LOVE or DEAD -at1-








時々、困ることがある。
目の前に立つこの男の考えていることが掴めなくて。
もちろん、人ひとりの考えなんてそんな単純なものじゃない。
わかるわけがない。
わかるわけがない…けど、
僕はどこまでも貪欲に追い求めてしまう。
追いつめて、追いつめて、その先に何があるのかわからないけれど。


ごめんね、手塚。


僕はそれを止める術を知らない。
止めようとも思わない。









「不二〜。」


練習はこの夏に入ってますます厳しくなった。
乾は相変わらず変な飲み物を作っては実験ついでに猛特訓を開始する。

その、数少ない休憩中。
不二は振り向かなくても誰だかすぐに分かった。
声を聞けば一発で判断可能な菊丸の声。
聞きなれたその声はいつものような元気なものではない。
やけに疲れてぐったりとした声。
不二は返事の代わりに振り向いて微笑んだ。


「今日さ〜、俺ほんのちょっと遅刻しただけなのに30周も走らされたんだよ?
手塚、ちょっと厳し過ぎだよねぇ。…はぁ、つっかれた〜。」

「それはお疲れ様、英二。」


くすっといつもの笑顔で返すと菊丸はその場に座り込んでしまった。
毎日鍛えているとはいえ授業や掃除などの後に30周は辛いものだ。
不二は持っていたペットボトルを菊丸に手渡した。


「それ、中身ポカリ。残り飲んでいいよ?」


茫然と手に取ったそれを見る菊丸に不二はくすくす笑う。
中身はたっぷり半分ほど残っていた。


「やった!ラッキ〜ッ!!いっただっきます!!!」


菊丸は心底嬉しそうにキャップを取ると見ていて気持ち良いほどの勢いで流し込み始めた。
相当喉が渇いていたらしい。
この炎天下の中たっぷり走ればそれはもう当然だろう。
もっとも菊丸は熱射病には縁の無い健康体だったが。

一気に飲み干した菊丸はお礼を言おうと不二を見上げる。


「…」


見上げたその表情は時折見せる鋭いものだった。
遠くを見つめたまま不二はいつもより少し低めの声で呟く。


「確かに、手塚は厳しいよね…。」

「う、うん。ホントだよ…。」


その雰囲気にちょっと圧倒されてしまった菊丸は目を離すことが出来ないまま答えた。
気付いた不二と目が合う前に菊丸の視線は手の中のペットボトルに戻る。
飲み干した空のペットボトルの中をポカリが一筋流れ落ちていく。


「あ……」

「どうしたの?」

「わりぃ。ホントに全部飲んじゃったよ。不二飲み物あんの?」


部活の終了時間までまだたっぷり1時間はある。
ハードな練習がまだまだ続くだろうから飲み物無しでは辛いだろう。
菊丸はようやくその考えに行きついた。


「うん。今日は多めにもう1本持ってるから大丈夫。」


その返事に安心した菊丸はニッと笑ってペットボトルを掲げた。


「そっか、良かった。ごちそーさんっ!!」


さっき見た、何かを射抜くように見つめる不二の瞳が頭から離れない。
それを追い払うように菊丸はコートの中へ走って行った。





本日、晴天ナリ。
青い空はどこまでも広がって、白い雲が遠くでゆったり寝転がっているように見える。
ここ最近は湿度の高い暑い日が続いていて、今日はやけに気温も上昇していた。
運動をしていると本当にすぐに汗だくになり、喉がカラカラになってしまう。

その、喉の張りつくような感じが不快だ。
不二はベンチに置いていたタオルを再び手に取ると、鞄の中のお茶を出して1口飲んだ。

はぁっ。
なんだか飲んでいる間がやけに息苦しく感じて、
口を離した瞬間一気飲みしたかのように息が漏れた。
コートに目を向ければ菊丸は先程文句を言っていた手塚と話している。
横ではコートに一番近いベンチで越前が空を見上げていた。
つられて不二も空を仰ぎ見る。

不二の目に映るのは、青い空ではなく薄く白い雲ばかりだ。
儚く、今にも消えそうに流されていく。
別に詩人でもないし、それが寂しいわけでも悲しいわけでもない。
ただ、不二の瞳を惹きつける。
思ったよりも速く流れてしまう雲は、緑の葉の中に消えていった。


「不二!!!練習再開するぞ!!!!」


はっとコートに視線を戻せばすでに皆が集合し始めている。
不二はよく通るその声の主、手塚を見るとすぐに走り出した。
表情はもちろん、いつもの笑顔。








ねぇ、手塚。
もしも僕が全てを話したら、君はどうするだろう。
責任感とか、罪悪感とか、いろんなモノが混在して。
それでも、きっと。
最終的に答えは変わらない。
これはあくまで僕の勘だけれど、僕の中の真実。