Do my best!!!  vol.2




帰ってこない。
どんなに怒っていても夜中にうまく忍び込んで帰ってくるあの三上が。




気休めに開けた窓からは冷たく、しかし穏やかな風が吹きつけてくる。
寒さを感じながらも布団を引っ張る気にもならず、
渋沢は軽く布団を被った状態で仰向けに寝転んでいた。
見えるのは天井ばかりだが、窓から聞こえてくる風や木のざわめきの中に足音を探す。
探し続けているというのに、その音は一向に現れない。


風の冷たさだけを頼りに渋沢は睡魔と闘っていた。
同室者の点呼はうまく片付けておいたが、もし朝になってもいないとなるとマズイ。
サッカー部の練習は朝早く、司令塔である三上がいないとなれば行方不明だなんだのと大問題になってしまう。
渋沢は三上の身の安全を考えてきっと皆をまとめることも出来なくなってしまうだろうし、
監督ですら事態を収めるのは困難になってしまうだろう。


いや、きっと明け方にでも帰ってくるさ。今日はちょっと遅くなっているだけだ。


渋沢は自分自身に言い聞かせ、眠ろうと決心した。
夜に出かけていること自体は悲しいことによくあることだ。
だからきっと大丈夫だと。
こんな風に起きて帰りを待っているのは逆に迷惑になってしまうかもしれないと。


渋沢はただ、恐れていた。
怒りをぶつけられるのならいい。
話を聞いてもらえるのなら、それだけで満足しない自分がいようがどうだって構わない。
何よりも恐いのは、沈黙だ。
無視、というのは絶対に避けたい。


風の音が突如強くなって、寝転がっている渋沢の髪の毛を揺らした。
強風に驚いた渋沢が閉じかけた瞼を持ち上げると、黒いいつものコートを着た三上がドアの傍に立っていた。


「…」


無言で寝る支度を始めた三上に、声をかけてもいいものか。
渋沢は眠っているフリをしようと判断しつつも三上を放っておけず、眺めていた。
きっと、こんな風に見つめていることに気付いているだろう。
そして気持ち悪いとでも思っているのだろう。
そんな確信と今後への恐怖を抱きながら、それでも渋沢は目を離せずにいた。


何度もあっけなく告白を断られた渋沢には自信など欠片もなくなってしまった。
三上に対する自分の位置を考えれば、思考はいつもネガティブ気味になってしまう。
そこまで思いつめているわけでもないのだが、受け入れることも出来ずにいる。
いつも中途半端な位置にいるのは自分でも知っているのに、動き出せずにいる。
それは三上を一層苛立たせてしまうのも分かってはいたが、渋沢はそれが精一杯なのだ。


やがて一言も発しないまま布団を被った三上は、それでも渋沢を拒絶するように背を向けた。


「み…三上。」


拒絶されて逆に気軽になったような気がしたが、やはりその声は小さい。


「…んだよ。」


心底面倒臭そうに、けれど三上は返事を返した。


「夜中に出歩くのは確かに三上の勝手かもしれないが…
最近はこの辺でも事件が起きていると聞くから…
危険だからどうか部屋にいてくれ。あまり出歩かないでくれ。」

「…」

「俺のことが嫌なら、俺はどこか別の部屋に泊めてもらうから。」

「!?」


今まで言われずにいた言葉に三上は返事を探す。
しつこい割に気を使う渋沢という人間。
三上は掴めずにいる。


「そんなことしなくていい」


思いついた通り言ってみる。
自分で思ったよりもきつい言い方になってしまったのはもう癖だろう。
素直に喜べず苦笑しているだろう渋沢を想像するのは容易で、また一種の罪悪感に見舞われる。


「…気にすんなよ。んなこと言ってもどうせ勝手に気にするんだろうけど。」

「ははっ…お見通しか。」

「まぁな。だからお前の想いってやつもとりあえず頭では理解出来てきた。」


気休めだ。
こんなのはとりあえず空気をマシなものにするための誤魔化しだ。
言っている三上も、聞いている渋沢も分かっていた。
それでもお互いに休息が必要だというのも気付いていて。
曖昧に微笑んで会話を終わらせるのに、何の躊躇いもなかった。


渋沢もようやく布団を被りなおして目を閉じた。
電気を消した暗い部屋の中で、おやすみというたった一言がやけに響いて滑稽だ。
よく見えない黒い塊が寝息を立て始めたのでもうそちらは見ない。
渋沢は自分もさっさと寝てしまおうと思った。
本当に思った瞬間だった。

たった数十秒で意識は夢を彷徨い始めた。