- 漆の木
ウルシ科の落葉高木。中央アジア原産。高さは10m以上になる。樹皮は灰白色。葉は3〜9対の小葉をもつ奇数羽状複葉で秋に紅葉する。かぶれ易い。六月頃葉腋に黄緑色の小花を多数総状に開く。雌雄異株。果実はゆがんだ扁平の核果で、十月頃成熟して黄褐色となる。果を乾かした後しぼって蝋を採る。樹皮に傷をつけて生漆(きうるし)を採る。中国、朝鮮、日本で古くから広く栽培される。
- 漆の産地
日本産と中国産の漆はどちらも主成分がウルシオールで同じものだが、日本産の方がウルシオールの含有量が10%程度多い。台湾産やベトナム産の漆は主成分がラッコール、ビルマ産は主成分がチチオールで日本産の漆とは違う。また、東南アジアの漆はゴム質の含有量が多く、被膜が柔らかくて弾力がある。現在日本で使われている漆は主に中国からの輸入品で、日本産のものは1%程度。
- 漆が乾くと云うこと
漆が固まることを「乾く」と云う。漆の成分はウルシオール(50〜70%)糖蛋白(2%)ゴム質(5〜10%)水分(20〜40%)で、ここに少量のラッカーゼと云う酵素が入っている。この酵素の働きでウルシオールの酸化重合が進み漆が乾く。漆が乾くためには、適当な温度と湿度が必要。この反応はゆっくりと進み3年ほどたつと完全に成熟する。
- 不乾漆(ふかんうるし)、焼き漆(やきうるし)
乾かない漆。漆を加熱して沸騰させると、ラッカーゼが働かなくなって、漆は乾かなくなる(焼き漆)。また古くなると乾きが悪くなる。乾きの早すぎる漆に混ぜて使い、乾く時間を調節する。不乾漆でも、焼付け法では乾く。
- 焼付け法(やきつけほう)
120℃〜170℃程度の高温にすると、漆は短時間で乾く。陶磁器や金属に漆を塗るときに使う方法。
- 漆掻き(うるしかき)
漆の木に傷を付けて漆液を採取すること。季節は6月から10月くらいまで。10年生の木から採れる漆液は150g程度。
- 殺掻き(ころしがき)
1年で漆を採り尽くし、その木は伐採する。切り株から芽が出てくれば、10年ほど管理して、又漆を採取する。
- 養生掻き(ようじょうがき)
漆の採取を数年に分けて行う。農作業の比較的に暇な7、8月の夏の盛りに漆掻きを行う。また実から蝋を採取できる。
- 辺漆(へんうるし)
辺掻きと云う方法で6月から9月にかけて採取する漆で初期のものを「初漆(はつうるし)」と云う。盛夏のものを「盛漆(さかりうるし)」と云い最も品質が良い。9月のものは「末漆(すえうるし)」と云う。
- 裏目漆(うらめうるし)、止漆(とめうるし)、瀬しめ漆(せしめうるし)
10月に幹を半周するほどの長い傷を付けて掻取る漆が「裏目漆」。10月末に幹を1週する傷を付けて掻取る最後の漆が「止漆」。切り倒した木の枝から掻取る漆が「瀬しめ漆」。これらの漆は辺漆に比べて品質が落ちるので下地に用いる。
- 生漆(きうるし)
漆の木から採取した樹液は荒味漆とよばれ、これを濾過してゴミを取り除いたものが生漆で、接着、下地、摺り漆、蒔絵などに使う。色は乳白色で外気に当たると茶色から こげ茶色と色が濃くなる。上等なものは、生正味漆(きしょうみうるし)とか生上味漆(きじょうみうるし)と呼ばれる。
- なやし
精製作業の一つで、桶に入れた生漆を攪拌又は摺り交ぜて漆の粒子を細かくし、成分を均一にする。塗り上げた漆器の表面の光沢や塗り肌が良くなる。
- くろめ
精製作業の一つで、40℃程度に加熱、攪拌し、水分を蒸発させて生漆の水分を減らす工程。できた漆を「素ぐろめ漆(すぐろめうるし)」とか「くろめ漆」と呼び、透明な茶褐色の飴状の漆。
- 透漆(すきうるし)
生漆を精製(なやし、くろめ)した漆が透漆で、呂色塗り用の「梨地漆」「木地呂漆」「赤呂漆」「透箔下漆」などと、塗立(花塗)用の“油”を加えた「朱合漆」「透艶消漆」「春慶漆」などがある。油としては、荏油(えのあぶら、エゴマ油)、桐油(とうゆ、アブラギリ油)、亜麻仁油(あまにゆ、アマ油)などの乾性植物油が用いられる。
- 黒漆(くろうるし)
生漆の精製過程で鉄分を加えると、鉄の酸化と漆の成分との化学反応により黒漆が出来る。黒漆にも無油漆の「黒呂色漆」「黒中塗漆」「黒箔下漆」と、有油漆の「黒塗立漆」「黒艶消漆」などが有る。
- 彩漆(いろうるし)
彩漆は透漆に顔料を混ぜて作る。古くは黒、茶(潤(うるみ))、朱、黄、緑の五色だけであったが、今では酸化チタンを染めて作ったレーキ顔料を使う事により多くの色が作れる。
- 渋下地(しぶしたじ)
漆の代わりに柿渋を使って施す下地。安価。
- 痩せ、痩目(やせ、やせめ)
素地が木の場合などでは、長年使っていると木が縮んで年輪や接合部などが表面に浮き出てくる。これを“痩せ”と云う。
- 刻苧(こくそ)
繊維屑と木粉と糊漆(糊+生漆)を混ぜて硬く練ったもの。
- 刻苧かい(こくそかい)
素地の補修のために、素地の傷や接合部などを少し彫り(刻苧彫り)、そこに刻苧を刻苧箆で詰め込む。
- 引込み地(ひきこみじ)
刻苧かいが乾いて痩せた部分に切り粉地を箆付けする。
- 布着せ(ぬのきせ)
麻、絹、綿などの布を糊漆で素地に貼り付ける。痩せ対策や素地の補強のために行う。主に、天縁、高台縁、内見付けに施す。薄くしたいときは、布の代わりに和紙を着せる。(紙着せ)
- 地の粉(じのこ)
粘土を焼いた瓦などを粉末にしたもの。輪島地の粉;輪島で産出する珪藻土を蒸し焼きにし、粉末にした地の粉。
- 砥の粉(とのこ)
砥石の粉。錆漆や胴擦りの研磨材として用いる。
- 錆土(さびつち)
木曽奈良井で産出する土。錆漆に用いる。
- 地(じ)、地付け(じつけ)
地の粉を糊で練り、生漆を混ぜたもの。(地の粉は水で練っても粘土状にはならないので糊で練る。)
- 切り粉、切り粉地(きりこ、きりこじ)
地の粉と砥の粉を糊又は水で練り、生漆を混ぜたもの。地と錆の中間の荒さ。
- 錆、錆漆(さび、さびうるし)、錆付け(さびつけ)
砥の粉を水で硬く練り、これに生漆を混ぜたもの。
- 木地固め(きじかため)
生漆又は溶剤で薄めた生漆を、箆または刷毛で木地に塗り、吸い込ませ、余分な漆は拭き取る。
- 錆地(さびじ)
次の工程で行う簡易な下地。@木地固め A錆付け B錆研ぎ
- 本堅地(ほんかたじ)
次の工程で行う堅牢な下地。@刻苧彫り A木地固め B刻苧かい C引込み地 D布着せ E地付け F地研ぎ G錆付け H錆研ぎ
- 蒔地(まきじ)
次の工程で行う堅牢な下地。@刻苧彫り A木地固め B刻苧かい C引込み地 D布着せ E粉蒔き(生漆を薄く塗り、その上に地の粉などの下地用粉末を蒔きつける。) F粉固め(薄めた生漆を塗って粉を固定する。) G粉を順に細かいものに変えて2,3回蒔く。 H研ぎ
素地の表面に彫刻や凹凸のあるものに用いる。
漆を刷毛で塗り、漆風呂に入れて乾かす。塗り重ねる場合は、塗りと塗りの間に、「研ぎ」を行う。最後の上塗りには、有油の塗立て漆を用いる事もあるが、それ以外は無油の呂色漆を用いる。