九月も末に入ったというのに、じりじりと照りつける太陽は一向に衰えることなく、肌を浸食する。
サッカーという屋外スポーツを選んだからには、日焼けから逃げられないのは百も承知だが、美意識的に日焼けして黒々としている肌はあまり好かない。
適度に焼けているのが丁度いい。
センターガイなんてもっての外だ。



という訳で若菜結人は休憩中、極力日陰で過ごすことにしている。




勿論彼の親友達もそれにならい、日陰で躰を休めている。 

若菜の左前には真田一馬、右前には郭英士。三人で輪を描くように座っていた。
これがいつものポジションだ。



「今日さ、俺んち誰もいないんだ。」
「えっマジっ?!」
「へぇ。」
真田の言葉にいち早く反応したのは若菜。
ポーカーフェイスを装いながらも箸がとまる郭。
ついでにつまんだ筈のトマトが弁当箱に逆戻りしている。

「だからさ。明日日曜だし二人とも泊まりにきてくんね?」
汗に濡れた髪を煩わしそうに避けながら上目遣いで問う真田は、自分が目の前の二人の目にどのようにうつっているかなんて気にしないのだろうか…?
「もちい―うわっち!」
「どうしたの結人?」
突然飛び上がった若菜に冷え冷えとした声がかかる。
(熱い…英士が熱い!)
郭のバックにでかく“YESYESYES!!!”という文字がみえるのは若菜だけであろうか。
真田に見えていないことは確かである。

とにかく今、若菜結人の体感温度は限りなく高い。
気温の高さ+一馬んちに泊まれる+英士が熱い!!!
慌てて口に含んだポカリスエットは効果をなさない。
「予定ある?」
「勿論お邪魔させてもらうよ。結人はデートがあるから無理だよね。」
何でしってんだよ?!という突っ込みはこの親友には通用しない。
「そっか。結人は無理か。」
少し残念そうに真田は笑う。無理強いしないところが真田のいいところだ。
「ば〜か!結人様が行かない訳にはいかないっしょ!じゃないとかぢゅま君淋しくて泣いちゃうもんね?」
「なっにいってんだよ!別に泣かないしっ!」
と強がりながらも若菜もくると聞いて少し嬉しそうだ。
微かな笑顔がまた可愛い。
「じゃあさ。練習終わったらそのまま来ていいから。」
了解と若菜と郭が声を揃える。
と、グラウンドのほうから休憩終わりの声が響いた。
あっやべトイレ行きたかったのにと真田は焦る。
「おこちゃまだから早くしないと洩れちゃいまちゅよ。」
「監督にはいっとくからいっておいでよ。」
またもや馬鹿にしたように赤ちゃん言葉を使う若菜をぎっと睨み付け、真田は「ごめん。たのんだ。」と郭に言い置き、急いでトイレに向かう。


「…。」
「・・・。」
「結人、ちょっとやりすぎ。」
真田が去った後、弁当箱を片付けながら郭は若菜を睨む。
「だって一馬可愛いんだもん。馬鹿だし。」
「それはそうだけど――」
そこはちょっとは否定してやれよ、とは思うが余計真田が哀れなので口をはさまない。
「で、今日はどうするの?」
「ん?そりゃ勿論彼女のほうをきるに決まってんじゃん。」
「可愛そうな彼女。」
そんなこと露ほども思っていないくせにと、若菜はにやりと笑う。
「今の彼女、つり目でさ。ぎっとにらみつけてくんのが可愛いんだ。」
「前の彼女は習字が得意で、その前の彼女はりんごジュースが大好きでその前は綺麗な黒髪だったね。」
誰を重ねているのかなんてわかりきったことで。
「英士も彼女つくってみたら。」
「俺は代わりなんていらない。」
「言うと思った。」
ははっと声をたてて笑う。


「郭くん〜若菜くん〜!練習始まったよ〜!」
声をあげてこちらに走って来るのはおせっかいがウリな小柄な少年。
その少年を最近真田が意識しているというのは知っている。
それは恋愛感情なんてものではなく、真田らしいライバル心ではあるけれど。
確実に真田の中には郭と若菜以外の人が入り込んでいる。
広い世界をしることはとてもいいことだが、それでもやはり淋しいもので。
出来れば一生自分達の傍にいてほしいと、そう強く願う。

だからこそ。
だからこそ、若菜は自分が真田の中に残るように、自分を磨き上げることを忘れない。
真田が外見で判断しないことは知っているけど、まずは自分が自分を好きでいなくてはいけない、と思う。
ガン黒の俺はキモイっしょ。
それが若菜が日陰を好む理由。


「よし!英士、競争しようぜ!!」
「はぁ?」
了解をとる前に若菜はグラウンドに向けて走り出す。
どんなにクールぶっていても結局は負けず嫌い。
郭もその背中を追いかける。
折角迎えにきた風祭を綺麗に追い越して、コートに降り立つ。
足に馴染む芝生が気持ちいい。
相変わらず太陽は眩しいけど。
サッカーをしている自分は一番好きだから。
サッカーをしている間は日焼けなんて気にしない。
それが若菜論。




「今日も理性が保ちますよ〜に!」
照り付ける太陽にそう願う。



この気持ちは墓場までもっていくと、そう決めたのだから。
それは郭も同じ。

絶対に真田を苦しませることはしたくないというのが俺達論。





それが揺らぐことは絶対に許されない。












「今日もあち〜な!」
「結人はちょっと肉がつきすぎなんじゃない?」
「ひっど!俺様の何処に肉がついてるのかしら!」
「その言葉遣いキモイよ。」
「英士よりはマシ”でしょ”」
「………。」
「あちっ!」

地雷を踏んだ若菜は更に体感温度をあげることとなった。












強制修了。
あれ?一馬は?

040604