LOVE or DEAD -at0-







散りゆくは想い
儚し影に揺れ動く










あぁ、やっと戻ってきた・・・


確かな足取りで響く靴音が心地良く耳に届く。

暗い教室の一席を借り、目を開けたままうつ伏せになっていた不二は身を起こす。
長いことうつ伏せの姿勢でいたので頭が少し重く感じた。

ガラッ

扉が開いて薄闇の中に大きな影が現れる。
逆光を浴びてその表情は定かではない。
けれど静かな冷たい空気に流れ込んでくる凛としたあたたかい空気は間違いなく彼のものだ。
不二は口端を少し上げていつもの表情になる。
それは紛れもなく笑顔。
たとえこの薄闇で彼に表情が見えないとしても、当然のように作られるそれ。


「不二か・・・?」

「うん、そうだよ。手塚、お疲れ様。」

「随分遅くなってしまったな。長い事待たせてすまない。」

「平気だよ。本があったから全然つまらなくなかった。」


それに、先に帰っていいと言われたのに待ってたのは僕だから。


笑顔でそう告げる不二に教室の入り口で突っ立ったままの手塚は顔を顰める。

この暗い教室で本など読めるはずもない。
日はとっくに沈んでしまっている。
電気も付けずに何を読んでいたというのか。


「目を悪くする。電気くらい付けて読んだらどうだ。」

「手塚、それ本気?本当に僕がこんな暗いとこで本を読んでたと思ってるの?」


くすくす、と不二は笑って答える。
静かな教室にその笑い声はよく響いた。


「いや、そうは思っていないが・・・とりあえず電気を付けるぞ。」


途端パチンと音がして視界が白くなる。
思わず眉を寄せて不二は手塚を睨む。


「別にいいじゃない、もう帰るんだから。眩しいなぁ、もう。」

「目に悪いと言っただろう。」


溜息をつきながら鞄を手に立ち上がる不二を待って、手塚は先に教室を出るよう促す。
不二が廊下に出たのを見て手塚は元のように教室を暗くした。
廊下はもう暗くなった外と同様でかなり暗く、不二の姿を隠す。
鍛えてはいるものの細いままの体の線が、微かに見えるだけだ。


廊下もこんなに暗いんじゃさっき電気付けたのも意味ないね。


背を向けたまま不二は笑った。






校門を出る時、それまでの話の流れを唐突に断ち切って不二は呟いた。


「何もしなかった。」

「・・・?何の事だ?」

「手塚を待ってる間、何もしなかったよ。」

「・・・・。」


何が言いたいのだろうか、と手塚は不二を見つめる。
先程までより幾分明るい街灯に照らされた表情を見極めようとする。
振り返った不二の顔ははっきりと見えた。
しかし見えるのはいつもの微笑ばかりだ。

暇だったと、退屈だったのだと怒っているのだろうか。


「・・・すまなかった。」

「は?」

「いや・・・その、退屈な時間を過ごさせてしまったようだから。」

「はぁ?」


何を言ってるのかさっぱりわかんないよ、と不二は呟く。
わからないのはこっちの方だ、と手塚は口にすることなく思う。
怒っていたわけじゃないなら一体今の言葉はどう受け取ったらいいのだろうか。


「手塚って鈍い。」

「お前の表現は難し過ぎる。」


むすっとした声で呟かれ、思わず言い返してしまった手塚に、不二はまた笑って言った。



「よく言われるよ。」








散りゆくは想い
儚し影に揺れ動く