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日蓮大聖人御書全集
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1201 1202 1203 1204 1205 1206 1207 1208 1209 1210
1211 1212 1213 1214 1215 1216 1217 1218 1219 1220
1221 1222 1223 1224 1225 1226 1227 1228 1229 1230
1231 1232 1233 1234 1235 1236 1237 1238 1239 1240
1241 1242 1243 1244 1245 1246 1247 1248 1249 1250
1251 1252 1253 1254 1255 1256 1257 1258 1259 1260
1261 1262 1263 1264 1265 1266 1267 1268 1269 1270
1271 1272 1273 1274 1275 1276 1277 1278 1279 1280
1281 1282 1283 1284 1285 1286 1287 1288 1289 1290
1291 1292 1293 1294 1295 1296 1297 1298 1299 1300

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01 助成をそへ給へり、 譬えば大王と后と長者等の一味同心に約束をなせるが如し、 若し法華経の一字をも唱えん男
02 女等・十悪・五逆・四重等の無量の重業に引かれて悪道におつるならば日月は東より出でさせ給はぬ事はありとも・
03 大地は反覆する事はありとも・ 大海の潮はみちひぬ事はありとも、 破たる石は合うとも江河の水は大海に入らず
04 とも・法華経を信じたる女人の世間の罪に引かれて悪道に堕つる事はあるべからず、 若し法華経を信じたる女人・
05 物をねたむ故・腹のあしきゆへ・貪欲の深きゆへなんどに引れて悪道に堕つるならば・釈迦如来・多宝仏・十方の諸
06 仏・ 無量曠劫よりこのかた持ち来り給へる不妄語戒忽に破れて 調達が虚誑罪にも勝れ瞿伽利が大妄語にも超えた
07 らん争か・しかるべきや。
08   法華経を持つ人.憑しく有りがたし、但し一生が間.一悪をも犯さず.五戒・八戒.十戒・十善戒.二百五十戒.五百
09 戒・無量の戒を持ち・一切経をそらに浮べ・一切の諸仏・菩薩を供養し無量の善根をつませ給うとも、法華経計りを
10 御信用なく又御信用はありとも諸経・ 諸仏にも並べて思し食し・又並べて思し食さずとも他の善根をば隙なく行じ
11 て時時・法華経を行じ・法華経を用ひざる謗法の念仏者なんどにも語らひをなし、 法華経を末代の機に叶はずと申
12 す者を科とも思し食さずば・ 一期の間・行じさせ給う処の無量の善根も忽にうせ・並に法華経の御功徳も且く隠れ
13 させ給いて、 阿鼻大城に堕ちさせ給はん事・雨の空にとどまらざるが如く・峰の石の谷へころぶが如しと思し食す
14 べし、 十悪・五逆を造れる者なれども法華経に背く事なければ往生成仏は疑なき事に侍り、一切経をたもち諸仏・
15 菩薩を信じたる持戒の人なれども法華経を用る事無ければ悪道に堕つる事疑なしと見えたり。
16   予が愚見をもつて近来の世間を見るに多くは在家・出家・誹謗の者のみあり、但し御不審の事・法華経は何れの
17 品も先に申しつる様に愚かならねども殊に二十八品の中に勝れて・ めでたきは方便品と寿量品にて侍り、 余品は
18 皆枝葉にて候なり、 されば常の御所作には方便品の長行と寿量品の長行とを習い読ませ給い候へ、 又別に書き出
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01 しても・あそばし候べく候、 余の二十六品は身に影の随ひ玉に財の備わるが如し、寿量品・方便品をよみ候へば自
02 然に余品はよみ候はねども備はり候なり、 薬王品・提婆品は女人の成仏往生を説かれて候品にては候へども 提婆
03 品は方便品の枝葉・薬王品は方便品と寿量品の枝葉にて候、 されば常には此の方便品・寿量品の二品をあそばし候
04 て余の品をば時時・御いとまの・ひまに・あそばすべく候。
05   又御消息の状に云く日ごとに三度づつ七つの文字を拝しまいらせ候事と、 南無一乗妙典と一万遍申し候事とを
06 ば日ごとにし候が、 例の事に成つて候程は御経をばよみまいらせ候はず、 拝しまいらせ候事も一乗妙典と申し候
07 事も・そらにし候は苦しかるまじくや候らん、 それも例の事の日数の程は叶うまじくや候らん、 いく日ばかりに
08 て・よみまいらせ候はんずる等と云云、 此の段は一切の女人ごとの御不審に常に問せ給い候御事にて侍り、 又古
09 へも女人の御不審に付いて申したる人も多く候へども 一代聖教にさして説かれたる処のなきかの故に 証文分明に
10 出したる人もおはせず、 日蓮粗聖教を見候にも酒肉・五辛・婬事なんどの様に不浄を分明に月日をさして禁めたる
11 様に月水をいみたる経論を未だ勘へず候なり、 在世の時多く盛んの女人・尼になり仏法を行ぜしかども 月水の時
12 と申して嫌はれたる事なし、 是をもつて推し量り侍るに月水と申す物は外より来れる不浄にもあらず、 只女人の
13 くせかたわ 生死の種を継ぐべき理にや、 又長病の様なる物なり 例せば屎尿なんどは人の身より出れども 能く
14 浄くなしぬれば別にいみもなし是体に侍る事か。
15   されば印度・尸那なんどにも・いたくいむよしも聞えず、但し日本国は神国なり此の国の習として仏・菩薩の垂
16 迹不思議に経論にあひにぬ事も多く侍るに・ 是をそむけば現に当罰あり、 委細に経論を勘へ見るに仏法の中に随
17 方毘尼と申す戒の法門は是に当れり、 此の戒の心はいたう事かけざる事をば少少仏教にたがふとも 其の国の風俗
18 に違うべからざるよし仏一つの戒を説き給へり、 此の由を知ざる智者共神は鬼神なれば 敬ふべからずなんど申す
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01 強義を申して多くの檀那を損ずる事ありと見えて候なり、 若し然らば此の国の明神・ 多分は此の月水をいませ給
02 へり、生を此の国にうけん人人は大に忌み給うべきか、 但し女人の日の所作は苦しかるべからずと覚え候か、 元
03 より法華経を信ぜざる様なる人人が経をいかにしても云いうとめんと思うが・ さすがに・ただちに経を捨てよとは
04 云いえずして、 身の不浄なんどにつけて法華経を遠ざからしめんと思う程に、 又不浄の時・此れを行ずれば経を
05 愚かにしまいらする・なんど・おどして罪を得させ候なり、 此の事をば一切御心得候て月水の御時は七日までも其
06 の気の有らん程は御経をば・ よませ給はずして暗に南無妙法蓮華経と唱えさせ給い候へ、 礼拝をも経にむかはせ
07 給はずして拝せさせ給うべし、 又不慮に臨終なんどの近づき候はんには魚鳥なんどを服せさせ給うても候へ、 よ
08 みぬべくば経をもよみ 及び南無妙法蓮華経とも唱えさせ給い候べし、 又月水なんどは申すに及び候はず又南無一
09 乗妙典と唱えさせ給う事是れ同じ事には侍れども天親菩薩・ 天台大師等の唱えさせ給い候しが如く・只南無妙法蓮
10 華経と唱えさせ給うべきか、是れ子細ありてかくの如くは申し候なり、穴賢穴賢。
11       文永元年甲子四月十七日                 日蓮花押
12     大学三郎殿御内御報
大学三郎殿御書    建治元年七月    五十四歳御作
01   外道には天・人・畜の三善道を明し鬼道の有無之を論じて地獄道は其の沙汰無し、小乗経には六道の因果を明し
02 て四聖の因果以て分明ならず、 倶舎・成実・律の三宗は小乗経に依憑して但六道を明す是なり、三論宗は天台宗已
03 前に天竺より之を渡す 八界を立てて十界を明さず、 法相宗は又天竺の宗なり 天台已後に唐の太宗の世に之を渡
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01 す、 又八界を立つ大乗為りと雖も五性各別を立て無性有情は 永く成仏せずと之を立つ殆んど外道の法に似たり自
02 他宗の歎きなり、 華厳宗・真言宗の両宗は天台已後に之有り、華厳宗は唐の則天皇后の御宇に之を立つ、 真言宗
03 は玄宗の時善無畏三蔵之を渡す 但し天竺に真言宗の名之無し無畏三蔵・ 大日経を以て宗と為すの故に猥りに天竺
04 の宗と称するか、 此の二宗共に十界を立つ但し天台宗已後なり 智者大師の巧智を偸盗して 自身の才能と号する
05 か。
06   仏説の如く之を勘うれば法華経の外華厳経.大集経・般若経・大日経.深密経等の諸経は但小衍相対なり但法華経
07 計りに限つて已今当を以て眷属の修多羅と為す、 然りと雖も天台已前の諸師・ 法華経等の一切の大乗経を小衍相
08 対を以て之を釈す、 王臣の差別無く上下之を混す仏法未だ顕れず愚癡の失之有り、 天台已後に諸宗小衍相対の経
09 経を以て権実相対之を定む、天台の智之を盗めり、日月に背いて灯チュウに向い・丘塚を華恒に比する是なり、 仏
10 は十八界・修羅は十九界.天台は四智・真言は五智・天台は九識十識・真言は十識十一識.而るを天台の学者之に誑惑
11 せられ悉く実義なりと思い、 「法華経は釈尊の所説にて民の万言の如く 大日経は天子の鳳文にて 王の一言の如
12 し」等云云、 善無畏三蔵・事を天竺に寄せ法華経と大日経と理同事勝と立つ是れ一の謬言なり、日蓮は論師・人師
13 の添言を捨てて専ら経文を勘うるに 大日経一部六巻並びに供養法の巻 一巻三十一品之を見聞するに 声聞乗と縁
14 覚乗と大乗の菩薩と仏乗の四乗之を説く、 其の中の大乗の菩薩乗とは 三蔵教の三祇の菩薩乗なり仏乗は実大乗な
15 り法華経に及ばざるの上・華厳・般若にも劣り但だ阿含と方等との二経なり、 大日経の極理は未だ天台の別教・通
16 教の極理にも及ばざるなり。
17   弘法大師・延暦二十三年に入唐し大同二年に帰朝す、三箇年の間・慧果和尚に値いて真言の秘教を学習し帰朝の
18 後十住心二教論之を注して世間に流布す、 釈迦牟尼仏並びに大日経二仏の所説の勝劣之を定む、 第一大日経・第
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01 二華厳経・第三法華経・浅きより深きに至る義なり華厳経・ 法華経に勝るとは南北の二義を取るなり又華厳宗の義
02 なり、南北並びに弘法大師は無量義経・法華経・涅槃経の三経を見ざる愚人なり、 仏既に分明に華厳経と無量義経
03 との勝劣之を説く、 何ぞ聖言を捨てて南北の凡謬に付かんや、 近きを以て遠きを察するに将た又大日経と法華経
04 との勝劣之を知らず、 大日経には四十余年の文之無く・又已今当の言之を削る二乗作仏・久遠実成之無し、 法華
05 経と大日経との勝劣之を論ぜば民と王と・ 石と珠との勝劣高下是なり、 而るに安然和尚粗之を顕す然りと雖も但
06 だ華厳経と法華経との勝劣は之を明むるに似たれども法華・ 大日経の勝劣之に闇うして闇と漆との如くなり、 慈
07 覚大師は本伝教大師に禀くと雖も本を捨て末に付き入唐の間・ 真言家の人人に誑惑せらるるの間・又大日経と法華
08 と理同事勝と云云、賢きに似たれども但だ善無畏の僻見を出でざるのみ。
09   而るに日蓮末代に居し 粗此の義を疑う遠きを尊み近きを賎み死せるを上げ生けるを下す、故に当世の学者等之
10 を用いず、設い堅く三帰.五戒・十善戒・二百五十戒・五百戒・十無尽戒等の諸戒を持てる比丘.比丘尼等も愚癡の失
11 に依つて小乗経を大乗経と謂い権大乗経を実大乗経なりと執する等の謬義出来す、 大妄語・大殺生・大偸盗等の大
12 逆罪の者なり、 愚人は之を知らずして智者と尊む、 設い世間の諸戒之を破る者なりとも堅く大小・権実等の経を
13 弁えば世間の破戒は仏法の持戒なり、 涅槃経に云く「戒に於て緩なる者を名けて緩と為さず 乗に於て緩なる者を
14 乃ち名けて緩と為す」等云云、 法華経に云く「是を持戒と名く」等云云、 重き故に之を留む、事事霊山を期す、
15 恐恐謹言。
16       七月二日                        日蓮花押
17     大学三郎殿
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星名五郎太郎殿御返事    文永四年十二月    四十六歳御作
01   漢の明夜夢みしより迦.竺・二人の聖人・初めて長安のとぼそに臨みしより以来.唐の神武皇帝に至るまで天竺の
02 仏法・震旦に流布し、梁の代に百済国の聖明王より我が朝の人王三十代・欽明の御宇に仏法初めて伝ふ、 其れより
03 已来・一切の経論・諸宗・皆日域にみてり、幸なるかな生を末法に受くるといへども 霊山のきき耳に入り身は辺土
04 に居せりといへども大河の流れ掌に汲めり、但し委く尋ね見れば仏法に於て大小・権実・前後のおもむきあり、 若
05 し此の義に迷いぬれば 邪見に住して仏法を習ふといへども還つて十悪を犯し五逆を作る罪よりも甚しきなり、 爰
06 を以て世を厭ひ道を願はん人先ず此の義を存ずべし、 例せば彼の苦岸比丘等の如し、 故に大経に云く「若し邪見
07 なる事有らんに命終の時・正に阿鼻獄に堕つべし」と云へり。
08   問う何を以てか邪見の失を知らん予不肖の身たりといへども随分・後世を畏れ仏法を求めんと思ふ、 願くは此
09 の義を知らん、 若し邪見に住せば・ひるがへして正見におもむかん、 答う凡眼を以て定むべきにあらず浅智を以
10 て明むべきにあらず、 経文を以て眼とし仏智を以て先とせん、 但恐くは若し此の義を明さば定めていかりをなし
11 憤りを含まん事を、 さもあらばあれ仏勅を重んぜんにはしかず、 其れ世人は皆遠きを貴み近きをいやしむ但愚者
12 の行ひなり、 其れ若し非ならば遠とも破すべし其れ若し理ならば 近とも捨つべからず、人貴むとも非ならば何ぞ
13 今用いん、 伝え聞く彼の南三・北七の十流の学者・威徳ことに勝れて天下に尊重せられし事・既に五百余年まで有
14 りしかども陳隋二代の比・天台大師・是を見て邪義なりと破す、 天下に此の事を聞いて大きに是をにくむ、然りと
15 いへども陳王・隋帝の賢王たるに依て 彼の諸宗に天台を召し決せられ、 邪正をあきらめて前五百年の邪義を改め
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01 皆悉く大師に帰す。
02   又我が朝の叡山の根本大師は南都・北京の碩学と論じて仏法の邪正をただす事・皆経文をさきとせり、今当世の
03 道俗・貴賎皆人をあがめて法を用いず心を師として経によらず、 之に依て或は念仏・権教を以て大乗妙典をなげす
04 て・或は真言の邪義を以て一実の正法を謗ず、 是等の類・豈大乗誹謗のやからに非ずや、若し経文の如くならば争
05 か那落の苦みを受けざらんや、 之に依て其の流をくむ人も・かくの如くなるべし、疑つて云く念仏・真言は是れ或
06 は権・或は邪義・又行者或は邪見或は謗法なりと此の事甚だ以て不審なり、 其の故は弘法大師は是れ金剛薩タの化
07 現・第三地の菩薩なり、 真言は是れ最極甚深の秘密なり、又善導和尚は西土の教主・弥陀如来の化身なり、法然上
08 人は大勢至菩薩の化身なりかくの如きの上人を 豈に邪見の人と云うべきや、 答えて云く此の事本より私の語を以
09 て是を難ずべからず経文を先として 是をただすべきなり、 真言の教は最極の秘密なりと云うは三部経の中に於て
10 蘇悉地経を以て王とすと見えたり、 全く諸の如来の法の中に於て第一なりと云う事を見ず、 凡そ仏法と云うは善
11 悪の人をゑらばず皆仏になすを以て最第一に定むべし、 是れ程の理をば何なる人なりとも知るべきことなり、 若
12 し此の義に依らば経と経とを合せて是をタダすべし、 今法華経には二乗成仏あり真言経には之無しあまつさへ・あ
13 ながちに是をきらへり、 法華経には女人成仏之有り真言経には・すべて是なし、 法華経には悪人の成仏之有り真
14 言経には全くなし、 何を以てか法華経に勝れたりと云うべき、又若し其の瑞相を論ぜば法華には六瑞あり、 所謂
15 雨華地動し白毫相の光り上は有頂を極め 下は阿鼻獄を照せる是なり、 又多宝の塔・大地より出て分身の諸仏十方
16 より来る、しかのみならず上行等の菩薩の六万恒沙・五万・四万・三万乃至・一恒沙・半恒沙等大地よりわきいでし
17 事・此の威儀不思議を論ぜば何を以て真言法華にまされりと云わん、 此等の事委くのぶるにいとまあらず・はづか
18 に大海の一滴を出す。
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01   爰に菩提心論と云う一巻の文あり竜猛菩薩の造と号す、 此の書に云く「唯真言法の中に即身成仏す故に是れ三
02 摩地の法を説く 諸教の中に於て闕いて書るさず」と云えり、 此の語は大に不審なるに依て経文に就てこれを見る
03 に即身成仏の語は有れども即身成仏の人全くなし、 たとひありとも法華経の中に即身成仏あらば 諸教の中にをい
04 てかいて 而もかかずと云うべからず此の事甚だ以て不可なり、 但し此の書は全く竜猛の作にあらず委き旨は別に
05 有るべし、 設ひ竜猛菩薩の造なりともあやまりなり、 故に大論に一代をのぶる肝要として「般若は秘密にあらず
06 二乗作仏なし 法華は是秘密なり二乗作仏あり」と云えり、 又云く「二乗作仏あるは是秘密・二乗作仏なきは是顕
07 教」と云えり、 若し菩提心論の語の如くならば 別しては竜樹の大論にそむき総じては諸仏出世の本意・一大事の
08 因縁をやぶるにあらずや、 今竜樹・天親等は皆釈尊の説教を弘めんが為に世に出ず、付法蔵・二十四人の其の一な
09 り何ぞ此くの如き妄説をなさんや、 彼の真言は是れ般若経にも劣れり何に況や法華に並べんや、 爾るに弘法の秘
10 蔵宝鑰に真言に一代を摂するとして 法華を第三番に下し、 あまつさへ戯論なりと云えり、謹んで法華経を披きた
11 るに諸の如来の所説の中に第一なりと云えり、 又已今当の三説に勝れたりと見えたり、 又薬王の十喩の中に法華
12 を大海にたとへ・日輪にたとへ・須弥山にたとへたり 、若し此の義に依らば深き事何ぞ海にすぎん・明かなる事何
13 ぞ日輪に勝れん・高き事何ぞ須弥山に越ゆる事有らん、 喩を以て知んぬべし 何を以てか法華に勝れたりと云はん
14 や、大日経等に全く此の義なし 但己が見に任せて永く仏意に背く、 妙楽大師曰く「請う眼有らん者は委悉に之を
15 尋ねよ」と云へり、 法華経を指て華厳に劣れりと云うは 豈眼ぬけたるものにあらずや、又大経に云く「若し仏の
16 正法を誹謗する者あらん正に其の舌を断べし」と、 嗚呼・誹謗の舌は世世に於て物云うことなく 邪見の眼は生生
17 に・ぬけて見ること無らん加之らず「若し人信ぜずして 此の経を毀謗せば・乃至其の人命終えて阿鼻獄に入らん」
18 の文の如くならば 定めて無間大城に堕ちて無量億劫のくるしみを受けん、 善導・法然も是に例して知んぬべし、
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01 誰か智慧有らん人・此の謗法の流を汲んで 共に阿鼻の焔に・やかれん、 行者能く畏るべし此れは是れ大邪見の輩
02 なり、 所以に如来誠諦の金言を按ずるに云く「我が正法をやぶらん事は譬えば猟師の身に袈裟をかけたるが如し、
03 或は須陀オン・斯那含・阿那含・阿羅漢・辟支仏及び仏の色身を現じて我が正法を壊らん」といへり。
04   今此の善導・法然等は種種の威を現じて愚癡の道俗をたぶらかし如来の正法を滅す、 就中彼の真言等の流れ偏
05 に現在を以て旨とす、 所謂畜類を本尊として男女の愛法を祈り荘園等の望をいのる、 是くの如き少分のしるしを
06 以て奇特とす、 若し是を以て勝れたりといはば彼の月氏の外道等にはすぎじ、 彼の阿竭多仙人は十二年の間・恒
07 河の水を耳にただへたりき、 又耆菟仙人の四大海を一日の中にすひほし、 ク留外道は八百年の間・石となる豈是
08 に・すぎたらんや、 又瞿曇仙人が十二年の程・釈身と成り説法せし、弘法が刹那の程にびるさなの身と成りし、其
09 の威徳を論ぜば如何、 若し彼の変化のしるしを信ぜば即ち外道を信ずべし・当に知るべし彼れ威徳ありといへども
10 猶阿鼻の炎をまぬがれず、 況や・はづかの変化にをいてをや 況や大乗誹謗にをいてをや、 是一切衆生の悪知識
11 なり近付くべからず畏る可し畏る可し、 仏の曰く「悪象等に於ては畏るる心なかれ悪知識に於ては 畏るる心をな
12 せ、 何を以ての故に悪象は但身をやぶり意をやぶらず・悪知識は二共にやぶる故に、 此の悪象等は但一身をやぶ
13 る悪知識は無量の身・無量の意をやぶる、 悪象等は但不浄の臭き身をやぶる・悪知識は浄身及び浄心をやぶる、悪
14 象は但肉身をやぶる悪知識は法身をやぶる、 悪象の為に・ころされては三悪に至らず・悪知識の為に殺されたるは
15 必ず三悪に至る、 此の悪象は但身の為のあだなり、 悪知識は善法の為にあだなり」と、故に畏る可きは大毒蛇・
16 悪鬼神よりも弘法・善導・法然等の流の悪知識を畏るべし、略して邪見の失を明すこと畢んぬ。
17   此の使あまりに急ぎ候ほどに・とりあへぬさまに・かたはし・ばかりを申し候、此の後又便宜に委く経釈を見調
18 べてかくべく候、 穴賢・穴賢、外見あるべからず候若命つれなく候はば仰せの如く明年の秋・下り候て且つ申すべ
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01 く候、恐恐。
02       十二月五日                     日 蓮 花 押
03     星名五郎太郎殿御返事
大豆御書    文永七年十月    四十九歳御作
01   大豆一石かしこまつて拝領し畢んぬ法華経の御宝前に申し上候、 一渧の水を大海になげぬれば三災にも失せず
02 一華を五浄によせぬれば劫火にもしぼまず、一豆を法華経になげぬれば法界みな蓮なり、恐惶謹言。
03       十月二十三日                    日 蓮 花 押
04     御所御返事
寿量品得意抄    文永八年四月    五十歳御作
01   教主釈尊寿量品を説き給うに・爾前迹門のききをあげて云く「一切世間の天人及び阿修羅は皆今の釈迦牟尼仏は
02 釈氏の宮を出でて伽耶城を去ること遠からず 道場に坐して阿耨多羅三藐三菩提を得たりと謂えり」云云、 此の文
03 の意は初め華厳経より終り法華経・安楽行品に至るまで 一切の仏の御弟子・大菩薩等の知る処の思いの心中をあげ
04 たり、 爾前の経に二つの失あり、 一には「行布を存する故に仍未だ権を開せず」と申して迹門方便品の十如是の
05 一念三千・開権顕実・二乗作仏の法門を説かざる過なり、 二には「始成を言う故に尚未だ迹を発わず」と申して久
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01 遠実成の寿量品を説かざる過なり、 此の二つの大法は一代聖教の綱骨・一切経の心髄なり、 迹門には二乗作仏を
02 説いて四十余年の二つの失・一つを脱したり、 然りと雖も未だ寿量品を説かざれば 実の一念三千もあらはれず二
03 乗作仏も定まらず、 水にやどる月の如く根無し草の浪の上に浮べるに異ならず、 又云く「然るに善男子我実に成
04 仏してより已来無量無辺百千万億那由佗劫」等云云、 此の文の心は華厳経の始成正覚と申して 始て仏になると説
05 き給ふ阿含経の初成道・浄名経の始坐仏樹・大集経の始十六年・大日経の我昔坐道場・仁王経の二十九年、無量義経
06 の我先道場・法華経方便品の我始坐道場等を一言に大虚妄なりと打破る文なり、 本門寿量品に至つて始成正覚やぶ
07 るれば四教の果やぶれ 四教の果やぶれぬれば四教の因やぶれぬ、 因とは修行弟子の位なり、 爾前迹門の因果を
08 打破つて本門の十界因果をときあらはす 是れ則ち本因本果の法門なり、 九界も無始の仏界に具し仏界も無始の九
09 界にそなへて実の十界互具・百界千如・一念三千なるべし、かうして・かへてみるときは華厳経の台上盧舎那・阿含
10 経の丈六の小釈迦・方等・般若・金光明経・阿弥陀経・大日経等の権仏等は此の寿量品の仏の天月のしばらくかげを
11 大小の・うつはものに浮べ給うを、 諸宗の智者学匠等は近くは自宗にまどひ遠くは法華経の寿量品を知らず 水中
12 の月に実月のおもひをなして或は入つて取らんとおもひ・或は繩をつけて・つなぎとどめんとす、 此れを天台大師
13 釈して云く「天月を識らずして但池月を観ず」と、 心は爾前・迹門に執着する者はそらの月をしらずして 但池の
14 月を.のぞみ見るが如くなりと釈せられたり、又僧祇律の文に五百のマシラ.山より出でて水にやどれる月をみて入つ
15 てとらんとしけるが.実には無き水月なれば月とられずして水に落ち入つてマシラは死にけり,マシラとは今の提婆達
16 多・六群比丘等なりとあかし給へり。
17   一切経の中に 此の寿量品ましまさずは天に日月無く国に大王なく山海に玉なく人にたまし ゐ無からんがごと
18 し、されば寿量品なくしては 一切経いたづらごとなるべし、 根無き草はひさしからず・みなもとなき河は遠から
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01 ず親無き子は人に・いやしまる、 所詮寿量品の肝心南無妙法蓮華経こそ十方三世の諸仏の母にて御坐し候へ、 恐
02 恐謹言。
03       四月十七日                     日 蓮 花 押
五人土篭御書 文永八年十月  五十歳御作  於相模依智作 与日朗・日心・坂部入道・伊沢入道・得業寺
01   五人御中参                                  日 蓮
02   せんあくてご房をばつけさせ給へ、又しらうめが一人あらんするがふびんに候へば申す。
03   今月七日さどの国へまかるなり、各各は法華経一部づつ・あそばして候へば我が身並びに父母・兄弟・存亡等に
04 回向しましまし候らん、 今夜のかんずるにつけて・いよいよ我が身より心くるしさ申すばかりなし、 ろうをいで
05 させ給いなば明年のはるかならずきたり給えみみへ・まいらすべし、 せうどのの但一人あるやつを・つけよかしと
06 をもう心・心なしとをもう人一人もなければしぬまで各各御はぢなり。
07   又大進阿闍梨はこれにさたすべき事かたがたあり、又をのをのの御身の上をも・みはてさせんが・れうにとどめ
08 をくなり、くはしくは申し候わんずらん、恐恐謹言。
09       十月三日                                 日蓮花押
10     五人御中
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土篭御書    文永八年十月    五十歳御作   与日朗    於相模依智
01   日蓮は明日・佐渡の国へまかるなり、今夜のさむきに付けても・ろうのうちのありさま思いやられて・いたはし
02 くこそ候へ、 あはれ殿は法華経一部を色心二法共にあそばしたる御身なれば・父母・六親・一切衆生をも・たすけ
03 給うべき御身なり、 法華経を余人のよみ候は口ばかり・ことばばかりは・よめども心はよまず・心はよめども身に
04 よまず、色心二法共にあそばされたるこそ貴く候へ、 天諸童子・以為給使・刀杖不加毒不能害と説かれて候へば別
05 の事はあるべからず、 篭をばし出でさせ給い候はば・とくとく・きたり給へ、 見たてまつり見えたてまつらん、
06 恐恐謹言。
07       文永八年辛未十月九日                  日蓮花押
08     筑後殿
日妙聖人御書    文永九年五月    五十一歳御作
01   過去に楽法梵志と申す者ありき、十二年の間・多くの国をめぐりて如来の教法を求む、 時に総て仏法僧の三宝
02 一つもなし、 此の梵志の意は渇して水をもとめ飢えて食をもとむるがごとく 仏法を尋ね給いき、時に婆羅門あり
03 求めて云く我れ聖教を一偈持てり若し実に仏法を願はば当にあたふべし、 梵志答えて云くしかなり、 婆羅門の云
04 く実に志あらば皮をはいで紙とし・骨をくだいて筆とし・髄をくだいて墨とし・血をいだして水として 書かんと云
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01 はば仏の偈を説かん、 時に此の梵志悦びをなして彼が申すごとくして 皮をはいでほして紙とし乃至一言をもたが
02 へず、時に婆羅門・忽然として失ぬ、此の梵志・天にあふぎ・地にふす、仏陀此れを感じて下方より湧出て・説て云
03 く「如法は応に修行すべし 非法は行ずべからず今世若しは後世・法を行ずる者は安穏なり」等云云、此の梵志・須
04 臾に仏になる・此れは二十字なり、 昔釈迦菩薩・転輪王たりし時き「夫生輙死此滅為楽」の八字を尊び給う故に身
05 をかへて千燈にともして此の八字を供養し給い人をすすめて 石壁・要路に・かきつけて見る人をして菩提心をおこ
06 さしむ、此の光明・トウ利天に至る天の帝釈並びに諸天の燈となり給いき。
07   昔釈迦菩薩・仏法を求め給いき、 癩人あり此の人にむかつて我れ正法を持てり其の字二十なり我が癩病をさす
08 りいだきねぶり日に両三斤の肉をあたへば説くべしと云う、 彼が申すごとくして二十字を得て仏になり給う、 所
09 謂「如来は涅槃を証し永く生死を断じ給う、若し至心に聴くこと有らば当に無量の楽を得べし」等云云。
10   昔雪山童子と申す人ありき、 雪山と申す山にして外道の法を通達せしかども・いまだ仏法をきかず、時に大鬼
11 神ありき説いて云く「諸行無常是生滅法」等云云、 只八字計りを説いて後をとかず時に雪山童子・此の八字を得て
12 悦きはまりなけれども半なる如意珠を得たるがごとく華さき菓ならざるに・にたり、 残の八字を・きかんと申す、
13 時に大鬼神の云く 我れ数日が間・飢えて正念乱るゆへに後の八字を・ときがたし食をあたへよと云う、 童子問う
14 て云く何をか食とする、 鬼答えて云く我は人のあたたかなる血肉なり、 我れ飛行自在にして須臾の間に四天下を
15 回つて尋ぬれどもあたたかなる血肉得がたし、 人をば天守り給う故に失なければ殺害する事かたし等云云、 童子
16 の云く我が身を布施として彼の八字を習い伝えんと云云、 鬼神の云く智慧甚だ賢し我をや・すかさんずらん、 童
17 子答えて云く 瓦礫に金銀をかへんに是をかえざるべしや 我れ徒に此の山にして・死しなば鴟梟虎狼に食はれて一
18 分の功徳なかるべし、 後の八字にかえなば糞を飯にかふるがごとし、 鬼の云く我いまだ信ぜず、童子の云く証人
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01 あり過去の仏も・たて給いし大梵天王・釈提桓因・日月・四天も証人にたち給うべし、此の鬼神後の偈をとかんと申
02 す、 童子身にきたる鹿の皮を・ぬいで座にしき踞跪合掌して此の座につき給へと請す、大鬼神・此の座について説
03 て云く「生滅滅已・寂滅為楽」等云云、 此の偈を習ひ学して若しは木・若しは石等に書き付けて身を大鬼神の口に
04 なげいれ給う、彼の童子は今の釈尊・彼の鬼神は今の帝釈なり。
05   薬王菩薩は・法華経の御前に臂を七万二千歳が間ともし給い、不軽菩薩は多年が間・二十四字の故に無量無辺の
06 四衆に罵詈・毀辱・杖木・瓦石・而打擲之せられ給いき、所謂二十四字と申すは「我深く汝等を敬う敢て軽慢せず所
07 以は何ん汝等皆菩薩の道を行じて当に作仏することを得べし」等云云、 かの不軽菩薩は今の教主釈尊なり、 昔の
08 須頭檀王は 妙法蓮華経の五字の為に千歳が間・ 阿私仙人にせめつかはれ身を床となさせて給いて今の釈尊となり
09 給う。
10   然るに妙法蓮華経は八巻なり・八巻を読めば十六巻を読むなるべし、釈迦・多宝の二仏の経なる故へ、十六巻は
11 無量無辺の巻軸なり、 十方の諸仏の証明ある故に一字は二字なり釈迦・多宝の二仏の字なる故へ・一字は無量の字
12 なり十方の諸仏の証明の御経なる故に、 譬えば如意宝珠の玉は一珠なれども 二珠乃至無量珠の財をふらすこと・
13 これをなじ、 法華経の文字は一字は一の宝・無量の字は無量の宝珠なり、妙の一字には二つの舌まします釈迦・多
14 宝の御舌なり、此の二仏の御舌は八葉の蓮華なり、此の重なる蓮華の上に宝珠あり妙の一字なり。
15   此妙の珠は昔釈迦如来の檀波羅蜜と申して身をうえたる虎にかひし功徳・鳩にかひし功徳、尸羅波羅蜜と申して
16 須陀摩王として・そらことせざりし 功徳等、忍辱仙人として・歌梨王に身をまかせし功徳、能施太子・尚闍梨仙人
17 等の六度の功徳を妙の一字にをさめ給いて 末代悪世の我等衆生に一善も修せざれども 六度万行を満足する功徳を
18 あたへ給う、今此三界・皆是我有・其中衆生・悉是吾子これなり、 我等具縛の凡夫忽に教主釈尊と功徳ひとし彼の
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01 功徳を全体うけとる故なり、 経に云く「如我等無異」等云云、法華経を心得る者は釈尊と斉等なりと申す文なり、
02 譬えば父母和合して子をうむ 子の身は全体父母の身なり誰か是を諍うべき、 牛王の子は牛王なりいまだ師子王と
03 ならず、師子王の子は師子王となる・いまだ人王・天王等とならず、 今法華経の行者は其中衆生悉是吾子と申して
04 教主釈尊の御子なり、 教主釈尊のごとく法王とならん事・難かるべからず、 但し不孝の者は父母の跡をつがず尭
05 王には丹朱と云う太子あり 舜王には商均と申す王子あり、 二人共に不孝の者なれば父の王にすてられて現身に民
06 となる、 重華と禹とは共に民の子なり・孝養の心ふかかりしかば尭舜の二王・召して位をゆづり給いき、民の身・
07 忽ち玉体にならせ給いき、 民の現身に王となると凡夫の忽に仏となると同じ事なるべし、 一念三千の肝心と申す
08 はこれなり、なをいかにとしてか此功徳をばうべきぞ、 楽法梵志・雪山童子等のごとく皮をはぐべきか・身をなぐ
09 べきか臂をやくべきか等云云、 章安大師云く「取捨宜しきを得て一向にすべからず」等これなり、 正法を修して
10 仏になる行は時によるべし、  日本国に紙なくば皮をはぐべし、日本国に法華経なくて知れる鬼神一人出来せば身
11 をなぐべし、日本国に油なくば臂をも・ともすべし、あつき紙・国に充満せり皮を・はいで・なにかせん、然るに玄
12 奘は西天に法を求めて十七年・十万里にいたれり、伝教御入唐但二年なり波涛三千里をへだてたり。
13   此等は男子なり.上古なり・賢人なり・聖人なり.いまだきかず女人の仏法をもとめて千里の路をわけし事を、竜
14 女が即身成仏も摩訶波闍波提比丘尼の記ベツにあづかりしも、しらず権化にや・ありけん、又在世の事なり、男子・
15 女人其の性本より別れたり・火はあたたかに・水はつめたし海人は魚をとるに・たくみなり・山人は鹿をとるに・か
16 しこし、女人は物をそねむに・かしこしとこそ経文には・あかされて候へ、 いまだきかず仏法に・かしこしとは、
17 女人の心を清風に譬えたり 風はつなぐとも・とりがたきは女人の心なり、 女人の心をば水にゑがくに譬えたり、
18 水面には文字とどまらざるゆへなり、 女人をば誑人にたとへたり、 或時は実なり或時は虚なり、女人をば河に譬
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01 えたり.一切まがられる.ゆへなり、而るに法華経は.正直捨方便等・皆是真実等.質直意柔ナン等・柔和質直者等と申
02 して正直なる事・弓の絃のはれるがごとく・墨のなはを・うつがごとくなる者の信じまいらする御経なり、 糞を栴
03 檀と申すとも栴檀の香なし、 妄語の者を不妄語と申すとも不妄語にはあらず、 一切経は皆仏の金口の説・不妄語
04 の御言なり、然れども法華経に対し・まいらすれば妄語のごとし・綺語のごとし・悪口のごとし・両舌のごとし、此
05 の御経こそ実語の中の実語にて候へ、 実語の御経をば・正直の者心得候なり、今実語の女人にて・おはすか、当に
06 知るべし須弥山をいただきて大海をわたる人をば見るとも 此の女人をば見るべからず、 砂をむして飯となす人を
07 ば見るとも此の女人をば見るべからず、当に知るべし釈迦仏・多宝仏・十方分身の諸仏・上行・無辺行等の大菩薩・
08 大梵天王・帝釈・四王等・此女人をば影の身に・そうがごとく・まほり給うらん、日本第一の法華経の行者の女人な
09 り、故に名を一つつけたてまつりて不軽菩薩の義になぞらへん・日妙聖人等云云。
10   相州鎌倉より北国佐渡の国.其の中間・一千余里に及べり、山海はるかに.へだて山は峨峨.海は涛涛・風雨.時に
11 したがふ事なし、山賊.海賊・充満せり、宿宿とまり・とまり・民の心・虎のごとし.犬のごとし、現身に三悪道の苦
12 をふるか、其の上当世は世乱れ去年より謀叛の者・国に充満し今年二月十一日合戦、 其れより今五月のすゑ・いま
13 だ世間安穏ならず、而れども一の幼子あり・あづくべき父も・たのもしからず・離別すでに久し。
14   かた・がた筆も及ばず心弁へがたければとどめ畢んぬ。
15      文永九年太歳壬申五月二十五日               日蓮花押
16     日妙聖人
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乙御前御消息    建治元年八月    五十四歳御作
01   漢土にいまだ仏法のわたり候はざりし時は三皇.五帝.三王.乃至大公望.周公旦・老子.孔子.つくらせ給いて候い
02 し文を或は経となづけ或は典等となづく、 此の文を披いて人に礼儀をおしへ・父母をしらしめ・王臣を定めて世を
03 おさめしかば人もしたがひ天も納受をたれ給ふ、 此れに・たがいし子をば不孝の者と申し 臣をば逆臣の者とて失
04 にあてられし程に、 月氏より仏経わたりし時・或一類は用ふべからずと申し或一類は用うべしと申せし程に・あら
05 そひ出来て召し合せたりしかば外典の者・負けて仏弟子勝ちにき、 其の後は外典の者と仏弟子を合せしかば・冰の
06 日に・とくるが如く・火の水に滅するが如く・まくるのみならず・なにともなき者となりしなり、又仏経漸くわたり
07 来りし程に仏経の中に又勝劣.浅深候いけり、所謂小乗経・大乗経・顕経・密経・権経.実経なり、譬えば一切の石は
08 金に対すれば一切の金に劣れども・又金の中にも重重あり、 一切の人間の金は閻浮檀金には及び候はず、 閻浮檀
09 金は梵天の金には及ばざるがごとく・ 一切経は金の如くなれども又勝劣・浅深あるなり、小乗経と申す経は世間の
10 小船のごとく・わづかに人の二人・三人等は乗すれども百千人は乗せず、 設ひ二人・三人等は乗すれども此岸につ
11 けて彼岸へは行きがたし、 又すこしの物をば入るれども 大なる物をば入れがたし、 大乗と申すは大船なり人も
12 十・二十人も乗る上・大なる物をも・つみ・鎌倉より・つくしみちの国へもいたる。
13   実経と申すは又彼の大船の大乗経には・にるべくもなし、大なる珍宝をも・つみ百千人のりて・かうらいなんど
14 へも・わたりぬべし、 一乗法華経と申す経も又是くの如し、 提婆達多と申すは閻浮第一の大悪人なれども法華経
15 にして天王如来となりぬ、 又阿闍世王と申せしは父をころせし悪王なれども 法華経の座に列りて一偈一句の結縁
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01 衆となりぬ、 竜女と申せし蛇体の女人は法華経を文珠師利菩薩説き給ひしかば仏になりぬ、 其の上仏説には悪世
02 末法と時をささせ給いて末代の男女に・をくらせ給いぬ、 此れこそ唐船の如くにて候・一乗経にてはおはしませ、
03 されば一切経は外典に対すれば石と金との如し、又一切の大乗経・所謂華厳経・大日経・観経・阿弥陀経・般若経等
04 の諸の経経を法華経に対すれば 螢火と日月と華山と蟻塚との如し、 経に勝劣あるのみならず大日経の一切の真言
05 師と法華経の行者とを合すれば 水に火をあはせ露と風とを合するが如し、 犬は師子をほうれば腸くさる・修羅は
06 日輪を射奉れば頭七分に破る、 一切の真言師は犬と修羅との如く・法華経の行者は日輪と師子との如し、 冰は日
07 輪の出でざる時は堅き事金の如し、 火は水のなき時はあつき事・ 鉄をやけるが如し、 然れども夏の日にあひぬ
08 れば堅冰のとけやすさ.あつき火の水にあひて・きへやすさ、一切の真言師は気色のたうとげさ.智慧のかしこげさ・
09 日輪をみざる者の堅き冰をたのみ・水をみざる者の火をたのめるが如し。
10   当世の人人の蒙古国をみざりし時のおごりは御覧ありしやうに・かぎりもなかりしぞかし、去年の十月よりは・
11 一人も・おごる者なし、きこしめしし・やうに日蓮一人計りこそ申せしが・よせてだに・きたる程ならば面をあはす
12 る人も・あるべからず、 但さるの犬ををそれ・かゑるの蛇を・をそるるが如くなるべし、是れ偏に釈伽仏の御使い
13 たる法華経の行者を.一切の真言師・念仏者・律僧等に・にくませて我と損じ、ことさらに天のにくまれを.かほれる
14 国なる故に皆人・臆病になれるなり、譬えば火が水をおそれ・木が金をおぢ・雉が鷹をみて魂を失ひ・ねずみがネコ
15 に・せめらるるが如し、一人も・たすかる者あるべからず、其の時は・いかがせさせ給うべき、軍には大将軍を魂と
16 す大将軍をくしぬれば歩兵臆病なり。
17   女人は夫を魂とす・夫なければ女人魂なし、此の世に夫ある女人すら世の中渡りがたふみえて候に、魂もなくし
18 て世を渡らせ給うが・魂ある女人にもすぐれて 心中かひがひしくおはする上・神にも心を入れ仏をもあがめさせ給
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01 へば人に勝れておはする女人なり、 鎌倉に候いし時は念仏者等はさてをき候いぬ、 法華経を信ずる人人は志ある
02 も・なきも知られ候はざりしかども・御勘気を・かほりて佐渡の島まで流されしかば問い訪う人もなかりしに・女人
03 の御身として・かたがた御志ありし上・我と来り給いし事うつつならざる不思議なり、 其の上いまのまうで又申す
04 ばかりなし、定めて神も・まほらせ給ひ十羅刹も御あはれみましますらん、 法華経は女人の御ためには暗きに・と
05 もしび・海に船・おそろしき所には・まほりと・なるべきよし・ちかはせ給へり、羅什三蔵は法華経を渡し給いしか
06 ば毘沙門天王は無量の兵士をして 葱嶺を送りしなり、 道昭法師・野中にして法華経をよみしかば無量の虎来りて
07 守護しき、此れも又彼には・かはるべからず、地には三十六祇・天には二十八宿まほらせ給う上・人には必ず二つの
08 天・影の如くにそひて候、 所謂一をば同生天と云い二をば同名天と申す左右の肩にそひて人を守護すれば、 失な
09 き者をば天もあやまつ事なし・況や善人におひてをや、 されば妙楽大師のたまはく「必ず心の固きに仮りて神の守
10 り則ち強し」等云云、 人の心かたければ神のまほり必ずつよしとこそ候へ、 是は御ために申すぞ古への御心ざし
11 申す計りなし・其よりも今一重強盛に御志あるべし、 其の時は弥弥十羅刹女の御まほりも・つよかるべしと・おぼ
12 すべし、例には他を引くべからず、 日蓮をば日本国の上一人より下万民に至るまで 一人もなくあやまたんと・せ
13 しかども・今までかうて候事は一人なれども 心のつよき故なるべしと・おぼすべし、 一つ船に乗りぬれば船頭の
14 はかり事わるければ一同に船中の諸人損じ・又身つよき人も心かひなければ 多くの能も無用なり、日本国には・か
15 しこき人人はあるらめども大将のはかり事つたなければ・かひなし、 壹岐・対馬・九ケ国のつはもの並に男女多く
16 或はころされ或はとらはれ或は海に入り 或はがけよりおちしもの・いくせんまんと云う事なし、 又今度よせなば
17 先には・にるべくも・あるべからず、京と鎌倉とは但壹岐・対馬の如くなるべし、前にしたくして・いづくへも・に
18 げさせ給へ、 其の時は昔し日蓮を見じ聞かじと申せし人人も 掌をあはせ法華経を信ずべし、念仏者・禅宗までも
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01 南無妙法蓮華経と申すべし、 抑法華経をよくよく信じたらん男女をば 肩に・になひ背に・おうべきよし経文に見
02 えて候上・くまらゑん三蔵と申せし人をば 木像の釈迦をわせ給いて候いしぞかし、 日蓮が頭には大覚世尊かはら
03 せ給いぬ昔と今と一同なり、各各は日蓮が檀那なり争か仏にならせ給はざるべき。
04   いかなる男をせさせ給うとも 法華経のかたきならば随ひ給うべからず、いよいよ強盛の御志あるべし、冰は水
05 より出でたれども水よりもすさまじ、 青き事は藍より出でたれども・かさぬれば藍よりも色まさる、 同じ法華経
06 にては・をはすれども志をかさぬれば・他人よりも色まさり利生もあるべきなり、 木は火にやかるれども栴檀の木
07 は、やけず、火は水にけさるれども仏の涅槃の火はきえず、 華は風にちれども浄居の華は・しぼまず・水は大旱魃
08 に失れども黄河に入りぬれば失せず、 檀弥羅王と申せし悪王は月氏の僧の頚を切りしに・とがなかりしかども・師
09 子尊者の頚を切りし時・刀と手と共に一時に落ちにき、 弗沙密多羅王は鶏頭摩寺を焼し時・十二神の棒にかふべわ
10 られにき、今日本国の人人は法華経の・かたきと・なりて身を亡ぼし国を亡ぼしぬるなり、 かう申せば日蓮が自讚
11 なりと心えぬ人は申すなり、 さには・あらず是を云わずば法華経の行者にはあらず、 又云う事の後にあへばこそ
12 人も信ずれ、 かうただ・かきをきなばこそ未来の人は智ありけりとは・しり候はんずれ、又身軽法重・死身弘法と
13 のべて候ば身は軽ければ人は打ちはり 悪むとも法は重ければ必ず弘まるべし、 法華経弘まるならば死かばね還つ
14 て重くなるべし、 かばね重くなるならば此のかばねは利生あるべし、 利生あるならば今の八幡大菩薩と・いはは
15 るるやうに・いはうべし、 其の時は日蓮を供養せる男女は武内・若宮なんどのやうにあがめらるべしと・おぼしめ
16 せ、 抑一人の盲目をあけて候はん功徳すら申すばかりなし、 況や 日本国の一切衆生の眼をあけて候はん功徳を
17 や、何に況や一閻浮提・四天下の人の眼のしゐたるを・あけて候はんをや、 法華経の第四に云く「仏滅度の後に能
18 く其の義を解せんは 是諸の天人世間之眼なり」等云云、 法華経を持つ人は一切世間の 天人の眼なりと説かれて
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01 候、日本国の人の日蓮をあだみ候は 一切世間の天人の眼をくじる人なり、 されば天もいかり日日に天変あり地も
02 いかり月月に地夭かさなる、 天の帝釈は野干を敬いて法を習いしかば 今の教主釈尊となり給い・雪山童子は鬼を
03 師とせしかば今の三界の主となる、 大聖・上人は形を賎みて法を捨てざりけり、 今日蓮おろかなりとも野干と鬼
04 とに劣るべからず、 当世の人いみじくとも帝釈・雪山童子に勝るべからず、 日蓮が身の賎きについて巧言を捨て
05 て候故に国既に亡びんとする・かなしさよ、 又日蓮を不便と申しぬる弟子どもをも・たすけがたからん事こそ・な
06 げかしくは覚え候へ。
07   いかなる事も出来候はば 是へ御わたりあるべし見奉らん・山中にて共にうえ死にし候はん、又乙御前こそおと
08 なしくなりて候らめ、いかにさかしく候らん、又又申すべし。
09       八月四日                        日蓮花押
10     押乙御前へ
乙御前母御書
01   をとごぜんのはは
02   いまは法華経をしらせ給いて 仏にならせ給うべき女人なり、 かへすがへすふみものぐさき者なれども・たび
03 たび申す、又御房たちをも・ふびんにあたらせ給うとうけ給わる・申すばかりなし。
04   なによりも女房のみとして・これまで来りて候いし事・これまで・ながされ候いける事は・さる事にて御心ざし
05 の.あらわるべきにや・ありけんと・ありがたくのみをぼへ候、釈迦如来の御弟子あまた・をわしし.なかに十大弟子
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01 とて十人ましまししが・なかに目揵連尊者と申せし人は神通第一にてをはしき、 四天下と申して日月のめぐり給う
02 ところをかみすぢ一すぢきらざるにめぐり給いき、 これは・いかなるゆへぞと・ たづぬれば・せんしやうに千里
03 ありしところを・ かよいて仏法を聴聞せしゆへなり、 又天台大師の御弟子に章安と申せし人は万里をわけて法華
04 経をきかせ給へり、 伝教大師は二千里をすぎて止観をならい・ 玄奘三蔵は二十万里をゆきて般若経を得給へり、
05 道のとをきに心ざしのあらわるるにや・ かれは皆男子なり権化の人のしわざなり、 今御身は女人なりごんじちは
06 しりがたし・いかなる宿善にてやをはすらん、 昔女人すいをとをしのびてこそ或は千里をもたづね・石となり・木
07 となり・鳥となり・蛇となれる事もあり。
08       十一月三日                      日蓮在御判
09     をとごぜんのはは
10   をとごぜんが・いかに尼となり候いつらん、法華経にみやづかわせ候ほうこうをば・をとごぜんの尼は・のちさ
11 いわいになり候に○○○。
弁殿御消息    文永九年七月    五十一歳御作
01   不審有らば諍論無く書き付けて一日進らしむべし。
02   此の書は随分の秘書なり、已前の学文の時も・いまだ存ぜられざる事・粗之を載す、他人の御聴聞なからん已前
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01 に御存知有るべし、総じては・これよりぐして・いたらん人にはよりて 法門御聴聞有るべし互に師弟と為らんか、
02 恐恐謹言。
03       七月二十六日                      日蓮花押
04     辧殿・大進阿闍梨御房・三位殿
辧殿尼御前御書    文永十年九月    五十二歳御作   与日昭母妙一
01    しげければとどむ、辧殿に申す大師講を・をこなうべし・大師とてまいらせて候、三郎左衛門尉殿に候、御文
02    のなかに涅槃経の後分二巻・文句五の本末・授決集の抄の上巻等・御随身あるべし。
03   貞当は十二年にやぶれぬ.将門は八年にかたふきぬ、第六天の魔王・十軍のいくさを・をこして.法華経の行者と
04 生死海の海中にして同居穢土を・とられじ・うばはんと・あらそう、日蓮其の身にあひあたりて大兵を・をこして二
05 十余年なり、日蓮一度もしりぞく心なし、 しかりと・いえども弟子等・檀那等の中に臆病のもの大体或はをち或は
06 退転の心あり、 尼ごぜんの一文不通の小心に・いままで・しりぞかせ給わぬ事申すばかりなし、其の上自身のつか
07 うべきところに下人を一人つけられて候事定めて釈迦・多宝・十方分身の諸仏も御知見あるか、恐恐謹言。
08        九月十九日                                日蓮花押
09     辧殿尼御前に申させ給へ
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辧殿御消息    建治二年七月    五十五歳御作   与日昭
01   たきわうをば・いゑふくべきよし候けるとて・まかるべきよし申し候へば・つかわし候、ゑもんのたいうどのの
02 かへせにの事は大進の阿闍梨のふみに候らん。
03   一 十郎入道殿の御けさ悦び入つて候よし・かたらせ給え。
04   一 さぶらうざゑもんどのの・このほど人をつかわして候しが、 をほせ給いし事あまりに・かへすがへすをぼつ
05 かなく候よし、わざと御わたりありて・きこしめして・かきつかはし候べし、 又さゑもんどのにもかくと候へ、か
06 わのべどの等の四人の事はるかに・うけ給はり候はず・おぼつかなし、かの辺に・なに事か候らん一一に・かきつか
07 はせ、 度度この人人の事はことに一大事と天をせめまいらせ候なり、 さだめて後生はさてをきぬ・今生にしるし
08 あるべく候と存ずべきよし・したたかに・かたらせ給へ、 伊東の八郎ざゑもん今はしなののかみは・げんに、しに
09 たりしを・いのりいけて念仏者等になるまじきよし 明性房にをくりたりしが・かへりて念仏者・真言師になりて無
10 間地獄に堕ぬ、のと房はげんに身かたで候しが・世間のをそろしさと申し・よくと申し・日蓮をすつるのみならず・
11 かたきとなり候ぬ、せう房もかくの如し。
12   おのおのは随分の日蓮が・かたうどなり、しかるを.なづきをくだきて.いのるに・いままで.しるしのなきは.こ
13 の中に心の・ひるがへる人の有ると・をぼへ候ぞ、をもいあわぬ人を・いのるは水の上に火をたき空にいゑを・つく
14 るなり、此の由を四人にかたらせ給うべし、 むこり国の事の・あうをもつて・おぼしめせ、日蓮が失にはあらず、
15 ちくご房.三位・そつ等をば・いとまあらば・いそぎ来るべし・大事の法門申すべし.とかたらせ給え、十住毘婆沙等
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01 の要文を大帖にて候と.真言の表の・せうそくの裏にさど房のかきて候と.そうじて・せせと・かきつけて候ものの.
02 かろき・とりてたび候へ、紙なくして一紙に多く要事を申すなり。
03       七月二十一日                      日蓮花押
04     辧殿
弥源太殿御返事
01   抑日蓮は日本第一の僻人なり、其の故は皆人の父母よりも・たかく主君よりも大事に・おもはれ候ところの阿弥
02 陀仏.大日如来・薬師等を御信用ある故に、三災・七難・先代にこえ天変・地夭等・昔にも.すぎたりと申す故に・結
03 句は今生には身をほろぼし国をそこない・後生には大阿鼻地獄に堕ち給うべしと、一日・片時も・たゆむ事なく・よ
04 ばわりし故に・かかる大難にあへり、 譬えば夏の虫の火にとびくばりねずみが・ねこのまへに出でたるが如し、是
05 あに我が身を知つて 用心せざる畜生の如くにあらずや、 身命を失ふ事・併ら心より出ずれば僻人なり、 但し石
06 は玉をふくむ故にくだかれ.鹿は皮肉の故に・殺され・魚はあぢはひある故に・とらる.すいは羽ある故にやぶらる・
07 女人は・みめかたちよければ必ずねたまる・此の意なるべきか、 日蓮は法華経の行者なる故に三種の強敵あつて種
08 種の大難にあへり然 るにかかる者の弟子檀那とならせ給う事 不思議なり定めて子細候らん相構えて能能御信心候
09 て霊山浄土へまいり給へ。
10   又御祈祷のために御太刀同く刀あはせて二つ送り給はて候、 此の太刀はしかるべきかぢ・作り候かと覚へ候、
11 あまくに或は鬼きり或はやつるぎ・異朝には・かむしやうばくやが剣に争でか・ことなるべきや・此れを法華経にま
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01 いらせ給う、 殿の御もちの時は悪の刀・今仏前へまいりぬれば善の刀なるべし、 譬えば鬼の道心をおこしたらん
02 が如し、あら不思議や不思議や、 後生には此の刀を・つえとたのみ給うべし、法華経は三世の諸仏・発心のつえに
03 て候ぞかし、但し日蓮をつえはしらとも.たのみ給うべし、けはしき山・あしき道.つえを・つきぬれば・たをれず、
04 殊に手を・ひかれぬれば・まろぶ事なし、南無妙法蓮華経は死出の山にては・つえはしらとなり給へ、釈迦仏・多宝
05 仏上行等の四菩薩は手を取り給うべし 日蓮さきに立ち候はば御迎にまいり候事もやあらんずらん、 又さきに行か
06 せ給はば日蓮必ず閻魔法王にも委く申すべく候、 此の事少しもそら事あるべからず、 日蓮・法華経の文の如くな
07 らば通塞の案内者なり、 只一心に信心おはして霊山を期し給へ、ぜにと云うものは用に・したがつて変ずるなり、
08 法華経も亦復是くの如し、やみには燈となり・渡りには舟となり・或は水ともなり或は火ともなり給うなり、 若し
09 然らば法華経は現世安穏・後生善処の御経なり。
10   其上日蓮は日本国の中には 安州のものなり総じて彼国は 天照太神のすみそめ給いし国なりといへりかしこに
11 して日本国をさぐり出し給ふ あはの国御くりやなり・しかも此国の一切衆生の慈父悲母なり かかるいみじき国な
12 れば定んで故ぞ候らんいかなる宿習にてや候らん 日蓮又彼国に生れたり第一の果報なるなり 此消息の詮にあらざ
13 れば委しくはかかず但おしはかり給うべし。
14   能く能く諸天にいのり申べし、信心にあかなくして所願を成就し給へ女房にも・よく・よく・かたらせ給へ、恐
15 恐謹言。
16       二月二十一日                              日蓮花押
17     弥源太殿御返事
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弥源太入道殿御返事
01   別の事候まじ憑み奉り候上は最後は・かうと思し食し候へ、河野辺の入道殿のこひしく候に・漸く後れ進らせて
02 其のかたみと見まいらせ候はん、さるにても候へば如何が空しかるべきやさこそ覚え候へ。
03   但し当世は我も法華経をしりたりと人毎に申し候、時に法華経の行者はあまた候、 但し法華経と申す経は転子
04 病と申す病の様に候、 転子と申すは親の様なる子は少く候へども 此の病は必ず伝わり候なり、例せば犬の子は母
05 の吠を伝へネコの子は母の用を伝えて鼠を取る、 日本国は六十六箇国・嶋二つ、其の中に仏の御寺は一万一千三十
06 七所.其の内に僧尼或は三千.或は一万・或は一千一百.或は十人・或は一人候へども.其の源は弘法大師・慈覚大師・
07 智証大師.此の三大師の御弟子にて候、山の座主・東寺・御室・七大寺の検校、園城寺の長吏・伊豆.箱根・日光・慈
08 光等の寺寺の別当等も皆此の三大師の嫡嫡なり、 此の人人は三大師の如く読むべし、 其れ此の三大師・法華経と
09 一切経との勝劣を読み候しには・弘法大師は法華経最第三と・慈覚・智証は法華経最第二・或は戯論なんどこそ読み
10 候いしか今又是くの如し。
11   但し日蓮が眼には僻目にてや候らん、法華経最第一・皆是真実と釈迦仏・多宝仏十方の諸仏は説いて証明せさせ
12 給へり・此の三大師には水火の相違にて候、 其の末を受くる人人・彼の跡を継で彼の所領の田畠を我が物とせさせ
13 給いぬれば・何に諍はせ給うとも 三大師の僻事ならば此の科遁れがたくやおはすらんと見え候へども・日蓮は怯弱
14 の者にて候へば・かく申す事をも人・御用いなし、 されば今日本国の人人の我も我も経を読むといへども・申す事
15 用ゆべしとも覚えず候。
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01 是はさて置き候ぬ・ 御音信も候はねば 何にと思いて候つるに御使うれしく候、 御所労の御平愈の由うれしく候
02 うれしく候、尚仰せを蒙る可く候・恐恐謹言。
03       九月十七日                       日蓮花押
04     弥源太入道殿御返事
弥源太入道殿御消息
01   一日の御帰路をぼつかなく候つる処に御使悦び入つて候、御用事の御事共は伯耆殿の御文に書かせて候、 然る
02 に道隆の死して身の舎利となる由の事、 是は何とも人知らず用いまじく候へば兎角申して詮は候はず、 但し仏の
03 以前に九十五種の外道ありき 各各是を信じて仏に成ると申す、 又皆人も一同に思いて候し程に仏世に出でさせ給
04 いて九十五種は皆地獄に堕ちたりと説かせ給いしかば・五天竺の国王・大臣等は仏は所詮なき人なりと申す、 又外
05 道の弟子どもも我が師の上を云れて悪心をかき候、 竹杖外道と申す外道の目連尊者を殺せし事是なり、 苦得外道
06 と申せし者を仏記して云く七日の内に死して食吐鬼と成るべしと説かせ給いしかば 外道瞋りをなす、 七日の内に
07 食吐鬼と成りたりしかば 其を押し隠して得道の人の御舎利買うべしと云いき、 其より外に不思議なる事数を知ら
08 ず。
09   但し道隆が事は見ぬ事にて候へば如何様に候やらん、 但し弘通するところの説法は共に本権教より起りて候し
10 を・今は教外別伝と申して 物にくるひて我と外道の法と云うか、 其の上建長寺は現に眼前に見へて候、日本国の
11 山寺の敵とも謂いつべき様なれども 事を御威によせぬれば皆人恐れて云わず、 是は今生を重くして後生は軽くす
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01 る故なりされば現身に 彼の寺の故に亡国すべき事当りぬ、 日蓮は度度知つて日本国の道俗の科を申せば是は今生
02 の禍・後生の福なり、 但し道隆の振舞は日本国の道俗知りて候へども 上を畏れてこそ尊み申せ 又内心は皆うと
03 みて候らん、 仏法の邪正こそ愚人なれば知らずとも世間の事は眼前なれば知りぬらん、 又一は用いずとも人の骨
04 の舎利と成る事は易く知れ候事にて候、 仏の舎利は火にやけず・水にぬれず・金剛のかなづちにて・うてども摧け
05 ず、一くだきして見よかし・あらやすし・あらやすし、 建長寺は所領を取られて・まどひたる男どもの入道に成り
06 て四十・五十・六十なんどの時・走り入りて候が用は之れ無く道隆がかげにしてすぎぬるなり、 云うに甲斐なく死
07 ぬれば不思議にて候を・かくして暫くもすぎき。
08   又は日蓮房が存知の法門を人に 疎ませんとこそたばかりて候らめ、 あまりの事どもなれば誑惑顕われなんと
09 す、但しばらく・ねうじて御覧ぜよ、根露れぬれば枝かれ・源渇けば流尽くると申す事あり、恐恐謹言。
10       弘安元年戊寅八月十一日                日蓮花押
11     弥源太入道殿
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さじき女房御返事    建治元年五月    五十四歳御作
01   女人は水のごとし.うつは物にしたがう・女人は矢のごとし・弓につがはさる・女人はふねのごとし.かぢのまか
02 するによるべし、 しかるに女人はをとこ・ぬす人なれば女人ぬす人となる・をとこ王なれば女人きさきとなる・を
03 とこ善人なれば女人・仏になる、 今生のみならず後生も・をとこによるなり、しかるに兵衛のさゑもんどのは法華
04 経の行者なり、 たとひ・いかなる事ありとも・をとこのめなれば法華経の女人とこそ仏は・しろしめされて候らん
05 に・又我とこころををこして法華経の御ために御かたびらをくりたびて候。
06   法華経の行者に二人あり.聖人は皮をはいで文字をうつす・凡夫は・ただ・ひとつきて候かたびら.などを法華経
07 の行者に供養すれば 皮をはぐうちに仏をさめさせ給うなり、 此の人のかたびらは法華経の六万九千三百八十四の
08 文字の仏にまいらせさせ給いぬれば・六万九千三百八十四のかたびらなり、 又六万九千三百八十四の仏・一一・六
09 万九千三百八十四の文字なれば・ 此のかたびらも又かくのごとし、 たとへばはるの野の千里ばかりに・くさのみ
10 ちて候はんに・すこしの豆ばかりの火を・くさ・ひとつにはなちたれば一時に無量無辺の火となる、 此のかたびら
11 も又かくのごとし、ひとつのかたびら・なれども法華経の一切の文字の仏にたてまつるべし。
12   この功徳は父母・祖父母・乃至無辺の衆生にも.をよぼしてん、まして・わが.いとをしと・をもふ・をとこは申
13 すに及ばずと、おぼしめすべし、おぼしめすべし。
14       五月二十五日                     日蓮花押
15     さじき女房御返事
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棧敷女房御返事    建治四年二月    五十七歳御作
01   白かたびら布一給い畢んぬ、法華経を供養申しまいらせ候に・十種くやうと申す十のやう候、 其のなかに衣服
02 と申し候は・なににても候へ、 僧のき候物をくやうし候、其の因縁を・とかれて候には過去に十万億の仏を・くや
03 うせる人・法華経に近づきまいらせ候とこそとかれて候へ、 あらあら申すべく候へども、身にいたはる事候間・こ
04 まやかならず候、恐恐謹言。
05       二月十七日 日蓮花押
06     さじきの女房御返事
善無畏抄    建治元年    五十四歳御作
01   善無畏三歳は月氏・ 烏萇奈国の仏種王の太子なり、 七歳にして位に即き給う十三にして国を兄に譲り出家遁
02 世し五天竺を修行して 五乗の道を極め三学を兼ね給いき、 達磨掬多と申す聖人に値い奉りて真言の諸印契一時に
03 頓受し即日に御潅頂なし人天の師と定まり給いき、 ケイ足山に入りては迦葉尊者の髪を剃り王城に於て雨を祈り給
04 いしかば観音日輪の中より出て水瓶を以て水を潅ぎ、 北天竺の金粟王の塔の下にして 仏法を祈請せしかば文殊師
05 利菩薩大日経の胎蔵の曼荼羅を現して授け給う、 其の後開元四年丙辰に漢土に渡る 玄宗皇帝之を尊むこと日月の
06 如し、 又大旱魃あり皇帝勅宣を下す、 三蔵一鉢に水を入れ暫く加持し給いしに水の中に指許りの物有り変じて竜
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01 と成る其の色赤色なり、 白気立ち昇り鉢より竜出でて虚空に昇り忽に雨を降す、 此の如くいみじき人なれども一
02 時に頓死して有りき、 蘇生りて語つて云く我死つる時獄卒来りて 鉄の繩七筋付け鉄の杖を以て散散にさいなみ閻
03 魔宮に到りにき、 八万聖教一字一句も覚えず唯法華経の題名許り忘れざりき 題名を思いしに鉄の繩少し許ぬ息続
04 いて高声に唱えて云く今此三界皆是我有・其中衆生悉是吾子・而今此処多諸患難・唯我一人能為救護等云云、 七つ
05 の鉄の繩切れ砕け十方に散す 閻魔冠を傾けて南庭に下り向い給いき、 今度は命尽きずとて帰されたるなりと語り
06 給いき、 今日蓮不審して云く善無畏三蔵は先生に十善の戒力あり五百の仏陀に仕えたり、 今生には捨て難き王位
07 をつばきを捨てるが如く 之を捨て幼少十三にして出家し給い、 月支国を廻りて諸宗を習い極め天の感を蒙り化道
08 の心深くして 震旦国に渡りて真言の大法を弘めたり、 一印一真言を結び誦すれば過去現在の無量の罪滅しぬらん
09 何の科に依りて 閻魔の責をば蒙り給いけるやらん 不審極り無し、 善無畏三蔵真言の力を以て閻魔の責を脱れず
10 ば天竺・震旦・日本等の諸国の真言師・地獄の苦を脱る可きや、 委細に此の事を勘えたるに此の三蔵は世間の軽罪
11 は身に御せず諸宗並びに真言の力にて滅しぬらん、 此の責は別の故無し法華経誹謗の罪なり、 大日経の義釈を見
12 るに此の経は是れ法王の秘宝妄りに卑賎の人に示さず、 釈迦出世の四十余年に舎利弗慇懃の三請に因つて 方に為
13 に略して妙法蓮華の義を説くが如し、 今此の本地の身又是れ妙法蓮華最深秘処なり、 故に寿量品に云く「常に霊
14 鷲山及び余の諸の住処に在り、 乃至我が浄土は毀れざるに 而も衆は焼き尽くと見る」と、 即ち此の宗瑜伽の意
15 なるのみ、 又「補処の菩薩の慇懃三請に因つて方に為に之を説く」等云云、 此の釈の心は大日経に本迹二門・開
16 三顕一・開近顕遠の法門有り、 法華経の本迹二門の如し、 此の法門は法華経に同じけれども此の大日経に印と真
17 言と相加わりて三密相応せり、 法華経は但意密許りにて身口の二密闕けたれば法華経をば略説と云い大日経をば広
18 説と申す可きなりと書かれたり,此の法門第一のアヤマリ.謗法の根本なり,此の文に二つのアヤマり有り,又義釈に云
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01 く「此の経横に一切の仏教を統ぶ」等云云、大日経は当分随他意の経なるをアヤマりて随自意跨節の経と思えり、か
02 たがたアヤマりたるを実義と思し食す故に閻魔の責をば蒙りたりしか智者にて御座せし故に此の謗法を悔い還えして
03 法華経に飜りし故に 此の責を免がるるか、 天台大師釈して云く 「法華は衆経を総括す乃至軽慢止まざれば舌口
04 中に爛る」等云云、 妙楽大師云く「已今当の妙此に於て固く迷えり舌爛止まざるは猶華報と為す、 謗法の罪苦長
05 劫に流る」等云云、 天台妙楽の心は法華経に勝れたる経有りと云はむ人は無間地獄に堕つ可しと書かれたり 善無
06 畏三蔵は法華経と大日経とは理は同じけれども 事の印真言は勝れたりと書かれたり、 然るに二人の中に一人は必
07 悪道に堕つ可しとをぼふる処に 天台の釈は経文に分明なり、 善無畏の釈は経文に其証拠見えず、其の上閻魔王の
08 責の時我が内証の肝心と思食す 大日経等の三部経の内の文を誦せず、 法華経の文を誦して此の責を免れぬ、 疑
09 無く法華経に真言勝ると思うアヤマを飜したるなり・其の上善無畏三蔵の御弟子不空三蔵の法華経の儀軌には大日経
10 金剛頂経の両部の大日をば 左右に立て法華経多宝仏をば不二の大日と定めて 両部の大日をば左右の巨下の如くせ
11 り。
12   伝教大師は延暦二十三年の御入唐・霊感寺の順暁和尚に真言三部の秘法を伝う、 仏滝寺の行満座主に天台止観
13 宝珠を請け取り顕密二道の奥旨を極め給いたる人、 華厳・三論・法相・律宗の人人の自宗我慢の辺執を倒して天台
14 大師に帰入せる由を書かせ給いて候、依憑集・守護章・秀句なむど申す書の中に善無畏・金剛智・不空等は天台宗に
15 帰入して智者大師を本師と仰ぐ由のせられたり、 各各思えらく宗を立つる法は自宗をほめて他宗を嫌うは 常の習
16 なりと思えり、 法然なむどは又此例を引きて曇鸞の難易・道綽の聖道浄土・善導が正雑二行の名目を引きて天台真
17 言等の大法を念仏の方便と成せり、 此等は牛跡に大海を入れ県の額を州に打つ者なり、 世間の法には下剋上・背
18 上向下は国土亡乱の因縁なり、 仏法には権小の経経を本として実経をあなづる、 大謗法の因縁なり恐る可し恐る
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01 可し。
02   嘉祥寺の吉蔵大師は三論宗の元祖・或時は一代聖教を五時に分け或時は二蔵と判ぜり、 然りと雖も竜樹菩薩の
03 造の百論・中論・十二門論・大論を尊んで般若経を依憑と定め給い、 天台大師を辺執して過ぎ給いし程に智者大師
04 の梵網等の疏を見て少し心とけやうやう近づきて 法門を聴聞せし程に結句は一百余人の弟子を捨て 般若経並びに
05 法華経をも講ぜず 七年に至つて天台大師に仕えさせ給いき、 高僧伝には「衆を散じ身を肉橋と成す」と書かれた
06 り、 天台大師高坐に登り給えば寄りて肩を足に備え路を行き給えば負奉り給うて堀を越え給いき、 吉蔵大師程の
07 人だにも謗法を恐れてかくこそ仕え給いしか、 然るを真言三論法相等の宗宗の人人今・末末に成りて 辺執せさせ
08 給うは自業自得果なるべし。
09   今の世に浄土宗禅宗なんど申す宗宗は天台宗にをとされし真言華厳等に及ぶ可からず、 依経既に楞伽経観経等
10 なり此等の経経は仏の出世の本意にも非ず 一時一会の小経なり一代聖教を判ずるに及ばず、 而も彼の経経を依経
11 として一代の聖教を聖道浄土・難行易行・雑行正行に分ち教外別伝なむど・ののしる、 譬えば民が王をしえたげ小
12 河の大海を納むるが如し、 かかる謗法の人師どもを信じて後生を願う人人は 無間地獄脱る可きや、然れば当世の
13 愚者は仏には釈迦牟尼仏を本尊と定めぬれば 自然に不孝の罪脱がれ法華経を信じぬれば 不慮に謗法の科を脱れた
14 り。
15   其の上女人は五障三従と申して世間出世に嫌われ一代の聖教に捨てられ畢んぬ、 唯法華経計りにこそ竜女が仏
16 に成り諸の尼の記ベツは・ さづけられて候ぬれば一切の女人は此の経を捨てさせ給いては何の経をか持たせ給うべ
17 き、 天台大師は震旦国の人仏滅後一千五百余年に仏の御使として世に出でさせ給いき、 法華経に三十巻の文を注
18 し給い文句と申す文の第七の巻には 「他経には但男に記して女に記せず」等云云、 男子も余経にては仏に成らざ
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01 れども且らく与えて其をば許してむ、 女人に於ては一向諸経に於ては叶う可からずと書かれて候、 縦令千万の経
02 経に女人成る可しと許され為りと雖も法華経に嫌われなば何の憑か有る可きや。
03   教主釈尊我が諸経四十余年の経経を未顕真実と悔い返し 涅槃経等をば当説と嫌い給い無量義経をば今説と定め
04 置き、 三説に秀でたる法華経に「正直に方便を捨て但無上道を説く 世尊の法は久しくして 後要当に真実を説く
05 べし」と釈尊宣べ給いしかば、 宝浄世界の多宝仏は大地より出でさせ給いて真実なる由の証明を加え、 十方分身
06 の諸仏・広長舌を梵天に付け給う、 十方世界微塵数の諸仏の舌相は不妄語戒の力に酬いて 八葉の赤蓮華に生出さ
07 せ給いき、 一仏二仏三仏乃至十仏百仏千万億仏の四百万億那由佗の世界に充満せる仏の御舌を以て 定め置き給え
08 る女人成仏の義なり、謗法無くして此の経を持つ女人は十方虚空に充満せる慳貪・嫉妬・瞋恚・十悪・五逆なりとも
09 草木の露の大風にあえるなる可し三冬の冰の夏の日に滅するが如し、 但滅し難き者は法華経謗法の罪なり、 譬え
10 ば三千大千世界の草木を薪と為すとも 須弥山は一分も損じ難し、 縦令七つの日出でて百千日照すとも大海の中を
11 ばかわかしがたし、 設い八万聖教を読み大地微塵の塔婆を立て 大小乗の戒行を尽し十方世界の衆生を一子の如く
12 に為すとも法華経謗法の罪はきゆべからず、 我等・過去・現在・未来の三世の間に仏に成らずして六道の苦を受く
13 るは偏に法華経誹謗の罪なるべし、女人と生れて百悪身に備ふるも根本此の経誹謗の罪より起れり。
14   然者此の経に値い奉らむ女人は 皮をはいで紙と為し血を切りて墨と為し骨を折りて筆と為し血の涙を硯の水と
15 為して書き奉ると雖も飽く期あるべからず、 何に況や衣服・金銀・牛馬・田畠等の布施を以て供養せむは・ものの
16 かずにて・かずならず。
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妙密上人御消息  建治二年三月    五十五歳御作   与楅谷妙密
01   青鳧五貫文給い候い畢んぬ、夫れ五戒の始は不殺生戒・六波羅蜜の始は檀波羅蜜なり、十善戒・二百五十戒・十
02 重禁戒等の一切の諸戒の始めは皆不殺生戒なり、 上大聖より下蚊虻に至るまで命を財とせざるはなし、 これを奪
03 へば又第一の重罪なり、 如来世に出で給いては生をあわれむを本とす、 生をあわれむしるしには命を奪はず施食
04 を修するが第一の戒にて候なり、 人に食を施すに三の功徳あり・一には命をつぎ・二には色をまし・三には力を授
05 く、命をつぐは人中・天上に生れては長命の果報を得・仏に成りては法身如来と顕れ其の身虚空と等し、 力を授く
06 る故に人中・天上に生れては威徳の人と成りて眷属多し、 仏に成りては報身如来と顕れて 蓮華の台に居し八月十
07 五夜の月の晴天に出でたるが如し、 色をます故に人中・天上に生れては三十二相を具足して端正なる事華の如く、
08 仏に成りては 応身如来と顕れて釈迦仏の如くなるべし、 夫れ須弥山の始を尋ぬれば一塵なり・大海の初は一露な
09 り・一を重ぬれば二となり・二を重ぬれば三・乃至十・百・千・万・億・阿僧祇の母は唯・一なるべし。
10   されば日本国には仏法の始まりし事は天神七代・地神五代の後・人王百代・其の初めの王をば神武天皇と申す、
11 神武より第三十代に当りて 欽明天皇の御宇に百済国より経並びに教主釈尊の御影・僧尼等を渡す、 用明天皇の太
12 子の上宮と申せし人・仏法を読み初め法華経を漢土より・とりよせさせ給いて疏を作りて弘めさせ給いき、 それよ
13 り後・人王三十七代・孝徳天皇の御宇に観勒僧正と申す人・新羅国より三論宗・成実宗を渡す、同じき御代に道昭と
14 申す僧・漢土より法相宗・倶舎宗を渡す、同じき御代に審祥大徳・華厳宗を渡す、第四十四代・元正天皇の御宇に天
15 竺の上人・大日経を渡す、 第四十五代・聖武天皇の御宇に鑑真和尚と申せし人・漢土より日本国に律宗を渡せし・
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01 次でに天台宗の玄義・文句・円頓止観・浄名疏等を渡す、 然れども真言宗と法華宗との二宗をば・いまだ弘め給は
02 ず、人王第五十代・桓武天皇の御代に最澄と申す小僧あり 後には伝教大師と号す、 此の人入唐已前に真言宗と天
03 台宗の二宗の章疏を十五年が間・ 但一人見置き給いき、 後に延暦二十三年七月に漢土に渡り・かへる年の六月に
04 本朝に著かせ給いて、 天台・真言の二宗を七大寺の碩学数十人に授けさせ給いき、其の後于今四百年なり、 総じ
05 て日本国に仏法渡りて于今七百余年なり、 或は弥陀の名号或は大日の名号・ 或は釈迦の名号等をば一切衆生に勧
06 め給へる人人はおはすれども、 いまだ法華経の題目・南無妙法蓮華経と唱へよと勧めたる人なし、 日本国に限ら
07 ず月氏等にも仏滅後一千年の間.迦葉・阿難.馬鳴・竜樹.無著・天親等の大論師・仏法を五天竺に弘通せしかども.漢
08 土に仏法渡りて数百年の間.摩騰迦・竺法蘭.羅什三蔵・南岳.天台・妙楽等.或は疏を作り或は経を釈せしかども・い
09 まだ法華経の題目をば弥陀の名号の如く勧められず、 唯自身一人計り唱へ・或は経を講ずる時・講師計り唱る事あ
10 り、然るに八宗.九宗・等其の義まちまちなれども・多分は弥陀の名号・次には観音の名号.次には釈迦仏の名号・次
11 には大日・薬師等の名号をば・唱へ給へる高祖・先徳等はおはすれども・何なる故有りてか一代諸教の肝心たる法華
12 経の題目をば唱へざりけん、 其の故を能く能く尋ね習い給ふべし、 譬えば大医の一切の病の根源・薬の浅深は弁
13 へたれども・故なく大事の薬をつかふ事なく病に随ふが如し。
14   されば仏の滅後正像二千年の間は煩悩の病・軽かりければ一代第一の良薬の妙法蓮華経の五字をば勧めざりける
15 か、 今末法に入りぬ人毎に重病有り阿弥陀・大日・釈迦等の軽薬にては治し難し、 又月はいみじけれども秋にあ
16 らざれば光を惜む・花は目出けれども春にあらざればさかず、 一切・時による事なり、されば正像二千年の間は題
17 目の流布の時に当らざるか、 又仏教を弘るは仏の御使なり・随つて仏の弟子の譲りを得る事各別なり、 正法千年
18 に出でし論師・像法千年に出づる人師等は.多くは小乗・権大乗.法華経の或は迹門・或は枝葉を譲られし人人なり、
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01 いまだ本門の肝心たる題目を譲られし 上行菩薩世に出現し給はず、 此の人末法に出現して妙法蓮華経の五字を一
02 閻浮提の中・国ごと人ごとに弘むべし、例せば当時・日本国に弥陀の名号の流布しつるが如くなるべきか。
03   然るに日蓮は何の宗の元祖にもあらず・又末葉にもあらず・持戒破戒にも闕て無戒の僧・有智無智にもはづれた
04 る牛羊の如くなる者なり、 何にしてか申し初めけん・ 上行菩薩の出現して弘めさせ給うべき妙法蓮華経の五字を
05 先立て・ねごとの様に・心にもあらず・南無妙法蓮華経と申し初て候し程に唱うる者なり、所詮よき事にや候らん・
06 又悪き事にや侍るらん・我もしらず人もわきまへがたきか、 但し法華経を開いて拝し奉るに・此の経をば等覚の菩
07 薩・文殊・弥勒・観音・普賢までも輙く一句一偈をも持つ人なし、「唯仏与仏」と説き給へり、されば華厳経は最初
08 の頓説・円満の経なれども 法慧等の四菩薩に説かせ給ふ、 般若経は又華厳経程こそなけれども当分は最上の経ぞ
09 かし、然れども須菩提これを説く、 但法華経計りこそ三身円満の釈迦の金口の妙説にては候なれ、 されば普賢・
10 文殊なりとも輙く一句一偈をも説かせ給うべからず、 何に況や末代の凡夫我等衆生は一字二字なりとも 自身には
11 持ちがたし、 諸宗の元祖等・法華経を読み奉れば各各其の弟子等は我が師は法華経の心を得給へりと思へり、 然
12 れども詮を論ずれば慈恩大師は深密経・唯識論を師として法華経をよみ、 嘉祥大師は般若経・中論を師として法華
13 経をよむ、杜順・法蔵等は華厳経・十住毘婆沙論を師として法華経をよみ、善無畏・金剛智・不空等は大日経を師と
14 して法華経をよむ、 此等の人人は各法華経をよめりと思へども未だ一句一偈もよめる人にはあらず、 詮を論ずれ
15 ば伝教大師ことはりて云く 「法華経を讃すと雖も還つて法華の心を死す」云云、 例せば外道は仏経をよめども外
16 道と同じ・蝙蝠が昼を夜と見るが如し、 又赤き面の者は白き鏡も赤しと思ひ・ 太刀に顔をうつせるもの円かなる
17 面を・ほそながしと思ふに似たり。
18   今日蓮は然らず已今当の経文を深くまほり・一経の肝心たる題目を我も唱へ人にも勧む、麻の中の蓬・墨うてる
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01 木の自体は正直ならざれども・自然に直ぐなるが如し、経のままに唱うれば・まがれる心なし、 当に知るべし仏の
02 御心の我等が身に入らせ給はずば唱へがたきか、 又それ他人の弘めさせ給ふ仏法は皆師より習ひ伝へ給へり、 例
03 せば鎌倉の御家人等の御知行・所領の地頭・或は一町・二町なれども皆故大将家の御恩なり、何に況や百町・千町・
04 一国・二国を知行する人人をや、 賢人と申すは・よき師より伝へたる人・聖人と申すは師無くして我と覚れる人な
05 り、仏滅後・月氏・漢土・日本国に二人の聖人あり・所謂天台・伝教の二人なり、此の二人をば聖人とも云うべし又
06 賢人とも云うべし、 天台大師は南岳に伝えたり是は賢人なり、 道場にして自解仏乗し給いぬ又聖人なり、 伝教
07 大師は道邃・行満に止観と円頓の大戒を伝へたりこれは賢人なり、 入唐已前に日本国にして真言・止観の二宗を師
08 なくしてさとり極め,天台宗の智慧を以て六宗.七宗に勝れたりと心得給いしは是れ聖人なり、然れば外典に云く「生
09 れながらにして之を知る者は上なり上とは聖人の名なり学んで之を知る者は次なり次とは賢人の名なり」内典に云く
10 「我が行.師の保無し」等云云、夫れ教主釈尊は娑婆世界第一の聖人なり,天台.伝教の二人は聖賢に通ずべし、馬鳴.
11 竜樹・無著・天親等・老子・孔子等は或は小乗・或は権大乗・或は外典の聖賢なり、法華経の聖賢には非ず。
12   今日蓮は聖にも賢にも非ず 持戒にも無戒にも有智にも無智も当らず、 然れども法華経の題目の流布すべき後
13 五百歳・二千二百二十余年の時に生れて・近くは日本国.遠くは月氏・漢土の諸宗の人人・唱へ始めざる先に.南無妙
14 法蓮華経と高声によばはりて 二十余年をふる間・或は罵られ打たれ 或は疵をかうほり或は流罪に二度死罪に一度
15 定められぬ、 其の外の大難数をしらず・譬へば大湯に大豆を漬し 小水に大魚の有るが如し、経に云く「而も此の
16 経は如来の現在にすら猶怨嫉多し 況や滅度の後をや」又云く「一切世間怨多くして信じ難し」 又云く「諸の無智
17 の人有りて悪口罵詈す」或は云く 「刀杖瓦石を加え或は数数擯出せらる」等云云、 此等の経文は日蓮・日本国に
18 生ぜずんば 但仏の御言のみ有りて 其の義空しかるべし、 譬へば花さき菓みならず 雷なりて雨ふらざらんが如
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01 し、仏の金言空くして 正直の御経に大妄語を雑へたるなるべし、 此等を以て思ふに恐くは天台伝教の聖人にも及
02 ぶべし又老子孔子をも下しぬべし、 日本国の中に但一人・南無妙法蓮華経と唱えたり、 これは須弥山の始の一塵
03 大海の始の一露なり、二人.三人・十人.百人・一国・二国 .六十六箇国・已に島二にも及びぬらん、今は謗ぜし人人
04 も唱へ給うらん、 又上一人より下万民に至るまで法華経の神力品の如く 一同に南無妙法蓮華経と唱へ給ふ事もや
05 あらんずらん、 木はしづかならんと思へども風やまず・春を留んと思へども夏となる、 日本国の人人は法華経は
06 尊とけれども 日蓮房が悪ければ南無妙法蓮華経とは唱えまじと・ことはり給ふとも・今一度も二度も大蒙古国より
07 押し寄せて壹岐・対馬の様に男をば打ち死し 女をば押し取り・京・鎌倉に打ち入りて国主並びに大臣百官等を搦め
08 取り・牛馬の前に・けたて・つよく責めん時は争か南無妙法蓮華経と唱へざるべき、 法華経の第五の巻をもつて日
09 蓮が面を数箇度打ちたりしは 日蓮は何とも思はずうれしくぞ侍りし、 不軽品の如く身を責め勧持品の如く身に当
10 つて貴し貴し。
11   但し法華経の行者を悪人に打たせじと.仏前にして起請をかきたりし.梵王・帝釈・日月・四天等いかに口惜かる
12 らん、 現身にも天罰をあたらざる事は小事ならざれば・ 始中終をくくりて其の身を亡すのみならず 議せらるる
13 か、あへて日蓮が失にあらず・謗法の法師等をたすけんが為に彼等が大禍を自身に招きよせさせ給うか。
14   此等を以て思ふに便宜ごとの青鳧五連の御志は 日本国の法華経の題目を弘めさせ給ふ人に当れり、 国中の諸
15 人・一人・二人・乃至千万億の人・題目を唱うるならば存外に功徳身にあつまらせ給うべし、 其の功徳は大海の露
16 をあつめ須弥山の微塵をつむが如し、 殊に十羅刹女は法華経の題目を守護せんと誓わせ給う、 此を推するに妙密
17 上人並びに女房をば母の一子を思ふが如く.ミョウ牛の尾を愛するが如く昼夜にまほらせ給うらん、たのもし.たのも
18 し、事多しといへども委く申すにいとまあらず、 女房にも委く申し給へ此は諂へる言にはあらず、 金はやけば弥
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01 色まさり剣はとげば弥利くなる・ 法華経の功徳はほむれば 弥功徳まさる、 二十八品は正き事はわずかなり讃む
02 る言こそ多く候へと思食すべし。
03       閏三月五日                                日蓮花押
04     楅谷妙密上人御返事
道妙禅門御書    建治二年八月    五十五歳御作
01   御親父祈祷の事承り候間仏前にて祈念申すべく候、祈祷に於ては顕祈顕応・顕祈冥応・冥祈冥応・冥祈顕応の祈
02 祷有りと雖も 只肝要は此の経の信心を致し給い候はば現当の所願満足有る可く候、 法華第三に云く「魔及び魔民
03 有りと雖も皆仏法を護る」 第七に云く「病即消滅して不老不死ならん」との金言之を疑う可からず、 妙一尼御前
04 当山参詣有り難く候、巻物一巻之を進らせ候披見有るべく候、南無妙法蓮華経。
05       建治二年丙子八月十日                        日蓮花押
06     道妙禅門
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日女御前御返事    建治三年八月    五十六歳御作
01   御本尊供養の御為に鵞目五貫・白米一駄・菓子其の数送り給び候い畢んぬ、抑此の御本尊は在世五十年の中には
02 八年・八年の間にも涌出品より属累品まで八品に顕れ給うなり、 さて滅後には正法・像法・末法の中には正像二千
03 年には・いまだ本門の本尊と申す名だにもなし、 何に況や顕れ給はんをや 又顕すべき人なし、天台妙楽伝教等は
04 内には鑒み給へども 故こそあるらめ言には出だし給はず、 彼の顔淵が聞きし事・意にはさとるといへども言に顕
05 していはざるが如し、 然るに仏滅後二千年過ぎて末法の始の五百年に出現せさせ給ふべき由 経文赫赫たり明明た
06 り・天台妙楽等の解釈分明なり。
07   爰に日蓮いかなる不思議にてや候らん竜樹天親等・天台妙楽等だにも顕し給はざる大曼荼羅を・末法二百余年の
08 比はじめて 法華弘通のはたじるしとして顕し奉るなり、 是全く日蓮が自作にあらず 多宝塔中の大牟尼世尊分身
09 の諸仏すりかたぎたる本尊なり、されば首題の五字は中央にかかり・四大天王は宝塔の四方に坐し・釈迦・多宝・本
10 化の四菩薩肩を並べ普賢.文殊等.舎利弗・目連等坐を屈し.日天・月天.第六天の魔王・竜王.阿修羅・其の外不動.愛
11 染は南北の二方に陣を取り・悪逆の達多・愚癡の竜女一座をはり・三千世界の人の寿命を奪ふ悪鬼たる鬼子母神・十
12 羅刹女等・加之日本国の守護神たる天照太神・八幡大菩薩・天神七代・地神五代の神神・総じて大小の神祇等・体の
13 神つらなる・其の余の用の神豈もるべきや、 宝塔品に云く「諸の大衆を接して皆虚空に在り」云云、 此等の仏菩
14 薩・大聖等・総じて序品列坐の二界八番の雑衆等一人ももれず、 此の御本尊の中に住し給い妙法五字の光明にてら
15 されて本有の尊形となる是を本尊とは申すなり。
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01   経に云く「諸法実相」是なり、妙楽云く「実相は必ず諸法・諸法は必ず十如乃至十界は必ず身土」云云、又云く
02 「実相の深理本有の妙法蓮華経」等と云云、 伝教大師云く「一念三千即自受用身・自受用身とは出尊形の仏」文、
03 此の故に 未曾有の大曼荼羅とは名付け奉るなり、 仏滅後・二千二百二十余年には此の御本尊いまだ出現し給はず
04 と云う事なり。
05   かかる御本尊を供養し奉り給ふ女人・ 現在には幸をまねぎ後生には 此の御本尊左右前後に立ちそひて闇に燈
06 の如く険難の処に強力を得たるが如く・彼こへまはり此へより・日女御前をかこみ・まほり給うべきなり、 相構え
07 相構えてとわりを我が家へよせたくもなき様に 謗法の者をせかせ給うべし、 悪知識を捨てて善友に親近せよとは
08 是なり。
09   此の御本尊全く余所に求る事なかれ・ 只我れ等衆生の法華経を持ちて南無妙法蓮華経と唱うる胸中の肉団にお
10 はしますなり、 是を九識心王真如の都とは申すなり、 十界具足とは十界一界もかけず一界にあるなり、之に依つ
11 て曼陀羅とは申すなり、 曼陀羅と云うは天竺の名なり此には輪円具足とも功徳聚とも名くるなり、 此の御本尊も
12 只信心の二字にをさまれり以信得入とは是なり。
13   日蓮が弟子檀那等・正直捨方便・不受余経一偈と無二に信ずる故によつて・此の御本尊の宝塔の中へ入るべきな
14 り・たのもし・たのもし、 如何にも後生をたしなみ給ふべし・たしなみ給ふべし、穴賢・南無妙法蓮華経とばかり
15 唱へて仏になるべき事尤も大切なり、 信心の厚薄によるべきなり仏法の根本は信を以て源とす、 されば止観の四
16 に云く 「仏法は海の如し唯信のみ能く入る」と、 弘決の四に云く「仏法は海の如し唯信のみ能く入るとは孔丘の
17 言尚信を首と為す 況や仏法の深理をや信無くして寧ろ入らんや、 故に華厳に信を道の元・功徳の母と為す」等、
18 又止の一に云く 「何が円の法を聞き円の信を起し円の行を立て円の位に住せん」 弘の一に云く「円信と言うは理
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01 に依つて信を起す信を行の本と為す」云云、 外典に云く「漢王臣の説を信ぜしかば河上の波忽ちに冰り 李広父の
02 讎を思いしかば草中の石羽を飲む」と云えり、 所詮・天台妙楽の釈分明に信を以て本とせり、 彼の漢王も疑はず
03 して大臣のことばを信ぜしかば 立波こほり行くぞかし、 石に矢のたつ是れ又父のかたきと思いし至信の故なり、
04 何に況や仏法においてをや、 法華経を受け持ちて南無妙法蓮華経と唱うる即五種の修行を具足するなり、 此の事
05 伝教大師入唐して道邃和尚に値い奉りて 五種頓修の妙行と云う事を相伝し給ふなり、 日蓮が弟子檀那の肝要是よ
06 り外に求る事なかれ、神力品に云く、委くは又又申す可く候、穴賢穴賢。
07       建治三年八月二十三日                  日蓮花押
08     日女御前御返事
日女御前御返事    弘安元年六月    五十七歳御作
01   御布施七貫文送り給び畢んぬ 、属累品の御心は仏・虚空に立ち給いて四百万億那由佗の世界にむさしののすす
02 きのごとく・富士山の木のごとく・ぞくぞくとひざをつめよせて・頭を地につけ・身をまげ・掌をあはせ・あせを流
03 し、つゆしげくおはせし上行菩薩等.文殊等・大梵天王・帝釈・日月・四天王 .竜王.十羅刹女等に法華経をゆづらん
04 がために、 三度まで頂をなでさせ給ふ、 譬えば悲母の一子が頂のかみをなづるがごとし、爾の時に上行乃至・日
05 月等忝き仰せを蒙りて 法華経を末代に弘通せんと・ ちかひ給いしなり、 薬王品と申すは昔喜見菩薩と申せし菩
06 薩・ 日月浄明徳仏に法華経を習わせ給いて・ 其の師の恩と申し法華経のたうとさと申しかんにたへかねて万の重
07 宝を尽くさせ給いしかども・ なを心ゆかずして身に油をぬりて千二百歳の間・ 当時の油にとうしみを入れてたく
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01 がごとく・身をたいて仏を供養し・後に七万二千歳が間ひぢをともしびとしてたきつくし・法華経を御供養候き。
02   されば今法華経を後五百歳の女人供養せば其の功徳を一分ものこさずゆづるべし、 譬えば長者の一子に一切の
03 財宝をゆづるがごとし、 妙音品と申すは東方の浄華宿王智仏の国に妙音菩薩と申せし菩薩あり、 昔の雲雷音王仏
04 の御代に妙荘厳王の后浄徳夫人なり、 昔法華経を供養して今妙音菩薩となれり、 釈迦如来の娑婆世界にして法華
05 経を説き給ふにまいりて約束申して・ 末代の女人の法華経を持ち給うをまもるべしと云云。 観音品と申すは又普
06 門品と名く、始は観世音菩薩を持ち奉る人の功徳を説きて候、 此を観音品と名づく・ 後には観音の持ち給へる法
07 華経を持つ人の功徳をとけり此を普門品と名く、 陀羅尼品と申すは二聖・二天・十羅刹女の法華経の行者を守護す
08 べき様を説きけり、 二聖と申すは薬王と勇施となり・二天と申すは毘沙門と持国天となり・十羅刹女と申すは十人
09 の大鬼神女・四天下の一切の鬼神の母なり・又十羅刹女の母あり・鬼子母神是なり、 鬼のならひとして人を食す、
10 人に三十六物あり 所謂糞と尿と唾と肉と血と皮と骨と五蔵と六腑と髪と毛と気と命等なり、 而るに下品の鬼神は
11 糞等を食し・中品の鬼神は骨等を食す・上品の鬼神は精気を食す、 此の十羅刹女は上品の鬼神として精気を食す疫
12 病の大鬼神なり、鬼神に二あり・一には善鬼・二には悪鬼なり、 善鬼は法華経の怨を食す・悪鬼は法華経の行者を
13 食す、今日本国の去年今年の大疫病は何とか心うべき・此を答ふべき様は一には善鬼なり梵王・帝釈・日月・四天の
14 許されありて法華経の怨を食す、 二には悪鬼が第六天の魔王のすすめによりて 法華経を修行する人を食す、 善
15 鬼が法華経の怨を食ふことは 官兵の朝敵を罰するがごとし、 悪鬼が法華経の行者を食ふは強盗夜討等が官兵を殺
16 すがごとし、 例せば日本国に仏法の渡りてありし時・仏法の敵たりし物部の大連・守屋等も疫病をやみき・蘇我宿
17 禰の馬子等もやみき、欽明・敏達・用明の三代の国王は心には仏法・釈迦如来を信じまいらせ給いてありしかども・
18 外には国の礼にまかせて天照太神・熊野山等を仰ぎまいらせさせ給ひしかども・ 仏と法との信はうすく神の信はあ
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01 つかりしかば・ 強きにひかれて三代の国王・ 疫病疱瘡にして崩御ならせ給いき、 此をもて上の二鬼をも今の代
02 の世間の人人の疫病をも日蓮が方のやみしぬをも心うべし、されば身をすてて信ぜん人人は・やまぬへんもあるべし
03 又やむともたすかるへんもあるべし、 又大悪鬼に値いなば命を奪はるる人もあるべし、 例せば畠山重忠は日本第
04 一の大力の大将なりしかども多勢には終にほろびぬ。
05   又日本国の一切の真言師の悪霊となれると・並に禅宗・ 念仏者等が日蓮をあだまんがために国中に入り乱れた
06 り、又梵釈・日月・十羅刹の眷属・日本国に乱入せり、 両方互に責めとらんとはげむなり、而るに十羅刹女は総じ
07 て法華経の行者を 守護すべしと誓はせ給いて候へば・ 一切の法華経を持つ人人をば守護せさせ給うらんと思い候
09 に・ 法華経を持つ人人も或は大日経はまされりなど申して 真言師が法華経を読誦し候は・かへりてそしるにて候
09 なり、 又余の宗宗も此を以て押し計るべし、 又法華経をば経のごとく持つ人人も・法華経の行者を或は貪瞋癡に
10 より或は世間の事により或は・ しなじなのふるまひによつて憎む人あり、 此は法華経を信ずれども信ずる功徳な
11 しかへりて罰をかほるなり、 例せば父母なんどには謀反等より外は子息等の身として此に背けば不孝なり、 父が
12 我がいとをしきめをとり 母が我がいとをしきおとこを奪ふとも 子の身として一分も違はば現世には天に捨てられ
13 後生には必ず阿鼻地獄に堕つる業なり、 何に況や父母にまされる賢王に背かんをや、 何に況や父母国王に百千万
14 億倍まされる世間の師をや、何に況や出世間の師をや、何に況や法華経の御師をや。
15   黄河は千年に一度すむといへり・聖人は千年に一度出ずるなり、 仏は無量劫に一度出世し給ふ、彼には値うと
16 いへども法華経には値いがたし、 設ひ法華経に値い奉るとも末代の凡夫法華経の行者には値いがたし、 何ぞなれ
17 ば末代の法華経の行者は法華経を説ざる華厳・阿含・方等・般若・大日経等の千二百余尊よりも末代に法華経を説く
18 行者は勝れて候なるを、 妙楽大師釈して云く「供養すること有る者は福十号に過ぎ 若し悩乱する者は頭七分に破
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01 れん」云云、 今日本国の者去年今年の疫病と去正嘉の疫病とは人王始まりて九十余代に並なき疫病なり、 聖人の
02 国にあるを・あだむゆへと見えたり、 師子を吼る犬は腸切れ 日月をのむ修羅は頭の破れ候なるはこれなり、 日
03 本国の一切衆生すでに三分が二はやみぬ又半分は死しぬ 今一分は身はやまざれども心はやみぬ、 又頭も顕にも冥
04 にも破ぬらん、罰に四あり総罰・別罰・冥罰・顕罰なり、聖人をあだめば総罰一国にわたる又四天下・又六欲・四禅
05 にわたる、 賢人をあだめば但敵人等なり、 今日本国の疫病は総罰なり定めて聖人の国にあるをあだむか、山は玉
06 をいだけば草木かれず国に聖人あれば其の国やぶれず、 山の草木のかれぬは玉のある故とも愚者はしらず、 国の
07 やぶるるは聖人をあだむ故とも愚人は弁へざるか。
08   設ひ日月の光ありとも盲目のために用ゆる事なし、設ひ声ありとも耳しひのためになにの用かあるべき、 日本
09 国の一切衆生は盲目と耳しひのごとし、 此の一切の眼と耳とをくじりて一切の眼をあけ 一切の耳に物をきかせん
10 は・いか程の功徳かあるべき、 誰の人か此の功徳をば計るべき、設ひ父母・子をうみて眼耳有りとも物を教ゆる師
11 なくば畜生の眼耳にてこそあらましか、 日本国の一切衆生は十方の中には西方の一方・一切の仏の中には 阿弥陀
12 仏・一切の行の中には弥陀の名号・此の三を本として余行をば兼ねたる人もあり・一向なる人もありしに、 某去ぬ
13 る建長五年より今に至るまで二十余年の間・遠くは一代聖教の勝劣・先後・浅深を立て・近くは弥陀念仏と法華経の
14 題目との高下を立て申す程に・上一人より下万民に至るまで此の事を用ひず、 或は師師に問い・或は主主に訴へ・
15 或は傍輩にかたり.或は我が身の妻子眷属に申す程に、国国・郡郡.郷郷・村村・寺寺・社社に沙汰ある程に、人ごと
16 に日蓮が名を知り法華経を念仏に対して念仏のいみじき様・法華経叶ひがたき事・諸人のいみじき様・ 日蓮わろき
17 様を申す程に・上もあだみ下も悪む日本一同に法華経と行者との大怨敵となりぬ、 かう申せば日本国の人人・並に
18 日蓮が方の中にも物におぼえぬ者は 人に信ぜられんとあらぬ事を云うと思へり、 此は仏法の道理を信じたる男女
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01 に知らせんれうに申す、各各の心にまかせ給うべし。
02   妙荘厳王品と申すは殊に女人の御ために用る事なり、妻が夫をすすめたる品なり、 末代に及びても女房の男を
03 すすめんは名こそかわりたりとも 功徳は但浄徳夫人のごとし、 いはうや此は女房も男も共に御信用あり・鳥の二
04 の羽そなはり車の二つの輪かかれり・ 何事か成ぜざるべき、 天あり地あり日あり月あり日てり雨ふる功徳の草木
05 花さき菓なるべし。
06   次に勧発品と申すは釈迦仏の御弟子の中に 僧はあまたありしかども迦葉阿難左右におはしき王の左右の臣の如
07 し、此は小乗経の仏なり、 又普賢・文殊と申すは一切の菩薩多しといへども教主釈尊の左右の臣なり、 而るに一
08 代超過の法華経八箇年が間・十方の諸仏・菩薩等・大地微塵よりも多く集まり候しに・ 左右の臣たる普賢菩薩のお
09 はせざりしは不思議なりし事なり、而れども妙荘厳王品を・とかれて・さておはりぬべかりしに・東方・宝威徳浄王
10 仏の国より万億の伎楽を奏し無数の八部衆を引率して・ おくればせして・参らせ給いしかば、仏の御きそくや・あ
11 しからんずらんと思ひし故にや・ 色かへて末代に法華経の行者を守護すべきやうを・ ねんごろに申し上られしか
12 ば、仏も法華経を閻浮に流布せんこと・ことにねんごろなるべきと申すにや・めでさせ給いけん、 返つて上の上位
13 よりも・ことに・ねんごろに仏ほめさせ給へり。
14   かかる法華経を末代の女人・二十八品を品品ごとに供養せばやと・おぼしめす但事にはあらず、宝塔品の御時は
15 多宝如来・釈迦如来・十方の諸仏・一切の菩薩あつまらせ給いぬ、此の宝塔品はいづれのところにか・只今まします
16 らんと・かんがへ候へば、 日女御前の御胸の間・八葉の心蓮華の内におはしますと日蓮は見まいらせて候、例せば
17 蓮のみに蓮華の有るがごとく 后の御腹に太子を懐妊せるがごとし、 十善を持てる人太子と生んとして后の御腹に
18 ましませば諸天此を守護す故に太子をば天子と号す、 法華経・二十八品の文字・六万九千三百八十四字・一一の文
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01 字は字ごとに太子のごとし字毎に仏の御種子なり、 闇の中に影あり人此をみず虚空に鳥の飛跡あり 人此をみず・
02 大海に魚の道あり人これをみず 月の中に四天下の人物一もかけず人此をみず、 而りといへども天眼は此をみる。
03   日女御前の御身の内心に宝塔品まします凡夫は見ずといへども釈迦・多宝・十方の諸仏は御らんあり、日蓮又此
04 をすいす・あらたうとし・たうとし、周の文王は老たる者をやしなひていくさに勝ち、其の末・三十七代・八百年の
05 間すゑずゑは・ ひが事ありしかども 根本の功によりてさかへさせ給ふ、 阿闍世王は大悪人たりしかども父びん
06 ばさら王の仏を数年やしなひまいらせし故に 九十年の間・位を持ち給いき、 当世も又かくの如く法華経の御かた
07 きに成りて候代なれば須臾も持つべしとは・みえねども・故権の大夫殿・武蔵の前司入道殿の御まつりごと・いみじ
08 くて暫く安穏なるか、其も始終は法華経の敵と成りなば叶うまじきにや。
09   此の人人の御僻案には念仏者等は法華経にちいんなり日蓮は念仏の敵なり、 我等は何れをも信じたりと云云、
10 日蓮つめて云く代に大禍なくば古にすぎたる疫病・飢饉・大兵乱はいかに、 召も決せずして法華経の行者を二度ま
11 で大科に行ひしは・いかに・不便・不便、而るに女人の御身として法華経の御命をつがせ給うは釈迦・多宝・十方の
12 諸仏の御父母の御命をつがせ給うなり此の功徳をもてる人・一閻浮提に有るべしや、恐恐謹言。
13       六月二十五日                               日蓮花押
14     日女御前御返事
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01 字は字ごとに太子のごとし字毎に仏の御種子なり、 闇の中に影あり人此をみず虚空に鳥の飛跡あり 人此をみず・
02 大海に魚の道あり人これをみず 月の中に四天下の人物一もかけず人此をみず、 而りといへども天眼は此をみる。
03   日女御前の御身の内心に宝塔品まします凡夫は見ずといへども釈迦・多宝・十方の諸仏は御らんあり、日蓮又此
04 をすいす・あらたうとし・たうとし、周の文王は老たる者をやしなひていくさに勝ち、其の末・三十七代・八百年の
05 間すゑずゑは・ ひが事ありしかども 根本の功によりてさかへさせ給ふ、 阿闍世王は大悪人たりしかども父びん
06 ばさら王の仏を数年やしなひまいらせし故に 九十年の間・位を持ち給いき、 当世も又かくの如く法華経の御かた
07 きに成りて候代なれば須臾も持つべしとは・みえねども・故権の大夫殿・武蔵の前司入道殿の御まつりごと・いみじ
08 くて暫く安穏なるか、其も始終は法華経の敵と成りなば叶うまじきにや。
09   此の人人の御僻案には念仏者等は法華経にちいんなり日蓮は念仏の敵なり、 我等は何れをも信じたりと云云、
10 日蓮つめて云く代に大禍なくば古にすぎたる疫病・飢饉・大兵乱はいかに、 召も決せずして法華経の行者を二度ま
11 で大科に行ひしは・いかに・不便・不便、而るに女人の御身として法華経の御命をつがせ給うは釈迦・多宝・十方の
12 諸仏の御父母の御命をつがせ給うなり此の功徳をもてる人・一閻浮提に有るべしや、恐恐謹言。
13       六月二十五日                               日蓮花押
14     日女御前御返事
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01 然るに今宿善薫発して 出家せる人の還俗の心付きて落つるならば・ 彼の五逆罪の人よりも罪深くして大地獄に堕
02 つべしと申す経文なり、 能く能く此の文を御覧じて思案あるべし、 我が身は天よりもふらず地よりも出でず父母
03 の肉身を分たる身なり、 我が身を損ずるは父母の身を損ずるなり、 此の道理を弁へて親の命に随ふを孝行と云う
04 親の命に背くを不孝と申すなり、 所詮心は兎も角も起れ身をば教の如く 一期出家にてあらば 自ら冥加も有るべ
05 し、 此の理に背きて還俗せば仏天の御罰を蒙り現世には浅ましくなりはて 後生には三悪道に堕ちぬべし、 能く
06 能く思案あるべし、 身は無智無行にもあれ形出家にてあらば 里にも喜び某も祝著たるべし、 況や能き僧にて候
07 はんをや、委細の趣・後音を期し候。
08       弘安二年五月 日                            日蓮花押
妙一尼御前御消息    建治元年五月    五十四歳御作   
01   妙一尼御前
02   夫れ天に月なく日なくば草木いかでか生ずべき、人に父母あり一人もかけば子息等そだちがたし、 其の上過去
03 の聖霊は或は病子あり或は女子あり、 とどめをく母もかいがいしからず、 たれにいゐあつけてか冥途にをもむき
04 給いけん。
05   大覚世尊・御涅槃の時なげいてのたまはく・我涅槃すべし但心にかかる事は阿闍世王のみ、迦葉童子菩薩・仏に
06 申さく仏は平等の慈悲なり 一切衆生のためにいのちを惜み給うべし、 いかにかきわけて阿闍世王一人と・をほせ
07 あるやらんと問いまいらせしかば、 其の御返事に云く「譬えば一人にして七子有り 是の七子の中に一子病に遇え
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01 り、父母の心平等ならざるには非ず、 然れども病子に於ては心則ち偏に重きが如し」等云云、 天台摩訶止観に此
02 の経文を釈して云く 「譬えば七子の父母平等ならざるには非ず 然れども病者に於ては心則ち偏に重きが如し」等
03 云云・とこそ仏は答えさせ給いしか、 文の心は人にはあまたの子あれども父母の心は病する子にありとなり、 仏
04 の御ためには 一切衆生は皆子なり其の中罪ふかくして 世間の父母をころし仏経のかたきとなる者は 病子のごと
05 し、 しかるに阿闍世王は摩竭提国の主なり・我が大檀那たりし頻婆舎羅王をころし 我がてきとなりしかば天もす
06 てて日月に変いで地も頂かじとふるひ・ 万民みな仏法にそむき・他国より摩竭国をせむ、此等は偏に悪人・提婆達
07 多を師とせるゆへなり、 結句は今日より悪瘡身に出て三月の七日・無間地獄に堕つべし、これがかなしければ我涅
08 槃せんこと心にかかるというなり、我阿闍世王をすくひなば一切の罪人・阿闍世王のごとしと・なげかせ給いき。
09   しかるに聖霊は或は病子あり或は女子あり・ われすてて冥途にゆきなばかれたる朽木のやうなるとしより尼が
10 一人とどまり此の子どもをいかに心ぐるしかるらんと・なげかれぬらんとおぼゆ、 かの心の・かたがたには又は日
11 蓮が事・心にかからせ給いけん、 仏語むなしからざれば法華経ひろまらせ給うべし、 それについては此の御房は
12 いかなる事もありて・いみじくならせ給うべしとおぼしつらんに、 いうかいなく・ながし失しかばいかにや・いか
13 にや法華経十羅刹はとこそ・をもはれけんに、 いままでだにも・ながらえ給いたりしかば日蓮がゆりて候いし時い
14 かに悦ばせ給はん。
15   又いゐし事むなしからずして・大蒙古国もよせて国土もあやをしげになりて候へばいかに悦び給はん、 これは
16 凡夫の心なり、 法華経を信ずる人は冬のごとし冬は必ず春となる、 いまだ昔よりきかず・みず冬の秋とかへれる
17 事を、いまだきかず法華経を信ずる人の凡夫となる事を、経文には「若有聞法者無一不成仏」ととかれて候。
18   故聖霊は法華経に命をすてて・をはしき、 わづかの身命をささえしところを法華経のゆへにめされしは命をす
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01 つるにあらずや、 彼の雪山童子の半偈のために身をすて薬王菩薩の臂をやき給いしは 彼は聖人なり火に水を入る
02 るがごとし、 此れは凡夫なり紙を火に入るるがごとし・此れをもつて案ずるに 聖霊は此の功徳あり、大月輪の中
03 か大日輪の中か天鏡をもつて妻子の身を浮べて 十二時に御らんあるらん、 設い妻子は凡夫なれば此れをみずきか
04 ず、 譬へば耳しゐたる者の雷の声をきかず目つぶれたる者の日輪を見ざるがごとし、 御疑あるべからず定めて御
05 まほりとならせ給うらん・其の上さこそ御わたりあるらめ。
06   力あらばとひまひらせんと・ をもうところに衣を一つ給ぶでう存外の次第なり、法華経はいみじき御経にてを
07 はすれば・ もし今生にいきある身ともなり候いなば 尼ごぜんの生きてをわしませ、 もしは草のかげにても御ら
08 んあれ、をさなききんだち等をばかへり見たてまつるべし。
09   さどの国と申しこれと申し下人一人つけられて候は・いつの世にかわすれ候べき、此の恩は・かへりて・つかへ
10 たてまつり候べし、南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経・恐恐謹言。
11       五月 日                                  日蓮花押
12      妙一尼御前
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妙一尼御前御返事    弘安三年五月    五十九歳御作
01   夫信心と申すは別にはこれなく候、妻のをとこをおしむが如くをとこの妻に命をすつるが如く、 親の子をすて
02 ざるが如く・子の母にはなれざるが如くに、 法華経釈迦多宝・十方の諸仏菩薩・諸天善神等に信を入れ奉りて南無
03 妙法蓮華経と唱へたてまつるを信心とは申し候なり、 しかのみならず正直捨方便・ 不受余経一偈の経文を女のか
04 がみをすてざるが如く・男の刀をさすが如く、すこしもすつる心なく案じ給うべく候、あなかしこ・あなかしこ。
05       五月十八日                      日 蓮 花 押
06     妙一尼御前御返事
妙一女御返事    弘安三年七月    五十九歳御作
01   問うて云く、日本国に六宗・七宗・八宗有り何れの宗に即身成仏を立つるや、答えて云く伝教大師の意は唯法華
02 経に限り弘法大師の意は唯真言に限れり、 問うて云く其の証拠如何、 答えて云く伝教大師の秀句に云く「当に知
03 るべし他宗所依の経には都て即身入無し 一分即入すと雖も八地已上に推して凡夫身を許さず 天台法華宗のみ具に
04 即入の義有り」云云、又云く「能化・所化倶に歴劫無し妙法経力即身成仏す」等云云、又云く「当に知るべし此の文
05 に成仏する所の人を問うて此の経の威勢を顕すなり」と等云云、此の釈の心は即身成仏は唯法華経に限るなり。
06   問うて云く弘法大師の証拠如何、 答えて云く弘法大師の二教論に云く「菩提心論に云く唯真言法の中に即身成
07 仏する故は是れ三摩地の法を説くなり 諸教の中に於て闕いて書さず、 諭して曰く此の論は竜樹大聖の所造千部の
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01 論の中に秘蔵・肝心の論なり此の中に諸教と謂うは他受用身及び変化身等の所説の法・諸の顕教なり、 是れ三摩地
02 の法を説くとは自性法身の所説・秘密真言の三摩地の行是なり金剛頂十万頌の経等と謂う是なり」
03   問うて云く此の両大師所立の義・水火なり何れを信ぜんや、 答えて云く此の二大師は倶に大聖なり同年に入唐
04 して両人同じく真言の密教を伝受す、 伝教大師の両界の師は順暁和尚・弘法大師の両界の師は慧果和尚・順暁・慧
05 果の二人倶に不空の御弟子なり、 不空三蔵は大日如来六代の御弟子なり、 相伝と申し本身といひ世間の重んずる
06 事日月のごとし、 左右の臣にことならず末学の膚にうけて是非しがたし、 定めて悪名天下に充満し大難を其の身
07 に招くか然りと雖も 試に難じて両義の是非を糾明せん、 問うて云く弘法大師の即身成仏は真言に限ること何れの
08 経文何れの論文ぞや、 答えて云く弘法大師は竜樹菩薩の菩提心論に依るなり、問うて云く其の証拠如何、 答えて
09 云く弘法大師の二教論に菩提心論を引いて云く 「唯真言法の中のみ乃至諸教の中に於て闕いて書さず」云云、 問
10 うて云く経文有りや、 答えて云く弘法大師の即身成仏義に云く 「六大無礙にして常に瑜伽なり四種の曼荼各離れ
11 ず三密加持すれば速疾に顕る重重にして 帝網の如くなるを即身と名く、 法然として薩般若を具足す心王心数刹塵
12 に過たり各五智無際智を具す円鏡力の故に実の覚智なり」等云云、 疑つて云く此の釈は何れの経文に依るや、 答
13 えて云く金剛頂経大日経等に依る、 求めて云く其の経文如何、 答えて云く弘法大師其の証文を出して云く「此の
14 三昧を修する者は現に仏菩提を証す」文、 又云く「此の身を捨てずして神境通を逮得し大空位に遊歩して身秘密を
15 成す」文、又云く「我本より不生なるを覚る」文、又云く「諸法は本より不生なり」云云。
16   難じて云く 此等の経文は大日経金剛頂経の文なり、 然りと雖も経文は或は大日如来の成正覚の文・或は真言
17 の行者の現身に五通を得るの文・ 或は十回向の菩薩の現身に歓喜地を証得する文にして 猶生身得忍に非ず何に況
18 や即身成仏をや、但し菩提心論は一には経に非ず論を本とせば背上向下の科・依法不依人の仏説に相違す。
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01   東寺の真言師日蓮を悪口して云く汝は凡夫なり弘法大師は三地の菩薩なり、 汝未だ生身得忍に非ず弘法大師は
02 帝の眼前に即身成仏を現ず、 汝未だ勅宣を承けざれば大師にあらず 日本国の師にあらず等云云是一、慈覚大師は
03 伝教・義真の御弟子・智証大師は義真・慈覚の御弟子・安然和尚は安慧和尚の御弟子なり、此の三人の云く法華天台
04 宗は理秘密の即身成仏・真言宗は事理倶密の即身成仏と云云、 伝教弘法の両大師何れも・をろかならねども聖人は
05 偏頗なきゆへに・慈覚・智証・安然の三師は伝教の山に栖むといへども其の義は弘法東寺の心なり、随つて日本国・
06 四百余年は異義なし 汝不肖の身として・いかんが此の悪義を存ずるや是二、 答えて云く悪口をはき悪心ををこさ
07 ば汝にをいては此の義申すまじ、 正義を聞かんと申さば申すべし、 但し汝等がやうなる者は物をいはずば・つま
08 りぬとをもうべし、いうべし悪心を・をこさんよりも悪口を・なさんよりも・きらきらとして候経文を出して・汝が
09 信じまいらせたる弘法大師の義をたすけよ、 悪口・悪心をもて・をもうに経文には即身成仏無きか、但し慈覚・智
10 証・安然等の事は此れ又覚証の両大師・日本にして教大師を信ずといへども、 漢土にわたりて有りし時・元政・法
11 全等の義を信じて心には教大師の義をすて、身は其の山に住すれども・いつわりてありしなり。
12   問うて云く汝が此の義は・いかにして・をもひいだしけるぞや、答えて云く伝教大師の釈に云く「当に知るべし
13 此の文は成仏する所の人を問うて此の経の威勢を顕すなり」と・かかれて候は、 上の提婆品の我於海中の経文を・
14 かきのせてあそばして候、釈の心は・いかに人申すとも即身成仏の人なくば用ゆべからずと・かかせ給へり、いかに
15 も純円一実の経にあらずば即身成仏は・あるまじき道理あり、 大日経・金剛頂経等の真言経には其の人なし・又経
16 文を見るに兼・但・対・帯の旨分明なり、二乗成仏なし久遠実成あとをけづる、慈覚.智証は善無畏・金剛智.不空三
17 蔵の釈にたぼらかされて・をはするか、 此の人人は賢人・聖人とは・をもへども遠きを貴んで近きをあなづる人な
18 り、 彼の三部経に印と真言とあるに・ばかされて大事の即身成仏の道をわすれたる人人なり、然るを当時・叡山の
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01 人人・法華経の即身成仏のやうを申すやうなれども慈覚大師・安然等の即身成仏の義なり、 彼の人人の即身成仏は
02 有名無実の即身成仏なり 其の義専ら伝教大師の義に相違せり、 教大師は分段の身を捨てても捨てずしても法華経
03 の心にては即身成仏なり、 覚大師の義は分段の身をすつれば即身成仏にあらずと・をもはれたるが・あへて即身成
04 仏の義をしらざる人人なり。
05   求めて云く慈覚大師は伝教大師に値い奉りて習い相伝せり・汝は四百余年の年紀をへだてたり如何、 答えて云
06 く師の口より伝うる人必ずあやまりなく後にたづね・ あきらめたる人をろそかならば 経文をすてて四依の菩薩に
07 つくべきか、 父母の譲り状をすてて口伝を用ゆべきか、 伝教大師の御釈無用なり 慈覚大師の口伝真実なるべき
08 か、伝教大師の秀句と申す御文に一切経になき事を十いだされて候に・ 第八に即身成仏化導勝とかかれて 次下に
09 「当に知るべし 此の文成仏する所の人を問うて此の経の威勢を顕すなり、 乃至当に知るべし他宗所依の経には都
10 て即身入無し」等云云、此の釈を背きて覚大師の事理倶密の大日経の即身成仏を用ゆべきか。
11   求めて云く教大師の釈の中に菩提心論の唯の字を用いざる釈有りや不や、 答えて云く秀句に云く「能化所化倶
12 に歴劫無く妙法経力即身成仏す」等云云、 此の釈は菩提心論の唯の字を用いずと見へて候、 問うて云く菩提心論
13 を用いざるは竜樹を用いざるか 答えて云く但恐くは訳者の曲会私情の心なり、 疑つて云く訳者を用いざれば法華
14 経の羅什をも用ゆ可からざるか、 答えて云く羅什には現証あり不空には現証なし、問うて云く其の証如何、 答え
15 て云く舌の焼けざる証なり具には聞くべし、 求めて云く覚・証等は此の事を知らざるか、 答えて云く此の両人は
16 無畏等の三蔵を信ずる故に伝教大師の正義を用いざるか、此れ則ち人を信じて法をすてたる人人なり。
17   問うて云く日本国にいまだ覚・証・然等を破したる人をきかず如何、答えて云く弘法大師の門家は覚・証を用ゆ
18 べしや・覚・証の門家は弘法大師を用ゆべしや。
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01   問うて云く両方の義相違すといへども汝が義のごとく水火ならず誹謗正法とはいわず如何、 答えて云く誹謗正
02 法とは其の相貌如何・外道が仏教をそしり・小乗が大乗をそしり・権大乗が実大乗を下し・実大乗が権大乗に力をあ
03 わせ・詮ずるところは勝を劣という・法にそむくがゆへに謗法とは申すか、 弘法大師の大日経を法華経華厳経に勝
04 れたりと申す証文ありや、 法華経には華厳経・大日経等を下す文分明なり、 所謂已今当等なり、弘法尊しと雖も
05 釈迦多宝十方分身の諸仏に背く大科免れ難し事を権門に寄せて 日蓮ををどさんより但正しき文を出だせ、 汝等は
06 人をかたうどとせり・日蓮は日月・帝釈・梵王を・かたうどとせん、日月・天眼を開いて御覧あるべし、将又日月の
07 宮殿には法華経と大日経と華厳経とをはすと・けうしあわせて御覧候へ、弘法・慈覚・智証・安然の義と日蓮が義と
08 は何れがすぐれて候、 日蓮が義もし百千に一つも道理に叶いて候はば・いかに・たすけさせ給はぬぞ彼の人人の御
09 義もし邪義ならば・いかに日本国の一切衆生の無眼の報をへ候はんをば不便とはをぼせ候はぬぞ。
10   日蓮が二度の流罪結句は頚に及びしは釈迦・多宝・十方の諸仏の御頚を切らんとする人ぞかし日月は一人にてを
11 はせども四天下の一切衆生の眼なり命なり、 日月は仏法をなめて威光勢力を増し給うと見へて候、 仏法のあぢわ
12 いをたがうる人は日月の御力をうばう人・ 一切衆生の敵なり、 いかに日月は光を放ちて 彼等が頂をてらし寿命
13 と衣食とを・あたへて・やしなひ給うぞ、 彼の三大師の御弟子等が法華経を誹謗するは偏に日月の御心を入れさせ
14 給いて謗ぜさせ給うか、 其の義なくして日蓮が・ひが事ならば日天もしめし彼等にもめしあはせ・其の理にまけて
15 ありとも其の心ひるがへらずば・天寿をも・めしとれかし。
16   其の義はなくしてただ理不尽に彼等にさるの子を犬にあづけねづみの子をネコにたぶやうに・うちあづけて・さ
17 んざんにせめさせ給いて彼等を罰し給はぬ事・心へられず、 日蓮は日月の御ためには・をそらくは大事の御かたき
18 なり、教主釈尊の御前にて・かならず・うたへ申すべし、 其の時うらみさせ給うなよ、日月にあらずとも地神も海
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01 神も・きかれよ日本の守護神も・きかるべし、あへて日蓮が曲意はなきなり、いそぎいそぎ御計らいあるべし、 ち
02 ちせさせ給いて日蓮をうらみさせ給うなよ、南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経、恐恐。
03       七月十四日                       日蓮花押
04     妙一女御返事
妙一女御返事    弘安三年十月    五十九歳御作
01   去る七月中旬の比、真言・法華の即身成仏の法門・大体註し進らせ候、其の後は一定法華経の即身成仏を御用い
02 候らん、 さなく候ては当世の人人の得意候・無得道の即身成仏なるべし不審なり、 先日書きて進らせ候いし法門
03 能く心を留めて御覧あるべし、 其の上即身成仏と申す法門は 世流布の学者は 皆一大事とたしなみ申す事にて候
04 ぞ、就中予が門弟は万事をさしをきて此の一事に心を留む可きなり。
05   建長五年より今弘安三年に至るまで 二十七年の間・在在処処にして申し宣べたる法門繁多なりといへども所詮
06 は只此の一途なり、 世間の学者の中に真言家に立てたる即身成仏は 釈尊所説の四味三教に接入したる大日経等の
07 三部経に・ 別教の菩薩の授職潅頂を至極の即身成仏等と思う、 是は七位の中の十回向の菩薩の歓喜地を証得せる
08 体為なり、全く円教の即身成仏の法門にあらず、仮令経文にあるよしをノノシるとも歓喜行証得の上に得たるところ
09 の功徳を沙汰する分斉にてあるなり、 是れ十地の菩薩の因分の所行にして十地等覚は果分を知らず、 円教の心を
10 以て奪つていへば六即の中の名字観行の一念に同じ、 与えて云う時は観行即の事理和融にして 理慧相応の観行に
11 及ばず、 或は菩提心論の文により・或は大日経の三部の文によれども即身成仏にこそ・あらざらめ・生身得忍にだ
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01 にも云いよせざる法門なり。
02   されば世間の人人は菩提心論の唯真言法中の文に落されて即身成仏は真言宗に限ると思へり、 之に依つて正し
03 く即身成仏を説き給いたる法華経をば戯論等云云、 止観五に云く 「設し世を厭う者も下劣の乗を翫んで枝葉に攀
04 附す狗作務に狎れビ猴を敬いて帝釈と為し 瓦礫を崇めて是れ明珠とす此の黒闇の人豈道を論ず可けんや」等云云、
05 此の意なるべし、歎かわしきかな華厳.真言・法相の学者・徒に・いとまをついやし.即身成仏の法門をたつる事よ、
06 夫れ先ず法華経の即身成仏の法門は 竜女を証拠とすべし、 提婆品に云く「須臾の頃に於て便ち正覚を成ず」等云
07 云乃至「変じて男子と成る」と、 又云く「即ち南方無垢世界に往く」云云、 伝教大師云く「能化の竜女も歴劫の
08 行無く所化の衆生も亦歴劫無し能化所化倶に歴劫無し 妙法経力即身成仏す」等云云、 又法華経の即身成仏に二種
09 あり迹門は理具の即身成仏・ 本門は事の即身成仏なり、 今本門の即身成仏は当位即妙本有不改と断ずるなれば肉
10 身を其のまま本有無作の三身如来と云える是なり、 此の法門は一代諸教の中に之無 し文句に云く「諸教の中に於
11 て之を秘して伝えず」等云云。
12   又法華経の弘まらせ給うべき時に二度有り所謂在世と末法となり、 修行に又二意有り仏世は純円一実・滅後末
13 法の今の時は一向本門の弘まらせ給うべき時なり、 迹門の弘まらせ給うべき時は已に過ぎて二百余年になり、 天
14 台伝教こそ 其の能弘の人にてましまし候いしかどもそれもはや入滅し給いぬ、 日蓮は今時を得たり豈此の所嘱の
15 本門を弘めざらんや、本迹二門は機も法も時も遥に各別なり。
16   問うて云く日蓮計り此の事を知るや、答えて云く「天親・竜樹・内鑑冷然」等云云、天台大師云く「後の五百歳
17 遠く妙道に沾わん」伝教大師云く 「正像稍過ぎ已つて末法太だ近きに有り法華一乗の機今正しく是れ其の時なり、
18 何を以て知ることを得んや、 安楽行品に云く末世法滅の時」云云、此等の論師人師・末法闘諍堅固の時・地涌出現
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01 し給いて本門の肝心たる 南無妙法蓮華経の弘まらせ給うべき時を知りて・ 恋させ給いて是くの如き釈を設けさせ
02 給いぬ、尚尚即身成仏とは迹門は能入の門・本門は即身成仏の所詮の実義なり、迹門にして得道せる人人・種類種・
03 相対種の成仏・何れも其の実義は本門寿量品に限れば常にかく観念し給へ・正観なるべし。
04   然るにさばかりの上代の人人だにも即身成仏には取り煩はせ給いしに、 女人の身として度度此くの如く法門を
05 尋ねさせ給う事は偏に只事にあらず、教主釈尊御身に入り替らせ給うにや.竜女が跡を継ぎ給うか.又キョウ曇弥女の
06 二度来れるか、知らず御身は忽に五障の雲晴れて寂光の覚月を詠め給うべし、委細は又又申す可く候。
07       弘安三年十月五日                  日 蓮 花 押
08     妙一女御返事
日厳尼御前御返事    弘安三年十一月    五十九歳御作
01   弘安三年十一月八日、 尼日厳の立て申す立願の願書並びに御布施の銭一貫文又たふかたびら一つ法華経の御宝
02 前並びに日月天に申し上げ候い畢んぬ、 其の上は私に計り申すに及ばず候 叶ひ叶はぬは御信心により候べし全く
03 日蓮がとがにあらず、 水すめば月うつる風ふけば木ゆるぐごとく・ みなの御心は水のごとし信のよはきはにごる
04 がごとし、信心の・いさぎよきはすめるがごとし、 木は道理のごとし・風のゆるがすは経文をよむがごとしと・を
05 ぼしめせ、恐恐。
06       十一月二十九日                   日 蓮 花 押
07     日厳尼御前御返事
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王日女殿御返事    弘安三年    五十九歳御作
01   弁房の便宜に三百文今度二百文給び畢んぬ、 仏は真に尊くして物によらず、 昔の得勝童子は沙の餅を仏に供
02 養し奉りて 阿育大王と生れて一閻浮提の主たりき、 貧女の我がかしらをおろして油と成せしが須弥山を吹きぬき
03 し風も此の火をけさず、 されば此の二三の鵞目は日本国を知る人の国を寄せ七宝の塔をトウ利天にくみあげたらん
04 にも・すぐるべし、法華経の一字は大地の如し万物を出生す、 一字は大海の如し衆流を納む・一字は日月の如し四
05 天下を照す、 此の一字変じて仏となる、稲変じて苗となる・苗変じて草となる・草変じて米となる・米変じて人と
06 なる・人変じて仏となる・女人変じて妙の一字となる・妙の一字変じて台上の釈迦仏となるべし、 南無妙法蓮華経
07 南無妙法蓮華経、恐恐謹言。
08       王日殿                       日蓮花押
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御輿振御書    文永元年三月    四十三歳御作   与三位公日行
01   御文並びに御輿振の日記給び候いぬ悦び入つて候、中堂炎上の事・其の義に候か山門破滅の期・其の節に候か、
02 此等も其の故無きに非ず天竺には祇園精舎・ケイ頭摩寺・漢土には天台山・正像二千年の内に以て滅尽せり、今末法
03 に当つて日本国計りに叡山有り三千界の中の但此の処のみ有るか、 定めて悪魔一跡に嫉を留むるか、 小乗権教の
04 輩も之を妬むか、随つて禅僧・律僧・念仏者・王臣に之を訴へ三千人の大衆は我が山・破滅の根源とも知らず師檀共
05 に破国・破仏の因縁に迷えり、 但恃む所は妙法蓮華経第七の巻の後五百歳・於閻浮提・広宣流布の文か、又伝教大
06 師の「正像稍過ぎ已つて末法太だ近きに有り 法華一乗の機・今正しく是れ其の時なり」の釈なり、滅するは生ぜん
07 が為下るは登らんが為なり、 山門繁昌の為に是くの如き留難を起すか、 事事紙面に尽し難し 早早見参を期す、
08 謹言。
09       三月一日                      日 蓮 花 押
10     御返事
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法門申さるべき様の事   文永六年   四十八歳御作  与三位公日行
01   法門申さるべきやう、 選択をば・うちをきて先ず法華経の第二の巻の今此三界の文を開いて釈尊は我等が親父
02 なり等定め了るべし、 何の仏か我等が父母にてはをはします、 外典三千余巻にも忠孝の二字こそせんにて候なれ
03 忠は又孝の家より出ずとこそ申し候なれ、 されば外典は内典の初門・此の心は内典にたがわず候か、人に尊卑・上
04 下はありといえども 親を孝するにはすぎずと定められたるか、 釈尊は我等が父母なり一代の聖教は父母の子を教
05 えたる教経なるべし、 其の中に天上・竜宮・天竺なんどには無量無辺の御経ましますなれども、漢土日本にはわづ
06 かに五千・七千余巻なり、此等の経経の次第・勝劣等は私には弁えがたう候、而るに論師・大師・先徳には末代の人
07 の智慧こへがたければ彼の人人の料簡を用ゆべきかのところに、 華厳宗の五教四教・法相三論の三時二蔵・或は三
08 転法輪・世尊法久後要当説真実の文は又法華経より出て候・金口の明説なり、 仏説すでに大に分れて二途なり、譬
09 へば世間の父母の譲の前判後判のごとし、 はた又世間の前判後判は如来の金言をまなびたるか、 孝不孝の根本は
10 前判後判の用不用より事をこれり、かう立て申すならば人人さもやと・をぼしめしたらん時申すべし。
11   抑浄土の三部経等の諸宗の依経は 当分四十余年の内なり、 世尊は我等が慈父として未顕真実ぞと定めさせ給
12 ふ御心は・かの四十余年の経経に付けとをぼしめし候か、 又説真実の言にうつれとをぼしめし候か、 心あらん人
13 人・御賢察候べきかと・しばらくあぢわひてよも仏程の親父の一切衆生を 一子とをぼしめすが真実なる事をすてて
14 未顕真実の不実なる事に付けとは・ をぼしめさじ、 さて法華経にうつり候はんは四十余年の経経をすてて遷り候
15 べきか、 はた又かの経経並びに南無阿弥陀仏等をば・すてずして遷り候べきかと・おぼしきところに凡夫の私の・
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01 はからいぜひにつけてをそれあるべし、 仏と申す親父の仰を仰ぐべしと・まつところに仏定めて云く 「正直捨方
02 便」等云云、 方便と申すは無量義経に未顕真実と申す上に以方便力と申す方便なり、 以方便力の方便の内に浄土
03 三部経等の四十余年の一切経は一字一点も漏るべからざるか、 されば四十余年の経経をすてて 法華経に入らざら
04 ん人人は世間の孝不孝はしらず 仏法の中には第一の不孝の者なるべし 、故に第二譬喩品に云く「今此三界乃至雖
05 復教詔而不信受」等云云、 四十余年の経経をすてずして法華経に並べて行ぜん人人は 主師親の三人のをほせを用
06 いざる人人なり。
07   教と申すは師親のをしへ詔と申すは主上の詔勅なるべし、仏は閻浮第一の賢王・聖師・賢父なり、されば四十余
08 年の経経につきて法華経へうつらず、 又うつれる人人も彼の経経をすてて・ うつらざるは三徳備えたる親父の仰
09 を用いざる人・天地の中に住むべき者にはあらず、 この不孝の人の住処を経の次下に定めて云く 「若人不信乃至
10 其人命終入阿鼻獄」等云云、 設い法華経をそしらずとも・うつり付ざらん人人・不孝の失疑なかるべし、不孝の者
11 は又悪道疑なし 故に仏は入阿鼻獄と定め給いぬ、 何に況や爾前の経経に執心を固なして法華経へ遷らざるのみな
12 らず、 善導が千中無一・法然が捨閉閣抛とかけるは・あに阿鼻地獄を脱るべしや、其の所化並びに檀那は又申すに
13 及ばず、 雖復教詔而不信受と申すは孝に二つあり・世間の孝の孝不孝は外典の人人これをしりぬべし、 内典の孝
14 不孝は設い論師等なりとも 実教を弁えざる権教の論師の 流を受けたる末の論師なんどは 後生しりがたき事なる
15 べし、何に況や末末の人人をや。
16   涅槃経の三十四に云く「人身を受けん事は爪上の土.三悪道に堕ちん事は十方世界の土・四重・五逆.乃至涅槃経
17 を謗ずる事は十方世界の土・四重・五逆乃至涅槃経を信ずる事は爪の上の土」なんどととかれて候、 末代には五逆
18 の者と謗法の者は十方世界の土のごとしと・みへぬ、 されども当時五逆罪つくる者は爪の上の土・つくらざる者は
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01 十方世界の土と説かれ候へば・ 経文そらごとなるやうにみへ候をくはしくかんがへみ候へば・不孝の者を五逆罪の
02 者とは申し候か、又相似の五逆と申す事も候、 さるならば前王の正法・実法を弘めさせ給えと候を今の王の権法・
03 相似の法を尊んで 天子本命の道場たる正法の御寺の御帰依うすくして、 権法・邪法の寺の国国に多くいできたれ
04 るは、 愚者の眼には仏法繁盛とみへて仏天智者の御眼には古き正法の寺寺やうやくうせ候へば・ 一には不孝なる
05 べし賢なる父母の氏寺をすつるゆへ・二には謗法なるべし、 若ししからば日本国・当世は国一同に不孝謗法の国な
06 るべし、 此の国は釈迦如来の御所領・仏の左右臣下たる大梵天王・第六天の魔王にたはせ給いて大海の死骸をとど
07 めざるがごとく・宝山の曲林をいとうがごとく・此の国の謗法をかへんとおぼすかと勘え申すなりと申せ。
08   この上捨てられて候・四十余年の経経の今に候はいかになんど俗の難せば返詰して申すべし、 塔をくむあしし
09 ろは塔くみあげては切りすつるなりなんど申すべし、 此の譬は玄義の第二の文に 「今の大教若し起れば方便の教
10 絶す」と申す釈の心なり、 妙と申すは絶という事・絶と申す事は此の経起れば 已前の経経を断止ると申す事なる
11 べし、 正直捨方便の捨の文字の心・又嘉祥の日出ぬるに星かくるの心なるべし、 但し爾前の経経は塔のあししろ
12 なれば切りすつるとも・又塔をすりせん時は用ゆべし又切りすつべし、三世の諸仏の説法の儀式かくのごとし。
13   又俗の難に云く慈覚大師の常行堂等の難これをば答うべし、 内典の人・外典をよむ得道のためにはあらず才学
14 のためか、 山寺の小児の倶舎の頌をよむ得道のためか、 伝教・慈覚は八宗を極め給へり一切経をよみ給う、これ
15 みな法華経を詮と心へ給はん梯磴なるべし。
16   又俗の難に云く何にさらば御房は念仏をば申し給はぬ、 答えて云く伝教大師は二百五十戒をすて給いぬ・時に
17 あたりて 法華円頓の戒にまぎれしゆへなり、 当世は諸宗の行多けれども時にあたりて念仏をもてなして法華経を
18 謗ずるゆえに金石迷いやすければ唱え候はず、 例せば仏十二年が間・常楽我浄の名をいみ給いき、 外典にも寒食
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01 のまつりに火をいみ・あかき物をいむ、 不孝の国と申す国をば孝養の人はとをらず、此等の義なるべし、 いくた
02 びも選択をばいろへずして先ずかうたつべし。
03   又御持仏堂にて法門申したりしが面目なんどかかれて候事・ かへすがへす不思議にをぼへ候、そのゆへは僧と
04 なりぬ其の上一閻浮提にありがたき法門なるべし、 設い等覚の菩薩なりとも・なにとかをもうべき、まして梵天・
05 帝釈等は我等が親父・ 釈迦如来の御所領をあづかりて正法の僧をやしなうべき者につけられて候、 毘沙門等は四
06 天下の主此等が門まほり・ 又四州の王等は毘沙門天が所従なるべし、 其の上日本秋津嶋は四州の輪王の所従にも
07 及ばず・ 但嶋の長なるべし、 長なんどにつかへん者どもに召されたり上なんどかく上・ 面目なんど申すは・旁
08 せんずるところ日蓮をいやしみてかけるか、 総じて日蓮が弟子は京にのぼりぬれば 始はわすれぬやうにて後には
09 天魔つきて物にくるうせう房がごとし、わ御房もそれていになりて天のにくまれかほるな。
10   のぼりていくばくもなきに実名をかうるでう物くるわし、 定めてことばつき音なんども京なめりになりたるら
11 ん、ねずみがかわほりになりたるやうに・鳥にもあらずねずみにもあらず・ 田舎法師にもあらず京法師にもにず・
12 せう房がやうになりぬとをぼゆ、 言をば但いなかことばにてあるべし・なかなか・あしきやうにて有るなり、尊成
13 とかけるは隠岐の法皇の御実名かかたがた不思議なるべし。
14   かつ.しられて候やうに当世の高僧・真言・天台等の人人の御いのりは叶うまじきよし、前前に申し候上.今年鎌
15 倉の真言師等は去年より変成男子の法をこなはる、 隆弁なんどは自歎する事かぎりなし、 七八百余人の真言師・
16 東寺・天台の大法・秘法尽して行ぜしが・ついにむなしくなりぬ、禅宗・律僧等又一同に行いしかどもかなはず、日
17 蓮が叶うまじと申すとて 不思議なりなんどをどし候いしかども皆むなしくなりぬ、 小事たる今生の御いのりの叶
18 はぬを用つてしるべし・大事たる後生叶うべしや。
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01   真言宗の漢土に弘まる始は天台の一念三千を盗み取つて 真言の教相と定めて理の本とし・枝葉たる印真言を宗
02 と立て宗として天台宗を立て下す条・謗法の根源たるか、又華厳・法相・三論も天台宗・日本になかりし時は謗法と
03 も・しられざりしが・伝教大師円宗を勘えいだし給いて後謗法の宗とも・しられたりしなり、 当世真言等の七宗の
04 者しかしながら謗法なれば 大事のいのり叶うべしとも・をぼへず、 天台宗の人人は我が宗は正なれども邪なる他
05 宗と同ずれば我が宗の正をも・ しらぬ者なるべし、 譬へば東に迷う者は対当の西に迷い東西に迷うゆへに十方に
06 迷うなるべし。
07   外道の法と申すは本内道より出でて候、而れども外道の法をもつて内道の敵となるなり、 諸宗は法華経よりい
08 で天台宗を才学として 而も天台宗を失うなるべし、 天台宗の人人は我が宗は実義とも知らざるゆへに我が宗のほ
09 ろび我が身のかろくなるをば・ しらずして他宗を助けて我が宗を失うなるべし、 法華宗の人が法華経の題目南無
10 妙法蓮華経とはとなえずして 南無阿弥陀仏と常に唱えば法華経を失う者なるべし、 例せば外道は三宝を立つ其の
11 中に仏宝と申すは 南無摩醯修羅天と唱えしかば仏弟子は翻邪の三帰と申して南無釈迦牟尼仏と申せしなり、 此れ
12 をもつて内外のしるしとす、 南無阿弥陀仏とは浄土宗の依経の題目なり、 心には法華経の行者と存すとも南無阿
13 弥陀仏と申さば傍輩は念仏者としりぬ、 法華経をすてたる人とをもうべし、 叡山の三千人は此の旨を弁えずして
14 王法にもすてられ叡山をもほろぼさんとするゆへに・自然に三宝に申す事叶わず等と申し給うべし。
15   人不審して云く天台・妙楽・伝教等の御釈に我がやうに法華経並びに一切経を心えざらん者は悪道に堕つべしと
16 申す釈やあると申さば、 玄の三・籤の三・及び已今当等をいだし給うべし、伝教大師六宗の学者・日本国の十四人
17 を呵して云く「顕戒論の下に云く昔斉朝の光統を聞き今は本朝の六統を見る、 実なるかな法華の何況や」等云云、
18 華厳・真言・法相・三論の四宗を呵して云く「依憑集に云く新来の真言家は即ち筆受の相承を泯ぼし、旧到の華厳家
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01 は則ち影響の軌模を隠す。 沈空の三論宗は弾訶の屈恥を忘れ称心の酔を覆う、 著有の法相宗は僕陽の帰依を非し
02 青竜の判経を撥う」等云云、 天台・妙楽・伝教等は真言等の七宗の人人は設い戒定はまつたくとも謗法のゆへに悪
03 道脱るべからずと定められたり、 何に況や禅宗・浄土宗等は勿論なるべし、 されば止観は偏に達磨をこそはして
04 候めれ、 而るに当世の天台宗の人人は諸宗に得道をゆるすのみならず 諸宗の行をうばい取つて我が行とする事い
05 かん、 当世の人人ことに真言宗を不審せんか立て申すべきやう、 日本国は八宗あり真言宗大に分れて二流あり所
06 謂東寺・天台なるべし、法相・三論・華厳・東寺の真言等は大乗宗・設い定慧は大乗なれども東大寺の小乗戒を持つ
07 ゆへに戒は小乗なるべし、 退大取小の者・小乗宗なるべし、 叡山の真言宗は天台円頓の戒をうく全真言宗の戒な
08 し、されば天台宗の円頓戒にをちたる真言宗なり等申すべし、 而るに座主等の高僧名を天台宗にかりて 一向真言
09 宗によて法華経をさぐるゆへに・叡山皆謗法になりて御いのりにしるしなきか。
10   問うて云く天台法華宗にたいして真言宗の名をけづらるる証文如何、答えて云く学生式に云く伝教大師作なり「
11 天台法華宗年分学生式一首年分度者の人柏原先帝天台法華宗伝法者に加えらる凡そ法華宗天台の年分は弘仁九年より
                                              叡山に住せしめて
12 一十二年山門を出さず両業を修学せしめん、 凡そ止観業の者○凡そ遮那業の者」等云云、 顕戒論縁起の上に云く
13 「新法華宗を加えんことを請う表一首、 沙門最澄○華厳宗に二人天台法華宗に二人」等云云、 又云く「天台の業
14 に二人一人大毘盧遮那経を読ましめ一人摩訶止観を読ましむ」此等は天台宗の内に真言宗をば入れて候こそ候めれ、
                                            嘉祥元年六月十五日の
15 格に云く「右入唐廻て請益す伝灯法師位円仁の表にイワく、 伏して天台宗の本朝に伝わることを尋ぬれば○延暦廿
16 四年○廿五年特天台の年分度者二人を賜う一人は真言の業を習わし 一人は止観の業を学す ○然れば則ち天台宗の
17 止観と真言との両業は 是れ桓武天皇の崇建する所」等云云、 叡山にをいては天台宗にたいしては真言宗の名をけ
18 づり・天台宗を骨とし真言をば肉となせるか。
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01   而るに末代に及びて天台・真言・両宗中あしうなりて骨と肉と分け座主は一向に真言となる骨なき者のごとし・
02 大衆は多分・天台宗なり肉なきもののごとし、 仏法に諍いあるゆへに世間の相論も出来して 叡山静ならず朝下に
03 わづらい多し、此等の大事を内内は存すべし、此の法門はいまだをしえざりき・よくよく存知すべし。
04   又念仏宗は法華経を背いて浄土の三部経につくゆへに阿弥陀仏を正として釈迦仏をあなづる、 真言師大日をせ
05 んとをもうゆへに釈迦如来をあなづる、 戒にをいては大小殊なれども釈尊を本とす余仏は証明なるべし、 諸宗殊
06 なりとも釈迦を仰ぐべきか、 師子の中の虫・師子をくらう、仏教をば外道はやぶりがたし 内道の内に事いできた
07 りて仏道を失うべし仏の遺言なり、 仏道の内には小乗をもつて大乗を失い権大乗をもつて実大乗を失うべし、 此
08 等は又外道のごとし、 又小乗・権大乗よりは実大乗・法華経の人人が・かへりて法華経をば失はんが大事にて候べ
09 し、 仏法の滅不滅は叡山にあるべし、 叡山の仏法滅せるかのゆえに異国・我が朝をほろぼさんとす、叡山の正法
10 の失するゆえに大天魔・ 日本国に出来して法然大日等が身に入り、 此等が身を橋として王臣等の御身にうつり住
11 み、かへりて叡山三千人に入るゆえに 師檀中不和にして御祈祷しるしなし、 御祈請しるしなければ三千の大衆等
12 檀那にすてはてられぬ。
13   又王臣等・天台.真言の学者に問うて云く念仏・禅宗等の極理は天台.真言とは一つかととはせ給へば、名は天台
14 真言にかりて其の心も弁えぬ高僧・天魔にぬかれて答えて云く、 禅宗の極理は天台真言の極理なり・弥陀念仏は法
15 華経の肝心なりなんど答え申すなり、 而るを念仏者・禅宗等のやつばらには 天魔乗りうつりて当世の天台真言の
16 僧よりも智慧かしこきゆえに全くしからず、 禅は・はるかに天台真言に超えたる極理なり、 或は云く「諸教は理
17 深我等衆生は解微なり、機教相違せり得道あるべからず」なんど申すゆへに、 天台・真言等の学者・王臣等・檀那
18 皆奪いとられて 御帰依なければ現身に餓鬼道に堕ちて友の肉をはみ・ 仏神にいかりをなし檀那をすそし年年に災
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01 を起し或は我が生身の本尊たる大講堂の教主釈尊をやきはらい 或は生身の弥勒菩薩をほろぼす、 進んでは教主釈
02 尊の怨敵となり・退いては当来弥勒の出世を過たんとくるい候か、 この大罪は経論にいまだとかれず、 又此の大
03 罪は叡山三千人の失にあらず公家武家の失となるべし。
04   日本一州・上下万人・一人もなく謗法なれば大梵天王・帝桓並びに天照大神等・隣国の聖人に仰せつけられて謗
05 法をためさんとせらるるか、 例せば国民たりし清盛入道・王法をかたぶけたてまつり結句は山王・大仏殿をやきは
06 らいしかば天照大神・正八幡・ 山王等よりきせさせ給いて・源の頼義が末の頼朝に仰せ下して平家をほろぼされて
07 国土安穏なりき、 今一国挙りて仏神の敵となれり、 我が国に此の国を領すべき人なきかのゆへに大蒙古国は起る
08 とみへたり、例せば震旦・高麗等は天竺についでは仏国なるべし、 彼の国国・禅宗・念仏宗になりて蒙古にほろぼ
09 されぬ、 日本国は彼の二国の弟子なり 二国のほろぼされんにあに此の国安穏なるべしや、国をたすけ家ををもは
10 ん人人はいそぎ禅・念がともがらを経文のごとくいましめらるべきか、 経文のごとくならば仏神・日本国にましま
11 さず、 かれを請しまいらせんと術はおぼろげならでは叶いがたし、 先ず世間の上下万人云く八幡大菩薩は正直の
12 頂にやどり給い別のすみかなし等云云、 世間に正直の人なければ大菩薩のすみかましまさず、 又仏法の中に法華
13 経計りこそ正直の御経にては・おはしませ、法華経の行者なければ大菩薩の御すみか・おはせざるか。
14   但し日本国には日蓮一人計りこそ世間・出世・正直の者にては候へ、其の故は故最明寺入道に向つて禅宗は天魔
15 のそいなるべしのちに勘文もつてこれをつげしらしむ、 日本国の皆人・無間地獄に堕つべし、 これほど有る事を
16 正直に申すものは先代にもありがたくこそ、 これをもつて推察あるべし・それより外の小事曲ぐべしや、 又聖人
17 は言をかざらずと申す、 又いまだ顕れざる後をしるを聖人と申すか、 日蓮は聖人の一分にあたれり、此の法門の
18 ゆへに二十余所をわれ結句流罪に及び身に多くのきずをかをほり 弟子をあまた殺させたり、 比干にもこえ伍しそ
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01 にもをとらず、 提婆菩薩の外道に殺され師子尊者の檀弥利王に頚をはねられしにもをとるべきか、 もししからば
02 八幡大菩薩は日蓮が頂を・はなれさせ給いてはいづれの人の頂にかすみ給はん、 日蓮を此の国に用いずば・いかん
03 がすべきと・ なげかれ候なりと申せ、 又日蓮房の申し候・仏菩薩並びに諸大善神をかへしまいらせん事は別の術
04 なし、 禅宗・念仏宗の寺寺を一つもなく失い其の僧らを・いましめ叡山の講堂を造り霊山の釈迦牟尼仏の御魂を請
05 し入れたてまつらざらん外は諸神もかへり給うべからず、諸仏も此の国を扶け給はん事はかたしと申せ。
十章抄    文永八年五月    五十歳御作   与三位公日行
01   華厳宗と申す宗は華厳経の円と法華経の円とは一なり而れども法華経の円は華厳の円の枝末と云云、 法相・三
02 論も又又かくのごとし、 天台宗・彼の義に同ぜば別宗と立てなにかせん、例せば法華・涅槃は一つ円なり先後に依
03 つて涅槃尚をとるとさだむ、 爾前の円・法華の円を一とならば先後によりて法華豈劣らざらんや、詮ずるところ・
04 この邪義のをこり此妙彼妙・円実不異・円頓義斉・前三為イ等の釈にばかされて起る義なり、 止観と申すも円頓止
05 観の証文には華厳経の文をひきて候ぞ、 又二の巻の四修三昧は 多分は念仏と見へて候なり、 源濁れば流清から
06 ずと申して爾前の円と法華経の円と一つと申す者が止観を人によませ候えば 但念仏者のごとくにて候なり、 但止
07 観は迹門より出たり・本門より出たり・本迹に亘ると申す三つの義いにしえより・これあり、 これは且くこれをを
08 く、 故に知る一部の文共に円乗開権の妙観を成すと申して止観一部は法華経の開会の上に建立せる文なり、 爾前
09 の経経をひき乃至外典を用いて候も爾前・外典の心にはあらず、文をばかれども義をばけづりすてたるなり、 「境
10 は昔に寄ると雖も智は必ず円に依る」と申して文殊問・ 方等・請観音等の諸経を引いて四種を立つれども心は必ず
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01 法華経なり「諸文を散引して一代の文体を該れども正意は唯二経に帰す」と申すこれなり。
02   止観に十章あり大意.釈名.体相・摂法.偏円・方便.正観・果報.起教.旨帰なり、前六重は修多羅に依ると申して
03 大意より方便までの六重は先四巻に限る、 これは妙解迹門の心をのべたり、 今妙解に依つて以て正行を立つと申
04 すは第七の正観・十境・十乗の観法本門の心なり、一 念三千此れよりはじまる、一念三千と申す事は迹門にすらな
05 を許されず何に況や爾前に分たへたる事なり、 一念三千の出処は略開三の十如実相なれども 義分は本門に限る・
06 爾前は迹門の依義判文・迹門は本門の依義判文なり、 但真実の依文判義は本門に限るべし、 されば円の行まちま
07 ちなり沙をかずへ大海をみるなを円の行なり、何に況や爾前の経をよみ弥陀等の諸仏の名号を唱うるをや。
08   但これらは時時の行なるべし、真実に円の行に順じて常に口ずさみにすべき事は南無妙法蓮華経なり、 心に存
09 すべき事は一念三千の観法なり、 これは智者の行解なり・ 日本国の在家の者には但一向に南無妙法蓮華経ととな
10 へさすべし、 名は必ず体にいたる徳あり、 法華経に十七種の名ありこれ通名なり・別名は三世の諸仏皆南無妙法
11 蓮華経とつけさせ給いしなり、 阿弥陀・釈迦等の諸仏も因位の時は必ず止観なりき・口ずさみは必ず南無妙法蓮華
12 経なり、 此等をしらざる天台・真言等の念仏者・口ずさみには一向に南無阿弥陀仏と申すあひだ在家の者は一向に
13 念うやう天台・真言等は念仏にてありけり、 又善導・法然が一門はすなわち天台真言の人人も実に自宗が叶いがた
14 ければ念仏を申すなり、 わづらわしく・かれを学せんよりは法華経をよまんよりは 一向に念仏を申して浄土にし
15 て法華経をもさとるべしと申す、 此の義・日本国に充満せし故に天台・真言の学者・在家の人人にすてられて六十
16 余州の山寺はうせはてぬるなり。
17   九十六種の外道は仏慧比丘の威儀よりをこり、 日本国の謗法は爾前の円と法華の円と一つという義の盛なりし
18 より・これはじまれり、あわれなるかなや、外道は常楽我浄と立てしかば仏世にいでまさせ給いては苦・空・無常・
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01 無我ととかせ給いき、 二乗は空観に著して大乗にすすまざりしかば 仏誡めて云く五逆は仏のたね・塵労の疇は如
02 来の種・二乗の善法は永不成と嫌わせ給いき、 常楽我浄の義こそ外道は・あしかりしかども名はよかりしぞかし、
03 而れども仏名をいみ給いき、 悪だに仏の種となる・ましてぜんはとこそ・をぼうれども仏二乗に向いては悪をば許
04 して善をば・いましめ給いき。
05   当世の念仏は法華経を国に失う念仏なり、設いぜんたりとも義分あたれりと・いうとも先ず名をいむべし、 其
06 の故は仏法は国に随うべし、天竺には一向小乗・一向大乗・大小兼学の国あり・わかれたり、震旦亦復是くの如し、
07 日本国は一向大乗の国・ 大乗の中の一乗の国なり、 華厳・法相・三論等の諸大乗すら猶相応せず何に況や小乗の
08 三宗をや、 而るに当世にはやる念仏宗と禅宗とは源方等部より事をこれり法相・三論・華厳の見を出ずべからず、
09 南無阿弥陀仏は爾前にかぎる、 法華経にをいては往生の行にあらず開会の後・仏因となるべし、 南無妙法蓮華経
10 は四十余年にわたらず但法華八箇年にかぎる、 南無阿弥陀仏に開会せられず法華経は能開・念仏は所開なり、 法
11 華経の行者は一期南無阿弥陀仏と申さずとも 南無阿弥陀仏並びに十方の諸仏の功徳を備えたり、 譬えば如意宝珠
12 の如し金銀等の財を備えたり、 念仏は一期申すとも法華経の功徳をぐすべからず、 譬へば金銀等の如意宝珠をか
13 ねざるがごとし、 譬へば三千大千世界に積みたる金銀等の財も一つの如意宝珠をばかうべからず、 設い開会をさ
14 とれる念仏なりとも 猶体内の権なり体内の実に及ばず、 何に況や当世に開会を心得たる智者も少なくこそをはす
15 らめ、 設いさる人ありとも弟子・眷属・所従なんどは・いかんがあるべかるらん、愚者は智者の念仏を申し給うを
16 みては念仏者とぞ見候らん、 法華経の行者とはよも候はじ、 又南無妙法蓮華経と申す人をば・いかなる愚者も法
17 華経の行者とぞ申し候はんずらん、 当世に父母を殺す人よりも謀反ををこす人よりも天台・ 真言の学者と云はれ
18 て善公が礼讃をうたひ然公が念仏をさえづる人人は・をそろしく候なり。
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01 この文を止観 よみあげさせ給いて 後ふみのざの人にひろめてわたらせ給うべし、 止観よみあげさせ給はばすみ
02 やかに御わたり候へ。
03   沙汰の事は本より日蓮が道理だにもつよくば事切れん事かたしと存じて候いしが 人ごとに問注は法門にはにず
04 いみじうしたりと申し候なるときに事切るべしともをぼへ候はず、 少弼殿より平三郎左衛門のもとに・ わたりて
05 候とぞうけ給わり候、この事のび候わば問注はよきと御心得候へ、 又いつにても・よも切れぬ事は候はじ、又切れ
06 ずば日蓮が道理とこそ人人は・をもい候はんずらめ、 くるしく候はず候、当時はことに天台・真言等の人人の多く
07 来て候なり、事多き故に留め候い了んぬ。
教行証御書   文永十二年三月    五十四歳御作   与三位房日進    於身延
01   夫れ正像二千年に小乗権大乗を持依して其の功を入れて修行せしかば大体其の益有り、 然りと雖も彼れ彼れの
02 経経を修行せし人人は 自依の経経にして益を得ると思へども法華経を以て其の意を探れば一分の益なし、 所以は
03 何ん仏の在世にして法華経に結縁せしが其の機の熟否に依り 円機純熟の者は在世にして仏に成れり、 根機微劣の
04 者は正法に退転して権大乗経の浄名・思益・観経・仁王・般若経等にして其の証果を取れること在世の如し、 され
05 ば正法には教行証の三つ倶に兼備せり、 像法には教行のみ有つて証無し、 今末法に入りては教のみ有つて行証無
06 く在世結縁の者一人も無し権実の二機悉く失せり、 此の時は濁悪たる当世の逆謗の二人に 初めて本門の肝心寿量
07 品の南無妙法蓮華経を以て下種と為す 「是の好き良薬を今留めて此に在く 汝取つて服す可し差えじと憂る勿れ」
08 とは是なり、 乃往過去の威音王仏の像法に三宝を知る者一人も無かりしに・ 不軽菩薩出現して教主説き置き給い
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01 し二十四字を一切衆生に向つて唱えしめしがごとし、 彼の二十四字を聞きし者は 一人も無く亦不軽大士に値つて
02 益を得たり、是れ則ち前の聞法を下種とせし故なり、 今も亦是くの如し、彼は像法・此れは濁悪の末法・彼は初随
03 喜の行者・此れは名字の凡夫・彼は二十四字の下種・此れは唯五字なり、 得道の時節異なりと雖も成仏の所詮は全
04 体是れ同じかるべし。
05   問うて云く上に挙ぐる所の正像末法の教行証各別なり・ 何ぞ妙楽大師は「末法の初冥利無きにあらず且く大教
06 の流行すべき時に拠る」 と釈し給うや如何、 答えて云く得意に云く正像に益を得し人人は顕益なるべし在世結縁
07 の熟せる故に、 今末法には初めて下種す冥益なるべし已に小乗・権大乗・爾前・迹門の教行証に似るべくもなし現
08 に証果の者之無し、妙楽の釈の如くんば、冥益なれば人是を知らず見ざるなり。
09   問うて云く末法に限りて冥益と知る経文之有りや、 答えて云く法華経第七薬王品に云く「此の経は則ち為閻浮
10 提の人の病の良薬なり 若し人病有らんに是の経を聞くことを得ば病即ち消滅して不老不死ならん」等云云、 妙楽
11 大師云く「然も後の五百は 且く一往に従う末法の初冥利無きにあらず 且く大教の流行す可き時に拠るが故に五百
12 と云う」等云云。
13   問うて云く汝が引く所の経文釈は末法の初五百に限ると聞きたり 権大乗経等の修行の時節は尚末法万年と云へ
14 り如何、 答えて曰く前釈已に且従一往と云へり再往は末法万年の流行なるべし、 天台大師上の経文を釈して云く
15 「但当時大利益を獲るのみに非ず 後の五百歳遠く妙道に沾わん」等云云、 是れ末法万年を指せる経釈に非ずや、
16 法華経第六分別功徳品に云く 「悪世末法の時能く是の経を持てる者」と安楽行品に云く 末法の中に於て是の経を
17 説かんと欲す等云云此等は皆末法万年と云う経文なり、 彼れ彼れの経経の説は四十余年未顕真実なり 或は結集者
18 の意に拠るか依用し難し、 拙いかな諸宗の学者法華経の下種を忘れ 三五塵点の昔を知らず純円の妙経を捨てて亦
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01 生死の苦海に沈まん事よ、 円機純熟の国に生を受けて徒に無間大城に還らんこと不便とも申す許り無し、 崑崙山
02 に入りし者の一の玉をも取らずして貧国に帰り・ 栴檀林に入つて瞻蔔を蹈まずして 瓦礫の本国に帰る者に異なら
03 ず、 第三の巻に云く「飢国より来りて忽ち大王の膳に遇うが如し」第六に云く 「我が此の土は安穏○我が浄土は
04 毀れず」等云云。
05   状に云く難問に云く爾前当分の得道等云云、涅槃経第三に「善男子応当修習」の文を立つ可し之を受けて弘決第
06 三に「所謂久遠必無大者」と会して 「爾前の諸経にして得道せし者は久遠の初業に依るなるべし」と云つて一分の
07 益之無き事を治定して、 其の後滅後の弘経に於ても亦復是くの如く 正像の得益証果の人は在世の結縁に依るなる
08 べし等云云、 又彼が何度も爾前の得道を云はば無量義経に四十余年の経経を仏・我れと未顕真実と説き給へば・我
09 等が如き名字の凡夫は仏説に依りてこそ成仏を期すべく候へ・ 人師の言語は無用なり、 涅槃経には依法不依人と
10 説かれて大に制せられて候へばなんど立てて 未顕真実と打ち捨て打ち捨て 正直捨方便・世尊法久後なんどの経釈
11 をば秘して左右無く出すべからず。
12   又難問に云く得道の所詮は爾前も法華経もこれ同じ、 其の故は観経の往生或は其の外・例の如し等云云と立つ
13 可し、 又未顕真実其の外但似仮名字等云云と、 又同時の経ありと云はば法師品の已今当の説をもつて会す可きな
14 り、玄義の三籤の三の文を出す可し、経釈能く能く料簡して秘す可し。
15   一状に云く真言宗云云等、 答う彼が立つる所の如き弘法大師の戯論無明の辺域何れの経文に依るやと云つて・
16 彼の依経を引かば云うべし・ 大日如来は三世の諸仏の中には何れぞやと云つて・善無畏三蔵・金剛智等の偽りをば
17 汝は知れるやと云つて・ 其の後一行筆受の相承を立つ可し、 大日経には一念三千跡を削れり漢土にして偽りしな
18 り、就中僻見有り毘廬の頂上を蹈む証文は三世の諸仏の所説に之有りや、 其の後・彼云く等云云、 立つ可し大慢
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01 婆羅門が高座の足等云云、 彼れ此れ是くの如き次第何なる経文論文に之を出すやと等云云、 其の外常に教へし如
02 く問答対論あるべし、設ひ何なる宗なりとも真言宗の法門を云はば真言の僻見を責む可く候。
03   次に念仏の曇鸞法師の難行.易行.道綽が聖道・浄土.善導が雑行・正行.法然が捨閉閣抛の文、此等の本経・本論
04 を尋ぬべし、 経に於て権実の二経有ること例の如し、 論に於ても又通別の二論有り、黒白の二論有ること深く習
05 うべし、 彼の依経の浄土三部経の中に是くの如き等の所説ありや、 又人毎に念仏阿弥陀等之を讃す又前の如し、
06 所詮和漢両国の念仏宗・ 法華経を雑行なんど捨閉閣抛する本経本論を尋ぬべし、 若し慥なる経文なくんば是くの
07 如く権経より実経を謗ずるの過罪、 法華経の譬喩品の如くば 阿鼻大城に堕落して 展転無数劫を経歴し給はんず
08 らん、 彼の宗の僻謬を本として此の三世諸仏の皆是真実の証文を捨つる其の罪実と諸人に評判せさすべし、 心有
09 らん人誰か実否を決せざらんや、 而して後に彼の宗の人師を強に破すべし、 一経の株を見て 万経の勝劣を知ら
10 ざる事未練なる者かな、 其の上我と見明らめずとも 釈尊並びに多宝分身の諸仏の定判し給へる経文・法華経許り
11 皆是真実なるを不真実・未顕真実を已顕真実と僻める眼は牛羊の所見にも劣れる者なるべし、 法師品の已今当・無
12 量義経の歴劫修行・未顕真実何なる事ぞや五十余年の諸経の勝劣ぞかし、 諸経の勝劣は成仏の有無なり、 慈覚智
13 証の理同事勝の眼・善導法然の余行非機の目・禅宗が教外別伝の所見は東西動転の眼目・南北不弁の妄見なり、 牛
14 羊よりも劣り蝙蝠鳥にも異ならず、 依法不依人の経文・毀謗此経の文をば如何に恐れさせ給はざるや、 悪鬼入其
15 身して無明の悪酒に酔ひ沈み給うらん。
16   一切は現証には如かず善無畏.一行が横難横死・弘法・慈覚が死去の有様.実に正法の行者是くの如くに有るべく
17 候や、観仏相海経等の諸経並びに竜樹菩薩の論文如何が候や、 一行禅師の筆受の妄語・善無畏のたばかり・弘法の
18 戯論・慈覚の理同事勝・曇鸞道綽が余行非機・是くの如き人人の所見は権経権宗の虚妄の仏法の習いにてや候らん、
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01 それほどに浦山敷もなき死去にて候ぞやと・和らかに又強く両眼を細めに見・顔貌に色を調へて閑に言上すべし。
02   状に云く彼此の経経得益の数を挙ぐ等云云、 是れ不足に候と先ず陳ぶべし、其の後汝等が宗宗の依経に三仏の
03 証誠之有りや未だ聞かず、 よも多宝分身は御来り候はじ、此の仏は法華経に来り給いし間・一仏二言はやはか御坐
04 候べきと・ 次に六難九易何なる経の文に之有りや、 若し仏滅後の人人の偽経は知らず、釈尊の実説五十年の説法
05 の内には一字一句も有るべからず候なんど立つ可し、 五百塵点の顕本之有りや・三千塵点の結縁説法ありや・一念
06 信解・ 五十展転の功徳何なる経文に説き給へるや、 彼の余経には一二三乃至十功徳すら之無し五十展転まではよ
07 も説き給い候はじ、 余経には一二の塵数を挙げず何に況や五百三千をや、二乗の成不成・竜畜・下賎の即身成仏今
08 の経に限れり、 華厳・般若等の諸大乗経に之有りや、 二乗作仏は始めて今経に在り、よも天台大師程の明哲の弘
09 法慈覚の如き無文無義の偽りはおはし給はじと我等は覚え候、 又悪人の提婆・天道国の成道・法華経に並びて何な
10 る経にか之有りや、 然りと雖も万の難を閣いて何なる経にか十法界の開会等草木成仏之有りや、 天台妙楽の無非
11 中道・惑耳驚心の釈は慈覚智証の理同事勝の異見に之を類す可く候や、 已に天台等は三国伝灯の人師・普賢開発の
12 聖師・天真発明の権者なり、 豈経論になき事を偽り釈し給はんや、 彼れ彼れの経経に何なる一大事か之有るや、
13 此の経には二十の大事あり 就中五百塵点顕本の寿量に何なる事を説き給へるとか人人は思召し候、 我等が如き凡
14 夫無始已来生死の苦底に沈輪して 仏道の彼岸を夢にも知らざりし衆生界を・ 無作本覚の三身と成し 実に一念三
15 千の極理を説くなんど・浅深を立つべし、 但し公場ならば然るべし私に問註すべからず、 慥に此の法門は汝等が
16 如き者は 人毎に座毎に日毎に談ずべくんば三世諸仏の御罰を蒙るべきなり、 日蓮己証なりと常に申せし是なり、
17 大日経に之有りや、 浄土三部経の成仏已来凡歴十劫之に類す可きや、 なんど前後の文乱れず一一に会す可し、其
18 の後又云うべし、 諸人は推量も候へ是くの如くいみじき御経にて候へばこそ 多宝遠来して証誠を加え分身来集し
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01 て三仏の御舌を梵天に付け不虚妄とはノノしらせ給いしか、 地涌千界出現して濁悪末代の当世に別付属の妙法蓮華
02 経を 一閻浮提の一切衆生に取り次ぎ給うべき仏の勅使なれば・ 八十万億の諸大菩薩をば止善男子と嫌はせ給しか
03 等云云、 又彼の邪宗の者どもの習いとして強に証文を尋ぬる事之有り、 涌出品並びに文句の九・記の九の前三後
04 三の釈を出すべし、但日蓮が門家の大事之に如かず。
05   又諸宗の人・大論の自法愛染の文を問難とせば、大論の立所を尋ねて後・執権謗実の過罪をば竜樹は存知無く候
06 いけるか、「余経は秘密に非ず法華是れ秘密」と仰せられ・譬如大薬師と此の経計り成仏の種子と定めて・又悔い返
07 して「自法愛染・不免堕悪道」と仰せられ候べきか、 さで有らば仏語には「正直捨方便・不受余経一偈」なんど法
08 華経の実語には大に違背せり、 よもさにては候はじ、若し末法の当世・時剋相応せる法華経を謗じたる弘法・曇鸞
09 なんどを付法蔵の論師・釈尊の御記文にわたらせ給う菩薩なれば 鑒知してや記せられたる論文なるらん、 覚束無
10 しなんどあざむくべし、 御辺や不免堕悪道の末学なるらん痛敷候、未来無数劫の人数にてや有るらんと立つ可し。
11   又律宗の良観が云く法光寺殿へ訴状を奉る其の状に云く、 忍性年来歎いて云く当世日蓮法師と云える者世に在
12 り斎戒は堕獄す云云、 所詮何なる経論に之有りや是一、又云く当世日本国上下誰か念仏せざらん念仏は無間の業と
13 云云、是れ何なる経文ぞや慥なる証文を日蓮房に対して之を聞かん是二、 総じて是体の爾前得道の有無の法門六箇
14 条云云、 然るに推知するに極楽寺良観が已前の如く日蓮に相値うて宗論有る可きの由 訇る事之有らば目安を上げ
15 て極楽寺に対して申すべし、 某の師にて候者は 去る文永八年に御勘気を蒙り佐州へ遷され給うて後・同じき文永
16 十一年正月の比御免許を蒙り鎌倉に帰る、 其の後平金吾に対して様様の次第申し含ませ給いて 甲斐の国の深山に
17 閉篭らせ給いて後は、 何なる主上・女院の御意たりと云えども 山の内を出で諸宗の学者に法門あるべからざる由
18 仰せ候、 随つて其の弟子に若輩のものにて候へども師の日蓮の法門・ 九牛が一毛をも学び及ばず候といへども法
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01 華経に付いて不審有りと仰せらるる人 わたらせ給はば存じ候なんど云つて、 其の後は随問而答の法門申す可し、
02 又前六箇条一一の難門・兼兼申せしが如く 日蓮が弟子等は臆病にては叶うべからず、 彼れ彼れの経経と法華経と
03 勝劣・浅深・成仏・不成仏を判ぜん時・爾前迹門の釈尊なりとも物の数ならず何に況や其の以下の等覚の菩薩をや、
04 まして権宗の者どもをや、 法華経と申す大梵王の位にて民とも下し 鬼畜なんどと下しても其の過有らんやと意を
05 得て宗論すべし。
06   又彼の律宗の者どもが破戒なる事・山川の頽るるよりも尚無戒なり、 成仏までは思もよらず人天の生を受くべ
07 しや、 妙楽大師云く「若し一戒を持てば人中に生ずることを得若し一戒を破れば還て三途に堕す」と、 其の外斎
08 法経・正法念経等の制法・阿含経等の大小乗経の斎法斎戒・ 今程の律宗忍性が一党誰か一戒をも持てる還堕三途は
09 疑無し、 若しは無間地獄にや落ちんずらん不便なんど立てて・宝塔品の持戒行者と是を訇しるべし、 其の後良有
10 つて此の法華経の本門の肝心・妙法蓮華経は三世の諸仏の万行万善の功徳を集めて 五字と為せり、 此の五字の内
11 に豈万戒の功徳を納めざらんや、 但し此の具足の妙戒は一度持つて後・行者破らんとすれど破れず 是を金剛宝器
12 戒とや申しけんなんど立つ可し、 三世の諸仏は此の戒を持つて法身・報身・応身なんど何れも無始無終の仏に成ら
13 せ給ふ、 此れを「諸教の中に於て之を秘して伝へず」とは天台大師は書き給へり、 今末法当世の有智・無智・在
14 家・出家・上下・ 万人此の妙法蓮華経を持つて説の如く修行せんに豈仏果を得ざらんや、さてこそ決定無有疑とは
15 滅後濁悪の法華経の行者を定判せさせ給へり、 三仏の定判に漏れたる権宗の人人は決定して無間なるべし、 是く
16 の如くいみじき戒なれば爾前・迹門の諸戒は今一分の功徳なし、功徳無からんに一日の斎戒も無用なり。
17   但此の本門の戒を弘まらせ給はんには必ず前代未聞の大瑞あるべし、所謂正嘉の地動・文永の長星是なるべし、
18 抑当世の人人何の宗宗にか本門の本尊戒壇等を弘通せる、 仏滅後二千二百二十余年に一人も候はず、 日本人王・
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01 三十代・欽明天皇の御宇に仏法渡つて 今に七百余年前代未聞の大法此の国に流布して 月氏・漢土・一閻浮提の内
02 の一切衆生仏に成るべき事こそ有り難けれ有り難けれ、 又已前の重末法には教行証の三つ倶に備われり例せば正法
03 の如し等云云、 已に地涌の大菩薩・上行出でさせ給いぬ結要の大法亦弘まらせ給うべし、日本・漢土・万国の一切
04 衆生は金輪聖王の出現の先兆の優曇華に値えるなるべし、 在世四十二年並びに法華経の迹門 十四品に之を秘して
05 説かせ給はざりし大法本門正宗に至つて説き顕し給うのみ。
06   良観房が義に云く彼の良観が・ 日蓮遠国へ下向と聞く時は諸人に向つて急ぎ急ぎ鎌倉へ上れかし為に宗論を遂
07 げて諸人の不審を晴さんなんど自讃毀他する由 其の聞え候、 此等も戒法にてや有らん強に尋ぬ可し、 又日蓮鎌
08 倉に罷上る時は 門戸を閉じて内へ入るべからずと之を制法し或は風気なんど虚病して罷り過ぎぬ、 某は日蓮に非
09 ず其の弟子にて候まま少し言のなまり法門の才覚は乱れがはしくとも・ 律宗国賊替るべからずと云うべし、 公場
10 にして理運の法門申し候へばとて雑言・強言・自讃気なる体・人目に見すべからず浅マシしき事なるべし、弥身口意
11 を調え謹んで主人に向うべし主人に向うべし。
12       三月二十一日                            日 蓮 花 押
13   三位阿闍梨御房へ之を遣はす
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諸人御返事
01   三月十九日の和風並びに飛鳥同じく二十一日戌の時到来す、 日蓮一生の間の祈請並びに所願忽ちに成就せしむ
02 るか、 将又五五百歳の仏記宛かも符契の如し、 所詮真言・禅宗等の謗法の諸人等を召し合せ是非を決せしめば日
03 本国一同に日蓮が弟子檀那と為り、 我が弟子等の出家は主上・ 上皇の師と為らん在家は左右の臣下に列ならん、
04 将又一閻浮提皆此の法門を仰がん、幸甚幸甚。
05       弘安元年三月二十一日                日 蓮 花 押
06     諸人御返事
小蒙古御書
01   小蒙古の人・ 大日本国に寄せ来るの事、我が門弟並びに檀那等の中に若し他人に向い将又自ら言語に及ぶ可か
02 らず、若し此の旨に違背せば門弟を離すべき等の由・存知せる所なり、此の旨を以て人人に示す可く候なり。
03       弘安四年太歳辛巳六月十六日                花 押
04     人 人 御 中
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さだしげ殿御返事
01   さきざきに申しつるがごとし、世間の学者・仏法を学問して智恵を明めて我も我もとおもひぬ、一生のうちに・
02 むなしくなりて・ゆめのごとくに申しつれども唯一大事を知らず・よくよく心得させ給うべし、 あなかしこ・あな
03 かしこ。
04       十二月二十日                           日 蓮 在 御判
05     さだしげ殿御返事
霖雨御書
01   山中のながきあめつれづれ申すばかり候はず、えんどうかしこまりて給い候いし、 ことに・よろこぶよし玄性
02 房申しあげさせ給い候へ、恐恐。
03       五月廿二日                     日 蓮 在 御 判
04     御 返 事
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玄性房御返事
01   いやげんだ入道のなげき候いしかば・むかはきと玄性御房このよしをかみへ申させ給い候へ、恐恐。
02       七月十八日                       日蓮花押
03     玄性御房
智妙房御返事    弘安三年十二月    五十九歳御作
01   鵞目一貫・送り給いて法華経の御宝前に申し上げ了んぬ。
02   なによりも故右大将家の御廟と故権太夫殿の御墓との・やけて候由承わりてなげき候へば・又八幡大菩薩並びに
03 若宮のやけさせ給う事いかんが人のなげき候らむ。
04   世間の人人は八幡大菩薩をば阿弥陀仏の化身と申ぞ、それも中古の人人の御言なればさもや、 但し大隅の正八
05 幡の石の銘には一方には八幡と申す二字・ 一方には昔霊鷲山に在つて妙法蓮華経を説き 今正宮の中に在つて大菩
06 薩と示現す等云云、 月氏にては釈尊と顕れて法華経を説き給い・ 日本国にしては八幡大菩薩と示現して正直の二
07 字を誓いに立て給う、教主釈尊は住劫第九の減・人寿百歳の時・四月八日甲寅の日・中天竺に生れ給い・八十年を経
08 て二月十五日壬申の日御入滅なり給う、 八幡大菩薩は日本国・第十六代・応神天皇・四月八日甲寅の日生れさせ給
09 いて・御年八十の二月の十五日壬申に隠れさせ給う、釈迦仏の化身と申す事は・たれの人か・あらそいをなすべき、
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01 しかるに今日本国の四十五億八万九千六百五十九人の一切衆生・善導・慧心・永観・法然等の大天魔にたぼらかされ
02 て・ 釈尊をなげすてて阿弥陀仏を本尊とす、 あまりの物のくるわしさに 十五日を奪い取つて阿弥陀仏の日とな
03 す・ 八日をまぎらかして薬師仏の日と云云、 あまりにをやをにくまんとて 八幡大菩薩をば阿弥陀仏の化身と云
04 云、大菩薩を・もてなすやうなれども八幡の御かたきなり、知らずわ・さでもあるべきに・日蓮此の二十八年が間・
05 今此三界の文を引いて此の迷をしめせば信ぜずは・さでこそ有るべきに・いつきつ・ころしつ・ながしつ・おうゆへ
06 に八幡大菩薩・宅をやいてこそ天へは・のぼり給いぬらめ日蓮が・かんがへて候し立正安国論此れなり、 あわれ他
07 国よりせめ来りてたかのきじをとるやうに・ ねこのねずみをかむやうに・せめられん時、あまや女房どもの・あわ
08 て候はんずらむ、日蓮が一るいを二十八年が間せめ候いしむくいに・或はいころし・切りころし・或はいけどり・或
09 は他方へわたされ・宗盛がなわつきてさらされしやうに・ すせんまんの人人のなわつきてせめられんふびんさよ、
10 しかれども日本国の一切衆生は皆五逆罪の者なれば・ かくせめられんをば天も悦び仏もゆるし給はじ、 あわれ・
11 あわれはぢみぬさきに阿闍世王の提婆を・いましめしやうに.真言師・念仏者・禅宗の者どもをいましめて.すこし・
12 つみをゆるくせさせ給えかし、あらをかし・あらふびん・ふびん・わわくのやつばらの智者げなれば・まこととて・
13 もてなして事にあはんふびんさよ、恐恐謹言。
14       十二月十八日                               日蓮花押
15     ちめう房御返事
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十住毘婆娑論尋出御書
01   昨日武蔵前司殿の使として念仏者等召相せられて候いしなり、又十郎の使にて候はんずるか、 十住毘婆娑論を
02 内内見る可き事候、万事を抛ちて尋ね出だし給い候え。
03       十月十四日                    日 蓮 在 御 判
04     武蔵公御房
                  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
01   十住毘婆娑論十四巻拝上せしむ、今一巻は求め失せ候なり、御要以後は早早返し給わる可く候、愚身も必 ず必
02 ず参り候いて 承わる可く候、 昨日の論談=五十展転の 随喜誠に以て有難く候、 又袴品賜わる可し、 穴賢
03 穴賢、恐恐。
04       十月十一日                          判
05     日蓮阿闍梨御房
武蔵殿御消息
01   摂論三巻は給候へども釈論等の各疏候はざるあひだ事ゆかず候、をなじくは給い候いてみあわすべく候、 見参
02 の事いつにてか候べき、仰をかほり候はん。
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01 八講はいつにて候やらん。
02       七月十七日                               日蓮在御判
03     武蔵殿御房
破良観等御書
01   良観.道隆・悲願聖人等が極楽寺・建長寺・寿福寺.普門寺等を立てて叡山の円頓大戒を蔑如するが如し、此れは
02 第一には破僧罪なり・二には仏の御身より血を出だす、 今の念仏者等が教主釈尊の御入滅の二月十五日を・をさへ
03 とり・阿弥陀仏の日とさだめ 仏生日の八日をば薬師仏の日といゐ、 一切の真言師が大日如来をたのみて教主釈尊
04 は無明に迷える仏・ 我等が履とりにも及ばず結句は潅頂して釈迦仏の頭をふむ、 禅宗の法師等は教外別伝とのの
05 しりて一切経をば・ほんぐには・をとり我等は仏に超過せりと云云、 此は南印度の大慢ばら門がながれ出仏身血の
06 一分なり、 第三に蓮花比丘尼を打ちころす・これ仏の養母にして阿羅漢なり、 此れは阿闍世王の提婆達多をすて
07 て仏につき給いし時いかりをなして大火・ムネをやきしかば・はらをすへかねて此の尼のゆきあひ候たりしを打ち殺
08 せしなり、 今の念仏者等が念仏と禅と律と真言とをせめられて・のぶるかたわなし、 結句は檀那等をあひかたら
09 ひて日蓮が弟子を殺させ・予が頭等にきずをつけ・ざんそうをなして二度まで流罪・あわせて頚をきらせんと・くわ
10 だて・ 弟子等数十人をろうに申し入るるのみならず、 かまくら内に火をつけて日蓮が弟子の所為なりとふれまわ
11 して一人もなく失わんとせしが如し。
12   而るに提婆達多が三逆罪は 仏の御身より血をいだせども爾前の仏・久遠実成の釈迦にはあらず、殺羅漢も爾前
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01 の羅漢・法華経の行者にはあらず、破和合僧も爾前小乗の戒なり・法華円頓の大戒の僧にもあらず、 大地われて無
02 間地獄に入りしかども 法華経の三逆ならざればいたうも深くあらざりけるかのゆへに・ 提婆は法華経にして天王
03 如来とならさせ給う、今の真言師・念仏者・禅・律等の人人・並に此れを御帰依ある天子並びに将軍家・日本国の上
04 下万人は法華経の強敵となる上・ 一乗の行者の大怨敵となりぬ、 されば設い一切経を覚り十方の仏に帰依し一国
05 の堂塔を建立し一切衆生に慈悲ををこすとも・ 衆流大海に入りかんみとなり衆鳥・ 須弥山に近ずきて同色となる
06 がごとく、 一切の大善変じて大悪となり七福かへりて七難をこり 現在眼前には他国のせめきびしく・ 自身は兵
07 にやぶられ妻子は敵にとられて後生には無間大城に堕つべし。
08   此れをもんてをもうに故弥四郎殿は設い大罪なりとも 提婆が逆にはすぐべからず、何に況や小罪なり法華経を
09 信ぜし人なれば無一不成仏疑なきものなり。
10   疑て云く今の真言師等を無間地獄と候は心へられぬ事なり、今の真言は源弘法大師・伝教大師・慈覚大師・智証
11 大師此の四大師のながれなり、 此の人人・地獄に堕ち給はずば今の真言師いかで堕ち候べき、 答えて云く地獄は
12 一百三十六あり 一百三十五の地獄へは堕つる人雨のごとし 其の因やすきゆへなり、 一の無間大城へは堕つる人
13 かたし・五逆罪を造る人まれなるゆへなり、 又仏前には五逆なし但殺父殺母の二逆計りあり、 又二逆の中にも仏
14 前の殺父・殺母は決定として 無間地獄へは堕ちがたし畜生の二逆のごとし、 而るに今日本国の人人は又一百三十
15 五の地獄へはゆきがたし、 日本国の人人・形はことなれども同じく法華経誹謗の輩なり、 日本国異なれども同じ
16 く法華誹謗の者となる事は源伝教より外の三大師の義より事をこれり。
17   問うて云く三大師の義如何、 答えて云く弘法等の三大師は其の義ことなれども同じく法華経誹謗は一同なり、
18 所謂善無畏三蔵・金剛智三蔵・不空三蔵の法華経誹謗の邪義なり。
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01   問うて云く三大師の地獄へ堕つる証拠如何、 答えて云く善無畏三蔵は漢土日本国の真言宗の元祖なり彼の人す
02 でに頓死して閻魔のせめにあへり、 其のせめに値う事は他の失ならず 法華経は大日経に劣ると立てしゆへなり、
03 而るを此の失を知らずして 其の義をひろめたる慈覚・智証・地獄を脱るべしや、但し善無畏三蔵の閻魔のせめにあ
04 づかりし故をだにも・ たづねあきらめば此の事自然に顕れぬべし・善無畏三蔵の鉄の縄七すぢつきたる事は大日経
05 の疏に我とかかれて候上・日本醍醐の閻魔堂・相州鎌倉の閻魔堂にあらわせり、 此れをもつて慈覚・智証等の失を
06 ば知るべし。
07   問うて云く法華経と大日の三部経の勝劣は経文如何、 答えて曰く法華経には諸経の中に於て最も其の上に在り
08 と説かれて此の法華経は一切経の頂上の法なりと云云、 大日経七巻・金剛頂経三巻・蘇悉地経三巻・已上十三巻の
09 内・法華経に勝ると申す 経文は一句一偈もこれなし、 但蘇悉地経計りにぞ三部の中に於て此の経を王と為すと申
10 す文候、 此れは大日の三部経の中の王なり全く一代の諸経の中の大王にはあらず、例せば本朝の王を大王といふ・
11 此れは日本国の内の大王なり・全く漢土・月支の諸王に勝れたる大王にはあらず、 法華経は一代の一切経の中の王
12 たるのみならず・三世十方の一切の諸仏の所説の中の大王なり、 例せば大梵天王のごときんば諸の小王・転輪王・
13 四天王・釈王・魔王等の一切の王に勝れたる大王なり、金剛頂経と申すは真言教の頂王・最勝王経と申すは外道・天
14 仙等の経の中の大王・全く一切経の中の頂王にはあらず、 法華経は一切経の頂上の宝珠なり、論師・人師をすてて
15 専ら経文をくらべば・ かくのごとし、而るを天台宗・出来の後・月氏よりわたれる経論並に天竺・漢土にして立て
16 たる宗宗の元祖等・ 修羅心を・さしはさめるかのゆへに或は経論にわたくしの言をまじへて事を仏説によせ・或は
17 事を月氏の経によせなんどして・ 私の筆をそへ仏説のよしを称す、 善無畏三蔵等は法華経と大日経との勝劣を定
18 むるに理同事勝と云云、 此れは仏意にはあらず、 仏説のごとくならば 大日経等は四十余年の内・四十余年の内
1292top
01 にも華厳・般若等には及ぶべくもなし、 但阿含・小乗経にすこしいさてたる経なり、 而るを慈覚大師等は此の義
02 を弁えずして善無畏三蔵を重くをもうゆへに 理同事勝の義を実義とをもえり、弘法大師は又此等には・ にるべく
03 もなき僻人なり、 所謂法華経は大日経に劣るのみならず華厳経等にも・ をとれり等云云、而を此の邪義を人に信
04 ぜさせんために 或は大日如来より写瓶せりといゐ或は我まのあたり霊山にして・ きけりといゐ或は師の慧果和尚
05 の我をほめし 或は三鈷をなげたりなんど申し種種の誑言をかまへたり、 愚な者は今信をとる、又天台の真言師は
06 慈覚大師を本とせり、 叡山の三千人もこれを信ずる上・堕つて代代の賢王の御世に勅宣を下す、 其の勅宣のせん
07 は法華経と大日経とは同醍醐・譬へば鳥の両翼・人の左右の眼等云云、 今の世の一切の真言師は此の義をすぎず、
08 此等は螢火を日月に越ゆとをもひ 蚯蚓を花山より高しという義なり、 其の上一切の真言師は潅頂となづけて釈迦
09 仏を直ちにかきてしきまんだらとなづけて 弟子の足にふませ、 或は法華経の仏は無明に迷える仏・人の中のいぞ
10 のごとし真言師が履とりにも及ばずなんどふみにつくれり、 今の真言師は此の文を本疏となづけて 日日・夜夜に
11 談義して公家武家のいのりと・がうして・ををくの所領を知行し檀那をたぼらかす、 事の心を案ずるに彼の大慢ば
12 ら門がごとく無垢論師にことならず、 此等は現身に阿鼻の大火を招くべき人人なれども 強敵のなければ・さてす
13 ぐるか、而りといへども其のしるし眼前にみへたり、 慈覚と智証との門家等・闘諍ひまなく・ 弘法と聖覚が末孫
14 が本寺と伝法院・叡山と薗城との相論は修羅と修羅と猿と犬とのごとし、 此等は慈覚の夢想に日をいるとみ・弘法
15 の現身妄語のすへか、 仏末代を記して云く謗法の者は大地微塵よりも多く 正法の者は爪上の土よりすくなかるべ
16 し、仏語まことなるかなや今日本国かの記にあたれり。
17   予はかつしろしめされて候がごとく 幼少の時より学文に心をかけし上・大虚空蔵菩薩の御宝前に願を立て日本
18 第一の智者となし給へ、 十二のとしより此の願を立つ其の所願に子細あり今くはしく・のせがたし、其の後先ず浄
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01 土宗・禅宗をきく.其の後叡山・薗城・高野・京中・田舎等処処に修行して自他宗の法門をならひしかども.我が身の
02 不審はれがたき上・ 本よりの願に諸宗何れの宗なりとも偏党執心あるべからず・いづれも仏説に証拠分明に道理現
03 前ならんを用ゆべし・論師・訳者・人師等にはよるべからず専ら経文を詮とせん、 又法門によりては設い王のせめ
04 なりとも・はばかるべからず・何に況や其の已下の人をや、 父母・師兄等の教訓なりとも用ゆべからず、人の信不
05 信はしらず・ ありのままに申すべしと誓状を立てしゆへに・三論宗の嘉祥・華厳宗の澄観・法相宗の慈恩等をば天
06 台・妙楽.伝教等は無間地獄とせめたれども.真言宗の善無畏三蔵・弘法大師.慈覚・智証等の僻見は・いまだ.せむる
07 人なし、善無畏・ 不空等の真言宗をすてて天台による事は 妙楽大師の記の十の後序並に伝教大師の依憑集にのせ
08 られたれども・いまだ・くはしからざればにや慈覚・智証の謬ゴは出来せるかと強盛にせむるなり。
09   かく申す程に年卅二・建長五年の春の比より念仏宗と禅宗と等をせめはじめて後に真言宗等をせむるほどに・念
10 仏者等始にはあなづる、 日蓮いかに・かしこくとも明円房・公胤僧上・顕真座主等には・すぐべからず、彼の人人
11 だにもはじめは法然上人をなんぜしが 後にみな堕ちて或は上人の弟子となり或は門家となる、 日蓮は・かれがご
12 とし我つめん我つめんとはやりし程に、 いにしへの人人は但法然をなんじて善導・道綽等をせめず、 又経の権実
13 を・いわざりしかばこそ念仏者はをごりけれ、 今日蓮は善導・法然等をば無間地獄につきをとして専ら浄土の三部
14 経を法華経に・をしあはせて・せむるゆへに、螢火に日月・江河に大海のやうなる上・念仏は仏のしばらくの戯論の
15 法・実にこれをもつて生死を・ はなれんとをもわば大石を船に造り大海をわたり・大山をになて嶮難を越ゆるがご
16 としと難ぜしかば・面をむかうる念仏者なし。
17   後には天台宗の人人を.かたらひて・どしうちにせんと・せしかども.それもかなはず、天台宗の人人も・せめら
18 れしかば在家出家の心ある人人・少少念仏と禅宗とをすつ、 念仏者・禅宗・律僧等我が智力叶わざるゆへに諸宗に
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01 入りあるきて種種の讒奏をなす、 在家の人人は不審あるゆへに 各各の持僧等或は真言師 或は念仏者或はふるき
02 天台宗或は禅宗或は律僧等をわきにはさみて 或は日蓮が住処に向い或はかしこへよぶ、 而れども一言二言にはす
03 ぎず・迦旃延が外道をせめしがごとく徳慧菩薩が摩沓婆をつめしがごとく・せめしゆへに其の力及ばず、 人は智か
04 しこき者すくなきかのゆへに 結句は念仏者等をば・つめさせてかなはぬところには・ 大名して・ものをぼへぬ侍
05 どもたのしくて先後も弁えぬ在家の徳人等挙て 日蓮をあだするほどに・或は私に狼藉をいたして日蓮が・かたの者
06 を打ち或は所ををひ或は地をたて・或はかんだうをなす事かずをしらず、 上に奏すれども人の主となる人は・さす
07 が戒力といゐ福田と申し子細あるべきかとをもひて左右なく失にも・ なされざりしかば・きりものども・よりあひ
08 てまちうど等をかたらひて 数万人の者をもつて夜中にをしよせ失わんとせしほどに・ 十羅刹の御計らいにてやあ
09 りけん日蓮其の難を脱れしかば・両国の吏・ 心をあわせたる事なれば殺されぬを・とがにして伊豆の国へながされ
10 ぬ、最明寺殿計りこそ子細あるかとをもわれていそぎゆるされぬ。
11   さりし程に最明寺入道殿隠れさせ給いしかば・いかにも此の事あしくなりなんず、 いそぎかくるべき世なりと
12 は・をもひしかども・これにつけても法華経のかたうど・ つよくせば一定事いで来るならば身命を・すつるにてこ
13 そ・あらめと思い切りしかば讒奏の人人いよいよ・かずをしらず、 上下万人・皆父母のかたきとわりをみるがごと
14 し、不軽菩薩の威音王仏のすへにすこしもたがう事なし。
檀越某御返事    弘安元年四月    五十七歳御作
01   御文うけ給わり候い了んぬ、 日蓮流罪して先先にわざわいども重て候に 又なにと申す事か候べきとは・をも
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01 へども人のそんぜんとし候には不可思議の事の候へば・ さが候はんずらむ、 もしその義候わば用いて候はんには
02 百千万億倍のさいわいなり、 今度ぞ三度になり候、法華経も・よも日蓮をば・ゆるき行者とはをぼせじ、釈迦・多
03 宝・十方の諸仏・地涌千界の御利生・今度みはて候はん、あわれ・あわれ・さる事の候へかし、雪山童子の跡ををひ
04 不軽菩薩の身になり候はん、 いたづらに・やくびやうにや・をかされ候はんずらむ、をいじににや死に候はんずら
05 むあらあさましあさまし、 願くは法華経のゆへに国主にあだまれて今度・生死をはなれ候わばや、天照太神・正八
06 幡・日月・帝釈・梵天等の仏前の御ちかい今度心み候わばや、 事事さてをき候いぬ、各各の御身の事は此れより申
07 しはからうべし、 さで・をはするこそ法華経を十二時に行ぜさせ給うにては候らめ、あなかしこあなかしこ、 御
08 みやづかいを法華経とをぼしめせ、 「一切世間の治生産業は皆実相と相違背せず」とは此れなり、かへす・がへす
09 御文の心こそ・をもいやられ候へ、恐恐謹言。
10       四月十一日                     日 蓮 花 押
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法衣書
01   御衣布並に単衣布給候い了んぬ、 抑食は命をつぎ衣は身をかくす、 食を有情に施すものは長寿の報をまねぎ
02 人の食を奪うものは短命の報をうく、 衣を人にほどこさぬ者は世世・存生に裸形の報をかんず、六道の中に人道・
03 已下は皆形裸にして生る天は随生衣なり、 其の中の鹿等は無衣にして 生るのみならず、 人の衣を・ぬすみしゆ
04 へに身の皮を人に・ はがれて盗し衣をつぐのうほうをえたり、 人の中にも鮮白比丘には生ぜし時・衣を被て生れ
05 ぬ、仏法の中にも裸形にして法を行ずる道なし、 故に釈尊は摩訶大母比丘尼の衣を得て正覚をなり給いき、 諸の
06 比丘には三衣をゆるされき、 鈍根の比丘は衣食ととのわざれば阿羅漢果を証せずと・みへて候、 殊に法華経には
07 柔和忍辱衣と申して衣をこそ本として候へ、 又法華経の行者をば衣をもつて覆せ給うと申すも・ ねんごろなるぎ
08 なり。
09   日蓮は無戒の比丘・邪見の者なり故に天これをにくませ給いて食衣ともしき身にて候、 しかりといえども法華
10 経を口に誦し・とき・どき・これをとく、 譬へば大チの珠を含みいらんよりせんだんを生ずるがごとし、いらんを
11 すてて・ せんだん・まいらせ候・チ形をかくして珠を授けたてまつる、 台大師云く「他経は但男に記して女に記
12 せず」等云云、 法華経にあらざれば 女人成仏は許されざるか、 具足千万光相如来と申すは摩訶大比丘尼のこと
13 なり、 此れ等もつてをしはかり候に女人の成仏は法華経により候べきか、 要当説真実は教主釈尊の金言・皆是真
14 実は多宝仏の証明・舌相至梵天は諸仏の誓状なり、 日月は地に落つべしや須弥山はくづるべしや・大海の潮は増減
15 せざるべしや大地は飜覆すべしや、 此の御衣の功徳は法華経にとかれて候、 但心をもつて・をもひやらせ給い候
16 へ、言にはのべがたし。
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慧日天照御書
01   もつて一閻浮提の者の眼を抉るべきか、釈迦仏の御名をば幼稚にては日種という、 長大の後の異名をば慧日と
02 いう、此の国を・日本という・主をば天照と申す。
釈迦御所領御書
01   「是れ我が有なり其の中の衆生は悉く是れ吾子なり」等云云、 この文のごとくならば・この三界は皆釈迦如来
02 の御所領なり、 寿量品に云く「我常に此の娑婆世界に在り」等云云、 この文のごとくならば乃至過去五百塵点劫
03 よりこのかた此の娑婆世界は 釈迦菩薩の御進退の国土なり、 其の上仏の滅後一百年に 阿育大王と申す王をはし
04 き・此の南閻浮提を三度まで僧に付属し給いき、 又此の南閻浮提の内の大日本国をば 尸那国の南岳大師・此の国
05 の上宮太子と生れてこの国の王となり給いき、 しかれば聖徳太子已後の諸王は皆南岳大師の末葉なり、 桓武天王
06 已下の諸王は又山王。
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大果報御書
01   者どもをば少少はをひいだし・或はきしやうかかせて・はうにすぎて候いつるが・七月末八月の始に所領かわり
02 一万余束の作毛をさへ・かられて山やにまとひ候ゆへに・日蓮なを・ばうじつるゆへかと・ののしり候上・御かへり
03 の後七月十五日より上下いしはいと申す虫ふりて 国大体三分のうへそんじ候いぬ、 をほかた人のいくべしともみ
04 へず候、これまで候をもい・たたせ給う上なに事もと・をもひ候へども・かさねての御心ざしはうにもすぎ候か。
05   なによりもおぼつかなく候いつる事は・とののかみの御気色いかんがと・をぼつかなく候いつるに・なに事もな
06 き事申すばかりなし。
07   かうらいむこの事うけ給わり候ぬ、なにとなくとも釈迦如来・法華経を失い候いつる上は・大果報ならば三年は
08 よもとをもひ候いつるに・いくさ・けかち・つづき候いぬ、国はいかにも候へ法華経のひろまらん事疑なかるべし。
09   御母への御事・経をよみ候事に申し候なり、此の御使いそぎ候へば・くはしく申さず候、恐恐。
除病御書
01   其の上日蓮の身並びに弟子又過去謗法の重罪 未だ尽きざるの上現在多年の間謗法の者と為り 亦謗法の国に生
02 る、当時信心深からざらんか豈之を脱れんや、 但し貴辺此の病を受くるの理或人之を告ぐ 予日夜朝暮に法華経に
03 申し上げ朝暮に青天に訴う除病の由今日之を聞く喜悦何事か之に過ぎん、事事見参を期せん、恐恐。
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根露枝枯御書
01   三論宗も分別ならざる証文をもつて立てたりしかば・盲目の衆生に値うて誑惑せしかども・明眼の智者に値うて
02 邪義顕れぬ、 此れ即根露るれば枝枯れ源乾けば流竭く自然の道理なり、 念仏宗・禅宗と真言とは其の根本謬ゴを
03 本とし誑惑を源とせり、 其の根源顕れなば設い日蓮はいやしくとも 天のはからひ大法流布の時来るならば・彼の
04 悪法やぶれて此の真実の法立つ事疑なかるべし。
05   すでに此の悪法消えんとするは汝知るやいなや、日蓮をいやしみて・さんざんとするほどに\/。
南無御書
01   堂塔つくらず布施まいらせずらん、をしき物は命ばかりなり、これを法華経にまいらせんとをもし、 三世の仏
02 は皆凡夫にてをはせし時・命を法華経にまいらせて仏になり給う、 此の故に一切の仏の始には南無と申す・南無と
03 申すは月氏の語・此の土にては帰命と申すなり、 帰命と申すは天台の釈に云く「命を以て自ら帰す」等云云、 命
04 を法華経にまいらせて仏にはならせ給う、日蓮今度命を法華経にまいらせて。
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題目功徳御書
01   功徳は先の功徳にたくらぶれば・前の功徳は爪上の土のごとし、法華経の題目の功徳は十方の土のごとし、 先
02 の功徳は一渧の水のごとし・題目の功徳は大海のごとし、 先の功徳は瓦礫のごとし・題目の功徳は金銀のごとし、
03 先の功徳は螢火のごとし・題目の功徳は日月のごとしと申す経文なり。
大悪大善御書
01   大事には小瑞なし、大悪をこれば大善きたる、すでに大謗法・国にあり大正法必ずひろまるべし、 各各なにを
02 かなげかせ給うべき、迦葉尊者にあらずとも・まいをも・まいぬべし、舎利弗にあらねども・立つてをどりぬべし、
03 上行菩薩の大地よりいで給いしには・をどりてこそいで給いしか、 普賢菩薩の来るには大地を六種にうごかせり、
04 事多しといへども・しげきゆへにとどむ、又又申すべし。
来臨曇華御書
01   追つて申す、御器の事は越後□□房申し候べし、御心ざしふかき由・内房へ申させ給い候へ。

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