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日蓮大聖人御書全集
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1461 1462 1463 1464 1465 1466 1467 1468 1469 1470
1471 1472 1473 1474 1475 1476 1477 1478 1479 1480
1481 1482 1483 1484 1485 1486 1487 1488 1489 1490
1491 1492 1493 1494 1495 1496 1497 1498 1499 1500

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01 に云く 「而かも彼の土に於いて仏の智慧を求めて是の経を聞くことを得ん」等云云、 此の経文は智者ならん人人
02 は心をとどむべし、 教主釈尊の父母の御ために説かせ給いて候経文なり、 此の法門は唯天台大師と申せし人計り
03 こそ知りてをはし候ひけれ、其の外の諸宗の人人知らざる事なり、日蓮が心中に第一と思ふ法門なり。
04   父母に御孝養の意あらん人人は法華経を贈り給べし、 教主釈尊の父母の御孝養には法華経を贈り給いて候、日
05 蓮が母存生してをはせしに仰せ候し事をも・あまりにそむきまいらせて候しかば、 今をくれまいらせて候が・あな
06 がちにくやしく覚へて候へば一代聖教をカンガへて母の孝養を仕らんと存じ候間、 母の御訪い申させ給う人人をば
07 我が身の様に思ひまいらせ候へば、 あまりにうれしく思ひまいらせ候間あらあら・かきつけて申し候なり、 定め
08 て過去聖霊も 忽に六道の垢穢を離れて霊山浄土へ御参り候らん、 此の法門を知識に値わせ給いて度度きかせ給う
09 べし、日本国に知る人すくなき法門にて候ぞ、くはしくは又又申すべく候、恐恐謹言
10       十月二十一日                    日 蓮 花 押
11     尾張刑部左衛門尉殿女房御返事
舂麦御書
01   女房御参詣こそゆめとも・うつつとも・ありがたく候しか、心ざしいちのはせ申す、 当時の御いもふゆのたか
02 うなのごとしあになつのゆきにことならむ。
03   舂麦一俵・芋一篭・笋二丸給い畢んぬ。
04       五月廿八日
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妙法尼御前御返事
01   先法華経につけて御不審をたてて其趣を御尋ね候事ありがたき大善根にて候、 須弥山を他方の世界へつぶてに
02 なぐる人よりも・ 三千大千世界をまりの如くにけあぐる人よりも 無量の余の経典を受け持ちて人に説ききかせ聴
03 聞の道俗に六神通をえせしめんよりも、 末法のけふこのごろ 法華経の一句一偈のいはれをも尋ね問う人はありが
04 たし、 此の趣を釈し給いて人の御不審をはらさすべき僧もありがたかるべしと、 法華経の四の巻・宝塔品と申す
05 処に六難九易と申して大事の法門候、 今此の御不審は六の難き事の内なり、 爰に知んぬ若し御持ちあらば即身成
06 仏の人なるべし、 此の法華経には我等が身をば法身如来・我等が心をば報身如来・我等がふるまひをば応身如来と
07 説かれて候へば、 此の経の一句一偈を持ち信ずる人は皆此の功徳をそなへ候、 南無妙法蓮華経と申すは是れ一句
08 一偈にて候、 然れども同じ一句の中にも肝心にて候、南無妙法蓮華経と唱うる計りにて仏になるべしやと、 此の
09 御不審所詮に候・一部の肝要八軸の骨髄にて候。
10   人の身の五尺・六尺のたましひも一尺の面にあらはれ・一尺のかほのたましひも一寸の眼の内におさまり候、又
11 日本と申す二の文字に六十六箇国の人畜・田畠・上下・貴賎・七珍万宝・一もかくる事候はず収めて候、其のごとく
12 南無妙法蓮華経の題目の内には一部八巻・ 二十八品・六万九千三百八十四の文字・一字ももれず・かけずおさめて
13 候、 されば経には題目たり仏には眼たりと楽天ものべられて候、 記の八に略して経題を挙ぐるに玄に一部を収む
14 と妙楽も釈しおはしまし候、 心は略して経の名計りを挙ぐるに一部を収むと申す文なり、一切の事につけて所詮・
15 肝要と申す事あり、 法華経一部の肝心は南無妙法蓮華経の題目にて候、 朝夕御唱え候はば正く法華経一部を真読
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01 にあそばすにて候、 二返唱うるは二部乃至百返は百部・千返は千部・加様に不退に御唱え候はば不退に法華経を読
02 む人にて候べく候、 天台の六十巻と申す文には此のやうを釈せられて候、 かかる持ちやすく行じやすき法にて候
03 を末代悪世の一切衆生のために説きをかせ給いて候、 経文に云く「於末法中・於後末世法欲滅時・受持読誦・悪世
04 末法時・能持是経者・後五百歳中広宣流布」と、 此れ等の文の心は当時末法の代には法華経を持ち信ずべきよしを
05 説かれて候、かかる明文を学しあやまりて日本.漢土・天竺の謗法の学匠達皆念仏者・真言.禅・律の小乗・権教には
06 随い行じて法華経を捨てはて候ぬ、 仏法にまどへるをば・しろしめされず、 形まことしげなれば云う事も疑ひあ
07 らじと計り御信用候間、 をもはざるに法華経の敵・ 釈迦仏の怨とならせ給いて今生には祈る所願も虚しく命もみ
08 じかく後生には無間大城をすみかとすべしと正しく経文に見えて候。
09   さて此の経の題目は習い読む事なくして大なる善根にて候、 悪人も女人も畜生も地獄の衆生も十界ともに即身
10 成仏と説かれて候は、 水の底なる石に火のあるが如く百千万年くらき所にも燈を入れぬればあかくなる、 世間の
11 あだなるものすら尚加様に不思議あり、 何に況や仏法の妙なる御法の御力をや、我等衆生悪業・煩悩・生死果縛の
12 身が、正・了・縁の三仏性の因によりて即法・報・応の三身と顕われん事疑ひなかるべし、妙法経力即身成仏と伝教
13 大師も釈せられて候、 心は法華経の力にてはくちなはの竜女も即身成仏したりと申す事なり 御疑候べからず委く
14 は見参に入り候て申すべく候と申させ給へ。
15       弘安元年戊寅七月三日                  日蓮花押
16     妙法尼御前御返事
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妙法尼御前御返事
01   御消息に云くめうほうれんくゑきやうをよるひるとなへまいらせ、 すでにちかくなりて二声かうしやうにとな
02 へ、乃至いきて候し時よりもなをいろもしろくかたちもそむせずと云云。
03   法華経に云く「如是相乃至本末究竟等」云云大論に云く「臨終の時色黒き者は地獄に堕つ」等云云、守護経に云
04 く「地獄に堕つるに十五の相.餓鬼に八種の相.畜生に五種の相」等云云、天台大師の摩訶止観に云く「身の黒色は地
05 獄の陰に譬う」等云云、 夫以みれば日蓮幼少の時より仏法を学び候しが念願すらく人の寿命は無常なり、出る気は
06 入る気を待つ事なし・ 風の前の露尚譬えにあらず、 かしこきもはかなきも老いたるも若きも定め無き習いなり、
07 されば先臨終の事を習うて後に他事を習うべしと思いて、 一代聖教の論師・ 人師の書釈あらあらかんがへあつめ
08 て此を明鏡として、 一切の諸人の死する時と並に臨終の後とに引き向えてみ候へばすこしもくもりなし、 此の人
09 は地獄に堕ち給う乃至人天とはみへて候を、 世間の人人或は師匠・ 父母等の臨終の相をかくして西方浄土往生と
10 のみ申し候、 悲いかな師匠は悪道に堕ちて多くの苦みしのびがたければ、 弟子はとどまりゐて師の臨終をさんだ
11 んし地獄の苦を増長せしむる、 譬へばつみふかき者を口をふさいできうもんしはれ 物の口をあけずしてやまする
12 がごとし。
13   しかるに今の御消息に云くいきて候し時よりも・ なをいろしろくかたちもそむせずと云云、天台の云く白白は
14 天に譬ふ、 大論に云く「赤白端正なる者は天上を得る」云云、 天台大師御臨終の記に云く色白し、玄奘三蔵御臨
15 終を記して云く色白し、 一代聖教を定むる名目に云く 「黒業は六道にとどまり 白業は四聖となる」此等の文証
16 と現証をもんてかんがへて候に、此の人は天に生ぜるか、 はた又法華経の名号を臨終に二反となうと云云、 法華
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01 経の第七の巻に云く「我滅度の後に於て応に此の経を受持すべし、 是の人仏道に於て決定して疑有ること無けん」
02 云云、 一代の聖教いづれもいづれもをろかなる事は候はず、 皆我等が親父・大聖教主釈尊の金言なり皆真実なり
03 皆実語なり、其の中にをいて又小乗.大乗・顕教・密教・権大乗.実大乗あいわかれて候、仏説と申すは二天・三仙・
04 外道・道士の経経にたいし候へば・此等は妄語・仏説は実語にて候、 此の実語の中に妄語あり実語あり綺語もあり
05 悪口もあり、其の中に法華経は実語の中の実語なり・真実の中の真実なり、 真言宗と華厳宗と三論と法相と倶舎・
06 成実と律宗と念仏宗と禅宗等は 実語の中の妄語より立て出だせる宗宗なり、 法華宗は此れ等の宗宗には・にるべ
07 くもなき実語なり、 法華経の実語なるのみならず 一代妄語の経経すら法華経の大海に入りぬれば 法華経の御力
08 にせめられて実語となり候、 いわうや法華経の題目をや、 白粉の力は漆を変じて雪のごとく白くなす・須弥山に
09 近づく衆色は皆金色なり、 法華経の名号を持つ人は一生乃至過去遠遠劫の黒業の漆変じて白業の大善となる、 い
10 わうや無始の善根皆変じて金色となり候なり。
11   しかれば故聖霊・最後臨終に南無妙法蓮華経と・となへさせ給いしかば、一生乃至無始の悪業変じて仏の種とな
12 り給う、 煩悩即菩提・生死即涅槃・即身成仏と申す法門なり、かかる人のえんの夫婦にならせ給へば又女人成仏も
13 疑なかるべし、若し此の事虚事ならば釈迦・多宝・十方・分身の諸仏は妄語の人・大妄語の人・悪人なり、一切衆生
14 をたぼらかして地獄におとす人なるべし、 提婆達多は寂光浄土の主となり 教主釈尊は阿鼻大城のほのをにむせび
15 給うべし、 日月は地に落ち大地はくつがへり河は逆に流れ須弥山はくだけをつべし、 日蓮が妄語にはあらず十方
16 三世の諸仏の妄語なりいかでか其の義候べきとこそ・をぼへ候へ、委くは見参の時申すべく候。
17        七月十四日                    日 蓮 花 押
18     妙法尼御前申させ給へ
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妙法比丘尼御返事
01   御文に云くたふかたびら一つあによめにて候女房のつたうと云云、 又おはりの次郎兵衛殿六月二十二日に死な
02 せ給うと云云。
03   付法蔵経と申す経は仏我が滅後に我が法を弘むべきやうを説かせ給いて候、 其の中に我が滅後正法一千年が間
04 次第に使をつかはすべし、 第一は迦葉尊者二十年・第二は阿難尊者二十年・第三は商那和修二十年・乃至第二十三
05 は師子尊者なりと云云、 其の第三の商那和修と申す人の御事を仏の説かせ給いて候やうは、 商那和修と申すは衣
06 の名なり、 此の人生れし時衣をきて生れて候いき不思議なりし事なり、 六道の中に地獄道より人道に至るまでは
07 何なる人も始はあかはだかにて候に 天道こそ衣をきて生れ候へ、 たとひ何なる賢人聖人も人に生るるならひは皆
08 あかはだかなり、 一生補処の菩薩すら尚はだかにて生れ給へり 何かに況や其の外をや、然るに此の人は商那衣と
09 申すいみじき衣にまとはれて生れさせ給いしが、 此の衣は血もつかずけがるる事もなし、 譬えば池に蓮のをひを
10 しの羽の水にぬれざるが如し、 此の人次第に生長ありしかば又此の衣次第に広く長くなる、 冬はあつく夏はうす
11 く春は青く秋は白くなり候し程に・長者にて・をはせしかば何事もともしからず、 後には仏の記しをき給いし事た
12 がふ事なし、 故に阿難尊者の御弟子とならせ給いて御出家ありしかば此の衣変じて五条・七条・九条等の御袈裟と
13 なり候き、 かかる不思議の候し故を仏の説かせ給いしやうは・乃往過去・阿僧祇劫の当初・此の人は商人にて有り
14 しが、 五百人の商人と共に大海に船を浮べてあきなひをせし程に 海辺に重病の者あり、しかれども辟支仏と申し
15 て貴人なり、先業にてや有りけん、 病にかかりて身やつれ心をぼれ不浄にまとはれてをはせしを、 此の商人あは
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01 れみ奉りて・ねんごろに看病して生しまいらせ、不浄をすすぎ・すててソ布の商那衣をきせまいらせてありしかば、
02 此聖人悦びて願して云く 汝我を助けて身の恥を隠せり此の衣を今生後生の衣とせんとて・ やがて涅槃に入り給い
03 き、此の功徳によりて過去・無量劫の間・人中天上に生れ生るる度ごとに、此の衣・身に随いて離るる事なし、 乃
04 至今生に釈迦如来の滅後第三の付嘱をうけて 商那和修と申す聖人となり、 摩突羅国の優留荼山と申す山に大伽藍
05 を立てて無量の衆生を教化して 仏法を弘通し給いし事二十年なり、 所詮商那和修比丘の一切のたのしみ不思議は
06 皆彼の衣より出生せりとこそ説かれて候へ。
07   而るに日蓮は南閻浮提日本国と申す国の者なり、 此の国は仏の世に出でさせ給いし国よりは東に当りて二十万
08 余里の外遥なる海中の小島なり、 而るに仏・御入滅ありては既に二千二百二十七年なり、月氏・漢土の人の此の国
09 の人人を見候へば此の国の人の伊豆の大島・ 奥州の東のえぞなんどを見るやうにこそ候らめ、 而るに日蓮は日本
10 国安房の国と申す国に生れて候しが、 民の家より出でて頭をそり袈裟をきたり、 此の度いかにもして仏種をもう
11 へ生死を離るる身とならんと思いて候し程に、 皆人の願わせ給う事なれば阿弥陀仏をたのみ奉り 幼少より名号を
12 唱え候し程に、いささかの事ありて、 此の事を疑いし故に一の願をおこす、 日本国に渡れる処の仏経並に菩薩の
13 論と人師の釈を習い見候はばや、又倶舎宗.成実宗・律宗・法相宗・三論宗・華厳宗.真言宗・法華天台宗と申す宗ど
14 もあまた有りときく上に、 禅宗・浄土宗と申す宗も候なり、 此等の宗宗・枝葉をばこまかに習はずとも所詮肝要
15 を知る身とならばやと思いし故に、 随分に・はしりまはり十二・ 十六の年より三十二に至るまで二十余年が間、
16 鎌倉・京.叡山・園城寺・高野.天王寺等の国国.寺寺あらあら習い回り候し程に.一の不思議あり、我れ等が・はかな
17 き心に推するに仏法は唯一味なるべし、 いづれもいづれも・ 心に入れて習ひ願はば生死を離るべしとこそ思いて
18 候に、 仏法の中に入りて悪しく習い候ぬれば謗法と申す大なる穴に堕ち入つて、 十悪五逆と申して日日・夜夜に
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01 殺生・偸盗・邪婬・妄語等をおかす人よりも・五逆罪と申して父母等を殺す悪人よりも、比丘・比丘尼となりて身に
02 は二百五十戒をかたく持ち 心には八万法蔵をうかべて候やうなる、 智者聖人の一生が間に一悪をもつくらず人に
03 は仏のやうにをもはれ、 我が身も又さながらに悪道にはよも堕ちじと思う程に、十悪・五逆の罪人よりも・つよく
04 地獄に堕ちて 阿鼻大城を栖として永く地獄をいでぬ事の候けるぞ、 譬えば人ありて世にあらんがために国主につ
05 かへ奉る程に、 させるあやまちはなけれども我心のたらぬ上身にあやしきふるまひかさなるを、 猶我身にも失あ
06 りともしらず又傍輩も不思議ともをもはざるに 后等の御事によりてあやまつ事はなけれども 自然にふるまひあし
07 く王なんどに不思議に見へまいらせぬれば、 謀反の者よりも其の失重し、此の身とがにかかりぬれば父母・兄弟・
08 所従なんども又かるからざる失にをこなはるる事あり。
09   謗法と申す罪をば我れもしらず人も失とも思はず・但仏法をならへば貴しとのみ思いて候程に・此の人も又此の
10 人にしたがふ弟子檀那等も無間地獄に堕つる事あり、 所謂勝意比丘・ 苦岸比丘なんど申せし僧は二百五十戒をか
11 たく持ち三千の威儀を一もかけずありし人なれども、 無間大城に堕ちて出づる期見へず、 又彼の比丘に近づきて
12 弟子となり檀那となる人人・存の外に大地微塵の数よりも多く地獄に堕ちて師と・ともに苦を受けしぞかし、 此の
13 人後世のために衆善を修せしより外は又心なかりしかども・かかる不祥にあひて候しぞかし。
14   かかる事を見候しゆへに・あらあら経論を勘へ候へば、 日本国の当世こそ其に似て候へ、代末になり候へば世
15 間のまつり事のあらきにつけても 世の中あやうかるべき上、 此の日本国は他国にもにず仏法弘まりて国をさまる
16 べきかと思いて候へば、 中中・仏法弘まりて世もいたく衰へ人も多く悪道に堕つべしと見へて候、 其の故は日本
17 国は月氏・ 漢土よりも堂塔等の多き中に大体は阿弥陀堂なり、 其の上家ごとに阿弥陀仏を木像に造り画像に書き
18 人毎に六万八万等の念仏を申す、 又他方を抛うちて西方を願う愚者の眼にも 貴しと見え候上、 一切の智人も皆
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01 いみじき事なりとほめさせ給う。
02   又人王五十代・桓武天皇の御宇に弘法大師と申す聖人此の国に生れて、 漢土より真言宗と申すめずらしき法を
03 習い伝へ平城嵯峨淳和等の王の御師となりて東寺・高野と申す寺を建立し、 又慈覚大師・智証大師と申す聖人同じ
04 く此宗を習い伝えて叡山・ 園城寺に弘通せしかば日本国の山寺・一同に此の法を伝へ今に真言を行ひ鈴をふりて公
05 家武家の御祈をし候、所謂二階堂・大御堂・若宮等の別当等是れなり、 是れは古も御たのみある上当世の国主等家
06 には柱・天には日月・河には橋・海には船の如く御たのみあり。
07   禅宗と申すは又当世の持斎等を建長寺等にあがめさせ給うて 父母よりも重んじ神よりも御たのみあり、されば
08 一切の諸人頭をかたぶけ手をあさふ、 かかる世にいかなればにや候らん、 天変と申して彗星長く東西に渡り・地
09 夭と申して大地をくつがへすこと大海の船を大風の時・ 大波のくつがへすに似たり、 大風吹いて草木をからし飢
10 饉も年年にゆき疫病月月におこり大旱魃ゆきて河池・田畠・皆かはきぬ、此くの如く三災・七難・数十年起りて民半
11 分に減じ残りは或は父母・或は兄弟・ 或は妻子にわかれて歎く声・秋の虫にことならず、家家のちりうする事冬の
12 草木の雪にせめられたるに似たり、 是は・ いかなる事ぞと経論を引き見候へば仏の言く法華経と申す経を謗じ我
13 れを用いざる国あらばかかる事あるべしと、仏の記しをかせ給いて候御言にすこしも・たがひ候はず。
14   日蓮疑て云く日本には誰か法華経と釈迦仏をば謗ずべきと疑ふ 、又たまさか謗ずる者は少少ありとも信ずる者
15 こそ多くあるらめと存じ候、 爰に此の日本国に人ごとに阿弥陀堂をつくり念仏を申す、 其の根本を尋ぬれば道綽
16 禅師・善導和尚・法然上人と申す三人の言より出でて候、 是れは浄土宗の根本・今の諸人の御師なり、此の三人の
17 念仏を弘めさせ給いし時にのたまはく未有一人得者・千中無一・捨閉閣抛等云云、 いふこころは阿弥陀仏をたのみ
18 奉らん人は一切の経・一切の仏・一切の神をすてて但阿弥陀仏・ 南無阿弥陀仏と申すべし、其の上ことに法華経と
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01 釈迦仏を捨てまいらせよとすすめしかばやすきままに案もなく・ ばらばらと付き候ぬ、 一人付き始めしかば万人
02 皆付き候いぬ、 万人付きしかば上は国主・中は大臣・下は万民一人も残る事なし、 さる程に此の国存の外に釈迦
03 仏・法華経の御敵人となりぬ。
04   其故は「今此三界は皆是れ我が有なり 其の中の衆生は悉く是れ吾が子なり而も今此処は諸の患難多し唯我れ一
05 人のみ能く救護を為す」と説いて、 此の日本国の一切衆生のためには釈迦仏は主なり師なり親なり、 天神七代・
06 地神五代・人王九十代の神と王とすら猶釈迦仏の所従なり、 何かに況や其の神と王との眷属等をや、 今日本国の
07 大地・山河・大海・草木等は皆釈尊の御財ぞかし、全く一分も薬師仏・阿弥陀仏等の他仏の物にはあらず、又日本国
08 の天神.地神・九十余代の国主・並に万民・牛馬生と生る生ある者は皆教主釈尊の一子なり、又日本国の天神.地神・
09 諸王.万民等の天地・水火.父母・主君.男女・妻子.黒白等を弁え給うは皆教主釈尊御教の師なり、全く薬師・阿弥陀
10 等の御教にはあらず、 されば此の仏は我等がためには大地よりも厚く 虚空よりも広く天よりも高き御恩まします
11 仏ぞかし、 かかる仏なれば王臣・万民倶に人ごとに父母よりも重んじ神よりもあがめ奉るべし、 かくだにも候は
12 ば何なる大科有りとも天も守護して・よもすて給はじ・地もいかり給うべからず。
13   然るに上一人より下万人に至るまで 阿弥陀堂を立て阿弥陀仏を本尊ともてなす故に天地の御いかりあるかと見
14 え候、 譬えば此の国の者が漢土・高麗等の諸国の王に心よせなりとも、 此の国の王に背き候なば其の身はたもち
15 がたかるべし、 今日本国の一切衆生も是くの如し、 西方の国主・阿弥陀仏には心よせなれども我国主釈迦仏に背
16 き奉る故に此の国の守護神いかり給うかと愚案に勘へ候、 而るを此の国の人人・阿弥陀仏を或は金・或は銀・或は
17 銅・或は木画等に志を尽くし仏事をなし、 法華経と釈迦仏をば或は墨画・或は木像にはくをひかず・或は草堂に造
18 りなんどす、例せば他人をば志を重ね妻子をばもてなして父母におろかなるが如し。
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01  又真言宗と申す宗は上一人より下万民に至るまで此れを仰ぐ事日月の如し、 此れを重んずる事珍宝の如し、 此
02 の宗の義に云く大日経には法華経は二重三重の劣なり、 釈迦仏は大日如来の眷属なりなんど申す 此の事は弘法・
03 慈覚・智証の仰せられし故に今四百余年に叡山・東寺・園城・日本国の智人一同の義なり。
04   又禅宗と申す宗は真実の正法は教外別伝なり法華経等の経経は教内なり、譬えば月をさす指・渡りの後の船・彼
05 岸に到りて・ なにかせん月を見ては指は用事ならず等云云、 彼の人人謗法ともをもはず習い伝えたるままに存の
06 外に申すなり、 然れども此の言は釈迦仏をあなづり法華経を失ひ奉る因縁となりて、 此の国の人人・皆一同に五
07 逆罪にすぎたる大罪を犯しながら而も罪ともしらず。
08   此大科・次第につもりて人王八十二代・隠岐の法皇と申せし王並びに佐渡の院等は我が相伝の家人にも及ばざり
09 し、相州鎌倉の義時と申せし人に代を取られさせ給いしのみならず・ 島島にはなたれて歎かせ給いしが・終には彼
10 の島島にして隠れさせ給いぬ、 神ひは悪霊となりて地獄に堕ち候いぬ、 其の召仕はれし大臣已下は或は頭をはね
11 られ或は水火に入り・ 其の妻子等は或は思い死に死に・ 或は民の妻となりて今五十余年・其外の子孫は民のごと
12 し、是れ偏に真言と念仏等をもてなして法華経・釈迦仏の大怨敵となりし故に・天照太神・正八幡等の天神・地祇・
13 十方の三宝にすてられ奉りて、現身には我が所従等にせめられ後生には地獄に堕ち候ぬ。
14   而るに又代東にうつりて 年をふるままに彼の国主を失いし、 真言宗等の人人鎌倉に下り相州の足下にくぐり
15 入りて・やうやうにたばかる故に・本は上﨟なればとて・すかされて鎌倉の諸堂の別当となせり、 又念仏者をば善
16 知識とたのみて大仏・長楽寺・極楽寺等とあがめ、 禅宗をば寿福寺・建長寺等とあがめをく、隠岐の法皇の果報の
17 尽き給いし失より百千万億倍すぎたる大科・鎌倉に出来せり、 かかる大科ある故に天照太神・正八幡等の天神・地
18 祇・釈迦・多宝・十方の諸仏・一同に大にとがめさせ給う故に、隣国に聖人有りて万国の兵をあつめたる大王に仰せ
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01 付けて、日本国の王臣万民を一同に罰せんとたくませ給うを、 日蓮かねて経論を以て勘へ候いし程に、 此れを有
02 りのままに申さば国主もいかり、万民も用ひざる上、念仏者・禅宗・律僧・真言師等定めて忿りをなして・あだを存
03 じ王臣等に讒奏して我が身に大難おこりて、 弟子乃至檀那までも少しも日蓮に心よせなる人あらば科になし、 我
04 が身もあやうく命にも及ばんずらん、 いかが案もなく申し出すべきとやすらひし程に、 外典の賢人の中にも世の
05 ほろぶべき事を知りながら申さぬは諛臣とて・へつらへる者・不知恩の人なり、 されば賢なりし竜逢・比干なんど
06 申せし賢人は、 頚をきられ胸をさかれしかども国の大事なる事をばはばからず申し候いき、 仏法の中には仏いま
07 しめて云く法華経のかたきを見て世をはばかり恐れて申さずば、 釈迦仏の御敵いかなる智人・ 善人なりとも必ず
08 無間地獄に堕つべし、 譬へば父母を人の殺さんとせんを・子の身として父母にしらせず、 王をあやまち奉らんと
09 する人のあらむを、臣下の身として知りながら代をおそれて申さざらんが・ごとしなんど禁られて候。
10   されば仏の御使たりし提婆菩薩は外道に殺され、師子尊者は檀弥羅王に頭をはねられ、 竺の道生は蘇山へ流さ
11 れ、法道は面にかなやきをあてられき、 此等は皆仏法を重んじ王法を恐れざりし故ぞかし、 されば賢王の時は仏
12 法をつよく立つれば王両方を聞あきらめて勝れ給う智者を師とせしかば国も安穏なり、 所謂陳・隋の大王・桓武・
13 嵯峨等は天台智者大師を南北の学者に召し合せ、 最澄和尚を南都の十四人に対論せさせて論じかち給いしかば 寺
14 をたてて正法を弘通しき、大族王.優陀延王・武宗・欽宗・欽明・用明或は鬼神.外道を崇重し或は道士を帰依し或は
15 神を崇めし故に、 釈迦仏の大怨敵となりて身を亡ぼし世も安穏ならず、 其の時は聖人たりし僧侶大難にあへり、
16 今日本国すでに大謗法の国となりて他国にやぶらるべしと見えたり。
17   此れを知りながら申さずば縦ひ現在は安穏なりとも 後生には無間大城に堕つべし、後生を恐れて申すならば流
18 罪・死罪は一定なりと思い定めて去ぬる文応の比・故最明寺入道殿に申し上げぬ、 されども用い給う事なかりしか
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01 ば、 念仏者等此の由を聞きて上下の諸人をかたらひ打ち殺さんとせし程に・かなはざりしかば、 長時武蔵の守殿
02 は極楽寺殿の御子なりし 故に親の御心を知りて理不尽に伊豆の国へ流し給いぬ、 されば極楽寺殿と長時と彼の一
03 門皆ほろぶるを各御覧あるべし、 其の後何程もなくして召し返されて後又経文の如く弥よ申しつよる、 又去ぬる
04 文永八年九月十二日に佐渡の国へ流さる、 日蓮御勘気の時申せしが如くどしうちはじまりぬ、 それを恐るるかの
05 故に又召し返されて候、しかれども用ゆる事なければ万民も弥弥悪心盛んなり。
06   縦ひ命を期として申したりとも国主用いずば国やぶれん事疑なし、 つみしらせて後用いずば我が失にはあらず
07 と思いて、 去ぬる文永十一年五月十二日・ 相州鎌倉を出でて六月十七日より此の深山に居住して門一町を出でず
08 既に五箇年をへたり。
09   本は房州の者にて候いしが地頭東条左衛門尉景信と申せしもの極楽寺殿・藤次左衛門入道・一切の念仏者にかた
10 らはれて度度の問註ありて・結句は合戦起りて候上・ 極楽寺殿の御方人理をまげられしかば東条の郡ふせがれて入
11 る事なし、父母の墓を見ずして数年なり、 又国主より御勘気二度なり、 第二度は外には遠流と聞こへしかども内
12 には頚を切るべしとて、 鎌倉竜の口と申す処に九月十二日の丑の時に 頚の座に引きすへられて候いき、 いかが
13 して候いけん月の如くにをはせし物・ 江の島より飛び出でて使の頭へかかり候いしかば、使おそれてきらず、 と
14 かうせし程に子細どもあまたありて其の夜の頚はのがれぬ、 又佐渡の国にて・ きらんとせし程に日蓮が申せしが
15 如く鎌倉にどしうち始まりぬ、使はしり下りて頚をきらず・結句はゆるされぬ、今は此の山に独りすみ候。
16   佐渡の国にありし時は里より遥にへだたれる野と山との中間につかはらと申す御三昧所あり、 彼処に一間四面
17 の堂あり、 そらはいたまあわず四壁はやぶれたり・ 雨はそとの如し雪は内に積もる、 仏はおはせず筵畳は一枚
18 もなし、 然れども我が根本より持ちまいらせて候・ 教主釈尊を立てまいらせ法華経を手ににぎり 蓑をき笠をさ
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01 して居たりしかども、 人もみへず食もあたへずして四箇年なり、彼の蘇武が胡国に・とめられて十九年が間・蓑を
02 き雪を食としてありしが如し。
03   今又此山に五箇年あり、北は身延山と申して天にはしだて・南は・たかとりと申して鶏足山の如し、西はなない
04 たがれと申して鉄門に似たり・東は天子がたけと申して富士の御山にたいしたり、 四の山は屏風の如し、 北に大
05 河あり早河と名づく早き事・箭をいるが如し、 南に河あり波木井河と名づく大石を木の葉の如く流す、 東には富
06 士河北より南へ流れたりせんのほこをつくが如し 内に滝あり身延の滝と申す白布を天より引くが如し 此の内に狭
07 小の地あり日蓮が庵室なり深山なれば 昼も日を見奉らず夜も月を詠むる事なし峯にははかうのサルかまびすしく谷
08 には波の下る音鼓を打つがごとし 地にはしかざれども大石多く 山には瓦礫より外には物もなし国主はにくみ給ふ
09 万民はとぶらはず冬は雪道を塞ぎ 夏は草をひしげり鹿の遠音うらめしく 蝉の鳴く声かまびすし訪う人なければ命
10 もつぎがたし はだへをかくす衣も候はざりつるに かかる衣ををくらせ給えるこそ いかにとも申すばかりなく候
11 へ。
12   見し人聞きし人だにも・あはれとも申さず、年比なれし弟子・つかへし下人だにも皆にげ失とぶらはざるに聞き
13 もせず見もせぬ人の御志哀なり、 偏に是れ別れし我が父母の生れかはらせ給いけるか、 十羅刹の人の身に入りか
14 はりて思いよらせ給うか、 唐の代宗皇帝の代に蓬子将軍と申せし人の御子・ 李如暹将軍と申せし人勅定を蒙りて
15 北の胡地を責めし程に、 我が勢数十万騎は打ち取られ胡国に生け取られて四十年漸くへし程に、 妻をかたらひ子
16 をまうけたり、 胡地の習い生取をば皮の衣を服せ毛帯をかけさせて候が、 只正月一日計り唐の衣冠をゆるす、一
17 年ごとに漢土を恋いて肝をきり涙をながす、 而る程に唐の軍おこりて唐の兵・胡地をせめし時・ひまをえて胡地の
18 妻子をふりすてて・にげしかば、 唐の兵は胡地の・えびすとて捕へて頚をきらんとせし程に、とかうして徳宗皇帝
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01 にまいらせてありしかば、 いかに申せども聞も・ほどかせ給はずして・南の国・呉越と申す方へ流されぬ、李如暹
02 歎いて云く進ては涼原の本郷を見ることを得ず 退ては胡地の妻子に逢ふことを得ず云云、 此の心は胡地の妻子を
03 もすて又唐の古き栖をも見ず・あらぬ国に流されたりと歎くなり、我が身には大忠ありしかどもかかる歎きあり。
04   日蓮も又此くの如し日本国を助けばやと思う心に依りて申し出す程に、 我が生れし国をも・せかれ又流されし
05 国をも離れぬ、 すでに此の深山にこもりて候が彼の李如暹に似て候なり、 但し本郷にも流されし処にも妻子なけ
06 れば歎く事はよもあらじ、 唯父母のはかと・なれし人人のいかが・なるらんと・をぼつかなしとも申す計りなし、
07 但うれしき事は武士の習ひ君の御為に宇治勢多を渡し前を・かけなんどして・ありし人は、 たとひ身は死すれども
08 名を後代に挙げ候ぞかし、 日蓮は法華経のゆへに度度所をおはれ 戦をし身に手をおひ弟子等を殺され両度まで遠
09 流せられ既に頚に及べり、 是れ偏に法華経の御為なり、法華経の中に仏説かせ給はく我が滅度の後・後の五百歳・
10 二千二百余年すぎて此の経閻浮提に流布せん時、 天魔の人の身に入りかはりて此の経を弘めさせじとて、 たまた
11 ま信ずる者をば 或はのり打ち所をうつし或はころしなんどすべし、 其の時先さきをしてあらん者は三世十方の仏
12 を供養する功徳を得べし、我れ又因位の難行・苦行の功徳を譲るべしと説かせ給う取意。
13   されば過去の不軽菩薩は法華経を弘通し給いしに、 比丘・比丘尼等の智慧かしこく二百五十戒を持てる大僧ど
14 も集まりて優婆塞・ 優婆夷をかたらひて不軽菩薩をのり打ちせしかども、 退転の心なく弘めさせ給いしかば終に
15 は仏となり給う、 昔の不軽菩薩は今の釈迦仏なり、 それをそねみ打ちなんどせし大僧どもは千劫阿鼻地獄に堕ち
16 ぬ、彼の人人は観経・阿弥陀経等の数千の経・一切の仏名・阿弥陀念仏を申し法華経を昼夜に読みしかども、 実の
17 法華経の行者をあだみしかば法華経・念仏戒等も助け給はず千劫阿鼻地獄に堕ちぬ、 彼の比丘等は始には不軽菩薩
18 をあだみしかども後には心をひるがへして、 身を不軽菩薩に仕うる事 やつこの主に随うがごとく 有りしかども
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01 無間地獄をまぬかれず、 今又日蓮にあだをせさせ給う日本国の人人も此くの如し、 此は彼には似るべくもなし彼
02 は罵り打ちしかども国主の流罪はなし・ 杖木瓦石はありしかども疵をかほり頚までには及ばず、 是は悪口杖木は
03 二十余年が間・ひまなし疵をかほり流罪・頚に及ぶ、 弟子等は或は所領を召され或はろうに入れ或は遠流し或は其
04 の内を出だし或は田畠を奪ひなんどする事・夜打・強盗・海賊・山賊・謀叛等の者よりもはげしく行はる、此れ又偏
05 に真言・念仏者・禅宗等の大僧等の訴なり、 されば彼の人人の御失は大地よりも厚ければ此の大地は大風に大海に
06 船を浮べるが如く動転す、 天は八万四千の星・瞋をなし昼夜に天変ひまなし、其の上日月・大に変多し仏滅後既に
07 二千二百二十七年になり候に・ 大族王が五天の寺をやき十六の大国の僧の頚を切り・武宗皇帝の漢土の寺を失ひ仏
08 像をくだき、 日本国の守屋が釈迦仏の金銅の像を炭火を以てやき・ 僧尼を打ちせめては還俗せさせし時も是れ程
09 の彗星大地震はいまだなし、 彼には百千万倍過ぎて候大悪にてこそ候いぬれ、 彼は王一人の悪心大臣以下は心よ
10 り起る事なし、 又権仏と権経との敵なり僧も法華経の行者にはあらず、是は一向に法華経の敵・王・一人のみなら
11 ず一国の智人並びに万民等の心より起れる大悪心なり、 譬えば女人物をねためば胸の内に大火もゆる故に、 身変
12 じて赤く身の毛さかさまにたち・五体ふるひ・ 面に炎あがりかほは朱をさしたるが如し眼まろになりてねこの眼の
13 ねづみをみるが如し、手わななきてかしわの葉を風の吹くに似たりかたはらの人是を見れば大鬼神に異ならず。
14   日本国の国主諸僧比丘比丘尼等も又是くの如し、 たのむところの弥陀念仏をば日蓮が無間地獄の業と云うを聞
15 き真言は亡国の法と云うを 聞き持斎は天魔の所為と云うを聞いて 念珠をくりながら歯をくひちがへ 鈴をふるに
16 くびをどりたり戒を持ちながら悪心をいだく 極楽寺の生仏の良観聖人折紙をささげて 上へ訴へ建長寺の道隆聖人
17 は輿に乗りて奉行人にひざまづく 諸の五百戒の尼御前等ははくをつかひてでんそうをなす、 是れ偏に法華経を読
18 みてよまず聞いてきかず善導法然が千中無一と 弘法慈覚達磨等の皆是戯論教外別伝の あまきふる酒にえはせ給い
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01 てさかぐるひにておはするなり、 法華最第一の経文を見ながら 大日経は法華経に勝れたり禅宗は最上の法なり律
02 宗こそ貴けれ念仏こそ 我等が分にはかなひたれと申すは酒に酔える人にあらずや 星を見て月にすぐれたり石を見
03 て金にまされり 東を見て西と云い天を地と申す物ぐるひを本として 月と金は星と石とには勝れたり東は東天は天
04 なんど有りのままに申す者をばあだませ給はば 勢の多きに付くべきか只物ぐるひの多く集まれるなり、 されば此
05 等を本とせし 云うにかひなき男女の 皆地獄に堕ちん事こそあはれに候へ 涅槃経には仏説き給はく末法に入つて
06 法華経を謗じて地獄に堕つる者は 大地微塵よりも多く信じて仏になる者は 爪の上の土よりも少しと説かれたり此
07 れを以つて計らせ給うべし 日本国の諸人は爪の上の土日蓮一人は十方の微塵にて候べきか、 然るに何なる宿習に
08 てをはすれば御衣をば送らせ給うぞ 爪の上の土の数に入らんとをぼすか 又涅槃経に云く「大地の上に針を立てて
09 大風の吹かん時大梵天より糸を下さんに 糸のはしすぐに下りて針の穴に入る事はありとも、 末代に法華経の行者
10 にはあひがたし」法華経に云く 「大海の底に亀あり三千年に一度海上にあがる 栴檀の浮木の穴にゆきあひてやす
11 むべし而るに此の亀一目なるが 而も僻目にて西の物を東と見東の物を西と見るなり」 末代悪世に生れて法華経並
12 びに南無妙法蓮華経の穴に身を入るる男女にたとへ給へり 何なる過去の縁にてをはすれば此の人を とふらんと思
13 食す御心はつかせ給いけるやらん、 法華経を見まいらせ候へば釈迦仏の其の人の御身に入らせ給いて かかる心は
14 つくべしと説かれて候譬へばなにとも思はぬ人の 酒をのみてえいぬればあらぬ心出来り人に物をとらせばや・ な
15 んど思う心出来る、 此れは一生慳貪にして餓鬼に堕つべきを其の人の酒の縁に菩薩の入りかはらせ給うなり、 濁
16 水に珠を入れぬれば水すみ 月に向いまいらせぬれば人の心あこがる、 画にかける鬼には心なけれどもおそろし、
17 とわりを画にかけば我が夫をば・とらねども・そねまし、錦のしとねに蛇をおれるは服せんとも思はず、 身のあつ
18 きにあたたかなる風いとはし、 人の心も此くの如し、 法華経の方へ御心をよせさせ給うは女人の御身なれども竜
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01 女が御身に入らせ給うか。
02   さては又尾張の次郎兵衛尉殿の御事・見参に入りて候いし人なり、日蓮は此の法門を申し候へば他人にはにず多
03 くの人に見て候へども・ いとをしと申す人は千人に一人もありがたし、 彼の人はよも心よせには思はれたらじな
04 れども、自体人がらにくげなるふりなく・よろづの人に・なさけあらんと思いし人なれば、心の中は・うけずこそ・
05 をぼしつらめども、 見参の時はいつはりをろかにて有りし人なり、 又女房の信じたるよしありしかば実とは思い
06 候はざりしかども、 又いたう法華経に背く事はよもをはせじなればたのもしきへんも候、 されども法華経を失ふ
07 念仏並びに念仏者を信じ我が身も多分は念仏者にて・をはせしかば後生はいかがと・をぼつかなし、 譬えば国主は
08 みやづかへのねんごろなるには恩のあるもあり又なきもあり、 少しもをろかなる事候へば・とがになる事疑なし、
09 法華経も又此くの如し、 いかに信ずるやうなれども法華経の御かたきにも知れ知らざれ、 まじはりぬれば無間地
10 獄は疑なし。
11   是はさてをき候ぬ、彼の女房の御歎いかがと・をしはかるに・あはれなり、たとへば・ふじのはなのさかんなる
12 が松にかかりて思う事もなきに松のにはかにたふれ、 つたのかきにかかれるが・かきの破れたるが如くに・をぼす
13 らん、内へ入れば主なし・やぶれたる家の柱なきが如し、 客人来れども外に出でて・あひしらうべき人もなし、夜
14 のくらきには・ねやすさまじく・はかをみれば・しるしはあれども声もきこへず、又思いやる死出の山・三途の河を
15 ば誰とか越え給うらん只独り歎き給うらん、 とどめをきし御前たち・いかに我をば・ひとりやるらん、さはちぎら
16 ざりとや歎かせ給うらん、 かたがた秋の夜の・ふけゆくままに冬の嵐の・をとづるる声につけても弥弥御歎き重り
17 候らん、南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経。
18       弘安元年戊寅九月六日                  日蓮花押
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01     妙法尼御前 御かたへ
妙法比丘尼御前御返事
01   明衣一つ給び畢んぬ、女人の御身・男にもをくれ親類をも・はなれ一二人ある・むすめもはかばかしからず便り
02 なき上・法門の故に人にも・ あだまれさせ給ふ女人・さながら不軽菩薩の如し、 仏の御姨母・摩訶波闍波提比丘
03 尼は女人ぞかし、 而るに阿羅漢とならせ給いて声聞の御名を得させ給ひ永不成仏の道に入らせ給いしかば、 女人
04 の姿をかへ・きさきの位を捨てて仏の御すすめを敬ひ、 四十余年が程・五百戒を持ちて昼は道路にたたずみ・夜は
05 樹下に坐して後生をねがひしに、 成仏の道を許されずして永不成仏のうきなを流させ給いし、 くちをしかりし事
06 ぞかし、 女人なれば過去遠遠劫の間有るに付けても無きに付けても・あだなを立てし、 はづかしく口惜かりしぞ
07 かし、 其の身をいとひて形をやつし尼と成りて候へば・かかる・なげきは離れぬとこそ思ひしに、相違して二乗と
08 なり永不成仏と聞きしは・いかばかり・あさましくをわせしに、法華経にして三世の諸仏の御勘気を許され、 一切
09 衆生喜見仏と成らせ給いしは・いくら程か・うれしく悦ばしくをはしけん、 さるにては法華経の御為と申すには何
10 なる事有りとも 背かせ給うまじきぞかし、 其に仏の言わく大音声を以て 普く四衆に告げたまわく誰れか能く此
11 の娑婆国土に於て広く妙法華経を説かん等云云、 我も我もと思うに諸仏の恩を報ぜんと思はん尼御前女人達、 何
12 事をも忍びて我が滅後に此の娑婆世界にして法華経を弘むべしと三箇度まで・ いさめさせ給いしに、 御用ひなく
13 して他方の国土に於て広く此の経を宣べんと申させ給いしは 能く能く不得心の尼ぞかし、幾くか仏悪しと・ をぼ
14 しけん、されば仏はそばむきて八十万億那由佗の諸菩薩をこそ・つくづくと御覧ぜしか。
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01 されば女人は由なき道には名を折り 命を捨つれども成仏の道はよはかりけるやと・ をぼへ候に、 今末代悪世の
02 女人と生れさせ給いてかかるものをぼえぬ 島のえびすにのられ打たれ責られしのび法華経を弘めさせ給う 彼の比
03 丘尼には雲泥勝れてありと仏は霊山にて御覧あるらん、 彼の比丘尼の御名を一切衆生喜見仏と申すは 別の事にあ
04 らず、 今の妙法尼御前の名にて候べし、 王となる人は過去にても現在にても十善を持つ人の名なり名は・かはれ
05 ども師子の座は一也、 此の名も・かはるべからず、 彼の仏の御言をさかがへす尼だにも一切衆生喜見仏となづけ
06 らる、 是は仏の言をたがへず此の娑婆世界まで名を失ひ命をすつる尼なり、 彼は養母として捨て給はず是は他人
07 として捨てさせ給はば偏頗の仏なり、 争でかさる事は候べき、 況や其中衆生悉是吾子の経文の如くならば今の尼
08 は女子なり彼の尼は養母なり、 養母を捨てずして女子を捨つる仏の御意やあるべき、 此の道理を深く御存知ある
09 べし、しげければ・とどめ候い畢んぬ。
10                                   日蓮花押
11     妙法尼御前
内房女房御返事
01   内房よりの御消息に云く八月九日父にてさふらひし人の百箇日に相当りてさふらふ、 御布施料に十貫まいらせ
02 候乃至あなかしこあなかしこ、 御願文の状に云く 「読誦し奉る妙法蓮華経一部読誦し奉る方便寿量品三十巻読誦
03 し奉る自我偈三百巻唱え奉る 妙法蓮華経の題名五万返」云云 同状に云く「伏して惟れば先考の幽霊生存の時弟子
04 遥に千里の山河を凌ぎ親り妙法の題名を受け 然る後三十日を経ずして 永く一生の終りを告ぐ」等云云、 又云く
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01 「嗚呼閻浮の露庭に白骨仮りに塵土と成るとも 霊山の界上に亡魂定んで覚蕊を開かん 」又云く「弘安三年女弟子
02 大中臣氏敬白す」等云云。
03   夫れ以れば一乗妙法蓮華経は月氏国にては 一由旬の城に積み日本国にては唯八巻なり、然るに現世後生を祈る
04 人或は八巻 或は一巻或は方便寿量或は自我偈等を読誦し讃歎して 所願を遂げ給ふ先例之多し 此は且らく之を置
05 く、 唱へ奉る妙法蓮華経の題名五万返と云云、 此の一段を宣べんと思いて先例を尋ぬるに其の例少なし、 或は
06 一返・二返唱へて利生を蒙る人粗これ有るか、 いまだ五万返の類を聞かず、 但し一切の諸法に亘りて名字あり其
07 の名字皆其の体徳を顕はせし事なり、 例せば石虎将軍と申すは石の虎を射徹したりしかば石虎将軍と申す、 的立
08 の大臣と申すは鉄的を射とをしたりしかば 的立の大臣と名く、 是皆名に徳を顕はせば今妙法蓮華経と申し候は一
09 部八巻・二十八品の功徳を五字の内に収め候、 譬へば如意宝珠の玉に万の宝を収めたるが如し、 一塵に三千を尽
10 す法門是なり、 南無と申す字は敬う心なり随う心なり、 故に阿難尊者は一切経の如是の二字の上に南無等云云、
11 南岳大師云く南無妙法蓮華経云云、 天台大師云く稽首南無妙法蓮華経云云、 阿難尊者は斛飯王の太子・教主釈尊
12 の御弟子なり、 釈尊御入滅の後六十日を過ぎて迦葉等の一千人・文殊等の八万人・大閣講堂にして集会し給いて仏
13 の別を悲しみ給ふ上、 我等は多年の間・随逐するすら六十日の間の御別を悲しむ、百年・千年・乃至末法の一切衆
14 生は何をか仏の御形見とせん、 六師外道と申すは八百年以前に二天・三仙等の説き置きたる四韋陀・十八大経を以
15 てこそ師の名残とは伝へて候へ、 いざさらば我等五十年が間・一切の声聞・大菩薩の聞き持ちたる経経を書き置き
16 て未来の衆生の眼目とせんと僉議して、 阿難尊者を高座に登せて仏を仰ぐ如く、 下座にして文殊師利菩薩・南無
17 妙法蓮華経と唱へたりしかば、 阿難尊者此れを承け取りて如是我聞と答ふ、 九百九十九人の大阿羅漢等は筆を染
18 めて書き留め給いぬ、 一部八巻・ 二十八品の功徳は此の五字に収めて候へばこそ文殊師利菩薩かくは唱へさせ給
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01 うらめ阿難尊者又さぞかしとは答え給うらめ、 又万二千の声聞・ 八万の大菩薩・二界八番の雑衆も有りし事なれ
02 ば合点せらるらめ、 天台智者大師と申す聖人・妙法蓮華経の五字を玄義十巻・一千丁に書き給いて候、其の心は華
03 厳経は八十巻・六十巻.四十巻・阿含経数百巻.大集方等数十巻.大品般若四十巻・六百巻・涅槃経四十巻.三十六巻、
04 乃至月氏・竜宮・天上・十方世界の大地微塵の一切経は妙法蓮華経の経の一字の所従なり、 妙楽大師重ねて十巻造
05 るを釈籤と名けたり、 天台以後に渡りたる漢土の一切経・ 新訳の諸経は皆法華経の眷属なり云云、日本の伝教大
06 師重ねて新訳の経経の中の大日経等の真言の経を皆法華経の眷属と定められ候い畢んぬ、 但し弘法・慈覚・智証等
07 は此の義に水火なり此の義後に粗書きたり、譬へば五畿・七道・六十六箇国・二つの島・其の中の郡と荘と村と田と
08 畠と人と牛馬と金銀等は 皆日本国の三字の内に備りて一つも闕くる事なし、 又王と申すは三の字を横に書きて一
09 の字を豎さまに立てたり、 横の三の字は天・地・人なり、豎の一文字は王なり、須弥山と申す山の大地をつきとを
10 して傾かざるが如し、 天・地・人を貫きて少しも傾かざるを王とは名けたり、 王に二つあり一には小王なり人王
11 天王是なり二には大王なり大梵天王是なり、 日本国は大王の如し国国の受領等は小王なり、華厳経・阿含経・方等
12 経・般若経・大日経・涅槃経等の已今当の一切経は小王なり、譬へば日本国中の国王・受領等の如し、法華経は大王
13 なり天子の如し、 然れば華厳宗・真言宗等の諸宗の人人は国主の内の所従等なり、 国国の民の身として天子の徳
14 を奪ひ取るは下剋上・背上向下・破上下乱等これなり、 設いいかに世間を治めんと思ふ志ありとも国も乱れ人も亡
15 びぬべし、 譬へば木の根を動さんに枝葉静なるべからず・大海の波あらからんに船おだやかなるべきや、華厳宗・
16 真言宗・念仏宗・律僧・禅僧等我が身持戒正直に智慧いみじく尊しといへども、 其の身既に下剋上の家に生れて法
17 華経の大怨敵となりぬ、 阿鼻大城を脱るべきや、 例せば九十五種の外道の内には正直有智の人多しといへども、
18 二天・三仙の邪法を承けしかば終には悪道を脱るる事なし。
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01   然るに今の世の南無阿弥陀仏と申す人人・南無妙法蓮華経と申す人を或は笑ひ或はあざむく、此れは世間の譬に
02 稗の稲をいとひ家主の田苗を憎む是なり、是国将なき時の盗人なり日の出でざる時のウグロモノなり、夜打強盗の科
03 めなきが如く地中の自在なるが如し、南無妙法蓮華経と申す国将と日輪とにあはば大火の水に消へエン猴が犬に値う
04 なるべし、 当時南無阿弥陀仏の人人・南無妙法蓮華経の御声の聞えぬれば、 或は色を失ひ或は眼を瞋らし或は魂
05 を滅し或は五体をふるふ、 伝教大師云く日出れば星隠れ巧を見て拙きを知る、 竜樹菩薩云く謬辞失い易く邪義扶
06 け難し、 徳慧菩薩云く面に死喪の色有り言に哀怨の声を含む、 法歳云く昔の義虎今は伏鹿なり等云云、此等の意
07 を以て知ぬべし、 妙法蓮華経の徳あらあら申し開くべし、 毒薬変じて薬となる妙法蓮華経の五字は悪変じて善と
08 なる、 玉泉と申す泉は石を玉となす此の五字は凡夫を仏となす、 されば過去の慈父尊霊は存生に南無妙法蓮華経
09 と唱へしかば即身成仏の人なり、 石変じて玉と成るが如し孝養の至極と申し候なり、 故に法華経に云く「此の我
10 が二りの子已に仏事を作しぬ」又云く「此の二りの子は是我が善知識なり」等云云。
11   乃往過去の世に一の大王あり名を輪陀と申す、 此の王は白馬の鳴くを聞きて色も・いつくしく力も強く供御を
12 進らせざれども食にあき給ふ他国の敵も冑を脱き掌を合す、 又此の白馬鳴く事は白鳥を見て鳴きけり、 然るに大
13 王の政や悪しかりけん又過去の悪業や感じけん、 白鳥皆失せて一羽もなかりしかば 白馬鳴く事なし、 白馬鳴か
14 ざりければ 大王の色も変じ力も衰へ身もかじけ謀も薄くなりし故に国既に乱れぬ、 他国よりも兵者せめ来らんに
15 何とかせんと歎きし程に、 大王の勅宣に云く国には外道多し皆我が帰依し奉る仏法も亦かくの如し、 然るに外道
16 と仏法と中悪し何にしても白馬を鳴かせん方を信じて 一方を我が国に失ふべしと云云、 爾の時に一切の外道集り
17 て白鳥を現じて白馬を鳴かせんとせしかども 白鳥現ずる事なし、 昔は雲を出だし霧をふらし風を吹かせ波をたて
18 身の上に火を出だし水を現じ 人を馬となし馬を人となし一切自在なりしかども、 如何がしけん白鳥を現ずる事な
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01 かりき、 爾の時に馬鳴菩薩と申す仏子あり十方の諸仏に祈願せしかば白鳥則出で来りて白馬則鳴けり、 大王此を
02 聞食し色も少し出で来り力も付きはだへもあざやかなり、 又白鳥又白鳥と千の白鳥出現して 千の白馬一時に鶏の
03 時をつくる様に鳴きしかば、 大王此の声を聞食し色は日輪の如し 膚は月の如し力は那羅延の如し 謀は梵王の如
04 し、爾の時に綸言汗の如く出でて返らざれば一切の外道等其の寺を仏寺となしぬ。
05   今日本国亦かくの如し、 此の国は始めは神代なり漸く代の末になる程に人の意曲り貪瞋癡・強盛なれば神の智
06 浅く威も力も少し、 氏子共をも守護しがたかりしかば・ 漸く仏法と申す大法を取り渡して人の意も直に神も威勢
07 強かりし程に、 仏法に付き謬り多く出来せし故に国あやうかりしかば、 伝教大師漢土に渡りて日本と漢土と月氏
08 との聖教を勘へ合せて、 おろかなるをば捨て賢きをば取り偏頗もなく勘へ給いて、 法華経の三部を鎮護国家の三
09 部と定め置きて候しを、 弘法大師・慈覚大師・智証大師と申せし聖人等、或は漢土に事を寄せ或は月氏に事を寄せ
10 て法華経を或は第三・第二・或は戯論・或は無明の辺域等と押し下し給いて、 法華経を真言の三部と成さしめて候
11 いし程に、 代漸く下剋上し此の邪義既に一国に弘まる、 人多く悪道に落ちて神の威も漸く滅し氏子をも守護しが
12 たき故に 八十一乃至八十五の五主は或は西海に沈み或は四海に捨てられ・ 今生には大鬼となり後生は無間地獄に
13 落ち給いぬ、 然りといえども此の事知れる人なければ改る事なし、 今日蓮此の事をあらあら知る故に国の恩を報
14 ぜんとするに日蓮を怨み給ふ。
15   此等はさて置きぬ氏女の慈父は輪陀王の如し氏女は馬鳴菩薩の如し、白鳥は法華経の如し・白馬は日蓮が如し・
16 南無妙法蓮華経は白馬の鳴くが如し、 大王の聞食して色も盛んに力も強きは、 過去の慈父が氏女の南無妙法蓮華
17 経の御音を聞食して仏に成せ給ふが如し。
18       弘安三年八月十四日                 日 蓮 花 押
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01     内房女房御返事
治部房御返事
01   白米一斗・ミョウ荷の子・はじかみ一つと送り給び候い畢んぬ。
02   仏には春の花秋の紅葉・夏の清水・冬の雪を進らせて候人人皆仏に成らせ給ふ、況や上一人は寿命を持たせ給ひ
03 下万民は珠よりも重くし候稲米を法華経にまいらせ給う人・ 争か仏に成らざるべき、 其の上世間に人の大事とす
04 る事は主君と父母との仰せなり、 父母の仰せを背けば不孝の罪に堕ちて天に捨てられ、 国主の仰せを用いざれば
05 違勅の者と成りて命をめさる、 されば我等は過去遠遠劫より菩提をねがひしに、 或は国をすて或は妻子をすて或
06 は身をすてなんどして、 後生菩提をねがひし程にすでに仏になり近づきし時は、 一乗妙法蓮華経と申す御経に値
07 いまいらせ候いし時は、第六天の魔王と申す・三界の主・をはします、 すでに此のもの仏にならんとするに二の失
08 あり、 一には此のもの三界を出ずるならば我が所従の義をはなれなん、 二には此のもの仏になるならば此のもの
09 が父母・兄弟等も又娑婆世界を引き越しなん、 いかがせんとて身を種種に分けて・或は父母につき・或は国主につ
10 き、或は貴き僧となり、或は悪を勧め・或はおどし・或はすかし、 或は高僧或は大僧或は智者或は持斎等に成りて
11 或は華厳或は阿含或は念仏或は真言等を以て法華経にすすめかへて・ 仏になさじとたばかり候なり、 法華経第五
12 の巻には末法に入りては大鬼神・第一には国王・大臣・万民の身に入りて法華経の行者を或は罵り或は打ち切りて、
13 それに叶はずんば無量無辺の僧と現じて一切経を引いてすかすべし、 それに叶はずんば二百五十戒・ 三千の威儀
14 を備へたる大僧と成りて国主をすかし国母をたぼらかして、或はながし或はころしなんどすべしと説かれて候。
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01   又七の巻の不軽品・又四の巻の法師品・或は又二の巻の譬喩品、或は涅槃経四十巻・或は守護経等に委細に見へ
02 て候が、 当時の世間に少しもたがひ候はぬ上、 駿河の国賀島の荘は殊に目の前に身にあたらせ給いて覚へさせ給
03 い候らん、 他事には似候はず、 父母・国主等の法華経を御制止候を用い候はねば還つて父母の孝養となり国主の
04 祈りとなり候ぞ、 其の上日本国はいみじき国にて候・神を敬ひ仏を崇むる国なり、 而れども日蓮が法華経を弘通
05 し候を上一人より下万民に至るまで御あだみ候故に、 一切の神を敬ひ一切の仏を御供養候へども 其の功徳還つて
06 大悪となり、 やいとの還つて悪瘡となるが如く薬の還つて毒となるが如し、 一切の仏神等に祈り給ふ御祈りは還
07 つて科と成りて此の国既に他国の財と成り候、 又大なる人人皆平家の亡びしが様に 百千万億すぎての御歎きたる
08 べきよし、 兼てより人人に申し聞せ候畢んぬ、 又法華経をあだむ人の科にあたる分斉をもつて還つて功徳となる
09 分斉をも知らせ給うべし、 例せば父母を殺す人は何なる大善根をなせども天・是を受け給う事なし、 又法華経の
10 かたきとなる人をば 父母なれども殺しぬれば大罪還つて大善根となり候、 設い十方三世の諸仏の怨敵なれども法
11 華経の一句を信じぬれば諸仏捨て給う事なし、 是を以て推せさせ給へ、御使いそぎ候へば委しくは申さず候、 又
12 又申すべく候、恐恐謹言。
13       八月二十二日                      日蓮花押
14      治部房御返事
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盂蘭盆御書
01   牙一俵・やいごめ・うり・なすび等仏前にささげ申し上候畢んぬ。
02   盂蘭盆と申し候事は仏の御弟子の中に目連尊者と申して、 舎利弗にならびて智慧第一・神通第一と申して須弥
03 山に日月のならび 大王に左右の臣のごとくにをはせし人なり、 此の人の父をば吉懺師子と申し母をば青提女と申
04 す、 其の母の慳貪の科によつて餓鬼道に堕ちて候しを目連尊者のすくい給うより事をこりて候、 其の因縁は母は
05 餓鬼道に堕ちてなげき候けれども・目連は凡夫なれば知ることなし、 幼少にして外道の家に入り四ゐ陀・十八大経
06 と申す外道の一切経をならいつくせども・ いまだ其の母の生所をしらず、 其の後十三のとし舎利弗とともに釈迦
07 仏にまいりて御弟子となり、 見惑をだんじて初果の聖人となり修惑を断じて阿羅漢となりて三明をそなへ 六通を
08 へ給へり、天眼をひらいて、 三千大千世界を明鏡のかげのごとく御らむありしかば、 大地をみとおし三悪道を見
09 る事冰の下に候魚を朝日にむかいて我等がとをしみるがごとし、 其の中に餓鬼道と申すところに我が母あり、 の
10 む事なし食うことなし、 皮はきんてうをむしれるがごとく骨はまろき石をならべたるがごとし、 頭はまりのごと
11 く頚はいとのごとし腹は大海のごとし、 口をはり手を合せて物をこへる形は・ うへたるひるの人のかをかげるが
12 ごとし、先生の子をみてなかんとするすがた・ うへたるかたちたとへを・とるに及ばず、 いかんがかなしかりけ
13 ん。
14   法勝寺の修行舜観が・ いわうの嶋にながされてはだかにてかみくびつきにうちをい・ やせをとろへて海へん
15 に・やすらいてもくづをとりてこしにまき魚を・一みつけて右の手にとり口にかみける時、 本つかいしわらわのた
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01 たづねゆきて見し時と、目連尊者が母を見しといづれかをろかなるべきかれはいますこしかなしさわまさりけん。
02   目連尊者はあまりのかなしさに大神通をげんじ給ひ・はんをまいらせたりしかば、 母よろこびて右の手にはは
03 んをにぎり左の手にては・はんをかくして口にをし入れ給いしかば、 いかんが・したりけんはん変じて火となり・
04 やがてもへあがり、 とうしびをあつめて火をつけたるがごとくぱともへあがり、 母の身のごこごことやけ候しを
05 目連見給いて、 あまりあわてさわぎ大神通を現じて大なる水をかけ候しかば、 其の水たきぎとなりていよいよ母
06 の身のやけ候し事こそあはれには候しが、 其の時目連みづからの神通かなわざりしかば・ はしりかへり須臾に仏
07 にまいりてなげき申せしやうは、 我が身は外道の家に生れて候しが仏の御弟子になりて阿羅漢の身をへて、 三界
08 の生をはなれ三明六通の羅漢とはなりて候へども、 乳母の大苦をすくはんとし候に・ かへりて大苦にあわせて候
09 は、心うしとなげき候しかば、 仏け説いて云く汝が母は・つみふかし・汝一人が力及ぶべからず、又何の人なりと
10 も天神・地神・邪魔.外道・道士・四天王・帝釈.梵王の力も及ぶべからず、七月十五日に十方の聖僧をあつめて百味
11 をんじきをととのへて母のくをはすくうべしと云云、 目連・ 仏の仰せのごとく行いしかば其の母は餓鬼道一劫の
12 苦を脱れ給いきと、 盂蘭盆経と申す経にとかれて候、 其によつて滅後末代の人人は七月十五日に此の法を行い候
13 なり、此は常のごとし。
14   日蓮案じて云く目連尊者と申せし人は十界の中に声聞道の人・二百五十戒をかたく持つ事石のごとし、 三千の
15 威儀を備えてかけざる事は十五夜の月のごとし、 智慧は日ににたり・ 神通は須弥山を十四さうまき大山をうごか
16 せし人ぞかし、 かかる聖人だにも 重報の乳母の恩ほうじがたし、 あまさへほうぜんとせしかば大苦をまし給い
17 き、 いまの僧等の二百五十戒は名計りにて事をかいによせて人をたぼらかし一分の神通もなし、 大石の天にのぼ
18 らんと・せんがごとし、 智慧は牛にるいし羊にことならず、設い千万人を・あつめたりとも父母の一苦すくうべし
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01 や、 せんするところは目連尊者が乳母の苦をすくわざりし事は、 小乗の法を信じて二百五十戒と申す持斎にてあ
02 りしゆへぞかし、 されば浄名経と申す経には浄名居士と申す男 目連房をせめて云く汝を供養する者は三悪道に堕
03 つ云云、 文の心は二百五十戒のたうとき目連尊者をくやうせん人は 三悪道に堕つべしと云云、此又ただ目連一人
04 がきくみみにはあらず、 一切の声聞乃至末代の持斎等がきくみみなり、 此の浄名経と申すは法華経の御ためには
05 数十番の末への郎従にて候、 詮するところは目連尊者が自身のいまだ仏にならざるゆへぞかし、 自身仏にならず
06 しては父母をだにもすくいがたし・いわうや他人をや。
07   しかるに目連尊者と申す人は法華経と申す経にて正直捨方便とて、 小乗の二百五十戒立ちどころになげすてて
08 南無妙法蓮華経と申せしかば、 やがて仏になりて名号をば多摩羅跋栴檀香仏と申す、 此の時こそ父母も仏になり
09 給へ、 故に法華経に云く我が願既に満ち衆の望も亦足る云云、 目連が色身は・父母の遺体なり目連が色身仏にな
10 りしかば父母の身も又仏になりぬ。
11   例せば日本国八十一代の安徳天皇と申せし王の御宇に平氏の大将安芸の守清盛と申せし人をはしき、 度度の合
12 戦に国敵をほろぼして上太政大臣まで官位をきわめ当今はまごとなり、 一門は雲客月卿につらなり、 日本六十六
13 国・島二を掌の内にかいにぎりて候いしが、 人を順うこと大風の草木をなびかしたる・やうにて候しほどに、心を
14 ごり身あがり結句は神仏をあなづりて神人と諸僧を手に・ にぎらむとせしほどに、 山僧と七寺との諸僧のかたき
15 となりて、 結句は去る治承四年十二月二十二日に七寺の内の東大寺・興福寺の両寺を焼きはらいてありしかば・其
16 の大重罪・入道の身にかかりて・ かへるとし養和元年潤二月四日身はすみのごとく面は火のごとくすみのをこれる
17 がやうにて結句は炎身より出でて あつちじにに死ににき、 其の大重罪をば二男宗盛にゆづりしかば西海に沈むと
18 みへしかども東天に浮び出でて、 右大将頼朝の御前に縄をつけて・ひきすへて候き、 三男知盛は海に入りて魚の
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01 糞となりぬ、 四男重衡は其の身に縄をつけて京かまくらを引かれて結句なら七大寺にわたされて、 十万人の大衆
02 等・我等が仏のかたきなりとて一刀づつ・きざみぬ、 悪の中の大悪は我が身に其の苦をうくるのみならず子と孫と
03 末へ七代までもかかり候けるなり、 善の中の大善も又又かくのごとし、 目連尊者が法華経を信じまいらせし大善
04 は我が身仏になるのみならず父母仏になり給う、 上七代・下七代・ 上無量生下無量生の父母等存外に仏となり給
05 う、乃至子息.夫妻・所従・檀那・無量の衆生.三悪道をはなるるのみならず皆初住・妙覚の仏となりぬ、故に法華経
06 の第三に云く「願くは此の功徳を以て普く一切に及ぼし我等と衆生と皆共に仏道を成ぜん」云云。
07   されば此等をもつて思うに貴女は治部殿と申す孫を僧にてもち給へり、 此僧は無戒なり無智なり二百五十戒一
08 戒も持つことなし三千の威儀一も持たず、 智慧は牛馬にるいし威儀は猿猴ににて候へども、 あをぐところは釈迦
09 仏・信ずる法は法華経なり、 例せばジャの珠をにぎり竜の舎利を戴くがごとし、藤は松にかかりて千尋をよぢ鶴は
10 羽を恃みて万里をかける、 此は自身の力にはあらず。治部房も又かくのごとし、 我が身は藤のごとくなれども法
11 華経の松にかかりて妙覚の山にものぼりなん、 一乗の羽をたのみて寂光の空にもかけりぬべし、 此の羽をもつて
12 父母・祖父.祖母・乃至七代の末までも・とぶらうべき僧なり、あわれ・いみじき御たからは.もたせ給いてをはしま
13 す女人かな、彼の竜女は珠をささげて・仏となり給ふ、 此女人は孫を法華経の行者となして・みちびかれさせ給う
14 べし、事事そうそうにて候へば・くはしくは申さず、又又申すべく候。恐恐。
15       七月十三日                            日蓮花押
16      治部殿うばごぜん御返事
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浄蓮房御書    建治元年六月    五十四歳御作
01   細美帷一つ送り給び候い畢んぬ、 善導和尚と申す人は漢土に臨シと申す国の人なり、 幼少の時・密州と申す
02 国の明勝と申す人を師とせしが・ 彼の僧は法華経と浄名経を尊重して 我も読誦し人をもすすめしかば善導に此れ
03 を教ゆ、 善導此れを習いて師の如く行ぜし程に 過去の宿習にや有りけん、 案じて云く仏法には無量の行あり機
04 に随いて皆利益あり・教いみじと・いへども機にあたらざれば虚きがごとし、 されば我れ法華経を行ずるは我が機
05 に叶はずは・ いかんが有るべかるらん、 教には依るべからずと思いて一切経蔵に入り両眼を閉ぢて経をとる観無
06 量寿経を得たり、 披見すれば此の経に云く 「未来世の煩悩の賊に害せらるる者の為 清浄の業を説く」等云云、
07 華厳経は二乗のため法華経・涅槃経等は五乗に・わたれども・たいしは聖人のためなり、 末法の我等が為なる経は
08 唯観経にかぎれり、 釈尊最後の遺言には涅槃経にはすぐべからず、彼の経には七種の衆生を列ねたり、 第一は入
09 水則没の一闡提人なり生死の水に入りしより已来いまに出でず・ 譬へば大石を大海に投入たるがごとし、 身重く
10 して浮ぶことを習はず 常に海底に有り此れを常没と名く、 第二をば出已復没と申す譬へば身に力有りとも浮ぶこ
11 とを・ならはざれは出で已つて復入りぬ・ 此れは第一の一闡提の人には有らねども一闡提のごとし又常没と名く、
12 第三は出已不没と申す・生死の河を出でてより・このかた没することなし、 此れは舎利弗等の声聞なり、第四は出
13 已即住・第五は観方.第六は浅処・第七は到彼岸等なり、第四・第五.第六・第七は縁覚・菩薩なり、釈迦如来世に出
14 でさせ給いて 一代五時の経経を説き給いて第三已上の人人を救い給い畢んぬ、 第一は捨てさせ給いぬ、法蔵比丘
15 阿弥陀仏此れをうけとつて・ 四十八願を発して迎えとらせ給う、 十方三世の仏と釈迦仏とは第三已上の一切衆生
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01 を救い給う、あみだ仏は第一第二を迎えとらせ給う、 而るに今末代の凡夫は第一第二に相当れり、 而るを浄影大
02 師天台大師等の他宗の人師は此の事を弁えずして九品の浄土に聖人も生ると思へりアヤマりが中のアヤマりなり、一
03 向末代の凡夫の中に上三品は遇大.始めて大乗に値える凡夫、中の三品は遇小.始めて小乗に値へる凡夫、下の三品は
04 遇悪・一生造悪無間非法の荒凡夫、 臨終の時・始めて上の七種の衆生を弁えたる智人に行きあひて岸の上の経経を
05 うちすてて水に溺るるの機を救はせ給う、 観経の下品・下生の大悪業に南無阿弥陀仏を授けたり、 されば我れ一
06 切経を見るに法華経等は末代の機には千中無一なり、 第一第二の我等衆生は第三已上の機の為に説かれて候、 法
07 華経等を末代に修行すれば 身は苦しんで益なしと申して 善導和尚は立所に法華経を抛げすてて観経を行ぜしかば
08 三昧発得して・ 阿弥陀仏に見参して重ねて此の法門を渡し給う四帖の疏是なり、 導の云く「然るに諸仏の大悲は
09 苦なる者に於て心偏に常没の衆生を愍念す 是を以て勧めて浄土に帰せしむ 亦水に溺るる人の如く急に須く偏に救
10 うべし岸上の者何ぞ用いて済うことを為さん」と云云、 又云く「深心と言えるは即ち是れ深信の心なり、 亦二種
11 有り、一には決定して 自身は現に是れ罪悪生死の凡夫なり 曠劫より已来常に没し常に流転して出離の縁有ること
12 無しと深信す」又云く 「二には決定して 彼の阿弥陀仏の四十八願は 衆生を摂受したもうこと疑無く慮り無く彼
13 の願力に乗ずれば定めて往生を得ると深信す」云云、 此の釈の心は上にかき顕して候・ 浄土宗の肝心と申すは此
14 れなり、我等末代の凡夫は涅槃経の第一・第二なり、 さる時に釈迦仏の教には出離の縁有ること無し、 法蔵比丘
15 の本願にては「定得往生と知るを三心の中の深心とは申すなり」等云云、 此又導和尚の私儀には非ず、 綽禅師と
16 申せし人の涅槃経を二十四反かうぜしが・ 曇鸞法師の碑の文を見て立所に涅槃経を捨てて 観経に遷りて後此の法
17 門を導には教えて候なり、 鸞法師と申せし人は斉の代の人なり漢土にては 時に独歩の人なり、初には四論と涅槃
18 経とをかうぜしが・ 菩提流支と申す三蔵に値いて四論と涅槃を捨て観経に遷りて往生をとげし人なり、 三代が間
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01 伝えて候法門なり、 漢土・日本には八宗を習う智人も正法すでに過ぎて像法に入りしかば・かしこき人人は皆自宗
02 を捨てて浄土の念仏に遷りし事此なり、 日本国のいろはは天台山の慧心の往生要集此なり、 三論の永観が十因・
03 往生講の式・此等は皆此の法門をうかがい得たる人人なり、法然上人も亦爾なり云云。
04   日蓮云く此の義を存ずる人人等も但恒河の第一第二は一向浄土の機と云云、 此れ此の法門の肝要か、日蓮・涅
05 槃経の三十二と三十六を開き見るに 第一は誹謗正法の一闡提常没の大魚と名けたり、 第二は又常没其の第二の人
06 を出ださば提婆達多・瞿伽梨・善星等なり、 此れは誹謗五逆の人人なり、 詮する所第一第二は謗法と五逆なり、
07 法蔵比丘の 「設い我仏を得んに十方衆生至心に信楽して 我が国に生れんと欲し乃至十念して若し生ぜずんば正覚
08 を取らじ唯五逆と誹謗正法とを除く」云云、 此の願の如きんば 法蔵比丘は恒河の第一・第二を捨てはててこそ候
09 いぬれ、導和尚の如くならば末代の凡夫・ 阿弥陀仏の本願には千中無一なり、 法華経の結経たる普賢経には五逆
10 と誹謗正法は一乗の機と定め給いたり、 されば末代の凡夫の為には法華経は十即十生百即百生なり、 善導和尚が
11 義に付いて申す詮は私案にはあらず・ 阿弥陀仏は無上念王たりし時娑婆世界は已にすて給いぬ、 釈迦如来は宝海
12 梵志として此の忍土を取り給い畢んぬ、 十方の浄土には誹謗正法と五逆と一闡提とをば迎うべからずと 阿弥陀仏
13 十方の仏誓い給いき、 宝海梵志の願に云く「即ち十方浄土の擯出の衆生を集めて我当に之を度すべし」云云、 法
14 華経に云く「唯我一人のみ能く救護を為す」等云云。
15   唯我一人の経文は堅きやうに候へども釈迦如来の自義にはあらず、 阿弥陀仏等の諸仏我と娑婆世界を捨てしか
16 ば・教主釈尊・唯我一人と誓つてすでに娑婆世界に出で給いぬる上はなにをか疑い候べき.鸞.綽・導.心・観.然等の
17 六人の人人は智者なり・日蓮は愚者なり・非学生なり、 但し上の六人は何れの国の人ぞ三界の外の人か六道の外の
18 衆生か、阿弥陀仏に値い奉りて出家受戒して沙門となりたる僧か、 今の人人は将門・純友・清盛・義朝等には種性
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01 も及ばず威徳も足らず、 心のがうさは申すばかりなけれども・ 朝敵となりぬれば其の人ならざる人人も将門か純
02 友かと舌にうちからみて申せども・彼の子孫等も・とがめず、義朝なんど申すは故右大将家の慈父なり、 子を敬い
03 まいらせば父をこそ敬いまいらせ候べきに・ いかなる人人も義朝・為朝なんど申すぞ、此れ則王法の重く逆臣の罪
04 のむくゐなり、 上の六人も又かくのごとし、 釈迦如来世に出でさせ給いて一代の聖教を説きをかせ給う、五十年
05 の説法を我と集めて浅深・勝劣・虚妄・ 真実を定めて四十余年は未だ真実を顕さず已今当第一等と説かせ給いしか
06 ば・多宝・十方の仏真実なりと加判せさせ給いて定めをかれて候を・ 彼の六人は未顕真実の観経に依りて皆是れ真
07 実の法華経を第一第二の悪人の為にはあらずと申さば・ 今の人人は彼にすかされて数年を経たるゆへに・将門・純
08 友等が所従等彼を用いざりし百姓等を 或は切り或は打ちなんどせしがごとし、 彼をおそれて従いし男女は官軍に
09 せめられて彼の人人と一時に水火のせめに値いしなり。
10   今日本国の一切の諸仏・菩薩・一切の経を信ずるやうなれども・心は彼の六人の心なり身は又彼の六人の家人な
11 り、 彼の将門等は官軍の向はざりし時は大将の所従・知行の地且らく安穏なりしやうなりしかども・違勅の責め近
12 づきしかば、 所は修羅道となり男子は厨者の魚をほふるがごとし、 炎に入り水に入りしなり、今日本国も又かく
13 のごとし、 彼の六人が僻見に依つて今生には守護の善神に放されて 三災七難の国となり・後生には一業所感の衆
14 生なれば阿鼻大城の炎に入るべし、 法華経の第五の巻に末代の法華経の強敵を仏記し置き給えるは 如六通羅漢と
15 云云、上の六人は尊貴なること六通を現ずる羅漢の如し。
16   然るに浄蓮上人の親父は彼等の人人の御檀那なり、 仏教実ならば無間大城疑いなし、又君の心を演ぶるは臣・
17 親の苦をやすむるは子なり、目ケン尊者は悲母の餓鬼の苦を救い浄蔵浄眼は慈父の邪見を翻し給いき、 父母の遺体
18 は子の色心なり、 浄蓮上人の法華経を持ち給う御功徳は慈父の御力なり、 提婆達多は阿鼻地獄に堕ちしかども天
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01 王如来の記を送り給いき 彼は仏と提婆と同性一家なる故なり、 此れは又慈父なり 子息なり、 浄蓮上人の所持
02 の法華経いかでか彼の故聖霊の功徳とならざるべき、 事多しと申せども止め畢んぬ三反人に・よませて・きこしめ
03 せ、恐恐謹言。
04       六月二十七日                    日 蓮 花 押
05   返す返すするがの人人みな同じ御心と申させ給い候へ。
新池殿御消息    弘安二年五月    五十八歳御作
01   八木三石送り給い候、 今一乗妙法蓮華経の御宝前に備へ奉りて南無妙法蓮華経と只一遍唱えまいらせ候い畢ん
02 ぬ、いとをしみの御子を霊山浄土へ決定無有疑と送りまいらせんがためなり。
03  抑因果のことはりは華と果との如し、 千里の野の枯れたる草に 螢火の如くなる火を 一つ付けぬれば須臾に一
04 草・二草.十・百・千万草につきわたりてもゆれば十町・二十町の草木.一時にやけつきぬ、竜は一渧の水を手に入れ
05 て天に昇りぬれば三千世界に雨をふらし候、 小善なれども法華経に供養しまいらせ給いぬれば 功徳此くの如し、
06 仏滅後・ 一百年と申せしに月氏国に阿育大王と申せし王ましましき・一閻浮提・八万四千の国を四分が一御知行あ
07 りき、 竜王をしたがへ鬼神を召し仕はせ給う、 六万の羅漢を師として八万四千の石塔を立て十万億の金を仏に供
08 養し奉らんと誓はせ給いき、 かかる大王にてをはせし其の因位の功徳をたづぬれば・ただ土の餅一・釈迦仏に供養
09 し奉りし故ぞかし、 釈迦仏の伯父に斛飯王と申す王をはします、 彼の王に太子あり阿那律となづく此の太子生れ
10 給いしに御器一つ持ち出でたり、 彼の御器に飯あり食すれば又出でき又出でき終に飯つくる事なし、 故にかの太
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01 子のをさな名をば如意となづけたり、 法華経にて仏に成り給ふ普明如来是なり、 此の太子の因位を尋ぬればうへ
02 たる世にひえの飯を辟支仏と申す僧に供養せし故ぞかし、 辟支仏を供養する功徳すら此くの如し、 況や法華経の
03 行者を供養せん功徳は無量無辺の仏を供養し進らする功徳にも勝れて候なり。
04   抑日蓮は日本国の者なり、此の国は南閻浮提七千由旬の内に八万四千の国あり・十六の大国・五百の中国・十千
05 の小国・無量の粟散国あり、 其の中に月氏国と申す国は大国なり、 彼の国に五天竺あり、其れより東海の中に小
06 島あり日本国是なり、 中天竺よりは十万余里の東なり、 仏教は仏滅度後正法一千年が間は天竺にとどまりて余国
07 にわたらず、正法一千年の末・像法に入つて一十五年と申せしに漢土へ渡る、 漢土に三百年すぎて百済国に渡る、
08 百済国に一百年已上一千四百十五年と申せしに・人王三十代・ 欽明天皇の御代に日本国に始めて釈迦仏の金銅の像
09 と一切経は渡りて候いき、 今七百余年に及び候、其の間一切経は五千余巻或は七千余巻なり、宗は八宗・九宗・十
10 宗なり、国は六十六箇国・二つの島・神は三千余社・仏は一万余寺なり、 男女よりも僧尼は半分に及べり、仏法の
11 繁昌は漢土にも勝れ天竺にもまされり。
12   但し仏法に入つて諍論あり、浄土宗の人人は阿弥陀仏を本尊とし・真言の人人は大日如来を本尊とす・禅宗の人
13 人は経と仏とをば閣いて達磨を本尊とす、 余宗の人人は念仏者・ 真言等に随へられ何れともなけれども・つよき
14 に随ひ多分に押されて阿弥陀仏を本尊とせり、 現在の主師親たる釈迦仏を閣きて 他人たる阿弥陀仏の十万億の他
15 国へにげ行くべきよしを・ねがはせ給い候、 阿弥陀仏は親ならず主ならず師ならず、されば一経の内・虚言の四十
16 八願を立て給いたりしを・ 愚なる人人実と思いて物狂はしく 金拍子をたたきおどりはねて念仏を申し親の国をば
17 いとひ出でぬ、 来迎せんと約束せし阿弥陀仏の約束の人は来らず・ 中有のたびの空に迷いて謗法の業にひかれて
18 三悪道と申す獄屋へおもむけば・獄卒・阿防・羅刹悦びをなし・とらへからめてさひなむ事限りなし、これをあらあ
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01 ら経文に任せてかたり申せば・日本国の男女・四十九億九万四千八百二十八人ましますが・ 某一人を不思議なる者
02 に思いて余の四十九億九万四千八百二十七人は皆敵と成りて、 主師親の釈尊をもちひぬだに不思議なるに、 かへ
03 りて或はのり或はうち或は処を追ひ 或は讒言して流罪し死罪に行はるれば、 貧なる者は富めるをへつらひ賎き者
04 は貴きを仰ぎ 無勢は多勢にしたがう事なれば、 適法華経を信ずる様なる人人も 世間をはばかり人を恐れて多分
05 は地獄へ堕つる事不便なり、 但し日蓮が愚眼にてや・あるらん又宿習にてや候らん法華経最第一・ 已今当説難信
06 難解・ 唯我一人能為救護と説かれて候文は如来の金言なり敢て私の言にはあらず、 当世の人は人師の言を如来の
07 金言と打ち思ひ・或は法華経に肩を並べて斉しと思ひ・或は勝れたり或は劣るなれども機にかなへりと思へり、 し
08 かるに如来の聖教に随他意随自意と申す事あり、 譬えば子の心に親の随うをば随他意と申す・ 親の心に子の随う
09 をば随自意と申す、 諸経は随他意なり仏一切衆生の心に随ひ給ふ故に、 法華経は随自意なり一切衆生を仏の心に
10 随へたり、 諸経は仏説なれども是を信ずれば衆生の心にて永く仏にならず、 法華経は仏説なり仏智なり一字一点
11 も 是を深く信ずれば我が身即仏となる、 譬えば白紙を墨に染むれば黒くなり黒漆に白き物を入るれば白くなるが
12 如し毒薬変じて薬となり 衆生変じて仏となる故に妙法と申す、 然るに今の人人は高きも賎きも 現在の父たる釈
13 迦仏をばかろしめて他人の縁なき阿弥陀・ 大日等を重んじ奉るは是れ不孝の失にあらずや・是れ謗法の人にあらず
14 や、と申せば日本国の人・一同に怨ませ給うなり、 其れもことはりなり・まがれる木はすなをなる繩をにくみいつ
15 はれる者はただしき政りごとをば心にあはず思うなり。
16   我が朝人王・九十一代の間に謀叛の人人は二十六人なり、所謂大山の王子・大石の小丸・乃至将門すみとも悪左
17 府等なり、 此等の人人は吉野とつ河の山林にこもり筑紫・鎮西の海中に隠るれば・島島のえびす浦浦のもののふど
18 もうたんとす、然れどもそれは貴き聖人・山山・寺寺・社社の法師・尼・女人はいたう敵と思う事なし、日蓮をば上
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01 下の男女・尼・法師貴き聖人なんど伝はるる人人は殊に敵となり候、 其の故はいづれも後世をば願へども男女より
02 は僧・尼こそ願ふ由はみえ候へ、 彼等は往生はさてをきぬ今生の世をわたるなかだちとなる故なり、 智者聖人又
03 我好我勝たりと申し・本師の跡と申し・所領と申し・名聞利養を重くして・まめやかに道心は軽し、仏法はひがさま
04 に心得て愚癡の人なり、 謗法の人なりと言をも惜まず人をも憚らず、 当知是人仏法中怨の金言を恐れて我是世尊
05 使処衆無所畏と云う文に任せていたくせむる間・未得謂為得・我慢心充満の人人争かにくみ嫉まざらんや。
06   されば日蓮程天神七代・地神五代・ 人王九十余代にいまだ此れ程法華経の故に三類の敵人にあだまれたる者な
07 きなり、 かかる上下万人一同のにくまれ者にて候に・此れまで御渡り候いし事・おぼろげの縁にはあらず宿世の父
08 母か昔の兄弟にておはしける故に思い付かせ給うか、 又過去に法華経の縁深くして 今度仏にならせ給うべきたね
09 の熟せるかの故に・在俗の身として世間ひまなき人の公事のひまに思い出ださせ給いけるやらん。
10   其の上遠江の国より甲州波木井の郷身延山へは道三百余里に及べり、 宿宿のいぶせさ・嶺に昇れば日月をいた
11 だき・谷へ下れば穴へ入るかと覚ゆ、 河の水は矢を射るが如く早し・大石ながれて人馬むかひ難し、船あやうくし
12 て紙を水にひたせるが如し、 男は山かつ女は山母の如し、道は縄の如くほそく・木は草の如くしげし、 かかる所
13 へ尋ね入らせ給いて候事・ 何なる宿習なるらん、 釈迦仏は御手を引き帝釈は馬となり梵王は身に随ひ日月は眼と
14 なりかはらせ給いて入らせ給いけるにや、 ありがたしありがたし、 事多しと申せども此の程風おこりて身苦しく
15 候間留め候い畢んぬ。
16       弘安二年己卯五月二日                         日蓮花押
17     新池殿御返事
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新池御書    弘安三年二月    五十九歳御作
01   うれしきかな末法流布に生れあへる我等・かなしきかな今度此の経を信ぜざる人人、 抑人界に生を受くるもの
02 誰か無常を免れん、 さあらんに取つては何ぞ後世のつとめを・いたさざらんや、 倩世間の体を観ずれば人皆口に
03 は此の経を信じ手には経巻をにぎるといへども・経の心にそむく間・悪道を免れ難し、 譬えば人に皆五臓あり一臓
04 も損ずれば其の臓より病出て来て余の臓を破り 終に命を失うが如し、 爰を以て伝教大師は「法華経を讃すと雖も
05 還つて法華の心を死す」等云云、 文の心は法華経を持ち読み奉り讃むれども法華の心に背きぬれば還つて釈尊・十
06 方の諸仏を殺すに成りぬと申す意なり、 終に世間の悪業衆罪は須弥の如くなれども此の経にあひ奉りぬれば・ 諸
07 罪は霜露の如くに法華経の日輪に値い奉りて消ゆべし、 然れども 此の経の十四謗法の中に一も二もをかしぬれば
08 其の罪消えがたし、 所以は何ん一大三千界のあらゆる有情を殺したりとも争か一仏を殺す罪に及ばんや、 法華の
09 心に背きぬれば十方の仏の命を失ふ罪なり、 此のをきてに背くを謗法の者とは申すなり、 地獄おそるべし炎を以
10 て家とす、餓鬼悲むべし飢渇にうへて子を食ふ、 修羅は闘諍なり・畜生は残害とて互に殺しあふ、 紅蓮地獄と申
11 すはくれなゐのはちすとよむ、 其の故は余りに寒に・つめられてこごむ間せなかわれて・肉の出でたるが紅の蓮に
12 似たるなり、況や大紅蓮をや、 かかる悪所にゆけば王位・将軍も物ならず・獄卒の呵責にあへる姿は猿をまはすに
13 異ならず、此の時は争か名聞名利・我慢偏執有るべきや。
14   思食すべし法華経をしれる僧を不思議の志にて一度も供養しなば悪道に行くべからず、 何に況や十度・二十度
15 乃至五年・十年・一期生の間・供養せる功徳をば仏の智慧にても知りがたし、 此の経の行者を一度供養する功徳は
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01 釈迦仏を直ちに八十億劫が間・ 無量の宝を尽して供養せる功徳に百千万億勝れたりと仏は説かせ給いて候、 此の
02 経にあひ奉りぬれば 悦び身に余り左右の眼に涙浮びて釈尊の御恩報じ尽しがたし、 かやうに此の山まで度度の御
03 供養は法華経並に釈迦尊の御恩を報じ給うに成るべく候、 弥はげませ給うべし 懈ることなかれ、 皆人の此の経
04 を信じ始むる時は信心有る様に見え候が・ 中程は信心もよはく僧をも恭敬せず供養をもなさず・自慢して悪見をな
05 す、 これ恐るべし恐るべし、 始より終りまで弥信心をいたすべし・ さなくして後悔やあらんずらん、譬えば鎌
06 倉より京へは十二日の道なり、 それを十一日余り歩をはこびて今一日に成りて歩をさしをきては 何として都の月
07 をば詠め候べき、何としても此の経の心をしれる僧に近づき弥法の道理を聴聞して信心の歩を運ぶべし。
08   噫過ぎし方の程なきを以て知んぬ 我等が命今幾程もなき事を春の朝に花をながめし時ともなひ遊びし人は花と
09 共に無常の嵐に散りはてて名のみ残りて 其の人はなし花は散りぬといへども又こん春も発くべし されども消えに
10 し人は亦いかならん世にか来るべき 秋の暮に月を詠めし時戯れむつびし人も 月と共に有為の雲に入りて後面影ば
11 かり身にそひて物いふことなし 月は西山に入るといへども 亦こん秋も詠むべし然れどもかくれし人は今いづくに
12 か住みぬらんおぼつかなし 無常の虎のなく音は耳にちかづくといへども 聞いて驚くことなし 屠所の羊の今幾日
13 か無常の道を歩まん雪山の寒苦鳥は寒苦にせめられて 夜明なば栖つくらんと鳴くといへども 日出でぬれば朝日の
14 あたたかなるに眠り忘れて 又栖をつくらずして一生虚く鳴くことをう 一切衆生も亦復是くの如し地獄に堕ちて炎
15 にむせぶ時は願くは今度人間に生れて諸事を閣ひて 三宝を供養し後世菩提をたすからんと願へども たまたま人間
16 に来る時は名聞名利の風はげしく仏道修行の灯は消えやすし、 無益の事には財宝をつくすにおしからず、 仏法僧
17 にすこしの供養をなすには 是をものうく思ふ事これただごとにあらず、 地獄の使のきをふものなり寸善尺魔と申
18 すは是なり、 其の上此の国は謗法の土なれば守護の善神は法味にうへて 社をすて天に上り給へば社には悪鬼入り
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01 かはりて多くの人を導く、 仏陀化をやめて寂光土へ帰り給へば堂塔・寺社は徒に魔縁の栖と成りぬ、国の費・民の
02 歎きにて・いらかを並べたる計りなり、是れ私の言にあらず経文にこれあり習ふべし。
03   諸仏も諸神も謗法の供養をば全く請け取り給はず 況や人間としてこれをうくべきや、春日大明神の御託宣に云
04 く飯に銅の炎をば食すとも 心穢れたる人の物をうけじ、 座に銅の焔には坐すとも 心汚れたる人の家にはいたら
05 じ、 草の廊・萱の軒にはいたるべしと云へり、 縦令千日のしめを引くとも不信の所には至らじ、重服深厚の家な
06 りとも有信の所には至るべし云云、 是くの如く善神は此の謗法の国をばなげきて天に上らせ給いて候、 心けがれ
07 たると申すは法華経を持たざる人の事なり、 此の経の五の巻に見えたり、 謗法の供養をば銅焔とこそおほせられ
08 たれ、 神だにも是くの如し況や我等凡夫としてほむらをば食すべしや、 人の子として我が親を殺したらんものの
09 我に物をえさせんに是を取るべきや、 いかなる智者聖人も無間地獄を遁るべからず、 又それにも近づくべからず
10 与同罪恐るべし恐るべし。
11   釈尊は一切の諸仏.一切の諸神・人天大会.一切衆生の父なり主なり師なり、此の釈尊を殺したらんに争か諸天・
12 善神等うれしく思食すべき、 今此の国の一切の諸人は皆釈尊の御敵なり、 在家の俗男・俗女等よりも邪智心の法
13 師ばらは殊の外の御敵なり、 智慧に於ても正智あり邪智あり智慧ありとも其の邪義には随ふべからず、 貴僧・高
14 僧には依るべからず、 賎き者なりとも此の経の謂れを知りたらんものをば生身の如来のごとくに 礼拝供養すべし
15 是れ経文なり、 されば伝教大師は無智破戒の男女等も 此の経を信ぜん者は小乗二百五十戒の僧の上に座席に居よ
16 末坐すべからず 況や大乗此の経の僧をやとあそばされたり、 今生身の如来の如くにみえたる極楽寺の良観房より
17 も此の経を信じたる男女は 座席を高く居ることこそ候へ、 彼の二百五十戒の良観房も 日蓮に会いぬれば腹をた
18 て眼をいからす是ただごとにはあらず、 智者の身に魔の入りかはればなり、 譬えば本性よき人なれども酒に酔い
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01 ぬればあしき心出来し人の為にあしきが如し、 仏は法華以前の迦葉・舎利弗・目連等をば是を供養せん者は三悪道
02 に堕つべし、 彼が心は犬野干の心には劣れりと説き給いて候なり、 彼の四大声聞等は二百五十戒を持つことは金
03 剛の如し・ 三千の威儀具足する事は十五夜の月の如くなりしかども・法華経を持たざる時は是くの如く仰せられた
04 り、何に況やそれに劣れる今時の者共をや。
05   建長寺・円覚寺の僧共の作法戒文を破る事は大山の頽れたるが如く・威儀の放埒なることは猿に似たり、是を供
06 養して後世を助からんと思ふは・はかなし・はかなし、 守護の善神此の国を捨つる事疑あることなし、昔釈尊の御
07 前にして諸天善神・菩薩・声聞・ 異口同音に誓をたてさせ給いて若し法華経の御敵の国あらば或は六月に霜霰と成
08 りて国を飢饉せさせんと申し、 或は小虫と成りて五穀をはみ失はんと申し、 或は旱魃をなさん・或は大水と成り
09 て田園をながさんと申し、 或は大風と成りて人民を吹き殺さんと申し、 或は悪鬼と成りて・なやまさんと面面に
10 申させ給ふ、 今の八幡大菩薩も其の座におはせしなり 争か霊山の起請の破るるをおそれ給はざらん、起請を破ら
11 せ給はば無間地獄は疑なき者なり恐れ給うべし恐れ給うべし、 今までは正く仏の御使出世して 此の経を弘めず国
12 主もあながちに御敵にはならせ給はず但いづれも貴しとのみ思ふ計りなり。
13   今某・仏の御使として此の経を弘むるに依りて上一人より下万民に至るまで皆謗法と成り畢んぬ、 今までは此
14 の国の者ども法華経の御敵にはなさじと一子のあひにくの如く捨てかねて・ おはせども・霊山の起請のおそろしさ
15 に社を焼き払いて天に上らせ給いぬ、 さはあれども身命をおしまぬ法華経の行者あれば其の頭には住むべし、 天
16 照太神・八幡大菩薩・ 天に上らせ給はば其の余の諸神争か社に留るべき、 縦ひ捨てじと思食すとも霊山のやくそ
17 くのままに某呵責し奉らば一日もやはか・ おはすべき、 譬えば盗人の候に知れぬ時はかしこやここに住み候へど
18 も能く案内知りたる者の是こそ盗人とののしり・どめけば・おもはぬ外に栖を去るが如く、 某にささへられて社を
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01 ば捨て給ふ、然るに此の国思いの外に悪鬼神の住家となれり哀なり哀なり。
02   又一代聖教を弘むる人多くおはせども是れ程の大事の法門をば伝教天台もいまだ仰せられず、 其も道理なり末
03 法の始の五百年に 上行菩薩の出世あつて弘め給ふべき法門なるが故なり、 相構へて・いかにしても此の度此の経
04 を能く信じて命終の時・千仏の迎いに預り霊山浄土に走りまいり自受法楽すべし、 信心弱くして成仏ののびん時・
05 某をうらみさせ給ふな、 譬えば病者に良薬を与ふるに毒を好んでくひぬれば其の病愈えがたき時・ 我がとがとは
06 思はず還つて医師を恨むるが如くなるべし、 此の経の信心と申すは少しも私なく 経文の如くに人の言を用ひず法
07 華一部に背く事無ければ仏に成り候ぞ、 仏に成り候事は別の様は候はず、 南無妙法蓮華経と他事なく唱へ申して
08 候へば天然と三十二相八十種好を備うるなり、 如我等無異と申して釈尊程の仏にやすやすと成り候なり、 譬えば
09 鳥の卵は始は水なり其の水の中より誰か・ なすとも・なけれども觜よ目よと厳り出来て虚空にかけるが如し、 我
10 等も無明の卵にして・ あさましき身なれども南無妙法蓮華経の唱への母にあたためられ・まいらせて三十二相の觜
11 出でて八十種好の鎧毛生そろひて 実相真如の虚空にかけるべし、 爰を以て経に云く「一切衆生は無明の卵に処し
12 て智慧の口ばしなし、 仏母の鳥は分段同居の古栖に返りて無明の卵をたたき破りて・ 一切衆生の鳥をすだてて法
13 性真如の大虚にとばしむ」と説けり取意。
14   有解無信とて法門をば解りて信心なき者は更に成仏すべからず、 有信無解とて解はなくとも信心あるものは成
15 仏すべし、皆此の経の意なり 私の言にはあらず されば二の巻には「信を以て入ることを得己が智分に非ず」とて
16 智慧第一の舎利弗も 但此の経を受け持ち信心強盛にして仏になれり・  己が智慧にて仏にならずと説き給へり、
17 舎利弗だにも智慧にては仏にならず、 況や我等衆生少分の法門を心得たりとも信心なくば 仏にならんことおぼつ
18 かなし、 末代の衆生は法門を少分こころえ僧をあなづり法をいるかせにして悪道におつべしと説き給へり、 法を
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01 こころえたる・ しるしには僧を敬ひ法をあがめ仏を供養すべし、 今は仏ましまさず解悟の智識を仏と敬ふべし争
02 か徳分なからんや、 後世を願はん者は名利名聞を捨てて 何に賎しき者なりとも法華経を説かん僧を生身の如来の
03 如くに敬ふべし、是れ正く経文なり。
04   今時の禅宗は大段・仁義礼智信の五常に背けり、 有智の高徳をおそれ老いたるを敬ひ幼きを愛するは内外典の
05 法なり、 然るを彼の僧家の者を見れば昨日・今日まで田夫野人にして黒白を知らざる者も・かちんの直綴をだにも
06 著つればうち慢じて・天台・真言の有智・高徳の人をあなづり礼をもせず其の上に居らんと思うなり、 是れ傍若無
07 人にして畜生に劣れり、 爰を以て伝教大師の御釈に云く川獺祭魚のこころざし・林烏父祖の食を通ず・鳩鴿三枝の
08 礼あり行雁連を乱らず・ 羔羊踞りて乳を飲む・賎き畜生すら礼を知ること是くの如し、 何ぞ人倫に於て其の礼な
09 からんやとあそばされたり取意、 彼等が法に迷ふ事道理なり、 人倫にしてだにも知らず是れ天魔破旬のふるまひ
10 にあらずや。
11   是等の法門を能く能く明らめて一部八巻・廿八品を頭にいただき懈らず行ひ給へ、 又某を恋しくおはせん時は
12 日日に日を拝ませ給へ・某は日に一度・天の日に影をうつす者にて候、 此の僧によませまひらせて聴聞あるべし、
13 此の僧を解悟の智識と憑み給いて つねに法門御たづね候べし、 聞かずんば争か迷闇の雲を払はん足なくして争か
14 千里の道を行かんや、 返す返す此の書をつねによませて御聴聞あるべし、 事事面の次を期し候間・委細には申し
15 述べず候、穴賢穴賢、
16       弘安三年二月 日                   日 蓮 御 判
17     新池殿
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船守弥三郎許御書    弘長元年六月    四十歳御作
01   わざと使を以てちまきさけほしひさんせうかみしなじな給候い畢んぬ、 又つかひ申され候は御かくさせ給へと
02 申し上げ候へと日蓮心得申べく候、 日蓮去る五月十二日流罪の時その津につきて候しに・ いまだ名をもききをよ
03 びまいらせず候ところに・ 船よりあがりくるしみ候いきところに・ねんごろにあたらせ給い候し事は・いかなる宿
04 習なるらん、 過去に法華経の行者にて・ わたらせ給へるが今末法にふなもりの弥三郎と生れかわりて 日蓮をあ
05 われみ給うか、 たとひ男は・さもあるべきに女房の身として食をあたへ洗足てうづ其の外さも事ねんごろなる事・
06 日蓮はしらず不思議とも申すばかりなし、 ことに三十日あまりありて 内心に法華経を信じ 日蓮を供養し給う事
07 いかなる事のよしなるや、かかる地頭・万民・日蓮をにくみねだむ事・鎌倉よりもすぎたり、みるものは目をひき・
08 きく人はあだむ、 ことに五月のころなれば米もとぼしかるらんに日蓮を内内にて・ はぐくみ給いしことは日蓮が
09 父母の 伊豆の伊東かわなと云うところに生れかわり給うか、 法華経第四に云く 「及清信士女供養於法師」と云
10 云、法華経を行ぜん者をば 諸天善神等或はをとことなり 或は女となり形をかへさまざまに供養してたすくべしと
11 云う経文なり、弥三郎殿夫婦の士女と生れて日蓮法師を供養する事疑なし。
12   さきにまいらせし文につぶさにかきて候し間・今はくはしからず、 ことに当地頭の病悩について祈せい申すべ
13 きよし仰せ候し間・ 案にあつかひて候、 然れども一分信仰の心を日蓮に出し給へば法華経へそせうとこそをもひ
14 候へ、此の時は十羅刹女もいかでか力をあわせ給はざるべきと思い候いて・法華経・釈迦・多宝・十方の諸仏並に天
15 照・八幡・大小の神祇等に申して候、 定めて評議ありてぞ・しるしをばあらはし給はん、よも日蓮をば捨てさせ給
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01 はじ、 いたきとかゆきとの如くあてがわせ給はんと・ をもひ候いしについに病悩なをり・ 海中いろくづの中よ
02 り出現の仏体を日蓮にたまわる事・ 此れ病悩のゆへなり、さだめて十羅刹女のせめなり、 此の功徳も夫婦二人の
03 功徳となるべし、 我等衆生無始よりこのかた生死海の中にありしが・法華経の行者となりて無始色心・本是理性・
04 妙境妙智・ 金剛不滅の仏身とならん事 あにかの仏にかわるべきや、 過去久遠五百塵点のそのかみ唯我一人の教
05 主釈尊とは我等衆生の事なり、 法華経の一念三千の法門・ 常住此説法のふるまいなり、 かかるたうとき法華経
06 と釈尊にてをはせども凡夫はしる事なし。
07   寿量品に云く「顛倒の衆生をして近しと雖も而も見えざらしむ」とはこれなり、 迷悟の不同は沙羅の四見の如
08 し、一念三千の仏と申すは法界の成仏と云う事にて候ぞ。
09   雪山童子のまへにきたりし鬼神は帝釈の変作なり、 尸毘王の所へにげ入りし鳩は昆首羯摩天ぞかし、班足王の
10 城へ入りし普明王は教主釈尊にてまします、 肉眼はしらず仏眼は此れをみる、 虚空と大海とには魚鳥の飛行する
11 あとあり 此等は経文にみえたり、 木像即金色なり金色即木像なり、 あぬるだが金はうさぎとなり死人となる、
12 釈摩男がたなごころにはいさごも金となる、 此等は思議すべからず、凡夫即仏なり・仏即凡夫なり・一念三千我実
13 成仏これなり。
14   しからば夫婦二人は教主大覚世尊の生れかわり給いて日蓮をたすけ給うか、 伊東とかわなのみちのほどはちか
15 く候へども心はとをし・後のためにふみをまいらせ候ぞ、 人にかたらずして心得させ給へ・すこしも人しるならば
16 御ためあしかりぬべし、むねのうちにをきてかたり給う事なかれ・あなかしこ・あなかしこ、南無妙法蓮華経。
17       弘長元年六月二十七日                  日蓮花押
18     船守弥三郎殿許へ之を遣わす
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同一鹹味御書
01   夫れ味に六種あり.一には淡.二には鹹.三には辛.四には酸.五には甘.六には苦なり、百味のキョウ膳を調ふとい
02 へども一つの鹹の味なければ大王の膳とならず、 山海の珍物も鹹なければ気味なし、 大海に八の不思議あり、一
03 には漸漸に転深し・二には深くして底を得難し三には同じ一鹹の味なり・ 四には潮限りを過ぎず・五には種種の宝
04 蔵有り・六には大身の衆生中に在つて居住す・ 七には死屍を宿めず・八には万流大雨之を収めて不増不減なり、漸
05 漸に転深しとは法華経は凡夫無解より聖人有解に至るまで 皆仏道を成ずるに譬うるなり、 深くして底を得難しと
06 は法華経は唯仏与仏の境界にして 等覚已下は極むることなきが故なり、 同じ一鹹の味なりとは諸河に鹹なきは諸
07 教に得道なきに譬ふ、 諸河の水・大海に入つて鹹となるは諸教の機類・法華経に入つて仏道を成ずるに譬ふ、潮限
08 りを過ぎずとは妙法を持つ人 寧ろ身命を失するとも不退転を得るに譬ふ、 種種の宝蔵有りとは 諸仏菩薩の万行
09 万善・諸波羅蜜の功徳・妙法に納まるに譬ふ、 大身の衆生所居の住処とは仏菩薩・大智慧あるが故に大身衆生と名
10 く大身・大心.大荘厳・大調伏・大説法・大勢・大神通・大慈・大悲.おのづから法華経より生ずるが故なり、死屍を
11 宿めずとは永く謗法一闡提を離るるが故なり、 不増不減とは法華の意は一切衆生の仏性同一性なるが故なり、 蔓
12 草漬たる桶ビョウの中の鹹は大海の鹹に随つて満干ぬ,禁獄を被る法華の持者は桶ビョウの中の鹹の如く.火宅を出で
13 給へる釈迦如来は大海の鹹の如し、法華の持者を禁むるは釈迦如来を禁むるなり、 梵釈・四天も如何驚き給わざら
14 ん、 十羅刹女の頭破七分の誓ひ此の時に非ずんば何の時か果し給ふべき、 頻婆娑羅王を禁獄せし阿闍世早く現身
15 に大悪瘡を感得しき、法華の持者を禁獄する人・何ぞ現身に悪瘡を感ぜざらんや。日 蓮 花 押
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椎地四郎殿御書    弘長元年四月    四十歳御作
01   先日御物語の事について彼の人の方へ相尋ね候いし処・仰せ候いしが如く少しもちがはず候いき、 これにつけ
02 ても・いよいよ・はげまして法華経の功徳を得給うべし、 師曠が耳・離婁が眼のやうに聞見させ給へ、末法には法
03 華経の行者必ず出来すべし、 但し大難来りなば強盛の信心弥弥悦びをなすべし、 火に薪をくわへんにさかんなる
04 事なかるべしや、 大海へ衆流入る・されども大海は河の水を返す事ありや、 法華大海の行者に諸河の水は大難の
05 如く入れども・かへす事とがむる事なし、 諸河の水入る事なくば大海あるべからず、 大難なくば法華経の行者に
06 はあらじ、天台の云く「衆流海に入り薪火を熾んにす」と云云、 法華経の法門を一文一句なりとも人に・かたらん
07 は過去の宿縁ふかしとおぼしめすべし、 経に云く「亦不聞正法如是人難度」と云云、 此の文の意は正法とは法華
08 経なり、 此の経をきかざる人は度しがたしと云う文なり、 法師品には若是善男子善女人乃至則如来使と説かせ給
09 いて僧も俗も尼も女も一句をも人にかたらん人は 如来の使と見えたり、 貴辺すでに俗なり善男子の人なるべし、
10 此の経を一文一句なりとも聴聞して 神にそめん人は 生死の大海を渡るべき船なるべし、 妙楽大師云く「一句も
11 神に染ぬれば咸く彼岸を資く、 思惟・ 修習永く舟航に用たり」と云云、 生死の大海を渡らんことは妙法蓮華経
12 の船にあらずんば・かなふべからず。
13   抑法華経の如渡得船の船と申す事は・教主大覚世尊・巧智無辺の番匠として四味八教の材木を取り集め・正直捨
14 権とけづりなして邪正一如ときり合せ・醍醐一実のくぎを丁と・うつて生死の大海へ・をしうかべ・中道一実のほば
15 しらに界如三千の帆をあげて・ 諸法実相のおひてをえて・以信得入の一切衆生を取りのせて・釈迦如来はかぢを取
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01 多宝如来はつなでを取り給へば・ 上行等の四菩薩は函蓋相応して・ きりきりとこぎ給う所の船を 如渡得船の船
02 とは申すなり、是にのるべき者は日蓮が弟子・檀那等なり、 能く能く信じさせ給へ、 四条金吾殿に見参候はば能
03 く能く語り給い候へ、委くは又又申すべく候、恐恐謹言。
04       四月二十八日                    日 蓮 花 押
05     椎地四郎殿え
弥三郎殿御返事    建治三年    五十六歳御作
01   是は無智の俗にて候へども承わり候いしに貴く思ひ進らせ候いしは・ 法華の第二の巻に今此三界とかや申す文
02 にて候なり、此の文の意は今此の日本国は釈迦仏の御領なり、 天照太神・八幡大菩薩・神武天皇等の一切の神・国
03 主並に万民までも釈迦仏の御所領の内なる上・此の仏は我等衆生に三の故御坐す大恩の仏なり、 一には国主なり・
04 二には師匠なり・三には親父なり、 此の三徳を備へ給う事は十方の仏の中に唯釈迦仏計りなり、 されば今の日本
05 国の一切衆生は設い釈迦仏に・ねんごろに仕ふる事・ 当時の阿弥陀仏の如くすとも又他仏を並べて同じ様にもてな
06 し進らせば大なる失なり、 譬えば我が主の而も智者にて御坐さんを他国の王に思ひ替えて・ 日本国にすみながら
07 漢土高麗の王を重んじて・日本国の王におろそかならんをば・此の国の大王いみじと申す者ならんや、 況や日本国
08 の諸僧は一人もなく釈迦如来の御弟子として頭をそり衣を著たり、 阿弥陀仏の弟子には・あらぬぞかし、 然るに
09 釈迦堂.法華堂・画像・木像・法華経一部も持ち候はぬ僧共が.三徳全く備はり給へる釈迦仏をば閣きて・一徳もなき
10 阿弥陀仏を国こぞりて郷・村・ 家ごとに人の数よりも多く立てならべ阿弥陀仏の名号を一向に申して一日に六万・
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01 八万なんどす、 打ち見て候所はあら貴や貴やと見へ候へども・法華経を以て見進らせ候へば中中・日日に十悪を造
02 る悪人よりは過重きは善人なり、 悪人は何れの仏にも・よりまいらせ候はねば思い替る辺もなし、 若し又善人と
03 も成らば・法華経に付き進らする事もや有りなん、 日本国の人人は何にも阿弥陀仏より釈迦仏・念仏よりも法華経
04 を重くしたしく心よせに思い進らせぬる事難かるべし、 されば此の人人は 善人に似て悪人なり、 悪人の中には
05 一閻浮提第一の大謗法の者・大闡提の人なり、 釈迦仏此の人をば法華経の二の巻に「其の人命終して阿鼻獄に入ら
06 ん」と定めさせ給へり、 されば今の日本国の諸僧等は提婆達多・瞿伽梨尊者にも過ぎたる大悪人なり、又在家の人
07 人は此等を貴み供養し給う故に此の国眼前に無間地獄と変じて諸人現身に大飢渇・ 大疫病・ 先代になき大苦を受
08 くる上他国より責めらるべし、 此れは偏に梵天・帝釈・日月等の御はからひなり、かかる事をば日本国には但日蓮
09 一人計り知つて 始は云うべきか云うまじきかとうらおもひけれども・ さりとては何にすべき、 一切衆生の父母
10 たる上・仏の仰せを背くべきか、 我が身こそ何様にも・ならめと思いて云い出せしかば二十余年・所をおはれ弟子
11 等を殺され・ 我が身も疵を蒙り二度まで流され結句は頚切られんとす、 是れ偏に日本国の一切衆生の大苦にあは
12 んを兼て知りて歎き候なり、 されば心あらん人人は我等が為にと思食すべし、 若し恩を知り心有る人人は二当ら
13 ん杖には一は替わるべき事ぞかし、 さこそ無からめ還つて怨をなしなんど・せらるる事は心得ず候、 又在家の人
14 人の能くも聞きほどかずして 或は所を追ひ或は弟子等を怨まるる心えぬさよ、 設い知らずとも誤りて現の親を敵
15 ぞと思ひたがへて詈り 或は打ち殺したらんは何に科を免るべき、 此の人人は我があらぎをば知らずして日蓮があ
16 らぎの様に思へり、 譬えば物ねたみする女の眼を瞋らかして・ とわりをにらむれば己が気色のうとましきをば知
17 らずして還つてとわりの眼おそろしと云うが如し、 此等の事は 偏に国主の御尋ねなき故なり、 又何なれば御尋
18 ねなきぞと申すに・ 此の国の人人余り科多くして 一定今生には他国に責められ後生には無間地獄に堕つべき悪業
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01 の定まりたるが故なりと、 経文歴歴と候いしかば信じ進らせて候、 此の事は各各設い我等が如くなる云うにかひ
02 なき者共を責めおどし或は所を追わせ給い候とも・よも終には只は候はじ、 此の御房の御心をば設い天照太神・正
03 八幡もよも随へさせ給ひ候はじ、 まして凡夫をや、 されば度度の大事にもおくする心なく弥よ強盛に御坐すと承
04 り候と加様のすぢに申し給うべし。
05   さて其の法師物申さば取り返して.さて申しつる事は僻事かと返して釈迦仏は親なり・師なり.主なりと申す文・
06 法華経には候かと問うて・有りと申さば・さて阿弥陀仏は御房の親・主・師と申す経文は候かと責めて・無しと云わ
07 んずるか又有りと云はんずるか・ 若しさる経文有りと申さば御房の父は二人かと責め給へ、又無しといはば・さて
08 は御房は親をば捨てて何に他人を・ もてなすぞと責め給へ、 其の上法華経は他経には似させ給はねばこそとて四
09 十余年等の文を引かるべし、 即往安楽の文にかからば・さて此れには先ずつまり給へる事は承伏かと責めて・ そ
10 れもとて又申すべし、 構へて構へて所領を惜み妻子を顧りみ又人を憑みて・ あやぶむ事無かれ但偏に思い切るべ
11 し、 今年の世間を鏡とせよ若干の人の死ぬるに今まで生きて有りつるは此の事にあはん為なりけり、 此れこそ宇
12 治川を渡せし所よ・是こそ勢多を渡せし所よ・名を揚るか名をくだすかなり、 人身は受け難く法華経は信じ難しと
13 は是なり、 釈迦・多宝・十方の仏・来集して我が身に入りかはり我を助け給へと観念せさせ給うべし、地頭のもと
14 に召さるる事あらば先は此の趣を能く能く申さるべく候、恐恐謹言。
15       建治三年丁丑八月四日                  日蓮花押
16     弥三郎殿御返事
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新田殿御書
01   使ひ御志限り無き者か、経は法華経・顕密第一の大法なり、仏は釈迦仏・諸仏第一の上仏なり、行者は法華経の
02 行者に相似たり、三事既に相応せり檀那の一願必ず成就せんか、恐恐謹言。
03       五月二十九日                   日 蓮 在 御 判
04     新田殿御返事
05       並に女房の御方
実相寺御書    建治四年正月十六日    五十七歳御作
01   新春の御札の中に云く駿河の国・実相寺の住侶尾張阿闍梨と申す者・玄義四の巻に涅槃経を引いて、小乗を以て
02 大乗を破し大乗を以て小乗を破するは、盲目の因なりと釈せる由申し候なるは実にて候やらん不審に候。
03   反詰して云く小乗を以て大乗を破し大乗を以て小乗を破する者・盲目とならば弘法大師・慈覚大師・智証大師等
04 は・されば盲目となり給いたりけるか、 善無畏・金剛智・不空等は盲目と成り給うとの給うかとつめよ、玄義の四
05 に云く「問う法華にソを開してソ皆妙に入る涅槃何の意ぞ 更に次第の五行を明すや、 答う法華は仏世の人の為に
06 権を破して実に入れ復ソ有ること無く教意整足せり、 涅槃は末代の凡夫の見思の病重く 一実を定執して方便を誹
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01 謗し甘露を服すと雖も事に即して真なる能わず命を傷つけて早夭するが為の故に戒・ 定・ 慧を扶けて大涅槃を顕
02 す、 法華の意を得れば涅槃に於て次第の行を用いざるなり」釈籤の四に云く「次の料簡の中・扶戒定慧と言うは事
03 戒・事定・前三教の慧並びに事法を扶くるが為の故なり具には止観の対治助開の中に説くが如し、 今時の行者或は
04 一向に理を尚ぶときは 則ち己れ聖に均しと謂い及び実を執して権を謗ず、 或は一向に事を尚ぶときは則ち功を高
05 位に推り及び実を謗じて権を許す、 既に末代に処して聖旨を思わず其れ誰か斯の二の失に堕せざらん、 法華の意
06 を得れば則ち初後倶に頓なり、 請う心を揣り臆を撫で自ら浮沈を暁れ」と等云云、此の釈に迷惑する者か、 此の
07 釈の所詮は或は一向尚理とは達磨宗に等しきなり、 及び執実謗権とは華厳宗・真言宗なり、 或は一向尚事とは浄
08 土宗・律宗なり、及び謗実許権とは法相宗なり。
09   夫れ法華経の妙の一字に二義有り一は相待妙・ソを破して妙を顕す二は絶待妙・ソを開して妙を顕す、爾前の諸
10 経並びに法華已後の諸経は破ソ顕妙の一分之を説くと雖も・開ソ顕妙は全く之無し、 爾るに諸経に依憑する人師・
11 彼れ彼れの経経に於て破顕の二妙を存し 或は天台の智慧を盗み或は民の家に天下を行うのみ、 設い開ソを存すと
12 雖も破の義免れ難きか、 何に況や上に挙ぐる所の一向執権・或は一向執実等の者をや、而るに彼の阿闍梨等は・自
13 科を顧みざる者にして 嫉妬するの間 自眼を回転して大山を眩ると観るか、 先ず実を以て権を破し権執を絶して
14 実に入るは釈迦・多宝・十方の諸仏の常儀なり、 実を以て権を破する者を盲目と為せば釈尊は盲目の人か乃至天台
15 伝教は・盲目の人師なるか如何、笑う可し返す返す。
16   四十九院等の事、 彼の別当等は無智の者たる間日蓮に向つて之を恐る小田一房等怨を為すか弥彼等が邪法滅す
17 可き先兆なり、 根露るれば枝枯れ源竭れば流れ尽くと云う本文虚しからざるか、 弘法・慈覚・智証・三大師の法
18 華経誹謗の大科四百余年の間隠せる根露れ枝枯る、 今日蓮之を糾明せり拘留外道が石と為つて数百年、 陳那菩薩
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01 に責められ石即ち水と為る、尼犍が立てし塔は馬鳴之を頽す、臥せる師子に手を触れば瞋りを為す等是なり。
02       建治四年正月十六日                 日 蓮 花 押
03     駿河国実相寺豊前公御房御返事
石本日仲聖人御返事
01   同時に二仏に亘るか将た又一方は妄語なるか、近来念仏者天下を誑惑するか、早早御存知有る可きか。
02   抑駿馬一疋追い遣わさる事存外の次第か事事見参の時を期す、恐恐謹言。
03       九月二十日                    日 蓮 在 御 判
04     石本日仲聖人御返事
05   此の間の学問只此事なり、又真言師等、奏問を経るの由風聞せしむ。
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聖人等御返事   
01   今月十五日酉時御文同じき十七日酉時到来す,彼等御勘気を蒙るの時.南無妙法蓮華経.南無妙法蓮華経と唱え奉る
02 と云云、 偏に只事に非ず定めて平金吾の身に十羅刹入り易りて法華経の行者を試みたもうか、 例せば雪山童子・
03 尸毘王等の如し将た又悪鬼其の身に入る者か、釈迦・多宝・十方の諸仏・梵帝等・五五百歳の法華経の行者を守護す
04 可きの御誓は是なり、 大論に云く能く毒を変じて薬と為す、天台云く毒を変じて薬と為す云云、 妙の字虚しから
05 ずんば定めて須臾に賞罰有らんか。
06   伯耆房等深く此の旨を存じて 問注を遂ぐ可し、 平金吾に申す可き様は文永の御勘気の時聖人の仰せ忘れ給う
07 か、其の殃未だ畢らず重ねて十羅刹の罰を招き取るか、最後に申し付けよ、恐恐。
08       十月十七日戌時                  日 蓮 在 御 判
09     聖人等御返事
10   この事のぶるならば此方にはとがなしとみな人申すべし、又大進房が落馬あらわるべし、 あらわれば人人こと
11   におづべし、 天の御計らいなり、 各にはおづる事なかれ、 つよりもてゆかば定めて子細いできぬとおぼふ
12   るなり、今度の使にはあわぢ房を遣すべし。
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伯耆殿等御返事    弘安二年十月十二日    五十八歳御作
01   大体此の趣を以て書き上ぐ可きか、 但し熱原の百姓等安堵せしめば日秀等別に問注有る可からざるか、 大進
02 房・ 弥藤次入道等の狼藉の事に至つては 源は行智の勧めに依りて殺害刄傷する所なり、 若し又起請文に及ぶ可
03 き云云の事之を申さば全く書く可からず、 其の故は人に殺害刄傷せられたる上・ 重ねて起請文を書き失を守るは
04 古今未曾有の沙汰なり、 其の上行智の所行・書かしむる如くならば身を容るる処なく行う可きの罪・方無きか、穴
05 賢穴賢、此の旨を存じ問注の時・強強と之を申さば定めて上聞に及ぶ可きか、 又行智・証人立て申さば彼等の人人
06 行智と同意して百姓等が田畠数十苅り取る由・之を申せ、 若し又証文を出さば謀書の由之を申せ、 事事証人の起
07 請文を用ゆべからず、 但し現証の殺害刄傷而已、 若し其の義に背く者は日蓮の門家に非ず日蓮の門家に非ず候、
08 恐恐。
09       弘安二年十月十二日                日 蓮 在 御 判
10     伯 耆 殿
11     日 秀
12     日 弁 等 下
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高橋入道殿御返事    建治元年七月    五十四歳御作
01   瓜一篭ささげひげこえだまめねいもかうのうり給び候い畢んぬ、 付法蔵経と申す経にはいさごのもちゐを仏に
02 供養しまいらせしわらは 百年と申せしに一閻浮提の四分が一の王となる所謂阿育大王これなり、 法華経の法師品
03 には而於一劫中と申して一劫が間・ 釈迦仏を種種に供養せる人の功徳と・ 末代の法華経の行者を須臾も供養せる
04 功徳と・ たくらべ候に其福復彼に過ぐと申して法華経の行者を供養する功徳すぐれたり、 これを妙楽大師釈して
05 云く「供養すること有らん者は福十号に過ぐ」と云云、 されば仏を供養する功徳よりも・ すぐれて候なれば仏に
06 ならせ給はん事疑いなし。
07   其の上女人の御身として尼とならせ給いて候なり・ いよいよ申すに及ばず但しさだめて念仏者にてやをはすら
08 ん、 たうじの念仏者・持斎は国をほろぼし他国の難をまねくものにて候、 日本国の人人は一人もなく日蓮がかた
09 きとなり候いぬ、梵王・帝釈・日月・四天のせめをかほりて・たうじのゆきつしまのやうになり候はんずるに・いか
10 がせさせ給うべきいかがせさせ給うべき、 なによりも入道殿の御所労なげき入つて候、 しばらくいきさせ給いて
11 法華経を謗ずる世の中御覧あれと候へ、 日本国の人人は大体はいけどりにせられ候はんずるなり、 日蓮を二度ま
12 でながし法華経の五の巻をもてかうべを打ち候いしは・こり候はんずらむ。
13      七月二十六日                    日 蓮花 押
14     御返事
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高橋入道殿御返事    建治元年七月    五十四歳御作
01   進上 高橋入道殿御返事                       日 蓮
02   我等が慈父・大覚世尊は人寿百歳の時・中天竺に出現しましまして一切衆生のために一代聖教をとき給う、仏在
03 世の一切衆生は過去の宿習有つて仏に縁あつかりしかば・すでに得道成りぬ、 我が滅後の衆生をば・いかんがせん
04 と・なげき給いしかば八万聖教を文字となして・一代聖教の中に小乗経をば迦葉尊者にゆづり・ 大乗経並びに法華
05 経涅槃等をば文殊師利菩薩にゆづり給う、 但八万聖教の肝心・法華経の眼目たる妙法蓮華経の五字をば迦葉・阿難
06 にもゆづり給はず、又文殊.普賢・観音・弥勒.地蔵・竜樹等の大菩薩にもさづけ給はず、此等の大菩薩等の・のぞみ
07 申せしかども仏ゆるし給はず、 大地の底より上行菩薩と申せし老人を召しいだして・多宝仏・ 十方の諸仏の御前
08 にして釈迦如来・七宝の塔中にして妙法蓮華経の五字を上行菩薩にゆづり給う。
09   其の故は我が滅後の一切衆生は皆我が子なりいづれも平等に不便にをもうなり、 しかれども医師の習い病に随
10 いて薬をさづくる事なれば・我が滅後・五百年が間は迦葉・阿難等に小乗経の薬をもつて一切衆生にあたへよ、 次
11 の五百年が間は文殊師利菩薩・弥勒菩薩・竜樹菩薩・天親菩薩に華厳経・大日経・般若経等の薬を一切衆生にさづけ
12 よ、 我が滅後一千年すぎて像法の時には薬王菩薩・ 観世音菩薩等・法華経の題目を除いて余の法門の薬を一切衆
13 生にさづけよ、末法に入りなば迦葉・阿難等・文殊・弥勒菩薩等・薬王・観音等のゆづられしところの小乗経・大乗
14 経・並びに法華経は文字はありとも衆生の病の薬とはなるべからず、 所謂病は重し薬はあさし、 其の時上行菩薩
15 出現して妙法蓮華経の五字を一閻浮提の一切衆生にさづくべし、 其の時一切衆生・此の菩薩をかたきとせん、 所
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01 謂さるのいぬをみたるがごとく・ 鬼神の人をあだむがごとく・過去の不軽菩薩の一切衆生にのりあだまれしのみな
02 らず杖木瓦礫に・せめられしがごとく覚徳比丘が殺害に及ばれしがごとくなるべし。
03   其の時は迦葉阿難等も或は霊山にかくれ恒河に没し・弥勒・ 文殊等も或は都率の内院に入り或は香山に入らせ
04 給い、 観世音菩薩は西方にかへり・普賢菩薩は東方にかへらせ給う、 諸経は行ずる人はありとも守護の人なけれ
05 ば利生あるべからず、 諸仏の名号は唱うるものありとも天神これをかごすべからず、 但し小牛の母をはなれ金鳥
06 のたかにあえるがごとくなるべし、 其の時十方世界の大鬼神・ 一閻浮提に充満して四衆の身に入つて・或は父母
07 をがいし或は兄弟等を失はん、 殊に国中の智者げなる持戒げなる僧尼の心に 此の鬼神入つて国主並びに臣下をた
08 ぼらかさん、 此の時上行菩薩の御かびをかほりて法華経の題目・ 南無妙法蓮華経の五字計りを一切衆生にさづけ
09 ば・彼の四衆等・並びに大僧等此の人をあだむ事父母のかたき宿世のかたき朝敵怨敵のごとくあだむべし、 其の時
10 大なる天変あるべし、 所謂日月蝕し大なる彗星天にわたり大地震動して水上の輪のごとくなるべし、 其の後は自
11 界叛逆難と申して国主・ 兄弟・並びに国中の大人をうちころし・後には他国侵逼難と申して鄰国より・せめられて
12 或はいけどりとなり或は自殺をし国中の上下・万民・皆大苦に値うべし、 此れひとへに上行菩薩のかびをかをほり
13 て法華経の題目をひろむる者を・ 或はのり或はうちはり或は流罪し或は命をたちなんどするゆへに・ 仏前にちか
14 ひをなせし梵天・帝釈・日月・ 四天等の法華経の座にて誓状を立てて法華経の行者をあだまん人をば父母のかたき
15 よりもなをつよくいましむべしと・ ちかうゆへなりとみへて候に、 今日蓮日本国に生れて一切経並びに法華経の
16 明鏡をもて・日本国の一切衆生の面に引向たるに寸分もたがはぬ上・仏の記し給いし天変あり地夭あり、 定んで此
17 の国亡国となるべしとかねてしりしかば・これを国主に申すならば国土安穏なるべくも・たづねあきらむべし、 亡
18 国となるべきならば・よも用いじ、 用いぬ程ならば日蓮は流罪・死罪となるべしとしりて候いしかども・仏いまし
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01 めて云く此の事を知りながら身命ををしみて 一切衆生にかたらずば我が敵たるのみならず 一切衆生の怨敵なり、
02 必ず阿鼻大城に堕つべしと記し給へり。
03   此に日蓮進退わづらひて此の事を申すならば 我が身いかにもなるべし我が身はさてをきぬ父母兄弟並びに千万
04 人の中にも 一人も随うものは国主万民にあだまるべし、 彼等あだまるるならば仏法はいまだわきまへず人のせめ
05 はたへがたし、 仏法を行ずるは安穏なるべしとこそをもうに・ 此の法を持つによつて大難出来するはしんぬ此の
06 法を邪法なりと誹謗して悪道に堕つべし、 此れも不便なり又此れを申さずは仏誓に違する上・ 一切衆生の怨敵な
07 り大阿鼻地獄疑いなし、いかんがせんとをもひしかども・ をもひ切つて申し出しぬ、 申し始めし上は又ひきさす
08 べきにもあらざれば・ いよいよつより申せしかば、 仏の記文のごとく国主もあだみ万民もせめき、あだをなせし
09 かば天もいかりて日月に大変あり 大せいせいも出現しぬ大地もふりかえしぬべくなりぬ、 どしうちもはじまり他
10 国よりもせめるなり、仏の記文すこしもたがわず・日蓮が法華経の行者なる事も疑はず。
11   但し去年かまくらより此のところへにげ入り候いし時・ 道にて候へば各各にも申すべく候いしかども申す事も
12 なし、又先度の御返事も申し候はぬ事はべちの子細も候はず、 なに事にか各各をば・へだてまいらせ候べき、 あ
13 だをなす念仏者・禅宗・真言師等をも並びに国主等をもたすけんがためにこそ申せ、 かれ等のあだをなすは・いよ
14 いよ不便にこそ候へ、 まして一日も我がかたとて心よせなる人人は いかでかをろかなるべき世間のをそろしさに
15 妻子ある人人のとをざかるをば・ことに悦ぶ身なり、 日蓮に付てたすけやりたるかたわなき上・ わづかの所領を
16 も召さるるならば子細もしらぬ妻子・所従等がいかになげかんずらんと心ぐるし。
17   而も去年の二月に御勘気をゆりて三月の十三日に佐渡の国を立ち同月の二十六日にかまくらに入る、 同四月の
18 八日平左衛門尉にあひたりし時・やうやうの事ども・とひし中に蒙古国は・いつよすべきと申せしかば、 今年よす
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01 べし、 それにとて日蓮はなして日本国にたすくべき者一人もなし、 たすからんとをもひしたうならば日本国の念
02 仏者と禅と律僧等が 頚を切つてゆいのはまにかくべし、 それも今はすぎぬ・ 但し皆人のをもひて候は日蓮をば
03 念仏師と禅と律をそしるとをもひて候、 これは物のかずにてかずならず・ 真言宗と申す宗がうるわしき日本国の
04 大なる呪咀の悪法なり、 弘法大師と慈覚大師此の事にまどひて此の国を亡さんとするなり、 設い二年三年にやぶ
05 るべき国なりとも真言師にいのらする程ならば一年半年に此のくにせめらるべしと申しきかせて候いき。
06   たすけんがために申すを此程あだまるる事なれば・ ゆりて候いし時さどの国より・いかなる山中海辺にもまぎ
07 れ入るべかりしかども・ 此の事をいま一度平左衛門に申しきかせて 日本国にせめのこされん衆生をたすけんがた
08 めにのぼりて候いき、 又申しきかせ候いし後は・ かまくらに有るべきならねば足にまかせていでしほどに便宜に
09 て候いしかば設い各各は・ いとはせ給うとも今一度はみたてまつらんと千度をもひしかども・心に心をたたかいて
10 すぎ候いき、 そのゆへはするがの国は守殿の御領 ことにふじなんどは後家尼ごぜんの内の人人多し、 故最明寺
11 殿・極楽寺殿のかたきといきどをらせ給うなればききつけられば 各各の御なげきなるべしとおもひし心計りなり、
12 いまにいたるまでも不便にをもひまいらせ候へば御返事までも申さず候いき、 この御房たちのゆきすりにも・ あ
13 なかしこあなかしこ・ふじかじまのへんへ立ちよるべからずと申せども・いかが候らんとをぼつかなし。
14   ただし真言の事ぞ御不審にわたらせ給い候らん、 いかにと法門は申すとも御心へあらん事かたし但眼前の事を
15 もつて知しめせ、 隠岐の法皇は人王八十二代・神武よりは二千余年・ 天照太神入りかわらせ給いて人王とならせ
16 給う、いかなる者かてきすべき上欽明より隠岐の法皇にいたるまで漢土・ 百済・新羅・高麗よりわたり来る大法秘
17 法を叡山・東寺・園城・七寺並びに日本国にあがめをかれて候、 此れは皆国を守護し国主をまほらんためなり、隠
18 岐の法皇世をかまくらにとられたる事を 口をしとをぼして叡山・ 東寺等の高僧等をかたらひて義時が命をめしと
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01 れと行ぜしなり、 此の事一年二年ならず数年調伏せしに・ 権の大夫殿はゆめゆめしろしめさざりしかば一法も行
02 じ給はず・又行ずとも叶うべしともをぼへずありしに・ 天子いくさにまけさせ給いて隠岐の国へつかはされさせ給
03 う、 日本国の王となる人は天照太神の御魂の入りかわらせ給う王なり、先生の十善戒の力といひ・ いかでか国中
04 の万民の中にはかたぶくべき、 設いとがありともつみあるをやを失なき子のあだむにてこそ候いぬらめ、 設い親
05 に重罪ありとも 子の身として失に行はんに天うけ給うべしや、 しかるに隠岐の法皇のはぢにあはせ給いしはいか
06 なる大禍ぞ・此れひとへに法華経の怨敵たる日本国の真言師をかたらはせ給いしゆへなり。
07   一切の真言師は潅頂と申して 釈迦仏等を八葉の蓮華にかきて此れを足にふみて秘事とするなり、かかる不思議
08 の者ども諸山・諸寺の別当とあおぎてもてなすゆへに・ たみの手にわたりて現身にはぢにあひぬ、此の大悪法又か
09 まくらに下つて 御一門をすかし日本国をほろぼさんとするなり、 此の事最大事なりしかば弟子等にもかたらず・
10 只いつはり・ をろかにて念仏と禅等計りをそしりてきかせしなり、 今は又用いられぬ事なれば身命もおしまず弟
11 子どもにも申すなり、 かう申せば・いよいよ御不審あるべし、日蓮いかにいみじく尊くとも慈覚・弘法にすぐるべ
12 きか、この疑すべてはるべからず・いかにとかすべき。
13   但し皆人はにくみ候にすこしも御信用のありし上・ 此れまでも御たづねの候は只今生計りの御事にはよも候は
14 じ定めて過去のゆへか、 御所労の大事にならせ給いて候なる事あさましく候、 但しつるぎはかたきのため薬は病
15 のため、 阿闍世王は父をころし仏の敵となれり、 悪瘡身に出で後に仏に帰伏し法華経を持ちしかば悪瘡も平癒し
16 寿をも四十年のべたりき、 而も法華経は閻浮提人病之良薬とこそとかれて候へ、 閻浮の内の人は病の身なり法華
17 経の薬あり、 三事すでに相応しぬ一身いかでかたすからざるべき、但し御疑のわたり候はんをば力をよばず、 南
18 無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経。
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01 覚乗房はわき房に度度よませてきこしめせ・きこしめせ。
02       七月十二日                     日 蓮 花押
03     進上   高橋六郎兵衛入道殿 御返事
異体同心事
01   白小袖一つあつわたの小袖はわき房のびんぎに鵞目一貫並びにうけ給わる、 はわき房さど房等の事あつわらの
02 者どもの御心ざし異体同心なれば 万事を成し同体異心なれば 諸事叶う事なしと申す事は 外典三千余巻に定りて
03 候、 殷の紂王は七十万騎なれども同体異心なればいくさにまけぬ、 周の武王は八百人なれども異体同心なればか
04 ちぬ、 一人の心なれども二つの心あれば其の心たがいて成ずる事なし、 百人・千人なれども一つ心なれば必ず事
05 を成ず、 日本国の人人は多人なれども体同異心なれば諸事成ぜん事かたし、 日蓮が一類は異体同心なれば人人す
06 くなく候へども大事を成じて・一定法華経ひろまりなんと覚へ候、 悪は多けれども一善にかつ事なし、 譬へば多
07 くの火あつまれども一水にはきゑぬ、此の一門も又かくのごとし。
08   其の上貴辺は多年としつもりて奉公・法華経にあつくをはする上・今度はいかにもすぐれて御心ざし見えさせ給
09 うよし人人も申し候、又かれらも申し候、一一に承りて日天にも大神にも申し上げて候ぞ。
10   御文はいそぎ御返事申すべく候ひつれどもたしかなるびんぎ候はでいままで申し候はず、 べんあさりがびんぎ
11 あまりそうそうにてかきあへず候いき、 さては各各としのころ・いかんがとをぼしつる、 もうこの事すでにちか
12 づきて候か、我が国のほろびん事はあさましけれども、 これだにもそら事になるならば・日本国の人人いよいよ法
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01 華経を謗して万人無間地獄に堕つべし、 かれだにもつよるならば国はほろぶとも謗法はうすくなりなん、 譬へば
02 灸治をしてやまいをいやし針治にて人をなをすがごとし、 当時はなげくとも後は悦びなり、 日蓮は法華経の御使
03 い日本国の人人は 大族王の一閻浮提の仏法を失いしがごとし、 蒙古国は雪山の下王のごとし天の御使として法華
04 経の行者をあだむ人人を罰せらるるか、 又現身に改悔ををこしてあるならば阿闍世王の仏に帰して 白癩をやめ四
05 十年の寿をのべ無根の信と申す位にのぼりて現身に無生忍をえたりしがごとし、恐恐謹言。
06       八 月 六 日                     日 蓮 花 押
六郎次郎殿御返事    建治三年三月    五十六歳御作
01   白米三斗油一畢給ひ畢んぬいまにはじめぬ御心ざし申しつくしがたく候 日蓮が悦び候のみならず釈迦仏定めて
02 御悦び候らん、我則歓喜諸仏亦然は是なり、明日三位房をつかはすべく候、その時委細申すべく候、恐恐。
03       建治三年丁丑三月十九日               日 蓮 花 押
04     六郎次郎殿
05     次郎兵衛殿
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減劫御書
01   減劫と申すは人の心の内に候、貪・瞋・癡の三毒が次第に強盛になりもてゆくほどに・次第に人のいのちもつづ
02 まりせいもちいさくなりもつてまかるなり、 漢土・日本国は仏法已前には三皇・五帝・三聖等の外経をもつて民の
03 心をととのへてよをば治めしほどに・ 次第に人の心はよきことは・はかなく・わるき事は・かしこくなりしかば・
04 外経の智あさきゆへに悪のふかき失をいましめがたし、 外経をもつて世をさまらざりしゆへに・ やうやく仏経を
05 わたして 世間ををさめしかば世をだやかなりき、 此れはひとへに仏教のかしこきによつて 人民の心をくはしく
06 あかせるなり、 当時の外典と申すは本の外経の心にはあらず、 仏法のわたりし時は外経と仏経とあらそいしかど
07 も・ やうやく外経まけて王と民と用いざりしかば・ 外経のもの内経の所従となりて立ちあうことなくありしほど
08 に・外経の人人・内経の心をぬきて智慧をまし外経に入れて候ををろかなる王は外典のかしこきかとをもう。
09   又人の心やうやく善の智慧は・はかなく悪の智慧かしこくなりしかば仏経の中にも小乗経の智慧・世間ををさむ
10 るに代をさまることなし、 其の時大乗経をひろめて代を・をさめしかば・すこし代をさまりぬ、其の後大乗経の智
11 慧及ばざりしかば一乗経の智慧をとりいだして代ををさめしかば・ すこししばらく代をさまりぬ、 今の代は外経
12 も小乗経も大乗経も一乗法華経等もかなわぬよとなれり、 ゆえいかんとなれば衆生の貪・ 瞋・ 癡の心のかしこ
13 きこと大覚世尊の大善にかしこきがごとし、譬へば犬は鼻のかしこき事人にすぎたり、又鼻の禽獣をかぐことは大聖
14 の鼻通にも・をとらず、ふくろうがみみのかしこき・とびの眼のかしこき・すずめの舌のかろき・りうの身のかしこ
15 き・皆かしこき人にもすぐれて候、そのやうに末代濁世の心の貪欲・瞋恚・愚癡のかしこさは・いかなる賢人・聖人
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01 も治めがたき事なり、其の故は貪欲をば仏不浄観の薬をもて治し・ 瞋恚をば慈悲観をもて治し・愚癡をば十二因縁
02 観をもてこそ治し給うに・いまは此の法門をとひて人を・をとして貪欲・瞋恚・愚癡をますなり、譬へば火をば水を
03 もつてけす・悪をば善をもつて打つ・ しかるにかへりて水より出ぬる火をば水をかくればあぶらになりていよいよ
04 大火となるなり。
05   今末代悪世に世間の悪より出世の法門につきて大悪出生せり、 これをば・しらずして今の人人・善根をすすれ
06 ば・いよいよ代のほろぶる事出来せり、 今の代の天台真言等の諸宗の僧等をやしなうは・外は善根とこそ見ゆれど
07 も内は十悪五逆にもすぎたる大悪なり、 しかれば代のをさまらん事は 大覚世尊の智慧のごとくなる智人世に有り
08 て・仙予国王のごとくなる賢王とよりあひて・ 一向に善根をとどめ大悪をもつて八宗の智人とをもうものを・或は
09 せめ或はながし或はせをとどめ或は頭をはねてこそ代はすこし・をさまるべきにて候へ。
10   法華経の第一の巻の「諸法実相乃至唯仏と仏と乃ち能く究尽し給う」ととかれて候はこれなり、本末究竟と申す
11 は本とは悪のね善の根・ 末と申すは悪のをわり善の終りぞかし、 善悪の根本枝葉をさとり極めたるを仏とは申す
12 なり、天台云く「夫れ一心に十法界を具す」等云云、 章安云く「仏尚此れを大事と為す易解を得べきなり」妙楽云
13 く「乃至終窮究竟の極説なり」等云云、 法華経に云く「皆実相と相違背せず」等云云、 天台之を承けて云く「一
14 切世間の治生産業は皆実相と相違背せず」等云云、 智者とは世間の法より外に仏法を行ず、 世間の治世の法を能
15 く能く心へて候を智者とは申すなり、 殷の代の濁りて民のわづらいしを 大公望出世して殷の紂が頚を切りて民の
16 なげきをやめ、 二世王が民の口ににがかりし張良出でて代ををさめ 民の口をあまくせし、此等は仏法已前なれど
17 も教主釈尊の御使として民をたすけしなり、 外経の人人は・ しらざりしかども彼等の人人の智慧は内心には仏法
18 の智慧をさしはさみたりしなり。
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01   今の代には正嘉の大地震・文永の大せひせひの時智慧かしこき国主あらましかば日蓮をば用いつべかりしなり、
02 それこそなからめ文永九年のどしうち・ 十一年の蒙古のせめの時は周の文王の大公望をむかへしがごとく・殷の高
03 丁王の傅悦を七里より請せしがごとくすべかりしぞかし、 日月は生盲の者には財にあらず 賢人をば愚王のにくむ
04 とはこれなり、 しげきゆへにしるさず、 法華経の御心と申すはこれてひの事にて候・外のことと・をぼすべから
05 ず、大悪は大善の来るべき瑞相なり、一閻浮提うちみだすならば閻浮提内広令流布はよも疑い候はじ。
06   此の大進阿闍梨を故六郎入道殿の御はかへつかわし候、 むかし・この法門を聞いて候人人には関東の内ならば
07 我とゆきて 其のはかに自我偈よみ候はんと存じて候、 しかれども当時のありさまは日蓮かしこへゆくならば其の
08 日に一国にきこへ・ 又かまくらまでもさわぎ候はんか、 心ざしある人なりともゆきたらんところの人人めををそ
09 れぬべし、いままでとぶらい候はねば聖霊いかにこひしくをはすらんと・をもへば・あるやうもありなん、 そのほ
10 ど・まづ弟子をつかわして御はかに自我偈を・よませまいらせしなり、其の由御心へ候へ、恐恐。
高橋殿御返事
01   米穀も又又かくの如し、 同じ米穀なれども謗法の者をやしなうは仏種をたつ 命をついで弥弥強盛の敵人とな
02 る、 又命をたすけて終に法華経を引き入るべき故か、 又法華の行者をやしなうは慈悲の中の大慈悲の米穀なるべ
03 し、 一切衆生を利益するなればなり、 故に仏舎利変じて米と成るとは是なるべし、 かかる今時分人をこれまで
04 つかはし給う事うれしさ申すばかりなし、釈迦仏・地涌の菩薩・御身に入りかはらせ給うか。
05   其の国の仏法は貴辺にまかせたてまつり候ぞ、 仏種は縁に従つて起る是の故に一乗を説くなるべし、 又治部
06 房・下野房等来り候はば・いそぎいそぎつかはすべく候、松野殿にも見参候はば・くはしくかたらせ給へ。
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三三蔵祈雨事   建治元年六月    五十四歳御作   与西山入道
01   夫れ木をうえ候には大風吹き候へどもつよきすけをかひぬれば・たうれず、 本より生いて候木なれども根の弱
02 きは・たうれぬ、甲斐無き者なれども・たすくる者強ければたうれず、 すこし健の者も独なれば悪しきみちには・
03 たうれぬ、 又三千大千世界のなかには舎利弗・ 迦葉尊者をのぞいては仏よにいで給はずば一人もなく三悪道に堕
04 つべかりしが、 仏を・たのみまいらせし強縁によりて一切衆生は・をほく仏になりしなり、まして阿闍世王・あう
05 くつまらなんど申せし悪人どもは・いかにも・ かなうまじくて必ず阿鼻地獄に堕つべかりしかども・教主釈尊と申
06 す大人にゆきあはせ給いてこそ仏にはならせ給いしか、 されば仏になるみちは善知識にはすぎず、 わが智慧なに
07 にかせん、 ただあつきつめたきばかりの智慧だにも候ならば善知識たいせちなり、 而るに善知識に値う事が第一
08 のかたき事なり、 されば仏は善知識に値う事をば一眼のかめの浮木に入り・ 梵天よりいとを下て大地のはりのめ
09 に入るにたとへ給へり、 而るに末代悪世には悪知識は大地微塵よりもをほく 善知識は爪上の土よりもすくなし、
10 補陀落山の観世音菩薩は善財童子の善知識・別円二教ををしへて・いまだ純円ならず、 常啼菩薩は身をうて善知識
11 をもとめしに曇無竭菩薩にあへり、 通別円の三教をならひて法華経ををしへず、 舎利弗は金師が善知識・九十日
12 と申せしかば闡提の人となしたりき、 ふるなは一夏の説法に大乗の機を小人となす、 大聖すら法華経をゆるされ
13 ず証果のらかん機をしらず、 末代悪世の学者等をば此をもつてすいしぬべし、 天を地といゐ東を西といゐ・火を
14 水とをしへ・星は月にすぐれたり、 ありづかは須弥山にこへたり、なんど申す人人を信じて候はん人人は・ならは
15 ざらん悪人に・はるかをとりてをしかりぬべし。
16   日蓮仏法をこころみるに道理と証文とにはすぎず、 又道理証文よりも現証にはすぎず、而るに去る文永五年の
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01 比・ 東には俘囚をこり西には蒙古よりせめつかひつきぬ、 日蓮案じて云く仏法を信ぜざればなり定めて調伏をこ
02 なはれずらん、 調伏は又真言宗にてぞあらんずらん、月支・漢土・日本三箇国の間に且く月支はをく、漢土日本の
03 二国は真言宗にやぶらるべし、 善無畏三蔵・漢土に亘りてありし時は唐の玄宗の時なり、大旱魃ありしに祈雨の法
04 を・をほせつけられて候しに・ 大雨ふらせて上一人より下万民にいたるまで大に悦びし程に・須臾ありて大風吹き
05 来りて国土をふきやぶりしかば・けをさめてありしなり、 又其の世に金剛智三蔵わたる、又雨の御いのりありしか
06 ば七日が内に大雨下り上のごとく悦んでありし程に、 前代未聞の大風吹きしかば・真言宗は・をそろしき悪法なり
07 とて月支へをわれしが・とかうしてとどまりぬ、 又同じ御世に不空三蔵・雨をいのりし程三日が内に大雨下る悦さ
08 きのごとし、 又大風吹きてさき二度よりも・をびただし数十日とどまらず、不可思議の事にてありしなり、 此は
09 日本国の智者愚者一人もしらぬ事なり、 しらんとをもはば日蓮が生きてある時くはしくたづねならへ、 日本国に
10 は天長元年二月に大旱魃あり、 弘法大師も神泉苑にして祈雨あるべきにて・ ありし程に守敏と申せし人すすんで
11 云く「弘法は下﨟なり我は上﨟なり・まづをほせを・かほるべし」と申す、 こうに随いて守敏をこなう、七日と申
12 すには大雨下りしかども京中計りにて田舎にふらず、 弘法にをほせつけられてありしかば 七日にふらず二七日に
13 ふらず三七日にふらざりしかば、 天子我といのりて雨をふらせ給いき、 而るを東寺の門人等 我が師の雨とがう
14 す、くわしくは日記をひきて習うべし、 天下第一のわうわくのあるなり、 これより外に弘仁九年の春のえきれい
15 又三古なげたる事に不可思議の誑惑あり口伝すべし。
16   天台大師は陳の世に大旱魃あり法華経をよみて・ 須臾に雨下り王臣かうべをかたぶけ万民たなごころをあはせ
17 たり、 しかも大雨にもあらず風もふかず甘雨にてありしかば、 陳王大師の御前にをはしまして内裏へかへらんこ
18 とをわすれ給いき、此の時三度の礼拝はありしなり。
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01   去る弘仁九年の春.大旱魃ありき・嵯峨の天王真綱と申す臣下をもつて冬嗣のとり申されしかば.法華経・金光明
02 経・仁王経をもつて伝教大師祈雨ありき、 三日と申せし日ほそきくもほそきあめしづしづと下りしかば・天子あま
03 りによろこばせ給いて、 日本第一のかたことたりし大乗の戒壇はゆるされしなり、伝教大師の御師・ 護命と申せ
04 し聖人は南都第一の僧なり、 四十人の御弟子あいぐして仁王経をもつて祈雨ありしが 五日と申せしに雨下りぬ、
05 五日は・ いみじき事なれども三日にはをとりて而も雨あらかりしかばまけにならせ給いぬ、 此れをもつて弘法の
06 雨をばすひせさせ給うべし、 かく法華経はめでたく真言はをろかに候に 日本のほろぶべきにや一向真言にてある
07 なり、隠岐の法王の事をもつてをもうに・ 真言をもつて蒙古とえぞとをでうぶくせば・日本国やまけんずらんと・
08 すひせしゆへに此の事いのちをすてて・いゐて・みんとをもひしなり、 いゐし時はでしらせいせしかども・いまは
09 あひぬれば心よかるべきにや 、漢土・日本の智者・五百余年の間一人もしらぬ事をかんがへて候なり、善無畏・金
10 剛智・不空等の祈雨に雨は下りて而も大風のそひ候は・いかにか心へさせ給うべき、 外道の法なれども・いうにか
11 ひなき道士の法にも雨下る事あり、 まして仏法は小乗なりとも法のごとく行うならば・いかでか雨下らざるべき、
12 いわうや大日経は華厳・般若にこそをよばねども阿含には・すこしまさりて候ぞかし、 いかでか・いのらんに雨下
13 らざるべき・ されば雨は下りて候へども大風のそいぬるは大なる僻事のかの法の中にまじわれるなるべし、 弘法
14 大師の三七日に雨下らずして候を天子の雨を我が雨と申すは・又善無畏等よりも大にまさる失のあるなり。
15   第一の大妄語には弘法大師の自筆に云く、 「弘仁九年の春疫れいをいのりてありしかば夜中に日いでたり」と
16 云云、かかるそらごとをいう人なり、 此の事は日蓮が門家第一の秘事なり本文をとりつめていうべし、 仏法はさ
17 てをきぬ上にかきぬる事天下第一の大事なり、 つてに・をほせあるべからず御心ざしのいたりて候へば・をどろか
18 しまいらせ候、 日蓮をばいかんがあるべかるらんとをぼつかなしと・をぼしめすべきゆへに・かかる事ども候、む
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01 こり国だにも・つよくせめ候わば今生にもひろまる事も候いなん、 あまりにはげしくあたりし人人は・くゆるへん
02 もや・あらんずらん。
03   外道と申すは仏前・八百年よりはじまりて、はじめは二天・三仙にてありしが・やうやく・わかれて九十五種な
04 り、其の中に多くの智者・神通のもの・ ありしかども一人も生死をはなれず、又帰依せし人人も善につけ悪につけ
05 て皆三悪道に堕ち候いしを・仏出世せさせ給いてありしかば、 九十五種の外道・十六大国の王臣諸民をかたらひて
06 或はのり或はうち或は弟子或はだんな等・ 無量無辺ころせしかども仏たゆむ心なし、 我此の法門を諸人にをどさ
07 れていゐやむほどならば一切衆生地獄に堕つべしと・つよくなげかせ給いしゆへに・退する心なし、 この外道と申
08 すは先仏の経経を見て・よみそこないて候いしより事をこれり。
09   今も又かくのごとし、日本の法門多しといへども源は八宗・九宗・十宗よりをこれり、十宗のなかに華厳等の宗
10 宗は・さてをきぬ、真言と天台との勝劣に弘法・慈覚・智証のまどひしによりて日本国の人人・今生には他国にもせ
11 められ後生にも悪道に堕つるなり、 漢土のほろび又悪道に堕つる事も善無畏・金剛智・不空のあやまりよりはじま
12 れり、 又天台宗の人人も慈覚・智証より後は・かの人人の智慧にせかれて天台宗のごとくならず、されば・さのみ
13 やはあるべき。
14   いわうや日蓮は・かれにすぐべきとわが弟子等をぼせども・ 仏の記文にはたがはず、末法に入つて仏法をばう
15 じ無間地獄に堕つべきものは大地微塵よりも多く、 正法をへたらん人は爪上の土よりも・ すくなしと涅槃経には
16 とかれ、 法華経には設い須弥山をなぐるものはありとも・ 我が末法に法華経を経のごとくにとく者ありがたしと
17 記しをかせ給へり、大集経・金光明経・仁王経・守護経・はちなひをん経・最勝王経等に末法に入つて正法を行ぜん
18 人・出来せば邪法のもの王臣等にうたへて・あらんほどに彼の王臣等・他人が・ことばにつひて一人の正法のものを
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01 或はのり或はせめ或はながし或はころさば梵王・帝釈・無量の諸天・天神・地神等・りんごくの賢王の身に入りかは
02 りてその国をほろぼすべしと記し給へり、今の世は似て候者かな。
03   抑各各はいかなる宿善にて日蓮をば訪はせ給へるぞ、 能く能く過去を御尋ね有らば・なにと無くとも此度生死
04 は離れさせ給うべし、 すりはむどくは三箇年に十四字を暗にせざりしかども 仏に成りぬ提婆は六万蔵を暗にして
05 無間に堕ちぬ・ 是れ偏に末代の今の世を表するなり、 敢て人の上と思し食すべからず事繁ければ止め置き候い畢
06 んぬ、抑当時の怱怱に御志申す計り候はねば大事の事あらあらをどろかしまひらせ候、ささげ青大豆給い候いぬ。
07       六月二十二日                    日 蓮 花 押
08     西山殿御返事
蒙古使御書    建治元年    五十四歳御作   与西山高橋入道
01   鎌倉より事故なく御下りの由承り候いてうれしさ申す計りなし、 又蒙古の人の頚を刎られ候事承り候日本国の
02 敵にて候念仏真言禅律等の法師は 切られずして科なき蒙古の使の頚を刎られ候ける事こそ 不便に候へ子細を知ざ
03 る人は勘へあてて候を おごりて云うと思ふべし 此の二十余年の間私には昼夜に弟子等に歎き申し公には度度申せ
04 し事是なり一切の大事の中に国の亡びるが 第一の大事にて候なり最勝王経に云く 「害の中の極めて重きは国位を
05 失うに過ぎたること無し」 等云云、 文の心は一切の悪の中に国王と成りて政悪くして 我が国を他国に破らるる
06 が第一の悪にて候と説れて候 又金光明経に云く 「悪人を愛敬し善人を治罰するによるが故に乃至他方の怨賊来り
07 て国人喪乱に遇う」等云云、 文の心は国王と成りて悪人を愛し 善人を科にあつれば必ず其の国他国に破らるると
08 云う文なり、 法華経第五に云く「世に恭敬せらるるを為ること六通の羅漢の如くならん」等云云、文の心は法華経
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01 の敵の相貌を説きて候に・ 二百五十戒を堅く持ち迦葉舎利弗の如くなる人を・国主これを尊みて法華経の行者を失
02 なはむとするなりと説れて候ぞ。
03   夫れ大事の法門と申すは別に候はず、 時に当て我が為め国の為め大事なる事を少しも勘へたがへざるが智者に
04 ては候なり、 仏のいみじきと申すは過去を勘へ未来をしり、三世を知しめすに過ぎて候御智慧はなし、 設い仏に
05 あらねども竜樹.天親・天台・伝教なんど申せし聖人・賢人等は仏程こそ.なかりしかども・三世の事を粗知しめされ
06 て候しかば名をも未来まで流されて候き、 所詮・万法は己心に収まりて一塵もかけず九山・八海も我が身に備わり
07 て日月・衆星も己心にあり、 然りといへども盲目の者の鏡に影を浮べるに見えず・嬰児の水火を怖れざるが如し、
08 外典の外道・内典の小乗・ 権大乗等は皆己心の法を片端片端説きて候なり、然りといへども法華経の如く説かず、
09 然れば経経に勝劣あり人人にも聖賢分れて候ぞ、法門多多なれば止め候い畢んぬ。
10   鎌倉より御下りそうそうの御隙に使者申す計りなし、 其の上種種の物送り給候事悦び入つて候、日本は皆人の
11 歎き候に日蓮が一類こそ歎きの中に悦び候へ、 国に候へば蒙古の責はよも脱れ候はじなれども・ 国のために責ら
12 れ候いし事は 天も知しめして候へば後生は必ずたすかりなんと悦び候に・ 御辺こそ今生に蒙古国の恩を蒙らせ給
13 いて候へ、 此の事起らずば最明寺殿の十三年に当らせ給いては御かりは所領にては申す計りなし、 北条六郎殿の
14 やうに筑紫にや御坐なん、 是は各各の御心のさからせ給うて候なり、 人の科をあてるにはあらず、又一には法華
15 経の御故にたすからせ給いて候いぬるか・ ゆゆしき御僻事なり、 是程の御悦びまいりても悦びまいらせ度く候へ
16 ども人聞つつましく候いてとどめ候い畢んぬ。
17     乃 時                          日 蓮 花 押
18     西山殿御返事
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西山殿御返事    建治二年    五十五歳御作
01   青鳧五貫文給い候い畢んぬ、 夫れ雪至つて白ければそむるにそめられず・ 漆至つてくろければしろくなる事
02 なし、此れよりうつりやすきは人の心なり、善悪にそめられ候、真言・禅・念仏宗等の邪悪の者にそめられぬれば必
03 ず地獄にをつ、 法華経にそめられ奉れば必ず仏になる、 経に云く「諸法実相」云云、又云く「若人不信乃至入阿
04 鼻獄」云云、いかにも御信心をば雪漆のごとくに御もち有るべく候、恐恐。
05       建治二年丙子                     日 蓮 花 押
06     西山殿御返事
宝軽法重事    弘安二年五月    五十八歳御作   与西山入道
01   笋百本又二十本追給い畢んぬ、 妙法蓮華経第七に云く 「若し復人有つて七宝を以て三千大千世界に満てて仏
02 及び大菩薩・辟支仏・阿羅漢に供養せん、 是の人の所得の功徳も此の法華経の乃至一四句偈を受持する其の福の最
03 も多きには如かじ」云云、 文句の十に「七宝を四聖に奉るは一偈を持つに如かずと云うは 法は是れ聖の師なり能
04 生能養能成能栄法に過ぎたるは莫し 故に人は軽く法は重きなり」云云、 記の十に云く「父母必ず四の護を以て子
05 を護るが如し、 今発心は法に由るを生と為し始終随逐するを養と為し 極果を満ぜしむるを成と為し能く法界に応
06 ずるを栄と為す、 四つ同じからずと雖も法を以て本と為す」云云、 経並に天台妙楽の心は一切衆生を供養せんと
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01 阿羅漢を供養せんと 乃至一切の仏を尽して七宝の財を三千大千世界にもりみてて供養せんよりは・ 法華経を一偈
02 或は受持し或は護持せんはすぐれたりと云云経に云く 「此の法華経の乃至一四句偈を受持する 其の福の最も多き
03 には如かず」天台云く「人は軽く法は重きなり」妙楽云く 「四つ同じからずと雖も法を以て本と為す」云云、 九
04 界の一切衆生を仏に相対して 此れをはかるに一切衆生のふくは 一毛のかろく仏の御ふくは 大山のをもきがごと
05 し、 一切の仏の御ふくは梵天三銖の衣のかろきがごとし、 法華経の一字の御ふくの重き事は大地のをもきがごと
06 し、 人軽しと申すは仏を人と申す法重しと申すは法華経なり 夫れ法華已前の諸経並に諸論は 仏の功徳をほめて
07 候・仏のごとし、此の法華経は経の功徳をほめたり仏の父母のごとし、 華厳経・大日経等の法華経に劣る事は一毛
08 と大山と三銖と大地とのごとし、 乃至法華経の最下の行者と華厳・ 真言の最上の僧とくらぶれば帝釈と獼猴と師
09 子と兎との勝劣なり、 而るをたみが王とののしればかならず命となる、 諸経の行者が法華経の行者に勝れたりと
10 申せば必ず国もほろび地獄へ入り候なり。
11   但かたきのなき時はいつわりをろかにて候、譬へば将門.貞任も貞盛・頼義がなかりし時は.国をしり妻子・安穏
12 なり云云、 敵なき時はつゆも空へのぼり 雨も地に下り逆風の時は雨も空へあがり日出の時はつゆも地にをちぬ、
13 されば華厳等の六宗は伝教なかりし時は・つゆのごとし・真言も又かくのごとし、 強敵出現して法華経をもつて・
14 つよくせむるならば叡山の座主・ 東寺の小室等も日輪に露のあへるがごとしと・をぼしめすべし、 法華経は仏滅
15 後二千二百余年にいまだ経のごとく説ききわめてひろむる人なし、 天台・伝教もしろしめさざるにはあらず・時も
16 来らず・機もなかりしかば・かききわめずして・をわらせ給へり、日蓮が弟子とならむ人人は・やすくしりぬべし。
17   一閻浮提の内に法華経の寿量品の釈迦仏の形像を・かきつくれる堂塔いまだ候はず、いかでか・あらわれさせ給
18 わざるべき、しげければとどめ候。
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01   たけのこは百二十本法華経は二千余年にあらわれ候ぬ、布施はかろけれども志重き故なり、 当時はくわんのう
02 と申し大宮づくりと申しかたがた民のいとまなし、御心ざし・ふかければ法もあらわれ候にや、恐恐謹言。
03       五月十一日                      日 蓮 花 押
04     西山殿御返事
西山殿御返事    弘安四年    六十歳御作
01   あまざけ一をけ・やまのいも・ところせうせう給了んぬ、梵網経と申す経には一紙・一草と申してかみ一枚くさ
02 ひとつ・大論と申すろんには・つちのもちゐを仏にくやうせるもの閻浮提の王となるよしを・とかれて候。
03   これは・それには.にるべくもなし・そのうへをとこにもすぎわかれ・たのむかたもなきあまのするがの国.西山
04 と申すところより甲斐国のはきゐの山の中にをくられたり、 人にすてられたるひじりの寒さにせめられて・ いか
05 に心ぐるしかるらんと・をもひやらせ給いて・をくられたるか、 父母にをくれしよりこのかた・かかるねんごろの
06 事にあひて候事こそ候はね、 せめての御心ざしに給うかとおぼえてなみだもかきあへ候はぬぞ、 日蓮はわるき者
07 にて候へども法華経は・いかでか・おろそかにおわすべき、 ふくろはくさけれども・つつめる金はきよし・池はき
08 たなけれど もはちすしやうじやうなり、 日蓮は日本第一のえせものなり、 法華経は一切経にすぐれ給へる経な
09 り、心あらん人・金をとらんと・おぼさば・ふくろをすつる事なかれ、蓮をあひせば池をにくむ事なかれ、 わるく
10 て仏になりたらば法華経の力あらはるべし、 よつて臨終わるくば法華経の名をりなん、 さるにては日蓮はわるく
11 ても・わるかるべし・わるかるべし、恐恐謹言。
12   月   日  御 返 事
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西山殿御返事
01   としごろ後生をぼしめして御心ざしをはすれば名計り申し候、 同行どもにあらあらきこしめすべし、やすき事
02 なれば智慧の入る事にあらず智慧の入る事にあらず、恐恐。
03       一月廿三日                    日 蓮 在 御 判
04     西山殿御返事
妙心尼御前御返事    建治元年八月    五十四歳御作
01   すずの御志送り給び候い了んぬ、おさなき人の御ために御まほりさづけまいらせ候、 この御まほりは法華経の
02 うちのかんじん一切経のげんもくにて候、 たとへば天には日月・地には大王・人には心・たからの中には如意宝珠
03 のたま・いえにははしらのやうなる事にて候。
04   このまんだらを身にたもちぬれば王を武士のまほるがごとく・子ををやのあいするがごとく・いをの水をたのむ
05 がごとく草木のあめをねがうがごとく・ とりの木をたのむがごとく・一切の仏神等のあつまり・まほり昼夜に・か
06 げのごとく・まほらせ給う法にて候、よくよく御信用あるべし、あなかしこ・あなかしこ、恐恐謹言。
07       八月二十五日                    日 蓮 花 押
08     妙心尼御前御返事
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窪尼御前御返事    弘安元年五月    五十七歳御作
01   粽五把・笋十本・千日ひとつつ給い畢んぬ、 いつもの事に候へども・ながあめふりてなつの日ながし、山はふ
02 かく・みちしげければ・ ふみわくる人も候はぬに・ ほととぎすにつけての御ひとこへありがたし・ありがたし。
03   さてはあつわらの事こんどをもつて.をぼしめせ・さきもそら事なり、かうのとのは人のいゐしに.つけて・くは
04 しくも・たづねずして此の御房をながしける事あさましと・ をぼしてゆるさせ給いてののちは・させるとがもなく
05 てはいかんが・又あだせらるべき、すへの人人の法華経の心にはあだめども・うへにそしらば・いかんがと・をもひ
06 て・事にかづけて人をあだむほどに・ かへりてさきざきのそら事のあらわれ候ぞ、 これはそらみげうそと申す事
07 はみぬさきよりすいして候、 さどの国にてもそらみげうそを三度までつくりて候しぞ、 これにつけても上と国と
08 の御ためあはれなり、 木のしたなるむしの木をくらひたうし・ 師子の中のむしの師子を食らいうしなふやうに守
09 殿の御をんにて・すぐる人人が守殿の御威をかりて一切の人人ををどし・なやまし・わづらはし候うへ、 上の仰せ
10 とて法華経を失いて国もやぶれ主をも失うて返つて 各各が身をほろぼさんあさましさよ、 日蓮はいやしけれども
11 経は梵天・帝釈.日月・四天・天照太神・八幡大菩薩のまほらせ給う御経なれば.法華経のかたをあだむ人人は・剣を
12 のみ火を手ににぎるなるべし、これにつけても・いよいよ御信用のまさらせ給う事、たうとく候ぞたうとく候ぞ。
13       五月三日                                日 蓮 花押
14     窪尼御返事
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窪尼御前御返事    弘安元年六月    五十七歳御作
01   すずの御供養送り給い了んぬ、大風の草をなびかし・いかづちの人ををどろかすやうに候、よの中にいかにいま
02 まで御しんようの候いけるふしぎさよ、 ねふかければはかれず・いづみに玉あれば水たえずと申すやうに・御信心
03 のねのふかく・いさぎよき玉の心のうちに・わたらせ給うか、たうとしたうとし、恐恐。
04       六月二十七日                    日 蓮 花 押
05     くぼの尼御前御返事
妙心尼御前御返事    弘安元年八月    五十七歳御作
01   あわしかき二篭なすび一こ給い候い了んぬ、入道殿の御所労の事、唐土に黄帝・扁鵲と申せし・くすしあり・天
02 竺に持水・耆婆と申せしくすしあり、 これらはその世のたから末代のくすしの師なり、 仏と申せし人はこれには
03 にるべくもなきいみじきくすしなり、 この仏・不死の薬をとかせ給へり・今の妙法蓮華経の五字是なり、しかも・
04 この五字をば閻浮提人病之良薬とこそ・とかれて候へ。
05   入道殿は閻浮提の内日本国の人なり、 しかも身に病をうけられて候病之良薬の経文顕然なり、其の上蓮華経は
06 第一の薬なり、 はるり王と申せし悪王・仏のしたしき女人五百余人を殺して候いしに・仏阿難を霊山につかはして
07 青蓮華をとりよせて身にふれさせ給いしかば・ よみかへりて七日ありてトウ利天に生れにき、蓮華と申す花はかか
08 るいみじき徳ある花にて候へば仏妙法にたとへ給へり、 又人の死ぬる事は・やまひにはよらず・当時のゆきつしま
09 のものどもは病なけれども・みなみなむこ人に一時に・うちころされぬ・病あれば死ぬべしといふ事不定なり、 又
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01 このやまひは仏の御はからひか・そのゆへは浄名経・涅槃経には病ある人仏になるべきよしとかれて候、 病により
02 て道心はをこり候なり、 又一切の病の中には五逆罪と一闡提と謗法をこそおもき病とは仏はいたませ給へ 今の日
03 本国の人は一人もなく 極大重病あり所謂大謗法の重病なり 今の禅宗念仏宗律宗真言師なりこれらはあまりに病お
04 もきゆへに我が身にもおぼへず 人もしらぬ病なりこの病のこうずるゆへに 四海のつわものただいま来りなば王臣
05 万民みなしづみなんこれをいきてみ候はんまなここそあたあたしく候へ。
06   入道殿は今生にはいたく法華経を御信用ありとは見え候はねども・過去の宿習のゆへの・もよをしによりて・こ
07 のなが病にしづみ日日夜夜に道心ひまなし、 今生につくりをかせ給ひし小罪はすでにきへ候いぬらん、 謗法の大
08 悪は又法華経に帰しぬるゆへに・ きへさせ給うべしただいまに霊山にまいらせ給いなば・日いでて十方をみるが・
09 ごとくうれしく、 とくしにぬるものかなと・うちよろこび給い候はんずらん、 中有の道にいかなる事もいできた
10 り候はば・日蓮がでしなりとなのらせ給へ、 わずかの日本国なれどもさがみ殿のうちのものと申すをば・さうなく
11 おそるる事候、 日蓮は日本第一のふたうの法師ただし法華経を信じ候事は一閻浮提第一の聖人なり、 其の名は十
12 方の浄土にきこえぬ、定めて天地もしりぬらん・ 日蓮が弟子となのらせ給はば・いかなる悪鬼なりともよもしらぬ
13 よしは申さじとおぼすべし、さては度度の御心ざし申すばかりなし、恐恐謹言。
14   さるは木をたのむ・魚は水をたのむ・女人はおとこをたのむ・わかれのをしきゆへにかみをそり・そでをすみに
15   そめぬ、 いかでか十方の仏もあはれませ給はざるべき、 法華経もすてさせ給うべきとたのませ給え・たのま
16   せ給え。
17       八月十六日                               日 蓮 花押
18     妙心尼御前御返事
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窪尼御前御返事    弘安二年五月    五十八歳御作
01   御供養の物数のままに慥に給い候、当時は五月の比おひにて民のいとまなし・其の上宮の造営にて候なり、 か
02 かる暇なき時・山中の有り様思ひやらせ給いて送りたびて候事御志殊にふかし。
03   阿育大王と申せし王はこの天の日のめぐらせ給う一閻浮提を大体しろしめされ候いし王なり、 此の王は昔徳勝
04 とて五になる童にて候いしが 釈迦仏にすなのもちゐをまいらせたりしゆへに かかる大王と生れさせ給う、 此の
05 童はさしも心ざしなし・ たわふれなるやうにてこそ候いしかども仏のめでたくをはすればわづかの事も・ものとな
06 りて・かかる・めでたき事候、 まして法華経は仏にまさらせ給う事星と月とともしびと日とのごとし、又御心ざし
07 もすぐれて候。
08   されば故入道殿も仏にならせ給うべし、又一人をはする.ひめ御前も・いのちもながく.さひわひもありて・さる
09 人の・むすめなりと・きこえさせ給うべし、 当時もおさなけれども母をかけてすごす女人なれば父の後世をもたす
10 くべし。
11   から国にせいしと申せし女人は・わかなを山につみて・をひたるはわをやしなひき、天あはれみて越王と申す大
12 王のかりせさせ給いしが・みつけてきさきとなりにき、 これも又かくのごとし・をやを・やしなふ女人なれば天も
13 まほらせ給うらん仏もあはれみ候らん、 一切の善根の中に孝養父母は第一にて候なれば・ まして法華経にてをは
14 す、金のうつわものに・きよき水を入れたるがごとく・すこしももるべからず候、めでたし・めでたし、恐恐謹言。
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01       五月四日                      日 蓮 花 押
02     くぼの尼御前御返事
03   このなかの御くやうのものは・ところところ略して法門を書写し畢んぬ。
妙心尼御前御返事    弘安二年十一月    五十八歳御作
01   御そうぜんれう送り給い了んぬ、すでに故入道殿のかくるる日にて・おはしけるか、とかう・まぎれ候いけるほ
02 どに・うちわすれて候いけるなり、よもそれにはわすれ給はじ。
03   蘇武と申せし男は漢王の御使に胡国と申す国に入りて十九年めもおとこをはなれ・ おとこもわするる事なし、
04 あまりのこひしさに・おとこの衣を秋ごとにきぬたのうへにて・うちけるが・おもひやとをりて・ゆきにけん・おと
05 このみみにきこへたり、ちんしといいしものは・めおとこ・はなれけるに・かがみをわりて・ひとつづつ・とりにけ
06 り、わするる時はとりとび去りけり、 さうしといゐしものは・おとこをこひてはかにいたりて木となりぬ、 相思
07 樹と申すはこの木なり、 大唐へわたるにしがの明神と申す神をはす・おとこのもろこしへ・ゆきしをこひて神とな
08 れり・しまのすがたおうなににたり、 まつらさよひめといふ是なり、いにしへより・いまにいたるまでをやこのわ
09 かれ主従のわかれ・いづれかつらからざる、 されども・おとこをんなのわかれほど・たとげなかりけるはなし、過
10 去遠遠より女の身となりしが・このおとこ娑婆最後のぜんちしきなりけり。
11   ちりしはな・をちしこのみも・さきむすぶ・いかにこ人の・返らざるらむ。
12   こぞもうく・ことしもつらき・月日かな・おもひはいつも・はれぬものゆへ。
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01   法華経の題目を・となへまいらせて・まいらせ候。
02       十一月二日                      日 蓮 花 押
03     妙心尼御前御返事
窪尼御前御返事    弘安二年十二月    五十八歳御作
01   十字五十まい.くしがき一れん・あめをけ一・送り給い了んぬ、御心ざしさきざきかきつくして.ふでもつひ・ゆ
02 びもたたぬ、 三千大千世界に七日ふる雨のかずは・かずへつくしてん、 十方世界の大地のちりは知る人もありな
03 ん、法華経の一字供養の功徳は知りがたしとこそ仏は・とかせ給いて候へ、此れをもつて御心へあるべし、恐恐
04 謹言。
05       十二月二十七日                            日 蓮 花 押
06     くぼの尼御前御返事
妙心尼御前御返事    弘安三年五月    五十九歳御作
01   すずのもの給いて候、たうじはのう時にて人のいとまなき時・かやうに・くさぐさのものども・をくり給いて候
02 事いかにとも申すばかりなく候、 これもひとへに故入道殿の御わかれの・ しのびがたきに後世の御ためにてこそ
03 候らんめ、 ねんごろにごせをとぶらはせ給い候へば・いくそばく・うれしくおはしますらん、とふ人もなき草むら
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01 に露しげきやうにて・さばせかいにとどめをきしをさなきものなんどのゆくへきかまほし。
02   あの蘇武が胡国に十九年ふるさとの妻と子との・こひしさに雁の足につけしふみ、 安部の中麻呂が漢土にて日
03 本へかへされざりし時・東にいでし月をみてかのかすがのの月よと・ながめしも身にあたりてこそ・おはすらめ。
04   しかるに法華経の題目をつねは・となへさせ給へば此の妙の文じ御つかひに変ぜさせ給い・或は文殊師利菩薩或
05 は普賢菩薩或は上行菩薩或は不軽菩薩等とならせ給うなり、 譬えばちんしがかがみのとりの・ つねにつげしがご
06 とく蘇武がめのきぬたのこえの・きこえしがごとく・さばせかいの事を冥途につげさせ給うらん、 又妙の文字は花
07 のこのみと・なるがごとく半月の満月となるがごとく変じて仏とならせ給う文字なり。
08   されば経に云く「能く此の経を持つは則ち仏身を持つなり」と、天台大師の云く「一一文文是れ真仏なり」等云
09 云、妙の文字は三十二相・八十種好・円備せさせ給う釈迦如来にておはしますを・我等が眼つたなくして文字とは・
10 みまいらせ候なり、 譬へばはちすの子の池の中に生いて候がやうに候はちすの候をとしよりて候 人は眼くらくし
11 てみず、 よるはかげの候をやみにみざるがごとし、 されども此の妙の字は仏にておはし候なり、又此の妙の文字
12 は月なり日なり星なりかがみなり 衣なり食なり花なり大地なり大海なり、 一切の功徳を合せて妙の文字とならせ
13 給う、又は如意宝珠のたまなり、かくのごとく・しらせ給うべし、くはしくは又又申すべし。
14       五月四日                                日 連 花押
15     はわき殿申させ給へ
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窪尼御前御返事    弘安三年六月    五十九歳御作
01   仏の御弟子の中にあなりちと申せし人はこくぼん王の御子いえにたからを・みてて・おはしき、のちに仏の御で
02 しとなりては天眼第一のあなりちとて 三千大千世界を御覧ありし人、 法華経の座にては普明如来とならせ給う、
03 そのさきのよの事をたづぬれば・ ひえのはんを辟支仏と申す仏の弟子にくやうせしゆへなり、 いまの比丘尼はあ
04 わのわさごめ山中にをくりて法華経にくやうしまいらせ給う、いかでか仏にならせ給はざるべき、恐恐謹言。
05       六月二十七日                     日 蓮 花 押
06     くぼの尼御前御返事
窪尼御前御返事    弘安四年十二月    六十歳御作
01   しなじなのものをくり給て候。
02   善根と申すは大なるによらず又ちいさきにもよらず・国により人により時により・やうやうにかわりて候、譬へ
02 ばくそをほして・つきくだき・ふるいてせんだんの木につくり・又女人・天女・仏につくりまいらせて候へども火を
03 つけて・やき候へばべちの香なし・くそくさし、そのやうに・ものをころし・ぬすみをしてそのはつををとりて功徳
04 善根をして候へども・かへりて悪となる。
05   須達長者と申せし人は 月氏第一の長者ぎをん精舎をつくりて仏を入れまいらせたりしかども彼の寺焼けてあと
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01 なしこの長者もといをを・ ころしてあきなへて長者となりしゆへに・この寺つゐにうせにき、 今の人人の善根も
02 又かくのごとく・大なるやうなれども・あるひは・ いくさをして所領を給或はゆへなく民をわづらはして・たから
03 をまうけて善根をなす、此等は大なる仏事とみゆれども仏にもならざる上其の人人あともなくなる事なり。
04   又人をも・わづらはさず我が心もなをしく我とはげみて善根をして候も仏にならぬ事もあり、 いはくよきたね
05 をあしき田にうえぬれば・たねだにもなき上かへりて損となる、 まことの心なれども供養せらるる人だにも・あし
06 ければ功徳とならず、かへりて悪道におつる事候。
07   此れは日蓮を御くやうは候はず法華経の御くやうなれば釈迦仏・多宝仏・十方の諸仏に此の功徳はまかせまいら
08 せ候、 抑今年の事は申しふりて候上 当時はとしのさむき事生れて已来いまだおぼへ候わず、ゆきなんどのふりつ
09 もりて候事おびただし、 心ざしある人もとぶらひがたし、御をとづれをぼろげの御心ざしにあらざるか、 恐恐謹
10 言。
11       十二月二十七日                   日 蓮 花 押
12     くぼの尼御前御返事
三沢御房御返事    文永十二年    五十四歳御作   与三沢小次郎
01   佐渡の国の行者数多此の所まで下向ゆへに 今の法門説き聞かせ候えば未来までの仏種になる事是れ皆釈尊の法
02 恩ありがたし、越後にて此の歌詠じ候ゆへ書き送り候なり。
03   おのづから・よこしまに・降雨はあらじ・風こそ夜の・マドをうつらめ。
04       二十一日
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三沢抄    建治四年二月    五十七歳御作   与三沢小次郎
01   かへすがへす・するがの人人みな同じ御心と申させ給い候へ。
02   柑子一百・こぶ・のり・をご等の生の物はるばると・わざわざ山中へをくり給いて候、ならびに・うつぶさの尼
03   ごぜんの御こそで一給い候い了んぬ。
04   さては・かたがたのをほせくはしくみほどき候。
05   抑仏法をがくする者は大地微塵よりをほけれども・まことに仏になる人は爪の上の土よりも・すくなしと・大覚
06 世尊・涅槃経にたしかに.とかせ給いて候いしを、日蓮みまいらせ候て.いかなれば・かくわ・かたかるらむと・かん
07 がへ候いしほどに・ げにも・さならむとをもう事候、 仏法をばがくすれども或は我が心のをろかなるにより或は
08 たとひ智慧は・ かしこき・やうなれども師によりて我が心のまがるをしらず、 仏教をなをしくならひうる事かた
09 し、 たとひ明師並に実経に値い奉りて正法をへたる人なれども生死をいで仏にならむとする時には・ かならず影
10 の身にそうがごとく・雨に雲のあるがごとく・三障四魔と申して七の大事出現す、 設ひ・からくして六は・すぐれ
11 ども第七にやぶられぬれば仏になる事かたし、 其の六は且くをく第七の大難は天子魔と申す物なり、 設い末代の
12 凡夫・一代聖教の御心をさとり・ 摩訶止観と申す大事の御文の心を心えて仏になるべきになり候いぬれば・第六天
13 の魔王・此の事を見て驚きて云く、 あらあさましや此の者此の国に跡を止ならば・ かれが我が身の生死をいづる
14 かは・さてをきぬ・又人を導くべし、 又此の国土ををさへとりて我が土を浄土となす、いかんがせんとて欲・色・
15 無色の三界の 一切の眷属をもよをし仰せ下して云く、 各各ののうのうに随つて・かの行者をなやましてみよ・そ
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01 れに・かなわずば・かれが弟子だんな並に国土の人の心の内に入りかわりて・あるひはいさめ或はをどしてみよ・そ
02 れに叶はずば我みづから・うちくだりて国主の身心に入りかわりて・をどして見むに・いかでか・とどめざるべきと
03 せんぎし候なり。
04   日蓮さきより・かかるべしと・みほどき候いて末代の凡夫の今生に仏になる事は大事にて候いけり釈迦仏の仏に
05 ならせ給いし事を経経にあまたとかれて候に第六天の魔王の・ いたしける大難いかにも忍ぶべしとも・みへ候はず
06 候、提婆達多・阿闍世王の悪事は・ひとへに第六天の魔王のたばかりとこそみて候へ、まして如来現在・猶多怨嫉・
07 況滅度後と申して 大覚世尊の御時の御難だにも凡夫の身・ 日蓮にかやうなる者は片時一日も忍びがたかるべし、
08 まして五十余年が間の種種の大難をや、 まして末代には此等は百千万億倍すぐべく候なる大難をば・ いかでか忍
09 び候べきと心に存して候いしほどに・ 聖人は未萠を知ると申して三世の中に未来の事を知るを・まことの聖人とは
10 申すなり、 而るに日蓮は聖人にあらざれども日本国の今の代にあたりて・ 此の国亡亡たるべき事をかねて知りて
11 候いしに・此れこそ仏のとかせ給いて候・況滅度後の経文にあたりて候へ、 此れを申しいだすならば仏の指させ給
12 いて候未来の法華経の行者なり、 知りて而かも申さずば世世・生生の間・をうしことどもり生ん上教主釈尊の大怨
13 敵其の国の国主の大讎敵・他人にあらず、 後生は又無間大城の人・此れなりとかんがへみて・或は衣食にせめられ
14 或は父母・兄弟・師匠・同行にもいさめられ或は国主万民にも・をどされしに・すこしもひるむ心あるならば一度に
15 申し出ださじと・としごろひごろ心をいましめ候いしが・ 抑過去遠遠劫より定めて法華経にも値い奉り菩提心もを
16 こしけん、 なれども設い一難二難には忍びけれども 大難次第につづき来りければ退しけるにや、 今度いかなる
17 大難にも退せぬ心ならば 申し出すべしとて申し出して候いしかば・ 経文にたがわず此の度度の大難にはあいて候
18 いしぞかし。
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01   今は一こうなり・いかなる大難にも・こらへてんと我が身に当てて心みて候へば・不審なきゆへに此の山林には
02 栖み候なり、 各各は又たとい・すてさせ給うとも一日かたときも我が身命をたすけし人人なれば・ いかでか他人
03 にはにさせ給うべき、 本より我一人いかにもなるべし・ 我いかにしなるとも心に退転なくして仏になるならば・
04 とのばらをば導きたてまつらむとやくそく申して候いき、 各各は日蓮ほども仏法をば知らせ給わざる上 俗なり、
05 所領あり・妻子あり.所従あり・いかにも叶いがたかるべし、只いつわりをろかにて.をはせかしと申し候いき・こそ
06 候へけれ、なに事につけてか・すてまいらせ候べき・ゆめゆめをろかのぎ候べからず。
07   又法門の事はさどの国へながされ候いし已前の法門は・ただ仏の爾前の経とをぼしめせ、 此の国の国主我が代
08 をも・たもつべくば真言師等にも召し合せ給はんずらむ、 爾の時まことの大事をば申すべし、 弟子等にもなひな
09 ひ申すならばひろうしてかれらしりなんず、さらば・よもあわじと・をもひて各各にも申さざりしなり。
10   而るに去る文永八年九月十二日の夜たつの口にて頚をはねられんとせし時より・のちふびんなり、 我につきた
11 りし者どもにまことの事をいわざりけるとをもうて・ さどの国より弟子どもに内内申す法門あり、 此れは仏より
12 後迦葉.阿難・竜樹.天親・天台.妙楽・伝教.義真等の大論師・大人師は知りてしかも御心の中に秘せさせ給いし、口
13 より外には出し給はず、 其の故は仏制して云く「我が滅後・末法に入らずば此の大法いうべからず」と・ありしゆ
14 へなり、 日蓮は其の御使にはあらざれども其の時剋にあたる上・存外に此の法門をさとりぬれば・聖人の出でさせ
15 給うまでまづ序分にあらあら申すなり、 而るに此の法門出現せば正法・像法に論師・人師の申せし法門は皆日出で
16 て後の星の光・巧匠の後に拙を知るなるべし、 此の時には正像の寺堂の仏像・ 僧等の霊験は皆きへうせて但此の
17 大法のみ一閻浮提に流布すべしとみへて候、各各はかかる法門にちぎり有る人なれば・たのもしと・をぼすべし。
18   又うつぶさの御事は御としよらせ給いて御わたりありしいたわしくをもひまいらせ候いしかども・うぢがみへあ
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01 まいりてあるついでと候しかば・けさんに入るならば・定めてつみふかかるべし、 其の故は神は所従なり法華経は
02 主君なり・所従のついでに主君への・けさんは世間にも・をそれ候、其の上尼の御身になり給いては・まづ仏をさき
03 とすべし、 かたがたの御とがありしかばけさんせず候、 此の又尼ごぜん一人にはかぎらず、其の外の人人も・し
04 もべのゆのついでと申す者をあまた・をひかへして候、 尼ごぜんは・をやのごとくの御としなり、御なげきいたわ
05 しく候いしかども此の義をしらせまいらせんためなり。
06   又とのは・をととしかのけさんの後そらごとにてや候いけん御そらうと申せしかば・人をつかわして・きかんと
07 申せしに・此の御房たちの申せしはそれはさる事に候へども・ 人をつかわしたらば・いぶせくやをもはれ候はんず
08 らんと申せしかば・世間のならひは・さもやあるらむ、 げんに御心ざしまめなる上・御所労ならば御使も有りなん
09 と・をもひしかども・御使もなかりしかば・ いつわりをろかにて・をぼつかなく候いつる上無常は常のならひなれ
10 ども・こぞことしは世間はうにすぎて・みみへまいらすべしとも・をぼへず、 こひしくこそ候いつるに御をとづれ
11 あるうれしとも申す計りなし、 尼ごぜんにも・このよしをつぶつぶとかたり申させ給い候へ、 法門の事こまごま
12 と・かきつへ申すべく候へども事ひさしくなり候へばとどめ候。
13   ただし禅宗と念仏宗と律宗等の事は少少前にも申して候、 真言宗がことに此の国とたうどとをば・ほろぼして
14 候ぞ、善無畏三蔵.金剛智三蔵・不空三蔵・弘法大師.慈覚大師・智証大師・此の六人が大日の三部経と法華経との優
15 劣に迷惑せしのみならず、 三三蔵・事をば天竺によせて両界をつくりいだし狂惑しけるを・三大師うちぬかれて日
16 本へならひわたし国主並に万民につたへ、 漢土の玄宗皇帝も代をほろぼし・ 日本国もやうやくをとろへて八幡大
17 菩薩の百王のちかいもやぶれて・ 八十二代隠岐の法王・代を東にとられ給いしは・ひとへに三大師の大僧等がいの
18 りしゆへに還著於本人して候、 関東は此の悪法悪人を対治せしゆへに 十八代をつぎて 百王にて候べく候いつる
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01 を、 又かの悪法の者どもを御帰依有るゆへに一国には主なければ・梵釈・日月・四天の御計いとして他国にをほせ
02 つけて・をどして御らむあり、 又法華経の行者をつかわして御いさめあるを・あやめずして・彼の法師等に心をあ
03 わせて世間出世の政道をやぶり、 法にすぎて法華経の御かたきにならせ給う、 すでに時すぎぬれば此の国やぶれ
04 なんとす。
05   やくびやうはすでにいくさにせんふせわまたしるしなり、あさまし・あさまし。
06       二月二十三日                             日 蓮 花押
07     みさわどの
十字御書
01   十字一百まい・かしひとこ給い了んぬ、正月の一日は日のはじめ月の始めとしのはじめ春の始め・此れをもてな
02 す人は月の西より東をさしてみつがごとく・ 日の東より西へわたりてあきらかなるがごとく・とくもまさり人にも
03 あいせられ候なり。
04   抑地獄と仏とはいづれの所に候ぞとたづね候へば・ 或は地の下と申す経文もあり・或は西方等と申す経も候、
05 しかれども委細にたづね候へば 我等が五尺の身の内に候とみへて候、 さもやをぼへ候事は我等が心の内に父をあ
06 なづり母ををろかにする人は地獄其の人の心の内に候、 譬へば蓮のたねの中に花と菓とのみゆるがごとし、 仏と
07 申す事も我等の心の内にをはします・ 譬へば石の中に火あり珠の中に財のあるがごとし、 我等凡夫はまつげのち
08 かきと虚空のとをきとは見候事なし、 我等が心の内に仏はをはしましけるを知り候はざりけるぞ、 ただし疑ある
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01 事は我等は父母の精血 変じて人となりて候へば三毒の根本婬欲の源なり、 いかでか仏はわたらせ給うべきと疑い
02 候へども・又うちかへし・ うちかへし案じ候へば其のゆわれもやとをぼへ候、 蓮はきよきもの泥よりいでたり、
03 せんだんはかうばしき物大地よりをいたり、 さくらはをもしろき物・木の中よりさきいづ、 やうきひは見めよき
04 もの下女のはらよりむまれたり、 月は山よりいでて山をてらす、 わざわいは口より出でて身をやぶる・さいわい
05 は心よりいでて我をかざる。
06   今正月の始に法華経をくやうしまいらせんと.をぼしめす御心は・木より花のさき・池より蓮のつぼみ.雪山のせ
07 んだんのひらけ・ 月の始めて出るなるべし、 今日本国の法華経をかたきとしてわざわいを千里の外よりまねきよ
08 せぬ、 此れをもつてをもうに今又法華経を信ずる人は・ さいわいを万里の外よりあつむべし、影は体より生ずる
09 もの・法華経をかたきとする人の国は体に・かげのそうがごとく・わざわい来るべし、法華経を信ずる人は・せんだ
10 んに・かをばしさのそなえたるがごとし、又又申し候べし。
11       正 月 五 日                    日 蓮 在御 判
12     をもんすどのの女房御返事
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南条兵衛七郎殿御書    文永元年十二月    四十三歳御作   与南条兵衛七郎
01   御所労の由承り候はまことにてや候らん、 世間の定なき事は病なき人も留りがたき事に候へば・まして病あら
02 ん人は申すにおよばず・ 但心あらん人は 後世をこそ思いさだむべきにて候へ、 又後世を思い定めん事は私には
03 かなひがたく候、一切衆生の本師にてまします釈尊の教こそ本にはなり候べけれ。
04   しかるに仏の教へ又まちまちなり人の心の不定なる故か。
05   しかれども釈尊の説教.五十年にはすぎず、さき四十余年の間の法門に華厳経には心仏及衆生.是三無差別・阿含
06 経には苦.空・無常・無我・大集経には染浄融通.大品経には混同無二・雙観経・観経・阿弥陀経等には往生極楽、此
07 等の説教は皆正法・像法・末法の一切衆生をすくはんがためにこそとかれはべりけんめ、 しかれども仏いかんがお
08 ぼしけん・無量義経に「方便の力を以て四十余年には未だ真実を顕さず」と説かれて・先四十余年の往生極楽等の一
09 切経は親の先判のごとく・ くひかへされて 「無量無辺不可思議阿僧祇劫を過ぐるとも終に無上菩提を成ずること
10 を得ず」といゐきらせ給いて・ 法華経の方便品に重ねて「正直に方便を捨て但無上の道を説く」と説かせ給へり、
11 方便をすてよととかれてはべるは 四十余年の念仏等をすてよととかれて候、 かうたしかにくひかへして実義を定
12 むるには「世尊の法は久くして後要当に真実を説くべし」といひ 「久しく斯の要を黙して務いで速かに説かず」等
13 と定められしかば、 多宝仏は大地よりわきいでさせ給いて この事真実なりと証誠をくわへ、 十方の諸仏は八方
14 にあつまりて広長舌相を大梵天宮につけさせ給ふ、 二処・三会・二界・八番の衆生一人もなくこれをみ候いき、此
15 等の文をみ候に仏教を信ぜぬ悪人・ 外道はさておき候いぬ、仏教の中に入り候ても爾前・権教・念仏等を厚く信じ
16 て十遍・百遍.千遍・一万・乃至・六万等を一日にはげみて.十年・二十年のあひだにも南無妙法蓮華経と一遍だにも
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01 申さぬ人人は・ 先判に付いて後判をもちゐぬ者にては候まじきか、 此等は仏説を信じたりげには我身も人も思い
02 たりげに候へども仏説の如くならば不孝の者なり。
03   故に法華経の第二に云く 「今此の三界は皆是れ我が有なり其の中の衆生は悉く是れ吾が子なり而も今此の処は
04 諸の患難多し唯我一人のみ能く救護を為す 復教詔すと雖も而も信受せず」等云云 、此の文の心は釈迦如来は我等
05 衆生には親なり師なり主なり、 我等衆生のためには阿弥陀仏・薬師仏等は主にてはましませども親と師とには・ま
06 しまさず、ひとり三徳をかねて恩ふかき仏は釈迦一仏に・かぎりたてまつる、 親も親にこそよれ釈尊ほどの親・師
07 も師にこそよれ・主も主にこそよれ・釈尊ほどの師主はありがたくこそはべれ、 この親と師と主との仰せをそむか
08 んもの天神・地祇にすてられ・たてまつらざらんや、 不孝第一の者なり故に雖復教詔而不信受等と説かれたり、た
09 とひ爾前の経につかせ給いて百千万億劫・行ぜさせ給うとも ・法華経を一遍も南無妙法蓮華経と申させ給はずば・
10 不孝の人たる故に三世・十方の聖衆にもすてられ天神・地祇にもあだまれ給はんか是一。
11   たとひ五逆・十悪・無量の悪をつくれる人も根だにも利なれば得道なる事これあり、提婆達多・鴦崛摩羅等これ
12 なり、 たとひ根鈍なれども罪なければ得道なる事これあり・須利槃特等是なり、 我等衆生は根の鈍なる事すりは
13 んどくにもすぎ 物のいろかたちをわきまへざる事羊目のごとし、 貪瞋癡きわめてあつく十悪は日日にをかし五逆
14 をば・おかさざれども五逆に似たる罪・又日日におかす、 又十悪・五逆にすぎたる謗法は人毎にこれあり、させる
15 語を以て法華経を謗ずる人はすくなけれども・ 人ごとに法華経をばもちゐず、 又もちゐたるやうなれども念仏等
16 のやうには信心ふかからず、 信心ふかきものも法華経のかたきをばせめず、 いかなる大善をつくり 法華経を千
17 万部読み書写し一念三千の観道を得たる人なりとも 法華経の敵をだにも・ せめざれば得道ありがたし、たとへば
18 朝につかふる人の十年・ 二十年の奉公あれども・ 君の敵をしりながら奏もせず私にもあだまずば奉公皆うせて還
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01 つてとがに行はれんが如し、当世の人人は謗法の者としろしめすべし是二。
02   仏入滅の次の日より千年をば正法と申して持戒の人多く得道の人これあり。 正法千年の後は像法千年なり・破
03 戒の者は多く得道すくなし、 像法千年の後は末法万年なり 持戒もなし破戒もなし 無戒の者のみ国に充満せん、
04 而も濁世と申してみだれたる世なり、 清世と申してすめる世には 直繩のまがれる木をけづらするやうに非をすて
05 是を用うるなり、 正・像より五濁やうやういできたりて末法になり候へば五濁さかりにすぎて、 大風の大波を起
06 して岸を打つのみならず又波と波とをうつなり、 見濁と申すは正・像やうやうすぎぬれば、 わづかの邪法の一つ
07 をつたへて無量の正法をやぶり・ 世間の罪にて悪道におつるものよりも 仏法を以て悪道に堕つるもの多しとみへ
08 はんべり。
09   しかるに当世は正・像二千年すぎて末法に入つて二百余年、 見濁さかりにして悪よりも善根にて多く悪道に堕
10 つべき時刻なり 悪は愚癡の人も悪としればしたがはぬ辺もあり 火を水を以てけすが如し、 善は但善と思ふほど
11 に小善に付いて大悪の起る事をしらず、 所以に伝教・慈覚等の聖跡あり・ すたれあばるれども念仏堂にあらずと
12 いひて・すてをきて・ そのかたはらにあたらしく念仏堂をつくり彼の寄進の田畠をとりて念仏堂によす、 此等は
13 像法決疑経の文の如くならば 功徳すくなしとみへはべり、 これらをもつてしるべし善なれども 大善をやぶる小
14 善は悪道に堕つるなるべし、 今の世は末法のはじめなり、 小乗経の機・権大乗経の機皆うせはてて唯実大乗経の
15 機のみあり、 小船には大石をのせず悪人・愚者は大石のごとし、 小乗経並に権大乗経・念仏等は小船なり、 大
16 悪瘡の湯治等は病大なれば小治およばず、 末代濁世の我等には念仏等はたとへば冬・ 田を作るが如し時があはざ
17 るなり是三。
18   国をしるべし・国に随つて人の心不定なり、 たとへば江南の橘の淮北にうつされて・からたちとなる、心なき
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01 草木すらところによる、 まして心あらんもの何ぞ所によらざらん、 されば玄奘三蔵の西域と申す文に天竺の国国
02 を多く記したるに・国の習として不孝なる国もあり・孝の心ある国もあり・ 瞋恚のさかんなる国もあり・愚癡の多
03 き国もあり、 一向に小乗を用る国もあり・一向大乗を用る国もあり・大小兼学する国もありと見へ侍り、 又一向
04 に殺生の国・一向に偸盗の国・ 又穀の多き国・又粟等の多き国不定あり、 抑日本国はいかなる教を習つてか生死
05 を離るべき国ぞと勘えたるに・ 法華経に云く 「如来の滅後に於て閻浮提の内に広く流布せしめ断絶せざらしむ」
06 等云云、 此の文の心は法華経は南閻浮提の人のための有縁の経なり、 弥勒菩薩の云く「東方に小国有り唯だ大機
07 のみ有り」等云云、 此の論の文の如きは閻浮提の内にも東の小国に大乗経の機あるか、肇公の記に云く 「茲の典
08 は東北の小国に有縁なり」等云云、 法華経は東北の国に縁ありとかかれたり、 安然和尚の云く「我が日本国皆大
09 乗を信ず」等云云、慧心の一乗要決に云く「日本一州円機純一」等云云、釈迦如来・弥勒菩薩・須梨耶蘇摩三蔵・羅
10 什三蔵・僧肇法師・安然和尚・慧心の先徳等の心ならば日本国は純に法華経の機なり、一句・一偈なりとも行ぜば必
11 ず得道なるべし有縁の法なるが故なり、 たとへばくろかねを磁石のすうが如し・方諸の水をまねくににたり、 念
12 仏等の余善は無縁の国なり・ 磁石のかねをすわず方諸の水をまねかざるが如し、 故に安然の釈に云く「如実乗に
13 非ずんば恐らくは自他を欺かん」等云云、 此の釈の心は日本国の人に法華経にてなき法をさずくるもの 我が身を
14 もあざむき人をもあざむく者と見えたり、 されば法は必ず国をかんがみて弘むべし、 彼の国によかりし法なれば
15 必ず此の国にもよかるべしとは思うべからず是四。
16   又仏法流布の国においても前後を勘うべし、 仏法を弘むる習い必ずさきに弘めける法の様を知るべきなり、例
17 せば病人に薬をあたふるには さきに服したる薬の様を知るべし、 薬と薬とがゆき合いてあらそひをなし人をそん
18 ずる事あり、  仏法と仏法とがゆき合いてあらそひをなして 人を損ずる事のあるなり、さきに外道の法弘まれる
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01 国ならば仏法を・もつて・これをやぶるべし、仏の印度にいでて外道をやぶり・まとうか・ぢくほうらんの震旦に来
02 つて道士をせめ・ 上宮太子・和国に生れて守屋をきりしが如し、 仏教においても小乗の弘まれる国をば大乗経を
03 もつてやぶるべし、 無著菩薩の世親の小乗をやぶりしが如し、 権大乗の弘まれる国をば実大乗をもつて・これを
04 やぶるべし、天台智者大師の南三・北七をやぶりしが如し、 而るに日本国は天台・真言の二宗のひろまりて今に四
05 百余歳、比丘.比丘尼・うばそく.うばひの四衆・皆法華経の機と定りぬ、善人.悪人・有智・無智.皆五十展転の功徳
06 をそなふ、 たとへば崑崙山に石なく蓬莱山に毒なきが如し、 而るを此の五十余年に法然といふ大謗法の者いでき
07 たりて、 一切衆生をすかして珠に似たる石をもつて珠を投させ石をとらせたるなり、 止観の五に云く「瓦礫を貴
08 んで明珠なりと申す」は是なり、 一切衆生石をにぎりて珠とおもふ、 念仏を申して法華経をすてたる是なり、此
09 の事をば申せば還つてはらをたち法華経の行者をのりて・ことに無間の業をますなり是五。
10   但とのはこのぎをきこしめして念仏をすて法華経にならせ給いてはべりしが、 定めてかへりて念仏者にぞなら
11 せ給いてはべるらん、 法華経をすてて念仏者とならせ給はんは峯の石の谷へころび・空の雨の地におつると・おぼ
12 せ大阿鼻地獄疑なし、 大通結縁の者の三千塵点劫を・ 久遠下種の者の五百塵点を経し事、大悪知識にあいて法華
13 経をすてて念仏等の権教にうつりし故なり、 一家の人人・ 念仏者にてましましげに候いしかばさだめて念仏をぞ
14 すすめまいらせ給い候らん、 我が信じたる事なればそれも道理にては候へども・ 悪魔の法然が一類にたぼらかさ
15 れたる人人なりと・おぼして・大信心を起し御用いあるべからず、 大悪魔は貴き僧となり父母・兄弟等につきて人
16 の後世をば障るなり、 いかに申すとも法華経をすてよとたばかりげに候はんをば御用いあるべからず、 まづ御き
17 やうさくあるべし。
18   念仏実に往生すべき証文つよくば此の十二年が間・念仏者・無間地獄と申すをばいかなるところへ申しいだして
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01 もつめずして候べきか、よくよくゆはき事なり、 法然・善導等が・かきをきて候ほどの法門は日蓮らは十七八の時
02 よりしりて候いき、 このごろの人の申すもこれにすぎず、 結句は法門はかなわずして よせてたたかひにし候な
03 り、念仏者は数千万かたうど多く候なり、 日蓮は唯一人かたうどは一人もこれなし、 今までもいきて候はふかし
04 ぎなり、 今年も十一月十一日安房の国・東条の松原と申す大路にして、申酉の時・数百人の念仏等にまちかけられ
05 て候いて、日蓮は唯一人・十人ばかり・ものの要にあふものは・わづかに三四人なり、いるやはふるあめのごとし・
06 うつたちはいなづまのごとし、 弟子一人は当座にうちとられ・二人は大事のてにて候、 自身もきられ打たれ結句
07 にて候いし程に、 いかが候いけん・うちもらされて・いままでいきてはべり、 いよいよ法華経こそ信心まさり候
08 へ、第四の巻に云く 「而も此の経は如来の現在すら猶怨嫉多し況や滅度の後をや」第五の巻に云く「一切世間怨多
09 くして信じ難し」等云云、 日本国に法華経よみ学する人これ多し、人の妻をねらひ・ぬすみ等にて打はらるる人は
10 多けれども・ 法華経の故にあやまたるる人は一人もなし、 されば日本国の持経者は・いまだ此の経文にはあわせ
11 給はず唯日蓮一人こそよみはべれ・我不愛身命但惜無上道是なりされば日蓮は日本第一の法華経の行者なり。
12   もし.さきにたたせ給はば梵天・帝釈.四大天王・閻魔大王等にも申させ給うべし、日本第一の法華経の行者・日
13 蓮房の弟子なりとなのらせ給へ、 よもはうしんなき事は候はじ、但一度は念仏・一度は法華経となへつ・二心まし
14 まし人の聞にはばかりなんど・だにも候はば・ よも日蓮が弟子と申すとも御用ゐ候はじ・後にうらみさせ給うな、
15 但し又法華経は今生のいのりともなり候なれば、 もしやとしていきさせ給い候はば・あはれ・とくとく見参してみ
16 づから申しひらかばや、語はふみにつくさず・ふみは心をつくしがたく候へばとどめ候いぬ、恐恐謹言。
17       文永元年十二月十三日 日蓮花押
18     なんでうの七郎殿
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薬王品得意抄    文永二年    四十四歳御作   与上野時光妻
01   此の薬王品の大意とは此の薬王品は第七の巻二十八品の中には第二十三の品なり、 此の第一巻に序品方便品の
02 二品有り序品は二十八品の序なり、 方便品より人記品に至るまで八品は正には二乗作仏を明し 傍には菩薩凡夫の
03 作仏を明かす、法師・宝塔・提婆・勧持・安楽の五品は上の八品を末代の凡夫の修行す可き様を説くなり、又涌出品
04 は寿量品の序なり、 分別功徳品より十二品は正には寿量品を末代の凡夫の行ず可き様を・ 傍には方便品等の八品
05 を修行す可き様を説くなり、然れば此の薬王品は方便品等の八品並びに寿量品を修行す可き様を説きし品なり。
06   此の品に十の譬有り、第一大海の譬、先ず第一の譬を粗申す可し、此の南閻浮提に二千五百の河あり、 西倶耶
07 尼に五千の河あり総じて此の四天下に二万五千九百の河あり、 或は四十里乃至百里・一里・一町・一尋等の河之有
08 り、然りと雖も此の諸河は総じて深浅の事大海に及ばず、法華已前の華厳経・阿含経・方等経・般若経・深密経・阿
09 弥陀経.涅槃経・大日経・金剛頂経・蘇悉地経・密厳経等の釈迦如来の所説の一切経.大日如来の所説の一切経・阿弥
10 陀如来の所説の一切経・ 薬師如来の所説の一切経・過去・現在・未来三世の諸仏所説の一切経の中に法華経第一な
11 り、譬えば諸経は大河・中河・小河等の如し法華経は大海の如し等と説くなり、 河に勝れたる大海に十の徳有り、
12 一に大海は漸次に深し河は爾からず、 二に大海は死屍を留めず河は爾らず、 三に大海は本の名字を失う河は爾ら
13 ず、四に大海は一味なり河は爾らず、 五に大海は宝等有り河は爾らず、六に大海は極めて深し河は爾らず、 七に
14 大海は広大無量なり河は爾らず、 八に大海は大身の衆生等有り河は爾らず、 九に大海は潮の増減有り 河は爾ら
15 ず、十に大海は大雨・大河を受けて盈溢無し河は爾らず。
16   此の法華経には十の徳有り諸経には十の失有り、 此の経は漸次深多にして五十展転なり諸経には猶一も無し況
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01 や二三四乃至五十展転をや河は深けれども大海の浅きに及ばず諸経は一字・一句・ 十念等を以て十悪・五逆等の悪
02 機を摂すと雖も 未だ一字一句の随喜五十展転には及ばざるなり、 此の経の大海に死屍を留めずとは法華経に背く
03 謗法の者は極善の人為りと雖も猶之を捨つ何に況や悪人なる上・ 謗法を為さん者をや、 設い諸経を謗ずと雖も法
04 華経に背かざれば必ず仏道を成ず、 設い一切経を信ずと雖も法華経に背かば必ず阿鼻大城に堕つ、 乃至第八には
05 大海は大身の衆生あり等と云うは 大海には摩竭大魚等大身の衆生之有り、 無間地獄と申すは縦広八万由旬なり五
06 逆の者無間地獄に堕ちては一人にて必ず充満す、 此の地獄の衆生は五逆の者大身の衆生なり、 諸経の小河大河の
07 中には摩竭大魚之無し法華経の大海には之有り、 五逆の者仏道を成す 是れ実には諸経に之無し諸経に之有りと云
08 うと雖も実には未顕真実なり、 故に一代聖教を諳し天台智者大師の釈に云く 他経は 但菩薩に記して二乗に記せ
09 ず乃至但善に記して悪に記せず、今経は皆記す等云云、余は且く之を略す。
10   第二には山に譬う、十宝山等とは、山の中には須弥山第一なり、十宝山とは一には雪山・二には香山・三には軻
11 梨羅山・四には仙聖山.五には由乾陀山・六には馬耳山・七には尼民陀羅山.八には斫伽羅山・九には宿慧山・十には
12 須弥山なり、先の九山とは諸経諸山の如し、 但し一一に財あり須弥山は衆財を具して其の財に勝れたり、 例せば
13 世間の金の閻浮檀金に及ばざるが如し、 華厳経の法界唯心・般若の十八空・大日経の五相成身・観経の往生より法
14 華経の即身成仏勝れたるなり、 須弥山は金色なり、一切の牛馬・人天・衆鳥等此の山に依れば必ず本色を失つて金
15 色なり余山は爾らず 一切の諸経は法華経に依れば本の色を失う 例せば黒色の物の日月の光に値えば色を失うが如
16 し諸経の往生成仏等の色は法華経に値えば必ず其の義を失う。
17   第三には月に譬う衆星は或は半里或は一里或は八里或は十六里には過ぎず、 月は八百余里なり衆星は光有りと
18 雖も月に及ばず、 設い百千万億乃至一四天下・三千大千・十方世界の衆星之を集むとも一の月の光に及ばず、何に

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