大人というには全てが不安定で
子供というには世の中を知りすぎていて
自らが作り出す混沌とした渦の中で
僕らは必死に生きていた
未成年
「…間宮!DF…」
名前を呼ばれなかった。
上に行くための切符を手にすることができなかった。
無意識に笑みが零れた。
自嘲でも悔し紛れでも現実逃避でもなく…。
目を見開かせ振り向く藤代にも、心配するようにこちらを伺う渋沢にも何の反応を返すことができなかった。
ただ――暗闇だけが支配した。
「三上センパイ!!!」
解散が告げられ身支度を整えていた時、聞こえてきたやかましい声にちっと舌打ちをした。
「三上センパイ!もう一度西園寺監督のところへ行きましょう!!!」
「あぁ?」
不機嫌な声をだして、藤代を睨み付ける。
何をいっているのだか、この馬鹿は。
それでも怯むことなく藤代は三上の腕を掴む。
「こんなのおかしいじゃないですか!三上センパイが選ばれないなんて!!センパイは調子落としてただけですって西園寺監督にいいに行くんです!!!」
んで俺に泣いて縋れってのか?
はっ馬鹿馬鹿しい。
「…少し落ち着け藤代。」
後ろから現れたのは渋沢。興奮したら手のつけられない藤代を、肩においた片手のみで静かにさせてしまう。
武蔵森のキャプテンの座は伊達ではない。
そして、藤代同様真っ直ぐな瞳で三上を見据える。
この目は…好きじゃない。
自分の黒さを自覚してしまうから
見ないように、見えないようにしていたものの前に立たされてしまうから。
「俺も藤代と同意見だ、三上。」
ゆっくりと静かに渋沢はいう。
隣にはやはり強い瞳。
涙が、でそうになる。
けれど・・・でてくるのはやはり笑みで。
「悪ぃ・・・。先帰るわ。」
それだけいうと、三上は荷物を持って部屋を出て行った。
そして…
「何でキャプテン止めないんですか!?ここで帰っちゃったらあの人駄目になっちゃうかもしれないんですよ!!!」
普段どんなにお茶らけていても、藤代は聡い。
FWの観察眼で全てを察する。
否、それがあるからFWとしての才が一層と磨かれるのだろう。
「けどな、あの状態で三上を無理やりここに残して…あいつは何か変わるか?」
「っ…!」
自尊心で自らを防御する三上。
いつもギリギリの状態でそれを保ってきた。
しかし今、その鎧は崩れかけている。
鎧を纏わない三上を、渋沢はみたことがない。
だから…怖い。
憤りを見せずにただ笑った三上が。
「三上が自分で乗り越えないと、意味がないんだ。」
渋沢は三上を追いかけない。
少し前だったら、今の状態の三上から目を離すことはしない。
けれど今は、三上の傍には…
三上の強さも弱さも全て包み込んでくれる人がいるから
三上が自分の鎧の内側に入ることを許した人がいるから
だから渋沢は追いかけない。
二人を信じてみようと、そう思った。
「…そう。三上センパイが。」
誠二から電話があった。
選抜テストの結果。
―あの人は選ばれなかった
暗い声の誠二からそれが嘘ではないと読み取れた。
ふぅと息をつく。
やはり、と思っている自分がいた。
「ありがとう誠二。それじゃ気をつけて帰ってきてね。」
かちゃんと受話器を置く。
窓の外を見やると、葉が太陽の光をうけてきらきらと揺らめいていた。
窓から入ってくる風に髪が揺れる。
蝉の声が煩くて、窓を閉めた。
ゆっくりと廊下を歩く。
目指しているのは屋上。
先ほど帰って来て、出迎えた笠井の顔をちらりと見ただけで目の前を横切った薄情な恋人はきっとそこにいるだろうから。
いつも体から力が抜けることはなかった。
俺は強い、そう思っていた。
そう思うことで、自分を縛り付けていたのかもしれない。
見せ掛けの虚勢をはり、自尊心で自分を固めないと立っていられなかった。
自分はまだ大丈夫、まだ頑張れるとそう言い聞かせていた。
それでも所詮カタチないものでつくった鎧は脆くて…。
どうすればいいのか分からなかった。
ただ…堕ちた、そう思った。
暗闇で動くことが出来なかった。
叫ぶことも出来なかった。
叫べば誰かが手を差し伸べてくれたかもしれないのに…
→