I  can  stand  up  again
 
 
 
「ゲームセット。ウォンバイ鳳7−5!」
 
 
 
コート内に審判の声が響く。握手をしようと鳳はネットの近くへ歩いた。
 
 
 
「ありがとうございました、向日先輩。」
 
 
 
そう言って手を差し出すが相手の手は動かない。
鳳はどうしようかと思いながらもう一度呼びかけてみる。
 
 
 
「向日先輩?」
 
 
 
首を傾げて問うもののやはり応答はない。
同じレギュラーである先輩、向日岳人は思いっきり下を向いていた。
少し長めの髪が表情を隠してしまって声のかけようがない。
鳳までもが黙り込んで突っ立っているだけになってしまった。
 
 
 
 
また、負けた・・・・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
周りで見ていた部員たちがざわめきだす。
その中にいた忍足侑士はすぐにコート内へ入ろうとする。
普通試合をしている選手以外が入るべきではないが、今は公式試合でもない。
まぁいいか、と部長である跡部景吾は何も言わずに見ていた。
 
 
 
 
 
 
 
コート内に入った忍足はとりあえず審判の所へ歩いて行った。
審判をしていたのは正レギュラーでも準レギュラーでもない2年生の部員だった。
彼は黙って立っている選手二人に成す術もなくおろおろしながら忍足を見た。
 
「とりあえず、終わりっちゅー形でええか?」
 
忍足の介入に安心したのか審判ははいっと大きな声を出して去って行った。
 
「鳳も、それでええ?」
 
忍足の問いに鳳もはい、と一言言っておじぎをして出て行った。
 
 
やっぱ礼儀正しいやっちゃな、勝っても喜べへんこの状況で。
 
 
忍足は真顔で感心しつつ突っ立っている人物を見る。
 
「岳人、とりあえず行くで。ここに突っ立ってたらあかん。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・次の試合待ってるやつもおるんや。部室行くで。」
「・・・・・・・・・。」
 
はぁ、と思わず忍足は嘆息した。その瞬間向日の体が動き出す。
歩き出してよし、と思ったのもつかの間、いきなり走り出して部室ではない方向へ行ってしまう。
 
「なっ!なんやねん!!」
 
忍足は急いで後を追う。向日は全力疾走している。
短距離は向日の方が速いので忍足は追いつけない、どころか差がどんどん開く。
やがて角を曲がったその背中は忍足から見えなくなる。
 
「くっ・・・・!!」
 
焦って角を曲がると向日がいた。
そこは水飲み場で向日はものすごい勢いで水を飲んでいる。こっちをふり向きもせず。
 
「・・・・・っ岳人!!」
 
少し荒い言い方になってしまった。突然のダッシュでほんの少しだが息がきれていた。
 
「なんやっ、それくらいでへこんでたらあかん。あかんで。
すぐ調子戻るわ。気にせぇへん方がええ。」
 
向日の大きな目が忍足を見る。大きな目が更に大きく見開かれていた。
それもそのはずだ。
忍足は普段直接的な言葉で励ますという事をしない。
遠回しな冗談や行動で伝えてくるのだ。
それがあまりにも直球で言われた。
 
 
いつもはっきり言えっていっといたけど・・・・・・。
そんな風に言われたら・・・本当にもう、駄目みたいじゃん。
 
それは言葉にならなかった。確かに口は少しは動いたけど。
声が出ない。何で・・・・?
 
 
 
しばらく口をパクパクしていて、やっと喉のつかえが取れて、声が出た。
と思ったら、言おうとしていたセリフじゃない言葉が飛び出した。
 
 
 
「・・・・・・侑士にはわかんないよっ!!!」
 
 
 
何、これ。こんなこと言いたいわけじゃない。ねぇ、違うよ。
わかんなくて当然だ。当り前なんだ、侑士は俺じゃないんだから。
勝ち続ける天才なんだから。
 
 
 
「・・・わかんないよ・・・・・・・。」
 
 
 
自分の考えが皮肉めいている。なんだか顔を歪めてしまっている。
これじゃただのやつあたりだ。
何やってんだろ、俺・・・・・。
 
 
 
「わからへん。俺には岳人の気持ちなんてわからへんよ。
・・・・・・そやけど、アドバイスなら出来るで。」
 
 
 
目の前で俯く岳人の顔。今にも泣き出しそうな。
でも、そこに涙は見えない。
 
 
 
大丈夫や。
岳人ならきっと。
 
 
 
 
「言うべきか迷っとったんやけどな、下手に口出して余計やりにくくなってしもうたら、て思うて。」
「・・・・・・・。」
 
 
 
 
向日が顔を上げる。まっすぐな大きな目で忍足を見る。
その顔はもう歪んでいない。いつもの、強気な瞳。
 
 
 
「それ直したら、結構レベル上がると思うで。どや。聞いてみぃへん?」
「聞くに決まってんじゃん。何?どこ??」
 
 
 
その声もいつもと同じで。
忍足はプッと吹き出す。
 
 
 
「あっ!何で笑うんだよ侑士!!ひでぇっ!!!」
「お前の顔、ほんまコロコロ変わるねんな。慣れたはずやねんけど・・・・・。」
 
 
 
くっくっ・・・・・と笑う忍足を見て向日も笑顔になる。
 
 
 
「なっ、笑ってもいいから早く教えてよ。どこ?」
「部室で言うわ。ビデオで自分のフォーム見てみ。」
「なんだよ、気になるなぁ。」
 
 
 
 
 
 
 
 
俺の表情がこんなに変わるのは単純なのも理由かもしれない。
けどやっぱ、侑士のおかげだよ。
だって、自分よりずっと信じれるんだ。言わないけど。
 
俺がつまずいたら、目の前に手が差し出してあること、知ってる。
時々顔を上げられなくて見えないけど、知ってるんだ。
声をかけてくれたら、俺はその手を掴める。
すぐに、起き上がれるよ。
 
 
 
次は、負けない。