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日蓮大聖人御書全集
1501~1600
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1561 1562 1563 1564 1565 1566 1567 1568 1569 1570
1571 1572 1573 1574 1575 1576 1577 1578 1579 1580
1581 1582 1583 1584 1585 1586 1587 1588 1589 1590
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01 況や一の星月の光に及ぶ可きや、華厳経・阿含経・方等・般若・涅槃経・大日経・観経等の一切の経之を集むとも法
02 華経の一字に及ばじ、 一切衆生の心中の見思塵沙無明の三惑並に十悪五逆等の業は暗夜のごとし 華厳経等の一切
03 経は闇夜の星のごとし 法華経は闇夜の月のごとし法華経を信ずれども 深く信ぜざる者は半月の闇夜を照すが如し
04 深く信ずる者は満月の闇夜を照すが如し 月無くして但星のみ有る夜には 強力の者かたましき者なんどは行歩すと
05 いへども老骨の者女人なむどは行歩に叶わず、 満月の時は女人老骨なむども、 或は遊宴のため或は人に値わんが
06 如き行歩自在なり、諸経には菩薩・大根性の凡夫は設い得道なるとも二乗・凡夫・悪人・女人乃至・末代の老骨の懈
07 怠・無戒の人人は往生成仏不定なり、法華経は爾らず、二乗・悪人・女人等・猶仏に成る何に況や菩薩・大根性の凡
08 夫をや、又月はよいよりも暁は光まさり・ 春夏よりも秋冬は光あり、 法華経は正像二千年よりも末法には殊に利
09 生有る可きなり、 問うて云く証文如何答えて云く道理顕然なり、 其の上次ぎ下の文に云く「我が滅度の後・後の
10 五百歳の中に広宣流布して 閻浮提に於て断絶せしむること無し」等云云、 此の経文に二千年の後南閻浮提に広宣
11 流布すべしと・とかれて候は・第三の月の譬の意なり、 此の意を根本伝教大師釈して云く「正像稍過ぎ已て末法太
12 だ近きに有り 法華一乗の機今正しく是れ其の時なり」等云云、 正法千年も像法千年も法華経の利益諸経に之れ勝
13 る可し然りと雖も月の光の春夏の正像二千年末法の秋冬に至つて光の勝るが如し。
14   第四に日の譬は星の中に月の出でたるは星の光には月の光は勝るとも未だ星の光を消さず、 日中には星の光消
15 ゆるのみに非ず又月の光も奪いて光を失う、 爾前は星の如く法華経の迹門は月の如し寿量品は日の如し、 寿量品
16 の時は迹門の月未だ及ばず何に況や爾前の星をや、 夜は星の時月の時も衆務を作さず、 夜暁て必ず衆務を作す、
17 爾前迹門にして猶生死を離れ難し本門寿量品に至つて必ず生死を離る可し、 余の六譬之を略す、 此の外に又多く
18 の譬此の品に有り、 其の中に渡りに船を得たるが如しと此の譬の意は 生死の大海には爾前の経は或は筏或は小船
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01 なり、 生死の此岸より生死の彼岸には付くと雖も生死の大海を渡り極楽の彼岸にはとつきがたし、 例せば世間の
02 小船等が筑紫より坂東に至り 鎌倉よりいの嶋なんどへとつけども唐土へ至らず 唐船は必ず日本国より震旦国に至
03 るに障り無きなり又云く 「貧きに宝を得たるが如し」等云云、 爾前の国は貧国なり爾前の人は餓鬼なり法華経は
04 宝の山なり人は富人なり。
05   問うて云く爾前は貧国といふ経文如何答えて云く授記品に云く 「飢えたる国より来つて忽ちに大王の膳に遇へ
06 るが如く」等云云、 女人の往生成仏の段は経文に云く 「若し如来の滅後・後の五百歳の中に若し女人有つて是の
07 経典を聞いて説の如く修行せば 此に於て命終して即ち安楽世界・阿弥陀仏の菩薩・大衆に囲遶せられて住する処に
08 往いて蓮華の中宝座の上に生じ」等云云。
09   問うて曰く此の経・此の品に殊に女人の往生を説く何の故か有るや、 答えて曰く仏意測り難し此の義決し難き
10 か但し一の料簡を加えば 女人は衆罪の根本破国の源なり、 故に内典・外典に多く之を禁しむ其の中に外典を以て
11 之を論ずれば三従あり 三従と申すは三したがうと云ふなり、 一には幼にしては父母に従う嫁して夫に従う老いて
12 子に従う此の三障有りて世間自在ならず、 内典を以て之を論ずれば五障有り五障とは 一には六道輪回の間男子の
13 如く大梵天王と作らず二には帝釈と作らず三には魔王と作らず四には転輪聖王と作らず 五には常に六道に留まりて
14 三界を出でて仏に成らず超日月三昧経の文なり銀色女経に云く「三世の諸仏の眼は大地に堕落すとも法界の諸の女人
15 は永く成仏の期無し」等云云、但し凡夫すら賢王・聖人は妄語せずはんよきといゐし者はけいかに頚をあたいきさつ
16 と申せし人は徐君が塚に剣をかけたりきこれ約束を違えず妄語無き故なり何に況や声聞・菩薩・仏をや、 仏は昔凡
17 夫にてましましし時 小乗経を習い給いし時 五戒を受け始め給いき五戒の中の第四の不妄語の戒を固く持ち給いき
18 財を奪われ命をほろぼされし時も此の戒をやぶらず 大乗経を習い給いし時又十重禁戒を持ち 其の十重禁戒の中の
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01 第四の不妄語戒を持ち給いき、 此の戒を堅く持ちて無量劫之を破りたまわず 終に此の戒力に依て仏身を成じ三十
02 二相の中に広長舌相を得たまえり、 此の舌うすくひろくながくして 或は面にををい或は髪際にいたり或は梵天に
03 いたる舌の上に五の画あり印文のごとし 其の舌の色は赤銅のごとし舌の下に二の珠あり 甘露を涌出す此れ不妄語
04 戒の徳の至す所なり、 仏此の舌を以て三世の諸仏の御眼は大地に落つとも 法界の女人は仏になるべからずと説か
05 れしかば一切の女人は何なる世にも 仏には成らせ給うまじきとこそ覚えて候へ、 さるにては女人の御身も受けさ
06 せ給いては設ひ后三公の位にそなはりても何かはすべき善根・ 仏事をなしてもよしなしとこそ覚え候へ、 而るを
07 此の法華経の薬王品に 女人の往生をゆるされ候ぬる事又不思議に候、 彼の経の妄語か此の経の妄語かいかにも一
08 方は妄語たるべきか、 若し又一方妄語ならば一仏に二言あり信じ難し 但し無量義経の四十余年には未だ真実を顕
09 さず涅槃経の如来には虚妄の言無しと雖も 若し衆生虚妄の説に因ると知しめすの文を以て之を思えば 仏は女人は
10 往生成仏すべからずと説かせ給いけるは 妄語と聞えたり、 妙法華経の文に世尊の法は久くして後に要ず当に真実
11 を説くべし 妙法華経乃至皆是真実と申す文を以て之を思うに 女人の往生成仏決定と説かるる法華経の文は 実語
12 不妄語戒と見えたり、 世間の賢人も但一人ある子が不思議なる時或は失ある時は永く子為るべからざるの理・ 起
13 請を書き或は誓言を立ると雖も 命終の時に臨めば之を許す、 然りと雖も賢人に非ずと云わず又妄語せる者とも云
14 わず仏も亦是くの如し、 爾前四十余年が間は菩薩の得道凡夫の得道・善人・男子等の得道をば許すやうなれども、
15 二乗・悪人・女人なんどの得道此れをば許さず或は又許すににたる事もあり、 いまだ定めがたかりしを仏の説教・
16 四十二年すでに過ぎて八年が間・摩謁提国王舎城・ 耆闍崛山と申す山にして法華経を説かせ給うとおぼせし時先づ
17 無量義経と申す経を説かせ給ふ無量義経の文に云く四十余年云云。
18        月 日                         日蓮花押
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上野殿後家尼御返事    文永十一年七月    五十三歳御作
01   御供養の物種種給畢んぬ、抑も上野殿死去の後は・をとづれ冥途より候やらん・きかまほしくをぼへ候、ただし
02 あるべしとも・をぼへず、 もし夢にあらずんば・すがたをみる事よもあらじ、まぼろしにあらずんば・みみえ給う
03 事いかが候はん、 さだめて霊山浄土にてさばの事をば・ちうやにきき御覧じ候らむ、妻子等は肉眼なればみさせ・
04 きかせ給う事なし・ついには一所とをぼしめせ、 生生世世の間ちぎりし夫は大海のいさごのかずよりも・ををくこ
05 そをはしまし候いけん、今度のちぎりこそ・まことのちぎりのをとこよ、 そのゆへは・をとこのすすめによりて法
06 華経の行者とならせ給へば仏とをがませ給うべし、 いきてをはしき時は生の仏・今は死の仏・生死ともに仏なり、
07 即身成仏と申す大事の法門これなり、 法華経の第四に云く、 「若し能く持つこと有れば 即ち仏身を持つなり」
08 云云。
09   夫れ浄土と云うも地獄と云うも外には候はず・ただ我等がむねの間にあり、 これをさとるを仏といふ・これに
10 まよふを凡夫と云う、 これをさとるは法華経なり、 もししからば法華経をたもちたてまつるものは地獄即寂光と
11 さとり候ぞ、 たとひ無量億歳のあひだ権教を修行すとも、 法華経をはなるるならば・ただいつも地獄なるべし、
12 此の事日蓮が申すにはあらず・釈迦仏・多宝仏・ 十方分身の諸仏の定めをき給いしなり、されば権教を修行する人
13 は火にやくるもの又火の中へいり、 水にしづむものなをふちのそこへ入るがごとし、 法華経をたもたざる人は火
14 と水との中にいたるがごとし、法華経誹謗の悪知識たる法然・弘法等をたのみ・阿弥陀経・大日経等を信じ給うは・
15 なを火より火の中・水より水のそこへ入るがごとし、 いかでか苦患をまぬかるべきや、等活・黒繩・無間地獄の火
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01 坑・紅蓮・大紅蓮の冰の底に入りしづみ給はん事疑なかるべし、 法華経の第二に云く「其の人命終して阿鼻獄に入
02 り是くの如く展転して無数劫に至らん」云云。
03   故聖霊は此の苦をまぬかれ給い・ すでに法華経の行者たる日蓮が檀那なり、経に云く「設い大火に入るも火も
04 焼くこと能わず、 若し大水に漂わされ為も其の名号を称れば即ち浅き処を得ん」又云く「火も焼くこと能わず水も
05 漂すこと能わず」云云、あらたのもしや・たのもしや、 詮するところ地獄を外にもとめ獄卒の鉄杖阿防羅刹のかし
06 やくのこゑ別にこれなし、此の法門ゆゆしき大事なれども、 尼にたいしまいらせて・おしへまいらせん、例せば竜
07 女にたいして文殊菩薩は即身成仏の秘法をとき給いしがごとし、 これをきかせ給いて後は・ いよいよ信心をいた
08 させ給へ、 法華経の法門をきくにつけて・なをなを信心をはげむを・まことの道心者とは申すなり、天台云く「従
09 藍而青」云云、 此の釈の心はあいは葉のときよりも・なをそむれば・いよいよあをし、法華経はあいのごとし修行
10 のふかきは・いよいよあをきがごとし。
11   地獄と云う二字をばつちをほるとよめり、人の死する時つちをほらぬもの候べきか、これを地獄と云う、 死人
12 をやく火は無間の火炎なり、 妻子・眷属の死人の前後にあらそひゆくは獄卒・阿防羅刹なり、妻子等のかなしみな
13 くは獄卒のこゑなり、二尺五寸の杖は鉄杖なり・馬は馬頭・牛は牛頭なり、 穴は無間大城・八万四千のかまは八万
14 四千の塵労門・家をきりいづるは死出の山・ 孝子の河のほとりにたたずむは三途の愛河なり、 別に求むる事はか
15 なしはかなし、 此の法華経をたもちたてまつる人は此れをうちかへし・地獄は寂光土・火焔は報身如来の智火・死
16 人は法身如来・火坑は大慈悲為室の応身如来、 又つえは妙法実相のつえ、三途の愛河は生死即涅槃の大海・死出の
17 山は煩悩即菩提の重山なり、 かく御心得させ給へ・即身成仏とも開仏知見ともこれをさとり・これをひらくを申す
18 なり、 提婆達多は阿鼻獄を寂光極楽とひらき、 竜女が即身成仏もこれより外は候はず、逆即是順の法華経なれば
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01 なり・これ妙の一字の功徳なり。
02   竜樹菩薩の云く「譬えば大薬師の能く毒を変じて薬と為すが如し」云云、 妙楽大師云く「豈伽耶を離れて別に
03 常寂を求めん寂光の外・別に娑婆有るに非ず」云云、又云く「実相は必ず諸法・諸法は必ず十如・十如は必ず十界・
04 十界は必ず身土なり」云云、 法華経に云く「諸法実相乃至・本末究竟等」云云、寿量品に云く「我実に成仏してよ
05 り已来無量無辺なり」等云云、 此の経文に我と申すは十界なり・十界本有の仏なれば浄土に住するなり、方便品に
06 云く「是の法は法位に住して世間の相常住なり」云云、 世間のならひとして三世常恒の相なれば・なげくべきにあ
07 らず・をどろくべきにあらず、 相の一字は八相なり・八相も生死の二字をいでず、かくさとるを法華経の行者の即
08 身成仏と申すなり、 故聖霊は此の経の行者なれば即身成仏疑いなし、 さのみなげき給うべからず、又なげき給う
09 べきが凡夫のことわりなり、 ただし聖人の上にも・これあるなり、釈迦仏・御入滅のとき諸大弟子等のさとりのな
10 げき・凡夫のふるまひを示し給うか。
11   いかにも・いかにも追善供養を心のをよぶほどはげみ給うべし、 古徳のことばにも心地を九識にもち修行をば
12 六識にせよと・をしへ給う・ことわりにもや候らん、 此の文には日蓮が秘蔵の法門かきて候ぞ、秘しさせ給へ・秘
13 しさせ給へ、あなかしこ・あなかしこ。
14       七月十一日                       日蓮花押
15     上野殿後家尼御前御返事
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上野殿御返事    文永十一年七月    五十三歳御作
01   鵞目十連・かわのり二帖.しやうかう二十束・給候い畢んぬかまくらにてかりそめの御事とこそ.をもひまいらせ
02 候いしに、をもひわすれさせ給わざりける事申すばかりなし、 こうへのどのだにも・をはせしかば・つねに申しう
03 け給わりなんとなげき・をもひ候いつるに、 をんかたみに御みをわかくして・とどめをかれけるか・すがたのたが
04 わせ給わぬに、 御心さひにられける事いうばかりなし、 法華経にて仏にならせ給いて候とうけ給わりて、御はか
05 にまいりて候いしなり、 又この御心ざし申すばかりなし、 今年のけかちにはじめたる山中に木のもとに・このは
06 うちしきたるやうなる・すみか・をもひやらせ給え、 このほどよみ候御経の一分をことのへ廻向しまいらし候、あ
07 われ人は よき子はもつべかりけるものかなと、 なみだかきあえずこそ候いし、 妙荘厳王は二子にみちびかる、
08 かの王は悪人なり、こうへのどのは善人なり、かれにはにるべくもなし、南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経。
09       七月二十六日                              日蓮花押
10     御返事
11   人にあながちにかたらせ給うべからず、若き殿が候へば申すべし。
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上野殿御返事   文永十一年十一月    五十三歳御作   与南条七郎次郎
01   聖人二管・柑子一篭・コンニャク十枚・薯蕷一篭・牛房一束・種種の物送り給び候。
02   得勝・無勝の二童子は仏に沙の餅を供養したてまつりて・閻浮提三分が一の主となる所謂阿育大王これなり、儒
03 童菩薩は錠光仏に五茎の蓮華を供養したてまつりて仏となる・ 今の教主釈尊これなり、 法華経の第四に云く「人
04 有つて仏道を求めて一劫の中に於て合掌して我が前に在つて 無数の偈を以て讃めん、 是の讃仏に由るが故に無量
05 の功徳を得ん、 持経者を歎美せんは其の福復彼れに過ぎん」等云云、 文の心は仏を一中劫が間供養したてまつる
06 より、 末代悪世の中に人のあながちににくむ法華経の行者を供養する功徳はすぐれたりととかせ給う、 たれの人
07 のかかるひが事をばおほせらるるぞと疑いおもひ候へば・ 教主釈尊の我とおほせられて候なり、 疑はんとも信ぜ
08 んとも御心にまかせまいらする、 仏の御舌は或は面に覆ひ・ 或は三千大千世界に覆ひ或は色究竟天までに付け給
09 う、過去遠遠劫よりこのかた 一言も妄語のましまさざるゆへなり、 されば或経に云く「須弥山はくづるるとも・
10 大地をばうちかへすとも仏には妄語なし」ととかれたり、 日は西よりいづとも・大海の潮はみちひずとも・仏の御
11 言はあやまりなしとかや、 其の上此の法華経は他経にもすぐれさせ給へば・ 多宝仏も証明し諸仏も舌を梵天につ
12 け給う、一字一点も妄語は候まじきにや。
13   其の上殿はをさなくをはしき、故親父は武士なりしかども・あなかちに法華経を尊み給いしかば・臨終正念なり
14 けるよしうけ給わりき、 其の親の跡をつがせ給いて又此の経を御信用あれば・ 故聖霊いかに草のかげにても喜び
15 おぼすらん、あわれいきてをはせば・いかにうれしかるべき、 此の経を持つ人人は他人なれども同じ霊山へまいり
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01 あわせ給うなり、 いかにいはんや故聖霊も殿も同じく法華経を信じさせ給へば・同じところに生れさせ給うべし、
02 いかなれば他人は五六十までも親と同じしらがなる人もあり、 我がわかき身に親にはやくをくれて 教訓をもうけ
03 給はらざるらんと・御心のうちをしはかるこそなみだもとまり候はね。
04   抑日蓮は日本国をたすけんとふかくおもへども・日本国の上下万人・一同に国のほろぶべきゆへにや用いられざ
05 る上・度度あだをなさるれば力をよばず山林にまじはり候いぬ、 大蒙古国よりよせて候と申せば、申せし事を御用
06 いあらば・いかになんど・あはれなり、皆人の当時のいきつしまのやうにならせ給はん事・おもひやり候へば・なみ
07 だもとまらず。
08   念仏宗と申すは亡国の悪法なり、 このいくさには大体・人人の自害をし候はんずるなり、善導と申す愚癡の法
09 師がひろめはじめて自害をして候ゆへに・念仏をよくよく申せば自害の心出来し候ぞ。
10   禅宗と申し当時の持斎法師等は天魔の所為なり、 教外別伝と申して神も仏もなしなんど申すものくるはしき悪
11 法なり。
12   真言宗と申す宗は本は下劣の経にて候いしを・誑惑して法華経にも勝るなんど申して多くの人人・大師僧正なん
13 どになりて日本国に大体充満して 上一人より頭をかたぶけたり、 これが第一の邪事に候を昔より今にいたるまで
14 知る人なし、 但伝教大師と申せし人こそしりて候いしかども・ くはしくもおほせられず、さては日蓮ほぼこの事
15 をしれり、 後白河の法皇の太政の入道にせめられ給いし、 隠岐の法王のかまくらにまけさせ給いし事みな真言悪
16 法のゆへなり、 漢土にこの法わたりて玄宗皇帝ほろびさせ給う、 この悪法かまくらに下つて当時かまくらにはや
17 る僧正法印等は是なり、 これらの人人このいくさを調伏せば百日たたかふべきは十日につづまり・ 十日のいくさ
18 は一日にせめらるべし。
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01   今始めて申すにあらず二十余年が間・音もをしまずよばはり候いぬるなり、あなかしこ・あなかしこ、この御文
02 は大事の事どもかきて候、 よくよく人によませて・きこしめせ、人もそしり候へ・ものともおもはぬ法師等なり、
03 恐恐謹言。
04       文永十一年太歳甲戌十一月十一日            日 蓮 花 押
05     南条七郎次郎殿御返事
春の祝御書
01   春のいわいわ・すでに事ふり候いぬ、さては故なんでうどのはひさしき事には候はざりしかども・よろず事にふ
02 れて・なつかしき心ありしかば・をろかならずをもひしに・よわひ盛んなりしに・はかなかりし事わかれかなしかり
03 しかば・わざとかまくらより・うちくだかり御はかをば見候いぬ、 それよりのちはするがのびんにはと・をもひし
04 に・このたびくだしには人にしのびて・これへきたりしかば・にしやまの入道殿にも・しられ候はざりし上は力をよ
05 ばず・とをりて候いしが心にかかりて候その心をとげんがために・ 此の御房は正月の内につかわして御はかにて自
06 我偈一巻よませんとをもひてまいらせ候、 御とのの御かたみもなしなんとなげきて候へば・ とのをとどめをかれ
07 ける事よろこび入つて候、故殿は木のもと・くさむらのかげ・かよう人もなし、 仏法をも聴聞せんず・いかにつれ
08 づれなるらん、 をもひやり候へばなんだもとどまらず、 とのの法華経の行者うちぐして御はかにむかわせ給うに
09 は・いかにうれしかるらん・いかにうれしかるらん。
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上野殿御返事    建治元年五月    五十四歳御作   与上野次郎時光

01   さつきの二日にいものかしら・いしのやうにほされて候を一駄、ふじのうへのより・みのぶの山へをくり給いて
02 候。
03   仏の御弟子にあなりちと申せし人は天眼第一のあなりちとて十人の御弟子のその一.迦葉・舎利弗・目連.阿難に
04 かたをならべし人なり、 この人のゆらひをたづねみれば・師子頬王と申せし国王の第二の王子に・こくぼん王と申
05 せし人の御子・釈迦如来のいとこにておはしましき、 この人の御名三つ候、一には無貧・二には如意・三にはむれ
06 うと申す・一一にふしぎの事候、 昔うえたるよにりだそんじやと申せしたうとき辟支仏ありき、 うえたるよに七
07 日ときもならざりけるが・山里にれうしの御器に入れて候いける・ひえのはんをこひてならせ給う、 このゆへにこ
08 のれうし現在には長者となり・のち九十一劫が間・人中・天上にたのしみをうけて・今最後にこくぼん王の太子とむ
09 まれさせ給う、 金のごきに・はんとこしなへにたえせず・あらかんとならせ給う、御眼に三千大千世界を一時に御
10 らんありていみじくをはせしが・ 法華経第四の巻にして普明如来と成るべきよし仏に仰せをかほらせ給いき、 妙
11 楽大師此の事を釈して云く 「稗飯軽しと雖も所有を尽し、 及び田勝るるを以ての故に故に勝報を得る」と云云、
12 釈の心かろきひえのはんなれども・ 此れよりほかには・もたざりしを・たうとき人のうえておはせしにまいらせて
13 ありしゆへに・かかるめでたき人となれりと云云。
14   此の身のぶのさわは石なんどはおほく候・されども・かかるものなし、その上夏のころなれば民のいとまも候は
15 じ、又御造営と申しさこそ候らんに・山里の事を・をもひやらせ給いて・をくりたびて候、 所詮はわがをやのわか
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01 れをしさに父の御ために釈迦仏・法華経へまいらせ給うにや孝養の御心か、さる事なくば梵王・帝釈・日月・四天そ
02 の人の家をすみかとせんとちかはせ給いて候は・ いふにかひなきものなれども 約束と申す事はたがへぬ事にて候
03 に、さりとも・ この人人はいかでか仏前の御約束をば・たがへさせ給い候べき、もし此の事まことになり候はば・
04 わが大事とおもはん人人のせいし候、 又おほきなる難来るべし、 その時すでに此の事かなうべきにやとおぼしめ
05 して・いよいよ強盛なるべし、 さるほどならば聖霊・仏になり給うべし、成り給うならば来りてまほり給うべし、
06 其の時一切は心にまかせんずるなり、かへす・がへす人のせいしあらば心にうれしくおぼすべし、恐恐謹言。
07       五月三日                       日 蓮 花 押
08     上野殿御返事
上野殿御返事      建治元年七月      五十四歳御作
01   むぎひとひつ・かわのり五条・はじかみ六十給了んぬ、いつもの御事に候へばをどろかれず・めづらしからぬや
02 うにうちをぼへて候は・ぼむぶの心なり、 せけんそうそうなる上ををみやのつくられさせ給へば・百姓と申し我が
03 内の者と申し・けかちと申し・ものつくりと申し・いくそばくいとまなく御わたりにて候らむに・山のなかの・すま
04 ゐさこそと思ひやらせ給いて・鳥のかい子をやしなふが如く・ 灯に油をそふるがごとく・かれたる草に雨のふるが
05 如く・うへたる子に乳をあたふるが如く・法華経の御命をつがせ給う事・三世の諸仏を供養し給へるにてあるなり、
06 十方の衆生の眼を開く功徳にて候べし、尊しとも申す計りなし、あなかしこ・あなかしこ、恐恐謹言。
07       七月十二日                                日蓮花押
08     進上 上野殿御返事
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上野殿御書    建治元年八月    五十四歳御作   与南条時光
01   態と御使い有難く候、夫れについては屋形造の由目出度くこそ候へ、何か参り候いて移徙申し候はばや、 一つ
02 棟札の事承り候書き候いて此の伯耆公に進せ候。
03   此の経文は須達長者・祇園精舎を造りき、然るに何なる因縁にやよりけん須達長者七度まで火災にあひ候時・長
04 者此の由を仏に問い奉る、 仏答えて曰く汝が眷属・貪欲深き故に此の火災の難起るなり、長者申さく・さていかん
05 して此の火災の難をふせぎ申すべきや、 仏の給はく辰巳の方より瑞相あるべし・汝精進して彼の方に向へ、 彼方
06 より光ささば鬼神三人来りて云わん、 南海に鳥あり鳴忿と名く此の鳥の住処に火災なし、 又此の鳥一つの文を唱
07 うべし、 其の文に云く 「聖主天中天迦陵頻伽声哀愍衆生者我等今敬礼」云云、 此の文を唱へんには必ず三十万
08 里が内には火災をこらじと・此の三人の鬼神かくの如く告ぐべきなり云云、 須達・仏の仰せの如くせしかば少しも
09 ちがはず候いき、 其の後火災なきと見えて候、 これに依りて滅後・末代にいたるまで此の経文を書きて火災をや
10 め候、今以てかくの如くなるべく候、 返す返す信じ給うべき経文なり、 是は法華経の第三の巻化城喩品に説かれ
11 て候、委しくは此の御房に申し含めて候、恐恐謹言。
12       八月十八日                     日 蓮 花 押
13     上野殿御返事
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単衣抄    建治元年八月    五十四歳御作
01   単衣一領送り給い候い畢んぬ。
02   棄老国には老者をすて・日本国には今法華経の行者をすつ、抑此の国開闢より天神七代・地神五代・人王百代あ
03 り、 神武より已後九十代欽明より仏法始まりて六十代・七百余年に及べり、 其の中に父母を殺す者・朝敵となる
04 者・山賊・海賊・数を知らざれども・いまだきかず法華経の故に日蓮程・人に悪まれたる者はなし、或は王に悪まれ
05 たれども民には悪まれず、 或は僧は悪めば俗はもれ、男は悪めば女はもれ、 或は愚人は悪めば智人はもれたり、
06 此れは王よりは民・男女よりは僧尼・愚人よりは智人悪む・悪人よりは善人悪む、前代未聞の身なり後代にも有るべ
07 しともおぼえす、故に生年三十二より今年五十四に至るまで二十余年の間・或は寺を追い出され・或は処をおわれ・
08 或は親類を煩はされ・或は夜打ちにあひ・或は合戦にあひ・或は悪口数をしらず・或は打たれ或は手を負う・或は弟
09 子を殺され或は頚を切られんとし・或は流罪両度に及べり、 二十余年が間・一時片時も心安き事なし、頼朝の七年
10 の合戦もひまやありけん、頼義が十二年の闘諍も争か是にはすぐべき。
11   法華経の第四に云く「如来の現在にすら猶怨嫉多し」等云云、第五に云く「一切世間怨多くして信じ難し」等云
12 云、天台大師も恐らくは いまだ此の経文をばよみ給はず、 一切世間皆信受せし故なり、伝教大師も及び給うべか
13 らず況滅度後の経文に符合せざるが故に、 日蓮・日本国に出現せずば如来の金言も虚くなり・多宝の証明も・なに
14 かせん・十方の諸仏の御語も妄語となりなん、仏滅後二千二百二十余年・月氏・漢土・日本に一切世間多怨難信の人
15 なし、 日蓮なくば仏語既に絶えなん、 かかる身なれば蘇武が如く雪を食として命を継ぎ・李陵が如く簑をきて世
16 をすごす、 山林に交つて果なき時は空くして両三日を過ぐ・鹿の皮破ぬれば裸にして三四月に及べり、 かかる者
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01 をば何としてか哀とおぼしけん、 未だ見参にも入らぬ人の膚を隠す衣を送り給候こそ何とも存じがたく候へ、 此
02 の帷をきて仏前に詣でて法華経を読み奉り候いなば・ 御経の文字は六万九千三百八十四字・一一の文字は皆金色の
03 仏なり、 衣は一つなれども六万九千三百八十四仏に一一にきせまいらせ給へるなり、 されば此の衣を給て候わば
04 夫妻二人ともに此の仏御尋ね坐して 我が檀那なりと守らせ給うらん、 今生には祈りとなり財となり・御臨終の時
05 は月となり.日となり・道となり.橋となり・父となり.母となり・牛馬となり.輿となり.車となり・蓮華となり.山と
06 なり・二人を霊山浄土へ迎え取りまいらせ給うべし、南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経。
07       建治元年乙亥八月 日                 日 蓮 花 押
08   此の文は藤四郎殿女房と常により合いて御覧あるべく候。
上野殿母尼御前御返事
01   母尼ごぜんには・ことに法華経の御信心のふかくましまし候なる事・悦び候と申させ給候へ。
02   止観第五の事.正月一日辰の時此れを.よみはじめ候、明年は世間怱怱なるべきよし・皆人申すあひだ・一向後生
03 のために十五日まで止観を談ぜんとし候が、 文あまた候はず候御計らい候べきか、 白米一斗御志申しつくしがた
04 う候、鎌倉は世間かつして候、僧はあまたをはします過去の餓鬼道の苦をばつくのわせ候ひぬるか。
05   法門の事、 日本国に人ごとに信ぜさせんと願して候いしが・願や成熟せんとし候らん、当時は蒙古の勘文によ
06 りて世間やわらぎて候なり子細ありぬと見へ候、本より信じたる人人はことに悦ぶげに候か、恐恐。
07       十二月二十二日                   日 蓮 花 押
08     上野殿母尼御前御返事
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神国王御書
01   夫れ以れば日本国を亦水穂の国と云い亦野馬台又秋津島又扶桑等云云、六十六ケ国.二つの島已上.六十八ケ国・
02 東西三千余里.南北は不定なり、此の国に五畿・七道あり.五畿と申すは山城・大和・河内・和泉・摂津等なり、七道
03 と申すは東海道十五箇国.東山道八箇国・北陸道七箇国・山陰道八ケ国.山陽道八ケ国・南海道六ケ国・西海道十一ケ
04 国・亦鎮西と云い又太宰府と云云、 已上此れは国なり、 国主をたづぬれば神世十二代は天神七代地神五代なり、
05 天神七代の第一は国常立尊乃至・第七は伊奘諾尊男なり、 伊奘册尊妻なり、 地神五代の第一は天照太神・伊勢太
06 神宮日の神是なりいざなぎいざなみの御女なり、 乃至第五は彦波瀲武ウガヤ草葺不合尊・此の神は第四のひこほの
07 御子なり・母は竜の女なり、 已上地神五代・已上十二代は神世なり、人王は大体百代なるべきか・其の第一の王は
08 神武天皇此れはひこなぎさの御子なり,乃至第十四は仲哀天皇八幡御父なり・第十五は神功皇后八幡御母なり.第十六
09 は応神天皇にして仲哀と神功の御子今の八幡大菩薩なり、乃至第二十九代は宣化天皇なり、此の時までは月支漢土に
10 は仏法ありしかども日本国にはいまだわたらず。
11   第三十代は欽明天皇.此の皇は第二十七代の継体の御敵子なり治三十二年,此の皇の治十三年壬申十月十三日辛酉
12 百済国の聖明皇・金銅の釈迦仏を渡し奉る、今日本国の上下万人・一同に阿弥陀仏と申す此れなり、 其の表の文に
13 云く臣聞く万法の中には仏法最善し世間の道にも仏法最上なり 天皇陛下亦修行あるべし、 故に敬つて仏像経教法
14 師を捧げて使に附して貢献す宜く信行あるべき者なり已上、然りといへども欽明・敏達・用明の三代・三十余年は崇
15 め給う事なし、 其の間の事さまざまなりといへども其の時の天変・地夭は今の代にこそにて候へども・今は亦其の
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01   代には.にるべくもなき変夭なり、第三十三代崇峻天皇の御宇より仏法我が朝に崇められて.第三十四代推古天皇
02 の御宇に盛にひろまりき、 此の時三論宗と成実宗と申す宗始めて渡りて候いき、 此の三論宗は月氏にても漢土に
03 ても、日本にても大乗宗の始なり、 故に宗の母とも宗の父とも申す、 人王三十六代・皇極天皇の御宇に禅宗わた
04 る、人王四十代・天武の御宇に法相宗わたる、 人王四十四代・元正天皇の御宇に大日経わたる、人王四十五代に聖
05 武天皇の御宇に華厳宗を弘通せさせ給う、 人王四十六代・孝謙天皇の御宇に律宗と法華宗わたる、 しかりといへ
06 ども唯律宗計りを弘めて天台法華宗は弘通なし。
07   人王第五十代に最澄と申す聖人あり、法華宗を我と見出して倶舎宗.成実宗・律宗.法相宗・三論宗・華厳宗等の
08 六宗をせめをとし給うのみならず、 漢土に大日宗と申す宗有りとしろしめせり、 同じき御宇に漢土にわたりて四
09 宗をならいわたし給う、所謂法華宗・真言宗・禅宗・大乗の律宗なり、しかりといへども法華宗と律宗とをば弘通あ
10 りて禅宗をば弘め給はず、 真言宗をば宗の字をけづり七大寺等の諸僧に潅頂を許し給う、然れども世間の人人は・
11 いかなるという事をしらず、 当時の人人の云く此の人は漢土にて法華宗をば委細にならいて・ 真言宗をばくはし
12 くも知ろし食し給はざりけるかと・すいし申すなり。
13   同じき御宇に空海と申す人漢土にわたりて真言宗をならう、しかりといへども・いまだ此の御代には帰朝なし、
14 人王第五十一代に平城天皇の御宇に帰朝あり、 五十二代嵯峨の天皇の御宇に弘仁十四年癸卯正月十九日に・真言宗
15 の住処・東寺を給いて護国教王院とがうす、伝教大師御入滅の一年の後なり。
16   人王五十四代・仁明天皇の御宇に円仁和尚・漢土にわたりて重ねて法華・真言の二宗をならいわたす、人王五十
17 五代・文徳天皇の御宇に仁寿と斉衝とに金剛頂経の疏・ 蘇悉地経の疏・已上十四巻を造りて大日経の義釈に並べて
18 真言宗の三部とがうし、 比叡山の内に総持院を建立し真言宗を弘通する事此の時なり、叡山に真言宗を許されしか
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01 ば座主両方を兼ねたり、 しかれども法華宗をば月のごとく・真言宗をば日のごとしといいしかば、 諸人等は真言
02 宗はすこし勝れたりとをもへけり、しかれども座主は両方を兼ねて兼学し給いけり大衆も又かくのごとし。
03   同じき御宇に円珍和尚と申す人・御入唐・漢土にして法華・真言の両宗をならう、同じき御宇に天安二年に帰朝
04 す、此の人は本朝にしては叡山第一の座主義真・第二の座主円澄・別当光定・第三の座主円仁等に法華・真言の両宗
05 をならいきわめ給うのみならず・又東寺の真言をも習い給へり、 其の後に漢土にわたりて法華・真言の両宗をみが
06 き給う・今の三井寺の法華・真言の元祖・智証大師此れなり、已上四大師なり。
07   総じて日本国には真言宗に又八家あり、東寺に五家・弘法大師を本とす・天台に三家・慈覚大師を本とす。
08   人王八十一代をば安徳天皇と申す父は高倉院の長子・母は太政入道の女建礼門院なり、此の王は元暦元年乙巳三
09 月二十四日・八島にして海中に崩じ給いき 、此の王は源ノ頼朝将軍にせめられて海中のいろくづの食となり給う、
10 人王八十二代は隠岐の法王と申す高倉の第三の王子・文治元年丙午御即位、八十三代には阿波の院・隠岐の法皇の長
11 子・建仁二年に位を継ぎ給う、八十四代には佐渡の院・隠岐の法皇の第二の王子・承久三年辛巳二月二十六日に王位
12 につき給う、同じき七月に佐渡の島にうつされ給う、 此の二・三・四の三王は父子なり鎌倉の右大将の家人・義時
13 にせめられさせ給へるなり。
14   此に日蓮大いに疑つて云く仏と申すは三界の国主.大梵王・第六天の魔王.帝釈・日月.四天・転輪聖王.諸王の師
15 なり主なり親なり、三界の諸王は皆は此の釈迦仏より分ち給いて諸国の総領・別領等の主となし給へり、 故に梵釈
16 等は此の仏を或は木像・或は画像等にあがめ給う、 須臾も相背かば梵王の高台もくづれ帝釈の喜見もやぶれ輪王も
17 かほり落ち給うべし、神と申すは又国国の国主等の崩去し給えるを生身のごとく・あがめ給う、此れ又国王・国人の
18 ための父母なり・主君なり・師匠なり・片時もそむかば国安穏なるべからず、 此れを崇むれば国は三災を消し七難
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01 を払い・人は病なく長寿を持ち・後生には人天と三乗と仏となり給うべし。
02   しかるに我が日本国は一閻浮提の内・月氏・漢土にもすぐれ八万の国にも超えたる国ぞかし、其の故は月氏の仏
03 法は西域等に載せられて候但だ七十余国なり其の余は皆外道の国なり、 漢土の寺は十万八千四十所なり、 我が朝
04 の山寺は十七万一千三十七所なり、 此の国は月氏・漢土に対すれば日本国に伊豆の大島を対せるがごとし、 寺を
05 かずうれば漢土・月氏のも雲泥すぎたり、 かれは又大乗の国・小乗の国・大乗も権大乗の国なり、此れは寺ごとに
06 八宗・十宗をならい家家・宅宅に大乗を読誦す、 彼の月氏・漢土等は仏法を用ゆる人は千人に一人なり、此の日本
07 国は外道一人もなし、 其の上神は又第一天照太神・第二八幡大菩薩・ 第三は山王等の三千余社、昼夜に我が国を
08 まほり・ 朝夕に国家を見そなわし給う、 其の上天照太神は内侍所と申す明鏡にかげをうかべ内裏にあがめられ給
09 い・ 八幡大菩薩は宝殿をすてて主上の頂を栖とし給うと申す、 仏の加護と申し神の守護と申しいかなれば彼の安
10 徳と隠岐と阿波・佐渡等の王は相伝の所従等にせめられて・ 或は殺され或は島に放れ或は鬼となり或は大地獄には
11 堕ち給いしぞ、日本国の叡山・七寺・東寺・園城等の十七万一千三十七所の山山寺寺に・いささかの御仏事を行うに
12 は皆天長地久玉体安穏とこそ・いのり給い候へ、 其の上八幡大菩薩は殊に天王守護の大願あり、 人王第四十八代
13 に高野天皇の玉体に入り給いて云く、 我が国家開闢より以来臣を以て君と為すこと未だ有らざる事なり、 天之日
14 嗣必ず皇緒を立つ等云云、又太神行教に付して云く我に百王守護の誓い有り等云云。
15   されば神武天皇より已来百王にいたるまでは・いかなる事有りとも玉体はつつがあるべからず・王位を傾くる者
16 も有るべからず、一生補処の菩薩は中夭なし・聖人は横死せずと申す、 いかにとして彼れ彼の四王は王位ををいを
17 とされ国をうばはるるのみならず・命を海にすて身を島島に入れ給いけるやらむ、 天照太神は玉体に入りかわり給
18 はざりけるか・八幡大菩薩の百王の誓は・いかにとなりぬるぞ、 其の上安徳天皇の御宇には明雲の座主・御師とな
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01 り・ 太上入道並びに一門怠状を捧げて云く 「彼の興福寺を以て藤氏の氏寺と為し春日の社を以て藤氏の氏神と為
02 すが如く、 延暦寺を以て平氏の氏寺と号し日吉の社を以て平氏の氏神と号す」云云、 叡山には明雲座主を始めと
03 して三千人の大衆・五壇の大法を行い、大臣以下は家家に尊勝陀羅尼・不動明王を供養し・諸寺・諸山には奉幣し大
04 法秘法を尽くさずという事なし。
05   又承久の合戦の御時は天台の座主・慈円・仁和寺の御室・三井等の高僧等を相催して・日本国にわたれる所の大
06 法秘法残りなく行われ給う、 所謂承久三年辛巳四月十九日に十五壇の法を行わる、天台の座主は一字金輪法等・五
07 月二日は仁和寺の御室・如法愛染明王法を紫宸殿にて行い給う、 又六月八日御室・守護経法を行い給う、 已上四
08 十一人の高僧・十五壇の大法・此の法を行う事は日本に第二度なり、 権の大夫殿は此の事を知り給う事なければ御
09 調伏も行い給はず、 又いかに行い給うとも彼の法法・彼の人人にはすぐべからず、仏法の御力と申し王法の威力と
10 申し・彼は国主なり・ 三界の諸王守護し給う、此れは日本国の民なり・わづかに小鬼ぞまほりけん代代の所従・重
11 重の家人なり、譬へば王威を用いて民をせめば鷹の雉をとり.ネコのねずみを食い・蛇のかへるをのみ.師子王の兎を
12 殺すにてこそ有るべけれ、なにしにか・かろがろしく天神・地祇には申すべき、仏・菩薩をばをどろかし奉るべき、
13 師子王が兎をとらむには精進すべきか、 たかがきじを食んにはいのり有るべしや、 いかにいのらずとも大王の身
14 として民を失わんには大水の小火をけし・ 大風の小雲を巻くにてこそ有るべけれ、 其の上大火に枯木を加うるが
15 ごとく・大河に大雨を下すがごとく・ 王法の力に大法を行い合せて頼朝と義時との本命と元神とをば梵王と帝釈等
16 に抜き取らせ給う、譬へば古酒に酔る者のごとし・蛇の蝦の魂を奪うがごとし・頼朝と義時との御魂・御名・御姓を
17 ば・かきつけて諸尊・ 諸神等の御足の下にふませまいせていのりしかばいかにもこらうべしともみへざりしに・い
18 かにとして一年・一月も延びずして・わづか二日一日にはほろび給いけるやらむ、 仏法を流布の国主とならむ人人
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01 は能く能く御案ありて後生をも定め御いのりも有るべきか。
02   而るに日蓮此の事を疑いしゆへに幼少の比より随分に顕密二道・並びに諸宗の一切の経を・或は人にならい・或
03 は我れと開見し勘へ見て候へば故の候いけるぞ、 我が面を見る事は明鏡によるべし・国土の盛衰を計ることは仏鏡
04 にはすぐべからず、仁王経.金光明経・最勝王経・守護経.涅槃経・法華経等の諸大乗経を開き見奉り候に・仏法に付
05 きて国も盛へ人の寿も長く・又仏法に付いて国もほろび・人の寿も短かかるべしとみへて候、 譬へば水は能く船を
06 たすけ・水は能く船をやぶる、五穀は人をやしない・人を損ず、小波小風は大船を損ずる事かたし・大波大風には小
07 船をやぶれやすし、王法の曲るは小波・小風のごとし・大国と大人をば失いがたし、仏法の失あるは大風・大波の小
08 船をやぶるがごとし国のやぶるる事疑いなし、 仏記に云く我滅するの後・ 末代には悪法悪人の国をほろぼし仏法
09 を失には失すべからず・ 譬へば三千大千世界の草木を薪として須弥山をやくにやけず劫火の時・須弥山の根より大
10 豆計りの火出でて須弥山やくが如く・我が法も又此くの如し悪人・外道・天魔波旬・五通等にはやぶられず、 仏の
11 ごとく六通の羅漢のごとく・三衣を皮のごとく身に紆い・ 一鉢を両眼にあてたらむ持戒の僧等と・大風の草木をな
12 びかすがごとくなる高僧等・我が正法を失うべし、其の時梵釈・日月・四天いかりをなし其の国に大天変・大地夭等
13 を発していさめむにいさめられずば其の国の内に七難ををこし父母・兄弟・ 王臣・万民等互に大怨敵となり梟鳥が
14 母を食い破鏡が父をがいするがごとく・自国をやぶらせて・結句他国より其の国をせめさすべしとみへて候。
15   今日蓮.一代聖教の明鏡をもつて日本国を浮べ見候に.此の鏡に浮んで候人人は国敵・仏敵たる事疑いなし、一代
16 聖教の中に法華経は明鏡の中の神鏡なり、銅鏡等は人の形をばうかぶれども・いまだ心をばうかべず、 法華経は人
17 の形を浮ぶるのみならず・心をも浮べ給へり、 心を浮ぶるのみならず・先業をも未来をも鑒み給う事くもりなし、
18 法華経の第七の巻を見候へば 「如来の滅後において仏の所説の経の因縁及び次第を知り 義に随つて実の如く説か
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01 ん日月の光明の能く諸の幽冥を除くが如く 斯の人世間に行じて能く衆生の闇を滅す」 等云云、 文の心は此の法
02 華経を一字も一句も説く人は必ず一代聖教の浅深と・ 次第とを能く能く弁えたらむ人の説くべき事に候、 譬へば
03 暦の三百六十日をかんがうるに一日も相違せば万日倶に反逆すべし、 三十一字を連ねたる一句・ 一字も相違せば
04 三十一字共に歌にて有るべからず、 謂る一経を読誦すとも始め寂滅道場より終り雙林最後にいたるまで 次第と浅
05 深とに迷惑せば・其の人は我が身に五逆を作らずして無間地獄に入り・ 此れを帰依せん檀那も阿鼻大城に堕つべし
06 何に況や智人・一人・出現して一代聖教の浅深勝劣を弁えん時・ 元祖が迷惑を相伝せる諸僧等・或は国師となり或
07 は諸家の師となり・なんどせる人人・自のきずが顕るる上人にかろしめられん事をなげきて、上に挙ぐる一人の智人
08 を或は国主に訴へ・或は万人にそしらせん、 其の時・守護の天神等の国をやぶらん事は芭蕉の葉を大風のさき・小
09 舟を大波のやぶらむが・ごとしと見へて候。
10   無量義経は始め寂滅道場より終り般若経にいたるまでの一切経を・或は名を挙げ或は年紀を限りて・未顕真実と
11 定めぬ、 涅槃経と申すは仏最後の御物語に初め初成道より五十年の諸教の御物語・ 四十余年をば無量義経のごと
12 く邪見の経と定め・法華経をば我が主君と号し給う、 中に法華経ましまして已今当の勅宣を下し給いしかば・ 多
13 宝・十方の諸仏・加判ありて各各本土にかへり給いしを・月氏の付法蔵の二十四人は但小乗・権大乗を弘通して法華
14 経の実義を宣べ給う事なし、 譬へば日本国の行基菩薩と鑒真和尚との法華経の義を知り給いて 弘通なかりしがご
15 とし、 漢土の南北の十師は内にも仏法の勝劣を弁えず外にも浅深に迷惑せり、又三論宗の吉蔵・華厳宗の澄観・法
16 相宗の慈恩・此れ等の人人は内にも迷い外にも知らざりしかども・ 道心堅固の人人なれば名聞をすてて天台の義に
17 付きにき、 知らずされば此の人人は懺悔の力に依りて生死やはなれけむ、 将た又謗法の罪は重く懺悔の力は弱く
18 して阿闍世王・無垢論師等のごとく地獄にや堕ちにけん。
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01 善無畏三蔵・金剛智三蔵・ 不空三蔵等の三三蔵は一切の真言師の申すは大日如来より五代・六代の人人・即身成仏
02 の根本なり等云云 、日蓮勘えて云く法偸の元祖なり・盗人の根本なり、 此れ等の人人は月氏よりは大日経・金剛
03 頂経・蘇悉地経等を齎し来る、此の経経は華厳経・般若経・涅槃経等に及ばざる上・法華経に対すれば七重の下劣な
04 り、 経文に見へて赫赫たり明明たり、 而るを漢土に来りて天台大師の止観等の三十巻を見て舌をふるい心をまよ
05 わして・此れに及ばずば我が経・弘通しがたし、勝れたりと・いはんとすれば妄語眼前なり、いかんがせんと案ぜし
06 程に一つの深き大妄語を案じ出だし給う、 所謂大日経の三十一品を法華経二十八品 並に無量義経に腹合せに合せ
07 て三密の中の意密をば法華経に同じ其の上に印と真言とを加えて法華経は略なり大日経は広なり・ 已にも入れず・
08 今にも入れず・当にもはづれぬ、 法華経をかたうどとして三説の難を脱れ・結句は印と真言とを用いて法華経を打
09 ち落して真言宗を立てて候、 譬へば三女が后と成りて三王を喪せしがごとし、 法華経の流通の涅槃経の第九に我
10 れ滅して後の悪比丘等我が正法を滅すべし、 譬へば女人のごとしと記し給いけるは是なり、 されば善無畏三蔵は
11 閻魔王にせめられて 鉄の繩七脉つけられてからくして 蘇りたれども 又死する時は黒皮隠隠として 骨甚だ露焉
12 と申して無間地獄の前相・其の死骨に顕れ給いぬ、 人死して後色の黒きは地獄に堕つとは 一代聖教に定むる所な
13 り、金剛智・不空等も又此れをもつて知んぬべし、 此の人人は改悔は有りと見へて候へども・強盛の懺悔のなかり
14 けるか、今の真言師は又あへて知る事なし、玄宗皇帝の御代の喪いし事も不審はれて候。
15   日本国は又弘法.慈覚・智証・此の謗法を習い伝えて自身も知ろしめさず.人は又をもひもよらず、且くは法華宗
16 の人人・相論有りしかども終には天台宗やうやく衰えて・叡山五十五代の座主・明雲・人王八十一代の安徳天皇より
17 已来は叡山一向に真言宗となりぬ、 第六十一代の座主・ 顕真権僧正は天台座主の名を得て真言宗に遷るのみなら
18 ず、然る後・法華・真言をすてて一向謗法の法然が弟子となりぬ、 承久調伏の上衆・慈円僧正は第六十二代並びに
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01 五・九.七十一代の四代の座主隠岐の法皇の御師なり、此等の人人は善無畏三蔵・金剛智三蔵.不空三蔵・慈覚・智証
02 等の真言をば器は・かわれども一の智水なり、 其の上天台宗の座主の名を盗みて法華経の御領を知行して・三千の
03 頭となり・一国の法の師と仰がれて・ 大日経を本として七重くだれる真言を用いて八重勝れりとをもへるは・天を
04 地とをもい民を王とあやまち石を珠とあやまつのみならず珠を石という人なり、 教主釈尊・多宝仏・十方の諸仏の
05 御怨敵たるのみならず・ 一切衆生の眼目を奪い取り三善道の門を閉ぢ三悪道の道を開く、梵釈・日月・四天等の諸
06 天善神いかでか此の人を罰せさせ給はざらむ、 いかでか此の人の仰く檀那をば守護し給うべき、 天照太神の内侍
07 所も八幡大菩薩の百王守護の御ちかいも・いかでか叶はせ給うべき。
08   余此の由を且つ知りしより已来・一分の慈悲に催されて粗随分の弟子にあらあら申せし程に・次第に増長して国
09 主まで聞えぬ、 国主は理を親とし非を敵とすべき人にて・をはすべきか・いかがしたりけん諸人の讒言を・をさめ
10 て一人の余をすて給う、 彼の天台大師は南北の諸人あだみしかども陳隋二代の帝・ 重んじ給いしかば諸人の怨も
11 うすかりき、此の伝教大師は南都七大寺・讒言せしかども桓武・平城・嵯峨の三皇用い給いしかば怨敵もおかしがた
12 し、 今日蓮は日本国十七万一千三十七所の諸僧等のあだするのみならず・ 国主用い給わざれば万民あだをなす事
13 父母の敵にも超え・宿世のかたきにも・すぐれたり、 結句は二度の遠流・一度の頭に及ぶ、彼の大荘厳仏の末法の
14 四比丘並に六百八十万億那由佗の諸人が普事比丘一人をあだみしにも超へ・ 師子音王仏の末の勝意比丘・無量の弟
15 子等が喜根比丘をせめしにも勝れり、 覚徳比丘がせめられし・不軽菩薩が杖木をかをほりしも・限りあれば此れに
16 はよも・すぎじとぞをぼへ候。
17   若し百千にも一つ日蓮法華経の行者にて候ならば日本国の諸人・後生の無間地獄はしばらくをく、現身には国を
18 失い他国に取られん事・彼の徽宗・欽宗のごとく・優陀延王・訖利多王等に申せしがごとくならん、又其の外は或は
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01 其の身は白癩黒癩或は諸悪重病疑いなかるべきかもし 其の義なくば又日蓮法華経の行者にあらじ 此の身現身には
02 白癩黒癩等の諸悪重病を受け取り 後生には提婆瞿伽利等がごとく 無間大城に堕つべし日月を射奉る修羅は其の矢
03 還つて我が眼に立ち師子王を吼る狗犬は 我が腹をやぶる釈子を殺せし波琉璃王は水中の大火に入り 仏の御身より
04 血を出だせし提婆達多は現身に阿鼻の炎を感ぜり 金銅の釈尊をやきし守屋は四天王の矢にあたり 東大寺興福寺を
05 焼きし清盛入道は 現身に其身もうる病をうけにき彼等は皆大事なれども 日蓮が事に合すれば小事なり小事すら猶
06 しるしあり大事いかでか現罰なからむ。
07   悦ばしいかな経文に任せて五五百歳・ 広宣流布をまつ・悲いかな闘諍堅固の時に当つて此の国修羅道となるべ
08 し、清盛入道と頼朝とは源平の両家・本より狗犬と猿猴とのごとし、 少人・少福の頼朝をあだせしゆへに宿敵たる
09 入道の一門ほろびし上・科なき主上の西海に沈み給いし事は不便の事なり、 此れは教主釈尊・多宝・十方の諸仏の
10 御使として世間には一分の失なき者を・ 一国の諸人にあだまするのみならず・両度の流罪に当てて日中に鎌倉の小
11 路をわたす事・朝敵のごとし、 其の外小菴には釈尊を本尊とし一切経を安置したりし 其の室を刎ねこぼちて・仏
12 像・経巻を諸人にふまするのみならず・糞泥にふみ入れ・日蓮が懐中に法華経を入れまいらせて候いしを・とりいだ
13 して頭をさんざんに打ちさいなむ、 此の事如何なる宿意もなし当座の科もなし、 ただ法華経を弘通する計りの大
14 科なり。
15   日蓮天に向つて声をあげて申さく・ 法華経の序品を拝見し奉れば梵釈と日月と四天と竜王と阿修羅と二界八番
16 の衆と無量の国土の諸神と集会し給いたりし時・ 已今当に第一の説を聞きし時・我とも雪山童子の如く身を供養し
17 薬王菩薩の如く臂をも・やかんと・をもいしに、教主釈尊・多宝・十方の諸仏の御前にして今仏前に於て自ら誓言を
18 説けと諌暁し給いしかば・ 幸に順風を得て世尊の勅の如く当に具さに奉行すべしと二処三会の衆・一同に大音声を
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01 放ちて誓い給いしは・ いかんが有るべき、唯仏前にては是くの如く申して多宝・十方の諸仏は本土にかへり給う、
02 釈尊は御入滅ならせ給いて・ほど久くなりぬれば・末代辺国に法華経の行者有りとも梵釈・日月等・御誓いをうちわ
03 すれて守護し給う事なくば.日蓮がためには一旦のなげきなり、無始已来・鷹の前のきじ・蛇の前のかへる.ネコの前
04 のねずみ・犬の前のさると有りし時もありき、ゆめの代なれば仏・菩薩・諸天にすかされ・まいらせたりける者にて
05 こそ候はめ。
06   なによりも・ なげかしき事は梵と帝と日月と四天等の南無妙法蓮華経の法華経の行者の大難に値をすてさせ給
07 いて・現身に天の果報も尽きて花の大風に散るがごとく・ 雨の空より下るごとく・其の人命終入阿鼻獄と無間大城
08 に堕ち給はん事こそあはれにはをぼへ候へ、 設い彼の人人は三世十方の諸仏をかたうどとして 知らぬよしのべ申
09 し給うとも・日蓮は其の人人には強きかたきなり、 若し仏の返頗をはせずば梵釈・日月・四天をば無間大城には必
10 ずつけたてまつるべし、日蓮が眼をそろしくば・いそぎいそぎ仏前の誓いをばはたし給へ、日蓮が口、○。
11   又むぎひとひつ.鵞目両貫・わかめ・かちめ・みな一俵給い畢んぬ、干い.やきごめ・各各一かうぶくろ給い畢ん
12   ぬ、 一一の御志はかきつくすべしと申せども法門巨多に候へば留め畢んぬ、 他門にきかせ給うなよ大事の事
13   どもかきて候なり。
上野殿御消息    建治元年    五十四歳御作    与南条時光
01   三世の諸仏の世に出でさせ給いても皆皆四恩を報ぜよと説き.三皇・五帝・孔子・老子.顔回等の古の賢人は四徳
02 を修せよとなり、四徳とは・一には父母に孝あるべし・二には主に忠あるべし・三には友に合うて礼あるべし・四に
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01 は劣れるに逢うて慈悲あれとなり、 一に父母に孝あれとは・たとひ親はものに覚えずとも・ 悪さまなる事を云う
02 とも・聊かも腹も立てず誤る顔を見せず・ 親の云う事に一分も違へず・親によき物を与へんと思いてせめてする事
03 なくば一日に二三度えみて向へとなり、 二に主に合うて忠あるべしとは・ いささかも主にうしろめたなき心ある
04 べからず、 たとひ我が身は失しなはるとも主にはかまへてよかれと思うべし、 かくれての信あれば・あらはれて
05 の徳あるなりと云云、 三には友にあふて礼あれとは友達の一日に十度・二十度来れる人なりとも千里・二千里・来
06 れる人の如く思ふて礼儀いささか・ をろかに思うべからず、 四に劣れる者に慈悲あれとは我より劣りたらん人を
07 ば・我が子の如く思いて一切あはれみ慈悲あるべし、 此れを四徳と云うなり、 是くの如く振舞うを賢人とも聖人
08 とも云うべし、 此の四の事あれば余の事にはよからねどもよき者なり、 是くの如く四の得を振舞ふ人は外典三千
09 巻をよまねども読みたる人となれり。
10   一に仏教の四恩とは一には父母の恩を報ぜよ・二には国主の恩を報ぜよ・三には一切衆生の恩を報ぜよ・四には
11 三宝の恩を報ぜよ、一に父母の恩を報ぜよとは父母の赤白二渧・ 和合して我が身となる、母の胎内に宿る事・二百
12 七十日・九月の間・三十七度死るほどの苦みあり、 生落す時たへがたしと思ひ念ずる息・頂より出づる煙り梵天に
13 至る、 さて生落されて乳をのむ事一百八十余石・ 三年が間は父母の膝に遊び人となりて仏教を信ずれば先づ此の
14 父と母との恩を報ずべし、 父の恩の高き事・須弥山猶ひきし・母の恩の深き事大海還つて浅し、相構えて父母の恩
15 を報ずべし、 二に国主の恩を報ぜよとは・生れて已来・衣食のたぐひより初めて・皆是れ国主の恩を得てある者な
16 れば現世安穏・後生善処と祈り奉るべし、 三に一切衆生の恩を報ぜよとは、されば昔は一切の男は父なり・女は母
17 なり・然る間・生生世世に皆恩ある衆生なれば皆仏になれと思ふべきなり、 四に三宝の恩を報ぜとは・最初成道の
18 華厳経を尋ぬれば経も大乗・仏も報身如来にて坐ます間・二乗等は昼の梟・ 夜の鷹の如くして・かれを聞くといへ
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01 ども・耳しゐ・目しゐの如し、然る間・四恩を報ずべきかと思ふに女人をきらはれたる間・母の恩報じがたし、次に
02 仏・阿含・小乗経を説き給いし事・十二年・是こそ小乗なれば我等が機にしたがふべきかと思へば・男は五戒・女は
03 十戒・法師は二百五十戒・ 尼は五百戒を持ちて三千の威儀を具すべしと説きたれば・末代の我等かなふべしとも・
04 おぼえねば母の恩報じがたし、 況や此の経にもきらはれたり、方等・般若・四十余年の経経に皆女人をきらはれた
05 り、但天女成仏経・観経等にすこし女人の得道の経文有りといへども・但名のみ有つて実なきなり、 其の上未顕真
06 実の経なれば如何が有りけん、 四十余年の経経に皆女人を嫌われたり、 又最後に説き給いたる涅槃経にも女人を
07 嫌はれたり、 何れか四恩を報ずる経有りと尋ぬれば法華経こそ女人成仏する経なれば、八歳の竜女・成仏し・仏の
08 姨母キョウ曇弥.耶輸陀羅比丘尼記ベツにあづかりぬ、 されば我等が母は但女人の体にてこそ候へ.畜生にもあらず
09 蛇身にもあらず・八歳の竜女だにも仏になる、 如何ぞ此の経の力にて我が母の仏にならざるべき、されば法華経を
10 持つ人は父と母との恩を報ずるなり、我が心には報ずると思はねども此の経の力にて報ずるなり。
11   然る間.釈迦・多宝等の十方.無量の仏・上行地涌等の菩薩も.普賢・文殊等の迹化の大士も.舎利弗等の諸大声聞
12 も・大梵天王.日月等の明主諸天も・八部王も.十羅刹女等も・日本国中の大小の諸神も・総じて此の法華経を強く信
13 じまいらせて余念なく一筋に信仰する者をば影の身にそふが如く守らせ給ひ候なり、 相構て相構て心を翻へさず・
14 一筋に信じ給ふならば・現世安穏・後生善処なるべし、恐恐謹言。
15                                 日 蓮 花 押
16     上野殿
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南条殿御返事    建治二年正月    五十五歳御作   与南条七郎次郎
01   はるのはじめの御つかひ自他申しこめまいらせ候、さては給はるところのすずの物の事、もちゐ・七十まい・さ
02 けひとつつ・いもいちだ・河のりひとかみぶくろ・だいこんふたつ・やまのいも七ほん等なり、ねんごろの御心ざし
03 は・しなじなのものに・あらはれ候いぬ。
04   法華経の第八の巻に云く 「所願虚しからず亦現世に於て其の福報を得ん」又云く「当に現世に於て現の果報を
05 得べし」等云云、天台大師云く「天子の一言虚しからず」又云く 「法王虚しからず」等云云、賢王となりぬれば・
06 たとひ身をほろぼせどもそら事せず、 いわうや釈迦如来は普明王とおはせし時は はんぞく王のたてへ入らせ給い
07 き・不妄語戒を持たせ給いしゆへなり、 かり王とおはせし時は実語少人大妄語入地獄とこそ・おほせありしか、い
08 わうや法華経と申すは仏・我と要当説真実となのらせ給いし上・多宝仏・十方の諸仏あつまらせ給いて日月・衆星の
09 ならばせ給うがごとくに候いしざせきなり、 法華経にそら事あるならば・なに事をか人信ずべき、 かかる御経に
10 一華・一香をも供養する人は過去に十万億の仏を供養する人なり、又釈迦如来の末法に世のみだれたらん時・王臣・
11 万民・心を一にして一人の法華経の行者をあだまん時・ 此の行者かんぱちの小水に魚のすみ・万人にかこまれたる
12 鹿のごとくならん時、一人ありて・ とぶらはん人は生身の教主釈尊を一劫が間・三業相応して供養しまいらせたら
13 んよりなを功徳すぐるべきよし・如来の金言・分明なり、日は赫赫たり月は明明たり・法華経の文字はかくかく・め
14 いめいたり・めいめい・かくかくたり、あきらかなる鏡にかををうかべ、すめる水に月のうかべるがごとし。
15   しかるに亦於現世得其福報の勅宣.当於現世得現果報の鳳詔・南条の七郎次郎殿にかぎりて.むなしかるべしや、
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01 日は西よりいづる世・月は地よりなる時なりとも・仏の言むなしからじとこそ定めさせ給いしか、 これをもつて・
02 おもうに 慈父過去の聖霊は教主釈尊の御前にわたらせ給い・ だんなは又現世に大果報をまねかん事疑あるべから
03 ず、かうじんかうじん。
04       建治二年正月十九日                 日 蓮 花 押
05     南条殿御返事
南条殿御返事    建治二年三月    五十五歳御作
01   いものかしら.河のり・又わさび・一一.人人の御志承り候いぬ、鳥のかいこをやしなひ・牛の子を牛のねぶるが
02 如し、夫れ衣は身をつつみ・食は命をつぐ 、されば法華経を山中にして読みまいらせ候人を・ねんごろに・やしな
03 はせ給ふは、釈迦仏をやしなひまいらせ・法華経の命をつぐにあらずや、 妙荘厳王は三聖を山中にやしなひて・沙
04 羅樹王仏となり、 檀王は阿私仙人を供養して釈迦仏とならせ給ふ、 されば必ずよみかかねども・よみかく人を供
05 養すれば仏になる事疑ひなかりけり、 経に云く 「是の人仏道に於て決定して疑有ること無けん」 南無妙法蓮華
06 経、南無妙法蓮華経。
07       建治二年三月十八日                   日蓮花押
08     謹上 南条殿御返事
09   橘三郎殿・太郎大夫殿・一紙に云云恐れ入り候、返す返すははき殿読み聞かせまいらせ給へ。
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南条殿御返事    建治二年三月    五十五歳御作
01   かたびら一つ・しをいちだ・あぶら五そう・給び候い了んぬ、ころもはかんをふせぎ又ねつをふせぐ・みをかく
02 し・みをかざる、法華経の第七やくわうぼんに云く「如裸者得衣」等云云、 心ははだかなるものの・ころもをへた
03 るがごとし、もんの心はうれしき事をとかれて候。
04   ふほうぞうの人のなかに商那和衆と申す人あり衣をきてむまれさせ給う、 これは先生に仏法にころもを・くや
05 うせし人なり、されば法華経に云く「柔和忍辱衣」等云云、 こんろん山には石なし・みのぶのたけにはしをなし、
06 石なきところには・たまよりも・いしすぐれたり、しをなきところには・しを・こめにもすぐれて候、国王のたから
07 は左右の大臣なり・左右の大臣をば塩梅と申す、 みそしを・なければよわたりがたし・左右の臣なければ国をさま
08 らず、あぶらと申すは・涅槃経に云く風のなかに・あぶらなし・あぶらのなかに・かぜなし・風をぢする第一のくす
09 りなり、かたがたのものをくり給いて候 御心ざしのあらわれて候事申すばかりなし、 せんするところは・こなん
10 でうどのの法華経の御しんようのふかかりし事のあらわるるか、 王の心ざしをば臣のべ・ をやの心ざしをば子の
11 申しのぶるとはこれなり、あわれことのの・うれしと・をぼすらん。
12   つくしにををはしの太郎と申しける大名ありけり、大将どのの御かんきを・かほりて・かまくらゆひのはまつち
13 のろうにこめられて十二年めしはじしめられしとき・ つくしをうちいでしに・ごぜんにむかひて申せしは・ゆみや
14 とるみとなりて・きみの御かんきを・かほらんことは・なげきならず、又ごぜんに・をさなくよりなれしかいまはな
15 れん事いうばかりなし、 これはさてをきぬ、 なんしにても・によしにても一人なき事なげきなり、ただしくわい
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01 にんのよし・かたらせ給う・をうなごにてやあらんずらん・をのこごにてや候はんずらん、 ゆくへをみざらん事く
02 ちおし、又かれが人となりて・ちちというものも・なからんなげき・いかがせんとをもへども・力及ばずとていでに
03 き。
04   かくて月ひすぐれ・ことゆへなく生れにき・をのこごにてありけり、七歳のとし・やまでらにのぼせてありけれ
05 ば・ともだちなりけるちごども・をやなしとわらひけり、 いへにかへりて・ははにちちをたづねけり、ははのぶる
06 かたなくして・なくより外のことなし、 此のちご申す天なくしては雨ふらず・地なくしてはくさをいず、たとい母
07 ありとも・ちちなくばひととなるべからず、 いかに父のありどころをば・かくし給うぞとせめしかば・母せめられ
08 て云うわちごをさなければ申さぬなり・ありやうはかうなり、 此のちごなくなく申すやう・さてちちのかたみはな
09 きかと申せしかば、これありとて・ををはしのせんぞの日記・ならびにはらの内なる子に・ゆづれる自筆の状なり、
10 いよいよをやこひしくて・なくより外の事なし、 さて・いかがせんといゐしかば・これより郎従あまた・ともせし
11 かども・御かんきをかほりければ・みなちりうせぬ、そののちは・いきてや又しにてや・をとづるる人なしと・かた
12 りければ・ふしころび・なきて・いさむるをも・もちゐざりけり。
13   ははいわく・をのれをやまでらにのぼする事は・をやのけうやうのためなり、仏に花をもまいらせよ・経をも一
14 巻よみて孝養とすべしと申せしかば・いそぎ寺にのぼりて・いえへかへる心なし、 昼夜に法華経をよみしかば・よ
15 みわたりけるのみならず・そらにをぼへてありけり、 さて十二のとし出家をせずして・かみをつつみ・とかくして
16 つくしをにげいでて・かまくらと申すところへたづねいりぬ。
17   八幡の御前にまいりて・ふしをがみ申しけるは・八幡大菩薩は日本第十六の王・本地は霊山浄土に法華経をとか
18 せ給いし教主釈尊なり、 衆生のねがいをみて給わんがために 神とあらわれさせ給う、 今わがねがいみてさせ給
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01 え、をやは生きて候か・しにて候かと申して・いぬの時より法華経をはじめて・とらの時までに・よみければ・なに
02 となき・をさなきこへはうでんに・ひびきわたり・こころすごかりければ・まいりてありける人人も・かへらん事を
03 わすれにき、皆人いちのやうに・ あつまりてみければ・をさなき人にて法師ともをぼえず・をうなにてもなかりけ
04 り。
05   をりしも・きやうのにゐどの御さんけいありけり、 人めをしのばせ給いてまいり給いたりけれども御経のたう
06 とき事つねにもすぐれたりければはつるまで 御聴聞ありけりさてかへらせ給いておはしけるが あまりなごりをし
07 さに人をつけてをきて 大将殿へかかる事ありと申させ給いければ めして持仏堂にして御経よませまいらせ給いけ
08 り。
09   さて次の日又御聴聞ありければ西のみかど人さわぎけり、いかなる事ぞとききしかば・今日はめしうどの・くび
10 きらるると・ののしりけり、あわれ・わがをやは・いままで有るべしとは・をもわねども・さすが人のくびをきらる
11 ると申せば・我が身のなげきとをもひて・なみだぐみたりけり、大将殿あやしと・ごらんじて・わちごはいかなるも
12 のぞ・ありのままに申せとありしかば・上くだんの事・一一に申しけり、をさふらひにありける大名・小名・みすの
13  内みな.そでをしぼりけり、大将殿.かぢわらをめして・をほせありけるは.大はしの太郎という.めしうど・まいら
14 せよとありしかば・只今くびきらんとて・ゆいのはまへ・つかわし候いぬ、いまはきりてや候らんと申せしかば・こ
15 のちご御まへなりけれども・ふしころびなきけり、ををせのありけるは・かぢわらわれと・はしりて・いまだ切らず
16 ばぐしてまいれとありしかば・いそぎ・いそぎゆいのはまへ・はせゆく、いまだいたらぬに・よばわりければ・すで
17 に頚切らんとて刀をぬきたりけるとき・なりけり。
18   さてかじわら.ををはしの太郎を・なわつけながら.ぐしてまいりて・ををにはにひきすへたりければ・大将殿こ
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01 のちごに・とらせよとありしかば・ちごはしりをりて・なわをときけり、大はしの太郎は・わが子ともしらず・いか
02 なる事ゆへに・たすかるともしらざりけり、さて大将殿又めして・このちごに・やうやうの御ふせたびて・ををはし
03 の太郎をたぶのみならず、本領をも安堵ありけり。
04   大将殿をほせありけるは法華経の御事は昔よりさる事とわききつたへたれども・ 丸は身にあたりて二つのゆへ
05 あり、一には故親父の御くびを大上入道に切られてあさましとも・いうばかりなかりしに、 いかなる神・仏にか申
06 すべきと・ おもいしに走湯山の妙法尼より法華経をよみつたへ千部と申せし時、 たかをのもんがく房をやのくび
07 をもて来りて・みせたりし上・ かたきを打つのみならず・日本国の武士の大将を給いてあり、これひとへに法華経
08 の御利生なり、二つには・このちごが・をやをたすけぬる事不思議なり、 大橋の太郎というやつは頼朝きくわいな
09 りとをもう・たとい勅宣なりとも・かへし申して・くびをきりてん、あまりのにくさにこそ十二年まで・土のろうに
10 は入れてありつるに・ かかる不思議あり、 されば法華経と申す事はありがたき事なり、頼朝は武士の大将にて多
11 くのつみを・つもりてあれども法華経を信じまいらせて候へば・さりともと・こそをもへと・なみだぐみ給いけり。
12   今の御心ざしみ候へば故なんでうどのは.ただ子なれば・いとをしとわ.をぼしめしけるらめども・かく法華経を
13 もて我がけうやうをすべしとは・よもをぼしたらじ、たとひつみありて・いかなるところに・おはすとも・この御け
14 うやうの心ざしをば.えんまほうわう・ぼんでん・たひしやく.までも・しろしめしぬらん、釈迦仏・法華経もいかで
15 か・すてさせ給うべき、かのちごのちちのなわを・ときしと・この御心ざし・かれにたがわず、これはなみだをもち
16 て・かきて候なり。
17   又むくりのおこれるよし・これにはいまだうけ給わらず、これを申せば日蓮房はむくり国のわたるといへば・よ
18 ろこぶと申すこれゆわれなき事なり、 かかる事あるべしと申せしかば・あだがたきと人ごとにせめしが・経文かき
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01 りあれば来るなり・いかにいうとも・かなうまじき事なり、 失もなくして国をたすけんと申せし者を用いこそあら
02 ざらめ、 又法華経の第五の巻をもつて日蓮がおもてをうちしなり、梵天・帝釈・是を御覧ありき、鎌倉の八幡大菩
03 薩も見させ給いき、 いかにも今は叶うまじき世にて候へば・ かかる山中にも入りぬるなり、各各も不便とは思へ
04 ども助けがたくやあらんずらん、 よるひる法華経に申し候なり、御信用の上にも力もをしまず申させ給え、 あえ
05 てこれよりの心ざしのゆわきにはあらず、 各各の御信心のあつくうすきにて候べし、 たいしは日本国のよき人人
06 は一定いけどりにぞなり候はんずらん、あらあさましや・あさましや、恐恐謹言。
07       後三月二十四日                   日 蓮 花 押
08     南条殿御返事
九郎太郎殿御返事    建治二年九月    五十五歳御作
01   いゑの芋一駄・送り給び候、 こんろん山と申す山には玉のみ有りて石なし、石ともしければ玉をもつて石をか
02 う、はうれいひんと申す浦には木草なし・いをもつて薪をかう、鼻に病ある者はせんだん香・用にあらず、 眼なき
03 者は明なる鏡なにかせん。
04   此の身延の沢と申す処は甲斐国・波木井の郷の内の深山なり、西には七面のかれと申す・たけあり・東は天子の
05 たけ.南は鷹取のたけ・北は身延のたけ・四山の中に深き谷あり.はこのそこのごとし、峯にははこうのサルの音かま
06 びすし、谷にはたいかいの石多し。
07   然れどもするがのいものやうに候石は一も候はず、 いものめづらしき事くらき夜のともしびにもすぎ・かはけ
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01 る時の水にもすぎて候ひき、 いかに・めづらしからずとは・あそばされて候ぞ、されば其には多く候か・あらこひ
02 しあらこひし、 法華経・釈迦仏にゆづりまいらせ候いぬ、 定めて仏は御志をおさめ給うなれば御悦び候らん、霊
03 山浄土へまひらせ給いたらん時・御尋ねあるべし、恐恐謹言。
04       建治二年丙子九月十五日                       日蓮花押
05     九郎太郎殿御返事
本尊供養御書    建治二年十二月    五十五歳御作   与南条平七郎
01   法華経御本尊御供養の御僧膳料の米一駄・蹲鴟一駄・送り給び候い畢んぬ、 法華経の文字は六万九千三百八十
02 四字・ 一一の文字は我等が目には黒き文字と見え候へども仏の御眼には一一に皆御仏なり、 譬えば金粟王と申せ
03 し国王は沙を金となし・釈摩男と申せし人は石を珠と成し給ふ、 玉泉に入りぬる木は瑠璃と成る・大海に入りぬる
04 水は皆鹹し、 須弥山に近づく鳥は金色となるなり、 阿伽陀薬は毒を薬となす、 法華経の不思議も又是くの如し
05 凡夫を仏に成し給ふ、蕪は鶉となり・山の芋はうなぎとなる・世間の不思議以て是くの如し。
06   何に況や法華経の御力をや、 犀の角を身に帯すれば大海に入るに水・身を去る事五尺、栴檀と申す香を身にぬ
07 れば大火に入るに焼くること無し、 法華経を持ちまいらせぬれば八寒地獄の水にもぬれず 八熱地獄の大火にも焼
08 けず、 法華経の第七に云く「火も焼くこと能わず水も漂すこと能わず」等云云、 事多しと申せども年せまり御使
09 急ぎ候へば筆を留候い畢んぬ。
10       建治二年丙子十二月 日                         日蓮花押
11     南条平七郎殿御返事
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上野殿御返事    建治三年五月    五十六歳御作
01   五月十四日にいものかしら一駄・わざとおくりたびて候、当時のいもは人のいとまと申し珠のごとし・くすりの
02 ごとし、さてはおほせつかはされて候事うけ給わり候いぬ。
03   尹吉甫と申せし人は.ただ一人子あり・伯奇と申す、をやも賢なり.子もかしこし・いかなる人かこの中をば申し
04 たがふべきと・おもひしかども・継母より・よりよりうたへしに用いざりしほどに・継母すねんが間・やうやうのた
05 ばかりを・なせし中に、蜂と申すむしを我がふところに入れて・いそぎいそぎ伯奇にとらせて・しかも父にみせ・わ
06 れをけそうすると申しなして・うしなはんとせしなり。
07   びんばさら王と申せし王は賢王なる上・仏の御だんなの中に閻浮第一なり、しかもこの王は摩竭提国の王なり、
08 仏は又此の国にして法華経を・とかんとおぼししに・ 王と仏と一同なれば一定法華経とかれなんとみへて候しに、
09 提婆達多と申せし人・いかんがして此の事をやぶらんと・おもひしに・すべて・たよりなかりしかば・とかうはかり
10 しほどに・頻婆沙羅王の太子阿闍世王をとしごろとかくかたらひて・ やうやく心をとり・をやと子とのなかを申し
11 たがへて・阿闍世王をすかし父の頻婆沙羅王をころさせ・ 阿闍世王と心を一にし提婆と阿闍世王と一味となりしか
12 ば・五天竺の外道・悪人.雲かすみのごとくあつまり・国をたび.たからをほどこし・心をやわらげすかししかば・一
13 国の王すでに仏の大怨敵となる、欲界・第六天の魔王・無量の眷属を具足してうち下り、摩竭提国の提婆・阿闍世・
14 六大臣等の身に入りかはりしかば・形は人なれども力は第六天の力なり、 大風の草木をなびかすよりも・大風の大
15 海の波をたつるよりも・大地震の大地をうごかすよりも・ 大火の連宅をやくよりも・さはがしくをぢわななきし事
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01 なり。
02   さればはるり王と申せし王は阿闍世王にかたらはれ釈迦仏の御身したしき人数百人切りころす、 阿闍世王は酔
03 象を放ちて弟子を無量無辺ふみころさせつ、 或は道に兵士をすへ・或は井に糞を入れ・或は女人をかたらひて・そ
04 ら事いひつけて仏弟子をころす、 舎利弗・目連が事にあひ・かるだいが馬のくそにうづまれし、仏はせめられて一
05 夏九十日・馬のむぎをまいりしこれなり、 世間の人のおもはく・悪人には仏の御力もかなはざりけるにやと思ひて
06 信じたりし人人も音をのみて・ もの申さず眼をとぢてものを・みる事なし、 ただ舌をふり手をかきし計りなり、
07 結句は提婆達多・釈迦如来の養母・蓮華比丘尼を打ちころし・仏の御身より血を出せし上・誰の人か・かたうどにな
08 るべき、かくやうやうになりての上・ いかがしたりけん法華経をとかせ給いぬ、 此の法華経に云く「而も此の経
09 は如来の現在にすら猶怨嫉多し 況や滅度の後をや」と云云、 文の心は我が現在して候だにも此の経の御かたきか
10 くのごとし、 いかにいわうや末代に法華経を一字一点もとき信ぜん人をやと説かれて候なり、 此れをもつておも
11 ひ候へば仏・ 法華経をとかせ給いて今にいたるまでは二千二百二十余年になり候へども・いまだ法華経を仏のごと
12 く・よみたる人は候はぬか、 大難をもちてこそ・法華経しりたる人とは申すべきに、天台大師・伝教大師こそ法華
13 経の行者とは・みへて候しかども在世のごとくの大難なし、ただ南三・北七・南都・七大寺の小難なり、いまだ国主
14 かたきとならず・万民つるぎをにぎらず・一国悪口をはかず、 滅後に法華経を信ぜん人は在世の大難よりもすぐべ
15 く候なるに・同じほどの難だにも来らず・何に況やすぐれたる大難・多難をや。
16   虎うそぶけば大風ふく・竜ぎんずれば雲をこる・野兎のうそぶき驢馬のいはうるに・風ふかず雲をこる事なし、
17 愚者が法華経をよみ賢者が義を談ずる時は 国もさわかず事もをこらず、 聖人出現して仏のごとく法華経を談ぜん
18 時・一国もさわぎ在世にすぎたる大難をこるべしとみえて候、 今日蓮は賢人にもあらず・まして聖人は・おもひも
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01 よらず天下第一の僻人にて候が・ 但経文計りにはあひて候やうなれば 大難来り候へば父母のいきかへらせ給いて
02 候よりもにくきもののことにあふよりも・ うれしく候なり、 愚者にて而も仏に聖人とおもはれまいらせて候はん
03 事こそ・うれしき事にて候へ、 智者たる上・二百五十戒かたくたもちて万民には諸天の帝釈をうやまふよりも・う
04 やまはれて・釈迦仏・法華経に不思議なり提婆がごとしと・おもはれまいらせなば・人目はよきやうなれども後生は
05 おそろし・おそろし。
06   さるにては殿は法華経の行者ににさせ給へりと.うけ給はれば・もつてのほかに.人のしたしきも・うときも日蓮
07 房を信じては・よもまどいなん・上の御気色もあしかりなんと・かたうどなるやうにて御けうくむ候なれば・賢人ま
08 でも人のたばかりは・おそろしき事なれば・一定法華経すて給いなん、 なかなか色みへでありせば・よかりなん、
09 大魔のつきたる者どもは一人をけうくんしをとしつれば・それをひつかけにして多くの人をせめをとすなり。
10   日蓮が弟子にせう房と申し.のと房といゐ・なごえの尼なんど申せし物どもは.よくふかく・心をくびやうに・愚
11 癡にして・而も智者となのりし・やつばらなりしかば・事のをこりし時・たよりをえて・おほくの人を・おとせしな
12 り、 殿もせめをとされさせ給うならば・するがにせうせう信ずるやうなる者も・又信ぜんと・おもふらん人人も皆
13 法華経をすつべし、 さればこの甲斐の国にも少少信ぜんと申す人人候へども・ おぼろげならでは入れまいらせ候
14 はぬにて候、なかなかしき人の信ずるやうにて・なめりて候へば人の信心をも・やぶりて候なり。
15   ただをかせ給へ・梵天・帝釈等の御計として日本国・一時に信ずる事あるべし、爾時我も本より信じたり信じた
16 りと申す人こそおほくをはせずらんめとおぼえ候、 御信用あつくをはするならば・ 人ためにあらず我が故父の御
17 ため・人は我がをやの後世には・かはるべからず・子なれば我こそ故をやの後世をばとぶらふべけれ、郷一郷・知る
18 ならば半郷は父のため・半郷は妻子・眷属をやしなふべし、我が命は事出できたらば上に・まいらせ候べしと・ひと
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01 へにおもひきりて何事につけても・言をやわらげて法華経の信を・うすくなさんずる・やうを・たばかる人出来せば
02 我が信心を・こころむるかと・おぼして各各これを御けうくんあるは・うれしき事なり、 ただし御身のけうくんせ
03 させ給へ、上の御信用なき事は・これにもしりて候を上をもつて・おどさせ給うこそをかしく候へ、 参りてけうく
04 ん申さんとおもひ候つるに・うわてうたれまいらせて候、閻魔王に我が身と・いとをしとおぼす御めと・子とを・ひ
05 つぱられん時は・時光に手をやすらせ給い候はんずらんと・にくげに・うちいひて・おはすべし。
06   にいた殿の事まことにてや候らん、 をきつの事きこへて候、殿もびんぎ候はば其の義にて候べし、かまへてお
07 ほきならん人申しいだしたるらんは・あはれ法華経のよきかたきよ、 優曇華か盲亀の浮木かと・おぼしめして・し
08 たたかに御返事あるべし。
09   千丁・万丁しる人もわづかの事にたちまちに命をすて所領をめさるる人もあり、 今度法華経のために命をすつ
10 る事ならば・なにはをしかるべき、薬王菩薩は身を千二百歳が間・やきつくして仏になり給い・檀王は千歳が間・身
11 をゆかとなして今の釈迦仏といはれさせ給うぞかし、 されば・ひが事をすべきにはあらず、今はすてなば・かへり
12 て人わらはれになるべし、 かたうどなるやうにて・つくりおとして、 我もわらひ人にもわらはせんとするがきく
13 わいなるに・よくよくけうくんせさせて人のおほくきかんところにて・ 人をけうくんせんよりも我が身をけうくん
14 あるべしとて・かつぱとたたせ給へ、 一日二日が内にこれへきこへ候べし、 事おほければ申さず又又申すべし、
15 恐恐謹言。
16       建治三年五月十五日                   日蓮花押
17     上野殿御返事
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南条殿御返事
01   白麦一俵・小白麦一俵・河のり五でふ・送り給び了んぬ。
02   仏の御弟子に阿那律尊者と申せし人は・ をさなくしての御名をば如意と申す、如意と申すは心のおもひのたか
03 らをふらししゆへなり、 このよしを仏にとひまいらせ給いしかば・昔うえたるよに縁覚と申す聖人を ひゑのはん
04 をもつて供養しまいらせしゆへと答えさせ給う。
05   迦葉尊者と申せし人は仏についでも閻浮提第一の僧なり、 俗にてをはせし時は長者にて・からを六十そのくら
06 に金を百四十こくづつ入れさせ給う、 それより外のたから申すばかりなし、 この人のせんじやうの御事を仏にと
07 ひまいらせさせ給いしかば・むかしうえたるよにむぎのはんを一ぱひ供養したりしゆへに・トウ利天に千反生れて今
08 釈迦仏に値いまいらせ 僧の中の第一とならせ給い法華経にて光明如来と名をさづけられさせ給うと天台大師・ 文
09 句の第一にしるされて候。
10   かれをもつて此れをあんずるに迦葉尊者の麦のはんは・いみじくて光明如来とならせ給う、 今のだんなの白麦
11 は・いやしくて仏にならず候べきか、在世の月は今も月・在世の花は今も花・むかしの功徳は今の功徳なり、 その
12 上・上一人より下万民までに・にくまれて山中にうえしにゆべき法華経の行者なり、 これをふびんとをぼして山河
13 をこえわたり・をくりたびて候御心ざしは麦にはあらず金なり・金にはあらず法華経の文字なり、 我等が眼にはむ
14 ぎなり・十らせつには此のむぎをば仏のたねとこそ御らん候らめ、 阿那律がひゑのはんはへんじてうさぎとなる、
15 うさぎ・へんじて死人となる・死人へんじて金となる・指をぬきてうりしかば又いできたりぬ、 王のせめのありし
16 時は死人となる、 かくのごとく・つきずして九十一劫なり、 釈まなんと申せし人の石をとりしかば金となりき、
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01 金ぞく王は、いさごを金となし給いき。
02   今のむぎは法華経のもんじなり、又は女人の御ためには・かがみとなり・身のかざりとなるべし、 男のために
03 は・よろひとなり・かぶととなるべし、 守護神となりて弓箭の第一の名をとるべし、南無妙法蓮華経・南無妙法蓮
04 華経、恐恐謹言。
05   このよの中は・ いみじかりし時は何事かあるべきとみえしかども・当時はことにあぶなげに・みえ候ぞ、 い
06   かなる事ありともなげかせ給うべからず、 ふつとおもひきりてそりやうなんども・たがふ事あらば・いよいよ
07   悦びとこそおもひて・うちうそぶきて・これへわたらせ給へ、 所地しらぬ人もあまりにすぎ候ぞ、当時つくし
08   へ・むかひて・なげく人人は・いかばかりとか・おぼす、これは皆日蓮を・かみのあなづらせ給いしゆへなり。
09       七月二日                      日 蓮 花 押
10     南条殿御返事
庵室修復書    建治三年    五十六歳御作
01   去文永十一年六月十七日に・この山のなかに・きをうちきりて・かりそめにあじちをつくりて候いしが・やうや
02 く四年がほど・はしらくちかきかべをち候へども・なをす事なくて・よるひを・とぼさねども月のひかりにて聖教を
03 よみまいらせ・われと御経をまきまいらせ候はねども・風をのづから・ふきかへし・まいらせ候いしが、今年は十二
04 のはしら四方にかふべをなげ・四方のかべは・一そにたうれぬ、 うだいたもちがたければ・月はすめ雨はとどまれ
05 と・はげみ候いつるほどに・人ぶなくして・がくしやうどもをせめ・食なくして・ゆきをもちて命をたすけて候とこ
06 ろに・さきに・うへのどのよりいも二駄これ一だは・たまにもすぎ。
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大白牛車書   建治三年十二月十七日    五十六歳御作   与南条七郎次郎
01   夫れ法華経第二の巻に云く「此の宝乗に乗り直ちに道場に至る」と云云、 日蓮は建長五年四月二十八日初めて
02 此の大白牛車の一乗法華の相伝を申し顕はせり、 而るに諸宗の人師等・雲霞の如くよせ来り候、 中にも真言・浄
03 土・禅宗等・蜂の如く起りせめたたかふ、 日蓮大白牛車の牛の角最第一なりと申してたたかふ、両の角は本迹二門
04 の如く二乗作仏・久遠実成是なり、すでに弘法大師は法華最第一の角を最第三となをし・一念三千・久遠実成・即身
05 成仏は法華に限れり・是をも真言の経にありとなをせり、 かかる謗法の族を責めんとするに返つて弥怨をなし候、
06 譬えば角を・なをさんとて牛をころしたるが如くなりぬべく候ひしかども・いかでさは候べき。
07   抑此の車と申すは本迹二門の輪を妙法蓮華経の牛にかけ、 三界の火宅を生死生死とぐるり・ ぐるりとまはり
08 候ところの車なり、 ただ信心のくさびに志のあぶらをささせ給いて霊山浄土へまいり給うべし、 又心王は牛の如
09 し・生死は両の輪の如し、 伝教大師云く「生死の二法は一心の妙用・有無の二道は本覚の真徳なり」云云、天台云
10 く「十如は只是れ乃至今境は是れ体」と云云、此の文釈能能案じ給うべし、南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経。
11       十二月十七日                               日蓮花押
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上野殿御返事   建治四年二月二十五日    五十七歳御作   与南条七郎次郎
01   蹲鴟・くしがき・焼米・栗・たかんな・すづつ給び候い了んぬ。
02   月氏に阿育大王と申す王をはしき、一閻浮提四分の一を・たなごころににぎり・竜王をしたがへて雨を心にまか
03 せ・鬼神をめしつかひ給いき、 始は悪王なりしかども後には仏法に帰し・六万人の僧を日日に供養し・八万四千の
04 石の塔をたて給う、 此の大王の過去をたづぬれば仏の在世に徳勝童子・無勝童子とて二人のをさなき人あり、 土
05 の餅を仏に供養し給いて 一百年の内に大王と生れたり、 仏はいみじしといへども 法華経にたいしまいらせ候へ
06 ば・螢火と日月との勝劣・天と地との高下なり、仏を供養して・かかる功徳あり・いわうや法華経をや、土のもちゐ
07 を・まいらせて・かかる不思議あり・いわうやすずのくだ物をや、 かれはけかちならず・いまはうへたる国なり、
08 此をもつて・をもふに釈迦仏・多宝仏・十羅刹女いかでかまほらせ給はざるべき。
09   抑今の時・法華経を信ずる人あり・ 或は火のごとく信ずる人もあり・或は水のごとく信ずる人もあり、聴聞す
10 る時は・もへたつばかりをもへども・とをざかりぬれば・すつる心あり、水のごとくと申すは・いつも・たいせず信
11 ずるなり、此れはいかなる時も・つねは・たいせずとわせ給えば水のごとく信ぜさせ給へるかたうとし・たうとし。
12   まことやらむ・いえの内に・わづらひの候なるは・よも鬼神のそゐには候はじ、十らせち女の信心のぶんざいを
13 御心みぞ候らむ、 まことの鬼神ならば法華経の行者をなやまして・かうべをわらんとをもふ鬼神の候べきか、 又
14 釈迦仏・法華経の御そら事の候べきかと・ふかくをぼしめし候へ、恐恐謹言。
15       二月廿五日                                 日蓮花押
16     御返事
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上野殿御返事   弘安元年四月一日    五十七歳御作   与南条七郎次郎
01   白米一斗・いも一駄・こんにやく五枚・わざと送り給び候い畢んぬ、なによりも石河の兵衛入道殿のひめ御前の
02 度度御ふみをつかはしたりしが、 三月の十四五やげにて候しやらむ御ふみありき、 この世の中をみ候に病なき人
03 も・こねんなんどをすぐべしともみへ候はぬ上・ もとより病ものにて候が・すでにきうになりて候さいごの御ふみ
04 なりと・かかれて候いしが、されば・つゐに・はかなくならせ給いぬるか。
05   臨終に南無阿弥陀仏と申しあはせて候人は・仏の金言なれば一定の往生とこそ人も我も存じ候へ、しかれども・
06 いかなる事にてや候いけん、 仏のくひかへさせ給いて未顕真実・正直捨方便と・とかせ給いて候が・あさましく候
07 ぞ、 此れを日蓮が申し候へばそら事うわのそらなりと日本国にはいかられ候、 此れのみならず仏の小乗経には十
08 方に仏なし一切衆生に仏性なしと・とかれて候へども・ 大乗経には十方に仏まします一切衆生に仏性ありと・とか
09 れて候へば・ たれか小乗経を用い候べき皆大乗経をこそ信じ候へ、 此れのみならず・ふしぎのちがひめども候ぞ
10 かし、法華経は釈迦仏・ 已今当の経経を皆くひかへしうちやぶりて・此の経のみ真実なりととかせ給いて候いしか
11 ば・御弟子等用ゆる事なし、爾の時・多宝仏・証明をくわへ十方の諸仏・舌を梵天につけ給いき、さて多宝仏はとび
12 らをたて十方の諸仏は本土に・ かへらせ給いて後は・いかなる経経ありて法華経を釈迦仏やぶらせ給うとも・他人
13 わゑになりて・やぶりがたし、しかれば法華経已後の経経・普賢経・涅槃経等には法華経をば・ほむる事はあれども
14 そしる事なし、而るを真言宗の善無畏等・禅宗の祖師等・此れをやぶれり、 日本国・皆此の事を信じぬ、例せば将
15 門・貞任なんどに・かたらはれし人人のごとし、日本国すでに釈迦・多宝・十方の仏の大怨敵となりて数年になり候
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01 へば、やうやく・やぶれゆくほどに・又かう申す者を御あだみあり、わざはひに・わざはひのならべるゆへに・此の
02 国土すでに天のせめをかほり候はんずるぞ。
03   此の人は先世の宿業か・いかなる事ぞ、臨終に南無妙法蓮華経と唱えさせ給いける事は・一眼のかめの浮木の穴
04 に入り・ 天より下いとの大地のはりの穴に入るがごとし、 あらふしぎふしぎ、又念仏は無間地獄に堕つると申す
05 事をば経文に分明なるをば・ しらずして皆人日蓮が口より出でたりとおもへり、 天はまつげのごとしと申すはこ
06 れなり、虚空の遠きと・まつげの近きと人みなみる事なきなり、 此の尼御前は日蓮が法門だにひが事に候はば・よ
07 も臨終には正念には住し候はじ。
08   又日蓮が弟子等の中に・なかなか法門しりたりげに候人人は・あしく候げに候、南無妙法蓮華経と申すは法華経
09 の中の肝心・人の中の神のごとし、 此れにものを・ならぶれば・きさきのならべて二王をおとことし、乃至きさき
10 の大臣已下になひなひとつぐがごとし、 わざはひのみなもとなり、 正法・像法には此の法門をひろめず 余経を
11 失わじがためなり、 今末法に入りぬれば余経も法華経もせんなし、 但南無妙法蓮華経なるべし、かう申し出だし
12 て候も・わたくしの計にはあらず、 釈迦・多宝・十方の諸仏・地涌千界の御計なり、此の南無妙法蓮華経に余事を
13 まじへば・ゆゆしきひが事なり、 日出でぬれば・とほしびせんなし・雨のふるに露なにのせんかあるべき、嬰児に
14 乳より外のものをやしなうべきか、良薬に又薬を加えぬる事なし。
15   此の女人は・なにとなけれども自然に此の義にあたりて・しををせるなり、たうとし・たうとし、恐恐謹言。
16       弘安元年四月一日                  日 蓮 花 押
17     上野殿御返事
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南条殿女房御返事   弘安元年五月二十四日    五十七歳御作   与南条七郎次郎女房
01   八木二俵送り給び候い畢んぬ、度度の御志申し尽し難く候。
02   夫れ水は寒積れば氷と為る.雪は年累つて水精と為る・悪積れば地獄となる.善積れば仏となる・女人は嫉妬かさ
03 なれば毒蛇となる。法華経供養の功徳かさならば・あに竜女があとを・つがざらん、 山といひ・河といひ・馬とい
04 ひ・下人といひ・かたがた・かんなんのところに・度度の御志申すばかりなし。
05   御所労の人の臨終正念・霊山浄土疑なかるべし・疑なかるべし。
06       五月二十四日                     日蓮花押
07     御返事
種種物御消息   弘安元年七月七日    五十七歳御作   与南条平七郎
01   しなじなのものをくり給びて法華経にまいらせて候。
02   抑日本国の人を皆やしないて候よりも 父母一人やしないて候は功徳まさり候、 日本国の皆人をころして候は
03 七大地獄に堕ち候、 父母をころせる人は第八の無間地獄と申す地獄に堕ち候、 人ありて父母をころし釈迦仏の御
04 身よりちをいだして候人は 父母をころすつみにては無間地獄に堕ちず、 仏の御身よりちをいだすつみにて無間地
05 獄に堕ち候なり、又十悪・五逆をつくり十方・三世の仏の身より・ちをいだせる人の法華経の御かたきとなれるは・
06 十悪・五逆・十方の仏の御身より・ちをいだせるつみにては阿鼻地獄へは入る事なし・ただ法華経不信の大罪により
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01 て無間地獄へは堕ち候なり、又十悪・五逆を日日につくり・十方の諸仏を月月にはうずる人と・十悪・五逆を日日に
02 つくらず十方の諸仏を月月にはうせず候人・ 此の二人は善悪はるかにかわりて候へども・法華経を一字一点もあひ
03 そむきぬれば・かならず・おなじやうに無間地獄へ入り候なり。
04   しかればいまの代の海人・山人.日日に魚鹿等をころし・源家・平家等の兵士等のとしどしに合戦をなす人人は.
05 父母をころさねば・よも無間地獄には入り候はじ、便宜候はば法華経を信じて・たまたま仏になる人も候らん、 今
06 の天台の座主.東寺・御室・七大寺の検校・園城寺の長吏等の真言師・並びに禅宗.念仏者・律宗等は眼前には法華経
07 を信じよむににたれども・其の根本をたづぬれば弘法大師・慈覚大師・智証大師・善導・法然等が弟子なり、源にご
08 りぬれば流きよからず・天くもれば地くらし、 父母謀反をおこせば妻子ほろぶ・山くづるれば草木たふるならひな
09 れば・日本六十六ケ国の比丘・比丘尼等の善人等・皆無間地獄に堕つべきなり、 されば今の代に地獄に堕つるもの
10 は悪人よりも善人・善人よりも僧尼・僧尼よりも・持戒にて智慧かしこき人人の阿鼻地獄へは堕ち候なり。
11   此の法門は当世.日本国に一人もしりて候人なし、ただ日蓮一人計りにて候へば.此れを知つて申さずば・日蓮・
12 無間地獄に堕ちて・うかぶ期なかるべし、 譬へば謀反のものを・しりながら国主へ申さぬとがあり、申せばかたき
13 雨のごとし風のごとし・むほんのもののごとし・海賊・山賊のもののごとし、かたがた・しのびがたき事なり、例せ
14 ば威音王仏の末の不軽菩薩のごとし歓喜仏のすえの覚徳比丘のごとし、 天台のごとし・伝教のごとし、 又かの人
15 人よりも・かたきすぎたり、 かの人人は諸人ににくまれたりしかども・いまだ国主にはあだまれず、これは諸人よ
16 りは国主にあだまるる事・父母のかたきよりも・すぎたるをみよ。
17   かかるふしぎの者をふびんとて御くやう候は.日蓮が過去の父母か・又先世の宿習か.おぼろげの事にはあらじ、
18 其の上雨ふり・かぜふき・人のせいするにこそ心ざしはあらわれ候へ、此れも又かくのごとし、ただなる時だにも・
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01 するがと・かいとのさかひは山たかく河ふかく・石おほくみちせばし、いわうや・たうじは・あめはしのをたてて三
02 月におよび・かわはまさりて九十日、やまくづれ・みちふさがり・人もかよはず・かつてもたえて・いのちかうにて
03 候いつるに・このすずのもの給いて法華経の御うえをもつぎ・釈迦仏の御いのちをも・たすけまいらせ給いぬ、 御
04 功徳ただをしはからせ給うべし、くはしくは又又申すべし、恐恐。
05       七月七日                      日 蓮 花 押
06     御返事
時光御返事   弘安元年七月八日    五十七歳御作   与南条時光
01   むぎのしろきこめ一駄・はじかみ送り給び畢んぬ。
02   こくぼんわうの太子あなりちと申す人は・家にましましし時は俗性は月氏国の本主てんりん聖王のすえ・師子け
03 う王のまご・浄飯王のおひ・こくぼん王には太子なり、天下に・いやしからざる上・家中には一日の間・一万二千人
04 の人出入す、六千人はたからをかりき・六千人はかへりなす、 かかる富人にておはする上・天眼第一の人・法華経
05 にては普明如来となるべきよし仏記し給う。
06   これは過去の行は・いかなる大善ぞとたづぬるに.むかしれうしあり山のけだものをとりて.すぎけるが・又ひえ
07 をつくり食とするほどに・飢えたる世なればものもなし、ただ・ひえのはん一ありけるを・くひければ・りだと申す
08 辟支仏の聖人来りて云く・我七日の間食なし汝が食者えさせよと・こわせ給いしかば・きたなき俗のごきに入れて・
09 けがしはじめて候と申しければ・ただえさせよ今食せずば死ぬべしと云う、 おそれながら・まいらせつ、此の聖人
10 まいり給いしが・ただひえ一つびを・とりのこして・れうしにかへし給いき、ひえへんじていのことなる、 いのこ
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01 変じて金となる・金変じて死人となる・ 死人変じて又金人となる・指をぬいて売れば本のごとし、かくのごとく九
02 十一劫・ 長者に生れ今はあなりちと申して仏の御弟子なり、 わづかの・ひえなれども飢えたる国に智者の御いの
03 ちを・つぐゆへに・めでたきほうをう。
04   迦葉尊者と申せし人は仏の御弟子の中には第一にたとき人なり、 此の人の家をたづぬれば摩かだい国の尼くり
05 だ長者の子なり、 宅にたたみ千でうあり・一でうはあつさ七尺下品のたたみは金千両なり、からすき九百九十九・
06 一のからすきは金千両、 金三百四十石入れたるくら六十・かかる大長者なり、 めは又身は金色にして十六里をて
07 らす、 日本国の衣通姫にもすぎ・漢土のりふじんにもこえたり、 此の夫婦道心を発して仏の御弟子となれり、法
08 華経にては光明如来といはれさせ給う、 此の二人の人人の過去をたづねれば 麦飯を辟支仏に供養せしゆへに迦葉
09 尊者と生れ、金のぜに一枚を仏師にあつらへて毘婆尸仏の像の御はくにひきし貧人は此の人のめとなれり。
10   今日蓮は聖人にはあらざれども法華経に御名をたてり、国主ににくまれて我が身をせく上・弟子かよう人をも・
11 或はのり・或はうち・或は所領をとり・或はところをおふ、かかる国主の内にある人人なれば・たとひ心ざしあるら
12 ん人人もとふ事なし、此の事事ふりぬ、 なかにも今年は疫病と申し飢渇と申しとひくる人人もすくなし、 たとひ
13 やまひなくとも飢えて死なん事うたがひなかるべきに・ 麦の御とぶらい金にもすぎ珠にもこえたり、 彼のりだが
14 ひゑは変じて金人となる、 此の時光が麦何ぞ変じて法華経の文字とならざらん、 此の法華経の文字は釈迦仏とな
15 り給い・時光が故親父の左右の御羽となりて霊山浄土へとび給へかけり給へ、 かへりて時光が身をおほひ・はぐく
16 み給へ、恐恐謹言。
17       弘安元年七月八日                  日 蓮 花 押
18     上野殿御返事
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上野殿御返事   弘安元年九月十九日    五十七歳御作   与南条時光
01   塩一駄はじかみ送り給び候。
02   金多くして日本国の沙のごとくならば誰か・たからとして・はこのそこにおさむべき、餅多くして一閻浮提の大
03 地のごとくならば誰か米の恩を・おもくせん。
04   今年は正月より日日に雨ふり・ことに七月より大雨ひまなし、このところは山中なる上・南は波木井河・北は早
05 河・東は富士河.西は深山なれば長雨・大雨・時時日日につづく間.山さけて谷をうづみ・石ながれて道をふせぐ・河
06 たけくして船わたらず、富人なくして五穀ともし・商人なくして人あつまる事なし、 七月なんどは・しほ一升を・
07 ぜに百・しほ五合を麦一斗にかへ候しが・今はぜんたい・しほなし、何を以てか・かうべき、みそも・たえぬ、小児
08 のちをしのぶがごとし。
09   かかるところに・このしほを一駄給びて候御志・大地よりもあつく虚空よりもひろし、予が言は力及ぶべからず
10 ただ法華経と釈迦仏とに・ゆづりまいらせ候、事多しと申せども紙上には・つくしがたし、恐恐謹言。
11       弘安元年九月十九日                          日蓮花押
12   上野殿御返事
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上野殿御返事   弘安元年十月十二日    五十七歳御作   与南条時光
01   いゑのいも一駄・かうじ一こ・ぜに六百のかわり御ざのむしろ十枚給び畢んぬ。
02   去今年は大えき此の国にをこりて人の死ぬ事大風に木のたうれ大雪に草のおるるがごとし・ 一人ものこるべし
03 ともみへず候いき、 しかれども又今年の寒温時にしたがひて・ 五穀は田畠にみち草木はやさんにおひふさがりて
04 尭舜の代のごとく 成劫のはじめかとみへて候いしほどに・ 八月九月の大雨大風に日本一同に不熟ゆきてのこれる
05 万民冬をすごしがたし、 去ぬる寛喜・正嘉にもこえ来らん三災にも・おとらざるか、自界叛逆して盗賊国に充満し
06 他界きそいて合戦に心をつひやす、 民の心不孝にして父母を見る事他人のごとく・僧尼は邪見にして狗犬とエン猴
07 とのあへるがごとし、 慈悲なければ天も此の国をまほらず・邪見なれば三宝にも・すてられたり、又疫病もしばら
08 くは・やみてみえしかども・ 鬼神かへり入るかのゆへに・北国も東国も西国も南国も一同にやみなげくよしきこへ
09 候、かかるよにいかなる宿善にか・ 法華経の行者をやしなわせ給う事ありがたく候ありがたく候、 事事見参の時
10 申すべし、恐恐謹言。
11       弘安元年後十月十二日                日 蓮 花 押
12     上野殿御返事
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九郎太郎殿御返事   弘安元年十一月一日    五十七歳御作   与南条九郎太郎
01   これにつけても・こうえのどのの事こそをもひいでられ候へ。
02   いも一駄.くり・やきごめ・はじかみ給び候いぬさてはふかき山にはいもつくる人もなし.くりもならず・はじか
03 みもをひず・ましてやきごめみへ候はず、 たとえくりなりたりともさるのこずへからす、 いえのいもはつくる人
04 なし・たとえつくりたりとも・人にくみてたび候はず、いかにしてか・かかるたかき山へは・きたり候べき。
05   それ山をみ候へば・たかきよりしだいにしもえくだれり、うみをみ候へば・あそきより・しだいにふかし、代を
06 み候へば三十年・二十年・五年・四三二一・次第にをとろへたり、人の心もかくのごとし、これはよのすへになり候
07 へば山には・まがれるきのみとどまり・のには・ひききくさのみをひたり、よには・かしこき人はすくなく・はかな
08 きものはをほし、牛馬のちちをしらず・兎羊の母をわきまえざるがごとし。
09   仏御入滅ありては二千二百二十余年なり・ 代すへになりて智人次第にかくれて山のくだれるがごとく・くさの
10 ひききににたり、 念仏を申しかいをたもちなんどする人は・ををけれども法華経をたのむ人すくなし、 星は多け
11 れども大海をてらさず・草は多けれども大内の柱とはならず、 念仏は多けれども仏と成る道にはあらず・戒は持て
12 ども浄土へまひる種とは成らず、 但南無妙法蓮華経の七字のみこそ仏になる種には候へ、 此れを申せば人はそね
13 みて用ひざりしを故上野殿信じ給いしによりて仏に成らせ給いぬ、 各各は某の末にて此の御志をとげ給うか、 竜
14 馬につきぬる・だには千里をとぶ、 松にかかれる・つたは千尋をよづと申すは是か、各各主の御心なり、つちのも
15 ちゐを仏に供養せし人は王となりき、 法華経は仏にまさらせ給う法なれば供養せさせ給いて、 いかでか今生にも
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01 利生にあづかり後生にも仏にならせ給はざるべき、その上みひんにして・げにんなし、 山河わづらひあり、 たと
02 ひ心ざしありとも・あらはしがたきに・いまいろをあらわさせ給うにしりぬ、をぼろげならぬ事なり、 さだめて法
03 華経の十羅刹まほらせ給いぬらんと・たのもしくこそ候へ、事つくしがたし、恐恐謹言。
04       弘安元年十一月一日                 日 蓮 花 押
05     九郎太郎殿御返事
上野殿御返事   弘安二年一月三日    五十八歳御作
01   餅九十枚・薯蕷五十本・ わざと御使を以て正月三日未の時に駿河国富士郡上野郷より甲州波木井の郷身延山の
02 ほらへ・おくりたびて候。
03   夫れ海辺には木を財とし山中には塩を財とす、旱バツには水を財とし闇中には灯を財とし・女人は夫を財とし夫
04 は女人を命とし・ 王は民を親とし民は食を天とす、 此の両三箇年は日本国の中に大疫起りて人半分減じて候か、
05 去年の七月より大なるけかちにて里市とをき 無縁の者と山中の僧等の命存しがたし、 其の上日蓮は法華経誹謗の
06 国に生れて威音王仏の末法の不軽菩薩の如し、 将又歓喜増益仏の末の覚徳比丘の如し、 王もにくみ民もあだむ・
07 衣もうすく食もとぼし・布衣はにしきの如し・草葉をば甘露と思ふ、 其の上去年の十一月より雪つもりて山里路た
08 えぬ、 年返れども鳥の声ならでは・をとづるる人なし、 友にあらずばたれか問うべきと心ぼそくて過し候処に・
09 元三の内に十字九十枚・満月の如し、 心中もあきらかに生死のやみもはれぬべし、あはれなり・あはれなり、こう
10 へのどのをこそ・いろあるをとこと人は申せしに・ 其の御子なればくれないのこきよしをつたへ給えるか、あいよ
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01 りもあをく・水よりもつめたき冰かなと・ありがたし・ありがたし、恐恐謹言。
02       正月三日                         日蓮花押
03     上野殿御返事
上野殿御返事   弘安二年四月二十日    五十八歳御作
01   抑日蓮・ 種種の大難の中には竜口の頚の座と・東条の難にはすぎず、 其の故は諸難の中には命をすつる程の
02 大難はなきなり、 或はのりせめ・或は処をおわれ・無実を云いつけられ・或は面をうたれしなどは・物のかずなら
03 ず、されば色心の二法よりをこりてそしられたる者は日本国の中には日蓮一人なり、  ただしありとも法華経の故
04 にはあらじ、 さてもさても・ わすれざる事はせうばうが法華経の第五の巻を取りて日蓮がつらをうちし事は三毒
05 より・をこる処のちやうちやくなり。
06   天竺に嫉妬の女人あり・男をにくむ故に家内の物をことごとく打ちやぶり、 其の上にあまりの腹立にや・すが
07 た・けしきかわり・ 眼は日月の光のごとくかがやきくちは炎をはくがごとし・ すがたは青鬼赤鬼のごとくにて年
08 来・男のよみ奉る法華経の第五の巻をとり・両の足にてさむざむにふみける、 其の後命つきて地獄にをつ・両の足
09 ばかり地獄にいらず・獄卒鉄杖をもつて・うてどもいらず、 是は法華経をふみし逆縁の功徳による、今日蓮をにく
10 む故にせうぼうが第五の巻を取りて予がをもてをうつ・是も逆縁となるべきか、 彼は天竺・此れは日本・かれは女
11 人・これはをとこ・かれは両のあし・これは両の手・彼は嫉妬の故・此れは法華経の御故なり、 されども法華経第
12 五の巻は・をなじきなり、 彼の女人のあし地獄に入らざらんに此の両の手・無間に入るべきや、ただし彼は男をに
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01 くみて法華経をば・にくまず、此れは法華経と日蓮とを・にくむなれば一身無間に入るべし、 経に云く「其の人命
02 終して阿鼻獄に入らん」と云云、 手ばかり無間に入るまじとは見へず不便なり不便なり、 ついには日蓮にあひて
03 仏果をうべきか不軽菩薩の上慢の四衆のごとし。
04   夫れ第五の巻は一経第一の肝心なり・竜女が即身成仏あきらかなり、提婆はこころの成仏をあらはし・竜女は身
05 の成仏をあらはす、 一代に分絶たる法門なり、 さてこそ伝教大師は法華経の一切経に超過して勝れたる事を十あ
06 つめ給いたる中に・ 即身成仏化導勝とは此の事なり、 此の法門は天台宗の最要にして即身成仏義と申して文句の
07 義科なり、 真言・天台の両宗の相論なり、竜女が成仏も法華経の功力なり、 文殊師利菩薩は唯常宣説妙法華経と
08 こそかたらせ給へ、唯常の二字は八字の中の肝要なり、 菩提心論の唯真言法中の唯の字と・今の唯の字と・いづれ
09 を本とすべきや、彼の唯の字はをそらくはあやまりなり、 無量義経に云く「四十余年未だ真実を顕さず」、 法華
10 経に云く 「世尊の法は久くして後に要当に真実を説きたもうべし」、 多宝仏は皆是真実とて法華経にかぎりて即
11 身成仏ありとさだめ給へり、 爾前経にいかように成仏ありともとけ・権宗の人人・無量にいひくるふとも・ただほ
12 うろく千につち一つなるべし、法華折伏・破権門理とはこれなり、尤もいみじく秘奥なる法門なり。
13   又天台の学者・慈覚よりこのかた玄.文・止の三大部の文をとかく・れうけんし義理をかまうとも.去年のこよみ
14 昨日の食のごとし・けうの用にならず、 末法の始の五百年に法華経の題目をはなれて成仏ありといふ人は・仏説な
15 りとも用ゆべからず、 何に況や人師の義をや、 爰に日蓮思ふやう提婆品を案ずるに 提婆は釈迦如来の昔の師な
16 り、 昔の師は今の弟子なり・今の弟子はむかしの師なり、 古今能所不二にして法華の深意をあらわす、されば悪
17 逆の達多には慈悲の釈迦如来師となり・ 愚癡の竜女には智慧の文殊師となり・文殊・釈迦如来にも日蓮をとり奉る
18 べからざるか、日本国の男は提婆がごとく・女は竜女にあひにたり、 逆順ともに成仏を期すべきなり・是れ提婆品
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01 の意なり。
02   次に勧持品に八十万億那由佗の菩薩の異口同音の二十行の偈は日蓮一人よめり、 誰か出でて日本国・唐土・天
03 竺・三国にして仏の滅後によみたる人やある、 又我よみたりと・なのるべき人なし・又あるべしとも覚へず、及加
04 刀杖の刀杖の二字の中に・もし杖の字にあう人はあるべし・刀の字にあひたる人をきかず、 不軽菩薩は杖木・瓦石
05 と見えたれば杖の字にあひぬ刀の難はきかず、 天台・妙楽・伝教等は刀杖不加と見えたれば是又かけたり、日蓮は
06 刀杖の二字ともに・あひぬ、 剰へ刀の難は前に申すがごとく東条の松原と竜口となり、一度も・あう人なきなり日
07 蓮は二度あひぬ、 杖の難にはすでにせうばうにつらをうたれしかども第五の巻をもつてうつ、 うつ杖も第五の巻
08 うたるべしと云う経文も五の巻・ 不思議なる未来記の経文なり、 されば・せうばうに日蓮数十人の中にしてうた
09 れし時の心中には・法華経の故とはをもへども・いまだ凡夫なればうたてかりける間・つえをも・うばひ・ちからあ
10 るならば・ふみをりすつべきことぞかし、然れども・つえは法華経の五の巻にてまします。
11   いま・をもひ・いでたる事あり、子を思ふ故にや・をやつぎの木の弓をもつて学文せざりし子にをしへたり、然
12 る間・此の子うたてかりしは父・にくかりしは・つぎの木の弓、されども終には修学増進して自身得脱をきわめ・又
13 人を利益する身となり、 立ち還つて見れば・つぎの木をもつて我をうちし故なり、 此の子そとばに此の木をつく
14 り父の供養のためにたててむけりと見へたり、 日蓮も又かくの如くあるべきか、 日蓮仏果をえむに争かせうばう
15 が恩をすつべきや、何に況や法華経の御恩の杖をや、かくの如く思ひつづけ候へば感涙をさへがたし。
16   又涌出品は日蓮がためには・すこしよしみある品なり、 其の故は上行菩薩等の末法に出現して南無妙法蓮華経
17 の五字を弘むべしと見へたり、 しかるに先日蓮一人出来す六万恒沙の菩薩より・ さだめて忠賞をかほるべしと思
18 へば・たのもしき事なり、 とにかくに法華経に身をまかせ信ぜさせ給へ、殿一人にかぎるべからず・信心をすすめ
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01 給いて過去の父母等をすくわせ給へ。
02   日蓮生れし時より・いまに一日片時も・こころやすき事はなし、此の法華経の題目を弘めんと思うばかりなり、
03 相かまへて相かまへて自他の生死はしらねども 御臨終のきざみ生死の中間に日蓮かならず・ むかいにまいり候べ
04 し、三世の諸仏の成道はねうしのをわり・とらのきざみの成道なり、 仏法の住処・鬼門の方に三国ともにたつなり
05 此等は相承の法門なるべし委くは又申すべく候、恐恐謹言。
06   かつへて食をねがひ・ 渇して水をしたうがごとく・恋いて人を見たきがごとく・ 病にくすりをたのむがごと
07   く、 みめかたちよき人・べにしろいものをつくるがごとく・法華経には信心をいたさせ給へ、さなくしては後
08   悔あるべし、云云。
09       弘安二年己卯卯月二十日                 日蓮花押
10     上野殿御返事
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上野殿御返事   弘安二年    五十八歳御作
01   鵞目一貫・しほ一たわら・蹲鴟一俵・はじかみ少少・使者をもつて送り給び畢んぬ、あつきには水を財とす・さ
02 むきには火を財とす・けかちには米を財とす、 いくさには兵杖を財とす・海には船を財とす・山には馬をたからと
03 す・武蔵下総に石を財とす、此の山中には・いえのいも・海のしほを財とし候ぞ、竹の子・木の子等候へども・しほ
04 なければそのあぢわひつちのごとし、 又金と申すもの国王も財とし民も財とす、たとへば米のごとし・ 一切衆生
05 のいのちなり。
06   ぜに又かくのごとし、漢土に銅山と申す山あり・彼の山よりいでて候ぜになれば・一文もみな三千里の海をわた
07 りて来るものなり、 万人皆たまとおもへり、 此れを法華経にまいらせさせ給う、 釈まなんと申せし人のたな心
08 には石変じて珠となる・ 金ぞく王は沙を金となせり、 法華経は草木を仏となし給う・いわうや心あらん人をや、
09 法華経は焼種の二乗を仏となし給う・いわうや生種の人をや、 法華経は一闡提を仏となし給う・いわうや信ずるも
10 のをや、事事つくしがたく候、又又申すべし、恐恐謹言。
11       八月八日                                 日蓮花押
12     上野殿御返事
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上野殿御返事   弘安二年    五十八歳御作
01   唐土に竜門と申すたきあり・たかき事十丈・水の下ることがつひやうが・やをいをとすよりもはやし、このたき
02 にををくのふなあつまりて・のぼらむと申す、ふなと申すいをののぼりぬれば・りうとなり候、百に一・千に一・万
03 に一・十年.二十年に一も・のぼる事なし、或ははやきせにかへり・或ははし.たか・とび・ふくろうにくらわれ、或
04 は十丁のたきの左右に漁人ども.つらなりゐて・或はあみをかけ・或はくみとり・或はいてとるものもあり、いをの.
05 りうとなる事かくのごとし。
06   日本国の武士の中に源平二家と申して王の門守の犬二疋候、 二家ともに王を守りたてまつる事やまかつが八月
07 十五夜のみねより・いづるを・あいするがごとし、でんじやうの・なんによの・あそぶをみては月と星との・ひかり
08 をあわせたるを・木の上にて・さるのあいするがごとし、 かかる身にてはあれども・いかんがして我等でんじやう
09 の・まじわりをなさんと・ねがいし程に・ 平氏の中に貞盛と申せし者・将門を打ちてありしかども昇でんをゆるさ
10 れず、其の子正盛又かなわず・其の子忠盛が時・始めて昇でんをゆるさる、 其の後清盛・重盛等でんじやうにあそ
11 ぶのみならず、月をうみ日をいだくみとなりにき、 仏になるみち・これにをとるべからず、いをの竜門をのぼり・
12 地下の者の・でんじやうへ・まいるがごとし。
13   身子と申せし人は仏にならむとて六十劫が間・菩薩の行をみてしかども、こらへかねて二乗の道に入りにき、大
14 通結縁の者は三千塵点劫久遠下種の人の五百塵点劫生死にしづみし 此等は法華経を行ぜし程に第六天の魔王・ 国
15 主等の身に入りて・とかうわづらわせしかば・たいしてすてしゆへに・そこばくの劫に六道には・めぐりしぞかし。
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01   かれは人の上とこそ・みしかども今は我等がみにかかれり、願くは我が弟子等・大願ををこせ、去年去去年のや
02 くびやうに死にし人人の・かずにも入らず、 又当時・蒙古のせめに・まぬかるべしともみへず、とにかくに死は一
03 定なり、其の時のなげきは・たうじのごとし、 をなじくは・かりにも法華経のゆへに命をすてよ、つゆを大海にあ
04 つらへ・ ちりを大地にうづむとをもへ、 法華経の第三に云く「願くは此の功徳を以て普く一切に及ぼし我等と衆
05 生と皆共に仏道を成ぜん」云云、恐恐謹言。
06       十一月六日                       日蓮花押
07     上野賢人殿御返事
08   此れはあつわらの事の・ありがたさに申す御返事なり。
上野殿御返事
01   白米一だをくり給び了んぬ。
02   一切の事は時による事に候か、春は花・秋は月と申す事も時なり、 仏も世にいでさせ給いし事は法華経のため
03 にて候いしかども・四十余年はとかせ給はず、 其の故を経文にとかれて候には説時未至故等と云云、 なつあつわ
04 たのこそで・冬かたびらをたびて候は・うれしき事なれども・ふゆのこそで・なつのかたびらには・すぎず・うへて
05 候時のこがね・かつせる時のごれうは・うれしき事なれども・はんと水とにはすぎず、仏に土をまいらせて候人・仏
06 となり・玉をまいらせて地獄へゆくと申すこと・これか。
07   日蓮は日本国に生れてわわくせず・ぬすみせず.かたがたのとがなし、末代の法師には・とがうすき身なれども.
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01 文をこのむ王に武のすてられ・いろをこのむ人に正直物のにくまるるがごとく・ 念仏と禅と真言と律とを信ずる代
02 に値うて法華経を・ひろむれば王臣・万民ににくまれて・結句は山中に候へば天いかんが計らわせ給うらむ、 五尺
03 のゆきふりて本よりも・かよわぬ山道ふさがり・といくる人もなし、衣もうすくて・かんふせぎがたし・食たへて命
04 すでに・をはりなんとす、かかるきざみに・いのちさまたげの御とぶらひ・かつはよろこび・かつはなけかし、一度
05 にをもひ切つて・うへしなんと・あんじ切つて候いつるに・わづかの・ともしびに・あぶらを入そへられたるがごと
06 し、あわれあわれたうとく・めでたき御心かな、釈迦仏・法華経定めて御計らい給はんか、恐恐謹言。
07       弘安二年十二月廿七日                日 蓮 花 押
08     上野殿御返事
上野殿御返事
01   十字六十枚.清酒一筒・薯蕷五十本・柑子二十・串柿一連.送り給び候い畢んぬ、法華経の御宝前にかざり進らせ
02 候、春の始め三日種種の物・法華経の御宝前に捧げ候い畢んぬ。
03   花は開いて果となり.月は出でて必ずみち・燈は油をさせば光を増し・草木は雨ふればさかう.人は善根をなせば
04 必ずさかう、其の上元三の御志元一にも超へ、十字の餅・満月の如し、事事又又申すべく候。
05       弘安三年庚辰正月十一日                       日蓮花押
06     上野殿
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上野殿御返事
01   故上野殿/御忌日の僧料米一たはら・たしかに給び候い畢んぬ、御仏に供しまいらせて自我偈一巻よみまいら
02 せ候べし。
03   孝養と申すは・まづ不孝を知りて孝をしるべし、不孝と申すは酉夢と云う者・父を打ちしかば天雷身をさく・班
04 婦と申せし者・母をのりしかば毒蛇来りてのみき、 阿闍世王・父をころせしかば白癩病の人となりにき、波瑠璃王
05 は親をころせしかば 河上に火出でて現身に無間にをちにき、 他人をころしたるには・ いまだかくの如くの例な
06 し。
07   不孝をもつて思ふに孝養の功徳のおほきなる事も・しられたり、外典三千余巻は他事なし・ただ父母の孝養ばか
08 りなり、 しかれども現世をやしなひて後生をたすけず、 父母の恩のおもき事は大海のごとし・現世をやしなひ後
09 生をたすけざれば・一渧のごとし、 内典五千余巻又他事なし・ただ孝養の功徳をとけるなり、しかれども如来四十
10 余年の説教は孝養ににたれども・その説いまだあらはれず・孝が中の不孝なるべし、 目連尊者の母の餓鬼道の苦を
11 すくひしは・わづかに人天の苦をすくひて・いまだ成仏のみちにはいれず、 釈迦如来は御年三十の時・父浄飯王に
12 法を説いて第四果をえせしめ給へり、 母の摩耶夫人をば御年三十八の時・阿羅漢果をえせしめ給へり、 此等は孝
13 養ににたれども還つて仏に不孝のとがあり、 わづかに六道をば・ はなれしめたれども父母をば永不成仏の道に入
14 れ給へり、譬へば太子を凡下の者となし王女を匹夫に・ あはせたるが如し、 されば仏説いて云く「我則ち慳貪に
15 堕せん此の事は為て不可なり」云云、 仏は父母に甘露をおしみて麦飯を与へたる人・ 清酒をおしみて濁酒をのま
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01 せたる不孝第一の人なり、 波瑠璃王のごとく現身に無間大城におち・阿闍世王の如く即身に白癩病をも・つぎぬべ
02 かりしが、 四十二年と申せしに法華経を説き給いて 「是の人滅度の想を生じて涅槃に入ると雖も而も彼の土に於
03 て仏の智慧を求めて是の経を聞くことを得ん」と、 父母の御孝養のため 法華経を説き給いしかば、 宝浄世界の
04 多宝仏も実の孝養の仏なりと・ ほめ給い・十方の諸仏もあつまりて一切諸仏の中には孝養第一の仏なりと定め奉り
05 き。
06   これをもつて案ずるに日本国の人は皆不孝の仁ぞかし、 涅槃経の文に不孝の者は大地微塵よりも多しと説き給
07 へり、 されば天の日月・八万四千の星・各いかりをなし・眼をいからかして日本国をにらめ給ふ、今の陰陽師の天
08 変・頻りなりと奏し申す是なり、 地夭・日日に起りて大海の上に小船をうかべたるが如し、 今の日本国の小児は
09 魄をうしなひ・女人は血をはく是なり。
10   貴辺は日本国・第一の孝養の人なり.梵天・帝釈をり下りて左右の羽となり.四方の地神は足をいただいて父母と
11 あをぎ給うらん、事多しと・いへども・とどめ候い畢んぬ、恐恐謹言。
12       弘安三年三月八日                    日蓮花押
13     進上 上野殿御返事
上野殿御返事    弘安三年七月二日    五十九歳御作
01   去ぬる六月十五日のけさん悦び入つて候、 さては・かうぬし等が事いままでかかへをかせ給いて候事ありがた
02 く・をぼへ候、ただし・ないないは法華経をあだませ給うにては候へども・うへには・たの事によせて事かづけ・に
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01 くまるるかのゆへに・あつわらのものに事をよせて・かしこ・ここをもせかれ候こそ候いめれ、 さればとて上に事
02 をよせて・せかれ候はんに御もちゐ候はずは物をぼへぬ人に・ならせ給うべし、 をかせ給いて・あしかりぬべきや
03 うにて候わば・しばらく・かうぬし等をば・これへとをほせ候べし、めこなんどはそれに候とも・よも御たづねは候
04 はじ、事のしづまるまで・それに・をかせ給いて候わば・よろしく候いなんと・をぼへ候。
05   よのなか上につけ下によせて.なげきこそををく候へ、よにある人人をば・よになき人人は・きじの・たかをみ.
06 がきの毘沙門をたのしむがごとく候へども・たかはわしにつかまれ、びしやもんは・すらにせめらる、 そのやうに
07 当時・日本国のたのしき人人は蒙古国の事をききては・ひつじの虎の声を聞くがごとし、 また筑紫へおもむきて・
08 いとをしきめを.はなれ子をみぬは・皮をはぎ・肉をやぶるが・ごとくにこそ候らめ、いわうや.かの国より・おしよ
09 せなば蛇の口のかえる・はうちやうしがまないたに・をける・こゐふなのごとくこそおもはれ候らめ、 今生はさて
10 をきぬ・ 命きえなば一百三十六の地獄に堕ちて無量劫ふべし、 我等は法華経をたのみまいらせて候へば・あさき
11 ふちに魚のすむが・天くもりて雨のふらんとするを魚のよろこぶが・ごとし。
12   しばらくの苦こそ候とも.ついには・たのしかるべし、国王一人の太子のごとし・いかでか位につかざらんと.お
13 ぼしめし候へ、恐恐謹言。
14       弘安三年七月二日                    日蓮花押
15     上野殿御返事
16   人にしらせずして、ひそかにをほせ候べし。
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上野殿御返事
01   女子は門をひらく・男子は家をつぐ・日本国を知つても子なくは誰にか・つがすべき、財を大千にみてても子な
02 くばだれにかゆづるべき、 されば外典三千余巻には子ある人を長者といふ、内典五千余巻には子なき人を貧人とい
03 ふ、女子一人・男子一人・たとへば天には日月のごとく・地には東西にかたどれり、鳥の二つのはね・車の二つのわ
04 なり、さればこの男子をば日若御前と申させ給へ、くはしくは又又申すべし。
05       弘安三年八月二十六日                日 蓮 花 押
06     上野殿御返事
南条殿御返事
01   はくまいひとふくろ.いも一だ給び了んぬ、抑故なんでうの七らうごらうどのの事、いままでは・ゆめかゆめか.
02 まぼろしか・まぼろしかとうたがいて・そらごととのみをもひて候へば・此の御ふみにも・あそばされて候、 さて
03 は、まことかまことかとはじめて・うたがいいできたりて候。
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上野殿御書
01   大海の一渧は五味のあぢわい・江河の一渧は一つの薬なり、大海の一渧は万種の瓦のごとし、 南無阿弥陀仏は
02 一河の一渧・南無妙法蓮華経は大海の一渧・阿弥陀経は小河の一てい・法華経の一乗は大海の一てい、 故五郎殿の
03 十六年が間の罪は江河の一てい、 須臾の間の南無妙法蓮華経は大海の一ていのごとし、 夫れ以れば華はつぼみさ
04 いて菓なる、をやは死にて子にになわる、これ次第なり。
上野殿御書
01   南条七郎五郎殿の御死去の御事、 人は生れて死するならいとは智者も愚者も上下一同に知りて候へば・始めて
02 なげくべしをどろくべしとわをぼへぬよし・我も存じ人にもをしへ候へども・時にあたりて・ゆめか・まぼろしか・
03 いまだわきまへがたく候、 まして母のいかんがなげかれ候らむ、父母にも兄弟にも・をくれはてて・いとをしきを
04 とこに・すぎわかれたりしかども・子ども・あまたをはしませば心なぐさみてこそ・をはしつらむ、いとをしき・て
05 こご・しかもをのこご・みめかたちも人にすぐれ心も・かいがいしくみへしかば・よその人人も・すずしくこそみ候
06 いしに・あやなく・つぼめる花の風にしぼみ・満つる月の・にわかに失たるがごとくこそをぼすらめ、まこととも・
07 をぼへ候はねば・かきつくるそらも・をぼへ候はず、又又申すべし、恐恐謹言。
08       弘安三年九月六日                  日 蓮 花 押
09     上野殿御返事
10   追申、 此の六月十五日に見奉り候いしに・あはれ肝ある者かな男や男やと見候いしに・又見候はざらん事こそ
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01   かなしくは候へ、さは候へども釈迦仏・法華経に身を入れて候いしかば臨終・目出たく候いけり、 心は父君と
02   一所に霊山浄土に参りて・手をとり頭を合せてこそ悦ばれ候らめ、あはれなり・あはれなり。
上野殿母御前御返事 
01   南条故七郎五郎殿の四十九日.御菩提のために送り給う物の日記の事、鵞目両ゆひ・白米一駄・芋一駄.すりだう
02 ふ・こんにやく・柿一篭・ゆ五十等云云御菩提の御ために法華経一部・自我偈数度・題目百千返唱へ奉り候い畢ぬ。
03   抑法華経と申す御経は一代聖教には似るべくもなき御経にて・而かも唯仏与仏と説かれて仏と仏とのみこそ・し
04 ろしめされて・等覚已下乃至凡夫は叶はぬ事に候へ。
05   されば竜樹菩薩の大論には仏已下はただ信じて仏になるべしと見えて候、 法華経の第四法師品に云く「薬王今
06 汝に告ぐ我が所説の諸経あり 而も此の経の中に於て法華最も第一なり」等云云、 第五の巻に云く「文殊師利此の
07 法華経は諸仏如来の秘密の蔵なり 諸経の中に於て最も其の上に在り」等云云、 第七の巻に云く「此の法華経も亦
08 復是くの如し諸経の中に於て最も其の上たり」又云く 「最も照明たり最も其の尊たり」等云云、 此等の経文私の
09 義にあらず 仏の誠言にて候へば定めて・ よもあやまりは候はじ、 民が家に生れたる者我は侍に斉しなんど申せ
10 ば必ずとが来るまして我れ国王に斉し・まして勝れたりなんと申せば・我が身のとがと・なるのみならず・父母と申
11 し妻子と云ひ必ず損ずる事、大火の宅を焼き大木の倒るる時・小木等の損ずるが如し。
12   仏教も又かくの如く華厳.阿含・方等・般若・大日経.阿弥陀経等に依る人人の我が信じたるままに勝劣も弁へず
13 して・我が阿弥陀経等は法華経と斉等なり・将た又勝れたりなんど申せば・其の一類の人人は我が経をほめられ・う
14 れしと思へども還つてとがとなりて・師も弟子も檀那も悪道に堕つること・箭を射るが如し、 但し法華経の一切経
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01 に勝れりと申して候は・くるしからず還つて大功徳となり候、経文の如くなるが故なり。
02   此の法華経の始に無量義経と申す経おはします、 譬えば大王の行幸の御時・将軍前陣して狼籍をしづむるが如
03 し、 其の無量義経に云く「四十余年には未だ真実を顕さず」等云云、 此れは将軍が大王に敵する者を大弓を以て
04 射はらひ・又太刀を以て切りすつるが如し、華厳経を読む華厳宗・阿含経の律僧等・観経の念仏者等・大日経の真言
05 師等の者共が法華経にしたがはぬを・ せめなびかす利剣の勅宣なり、 譬えば貞任を義家が責め清盛を頼朝の打ち
06 失せしが如し、無量義経の四十余年の文は不動明王の剣索・愛染明王の弓箭なり。
07   故南条五郎殿の死出の山.三途の河を越し給わん時・煩悩の山賊・罪業の海賊を静めて.事故なく霊山浄土へ参ら
08 せ給うべき御供の兵者は無量義経の四十余年・未顕真実の文ぞかし。
09   法華経第一の巻・方便品に云く「世尊の法は久くして後要らず当に真実を説きたもうべし」又云く「正直に方便
10 を捨てて但無上道を説く」云云、 第五の巻に云く「唯髻中の明珠」又云く「独り王の頂上に此の一珠有り」又云く
11 「彼の強力の王の久しく護れる明珠を今乃ち之を与うるが如し」等云云、 文の心は日本国に一切経わたれり七千三
12  百九十九巻なり彼れ彼れの経経は皆法華経の眷属なり、 例せば日本国の男女の数・四十九億九万四千八百二十八
13 人候へども皆一人の国王の家人たるが如し、 一切経の心は愚癡の女人なんどの唯一時に心うべきやうは・ たとへ
14 ば大塔をくみ候には先ず材木より外に足代と申して 多くの小木を集め一丈二丈計りゆひあげ候なり、 かくゆひあ
15 げて材木を以て大塔をくみあげ候いつれば・ 返つて足代を切り捨て大塔は候なり、 足代と申すは一切経なり大塔
16 と申すは法華経なり、 仏一切経を説き給いし事は法華経を説かせ給はんための足代なり、 正直捨方便と申して法
17 華経を信ずる人は阿弥陀経等の南無阿弥陀仏・ 大日経等の真言宗・阿含経等の律宗の二百五十戒等を切りすて抛ち
18 てのち法華経をば持ち候なり、 大塔をくまんがためには足代大切なれども大塔をくみあげぬれば・ 足代を切り落
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01 すなり、正直捨方便と申す文の心是なり、 足代より塔は出来して候へども塔を捨てて・足代ををがむ人なし、 今
02 の世の道心者等・一向に南無阿弥陀仏と唱えて一生をすごし・ 南無妙法蓮華経と一返も唱へぬ人人は大塔をすてて
03 足代ををがむ人人なり、世間にかしこく・はかなき人と申すは是なり。
04   故七郎五郎殿は当世の日本国の人人には・にさせ給はず、をさなき心なれども賢き父の跡をおひ御年いまだ・は
05 たちにも及ばぬ人が、 南無妙法蓮華経と唱えさせ給いて仏にならせ給いぬ・無一不成仏は是なり、 乞い願わくは
06 悲母我が子を恋しく思食し給いなば南無妙法蓮華経と唱えさせ給いて・ 故南条殿・故五郎殿と一所に生れんと願は
07 せ給へ、一つ種は一つ種・別の種は別の種・同じ妙法蓮華経の種を心に・はらませ給いなば・同じ妙法蓮華経の国へ
08 生れさせ給うべし、三人面をならべさせ給はん時・御悦びいかが・うれしくおぼしめすべきや。
09   抑此の法華経を開いて拝見仕り候へば 「如来則ち為に衣を以て之を覆いたもう又他方現在の諸仏の護念する所
10 と為らん」等云云、 経文の心は東西南北・八方・並びに三千大千世界の外・四百万億那由佗の国土に十方の諸仏ぞ
11 くぞくと充満せさせ給う、 天には星の如く・地には稲麻のやうに並居させ給ひ、 法華経の行者を守護せさせ給ふ
12 事、譬えば大王の太子を諸の臣下の守護するが如し、 但四天王・一類のまほり給はん事の・かたじけなく候に、一
13 切の四天王・一切の星宿.一切の日月・帝釈・梵天等の守護せさせ給うに足るべき事なり、其の上.一切の二乗・一切
14 の菩薩・兜率内院の弥勒菩薩・迦羅陀山の地蔵・補陀落山の観世音・清凉山の文殊師利菩薩等・各各眷属を具足して
15 法華経の行者を守護せさせ給うに足るべき事に候に・又かたじけなくも釈迦・ 多宝・十方の諸仏のてづからみづか
16 ら来り給いて・昼夜十二時に守らせ給はん事のかたじけなさ申す計りなし。
17   かかるめでたき御経を故五郎殿は御信用ありて仏にならせ給いて・ 今日は四十九日にならせ給へば・一切の諸
18 仏・霊山浄土に集まらせ給いて・或は手にすへ.或は頂をなで・或はいだき・或は悦び・月の始めて出でたるが如く.
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01 花の始めてさけるが如く・いかに愛しまいらせ給うらん、 抑いかなれば三世・十方の諸仏はあながちに此の法華経
02 をば守らせ給ふと勘へて候へば・道理にて候けるぞ・法華経と申すは三世十方の諸仏の父母なり・めのとなり・主に
03 てましましけるぞや、 かえると申す虫は母の音を食とす・ 母の声を聞かざれば生長する事なし、からぐらと申す
04 虫は風を食とす・風吹かざれば生長せず、 魚は水をたのみ・鳥は木をすみかとす・仏も亦かくの如く法華経を命と
05 し・食とし.すみかとし給うなり、魚は水にすむ・仏は此の経にすみ給う・鳥は木にすむ.仏は此の経にすみ給う・月
06 は水にやどる・仏は此の経にやどり給う、此の経なき国には仏まします事なしと御心得あるべく候。
07   古昔輪陀王と申せし王をはしき南閻浮提の主なり、 此の王はなにをか供御とし給いしと尋ぬれば・白鳥のいな
08 なくを聞いて食とし給う、此の王は白馬のいななけば年も若くなり・色も盛んに・魂もいさぎよく・力もつよく・又
09 政事も明らかなり、 故に其の国には白馬を多くあつめ飼いしなり、 譬えば魏王と申せし王の鶴を多くあつめ・徳
10 宗皇帝のほたるを愛せしが如し、 白馬のいななく事は又白鳥の鳴きし故なり、 されば又白鳥を多く集めしなり、
11 或時如何しけん白鳥皆うせて・白馬いななかざりしかば、 大王供御たえて盛んなる花の露にしほれしが如く・満月
12 の雲におほはれたるが如し、此の王既にかくれさせ給はんとせしかば、后・太子・大臣・一国・皆母に別れたる子の
13 如く・皆色をうしなひて涙を袖におびたり・如何せん.如何せん、其の国に外道多し・当時の禅宗・念仏者・真言師.
14 律僧等の如し、又仏の弟子も有り・当時の法華宗の人人の如し、中悪き事・水火なり・胡と越とに似たり、 大王勅
15 宣を下して云く、 一切の外道・此の馬をいななかせば仏教を失いて一向に外道を信ぜん事・諸天の帝釈を敬うが如
16 くならん、 仏弟子此の馬を・いななかせば一切の外道の頚を切り其の所をうばひ取りて仏弟子につくべしと云云、
17 外道も色をうしなひ・仏弟子も歎きあへり、 而れども・さてはつべき事ならねば外道は先に七日を行ひき、白鳥も
18 来らず・白馬もいななかず、 後七日を仏弟子に渡して祈らせしに・馬鳴と申す小僧一人あり、諸仏の御本尊とし給
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01 う法華経を以て七日祈りしかば・白鳥壇上に飛び来る、此の鳥一声鳴きしかば・一馬・一声いななく、 大王は馬の
02 声を聞いて病の牀よりをき給う、后より始めて諸人.馬鳴に向いて礼拝をなす、白鳥.一・二・三乃至.十・百・千/出
03 来して国中に充満せり、白馬しきりに・いななき一馬・二馬・乃至百・千の白馬いななきしかば・大王此の音を聞こ
04 し食し面貌は三十計り・心は日の如く明らかに政正直なりしかば、 天より甘露ふり下り、 勅風・万民をなびかし
05 て無量・百歳代を治め給いき。
06   仏も又かくの如く多宝仏と申す仏は此の経にあひ給はざれば御入滅・此の経をよむ代には出現し給う、釈迦仏・
07 十方の諸仏も亦復かくの如し、 かかる不思議の徳まします経なれば・此の経を持つ人をば・いかでか天照太神・八
08 幡大菩薩・富士千眼大菩薩すてさせ給うべきと・たのもしき事なり、 又此の経にあだをなす国をば・いかに正直に
09 祈り候へども・ 必ず其の国に七難起りて他国に破られて亡国となり候事・大海の中の大船の大風に値うが如く・大
10 旱魃の草木を枯らすが如しと・をぼしめせ、当時・日本国のいかなる・いのり候とも・日蓮が一門・法華経の行者を
11 あなづらせ給へば・さまざまの御いのり叶はずして大蒙古国にせめられて・すでに・ほろびんとするが如し、 今も
12 御覧ぜよ・ただかくては候まじきぞ・是れ皆法華経をあだませ給う故と御信用あるべし。
13   抑故五郎殿かくれ給いて既に四十九日なり、 無常はつねの習いなれども此の事うち聞く人すら猶忍びがたし、
14 況や母となり妻となる人をや・心の中をしはかられて候、 人の子には幼きもあり・長きもあり・みにくきもあり・
15 かたわなるもある物をすら思いに・なるべかりけるにや、 をのこごたる上よろづに・たらひなさけあり、故上野殿
16 には壮なりし時をくれて歎き浅からざりしに・ 此の子を懐姙せずば火にも入り水にも入らんと思いしに・此の子す
17 でに平安なりしかば・誰にあつらへて身をも・なぐべきと思うて、 此に心をなぐさめて此の十四五年はすぎぬ、い
18 かに・いかにと.すべき、二人のをのこごにこそ・になわれめと.たのもしく思ひ候いつるに・今年九月五日・月を雲
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01 にかくされ・花を風にふかせて・ゆめか・ゆめならざるか・あわれひさしきゆめかなと・なげきをり候へば・うつつ
02 ににて・すでに四十九日はせすぎぬ、まことならば・いかんがせん、さける花は・ちらずして・つぼめる花のかれた
03 る、をいたる母は・とどまりて・わかきこは・さりぬ、なさけなかりける無常かな・無常かな。
04   かかる.なさけなき国をば・いとい・すてさせ給いて故五郎殿の御信用ありし法華経につかせ給いて.常住不壊の
05 りやう山浄土へとくまいらせ給うちちはりやうぜんにまします・母は娑婆にとどまれり、 二人の中間に・をはしま
06 す故五郎殿の心こそ・をもひやられて・あわれに・をぼへ候へ、事多しと申せども・とどめ候い畢んぬ、恐恐謹言。
07       十月二十四日                    日 蓮 花 押
08     上野殿母尼御前御返事
南条殿御返事
01   シロ牙二石並びにイモノ鵄一だ.故五郎殿百ケ日等云云、法華経の第七に云く,「川流江河諸水の中に海これ第一
02 なり此の法華経も亦復是くの如し」等云云、此の経は法華経をば大海に譬へられて候、大海と申すは・ふかき事八万
03 四千由旬広きこと又かくのごとし、 此の大海の中にはなになにのすみ有りと申し候へば阿修羅王・ 凡夫にてをは
04 せし時・不妄語戒を持ちて・まなこをぬかれ・かわをはがれ.ししむらをやぶられ・血をすはれ骨かれ・子を殺され.
05 めをうばわれなんどせしかども・ 無量劫が間・一度もそら事なくして其の功に依りて仏となり給いて候が・無一不
06 成仏と申して南無妙法蓮華経を只一度申せる人・一人として仏にならざるはなしと・とかせ給いて候、 釈迦一仏の
07 仰せなりとも疑うべきにあらざるに・十方の仏の御前にて・ なにのゆへにか・そら事をばせさせ給うべき、其の上
08 釈迦仏と十方の仏と同時に舌を大梵天に。
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上野殿御返事
01   鵞目一貫文送り給い了んぬ、御心ざしの候へば申し候ぞ・よくふかき御房とおぼしめす事なかれ。
02   仏にやすやすとなる事の候ぞ・をしへまいらせ候はん、 人のものををしふると申すは車のおもけれども油をぬ
03 りてまわり・ふねを水にうかべてゆきやすきやうにをしへ候なり、 仏になりやすき事は別のやう候はず、 旱魃に
04 かわけるものに水をあたへ・寒冰にこごへたるものに火をあたふるがごとし、 又二つなき物を人にあたへ・命のた
05 ゆるに人のせにあふがごとし。
06   金色王と申せし王は其の国に十二年の大旱魃あつて万民飢え死ぬる事かずをしらず、 河には死人をはしとし・
07 陸にはがいこつをつかとせり、 其の時・金色大王・大菩提心ををこしておほきに施をほどこし給いき、せすべき物
08 みなつきて蔵の内に・ただ米五升ばかりのこれり、 大王の一日の御くごなりと臣下申せしかば・大王五升の米をと
09 り出だして・一切の飢えたるものに或は一りう・二りう・或は三りう・四りうなんど・あまねくあたへさせ給いての
10 ち・天に向わせ給いて朕は一切衆生のけかちの苦に・かはりて・うえじに候ぞと・こえをあげて・よばはらせ給いし
11 かば・天きこしめして甘呂の雨を須臾に下し給いき、 この雨を身にふれ・かをにかかりし人・皆食にあきみちて一
12 国の万民・せちなのほどに・命よみかへりて候いけり。
13   月氏国にす達長者と申せし者は七度貧になり・七度長者となりて候いしが・最後の貧の時は万民皆にげうせ・死
14 にをはりて・ただ.めおとこ二人にて候いし時・五升の米あり五日のかつてとあて候いし時・迦葉.舎利弗・阿難・羅
15 ゴ羅・釈迦仏の五人・次第に入らせ給いて五升の米をこひとらせ給いき、 其の日より五天竺第一の長者となりて・
16 祇園精舎をば・つくりて候ぞ、これをもつて・よろづを心へさせ給へ。
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01   貴辺は・すでに法華経の行者に似させ給へる事・さるの人に似・もちゐの月に似たるがごとし、あつはらのもの
02 どもの・かくをしませ給へる事は・承平の将門・天喜の貞当のやうに此の国のものどもは・おもひて候ぞ、これひと
03 へに法華経に命をすつるがゆへなり、 まつたく主君にそむく人とは天・御覧あらじ、其の上わづかの小郷に・をほ
04 くの公事せめあてられて・わが身は・のるべき馬なし・妻子はひきかくべき衣なし。
05   かかる身なれども法華経の行者の山中の雪に・せめられ食ともしかるらんと・おもひやらせ給いて・ぜに一貫を
06 くらせ給へるは・ 貧女がめおとこ二人して一つの衣をきたりしを乞食にあたへ・りだが合子の中なりし・ひえを辟
07 支仏に・あたへたりしがごとし、たうとし・たうとし、くはしくは又又申すべく候、恐恐謹言。
08       弘安三年十二月二十七日               日 蓮 花 押
09     上野殿御返事
上野尼御前御返事
01   聖人ひとつつ.ひさげ十か・十字百.あめひとをけ・二升か.柑子ひとこ・串柿十くし.ならびにおくり候い了んぬ
02 春のはじめ御喜び花のごとくひらけ・月のごとくみたせ給うべきよしうけ給わり了んぬ。
03   抑故五らうどのの御事こそ・をもいいでられて候へ、ちりし花もさかんとす・かれしくさもねぐみぬ、故五郎殿
04 もいかでか・かへらせ給はざるべき、あわれ無常の花と・くさとのやうならば・人丸にはあらずとも花のもとも・は
05 なれじ、いはうるこまにあらずとも・草のもとをばよもさらじ。
06   経文には子をばかたきととかれて候、 それもゆわれ候か・梟と申すとりは母をくらう・破鏡と申すけだものは
07 父をがいす、 あんろく山と申せし人は師史明と申す子にころされぬ、 義朝と申せしつはものは為義と申すちちを
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01 ころす、子はかたきと申す経文ゆわれて候、 又子は財と申す経文あり、 妙荘厳王は一期の後・無間大城と申す地
02 獄へ堕ちさせ給うべかりしが浄蔵と申せし太子にすくわれて・ 大地獄の苦をまぬがれさせ給うのみならず・娑羅樹
03 王仏と申す仏とならせ給う、 生提女と申せし女人は慳貪のとがによつて餓鬼道に堕ちて候いしが・ 目連と申す子
04 にたすけられて餓鬼道を出で候いぬ、されば子を財と申す経文たがう事なし。
05   故五郎殿はとし十六歳.心ね・みめかたち人にすぐれて候いし上.男ののうそなわりて万人に・ほめられ候いしの
06 みならず、をやの心に随うこと・水のうつわものに・したがい・かげの身に・したがうがごとし、いへにては・はし
07 らとたのみ・道にては・つへとをもいき、はこのたからも・この子のため・つかう所従もこれがため、我しなば・に
08 なわれて・のぼへゆきなんのちの・ あとをもいをく事なしとふかくをぼしめしたりしに・いやなくさきにたちぬれ
09 ば.いかんにや・いかんにや.ゆめか・まぼろしか・さめなん・さめなんと.をもへども・さめずして.としも又かへり
10 ぬ、いつとまつべしとも・をぼへず、 ゆきあうべき・ところだにも申しをきたらば・はねなくとも天へものぼりな
11 ん、ふねなくとも・もろこしへも・わたりなん、大地のそこに・ありときかば・いかでか地をもほらざるべきと・を
12 ぼしめすらむ。
13   やすやすとあわせ給うべき事候、 釈迦仏を御使として・りやうぜん浄土へまいりあわせ給へ、若有聞法者無一
14 不成仏と申して大地はささば・はづるとも・日月は地に堕ち給うとも・しをはみちひぬ世はありとも・花はなつにな
15 らずとも・南無妙法蓮華経と申す女人の・をもう子に・あわずという事はなしととかれて候ぞ、いそぎ・いそぎつと
16 めさせ給へ・つとめさせ給へ、恐恐謹言。
17       正月十三日                                日蓮花押
18     上野尼御前御返事
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上野殿御返事
01   蹲鴟一俵給び了んぬ。
02   又かうぬしのもとに候・御乳塩一疋・並びに口付一人候、さては故五郎殿の事は・そのなげきふりずとおもへど
03 も・御けさんは.はるかなるやうにこそ・おぼえ候へ、なをも.なをも・法華経をあだむ事は・たえつとも見え候はね
04 ば・これよりのちも・いかなる事か候はんずらめども・いままでこらへさせ給へる事まことしからず候、 仏の説い
05 ての給はく火に入りて・やけぬ者はありとも・ 大水に入りてぬれぬものはありとも大山は空へ・とぶとも大海は天
06 へあがるとも・末代悪世に入れば須臾の間も法華経は信じがたき事にて候ぞ。
07   徽宗皇帝は漢土の主じ・蒙古国に.からめとられさせ給いぬ、隠岐の法王は日本国のあるじ・右京の権大夫殿に.
08 せめられさせ給いて・ 島にてはてさせ給いぬ、 法華経のゆへにてだにも・あるならば即身に仏にもならせ給いな
09 ん、 わづかの事には身をやぶり命をすつれども、 法華経の御ゆへに・あやしのとがに・あたらんとおもふ人は候
10 はぬぞ、身にて心みさせ給い候いぬらん、たうとし・たうとし、恐恐謹言。
11       弘安四年三月十八日                 日 蓮 花 押
12     上野殿御返事
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南条殿御返事
01   御使の申し候を承り候、是の所労難儀のよし聞え候、いそぎ療治をいたされ候いて御参詣有るべく候。
02   塩一駄.大豆一俵・とつさか一袋・酒一筒.給び候、上野の国より御帰宅候後は未だ見参に入らず候、牀敷存じ候
03 いし処に品品の物ども取り副え候いて御音信に預り候事申し尽し難き御志にて候。
04   今申せば事新しきに相似て候へども・ 徳勝童子は仏に土の餅を奉りて阿育大王と生れて南閻浮提を大体知行す
05 と承り候、 土の餅は物ならねども仏のいみじく渡らせ給へば・かくいみじき報いを得たり、然るに釈迦仏は・我を
06 無量の珍宝を以て億劫の間・供養せんよりは・ 末代の法華経の行者を一日なりとも供養せん功徳は百千万億倍・過
07 ぐべしとこそ説かせ給いて候に、 法華経の行者を心に入れて数年供養し給う事有り難き御志かな、 金言の如くん
08 ば定めて後生は霊山浄土に生れ給うべしいみじき果報なるかな。
09   其の上此の処は人倫を離れたる山中なり、 東西南北を去りて里もなし、かかる・いと心細き幽窟なれども教主
10 釈尊の一大事の秘法を霊鷲山にして相伝し・ 日蓮が肉団の胸中に秘して隠し持てり、 されば日蓮が胸の間は諸仏
11 入定の処なり、舌の上は転法輪の所・喉は誕生の処・口中は正覚の砌なるべし、 かかる不思議なる法華経の行者の
12 住処なれば・いかでか霊山浄土に劣るべき、 法妙なるが故に人貴し・人貴きが故に所尊しと申すは是なり、神力品
13 に云く 「若しは林の中に於ても若しは樹の下に於ても若しは僧坊に於ても乃至而般涅槃したもう」と云云、 此の
14 砌に望まん輩は 無始の罪障忽に消滅し三業の悪転じて三徳を成ぜん、 彼の中天竺の無熱池に臨みし悩者が心中の
15 熱気を除愈して其の願を充満する事清涼池の如しとうそぶきしも・ 彼れ此れ異なりといへども、 其の意は争でか
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01 替るべき。
02   彼の月氏の霊鷲山は本朝此の身延の嶺なり、参詣遥かに中絶せり急急に来臨を企つべし、 是にて待ち入つて候
03 べし、哀哀申しつくしがたき御志かな・御志かな。
04       弘安四年九月十一日                 日 蓮 花 押
05     南条殿御返事
上野殿御返事
01   いゑのいも一駄.ごばう一つと・大根六本、いもは石のごとし.ごばうは大牛の角のごとし・大根は大仏堂の大く
02 ぎのごとし・あぢわひはトウ利天の甘露のごとし、石を金にかうる国もあり・土をこめにうるところもあり、千金の
03 金をもてる者もうえてしぬ、 一飯をつとにつつめる者に・これをとれり、経に云く「うえたるよには・よねたつと
04 し」と云云、 一切の事は国により時による事なり、 仏法は此の道理をわきまうべきにて候、又又申すべし、恐恐
05 謹言。
06       弘安四年九月廿日                  日 蓮 花 押
07     上野殿御返事
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上野尼御前御返事
01   シラ牙一駄四斗定あらひいも一俵・送り給びて南無妙法蓮華経と唱へまいらせ候い了んぬ。
02   妙法蓮華経と申すは蓮に譬えられて候、天上には摩訶曼陀羅華・人間には桜の花・此等はめでたき花なれども・
03 此れ等の花をば 法華経の譬には仏取り給う事なし、 一切の花の中に取分けて此の花を法華経に譬へさせ給う事は
04 其の故候なり、 或は前花後菓と申して花は前に菓は後なり・或は前菓後花と申して菓は前に花は後なり、 或は一
05 花多菓・或は多花一菓・或は無花有菓と品品に候へども蓮華と申す花は菓と花と同時なり、 一切経の功徳は先に善
06 根を作して後に仏とは成ると説くかかる故に不定なり、 法華経と申すは手に取れば其の手やがて仏に成り・ 口に
07 唱ふれば其の口即仏なり、 譬えば天月の東の山の端に出ずれば其の時即水に影の浮かぶが如く・ 音とひびきとの
08 同時なるが如し、 故に経に云く「若し法を聞くこと有らん者は一として成仏せざること無し」云云、 文の心は此
09 の経を持つ人は百人は百人ながら・千人は千人ながら・一人もかけず仏に成ると申す文なり。
10   抑御消息を見候へば尼御前の慈父・故松野六郎左衛門入道殿の忌日と云云、 子息多ければ孝養まちまちなり、
11 然れども必ず法華経に非ざれば謗法等云云、 釈迦仏の金口の説に云く 「世尊の法は久しくして後要らず当に真実
12 を説きたもうべし」と、 多宝の証明に云く、 妙法蓮華経は皆是れ真実なりと・十方の諸仏の誓に云く舌相梵天に
13 至る云云、 これよりひつじさるの方に大海をわたりて国あり・漢土と名く、 彼の国には或は仏を信じて神を用い
14 ぬ人もあり・或は神を信じて仏を用いぬ人もあり・ 或は日本国も始は・さこそ候いしか、然るに彼の国に烏竜と申
15 す手書ありき・漢土第一の手なり、 例せば日本国の道風・行成等の如し、此の人仏法をいみて経をかかじと申す願
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01 を立てたり、 此の人死期来りて重病をうけ臨終にをよんで子に遺言して云く・汝は我が子なり・その跡絶ずして又
02 我よりも勝れたる手跡なり、 たとひ・いかなる悪縁ありとも法華経をかくべからずと云云、然して後・五根より血
03 の出ずる事・泉の涌くが如し・舌八つにさけ・身くだけて十方にわかれぬ、 然れども一類の人人も三悪道を知らざ
04 れば地獄に堕つる先相ともしらず。
05   其の子をば遺竜と申す又漢土第一の手跡なり、 親の跡を追うて法華経を書かじと云う願を立てたり、其の時大
06 王おはします司馬氏と名く 仏法を信じ殊に法華経をあふぎ給いしが・ 同じくは我が国の中に手跡第一の者に此の
07 経を書かせて持経とせんとて遺竜を召す、 竜申さく父の遺言あり是れ計りは免し給へと云云、 大王父の遺言と申
08 す故に他の手跡を召して一経をうつし畢んぬ、 然りといへ共御心に叶い給はざりしかば・ 又遺竜を召して言はく
09 汝親の遺言と申せば朕まげて経を写させず・ 但八巻の題目計りを勅に随うべしと云云、 返す返す辞し申すに王瞋
10 りて云く 汝が父と云うも我が臣なり親の不孝を恐れて題目を書かずば違勅の科ありと勅定度度重かりしかば・ 不
11 孝はさる事なれども当座の責を・ のがれがたかりしかば 法華経の外題を書きて王へ上げ宅に帰りて父のはかに向
12 いて血の涙を流して申す様は・天子の責重きによつて亡き父の遺言をたがへて・既に法華経の外題を書きぬ。
13   不孝の責免れがたしと歎きて三日の間・墓を離れず食を断ち既に命に及ぶ、 三日と申す寅の時に已に絶死し畢
14 つて夢の如し、 虚空を見れば天人一人おはします・帝釈を絵にかきたるが如し・無量の眷属・天地に充満せり、爰
15 に竜問うて云く何なる人ぞ・答えて云く汝知らずや我は是れ父の烏竜なり、 我人間にありし時・外典を執し仏法を
16 かたきとし、殊に法華経に敵をなしまいらせし故に無間に堕つ、 日日に舌をぬかるる事・数百度・或は死し或は生
17 き・天に仰き地に伏して・なげけども叶う事なし、 人間へ告げんと思へども便りなし、汝我が子として遺言なりと
18 申せしかば・其の言炎と成つて身を責め・剣と成つて天より雨り下る、 汝が不孝極り無かりしかども我が遺言を違
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01 へざりし故に自業自得果・うらみがたかりし所に・金色の仏一体・無間地獄に出現して仮使遍法界・断善諸衆生・一
02 聞法華経・決定成菩提と云云、此の仏・無間地獄に入り給いしかば・大水を大火に・なげたるが如し、少し苦みやみ
03 ぬる処に我合掌して仏に問い奉りて 何なる仏ぞと申せば・ 仏答えて我は是れ汝が子息遺竜が只今書くところの法
04 華経の題目・六十四字の内の妙の一字なりと言ふ、 八巻の題目は八八六十四の仏・六十四の満月と成り給へば・無
05 間地獄の大闇即大明となりし上・無間地獄は当位即妙・ 不改本位と申して常寂光の都と成りぬ、 我及び罪人とは
06 皆蓮の上の仏と成りて只今都率の内院へ上り参り候が・先ず汝に告ぐるなりと云云、 遺竜が云く、 我が手にて書
07 きけり争でか君たすかり給うべき、 而も我が心より・かくに非ず・いかに・いかにと申せば、父答えて云く汝はか
08 なし汝が手は我が手なり・汝が身は我が身なり・汝が書きし字は我が書きし字なり、 汝心に信ぜざれども手に書く
09 故に既に・たすかりぬ、 譬えば小児の火を放つに心にあらざれども物を焼くが如し、 法華経も亦かくの如し存外
10 に信を成せば必ず仏になる、 又其の義を知りて謗ずる事無かれ、 但し在家の事なれば・ いひしこと故大罪なれ
11 ども懺悔しやすしと云云、 此の事を大王に申す、 大王の言く我が願既にしるし有りとて遺竜弥朝恩を蒙り国又こ
12 ぞつて此の御経を仰ぎ奉る。
13   然るに故五郎殿と入道殿とは尼御前の父なり子なり、 尼御前は彼の入道殿のむすめなり、今こそ入道殿は都率
14 の内院へ参り給うらめ、此の由をはわきどのよみきかせまいらせ給うべし、事そうそうにてくはしく申さず候。
15                                                 恐恐謹言
16       十一月十五日                              日蓮花押
17     上野尼御前御返事
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上野殿母御前御返事
01   乃米一だ・聖人一つつ・二十ひさげか・かつかう・ひとかうぶくろおくり給び候い了んぬ。
02   このところの・やう・せんぜんに申しふり候いぬ、さては去ぬる文永十一年六月十七日この山に入り候いて今年
03 十二月八日にいたるまで此の山・ 出ずる事一歩も候はず ただし八年が間やせやまいと申しとしと申しとしどしに
04 身ゆわく・心をぼれ候いつるほどに、今年は春より此のやまい・をこりて秋すぎ・冬にいたるまで日日にをとろへ・
05 夜夜にまさり候いつるが・この十余日はすでに食も・ほとをととどまりて候上・ゆきはかさなり・かんはせめ候、身
06 のひゆる事石のごとし・胸のつめたき事氷のごとし、しかるに・このさけはたたかに・さしわかして、かつかうを・
07 はたと・くい切りて一度のみて候へば・火を胸に・たくがごとし、ゆに入るににたり、あせに・あかあらい・しづく
08 に足をすすぐ、此の御志は・いかんがせんと・うれしくをもひ候ところに・両眼より・ひとつのなんだを・うかべて
09 候。
10   まことや.まことや・去年の九月五日こ五郎殿のかくれにしは・いかになりけると・胸うちさわぎて.ゆびををり
11 かずへ候へば・すでに二ケ年十六月四百余日にすぎ候が、それには母なれば御をとづれや候らむ、 いかに・きかせ
12 給はぬやらむ、 ふりし雪も又ふれり・ちりし花も又さきて候いき、無常ばかり・またも・かへりきこへ候はざりけ
13 るか、あらうらめし・あらうらめし余所にても・よきくわんざかな・よきくわんざかな・玉のやうなる男かな男かな
14 いくせ・をやのうれしく・をぼすらむと見候いしに、満月に雲のかかれるが・はれずして山へ入り・さかんなる花の
15 あやなく・かぜのちらせるがごとしと・あさましくこそをぼへ候へ。
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01   日蓮は所らうのゆへに人人の御文の御返事も申さず候いつるが・この事は・あまりになげかしく候へば・ふでを
02 とりて候ぞ、これも・よも・ひさしくも・このよに候はじ、一定五郎殿にいきあいぬと・をぼへ候、母よりさきに・
03 けさんし候わば母のなげき申しつたへ候はん、事事又又申すべし、恐恐謹言。
04       十二月八日                                日蓮花押
05     上野殿母御前御返事
大白牛車御消息
01   抑法華経の大白牛車と申すは 我も人も法華経の行者の乗るべき車にて候なり、 彼の車をば法華経の譬喩品と
02 申すに懇に説かせ給いて候、 但し彼の御経は羅什・ 存略の故に委しくは説き給はず、 天竺の梵品には車の荘り
03 物・其の外・ 聞信戒定進捨慚の七宝まで委しく説き給ひて候を日蓮あらあら披見に及び候、先ず此の車と申すは縦
04 広五百由旬の車にして金の輪を入れ・ 銀の棟をあげ・ 金の繩を以て八方へつり繩をつけ・ 三十七重のきだはし
05 をば銀を以てみがきたて・八万四千の宝の鈴を車の四面に懸けられたり、 三百六十ながれの・くれなひの錦の旛を
06 玉のさほにかけながし、 四万二千の欄干には四天王の番をつけ、又車の内には六万九千三百八十余体の仏・菩薩・
07 宝蓮華に坐し給へり、 帝釈は諸の眷属を引きつれ給ひて千二百の音楽を奏し、 梵王は天蓋を指し懸け・地神は山
08 河・大地を平等に成し給ふ、 故に法性の空に自在にとびゆく車をこそ・大白牛車とは申すなれ、我より後に来り給
09 はん人人は此の車にめされて霊山へ御出で有るべく候、 日蓮も同じ車に乗りて御迎いにまかり向ふべく候、 南無
10 妙法蓮華経・南無妙法蓮華経。
11                                  日蓮花押
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春初御消息
01   ははき殿かきて候事・よろこびいりて候。
02   春の初の御悦び木に花のさくがごとく・山に草の生出ずるがごとしと我も人も悦び入つて候、 さては御送り物
03 の日記・八木一俵・白塩一俵・十字三十枚・いも一俵給び候い畢んぬ。
04   深山の中に白雪・三日の間に庭は一丈につもり・谷はみねとなり・みねは天にはしかけたり、鳥鹿は庵室に入り
05 樵牧は山にさしいらず、衣はうすし・食はたえたり・夜はかんく鳥にことならず、 昼は里へいでんとおもふ心ひま
06 なし、すでに読経のこえも・たえ観念の心もうすし、 今生退転して未来三五を経ん事をなげき候いつるところに・
07 此の御とぶらひに命いきて又もや見参に入り候はんずらんと・うれしく候。
08   過去の仏は凡夫にて・おはしまし候いし時・五濁乱漫の世にかかる飢えたる法華経の行者をやしなひて・仏には
09 ならせ給うぞとみえて候へば・法華経まことならば此の功徳によりて過去の慈父は成仏疑なし。
10   故五郎殿も今は霊山浄土にまいりあはせ給いて・故殿に御かうべをなでられさせ給うべしと・おもひやり候へば
11 涙かきあへられず、恐恐謹言。
12       正月二十日                                日蓮花押
13     上野殿御返事
14   申す事恐れ入つて候、返返ははき殿一一によみきかせまいらせ候へ。
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法華証明抄
01                          法華経の行者   日蓮花押
02   末代悪世に法華経を経のごとく信じまいらせ候者をば 法華経の御鏡にはいかんがうかべさせ給うと拝見つかま
03 つり候へば、 過去に十万億の仏を供養せる人なりと・たしかに釈迦仏の金口の御口より出でさせ給いて候を・一仏
04 なれば末代の凡夫はうたがいや・せんずらんとて、 此より東方にはるかの国をすぎさせ給いておはします宝浄世界
05 の多宝仏わざわざと行幸ならせ給いて 釈迦仏にをり向いまいらせて 妙法華経皆是真実と証明せさせ給い候いき、
06 此の上はなにの不審か残るべき・なれども・なをなを末代の凡夫は・をぼつかなしと・をぼしめしや有りけん、十方
07 の諸仏を召しあつめさせ給いて 広長舌相と申して無量劫より・ このかた永くそらごとなきひろくながく大なる御
08 舌を須弥山のごとく虚空に立てならべ給いし事は・をびただしかりし事なり、 かう候へば末代の凡夫の身として法
09 華経の一字・二字を信じまいらせ候へば十方の仏の御舌を持つ物ぞかし、 いかなる過去の宿習にて・かかる身とは
10 生るらむと悦びまいらせ候・ 上の経文は過去に十万億の仏にあいまいらせて供養をなしまいらせて候いける者が・
11 法華経計りをば用いまいらせず候いけれども・ 仏くやうの功徳莫大なりければ・謗法の罪に依りて貧賎の身とは生
12 れて候へども・又此の経を信ずる人となれりと見へて候、 此れをば天台の御釈に云く「人の地に倒れて還つて地よ
13 り起つが如し」等云云、 地にたうれたる人は・かへりて地よりをく、法華経謗法の人は三悪並びに人天の地には・
14 たうれ候へども・かへりて法華経の御手にかかりて仏になると・ことわられて候。
15   しかるにこの上野の七郎次郎は末代の凡夫・武士の家に生れて悪人とは申すべけれども心は善人なり、 其の故
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01 は日蓮が法門をば上一人より下万民まで信じ給はざる上たまたま信ずる人あれば或は所領・ 或は田畠等に・わづら
02 ひをなし結句は命に及ぶ人人もあり信じがたき上・はは故上野は信じまいらせ候いぬ、 又此の者敵子となりて人も
03 すすめぬに心中より信じまいらせて・上下万人にあるいは・ いさめ或はをどし候いつるに・ついに捨つる心なくて
04 候へば・すでに仏になるべしと見へ候へば・天魔・外道が病をつけてをどさんと心み候か、命はかぎりある事なり・
05 すこしも・をどろく事なかれ、 又鬼神めらめ此の人をなやますは剣をさかさまに・のむか又大火をいだくか、三世
06 十方の仏の大怨敵となるか、 あなかしこ・あなかしこ、此の人のやまいを忽になをして・かへりてまほりとなりて
07 鬼道の大苦をぬくべきか、 其の義なくして現在には頭破七分の科に行われ・ 後生には大無間地獄に堕つべきか、
08 永くとどめよ・とどめよ、日蓮が言をいやしみて後悔あるべし・後悔あるべし。
09       弘安五年二月廿八日
10   下伯耆房
莚三枚御書
01   莚三枚・生和布一篭・給い了んぬ。
02   抑三月一日より四日にいたるまでの御あそびに心なぐさみて・やせやまいもなをり・虎とるばかりをぼへ候上・
03 此の御わかめ給びて師子にのりぬべくをぼへ候。
04   さては財はところにより人によつてかわりて候、此の身延の山には石は多けれども餅なし、 こけは多けれども
05 うちしく物候はず、木の皮をはいでしき物とす・むしろいかでか財とならざるべき。
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01   億耳居士と申せし長者は足のうらに・けのをいて候いし者なり、ありきのところ・いへの内は申すにをよばず・
02 わたを四寸しきて・ふみし人なり、これは・いかなる事ぞと申せば・先世に・たうとき僧に・くまのかわをしかせし
03 ゆへとみへて候。
04   いわうや日本国は月氏より十万よりをへだてて候辺国なる上・へびすの島・因果のことはりも弁えまじき上・末
05 法になり候いぬ、 仏法をば信ずるやうにてそしる国なり、 しかるに法華経の御ゆへに名をたたせ給う上・御むし
06 ろを法華経にまいらせ給い候いぬれば。
芋一駄御書
01   いも一駄・はじかみ五十ぱ・をくりたびて候。
02   このみのぶのやまと申し候は.にしはしらねのたけ・つねにゆきをみる、ひんがしにはてんしのたけ.つねにひを
03 みる、きたはみのぶのたけ・みなみはたかとりのたけ・四山のあひ・はこのそこのごとし、いぬゐのすみより・かは
04 ながれて.たつみのすみにむかう・かかるいみじきところみねには・せひのこへ・たにには.さるのさけび木は・あし
05 のごとし・くさは・あめににたり、 しかれども・かかるいもはみへ候はず、はじかみはをひず、いしににて少しま
06 もりやわらかなり、くさににて・くさよりもあぢあり。
07   法華経に申しあげ候いぬれば御心ざしはさだめて釈迦仏しろしめしぬらん、恐恐謹言。
08       八月十四日                      日蓮在御判
09   御返事
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閻浮提中御書
01   閻浮提中飢餓□□□□示現閻浮提中□□□□、又云く又示現閻浮提中□□□劫起等云云、 人王三十代□□国の
02 聖明王□□□□□国にわたす 王此れを用いずして 三代仏罰にあたる□□□、 釈迦仏を申し隠すとが□□念仏者
03 等善光寺の阿弥陀仏云云、 上一人より下万民にいたるまで 皆人□□□□此れをあらわす、 日蓮にあだをなす人
04 は惣て日蓮を犯す、 天は惣て此国を□□□□□言く 「経を読誦し書持すること有らん者を見て 軽賎憎嫉して結
05 恨を懐かん」等云云、又云く「多病ショウ痩」第八に云く「諸悪重病」又第二に云く「若し医道を修し方に順て病を
06 治せば更に他の疾を増し 或は復死を致す」又云く 「若し自ら病有らんに人の救療すること無く設い良薬を服すと
07 も而も復増劇せん」等云云、 弘法大師は後に望んで戯論と作す、 東寺の一門上御室より下一切の東寺の門家は法
08 華経を戯論と云云、 叡山の座主並びに三千の大衆 □日本国山寺一同の云く□□□□□大日経等云云、 智証大師
09 の云く法華尚及ばず等云云、 園城の長吏並びに一国の末流等の云く法華経は真言経に及ばずと云云、 此の三師を
10 用ゆる国主終に法皇尽了んぬ、明雲座主の義仲に殺されし、承久に御室思い死にせし是なり。
11   願くは我が弟子等は師子王の子となりて群狐に笑わるる事なかれ、 過去遠遠劫より已来日蓮がごとく身命をす
12 てて強敵の科を顕せ・師子は値いがたかるべし、国主の責め・なををそろし・いわうや閻魔のせめをや、 日本国の
13 せめは水のごとし・ぬるるを・をそるる事なかれ、閻魔のせめは火のごとし・裸にして入るとをもへ、大涅槃経の文
14 の心は仏法を信じて 今度生死をはなるる人のすこし心のゆるなるを すすめむがために疫病を仏のあたへ給うはげ
15 ます心なり・すすむる心なり。
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01   日蓮は凡夫なり天眼なければ一紙をもみとをすことなし、宿命なければ三世を知ることなし、 而れども此の経
02 文のごとく 日蓮は肉眼なれども天眼宿命□□□日本国七百余歳の仏眼の流布せしやう、 八宗・十宗の邪正漢土月
03 氏の論師人師の勝劣・ 八万十二の仏経の旨趣をあらあらすいちし□□・我が朝の亡国となるべき事先に此れをかん
04 がへて宛も符契のごとし、 此れ皆法華経の御力なり、 而るを国主は讒臣等が凶言を・をさめて・あだをなせしか
05 ば、凡夫なれば道理なりと・をもつて退する心なかりしかども・度度あだをな。
衆生身心御書
01   衆生の身心をとかせ給う・其の衆生の心にのぞむとて・とかせ給へば人の説なれども衆生の心をいでず、かるが
02 ゆへに随他意の経となづけたり、 譬へばさけもこのまぬをやのきわめてさけをこのむいとをしき子あり、かつはい
03 とをしみ・かつは心をとらんがために・かれにさけをすすめんがために・父母も酒をこのむよしをするなり、 しか
04 るを・はかなき子は父母も酒をこのみ給うとをもへり。
05   提謂経と申す経は人天の事をとけり、 阿含経と申す経は二乗の事をとかせ給う、華厳経と申す経は菩薩のこと
06 なり、 方等・般若経等は或は阿含経提謂経ににたり、 或は華厳経にもにたり、此れ等の経経は末代の凡夫これを
07 よみ候へば仏の御心に叶うらんとは行者はをもへども・くはしく・これをろむずれば己が心をよむなり、 己が心は
08 本よりつたなき心なればはかばかしき事なし、 法華経と申すは随自意と申して 仏の御心をとかせ給う、 仏の御
09 心はよき心なるゆへに・たとい・しらざる人も此の経をよみたてまつれば利益はかりなし、麻の中のよもぎ・つつの
10 中のくちなは・よき人にむつぶもの・なにとなけれども心も・ふるまひも・言もなをしくなるなり、 法華経もかく
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01 のごとし・なにとなけれども・この経を信じぬる人をば仏のよき物とをぼすなり、此の法華経にをひて又機により・
02 時により.国により・ひろむる人により・やうやうにかわりて候をば・等覚の菩薩までも・このあわひをば.しらせ給
03 わずとみへて候、まして末代の凡夫は・いかでか・ちからひををせ候べき。
04   しかれども人のつかひに三人あり、 一人はきわめてこざかしき、一人ははかなくもなし・又こざかしからず、
05 一人はきわめて・はかなくたしかなる、 此の三人に第一はあやまちなし、第二は第一ほどこそ・なけれども・すこ
06 しこざかしきゆへに主の御ことばに私の言をそうるゆへに・第一のわるきつかいとなる、第三はきわめて・ はかな
07 くあるゆへに・私の言をまじへず・きわめて正直なるゆへに主の言ばを・たがへず、第二よりもよき事にて候・あや
08 まつて第一にも・すぐれて候なり、 第一をば月支の四依にたとう、 第二をば漢土の人師にたとう、第三をば末代
09 の凡夫の中に愚癡にして正直なる物にたとう。
10   仏在世はしばらく 此れををく仏の御入滅の次の日より一千年をば正法と申す、 この正法一千年を二つにわか
11 つ、前の五百年が間は小乗経ひろまらせ給う、ひろめし人人は迦葉・阿難等なり、後の五百年は馬鳴・竜樹・無著・
12 天親等・権大乗経を弘通せさせ給う、 法華経をば・かたはし計りかける論師もあり、又つやつや申しいださぬ人も
13 あり、 正法一千年より後の論師の中には少分を仏説ににたれども 多分をあやまりあり、 あやまりなくして而も
14 たらざるは迦葉.阿難・馬鳴・竜樹・無著.天親等なり、像法に入り一千年・漢土に仏法わたりしかば始めは儒家と相
15 論せしゆへに・いとまなきかのゆへに仏教の内の大小・権実の沙汰なし、やうやく仏法流布せし上・月支より・かさ
16 ねがさね仏法わたり来るほどに・前の人人は・かしこきやうなれども・後にわたる経論をもつて・みれば・はかなき
17 事も出来す、 又はかなくをもひし人人も・かしこくみゆる事もありき、 結句は十流になりて千万の義ありしかば
18 愚者はいづれに・つくべしともみへず、 智者とをぼしき人は辺執かぎりなし、 而れども最極は一同の義あり・所
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01 謂一代第一は華厳経・第二は涅槃経・ 第三は法華経・此の義は上一人より下万民にいたるまで異義なし、 大聖と
02 あうぎし法雲法師・智蔵法師等の十師の義一同なりしゆへなり。
03   而るを像法の中の陳隋の代に智顕と申す小僧あり後には智者大師とがうす、 法門多しといへども詮するところ
04 法華・涅槃・華厳経の勝劣の一つ計りなり、 智顕法師云く仏法さかさまなり云云、陳主此の事をたださんがために
05 南北の十師の最頂たる恵コウ僧上・恵光僧都・恵栄・法歳法師等の百有余人を召し合わせられし時・法華経の中には
06 「諸経の中に於て最も其の上に在り」等云云、 又云く「已今当説最為難信難解 」等云云、 已とは無量義経に云
07 く「摩訶般若華厳海空」等云云、 当とは涅槃経に云く「般若はら蜜より大涅槃を出だす」等云云、 此の経文は華
08 厳経・涅槃経には法華経勝ると見ゆる事赫赫たり・明明たり・御会通あるべしと・せめしかば、或は口をとぢ・或は
09 悪口をはき・或は色をへんじなんど・せしかども、陳主立つて三拝し百官掌をあわせしかば力及ばずまけにき。
10   一代の中には第一法華経にてありしほどに 像法の後の五百に新訳の経論重ねてわたる大宗皇帝の貞観三年に玄
11 奘と申す人あり・月支に入りて十七年・ 五天の仏法を習いきわめて貞観十九年に漢土へわたりしが・深密経・瑜伽
12 論・唯識論・法相宗をわたす、 玄奘云く「月支に宗宗多しといへども此の宗第一なり」大宗皇帝は又漢土第一の賢
13 王なり・玄奘を師とす、此の宗の所詮に云く「或は三乗方便・一乗真実」或は一乗方便・三乗真実・又云く「五性は
14 各別なり・決定性と無性の有情は永く仏に成らず」等と云云、 此の義は天台宗と水火なり・而も天台大師と章安大
15 師は御入滅なりぬ・其の已下の人人は人非人なり・すでに天台宗破れてみへしなり。
16   其の後則天皇后の御世に華厳宗立つ・前に天台大師にせめられし六十巻の華厳経をば・さしをきて後に日照三蔵
17 のわたせる新訳の華厳経八十巻をもつて立てたり、 此の宗のせんにいわく華厳経は根本法輪・ 法華経は枝末法輪
18 等云云、 則天皇后は尼にてをはせしが内外典に・こざかしき人なり、 慢心たかくして天台宗をさげをぼしてあり
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01 しなり、法相といゐ・華厳宗といゐ・二重に法華経かくれさせ給う。
02   其の後玄宗皇帝の御宇に月支より善無畏三蔵・金剛智三蔵.不空三蔵・大日経・金剛頂経.蘇悉地経と申す三経を
03 わたす、此の三人は人がらといゐ・法門といゐ・前前の漢土の人師には対すべくもなき人人なり、 而も前になかり
04 し印と真言とを・わたすゆへに仏法は已前には此の国になかりけりと・ をぼせしなり、此の人人の云く天台宗は華
05 厳・法相・三論には勝れたり・しかれども此の真言経には及ばずと云云、 其の後妙楽大師は天台大師のせめ給はざ
06 る法相宗・華厳宗・真言宗をせめ給いて候へども・天台大師のごとく公場にてせめ給はざれば・ただ闇夜のにしきの
07 ごとし、法華経になき印と真言と現前なるゆへに皆人一同に真言まさりにて有りしなり。
08   像法の中に日本国に仏法わたり所謂欽明天皇の六年なり、 欽明より桓武にいたるまで二百余年が間は三論・成
09 実・法相・倶舎.華厳・律の六宗・弘通せり、真言宗は人王四十四代.元正天皇の御宇にわたる、天台宗は人王第四十
10 五代・聖武天王の御宇にわたる、しかれども・ひろまる事なし、桓武の御代に最澄法師・後には伝教大師とがうす、
11 入唐已前に六宗を習いきわむる上・十五年が間・天台・真言の二宗を山にこもり給いて御覧ありき、入唐已前に天台
12 宗をもつて六宗をせめしかば七大寺皆せめられて最澄の弟子となりぬ、 六宗の義やぶれぬ、 後延暦廿三年に御入
13 唐・同じき廿四年御帰朝・天台・真言の宗を日本国にひろめたり、 但し勝劣の事は内心に此れを存じて人に向つて
14 とかざるか。
15   同代に空海という人あり後には弘法大師とがうす、延暦廿三年に御入唐・大同三年御帰朝・但真言の一宗を習い
16 わたす、此の人の義に云く法華経は尚華厳経に及ばず・何に況や真言にをひてをや。
17   伝教大師の御弟子に円仁という人あり・後に慈覚大師とがうす、去ぬる承和五年の御入唐・同十四年に御帰朝・
18 十年が間・真言.天台の二宗をがくす、日本国にて伝教大師・義真.円澄に天台・真言の二宗を習いきわめたる上・漢
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01 土にわたりて十年が間・八箇の大徳にあひて真言を習い・宗叡・ 志遠等に値い給いて天台宗を習う、日本に帰朝し
02 て云く天台宗と真言宗とは同じく醍醐なり倶に深秘なり等云云、宣旨を申して・これにそう。
03   其の後円珍と申す人あり後には智証大師とがうす、 入唐已前には義真和尚の御弟子なり、日本国にして義真・
04 円澄・円仁等の人人に天台・真言の二宗習いきわめたり、其の上去ぬる仁嘉三年に御入唐・同貞観元年に御帰朝・七
05 年が間.天台.真言の二宗を法全.良ショウ等の人人に習いきわむ、天台.真言の二宗の勝劣は鏡をかけたり、後代に一
06 定あらそひありなん・定むべしと云つて天台・真言の二宗は譬へば人の両の目・鳥の二の翼のごとし、 此の外異義
07 を存ぜん人人をば祖師伝教大師にそむく人なり 山に住むべからずと宣旨を申しそへて弘通せさせ給いき・ されば
08 漢土日本に智者多しといへども 此の義をやぶる人はあるべからず、 此の義まことならば習う人人は必ず仏になら
09 せ給いぬらん、あがめさせ給う国王等は必ず世安穏にありぬらんとをぼゆ。
10   但し予が愚案は人に申せども、 御もちゐあるべからざる上・身のあだとなるべし、又きかせ給う弟子檀那も安
11 穏なるべからずと・をもひし上其の義又たがわず、 但此の事は一定仏意には叶わでもや・あるらんとをぼへ候、法
12 華経一部・八巻・ 二十八品には此の経に勝れたる経をはせば此の法華経は十方の仏あつまりて大妄語をあつめさせ
13 給えるなるべし、随つて華厳・涅槃・般若・大日経・深密等の経経を見るに「諸経の中に於て最も其の上に在り」の
14 明文をやぶりたる文なし、随つて善無畏等・玄奘等・弘法・慈覚・智証等・種種のたくみあれども法華経を大日経に
15 対して・やぶりたる経文は・いだし給わず、 但印・真言計りの有無をゆへとせるなるべし、数百巻のふみをつくり
16 漢土・日本に往復して無尽のたばかりをなし宣旨を申しそへて人を・ をどされんよりは経文分明ならば・たれか疑
17 をなすべき、つゆつもりて河となる・河つもりて大海となる・塵つもりて山となる・山かさなりて須弥山となれり・
18 小事つもりて大事となる・何に況や此の事は最も大事なり、 疏をつくられけるにも両方の道理・文証をつくさるべ
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01 かりけるか、又宣旨も両方を尋ね極めて分明の証文をかきのせて・いましめあるべかりけるか。
02   已今当の経文は仏すら.やぶりがたし.何に況や論師.人師・国王の威徳をもつて.やぶるべしや、已今当の経文を
03 ば梵王・帝釈・日月・四天等・聴聞して各各の宮殿にかきとどめて・をはするなり、まことに已今当の経文を知らぬ
04 人の有る時は・先の人人の邪義は・ひろまりて失なきやうにては・ありとも・此の経文を・つよく立て退転せざるこ
05 わ物出来しなば大事出来すべし、いやしみて或はのり・或は打ち.或はながし・或は命をたたんほどに・梵王・帝釈.
06 日月・四天をこりあひて此の行者のかたうどを・せんほどに・存外に天のせめ来りて民もほろび・国もやぶれんか、
07 法華経の行者はいやしけれども・守護する天こわし、 例せば修羅が日月をのめば頭七分にわる・犬は師子をほゆれ
08 ば・はらわたくさる、 今予みるに日本国かくのごとし、 又此れを供養せん人人は法華経供養の功徳あるべし、伝
09 教大師釈して云く「讚めん者は福を安明に積み謗せん者は罪を無間に開かん」等云云。
09   ひへのはんを辟支仏に供養せし人は宝明如来となり・ つちのもちゐを仏に供養せしかば閻浮提の王となれり、
10 設いこうをいたせども・まことならぬ事を供養すれば大悪とは・なれども善とならず、 設い心をろかに・すこしき
11 の物なれども・まことの人に供養すれば・こう大なり、何に況や心ざしありて、まことの法を供養せん人人をや。
12   其の上当世は世みだれて民の力よわし、いとまなき時なれども・心ざしのゆくところ・山中の法華経へまうそう
13 か・たかんなををくらせ給う福田によきたねを下させ給うか、なみだもとどまらず。
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白米一俵御書
01   白米一俵・けいもひとたわら・こふのりひとかご・御つかいを・もつてわざわざをくられて候。
02   人にも二つの財あり・一には衣・二には食なり・経に云く「有情は食に依つて住す」と云云文の心は生ある者は
03 衣と食とによつて世にすむと申す心なり、 魚は水にすむ水を宝とす・木は地の上にをいて候・地を財とす、人は食
04 によつて生あり食を財とす、 いのちと申す物は一切の財の中に第一の財なり、 遍満三千界無有直身命ととかれて
05 三千大千世界にみてて候財も.いのちには・かへぬ事に候なり、されば・いのちは.ともしびのごとし・食はあぶらの
06 ごとし、あぶらつくれば・ともしびきへぬ・食なければ・いのちたへぬ、一切のかみ・仏をうやまいたてまつる・始
07 の句には南無と申す文字ををき候なり、 南無と申すは・いかなる事ぞと申すに・ 南無と申すは天竺のことばにて
08 候、漢土・日本には帰命と申す帰命と申すは我が命を仏に奉ると申す事なり、 我が身には分に随いて妻子・眷属・
09 所領・金銀等をもてる人人もあり・又財なき人人もあり、 財あるも財なきも命と申す財にすぎて候財は候はず、さ
10 れば・いにしへの聖人・賢人と申すは命を仏にまいらせて・仏にはなり候なり。
11   いわゆる雪山童子と申せし人は・身を鬼にまかせて八字をならへり、 薬王菩薩と申せし人は臂をやいて法華経
12 に奉る、 我が朝にも聖徳太子と申せし人は・手のかわをはいで法華経をかき奉り、 天智天皇と申せし国王は無名
13 指と申すゆびをたいて釈迦仏に奉る、此れ等は賢人・聖人の事なれば我等は叶いがたき事にて候。
14   ただし仏になり候事は凡夫は志ざしと申す文字を心へて仏になり候なり、志ざしと申すは・なに事ぞと委細にか
15 んがへて候へば・観心の法門なり、観心の法門と申すは・なに事ぞとたづね候へば、ただ一つきて候衣を法華経にま
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01 いらせ候が・身のかわをわぐにて候ぞ、うへたるよに・これはなしては・けうの命をつぐべき物もなきに・ただひと
02 つ候ごれうを仏にまいらせ候が・身命を仏にまいらせ候にて候ぞ、 これは薬王のひぢをやき・雪山童子の身を鬼に
03 たびて候にも・あいをとらぬ功徳にて候へば・聖人の御ためには事供やう・凡夫のためには理くやう・止観の第七の
04 観心の檀ばら蜜と申す法門なり、 まことの・みちは世間の事法にて候、 金光明経には「若し深く世法を識らば即
05 ち是れ仏法なり」ととかれ涅槃経には 「一切世間の外道の経書は皆是れ仏説にして外道の説に非ず」 と仰せられ
06 て候を・ 妙楽大師は法華経の第六の巻の「一切世間の治生産業は皆実相と相い違背せず」 との経文に引き合せて
07 心をあらわされて候には・彼れ彼れの二経は深心の経経なれども彼の経経は・ いまだ心あさくして法華経に及ばざ
08 れば・世間の法を仏法に依せてしらせて候、法華経はしからず・やがて世間の法が仏法の全体と釈せられて候。
09   爾前の経の心心は、心より万法を生ず、 譬へば心は大地のごとし・草木は万法のごとしと申す、法華経はしか
10 らず・心すなはち大地・大地則草木なり、 爾前の経経の心は心のすむは月のごとし・心のきよきは花のごとし、法
11 華経はしからず・月こそ心よ・花こそ心よと申す法門なり。
12   此れをもつてしろしめせ、白米は白米にはあらずすなはち命なり。
13   美食ををさめぬ人なれば力をよばず・山林にまじわり候いぬ、されども凡夫なればかんも忍びがたく・熱をもふ
14 せぎがたし、食ともし表○目が万里の一食・忍びがたく・ 思子孔が十旬・九飯堪ゆべきにあらず、読経の音も絶え
15 ぬべし・観心の心をろそかなり。
16   しかるに・たまたまの御とぶらいただ事にはあらず、 教主釈尊の御すすめか将又過去宿習の御催か、方方紙上
17 に尽し難し、恐恐謹言。
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食物三徳御書
01   かゆへに大国の王は民ををやとし.民は食を天とすとかかれたり、食には三の徳あり、一には命をつぎ.二にはい
02 ろをまし・三には力をそう、人に物をほどこせば我が身のたすけとなる、 譬へば人のために火をともせば・我がま
03 へあきらかなるがごとし、 悪をつくるものを・やしなへば命をますゆへに気ながし、 色をますゆへに眼にひかり
04 あり、力をますゆへに・あしはやく・てきく、かるがゆへに食をあたへたる人・かへりて・いろもなく気もゆわく・
05 力もなきほうをうるなり。
06   一切経と申すは紙の上に文字をのせたり、譬へば虚空に星月のつらなり・大地に草木の生ぜるがごとし、 この
07 文字は釈迦如来の気にも候なり、気と申すは生気なり・この生気に二あり、一には九界。
一定証伏御書
01   一定と証伏せられ候いしかば・其の後の智人かずをしらず候へども・今に四百歳が間さで候なり、かるがゆへに
02 今に日本国の寺寺・一万余三千余の社社・ 四十九億九万四千八百二十八人の一切衆生・皆彼の三大師の御弟子とな
03 りて法華最第一の経文最第二最第三とをとされて候なり、 されども始は失なきやうにて候へども・ つゆつもりて
04 大海となり・ちりつもりて大山となる。
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初穂御書
01   石給いて御はつをたるよし、 法華経の御宝前へ申し上げて候かしこまり申すよし、 けさんに入らさせ給い候
02 へ、恐恐謹言。
03       十月二十一日                    日 蓮 在 御 判
04     御所御返事
五大の許御書
01   □□りげなくなに事もかくの事□不沙汰あるか○す御尋ねあるべし、 経は或は前後し或は落経にても候はず。
02   □ものくるわしきとはこれなり法門もかしこきやうにて候へばわるかるべし。
03     追申
04   五大のもとへは三伊房も申して候・他所に於いて之を聞かしめ将又事に依り子細有るべきか、 伯耆阿闍梨事は
05 但我祖なるやうなるべし、設ひ件の人見参為と雖も其の義を存じて候へ。
一大事御書
01   あなかちに申させ給へ、日蓮が身のうえの一大事なり、あなかしこあなかしこ。
02       五月十三日                      日 蓮 在 御 判
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身延相承書 (総付嘱書)
01   日蓮一期の弘法、白蓮阿闍梨日興に之を付嘱す、 本門弘通の大導師たるべきなり、国主此の法を立てらるれば
02 富士山に本門寺の戒壇を建立せらるべきなり、 時を待つべきのみ、 事の戒法と云うは是なり、就中我が門弟等此
03 の状を守るべきなり。
04       弘安五年壬午九 日                 日 蓮 在 御 判
05                             血脈の次第 日蓮日興
池上相承書 (別付嘱書)
01   釈尊五十年の説法、白蓮阿闍梨日興に相承す、身延山久遠寺の別当たるべきなり、 背く在家出家どもの輩は非
02 法の衆たるべきなり。
03       弘安五年壬午十月十三日          武州池上
04                            日 蓮 在 御 判

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