨
17 てて但だ無上道を説く」と定めさせ給いぬ、 其の上・多宝仏・大地より涌出でさせ給いて「妙法華経皆是真実」と
18 証明を加へ十方の諸仏・ 皆法華経の座にあつまりて舌を出して法華経の文字は一字なりとも 妄語なるまじきよし

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